説明

内燃機関の燃料噴射制御装置

【課題】 気体燃料の燃料噴射時期をより適切に制御し、充填効率を従来より向上させることができる内燃機関の燃料噴射制御装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 第1燃料噴射弁21の近傍に設けられた吸気圧センサ32により検出される吸気圧PIに基づいて、第1燃料噴射弁21の近傍の吸気圧が高圧側ピーク値をとる時期を含む吸気圧ピーク期間TPK11,TPK12等が判定され、その吸気圧ピーク期間において燃料噴射が実行される。機関の高負荷または高回転運転状態では、第1及び第2燃料噴射弁21,22をともに使用して、それぞれの燃料噴射弁近傍の吸気圧が高圧側ピーク値をとる時期を含む吸気圧ピーク期間TPK11,TPK21等において燃料噴射が実行される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃料噴射制御装置に関し、特に気体燃料を用いる内燃機関の燃料噴射制御を行うものに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、LPG(液化石油ガス)を気化させた状態で、機関の吸気通路内に噴射する燃料噴射装置が示されている。この装置によれば、燃料噴射を実行する気筒の排気行程及び吸気行程の範囲内に燃料噴射時期が設定され、機関の負荷が低いときは、燃料噴射弁の燃料噴射孔近傍の圧力が最も高くなる排気行程終期に設定される。特許文献1に示された燃料噴射時期の設定手法は、燃料噴射量を制御精度を向上させることを目的とするものであり、特にアイドリング時において燃料噴射弁に供給されるガス圧力と、燃料噴射孔近傍の圧力との差を減少させることにより、その目的が達成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4116315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
吸気通路内に気体燃料を噴射する機関では、混合気中の燃料の体積割合が高くなるため、液体燃料を噴射する場合に比べて充填効率が低下するという課題がある。特許文献1に示されるように予め燃料噴射孔近傍の圧力が高くなる時期に燃料噴射を実行する手法を採用することにより、充填効率の低下を抑制するという効果も得られる。
【0005】
しかしながら、特許文献1の手法では、吸気通路内の圧力、すなわち吸気圧の脈動について十分な考慮がなされていないため、以下のような課題がある。すなわち、吸気圧の脈動は、主として吸気弁の開閉に起因して発生し、実際には行程が変化することによる吸気通路内の圧力変化周期より短い周期の成分も含まれている。ところが、特許文献1に示された手法では、行程の変化に伴う圧力変化のみに着目し、予め決められた排気行程終期に燃料噴射が行われるため、充填効率を向上させる上で改善の余地があった。
【0006】
本発明はこの点に着目してなされたものであり、気体燃料の燃料噴射時期をより適切に制御し、充填効率を従来より向上させることができる内燃機関の燃料噴射制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため請求項1に記載の発明は、内燃機関の吸気通路(2)に気体燃料を噴射する燃料噴射手段(21)を備える内燃機関の燃料噴射制御装置において、前記燃料噴射手段(21)の近傍に設けられ、前記吸気通路内の吸気圧(PI)を検出する吸気圧検出手段(32)と、前記燃料噴射手段(21)の燃料噴射孔に加わる吸気圧(PI)が高圧側ピーク値(PIP1等)をとる時期を含む吸気圧ピーク期間(TPK11等)を、前記吸気圧検出手段により検出される吸気圧(PI)に基づいて判定し、該吸気圧ピーク期間において燃料噴射を実行する燃料噴射時期制御手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置において、前記燃料噴射時期制御手段は、前記吸気圧の変化量(DPI)が正の値から負の値に変化する時期を含み、前記変化量(DPI)の絶対値が所定値(DPIS)以下である期間を、前記吸気圧ピーク期間(TPK11等)と判定することを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置において、前記機関の運転状態に応じた要求燃料量を噴射するための燃料噴射時間(TOUT)を算出する燃料噴射時間算出手段を備え、前記燃料噴射時期制御手段は、前記燃料噴射時間(TOUT)が前記吸気圧ピーク期間(TPK11)より大きいときは、2以上の前記吸気圧ピーク期間において前記燃料噴射を実行することを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3の何れか1項に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置において、前記気体燃料は水素であることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4の何れか1項に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置において、前記機関の負荷(TRQE)を検出する負荷検出手段と、前記燃料噴射手段(21)の下流側に設けられた副燃料噴射手段(22)とを備え、前記燃料噴射時期制御手段は、前記機関負荷(TRQE)が所定負荷(TRQETH)より小さいときは、前記燃料噴射手段(21)のみを用いて燃料噴射を実行し、前記機関負荷(TRQE)が前記所定負荷(TRQETH)以上であるときは、前記燃料噴射手段(21)及び副燃料噴射手段(22)を用いて燃料噴射を実行し、前記副燃料噴射手段(22)の燃料噴射孔に加わる吸気圧(PID)が高圧側ピーク値をとる時期を含む副吸気圧ピーク期間(TPK21等)において前記副燃料噴射手段(22)による燃料噴射を実行することを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項1から4の何れか1項に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置において、前記機関の負荷(TRQE)を検出する負荷検出手段と、前記吸気圧を加圧する過給手段(8)とを備え、前記燃料噴射時期制御手段は、前記機関負荷(TRQE)が所定負荷(TRQETH)より小さいときのみ、前記吸気圧ピーク期間(TPK11等)における燃料噴射を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、燃料噴射手段の近傍に設けられた吸気圧検出手段により検出される吸気圧に基づいて、燃料噴射手段の燃料噴射孔に加わる吸気圧が高圧側ピーク値をとる時期を含む吸気圧ピーク期間が判定され、その吸気圧ピーク期間において燃料噴射が実行される。吸気圧ピーク期間に燃料噴射を実行することにより、行程が変化することによる吸気通路内の圧力変化周期より短い周期を有する吸気圧脈動の振幅を増加させ、脈動を利用して充填効率を向上させる脈動効果を増強することができる。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、吸気圧変化量が正の値から負の値に変化する時期を含み、吸気圧変化量の絶対値が所定値以下である期間が、吸気圧ピーク期間と判定されるので、吸気圧が高圧側のピーク値をとる時期を正確に判定することができる。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、機関の運転状態に応じた要求燃料量を噴射するための燃料噴射時間が算出され、この燃料噴射時間が吸気圧ピーク期間より大きいときは、2以上の吸気圧ピーク期間において燃料噴射が実行される。したがって、吸気圧ピーク期間が比較的短い機関運転状態においても、必要な燃料量を供給しつつ充填効率を高めることができる。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、気体燃料として水素が使用される。水素は、例えばCNG(圧縮天然ガス)と比べて、同等の機関出力を得るのに必要な燃料体積は約3倍となるため、充填効率の低下度合がCNGより大きくなる傾向がある。したがって、水素を燃料として使用する機関に、上記燃料噴射時期制御を適用することにより、充填効率を高めて機関出力性能を向上させることができる。
【0017】
請求項5に記載の発明によれば、機関負荷が所定負荷より小さいときは、燃料噴射手段のみを用いて燃料噴射が実行される一方、機関負荷が所定負荷以上であるときは、燃料噴射手段とともに副燃料噴射手段を用いて燃料噴射が実行される。副燃料噴射手段の燃料噴射孔に加わる吸気圧が高圧側ピーク値をとる時期を含む副吸気圧ピーク期間において、副燃料噴射手段による燃料噴射が実行される。したがって、比較的短期間のうちに要求燃料量を供給する必要がある高負荷運転状態において、必要な燃料量を供給しつつ充填効率を高めることができる。
【0018】
請求項6に記載の発明によれば、過給手段を備える機関においては、機関負荷が所定負荷より小さいときのみ、吸気圧ピーク期間における燃料噴射が実行される。低負荷運転状態では、過給手段による過給効果が小さくなるため、吸気圧ピーク期間における燃料噴射を実行することにより、充填効率を向上させることができる。一方、高負荷運転状態では過給効果によって充填効率を向上させ、通常の燃料噴射時期に燃料噴射を行うことにより、燃料噴射時期の制限を受けることなく必要な燃料量を確実に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態にかかる内燃機関及びその制御装置の構成を示す図である。
【図2】燃料噴射制御処理のフローチャートである。
【図3】図1に示す第1燃料噴射弁による燃料噴射を実行する処理のフローチャートである。
【図4】図1に示す第1及び第2燃料噴射弁による燃料噴射を実行する処理のフローチャートである。
【図5】燃料噴射の実行時期を説明するためのタイムチャートである。
【図6】本発明の効果を説明するためのタイムチャートである。
【図7】本発明の第2の実施形態にかかる内燃機関及びその制御装置の構成を示す図である。
【図8】燃料噴射制御処理(第2の実施形態)のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
[第1の実施形態]
図1は本発明の一実施形態にかかる内燃機関及びその制御装置の構成を示す図である。内燃機関(以下「エンジン」という)1は、例えば4気筒を有し、水素を燃料として使用するエンジンであり、吸気通路2及び排気通路4を備えている。吸気通路2の上流部には、吸気ノズル3が設けられ、排気通路4には排気を浄化するための三元触媒9が設けられている。
【0021】
三元触媒9の下流側と吸気ノズル3の下流側との間に排気還流通路5が設けられており、排気還流通路5には排気還流制御弁(以下「EGR弁」という)6及び還流排気クーラ7が設けられている。吸気ノズル3は、該吸気ノズル3より下流側の圧力を大気圧より若干低下させ、還流排気が排気還流通路5から吸気通路2に流入し易くするために設けられている。
【0022】
吸気通路2には、第1燃料噴射弁21及び第2燃料噴射弁22が各気筒に対応して設けられており、第2燃料噴射弁22は、第1燃料噴射弁21の下流側に配置されている。第1燃料噴射弁21及び第2燃料噴射弁22には、図示しない水素タンクから水素ガスが供給される。
【0023】
燃料噴射弁21及び22は、電子制御ユニット(以下「ECU」という)20に電気的に接続されており、各燃料噴射弁の開弁時期及び開弁時間、すなわち燃料噴射時期及び燃料噴射時間は、ECU20により制御される。またEGR弁6もECU20に接続されており、その動作がECU20により制御される。
【0024】
エンジン1の各気筒には点火プラグ(図示せず)が設けられており、点火プラグによる点火時期はECU20により制御される。
吸気通路2には、吸入ガス(空気と還流排気の混合ガス)の流量GINを検出するガス流量センサ31が設けられている。また第1燃料噴射弁21の近傍には、第1燃料噴射弁21の近傍における吸気圧PIを検出する吸気圧センサ32が各気筒に対応して設けられている。これらのセンサの検出信号は、ECU20に供給される。吸気圧センサ32は、より具体的には、第1燃料噴射弁21の燃料噴射孔を含み、吸入ガス流の方向に垂直な平面内に配置される。
【0025】
エンジン回転数(回転速度)NEを検出するエンジン回転数センサ33、及びエンジン1により駆動される車両のアクセルペダル(図示せず)の踏み込み量(以下「アクセルペダル操作量」という)APを検出するアクセルセンサ34がECU20に接続されており、これらのセンサの検出信号は、ECU20に供給される。エンジン回転数センサ33は、所定クランク角度(例えば6度)毎に発生するクランク角度パルス及びエンジン1の各気筒のピストンが上死点に位置するタイミングに同期して発生するTDCパルスをECU20に供給する。クランク角度パルスは、燃料噴射時期及び点火時期の制御に使用される。
【0026】
ECU20は、各種センサからの入力信号波形を整形し、電圧レベルを所定レベルに修正し、アナログ信号値をデジタル信号値に変換する等の機能を有する入力回路、中央演算処理ユニット(以下「CPU」という)、CPUで実行される各種演算プログラム及び演算結果等を記憶する記憶回路、燃料噴射弁21,22、EGR弁6などに駆動信号を供給する出力回路から構成される。
【0027】
ECU20は、エンジン運転状態(主としてエンジン回転数NE及び要求トルクTRQE)に応じて燃料噴射弁21,22による燃料噴射制御、EGR弁6による排気還流制御などを行う。要求トルクTRQEは、アクセルペダル操作量APに応じて算出され、アクセルペダル操作量APが増加するほど増加するように設定される。
【0028】
図2は、燃料噴射弁21,22を用いて燃料噴射を行う制御処理のフローチャートであり、この処理はECU20のCPUで実行される。
ステップS11では、アクセルペダル操作量AP及びエンジン回転数NEに応じて要求トルクTRQEを算出する。ステップS12では、要求トルクTRQEに応じて必要燃料量QFUELを算出し、必要燃料量QFUELを燃料噴射時間TOUTに変換する。
【0029】
ステップS13では、エンジン運転状態が低負荷かつ低回転状態であるか否かを判別する。すなわち、要求トルクTRQEが所定閾値TRQETHより小さく、かつエンジン回転数NEが所定回転数NETHより低いか否かを判別し、その答が肯定(YES)であるときは、図3に示す第1噴射実行制御により燃料噴射を実行する(ステップS14)。第1噴射実行制御では、第1燃料噴射弁21のみを用いた燃料噴射が行われる。
【0030】
一方ステップS13の答が否定(NO)、すなわち高負荷運転状態(TRQE≧TRQETH)または高回転運転状態(NE≧NETH)であるときは、吸気圧センサ32の検出信号に応じて遅れ時間TDLYPを算出する(ステップS15)。遅れ時間TDLYPは、吸気脈動の圧力波が第1燃料噴射弁21から第2燃料噴射弁22まで移動するのに要する時間であり、例えば、第1燃料噴射弁21から第2燃料噴射弁22までの距離DFVと吸気圧センサ32の検出信号のピーク間隔から求められる。ステップS16では、遅れ時間TDLYPを燃料噴射実行制御の実行周期TCALで離散化し、離散化遅れ時間kDLYを算出する。この演算では小数点以下の端数は例えば切り捨てる。なお、吸気脈動圧力波の速度はほぼ音速と等しくなるので、距離DFVと空気中の音速とを用いて遅れ時間TDLYPを算出するようにしてもよい。
【0031】
ステップS17では、図4に示す第2噴射実行制御により燃料噴射を実行する。第2噴射実行制御では、第1燃料噴射弁21及び第2燃料噴射弁22を使用して燃料噴射が行われる。
【0032】
図3は、第1燃料噴射実行制御処理のフローチャートである。この処理は、ECU20のCPUで所定時間TCAL毎に実行される。燃料噴射弁21の最小噴射時間は0.5msec程度であるので、所定時間TCALは、この最小噴射時間と、検出する吸気圧脈動の周期とを考慮して設定される。脈動周期は、例えば17msec(60Hz相当)程度である。
【0033】
ステップS21では、噴射完了フラグFINJENDが「1」であるか否かを判別する。最初はこの答は否定(NO)であるので、クランク角度位置CAが燃料噴射を実行すべき所定角度範囲RCAINJ内にあるか否かを判別する。所定角度範囲RCAINJは、例えば燃料噴射を行う気筒の排気行程の後半部及び吸気行程の前半部に設定される。
【0034】
ステップS23では、吸気圧センサ32により検出される吸気圧PIを下記式(1)に適用し、吸気圧変化量DPI(k)を算出する。ここで「k」は、所定時間TCALで離散化した離散化時刻である。
DPI(k)=PI(k)−PI(k-1) (1)
【0035】
ステップS24では、吸気圧変化量DPI(k)が「0」より大きいか否かを判別し、その答が肯定(YES)であるときは、吸気圧変化量DPI(k)が所定変化量DPIS以下であるか否かを判別する(ステップS25)。この答が肯定(YES)であるときは、吸気圧変化量の前回値DPI(k-1)が所定変化量DPIS以下であるか否かを判別する(ステップS26)。この答が否定(NO)であって、吸気圧変化量DPI(k)が所定変化量DPISより大きな状態から所定変化量DPIS以下の状態へ移行した直後であるときは、燃料噴射を開始し、噴射実行フラグFINJを「1」に設定する(ステップS27)。すなわち、吸気圧PIが高圧側ピーク値をとる時期の直前から燃料噴射が開始される。噴射実行フラグFINJが「1」に設定されると、燃料噴射実行時間を計測する噴射実行タイマTMINJのカウントアップが開始される。
【0036】
ステップS25の答が否定(NO)またはステップS26の答が肯定(YES)であるときは、噴射実行フラグFINJが「1」であるか否かを判別する(ステップS28)。ステップS28の答が否定(NO)であるときは、直ちに処理を終了し、FINJ=1であるときは、噴射実行タイマTMINJの値が燃料噴射時間TOUTより小さいか否かを判別する(ステップS33)。この答が肯定(YES)であるときは直ちに処理を終了する。したがって燃料噴射が継続される。一方、ステップS33で噴射実行タイマTMINJの値が燃料噴射時間TOUT以上であるときは燃料噴射を終了し、噴射実行フラグFINJを「0」に設定する(ステップS34)。その後ステップS35に進み、噴射完了フラグFINJENDを「1」に設定する。
【0037】
ステップS24の答が否定(NO)であって、吸気圧変化量DPI(k)が「0」以下であるときは、ステップS29に進み、噴射実行フラグFINJが「1」であるか否かを判別する。この答が否定(NO)であるとは直ちに処理を終了し、FINJ=1であるときは、吸気圧変化量DPI(k)の絶対値が所定変化量DPISより大きいか否かを判別する(ステップS30)。
【0038】
ステップS30の答が否定(NO)であるときは、ステップS33に進み、噴射実行タイマTMINJの値が燃料噴射時間TOUTより小さい間は燃料噴射を継続する。ステップS30の答が肯定(YES)であるときは、燃料噴射を終了し、噴射実行フラグFINJを「0」に戻す(ステップS31)。すなわち、吸気圧PIがピーク値をとる時期を過ぎて、変化量DPIの絶対値が所定変化量DPISを越えると、燃料噴射を終了する。
【0039】
ステップS32ではステップS33と同様に噴射実行タイマTMINJの値が燃料噴射時間TOUTより小さいか否かを判別し、その答が肯定(YES)であるときは直ちに処理を終了する。したがって、吸気圧PIが次に高圧側ピーク値をとる時期の近傍で再度燃料噴射が実行される。ステップS32の答が否定(NO)であるときは噴射完了フラグFINJENDを「1」に設定する(ステップS35)。
【0040】
噴射完了フラグFINJENDが「1」に設定されると、ステップS21からステップS41に進み、ステップS22と同じ判別を行う。ステップS41の答が肯定(YES)である間は直ちに処理を終了し、否定(NO)となると噴射完了フラグFINJENDを「0」に戻す(ステップS42)。
【0041】
図3の処理によれば、図5(a)に示すように脈動する吸気圧PIの高圧側ピーク値PIP1,PIP2,PIP3,…を含む吸気圧ピーク期間TPK11,TPK12,TPK13,…において、燃料噴射が実行される。TOUT≦TPK11であるときは、最初の吸気圧ピーク期間TPK1内に燃料噴射が終了し、TPK11<TOUT≦(TPK11+TPK12)であるときは、吸気圧ピーク期間TPK12において、燃料噴射が終了する。TOUT>(TPK11+TPK12)であるときは、吸気圧ピーク期間TPK13においても燃料噴射が実行される。
【0042】
図4は、第2燃料噴射実行制御処理のフローチャートであり、この処理はECU20のCPUで所定時間TCAL毎に実行される。この処理では、図2のステップS12で算出される燃料噴射時間TOUTの1/2に相当する燃料噴射を第1燃料噴射弁21により実行し、残りの1/2に相当する燃料噴射を第2燃料噴射弁22により実行する。
【0043】
ステップS51及びS52では、燃料噴射時間TOUTを1/2にして図3に示す第1燃料噴射実行制御処理を実行する。これにより、必要燃料量QFUELの1/2に相当する燃料が噴射される。
【0044】
ステップS53では、第2燃料噴射弁22の近傍の吸気圧を示す遅延吸気圧PID(i)(「i」は「k」と同様に所定時間TCALで離散化した離散化時刻である)を、吸気圧PI(k-kDLY)に設定する。ステップS54では、遅延吸気圧PID(i)を図3の処理と同様の処理に適用して、第2燃料噴射弁22による燃料噴射を実行する。
【0045】
図4の処理によれば、第1燃料噴射弁21による燃料噴射は、図5(a)に示す吸気圧ピーク期間TPK1,TPK2,TPK3,…において実行され、第2燃料噴射弁22による燃料噴射は図5(b)に示す吸気圧ピーク期間TPK21,TPK22,TPK23,…において実行される。
【0046】
図6は、吸気圧PIの推移を示すタイムチャートであり、破線が通常の燃料噴射(吸気圧の脈動を考慮せずに、吸気行程において1回の燃料噴射)を行った場合に対応し、実線が本実施形態の燃料噴射(第1燃料噴射弁21のみによる燃料噴射)を行った場合に対応する。本実施形態の燃料噴射によれば、この図に示すように、吸気脈動の振幅が増加し、充填効率を向上させることができる。
【0047】
以上のように本実施形態では、第1燃料噴射弁21の近傍に設けられた吸気圧センサ32により検出される吸気圧PIに基づいて、第1燃料噴射弁21の近傍の(燃料噴射孔に加わる)吸気圧が高圧側ピーク値をとる時期を含む吸気圧ピーク期間(TPK11,TPK12等)が判定され、その吸気圧ピーク期間において燃料噴射が実行される。吸気圧ピーク期間に燃料噴射を実行することにより、燃料噴射を行う気筒の行程が変化することによる吸気通路内の圧力変化周期より短い周期を有する吸気圧脈動の振幅を増加させ、充填効率を向上させることができる。充填効率を高めることにより、体積容量の大きい水素燃料に押し出されていた分の空気が充填されることとなり、空燃比を適切な値まで増加させて燃焼温度を低下させ、NOx排出量を低減する効果、あるいは充填される燃料供給量を増加させて機関出力を適切な値まで高める効果が得られる。
【0048】
また図3に示す処理により、吸気圧変化量DPIが正の値から負の値に変化する時期を含み、吸気圧変化量DPIの絶対値が所定変化量DPIS以下である期間が、吸気圧ピーク期間と判定されるので、吸気圧PIが高圧側のピーク値をとる時期を正確に判定することができる。
【0049】
また燃料噴射時間TOUTが吸気圧ピーク期間TPK11より大きいときは、2以上の吸気圧ピーク期間において燃料噴射が実行されるので、吸気圧ピーク期間が比較的短いエンジン運転状態においても、必要な燃料量を供給しつつ充填効率を高めることができる。
【0050】
また本実施形態で燃料として使用される水素は、例えばCNG(圧縮天然ガス)と比べて、同等のエンジン出力を得るのに必要な燃料体積は約3倍となるため、充填効率の低下度合がCNGより大きくなる傾向がある。したがって、水素を燃料として使用するエンジンに、本実施形態の燃料噴射時期制御を適用することにより、顕著な充填効率向上効果を得ることができる。
【0051】
さらに要求トルクTRQEが所定閾値TRQETHより小さい低負荷運転状態では、第1燃料噴射弁21のみを用いて燃料噴射が実行される一方、要求トルクTRQEが所定閾値TRQETH以上である高負荷運転状態では、第1燃料噴射弁21とともに第2燃料噴射弁22を用いて燃料噴射が実行される。このとき、第2燃料噴射弁22の近傍の(燃料噴射孔に加わる)吸気圧(遅延吸気圧PID)が高圧側ピーク値をとる時期を含む吸気圧ピーク期間(TPK21,TPK22等)において、第2燃料噴射弁22による燃料噴射が実行される。したがって、比較的短期間のうちに要求燃料量を供給する必要がある高負荷運転状態において、必要な燃料量を供給しつつ充填効率を高めることができる。第2燃料噴射弁22による燃料噴射は、第1燃料噴射弁21による燃料噴射によって振幅が増幅された脈動の吸気圧ピーク期間において実行されるため、より顕著な振幅増幅効果及び充填効率向上効果を得ることができる。
【0052】
また燃料噴射を実行する所定角度範囲RCAINJは、排気弁の開弁期間と吸気弁の開弁期間が重複するオーバラップ期間とすることに望ましく、そのような設定により充填効率の向上効果を高めることができる。
【0053】
本実施形態では、第1燃料噴射弁21及び第2燃料噴射弁22がそれぞれ燃料噴射手段及び副燃料噴射手段に相当し、吸気圧センサ32が、吸気圧検出手段に相当し、アクセルセンサ34が負荷検出手段の一部を構成し、ECU20が燃料噴射時期制御手段、燃料噴射時間算出手段、及び負荷検出手段の一部を構成する。具体的には、図2のステップS11が負荷検出手段の一部に相当し、ステップS12が燃料噴射時間算出手段に相当し、ステップS13〜S17,図3及び図4の処理が燃料噴射時期制御手段に相当する。
【0054】
[第2の実施形態]
本実施形態は、ターボチャージャを備えるエンジンの燃料噴射制御を、第1の実施形態と同様の手法で実行するようにしたものである。以下に説明する点以外は第1の実施形態と同一である。
【0055】
図7は、本実施形態におけるエンジン及びその制御装置の構成を示す図である。
エンジン1はターボチャージャ8を備えており、ターボチャージャ8は、排気の運動エネルギにより回転駆動されるタービンホイール10を有するタービン11と、タービンホイール10とシャフト14を介して連結されたコンプレッサホイール15を有するコンプレッサ16とを備えている。コンプレッサホイール15は、エンジン1に吸入される空気の加圧(圧縮)を行う。吸気通路2のコンプレッサ16の下流側にはインタークーラ18が設けられている。
本実施形態では、吸気通路2には第1燃料噴射弁21のみが設けられている。
【0056】
図8は、本実施形態における燃料噴射制御処理のフローチャートである。この処理は、図2に示す処理のステップS15〜S17をステップS61に代えたものである。
ステップS61では、通常噴射実行制御が行われる。通常噴射実行制御では、例えば、吸気圧脈動を考慮せずに吸気行程において1回の燃料噴射(燃料噴射時間TOUT)が実行される。
【0057】
本実施形態では、エンジン1がターボチャージャ8を備えており、高負荷または高回転運転状態では通常の燃料噴射実行制御が行われる一方、低負荷かつ低回転運転状態では、第1の実施形態に示した第1燃料噴射実行制御が行われ、吸気圧ピーク期間において燃料噴射が実行される。低負荷低回転運転状態では、ターボチャージャ8による過給効果が小さくなるため、吸気圧ピーク期間における燃料噴射を実行することにより、充填効率を向上させることができる。一方、高負荷または高回転運転状態ではターボチャージャ8の過給効果によって充填効率を向上させ、通常の燃料噴射時期に燃料噴射を行うことにより、燃料噴射時期の制限を受けることなく必要な燃料量を確実に供給することができる。
【0058】
本実施形態では、ターボチャージャ8が過給手段に相当する。
【0059】
なお本発明は上述した実施形態に限るものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上述した実施形態では、気体燃料として水素を使用する例を示したが、本発明は特許文献1に示されるようにLPGを気化させた状態で噴射する燃料噴射装置、あるいはCNGを気体燃料として使用する燃料噴射装置にも適用可能である。
【0060】
また上述した第1の実施形態では、第1及び第2燃料噴射弁21,22をともに使用する場合に、燃料噴射時間TOUTを2等分して各燃料噴射弁を駆動する例を示したが、燃料噴射時間TOUTを分割する比率は1:1に限らず、他の比率に設定してもよい。
【0061】
また本発明は、クランク軸を鉛直方向とした船外機などのような船舶推進機用エンジンなどの燃料噴射制御にも適用が可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 内燃機関
2 吸気通路
8 ターボチャージャ(過給手段)
20 電子制御ユニット(燃料噴射時期制御手段、燃料噴射時間算出手段、負荷検出手段)
21 第1燃料噴射弁(燃料噴射手段)
22 第2燃料噴射弁(副燃料噴射手段)
32 吸気圧センサ(吸気圧検出手段)
33 エンジン回転数センサ
34 アクセルセンサ(負荷検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の吸気通路に気体燃料を噴射する燃料噴射手段を備える内燃機関の燃料噴射制御装置において、
前記燃料噴射手段の近傍に設けられ、前記吸気通路内の吸気圧を検出する吸気圧検出手段と、
前記燃料噴射手段の燃料噴射孔に加わる吸気圧が高圧側ピーク値をとる時期を含む吸気圧ピーク期間を、前記吸気圧検出手段により検出される吸気圧に基づいて判定し、該吸気圧ピーク期間において燃料噴射を実行する燃料噴射時期制御手段とを備えることを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項2】
前記燃料噴射時期制御手段は、前記吸気圧の変化量が正の値から負の値に変化する時期を含み、前記変化量の絶対値が所定値以下である期間を、前記吸気圧ピーク期間と判定することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項3】
前記機関の運転状態に応じた要求燃料量を噴射するための燃料噴射時間を算出する燃料噴射時間算出手段を備え、
前記燃料噴射時期制御手段は、前記燃料噴射時間が前記吸気圧ピーク期間より大きいときは、2以上の前記吸気圧ピーク期間において前記燃料噴射を実行することを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項4】
前記気体燃料は、水素であることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項5】
前記機関の負荷を検出する負荷検出手段と、
前記燃料噴射手段の下流側に設けられた副燃料噴射手段とを備え、
前記燃料噴射時期制御手段は、前記機関負荷が所定負荷より小さいときは、前記燃料噴射手段のみを用いて燃料噴射を実行し、前記機関負荷が前記所定負荷以上であるときは、前記燃料噴射手段及び副燃料噴射手段を用いて燃料噴射を実行し、前記副燃料噴射手段の燃料噴射孔に加わる吸気圧が高圧側ピーク値をとる時期を含む副吸気圧ピーク期間において前記副燃料噴射手段による燃料噴射を実行することを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項6】
前記機関の負荷を検出する負荷検出手段と、
前記吸気圧を加圧する過給手段とを備え、
前記燃料噴射時期制御手段は、前記機関負荷が所定負荷より小さいときのみ、前記吸気圧ピーク期間における燃料噴射を実行することを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−225265(P2012−225265A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94001(P2011−94001)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】