説明

内燃機関のアイドリング期間予測装置および制御システム

【課題】内燃機関の始動時に、その直後のアイドリング期間の長さをより精度良く予測することが可能な技術を提供する。
【解決手段】内燃機関の始動直後において該内燃機関の運転状態がアイドリング状態となっている期間であるアイドリング期間の長さを計測するとともに内燃機関が搭載された車両の運転者を判別し、アイドリング期間の長さを運転者に対応させて記憶する。そして、記憶された過去のアイドリング期間の長さのうち対応している運転者が今回の運転者と同一と判断できるものに基づいて、今回のアイドリング期間の長さを予測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の始動時に、その直後のアイドリング期間の長さを予測する内燃機関のアイドリング期間予測装置およびそれを備えた内燃機関の制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関が冷間始動されたときは、排気通路に設けられた排気浄化触媒を昇温させ、該排気浄化触媒をより早期に活性化させる必要がある。そこで、内燃機関の始動直後における、内燃機関の運転状態がアイドリング状態となっている期間であるアイドリング期間中に、内燃機関の点火時期を基本点火時期より遅角させると共に内燃機関の吸入空気量を基本空気量より増加させる技術が知られている。
【0003】
点火時期が遅角されると排気の温度が上昇するため排気浄化触媒をより速やかに昇温させることが可能となる。また、アイドリング期間中に点火時期が遅角されると、内燃機関の出力トルクが低下するために、アイドリング期間中の機関回転数であるアイドル回転数が低下しその値が不安定となる虞がある。しかしながら、吸入空気量を増加させることで、アイドル回転数の低下を抑制することが出来る。
【0004】
従って、上記技術によれば、内燃機関の始動直後のアイドリング期間中に、アイドル回転数が不安定となることを抑制しつつ排気浄化触媒の活性化を図ることが出来る。
【0005】
上記のように、アイドリング期間中に点火時期を遅角させる場合、その遅角量を大きくすると排気浄化触媒の昇温をより促進させることが出来る。しかしながら、点火時期を過度に遅角すると、排気中の未燃燃料成分が増加することにより、排気浄化触媒の昇温中における排気浄化触媒よりも下流側に流出する未燃燃料成分(以下、流出燃料成分と称する)の量が増加する場合がある。その結果、アイドリング期間中の流出燃料成分の積算量が過剰に増加する虞がある。一方、アイドリング期間中に排気浄化触媒が十分に昇温されなかった場合、該アイドリング期間終了直後における流出燃料成分の量を十分に抑制することが困難となる。
【0006】
しかしながら、内燃機関の始動時に、その直後のアイドリング期間の長さを予測することが出来ない場合、点火時期の遅角量に対するアイドリング期間中の流出燃料成分の積算量およびアイドリング期間終了時点の排気浄化触媒の温度を予測することは困難である。そのため、流出燃料成分の量を抑制するためには、アイドリング期間の長さを予測することが重要である。
【0007】
また、特許文献1には、パティキュレートフィルタに補助熱を与えることによりDPF再生を行う技術が開示されている。この特許文献1では、内燃機関の運転履歴に基づいて内燃機関の運転傾向を判別するとともに、補助熱投与量が少なくて済む運転状態のときにDPF再生を行う。
【特許文献1】特開2007−071113号公報
【特許文献2】特開2004−218558号公報
【特許文献3】特公昭64−002535号公報
【特許文献4】特開平03−274593号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、内燃機関の始動時に、その直後のアイドリング期間の長さをより精度良く予
測することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、アイドリング期間の長さを計測するとともに内燃機関が搭載された車両の運転者を判別し、アイドリング期間の長さを運転者に対応させて記憶する。そして、記憶された過去のアイドリング期間の長さのうち対応している運転者が今回の運転者と同一と判断できるものに基づいて、今回のアイドリング期間の長さを予測する。
【0010】
より詳しくは、本発明に係る内燃機関のアイドリング期間予測装置は、
内燃機関の始動直後において該内燃機関の運転状態がアイドリング状態となっている期間であるアイドリング期間の長さを計測する計測手段と、
内燃機関を搭載した車両の運転者を判別する判別手段と、
前記計測手段によって計測されたアイドリング期間の長さを前記判別手段によって判別された運転者と対応させて記憶する記憶手段と、
前記内燃機関の始動時に、前記記憶手段に記憶されている過去のアイドリング期間の長さのうち対応している運転者が前記判別手段によって今回判別された運転者と同一と判断できるものを複数回分選択し、それらの長さに基づいて今回のアイドリング期間の長さを予測する予測手段と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
アイドリング期間の長さは車両の運転者に応じた傾向がある。そこで、本発明においては、アイドリング期間の長さを車両の運転者に応じて予測する。これにより、内燃機関の始動時に、その直後のアイドリング期間の長さをより精度良く予測することが出来る。
【0012】
車両の運転席にかかる荷重は運転者の体重に応じて変化する。また、内燃機関の始動の時間帯やイグニッションスイッチONからスタータONまでの期間の長さも運転者に応じた傾向がある。そこで、本発明において、判別手段は、これらの値のいずれか又はこれらの値の組合せに基づいて運転者を判別してもよい。
【0013】
本発明において、予測手段は、選択した複数回分の過去のアイドリング期間の長さの代表値を今回のアイドリング期間の長さの予測値としてもよい。
【0014】
この場合、アイドリング期間の長さを十分な精度で予測することが可能と判断出来る回数分の過去のアイドリング期間の長さを選択する。また、代表値は、平均値、最高値、最低値、最頻値等どのような値でもよい。
【0015】
内燃機関が冷間始動されたときは、アイドリング期間中に、内燃機関の点火時期、吸入空気量および燃料噴射量を制御することで内燃機関の排気通路に設けられた排気浄化触媒を昇温させる昇温手段を備えた内燃機関の制御システムに、本発明に係る内燃機関のアイドリング期間予測装置を適用してもよい。
【0016】
アイドリング期間中の排気浄化触媒の温度および流出燃料成分の量は、点火時期のみならず、吸入空気量および燃料噴射量にも相関がある。そこで、上記内燃機関の制御システムに係る昇温手段は、点火時期、吸入空気量および燃料噴射量を制御することで排気浄化触媒を昇温させる。
【0017】
そして、この場合、内燃機関の始動時にアイドリング期間の長さを予測することが出来ると、アイドリング期間中に点火時期、吸入空気量および燃料噴射量のそれぞれを変化させた場合における、アイドリング期間が終了した時点の排気浄化触媒の温度およびアイドリング期間中の流出燃料成分の積算量をその予測値に基づいて推定することが出来る。
【0018】
そこで、上記の場合、昇温手段は、アイドリング期間予測装置によって予測されたアイドリング期間の長さに基づいて、アイドリング期間中の点火時期、吸入空気量および燃料噴射量を制御する。
【0019】
これによれば、アイドリング期間が終了した時点の排気浄化触媒の温度およびアイドリング期間中における流出燃料成分の積算量をより好適に制御することが出来る。
【0020】
上記の場合において、昇温手段は、アイドリング期間が終了した時点の排気浄化触媒の温度が所定の活性温度以上となる範囲内で、アイドリング期間中における流出燃料成分の積算量が最少となるように、アイドリング期間予測装置によって予測されたアイドリング期間の長さに基づいて、アイドリング期間中の点火時期、吸入空気量および燃料噴射量を制御してもよい。
【0021】
これによれば、アイドリング期間中における流出燃料成分の積算量およびアイドリング期間終了直後における流出燃料成分の量の双方を可及的に少なくすることが出来る。
【0022】
また、オートマチックトランスミッションを搭載した車両の内燃機関に本発明に係る内燃機関の制御システムを適用してもよい。この場合、内燃機関の制御システムは、アイドリング期間中において、内燃機関の点火時期、吸入空気量および燃料噴射量を制御することで排気浄化触媒に流入する排気の空燃比を制御する空燃比制御手段をさらに備えてもよい。空燃比制御手段は、アイドリング期間中において、シフトポジションがニュートラルレンジであるときは排気浄化触媒に流入する排気の空燃比を理論空燃比よりもリーン側に制御し、シフトポジションがニュートラルレンジからドライブレンジに切り換わった後は排気浄化触媒に流入する排気の空燃比を理論空燃比よりもリッチ側に制御する。
【0023】
また、上記の場合、内燃機関の制御システムは、アイドリング期間中においてシフトポジションがニュートラルレンジとなっている期間中に排気浄化触媒に吸蔵されたOの吸蔵量を算出するO吸蔵量算出手段と、アイドリング期間中においてシフトポジションがドライブレンジとなっている期間であるドライブレンジアイドリング期間の長さを計測するドライブレンジアイドリング期間計測手段と、該ドライブレンジアイドリング期間計測手段によって計測されたドライブレンジアイドリング期間の長さを判別手段によって判別された運転者と対応させて記憶するドライブレンジアイドリング期間記憶手段と、アイドリング期間中にシフトポジションがニュートラルレンジからドライブレンジに切り換わった時に、ドライブレンジアイドリング期間記憶手段に記憶されている過去のドライブレンジアイドリング期間の長さのうち対応している運転者が判別手段によって今回判別された運転者となっているものを複数回分選択し、それらの長さに基づいて今回のドライブレンジアイドリング期間の長さを予測するドライブレンジアイドリング期間予測手段と、をさらに備えてよい。
【0024】
この場合、ドライブレンジアイドリング期間予測手段は、ドライブレンジアイドリング期間の長さを十分な精度で予測することが可能と判断出来る回数分の過去のドライブレンジアイドリング期間を選択する。また、選択された過去の複数回分のドライブレンジアイドリング期間の長さの代表値を今回のドライブレンジアイドリング期間の長さとしてもよい。代表値は、平均値、最高値、最低値、最頻値等どのような値でもよい。
【0025】
そして、上記の場合、空燃比制御手段は、排気浄化触媒におけるO吸蔵量がドライブレンジアイドリング期間中に所定吸蔵量以下まで減少するように、O吸蔵量算出手段によって算出された排気浄化触媒におけるO吸蔵量及びドライブレンジアイドリング期間予測手段によって予測されたドライブレンジアイドリング期間の長さに基づいて、ドライブレンジアイドリング期間中の排気浄化触媒に流入する排気の空燃比を制御してもよい。
【0026】
ここで、所定吸蔵量とは、アイドリング期間が終了した時において、排気浄化触媒から流出するNOxの量を許容範囲内に抑制することが可能な値である。
【0027】
上記によれば、ドライブレンジアイドリング期間予測手段よって、ドライブレンジアイドリング期間の長さを予測することが出来る。そして、ドライブレンジアイドリング期間中に排気浄化触媒におけるO吸蔵量を所定吸蔵量以下にまで減少させることが出来る。従って、アイドリング期間が終了した時において、排気浄化触媒から流出するNOxの量を抑制することが出来る。
【0028】
尚、上記においては、ドライブレンジアイドリング期間予測手段及びドライブレンジアイドリング期間記憶手段に代えて、アイドリング期間中においてシフトポジションがニュートラルレンジとなっている期間であるニュートラルレンジアイドリング期間の長さを計測するニュートラルレンジアイドリング期間計測手段を備えてもよい。この場合、ドライブレンジアイドリング期間予測手段は、アイドリング期間中においてシフトポジションがニュートラルレンジからドライブレンジに切り換わった際に、予測手段によって予測された今回のアイドリング期間の長さからニュートラルレンジアイドリング期間計測手段によって計測された今回のニュートラルレンジアイドリング期間の長さを減算することで、今回のドライブレンジアイドリング期間の長さを予測することが出来る。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、内燃機関の始動時に、その直後のアイドリング期間の長さをより精度良く予測することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明に係る内燃機関のアイドリング期間予測装置および制御システムの具体的な実施形態について図面に基づいて説明する。
【0031】
<実施例1>
<内燃機関およびその吸排気系の概略構成>
図1は、本実施例に係る内燃機関およびその吸排気系の概略構成を示す図である。内燃機関1は、4つの気筒2を有する車両駆動用のガソリンエンジンである。
【0032】
気筒2内にはピストン3が摺動自在に設けられている。気筒2内上部の燃焼室には吸気ポート4と排気ポート5とが接続されている。吸気ポート4および排気ポート5の燃焼室への開口部は、それぞれ吸気弁6および排気弁7によって開閉される。
【0033】
また、内燃機関1には、気筒2内の燃焼室において混合気に点火する点火プラグ10、および、吸気ポート4内に燃料を噴射する燃料噴射弁11が設けられている。
【0034】
吸気ポート4および排気ポート5は、それぞれ吸気通路8および排気通路9に接続されている。吸気通路8にはエアフローメータ12およびスロットル弁13が設けられている。本実施例においては、スロットル弁13によって内燃機関1の吸入空気量が制御される。
【0035】
排気通路9には三元触媒14が設けられている。本実施例においては、三元触媒14が本発明に係る排気浄化触媒に相当する。尚、本発明に係る排気浄化触媒は、三元触媒14に限られるものではなく、酸化機能を有する触媒であればどのようなものでもよい。そのため、三元触媒14に代えて、酸化触媒や吸蔵還元型NOx触媒等の触媒を設けてもよい。
【0036】
また、内燃機関1には、該内燃機関1に形成されたウォータージャケット内を流れる冷却水の温度を検出する水温センサ15が設けられている。本実施例では、水温センサ15の検出値を内燃機関1の機関温度として用いる。つまり、水温センサ15が、本発明に係る機関温度取得手段に相当する。
【0037】
以上述べたように構成された内燃機関1には電子制御ユニット(ECU)20が併設されている。ECU20には、エアフローメータ12、水温センサ15、クランクポジションセンサ16、アクセル開度センサ17、イグニッションスイッチ18および運転席荷重測定装置19が電気的に接続されている。これらの出力信号がECU20に入力される。
【0038】
クランクポジションセンサ16は、内燃機関1のクランク角を検出するセンサである。また、アクセル開度センサ17は、内燃機関1を搭載した車両のアクセル開度を検出するセンサである。運転席荷重測定装置19は、内燃機関1が搭載された車両の運転席にかかる荷重を測定する装置である。
【0039】
また、ECU20には、点火プラグ10、燃料噴射弁11およびスロットル弁13が電気的に接続されている。ECU20によってこれらが制御される。
【0040】
<アイドリング期間中の制御>
本実施例において、内燃機関1の運転状態がアイドリング状態となっているアイドリング期間中の制御について説明する。尚、以下において、「アイドリング期間」とは「内燃機関1の始動直後のアイドリング期間」のことをいうものとする。
【0041】
本実施例に係る内燃機関1では、アイドリング期間中は、機関回転数(アイドル回転数)が予め定められた目標アイドル回転数に制御される。このとき、三元触媒14を昇温させる必要がない場合(即ち、三元触媒14が十分に活性化している場合)は、内燃機関1の点火時期および吸入空気量は、それぞれ、予め定められた基本点火時期および基本空気量に制御される。つまり、基本点火時期および基本空気量は、内燃機関の点火時期および吸入空気量がこれらの値に制御されるとアイドル回転数が目標アイドル回転数となる値として定められている。
【0042】
ここで、内燃機関1が冷間始動された場合は、三元触媒14をより早期に活性化させる必要がある。そこで、本実施例では、内燃機関1が冷間始動された場合、その直後のアイドリング期間中において、三元触媒14を昇温させるべく昇温制御が実行される。本実施例に係る昇温制御は、内燃機関の点火時期を基本点火時期よりも遅角させることで実現される。点火時期を遅角させることで、排気の温度を上昇させることが出来る。その結果、三元触媒14をより速やかに昇温させることが可能となる。
【0043】
また、アイドリング期間中において点火時期が遅角されるとアイドル回転数が低下する虞がある。そこで、本実施例では、アイドリング期間中に昇温制御が実行される場合、吸入空気量を基本空気量より増加させる吸入空気量増加制御が実行される。この吸入空気量増加制御では、点火時期が遅角された場合におけるアイドル回転数が目標アイドル回転数となるように吸入空気量が制御される。尚、本実施例に係る吸入空気量増加制御はスロットル弁13の開度を増加させることで実現される。
【0044】
このように、本実施例においては、内燃機関1が冷間始動された場合、アイドリング期間中に昇温制御および吸入空気量増加制御が実行されることで、アイドル回転数を目標アイドル回転数に制御しつつ、三元触媒14をより速やかに昇温させることが出来る。
【0045】
アイドリング期間中に昇温制御を実行する場合、点火時期の遅角量を大きくすると三元触媒14の昇温をより促進させることが出来る。しかしながら、点火時期を過度に遅角すると、排気中の未燃燃料成分が増加することにより、三元触媒14の昇温中における三元触媒14よりも下流側に流出する未燃燃料成分(以下、流出燃料成分と称する)の量が増加する場合がある。その結果、アイドリング期間中の流出燃料成分の積算量が過剰に増加する虞がある。一方、アイドリング期間中に三元触媒14が十分に昇温されなかった場合、該アイドリング期間終了直後における流出燃料成分の量を十分に抑制することが困難となる。
【0046】
そこで、本実施例では、内燃機関1が冷間始動された場合、その直後のアイドリング期間の長さを予測する。そして、アイドリング期間中における流出燃料成分の積算量およびアイドリング期間終了直後における流出燃料成分の量の双方を可及的に少なくすべく、アイドリング期間の長さの予測値に基づいてアイドリング期間中のスロットル弁13の開度、点火時期および燃料噴射時間を制御する。
【0047】
<アイドリング期間の長さの予測方法>
ここで、本実施例に係るアイドリング期間の長さの予測方法について図2に基づいて説明する。アイドリング期間の長さは、内燃機関1を搭載した車両の運転者の運転パターンの一つである。つまり、アイドリング期間の長さは車両の運転者に応じた傾向がある。また、車両の運転席にかかる荷重は運転者の体重に応じて変化する。
【0048】
そこで、本実施例においては、内燃機関1の始動毎にアイドリング期間の長さをECU20が計測する。本実施例では、イグニッションスイッチ18がONとなり且つ内燃機関1の機関回転数が所定の機関始動回転数(例えば、400rpm)以上となった時点から、アクセル開度センサ17によって検出されるアクセル開度が零より大きくなるまでの期間の長さがアイドリング期間の長さとして計測される。ここで、機関始動回転数とは、内燃機関1において燃料噴射弁11からの燃料噴射および点火プラグ10による点火が開始されたと判断出来る閾値である。そして、ECU20は、図2に示すように、その計測値を、その計測時(即ち、機関始動時)に運転席荷重測定装置19によって測定される運転席にかかる荷重と対応させて記憶する。
【0049】
尚、イグニッションスイッチ18がONとなり且つ内燃機関1の機関回転数が所定の機関始動回転数以上となった時点から、内燃機関1の機関回転数が所定のアイドル終了回転数以上となった時点までの期間の長さをアイドリング期間の長さとして計測してもよい。ここで、アイドル終了回転数とは、目標アイドル回転数よりも高い値である。また、イグニッションスイッチ18がONとなり且つ内燃機関1の機関回転数が所定の機関始動回転数以上となった時点から、内燃機関1の機関負荷が所定のアイドル終了負荷以上となった時点までの期間の長さをアイドリング期間の長さとして計測してもよい。ここで、アイドル終了負荷とは、内燃機関1が目標アイドル回転数で運転されているときの機関負荷よりも高い値である。
【0050】
本実施例では、アイドリング期間の長さを計測するECU20が、本発明に係る計測手段に相当する。また、アイドリング期間の長さを記憶するECU20が、本発明に係る記憶手段に相当する。
【0051】
図2において、上段の縦軸はアイドリング期間の長さΔtiを表しており、下段の縦軸は運転席にかかる荷重Psを表している。また、図2において、横軸は、時系列の機関始動回数(n回目の機関始動の“n”)を表している。
【0052】
このように、アイドリング期間の長さΔtiと運転席にかかる荷重Psとが記録された
ときに、ECU20は、運転席にかかる荷重Psが所定の範囲(例えば、図2に示す範囲AまたはB)内にあるもの同士は運転者が同一の者であるときのデータであると判断する。
【0053】
そして、内燃機関1が冷間始動された場合、ECU20は、そのときの運転席にかかる荷重Psから運転者が同一であると判断出来る過去のアイドリング期間の長さΔtiのうち最新の所定回数分のデータを選択する。そして、選択した所定回数分のデータの平均値を算出し、その平均値を今回のアイドリング期間の長さΔtithの予測値とする。このようにアイドリング期間の長さを予測するECU20が、本発明に係る予測手段に相当する。
【0054】
尚、所定回数は、アイドリング期間の長さΔtithを十分な精度で予測することが可能と判断出来る回数であって、実験等に基づいて予め定められている。
【0055】
例として、今回の冷間始動がn+1回目の機関始動であって、運転席にかかる荷重Psが範囲Aに属している場合について説明する。尚、ここでは、所定回数を5回とする。この場合、n回目以前の機関始動であって運転席にかかる荷重Psが範囲A内であったときのアイドリング期間の長さΔtiのうち最新の5回分のデータ(図2の上段において楕円で囲まれたデータ)を選択する。そして、選択した5回分のデータの平均値を今回のアイドリング期間の長さΔtithの予測値とする。
【0056】
上記のようなアイドリング期間の長さの予測方法によれば、車両の運転者を考慮しつつ、履歴に基づいてアイドリング期間の長さが予測される。従って、内燃機関1の冷間始動時に、その直後のアイドリング期間の長さをより高い精度で予測することが出来る。
【0057】
尚、上記においては、選択した過去の所定回数分のアイドリング期間の長さの平均値を今回のアイドリング期間の長さの予測値としたが、選択したデータの平均値以外の代表値を予測値として用いてもよい。
【0058】
また、内燃機関1の始動の時間帯も運転者に応じた傾向がある。そこで、本実施例においては、上記の運転席にかかる荷重に代えて内燃機関1の始動の時間帯に基づいて運転者を判断してもよい。この場合、運転席にかかる荷重に基づいて運転者を判断する場合と同様、内燃機関1の始動毎に、内燃機関1の始動の時間帯に対応させてアイドリング期間の長さを記憶する。そして、内燃機関1が冷間始動された場合、そのときの時間帯から運転者が同一であると判断出来る過去のアイドリング期間の長さのうち最新の所定回数分のデータを選択する。
【0059】
また、イグニッションスイッチ18がONとなってからスタータがONとなるまでの期間の長さも運転者に応じた傾向がある。そこで、上記の運転席にかかる荷重に代えてイグニッションスイッチ18ONからスタータONまでの期間の長さに基づいて運転者を判断してもよい。この場合、運転席にかかる荷重に基づいて運転者を判断する場合と同様、内燃機関1の始動毎に、イグニッションスイッチ18ONからスタータONまでの期間の長さに対応させてアイドリング期間の長さを記憶する。そして、内燃機関1が冷間始動された場合、そのときのイグニッションスイッチ18ONからスタータONまでの期間の長さから運転者が同一であると判断出来る過去のアイドリング期間の長さのうち最新の所定回数分のデータを選択する。
【0060】
さらに、運転席にかかる荷重、内燃機関1の始動の時間帯及びイグニッションスイッチ18ONからスタータONまでの期間の長さの組合せに基づいて運転者を判別してもよい。
【0061】
<アイドリング期間中の点火時期およびスロットル弁開度>
内燃機関1の冷間始動後のアイドリング期間中において昇温制御が実行される場合、点火時期の遅角量およびアイドリング期間の長さに応じて、アイドリング期間が終了した時点の三元触媒14の温度およびアイドリング期間中の流出燃料成分の積算量が変化する。例えば、アイドリング期間中の点火時期の遅角量が一定の場合、アイドリング期間の長さが長いほど、アイドリング期間が終了した時点の三元触媒14の温度は高くなり、アイドリング期間中の流出燃料成分の積算量は多くなる。また、アイドリング期間の長さが一定の場合、アイドリング期間中の点火時期の遅角量が大きいほど(即ち、点火時期が遅いほど)、アイドリング期間が終了した時点の三元触媒14の温度は高くなり、アイドリング期間中の流出燃料成分の積算量は多くなる。
【0062】
そこで、本実施例においては、アイドリング期間が終了した時点の三元触媒14の温度が所定の活性温度以上となる範囲内で、アイドリング期間中における流出燃料成分の積算量が最少となるように、アイドリング期間中の点火時期、スロットル弁の開度および燃料噴射時間を制御する。以下、本実施例に係るアイドリング期間中の点火時期、スロットル弁の開度および燃料噴射時間の設定方法について説明する。
【0063】
本実施例においては、アイドリング期間中における、内燃機関1の始動時点からの経過時間(以下、始動後経過時間と称することもある)に応じた三元触媒14の温度および流出燃料成分の量を算出するための下記式(1)から(3)がECU20に記憶されている。これらの式(1)から(3)は実験等に基づいて予め求めることが出来る。尚、ここでは、アイドリング期間中に0.1sec毎に三元触媒14の温度および流出燃料成分の量を算出する場合を例に挙げて説明する。
【0064】
Tcat(t)=aTcat(t−0.1)+bTcat(t−0.2)+f(TA(t−td),SA(t−td),INJ(t−td))・・・式(1)
Tcat(t):始動後経過時間tにおける三元触媒14の温度(℃)
TA(t):始動後経過時間tにおけるスロットル弁13の開度(deg)
SA(t):始動後経過時間tにおける点火時期(degBTDC)
INJ(t):始動後経過時間tにおける燃料噴射時間(μsec)
a,b:定数、f:関数、td:応答遅れ時間
【0065】
上記式(1)において、Tcat(t−0.1)は始動後経過時間tより0.1sec前の三元触媒14の温度である。また、Tcat(t−0.2)は始動後経過時間tより0.2sec前の三元触媒14の温度である。また、スロットル弁13の開度、点火時期および燃料噴射時間のそれぞれが変化してから、その変化に応じて三元触媒14の温度が変化するまでには応答遅れがある。TA(t−td)、SA(t−td)およびINJ(t−td)は、始動後経過時間tよりもそれぞれの応答遅れ時間td前のスロットル弁13の開度、点火時期および燃料噴射時間である。
【0066】
HC(t)=cHC(t−0.1)+dHC(t−0.2)+g(TA(t−td),SA(t−td),INJ(t−td))・・・式(2)
HC(t):始動後経過時間tにおける内燃機関1から排出される燃料成分(以下、機関排出燃料成分と称する)の量(g/sec)
c,d:定数、g:関数、td:応答遅れ時間
【0067】
上記式(2)において、HC(t−0.1)は始動後経過時間tより0.1sec前の機関排出燃料成分の量である。また、HC(t−0.2)は始動後経過時間tより0.2sec前の機関排出燃料成分の量である。また、スロットル弁13の開度、点火時期、燃
料噴射時間および三元触媒14の温度のそれぞれが変化してから、それに応じて機関排出燃料成分の量が変化するまでには応答遅れがある。TA(t−td)、SA(t−td)、INJ(t−td)は、始後動経過時間tよりもそれぞれの応答遅れ時間td前のスロットル弁13の開度、点火時期および燃料噴射時間である。
【0068】
HCcat(t)=eHCcat(t−0.1)+hHCcat(t−0.2)+iHC(t−td2)×K(t−td2)・・・式(3)
HCcat(t):始動後経過時間tにおける流出燃料成分の量(g/sec)
e,h,i:定数、td2:応答遅れ時間
K(t):始動後経過時間tにおける三元触媒14での燃料成分浄化率
【0069】
上記式(3)において、HCcat(t−0.1)は始動後経過時間tより0.1sec前の流出燃料成分の量である。また、HCcat(t−0.2)は始動後経過時間tより0.2sec前の流出燃料成分の量である。また、機関排出燃料成分の量が変化してから、それに応じて流出燃料成分の量が変化するまでには応答遅れがある。HC(t−td2)は始後動経過時間tよりも応答遅れ時間td2前の機関排出燃料成分の量である。また、三元触媒14での未燃燃料浄化率は該三元触媒14の温度に応じて変化する。本実施例においては、三元触媒14での未燃燃料浄化率と三元触媒14の温度との関係が図3に示すようなマップとしてECU20に予め記憶されている。このマップに三元触媒14の温度を代入することで三元触媒14での未燃燃料浄化率を算出することが出来る。K(t−td2)は始動後経過時間tよりも応答遅れ時間td2前の三元触媒14での未燃燃料浄化率である。
【0070】
そして、本実施例においては、ECU20は、内燃機関1が冷間始動された場合、上記のような方法でその直後のアイドリング期間の長さΔtithを予測する。このアイドリング期間の長さの予測値Δtithを式(1)のtに代入することにより、今回のアイドリング期間が終了した時点の三元触媒14の温度を算出することが出来る。また、式(2)及び(3)のtに、0からアイドリング期間の長さの予測値Δtithを代入した値を積算することにより、アイドリング期間中の流出燃料成分の積算量を算出することが出来る。
【0071】
そこで、本実施例では、ECU20は、下記式(4)を満たしつつ、下記式(5)によって算出されるアイドリング期間中の流出燃料成分の積算量Jが最少となるようなアイドリング期間中のスロットル弁13の開度TA(t)、点火時期SA(t)および燃料噴射時間INJ(t)を時系列で算出する。
【0072】
Tcat(Δtith)≧Tcatact・・・式(4)
Tcat(Δtith):今回のアイドリング期間が終了した時点の三元触媒14の温度(℃)
Tcatact:所定の活性温度(℃)
【0073】




J:アイドリング期間中の流出燃料成分の積算量(g)
【0074】
以上によれば、図4に示すような、アイドリング期間中におけるスロットル弁13の開度、点火時期および燃料噴射時間それぞれの最適な制御値を、内燃機関1が冷間始動した時点で求めることが出来る。
【0075】
そして、本実施例において、ECU20は、アイドリング期間中におけるスロットル弁13の開度、点火時期および燃料噴射時間を、図4に示すように時系列で求められたTA(t)、SA(t)およびINJ(t)に制御する。尚、図4において、NEiはアイドル回転数を表している。また、本実施例においては、アイドリング期間中におけるスロットル弁13の開度、点火時期および燃料噴射時間をこのように制御するECU20が、本発明に係る昇温手段に相当する。
【0076】
これにより、アイドリング期間中の流出燃料成分の積算量を可及的に抑制しつつ、アイドリング期間が終了した時点の三元触媒14の温度を所定の活性温度以上に制御することが出来る。従って、本実施例によれば、内燃機関1が冷間始動された場合において、アイドリング期間中の流出燃料成分の積算量およびアイドリング期間終了直後における流出燃料成分の量の双方を可及的に少なくすることが出来る。
【0077】
<実施例2>
<内燃機関およびその吸排気系の概略構成>
図5は、本実施例に係る内燃機関およびその吸排気系の概略構成を示す図である。本実施例においては、内燃機関1を搭載する車両がオートマチックトランスミッションを搭載している。そして、シフトレバーポジションセンサ21がECU20と電気的に接続されている。これら以外の概略構成は実施例1と同様である。また、本実施例においても、内燃機関1の冷間始動時に、実施例1と同様の方法で、アイドリング期間の長さを予測するとともに、アイドリング期間中におけるスロットル弁13の開度、点火時期および燃料噴射時間それぞれの制御値が求められる。
【0078】
<アイドリング期間中の空燃比制御>
以下、アイドリング期間中において、シフトポジションがニュートラルレンジである期間をニュートラルレンジアイドリング期間と称し、シフトポジションがドライブレンジである期間をドライブレンジアイドリング期間と称する。
【0079】
本実施例においては、ニュートラルレンジアイドリング期間中は、内燃機関1から排出される排気(即ち、三元触媒14に流入する排気)の空燃比が理論空燃比よりもリーン側の空燃比である目標リーン空燃比に制御される。これにより、三元触媒14の昇温が促進させることが出来る。
【0080】
しかしながら、空燃比がリーンの排気が三元触媒14に流入すると三元触媒14にOが吸蔵される。三元触媒14におけるOの吸蔵量が増加すると三元触媒14のNOx還元能力が低下する。そのため、三元触媒14にOが吸蔵された状態でアイドリング期間が終了し三元触媒14に流入する排気の流量が急増すると、NOxの流出量の増加を招く虞がある。
【0081】
そこで、アイドリング期間中において、シフトポジションがニュートラルレンジからドライブレンジに移った後、ドライブレンジアイドリング期間中においては、内燃機関1から排出される排気が理論空燃比よりもリッチ側の空燃比である目標リッチ空燃比に制御される。これにより、三元触媒14に吸蔵されたOをドライブレンジアイドリング期間中に減少させることが出来る。
【0082】
尚、本実施例において、上記のようなアイドリング期間中における排気の空燃比の制御
は、ECU20によってスロットル弁13の開度および燃料噴射時間を制御することによって行われる。排気の空燃比を制御すべくスロットル弁13の開度および燃料噴射時間を制御するECU20が、本発明に係る空燃比制御手段に相当する。
【0083】
しかしながら、ドライブレンジアイドリング期間中において、内燃機関1から排出される排気の空燃比を過度にリッチにすると流出燃料成分の量が増加する虞がある。従って、ドライブレンジアイドリング期間中における流出燃料成分の量およびアイドリング期間終了後のNOxの流出量の双方を可及的に抑制するためには、アイドリング期間が終了する時点で三元触媒14におけるOの吸蔵量が0となるのが好ましい。
【0084】
そこで、本実施例においては、ニュートラルレンジ期間中において三元触媒14に吸蔵されたOの量を算出する。さらに、算出されたOの吸蔵量に基づいて、アイドリング期間が終了する時点で三元触媒14におけるOの吸蔵量が略0となるようにドライブレンジアイドリング期間中の目標リッチ空燃比を設定する。以下、本実施例に係るドライブレンジアイドリング期間中の目標リッチ空燃比の設定方法について説明する。
【0085】
本実施例においては、アイドリング期間中の目標リッチ空燃比を算出するための下記式(6)から(8)がECU20に記憶されている。これらの式(6)から(8)は実験等に基づいて予め求めることが出来る。尚、ここでは、ニュートラルレンジ期間中に0.1sec毎に三元触媒14におけるOの吸蔵量を算出する場合を例に挙げて説明する。
【0086】
OSC(t)=OSC(t−0.1)+Ocat(t−td1)・・・式(6)
cat(t−td1)=Ga(t−td1−td2)×α−INJ(t−td1−td3)×AFRst・・・式(7)
OSC(t):始動後経過時間tにおける三元触媒14でのO吸蔵量(g)
cat(t):始動後経過時間tにおける三元触媒14への流入O量(g/s)
Ga(t):始動後経過時間tにおける内燃機関1の吸入空気量(g/s)(エアフローメータ12による検出値)
INJ(t):始動後経過時間tにおける燃料噴射時間(μsec)
AFRst:理論空燃比
α:空気中におけるOの割合
td1:三元触媒14への流入O量が三元触媒14でのO吸蔵量に反映されるまでの遅れ時間
td2:内燃機関1の吸入空気量が三元触媒14への流入O量に反映されるまでの遅れ時間
td3:燃料噴射が実行されてから該燃料噴射によって噴射された燃料が燃焼することで生じた既燃ガスが排気として三元触媒14へ流入するまでの遅れ時間
【0087】
上記式(6)および(7)に係る各遅れ時間td1、td2およびtd3は実験等に基づいて予め求めることが出来る。
【0088】
上記式(6)および(7)により、ニュートラルレンジ期間中における三元触媒14でのO吸蔵量を算出することが出来る。但し、三元触媒14でのO吸蔵量は三元触媒14の温度Tcatに応じてその最大値が定まる。つまり、下記式(6)´が成立する。
OSC(t)≦OSCmax(Tcat)・・・式(6)´
OSCmax:三元触媒14でのO吸蔵量の最大値(g)
Tcat:三元触媒14の温度(℃)
【0089】
三元触媒14でのO吸蔵量の最大値OSCmaxと三元触媒14の温度Tcatとの関係は図6に示すようなマップとしてECU20に予め記憶されている。このマップに三
元触媒14の温度を代入することで三元触媒14でのO吸蔵量の最大値を算出することが出来る。そして、上記式(6)の算出値がその最大値を超えた場合は三元触媒14でのO吸蔵量は最大値となっていると判断する。
【0090】
本実施例では、アイドリング期間中においてシフトポジションがニュートラルレンジからドライブレンジに移った時点で、ECU20が、その時点における三元触媒14でのO吸蔵量を上記式(6)、(7)および(6)´に基づいて算出する。本実施例においては、このようにニュートラルレンジ期間中に三元触媒14に吸蔵されたOの量を算出するECU20が、本発明に係るO吸蔵量算出手段に相当する。そして、アイドリング期間中においてシフトポジションがニュートラルレンジからドライブレンジに移った時点で下記式(8)に基づいて今回のドライブレンジアイドリング期間中の目標リッチ空燃比AFRdiを算出する。
【0091】
OSC(Δtnith)=Gadith×Δtdith×(AFRst−AFRdi)/AFRst・・・式(8)
OSC(t):始動後経過時間tにおける三元触媒14でのO吸蔵量(g)
Gadith:今回のドライブレンジアイドリング期間中の吸入空気量(g/s)
Δtnith:今回のニュートラルレンジアイドリング期間の長さの実測値(sec)
Δtdith:今回のドライブレンジアイドリング期間の長さの予測値(sec)
AFRst:理論空燃比
AFRdi:今回のドライブレンジアイドリング期間中の目標リッチ空燃比
【0092】
ドライブレンジアイドリング期間中の吸入空気量は、シフトポジションがニュートラルレンジからドライブレンジに移った時点における内燃機関1の冷却水温に基づいて設定される。そして、ドライブレンジアイドリング期間の長さについては、シフトポジションがニュートラルレンジからドライブレンジに移った時点で予測する。
【0093】
本実施例においては、シフトポジションがニュートラルレンジからドライブレンジに移った時点において、その後のドライブレンジアイドリング期間の長さをアイドリング期間の長さの予測方法と同様の方法で予測する。つまり、内燃機関1の始動毎にドライブレンジアイドリング期間の長さをECU20が計測し、その計測値をその計測時に運転席荷重測定装置19によって測定される運転席にかかる荷重と対応させて記憶する。そして、シフトポジションがニュートラルレンジからドライブレンジに移った時点において、そのときの運転席にかかる荷重から運転者が同一であると判断出来る過去のドライブレンジアイドリング期間の長さのうち最新の所定回数分のデータを選択する。そして、選択した所定回数分のデータの平均値を今回のドライブレンジアイドリング期間の長さの予測値とする。
【0094】
尚、ドライブレンジアイドリング期間の長さを予測する場合の所定回数も、ドライブレンジアイドリング期間の長さを十分な精度で予測することが可能と判断出来る回数であって、実験等に基づいて予め定められている。また、選択した所定回数分のデータの平均値以外の代表値を今回のドライブレンジアイドリング期間の長さの予測値としてもよい。また、運転席にかかる荷重に代えて又はそれに加えて、内燃機関1の始動の時間帯および/またはイグニッションスイッチ18ONからスタータONまでの期間の長さに基づいて運転者を判断してもよい。
【0095】
本実施例においては、ドライブレンジアイドリング期間の長さを計測するECU20が本発明に係るドライブレンジアイドリング期間計測手段に相当する。また、ドライブレンジアイドリング期間の長さを記憶するECU20が、本発明に係るドライブレンジアイドリング期間記憶手段に相当する。また、ドライブレンジアイドリング期間の長さを予測す
るECU20が、本発明に係るドライブレンジアイドリング期間予測手段に相当する。
【0096】
上記式(8)においては、左辺OSC(Δtnith)が、上記式(6)、(7)および(6)´に基づいて算出されたシフトポジションがニュートラルレンジからドライブレンジに移った時点における三元触媒14でのO吸蔵量を表している。そして、右辺が、ドライブレンジアイドリング期間中に三元触媒14に排気に含まれた状態で供給される燃料の量を表している。そのため、上記式(8)を満たすようなドライブレンジアイドリング期間中の目標リッチ空燃比AFRdiを求め、ドライブレンジアイドリング期間中の空燃比をその値に制御することにより、アイドリング期間が終了する時点での三元触媒14におけるOの吸蔵量を略0とすることが出来る。
【0097】
上述したように、本実施例においても、内燃機関1の冷間始動時に、実施例1と同様の方法で、アイドリング期間中におけるスロットル弁13の開度TA(t)、点火時期SA(t)および燃料噴射時間INJ(t)それぞれの制御値が時系列で求められる。さらに、本実施例においては、ドライブレンジアイドリング期間中の空燃比を上記のように算出された目標リッチ空燃比に制御すべく、ドライブレンジアイドリング期間中のスロットル弁13の開度TA(t)および燃料噴射時間INJ(t)が、図7に示すように補正される。尚、目標リッチ空燃比とスロットル弁13の開度TA(t)および燃料噴射時間INJ(t)の補正量との関係は実験等によって予め求めることが出来る。また、図7において、AFR(t)は、始動後経過時間tにおける排気の空燃比を表している。
【0098】
以上により、ドライブレンジアイドリング期間中における排気の空燃比が過度にリッチ側の空燃比となることを抑制しつつ、アイドリング期間が終了する時点での三元触媒14におけるOの吸蔵量を略0とすることが出来る。従って、本実施例によれば、ドライブレンジアイドリング期間中における流出燃料成分の量およびアイドリング期間終了後のNOxの流出量の双方を可及的に抑制することが可能となる。
【0099】
尚、本実施例においては、アイドリング期間が終了する時点で三元触媒14におけるOの吸蔵量を略0とすべくドライブレンジアイドリング期間中の目標リッチ空燃比を設定した。しかしながら、アイドリング期間が終了する時点で三元触媒14におけるOの吸蔵量は必ずしも略0でなくともよく、その値が許容範囲の上限値以下となるように目標リッチ空燃比を設定してもよい。
【0100】
<変形例>
ここで、本実施例に係るドライブレンジアイドリング期間中の目標リッチ空燃比の算出方法の変形例について説明する。上記においては、ドライブレンジアイドリング期間中の目標リッチ空燃比を設定するときに、シフトポジションがニュートラルレンジからドライブレンジに移った時点において、その後のドライブレンジアイドリング期間の長さを予測した。そして、ドライブレンジアイドリング期間の長さの予測値を用いて上記式(8)に基づいてドライブレンジアイドリング期間中の目標リッチ空燃比を算出した。
【0101】
しかしながら、ドライブレンジアイドリング期間の長さは、アイドリング期間全体の長さの予測値からニュートラルレンジアイドリング期間の長さの実測値を減算することによっても求めることが出来る。そこで、本変形例においては、上記式(8)に代えて下記式(9)に基づいてドライブレンジアイドリング期間中の目標リッチ空燃比を算出する。
【0102】
OSC(Δtnith)=Gadith×(Δtith−Δtnith)×(AFRst−AFRdi)/AFRst・・・式(9)
OSC(t):始動後経過時間tにおける三元触媒14でのO吸蔵量(g)
Gadith:今回のドライブレンジアイドリング期間中の吸入空気量(g/s)
Δtith:今回のアイドリング期間の長さの予測値(sec)
Δtnith:今回のニュートラルレンジアイドリング期間の長さの実測値(sec)
AFRst:理論空燃比
AFRdi:今回のドライブレンジアイドリング期間中の目標リッチ空燃比
【0103】
上記式(9)によっても、アイドリング期間が終了する時点での三元触媒14におけるOの吸蔵量が略0となるようなドライブレンジアイドリング期間中の目標リッチ空燃比を算出することが出来る。そして、上記式(9)を用いることにより、内燃機関1の始動毎にアイドリング期間全体の長さとは別にドライブレンジアイドリング期間の長さを計測し記憶することなく、ドライブレンジアイドリング期間中の目標リッチ空燃比を算出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明の実施例1に係る内燃機関およびその吸排気系の概略構成を示す図。
【図2】本発明の実施例1に係るアイドリング期間の長さの予測方法について説明するための図。
【図3】実施例1に係る三元触媒での未燃燃料浄化率と三元触媒の温度との関係を示すマップ。
【図4】本発明の実施例1に係る、アイドリング期間中における、スロットル弁の開度、点火時期および燃料噴射時間の制御値、アイドル回転数、三元触媒の温度、流出燃料成分の量の推移を示す図。
【図5】実施例2に係る内燃機関およびその吸排気系の概略構成を示す図。
【図6】実施例2に係る三元触媒でのO吸蔵量の最大値と三元触媒の温度との関係を示すようなマップ。
【図7】本発明の実施例2に係る、アイドリング期間中における、スロットル弁の開度、点火時期および燃料噴射時間の制御値、排気の空燃比、アイドル回転数、三元触媒の温度の推移を示す図。
【符号の説明】
【0105】
1・・・内燃機関
2・・・気筒
8・・・吸気通路
9・・・排気通路
10・・点火プラグ
11・・燃料噴射弁
12・・エアフローメータ
13・・スロットル弁
14・・三元触媒
15・・水温センサ
16・・クランクポジションセンサ
17・・アクセル開度センサ
18・・イグニッションスイッチ
19・・運転席荷重測定装置
20・・ECU
21・・シフトレバーポジションセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の始動直後において該内燃機関の運転状態がアイドリング状態となっている期間であるアイドリング期間の長さを計測する計測手段と、
内燃機関を搭載した車両の運転者を判別する判別手段と、
前記計測手段によって計測されたアイドリング期間の長さを前記判別手段によって判別された運転者と対応させて記憶する記憶手段と、
前記内燃機関の始動時に、前記記憶手段に記憶されている過去のアイドリング期間の長さのうち対応している運転者が前記判別手段によって今回判別された運転者と同一と判断できるものを複数回分選択し、それらの長さに基づいて今回のアイドリング期間の長さを予測する予測手段と、を備えたことを特徴とする内燃機関のアイドリング期間予測装置。
【請求項2】
前記判別手段が、車両の運転席にかかる荷重、前記内燃機関の始動の時間帯もしくはイグニッションスイッチONからスタータONまでの期間の長さ又はこれらの組合せに基づいて運転者を判別することを特徴とする請求項1記載の内燃機関のアイドリング期間予測装置。
【請求項3】
前記予測手段が、選択した複数回分の過去のアイドリング期間の長さの代表値を今回のアイドリング期間の長さの予測値とすることを特徴とする請求項1または2記載の内燃機関のアイドリング期間予測装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の内燃機関のアイドリング期間予測装置と、
前記内燃機関が冷間始動されたときは、アイドリング期間中に、前記内燃機関の点火時期、吸入空気量および燃料噴射量を制御することで前記内燃機関の排気通路に設けられた排気浄化触媒を昇温させる昇温手段と、を備える内燃機関の制御システムにおいて、
前記昇温手段は、前記アイドリング期間予測装置によって予測されたアイドリング期間の長さに基づいて、アイドリング期間中の点火時期、吸入空気量および燃料噴射量を制御することを特徴とする内燃機関の制御システム。
【請求項5】
前記昇温手段は、アイドリング期間が終了した時点の前記排気浄化触媒の温度が所定の活性温度以上となる範囲内で、アイドリング期間中における前記排気浄化触媒よりも下流側に流出する未燃燃料成分の積算量が最少となるように、前記アイドリング期間予測装置によって予測されたアイドリング期間の長さに基づいて、アイドリング期間中の点火時期、吸入空気量および燃料噴射量を制御することを特徴とする請求項4記載の内燃機関の制御システム。
【請求項6】
前記内燃機関を搭載した車両がオートマチックトランスミッションを搭載した車両であって、
アイドリング期間中において、前記内燃機関の点火時期、吸入空気量および燃料噴射量を制御することで、シフトポジションがニュートラルレンジであるときは前記排気浄化触媒に流入する排気の空燃比を理論空燃比よりもリーン側に制御し、シフトポジションがニュートラルレンジからドライブレンジに切り換わった後は前記排気浄化触媒に流入する排気の空燃比を理論空燃比よりもリッチ側に制御する空燃比制御手段と、
アイドリング期間中においてシフトポジションがニュートラルレンジとなっている期間中に前記排気浄化触媒に吸蔵されたOの量を算出するO吸蔵量算出手段と、
アイドリング期間中においてシフトポジションがドライブレンジとなっている期間であるドライブレンジアイドリング期間の長さを計測するドライブレンジアイドリング期間計測手段と、
該ドライブレンジアイドリング期間計測手段によって計測されたドライブレンジアイドリング期間の長さを前記判別手段によって判別された運転者と対応させて記憶するドライ
ブレンジアイドリング期間記憶手段と、
アイドリング期間中にシフトポジションがニュートラルレンジからドライブレンジに切り換わった時に、前記ドライブレンジアイドリング期間記憶手段に記憶されている過去のドライブレンジアイドリング期間の長さのうち対応している運転者が前記判別手段によって今回判別された運転者となっているものを複数回分選択し、それらの長さに基づいて今回のドライブレンジアイドリング期間の長さを予測するドライブレンジアイドリング期間予測手段と、をさらに備え、
前記空燃比制御手段は、前記排気浄化触媒におけるO吸蔵量がドライブレンジアイドリング期間中に所定吸蔵量以下まで減少するように、前記O吸蔵量算出手段によって算出された前記排気浄化触媒におけるO吸蔵量及びドライブレンジアイドリング期間予測手段によって予測されたドライブレンジアイドリング期間の長さに基づいて、ドライブレンジアイドリング期間中の前記排気浄化触媒に流入する排気の空燃比を制御することを特徴とする請求項4または5に記載の内燃機関の制御システム。
【請求項7】
前記内燃機関を搭載した車両がオートマチックトランスミッションを搭載した車両であって、
アイドリング期間中において、前記内燃機関の点火時期、吸入空気量および燃料噴射量を制御することで、シフトポジションがニュートラルレンジであるときは前記排気浄化触媒に流入する排気の空燃比を理論空燃比よりもリーン側に制御し、シフトポジションがニュートラルレンジからドライブレンジに切り換わった後は前記排気浄化触媒に流入する排気の空燃比を理論空燃比よりもリッチ側に制御する空燃比制御手段と、
アイドリング期間中においてシフトポジションがニュートラルレンジとなっている期間中に前記排気浄化触媒に吸蔵されたOの吸蔵量を算出するO吸蔵量算出手段と、
アイドリング期間中においてシフトポジションがニュートラルレンジとなっている期間であるニュートラルレンジアイドリング期間の長さを計測するニュートラルレンジアイドリング期間計測手段と、
アイドリング期間中においてシフトポジションがニュートラルレンジからドライブレンジに切り換わった際に、前記予測手段によって予測された今回のアイドリング期間の長さからニュートラルレンジアイドリング期間計測手段によって計測された今回のニュートラルレンジアイドリング期間の長さを減算することで、今回のアイドリング期間中においてシフトポジションがドライブレンジとなっている期間であるドライブレンジアイドリング期間の長さを予測するドライブレンジアイドリング期間予測手段と、をさらに備え、
前記空燃比制御手段は、前記排気浄化触媒におけるO吸蔵量がドライブレンジアイドリング期間中に所定吸蔵量以下まで減少するように、前記O吸蔵量算出手段によって算出された前記排気浄化触媒におけるO吸蔵量及びドライブレンジアイドリング期間予測手段によって予測されたドライブレンジアイドリング期間の長さに基づいて、ドライブレンジアイドリング期間中の前記排気浄化触媒に流入する排気の空燃比を制御することを特徴とする請求項4または5に記載の内燃機関の制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−150354(P2009−150354A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−330668(P2007−330668)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】