内燃機関の空燃比制御装置
【課題】フレキシブルフューエルビークルにおいて、内燃機関の停止時までにアルコール濃度補正学習値が収束しなかった場合の次回機関始動時に生じる不具合を防止する空燃比制御装置を提供する。
【解決手段】三元触媒20の上流排気通路内に配置された空燃比センサ23を具備し、空燃比センサの出力値に基づいて燃料供給量を補正するフィードバック制御と、アルコール濃度補正学習値を学習するアルコール濃度補正学習制御とを実行し、アルコール濃度補正学習値が収束したことを予め定められた少なくとも一つの収束判定条件に基づいて判定し、アルコール濃度補正学習値が収束する前に機関が停止した場合には、機関始動時におけるアルコール濃度補正学習値の初期値を、前回の内燃機関停止時においてフィードバック補正値とアルコール濃度補正学習値とから求められていたアルコール濃度補正学習値収束先推定値に設定する。
【解決手段】三元触媒20の上流排気通路内に配置された空燃比センサ23を具備し、空燃比センサの出力値に基づいて燃料供給量を補正するフィードバック制御と、アルコール濃度補正学習値を学習するアルコール濃度補正学習制御とを実行し、アルコール濃度補正学習値が収束したことを予め定められた少なくとも一つの収束判定条件に基づいて判定し、アルコール濃度補正学習値が収束する前に機関が停止した場合には、機関始動時におけるアルコール濃度補正学習値の初期値を、前回の内燃機関停止時においてフィードバック補正値とアルコール濃度補正学習値とから求められていたアルコール濃度補正学習値収束先推定値に設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内燃機関の空燃比制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンの他にアルコールとガソリンの各種組成の混合燃料でも走行可能な、いわゆるフレキシブルフューエルビークル(FFV)と称される自動車がある。アルコールは、通常のガソリンと比べてC(炭素)原子の含有量が異なるため、フレキシブルフューエルビークルに用いられる内燃機関にアルコールとガソリンの混合燃料を供給するにあたっては、燃料内のアルコール濃度に従って燃料供給量を調整する必要がある。
【0003】
ところで、内燃機関本体から排出された排気ガス中には炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)及び窒素酸化物(NOx)等の成分が含まれており、従来からこれら成分を浄化するために三元触媒が利用されている。三元触媒は排気ガスの空燃比(以下、「排気空燃比」と称す)が略理論空燃比となっているときにその浄化能力が高くなることから、三元触媒によって排気ガスの浄化を行う際には排気空燃比が略理論空燃比となるように燃焼室への燃料供給量等を制御する必要がある。
【0004】
従って、フレキシブルフューエルビークルにおいて、三元触媒の上流排気通路内に排気空燃比を検出することができる空燃比センサを設け、排気空燃比が燃料内のアルコール濃度に応じて定まる理論空燃比になるように、燃焼室への燃料供給量を調整するフィードバック制御を行う空燃比制御装置が公知である(特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2004−308540号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、フレキシブルフューエルビークルにおいては、燃料中のアルコール濃度に応じて燃料供給量を調整するためのアルコール濃度補正学習値を算出するアルコール濃度補正学習制御を行うことが考えられる。
【0007】
しかし、アルコール濃度学習制御が完了する前、即ちアルコール濃度補正学習値が収束する前に内燃機関の運転が停止されると、次回機関始動時には前回運転停止時の収束しなかったアルコール濃度補正学習値が用いられて燃料供給量が補正されてしまうため、燃料不足によって生じる機関が始動せず停止してしまう始動不良や、燃料過多によって生じるノッキング等の問題が発生する場合がある。即ち、アルコール濃度補正学習値が収束しなかった値を用いて補正されるということは、供給される燃料量が供給すべき量より多すぎたり少なすぎたりする恐れがある。
【0008】
そこで本発明は、フレキシブルフューエルビークルにおいて、内燃機関の停止時までにアルコール濃度補正学習値が収束しなかった場合の次回機関始動時に生じる不具合を防止する内燃機関の空燃比制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために請求項1に記載の発明によれば、燃料としてアルコールとガソリンとをそれぞれ単独で又は混合して使用可能な内燃機関の空燃比制御装置であって、機関排気通路内に設けられた排気浄化触媒の上流排気通路内に配置され排気ガスの空燃比を検出する空燃比センサと、該空燃比センサの出力値が目標空燃比に対応する値となるようにフィードバック補正値に基づいて燃料供給量を補正するフィードバック手段と、前記フィードバック補正値に基づいて算出されたアルコール濃度補正学習値を学習すると共にそれに基づいて前記燃料供給量を補正するアルコール濃度補正学習手段とを具備する内燃機関の空燃比制御装置において、前記アルコール濃度補正学習値が収束したことを予め定められた少なくとも一つの収束判定条件に基づいて判定する収束判定手段と、前記フィードバック補正値と前記アルコール濃度補正学習値とに基づき該アルコール濃度補正学習値が収束すると推定される値であるアルコール濃度補正学習値収束先推定値を求める手段とを更に具備し、前回の内燃機関停止時にアルコール濃度補正学習値が収束していないと判定されていたとき、今回の内燃機関始動時における前記アルコール濃度補正学習値の初期値を、前回の内燃機関停止時に求められていた前記アルコール濃度補正学習値収束先推定値とする内燃機関の空燃比制御装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、フレキシブルフューエルビークルにおいて、内燃機関の停止時までにアルコール濃度補正学習値が収束しなかった場合に、その学習値よりは真の値に近いと考えられるアルコール濃度補正学習値収束先推定値を次回機関始動時のアルコール濃度補正学習値とすることで、始動時の不具合の発生を防止するという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、燃料としてアルコールとガソリンとをそれぞれ単独で又は混合して使用可能な本発明の内燃機関の空燃比制御装置について説明する。図1は本発明の制御装置が搭載される内燃機関全体の図である。図1に示した実施形態では本発明の空燃比制御装置が筒内直噴型火花点火式内燃機関に用いられた場合を示しているが、他の火花点火式内燃機関や圧縮自着火式内燃機関等にも用いることができる。
【0012】
図1を参照すると1は機関本体、2はシリンダブロック、3はシリンダブロック2内で往復動するピストン、4はシリンダブロック2上に固定されたシリンダヘッド、5はピストン3とシリンダヘッド4との間に形成された燃焼室、6は吸気弁、7は吸気ポート、8は排気弁、9は排気ポートをそれぞれ示す。図1に示したようにシリンダヘッド4の内壁面の中央部には点火プラグ10が配置され、シリンダヘッド4内壁面周辺部には燃料噴射弁11が配置される。またピストン3の頂面上には燃料噴射弁11の下方から点火プラグ10の下方まで延びるキャビティ12が形成されている。
【0013】
各気筒の吸気ポート7はそれぞれ対応する吸気枝管13を介してサージタンク14に連結され、サージタンク14は吸気管15を介してエアクリーナ(図示せず)に連結される。吸気管15内にはエアフロメータ16が配置されると共にステップモータ17によって駆動されるスロットル弁18が配置される。一方、各気筒の排気ポート9は排気マニホルド19に連結され、この排気マニホルド19は三元触媒20を内蔵した触媒コンバータ21に連結される。触媒コンバータ21の出口は排気管22に連結される。排気マニホルド19、即ち排気浄化触媒20上流側の排気通路内には空燃比センサ23が配置される。アルコールを含む燃料は燃料タンク24に貯蔵され、燃料供給管を介して電子制御式の吐出量可変な燃料ポンプ25によって燃料噴射弁11へ供給され、噴射される。また、本実施形態では、排気浄化触媒として三元触媒20を用いているが、酸素吸蔵能力を有していれば、他のタイプの触媒、例えばNOx吸蔵還元触媒、リーンNOx触媒、DPNR等を用いてもよい。更に、空燃比センサ23の代わりに、排気ガスの空燃比が理論空燃比よりもリッチであるかリーンであるかによって大きく異なる出力電圧を発生する酸素センサを用いてもよい。
【0014】
電子制御ユニット31はディジタルコンピュータからなり、双方向性バス32を介して相互に接続されたRAM(ランダムアクセスメモリ)33、ROM(リードオンリメモリ)34、CPU(マイクロプロセッサ)35、バックアップRAM36、入力ポート37及び出力ポート38を具備する。バックアップRAM36は常時電源に接続されており、車両のイグニッションスイッチを切っても記憶した内容を保存することが可能である。従って、後述する学習値等を保存するために使用される。
【0015】
エアフロメータ16は吸入空気流量に比例した出力電圧を発生し、その出力電圧は対応するAD変換器39を介して入力ポート37に入力される。また、空燃比センサ23は、図2に示したように、排気マニホルド19内を通過する排気ガス中の酸素濃度に基づいて、斯かる排気ガスの空燃比に略比例した出力電圧を発生する。出力電圧は対応するAD変換器39を介して入力ポート37に入力される。更に、開閉センサ28の出力信号は対応するAD変換器39を介して入力ポート37に入力される。
【0016】
また、アクセルペダル41にはアクセルペダル41の踏込み量に比例した出力電圧を発生する負荷センサ42が接続され、負荷センサ42の出力電圧は対応するAD変換器39を介して入力ポート37に入力される。クランク角センサ43は例えばクランクシャフトが30度回転する毎に出力パルスを発生し、この出力パルスが入力ポート37に入力される。CPU35ではこのクランク角センサ43の出力パルスから機関回転数Neが計算される。一方、出力ポート38は対応する駆動回路39を介して点火プラグ10、燃料噴射弁11、ステップモータ17及び燃料ポンプ25に接続される。
【0017】
上述した三元触媒20は、酸素吸蔵能力を有しており、これにより三元触媒20に流入する排気ガスの空燃比がリーンであるときには排気ガス中の酸素を吸蔵すると共に、三元触媒20に流入する排気ガスの空燃比がリッチであるときには吸蔵している酸素を放出することにより排気ガス中に含まれるHC、COを酸化・浄化する。
【0018】
このような三元触媒20の酸素吸蔵能力を効果的に利用するためには、排気ガスの空燃比がその後リッチ及びリーンのいずれになっても排気ガスを浄化することができるように、三元触媒20中に吸蔵されている酸素の量を所定量(例えば、最大酸素吸蔵量の半分)に維持することが必要である。三元触媒20の酸素吸蔵量が上記所定量に維持されていれば、三元触媒20は常に或る程度の酸素吸蔵作用及び酸素放出作用を発揮することが可能であり、結果として三元触媒20により常に排気ガス中の成分の酸化・還元を行うことができるようになる。このため、本実施形態では、三元触媒20による排気浄化性能を維持すべく、三元触媒の酸素吸蔵量を一定に維持するように空燃比制御を行うこととしている。
【0019】
そこで、本実施形態では、三元触媒20よりも上流排気通路内に配置された空燃比センサ23によって排気空燃比(三元触媒20上流側の排気通路、燃焼室5及び吸気通路に供給された空気と燃料との比率)を検出すると共に、空燃比センサ23の出力値が理論空燃比に対応した値となるように燃料噴射弁11からの燃料供給量についてフィードバック制御を行うこととしている。これにより、排気空燃比は理論空燃比付近に維持され、その結果三元触媒の酸素吸蔵量が一定に維持され、よって排気エミッションを改善することができる。
【0020】
以下、フィードバック制御について具体的に説明する。まず、本実施形態では、燃料噴射弁11から各気筒へと供給すべき燃料量(以下、「目標燃料供給量」と称す)Qft(n)は下記式(1)によって算出される。
Qft(n)=Mc(n)/AFT+DQf(n−1) …(1)
【0021】
ここで、上記式(1)においてnはECU31における計算回数を示す値であり、例えばQft(n)は第n回目の計算によって算出された目標燃料供給量を表している。また、Mc(n)は、吸気弁6の閉弁時までに各気筒の筒内に吸入されたと予想される空気量(以下、「筒内吸入空気量」と称す)を示している。筒内吸入空気量Mc(n)を算出するために、例えば機関回転数Neと吸気管15内を通過した空気の流量(以下、「吸気管通過空気流量」と称す)mtとを引数としたマップ又は計算式を予め実験的に又は計算によって求め、このマップ又は計算式をROM34に保存する。そして、機関運転中に検出された機関回転数Ne及び吸気管通過空気流量mtに基づいて上記マップ又は計算式により筒内吸入空気量Mc(n)が算出される。
【0022】
また、AFTは、排気空燃比の目標値を示し、本実施形態では燃料中のアルコール濃度に応じて変化する理論空燃比とする。理論空燃比における出力電圧は、そのアルコール濃度にかかわらず一定の値V0を示す(図2参照)。即ち、例えば或るアルコール濃度における理論空燃比がAFTである場合において、給油等によってアルコール濃度が変化して理論空燃比がAFT’になったとする。その場合においてもアルコール濃度変化後の理論空燃比に相当する出力電圧はV0のままであり、略比例した出力電圧の傾向も同様の傾向のまま破線のようにシフトする。従って、図3に示されるように、アルコール濃度補正学習値FALCを用いて、それと理論空燃比AFTとのマップ又は計算式から燃料中のアルコール濃度に応じた理論空燃比AFTを求めることができる。
【0023】
アルコール濃度補正学習値FALCは、燃料中のアルコール濃度に応じて基本燃料噴射量Qbを補正するための学習値であり、詳細は後述する。図3を参照すると、例えば、E0(燃料中のアルコール濃度が0%)のとき、アルコール濃度補正学習値FALCが1.0であり、理論空燃比は14.7となる。また、E85(85%のエタノール混合燃料)のとき、アルコール濃度補正学習値FALCが1.4であり、理論空燃比は10.0となる。
【0024】
そして、DQfは、後述するフィードバック制御に関して算出される燃料補正量を示す。燃料噴射弁11では、このように上記式(1)によって算出された目標燃料供給量に対応する量の燃料が噴射される。
【0025】
なお、上記説明では、筒内吸入空気量Mc(n)は、機関回転数Neと吸気管通過空気流量mtとを引数としたマップ等に基づいて算出されるとしているが、例えばスロットル弁18の開度及び大気圧等に基づいた計算式等、他の方法によって求められてもよい。
【0026】
図4は、燃料噴射弁11からの目標燃料供給量Qft(n)を算出する目標燃料供給量算出制御操作のフローチャートである。この操作はECU31によって予め定められた所定時間毎の割り込みによって実行されるルーチンとして行われる。
【0027】
まず、ステップ101において、クランク角センサ43及びエアフロメータ16によって機関回転数Ne及び吸気管通過空気流量mtが検出される。次いで、ステップ102では、後述するアルコール濃度補正学習値FALCがバックアップRAM36より読み込まれる。次いで、ステップ103では、ステップ101において検出された機関回転数Ne及び吸気管通過空気流量mtに基づいてマップにより又は計算式により第n回目の計算時における筒内吸入空気量Mc(n)が算出される。次いで、ステップ104では、ステップ102において読み込まれたアルコール濃度補正学習値FALCに基づいて図3に示されるマップにより、燃料中のアルコール濃度に応じた理論空燃比AFTが算出される。
【0028】
次いで、ステップ105では、ステップ103で算出された筒内吸入空気量Mc(n)及び後述するフィードバック制御操作において算出された第n−1回目の計算時における燃料補正量DQf(n−1)に基づいて上記式(1)により目標燃料供給量Qft(n)が算出され、ルーチンを終了する。燃料噴射弁11からは、このように算出された目標燃料供給量Qft(n)に相当する量の燃料が噴射される。
【0029】
次に、フィードバック制御について説明する。本実施形態では、フィードバック制御として、空燃比センサ23の出力に基づいて算出された実際の燃料供給量と、上述した目標燃料供給量Qftとの燃料偏差量ΔQfを計算回数毎に算出し、この燃料偏差量ΔQfがゼロになるように燃料補正量DQfを算出している。具体的には、燃料補正量DQfは下記式(2)により算出される。なお、下記式(2)においてDQf(n−1)は、第n−1回目の計算、即ち前回の計算における燃料補正量であり、Kmpは比例ゲイン、Kmiは積分ゲインをそれぞれ示している。これら比例ゲインKmp、積分ゲインKmiは予め定められた一定の値であってもよいし、機関運転状態に応じて変化する値であってもよい。
【数1】
【0030】
図5は、燃料補正量DQfを算出するフィードバック制御操作のフローチャートである。この操作はECU31によって予め定められた所定時間毎の割り込みによって実行されるルーチンとして行われる。
【0031】
まず、ステップ111では、フィードバック制御の実行条件が成立しているか否かが判定される。フィードバック制御の実行条件が成立している場合とは、例えば内燃機関の冷間始動中ではないこと(即ち、機関冷却水温が一定温度以上であって始動時燃料増量等が行われていないこと)や、機関運転中に燃料噴射弁からの燃料噴射を停止する燃料カット制御中ではないこと等が挙げられる。ステップ111においてフィードバック制御の実行条件が成立していると判定された場合には、ステップ112へと進む。一方、ステップ111においてフィードバック制御の実行条件が成立していないと判定された場合には、ルーチンを終了し、フィードバック制御は実行されない。
【0032】
ステップ112では、第n回目の計算時における空燃比センサ23の出力値VAF(n)が検出される。次いで、ステップ113では、前述のようにアルコール濃度補正学習値FALCと図3から求められたAFTが読み込まれる。次いで、ステップ114では、ステップ112で検出された出力値VAF(n)及びステップ113で読み込まれたAFTに基づいて図2に示したマップを用いて第n回目の計算時における実空燃比AFR(n)が算出される。このようにして算出された実空燃比AFR(n)は、第n回目の計算時における三元触媒20に流入する排気ガスの実際の空燃比に略一致した値となっている。
【0033】
次いで、ステップ115では、下記式(3)により、空燃比センサ23の出力に基づいて算出された燃料供給量と目標燃料供給量Qftとの燃料偏差量ΔQfが算出される。なお、下記式(3)において、筒内吸入空気量Mc及び目標燃料供給量Qftについては第n回目の計算時における値が用いられているが、第n回目の計算時よりも前の値が用いられてもよい。
ΔQf(n)=Mc(n)/AFR(n)−Qft(n) …(3)
【0034】
ステップ116では、上記式(2)により第n回目の計算時における燃料補正量DQf(n)が算出され、ルーチンを終了する。算出された燃料補正量DQf(n)は、図4に示した操作のステップ105において用いられる。
【0035】
次に、アルコール濃度補正学習制御について図6(A)から(C)を参照しながら説明する。まず、図6(A)に示される実線は、フィードバック制御によるフィードバック補正値FAFを示し、破線は、フィードバック補正値FAFに対して、例えばローパスフィルタ等によるなまし処理(平滑化処理)を施したフィードバック補正なまし値FAFSMを示す。
【0036】
ここで、フィードバック補正値FAFとは、以下の式(4)に基づいて算出される燃料噴射量Qftを算出する際に、基本燃料噴射量Qbをフィードバック補正するための係数である。また、FALCはアルコール濃度補正学習値であり、燃料中のアルコール濃度に応じて基本燃料噴射量Qbを補正するための学習値である。アルコール濃度補正学習値FALCはバックアップRAM36に保存される。
Qft=Qb・(1+FALC)+Qb・FAF …(4)
【0037】
上記式(4)と、上記式(1)と同様の以下の式(5)とは、燃料噴射量Qftを算出する同じ式を表し、第一項及び第二項はそれぞれの式で対応している。
Qft=Mc/AFT+DQf …(5)
【0038】
従って、フィードバック補正値FAFと燃料補正量DQfとの関係は、上記式(4)及び式(5)それぞれの第二項より、式(6)のように表される。以下、フィードバック補正値FAFを用いて本発明による実施形態を説明する。
FAF=DQf/Qb …(6)
【0039】
図6(B)に示される実線はアルコール濃度補正学習値FALCを示し、破線は、アルコール濃度補正学習値FALCが最終的に収束するであろうと推定される推定値であるアルコール濃度補正学習値収束先推定値FALCESTを示す。
【0040】
図6(A)及び図6(B)に示されるように、アルコール濃度補正学習制御は、一定間隔毎に実行され、実行時点におけるフィードバック補正なまし値FAFSMの値分だけ、フィードバック補正値FAFを減少させると共にアルコール濃度補正学習値FALCを増加させ、フィードバック補正なまし値FAFSMをゼロにリセットしている。アルコール濃度補正学習制御を繰り返すことによって、アルコール濃度補正学習値FALCが、燃料中のアルコール濃度に適した補正値へと徐々に近づく。
【0041】
図8及び図9は、アルコール濃度補正学習値FALCを算出すると共にそれが収束したか否かを判定し、アルコール濃度補正学習値収束フラグをセットするアルコール濃度補正学習制御操作を示すフローチャートである。この操作はECU31によって予め定められた所定時間毎の割り込みによって実行されるルーチンとして行われる。
【0042】
図8を参照すると、まず、ステップ121では、フィードバック補正値FAFが読み込まれる。次いで、ステップ122では、ステップ121で読み込んだFAFに対してなまし処理を施し、フィードバック補正なまし値FAFSMを算出する。次いで、ステップ123では、時間カウンタCNTがインクリメントされる。次いで、ステップ124では、ステップ123でインクリメントされた時間カウンタCNTが、アルコール濃度補正学習制御実行間隔CNTsadg以上であるか否かが判定される。ここで、時間カウンタCNTが、アルコール濃度補正学習制御実行時間CNTsadg以上であるならば、アルコール濃度補正学習制御を行うべく、ステップ125に進む。一方、ステップ124において、時間カウンタCNTがアルコール濃度補正学習制御実行時間CNTsadgよりも小さい場合、アルコール濃度補正学習制御及びアルコール濃度補正学習値収束判定を行うことなくルーチンを終了する。
【0043】
次に、ステップ125、126で行われるアルコール濃度補正学習制御について説明する。ステップ125において、アルコール濃度補正学習値FALCは、その前回値に対してフィードバック補正なまし値FAFSMを加算することで算出される。それと同時に、フィードバック補正値FAFは、その前回値に対してアルコール濃度補正学習値FALCに加算した分のフィードバック補正なまし値FAFSMを減算することで算出される。その後、ステップ126へと進む。ステップ126では、フィードバック補正なまし値FAFSMをゼロにリセットし、ステップ127に進む。次いで、ステップ127では、アルコール濃度補正学習回数Ngがインクリメントされる。
【0044】
次いで、図8のステップ127においてアルコール濃度補正学習回数Ngがインクリメントされた後、図9のステップ131に進む。次いで、ステップ131からステップ133は、図6(B)に破線で示されるアルコール濃度補正学習値収束先推定値FALCESTを求めるための処理である。
【0045】
まず、ステップ131において、アルコール濃度補正学習値FALCから機関始動時のアルコール濃度補正学習値FALCの初期値FALCINT(即ち、前回の機関停止時のアルコール濃度補正学習値FALC)を減算し、初期値FALCINTからの現在のアルコール濃度補正学習値FALCの変化量ΔFALCを算出する。
【0046】
次いで、ステップ132において、フィードバック補正値FAFにアルコール濃度補正学習値FALCの変化量ΔFALCを加算した値、即ち、アルコール濃度補正学習制御を行わなかったと仮定した場合のフィードバック補正値とアルコール濃度補正学習回数Ngとを引数としたマップ又は計算式より、アルコール濃度補正学習値FALCの初期値FALCINTからのアルコール濃度補正学習値収束先推定値FALCESTの変化量ΔFALCESTを求める。このマップ又は計算式は予め実験的に又は計算によって求められ、ROM34に保存されている。
【0047】
図11は変化量ΔFALCESTを求める上記マップの例を示しており、横軸をアルコール濃度補正学習回数Ngとし、縦軸をアルコール濃度補正学習値収束先推定値FALCESTの変化量ΔFALCESTとして、各曲線はFAF+ΔFACLの値に応じた傾向を示している。FAF+ΔFACLの値が大きいほど、また、アルコール濃度補正学習回数Ngが大きいほど、変化量ΔFALCESTは大きい値を示している。
【0048】
次いで、ステップ133に進んで、アルコール濃度補正学習値FALCの初期値FALCINTに、ステップ132で求めたアルコール濃度補正学習値収束先推定値FALCESTの変化量ΔFALCESTを加算し、アルコール濃度補正学習値収束先推定値FALCESTを算出し、ステップ134に進む。
【0049】
ステップ134では、アルコール濃度補正学習回数Ngがアルコール濃度補正学習値収束判定回数Ngsfbg以上であるか否かが判定される。即ち、アルコール濃度補正学習回数Ngが予め定められたアルコール濃度補正学習値収束判定回数Ngsfbg以上である場合には、アルコール濃度補正学習値FALCが収束したと判断する。
【0050】
従って、図6(C)にも示すように、アルコール濃度補正学習回数Ngがアルコール濃度補正学習値収束判定回数Ngsfbg以上である場合には、ステップ135に進んでアルコール濃度補正学習値収束フラグSFに1をセットし、次いで、ステップ137に進んで時間カウンタCNTをゼロにリセットしてルーチンを終了する。一方、ステップ134において、アルコール濃度補正学習回数Ngがアルコール濃度補正学習値収束判定回数Ngsfbgよりも少ない場合には、ステップ136に進んでアルコール濃度補正学習値収束フラグSFに0をセットし、次いで、ステップ137に進んで時間カウンタCNTをゼロにリセットしてルーチンを終了する。アルコール濃度補正学習値収束フラグSFの値は、バックアップRAM36に保存される。
【0051】
アルコール濃度補正学習値収束判定回数Ngsfbgは、例えば、その回数分アルコール濃度補正学習制御を実行した直後に内燃機関を停止させ、次回の機関始動時に前回の機関停止時点のアルコール濃度補正学習値FALCを用いて燃料噴射量の補正を行っても、機関始動時に不具合が生じないアルコール濃度補正学習回数Ngとして予め実験等によって決定される。
【0052】
次に、アルコール濃度補正学習制御の別の実施形態について図7を参照しながら説明する。図7(A)及び図7(B)は、上述した図6(A)及び図6(B)とそれぞれ同じである。図6に示される実施形態は、アルコール濃度補正学習回数Ngを用いてアルコール濃度補正学習値FALCの収束を判定したが、本実施形態ではアルコール濃度補正学習値収束先推定値FALCESTを用いて、アルコール濃度補正学習値FALCの収束を判定する。
【0053】
上述した図8に示すステップ121からステップ127までは、本実施形態においても共通であり、更に、一番目の実施形態における図9に示すステップ131からステップ137についても、図10に示すステップ141からステップ147と略等しい。但し、図9のステップ134に相当するステップ144のみが異なる。
【0054】
従って、その異なる点についてのみ説明する。一番目の実施形態では、アルコール濃度補正学習回数Ngを用いてアルコール濃度補正学習値FALCの収束を判定したが、本実施形態では、アルコール濃度補正学習値収束先推定値FALCESTを基にしてアルコール濃度補正学習値FALCが収束したか否かを判定する。
【0055】
そのため、ステップ144では、図7(C)に示されるように、アルコール濃度補正学習値収束先推定値FALCESTからアルコール濃度補正学習値FALCを減算した値の絶対値を求め、その値が予め定められたアルコール濃度補正学習値収束判定値TFCより小さいか否かが判定される。即ち、上記絶対値がアルコール濃度補正学習値収束判定値TFCより小さい場合には、アルコール濃度補正学習値FALCが略収束したと判定し、ステップ145へ進む。次いで、図7(D)に示すように、ステップ145において、アルコール濃度補正学習値収束フラグSFに1をセットし、次いで、ステップ147に進んで時間カウンタCNTをゼロにリセットしてルーチンを終了する。
【0056】
一方、上記絶対値がアルコール濃度補正学習値収束判定値TFC以上である場合には、アルコール濃度補正学習値FALCが未だ収束していないと判定し、ステップ146へ進む。ステップ146において、アルコール濃度補正学習値収束フラグSFに0をセットし、次いで、ステップ178に進んで時間カウンタCNTをゼロにリセットしてルーチンを終了する。アルコール濃度補正学習値収束フラグSFの値は、バックアップRAM36に保存される。
【0057】
アルコール濃度補正学習値収束判定値TFCは、例えば、アルコール濃度補正学習制御を実行し、アルコール濃度補正学習値収束先推定値FALCESTからアルコール濃度補正学習値FALCを減算した値の絶対値が当該アルコール濃度補正学習値収束判定値TFCより小さくなった直後に内燃機関を停止させ、次回の機関始動時に前回の機関停止時点のアルコール濃度補正学習値FALCを用いて燃料噴射量の補正を行っても、機関始動時に不具合が生じない値として予め実験等によって決定される。
【0058】
上述のように、アルコール濃度補正学習値FALCの収束が判定されるが、機関停止時にアルコール濃度補正学習値FALCが収束していない場合、次回の機関始動時にその値を用いて燃料噴射量を補正すると、始動不良等の不具合が生じてしまう。従って、この場合、以下に説明するアルコール濃度補正学習値初期設定操作を行うことで、始動不良等の不具合を防止する。
【0059】
図12は、機関始動時にアルコール濃度補正学習値FALCに初期値を設定するためのアルコール濃度補正学習値初期設定操作のフローチャートである。この操作はECU31によって、機関始動時に1回のみ実行されるルーチンとして行われる。
【0060】
まず、ステップ151において、アルコール濃度補正学習値収束フラグSFがバックアップRAM36より読み込まれる。次いで、ステップ152では、ステップ151で読み込まれたアルコール濃度補正学習値収束フラグSFが1であるか否かが判定される。ここで、アルコール濃度補正学習値収束フラグSFが1であると判定された場合には、ステップ153へ進む。
【0061】
次いで、ステップ153では、アルコール濃度補正学習値FALCに、前回の機関停止時のアルコール濃度補正学習値FALCをセットしルーチンを終了する。即ち、アルコール濃度補正学習値収束フラグSFが1であるため、前回の機関停止時までにアルコール濃度補正学習値FALCは収束している。従って、機関始動時において、そのアルコール濃度補正学習値FALCを用いれば、始動不良等の不具合が生じることはない。
【0062】
一方、ステップ152においてアルコール濃度補正学習値収束フラグSFが1でないと判定された場合には、ステップ154へ進む。ステップ154では、アルコール濃度補正学習値FALCに、前回の機関停止時のアルコール濃度補正学習値収束先推定値FALCESTをセットしルーチンを終了する。即ち、アルコール濃度補正学習値収束フラグSFが1でないため、前回の機関停止時までにアルコール濃度補正学習値FALCが収束していない。従って、機関始動時において、そのアルコール濃度補正学習値FALCをそのまま用いてしまうと、始動不良等の不具合が生じる。
【0063】
それに対して、アルコール濃度補正学習値収束先推定値FALCESTは、アルコール濃度補正学習値FALCの収束する推定値であるものの、収束する前のアルコール濃度補正学習値FALCよりは真の値に近いと考えられる。従って、前回の機関停止時までにアルコール濃度補正学習値FALCが収束していない場合には、アルコール濃度補正学習値収束先推定値FALCESTを始動時のアルコール濃度補正学習値FALCとして用いる。
【0064】
次に、アルコール濃度補正学習値初期設定操作の別の実施形態について、図13に示すフローチャートを参照しながら説明する。図13に示すフローチャートは、図12に示したアルコール濃度補正学習値初期設定操作のフローチャートとほとんど同じであるが、ステップ162においてアルコール濃度補正学習値収束フラグSFが1でないと判定され、ステップ164へ進んだ後の処理のみ異なる。ステップ164では、アルコール濃度補正学習値FALCに、前回の機関停止時のアルコール濃度補正学習値収束先推定値FALCESTに補正係数α(α≧1)を掛けた値をセットしている。
【0065】
即ち、機関停止時にアルコール濃度補正学習値FALCが収束していないため、より真の値に近いと考えられるアルコール濃度補正学習値収束先推定値FALCESTを用いるようにしているが、それでも燃料噴射量が不足すると始動不良等の不具合が生じてしまう。従って、より確実に始動不良等の発生を防止するために、更に多めに燃料を噴射するように補正する。補正係数αは予め定められた定数でもよく、また、アルコール濃度補正学習値収束先推定値FALCEST等その他の値に基づいて変化する値であってもよい。
【0066】
ところで、アルコール濃度補正学習値FALCは、始動時の燃料噴射量の補正、点火時期の補正、冷間時の燃料噴射量の補正等に用いることができる。その中で、アルコール濃度補正学習値FALCを用いた始動時の燃料噴射量の補正及び点火時期の補正について以下に説明する。
【0067】
まず、上述したアルコール濃度補正学習値初期設定操作によって設定されたアルコール濃度補正学習値FALCを用いて、機関始動時の燃料噴射量を補正する方法について説明する。クランクシャフトが回転し始めて或る回転数を超えるまでの機関始動直後は、特に失火が生じやすい。この回転数を回転数Ne1とし、予め実験等によって求めることができる。回転数Ne1に達するまでは筒内吸入空気量Mcの検出ができないため、基本燃料噴射量Qbではなく、機関サイクル毎の燃料噴射時間TAUを用いて機関始動時の制御について説明する。
【0068】
クランクシャフトが回転し始めてから回転数Ne1に達するまでの燃料噴射時間TAUは、以下の式(7)で表される。ここで、TAUSTBは始動時基本燃料噴射時間であり、例えば、水温と回転数とを引数とから予め実験的又は計算によって求められたマップ又は計算式によって算出される。KALCSTは始動時噴射時間補正係数(KALCST≧1)であり、アルコール濃度補正学習値FALCを用いて図14に示すマップに基づいて算出される。図14に示すマップは予め実験又は計算式によって求め、このマップ又は計算式はROM34に保存されている。式(7)及び図14のマップによると、アルコール濃度補正学習値FALCが大きければ大きいほど燃料噴射時間TAUが長くなるように、即ち、燃料噴射量が増量するように補正している。
TAU=TAUSTB・KALCST …(7)
【0069】
図15は、燃料噴射時間TAUを設定する燃料噴射時間設定操作のフローチャートである。この操作は機関始動時にアルコール濃度補正学習値初期設定操作が実行された後に、ECU31によって予め定められた所定時間毎の割り込みによって実行されるルーチンとして行われる。
【0070】
まず、ステップ171では、機関回転数Neが読み込まれる。次いで、ステップ172では、ステップ171で読み込まれた機関回転数Neが予め定められた所定回転数Ne1より小さいか否かが判定される。機関回転数Neが所定回転数Ne1よりも小さい場合には、機関始動時であると判断してステップ173へ進む。ステップ173では、図14のマップに基づいて始動時噴射時間補正係数KALCSTが算出される。次いで、ステップ174では、式(7)に基づいて燃料噴射時間TAU設定され、ルーチンを終了する。一方、ステップ172において、機関回転数Neが所定回転数Ne1以上である場合には、ステップ175へ進む。ステップ175では、式(4)に基づいて燃料噴射量Qftが算出され、次いでステップ176へと進む。ステップ176では、ステップ175において算出された燃料噴射量Qftに基づいて、その量が噴射可能な燃料噴射時間TAUが算出され、ルーチンを終了する。
【0071】
次に、上述したアルコール濃度補正学習値初期設定操作によって設定されたアルコール濃度補正学習値FALCを用いて、点火時期を補正する方法について説明する。点火時期SAは以下の式(8)によって算出される。ここでSABSEは基本点火時期を表し、例えば機関回転数Neと機関負荷KLとのマップから求められ、このマップはROM34に保存されている。SAALC(SAALC≧0)はアルコール濃度による点火時期補正値を示し、図16に示すマップから求められる。図16に示すマップは予め実験等によって求められ、ROM34に保存されている。このマップによればアルコール濃度が高ければ高いほど点火時期を進角させるように補正している。即ち、アルコール燃料はオクタン価が高く、点火時期を進角させることによってより大きなトルクが得られる。
SA=SABSE+SAALC …(8)
【0072】
次に、点火時期を補正する別の実施形態について図17を参照しながら説明する。図17は、点火時期を補正する点火時期補正操作のフローチャートである。この操作はECU31によって予め定められた所定時間毎の割り込みによって実行されるルーチンとして行われる。
【0073】
まず、ステップ181では、アルコール濃度補正学習値収束フラグSFがバックアップRAM36より読み込まれる。次いで、ステップ182では、ステップ181で読み込まれたアルコール濃度補正学習値収束フラグSFが0であるか否かが判定される。ここで、アルコール濃度補正学習値収束フラグSFが0でないと判定された場合は、ステップ183に進む。アルコール濃度補正学習値収束フラグSFが0でない場合は1であり、前回の機関停止時にアルコール濃度補正学習値FALCが収束している。従って、ステップ183では本実施形態による点火時期の補正は行わず、点火時期SAに基本点火時期SABSEをセットし、ルーチンを終了する。
【0074】
一方、ステップ182においてアルコール濃度補正学習値収束フラグSFが0であると判定された場合には、ステップ184へ進む。ステップ184では、機関回転数Neが読み込まれる。次いで、ステップ185では、ステップ184で読み込まれた機関回転数Neが予め定められた所定回転数Ne2より小さいか否かが判定される。ここで、回転数Ne2は、機関始動直後であって始動不良が発生しやすい機関始動前半の回転数域と、ノッキングが発生しやすい機関始動後半の回転数域との間であり、実験的に求められる。そして、機関回転数Neが所定回転数Ne2よりも小さいと判定された場合には、ステップ186へ進む。
【0075】
次いで、ステップ186では、点火時期SAに基本点火時期SABSEに補正値β(β≧0)を加算した値をセットし、ルーチンを終了する。即ち、ここでは、機関回転数Neが所定回転数Ne2よりも小さいので、始動不良が生じやすい状態にあるため、補正値βを加算して点火時期を進角させる。点火時期を進角させることによって、通常の点火時期で点火した場合よりも大きなトルクを得ることが可能となり、始動不良を回避することが可能となる。
【0076】
一方、ステップ185において、機関回転数Neが所定回転数Ne2以上であると判定された場合には、ステップ187へ進む。この場合には機関始動直後の始動不良が生じることがないので、今度はノッキングの発生が問題となる。従って、ステップ187では、基本点火時期SABSEに補正値γ(γ≧0)を減算した値をセットし、ルーチンを終了する。即ち、点火時期を遅角させることによってノッキングの発生を防止している。
【0077】
補正値β及び補正値γは予め定められた定数でもよく、また、アルコール濃度補正学習値FALC等その他の値に基づいて変化する値であってもよい。
【0078】
これまでいくつかの実施形態を用いて燃料噴射量、点火時期等について補正方法を説明したが、それぞれ各方法を単独で適用してもよいし、任意に組み合わせて適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の空燃比制御装置が用いられる内燃機関全体の図である。
【図2】排気空燃比と空燃比センサの出力電圧との関係を示した図である。
【図3】アルコール濃度補正学習値と理論空燃比との関係を示した図である。
【図4】目標燃料供給量算出制御操作を示すフローチャートである。
【図5】フィードバック制御操作を示すフローチャートである。
【図6】アルコール濃度補正学習制御操作のタイムチャートである。
【図7】別の実施形態によるアルコール濃度補正学習制御操作のタイムチャートである。
【図8】アルコール濃度補正学習制御操作のフローチャートの一部である。
【図9】図8から続くアルコール濃度補正学習制御操作のフローチャートの一部である。
【図10】図8から続くアルコール濃度補正学習制御操作のフローチャートの別の実施形態の一部である。
【図11】アルコール濃度補正学習回数Ng、アルコール濃度補正学習値収束先推定値FALCESTの変化量ΔFALCEST、FAF+ΔFACLの関係を示す図である。
【図12】アルコール濃度補正学習値初期設定操作を示すフローチャートである。
【図13】別の実施形態によるアルコール濃度補正学習値初期設定操作を示すフローチャートである。
【図14】アルコール濃度補正学習値と始動時噴射量補正係数との関係を示した図である。
【図15】始動時燃料噴射時間設定操作を示すフローチャートである。
【図16】アルコール濃度補正学習値と点火時期補正値との関係を示した図である。
【図17】点火時期補正操作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0080】
1 機関本体
3 ピストン
5 燃焼室
6 吸気弁
8 排気弁
10 点火栓
11 燃料噴射弁
31 ECU
23 空燃比センサ
42 負荷センサ
43 クランク角センサ
【技術分野】
【0001】
本発明は内燃機関の空燃比制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンの他にアルコールとガソリンの各種組成の混合燃料でも走行可能な、いわゆるフレキシブルフューエルビークル(FFV)と称される自動車がある。アルコールは、通常のガソリンと比べてC(炭素)原子の含有量が異なるため、フレキシブルフューエルビークルに用いられる内燃機関にアルコールとガソリンの混合燃料を供給するにあたっては、燃料内のアルコール濃度に従って燃料供給量を調整する必要がある。
【0003】
ところで、内燃機関本体から排出された排気ガス中には炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)及び窒素酸化物(NOx)等の成分が含まれており、従来からこれら成分を浄化するために三元触媒が利用されている。三元触媒は排気ガスの空燃比(以下、「排気空燃比」と称す)が略理論空燃比となっているときにその浄化能力が高くなることから、三元触媒によって排気ガスの浄化を行う際には排気空燃比が略理論空燃比となるように燃焼室への燃料供給量等を制御する必要がある。
【0004】
従って、フレキシブルフューエルビークルにおいて、三元触媒の上流排気通路内に排気空燃比を検出することができる空燃比センサを設け、排気空燃比が燃料内のアルコール濃度に応じて定まる理論空燃比になるように、燃焼室への燃料供給量を調整するフィードバック制御を行う空燃比制御装置が公知である(特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2004−308540号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、フレキシブルフューエルビークルにおいては、燃料中のアルコール濃度に応じて燃料供給量を調整するためのアルコール濃度補正学習値を算出するアルコール濃度補正学習制御を行うことが考えられる。
【0007】
しかし、アルコール濃度学習制御が完了する前、即ちアルコール濃度補正学習値が収束する前に内燃機関の運転が停止されると、次回機関始動時には前回運転停止時の収束しなかったアルコール濃度補正学習値が用いられて燃料供給量が補正されてしまうため、燃料不足によって生じる機関が始動せず停止してしまう始動不良や、燃料過多によって生じるノッキング等の問題が発生する場合がある。即ち、アルコール濃度補正学習値が収束しなかった値を用いて補正されるということは、供給される燃料量が供給すべき量より多すぎたり少なすぎたりする恐れがある。
【0008】
そこで本発明は、フレキシブルフューエルビークルにおいて、内燃機関の停止時までにアルコール濃度補正学習値が収束しなかった場合の次回機関始動時に生じる不具合を防止する内燃機関の空燃比制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために請求項1に記載の発明によれば、燃料としてアルコールとガソリンとをそれぞれ単独で又は混合して使用可能な内燃機関の空燃比制御装置であって、機関排気通路内に設けられた排気浄化触媒の上流排気通路内に配置され排気ガスの空燃比を検出する空燃比センサと、該空燃比センサの出力値が目標空燃比に対応する値となるようにフィードバック補正値に基づいて燃料供給量を補正するフィードバック手段と、前記フィードバック補正値に基づいて算出されたアルコール濃度補正学習値を学習すると共にそれに基づいて前記燃料供給量を補正するアルコール濃度補正学習手段とを具備する内燃機関の空燃比制御装置において、前記アルコール濃度補正学習値が収束したことを予め定められた少なくとも一つの収束判定条件に基づいて判定する収束判定手段と、前記フィードバック補正値と前記アルコール濃度補正学習値とに基づき該アルコール濃度補正学習値が収束すると推定される値であるアルコール濃度補正学習値収束先推定値を求める手段とを更に具備し、前回の内燃機関停止時にアルコール濃度補正学習値が収束していないと判定されていたとき、今回の内燃機関始動時における前記アルコール濃度補正学習値の初期値を、前回の内燃機関停止時に求められていた前記アルコール濃度補正学習値収束先推定値とする内燃機関の空燃比制御装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、フレキシブルフューエルビークルにおいて、内燃機関の停止時までにアルコール濃度補正学習値が収束しなかった場合に、その学習値よりは真の値に近いと考えられるアルコール濃度補正学習値収束先推定値を次回機関始動時のアルコール濃度補正学習値とすることで、始動時の不具合の発生を防止するという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、燃料としてアルコールとガソリンとをそれぞれ単独で又は混合して使用可能な本発明の内燃機関の空燃比制御装置について説明する。図1は本発明の制御装置が搭載される内燃機関全体の図である。図1に示した実施形態では本発明の空燃比制御装置が筒内直噴型火花点火式内燃機関に用いられた場合を示しているが、他の火花点火式内燃機関や圧縮自着火式内燃機関等にも用いることができる。
【0012】
図1を参照すると1は機関本体、2はシリンダブロック、3はシリンダブロック2内で往復動するピストン、4はシリンダブロック2上に固定されたシリンダヘッド、5はピストン3とシリンダヘッド4との間に形成された燃焼室、6は吸気弁、7は吸気ポート、8は排気弁、9は排気ポートをそれぞれ示す。図1に示したようにシリンダヘッド4の内壁面の中央部には点火プラグ10が配置され、シリンダヘッド4内壁面周辺部には燃料噴射弁11が配置される。またピストン3の頂面上には燃料噴射弁11の下方から点火プラグ10の下方まで延びるキャビティ12が形成されている。
【0013】
各気筒の吸気ポート7はそれぞれ対応する吸気枝管13を介してサージタンク14に連結され、サージタンク14は吸気管15を介してエアクリーナ(図示せず)に連結される。吸気管15内にはエアフロメータ16が配置されると共にステップモータ17によって駆動されるスロットル弁18が配置される。一方、各気筒の排気ポート9は排気マニホルド19に連結され、この排気マニホルド19は三元触媒20を内蔵した触媒コンバータ21に連結される。触媒コンバータ21の出口は排気管22に連結される。排気マニホルド19、即ち排気浄化触媒20上流側の排気通路内には空燃比センサ23が配置される。アルコールを含む燃料は燃料タンク24に貯蔵され、燃料供給管を介して電子制御式の吐出量可変な燃料ポンプ25によって燃料噴射弁11へ供給され、噴射される。また、本実施形態では、排気浄化触媒として三元触媒20を用いているが、酸素吸蔵能力を有していれば、他のタイプの触媒、例えばNOx吸蔵還元触媒、リーンNOx触媒、DPNR等を用いてもよい。更に、空燃比センサ23の代わりに、排気ガスの空燃比が理論空燃比よりもリッチであるかリーンであるかによって大きく異なる出力電圧を発生する酸素センサを用いてもよい。
【0014】
電子制御ユニット31はディジタルコンピュータからなり、双方向性バス32を介して相互に接続されたRAM(ランダムアクセスメモリ)33、ROM(リードオンリメモリ)34、CPU(マイクロプロセッサ)35、バックアップRAM36、入力ポート37及び出力ポート38を具備する。バックアップRAM36は常時電源に接続されており、車両のイグニッションスイッチを切っても記憶した内容を保存することが可能である。従って、後述する学習値等を保存するために使用される。
【0015】
エアフロメータ16は吸入空気流量に比例した出力電圧を発生し、その出力電圧は対応するAD変換器39を介して入力ポート37に入力される。また、空燃比センサ23は、図2に示したように、排気マニホルド19内を通過する排気ガス中の酸素濃度に基づいて、斯かる排気ガスの空燃比に略比例した出力電圧を発生する。出力電圧は対応するAD変換器39を介して入力ポート37に入力される。更に、開閉センサ28の出力信号は対応するAD変換器39を介して入力ポート37に入力される。
【0016】
また、アクセルペダル41にはアクセルペダル41の踏込み量に比例した出力電圧を発生する負荷センサ42が接続され、負荷センサ42の出力電圧は対応するAD変換器39を介して入力ポート37に入力される。クランク角センサ43は例えばクランクシャフトが30度回転する毎に出力パルスを発生し、この出力パルスが入力ポート37に入力される。CPU35ではこのクランク角センサ43の出力パルスから機関回転数Neが計算される。一方、出力ポート38は対応する駆動回路39を介して点火プラグ10、燃料噴射弁11、ステップモータ17及び燃料ポンプ25に接続される。
【0017】
上述した三元触媒20は、酸素吸蔵能力を有しており、これにより三元触媒20に流入する排気ガスの空燃比がリーンであるときには排気ガス中の酸素を吸蔵すると共に、三元触媒20に流入する排気ガスの空燃比がリッチであるときには吸蔵している酸素を放出することにより排気ガス中に含まれるHC、COを酸化・浄化する。
【0018】
このような三元触媒20の酸素吸蔵能力を効果的に利用するためには、排気ガスの空燃比がその後リッチ及びリーンのいずれになっても排気ガスを浄化することができるように、三元触媒20中に吸蔵されている酸素の量を所定量(例えば、最大酸素吸蔵量の半分)に維持することが必要である。三元触媒20の酸素吸蔵量が上記所定量に維持されていれば、三元触媒20は常に或る程度の酸素吸蔵作用及び酸素放出作用を発揮することが可能であり、結果として三元触媒20により常に排気ガス中の成分の酸化・還元を行うことができるようになる。このため、本実施形態では、三元触媒20による排気浄化性能を維持すべく、三元触媒の酸素吸蔵量を一定に維持するように空燃比制御を行うこととしている。
【0019】
そこで、本実施形態では、三元触媒20よりも上流排気通路内に配置された空燃比センサ23によって排気空燃比(三元触媒20上流側の排気通路、燃焼室5及び吸気通路に供給された空気と燃料との比率)を検出すると共に、空燃比センサ23の出力値が理論空燃比に対応した値となるように燃料噴射弁11からの燃料供給量についてフィードバック制御を行うこととしている。これにより、排気空燃比は理論空燃比付近に維持され、その結果三元触媒の酸素吸蔵量が一定に維持され、よって排気エミッションを改善することができる。
【0020】
以下、フィードバック制御について具体的に説明する。まず、本実施形態では、燃料噴射弁11から各気筒へと供給すべき燃料量(以下、「目標燃料供給量」と称す)Qft(n)は下記式(1)によって算出される。
Qft(n)=Mc(n)/AFT+DQf(n−1) …(1)
【0021】
ここで、上記式(1)においてnはECU31における計算回数を示す値であり、例えばQft(n)は第n回目の計算によって算出された目標燃料供給量を表している。また、Mc(n)は、吸気弁6の閉弁時までに各気筒の筒内に吸入されたと予想される空気量(以下、「筒内吸入空気量」と称す)を示している。筒内吸入空気量Mc(n)を算出するために、例えば機関回転数Neと吸気管15内を通過した空気の流量(以下、「吸気管通過空気流量」と称す)mtとを引数としたマップ又は計算式を予め実験的に又は計算によって求め、このマップ又は計算式をROM34に保存する。そして、機関運転中に検出された機関回転数Ne及び吸気管通過空気流量mtに基づいて上記マップ又は計算式により筒内吸入空気量Mc(n)が算出される。
【0022】
また、AFTは、排気空燃比の目標値を示し、本実施形態では燃料中のアルコール濃度に応じて変化する理論空燃比とする。理論空燃比における出力電圧は、そのアルコール濃度にかかわらず一定の値V0を示す(図2参照)。即ち、例えば或るアルコール濃度における理論空燃比がAFTである場合において、給油等によってアルコール濃度が変化して理論空燃比がAFT’になったとする。その場合においてもアルコール濃度変化後の理論空燃比に相当する出力電圧はV0のままであり、略比例した出力電圧の傾向も同様の傾向のまま破線のようにシフトする。従って、図3に示されるように、アルコール濃度補正学習値FALCを用いて、それと理論空燃比AFTとのマップ又は計算式から燃料中のアルコール濃度に応じた理論空燃比AFTを求めることができる。
【0023】
アルコール濃度補正学習値FALCは、燃料中のアルコール濃度に応じて基本燃料噴射量Qbを補正するための学習値であり、詳細は後述する。図3を参照すると、例えば、E0(燃料中のアルコール濃度が0%)のとき、アルコール濃度補正学習値FALCが1.0であり、理論空燃比は14.7となる。また、E85(85%のエタノール混合燃料)のとき、アルコール濃度補正学習値FALCが1.4であり、理論空燃比は10.0となる。
【0024】
そして、DQfは、後述するフィードバック制御に関して算出される燃料補正量を示す。燃料噴射弁11では、このように上記式(1)によって算出された目標燃料供給量に対応する量の燃料が噴射される。
【0025】
なお、上記説明では、筒内吸入空気量Mc(n)は、機関回転数Neと吸気管通過空気流量mtとを引数としたマップ等に基づいて算出されるとしているが、例えばスロットル弁18の開度及び大気圧等に基づいた計算式等、他の方法によって求められてもよい。
【0026】
図4は、燃料噴射弁11からの目標燃料供給量Qft(n)を算出する目標燃料供給量算出制御操作のフローチャートである。この操作はECU31によって予め定められた所定時間毎の割り込みによって実行されるルーチンとして行われる。
【0027】
まず、ステップ101において、クランク角センサ43及びエアフロメータ16によって機関回転数Ne及び吸気管通過空気流量mtが検出される。次いで、ステップ102では、後述するアルコール濃度補正学習値FALCがバックアップRAM36より読み込まれる。次いで、ステップ103では、ステップ101において検出された機関回転数Ne及び吸気管通過空気流量mtに基づいてマップにより又は計算式により第n回目の計算時における筒内吸入空気量Mc(n)が算出される。次いで、ステップ104では、ステップ102において読み込まれたアルコール濃度補正学習値FALCに基づいて図3に示されるマップにより、燃料中のアルコール濃度に応じた理論空燃比AFTが算出される。
【0028】
次いで、ステップ105では、ステップ103で算出された筒内吸入空気量Mc(n)及び後述するフィードバック制御操作において算出された第n−1回目の計算時における燃料補正量DQf(n−1)に基づいて上記式(1)により目標燃料供給量Qft(n)が算出され、ルーチンを終了する。燃料噴射弁11からは、このように算出された目標燃料供給量Qft(n)に相当する量の燃料が噴射される。
【0029】
次に、フィードバック制御について説明する。本実施形態では、フィードバック制御として、空燃比センサ23の出力に基づいて算出された実際の燃料供給量と、上述した目標燃料供給量Qftとの燃料偏差量ΔQfを計算回数毎に算出し、この燃料偏差量ΔQfがゼロになるように燃料補正量DQfを算出している。具体的には、燃料補正量DQfは下記式(2)により算出される。なお、下記式(2)においてDQf(n−1)は、第n−1回目の計算、即ち前回の計算における燃料補正量であり、Kmpは比例ゲイン、Kmiは積分ゲインをそれぞれ示している。これら比例ゲインKmp、積分ゲインKmiは予め定められた一定の値であってもよいし、機関運転状態に応じて変化する値であってもよい。
【数1】
【0030】
図5は、燃料補正量DQfを算出するフィードバック制御操作のフローチャートである。この操作はECU31によって予め定められた所定時間毎の割り込みによって実行されるルーチンとして行われる。
【0031】
まず、ステップ111では、フィードバック制御の実行条件が成立しているか否かが判定される。フィードバック制御の実行条件が成立している場合とは、例えば内燃機関の冷間始動中ではないこと(即ち、機関冷却水温が一定温度以上であって始動時燃料増量等が行われていないこと)や、機関運転中に燃料噴射弁からの燃料噴射を停止する燃料カット制御中ではないこと等が挙げられる。ステップ111においてフィードバック制御の実行条件が成立していると判定された場合には、ステップ112へと進む。一方、ステップ111においてフィードバック制御の実行条件が成立していないと判定された場合には、ルーチンを終了し、フィードバック制御は実行されない。
【0032】
ステップ112では、第n回目の計算時における空燃比センサ23の出力値VAF(n)が検出される。次いで、ステップ113では、前述のようにアルコール濃度補正学習値FALCと図3から求められたAFTが読み込まれる。次いで、ステップ114では、ステップ112で検出された出力値VAF(n)及びステップ113で読み込まれたAFTに基づいて図2に示したマップを用いて第n回目の計算時における実空燃比AFR(n)が算出される。このようにして算出された実空燃比AFR(n)は、第n回目の計算時における三元触媒20に流入する排気ガスの実際の空燃比に略一致した値となっている。
【0033】
次いで、ステップ115では、下記式(3)により、空燃比センサ23の出力に基づいて算出された燃料供給量と目標燃料供給量Qftとの燃料偏差量ΔQfが算出される。なお、下記式(3)において、筒内吸入空気量Mc及び目標燃料供給量Qftについては第n回目の計算時における値が用いられているが、第n回目の計算時よりも前の値が用いられてもよい。
ΔQf(n)=Mc(n)/AFR(n)−Qft(n) …(3)
【0034】
ステップ116では、上記式(2)により第n回目の計算時における燃料補正量DQf(n)が算出され、ルーチンを終了する。算出された燃料補正量DQf(n)は、図4に示した操作のステップ105において用いられる。
【0035】
次に、アルコール濃度補正学習制御について図6(A)から(C)を参照しながら説明する。まず、図6(A)に示される実線は、フィードバック制御によるフィードバック補正値FAFを示し、破線は、フィードバック補正値FAFに対して、例えばローパスフィルタ等によるなまし処理(平滑化処理)を施したフィードバック補正なまし値FAFSMを示す。
【0036】
ここで、フィードバック補正値FAFとは、以下の式(4)に基づいて算出される燃料噴射量Qftを算出する際に、基本燃料噴射量Qbをフィードバック補正するための係数である。また、FALCはアルコール濃度補正学習値であり、燃料中のアルコール濃度に応じて基本燃料噴射量Qbを補正するための学習値である。アルコール濃度補正学習値FALCはバックアップRAM36に保存される。
Qft=Qb・(1+FALC)+Qb・FAF …(4)
【0037】
上記式(4)と、上記式(1)と同様の以下の式(5)とは、燃料噴射量Qftを算出する同じ式を表し、第一項及び第二項はそれぞれの式で対応している。
Qft=Mc/AFT+DQf …(5)
【0038】
従って、フィードバック補正値FAFと燃料補正量DQfとの関係は、上記式(4)及び式(5)それぞれの第二項より、式(6)のように表される。以下、フィードバック補正値FAFを用いて本発明による実施形態を説明する。
FAF=DQf/Qb …(6)
【0039】
図6(B)に示される実線はアルコール濃度補正学習値FALCを示し、破線は、アルコール濃度補正学習値FALCが最終的に収束するであろうと推定される推定値であるアルコール濃度補正学習値収束先推定値FALCESTを示す。
【0040】
図6(A)及び図6(B)に示されるように、アルコール濃度補正学習制御は、一定間隔毎に実行され、実行時点におけるフィードバック補正なまし値FAFSMの値分だけ、フィードバック補正値FAFを減少させると共にアルコール濃度補正学習値FALCを増加させ、フィードバック補正なまし値FAFSMをゼロにリセットしている。アルコール濃度補正学習制御を繰り返すことによって、アルコール濃度補正学習値FALCが、燃料中のアルコール濃度に適した補正値へと徐々に近づく。
【0041】
図8及び図9は、アルコール濃度補正学習値FALCを算出すると共にそれが収束したか否かを判定し、アルコール濃度補正学習値収束フラグをセットするアルコール濃度補正学習制御操作を示すフローチャートである。この操作はECU31によって予め定められた所定時間毎の割り込みによって実行されるルーチンとして行われる。
【0042】
図8を参照すると、まず、ステップ121では、フィードバック補正値FAFが読み込まれる。次いで、ステップ122では、ステップ121で読み込んだFAFに対してなまし処理を施し、フィードバック補正なまし値FAFSMを算出する。次いで、ステップ123では、時間カウンタCNTがインクリメントされる。次いで、ステップ124では、ステップ123でインクリメントされた時間カウンタCNTが、アルコール濃度補正学習制御実行間隔CNTsadg以上であるか否かが判定される。ここで、時間カウンタCNTが、アルコール濃度補正学習制御実行時間CNTsadg以上であるならば、アルコール濃度補正学習制御を行うべく、ステップ125に進む。一方、ステップ124において、時間カウンタCNTがアルコール濃度補正学習制御実行時間CNTsadgよりも小さい場合、アルコール濃度補正学習制御及びアルコール濃度補正学習値収束判定を行うことなくルーチンを終了する。
【0043】
次に、ステップ125、126で行われるアルコール濃度補正学習制御について説明する。ステップ125において、アルコール濃度補正学習値FALCは、その前回値に対してフィードバック補正なまし値FAFSMを加算することで算出される。それと同時に、フィードバック補正値FAFは、その前回値に対してアルコール濃度補正学習値FALCに加算した分のフィードバック補正なまし値FAFSMを減算することで算出される。その後、ステップ126へと進む。ステップ126では、フィードバック補正なまし値FAFSMをゼロにリセットし、ステップ127に進む。次いで、ステップ127では、アルコール濃度補正学習回数Ngがインクリメントされる。
【0044】
次いで、図8のステップ127においてアルコール濃度補正学習回数Ngがインクリメントされた後、図9のステップ131に進む。次いで、ステップ131からステップ133は、図6(B)に破線で示されるアルコール濃度補正学習値収束先推定値FALCESTを求めるための処理である。
【0045】
まず、ステップ131において、アルコール濃度補正学習値FALCから機関始動時のアルコール濃度補正学習値FALCの初期値FALCINT(即ち、前回の機関停止時のアルコール濃度補正学習値FALC)を減算し、初期値FALCINTからの現在のアルコール濃度補正学習値FALCの変化量ΔFALCを算出する。
【0046】
次いで、ステップ132において、フィードバック補正値FAFにアルコール濃度補正学習値FALCの変化量ΔFALCを加算した値、即ち、アルコール濃度補正学習制御を行わなかったと仮定した場合のフィードバック補正値とアルコール濃度補正学習回数Ngとを引数としたマップ又は計算式より、アルコール濃度補正学習値FALCの初期値FALCINTからのアルコール濃度補正学習値収束先推定値FALCESTの変化量ΔFALCESTを求める。このマップ又は計算式は予め実験的に又は計算によって求められ、ROM34に保存されている。
【0047】
図11は変化量ΔFALCESTを求める上記マップの例を示しており、横軸をアルコール濃度補正学習回数Ngとし、縦軸をアルコール濃度補正学習値収束先推定値FALCESTの変化量ΔFALCESTとして、各曲線はFAF+ΔFACLの値に応じた傾向を示している。FAF+ΔFACLの値が大きいほど、また、アルコール濃度補正学習回数Ngが大きいほど、変化量ΔFALCESTは大きい値を示している。
【0048】
次いで、ステップ133に進んで、アルコール濃度補正学習値FALCの初期値FALCINTに、ステップ132で求めたアルコール濃度補正学習値収束先推定値FALCESTの変化量ΔFALCESTを加算し、アルコール濃度補正学習値収束先推定値FALCESTを算出し、ステップ134に進む。
【0049】
ステップ134では、アルコール濃度補正学習回数Ngがアルコール濃度補正学習値収束判定回数Ngsfbg以上であるか否かが判定される。即ち、アルコール濃度補正学習回数Ngが予め定められたアルコール濃度補正学習値収束判定回数Ngsfbg以上である場合には、アルコール濃度補正学習値FALCが収束したと判断する。
【0050】
従って、図6(C)にも示すように、アルコール濃度補正学習回数Ngがアルコール濃度補正学習値収束判定回数Ngsfbg以上である場合には、ステップ135に進んでアルコール濃度補正学習値収束フラグSFに1をセットし、次いで、ステップ137に進んで時間カウンタCNTをゼロにリセットしてルーチンを終了する。一方、ステップ134において、アルコール濃度補正学習回数Ngがアルコール濃度補正学習値収束判定回数Ngsfbgよりも少ない場合には、ステップ136に進んでアルコール濃度補正学習値収束フラグSFに0をセットし、次いで、ステップ137に進んで時間カウンタCNTをゼロにリセットしてルーチンを終了する。アルコール濃度補正学習値収束フラグSFの値は、バックアップRAM36に保存される。
【0051】
アルコール濃度補正学習値収束判定回数Ngsfbgは、例えば、その回数分アルコール濃度補正学習制御を実行した直後に内燃機関を停止させ、次回の機関始動時に前回の機関停止時点のアルコール濃度補正学習値FALCを用いて燃料噴射量の補正を行っても、機関始動時に不具合が生じないアルコール濃度補正学習回数Ngとして予め実験等によって決定される。
【0052】
次に、アルコール濃度補正学習制御の別の実施形態について図7を参照しながら説明する。図7(A)及び図7(B)は、上述した図6(A)及び図6(B)とそれぞれ同じである。図6に示される実施形態は、アルコール濃度補正学習回数Ngを用いてアルコール濃度補正学習値FALCの収束を判定したが、本実施形態ではアルコール濃度補正学習値収束先推定値FALCESTを用いて、アルコール濃度補正学習値FALCの収束を判定する。
【0053】
上述した図8に示すステップ121からステップ127までは、本実施形態においても共通であり、更に、一番目の実施形態における図9に示すステップ131からステップ137についても、図10に示すステップ141からステップ147と略等しい。但し、図9のステップ134に相当するステップ144のみが異なる。
【0054】
従って、その異なる点についてのみ説明する。一番目の実施形態では、アルコール濃度補正学習回数Ngを用いてアルコール濃度補正学習値FALCの収束を判定したが、本実施形態では、アルコール濃度補正学習値収束先推定値FALCESTを基にしてアルコール濃度補正学習値FALCが収束したか否かを判定する。
【0055】
そのため、ステップ144では、図7(C)に示されるように、アルコール濃度補正学習値収束先推定値FALCESTからアルコール濃度補正学習値FALCを減算した値の絶対値を求め、その値が予め定められたアルコール濃度補正学習値収束判定値TFCより小さいか否かが判定される。即ち、上記絶対値がアルコール濃度補正学習値収束判定値TFCより小さい場合には、アルコール濃度補正学習値FALCが略収束したと判定し、ステップ145へ進む。次いで、図7(D)に示すように、ステップ145において、アルコール濃度補正学習値収束フラグSFに1をセットし、次いで、ステップ147に進んで時間カウンタCNTをゼロにリセットしてルーチンを終了する。
【0056】
一方、上記絶対値がアルコール濃度補正学習値収束判定値TFC以上である場合には、アルコール濃度補正学習値FALCが未だ収束していないと判定し、ステップ146へ進む。ステップ146において、アルコール濃度補正学習値収束フラグSFに0をセットし、次いで、ステップ178に進んで時間カウンタCNTをゼロにリセットしてルーチンを終了する。アルコール濃度補正学習値収束フラグSFの値は、バックアップRAM36に保存される。
【0057】
アルコール濃度補正学習値収束判定値TFCは、例えば、アルコール濃度補正学習制御を実行し、アルコール濃度補正学習値収束先推定値FALCESTからアルコール濃度補正学習値FALCを減算した値の絶対値が当該アルコール濃度補正学習値収束判定値TFCより小さくなった直後に内燃機関を停止させ、次回の機関始動時に前回の機関停止時点のアルコール濃度補正学習値FALCを用いて燃料噴射量の補正を行っても、機関始動時に不具合が生じない値として予め実験等によって決定される。
【0058】
上述のように、アルコール濃度補正学習値FALCの収束が判定されるが、機関停止時にアルコール濃度補正学習値FALCが収束していない場合、次回の機関始動時にその値を用いて燃料噴射量を補正すると、始動不良等の不具合が生じてしまう。従って、この場合、以下に説明するアルコール濃度補正学習値初期設定操作を行うことで、始動不良等の不具合を防止する。
【0059】
図12は、機関始動時にアルコール濃度補正学習値FALCに初期値を設定するためのアルコール濃度補正学習値初期設定操作のフローチャートである。この操作はECU31によって、機関始動時に1回のみ実行されるルーチンとして行われる。
【0060】
まず、ステップ151において、アルコール濃度補正学習値収束フラグSFがバックアップRAM36より読み込まれる。次いで、ステップ152では、ステップ151で読み込まれたアルコール濃度補正学習値収束フラグSFが1であるか否かが判定される。ここで、アルコール濃度補正学習値収束フラグSFが1であると判定された場合には、ステップ153へ進む。
【0061】
次いで、ステップ153では、アルコール濃度補正学習値FALCに、前回の機関停止時のアルコール濃度補正学習値FALCをセットしルーチンを終了する。即ち、アルコール濃度補正学習値収束フラグSFが1であるため、前回の機関停止時までにアルコール濃度補正学習値FALCは収束している。従って、機関始動時において、そのアルコール濃度補正学習値FALCを用いれば、始動不良等の不具合が生じることはない。
【0062】
一方、ステップ152においてアルコール濃度補正学習値収束フラグSFが1でないと判定された場合には、ステップ154へ進む。ステップ154では、アルコール濃度補正学習値FALCに、前回の機関停止時のアルコール濃度補正学習値収束先推定値FALCESTをセットしルーチンを終了する。即ち、アルコール濃度補正学習値収束フラグSFが1でないため、前回の機関停止時までにアルコール濃度補正学習値FALCが収束していない。従って、機関始動時において、そのアルコール濃度補正学習値FALCをそのまま用いてしまうと、始動不良等の不具合が生じる。
【0063】
それに対して、アルコール濃度補正学習値収束先推定値FALCESTは、アルコール濃度補正学習値FALCの収束する推定値であるものの、収束する前のアルコール濃度補正学習値FALCよりは真の値に近いと考えられる。従って、前回の機関停止時までにアルコール濃度補正学習値FALCが収束していない場合には、アルコール濃度補正学習値収束先推定値FALCESTを始動時のアルコール濃度補正学習値FALCとして用いる。
【0064】
次に、アルコール濃度補正学習値初期設定操作の別の実施形態について、図13に示すフローチャートを参照しながら説明する。図13に示すフローチャートは、図12に示したアルコール濃度補正学習値初期設定操作のフローチャートとほとんど同じであるが、ステップ162においてアルコール濃度補正学習値収束フラグSFが1でないと判定され、ステップ164へ進んだ後の処理のみ異なる。ステップ164では、アルコール濃度補正学習値FALCに、前回の機関停止時のアルコール濃度補正学習値収束先推定値FALCESTに補正係数α(α≧1)を掛けた値をセットしている。
【0065】
即ち、機関停止時にアルコール濃度補正学習値FALCが収束していないため、より真の値に近いと考えられるアルコール濃度補正学習値収束先推定値FALCESTを用いるようにしているが、それでも燃料噴射量が不足すると始動不良等の不具合が生じてしまう。従って、より確実に始動不良等の発生を防止するために、更に多めに燃料を噴射するように補正する。補正係数αは予め定められた定数でもよく、また、アルコール濃度補正学習値収束先推定値FALCEST等その他の値に基づいて変化する値であってもよい。
【0066】
ところで、アルコール濃度補正学習値FALCは、始動時の燃料噴射量の補正、点火時期の補正、冷間時の燃料噴射量の補正等に用いることができる。その中で、アルコール濃度補正学習値FALCを用いた始動時の燃料噴射量の補正及び点火時期の補正について以下に説明する。
【0067】
まず、上述したアルコール濃度補正学習値初期設定操作によって設定されたアルコール濃度補正学習値FALCを用いて、機関始動時の燃料噴射量を補正する方法について説明する。クランクシャフトが回転し始めて或る回転数を超えるまでの機関始動直後は、特に失火が生じやすい。この回転数を回転数Ne1とし、予め実験等によって求めることができる。回転数Ne1に達するまでは筒内吸入空気量Mcの検出ができないため、基本燃料噴射量Qbではなく、機関サイクル毎の燃料噴射時間TAUを用いて機関始動時の制御について説明する。
【0068】
クランクシャフトが回転し始めてから回転数Ne1に達するまでの燃料噴射時間TAUは、以下の式(7)で表される。ここで、TAUSTBは始動時基本燃料噴射時間であり、例えば、水温と回転数とを引数とから予め実験的又は計算によって求められたマップ又は計算式によって算出される。KALCSTは始動時噴射時間補正係数(KALCST≧1)であり、アルコール濃度補正学習値FALCを用いて図14に示すマップに基づいて算出される。図14に示すマップは予め実験又は計算式によって求め、このマップ又は計算式はROM34に保存されている。式(7)及び図14のマップによると、アルコール濃度補正学習値FALCが大きければ大きいほど燃料噴射時間TAUが長くなるように、即ち、燃料噴射量が増量するように補正している。
TAU=TAUSTB・KALCST …(7)
【0069】
図15は、燃料噴射時間TAUを設定する燃料噴射時間設定操作のフローチャートである。この操作は機関始動時にアルコール濃度補正学習値初期設定操作が実行された後に、ECU31によって予め定められた所定時間毎の割り込みによって実行されるルーチンとして行われる。
【0070】
まず、ステップ171では、機関回転数Neが読み込まれる。次いで、ステップ172では、ステップ171で読み込まれた機関回転数Neが予め定められた所定回転数Ne1より小さいか否かが判定される。機関回転数Neが所定回転数Ne1よりも小さい場合には、機関始動時であると判断してステップ173へ進む。ステップ173では、図14のマップに基づいて始動時噴射時間補正係数KALCSTが算出される。次いで、ステップ174では、式(7)に基づいて燃料噴射時間TAU設定され、ルーチンを終了する。一方、ステップ172において、機関回転数Neが所定回転数Ne1以上である場合には、ステップ175へ進む。ステップ175では、式(4)に基づいて燃料噴射量Qftが算出され、次いでステップ176へと進む。ステップ176では、ステップ175において算出された燃料噴射量Qftに基づいて、その量が噴射可能な燃料噴射時間TAUが算出され、ルーチンを終了する。
【0071】
次に、上述したアルコール濃度補正学習値初期設定操作によって設定されたアルコール濃度補正学習値FALCを用いて、点火時期を補正する方法について説明する。点火時期SAは以下の式(8)によって算出される。ここでSABSEは基本点火時期を表し、例えば機関回転数Neと機関負荷KLとのマップから求められ、このマップはROM34に保存されている。SAALC(SAALC≧0)はアルコール濃度による点火時期補正値を示し、図16に示すマップから求められる。図16に示すマップは予め実験等によって求められ、ROM34に保存されている。このマップによればアルコール濃度が高ければ高いほど点火時期を進角させるように補正している。即ち、アルコール燃料はオクタン価が高く、点火時期を進角させることによってより大きなトルクが得られる。
SA=SABSE+SAALC …(8)
【0072】
次に、点火時期を補正する別の実施形態について図17を参照しながら説明する。図17は、点火時期を補正する点火時期補正操作のフローチャートである。この操作はECU31によって予め定められた所定時間毎の割り込みによって実行されるルーチンとして行われる。
【0073】
まず、ステップ181では、アルコール濃度補正学習値収束フラグSFがバックアップRAM36より読み込まれる。次いで、ステップ182では、ステップ181で読み込まれたアルコール濃度補正学習値収束フラグSFが0であるか否かが判定される。ここで、アルコール濃度補正学習値収束フラグSFが0でないと判定された場合は、ステップ183に進む。アルコール濃度補正学習値収束フラグSFが0でない場合は1であり、前回の機関停止時にアルコール濃度補正学習値FALCが収束している。従って、ステップ183では本実施形態による点火時期の補正は行わず、点火時期SAに基本点火時期SABSEをセットし、ルーチンを終了する。
【0074】
一方、ステップ182においてアルコール濃度補正学習値収束フラグSFが0であると判定された場合には、ステップ184へ進む。ステップ184では、機関回転数Neが読み込まれる。次いで、ステップ185では、ステップ184で読み込まれた機関回転数Neが予め定められた所定回転数Ne2より小さいか否かが判定される。ここで、回転数Ne2は、機関始動直後であって始動不良が発生しやすい機関始動前半の回転数域と、ノッキングが発生しやすい機関始動後半の回転数域との間であり、実験的に求められる。そして、機関回転数Neが所定回転数Ne2よりも小さいと判定された場合には、ステップ186へ進む。
【0075】
次いで、ステップ186では、点火時期SAに基本点火時期SABSEに補正値β(β≧0)を加算した値をセットし、ルーチンを終了する。即ち、ここでは、機関回転数Neが所定回転数Ne2よりも小さいので、始動不良が生じやすい状態にあるため、補正値βを加算して点火時期を進角させる。点火時期を進角させることによって、通常の点火時期で点火した場合よりも大きなトルクを得ることが可能となり、始動不良を回避することが可能となる。
【0076】
一方、ステップ185において、機関回転数Neが所定回転数Ne2以上であると判定された場合には、ステップ187へ進む。この場合には機関始動直後の始動不良が生じることがないので、今度はノッキングの発生が問題となる。従って、ステップ187では、基本点火時期SABSEに補正値γ(γ≧0)を減算した値をセットし、ルーチンを終了する。即ち、点火時期を遅角させることによってノッキングの発生を防止している。
【0077】
補正値β及び補正値γは予め定められた定数でもよく、また、アルコール濃度補正学習値FALC等その他の値に基づいて変化する値であってもよい。
【0078】
これまでいくつかの実施形態を用いて燃料噴射量、点火時期等について補正方法を説明したが、それぞれ各方法を単独で適用してもよいし、任意に組み合わせて適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の空燃比制御装置が用いられる内燃機関全体の図である。
【図2】排気空燃比と空燃比センサの出力電圧との関係を示した図である。
【図3】アルコール濃度補正学習値と理論空燃比との関係を示した図である。
【図4】目標燃料供給量算出制御操作を示すフローチャートである。
【図5】フィードバック制御操作を示すフローチャートである。
【図6】アルコール濃度補正学習制御操作のタイムチャートである。
【図7】別の実施形態によるアルコール濃度補正学習制御操作のタイムチャートである。
【図8】アルコール濃度補正学習制御操作のフローチャートの一部である。
【図9】図8から続くアルコール濃度補正学習制御操作のフローチャートの一部である。
【図10】図8から続くアルコール濃度補正学習制御操作のフローチャートの別の実施形態の一部である。
【図11】アルコール濃度補正学習回数Ng、アルコール濃度補正学習値収束先推定値FALCESTの変化量ΔFALCEST、FAF+ΔFACLの関係を示す図である。
【図12】アルコール濃度補正学習値初期設定操作を示すフローチャートである。
【図13】別の実施形態によるアルコール濃度補正学習値初期設定操作を示すフローチャートである。
【図14】アルコール濃度補正学習値と始動時噴射量補正係数との関係を示した図である。
【図15】始動時燃料噴射時間設定操作を示すフローチャートである。
【図16】アルコール濃度補正学習値と点火時期補正値との関係を示した図である。
【図17】点火時期補正操作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0080】
1 機関本体
3 ピストン
5 燃焼室
6 吸気弁
8 排気弁
10 点火栓
11 燃料噴射弁
31 ECU
23 空燃比センサ
42 負荷センサ
43 クランク角センサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料としてアルコールとガソリンとをそれぞれ単独で又は混合して使用可能な内燃機関の空燃比制御装置であって、機関排気通路内に設けられた排気浄化触媒の上流排気通路内に配置され排気ガスの空燃比を検出する空燃比センサと、該空燃比センサの出力値が目標空燃比に対応する値となるようにフィードバック補正値に基づいて燃料供給量を補正するフィードバック手段と、前記フィードバック補正値に基づいて算出されたアルコール濃度補正学習値を学習すると共にそれに基づいて前記燃料供給量を補正するアルコール濃度補正学習手段とを具備する内燃機関の空燃比制御装置において、前記アルコール濃度補正学習値が収束したことを予め定められた少なくとも一つの収束判定条件に基づいて判定する収束判定手段と、前記フィードバック補正値と前記アルコール濃度補正学習値とに基づき該アルコール濃度補正学習値が収束すると推定される値であるアルコール濃度補正学習値収束先推定値を求める手段とを更に具備し、前回の内燃機関停止時にアルコール濃度補正学習値が収束していないと判定されていたとき、今回の内燃機関始動時における前記アルコール濃度補正学習値の初期値を、前回の内燃機関停止時に求められていた前記アルコール濃度補正学習値収束先推定値とする内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項1】
燃料としてアルコールとガソリンとをそれぞれ単独で又は混合して使用可能な内燃機関の空燃比制御装置であって、機関排気通路内に設けられた排気浄化触媒の上流排気通路内に配置され排気ガスの空燃比を検出する空燃比センサと、該空燃比センサの出力値が目標空燃比に対応する値となるようにフィードバック補正値に基づいて燃料供給量を補正するフィードバック手段と、前記フィードバック補正値に基づいて算出されたアルコール濃度補正学習値を学習すると共にそれに基づいて前記燃料供給量を補正するアルコール濃度補正学習手段とを具備する内燃機関の空燃比制御装置において、前記アルコール濃度補正学習値が収束したことを予め定められた少なくとも一つの収束判定条件に基づいて判定する収束判定手段と、前記フィードバック補正値と前記アルコール濃度補正学習値とに基づき該アルコール濃度補正学習値が収束すると推定される値であるアルコール濃度補正学習値収束先推定値を求める手段とを更に具備し、前回の内燃機関停止時にアルコール濃度補正学習値が収束していないと判定されていたとき、今回の内燃機関始動時における前記アルコール濃度補正学習値の初期値を、前回の内燃機関停止時に求められていた前記アルコール濃度補正学習値収束先推定値とする内燃機関の空燃比制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2009−144574(P2009−144574A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−321334(P2007−321334)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】
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