説明

加熱体、及び、その加熱体を備える加熱装置

【課題】可撓性部材が接触しつつ移動するガラスコート層を有する加熱体について熱効率の向上と摺動性の確保を両立できるようにする。
【解決手段】被加熱材Pを可撓性部材2を介して加熱する加熱装置107に用いられる加熱体であって、基板と、前記基板の基板面上に形成された発熱体と、前記基板7面上に形成され前記可撓性部材が接触しつつ移動するガラスコート層8の熱伝導率が2W/m・K以上であり、前記ガラスコート層の表面粗さが十点平均粗さRzで0.7μm以上1.4μm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真複写機、電子写真プリンタ等の画像形成装置に搭載される画像加熱定着装置の熱源として用いれば好適な加熱体、及び、その加熱体を備える加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真式の複写機やレーザービームプリンタ等の画像形成装置に搭載する画像加熱定着装置(定着器)として、フィルム加熱方式のものがある。フィルム加熱方式の定着装置は、セラミックス製の基板上に抵抗発熱体を有するヒータと、このヒータに接触しつつ移動する可撓性の定着フィルムと、定着フィルムを介してヒータとニップ部を形成する加圧ローラと、を有する。特許文献1、2にはこのタイプの定着装置が記載されている。未定着トナー像を担持する記録材(被加熱材)は定着装置のニップ部で挟持搬送されつつ加熱され、これにより記録材上のトナー像は記録材に加熱定着される。この定着装置は、ヒータへの通電を開始し定着可能温度まで昇温するのに要する時間が短いというメリットを有する。したがって、この定着装置を搭載するプリンタは、プリント指令の入力後、1枚目の画像を出力するまでの時間(FPOT:First printout time)を短くできる。またこの定着装置は、プリント指令を待つ待機中の消費電力が少ないというメリットもある。
【0003】
従来のフィルム加熱方式の定着装置においては、加熱体としてのヒータの基板として酸化アルミニウムや窒化アルミニウム等を主成分としたセラミックスを用いている場合が多い。酸化アルミニウムを用いる場合は、基板の表面(フィルム摺動面)に抵抗発熱体を形成し、基板の裏面(非フィルム摺動面)に加熱体の温度を検知し温度制御を行うための検温素子を設ける構成が一般的である(表面発熱タイプ)。
【0004】
この表面発熱タイプでは、抵抗発熱体の絶縁性とヒータとフィルムとの摺動性を確保するために、抵抗発熱体を覆う高耐熱性のガラスコート層を基板表面に設ける構成がとられることが多い。
【0005】
一方、窒化アルミニウムを用いる場合は、酸化アルミニウムより熱伝導率が高いため、基板の裏面(非フィルム摺動面)に抵抗発熱体を形成し、その上から絶縁層を介して検温素子を当接し温度制御する構成の方が熱効率が良い(裏面発熱タイプ)。
【0006】
この裏面発熱タイプでは、ヒータとフィルムとの摺動性を確保するために、基板の表面に高耐熱性のガラスコート層を設ける場合が多い。抵抗発熱体をコートする絶縁層も高耐熱性のガラスコート層を用いる構成が一般的である。
【特許文献1】特開平4−44075号公報
【特許文献2】特開平4−204980号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、複写機や、レーザービームプリンタ等の画像形成装置は高速化が進み、画像形成装置に搭載される定着装置も高速化への対応が必須となっている。前述のフィルム加熱方式の定着装置において高速化を達成するためには、抵抗発熱体で発生した熱量をいかに効率良く記録材に伝達するか、すなわち熱効率の向上が課題となっている。
【0008】
ヒータの基板の記録材側に設けられるガラスコート層において熱効率向上を図る場合、ガラスの熱伝導率を大きくすることが考えられる。ガラス自体の熱伝導率は種類によらず1W/m・K程度であるので、熱伝導率を向上されるために、ガラスよりも熱伝導率の高い酸化アルミニウムやシリカ等のセラミックスフィラーをガラス中に含有させる方法が一般的に用いられる。このフィラーは、含有量が多いほど熱伝導率は高くなるが、含有量が多すぎるとガラスコート層の表面性が悪くなる傾向にある。ガラスコート層の表面性が悪いと、ニップ部内におけるヒータ表面とフィルム内面との密着性が悪化し、ヒータからフィルムへの熱伝達が阻害され、熱効率が低下する。よって、フィラーの含有量を多くして熱伝導率を向上させたとしても、ガラスコート層の表面性の悪化により熱効率の向上分が相殺され、全体的な熱効率はそれほど向上しない場合がある。
【0009】
また、ガラスコート層の表面性は、ヒータとフィルムとの摺動性にも大きな影響を与えることが分かっている。ガラスコート層の表面が非常に平滑であると、ニップ部内でヒータ表面とフィルム内面の密着性が大きすぎ、かえって摺動性が悪化することが検討で明らかになっている。逆に、ガラスコート層の表面が非常に粗い場合も、フィルムの回転を妨げる場合があり、摺動性に対して最適な表面粗さ領域が存在することが分かっている。
【0010】
ヒータとフィルムとの摺動性が悪化すると、定着装置の駆動トルクが大きくなるため、定着装置の駆動モータに対する負荷が増えてしまう。また、加圧ローラの搬送力が低下するような条件(加圧ローラ表面温度が高い場合に、吸湿した記録材をニップ部に導入するような場合)において定着装置が記録材を搬送できなくなることがある(この現象をスリップと呼んでいる)。
【0011】
本発明の目的は、可撓性部材が接触しつつ移動するガラスコート層を有する加熱体について熱効率の向上と摺動性の確保を両立できるようにすることにある。
【0012】
また、本発明の目的は、上記の加熱体を備える加熱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る加熱体の代表的な構成は、被加熱材を可撓性部材を介して加熱する加熱装置に用いられる加熱体であって、基板と、前記基板の基板面上に形成された発熱体と、前記基板面上に形成され前記可撓性部材が接触しつつ移動するガラスコート層と、を有する加熱体において、
前記ガラスコート層の熱伝導率が2W/m・K以上であり、前記ガラスコート層の表面粗さが十点平均粗さRzで0.7μm以上1.4μm以下であることを特徴とする加熱体である。
【0014】
本発明に係る加熱装置の代表的な構成は、基板と、前記基板の基板面上に形成された発熱体と、前記基板面上に形成されたガラスコート層と、を有する加熱体と、前記ガラスコート層と接触しつつ移動する可撓性部材と、前記可撓性部材を挟んで前記加熱体とニップ部を形成する加圧部材と、を有し、前記ニップ部で被加熱材を挟持搬送しつつ加熱する加熱装置において、
前記加熱体の前記ガラスコート層の熱伝導率が2W/m・K以上であり、前記ガラスコート層の表面粗さが十点平均粗さRzで0.7μm以上1.4μm以下であることを特徴とする加熱装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、可撓性部材に対し熱効率の向上と摺動性の確保を両立できる加熱体、及び、その加熱体を備える加熱装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を図面に基づいて詳しく説明する。
【実施例1】
【0017】
(1)画像形成装置例
図5は本発明に係る加熱体を備える加熱装置を画像加熱定着装置として搭載できる画像形成装置の一例の構成模型図である。
【0018】
本実施例の画像形成装置は電子写真式のレーザービームプリンタである。このプリンタは、使用可能な記録材の最大サイズ幅(記録材の面において記録材搬送方向と直交する方向の寸法)をA4サイズ(紙幅:210mm)とする。
【0019】
101は像担持体としての電子写真感光体ドラムであり、矢示の反時計方向に所定の周速度(プロセススピード)をもって回転駆動される。
【0020】
102は接触帯電ローラ等の帯電手段であり、この帯電手段により感光体ドラム101の外周面(表面)が所定の極性・電位に一様に帯電処理(一次帯電)される。
【0021】
103は画像露光手段としてのレーザービームスキャナである。スキャナ103は、不図示のイメージスキャナ・コンピュータ等の外部機器から入力する目的の画像情報に対応してオン/オフ変調したレーザー光を出力して、感光体ドラム101表面の帯電処理面を走査露光(照射)する。この走査露光により感光体ドラム101表面の露光明部の電荷が除電されて感光体ドラム101表面に目的の画像情報に対応した静電潜像が形成される。
【0022】
104は現像装置であり、現像スリーブから感光体ドラム101表面に現像剤(トナー)が供給されて感光体ドラム101表面の静電潜像が可転写像であるトナー像(現像像)として順次に現像される。レーザービームプリンタの場合、一般的に、静電潜像の露光明部にトナーを付着させて現像する反転現像方式が用いられる。
【0023】
109は給紙カセットであり、被加熱材としての記録材Pを積載収納させてある。
給紙スタート信号に基づいて給紙ローラ108が駆動されて給紙カセット109内の記録材Pが一枚ずつ分離給紙される。この記録材Pは、搬送ローラ110、レジストローラ111等を含むシートパス112を通って、感光体ドラム101と接触型・回転型の転写部材としての転写ローラ106との当接ニップ部である転写部位に所定のタイミングで導入される。すなわち、感光体ドラム101上のトナー像の先端部が転写部位に到達したとき、記録材Pの先端部もちょうど転写部位に到達するタイミングとなるようにレジストローラ111で記録材Pの搬送が制御される。
【0024】
転写部位に導入された記録材Pはこの転写部位を挟持搬送され、その間、転写ローラ106には不図示の転写バイアス印加電源から所定に制御された転写電圧(転写バイアス)が印加される。転写ローラ106にはトナーと逆極性の転写バイアスが印加されることで転写部位において感光体ドラム101表面側のトナー像が記録材Pの表面に静電的に転写される。
【0025】
転写部位においてトナー像の転写を受けた記録材Pは感光体ドラム101面から分離されてシートパス113を通って加熱装置としての画像加熱定着装置107へ搬送導入され、トナー像の加熱・加圧定着処理を受ける。
【0026】
一方、記録材分離後(記録材Pに対するトナー像転写後)の感光体ドラム101表面はクリーニング装置105で転写残トナーや紙粉等の除去を受けて清浄面化され、繰り返して作像に供される。
【0027】
定着装置107を通った記録材Pは、シートパス114を通って排紙口から排紙トレイ115上に排出される。
【0028】
(2)定着装置107
図3はフィルム加熱方式の定着装置の一例の要部の構成模型図である。図4は同装置の要部の斜視模型図である。
【0029】
1はステーであり、加熱体保持部材兼フィルムガイド部材としての耐熱性・剛性部材である。3は加熱体としてのセラミックヒータであり、上記のステー1の下面にステー長手に沿って配設して保持させてある。2は可撓性部材としてのエンドレス(円筒状)の耐熱性フィルム(定着フィルム)であり、加熱体3を含むフィルムガイド部材であるステー1に外嵌させてある。このエンドレスのフィルム2の内周長と加熱体3を含むステー1の外周長はフィルム2の方を例えば3mm程度大きくしてあり、従ってフィルム2は周長に余裕を持って外嵌している。
【0030】
ステー1と、フィルム2と、加熱体3は、それぞれ、記録材Pの面において記録材搬送方向aと直交する方向を長手とする細長い部材である。フィルム2は長手両端部がフランジ部材(不図示)により回転可能に保持されている。このフランジ部材は装置フレームの側板(不図示)に支持させてある。
【0031】
ステー1はポリイミド、ポリアミドイミド、PEEK、PPS、液晶ポリマー等の高耐熱性樹脂や、これらの樹脂とセラミックス、金属、ガラス等との複合材料等で構成できる。本実施例では液晶ポリマーを用いた。
【0032】
フィルム2は熱容量を小さくしてクイックスタート性を向上させるために、フィルム膜厚は100μm以下、好ましくは50μm以下20μm以上の耐熱性のあるPTFE、PFA、FEP等の単層フィルムを使用できる。或いはポリイミド、ポリアミドイミド、PEEK、PES、PPS等のフィルムの外周表面にPTFE、PFA、FEP等をコーティングした複合層フィルムを使用できる。本実施例では膜厚約50μmのポリイミドフィルムの外周表面にPTFEをコーティングしたものを用いた。フィルム2の外径は18mmとした。
【0033】
4は加圧部材(バックアップ部材)としての弾性加圧ローラである。加圧ローラ4は、芯金4aの周囲に弾性体層4bを有し、さらに弾性体層4bの周囲に最外層として離形層4cを有する。この加圧ローラ4は、記録材搬送方向aと直交する方向を長手とする細長い部材であり、芯金4aの長手両端部が軸受部材(不図示)を介して上記の装置フレームの側板に回転可能に保持されている。そして、加圧ローラ4は、不図示の加圧バネ等の加圧手段により所定の加圧力をもってフィルム2を挟ませて加熱体3の表面に圧接されることにより、フィルム2を挟んで加熱体3の表面と所定幅のニップ部(圧接ニップ部、定着ニップ部)Nを形成している。本実施例では、芯金4aはアルミ芯金を、弾性体層4bはシリコーンゴムを、離形層4cは厚さ約30μmのPFAのチューブを用いた。加圧ローラ4の外径は20mm、弾性体層4bの厚さは3mmとした。
【0034】
(3)加熱体3
次に、本実施例における加熱体3について説明する。
【0035】
図1は本実施例に係る加熱体3を備える定着装置107のニップ部及びその近傍の拡大図である。図2は加熱体3の構成と温調制御系の説明図である。
【0036】
加熱体3は、記録材搬送方向aと直交する方向を長手とする細長い、耐熱性・絶縁性・良熱伝導性の基板7を有する。基板7の表面(フィルム摺動面)には、抵抗発熱体6と、耐熱性オーバーコート層8と、給電用電極9・10が設けてある。
【0037】
発熱体6は基板7の長手方向に沿って設けられている。この発熱体6は、銀パラジウム(Ag/Pd)・ガラス粉末(無機結着剤)・有機結着剤を混練して調合したペーストをスクリーン印刷により、基板7表面上に形成して得たものである。
【0038】
基板7は、例えば、酸化アルミニウムや窒化アルミニウム等のセラミックス材料を主成分としたものが用いられる。本実施例では幅7mm・長さ270mm・厚さ1mmの酸化アルミニウム基板を使用している。本実施例で用いた酸化アルミニウム基板7の熱伝導率は約20W/m・Kである。
【0039】
オーバーコート層8は発熱体6と後述の導電パターン14を覆うように設けられている。このオーバーコート層8は、発熱体6と加熱体3表面との電気的な絶縁性とフィルム2に対する摺動性とを確保することが主な目的である。本実施例では、オーバーコート層8として厚さ約50μmの耐熱性ガラス層を用いた。このオーバーコート層としてのガラスコート層8については追って詳しく説明する。
【0040】
電極9・10は発熱体6の長手端部と接続して設けられている。この電極9・10と、電極9・10のうち一方の電極10と接続する導電パターン14は、銀のスクリーン印刷パターンを用いた。電極9・10と導電パターン14は発熱体6に給電する目的で設けられているので、抵抗は発熱体6に対して十分低くしている。
【0041】
図2には加熱体3の裏面(非フィルム摺動面)も示している。5は加熱体3の温度を検知するために設けられた検温素子(温度検知手段)である。本実施例では、検温素子として加熱体3から分離した外部当接型のサーミスタを用いている。この外部当接型サーミスタ5は、例えば支持体(不図示)上に断熱層を設けその上にチップサーミスタの素子を固定し、素子を下側(加熱体3裏面側)に向けて所定の加圧力により加熱体3裏面に当接するような構成をとる。本実施例では、支持体として高耐熱性の液晶ポリマーを、断熱層としてセラミックスペーパーを積層したものを用いた。外部当接型サーミスタ5はニップ部において最小サイズの記録材Pが通過する最小通紙域内に設けられており、CPU11に検知情報を入力する。
【0042】
この加熱体3をガラスコート層8を形成具備させた表面側を下向きに露呈させてステー1の下面側に保持させて固定配設してある。以上の構成をとることにより、加熱体3全体を低熱容量化でき、クイックスタートが可能になる。
【0043】
(4)定着装置の加熱定着動作
図3、4において、加圧ローラ4は回転駆動系Mにより矢印方向に所定の周速度で回転される。
この加圧ローラ4の回転により、ニップ部Nにおける加圧ローラ4とフィルム2表面との摩擦力でフィルム2に回転力が作用する。この回転力によりフィルム2はその内面側がニップ部Nにおいて加熱体3の表面に密着して摺動しながらステー1の外回りを矢印方向に加圧ローラ4の回転周速度とほぼ同じ周速度で従動回転状態になる。
【0044】
加熱体3は、AC電源制御回路(トライアック)21から発熱体6に通電がなされることで発熱体6が長手全長にわたって発熱し迅速に昇温する。その昇温が検温素子5で検知され、検温素子5の出力をA/D変換回路(不図示)によりA/D変換しCPU11に取り込む。CPU11はその情報に基づいてトライアック12により抵抗発熱体に通電する電力を位相、波数制御等により制御して、加熱体3の温度制御を行う。即ち、CPU11は、検温素子5の検知温度が所定の定着温度(目標温度)よりも低い場合には加熱体3が昇温するように、定着温度よりも高い場合には降温するように通電を制御することにより、加熱体3の定着温度を一定温度に維持する制御を行っている。本実施例では位相制御により出力を0〜100%まで5%刻みの21段階で変化させている。出力100%は加熱体3に全通電したときの出力を示す。
【0045】
加熱体3の温度が所定の定着温度に立ち上がり、かつ加圧ローラ4の回転によるフィルム2の回転周速度が定常化した状態において、ニップ部Nに画像定着すべき記録材Pが転写部位より導入される。
そして、記録材Pがフィルム2と一緒にニップ部Nを挟持搬送されることにより加熱体3の熱がフィルム2を介して記録材Pに付与され、記録材P上の未定着トナー像Tが記録材P面に加熱定着される。ニップ部Nを通った記録材Pはフィルム2表面から分離されて搬送される。
【0046】
(5)ガラスコート層8
本実施例では、ガラスコート層8の熱伝導率を向上させるために、ガラスに酸化アルミニウムをフィラーとして含有させている。ガラス自体の熱伝導率は約1W/m・K、酸化アルミニウムフィラーの熱伝導率は約20W/m・Kとした。発熱体6と導電パターン14を基板7上に形成した後に、酸化アルミニウムフィラーを含有させたガラスペーストをスクリーン印刷により、基板7上に形成し乾燥・焼成する。本実施例では、酸化アルミニウムフィラーの量を調整し、ガラスコート層8全体の熱伝導率が2.0〜2.4W/m・Kになるようにしている。
【0047】
ガラスコート層8の表面粗さは十点平均粗さRzで0.7μm以上1.4μm以下にしている。表面粗さのコントロールはスクリーン印刷の条件を最適化することで行った。
【0048】
前述したとおり、フィラーを増量すると熱伝導率は向上するが、表面性が悪化して熱効率が向上しない場合もある。また、ガラスコート層8の表面性はフィルム2の摺動性に大きく影響し、摺動性が著しく悪いとスリップと呼ばれる記録材Pの搬送不良が発生する場合がある。
【0049】
熱効率と摺動性の観点から最適なガラスコート層8の表面粗さを見出すために、ガラスの熱伝導率は本実施例の値で固定(酸化アルミニウムフィラーの含有量を固定)した。そしてスクリーン印刷の条件を変更することで表面粗さを変化させた加熱体サンプルを作成し、熱効率とスリップを比較した。
【0050】
熱効率は、各サンプルで定着温度を変更して定着性を測定し、同等の定着性が得られたときに定着装置107で消費した平均電力で比較した。同等の定着性が得られた際に、消費される電力が低いほど、熱効率が良いと言える。
【0051】
スリップは、高温高湿の環境下に長期間放置して吸湿した平滑な薄紙を高印字率な画像パターンで通紙して紙の搬送が正常に行われるかを試験した。スリップが発生しやすい条件として、記録材Pでは、表面が平滑・薄紙(坪量64g/m程度)・含水率が大きいの3点があり、画像パターンでは高印字率であることが検討で明らかになっているので、悪い条件での比較を行った。
【0052】
定着装置及び画像形成装置は本実施例で説明したものを用い、加熱体3のガラスコート層8のみを変更して比較した。結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

表面粗さが小さいとガラスコート層8表面とフィルム2内面との密着性が良く、記録材Pへの熱伝達が良好であるので、熱効率は良くなる。本実施例のガラスコート層8の熱伝導率では、表面粗さがRzで1.4μm以下の領域では熱効率がほぼ同等であった。Rzが1.4μmを超えると熱効率が悪化し始め、1.4μmを超える領域ではRzが大きいほど熱効率が悪化するという傾向がみられた。
【0054】
一方、スリップに関しては、表面粗さがRzで0.7μmよりも小さい領域では、フィルム2の摺動性という観点からは加熱体3とフィルム2の密着性が良すぎて、スリップが発生した。また、Rzが3.0μmを超えると表面が粗すぎてフィルム2の回転を妨げてしまい、やはりスリップが発生した。Rzで0.7μm以上3.0μm以下の領域ではスリップは発生せず、この領域がフィルム2の摺動性に対して最適な表面粗さであった。
【0055】
結局、ガラスコート層8の熱伝導率が2.0〜2.4W/m・Kである場合に、熱効率向上とスリップ防止とを両立できる表面粗さは0.7μm以上1.4μm以下であることが分かった。
【0056】
ガラスコート層8中のフィラーを本実施例よりも増量して熱伝導率を更に上げると、スクリーン印刷の条件を変えても表面性を良くすることができず、Rzで1.4μm以下にする条件を見出すことができなかった。この場合、スリップに最適な表面粗さ領域は表1と変わらず3.0μm以下であったが、Rzが1.4μmより大きい領域では熱効率を本実施例と同等にすることはできなかった。すなわち、熱伝導率が高すぎると、熱効率向上とスリップ防止とを両立できる表面粗さ領域を実現することができなかった。
【0057】
本実施例との比較のために、従来例の加熱体について説明する。
【0058】
図6は従来例の加熱体を備える定着装置のニップ部及びその近傍の拡大図である。
【0059】
15は従来例の抵抗発熱体、16は従来例のガラスコート層である。従来例では、ガラスコート層16以外の加熱体の構成は本実施例と全く同じである。従来例のガラスコート層16は酸化アルミニウムフィラーを本実施例も少なくしており、ガラスコート層16全体の熱伝導率は1.6〜1.8W/m・Kである。ベースのガラスは本実施例と同じものを用いており、ガラスコート層で異なる点はフィラー量のみである。
【0060】
従来例においても、スクリーン印刷の条件を変更することでガラスコート層16の表面粗さをコントロールすることが可能であった(本実施例と同じくRzで1.4μm以下にすることができた)。本実施例と同じ方法で、従来例の加熱体において表面粗さを変化させた加熱体サンプルを作成し、熱効率とスリップの比較を行った。結果を表2に示す。
【0061】
【表2】

スリップ防止の観点で、最適な表面粗さ領域は本実施例と同じくRzで0.7μm以上3.0μm以下であった。摺動性に関しては、ガラスコート層16の表面粗さが支配的な要素であり、熱伝導率は影響の小さい要素であると考えられる。
【0062】
一方、熱効率は、Rzで0.7μm以下の領域では熱効率がほぼ同等であったが、Rzが0.7μmを超えると熱効率が悪化し始め、0.7μmを超える領域ではRzが大きいほど熱効率が悪化するという傾向がみられた。
【0063】
従来例は本実施例よりもガラスコート層16の熱伝導率が低いため、熱効率が悪化し始める表面粗さが本実施例よりも小さい。結局、ガラスコート層16の熱伝導率が1.6〜1.8W/m・Kでは、熱効率向上とスリップ防止とを両立できる表面粗さ領域は存在しなかった。
【0064】
以上の結果より、熱効率向上とスリップ防止とを両立できるガラスコート層の熱伝導率と表面粗さの領域は以下のようになる。
・熱伝導率が2W/m・K以上
・表面粗さがRzで0.7μm以上1.4μm以下
上記構成のガラスコート層8を基板7表面に有する加熱体3を定着装置107に用いることで、フィルム2に対し熱効率の向上と摺動性の確保を両立できる。そのため、定着装置107において、熱効率向上による高速化対応とスリップ防止による信頼性向上とを両立することができる。
【実施例2】
【0065】
本実施例では、加熱体3の他の例を説明する。
【0066】
本実施例においては、加熱体3及び定着装置107について実施例1と同じ部材・部分には同じ符号を付している。
【0067】
本実施例では、加熱体の基板として窒化アルミニウムを用いる。実施例1のように基板7に酸化アルミニウムを用いる場合は、基板7の表面側(フィルム摺動面側)に発熱体6を形成する表面加熱タイプの方が熱効率が良い。一方、基板に窒化アルミニウムを用いる場合は、酸化アルミニウムよりも熱伝導率が高いので、基板の裏面側(非フィルム摺動面側)に発熱体を形成する裏面加熱タイプの方が熱効率が良い。
【0068】
図7は本実施例に係る加熱体20を備える定着装置107のニップ部及びその近傍の拡大図である。図8は加熱体20の構成と温調制御系の説明図である。
【0069】
20は基板であり、本実施例では幅7mm・長さ270mm・厚さ0.6mmの窒化アルミニウム基板を使用している。本実施例で用いた窒化アルミニウム基板20の熱伝導率は約170W/m・Kである。
【0070】
17は発熱体であり、銀パラジウム(Ag/Pd)・ガラス粉末(無機結着剤)・有機結着剤を混練して調合したペーストをスクリーン印刷により、基板20の裏面上に形成して得たものである。発熱体17の形状は実施例1と同じとした。
【0071】
電極9・10と導電パターン14は実施例1と同じく銀のスクリーン印刷パターンを用いた。本実施例では、発熱体17が基板20裏面にあるため、電極9・10も基板20裏面に設けている。
【0072】
5は加熱体3の温度を検知するために設けられた検温素子である。検温素子5は実施例1と同じ外部当接型のサーミスタを用いている。この外部当接型サーミスタ5は、実施例1と同じく素子を下側(加熱体裏面側)に向けて所定の加圧力により加熱体裏面に当接するような構成をとる。
【0073】
18は発熱体17と導電パターン14を覆うように設けられたオーバーコート層であり、発熱体17と加熱体3裏面との電気的な絶縁性を確保することが目的である。本実施例では、オーバーコート層18として厚さ約50μmの耐熱性ガラス層を用いた。
【0074】
19はフィルム2に対する摺動性を確保するために設けられた厚さ約10μmのガラスコート層である。実施例1では、ガラスコート層8で絶縁性と摺動性の両方を確保していたが、本実施例の構成では、ガラスコート層18が絶縁性確保、ガラスコート層19が摺動性確保といった具合に機能分離されている。
【0075】
本実施例では、これらガラスコート層18・19は同じ材料とし、熱伝導率を向上させるために実施例1と同じくガラスに酸化アルミニウムをフィラーとして含有させている。ガラス自体の熱伝導率は約1W/m・K、酸化アルミニウムフィラーの熱伝導率は約20W/m・Kとした。発熱体17と導電パターン14を基板20上に形成した後に、酸化アルミニウムフィラーを含有させたガラスペーストをスクリーン印刷により、基板20の表面と裏面に順次形成し各々乾燥・焼成する。本実施例においても、酸化アルミニウムフィラーの量を調整し、ガラスコート層18・19全体の熱伝導率が2.0〜2.4W/m・Kになるようにしている。
【0076】
また、ガラスコート層19の表面粗さは十点平均粗さRzで0.7μm以上1.4μm以下にしている。表面粗さのコントロールは、実施例1と同じくスクリーン印刷の条件を最適化することで行った。
【0077】
本実施例においても、実施例1と同じくスクリーン印刷の条件を変更することでガラスコート層19の表面粗さを変化させた加熱体サンプルを作成し、熱効率とスリップを比較した。その結果、実施例1の表1と同じ結果が得られ、ガラスコート層19の熱伝導率が2.0〜2.4W/m・Kである場合に、熱効率向上とスリップ防止とを両立できるガラスコート層19の表面粗さは0.7μm以上1.4μm以下であることが分かった。
【0078】
また、ガラスコート層19中のフィラーを本実施例よりも増量して熱伝導率を更に上げると、スクリーン印刷の条件を変えても表面性を良くすることができず、Rzで1.4μm以下にする条件を見出すことができなかった。この場合、スリップに最適な表面粗さ領域は、実施例1の表1と変わらず3.0μm以下であったが、Rzが1.4μmより大きい領域では熱効率を本実施例と同等にすることはできなかった。すなわち、熱伝導率が高すぎると、熱効率向上とスリップ防止とを両立できる表面粗さ領域を実現することができない、という実施例1と同じ結果が得られた。
【0079】
更に、ガラスコート層19中のフィラーの量を減らして、ガラスコート層19の熱伝導率を1.6〜1.8W/m・Kにした。その場合に、ガラスコート層19の表面粗さと熱効率・スリップとの関係を検討した。その結果、やはり実施例1の表2と同じく、ガラスコート層19の熱伝導率が1.6〜1.8W/m・Kでは、熱効率向上とスリップ防止とを両立できる表面粗さ領域は存在しないという結果が得られた。
【0080】
以上の結果より、基板20に窒化アルミニウムを用いた裏面発熱タイプの加熱体3を定着装置107に用いた場合においても、熱効率向上とスリップ防止とを両立できる基板20表面側のガラスコート層19の熱伝導率と表面粗さの領域は以下のようになる。
・熱伝導率が2W/m・K以上
・表面粗さがRzで0.7μm以上1.4μm以下
したがって、上記構成のガラスコート層19を基板20表面に有する加熱体3を定着装置107に用いることで、実施例1と同じ効果を得ることができる。
【0081】
本実施例では、基板20表面側のガラスコート層19は、絶縁性を確保する必要がないので10μm程度に薄くできる(絶縁性を確保するには50μm程度の厚さは必要)という利点がある。また、ガラスコート層19の下層に発熱体17が存在しないので、工程上の表面粗さのコントロールが実施例1に比べて容易であるという利点もある。
〔その他〕
本発明に係る加熱体を備える加熱装置は、実施例の画像加熱定着装置に限られず、未定着画像を記録材に仮定着する仮定着装置、定着画像を担持した記録材を再加熱してつや等の画像表面性を改質する表面改質装置等の加熱装置としても有効である。またその他、例えばシート状被加熱材のシワ除去用の熱プレス装置や、熱ラミネート装置、紙等の被加熱材の含水分を蒸発させる加熱乾燥装置など、シート状被加熱材を加熱処理する加熱装置として用いても有効であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】実施例1に係る加熱体を備える定着装置のニップ部及びその近傍の拡大図
【図2】実施例1に係る加熱体の構成と温調制御系の説明図
【図3】実施例1に係る定着装置の一例の要部の構成模型図
【図4】実施例1に係る定着装置の要部の斜視模型図
【図5】画像形成装置の一例の構成模型図である。
【図6】従来例の加熱体を備える定着装置のニップ部及びその近傍の拡大図
【図7】実施例2に係る加熱体を備える定着装置のニップ部及びその近傍の拡大図
【図8】実施例2に係る加熱体の構成と温調制御系の説明図
【符号の説明】
【0083】
2‥‥耐熱性フィルム、3‥‥加熱体(ヒータ)、7‥‥基板、6‥‥抵抗発熱体、
8・19‥‥ガラスコート層、4‥‥加圧ローラ、107‥‥定着装置、N‥‥ニップ部
P‥‥記録材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱材を可撓性部材を介して加熱する加熱装置に用いられる加熱体であって、基板と、前記基板の基板面上に形成された発熱体と、前記基板面上に形成され前記可撓性部材が接触しつつ移動するガラスコート層と、を有する加熱体において、
前記ガラスコート層の熱伝導率が2W/m・K以上であり、前記ガラスコート層の表面粗さが十点平均粗さRzで0.7μm以上1.4μm以下であることを特徴とする加熱体。
【請求項2】
前記ガラスコート層は主成分であるガラスよりも熱伝導率が高いフィラーを含有していることを特徴とする請求項1に記載の加熱体。
【請求項3】
前記基板は主成分がセラミックスであることを特徴とする請求項1または2に記載の加熱体。
【請求項4】
前記基板は主成分が酸化アルミニウムであり、前記発熱体は前記基板の前記ガラスコート層側の基板面上に形成されて前記ガラスコート層により覆われていることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の加熱体。
【請求項5】
前記基板は主成分が窒化アルミニウムであり、前記発熱体は前記基板の前記ガラスコート層側と反対側の基板面上に形成されていることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の加熱体。
【請求項6】
基板と、前記基板の基板面上に形成された発熱体と、前記基板面上に形成されたガラスコート層と、を有する加熱体と、前記ガラスコート層と接触しつつ移動する可撓性部材と、前記可撓性部材を挟んで前記加熱体とニップ部を形成する加圧部材と、を有し、前記ニップ部で被加熱材を挟持搬送しつつ加熱する加熱装置において、
前記加熱体の前記ガラスコート層の熱伝導率が2W/m・K以上であり、前記ガラスコート層の表面粗さが十点平均粗さRzで0.7μm以上1.4μm以下であることを特徴とする加熱装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−220336(P2007−220336A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−36465(P2006−36465)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】