説明

内燃機関の制御装置

【課題】成層燃焼によりエンジンを運転する時において燃焼状態を良好にする。
【解決手段】成層燃焼によりエンジンが運転される触媒の暖機中(時間t2以降)は、筒内インジェクタからの燃料噴射量とポートインジェクタからの燃料噴射量とを合計した総噴射量に対する筒内インジェクタからの燃料噴射量の比率(DI比率r)が比率r1(50%≦比率r1<100%)に定められる。成層燃料によりエンジンが運転されている間に燃焼状態が悪化すると、DI比率rが、比率r1よりも大きい所定の比率r2に定められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関し、特に、筒内噴射用インジェクタと吸気通路噴射用インジェクタとが設けられた内燃機関において、成層燃焼により運転する時の筒内噴射用インジェクタからの燃料噴射量と吸気通路噴射用インジェクタからの燃料噴射量との比率を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
筒内噴射用インジェクタと吸気通路噴射用インジェクタとが設けられた内燃機関が知られている。このような内燃機関においては、運転状態に応じて、筒内噴射用インジェクタからの燃料噴射量と吸気通路噴射用インジェクタからの燃料噴射量との比率が変更される。
【0003】
特開2005−325825号公報は、エンジンの始動中でなければ吸気通路噴射用インジェクタからの燃料噴射量の比率を100%とし、エンジン始動中に、重質燃料を用いたことなどに起因して燃焼状態が悪化すると、筒内噴射用インジェクタからの燃料噴射量の比率を増大する、または100%とすることを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−325825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特開2005−325825号公報に記載の技術は、内燃機関の始動性を考慮しているものの、始動とは別の運転状態を考慮したものではない。たとえば、成層燃焼により内燃機関を運転する状態は何等考慮されていない。したがって、特開2005−325825号公報に記載の技術では、成層燃焼により内燃機関を運転する時において燃焼状態を良好にし難い。
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、成層燃焼により内燃機関を運転する時において燃焼状態を良好にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
筒内に燃料を噴射する筒内噴射用インジェクタと、吸気通路に燃料を噴射する吸気通路噴射用インジェクタとが設けられた内燃機関の制御装置は、成層燃焼によって内燃機関を運転する時に、筒内噴射用インジェクタからの燃料噴射量と吸気通路噴射用インジェクタからの燃料噴射量との和に対する筒内噴射用インジェクタからの燃料噴射量の比率を、筒内噴射用インジェクタからの燃料噴射量が吸気通路噴射用インジェクタからの燃料噴射量以上となるように定められた第1の比率にするための第1の噴射制御手段と、内燃機関における燃焼状態が悪化すると、成層燃焼によって内燃機関を運転する時に、筒内噴射用インジェクタからの燃料噴射量と吸気通路噴射用インジェクタからの燃料噴射量との和に対する筒内噴射用インジェクタからの燃料噴射量の比率を、第1の比率よりも大きい第2の比率にするための第2の噴射制御手段とを備える。
【0008】
この構成によると、内燃機関における燃焼状態が悪化すると、成層燃焼によって内燃機関を運転する時には、筒内噴射用インジェクタからの燃料噴射量を吸気通路噴射用インジェクタからの燃料噴射量以上に維持しながら、筒内噴射用インジェクタからの燃料噴射量が増量される。そのため、成層燃焼を維持しながら、たとえば重質燃料の霧化不足を増量した燃料の霧化により補うことができる。その結果、成層燃焼により内燃機関を運転する時において燃焼状態を良好にできる。
【0009】
別の実施例において、内燃機関には、排気ガスを浄化する触媒が設けられる。第1の噴射制御手段は、成層燃焼によって触媒を暖機する時に、筒内噴射用インジェクタからの燃料噴射量と吸気通路噴射用インジェクタからの燃料噴射量との和に対する筒内噴射用インジェクタからの燃料噴射量の比率を第1の比率にする。第2の噴射制御手段は、内燃機関における燃焼状態が悪化すると、成層燃焼によって触媒を暖機する時に、筒内噴射用インジェクタからの燃料噴射量と吸気通路噴射用インジェクタからの燃料噴射量との和に対する筒内噴射用インジェクタからの燃料噴射量の比率を、第2の比率にする。
【0010】
この構成によると、成層燃焼により触媒を運転する時において燃焼状態を良好にできる。
【0011】
さらに別の実施例において、第2の噴射制御手段は、筒内噴射用インジェクタと吸気通路噴射用インジェクタとの両方から燃料を噴射させる。
【0012】
この構成によると、成層燃焼により内燃機関を運転する時において、点火プラグの回りの空燃比がオーバーリッチとならないように、筒内噴射用インジェクタからの燃料噴射量と吸気通路噴射用インジェクタからの燃料噴射量との和に対する筒内噴射用インジェクタからの燃料噴射量の比率が100%よりも小さくされる。
【0013】
さらに別の実施例において、第2の比率は、点火プラグの周囲の空燃比が所定の空燃比より大きくなるように定められた比率である。
【0014】
この構成によると、成層燃焼により内燃機関を運転する時において、点火プラグの回りの空燃比がオーバーリッチとならないようにできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】エンジンを示す概略図である。
【図2】総噴射量に対する筒内インジェクタからの燃料噴射量の比率を定めたマップを示す図である。
【図3】エンジンの始動時ならびに触媒の暖機時における、総噴射量に対する筒内インジェクタからの燃料噴射量の比率を示す図である。
【図4】燃焼状態が悪化した場合の触媒の暖機時における、総噴射量に対する筒内インジェクタからの燃料噴射量の比率を示す図である。
【図5】ECUが実行する処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0017】
図1を参照して、本実施の形態に係る制御装置により制御されるエンジン100について説明する。本実施の形態に係る制御装置は、たとえば、ECU(Electronic Control Unit)1000により実現される。
【0018】
エンジン100には、エアクリーナ102から空気が吸入される。吸入空気量は、スロットルバルブ104により調整される。スロットルバルブ104はモータにより駆動される電子スロットルバルブである。
【0019】
エンジン100には、複数のシリンダ106が設けられる。シリンダ106において、空気が燃料と混合される。シリンダ106には、筒内インジェクタ108から燃料が直接噴射される。すなわち、筒内インジェクタ108の噴射孔はシリンダ106内に設けられている。
【0020】
エンジン100には、筒内インジェクタ108に加えて、吸気通路としての吸気ポートに燃料を噴射するポートインジェクタ109が設けられる。筒内インジェクタ108とポートインジェクタ109とは、各シリンダ106に対して設けられる。
【0021】
シリンダ106内の混合気は、点火プラグ110により着火され、燃焼する。燃焼後の混合気、すなわち排気ガスは、触媒112により浄化された後、車外に排出される。混合気の燃焼によりピストン114が押し下げられ、クランクシャフト116が回転する。
【0022】
筒内インジェクタ108からの燃料噴射量とポートインジェクタ109からの燃料噴射量とを合計した総噴射量に対する筒内インジェクタ108からの燃料噴射量の比率(以下、DI比率rとも記載する)は、エンジン100の運転状態に応じて適宜定められる。DI比率rは、実験およびシミュレーション等に基づいて開発者により予め決定される。
【0023】
たとえば、触媒112の暖機が終了した後において、DI比率rは、エンジン100の負荷と回転数とに応じて定められる。一例として、図2に斜線で示す領域においては、DI比率r=100%に定められる。すなわち、図2に斜線で示す領域においては、筒内インジェクタ108のみから燃料が噴射され、ポートインジェクタ109からの燃料噴射が停止される。その他の領域においては、0%≦DI比率r≦100%の範囲でDI比率rが定められる。たとえば、図2中の運転点Aにおいては、0%<DI比率r<100%の範囲でDI比率rが定められる。その結果、運転点Aでは、筒内インジェクタ108およびポートインジェクタ109の両方から燃料が噴射される。
【0024】
図3に示すように、エンジン100の始動開始から終了までの間(時間t1〜t2の間)は、DI比率r=0%に定められる。すなわち、筒内インジェクタ108からの燃料噴射が停止され、ポートインジェクタ109のみから燃料が噴射される。
【0025】
成層燃焼によりエンジン100が運転される触媒112の暖機中(時間t2以降)は、DI比率rは、所定の比率r1に定められる。本実施の形態においては、50%≦比率r1<100%である。筒内インジェクタ108からの燃料噴射を、ポートインジェクタ109からの燃料噴射量以上とすることで、好適な成層燃焼を実現できる。
【0026】
一方、燃料に重質燃料を用いると、霧化し難いという重質燃料の特性に起因して、燃料の燃焼状態が悪化する。その結果、エンジン100の出力軸回転数または出力トルクが低下する。このような状態は好ましいものではない。そこで、本実施の形態においては、成層燃料によりエンジン100が運転されている間に、すなわち成層燃焼による触媒112の暖機中に、図4に示すように、時間t3において燃焼状態が悪化すると、重質燃料の霧化不足を補うべく、DI比率rが、比率r1よりも大きい所定の比率r2に定められる。
【0027】
一例として、燃料として重質燃料が用いられていることが検出されると、DI比率rが比率r2に設定される。したがって、燃料として重質燃料が用いられていることが検出されると、重質燃料が用いられていない場合、もしくは重質燃料が用いられていることが検出される前に比べて、DI比率rが増大される。なお、重質燃料燃料とは異なる要因に起因して燃焼状態が悪化した場合においても、DI比率rを増大するようにしてもよい。
【0028】
比率r2は、50%<DI比率r<100%の範囲で水温に応じて最適な比率に定められる。したがって、触媒112の暖機中、すなわち成層燃料によりエンジン100が運転される時は、筒内インジェクタ108およびポートインジェクタ109の両方から燃料が噴射される。
【0029】
また、比率r2は、点火プラグ110の周囲の空燃比が所定の空燃比より大きくなるように定められた比率である。所定の空燃比は、点火プラグ110の周囲の空燃比がオーバーリッチと判断される空燃比である。したがって、比率r2は、点火プラグ110の周囲の空燃比がオーバーリッチとならないように定められる。
【0030】
図1に戻って、シリンダ106の頭頂部には、吸気バルブ118および排気バルブ120が設けられる。シリンダ106に導入される空気の量および時期は吸気バルブ118により制御される。シリンダ106から排出される排気ガスの量および時期は排気バルブ120により制御される。吸気バルブ118はカム122により駆動される。排気バルブ120はカム124により駆動される。
【0031】
吸気バルブ118は、可変バルブタイミング機構126により、開閉タイミング(位相)が変更される。なお、排気バルブ120の開閉タイミングを変更するようにしてもよい。
【0032】
本実施の形態においては、カム122が設けられたカムシャフト(図示せず)が可変バルブタイミング機構126により回転されることにより、吸気バルブ118の開閉タイミングが制御される。なお、開閉タイミングを制御する方法はこれに限らない。本実施の形態において、可変バルブタイミング機構126は、油圧により作動する。
【0033】
エンジン100は、ECU1000により制御される。ECU1000は、エンジン100が所望の運転状態になるように、スロットル開度、点火時期、燃料噴射時期、燃料噴射量、吸気バルブ118の開閉タイミングを制御する。ECU1000には、カム角センサ800、クランク角センサ802、水温センサ804、エアフローメータ806、空燃比センサ808から信号が入力される。
【0034】
カム角センサ800は、カムの位置を表す信号を出力する。クランク角センサ802は、クランクシャフト116の回転数(エンジン回転数)NEおよびクランクシャフト116の回転角度を表す信号を出力する。水温センサ804は、エンジン100の冷却水の温度(以下、水温とも記載する)を表す信号を出力する。エアフローメータ806は、エンジン100に吸入される空気量表す信号を出力する。空燃比センサ808は、排気ガス中の酸素濃度に基いて、空燃比を検出する。なお、空燃比センサ808としてO2センサを用いるようにしてもよい。
【0035】
ECU1000は、これらのセンサから入力された信号、ROM1002に記憶されたマップおよびプログラムに基づいて、エンジン100を制御する。
【0036】
図5を参照して、本実施の形態においてECU1000が実行する処理について説明する。
【0037】
ステップ(以下、ステップをSと略す)100にて、成層燃焼による触媒112の暖機が実行される。触媒112の暖機中は、点火時期が遅角される。触媒112の暖機中において、S102にて、燃焼状態が悪化したか否かが判定される。一例として、重質燃料が用いられているか否かが判定される。たとえば、エンジン回転数NEの低下率または低下量が所定のしきい値以上であったり、エンジン100の出力トルクの低下率または低下量が所定のしきい値以上であると、燃焼状態が悪化したと、すなわち重質燃料が用いられていると判定される。
【0038】
燃焼状態が悪化していなければ(S102にてNO)、S104にて、DI比率rが前述した比率r1に設定される。燃焼状態が悪化した場合(S102にてYES)、S106にて、DI比率rが前述した比率r2に設定される。
【0039】
以上のように、本実施の形態においては、エンジン100における燃焼状態が悪化すると、成層燃焼によってエンジン100を運転する時には、筒内インジェクタ108からの燃料噴射量をポートインジェクタ109からの燃料噴射量以上に維持しながら、筒内インジェクタ108からの燃料噴射量が増量される。そのため、成層燃焼を維持しながら、たとえば重質燃料の霧化不足を増量した燃料の霧化により補うことができる。その結果、成層燃焼によりエンジン100を運転する時において燃焼状態を良好にできる。
【0040】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0041】
100 エンジン、102 エアクリーナ、104 スロットルバルブ、106 シリンダ、108 筒内インジェクタ、109 ポートインジェクタ、110 点火プラグ、112 触媒、114 ピストン、116 クランクシャフト、118 吸気バルブ、120 排気バルブ、122,124 カム、126 可変バルブタイミング機構、800 カム角センサ、802 クランク角センサ、804 水温センサ、806 エアフローメータ、808 空燃比センサ、1000 ECU。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒内に燃料を噴射する筒内噴射用インジェクタと、吸気通路に燃料を噴射する吸気通路噴射用インジェクタとが設けられた内燃機関の制御装置であって、
成層燃焼によって前記内燃機関を運転する時に、前記筒内噴射用インジェクタからの燃料噴射量と前記吸気通路噴射用インジェクタからの燃料噴射量との和に対する前記筒内噴射用インジェクタからの燃料噴射量の比率を、前記筒内噴射用インジェクタからの燃料噴射量が前記吸気通路噴射用インジェクタからの燃料噴射量以上となるように定められた第1の比率にするための第1の噴射制御手段と、
前記内燃機関における燃焼状態が悪化すると、成層燃焼によって前記内燃機関を運転する時に、前記筒内噴射用インジェクタからの燃料噴射量と前記吸気通路噴射用インジェクタからの燃料噴射量との和に対する前記筒内噴射用インジェクタからの燃料噴射量の比率を、前記第1の比率よりも大きい第2の比率にするための第2の噴射制御手段とを備える、内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関には、排気ガスを浄化する触媒が設けられ、
前記第1の噴射制御手段は、成層燃焼によって前記触媒を暖機する時に、前記筒内噴射用インジェクタからの燃料噴射量と前記吸気通路噴射用インジェクタからの燃料噴射量との和に対する前記筒内噴射用インジェクタからの燃料噴射量の比率を前記第1の比率にし、
前記第2の噴射制御手段は、前記内燃機関における燃焼状態が悪化すると、成層燃焼によって前記触媒を暖機する時に、前記筒内噴射用インジェクタからの燃料噴射量と前記吸気通路噴射用インジェクタからの燃料噴射量との和に対する前記筒内噴射用インジェクタからの燃料噴射量の比率を、前記第2の比率にする、請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記第2の噴射制御手段は、前記筒内噴射用インジェクタと前記吸気通路噴射用インジェクタとの両方から燃料を噴射させる、請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記第2の比率は、点火プラグの周囲の空燃比が所定の空燃比より大きくなるように定められた比率である、請求項1に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−2329(P2013−2329A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132991(P2011−132991)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】