説明

内燃機関の始動制御装置

【課題】 押しがけによる内燃機関の始動時間を短縮できるとともにエミッションを改善でき、またドライバの要求に応じた加速を行うことができる内燃機関の始動制御装置を提供する。
【解決手段】 内燃機関50を備える車両で、押しがけによる内燃機関50の始動を制御するためのECU1であって、内燃機関50を押しがけで始動するときに、アクセル操作量に基づき、電子制御スロットル10を制御する特定吸入空気量制御手段と、内燃機関50を押しがけで始動するときに、アクセル操作量に基づき、内燃機関50の点火時期を制御する特定点火時期制御手段とを備える。特定吸入空気量制御手段はアクセル操作量が所定値θthよりも小さい場合に、吸気通路が全閉になるように電子制御スロットル10を制御する。点火時期制御手段はアクセル操作量が所定値θthよりも小さい場合に、アクセル操作量が小さいほど、より大きな度合いで点火時期を遅角側に制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内燃機関の始動制御装置に関し、特に押しがけによる内燃機関の始動を制御するための内燃機関の始動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関の始動方法として押しがけといった内燃機関の始動方法が知られている。ここで内燃機関を始動させるためには、クランキングを行いながら燃料噴射及び点火を行う必要がある。この点、通常の始動方法ではクランキングがスタータモータによって行われるところ、押しがけでは走行状態にある車両の運動エネルギの一部が駆動輪から内燃機関の出力軸に動力として伝達されることでクランキングが行われる。
【0003】
一方、近年では原動機として内燃機関と駆動用モータとを備えたハイブリッド車両が実用化されている。このハイブリッド車両でも車両走行中に動力源を駆動用モータから内燃機関に切り替える際に上記のように動力を伝達することで、押しがけにより内燃機関の始動を行うことができる。この点、加速要求の度合いが小さい緩加速時であるにも関わらず、押しがけにより始動した内燃機関でトルクが急激に立ち上がった場合には、トルクショックの発生によりドライバビリティが損なわれることになる。具体的にはクランキング開始後、最初の燃料噴射及び点火では、内燃機関でトルクが急激に立ち上がり易いため、緩加速時のドライバビリティを損なう虞がある。これは、クランキング開始後、最初の燃料噴射及び点火タイミングまでの間には、筒内に大きな負圧が発生しないことから、筒内空気量が多くなっているためである。一方、加速要求の度合いが大きい急加速時であるにも関わらず、押しがけにより始動した内燃機関で発生したトルクが不十分な場合には、意図通りの加速が得られないことから、この場合にもドライバビリティが損なわれることになる。
【0004】
これに対して、特許文献1では以下のようなハイブリッド車のエンジン始動制御装置が提案されている。このエンジン始動制御装置は、エンジン始動判定時にドライバの加速要求を検出し、吸気管負圧を加速要求に応じた吸気管負圧に制御してからエンジンを始動するように構成されている。このエンジン始動制御装置によれば、始動した内燃機関で加速要求に応じたトルクを発生させることができると考えられることから、緩加速時にはドライバにショックを感じさせることなく、また急加速時にはレスポンスよく加速を行えると考えられる。
【0005】
【特許文献1】特開2006−132337号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば上記のようなハイブリッド車両で車両走行中に押しがけにより内燃機関を始動する場合、内燃機関の始動が遅れるほど、それだけ長く車両の加速状態が寸断されるため、これによりドライバビリティの悪化を招く虞がある。この点、押しがけにより内燃機関を始動する場合、特許文献1が提案する技術では吸気管負圧が加速要求に応じた吸気管負圧になるまでクランキングが継続されることから、特に緩加速時には内燃機関が始動するまでの間により長い時間がかかってしまうことになる。このため特許文献1が提案する技術では、車両が一時的に惰性で走行する等速或いは減速走行時間が長くなることによって加速状態が長く寸断され、この結果、ドライバビリティが悪化してしまう虞がある。また内燃機関が始動するまでの間にクランキングが長く継続されると、筒内に残留していた未燃燃料がそのまま排気されてしまうことから、これによって未燃HCのエミッションが悪化する虞もある。
【0007】
そこで本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、押しがけによる内燃機関の始動時間を短縮できるとともにエミッションを改善でき、またドライバの要求に応じた加速を行うことができる内燃機関の始動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明は内燃機関を備える車両で、押しがけによる前記内燃機関の始動を制御するための内燃機関の始動制御装置であって、前記内燃機関を押しがけで始動するときに、前記車両を運転するドライバの加速要求の度合いに基づき、前記内燃機関が吸入する吸入空気量を制御するための制御を行う特定吸入空気量制御手段と、前記内燃機関を押しがけで始動するときに、前記加速要求の度合いに基づき、前記内燃機関の点火時期を制御する特定点火時期制御手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
ここで、内燃機関を押しがけで始動するときに、クランキング開始後、最初の燃料噴射及び点火では、内燃機関で大きなトルクが発生し易い。これに対して、内燃機関のトルクは点火時期を制御することで調整できる。このため、内燃機関を押しがけで始動するときに、加速要求の度合いに基づき点火時期を制御すれば、最初の燃料噴射及び点火によって発生する内燃機関のトルクを加速要求の度合いに応じて調整できる。そしてこのようすれば、ドライバの要求に応じた加速が行えるとともに、特に緩加速時にトルクが急激に立ち上がることによってドライバビリティが損なわれることも抑制できる。
【0010】
一方、クランキング開始後、2回目以降の燃料噴射及び点火タイミングでは、主に吸入された空気が筒内に存在するようになることから、このときには吸入空気量を制御することで内燃機関のトルクを調整できる。このため内燃機関を押しがけで始動するときに、加速要求の度合いに基づき吸入空気量を制御すれば、主に2回目以降の燃料噴射及び点火によって発生するトルクを加速要求の度合いに応じて調整できる。そしてこのようにすれば、ドライバの要求に応じた加速を行うことができるとともに、特に急加速時にトルク不足でドライバビリティが損なわれることも抑制できる。
【0011】
この点、上記のように制御を行うことで、内燃機関を押しがけで始動するときに、ドライバビリティを損なうことなく速やかに(例えばクランキング開始後、最初の燃料噴射及び点火タイミングから)燃料噴射及び点火を行えることに着目して、特定吸入空気量制御手段と特定点火時期制御手段とを備えた本発明によれば、押しがけによる内燃機関の始動時間を短縮することができる。また速やかに燃料噴射及び点火を行うことで、筒内に残留していた未燃燃料がそのまま排気されることも抑制できるため、未燃HCのエミッションも改善できる。さらに本発明によれば、加速要求の度合いに基づいて吸入空気量と点火時期とを制御することで、ドライバの要求に応じた加速を行うこともできる。
【0012】
また本発明は前記特定吸入空気量制御手段が、前記加速要求の度合いが所定値よりも小さい場合に、前記吸入空気量を制限するための制御を行うとともに、前記加速要求の度合いが前記所定値以上である場合に、前記加速要求の度合いが大きいほど、前記吸入空気量が大きくなるように前記吸入吸気量を制御するための制御を行い、前記点火時期制御手段が、少なくとも前記加速要求の度合いが前記所定値よりも小さい場合に、前記加速要求の度合いが小さいほど、より大きな度合いで前記点火時期を遅角側に制御してもよい。
【0013】
特定吸入空気量制御手段及び特定点火時期制御手段は、具体的には本発明のように制御を行うことが好適である。なお、特定吸入空気量制御手段は吸入空気量を制御するための制御として、例えば電子制御スロットルの制御を行うことができる。そしてこの場合には吸入空気量を制限するための制御として、電子制御スロットルで吸気通路を全閉にするための制御を行うことで、吸入空気量を電子制御スロットルにおいて最大限制限することが好適である。
【0014】
また本発明は前記加速要求の度合いがアクセル操作量であってもよい。加速要求の度合いは具体的には例えばアクセル操作量であることが好適である。
【0015】
また本発明は前記車両が駆動用の動力源としてさらに前記内燃機関と異なる原動機を備えるとともに、前記内燃機関を押しがけで始動するときに、前記車両の運動エネルギの一部が前記車両の駆動輪から前記内燃機関の出力軸に動力として伝達されることにより、前記内燃機関がクランキングされてもよい。また対象とする車両は具体的には例えば本発明のように、内燃機関に加えてさらに異なる原動機を備える車両(例えば原動機として内燃機関と駆動用モータとを備えるハイブリッド車両)であることが好適である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、押しがけによる内燃機関の始動時間を短縮できるとともにエミッションを改善でき、またドライバの要求に応じた加速を行うことができる内燃機関の始動制御装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面と共に詳細に説明する。
【0018】
図1はECU(Electronic Control Unit:電子制御装置)1で実現されている内燃機関の始動制御装置を関連する各構成とともに模式的に示す図である。図1に示す構成は図示しない車両に搭載されている。車両は駆動用の動力源として駆動用モータ30と内燃機関50とを備えている。内燃機関50は気筒毎に図示しない点火プラグ及び燃料噴射弁を有して構成されている。内燃機関50には回転数NEを検出するためのクランク角センサ71や、水温を検出するための水温センサ72などが配設されている。また内燃機関50の吸気系には吸入空気量を調節するための電子制御スロットル10が配設されている。また車両は図示しないアクセルペダルの操作量(アクセル操作量)を検出するためのアクセルポジションセンサ73を備えている。
【0019】
車両は動力伝達系を有して構成されており、動力伝達系は内燃機関50の出力軸から車両の駆動輪65に動力を伝達できるように構成されている。駆動用モータ30は動力伝達系において、内燃機関50の後方に配設されている。また駆動用モータ30と内燃機関50との間にはクラッチ60が配設されている。駆動用モータ30を動力源として車両が走行しているときには、クラッチ60はECU1の制御のもと、開放状態にされる。一方、車両の動力源を駆動用モータ30から内燃機関50に切り替えるときには、ECU1の制御のもと、クラッチ60が接続状態にされるとともに、駆動用モータ30が回生モータとして機能する。これにより、車両の運動エネルギの一部が駆動輪65から内燃機関50の出力軸に動力として伝達される。このとき内燃機関50ではクランキングが開始され、押しがけによる内燃機関50の始動が可能な状態になる。さらに内燃機関50で燃料噴射及び点火が行われ、内燃機関50の回転数NEが所定回転数以上になると、内燃機関50の始動が完了する。動力伝達系には車速を検出するための車速センサ74が配設されている。
【0020】
ECU1は図示しないCPU(Central Processing Unit:中央演算処理装置)と、ROM(Read Only Memory)と、RAM(Random Access Memory)とを有して構成されるマイクロコンピュータと、入出力回路などを有して構成されている。ECU1は主として内燃機関50を制御するための構成であり、本実施例では電子制御スロットル10や、駆動用モータ30や、クラッチ60なども制御している。ECU1にはこれら電子制御スロットル10、駆動用モータ30及びクラッチ60のほか、点火プラグ(より具体的には図示しないイグナイタ)や、燃料噴射弁などが制御対象として電気的に接続されている。またECU1にはクランク角センサ71や、水温センサ72や、アクセルポジションセンサ73や、車速センサ74や、駆動モータ30または内燃機関50を始動させるためのスタータSW75や、図示しないエアフロメータなどが電気的に接続されている。なお、ECU1にはこのほか各種の制御対象やセンサ、スイッチ類が電気的に接続されていてよい。また、駆動用モータ30やクラッチ60はECU1とは異なるECUによって制御されてもよい。
【0021】
ROMはCPUが実行する種々の処理が記述されたプログラムやマップデータなどを格納するための構成であり、本実施例では内燃機関制御用プログラムのほか、以下に示す特定始動要求判定用プログラムや特定吸入空気量制御用プログラムや特定点火時期制御用プログラムや特定始動制御用プログラムなども格納している。なお、これらのプログラムは一体として構成されていてもよい。特定始動要求判定用プログラムは、押しがけによる内燃機関50の始動を要求する始動要求(以下、単に押しがけ始動要求と称す)を行うためのプログラムである。この特定始動要求判定用プログラムは本実施例では具体的にはスタータSW75の作動履歴があり、且つ内燃機関50の始動履歴がないときに、車速が所定の速度以上になった場合に、押しがけ始動要求を行うように作成されている。
【0022】
特定吸入空気量制御用プログラムは、内燃機関50を押しがけで始動するときに、車両を運転するドライバの加速要求の度合いに基づき、内燃機関50が吸入する吸入空気量を制御するための制御を行うように作成されている。また特定点火時期制御用プログラムは、内燃機関50を押しがけで始動するときに、同じく加速要求の度合いに基づき、内燃機関50の点火時期を制御するように作成されている。この特定吸入空気量制御用プログラム及び特定点火時期制御用プログラムでは、内燃機関50を押しがけで始動するときが、本実施例では具体的には押しがけ始動要求があったときとなっている。またこの特定吸入空気量制御用プログラム及び特定点火時期制御用プログラムでは、加速要求の度合いが本実施例では具体的にはアクセル操作量となっている。
【0023】
また特定吸入空気量制御用プログラムは具体的には、吸入空気量を制御するための制御として、電子制御スロットル10の制御を行うように作成されている。但しこれに限られず、例えば可変動弁機構を備えた内燃機関にあっては、バルブ特性を変更することにより吸入空気量を制御することもできることから、電子制御スロットル10に代えて、或いは電子制御スロットル10とともに可変動弁機構の制御を行うように作成することなども可能である。また特定吸入空気量制御用プログラムは、さらに具体的には加速要求の度合いが所定値よりも小さい場合に、吸入空気量を制限するための制御を行うとともに、加速要求の度合いが所定値以上である場合に、加速要求の度合いが大きいほど、吸入空気量が大きくなるように吸入吸気量を制御するための制御を行うように作成されている。
【0024】
この点、特定吸入空気量制御用プログラムは、本実施例では具体的にはアクセル操作量が所定値θthよりも小さい場合に、吸気通路を全閉にするように電子制御スロットル10を制御するとともに、アクセル操作量が所定値θth以上である場合に、アクセル操作量が大きいほど、スロットル開度が大きくなるように電子制御スロットル10を制御するよう作成されている。この特定吸入空気量制御用プログラムに基づき、電子制御スロットル10を制御するときのスロットル開度とアクセル操作量との関係を図2に模式的に示す。
【0025】
一方、特定点火時期制御用プログラムは、少なくとも加速要求の度合いが所定値よりも小さい場合に、加速要求の度合いが小さいほど、より大きな度合いで点火時期を遅角側に制御するように作成されている。この点、特定点火時期制御用プログラムは本実施例では具体的には、アクセル操作量が所定値θthよりも小さい場合に、アクセル操作量が小さいほど、より大きな度合いで点火時期を標準点火時期から遅角側に制御するように作成されている。この標準点火時期は、スタータモータ(図示省略)でクランキングして内燃機関50を始動するときのために設定された点火時期であり、点火時期は初期状態で標準点火時期に設定されている。なお、加速要求の度合いが所定値以上である場合には、本実施例では標準点火時期で点火を行うため、この場合には点火時期は特定点火時期制御用プログラムによって特に制御されない。
【0026】
特定始動制御用プログラムは、押しがけ時のクランキング開始後、燃料噴射及び点火を開始する燃料噴射及び点火タイミングの段階を決定するためのプログラムである。この特定始動制御用プログラムは、本実施例では具体的には押しがけ時のクランキング開始後、最初の燃料噴射及び点火タイミングで燃料噴射及び点火を開始するように作成されている。この点、スタータモータ始動の場合には通常、最初の燃料噴射及び点火タイミングで燃料噴射及び点火が開始されるところ、押しがけで始動する場合にも同様に燃料噴射及び点火を開始できる場合には、上記特定始動制御用プログラムを特段備えなくてもよい。なお、特定始動制御用プログラムを備えることで、最初の燃料噴射及び点火タイミングに限られず、例えば2回目の燃料噴射及び点火タイミングで燃料噴射及び点火を開始することなども可能になる。
【0027】
本実施例ではROMに格納されたプログラムとマイコンとで各種の制御手段や判定手段や検出手段や算出手段などが実現されており、特に特定始動要求判定用プログラムとマイコンとで特定始動要求判定手段が、特定吸入空気量制御用プログラムとマイコンとで特定吸入空気量制御手段が、特定点火時期制御用プログラムとマイコンとで特定点火時期制御手段が、特定始動制御用プログラムとマイコンとで特定始動制御手段が夫々実現されている。
【0028】
次にECU1で行われる処理を図3及び図4に示すフローチャートを用いて詳述する。なお、本フローチャートには周知技術であることなどから上述の説明で特段明示しなかったプログラムに基づいて行われる処理も含まれているが、本フローチャートに示す処理はすべてROMに格納されたプログラムに基づき行われる。CPUは押しがけ始動要求があるか否かを判定する処理を実行する(ステップS11)。押しがけ始動要求は本実施例では具体的には図4に示すフローチャートに基づいて行われる。図4は押しがけ始動要求を行うための処理をフローチャートで示す図である。CPUはスタータSW75が作動したか否かを判定する処理を実行する(ステップS21)。否定判定であれば、駆動モータ30及び内燃機関50がともに運転状態にないと判断される。この場合には本フローチャートで特段の処理を要しないため、リターンしてステップS21に戻る。
【0029】
続いてCPUは内燃機関50の始動履歴(エンジン始動履歴)があるか否かを判定する処理を実行する(ステップS22)。このエンジン始動履歴は内燃機関50始動後、内燃機関50の運転が行なわれている間保持される。このため肯定判定であれば、内燃機関50の運転が行なわれていると判断される。この場合には本フローチャートで特段の処理を要しないため、リターンしてステップS21に戻る。一方、否定判定であれば、駆動用モータ30の運転が行なわれていると判断され、このときCPUは車速が所定の速度以上であるか否かを判定する処理を実行する(ステップS23)。否定判定であれば、駆動用の動力源を駆動モータ30から内燃機関50に切り替える必要がないため、リターンしてステップS21に戻る。一方、肯定判定であれば、CPUは押しがけ始動要求を行うための処理を実行する(ステップS24)。これにより始動要求が行われると、図3に示すフローチャートのステップS11で肯定判定されることになる。
【0030】
図3に示すフローチャートに戻り、ステップS11で否定判定であればリターンして再びステップS11に戻る。一方、ステップS11で肯定判定であれば、CPUはアクセル操作量が所定値θth以上であるか否かを判定する処理を実行する(ステップS12)。否定判定であれば、CPUは吸気通路を全閉にするように電子制御スロットル10を制御するための処理を実行するとともに(ステップS13)、点火時期を算出するための処理を実行する(ステップS14)。このときCPUは具体的にはアクセル操作量が小さいほど、より大きな度合いで標準点火時期から遅角させるようにして点火時期を算出する。これにより点火時期はアクセル操作量が小さいほど、標準点火時期からより大きな度合いで遅角側に制御される。
【0031】
続いてCPUは、燃料噴射及び点火を行うための処理を実行する(ステップS16)。このときステップS14に続いてステップS16に進んだ場合には、ステップS14で遅角された点火時期に点火が行なわれる。このため、燃料噴射及び点火により発生する内燃機関50のトルクがアクセル操作量に応じた大きさに抑制される。これにより、ドライバの要求に応じた加速を行えるとともに、特に内燃機関50のトルクが急激に上昇することで緩加速時にドライバビリティが損なわれることも抑制できる。また第1回目のルーチンであった場合には、最初の燃料噴射及び点火タイミングで燃料噴射及び点火が開始されるため、押しがけによる内燃機関50の始動時間を短縮できるとともに、未燃燃料がそのまま排気されることによる未燃HCのエミッションも改善できる。
【0032】
一方、ステップS12で肯定判定であれば、CPUは電子制御スロットル10のスロットル開度を算出するための処理を実行する(ステップS15)。このときCPUは具体的には図2に示すようにアクセル操作量に応じた度合いのスロットル開度を算出する。これによりアクセル操作量が大きいほど、スロットル開度が大きくなるように電子制御スロットル10が制御される。またこの結果、吸入空気量はアクセル操作量に応じて制御される。続いてCPUは、燃料噴射及び点火を行うための処理を実行する(ステップS16)。このときステップS15に続いてステップS16に進んだ場合には、吸入空気量がアクセル操作量に応じて制御されるため、燃料噴射及び点火により発生する内燃機関50のトルクがアクセル操作量に応じた大きさになる。これにより、ドライバの要求に応じた加速を行えるとともに、特に急加速時にトルク不足でドライバリティが損なわれることも抑制できる。
【0033】
ステップS16に続き、CPUは内燃機関50が始動したか否かを判定する処理を実行する(ステップS17)。内燃機関50が始動したか否かは、回転数NEが所定値以上になったか否かで判定することができる。ステップS17で否定判定であれば、ステップS12に戻る。これにより、引き続き燃料噴射及び点火を行い、内燃機関50の始動を完了させることができる。一方、肯定判定であればCPUは始動要求をクリアするとともに、リターンしてステップS11に戻る。
【0034】
図5はスロットル開度、点火時期、アクセル操作量及び押しがけ始動要求の状態夫々を互いに対応させて模式的に示す図である。例えば図5において、ケースAの場合には、押しがけ始動要求がないため点火時期は初期状態の標準点火時期になっている。ケースBの場合には、押しがけ始動要求がある一方で、アクセル操作量が0(ゼロ)のため、これに応じて点火時期は最も遅角された状態に制御される。ケースCの場合には、アクセル操作量がθthよりも小さいため、点火時期はアクセル操作量が小さいほど、大きく遅角される。またケースB及びCの場合には、ともにアクセル操作量がθthよりも小さいため、スロットル開度は0(ゼロ)に制御される。すなわちケースB及びCの場合は、図3に示すフローチャートのステップS12で否定判定された場合に対応しており、これらの場合にはスロットル及び点火時期の制御が行われることになる。
【0035】
一方、ケースDの場合には、アクセル操作量がθth以上であるため、点火時期は標準点火時期になっており、またスロットル開度はアクセル操作量が大きいほど、大きくなるように制御される。すなわちケースDの場合は、図3に示すフローチャートのステップS12で肯定判定されば場合に対応しており、この場合にはスロットルの制御が行われることになる。以上により、押しがけによる内燃機関50の始動時間を短縮できるとともにエミッションを改善でき、またドライバの要求に応じた加速を行うことができるEC1を実現できる。
【0036】
上述した実施例は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】ECU1を関連する各構成とともに模式的に示す図である。
【図2】特定吸入空気量制御用プログラムに基づき、電子制御スロットル10を制御するときのスロットル開度とアクセル操作量との関係を模式的に示す図である。
【図3】ECU1で行われる処理をフローチャートで示す図である。
【図4】ECU1で行われる処理をフローチャートで示す図である。
【図5】スロットル開度、点火時期、アクセル操作量及び押しがけ始動要求の状態夫々を互いに対応させて模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0038】
1 ECU
10 電子制御スロットル
50 内燃機関

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関を備える車両で、押しがけによる前記内燃機関の始動を制御するための内燃機関の始動制御装置であって、
前記内燃機関を押しがけで始動するときに、前記車両を運転するドライバの加速要求の度合いに基づき、前記内燃機関が吸入する吸入空気量を制御するための制御を行う特定吸入空気量制御手段と、
前記内燃機関を押しがけで始動するときに、前記加速要求の度合いに基づき、前記内燃機関の点火時期を制御する特定点火時期制御手段とを備えることを特徴とする内燃機関の始動制御装置。
【請求項2】
前記特定吸入空気量制御手段が、前記加速要求の度合いが所定値よりも小さい場合に、前記吸入空気量を制限するための制御を行うとともに、前記加速要求の度合いが前記所定値以上である場合に、前記加速要求の度合いが大きいほど、前記吸入空気量が大きくなるように前記吸入吸気量を制御するための制御を行い、
前記点火時期制御手段が、少なくとも前記加速要求の度合いが前記所定値よりも小さい場合に、前記加速要求の度合いが小さいほど、より大きな度合いで前記点火時期を遅角側に制御することを特徴とする請求項1記載の内燃機関の始動制御装置。
【請求項3】
前記加速要求の度合いがアクセル操作量であることを特徴とする請求項1または2記載の内燃機関の始動制御装置。
【請求項4】
前記車両が駆動用の動力源としてさらに前記内燃機関と異なる原動機を備えるとともに、前記内燃機関を押しがけで始動するときに、前記車両の運動エネルギの一部が前記車両の駆動輪から前記内燃機関の出力軸に動力として伝達されることにより、前記内燃機関がクランキングされることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の内燃機関の始動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−30496(P2009−30496A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−193898(P2007−193898)
【出願日】平成19年7月25日(2007.7.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】