説明

内燃機関の出力制御装置

【課題】自動変速機の変速比が小さくなっているときに目標出力トルクが急増することにより生じるおそれのあるノッキングや駆動系でのショックを好適に抑制することのできる内燃機関の出力制御装置を提供する。
【解決手段】電子制御装置40は、アクセルペダル60の操作量、車速、及び無段変速機30の変速比の状態に基づいて内燃機関10の目標出力トルクを算出し、その目標出力トルクに基づいてスロットルバルブ14の目標開度を算出する。また、電子制御装置40は、無段変速機30の変速比についてその現状値が所定値よりも小さいときには、目標出力トルクに基づいて算出されるスロットルバルブ14の目標開度を予め設定された上限値以下の値に制限する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の出力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の出力制御として、運転者によるアクセルペダルの操作量等に基づいて機関の目標出力トルクを算出し、この目標出力トルクに基づいて吸入空気量等を調量することにより機関の出力トルクを制御する、いわゆるトルクデマンド制御が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の制御装置では、アクセル操作量及び車速に基づいて目標駆動軸トルクを求め、この目標駆動軸トルクをファイナルギヤ比で除して、変速機の目標出力軸トルクを算出するようにしている。そして、この目標出力軸トルクを変速機とトルクコンバータでのトルク倍増率で除してエンジンの目標出力トルクを算出し、この目標出力トルクと機関回転速度とに基づいてスロットルバルブの開度を設定するようにしている。
【0004】
この文献に記載されるように、変速機でのトルク変換を考慮してエンジンの目標出力トルクを算出するようにすれば、変速機の変速比(入力軸の回転速度/出力軸の回転速度)に対応させて目標出力トルクを算出することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−218919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述したように、変速機でのトルク変換を考慮してエンジンの目標出力トルクを算出する場合には、次のような不都合が発生するおそれがある。
すなわち、自動変速機を備える車両では、定常走行中においてアクセルペダルが踏み込まれて加速状態に移行すると、自動変速機の変速比は小さい状態(いわゆるハイギヤの状態)から大きい状態(いわゆるローギヤの状態)に変更される。
【0007】
こうした加速中の目標出力トルクは定常走行中よりも大きくされるのであるが、特に加速初期にあって変速比が小さくなっているときには加速力が不足しやすい。そのため、たとえアクセルペダルの踏み込み量が小さくても、その踏み込み直後の目標出力トルクは急激に大きくされ、変速比が大きくなっていくに従って急増された目標出力トルクは小さくされていく。
【0008】
このように変速比に合わせて目標出力トルクを変化させることにより、変速比が小さくなっている加速初期でも十分な加速力が得られるとともに、加速初期から加速完了にかけて滑らかな加速力を得ることも可能となる。
【0009】
ここで、加速初期などにおいて、目標出力トルクが急激に大きくされると、その目標出力トルクの変更に合わせてスロットルバルブの開度も急激に大きくされ、吸入空気量は急増するようになる。このように吸入吸気量が急増すると、その急増した吸入空気量に対する燃料噴射量の変更遅れ、あるいは急増した吸入空気量に対するノッキング制御の遅れ等に起因してノッキングが発生しやすくなる。特に、変速比が小さい状態では、内燃機関の出力軸から自動変速機の入力軸への駆動抵抗が大きくなっているため、機関の実出力トルクが急増してもその増大分を速やかに車輪側に伝達することができない。そのため、機関の出力トルクが急増した直後には、一時的ではあるものの機関負荷が増大し、さらにノッキングが発生しやすくなる。
【0010】
また、変速比が小さい状態では上記駆動抵抗が大きくなっているため、機関の出力トルクが急増した直後には、一時的ではあるものの車両の駆動系にショックが発生するおそれもある。
【0011】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、自動変速機の変速比が小さくなっているときに目標出力トルクが急増することにより生じるおそれのあるノッキングや駆動系でのショックを好適に抑制することのできる内燃機関の出力制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、自動変速機を備える車両に載置されるとともに吸入空気量を調量する空気量調量手段を備える内燃機関に適用されて、アクセルペダルの操作量、車速、及び前記自動変速機の変速比の状態に基づいて機関の目標出力トルクを算出し、その目標出力トルクに基づいて前記空気量調量手段の目標駆動量を算出する内燃機関の出力制御装置において、可変とされる前記自動変速機の変速比についてその現状値が所定値よりも小さいときには、前記目標出力トルクに基づいて算出される前記目標駆動量を予め設定された上限値以下の値に制限することをその要旨とする。
【0013】
同構成では、アクセルペダルの操作量、車速、及び自動変速機の変速比の状態に基づいて機関の目標出力トルクを算出し、その目標出力トルクに基づき、吸入空気量を調量する空気量調量手段の目標駆動量を算出するようにしている。
【0014】
ここで、同構成によれば、可変とされる自動変速機の変速比の現状値が予め設定された所定値よりも小さいときに、目標出力トルクに基づいて算出される上記目標駆動量が予め設定された上限値以下の値となるように制限される。このように変速比が小さい状態では、吸入空気量を調量する空気量調量手段の駆動量が制限されるため、変速比が小さい状態で目標出力トルクが急増したとしても、吸入空気量の急激な増大は抑えられるようになり、もって実際の出力トルクの急増も抑えられるようになる。従って、変速比が小さい状態において目標出力トルクが急増し、これにより吸入空気量が急激に増大することで生じやすくなるノッキング、あるいは目標出力トルクの急増による出力トルクの急激な増大によって生じやすくなる駆動系でのショックを好適に抑えることができるようになる。
【0015】
なお、請求項1に記載の構成において、自動変速機の変速比の現状値が大きいか小さいかを判定するための上記所定値としては、目標出力トルクが急増したときに上記ノッキングや駆動系のショックが発生する可能性のある変速比を設定することが望ましい。
【0016】
上記上限値の設定については、請求項2に記載の発明によるように、機関回転速度に応じた最大出力トルクに対して所定割合だけ機関の出力トルクが小さくなる前記空気量調量手段の駆動量を設定することにより、機関の出力トルクの急増を同駆動量の制限を通じて適切に抑えることができるようになる。
【0017】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の内燃機関の出力制御装置において、前記所定割合だけ小さい機関の出力トルクは、前記駆動量の変化量に対する出力トルクの変化量が大きい領域から小さい領域に変化するときの変化領域内の出力トルクであることをその要旨とする。
【0018】
吸入空気量を調量する空気量調量手段の駆動量が小さく、吸入空気量が少ない状態では、同駆動量の変化量に対する吸入空気量の変化割合が大きく、機関の出力トルクの変化割合も大きくなる傾向にある。一方、同駆動量が大きく、吸入空気量が多い状態では、同駆動量の変化量に対する吸入空気量の変化割合は小さく、機関の出力トルクの変化割合も小さくなる傾向がある。そこで、同構成によるように、空気量調量手段の駆動量についてその変化量に対する出力トルクの変化割合が大きい領域から小さい領域に変化するときの変化領域内の出力トルクを、上記所定割合だけ小さい機関の出力トルクとして設定することにより、上記上限値にて空気量調量手段の駆動量を制限するようにしても、ある程度高い出力トルクを得ることができるようになる。そのため、吸入空気量の急増を抑えるべく上記上限値を設定する場合でも、運転者の加速要求を好適に満たすことができるようになる。
【0019】
なお、上記空気量調量手段としては、請求項4に記載の発明によるように、機関の吸気通路に設けられたスロットルバルブであるといった構成や、請求項5に記載の発明によるように、機関の吸気バルブについてその最大リフト量及び開弁期間の少なくとも一方を変更することにより吸入空気量を調量するバルブ特性可変機構であるといった構成を採用することができる。
【0020】
また、上記変速比としては、請求項6に記載の発明によるように、前記自動変速機の入力軸の回転速度に対する前記自動変速機の出力軸の回転速度の比である、といった構成を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明にかかる出力制御装置を具体化した第1実施形態について、これが適用される車両とその車両に載置される内燃機関の概略構成を示す模式図。
【図2】同実施形態における統合制御の概念図。
【図3】燃費最適線を示すグラフ。
【図4】加速要求に対応した出力制御を行うときの吸入空気量の変化態様を示すタイミングチャート。
【図5】同実施形態におけるスロットル開度の修正処理についてその手順を示すフローチャート。
【図6】スロットル開度と出力トルクとの関係を示すグラフ。
【図7】同修正処理が実行されるときの目標スロットル開度及び吸入空気量の変化態様を示すタイミングチャート。
【図8】第2実施形態におけるスロットル開度の修正処理についてその手順を示すフローチャート。
【図9】同修正処理が実行されるときの目標スロットル開度の設定態様を示すタイミングチャート。
【図10】第3実施形態におけるスロットル開度の修正処理についてその手順を示すフローチャート。
【図11】同修正処理が実行されるときの目標スロットル開度の設定態様を示すタイミングチャート。
【図12】同修正処理が実行されるときの目標スロットル開度の設定態様を示すタイミングチャート。
【図13】各実施形態の変形例における内燃機関の概略構成を示す模式図。
【図14】バルブ特性可変機構の駆動を通じた吸気バルブの最大リフト量及び開弁期間の変化態様を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1実施形態)
以下、本発明に係る内燃機関の出力制御装置を具体化した第1実施形態について、図1〜図10を参照して説明する。
【0023】
図1に示されるように、この車両には内燃機関10が載置されている。この内燃機関10には燃焼室に空気を送るための吸気通路13が接続されており、同吸気通路13の途中には、吸入空気量を調量する空気量調量手段としてのスロットルバルブ14が設けられている。このスロットルバルブ14は電動モータにてその開度が制御される。そして、調量された吸入空気に対してその量に応じた燃料が燃料噴射弁から噴射され、空気と燃料との混合体である混合気が燃焼室で燃焼されることにより、内燃機関10から出力が得られる。
【0024】
内燃機関10のクランクシャフト12は、トルクコンバータ20に接続されており、同トルクコンバータ20の出力軸は、遊星歯車機構22の入力軸に接続されている。この遊星歯車機構22によって車両の前進及び後退が切り替えられる。そして、遊星歯車機構22の出力軸は、自動変速機である無段変速機構(以下、CVT(:Continuously Variable Transmission)という)30の入力軸32に接続されており、同CVT30の出力軸34は車両の駆動輪に接続されている。このCVT30には、入力軸32と一体回転する第1プーリ30a、出力軸34と一体回転する第2プーリ30b、第1プーリ30aの回転力を第2プーリ30bに伝達するベルト30c等が設けられている。そして、第1プーリ30a及び第2プーリ30bのプーリ幅が連続可変されることにより、上記入力軸32の回転速度Ninに対する出力軸34の回転速度Noutの比(Nin/Nout)、すなわち変速比Rが連続可変される。このCVT30による変速では、有段の変速機と比較して、変速比Rを幅広く変更することができ、また変速比Rを連続可変させることができるため、内燃機関10の運転を燃費最適線に近い部分で行うことができる。
【0025】
上記トルクコンバータ20には、CVT30の制御油圧を発生させるオイルポンプが備えられている。そして、上記第1プーリ30a及び第2プーリ30bは、油圧制御回路50による油圧制御を通じてそれぞれのプーリ幅が制御される。
【0026】
また、この車両や内燃機関10には、その走行状態や機関運転状態を検出する各種センサが設けられている。例えば、運転者によって操作されるアクセルペダル60には、その操作量であるアクセル操作量ACCPを検出するアクセルセンサ70が設けられている。また、車両の車輪には車速SPDを検出する車速センサ71が設けられており、内燃機関10のクランクシャフト12の近傍には機関回転速度NEを検出するクランク角センサ72が設けられている。そして、スロットルバルブ14にはその開度であるスロットル開度TAを検出するスロットルセンサ73が設けられており、CVT30の入力軸32には同入力軸32の回転速度である入力回転速度Ninを検出する回転速度センサ74が設けられている。
【0027】
内燃機関10やCVT30の各種制御は、電子制御装置40によって行われる。電子制御装置40は、各種制御にかかる演算処理を実行するCPU、その制御に必要なプログラムやデータの記憶されたROM、CPUの演算結果が一時的に記憶されるRAM、外部との間で信号を入・出力するための入・出力ポート等を備えて構成されている。
【0028】
そして、電子制御装置40は、上述した各種センサにて検出される機関運転状態や車両の走行状態に基づき、内燃機関10の吸入空気量制御や燃料噴射制御といった出力制御、あるいはCVT30の変速制御等を行う。
【0029】
より具体的には、運転者によるアクセルペダル60の操作量等に基づいて内燃機関10の目標出力トルクTpを算出し、この目標出力トルクTpに基づいて吸入空気量等を調量することにより同機関の出力トルクを制御する、いわゆるトルクデマンド制御が行われる。また、そうした出力制御とCVT30の変速制御とが統合制御されて、内燃機関10は燃費最適線に近い部分で運転される。
【0030】
図2に、上記統合制御の概要を示す。この統合制御では、まず、アクセル操作量ACCP及び車速SPDに基づいて運転者が要求している目標エンジン出力Ppが算出される。
そして、この目標エンジン出力Ppに基づいて変速制御及び出力制御が行われる。
【0031】
変速制御では、設定された目標エンジン出力Ppを内燃機関10の燃費最適線上で実現できるように第1プーリ30aの目標入力回転速度Ninpが設定される。なお、燃費最適線とは、図3に示すように、燃料消費量を最も抑えることのできるエンジン出力Pと機関回転速度NEとの対応関係を示す線である。そして、第1プーリ30aと一体回転する入力軸32は、トルクコンバータ20と遊星歯車機構22を介してクランクシャフト12に接続されている。従って、燃料消費量を最も抑えた状態で目標エンジン出力Ppが得られるときの目標入力回転速度Ninpも同燃費最適線に基づいて算出される。
【0032】
次に、目標入力回転速度Ninpに基づいてCVT30の制御量が算出され、その制御量に基づいてCVT30の変速が行われる。ここでは、回転速度センサ74によって検出される入力軸32の入力回転速度Ninと目標入力回転速度Ninpとが一致するように、第1プーリ30a及び第2プーリ30bの各プーリ幅が調整される。
【0033】
一方、出力制御では、上記算出される目標エンジン出力Ppと第1プーリ30aの実際の回転速度、すなわち入力回転速度Ninに基づいて目標出力トルクTpが算出される。この目標出力トルクTpは、次式(1)に基づいて算出される。
【0034】

Tp=(Pp×K)/Nin …(1)
Tp:目標出力トルク[N・m]
Pp:目標エンジン出力Pp[kW]
Nin:入力回転速度[rpm]
K:定数=9549.3

そして、目標出力トルクTpに基づいて目標スロットル開度TApが算出され、その目標スロットル開度TApと上記スロットルセンサ73によって検出されるスロットル開度TAとが一致するようにスロットルバルブ14の開度が調整される。このようにスロットルバルブ14の開度が調整されることにより、目標出力トルクTpに応じた吸入空気量が燃焼室に導入されるとともに、その吸入空気量に応じた燃料が燃料噴射弁から噴射され、内燃機関10の出力トルクTは目標出力トルクTpに調整される。
【0035】
また、車両の加速時にあっては、運転者による加速要求に対応した以下のような出力制御が行われる。
すなわち、車両の定常走行中においてアクセルペダル60が踏み込まれ、車両が加速状態に移行すると、そうした加速要求に対応するべく、CVT30の変速比Rは小さい状態(いわゆるハイギヤの状態)から大きい状態(いわゆるローギヤの状態)に変更される。
【0036】
こうした加速中の目標出力トルクTpは、アクセル操作量ACCPの増大により、定常走行中よりも大きくされるのであるが、特に加速初期にあって変速比Rが小さくなっているときには加速力が不足しやすい状態にある。そこで、たとえアクセルペダル60の踏み込み量が小さくても、その踏み込み直後の目標出力トルクTpは急激に大きくされ、変速比Rが大きくなっていくに従って急増された目標出力トルクTpは小さくされていく。
【0037】
このように変速比Rの状態に合わせて目標出力トルクTpが変更されることにより、変速比Rが小さくなっている加速初期でも十分な加速力が得られるとともに、加速初期から加速完了にかけて滑らかな加速力を得ることができる。
【0038】
ところで、加速要求に対応した上記出力制御を行うと、次のような不都合が生じるおそれがある。
例えば図4に示すように、時刻t1において、変速比Rが小さくなっている状態でアクセルペダル60が踏み込まれると、そのアクセル操作量ACCPが比較的小さい場合であっても、目標出力トルクTpは急激に大きくされる。そしてこの目標出力トルクTpの急増に合わせてスロットルバルブ14の開度(スロットル開度TA)も急激に大きくされ、吸入空気量は急増するようになる。このように吸入吸気量が急増すると、その急増した吸入空気量に対する燃料噴射量の変更遅れ、あるいは急増した吸入空気量に対するノッキング制御の遅れ等に起因してノッキングが発生しやすくなる。特に、変速比Rが小さい状態では、内燃機関のクランクシャフト12からCVT30の入力軸32への駆動抵抗が大きくなっているため、実際の出力トルクTが急増してもその増大分を速やかに車輪側に伝達することができない。そのため、機関の出力トルクTが急増した直後には、一時的ではあるものの機関負荷が増大し、さらにノッキングが発生しやすくなる。
【0039】
また、変速比Rが小さい状態では上記駆動抵抗が大きくなっているため、出力トルクTが急増した直後には、一時的ではあるものの車両の駆動系にショックが発生するおそれもある。
【0040】
そこで、本実施形態では、以下に説明するスロットル開度の修正処理を通じて吸入空気量や出力トルクTの急増を抑えることにより、そうした不都合、すなわち、CVT30の変速比Rが小さくなっているときに目標出力トルクTpが急増することにより生じるおそれのあるノッキングや駆動系でのショックの発生を抑制するようにしている。
【0041】
図5に、上記修正処理の処理手順を示す。なお、この処理は電子制御装置40によって、所定時間毎に繰り返し実行される。
本処理が開始されるとまず、現在の変速比Rが判定値A以下であるか否かが判定される(S100)。この判定値Aには、目標出力トルクTpが急増したときに上記ノッキングや駆動系のショックが発生するおそれのある変速比Rが設定されている。
【0042】
そして、現在の変速比Rが判定値Aを越えている場合には(S100:NO)、現在の変速比Rが大きく上記不都合が発生するおそれはないとして、本処理は一旦終了される。この場合には、上記目標出力トルクTpに基づいて算出された目標スロットル開度TApに向けてスロットルバルブ14の開度が調整される。
【0043】
一方、現在の変速比Rが判定値A以下である場合には(S100:YES)、現在の変速比Rが小さく上記不都合が発生するおそれがあるとして、以下の処理が引き続き行われる。
【0044】
まず、現在の機関回転速度NEが読み込まれ(S110)、その機関回転速度NEに基づいて目標スロットル開度TApの最大値を制限するガード値Gが設定される(S120)。このガード値Gは、機関回転速度NEに応じた最大出力トルクTmaxに対して所定割合だけ機関の出力トルクTが小さくなるスロットル開度TAであり、より詳細には、次の原理に基づいて設定される値である。
【0045】
図6に、スロットル開度TAと機関の出力トルクTとの関係を示す。この図6に示しように、スロットル開度TAの変化に対する機関の出力トルクTの変化は、機関回転速度毎に異なっている。そして、スロットル開度TAが小さく、吸入空気量が少ない状態では、スロットル開度TAの変化量に対する吸入空気量の変化割合が大きく、出力トルクTの変化割合も大きくなる傾向にある(例えばNE=1000rpmのときには図6に示す領域L)。一方、スロットル開度TAが大きく、吸入空気量が多い状態では、スロットル開度TAの変化量に対する吸入空気量の変化割合は小さく、機関の出力トルクTの変化割合も小さくなる傾向がある(例えばNE=1000rpmのときには図6に示す領域S)。そこで、本実施形態では、スロットル開度TAの変化量に対する出力トルクTの変化割合が大きい領域(例えば上記領域L)から小さい領域(例えば上記領域S)に変化するときの変化領域(例えばNE=1000rpmのときには図6に示す領域M)内の出力トルクTを、上記所定割合だけ小さい機関の出力トルクTとして設定するようにしている。そして、その変化領域内の出力トルクTに対応したスロットル開度TAが上記ガード値Gとして設定される。なお、上記変化領域は機関回転速度毎に異なるため、機関回転速度NEに基づいてガード値Gは可変設定される。そして、このようにガード値Gを設定することにより、同ガード値Gにて目標スロットル開度TApを制限する、即ちスロットル開度TAを制限するようにしても、ある程度高い出力トルクTを得ることができ、吸入空気量の急増を抑えるべく同ガード値Gを設定しても、運転者の加速要求を満たすことができる。
【0046】
ちなみに、本実施形態における内燃機関10では、機関回転速度毎に異なる最大出力トルクTmaxに対して、その90%程度の出力トルクTが上記変化領域内に入っている。そこで、最大出力トルクTmaxの90%の出力トルクTに対応するスロットル開度TAを機関回転速度毎に求めておき、その機関回転速度毎に求められたスロットル開度TAをガード値Gとして設定するようにしている。例えば、先の図6に示すように、機関回転速度NEが1000rpmのときには、その回転速度に対応するガード値Gとして「G=G(1000)」が設定される。また、機関回転速度NEが2000rpmのときには、その回転速度に対応するガード値Gとして、上記ガード値G(1000)よりも大きい「G=G(2000)」が設定され、機関回転速度NEが4000rpmのときには、その回転速度に対応するガード値Gとして、上記ガード値G(2000)よりも大きい「G=G(4000)」が設定される。そして、機関回転速度NEが6000rpmのときには、その回転速度に対応するガード値Gとして、上記ガード値G(4000)よりも大きい「G=G(6000)」が設定される。
【0047】
上記ステップS120にて、ガード値Gが設定されると、次に、現在設定されている目標スロットル開度TApが同ガード値G以上であるか否かが判定される(S130)。そして、目標スロットル開度TApが同ガード値G未満である場合には(S130:NO)、現在の目標スロットル開度TApが比較的小さく上記不都合が発生するおそれはないとして、本処理は一旦終了される。この場合には、上記目標出力トルクTpに基づいて算出された目標スロットル開度TApに向けてスロットルバルブ14の開度が調整される。
【0048】
一方、目標スロットル開度TApが同ガード値G以上である場合には(S130:YEA)、目標スロットル開度TApが同ガード値Gに修正されて、本処理は一旦終了される。
【0049】
図7に、上記修正処理の実行による目標スロットル開度TApの修正態様についてその一例を示す。
上述したように、変速比Rが小さくなっている状態でアクセルペダル60が踏み込まれると(時刻t1)、そのアクセル操作量ACCPが比較的小さい場合であっても、目標出力トルクTpは急激に大きくされる。
【0050】
このとき、変速比Rの現状値が判定値A以下の場合、目標出力トルクTpに基づいて算出された目標スロットル開度TApは、ガード値G以下の値となるように制限される。この例にあっては、算出された目標スロットル開度TAp(二点鎖線にて図示)がガード値Gを超えているため、実際の目標スロットル開度TApはガード値Gに設定される。その結果、目標出力トルクTpが急増した直後の吸入空気量は、目標スロットル開度TApの上限を制限しない場合(二点鎖線にて図示)と比較して、緩やかに増大する。
【0051】
このように変速比Rが小さい状態では、吸入空気量を調量するスロットルバルブ14の開度についてその上限値が制限されるため、変速比Rが小さい状態で目標出力トルクTpが急増したとしても、吸入空気量の急激な増大は抑えられるようになり、もって実際の出力トルクTの急増も抑えられるようになる。従って、変速比Rが小さい状態において目標出力トルクTpが急増し、これにより吸入空気量が急激に増大することで生じやすくなるノッキング、あるいは目標出力トルクTpの急増による出力トルクTの急激な増大によって生じやすくなる駆動系でのショックが抑えられる。
【0052】
なお、本実施形態において、目標スロットル開度TApをガード値Gで制限することにより、次のような効果も得られる。
一般に、内燃機関では、ノッキングが発生すると点火時期を遅角して同ノッキングの発生を抑えるといったノッキング制御が行われており、本実施形態の内燃機関10でも、そうしたノッキング制御を行うようにしている。ところで、点火時期を遅角すると、排気温度が上昇したり、出力トルクTが低下したりするといったデメリットがあるため、点火時期の遅角に際しては、排気温度の上昇や出力トルクTの低下等に対して許容可能な限界点火時期が存在する。ここで、スロットル開度TAが全開付近になっているときには、吸入空気量が多くなっており、実圧縮比は高くなるため、ノッキングが発生しやすくなる。従って、スロットル開度TAが全開付近になっているときには、ノッキングの発生を抑えるべく遅角された点火時期が上記限界時期付近になることがある。さらに、場合によっては遅角された同点火時期が上記限界時期に達してしまい、点火時期の遅角だけではノッキングの発生を抑えることができなくなるおそれがある。この点、本実施形態では、目標スロットル開度TApをガード値Gで制限するようにしており、スロットル開度TAの最大開度もそのガード値Gに制限される。従って、スロットル開度TAが制限されているときには、同スロットル開度TAが全開付近になることはなく、実圧縮の増大もある程度抑えることができる。そのため、スロットル開度TAが全開付近になる場合と比較して、点火時期は上記限界時期から離れた進角側の時期となり、ノッキング抑制のための点火時期遅角量を十分に確保することができる。従って、従来のノッキング制御でも、十分にノッキングの発生を抑えることができるようになる。
【0053】
また、先の図6に示したように、スロットル開度TAが大きく、吸入空気量が多い状態では、スロットル開度TAの変化量に対する吸入空気量の変化割合は小さく、機関の出力トルクTの変化割合も小さくなる傾向がある。従って、例えば運転者がアクセルペダル60の操作量を増減させた場合にあって、そのときの目標出力トルクTpの変動が、出力トルクTの変化割合が小さい領域内で起きたときには、たとえ目標出力トルクTpの変化量が少なくても目標スロットル開度TApの変化量は大きくなる。そのため、スロットルバルブ14の開度も大きく変化しながら変動するようになり、その結果、同スロットルバルブ14の開度調整を行う電動モータなどの駆動機構についてその耐久性が低下してしまうおそれがある。この点、本実施形態では、目標スロットル開度TApをガード値Gで制限するようにしているため、スロットル開度TAの最大開度がそのガード値G以下となるように制限されているときには、同スロットル開度TAが出力トルクTの変化割合が小さい領域内に入ることはない。従って、上記電動モータなどの駆動機構についてその耐久性を向上させることも可能となる。
【0054】
以上説明したように、本実施形態によれば、次の作用効果を得ることができる。
(1)可変とされるCVT30の変速比Rについてその現状値が判定値A以下のとき(ハイギアのとき)には、目標出力トルクTpに基づいて算出される目標スロットル開度TApを予め設定された上限値であるガード値G以下となるように制限するようにしている。従って、変速比Rが小さい状態において目標出力トルクTpが急増し、これにより吸入空気量が急激に増大することで生じやすくなるノッキング、あるいは目標出力トルクTpの急増による出力トルクの急激な増大によって生じやすくなる駆動系でのショックを好適に抑えることができるようになる。
【0055】
(2)上記ガード値Gとして、機関回転速度NEに応じた最大出力トルクTmaxに対して所定割合だけ機関の出力トルクTが小さくなるスロットル開度TAを設定するようにしており、これにより機関の出力トルクTの急増をスロットル開度TAの制限を通じて適切に抑えることができるようになる。
【0056】
(3)上記所定割合だけ小さい機関の出力トルクTとして、スロットル開度TAの変化量に対する出力トルクTの変化量が大きい領域から小さい領域に変化するときの変化領域内の出力トルクを設定するようにしている。そのため、吸入空気量の急増を抑えるべく上記ガード値Gを設定する場合でも、運転者の加速要求を好適に満たすことができるようになる。
(第2実施形態)
次に、本発明に係る内燃機関の出力制御装置を具体化した第2実施形態について、図8及び図9を参照して説明する。
【0057】
第1実施形態では、CVT30の変速比Rの現状値が判定値A以下の場合に、目標出力トルクTpに基づいて算出される目標スロットル開度TApがガード値G以下となるように制限するようにした。しかし、このように目標スロットル開度TApを制限してしまうと、車両運転者の加速要求が高いときでも、出力トルクTの増大は抑えられてしまうため、運転者の要求を適切に満たすことができなくなってしまう。
【0058】
そこで、本実施形態では、スロットル開度の修正処理として、以下の処理を行うようにしており、本実施形態の修正処理はその一部が第1実施形態と異なっている。そこで以下では、その相違点を中心に、本実施形態にかかる出力制御装置を説明する。
【0059】
図8に、本実施形態におけるスロットル開度の修正処理についてその手順を示す。なお、この処理も電子制御装置40によって、所定時間毎に繰り返し実行される。
本処理が開始されるとまず、現在の変速比Rが判定値A以下であるか否かが判定される(S200)。この判定値Aには、目標出力トルクTpが急増したときに上記ノッキングや駆動系のショックが発生するおそれのある変速比Rが設定されている。
【0060】
そして、現在の変速比Rが判定値Aを越えている場合には(S200:NO)、現在の変速比Rが大きく、上記不都合の発生、すなわち目標出力トルクTpの急増に起因するノッキングや駆動系でのショックは発生するおそれがないとして、本処理は一旦終了される。この場合には、上記目標出力トルクTpに基づいて算出された目標スロットル開度TApに向けてスロットルバルブ14の開度が調整される。
【0061】
一方、現在の変速比Rが判定値A以下である場合には(S200:YES)、所定時間内におけるアクセル操作量ACCPの変化量であるアクセル変化量ACCPHが判定値αよりも小さいか否かが判定される(S210)。この判定値αは、アクセルペダル60の操作量についてその増大量が大きいか小さいかを判定するための規定値であって、その値としては、運転者の加速要求が高いか低いかを適切に判定することのできる値が設定されている。
【0062】
そして、アクセル変化量ACCPHが判定値α以上である場合には(S210:NO)、運転者の加速要求が高いため、目標スロットル開度TApはスロットルバルブ14の最大駆動量である全開開度TAmaxに修正されて(S260)、本処理は一旦終了される。この場合には、全開開度TAmaxに向けてスロットルバルブ14の開度が調整され、これにより内燃機関10の出力トルクTが最大出力トルクTmaxになることにより、最大限の加速力が得られる。
【0063】
一方、アクセル変化量ACCPHが判定値α未満である場合には(S210:YES)、運転者の加速要求が低いため、加速力の確保よりも上記不都合の発生を抑えるべく、先の図5に示したステップS110〜ステップS140の処理が行われ、これにより上記第1実施形態と同様な作用効果が得られる。
【0064】
図9に、上記修正処理の実行によって目標スロットル開度TApが全開開度TAmaxに修正されるときの態様についてその一例を示す。
上述したように、変速比Rが小さくなっている状態でアクセルペダル60が踏み込まれると(時刻t1)、目標出力トルクTpは急激に大きくされる。
【0065】
このとき、変速比Rの現状値が判定値A以下であって、アクセル変化量ACCPHが判定値α以上である場合には、目標出力トルクTpに基づいて算出された目標スロットル開度TApは、全開開度TAmaxに修正される。その結果、アクセルペダル60が踏み込まれた直後にあってスロットルバルブ14は全開となり、吸入空気量は最大限に増量されて機関の出力トルクTは最大出力トルクTmaxになり、加速力が最大限に得られるようになる。このように、運転者による加速要求が高いときには、出力トルクTが最大限に高められることにより、運転者による高い加速要求を適切に満たすことが可能になる。
【0066】
以上説明したように、本実施形態によれば、第1実施形態で得られる作用効果に加えて、更に次の作用効果を得ることもできる。
(4)可変とされるCVT30の変速比Rについてその現状値が判定値A以下のとき(ハイギアのとき)にあって、アクセル変化量ACCPHが判定値αに満たないときには、目標出力トルクTpに基づいて算出される目標スロットル開度TApを予め設定された上限値であるガード値G以下となるように制限するようにしている。従って、運転者による低い加速要求を満たしつつ、変速比Rが小さい状態において目標出力トルクTpが急増し、これにより吸入空気量が急激に増大することで生じやすくなるノッキング、あるいは目標出力トルクTpの急増による出力トルクの急激な増大によって生じやすくなる駆動系でのショックを好適に抑えることができるようになる。
【0067】
(5)可変とされるCVT30の変速比Rについてその現状値が判定値A以下のとき(ハイギアのとき)にあって、アクセル変化量ACCPHが判定値α以上であるときには、目標出力トルクTpに基づいて算出される目標スロットル開度TApを全開開度TAmaxに変更するようにしている。従って、運転者による高い加速要求を適切に満たすことも可能となる。
(第3実施形態)
次に、本発明に係る内燃機関の出力制御装置を具体化した第3実施形態について、図10〜図12を参照して説明する。
【0068】
第2実施形態では、運転者からの加速要求が高い場合には、その要求の度合にかかわらずスロットルバルブ14が全開となるようにした。
一方、本実施形態では、第2実施形態で説明した修正処理に対して、さらに別の処理を追加することにより、運転者からの加速要求が高い場合にあって、その要求の度合に応じたスロットルバルブ14の開度調整を可能としており、本実施形態の修正処理はその一部が第2実施形態と異なっている。そこで以下では、その相違点を中心に、本実施形態にかかる出力制御装置を説明する。
【0069】
図10に、本実施形態におけるスロットル開度の修正処理についてその手順を示す。なお、この処理も電子制御装置40によって、所定時間毎に繰り返し実行される。
本処理が開始されるとまず、現在の変速比Rが判定値A以下であるか否かが判定される(S200)。この判定値Aには、目標出力トルクTpが急増したときに上記ノッキングや駆動系のショックが発生するおそれのある変速比Rが設定されている。
【0070】
そして、現在の変速比Rが判定値Aを越えている場合には(S200:NO)、本処理は一旦終了される。この場合には、上記目標出力トルクTpに基づいて算出された目標スロットル開度TApに向けてスロットルバルブ14の開度が調整される。
【0071】
一方、現在の変速比Rが判定値A以下である場合には(S200:YES)、所定時間内におけるアクセル操作量ACCPの変化量であるアクセル変化量ACCPHが判定値αよりも小さいか否かが判定される(S210)。この判定値αは、アクセルペダル60の操作量についてその増大量が大きいか小さいかを判定するための規定値であって、その値としては、運転者の加速要求が高いか低いかを適切に判定することのできる値が設定されている。
【0072】
そして、アクセル変化量ACCPHが判定値α未満である場合には(S210:YES)、運転者の加速要求が低いため、加速力の確保よりも上記不都合の発生、すなわち目標出力トルクTpの急増に起因するノッキングや駆動系でのショックの発生を抑えるべく、先の図5に示したステップS110〜ステップS140の処理が行われる。そして、これにより上記第1実施形態と同様な作用効果が得られる。
【0073】
一方、アクセル変化量ACCPHが判定値α以上である場合には(S210:NO)、運転者の加速要求が高いため、そうした要求を満たすべく、以下の処理が引き続き行われる。
【0074】
まず、現在の機関回転速度NEにおける最大出力トルクTmaxと目標出力トルクTpとの乖離度合を示すトルク差ΔTが算出される(S300)。このトルク差ΔTは、次式(2)に基づいて算出される。
【0075】

ΔT=Tmax−Tp …(2)
ΔT:トルク差
Tmax:現在の機関回転速度NEにおける最大出力トルク
Tp:現在の目標出力トルクTp

そして、このトルク差ΔTが判定値C未満であるか否かが判定される(S310)。ここで、トルク差ΔTが小さいほど、最大出力トルクTmaxと目標出力トルクTpとの乖離度合は小さく、目標出力トルクTpはより最大出力トルクTmaxの近傍に設定されていることになるため、同トルク差ΔTの値に基づいて運転者の加速要求の度合を推定することができる。そこで、上記判定値Cには、運転者の加速要求が高い場合にあってその要求の度合が非常高いか否かを判定することのできる値が適宜設定されている。
【0076】
そして、トルク差ΔTが判定値C未満である場合には(S310:YES)、アクセル操作量ACCPの増大量を示すアクセル変化量ACCPHは非常に大きくなっており、運転者による加速要求の度合が非常に高くなっていると推定することができる。そこで、この場合には、目標スロットル開度TApがスロットルバルブ14の最大駆動量である全開開度TAmaxに修正されて(S320)、本処理は一旦終了される。そのステップS320の処理が行われた場合には、全開開度TAmaxに向けてスロットルバルブ14の開度が調整され、これにより内燃機関10の出力トルクTが最大出力トルクTmaxになることにより、最大限の加速力が得られる。
【0077】
一方、トルク差ΔTが判定値C以上である場合には(S310:NO)、運転者による加速要求は高いものの、その度合は比較的低いと推定することができる。そこで、この場合には、目標スロットル開度TApを修正することなく、本処理は一旦終了される。
【0078】
図11に、上記修正処理が実行されたときにあって、アクセル変化量ACCPHが判定値α以上であり、トルク差ΔTが判定値C以上であるときの目標スロットル開度TApの設定態様についてその一例を示す。
【0079】
上述したように、変速比Rが小さくなっている状態でアクセルペダル60が踏み込まれると(時刻t1)、目標出力トルクTpは急激に大きくされる。
図11に、上記修正処理の実行を通じた目標スロットル開度TApの設定について、運転者による加速要求が非常に高い場合の一態様を示す。
【0080】
上述したように、変速比Rが小さくなっている状態でアクセルペダル60が踏み込まれると(時刻t1)、目標出力トルクTpは急激に大きくされる。
このとき、変速比Rの現状値が判定値A以下であって、アクセル変化量ACCPHが判定値α以上であり、さらにトルク差ΔTが判定値C未満である場合には、目標出力トルクTpに基づいて算出された目標スロットル開度TApは、全開開度TAmaxに修正される。その結果、アクセルペダル60が踏み込まれた直後にあってスロットルバルブ14は全開となり、吸入空気量は最大限に増量されて機関の出力トルクTは最大出力トルクTmaxになり、加速力が最大限に得られるようになる。このように、運転者による加速要求が非常に高いときには、出力トルクTが最大限に高められることにより、運転者による非常に高い加速要求を適切に満たすことが可能になる。
【0081】
また、図12に、上記修正処理の実行を通じた目標スロットル開度TApの設定について、運転者による加速要求が高いものの、その度合が比較的低い場合の一態様を示す。
時刻t1において、変速比Rが小さくなっている状態でアクセルペダル60が踏み込まれると、目標出力トルクTpは急激に大きくされる。
【0082】
このとき、変速比Rの現状値が判定値A以下であって、アクセル変化量ACCPHが判定値α以上であり、さらにトルク差ΔTが判定値C以上である場合には、目標スロットル開度TApが上記ガード値Gにて制限されることなく、上記目標出力トルクTpに基づいて算出された値に設定される。そのため、スロットルバルブ14の開度は目標出力トルクTpが得られる開度に調整される。このように、変速比Rの現状値が判定値A以下であって、アクセル変化量ACCPHが判定値α以上であるときには、ガード値Gによる目標スロットル開度TApの制限が解除されて、運転者による比較的高い加速要求に応じた出力トルクTが得られるようになる。そのため、運転者による加速要求を適切に満たすことができる。
【0083】
以上説明したように、本実施形態によれば、第1実施形態及び第2実施形態で得られる作用効果に加えて、更に次の作用効果を得ることもできる。
(6)CVT30の変速比Rの現状値が判定値A所定値以下であって、アクセル変化量ACCPHが判定値α以上であるときには、目標出力トルクTpに基づいて算出された値を目標スロットル開度TApとして設定するようにしている。従って、運転者による比較的高い加速要求に応じた出力トルクTが得られるようになる。そのため、そうした運転者による加速要求を適切に満たすことが可能になる。
【0084】
さらに、CVT30の変速比Rの現状値が判定値A所定値以下であって、アクセル変化量ACCPHが判定値α以上であり、かつ機関回転速度NEに応じた最大出力トルクTmaxと目標出力トルクTpとの乖離度合を示すトルク差ΔTが判定値Cよりも小さいときには、目標スロットル開度TApを全開開度TAmaxに設定するようにしている。従って、運転者による非常に高い加速要求を適切に満たすことも可能となり、同実施形態によれば、第2実施形態と比較して、運転者による高い加速要求をその度合いに合わせてさらに適切に満たすことが可能になる。
【0085】
なお、上記各実施形態は、例えば以下のように変更することもできる。
・ガード値Gを機関回転速度に基づいて可変設定するようにしたが、適宜設定される固定値としてもよい。例えば、各機関回転速度において最も小さいガード値Gを設定するようにしてもよい。
【0086】
・最大出力トルクTmaxの90%の出力トルクTに対応するスロットル開度TAをガード値Gとして設定するようにしたが、ガード値Gの設定態様はこれに限定されるものではない。要は出力トルクTの変化量についてこれが大きい領域から小さい領域に変化するときの変化領域内の出力トルクに対応するスロットル開度TAをガード値Gとして設定するようにすれば、上記各実施形態と同様な作用効果を得ることができる。
【0087】
・また、ガード値Gとして、上記変化領域内の出力トルクに対応するスロットル開度TAを設定するようにしたが、機関回転速度に応じた最大出力トルクTmaxに対して所定の割合だけ機関の出力トルクTが小さくなるスロットル開度TAをガード値Gとして設定するようにしてもよい。この場合でも、機関の出力トルクTの急増をスロットル開度TAの制限を通じて適切に抑えることができるようになる。
【0088】
・第2実施形態では、最大出力トルクTmaxと目標出力トルクTpとの乖離度合が所定値未満であるか否かを判定するために、上記トルク差ΔTを算出するようにしたが、この他の態様で同乖離度合が所定値未満であるか否かを判定するようにしてもよい。例えば最大出力トルクTmaxに対する目標出力トルクTpの比率を求め、その比率が予め設定された値よりも大きい場合に、同乖離度合が所定値未満であると判定するようにしてよい。
【0089】
・上記各実施形態における自動変速機は無段変速機であり、車両の加速時においてその変速比Rを小さい状態から大きい状態に変化させるときには、同変速比Rを連続的に変更することのできる変速機であった。他方、有段の自動変速機の場合には、車両の加速時において、その変速比が段階的に小さい状態から大きい状態に変更される点が異なるものの、その変速比が小さくなっているときに目標出力トルクTpが急増した場合には、上述したようなノッキングや駆動系でのショックが発生するといった点については、無段変速機の場合と同一である。従って、有段の自動変速機を備える車両に載置される内燃機関の出力制御装置にも、本発明は同様に適用することができ、この場合にも上記各実施形態に準ずる作用効果を得ることができる。
【0090】
・上記各実施形態において、吸入空気量を調量する空気量調量手段はスロットルバルブ14であったが、その他の空気量調量手段を備える内燃機関にも、本発明は同様に適用することができ、その場合にも上記各実施形態に準ずる作用効果を得ることができる。
【0091】
例えば、図13に示すような空気量調量手段を備える内燃機関100の出力制御装置にも適用可能である。この図13に示す空気量調量手段は、吸気カムシャフト101と吸気バルブ102との間に吸入空気量を調量する空気量調量手段としてのバルブ特性可変機構103を備えている。このバルブ特性可変機構103は、図14に示すように、吸気バルブの最大リフト量及び開弁期間を可変とする機構であり、その最大リフト量及び開弁期間が大きくされることにより吸入空気量は増量される。こうしたバルブ特性可変機構103が空気量調量手段として備えられている場合には、同バルブ特性可変機構103にて可変とされる最大リフト量及び開弁期間といったバルブ特性の目標値が上記目標スロットル開度TApに相当する値になる。なお、吸気バルブの最大リフト量及び開弁期間の少なくとも一方を変更することにより吸入空気量を調量するバルブ特性可変機構を備える場合にも、本発明は同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0092】
10…内燃機関、12…クランクシャフト、13…吸気通路、14…スロットルバルブ、20…トルクコンバータ、22…遊星歯車機構、30…無段変速機(CVT)、30a…第1プーリ、30b…第2プーリ、30c…ベルト、32…入力軸、34…出力軸、40…電子制御装置、50…油圧制御回路、60…アクセルペダル、70…アクセルセンサ、71…車速センサ、72…クランク角センサ、73…スロットルセンサ、74…回転速度センサ、100…内燃機関、101…吸気カムシャフト、102…吸気バルブ、103…バルブ特性可変機構。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動変速機を備える車両に載置されるとともに吸入空気量を調量する空気量調量手段を備える内燃機関に適用されて、アクセルペダルの操作量、車速、及び前記自動変速機の変速比の状態に基づいて機関の目標出力トルクを算出し、その目標出力トルクに基づいて前記空気量調量手段の目標駆動量を算出する内燃機関の出力制御装置において、
可変とされる前記自動変速機の変速比についてその現状値が所定値よりも小さいときには、前記目標出力トルクに基づいて算出される前記目標駆動量を予め設定された上限値以下の値に制限する
ことを特徴とする内燃機関の出力制御装置。
【請求項2】
前記上限値は、機関回転速度に応じた最大出力トルクに対して所定割合だけ機関の出力トルクが小さくなる前記空気量調量手段の駆動量が設定される
請求項1に記載の内燃機関の出力制御装置。
【請求項3】
前記所定割合だけ小さい機関の出力トルクは、前記駆動量の変化量に対する出力トルクの変化量が大きい領域から小さい領域に変化するときの変化領域内の出力トルクである
請求項2に記載の内燃機関の出力制御装置。
【請求項4】
前記空気量調量手段は、機関の吸気通路に設けられたスロットルバルブである
請求項1〜3のいずれか1項に記載の内燃機関の出力制御装置。
【請求項5】
前記空気量調量手段は、機関の吸気バルブについてその最大リフト量及び開弁期間の少なくとも一方を変更することにより吸入空気量を調量するバルブ特性可変機構である
請求項1〜3のいずれか1項に記載の内燃機関の出力制御装置。
【請求項6】
前記変速比は、前記自動変速機の入力軸の回転速度に対する前記自動変速機の出力軸の回転速度の比である
請求項1〜5の何れか1項に記載の内燃機関の出力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−287574(P2009−287574A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−208219(P2009−208219)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【分割の表示】特願2006−220176(P2006−220176)の分割
【原出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】