説明

内燃機関の制御装置

【課題】エンジン運転中に所定の燃料カット条件が成立している期間に燃料カットを実行するエンジン制御システムにおいて、燃料カット復帰直後の触媒のNOx浄化率の低下を抑える。
【解決手段】燃料カット実行中に、吸入空気量の積算値等に基づいて触媒31のリーン度合を推定し、推定した触媒31のリーン度合が所定値以上になったときに、所定量の燃料を供給して触媒31のリーン度合(O2 ストレージ量)を低減させる。ここで、燃料カット実行中に供給する燃料の量は、触媒31のリーン度合を中立状態付近まで低減するのに必要な量に設定する。燃料カット実行中の一時的な燃料の供給は、燃料噴射弁20を一時的に開弁して行っても良いし、或は、燃料蒸発ガスパージシステムのパージ制御バルブを一時的に開弁して燃料を供給するようにしても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関(エンジン)の運転中に所定の燃料カット条件が成立している期間に燃料噴射弁の燃料噴射を停止する燃料カットを実行する内燃機関の制御装置に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
車両減速中に、所定の燃料カット条件(例えばスロットル全閉且つエンジン回転速度が燃料カット復帰回転速度以上であること)が成立すると、燃料カットを実行して燃費を節約し、その後、エンジン回転速度が燃料カット復帰回転速度以下になった時点で、燃料カットから復帰して燃料噴射を再開始するようにしている。また、エンジン回転速度が許容上限回転速度を越えた場合も、燃料カットが実行されて、エンジン回転上昇が抑えられ、エンジンが保護される。
【0003】
燃料カット中は、吸入空気がそのままエンジンシリンダ内を素通りして排気通路に設置された触媒に流入することになるため、触媒に過剰な酸素(O2 )が供給されて、触媒のO2 ストレージ量(酸素吸蔵量)が増加して触媒のリーン度合が増加する。このように、燃料カット中に触媒のリーン度合が増加して過リーン状態になると、燃料カット復帰後に排出ガス中のNOxの浄化率が低下してNOx排出量が増加してしまう。
【0004】
この対策として、下記の特許文献1〜3に記載されているように、燃料カット復帰時に燃料噴射量を一時的に増量補正して空燃比をリッチ化して触媒のリーン度合(O2 ストレージ量)を低減するようにしたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−180282号公報
【特許文献2】特開2009−36117号公報
【特許文献3】特開2003−166414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1〜3の技術では、いずれも燃料カット復帰後に空燃比をリッチ化して触媒のリーン度合を低減するようにしているため、燃料カット復帰後に触媒が過リーン状態から中立状態付近に復帰するまでの暫くの間は、NOx浄化率が低下するという課題があった。
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、燃料カット復帰直後の触媒のNOx浄化率の低下を抑えることができる内燃機関の制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、内燃機関の排気通路に排出ガス浄化用の触媒を設置すると共に、内燃機関の運転中に所定の燃料カット条件が成立している期間に燃料噴射弁の燃料噴射を停止する燃料カットを実行する燃料カット制御手段を備えた内燃機関の制御装置において、前記燃料カット制御手段は、燃料カット実行中の所定時期に一時的に燃料を供給して前記触媒のリーン度合を低減させるようにしたものである。このように、燃料カット実行中の所定時期に一時的に燃料を供給すれば、燃料カット実行中に触媒が過リーン状態になることを防止できるため、燃料カット復帰直後の触媒のリーン度合を従来より低減させることができて、燃料カット復帰直後の触媒のNOx浄化率の低下を抑えることができる。
【0009】
この場合、燃料カット実行中に一時的に燃料を供給する時期は、例えば、所定時間経過毎、吸入空気量の積算値が所定値に達する毎、所定走行距離毎であっても良く、要は、燃料カット実行中に触媒が過リーン状態にならないように間欠的に燃料を供給すれば良い。
【0010】
また、請求項2のように、燃料カット実行中に触媒のリーン度合を推定し、当該リーン度合が所定値以上になったときに所定量の燃料を供給するようにしても良い。このようにすれば、燃料カット実行中に触媒が過リーン状態になる前に触媒のリーン度合に応じた適正な量の燃料を供給することができ、燃料カット復帰直後の触媒のリーン度合を確実に低減させることができる。
【0011】
或は、請求項3のように、燃料カット実行中に触媒のリーン度合を推定し、燃料カット実行中に一時的に供給する燃料量を触媒のリーン度合に応じて制御するようにしても良い。このようにしても、燃料カット実行中に触媒のリーン度合に応じた適正な量の燃料を供給することができ、燃料カット復帰直後の触媒のリーン度合を確実に低減させることができる。
【0012】
また、請求項4のように、燃料カット実行中の所定時期に燃料噴射弁又は燃料蒸発ガスパージシステムのパージ制御バルブを一時的に開弁して燃料を供給するようにしても良い。或は、触媒早期暖機制御時等に内燃機関の排気通路のうちの触媒の上流側に燃料(HC)を添加する燃料添加装置を搭載した内燃機関の場合は、燃料カット実行中の所定時期に一時的に燃料添加装置を作動させて燃料を供給するようにしても良い。いずれの場合も、内燃機関の既存の機器を利用して燃料を触媒に供給することができ、燃料を触媒に供給する装置を新たに設ける必要がなく、低コストで本発明を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は本発明の実施例1におけるエンジン制御システムの概略構成を示す図である。
【図2】図2は実施例1の燃料カット時触媒中立化制御ルーチンの処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】図3は実施例1の燃料カット時触媒中立化制御の実行例を示すタイムチャートである。
【図4】図4は実施例2の燃料カット時触媒中立化制御ルーチンの処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を具体化した2つの実施例1,2を説明する。
【実施例1】
【0015】
本発明の実施例1を図1乃至図3に基づいて説明する。
まず、図1に基づいてエンジン制御システム全体の概略構成を説明する。
【0016】
内燃機関であるエンジン11の吸気管12の最上流部には、エアクリーナ13が設けられ、このエアクリーナ13の下流側には、吸入空気量を検出するエアフローメータ14が設けられている。このエアフローメータ14の下流側には、モータ10等のアクチュエータによって駆動されるスロットルバルブ15と、スロットル開度を検出するスロットル開度センサ16とが設けられている。
【0017】
更に、スロットルバルブ15の下流側には、サージタンク17が設けられ、このサージタンク17に、吸気管圧力を検出する吸気管圧力センサ18が設けられている。また、サージタンク17には、エンジン11の各気筒に吸入空気を導入する吸気マニホールド19が設けられ、各気筒の上部には、それぞれ燃料を筒内に直接噴射する燃料噴射弁20が取り付けられている。尚、本発明は、図1に示すような筒内噴射エンジンに限定されず、吸気マニホールド19の吸気ポート近傍に燃料噴射弁を取り付けた吸気ポート噴射エンジンや、筒内噴射と吸気ポート噴射を併用するデュアル噴射エンジンにも適用可能である。
【0018】
エンジン11のシリンダヘッドには、各気筒毎に点火プラグ21が取り付けられ、各点火プラグ21の火花放電によって各気筒内の混合気に点火される。また、エンジン11のシリンダブロックには、冷却水温を検出する冷却水温センサ22や、所定クランク角毎にパルスを出力するクランク角センサ23が取り付けられ、このクランク角センサ23の出力パルス間隔に基づいてエンジン回転速度が検出され、クランク角センサ23の出力パルスのカウント値等に基づいてクランク角が検出される。
【0019】
一方、エンジン11の排気管30には、排出ガスを浄化する三元触媒等の触媒31が設けられ、この触媒31の上流側に排出ガスの空燃比又はリッチ/リーンを検出する排出ガスセンサ32(空燃比センサ、酸素センサ等)が設けられている。
【0020】
上述した各種センサの出力は、エンジン制御回路(以下「ECU」と表記する)33に入力される。このECU33は、マイクロコンピュータを主体として構成され、そのROM(記憶媒体)に記憶されたエンジン制御用の各ルーチンを実行することで、点火時期、燃料噴射量、スロットル開度(吸入空気量)等を制御する。
【0021】
また、ECU33は、特許請求の範囲でいう燃料カット制御手段としても機能し、車両減速中に所定の燃料カット条件(例えばスロットル全閉且つエンジン回転速度が燃料カット復帰回転速度以上であること)が成立したときに、燃料噴射弁20の燃料噴射を停止する燃料カットを実行して燃費を節約し、その後、エンジン回転速度が燃料カット復帰回転速度以下になった時点で、燃料カットから復帰して燃料噴射を再開始するようにしている。また、エンジン回転速度が許容上限回転速度を越えた場合も、燃料カットが実行されて、エンジン回転上昇が抑えられ、エンジン11が保護される。
【0022】
更に、ECU33は、後述する図2の燃料カット時触媒中立化制御ルーチンを実行することで、燃料カット実行中に触媒31のリーン度合を推定し、図3に示すように、触媒31のリーン度合が所定値以上になったときに所定量の燃料を供給して触媒31のリーン度合(O2 ストレージ量)を低減させるようにしている。ここで、燃料カット実行中に一時的に供給する燃料の量は、触媒31のリーン度合を中立状態付近まで低減するのに必要な量に設定されている。以下、図2の燃料カット時触媒中立化制御ルーチンの処理内容を説明する。
【0023】
図2の燃料カット時触媒中立化制御ルーチンは、ECU33の電源オン中(イグニッションスイッチのオン中)に所定周期で繰り返し実行され、特許請求の範囲でいう燃料カット制御手段としての役割を果たす。本ルーチンが起動されると、まずステップ101で、燃料カット実行中(燃料カットフラグ=ON)であるか否かを判定し、燃料カット実行中でない場合(燃料カットフラグ=OFF)の場合には、以降の処理を行うことなく、本ルーチンを終了する。
【0024】
これに対し、上記ステップ101で、燃料カット実行中(燃料カットフラグ=ON)であると判定されれば、ステップ102に進み、触媒31のリーン度合(O2 ストレージ量)を算出する。この際、燃料カット開始(又は前回の燃料供給終了)からの吸入空気量の積算値や経過時間が増加するほど、触媒31のリーン度合が増大することを考慮して、例えば、燃料カット開始(又は前回の燃料供給終了)からの吸入空気量の積算値又は経過時間等に基づいて触媒31のリーン度合をマップ又は数式等により算出するようにすれば良い。
【0025】
この後、ステップ103に進み、触媒31のリーン度合が所定値以上であるか否かを判定する。ここで、所定値は、触媒31のリーン度合の飽和レベルよりもある程度低い値に設定されている。このステップ103で、触媒31のリーン度合が所定値未満と判定されれば、そのまま本ルーチンを終了する。
【0026】
一方、上記ステップ103で、触媒31のリーン度合が所定値以上であると判定されれば、ステップ104に進み、触媒中立化制御フラグをONして、次のステップ105で、所定量の燃料を供給して触媒31のリーン度合を低減させる。ここで、燃料カット実行中に一時的に供給する燃料の量は、触媒31のリーン度合を中立状態付近まで低減するのに必要な量に設定されている。燃料カット実行中の一時的な燃料の供給は、燃料噴射弁20を一時的に開弁して行っても良いし、或は、燃料タンク内の燃料蒸発ガスをキャニスタ内に吸着する燃料蒸発ガスパージシステムのパージ制御バルブを一時的に開弁して燃料を供給するようにしても良い。或は、触媒早期暖機制御時等にエンジン11の排気管30のうちの触媒31の上流側に燃料(HC)を添加する燃料添加装置を搭載している場合は、一時的に燃料添加装置を作動させて燃料を供給するようにしても良い。
【0027】
燃料の供給後に、ステップ106に進み、触媒中立化制御フラグをOFFに切り替えて本ルーチンを終了する。
【0028】
以上説明した本実施例1によれば、燃料カット実行中に触媒31のリーン度合を推定し、触媒31のリーン度合が所定値以上になったときに所定量の燃料を供給して触媒31のリーン度合を低減させるようにしたので、燃料カット実行中に触媒31が過リーン状態になることを防止できて、燃料カット復帰直後の触媒31のリーン度合を従来より低減させることができて、燃料カット復帰直後の触媒31のNOx浄化率の低下を抑えることができる。
【実施例2】
【0029】
上記実施例1では、燃料カット実行中に触媒31のリーン度合が所定値以上になったときに所定量の燃料を供給するようにしたが、本発明の実施例2では、図4の燃料カット時触媒中立化制御ルーチンを実行することで、燃料カット実行中に触媒31のリーン度合を推定すると共に、所定期間が経過したときに、触媒31のリーン度合に応じた量の燃料を供給するようにしている。その他の事項は、上記実施例1と同じである。
【0030】
本実施例2で実行する図4の燃料カット時触媒中立化制御ルーチンは、ECU33の電源オン中(イグニッションスイッチのオン中)に所定周期で繰り返し実行され、特許請求の範囲でいう燃料カット制御手段としての役割を果たす。本ルーチンが起動されると、まずステップ201で、燃料カット実行中(燃料カットフラグ=ON)であるか否かを判定し、燃料カット実行中でない場合(燃料カットフラグ=OFF)の場合には、以降の処理を行うことなく、本ルーチンを終了する。
【0031】
これに対し、上記ステップ201で、燃料カット実行中(燃料カットフラグ=ON)であると判定されれば、ステップ202に進み、触媒31のリーン度合(O2 ストレージ量)を前記実施例1と同様の方法で算出する。
【0032】
この後、ステップ203に進み、燃料カット開始(又は前回の燃料供給終了)から所定期間が経過したか否かを判定する。ここで、所定期間は、例えば、予め設定された所定時間であっても良いし、所定走行距離を走行するまでの期間であっても良いし、或は、エンジン回転速度の降下量が所定値に達するまでの期間であっても良い。要は、燃料カット実行中に触媒31のリーン度合が飽和レベルに達する時期よりも前に所定期間が経過するように設定すれば良い。
【0033】
このステップ203で、まだ所定期間が経過していないと判定されれば、そのまま本ルーチンを終了する。
【0034】
一方、上記ステップ203で、所定期間が経過したと判定されれば、ステップ204に進み、触媒中立化制御フラグをONして、次のステップ205で、触媒31のリーン度合に応じて燃料供給量をマップ又は数式等により算出する。これにより、触媒31のリーン度合が大きくなるほど、燃料供給量が多くなるように設定される。
【0035】
この後、ステップ206に進み、上記ステップ205で算出した燃料供給量相当分の燃料を供給して触媒31のリーン度合を低減させる。ここで、燃料の供給は、例えば、燃料噴射弁20を一時的に開弁して行っても良いし、或は、燃料蒸発ガスパージシステムのパージ制御バルブを一時的に開弁して燃料を供給するようにしても良い。或は、触媒早期暖機制御時等にエンジン11の排気管30のうちの触媒31の上流側に燃料(HC)を添加する燃料添加装置を搭載している場合は、一時的に燃料添加装置を作動させて燃料を供給するようにしても良い。
【0036】
燃料の供給後に、ステップ207に進み、触媒中立化制御フラグをOFFに切り替えて本ルーチンを終了する。
【0037】
以上説明した本実施例2では、燃料カット実行中に触媒31のリーン度合を推定すると共に、所定期間が経過したときに、触媒31のリーン度合に応じた量の燃料を供給するようにしているため、燃料カット実行中に触媒31のリーン度合に応じた適正な量の燃料を供給することができて、燃料カット復帰直後の触媒31のリーン度合を確実に低減させることができ、燃料カット復帰直後の触媒31のNOx浄化率の低下を抑えることができる。
【符号の説明】
【0038】
11…エンジン(内燃機関)、12…吸気管、14…エアフローメータ、15…スロットルバルブ、18…吸気管圧力センサ、30…排気管、31…触媒、33…ECU(燃料カット制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に排出ガス浄化用の触媒を設置すると共に、内燃機関の運転中に所定の燃料カット条件が成立している期間に燃料噴射弁の燃料噴射を停止する燃料カットを実行する燃料カット制御手段を備えた内燃機関の制御装置において、
前記燃料カット制御手段は、燃料カット実行中の所定時期に一時的に燃料を供給して前記触媒のリーン度合を低減させることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記燃料カット制御手段は、燃料カット実行中に前記触媒のリーン度合を推定し、当該リーン度合が所定値以上になったときに所定量の燃料を供給することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記燃料カット制御手段は、燃料カット実行中に前記触媒のリーン度合を推定し、燃料カット実行中に一時的に供給する燃料量を前記触媒のリーン度合に応じて制御することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記燃料カット制御手段は、燃料カット実行中の所定時期に前記燃料噴射弁又は燃料蒸発ガスパージシステムのパージ制御バルブを一時的に開弁して燃料を供給することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−157906(P2011−157906A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21671(P2010−21671)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】