説明

内燃機関の制御装置

【課題】内燃機関の複数の気筒間でインバランスが生じた際にエミッション悪化を抑制する。
【解決手段】
内燃機関の制御装置(100)は、第1及び第2空燃比センサ(21、22)のうち少なくとも一方の出力に応じて、空燃比のフィードバック制御を一律に実施する制御手段(23)と、空燃比のインバランスが生じている場合、複数の気筒(11)のうちインバランスが生じている気筒を特定するインバランス気筒特定手段(23)と、インバランス発生時における第1及び第2空燃比センサ各々に対する排気ガスのガス当たりに係る情報が予め格納される格納手段(23)と、を備える。制御手段は、インバランスが生じている場合、インバランスが生じている気筒とガス当たりに係る情報とに基づいて、フィードバック制御が実施される結果エミッションの顕著な悪化が推定されることを条件に、フィードバック制御に代えてフィードフォアード制御を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等の車両に搭載される複数気筒を有する内燃機関の制御装置に関し、特に、複数気筒間で空燃比に不均衡が生じている状態(所謂、インバランス状態)において制御を行う制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として、例えば、排気通路に設けられた触媒の下流側の空燃比の値と、該触媒内を通過する排気ガスの流量と、に基づいて、空燃比のインバランスを起こしているか否かを判定し、空燃比のインバランスを起こしていると判定された場合に、空燃比のインバランスを起こしている気筒を特定する装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
尚、空燃比制御に係る装置として、例えば、空燃比が変動するような運転状態変化時に、空燃比フィードバック制御を禁止し、空燃比フィードフォアード制御を行う装置が提案されている(特許文献2参照)。或いは、気筒毎に空燃比フィードバック制御を行う内燃機関において、気筒へのガス当たりに応じてフィードバック量の補正を行う装置が提案されている(特許文献3参照)。
【0004】
或いは、吸気弁の作用角を変更することができる内燃機関において、触媒の下流に配置された空燃比センサへのガス当たりに起因して実際の中心空燃比が理論空燃比からずれてしまう場合に、吸気弁の作用角を変更する装置が提案されている(特許文献4参照)。或いは、排気中の水素濃度が所定値以上である場合に、サブフィードバック制御を禁止する装置が提案されている(特許文献5参照)。
【0005】
或いは、各気筒で空燃比フィードバック制御を行う内燃機関において、いずれかの気筒の空燃比が所定範囲外となった場合に、センサの安定性が得られるまで空燃比フィードバック制御を停止する装置が提案されている(特許文献6参照)。或いは、触媒の上流側に配置された上流空燃比センサの出力に基づくメインフィードバック制御と、該触媒の下流側に配置された下流空燃比センサの出力に基づくサブフィードバック制御と、を実行する装置が提案されている(特許文献7参照)。
【0006】
或いは、NOxを低減するために空燃比をリッチ化制御する装置が提案されている(特許文献8参照)。或いは、各気筒で空燃比フィードバック制御を行う内燃機関において、ガス当たりが強い気筒群と、ガス当たりが弱い気筒群とに分け、ガス当たりが強い気筒群の空燃比フィードバック制御を禁止すると共に、目標空燃比からのずれを算出する装置が提案されている(特許文献9参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−051003号公報
【特許文献2】特開平07−166980号公報
【特許文献3】特開平11−287145号公報
【特許文献4】特開2009−091921号公報
【特許文献5】特開平08−303280号公報
【特許文献6】特開平08−232719号公報
【特許文献7】特開2009−085160号公報
【特許文献8】特開2007−170344号公報
【特許文献9】特開平11−303664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の特許文献1では、ガス当たりの影響が考慮されていないため、実際の空燃比と、空燃比センサにより検出された空燃比との間に乖離が生じ、エミッションの悪化を招く可能性があるという技術的問題点がある。
【0009】
本発明は、例えば上記問題点に鑑みてなされたものであり、インバランス時にエミッションの悪化を抑制することができる内燃機関の制御装置を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の内燃機関に係る制御装置は、上記課題を解決するために、複数の気筒と、前記複数の気筒各々に接続された排気通路と、前記排気通路に配置された触媒と、前記排気通路における前記触媒の上流側に配置された第1空燃比センサと、前記排気通路における前記触媒の下流側に配置された第2空燃比センサと、を備える内燃機関の制御装置であって、前記第1空燃比センサ及び前記第2空燃比センサのうち少なくとも一方の出力に応じて、前記複数の気筒各々に供給される混合気の空燃比のフィードバック制御を一律に実施する制御手段と、前記空燃比のインバランスが生じている場合、前記複数の気筒のうちインバランスが生じている気筒を特定するインバランス気筒特定手段と、インバランス発生時における前記第1空燃比センサ及び前記第2空燃比センサ各々に対する排気ガスのガス当たりに係る情報が予め格納される格納手段と、を備え、前記制御手段は、前記空燃比のインバランスが生じている場合、前記特定されたインバランスが生じている気筒と、前記格納されたガス当たりに係る情報と、に基づいて、前記フィードバック制御が実施される結果エミッションの顕著な悪化が推定されることを条件に、前記フィードバック制御に代えて、前記空燃比のフィードフォアード制御を実施する。
【0011】
本発明の内燃機関の制御装置によれば、例えばエンジン等である内燃機関は、例えば4気筒、6気筒、8気筒、…等の複数の気筒と、該複数の気筒各々に接続された排気通路と、該排気通路に配置された、例えば三元触媒等である触媒と、該排気通路における該触媒の上流側に配置された第1空燃比センサと、該排気通路における該触媒の下流側に配置された第2空燃比センサと、を備える。
【0012】
例えばメモリ、プロセッサ等を備えてなる制御手段は、第1空燃比センサ及び第2空燃比センサのうち少なくとも一方の出力に応じて、複数の気筒各々に供給される混合気の空燃比のフィードバック制御を一律に実施する。
【0013】
ここで、「フィードバック制御を一律に実施」とは、気筒毎にフィードバック制御を実施しないという意味である。つまり、複数の気筒のうち一の気筒に対するフィードバック制御量と、該複数の気筒のうち他の気筒に対するフィードバック制御量と、が個別に設定されるのではなく、複数の気筒各々に対して同一のフィードバック制御量が用いられることを意味する。このように構成すれば、第1空燃比センサ及び/又は第2空燃比センサの出力を、気筒毎の情報に分離する処理が不要となり、処理を簡便化することができる。
【0014】
例えばメモリ、プロセッサ等を備えてなるインバランス気筒特定手段は、空燃比のインバランスが生じている場合、複数の気筒のうちインバランスが生じている気筒を特定する。尚、インバランスが生じている気筒を特定する方法には、公知の各種態様を適用可能であるので、煩雑化を避けるため、ここでは説明を割愛する。
【0015】
例えばフラッシュメモリ等である格納手段には、インバランス発生時における第1空燃比センサ及び第2空燃比センサ各々に対する排気ガスのガス当たりに係る情報が予め格納される。尚、ガス当たりに係る情報は、例えば、複数の気筒のうち一つ又は一部の気筒にインバランスが生じた場合のガス当たり量を示す指標(例えば、“強”、“弱”、“+”、“±”、“−”等)等である。このようなガス当たりに係る情報は、例えば実験により、複数の気筒のうち一の気筒に係る空燃比を所定量だけリッチ又はリーンに変更した場合のフィードバック制御後のガス当たりを検出すること等により取得すればよい。
【0016】
ここで、第1空燃比センサ及び第2空燃比センサ各々に対するガス当たりの状態によっては、フィードバック制御を実施するとかえってエミッションが悪化する場合があることが、本願発明者の研究により判明している。
【0017】
そこで、本発明では、空燃比のインバランスが生じている場合、特定されたインバランスが生じている気筒と、格納されたガス当たりに係る情報と、に基づいて、フィードバック制御が実施される結果エミッションの顕著な悪化が推定されることを条件に、制御手段により、フィードバック制御に代えて、空燃比のフィードフォアード制御が実施される。このため、インバランス時にエミッションの悪化を抑制することができる。
【0018】
本発明の内燃機関の制御装置の一態様では、前記制御手段は、前記特定されたインバランスが生じている気筒と、前記格納されたガス当たりに係る情報と、に基づいて、前記第1空燃比センサに対するガス当たりと、前記第2空燃比センサに対するガス当たりと、の両方ともが、基準値よりも強いと特定されたことを条件に、前記フィードバック制御が実施された結果エミッションが顕著に悪化すると推定する推定手段を含む。
【0019】
この態様によれば、比較的容易にしてエミッションが顕著に悪化する場合を推定することができ、実用上非常に有利である。
【0020】
ここで、「基準値」は、エンジンの適合(即ち、所定の規格又は規制)に応じて決定される。具体的には例えば、実験により、適合時に、フィードバック制御を実施している状態において、エンジンの特定の気筒毎に燃料噴射量を増量又は減量し、ガス当たりの影響を確認する。この際、ガス当たりが強すぎると、フィードバック制御により過補正(例えば、空燃比が過度にリーンになる等)されることとなる。この過補正によるエミッションの悪化が排気ガス規制上の許容範囲の上限値となるガス当たり、又は、該ガス当たりより所定値だけ弱いガス当たりを、「基準値」として決定すればよい。
【0021】
尚、「基準値」を「ガス当たりに係る情報」に含めておけば、第1空燃比センサに対するガス当たり、及び/又は、第2空燃比センサに対するガス当たりが、基準値よりも強いか否かを比較的容易に判定することができる。
【0022】
本発明の内燃機関の制御装置の他の態様では、前記複数の気筒間における空燃比の不均衡の程度であるインバランス率を算出するインバランス率算出手段を更に備え、前記制御手段は、前記フィードフォアード制御を実施する際に、前記算出されたインバランス率が大きいほど、前記フィードフォアード制御に係る目標値をリッチに設定する。
【0023】
この態様によれば、エミッションの悪化を好適に抑制することができ、実用上非常に有利である。
【0024】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する実施するための形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係るエンジンの構成を示すブロック図である。
【図2】ECUに予め格納されているガス当たりに係る情報の一例を示す概念図である。
【図3】一の気筒にインバランスが発生した場合のフィードバック制御の結果の一例である。
【図4】一の気筒にインバランスが発生した場合のフィードバック制御の結果の他の例である。
【図5】本発明の実施形態に係るECUが実施するエンジンの制御処理を示すフローチャートである。
【図6】空燃比の時間変動の一例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の内燃機関の制御装置に係る実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0027】
先ず、本発明に係る「内燃機関」の一例としてのエンジンの構成について、図1を参照して説明する。図1は、本実施形態に係るエンジンの構成を示すブロック図である。
【0028】
図1において、エンジン1は、複数の気筒11と、該複数の気筒11の各々に夫々接続された吸気通路12及び排気通路13と、該吸気通路12に設けられ、デリバリーパイプ15を介して供給される、例えばガソリン等の燃料を、複数の気筒11各々に供給可能な燃料噴射弁14と、排気通路13に設けられた触媒16及び触媒17と、を備えて構成されている。
【0029】
エンジン1の制御装置100は、排気通路13における触媒16の上流側に配置された空燃比センサ21と、該排気通路13における触媒16の下流側に配置された空燃比センサ22と、ECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)23と、を備えて構成されている。尚、空燃比センサ22は、「酸素(O)センサ」と称されることもある。
【0030】
ECU23は、空燃比センサ21及び22のうち少なくとも一方の出力に基づいて、複数の気筒11の各々に供給される混合気の空燃比のフィードバック制御(具体的には例えば、各燃料噴射弁14から噴射される燃料量の制御)を一律に実施する。
【0031】
ECU23は、更に、空燃比センサ21及び22のうち少なくとも一方の出力に基づいて、複数の気筒11のいずれかにインバランスが生じたか否かを判定する。尚、インバランスが生じたか否かの判定方法には、公知の各種態様を適用可能であるので、煩雑化を避けるため、ここでは説明を割愛する。
【0032】
ECU23には、図2に示すような、空燃比センサ21及び22各々に対するガス当たりに係る情報が予め格納されている。図2は、ECUに予め格納されているガス当たりに係る情報の一例を示す概念図である。
【0033】
このようなガス当たりに係る情報は、エンジン毎に固有のものであるので、例えばエンジン1の製造時に、製造者によって行われる実験結果等に基づいて構築される。具体的には例えば、複数の気筒のうち一の気筒に係る燃料噴射量を、リッチ又はリーンにずらした場合に、フィードバック制御の結果を調査して、該調査された結果に基づいて構築される。
【0034】
本実施形態では特に、空燃比センサ21及び22各々に対するガス当たりが、本発明に係る「基準値」より強い場合を、“+(強)”として、ガス当たりに係る情報に含めている。従って、図2において“+(強)”は、「ガス当たりが基準値より強い」ことを意味する。
【0035】
ここで、空燃比センサ21及び22各々に対するガス当たりがフィードバック制御に与える影響について、図3及び図4を参照して説明する。尚、図3及び図4では、空燃比センサ21の出力に基づくフィードバック制御が実施された後に、空燃比センサ22の出力に基づくフィードバック制御が実施されるものとする。
【0036】
図3及び図4では、説明の便宜上、全て#1気筒(図1参照)にインバランスが発生した場合のフィードバック制御の結果の一例を示しているが、実際には、インバランスが生じた気筒に応じて、空燃比センサ21及び22各々に対するガス当たりが変化する。つまり、インバランスが生じた気筒を特定すれば、空燃比センサ21及び22各々に対するガス当たりを一義的に特定することができる。
【0037】
空燃比センサ21(“Frセンサ”に対応)、及び空燃比センサ22(“Rrセンサ”に対応)各々に適切に排気ガスが当たる場合(図3(a)参照)、4つの気筒(即ち、#1気筒、#2気筒、#3気筒及び#4気筒)各々から排出された排気ガスが十分に混合されているので、空燃比センサ21及び22各々の出力に従ってフィードバック制御を実施すれば、空燃比を適切に補正することができる(図中の“全気筒平均”参照)。
【0038】
空燃比センサ21に対しては排気ガスが比較的強く当たり、空燃比センサ22には適切に排気ガスが当たる場合(図3(b)参照)、空燃比センサ21に到達する排気ガスは十分には混合されておらず、例えば空燃比が、実際の空燃比よりもリッチ側の値として、空燃比センサ21により検出される。このため、該空燃比センサ21の出力に基づいてフィードバック制御が実施されると、空燃比はリーン側に過剰に補正されてしまう(ここでは、“−20%”)。しかしながら、空燃比センサ22に到達する排気ガスは十分に混合されているので、最終的には、空燃比が適切に補正されることとなる。
【0039】
空燃比センサ21に対しては排気ガスが比較的弱く当たり、空燃比センサ22には適切に排気ガスが当たる場合(図3(c)参照)、空燃比センサ21に到達する排気ガスは十分には混合されておらず、例えば空燃比が、実際の空燃比よりもリーン側の値として、空燃比センサ21により検出される。このため、該空燃比センサ21の出力に基づいてフィードバック制御が実施されると、空燃比の補正は不十分なものとなる(ここでは、“−5%”)。しかしながら、空燃比センサ22に到達する排気ガスは十分に混合されているので、最終的には、空燃比を適切に補正することができる。
【0040】
空燃比センサ21及び22各々に排気ガスが比較的強く当たる場合(図3(d)参照)、空燃比センサ21及び22のいずれの出力に基づいてフィードバック制御が実施されても、空燃比はリーン側に過剰に補正されてしまい(ここでは、“−20%”、“−5%”)、最終的に空燃比がリーン側に比較的大きくずれることとなる(ここでは、“−15%”)。このため、エミッション(特に、NOx)が顕著に悪化することが、本願発明者の研究により判明している。
【0041】
空燃比センサ21及び22各々に排気ガスが比較的弱く当たる場合(図3(e)参照)、空燃比センサ21及び22のいずれの出力に基づいてフィードバック制御が実施されても、空燃比の補正は不十分なものとなり(ここでは、“−5%”、“+2%”)、最終的に空燃比がリッチ側にずれることとなる(ここでは、“+7%”)。
【0042】
空燃比センサ21に対しては排気ガスが比較的強く当たり、空燃比センサ22に対しては排気ガスが比較的弱く当たる場合(図4(a)参照)、空燃比センサ21の出力に基づいてフィードバック制御が実施されると、空燃比はリーン側に過剰に補正されてしまう(ここでは、“−20%”)。他方、空燃比センサ22の出力に基づいてフィードバック制御が実施されると、空燃比の補正は不十分なものとなる(ここでは、“+5%”)。このため、最終的には、空燃比はリーン側にずれることとなる(ここでは、“−5%”)。
【0043】
空燃比センサ21に対しては排気ガスが比較的弱く当たり、空燃比センサ22に対しては排気ガスが比較的強く当たる場合(図4(b)参照)、空燃比センサ21の出力に基づいてフィードバック制御が実施されると、空燃比の補正は不十分なものとなる(ここでは、“−5%”)。他方、空燃比センサ22の出力に基づいてフィードバック制御が実施されると、空燃比はリーン側に過剰に補正されてしまう(ここでは、“−10%”)。このため、最終的には、空燃比はリーン側にずれることとなる(ここでは、“−5%”)。
【0044】
空燃比センサ21には適切に排気ガスが当たり、空燃比センサ22には排気ガスが比較的強く当たる場合(図4(c)参照)、空燃比センサ21の出力に基づくフィードバック制御により空燃比は適切に補正される。しかしながら、ガス当たりが比較的強いことに起因して、空燃比が実際の空燃比よりもリッチ側の値として、空燃比センサ22により検出される。このため、空燃比センサ22の出力に基づくフィードバック制御により、空燃比はリーン側に過剰に補正され(ここでは、“−5%”)、最終的に空燃比はリーン側にずれることとなる(ここでは、“−5%”)。
【0045】
空燃比センサ21には適切に排気ガスが当たり、空燃比センサ22には排気ガスが比較的弱く当たる場合(図4(d)参照)、空燃比センサ21の出力に基づくフィードバック制御により空燃比は適切に補正される。しかしながら、ガス当たりが比較的弱いことに起因して、空燃比が実際の空燃比よりもリーン側の値として、空燃比センサ22により検出される。このため、空燃比センサ22の出力に基づくフィードバック制御により、空燃比はリッチ側に過剰に補正され(ここでは、“+5%”)、最終的に空燃比はリッチ側にずれることとなる(ここでは、“+5%”)。
【0046】
ここでは、#1気筒にインバランスが発生した場合について説明したが、他の気筒にインバランスが発生した場合も同様の傾向を示すことが、本願発明者の研究により判明している。
【0047】
次に、制御装置100の構成要素としてのECU23が実施するエンジン1の制御処理について、図5のフローチャートを参照して説明する。
【0048】
図5において、ECU23は、先ず、空燃比センサ21及び22各々の出力に基づいて、インバランスが発生しているか否かを判定すると共に、インバランスが発生していると判定された場合に、インバランスが発生している気筒と、インバランス率とを推定する(ステップS101)。
【0049】
「インバランス率」は、複数の気筒11間における空燃比の不均衡の程度を意味する。より具体的には、インバランスが発生している気筒に係る空燃比の、その他の気筒に係る空燃比に対するズレ量を意味する。該ズレ量は、本実施形態では百分率で表わされているが、これに限定されるものではない。
【0050】
インバランス率は、図6に示すような、例えば空燃比センサ21により検出された空燃比の時間変動の傾きから求めることができる。ここで、空燃比の時間変動の傾きと、インバランス率との関係は、予め実験等により求めればよい。
【0051】
尚、インバランスが発生している気筒の推定方法には、公知の各種態様を適用可能であるので、煩雑化を避けるため、ここでは説明を割愛する。また、インバランスが発生していないと判定された場合、典型的には、処理は一旦終了される。
【0052】
次に、ECU23は、インバランスが発生している気筒と、ガス当たりに係る情報(図2参照)とに基づいて、フィードバック制御を停止すべきケースに該当するか否かを判定する(ステップS102)。ここで、「フィードバック制御を停止すべきケース」とは、フィードバック制御が実施される結果エミッションが顕著に悪化するケース(具体的には、図3(d)に示したケース:空燃比センサ21に対するガス当たり“+(強)”、空燃比センサ22に対するガス当たり“+(強)”)を意味する。つまり、「フィードバック制御を停止すべきケース」とは、空燃比センサ21及び22各々に対するガス当たりが、両方とも、基準値よりも強いと特定されるケースを意味する。
【0053】
フィードバック制御を停止すべきケースであると判定された場合(ステップS102:Yes)、ECU23は、フィードバック制御を停止する一方で、空燃比のフィードフォアード制御を実施する(ステップS103)。この際、ECU23は、空燃比がスライトリッチ(例えば“12〜14”)となるように、フィードフォアード制御を実施する。
【0054】
続いて、ECU23は、上記ステップS101の処理において推定されたインバランス率に基づいて、フィードフォアード制御に係る目標空燃比を設定する(ステップS104)。具体的には例えば、ECU23は、推定されたインバランス率が大きいほど、スライトリッチの程度が大きくなるように(つまり、スライトリッチに該当する空燃比の範囲(例えば“12〜14”)のリッチ側の値となるように)、目標空燃比を設定する。
【0055】
ステップS102の処理において、フィードバック制御を停止すべきケースではないと判定された場合(ステップS102:No)、ECU23は、フィードバック制御の実施を継続する(ステップS105)。この際、ECU23は、例えばNOxの排出を抑制するために、空燃比がスライトリッチとなるように、フィードバック制御を実施する。
【0056】
本実施形態では、上述の如く、フィードバック制御が実施される結果エミッションが顕著に悪化するケースでは、フィードバック制御に代えてフィードフォアード制御が実施される。このため、インバランスが発生した場合であっても、適切にエミッションの悪化を抑制することができる。
【0057】
尚、本実施形態に係る「触媒(前段触媒)16」、「空燃比センサ21」及び「空燃比センサ22」は、夫々、本発明に係る「触媒」、「第1空燃比センサ」及び「第2空燃比センサ」の一例である。本実施形態に係る「ECU23」は、本発明に係る「制御手段」、「インバランス気筒特定手段」、「格納手段」及び「インバランス率算出手段」の一例である。つまり、本実施形態では、各種電子制御を実施するECU23の機能の一部を、制御装置100の一部として用いている。
【0058】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う内燃機関の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0059】
1…エンジン、11…気筒、12…吸気通路、13…排気通路、14…燃料噴射弁、15…デリバリーパイプ、16、17…触媒、21、22…空燃比センサ、23…ECU、100…制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の気筒と、前記複数の気筒各々に接続された排気通路と、前記排気通路に配置された触媒と、前記排気通路における前記触媒の上流側に配置された第1空燃比センサと、前記排気通路における前記触媒の下流側に配置された第2空燃比センサと、を備える内燃機関の制御装置であって、
前記第1空燃比センサ及び前記第2空燃比センサのうち少なくとも一方の出力に応じて、前記複数の気筒各々に供給される混合気の空燃比のフィードバック制御を一律に実施する制御手段と、
前記空燃比のインバランスが生じている場合、前記複数の気筒のうちインバランスが生じている気筒を特定するインバランス気筒特定手段と、
インバランス発生時における前記第1空燃比センサ及び前記第2空燃比センサ各々に対する排気ガスのガス当たりに係る情報が予め格納される格納手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記空燃比のインバランスが生じている場合、前記特定されたインバランスが生じている気筒と、前記格納されたガス当たりに係る情報と、に基づいて、前記フィードバック制御が実施される結果エミッションの顕著な悪化が推定されることを条件に、前記フィードバック制御に代えて、前記空燃比のフィードフォアード制御を実施する
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記特定されたインバランスが生じている気筒と、前記格納されたガス当たりに係る情報と、に基づいて、前記第1空燃比センサに対するガス当たりと、前記第2空燃比センサに対するガス当たりと、の両方ともが、基準値よりも強いと特定されたことを条件に、前記フィードバック制御が実施された結果エミッションが顕著に悪化すると推定する推定手段を含むことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記複数の気筒間における空燃比の不均衡の程度であるインバランス率を算出するインバランス率算出手段を更に備え、
前記制御手段は、前記フィードフォアード制御を実施する際に、前記算出されたインバランス率が大きいほど、前記フィードフォアード制御に係る目標値をリッチに設定する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−2356(P2013−2356A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134051(P2011−134051)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】