説明

分子線エピタキシー装置および分子線エピタキシー法

【課題】基板上に結晶薄膜を均一に成長させることが可能な分子線エピタキシー装置および分子線エピタキシー法を提供すること。
【解決手段】その内部を真空状態に保持可能であり、その内部に収容した基板Sbに結晶成長させるための真空成長室1と、基板Sbを保持する基板ホルダ2と、筒状の側壁32と底31とを有しており、基板Sbに結晶成長させる材料Mtを溶融状態で保持可能なるつぼ3と、を備える分子線エピタキシー装置Aであって、るつぼ3の底31には、溶融した材料Mtが表面張力によって漏洩しないサイズとされた1以上の貫通孔31aが設けられており、基板ホルダ2は、るつぼ3に対して底31の外面31bが向く方向に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば半導体装置の製造工程において半導体の薄膜を形成するために用いられる分子線エピタキシー(MBE)装置および分子線エピタキシー法に関する。
【背景技術】
【0002】
図3は、従来の分子線エピタキシー装置の一例を示している(たとえば、特許文献1参照)。同図に示された分子線エピタキシー装置Xは、真空成長室91、基板ホルダ92、るつぼ93を備えている。基板ホルダ92は、たとえば半導体の薄膜を成長させる基板Sbを保持するためのものである。るつぼ93は、たとえばGaなどの材料Mtを溶融状態で滞留させるためのものである。真空状態とされた真空成長室91内においては、るつぼ92内において溶融された材料Mtの液面から、分子線Mbが基板Sbに向けて照射される。これにより、基板Sbの表面に材料Mtの結晶薄膜を成長させることができる。
【0003】
しかしながら、基板Sbへの結晶薄膜の成長を継続すると、るつぼ92内の材料Mtが減少する。このため、材料Mtの液面がるつぼ93内を下降する。材料Mtの液面の高さが変わると、るつぼ93から放出される分子線Mbの照射範囲が変わってしまう。このようなことでは、基板Sbに材料Mtの結晶薄膜を均一に成長させることが困難であった。
【0004】
【特許文献1】特開2003−112994号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、基板上に結晶薄膜を均一に成長させることが可能な分子線エピタキシー装置および分子線エピタキシー法を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の側面によって提供される分子線エピタキシー装置は、その内部を真空状態に保持可能であり、その内部に収容した基板に結晶成長させるための真空成長室と、上記基板を保持する基板ホルダと、筒状の側壁と底とを有しており、上記基板に結晶成長させる材料を溶融状態で保持可能なるつぼと、を備える分子線エピタキシー装置であって、上記るつぼの上記底には、溶融した上記材料が表面張力によって漏洩しないサイズとされた1以上の貫通孔が設けられており、上記基板ホルダは、上記るつぼに対して上記底の外面が向く方向に配置されていることを特徴としている。
【0007】
このような構成によれば、上記材料のうち上記貫通孔から露出した部分から分子線が照射される。上記基板への結晶薄膜の成長が継続されても、上記分子線が発生する位置は、常に一定である。したがって、上記分子線の照射範囲を一定とすることが可能であり、上記基板上に結晶薄膜を均一に成長させることができる。
【0008】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記るつぼに溶融した上記材料が滞留した状態で、溶融した上記材料のうち上記底寄りにある部分の温度を計測可能である温度計測手段をさらに備える。このような構成によれば、上記温度計測手段により、上記材料のうち分子線となる部分の温度を容易に把握することが可能である。したがって、上記材料を上記分子線を照射するのに適した温度に保つことができる。
【0009】
本発明の第2の側面によって提供される分子線エピタキシー法は、その内部を真空状態に保持可能であり、その内部に収容した基板に結晶成長させるための真空成長室と、上記基板を保持する基板ホルダと、筒状の側壁と底とを有しており、上記基板に結晶成長させる材料を溶融状態で保持可能なるつぼと、を用いて上記基板に結晶成長させる分子線エピタキシー法であって、上記るつぼの上記底には、溶融した上記材料が表面張力によって漏洩しないサイズとされた1以上の貫通孔が設けられており、上記基板ホルダは、上記るつぼに対して上記底の外面が向く方向に配置されており、上記貫通孔から上記基板に向けて上記材料の分子線を照射することを特徴としている。
【0010】
このような構成によれば、上記材料のうち上記分子線が発生する部分の位置は、上記基板に対して常に一定である。このため、上記基板への結晶薄膜の成長を継続しても上記分子線の照射範囲は変わらない。したがって、上記基板上に結晶薄膜を均一に成長させることができる。
【0011】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、図面を参照して具体的に説明する。
【0013】
図1は、本発明に係る分子線エピタキシー装置の一例を示している。本実施形態の分子線エピタキシー装置Aは、真空成長室1、基板ホルダ2、るつぼ3、熱電対4、およびシャッタ5を備えており、基板Sbに材料Mtの結晶薄膜を成長させるための装置である。
【0014】
真空成長室1は、基板ホルダ2、るつぼ3を収容しており、その内部において基板Sbに材料Mtの結晶薄膜を成長させるためのものである。真空成長室1は、図外の真空ポンプによってその内部を真空状態とすることが可能に構成されている。
【0015】
基板ホルダ2は、基板Sbを保持するためのものである。基板ホルダ2は、真空成長室1内において下方寄りに配置されており、基板Sbのうち結晶成長させられる面が上向きとなる姿勢で基板Sbを保持する。基板ホルダ2には、基板Sbを加熱するためのヒータが備えられている。
【0016】
るつぼ3は、基板Sbに結晶成長させる材料Mtを溶融状態で保持するためのものである。るつぼ3は、真空成長室1内において上方寄りに配置されており、底31と筒状の側壁32とを有している。基板ホルダ2は、るつぼ3に対して、るつぼ3の底31の外面31bが向く方向、すなわち鉛直方向下方に配置されている。本実施形態においては、真空成長室1の蓋に、るつぼ3を収容可能な凸部が形成されている。図2に示すように、底31には、複数の貫通孔31aが形成されている。貫通孔31aは、溶融状態とされた材料Mtの表面張力を利用して材料Mtが漏洩しないサイズとされている。貫通孔31aからは、材料Mtの分子線Mbが照射される。側壁32には、貫通孔32aが形成されている。貫通孔32aは、材料Mtが減少したときにるつぼ3内の真空度が真空成長室1内よりも高まることを防止するためのものである。
【0017】
るつぼ3の具体的構成例は、以下の通りである。るつぼ3は、たとえば窒化ホウ素からなり、その直径が30〜100mm、その高さが150〜200mm程度とされる。底31および側壁32は、いずれもその厚さが0.5〜1.0mm程度とされる。底31には、5つの貫通孔31aが同心円状に形成されている。各貫通孔31aは、その直径が1.0mm程度とされる。
【0018】
熱電対4は、るつぼ3に滞留した溶融状態の材料Mtの温度を計測するためのものであり、本発明で言う温度計測手段の一例である。熱電対4は、その先端がるつぼ3の底31に接する程度に位置することが可能に構成されている。熱電対4によって、溶融した材料Mtのうち底31付近にある部分の温度を計測することができる。この部分は、貫通孔31aから分子線Mbとなって照射される部分とほぼ同じ温度である。
【0019】
図1に示すように、シャッタ5は、たとえば金属製の円盤状であり、真空成長室1の上方寄りに配置されている。シャッタ5は、るつぼ3の直下位置とるつぼ3から退避した位置とを往復動可能に構成されている。シャッタ5をるつぼ3の直下位置に位置させることにより、るつぼ3からの分子線Mbの照射を一時的に遮断することができる。基板Sbに結晶薄膜を成長させるときには、シャッタ5をるつぼ3から退避した位置に移動させる。シャッタ5には、皿部51が形成されている。皿部51は、シャッタ5がるつぼ3の直下位置にあるときに、るつぼ3にクラックが発生するなどして材料Mtが真空成長室1内に不当にこぼれてしまうことを防止するためのものである。
【0020】
次に、分子線エピタキシー装置Aを用いた分子線エピタキシー法について以下に説明する。
【0021】
まず、図1に示すように、基板ホルダ2にたとえばサファイアからなる基板Sbを保持させる。シャッタ5をるつぼ3の直下位置に配置した状態で、るつぼ3に基板Sbの表面に結晶成長させるたとえばGa、Al、Znなどの材料Mtを挿入する。そして、図外の真空ポンプによって真空成長室1内を、真空状態とする。るつぼ3内の材料Mtを図外のヒータなどの加熱手段によって加熱することにより溶融状態とする。溶融状態となった材料Mtは、るつぼ3に保持されたままである。溶融した材料Mtは、貫通孔31aから露出した状態となる。
【0022】
次いで、熱電対4によって材料Mtの温度が分子線Mbの照射に適した温度に達したことを確認した後に、シャッタ5をるつぼ3から退避した位置に移動させる。これにより、貫通孔31aから材料Mtの分子線Mbが基板Sbの上面に向けて照射される。基板Sbの上面には、材料Mtの結晶薄膜が徐々に成長する。熱電対4の計測結果を利用して、上記加熱手段の出力をたとえばフィードバック制御する。これにより、材料Mtのうち貫通孔31aから露出する部分の温度を分子線Mbを照射するのに適した温度に保っておく。
【0023】
さらに、材料Mtの結晶薄膜の成長を継続すると、るつぼ3内の材料Mtの量が減少する。しかし、貫通孔31aから露出している材料Mtの部分の位置は、一定とされている。これにより、るつぼ3から照射される分子線Mbの照射範囲は結晶薄膜成長の開始時点から終了時点まで常に一定である。基板Sbの上面に所望の厚さの結晶薄膜が形成されたことを確認すると、シャッタ5をるつぼ3の直下に移動させる。これにより、基板Sbへの材料Mtの結晶薄膜の形成が完了する。
【0024】
次に、分子線エピタキシー装置Aおよびこれを用いた分子線エピタキシー法の作用について説明する。
【0025】
本実施形態によれば、分子線Mbは、材料Mtのうち貫通孔31aから露出した部分から照射される。このため、基板Sbへの結晶薄膜の成長を継続しても、分子線Mbが照射される範囲は、常に一定である。したがって、基板Sbの所望の範囲に材料Mtの分子線Mbを照射し続けることが可能であり、基板Sbに材料Mtの結晶薄膜を均一に成長させることができる。
【0026】
熱電対4をその先端がるつぼ3の底31に接する程度の位置に配置すれば、材料Mtのうち分子線Mbとなる部分の温度を把握することが可能である。上述したとおり、材料Mtのうち分子線Mbとなる部分は、常に貫通孔31aから露出する部分であり、熱電対4の先端との位置関係は一定である。したがって、基板Sbへの結晶薄膜成長の開始時点から終了時点までの間中、材料Mtのうち貫通孔31aから露出する部分、すなわち分子線Mbとなる部分の温度を、分子線Mbを照射するのに適した温度とすることができる。
【0027】
本発明に係る分子線エピタキシー装置および分子線エピタキシー法は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る分子線エピタキシー装置および分子線エピタキシー法の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【0028】
本発明に係る分子線エピタキシー装置に備えられるるつぼの個数は、1つに限定されず、2以上であってもよい。2以上のるつぼを備える構成であれば、いずれかのるつぼを選択して使用することにより、異なる材料からなる複数の結晶薄膜を基板上に積層させることができる。また、真空成長室内に、有機金属気相成長法(MOCVD法)のための要素を配置すれば、同一の基板に対して、分子線エピタキシー法と有機金属気相成長法との双方によって複数の結晶薄膜を成長させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る分子線エピタキシー装置の一例を示す断面図である。
【図2】本発明に係る分子線エピタキシー装置の一例に用いられるるつぼを示す断面図である。
【図3】従来の分子線エピタキシー装置の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0030】
A 分子線エピタキシー装置
Mb 分子線
Mt 材料
Sb 基板
1 真空成長室
2 基板ホルダ
3 るつぼ
4 熱電対(温度計測手段)
5 シャッタ
31 底
31a 貫通孔
31b 外面
32 側壁
32a 貫通孔
51 皿部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その内部を真空状態に保持可能であり、その内部に収容した基板に結晶成長させるための真空成長室と、
上記基板を保持する基板ホルダと、
筒状の側壁と底とを有しており、上記基板に結晶成長させる材料を溶融状態で保持可能なるつぼと、
を備える分子線エピタキシー装置であって、
上記るつぼの上記底には、溶融した上記材料が表面張力によって漏洩しないサイズとされた1以上の貫通孔が設けられており、
上記基板ホルダは、上記るつぼに対して上記底の外面が向く方向に配置されていることを特徴とする、分子線エピタキシー装置。
【請求項2】
上記るつぼに溶融した上記材料が滞留した状態で、上記材料のうち上記底寄りにある部分の温度を計測可能である温度計測手段をさらに備える、請求項1に記載の分子線エピタキシー装置。
【請求項3】
その内部を真空状態に保持可能であり、その内部に収容した基板に結晶成長させるための真空成長室と、
上記基板を保持する基板ホルダと、
筒状の側壁と底とを有しており、上記基板に結晶成長させる材料を溶融状態で保持可能なるつぼと、
を用いて上記基板に結晶成長させる分子線エピタキシー法であって、
上記るつぼの上記底には、溶融した上記材料が表面張力によって漏洩しないサイズとされた1以上の貫通孔が設けられており、
上記基板ホルダは、上記るつぼに対して上記底の外面が向く方向に配置されており、
上記貫通孔から上記基板に向けて上記材料の分子線を照射することを特徴とする、分子線エピタキシー法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−66509(P2008−66509A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−242739(P2006−242739)
【出願日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】