説明

内燃機関の制御装置

【課題】触媒に損傷を与える恐れを低減することのできる内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】左右バンクの各排気通路にそれぞれ配設された触媒と、該触媒の少なくとも上流にそれぞれ配設された左右の空燃比センサと、該空燃比センサのそれぞれの検出信号に基づいて前記左右バンク毎に空燃比をフィードバック制御するフィードバック制御手段とを備える内燃機関において、前記左右の空燃比センサの検出信号の入替わりを判別する入替わり判別手段と、該入替わり判別手段により前記左右の空燃比センサの検出信号の入替わりと判別されたときは、前記フィードバック制御手段のフィードバック制御を停止するフィードバック制御停止手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左右バンクの各排気通路にそれぞれ配設された触媒と、該触媒の少なくとも上流にそれぞれ配設された左右の空燃比センサと、該空燃比センサのそれぞれの検出信号に基づいて前記左右バンク毎に空燃比をフィードバック制御するフィードバック制御手段とを備える内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、左右バンクの各排気通路にそれぞれ触媒を配設し、この触媒の上流に上流側空燃比センサ、下流に下流側空燃比センサをそれぞれ配設し、そして、これらの空燃比センサによる検出信号に基づいて、左右のバンク毎に空燃比のフィードバック制御を行なわせるようにした内燃機関の制御装置が知られている。例えば、特許文献1参照。
【0003】
【特許文献1】特開平4−112949号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、内燃機関における空燃比センサにあっては、その使用による劣化が避けられないことから、メインテナンスのための定期的な点検や修理ないしは交換が要求される。このようなメインテナンス作業では、左右バンクの各排気通路にそれぞれ配設された空燃比センサへの結線を取り外した後に、それぞれの空燃比センサの取り外しや再取り付け等が行なわれ、さらにその後、所定の空燃比センサへの再結線が行なわれることになる。
【0005】
ところで、このような再結線に際しては、左右の配線の色を異ならせる等の方法により誤結線がなされないように配慮されているものの、人為的なミス等により左右の空燃比センサへの結線が正しくなされないときがある。このようなときには、空燃比センサそのものは正常に機能しているにもかかわらず、その検出信号が正しくフィードバックされないことから、左右のバンクでの空燃比制御が正しく行なわれず触媒に損傷を与える恐れがある。例えば、左バンクの排気通路に配設された空燃比センサが右バンクのフィードバック制御用に誤って結線された場合に、この空燃比センサがリッチの検出信号を出すと、右バンクがリーンとなるような空燃比のフィードバック制御が行なわれる。一方、右バンクの排気通路に配設された空燃比センサはこのリーンを検出し、その結線された左バンクがリッチとなるような空燃比のフィードバック制御が行なわれることになる。この結果、右バンクは益々リーンとなるように制御され、右側の触媒が異常に過熱され損傷する恐れがあるのである。
【0006】
そこで、本発明の目的は、かかる誤結線がなされた場合等においても、触媒に損傷を与える恐れを低減することのできる内燃機関の制御装置を提供することにある。
【0007】
なお、特許文献1には、かかる誤結線等による触媒の損傷の恐れの低減に関しては、何等言及されていない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明の一形態に係る内燃機関の制御装置は、左右バンクの各排気通路にそれぞれ配設された触媒と、該触媒の少なくとも上流にそれぞれ配設された左右の空燃比センサと、該空燃比センサのそれぞれの検出信号に基づいて前記左右バンク毎に空燃比をフィードバック制御するフィードバック制御手段とを備える内燃機関において、前記左右の空燃比センサの検出信号の入替わりを判別する入替わり判別手段と、該入替わり判別手段により前記左右の空燃比センサの検出信号の入替わりと判別されたときは、前記フィードバック制御手段のフィードバック制御を停止するフィードバック制御停止手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一形態に係る内燃機関の制御装置によれば、入替わり判別手段により左右の空燃比センサの検出信号の入替わりと判別されたときは、フィードバック制御停止手段により、フィードバック制御手段のフィードバック制御が停止されるので、一方のバンクがリーンとなるような空燃比のフィードバック制御が継続的に行なわれることがなくなり、触媒に損傷を与える恐れを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態を説明する。
【0011】
図1は、上述した発明が適用された内燃機関としてのガソリンエンジン(以下、「エンジン」と略す)10を含む制御装置のシステム構成図である。
【0012】
エンジン10は、V型6気筒エンジンであり、右バンク10Rおよび左バンク10Lを形成するシリンダブロック、シリンダブロック内で往復動するピストンおよびシリンダブロック上に取り付けられたシリンダヘッド等を備えている。シリンダブロックには、それぞれ3つの気筒が形成され、各気筒には、シリンダブロック、ピストンおよびシリンダヘッドにて区画され、点火プラグが配設された燃焼室が形成される。
【0013】
そして、右バンク10Rおよび左バンク10Lの間に位置されたサージタンク12が各気筒の吸気ポートに接続されると共に、各吸気ポートに向けて燃料を噴射供給するフューエルインジェクタ14が気筒毎に配設されている。サージタンク12にはエアクリーナに連結された吸気ダクト16が連通されており、その吸気通路にはアクセルペダルの操作とは独立して電動モータにより駆動される電子制御式のスロットルバルブ18とその上流に吸入空気量を検出するエアフローメータ20が配置されている。
【0014】
また、右バンク10Rおよび左バンク10Lの各排気ポートはそれぞれ右排気マニホールド22Rおよび左排気マニホールド22Lを介して、右排気管24Rおよび左排気管24Lにそれぞれ連通されている。そして、これらの右排気管24Rおよび左排気管24Lには、右三元触媒コンバータ26Rおよび左三元触媒コンバータ26Lがそれぞれ配設されている。さらに、左右それぞれの三元触媒コンバータ26L、26Rの上流側には空燃比センサとしての左A/Fセンサ28Lおよび右A/Fセンサ28Rが配設されると共に、下流側には同じく空燃比センサとしての左Oセンサ30Lおよび右Oセンサ30Rが配設されている。
【0015】
なお、以下の説明において、左右のバンクに対応する関係で上記各構成部品の左右を区別する必要がないときは、各参照符合における末尾の添字LまたはRを略して説明する。
【0016】
ここで、本実施形態に用いられている上記空燃比センサとしてのA/Fセンサ28およびOセンサ30は共に、排気中の残存酸素濃度に応じた出力信号を発生するものであり、A/Fセンサ28は空燃比に比例した出力信号を発生するのに対し、Oセンサ30は理論空燃比を境にリーン信号またはリッチ信号を出力する。
【0017】
電子制御ユニット(以下、ECUと称する)50は、デジタルコンピュータからなり、双方向性バスを介して相互に接続されたRAM(ランダムアクセスメモリ)、ROM(リードオンリメモリ)、CPU(マイクロプロセッサ)、入力ポートおよび出力ポート等を備えている。このECU50の入力ポートには、アクセルペダルの踏み込み量に比例した出力電圧を発生するアクセルポジションセンサ、スロットルバルブ16の開度に比例した出力電圧を発生するスロットルポジションセンサ、クランクシャフトが所定角度回転する毎に出力パルスを発生するクランクポジションセンサ、冷却水温度に応じた出力電圧を発生する水温センサからの信号の他、本実施の形態では、エアフローメータ20から吸気ダクト16を流れる吸入空気量GAに対応した出力電圧、A/Fセンサ28およびOセンサ30からの検出信号が入力ポートに入力される。なお、これ以外に入力ポートには、各種の信号が入力されているが、本実施の形態では説明上重要でないので図示を省略している。
【0018】
また、出力ポートは、対応する駆動回路を介して各フューエルインジェクタ30や点火プラグに接続され、ECU50はエンジン10の運転状態に応じて、各フューエルインジェクタ30の開弁制御を行い、燃料噴射時期制御や空燃比フィードバック制御を含む燃料噴射量制御および点火プラグの点火時期制御を実行する。
【0019】
ここで、本発明に係る内燃機関の制御装置における空燃比フィードバック制御処理の概要をまず説明する。この空燃比フィードバック制御は以下のように行なわれる。すなわち、エアフローメータ20からの信号に基づいて得られる吸入空気量GAとクランクポジションセンサからの信号に基づいて得られるエンジン回転数とにより、エンジン10の運転状態が検出され、この検出されたエンジンの運転状態に対応させて、予め実験等により求められマップに保管されている基本燃料噴射量が求められる。そして、この基本燃料噴射量に対し、冷却水温度やエンジン負荷に基づく補正係数と共に、A/Fセンサ28の検出信号(リッチまたはリーン)に基づくフィードバック補正係数とが乗じられて、最終的な燃料噴射量が決定される。このフィードバック補正係数には、例えば、A/Fセンサ28の検出信号がリッチからリーンに移行した際に、所定の比例分が加算されると共に、所定の積分定数による傾きで積分分が加算されて行く。上述のように、このフィードバック補正係数は基本燃料噴射量に乗じられているので、実際の空燃比は徐々にリッチ化される。一方、A/Fセンサ28の検出信号がリーンからリッチに移行すると、所定の比例分が減算されると共に、所定の積分定数による傾きで積分分が減算されて行く。このような制御の繰返しの結果、実際の空燃比がほぼ理論空燃比に維持されるのである。
【0020】
なお、低冷却水温時やエンジン高負荷時等の燃料増量が必要なときや、エンジン10の冷間時等でA/Fセンサ28およびOセンサ30の出力が安定しないときには、フィードバック補正係数が1に固定され、フィードバック制御が禁止される。また、三元触媒コンバータ26の下流側に配置されたOセンサ30は、この三元触媒コンバータ26の劣化の診断や、上流側のA/Fセンサ28の経年変化に起因する空燃比フィードバック制御の全体的な片寄りの学習補正のために用いられるものであり、この制御そのものは周知であるのでここでの詳しい説明は省略する。
【0021】
そこで、本実施の形態による入替わり判別制御処理の一例を図2のフローチャートを参照して説明する。この処理はエンジン始動後、左右のバンク10L、10R毎に、同時にまたは交互に、所定周期で実行される。そこで、入替わり判別制御処理が開始されると、ステップS201において、空燃比フィードバック(図2にはF/Bと表示)制御が実行中か否かが判別される。この判別は、例えば、上述のフィードバック補正係数が1か否かにより行なうことができ、1以外のときは空燃比フィードバック制御が実行中であるとして、次のステップS202に進む。このステップS202においては、A/Fセンサ28からの検出信号値(以下、これをF/Bα値と称す)を取り込む。なお、このF/Bα値は、理論空燃比を境としてリーン側またはリッチ側の値を有している。
【0022】
さらに、ステップS203に進み、エアフローメータ20により計測されている吸入空気量GAを積算カウンタによって積算し保存する。より詳しくは、制御開始後または後述する積算リセットが行なわれた後から今回のルーチンサイクルまでにエンジン10に供給された総吸入空気量TGAを得るべく、ルーチンサイクル毎に吸入空気量GAが積算されるのである。これは、所定期間に排気に投入されたエネルギー量を推定するためである。
【0023】
そして、次のステップS204において、上述のF/Bα値が前回のルーチンサイクル時の値に対して、リーン側(+)またはリッチ側(−)に変更があったか否かが判別される。リーン側またはリッチ側への変更があったとき、すなわち、「Yes」のときは、A/Fセンサ28が所望通り機能している、換言すると、入替わりがないものとしてステップS205に進み、上述の積算カウンタに積算されている総吸入空気量TGAが0にリセットされ、すなわち、積算リセットされ、この入替わり判別制御処理ルーチンが一旦終了される。
【0024】
一方、上述のステップS201における空燃比フィードバック制御が実行中か否かの判別で、空燃比フィードバック制御が禁止中であると判別されると、ステップS206に進み、吸入空気量GAの積算カウンタによる積算が停止される。そして、ステップS207に進み、総吸入空気量TGAが所定値Xを超えているか否かが判別される。同様に、上述のステップS204における、F/Bα値のリーン側またはリッチ側に変更したか否かの判別において、変更がない、すなわち、「No」のときもステップS207に進み、総吸入空気量TGAが所定値Xを超えているか否かが判別される。そして、総吸入空気量TGAが所定値Xを超えていないときは、この入替わり判別制御処理ルーチンが一旦終了される。
【0025】
他方、ステップS207における判別で、総吸入空気量TGAが所定値Xを超えているとされたときには、A/Fセンサ28が所望通り機能していない、換言すると、入替わりがあったとしてステップS208に進み、空燃比フィードバック制御が停止ないしは禁止され、この入替わり判別制御処理ルーチンも終了される。より詳しく説明するに、例えば、上述の制御ルーチンが右バンク10Rのフィードバック制御用である場合を想定すると、右バンク10Rの排気通路24Rに配設された右A/Fセンサ28Rの検出信号であるF/Bα値が正しく右バンク10Rのフィードバック制御に用いられており、そのF/Bα値がリーン側またはリッチ側であったとすれば、これに基づく空燃比フィードバック制御の結果、少なくとも数ルーチンサイクル後には、F/Bα値がリッチ側またはリーン側へと変更されるはずである。しかし、このF/Bα値のリーン側(+)またはリッチ側(−)への変更が、総吸入空気量TGAが所定値Xを超える程の期間ないということは、右バンク10Rの排気通路24Rに配設された右A/Fセンサ28Rの検出信号が正しく用いられていない、すなわち、左右の空燃比センサの検出信号の入替わりの可能性があることを意味する。
【0026】
そして、上述の右バンク10Rに対する入替わり判別制御処理と、同時にまたは交互に行なわれる左バンク10Lに対する入替わり判別制御処理においても、同様の結果、すなわち、左バンク10Lの排気通路24Lに配設された左A/Fセンサ28Lの検出信号であるF/Bα値の変更が、総吸入空気量TGAが所定値Xを超える程の期間ないときは、完全に左右の空燃比センサの検出信号の入替わりがあるとすることができる。
【0027】
従って、本実施の形態によれば、総吸入空気量TGAが所定値Xを超えるときに、空燃比フィードバック制御が停止ないしは禁止されるので、触媒の異常過熱による損傷を防止することができる。
【0028】
なお、上述の判別の結果、左右の空燃比センサの検出信号の入替わりがあるとして空燃比フィードバック制御を禁止するときは、別に警報を発する等により、運転者に警告することが好ましい。
【0029】
なお、上述の実施形態においては、空燃比センサとしてA/Fセンサの入替わりの例につき説明したが、Oセンサに関しても同様に行なうことができる。すなわち、A/Fセンサからの検出信号であるF/Bα値に代えて、Oセンサからの検出信号をF/Bβ値として、これを図2のフローチャートにおけるステップS202およびステップS204で読み替えて、入替わり判別制御処理を実行するようにすればよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態における、内燃機関の制御装置のシステム構成図である。
【図2】本発明に係る内燃機関の制御装置の入替わり判別制御処理の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0031】
10 エンジン
10R 右バンク
10L 左バンク
14 フューエルインジェクタ
18 スロットルバルブ
20 エアフローメータ
26R 右三元触媒コンバータ
26L 左三元触媒コンバータ
28R 右A/Fセンサ
28L 左A/Fセンサ
30R 右Oセンサ
30L 左Oセンサ
50 電子制御ユニット(ECU)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右バンクの各排気通路にそれぞれ配設された触媒と、該触媒の少なくとも上流にそれぞれ配設された左右の空燃比センサと、該空燃比センサのそれぞれの検出信号に基づいて前記左右バンク毎に空燃比をフィードバック制御するフィードバック制御手段とを備える内燃機関において、
前記左右の空燃比センサの検出信号の入替わりを判別する入替わり判別手段と、
該入替わり判別手段により前記左右の空燃比センサの検出信号の入替わりと判別されたときは、前記フィードバック制御手段のフィードバック制御を停止するフィードバック制御停止手段と
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−138839(P2007−138839A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−334215(P2005−334215)
【出願日】平成17年11月18日(2005.11.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】