説明

全車輪が各々少なくとも1つの回転電気機械に連結されている車両の制動システムの低電圧給電段のための冗長度ハードウェア設計思想

本発明は、道路車両用の電気制動システムであって、道路車両の少なくとも2つの車輪(1)が各々、少なくとも1つの回転電気機械(2)に回転可能に連結され、少なくとも1つの電子車輪制御モジュール(23)が、一車輪の回転電気機械を制御し、各電子車輪制御モジュールにより、大きさ及び符号が定められた制御トルクを問題の車輪に選択的に加えることができ、電気制動システムは、少なくとも2つのサブシステム(A,B)を有し、各サブシステムは、電子車輪制御モジュール(23)のうちの少なくとも1つと、中央電線路と、電力要素を制御するために用いられる電子装置に電力を供給する低電圧給電段とを有し、低電圧給電段は、第1の低電圧電源及び第2の低電圧電源を有し、第1の低電圧電源と第2の低電圧電源は、第1の部分(43A)及び第2の部分(43B)を有する低電圧電線路(43)によって互いに接続され、第1の部分(43A)と第2の部分(43B)は、2つの部分を電気的に分離する装置(430)によって相互に接続され、装置(430)は、2つの部分のうちの一方が不足電圧又は過電流を受けた場合に要望に応じて相互接続を中断することができる電気制動システムに関する。サブシステムのうちの一方(A)の各電子車輪制御モジュール(23)は、第1の部分によって給電され、サブシステムのうちの他方(B)の各電子車輪制御モジュール(23)は、第2の部分によって給電される、電気制動システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路車両(路上走行車)に関する。本発明は、特に、電気トラクションを利用した道路車両の制動(ブレーキ)システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気車両は、移動又は走行に必要な電気エネルギーがバッテリに蓄えられる車両や電気エネルギーが発電機を駆動するサーマルエンジン又は燃料電池により車上で作られる車両を含む。車両のトラクションは、1つ又は2つ以上の電気機械によって保証される。車両の制動は、従来の機械制動システムによって保証される。多くの電動式車両が、先行技術において既に提案されている。例えば、米国特許第5418437号明細書を参照するのが良く、この米国特許第5418437号明細書は、シリーズハイブリッド型の四輪車を記載しており、各車輪は、それ自体の電気機械によって駆動され、コントローラが、車輪モータを制御すると共に同期機又はバッテリからのモータへの電力の供給を管理する。この米国特許明細書は、電気制動の管理に関しては何ら言及していない。
【0003】
しかしながら、電気機械は、可逆的なので、車両の制動段階中、発電機としても使用可能であり、この場合、電気機械は、機械制動エネルギーを車両が適宜熱放散によって吸収しなければならない電気エネルギーに変換する。この作動モードは、「電気制動」又は「再生制動」と呼ばれる場合が多い。
【0004】
実際、電気機械は、車両のほどほどの減速を保証し、エネルギーを可能な限り回収し、そしてこれを電気アキュムレータに蓄え又はさらに言えば、車両の機械式ブレーキの受ける応力を減少させるためにこのエネルギーを消散させるよう発電機として機能する。車両の主要な制動は、実際には、全体として支援方式で油圧制御機械式ブレーキによって保証され、今日においては、“ABS”と通称されているアンチロック機能を備えている場合が非常に多い。制動は、車両の極めて重要な安全上の機能である。機械式ブレーキは、車輪がロックするようにするのに十分な相当大きな動力を有し、この動力は、最大グリップと関連してアンチロック機能によって制限される。乗客の安全を確保するため、乗用車のブレーキシステムは、一般に、1“g”のオーダの減速を保証することができ、gは、値“1”が地球の重力に対応する加速度の単位である。
【0005】
作動上の安全性は、最も重要なので、伝統的な機械式ブレーキを制御する多くのシステム、例えば欧州特許第1026060号明細書に記載されたシステムが提案されており、この欧州特許明細書は、多くのバッテリが故障した場合でも、完全な作動性を維持するために冗長度手段、多数決制御装置、制御システムへの複数の低電圧電源を記載している。また、米国特許第6244675号明細書を参照すべきであり、この米国特許第6244675号明細書は、ブレーキ制御装置を記載しており、この位置は、2つの別個独立の源によって電力供給される3つのセンサによって測定され、1つのセンサは、第1の源によって給電され、別のセンサは、第2の源によって給電され、第3のセンサは、ダイオードを介して両方の源によって給電され、源のうちの1つが作動停止状態にあるときでも、2つのセンサには依然として電力が供給され、これら2つのセンサは、作動状態のままである。
【0006】
さらに、電気トラクション車両では、特に、電気機械を車輪に組み込むだけの価値がある。というのは、これは、機械的シャフトを無しで済まし、車両の総合的な設計思想(アーキテクチャ)に関して高い寛容度を提供する。電気機械を車輪に組み込む複数の構成例が、先行技術から知られている。国際公開第2003/065546号パンフレットは、トルクを車輪に遊星歯車列によって伝達する4つの電気機械を配置することを提案している。欧州特許第0878332号明細書は、車輪内の車輪垂直サスペンションとトラクションに用いられる回転電気機械の両方を備えた接地システムを開示している。車輪と電気機械との間には減速段が存在し、電気機械は、車輪と同軸の歯車と噛み合っている。当然のことながら、車輪は、常用ブレーキ機能を保証するようディスクブレーキを有している。さらに、接地システムは、車輪の方向転換を可能にするようピボットを有している。かくして、接地システムの機械的機能は全て、車輪に組み込まれている。
【0007】
本発明は、各々少なくとも1つの回転電気機械に回転可能に連結された車輪を備えた道路車両用の電気制動システムであって、各回転電気機械が、単一の車輪と協働する電気制動システムに関する。かかる設計思想では、動力と車両安定性の制御(ABS及びESPと呼ばれている機能)の両方に関して電気制動システムに最も重要な役割を与えることが可能である。というのは、車輪の各々のところの車輪トルクをこれと関連した回転電気機械の制御システムを介して選択的に制御することができるからである。この目的のため、電気制動も又、極めて信頼性がなければならない。
【0008】
本発明の目的は、電気トラクション車両用の電気制動システムの信頼性を向上させることにある。特に、本発明の目的は、機械式ブレーキをなくし、常用制動機能を電気的にのみ確保することができるようにする電気制動システムの設計思想を提案することにある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5418437号明細書
【特許文献2】欧州特許第1026060号明細書
【特許文献3】米国特許第6244675号明細書
【特許文献4】国際公開第2003/065546号パンフレット
【特許文献5】欧州特許第0878332号明細書
【発明の概要】
【0010】
制動システムを以下に説明するが、この場合、
・トラクションに必要な電力及び電気制動により生じる電力が流れる電力段、
・動力要素を制御したり駆動したりするためのエレクトロニクスに給電する低電圧電力供給段、及び
・車両の制動を制御する信号のための流通段を識別することが可能である。
【0011】
これら段の各々が或る特定の冗長度を示す設計思想が以下において提案される。段の各々に関する提案された冗長性は、各々、単独で又は他のものと組み合わせて用いられる場合がある。当然のことながら、安全レベルは、提案された冗長性を全て一緒に追加することによって高められる。
【0012】
本願は、優先権の問題として、電力要素を制御したり駆動したりするためのエレクトロニクスに給電する低電圧給電段に取り組んでいる。本発明は、道路車両用の電気制動システムであって、少なくとも2つの車輪が各々、少なくとも1つの回転電気機械に回転可能に連結され、少なくとも1つの電子車輪制御モジュールが、同一の車輪の回転電気機械を制御し、各電子車輪制御モジュールにより、問題の車輪に所定の大きさ及び符号の制御トルクを選択的に加えることができ、電気制動システムは、少なくとも2つのサブシステムを有し、各サブシステムは、電子車輪制御モジュールのうちの少なくとも1つと、中央電線路と、電力要素を制御したり駆動したりするエレクトロニクスに給電する低電圧給電段とを有し、低電圧給電段は、第1の低電圧電源及び第2の低電圧電源を有し、第1の低電圧電源と第2の低電圧電源は、第1の部分及び第2の部分を有する低電圧電線路によって互いに接続され、第1の部分と第2の部分は、2つの部分を電気的に分離する装置によって相互に接続され、この装置は、2つの部分のうちの一方が不足電圧又は過電流を受けた場合に要望に応じて相互接続を中断することができ、サブシステムのうちの一方の各電子車輪制御モジュールは、第1の部分によって給電され、サブシステムのうちの他方の各電子車輪制御モジュールは、第2の部分によって給電されることを特徴とする電気制動システムを提供する。
【0013】
第1の低電圧電源は、例えば、中央電線路に接続された電圧変換器から成る。この中央電線路上の電気エネルギーは、主電源、例えば燃料電池、電気エネルギー貯蔵装置又はリアルタイムで再使用される制動エネルギーのいずれかから来て良い。かくして、エネルギー源の冗長度も又存在する。第2の電源は、例えば、この低電圧電源に専用の低電圧バッテリから成る。当然のことながら、この第2の電圧源のために、これ又中央電線路に接続され又は変形例として蓄電池バンクに直接接続された第2の電圧変換器それ自体を用いることが可能である。
【0014】
さらに、電力段のレベルでは、駆動輪1つ当たり少なくとも2つ、好ましくは1つの割合で複数の回転電気機械が用いられ、これ又、或る特定のレベルの冗長度をもたらす。好ましくは、本発明のシステムは、サブシステムの各々について少なくとも1つの電子消費モジュールを有し、電子消費モジュールのうちの他方は、第1の部分によって給電され、電子消費モジュールのうちの他方は、第2の部分によって給電される。電力消費装置は、例えば、抵抗器又はその制御モジュールが破損した場合でも常時或る程度の減少能力を提供するために、2つの電子消費モジュール及び2つの電力消費抵抗器を有している。
【0015】
一実施形態では、4つの車輪を備えた車両の場合、好ましくは、各車輪が、それ自体の回転電気機械に回転可能に連結されており、サブシステムの各々は、車輪のうちの2つを有する。好ましくは、各サブシステムは、車両の互いに反対側のコーナ部のところに対角線方向に配置された車両の車輪を互いにグループ化する。理解されるように、この解決手段は、一般に自動車に用いられている二重油圧制動回路よりも高い安全性を提供する。
【0016】
最後に、車両制動制御信号流通段は、機械的に、好ましくは別々に運転手の意のままに制動制御装置に接続された2つのセンサの周りに構成され、センサは、以下に説明するように完全に異なる仕方で利用される。
【0017】
また、好ましくは、車両を動かない状態に保つために、駐車ブレーキと通称されている機械式ブレーキ装置が設置されていることが指摘されるべきである。しかしながら、かかる装置は、車両を制動するために設計されているのではなく、好ましくは非常に急な坂道上であっても車両を停止状態に保つために設計されている。かくして、本発明のシステムは、少なくとも1本の車輪と関連していて、駐車ブレーキ制御装置によってのみ制御される機械式車輪制動装置を有する。好ましくは、駐車ブレーキ装置は、制動制御ユニットによって制御される電気アクチュエータによって制御され、この制動制御ユニットは、車両の長手方向速度しきい値を下回った状態で起動できるに過ぎず、かかるしきい値は、10km/h未満である。
【0018】
本発明の他の目的及び利点は、添付の図面に示された好ましいが非限定的な実施形態についての以下の説明から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】車両搭載電気エネルギー発生方式を備えた四輪車の制動システムの略図である。
【図2】或る特定のハードウェア冗長度を示すよう組織化された電力レベルの詳細図である。
【図3】種々の制御エレクトロニクスの低電圧電力供給レベルの詳細図である。
【図4】種々の要素の制御エレクトロニクスと中央ユニットとの間の制御ラインのレベルの詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、4つの車輪1FrL,1FrR,1ReL,1ReRを有する車両の略図である。車輪は、左前輪については1FrLで示され、右前輪については1FrRで示され、左後輪については1ReLで示され、右後輪については1ReRで示されている。各車輪は、これに機械的に結合された電気機械を備えている。電気機械2FrL,2FrR,2ReL,2ReRが示されている。以下、具体的に車両の車輪1又は電気機械2の位置を示す添え字は、これらが説明の明確さに幾分寄与する場合にのみ用いられる。電気トラクション機械2は、レゾルバ型の角度位置センサを備えた三相同期機であり、これらが電力ライン21により接続されている電子車輪制御モジュール23によって制御される。電子車輪制御モジュール23は、電気機械をトルクに関して制御するよう設計されている。その結果、電気機械は、モータとしても発電機としても利用できる。後輪1ReL,1ReRの各々は、電気アクチュエータ7によって制御される車輪のための機械式制動装置71を更に備え、電気アクチュエータ7は、制動制御ユニットによって制御される。
【0021】
本発明の特に有利な一実施形態では、車両の車輪の位置で、機械式常用ブレーキを備えたものはない。制動制御信号の大きさはどのようなものであれ、即ち、最も強力な制動の場合であっても、制動は、電気的に、即ち、電気機械を発電機として用いることにより保証される。各車輪は、各車輪に選択的に加わる制動力を発生させることができるよう1つ又は2つ以上の専用電気機械を備えており、これは、複数の車輪、例えば1つのアクスルに取り付けられた車輪に共通の電気機械では行えない。というのは、この場合、車輪相互間には機械的変速装置及び差動装置が設けられているからである。電気機械は、可能な限り最も大きな制動力を各車輪に及ぼすよう適切に寸法決めされている。
【0022】
当然のことながら、このシステムは、例えば1つ又は2つ以上の電力消費抵抗器の設置の原因となる高い電力を吸収することができる手段を備えなければならず、かかる電力消費抵抗器は、例えば水循環によって効果的に冷却され、公知の電気アキュムレータは、非常制動によって生じる電力を吸収することができず又は長時間にわたる制動により生じる電気エネルギーを全ては吸収することはできない。ただし、設置される機能は、これにより車両の重量が全く禁止された重量になるようなものでないことを条件とする。かくして、本発明により、環境から隔離されていて、車両の外部との電力の交換が行われない自蔵式電気系統を形成することが可能であり、したがって、かかる自蔵式電気系統を自動車や電気ネットワークに接続された車両、例えば列車又は市街電車の場合よりも遙かに困難な電気制動システム用途に利用することができる。
【0023】
車輪に機械的に結合された電気機械を配置する多くの構成が可能である。しかしながら、注目されるべきこととして、電気機械があまり嵩張らないように相当に大きな減速比、例えば少なくとも10に等しく、実際は好ましくは15よりも高い減速比を提供するのが有利である。電気機械を車輪と同軸に設置することが可能であり、機械的リンクは、必要な減速比をもたらす遊星歯車列によって実現される。また、好ましくは機械的減速段を追加することにより欧州特許第0878332号明細書に記載されているような形式の構成を採用することが可能である。また、複数の電気機械を設けることを選択することが可能であり、これら電気機械のトルクは、互いにたし算される。この場合、電子車輪制御モジュールは、同一の車輪に設置された複数の電気機械を並列に制御することができる。1本の車輪への複数の電気機械の設置に関し、例えば、国際公開第2003/065546号パンフレット及び仏国特許第2776966号明細書を参照することが可能である。
【0024】
本発明は、電気エネルギーの車上発生を実現する車両に利用されたものとして説明される。中央電線路(「電力ライン」という場合がある)40により、電流を供給する燃料電池4が示されている。当然のことながら、電気エネルギーを供給する任意他の手段、例えばバッテリを用いることができる。また、電気エネルギー貯蔵装置が示されており、この電気エネルギー貯蔵装置は、この場合、電子再生モジュール50により中央電線路40により接続された列状のスーパーキャパシタ5から成っている。電力消散抵抗器6が、好ましくは熱を交換器(図示せず)に向かって放散する熱伝達液中に浸漬された状態で示されており、制動中、電気機械全てにより生じる電気エネルギーを吸収することができるエネルギー吸収装置を構成している。消費抵抗器6は、電子消費モジュール60によって中央電線路40に接続されている。
【0025】
中央ユニット3が、車両の電気トラクションシステムを含む種々の機能を管理する。中央ユニット3は、電線路30A(CAN bus(登録商標))を介して全ての電子車輪制御モジュール23並びに電子再生モジュール50と相互作用する。中央ユニット3は又、電線路30Eを介して加速度制御装置33、電線路30Fを介して制動制御装置32(常用ブレーキ)及び電線路30Cを介して前進又は後退を選択する制御装置31と相互作用する。これにより、運転手の意図を考慮に入れることが可能である。中央ユニット3は又、電線路30Dを介して長手方向加速度センサ34と相互作用する。最後に、電子再生モジュール50は、電線路30Bを介して電子消費モジュール60と相互作用する。
中央ユニット3は、車両の長手方向移動の管理を行う。この制御ユニット3は、電子車輪制御モジュール23の全てを制御する。中央ユニット3は、車両に要望される全制動力を表す所与の大きさの車両制動制御信号によって起動される車両制動作動モードを有している。制動モードでは、制動制御信号の大きさがどのようなものであれ、中央ユニット3は、回転電気機械に源を発する車輪位置の全ての長手方向力の合計が制動制御信号の上述の大きさの関数であるように電子車輪制御モジュール23の全てを制御する。換言すると、機械式常用ブレーキは存在せず、開示される電気制動システムが、車両の常用ブレーキである。
【0026】
また、駐車ブレーキ制御装置35が示されている。機械式車輪制動装置のアクチュエータ7は、決して制動制御装置32によってではなく、この駐車ブレーキ制御装置35によってのみ電線路30Hを介して制御される。好ましくは、車両を動かない状態に保つためにだけ設計され、かくして、熱を放散する能力が非常に限られた機械式制動装置71の劣化を回避するため、車両の極めて低い長手方向速度しきい値未満では、例えば、10km/h未満の場合にのみこの駐車ブレーキ制御ユニットを起動するのが良い。
【0027】
次に、本発明のシステムの動作原理を説明する。
【0028】
運転手が制御装置31を用いて前進を選択し、アクセルペダル33を作動させると、中央ユニット3は、命令を電子車輪制御モジュール23に出して電気エネルギーを中央電線路40から引き出すことにより電気機械2に給電する。中央電線路は、燃料電池4及び(又は)列状のスーパーキャパシタ5によりその充電状態に応じて且つ中央ユニット3の制御下で給電される。車両は、前進する。電気機械2は、電気エネルギーを機械的トラクションエネルギーに変換する。用いられる電力は、特に加速度制御装置33の位置で決まる。
【0029】
運転手がブレーキペダル32を作動させると、中央ユニット3は、制動モードに移る。ブレーキペダル32に対する運転手の行為から、中央ユニット3は、制動制御信号の値を計算する。制動制御信号の大きさがどのようなものであれ、中央ユニット3は、車両1全ての長手方向力の合計が制動制御信号の大きさに比例するように電子車輪制御モジュール23の全てを制御する。次に、回転電気機械2は、機械的回転エネルギーを電気エネルギーに変換する。
【0030】
電子再生モジュール50にプログラムされている電気エネルギーの管理方式に応じて、電子再生モジュールは、制動エネルギーを分配して列状のスーパーキャパシタ5を充電すると共に(或いは)電子消費モジュール60を制御して電力消費抵抗器6のエネルギーを消散させる。貯蔵手段、例えば列状のスーパーキャパシタ5が飽和すると、エネルギーの全体を消散させなければならないことが容易に理解されよう。さらに、貯蔵手段の電力は、制限される場合があり、即ち、貯蔵手段の充電速度は、サーマルエンジンの一般的に期待される軽い制動(「エンジンブレーキ」と呼ばれている)に対応する場合がある。このレベルの制動を超えると、生じる電力は、消費手段に差し向けられる。
【0031】
車両の作動上の安全性を確保するため、電力消費抵抗器6は、最も激しい非常制動作動中に生じる電気エネルギーの全体を消散させることができるように構成されると共に冷却される。事実、回転電気機械2、電子車輪制御モジュール23、中央電線路40、電子消費モジュール60及び電力消費抵抗器6から成るシステムを機械式制動システムに適用される厳格な基準とほぼ同じ厳格な基準に従って設計することが推奨される。
【0032】
好ましくは、電力消費抵抗器6は全て、車両の1メートルトン当たり500kWよりも高い電力のエネルギー吸収装置を形成している。事実、Fが、車両を制動するために車両に加えられる力であり、その質量がMkgであってその速度がV(m/秒)であり、しかもγが加速度(m/秒2)である場合、最大減速度が130km/hで1gであり、車両の1メートルトン当たりの電力が、約350kWであり、160km/hにおいて、電力が、約500kWであると仮定すれば、結果的に、F=M×γ及びP=F×V=M×(γ×V)である。当業者であれば、当業者が構成しようとする車両の特性の関数としてエネルギー吸収装置の電力を容易に配分することになろう。
【0033】
かくして、本発明を説明する例の場合のように、各々が電力消費抵抗器を有する2つのサブシステムが設けられ、これら電力消費抵抗器6A,6Bの各々は、250×M/1000kWよりも高い電力のものである。
【0034】
運転手が後退を選択した場合、中央ユニット3は、電子車輪制御モジュール23に命令を出して制動の場合を含む回転電気機械2の作動を逆にする。
【0035】
次に、アンチホイールロック(anti-wheel-lock)機能をどのようにすれば確立できるかについて説明する。
【0036】
電気トラクション機械2がレゾルバ型の角度位置センサを備えており、各車輪1がそれ自体の回転電気機械2を備えているので、各車輪について1つの回転速度センサが設けられる。かくして、有利には、本発明のシステムに各車輪のスリップを制御する装置を備えることが可能であり、この場合、制動モードでは(又は、「エンジンブレーキ」と通称されている動作を行うために運転手が自分の足を上げてアクセルペダルから放すやいなやの場合であっても)、車輪の制御トルクは、スリップ制御装置が問題の車輪のスリップを検出したときに減少する。例えば、各車輪の回転速度センサが出力する信号をリアルタイムで分析し、顕著な変化(減速)からロックの開始を推定することが可能である。各回転車輪の回転速度信号の導関数をリアルタイムで計算し、かくして、各車輪の加速度/減速度を表す信号を得て、この信号と適当なセンサが利用されている場合に車両の真の加速度/減速度を与える信号を比較することが可能である。これは、既に上述した長手方向加速度センサ34であり、或いは、これは、車両の真の加速度/減速度の推定を可能にする複数の信号の処理に起因して得られる。その結果、中央ユニット3は、スリップ制御装置が問題の車輪のスリップを検出したときに車輪制御トルク(選択的に車輪ごとの)を減少させるよう電子車輪制御モジュール23に命令を出すことができる。注目されるべきこととして、トルクのこの減少は、電子車輪制御モジュールによって直接管理されるのが良く、この電子車輪制御モジュールは、車輪のところで測定された速度及び加速度に対してリアルタイムで応動することができ、中央ユニットは、例えば、守られるべき最高速度及び加速度指令を送る。
【0037】
結論として、指摘されるべきこととして、従来型制動部材(欧州特許第0878332号明細書のディスク及びキャリパを参照されたい)が設けられていないので、パッド及びディスクの交換を含む定期的な作業をなくすことにより本発明のシステムを備えた車両の設計思想だけでなく、その保守が実質的に単純化される。従来型油圧制動部材をなくすことにより達成される利点のうちで、更に、パッドの残留摩擦がなくなるということがいえる(この摩擦は、従来型制動方式の車両の作動に必要なエネルギーの取るに足りないとはいえない部分を消費するということが知られている)。注目されるべき別の利点は、従来型油圧制動部材により接地システムのところに生じる熱応力がなくなること及びパッド及びディスクの摩耗により生じるダストと関連した厄介な問題がなくなるということである。
【0038】
上述の説明は、車輪のどれもが機械式ブレーキを備えていない自動車用のトラクションシステムに関している。車両の減速能力は、回転電気機械を発電機として作動させることに起因しており、発電機は、車両の車輪の各々をロックさせることができるよう設計されており、即ち、発電機は、十分な制動トルクを提供することができる。
【0039】
本明細書における説明の以下の残りの部分は、車両の制動システムにおける安全性の非常に高いレベルを保証することができるのに十分なハードウェアの冗長度を備えたシステムを構成することができるようにする特定の非限定的な例に関する。
【0040】
図2で理解できるように、電気制動システムは、過電流保護装置41A,41Bによりそれぞれ中央電線路40に接続された2つのサブシステム(A,B)を有し、サブシステムの各々が、各々これに特有の少なくとも1つの回転電気機械2に回転可能に連結された2つの車輪を有することが理解できる。右前輪及び左後輪、より正確に言えば、これらと関連した回転電気機械2及び電子車輪制御モジュール23が、サブシステムAを構成している。左前輪及び右後輪、より正確に言えば、これらと関連した回転電気機械2及び電子車輪制御モジュール23が、サブシステムBを構成している。各サブシステムは、各々が電子消費モジュール60A又は60Bにより給電される電力消費抵抗器6A又は6Bをそれぞれ有している。
【0041】
トラクションシステムの種々の構成要素をハードウェア冗長度の基準に関して吟味した場合、車輪に組み込まれた回転電気機械2は、当然のことながら、冗長度を呈するシステムを形成する。というのは、車輪の各々は、それ自体の電気機械を備えているからである。これら機械の制御エレクトロニクス、即ち、電子車輪制御モジュール23は、同様に、これら電気機械2の各々がそれ自体の制御エレクトロニクスを備えているのでハードウェア冗長度を呈するシステムを形成している。
【0042】
再生制動中、回転電気機械2の各々は、電子車輪制御モジュール23を介して電気エネルギーを電力ライン40に供給する。このエネルギーは、アキュムレータ、即ち列状に配置されたスーパーキャパシタ5に貯蔵されるか、電力消費抵抗器6A,6Bによって消散されるかのいずれかであるのが良い。非常制動中、アキュムレータの貯蔵能力をあてにすることが不可能であることは明らかである。というのは、アキュムレータは、非常に良いことには、既に最大充電状態にあり、電気エネルギーを吸収することができないからである。それ故、電力消費抵抗器6は、作動上の安全性にとって極めて重要な要素である。同様に、電力ライン40は、完全電気車両制動システムの作動上の安全性にとって非常に重要な要素である。以下において種々の故障の状況について吟味する。
【0043】
図2は、主要な電気エネルギー源を示しており、この電気エネルギー源は、実施形態のこの例では、燃料電池4である。この図は又、電気エネルギーの貯蔵を可能にするアキュムレータバッテリを示しており、このアキュムレータバッテリは、実施形態のこの例では、列状に配置されたスーパーキャパシタ5及びその電子再生モジュール50である。最後に、種々の電子再生モジュールの低電圧給電は、一方において、電力ライン40上で利用できる電圧を種々の制御エレクトロニクスに給電するために用いられる低電圧(例えば、12ボルト)に変換することができる電圧変換器41により、他方において、車両に従来用いられているバッテリ42、例えばDC12ボルトバッテリによって行われる。
【0044】
本出願人は、制動上の安全性を確保するために、制動システムが2つのサブシステム、即ち、右前輪と左後輪を互いにグループ化したシステムA及び左前輪と右後輪を互いにグループ化したシステムBに組織化されることを理解した。サブシステムAは、過電流保護装置41Aによって電力ライン40に接続されているサブシステムBは、過電流保護装置41Bにより電力ライン40に接続されている。かくして、サブシステムの各々は、それ自体の電力消費抵抗器6A,6Bを有し、各サブシステムは、それ自体の制御エレクトロニクス60A,60Bを有し、又、サブシステムを中央電線路から電気的に絶縁することができる過電流保護装置41A,41Bを介して電力ライン40に接続されている。電力ライン40と反対側の端部のところにおいて、装置41Aの下流側では、電力ラインの一部分40Aが、左後輪と関連した電子車輪制御モジュール23、右前輪と関連した電子車輪制御モジュール23及び最後に消費抵抗器6Aと関連した電子消費モジュール60Aに接続される。同じことは、サブシステムBについて当てはまる。
【0045】
電力ライン40が損傷して過電流保護装置41A,41Bの接続箇所相互間の遮断が生じた場合、互いに別個独立であり、しかも各々が車両の電気制動を保証することができる2つのサブシステム、即ち、システムA,Bが残る。これらサブシステムの各々は、それ自体の電力消費抵抗器を備えている。かくして、電力段ハードウェア冗長度が得られる。
【0046】
電力段は、電力ライン40の故障以外の故障を生じる場合がある。例えば、電子消費モジュール60Aで終端する電力ライン40Aの一部分が遮断される可能性がある。この場合、消費抵抗器6Aは、回路から外れる。電気制動中にサブシステムAによって生じた電力は、電力ライン40Aの遮断部分を通過し、過電流保護装置41Aを介して電力ライン40に戻り、そして電力ライン40Bを介して電力消費抵抗器6Bに向けられる場合がある。かくして、電力消費抵抗器6Bは、この場合、サブシステムA及びサブシステムBに対して共通になる。
【0047】
利用可能な消散電力が二分される場合であっても、この場合、正確に言えば、電気制動システムの減速能力は、相当大きなままであり、非常制動を実現するのに十分である。事実、電力消費抵抗器6の各々は、油圧冷却回路中に浸漬される。非常制動の場合、電気制動により生じるエネルギーは、冷却用流体を沸点に至らせるのに十分である。同時に、蒸発した流体は、気相に変換しているときに、液相の冷却用流体ですぐに置き換えられ、この冷却用流体は、この場合も又、抵抗器に対して洗浄作用を及ぼし、システムは、熱放散のために或る特定の能力を発揮し続ける。さらに、冷却システムは、或る程度の温度の遅れを示す。本出願人により実施された実験の立証するところによれば、この状況の場合であっても、電気制動システムは、例えば現時点において自動車に用いられている油圧交差型制動システムよりもかなり強力且つ効果的なままである。
【0048】
電力ライン40Aが右前輪と関連した電子車輪制御モジュール23と左後輪と関連した電子車輪制御モジュール23との間で中断された場合、この場合、電力消費抵抗器6Aは、右前輪と関連した回転電気機械2が発電機として機能しているとき、かかる回転電気機械2に対して利用可能なままであり、これに対し、電力消費抵抗器6Bは、サブシステムB及び左後輪と関連した回転電気機械2、即ち、サブシステムAの回転電気機械2のうちの一方に対して利用可能である。電力消費抵抗器のうちの一方6Bは、他方6Aよりも高い電力を受け取ることになる。作動は、最適ではないが、構成は、車両の減速能力に関し、前段落で説明した不都合よりも不都合の度合いが少ない。
【0049】
何らかの理由で、故障により過電流保護装置41Aの開路が生じ、かくして、サブシステムAが隔離され、この場合も又、車両の制動能力は、最大の状態のままである。というのは、電力消費抵抗器は、この場合、列状に配置されたスーパーキャパシタ5から成る電気エネルギーアキュムレータが最大充電状態にある場合でも車両の完全減速を保証することができるよう設計されているからである。この場合、状況は、最大減速能力に関し、電気制動システムの故障のうちの1つではない。認められるように、この状況は、全体的管理に関して最適ではない。というのは、特に、エネルギーを再生する可能性が失われるが、これは、安全性にとって有害ではないからである。
【0050】
サブシステムAについて今説明したばかりの故障のうちのどれか1つが対称という理由でサブシステムBに生じた場合、電気制動に関する安全上の条件は、明らかに同一のままである。結論として、電力段を2つの別個独立のサブシステム、即ち各々がそれ自体の過電流保護装置(装置41A,41B)によって車両の中央電力ライン40に接続されたシステムA及びシステムBの状態に組織化し、サブシステムの各々にそれ自体の電力消費抵抗器を装備することにより、二重のハードウェア冗長度が得られ、したがって、車両の電気制動のための優れた安全上の条件を保証することができるようになっている。
【0051】
電力消費抵抗器6A,6Bの消費電力は、冷却システムの良好な作動で左右される。事実、これら電力消費抵抗器は、熱伝達流体中に浸漬されている。図3は、冷却回路の略図である。理解できるように、冷却回路は、ポンプ8A,8B及び2つのラジエータ80A,80Bを有する。ポンプ8A,8Bは、直列に設けられ、各ポンプは、それ自体の電気モータ81A,81Bによってそれぞれ制御される。これら電気モータの各々は、それ自体の制御エレクトロニクス82A,82Bによって制御される。ラジエータ80A,80Bは、並列に設けられており、ラジエータのうちの一方に漏れが生じた場合、ラジエータの各々を選択的に隔離することができるようにする弁83を備えている。他方、ポンプ及びポンプ作動モータ組立体は、ポンプのうちの一方が故障している場合、他方のポンプが機能していないという事実にもかかわらず、他方のポンプが熱伝達流体に関して十分な流量を保証することができるよう設計されている。
【0052】
次に、図3を参照して種々の制御エレクトロニクス及び種々の補助装置の低電圧給電について説明する。この図は、2つの電力消費抵抗器6A,6Bの電子消費モジュール60A,60B、各々が4つの電気機械2の各々とそれぞれ関連した電子車輪制御モジュール23及び列状に配置されたスーパーキャパシタ5と関連した電子再生モジュール50を示している。また、中央ユニット3、冷却回路のポンプのうちの一方のポンプの制御エレクトロニクス82A及び冷却回路のポンプのうちの他方のポンプの制御エレクトロニクス82Bが示されている。ブレーキペダルは、その構成の結果として十分に安全であると見なされ、かくして、説明を繰り返さない。2つの位置センサC1,C2は、各々、ブレーキペダルと関連しており、各々、車両の運転手によって所望される指令を表す信号を送る。
【0053】
低電圧電気エネルギー供給に関する冗長度は、次のように設計される。一方において、電力ライン40に接続されていて、12ボルトの直流電圧を供給する電圧変換器41が設けられ、他方において、これ又12ボルトの直流電圧を供給するバッテリ42が設けられているので、或る特定の要素が電圧変換器41に接続され、他の要素は、次のように12ボルト電池に接続されることになる。ライン43が、電圧変換器41とバッテリ42を相互に接続している。このライン43は、第1の部分43A及び第2の部分43Bから成り、第1の部分と第2の部分は、装置430によって互いに接続され、この装置430は、これら部分のうちの一方が不足電圧又は過電流を受けた場合に2つの部分を互いに電気的に分離する。かくして、理解できるように、本発明の例示としての非限定的な実施形態では、2つの部分43A,43Bには同一の電圧が供給される。或る特定の要素は、各々過電流保護装置434Aを介して第1の部分43Aに接続されている。或る特定の要素は、各々過電流保護装置434Bを介して部分43Bに接続されている。
【0054】
例えば、冷却回路のポンプの良好な作動を保証するため、モータのうちの一方のモータ81Aは、その制御エレクトロニクス82Aを介して第1の部分43Aに接続されている。モータのうちの他方のモータ81Bは、その制御エレクトロニクス82Bを介して第2の部分43Bに接続されている。サブシステムAの制御エレクトロニクス、即ち、右前輪の回転電気機械2と関連した電子車両制御モジュール23、左後輪の回転電気機械2と関連した電子車輪制御モジュール23及び消費抵抗器6Aの電子消費モジュール60Aは、第2の部分43Bに接続され、サブシステムBの同一のエレクトロニクスは、第1の部分43Aに接続されている。
【0055】
車両移動の管理を保証する中央ユニット3は、これが電子車輪制御モジュール23の全てを制御するので、二重電気的接続の恩恵を受けている。この中央ユニットは、第1の部分43Aと第2の部分43Bを互いに隔離する一対のダイオードを介して第1の部分43Aと第2の部分43Bの両方に接続されている。中央ユニット3は、2つの低電圧源のうちの一方の故障が生じた場合でも中央ユニット3の給電の連続性を保証するよう常時ダイオード435を介して接続されている。さらに、適当な回路436が、2つの電源のうちの一方の故障が生じた場合に故障信号を送るために給電ラインの各々への電圧の存在をモニタする。列状のスーパーキャパシタ5と関連した電子再生モジュール50は、第1の部分43Aにのみ接続されている。注目されるべきこととして、この種の二重接続は又、特に電子車輪制御モジュール23のためのエレクトロニクス全てについて使用できる。
【0056】
この装置430は、電力要素、例えば接触器又は電力電子コンポーネントと、計測及び制御回路とから成っている。2つの部分43A及び43Bのうちの一方に「開路」タイプの故障又は低電圧電源のうちの一方41又は42の内部に直接故障が生じた場合、電気分離装置430は、2つの部分43A,43B相互間の接続状態を維持し、電子モジュール及び補助モジュールは、これらの全体が残りの低電圧電源によって給電される。かかる状況では、全制動力が維持される。
【0057】
不足電圧又は例えば2つの部分のうちの一方43A又は43Bの短絡に起因する過電流若しくは電源のうちの一方41又は42の内部の短絡に直接起因する過電流の場合、電気分離装置430は、故障のない方の部分の機能を維持するために2つの部分43A,43B相互間の接続を中断する。したがって、理解できるように、何らかの理由で電圧変換器41の重要な故障により、電気分離装置430が電圧変換器41とバッテリ41との間の相互接続を中断した場合、バッテリは、サブシステムAと関連した制御エレクトロニクス及び中央ユニット並び油圧冷却回路の2つのポンプのうちの一方の低電圧給電を続けることができる。これとは逆に、バッテリ42に重要な故障が生じた場合、電気分離装置430は、相互接続を中断することができ、電圧変換器41は、サブシステムB、中央ユニット及び油圧冷却回路のポンプのうちの一方に給電し続ける。かくして、理解できるように、上述した設計思想により、2つのサブシステムのうちの一方A又はBの作動を維持することができ、かくして、車両制動電力の半分が依然として利用できる。当然のことながら、エレクトロニクス全てのための低電圧給電の二重接続を用いることは、全制動電力が、この故障状況の場合でも利用可能な状態のままであることを意味する。
【0058】
次に、制動センサC1,C2の給電について説明し、これら制動センサは、制動制御システムにおける第1のリンクである。思い出されるべきこととして、本発明のシステムは、電子車輪制御モジュール23の全てを制御する中央ユニット3を有する。他方、本発明のシステムは、運転手に利用可能な制動制御装置32を有し、この制御装置は、少なくとも、車両に要望される全制動力を表す所与の大きさを備えた車両制動制御信号を出力する第1のセンサC1及び車両に要望される全制動力を表す所与の大きさを備えた車両制動制御信号を出力する第2のセンサC2に機械的に連結されている。
【0059】
本発明のシステムの設計思想は、センサC1,C2に互いに異なる役割を割り当てている。センサC1には、中央ユニット3により低電圧電気エネルギーが供給される。このセンサは、制御信号を中央ユニット3に出力し、中央ユニットは、センサC1からのみ制動制御信号を受け取り、それにより全車両制動制御信号の第1のレベルを生じさせる。指摘すべきこととして、中央ユニット3は、センサC1のためのコンディショニング回路の故障に関する故障情報を管理するためにセンサC1に給電するライン上の電圧の存在及びライン30F上の制御信号の完全性をモニタする適当な回路を有する。第2のセンサC2には、電気機械の各々と関連した電子車輪制御モジュール23によって給電される。第2のセンサC2は、その制御信号を電子車輪制御モジュール23の各々に出力する。当然のことながら、ダイオード230が、制御エレクトロニクス23の各々とセンサC2との間の給電ライン中に設けられている。さらに、車輪制御モジュール23の各々に設けられた適当な回路231が、4つの電源のうちの1つの故障の場合に故障信号を送るために4つの給電ラインの各々上の電圧の存在をモニタする。以下の段落において、理解されるように、センサC2は、車輪制御エレクトロニクス23と直接関連すると共に車輪制御エレクトロニクス23とのみ関連している。
【0060】
低電圧給電段は、第1の電源及び少なくとも1つの第2の電源を有し、第1の電源と第2の電源は、第1の部分43A及び第2の部分43Bを有する電力ライン43によって互いに接続され、第1の部分と第2の部分は、これら部分のうちの一方が不足電圧又は過電流を受けた場合に2つの部分を電気的に分離する装置430によって互いに接続されていることが理解されたであろう。第1のセンサC1は、中央ユニット3と同一の部分によって給電され、第2のセンサC2は、上述の電源を隔離する1対のダイオードを介してサブシステムのうちの一方(A)の車輪制御エレクトロニクス23とサブシステムのうちの他方(B)の車輪制御エレクトロニクス23の両方によって給電される。
【0061】
図4では、中央ユニット3は、電子車輪制御モジュール23の各々及び電子再生モジュール50にCAN bus(登録商標)(コントロール・エリア・ネットワーク(Control Area Network)、参照符号30Aによって示されている)によって相互接続され、このCAN bus(登録商標)は、コンピュータ処理された形態で制御指令を送ることができる。中央ユニット3には、制動制御信号を出すために所望のパラメータの全てを考慮に入れることができるのに適したソフトウェアがロードされ、この制動制御信号は、CAN bus30Aを介する循環のための所望のプロトコルに従って電気機械を制御する種々のエレクトロニクスに送られる。中央ユニット3は、10〜20msのオーダの周期で上述の信号を歩調を合わせてガス30Aで送り、各電子車輪制御モジュール23は、この周期をモニタする。CAN busの誤動作、中央ユニット3の誤動作又は組み込みソフトウェアの誤動作のために又は任意他の理由で、この周期が変化し、CAN通信故障データアイテムが生じる。電子車輪制御モジュール23の各々は、更に、この時点でアナログライン300を介してセンサC2によって出力されたアナログ信号を受け取る。また、指摘されるべきこととして、各車輪制御モジュール23は、センサC2のためのコンディショニング回路に故障が生じた場合に故障情報を管理するためにライン300上の制御信号の完全性をモニタする適当な回路を有する。
【0062】
最後に、制御ライン30Bは、電子再生モジュール50を電子消費モジュール60A,60Bに接続している。制御ライン30Bの故障又は電子再生モジュール50のところで故障が生じた場合、電子消費モジュール60A,60Bは、ライン30B上の指令を受け取らないで自動的に電力ライン40に戻る制動電力を消散させる可能性を保持する。かくして、サブシステムA,Bは、制動に関して完全に作動状態のままであるが、エネルギーを貯蔵する可能性がない。というのは、後者の場合、電子再生モジュール50は、使用状態から外れているからである。
【0063】
電気機械2による制動トルクの創出に戻るため、電気機械2の制御は、電気機械2の各々に特有の電子車輪制御モジュール23によって直接保証される。このモジュールには、受け取った制御信号に応じてトルクに関して各電気機械を制御するのに適したソフトウェアがロードされている。各電子車輪制御モジュール23は、一方において、バス30A上の制動制御信号を受け取り、他方において、センサC2からの信号を送るアナログライン300上の制動制御信号を受け取る。かくして、各電子車輪制御モジュール23は、バス30Aで送られる制御信号とアナログライン300で送られる制御信号をいつでも比較することができ、例えば実験で定められることに応じて10%〜20%のオーダの或る特定の許容誤差のマージンの範囲内で、バス30Aから来る制動制御信号に優先権を与える。
【0064】
他方、中央ユニット3又は中央ユニット3内に確立されているソフトウェアの誤動作に起因して、バス30Aによって送られた制動制御信号がセンサ2から直接アナログの形式で来る制動制御信号よりも非常に低かった場合、車両を制動する際、作動上の安全を確保するためにセンサ2から来る制御信号に優先権を与えるのが良い。理解できるように、提案した設計思想は、センサC1,C2の各々により送られる信号を別々に利用する。センサC1は、中央ユニット3と関連しており、センサC1により、第1レベルの全体的制動信号を計算することができる。他方、センサC2により送られる制御信号は、適当な場合によって電子車両制御モジュール23に直接アナログの形で送られる。全体的な整合性は、種々の信号を比較することにより保証される。この場合、選択された許容誤差のマージンの範囲内で最も高い減速要求に対応した信号に優先権がある。このように、制動制御安全性は、バス30A、バスの一部分又はアナログライン300又は30Fのうちのいずれかの故障の場合でも保証される。
【0065】
上述したことの全てに加えて、例えば運転手の意のままに非常ボタンによって非常時指令によってあらかじめ定められた制動信号を作り出す可能性を確立することが可能である。この種の制動指令は、中央ユニット3、より正確に言えば、中央ユニット3内に確立されているソフトウェアによって考慮され、CAN bus30Aにより電気機械の各々の制御エレクトロニクス23に送られる。これは、ブレーキペダルを放した場合でも、制動中、作動上の安全を確保することができる。同様に、これは、2つのセンサの故障又は2つのブレーキセンサC1,C2の固定手段の故障の場合、制動中作動上の安全性を確保することができる。2つのセンサのうちの一方C1又はC2の機械的連結にのみ欠陥があり又は2つのセンサのうちの一方が故障状態にある場合、制動中における作動上の安全性は、当然のことながら、全段落で説明したように保証される。しかしながら、この場合、例えば、ドライブを最後まで至らせることができることが可能であり、車両が一旦停止すると、車両が再び始動するのを阻止することができる。
【0066】
最後に、上述したハードウェア冗長度が、有利には、中央ユニット3にロードされているソフトウェア及び電子車輪制御モジュール23にロードされているソフトウェアの両方に関してソフトウェア冗長度と組み合わせ使用されることは指摘されるべきである。このように、高度の安全性が完全電気車両制動システムについて達成される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路車両用の電気制動システムであって、前記道路車両の少なくとも2つの車輪(1)が各々、少なくとも1つの回転電気機械(2)に回転可能に連結され、少なくとも1つの電子車輪制御モジュール(23)が、同一の車輪の前記回転電気機械を制御し、各前記電子車輪制御モジュールにより、問題の車輪に所定の大きさ及び符号の制御トルクを選択的に加えることができ、前記電気制動システムは、少なくとも2つのサブシステム(A,B)を有し、各前記サブシステムは、前記電子車輪制御モジュール(23)のうちの少なくとも1つと、中央電線路と、電力要素を制御したり駆動したりするエレクトロニクスに給電する低電圧給電段とを有し、前記低電圧給電段は、第1の低電圧電源及び第2の低電圧電源を有し、前記第1の低電圧電源と前記第2の低電圧電源は、第1の部分(43A)及び第2の部分(43B)を有する低電圧電線路(43)によって互いに接続され、前記第1の部分(43A)と前記第2の部分(43B)は、2つの前記部分を電気的に分離する装置(430)によって相互に接続され、前記装置(430)は、2つの前記部分のうちの一方が不足電圧又は過電流を受けた場合に要望に応じて前記相互接続を中断することができ、前記サブシステムのうちの一方(A)の各前記電子車輪制御モジュール(23)は、前記第1の部分によって給電され、前記サブシステムのうちの他方(B)の各前記電子車輪制御モジュール(23)は、前記第2の部分によって給電される、電気制動システム。
【請求項2】
前記サブシステム(A,B)の各々について少なくとも1つの電子消費モジュール(60)を有し、前記電子消費モジュール(60)のうちの一方(A)は、前記第1の部分(43A)によって給電され、前記電子消費モジュール(60)のうちの他方(B)は、前記第2の部分(43B)によって給電される、請求項1記載の電気制動システム。
【請求項3】
前記サブシステムを前記中央電線路(40)から電気的に隔離することができる過電流保護装置(41A,41B)を有すること特徴とする請求項2記載の電気制動システム。
【請求項4】
前記第1の電源は、バッテリ(42)である、請求項1又は請求項3記載の電気制動システム。
【請求項5】
前記第2の電源は、前記中央電線路(40)に接続された電圧変換器(41)の形態をしている、請求項1又は請求項3記載の電気制動システム。
【請求項6】
車両の移動の管理を保証する中央ユニット(3)を有し、前記中央ユニット(3)は、前記電子車輪制御モジュール(23)の全てを制御し、前記第1の部分及び前記第2の部分のうちの一方によって給電される、請求項1乃至5の何れか1項に記載の電気制動システム。
【請求項7】
車両の移動の管理を保証する中央ユニット(3)を有し、前記中央ユニット(3)は、前記電子車輪制御モジュール(23)の全てを制御し、前記第1の部分と前記第2の部分を互いに隔離する一対のダイオードを介して前記第1の部分と前記第2の部分の両方によって給電される、請求項1乃至6の何れか1項に記載の電気制動システム。
【請求項8】
車両の長手方向の移動の管理を保証する中央ユニット(3)を有し、前記中央ユニット(3)は、前記電子車輪制御モジュール(23)の全てを制御し、前記中央ユニット(3)は、運転手に利用可能な制動制御装置(32)を有し、前記制御装置は、少なくとも、前記車両に所望される全制動力を表す所与の大きさの車両制動制御信号を出力する第1のセンサ(C1)及び前記車両に所望される全制動力を表す所与の大きさの車両制動制御信号を出力する第2のセンサ(C2)に機械的に連結され、前記電気制動システムにおいて、前記第1のセンサ(C1)は、その制御信号を前記中央ユニット(3)に出力し、前記第2のセンサ(C2)は、その制御信号を前記電子車輪制御モジュール(23)の各々に出力する、請求項1乃至7の何れか1項に記載の電気制動システム。
【請求項9】
前記第1のセンサ(C1)は、前記中央ユニット(3)と同一の前記部分によって給電され、前記第2のセンサ(C2)は、前記電源を互いに隔離する一対のダイオードを介して、前記サブシステムのうちの一方(A)の車輪制御エレクトロニクス(23)と前記サブシステムのうちの他方(B)の車輪制御エレクトロニクス(23)の両方によって給電される、請求項8記載の電気制動システム。
【請求項10】
4つの車輪を備えた車両の場合、各車輪が、これに専用の前記少なくとも1つの回転電気機械(2)に回転可能に連結されており、前記サブシステムの各々は、前記車輪のうちの2つを有する、請求項1乃至9の何れか1項に記載の電気制動システム。
【請求項11】
各前記サブシステムは、前記車両の互いに反対側のコーナ部のところに対角線方向に配置された前記車両の前記車輪を互いにグループ化する、請求項10記載の電気制動システム。
【請求項12】
各前記電子消費モジュール(60)は、電力消費抵抗器(6)から成る電力消費装置を含む、請求項2乃至11の何れか1項に記載の電気制動システム。
【請求項13】
質量がMkgの車両の場合、前記電力消費装置は、サブシステム1つ当たり250×M/1000kWよりも大きい電力のものである、請求項12記載の電気制動システム。
【請求項14】
前記サブシステム(A,B)の各々は、過電流保護装置(41A,41B)によって前記中央電線路(40)に接続され、電気エネルギーを供給する手段が、前記中央電線路(40)に接続され散る、請求項5乃至13の何れか1項に記載の電気制動システム。
【請求項15】
電気エネルギー貯蔵装置が、電子再生モジュールによって前記中央電線路(40)に接続されている、請求項5乃至14の何れか1項に記載の電気制動システム。
【請求項16】
2つの前記部分(43A,43B)は、同一電圧で給電される、請求項1乃至15の何れか1項に記載の電気制動システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−542184(P2009−542184A)
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−517101(P2009−517101)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【国際出願番号】PCT/EP2007/055968
【国際公開番号】WO2008/000637
【国際公開日】平成20年1月3日(2008.1.3)
【出願人】(599093568)ソシエテ ド テクノロジー ミシュラン (552)
【出願人】(508032479)ミシュラン ルシェルシュ エ テクニーク ソシエテ アノニム (499)
【Fターム(参考)】