説明

動圧軸受装置

【課題】 ハウジングの製造コストを低減すると共に、ハウジングと軸受スリーブ等との固定部の接着剤レス化を図る。
【解決手段】 ハウジング7は、結晶性樹脂としての液晶ポリマー(LCP)に、導電性充填材としてのカーボンナノチューブを2〜30vol%配合した樹脂材料を射出成形して形成される。焼結金属製の軸受スリーブ8はハウジング7の内周面7cに挿入され、超音波溶着によってハウジング7に固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受隙間に生じる流体の動圧作用によって回転部材を非接触支持する動圧軸受装置に関するものである。この軸受装置は、情報機器、例えばHDD等の磁気ディスク装置、CD−ROM、CD−R/RW、DVD−ROM/RAM等の光ディスク装置、MD、MO等の光磁気ディスク装置等のスピンドルモータ、レーザビームプリンタ(LBP)のポリゴンスキャナモータ、その他の小型モータ用として好適である。
【背景技術】
【0002】
上記各種モータには、高回転精度の他、高速化、低コスト化、低騒音化等が求められている。これらの要求性能を決定づける構成要素の1つに当該モータのスピンドルを支持する軸受があり、近年では、上記要求性能に優れた特性を有する動圧軸受の使用が検討され、あるいは実際に使用されている。
【0003】
例えば、HDD等のディスク駆動装置のスピンドルモータに組み込まれる動圧軸受装置では、軸部材をラジアル方向に支持するラジアル軸受部およびスラスト方向に支持するスラスト軸受部の双方を動圧軸受で構成する場合がある。この種の動圧軸受装置におけるラジアル軸受部としては、例えば軸受スリーブの内周面と、これに対向する軸部材の外周面との何れか一方に、動圧発生部としての動圧溝を形成すると共に、両面間にラジアル軸受隙間を形成するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
通常、軸受スリーブはハウジングの内周の所定位置に固定され、また、ハウジングの内部空間に注油した潤滑油が外部に漏れるのを防止するために、ハウジングの開口部にシール部を配設する場合が多い。
【特許文献1】特開2003−239951号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記構成の動圧軸受装置は、ハウジング、軸受スリーブ、軸部材、スラスト部材、およびシール部材といった部品で構成され、情報機器の益々の高性能化に伴って必要とされる高い軸受性能を確保すべく、各部品の加工精度や組立精度を高める努力がなされている。その一方で、情報機器の低価格化の傾向に伴い、この種の動圧軸受装置に対するコスト低減の要求も益々厳しくなっている。
【0006】
この種の動圧軸受装置の低コスト化を図る上で重要なポイントの一つとなるのは、組立工程の効率化である。すなわち、ハウジングと軸受スリーブ、ハウジングとスラスト部材、ハウジングとシール部材は、通常、接着剤を用いて固定する場合が多いが、接着剤の塗布から固化まで比較的長い時間を要し、組立工程の効率を低下させる一因となっている。また、接着剤によるアウトガスの発生や接着力の経時劣化の可能性も懸念される。
【0007】
本発明の課題は、この種の動圧軸受装置におけるハウジングの製造コストを低減すると共に、ハウジングと軸受スリーブ等との固定部の接着剤レス化を可能にし、これにより組立工程の効率化を図り、より一層低コストな動圧軸受装置を提供することである。
【0008】
本発明の他の課題は、部品相互間の固定部からのアウトガスの発生や固定力の経時劣化が少ない動圧軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は、ハウジングと、ハウジングの内部に配置された軸受スリーブと、ハウジング及び軸受スリーブに対して相対回転する軸部材と、軸受スリーブと軸部材との間のラジアル軸受隙間に生じる流体の動圧作用で軸部材をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部とを備えた動圧軸受装置において、ラジアル軸受部が、多円弧軸受で構成され、ハウジングが、充填材を3〜35vol%配合した非晶性樹脂、及び、充填材を2〜30vol%配合した結晶性樹脂の中から選択される一の樹脂材料で形成され、かつ、軸受スリーブがハウジングに溶着によって固定されている構成を提供する。
【0010】
樹脂製のハウジングは射出成形等の型成形で形成することができるので、旋削等の機械加工による金属製ハウジングに比べて低コストで製造することができると共に、プレス加工による金属製ハウジングに比べて比較的高い精度を確保することができる。
【0011】
また、軸受スリーブをハウジングに溶着によって固定することにより、従来の接着剤による固定に比べて作業効率を高めることができると共に、固定部からのアウトガスの発生や固定力の経時劣化を防止又は抑制することができる。
【0012】
ここで、「溶着」とは、接合すべき2部材の一方または双方の接合面が溶融して固着する現象をいう。溶着手段としては、例えば、超音波溶着、振動溶着、高周波誘導加熱溶着、熱版溶着等を、接合すべき部材の材質や接合条件、その他の諸条件に応じて適宜選択して採用することができる。一般に、超音波溶着は、超音波振動と同時に加圧力を与えることにより、樹脂製部材の一部に強力な摩擦熱を発生させ、接合面を溶融させて固着する方法である。また、振動溶着は、接合すべき2部材を加圧しながら所定方向に振動させることにより、接合面を溶融させて固着する方法である。また、高周波誘導加熱溶着は、接合すべき部材に高周波磁界を印加し、過電流損失により発熱させ、接合面を溶融させて固着する方法である。また、熱版溶着は、高温の熱源(熱板)を樹脂製部材の接合面に接触させ、接合面を溶融させて固着する方法である。これらの溶着方法のうち、設備が簡単で済み、短時間で溶着作業を行える点から、特に超音波溶着が好ましい。
【0013】
ハウジングを非晶性樹脂で形成する場合、次の点に配慮する必要がある。すなわち、一般に非晶性樹脂は超音波溶着等の溶着時の溶着性に優れているので、非晶性樹脂製のハウジングに軸受スリーブを溶着によって固定することにより、両者の強固でかつ安定した固定状態を得ることができる。その一方で、非晶性樹脂は結晶性樹脂に比べて耐油性に劣る傾向があり、溶着時の残留応力等の応力が存在する条件下で、非晶性樹脂製のハウジングが内部空間に充填された潤滑油と接触することにより、ハウジングにストレスクラックが発生する可能性がある。このストレスクラックは、樹脂が一定応力下で触媒(潤滑油)と接触することにより、潤滑油が樹脂内部に浸透拡散してクラックが発生する現象であるが(「ソルベントクラック」という場合もある。)、無応力下では潤滑油との接触によるクラックがほとんど発生しない場合であっても、一定応力下ではこのような現象が起こる場合がある。
【0014】
そこで、ハウジングのストレスクラックに対する劣化を防止するため、非晶性樹脂に対する充填材の配合割合を35vol%以下に規制した。上述のように、非晶性樹脂は一般に溶着性に優れているが、この溶着性は充填材の配合量が増加するのに伴って低下する傾向がある。従って、充填材の配合量が過大であると、固定部(溶着部)の所要の固定強度を確保するために、溶着時間等の溶着条件を高める必要が生じ、これに伴い溶着時の残留応力が増加して、ハウジングの耐ストレスクラッキング性が不足する結果となる。非晶性樹脂に対する充填材の配合割合を35vol%以下とすることにより、このような不都合を回避して、ハウジングの良好な耐クラッキング性を確保することができる。一方、充填材の配合量が過小であると、充填材を配合する本来の目的、すなわち、ハウジングに所要の強度、温度変化に対する寸法安定性、導電性等の特性を付与するという目的が損なわれる結果となる。そこで、ハウジングの所要の特性を確保するため、非晶性樹脂に対する充填材の配合割合を3vol%以上とした。
【0015】
結晶性樹脂は、非晶性樹脂に比べて耐油性に優れているが、溶着性の点では劣る。従って、ハウジングを結晶性樹脂で形成する場合、充填材の配合量が過大であると、溶着性の低下によって固定部(溶着部)の所要の固定強度が確保できなくなる。そこで、必要な溶着性を確保し、固定部(溶着部)を所要の固定強度にするため、結晶性樹脂に対する充填材の配合割合を30vol%以下に規制した。一方、充填材の配合量が過小であると、充填材を配合する本来の目的、すなわち、ハウジングに所要の強度、温度変化に対する寸法安定性、導電性等の特性を確保するという目的が損なわれる結果となる。そこで、ハウジングの所要の特性を確保するため、結晶性樹脂に対する充填材の配合割合を2vol%以上とした。
【0016】
ハウジングと、ハウジングの内部に配置された軸受スリーブと、ハウジング及び軸受スリーブに対して相対回転する軸部材と、軸受スリーブと軸部材との間のラジアル軸受隙間に生じる流体の動圧作用で軸部材をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部と、軸部材をスラスト方向に支持するスラスト軸受部とを備えた動圧軸受装置においては、ラジアル軸受部を、多円弧軸受で構成すると共に、ハウジングを上記の樹脂材料で形成し、かつ、軸受スリーブ、及び、スラスト軸受部を構成するスラスト部材のうち少なくとも一方をハウジングに溶着によって固定すればよい。軸受スリーブ及びスラスト部材の一方のみを溶着によって固定する場合、他方をハウジングに固定する手段としてインサート成形、圧入等の手段を採用することができる。例えば、軸受スリーブをインサート部品として、ハウジングを上記の樹脂材料で型成形(射出成形等)することにより、特段の固定作業を行うことなく、軸受スリーブをハウジングに固定することができる。
【0017】
また、ハウジングと、ハウジングの内部に配置された軸受スリーブと、ハウジング及び軸受スリーブに対して相対回転する軸部材と、軸受スリーブと軸部材との間のラジアル軸受隙間に生じる流体の動圧作用で軸部材をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部と、ハウジングの内部をシールするシール部とを備えた動圧軸受装置においては、ラジアル軸受部を、多円弧軸受で構成すると共に、ハウジングを、上記の樹脂材料で形成し、かつ、軸受スリーブ、及び、シール部を構成するシール部材のうち少なくとも一方をハウジングに溶着によって固定すればよい。軸受スリーブ及びシール部材の一方のみを溶着によって固定する場合、他方をハウジングに固定する手段として、インサート成形や圧入等の手段を採用することができる。
【0018】
ハウジングを形成する樹脂は熱可塑性樹脂であれば特に限定されないが、非晶性樹脂の場合、例えば、ポリサルフォン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニルサルフォン(PPSU)、ポリエーテルイミド(PEI)を用いることができる。また、結晶性樹脂の場合には、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)を用いることができる。
【0019】
また、上記の樹脂に充填する充填材の種類も特に限定されないが、例えば、充填材として、ガラス繊維等の繊維状充填材、チタン酸カリウム等のウィスカー状充填材、マイカ等の鱗片状充填材、カーボン繊維、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノマテリアル、金属粉等の繊維状又は粉末状の導電性充填材を用いることができる。
【0020】
例えば、HDD等のディスク駆動装置のスピンドルモータに組込まれる動圧軸受装置では、磁気ディスク等のディスクと空気との摩擦によって発生した静電気を接地側に逃がすために、ハウジングに導電性が要求される場合がある。このような場合、ハウジングを形成する樹脂に上記の導電性充填材を配合することにより、ハウジングに導電性を付与することができる。
【0021】
上記の導電性充填材としては、導電性の良さ、樹脂マトリックス中での分散性の良さ、耐アブレッシブ摩耗性の良さ、低アウトガス性等の点から、カーボンナノマテリアルが好ましい。カーボンナノマテリアルとしてはカーボンナノファイバーが好ましい。このカーボンナノファイバーには、直径が40〜50μm以下の「カーボンナノチューブ」と呼ばれるものも含まれる。
【0022】
カーボンナノファイバーの具体例として、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、カップ積層型カーボンナノファイバー、気相成長炭素繊維等などが知られているが、本発明では、これら何れのカーボンナノファイバーも使用することができる。また、これらのカーボンナノファイバーは一種又は二種以上を混合して使用することができ、さらに他の充填材と混合して使用することもできる。
【0023】
スラスト軸受部は、上述のように、スラスト部材で構成する他、軸部材と軸受スリーブとで構成することもできる。例えば、ハウジングの一端を開口すると共に、軸部材に外径側に突出するフランジ部を形成し、このフランジ部の端面とこれに対向する軸受スリーブのハウジング開口側の端面との間にスラスト軸受隙間を形成する。そして、この軸受隙間に流体の動圧作用を生じることで、軸部材をスラスト方向に非接触支持するスラスト軸受部が構成される。
【0024】
シール部材は、ハウジングの開口側に設けて、軸部材の外周面又はフランジ部との間にシール空間を形成することができる。また、軸部材の軸方向一端側への相対変位時に前記フランジ部と係合させて前記軸部材を係止する構成を採ることもできる。
【0025】
上記動圧軸受装置は、例えば動圧軸受装置を備えたディスク装置のスピンドルモータとして提供することが可能である。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように、本発明によれば、ハウジングの製造コストを低減すると共に、ハウジングと軸受スリーブ等との固定部の接着剤レス化を可能にし、これにより組立工程の効率化を図り、より一層低コストな動圧軸受装置を提供することができる。
【0027】
また、本発明によれば、部品相互間の固定部からのアウトガスの発生や固定力の経時劣化が少なく、品質及び耐久性に優れた動圧軸受装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の第1実施形態を図面に基づいて説明する。
【0029】
図1は、本発明の第1実施形態に係る動圧軸受装置1を組込んだ情報機器用スピンドルモータの一構成例を概念的に示している。この情報機器用スピンドルモータは、HDD等のディスク駆動装置に用いられるもので、軸部材2を回転自在に非接触支持する動圧軸受装置1と、軸部材2に固定されたディスクハブ3と、例えば半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル4およびロータマグネット5と、ブラケット6とを備えている。ステータコイル4はブラケット6の外周に取付けられ、ロータマグネット5は、ディスクハブ3の内周に取付けられる。また、動圧軸受装置1のハウジング7は、ブラケット6の内周に装着される。ディスクハブ3は、その外周にディスクDを一枚または複数枚保持している。このように構成された情報機器用スピンドルモータにおいて、ステータコイル4に通電すると、ステータコイル4とロータマグネット5との間の電磁力でロータマグネット5が回転し、これに伴って、ディスクハブ3およびディスクハブ3に保持されたディスクDが軸部材2と一体に回転する。
【0030】
図2は、動圧軸受装置1を示している。この動圧軸受装置1は、ハウジング7と、ハウジング7に固定された軸受スリーブ8及びスラスト部材10と、軸部材2とを構成部品として構成される。なお、説明の便宜上、ハウジング7に固定されたスラスト部材10の側を下側、スラスト部材10と反対の側を上側として以下説明を行う。
【0031】
ハウジング7は、例えば、結晶性樹脂としての液晶ポリマー(LCP)に、導電性充填材としてのカーボンナノチューブを2〜30vol%配合した樹脂材料を射出成形して形成され、円筒状の側部7bと、側部7bの上端から内径側に一体に延びた環状のシール部7aとを備えている。シール部7aの内周面7a1は、軸部2aの外周に設けられたテーパ面2a2と所定のシール空間S1を介して対向する。なお、軸部2aのテーパ面2a2は上側(ハウジング7に対して外部側)に向かって漸次縮径し、軸部材2の回転により遠心力シールとしても機能する。
【0032】
軸部材2は、例えば、ステンレス鋼等の金属材料で形成され、あるいは、金属材料と樹脂材料とのハイブリッド構造とされ、軸部2aと、軸部2aの下端に一体または別体に設けられたフランジ部2bを備えている。
【0033】
軸受スリーブ8は、例えば、黄銅やアルミ(アルミ合金)等の軟質金属材料、あるいは焼結金属材料で形成されている。この実施形態において、軸受スリーブ8は、焼結金属からなる多孔質体、特に銅を主成分とする焼結金属の多孔質体で円筒状に形成され、ハウジング7の内周面7cの所定位置に固定される。
【0034】
軸受スリーブ8の内周面8aの上下に離隔した領域には、図3に示すように、第一ラジアル軸受部R1および第二ラジアル軸受部R2のラジアル軸受面となる複数の円弧面8a1がそれぞれ形成される。各円弧面8a1は、回転軸心Oからそれぞれ等距離オフセットした点を中心とする偏心円弧面であり、円周方向で等間隔に形成される。各偏心円弧面8a1の間には軸方向の分離溝8a2が形成される。
【0035】
軸受スリーブ8の内周面8aに軸部材2の軸部2aを挿入することにより、軸受スリーブ8の偏心円弧面8a1および分離溝8a2と、軸部2aの真円状外周面2a1との間に、第一および第二ラジアル軸受部R1、R2の各ラジアル軸受隙間がそれぞれ形成される。ラジアル軸受隙間のうち、偏心円弧面8a1と対向する領域は、隙間幅を円周方向の一方で漸次縮小させたくさび状隙間8a3となる。くさび状隙間8a3の縮小方向は軸部材2の回転方向に一致している。
【0036】
軸受スリーブ8の下端面8bの全面または一部の環状領域には、スラスト動圧発生部として、例えば図示は省略するが、スパイラル形状の動圧溝が形成される。この下端面8bの動圧溝形成領域は、フランジ部2bの上端面2b1と対向し、軸部材2の回転時には、両面8b、2b1の間に第1スラスト軸受部T1のスラスト軸受隙間が形成される(図2を参照)。
【0037】
スラスト部材10は、例えば樹脂材料又は黄銅等の金属材料で形成され、ハウジング7の内周面7cの下端部に固定される。スラスト部材10の上端面10aの全面または一部の環状領域には、スラスト動圧発生部として、これも図示は省略するが、例えばスパイラル状の動圧溝が形成される。この上端面10aの動圧溝形成領域は、フランジ部2bの下端面2b2と対向し、軸部材2の回転時には、両面10a、2b2の間に第2スラスト軸受部T2のスラスト軸受隙間が形成される(図2を参照)。
【0038】
この動圧軸受装置1は、例えば、次のような工程で組立てる。
【0039】
まず、軸受スリーブ8をハウジング7の内周面7cに挿入し、その上端面8cをシール部7aの内側面7a2に当接させる。これにより、ハウジング7に対する軸受スリーブ8の軸方向位置が決まる。そして、この状態で、軸受スリーブ8をハウジング7に超音波溶着によって固定する。上述のように、ハウジング7を形成する樹脂材料として、充填材の配合割合を2〜30vol%の範囲内に規制した結晶性樹脂を用いているので、超音波溶着時の溶着性が良く、軸受スリーブ8の良好で安定した固定状態を得ることができる。しかも、軸受スリーブ8を多孔質の焼結金属で形成しているので、溶着時、ハウジング7の接合面の溶融樹脂が軸受スリーブ8の接合面の表面開孔(焼結金属の多孔質組織の内部気孔が表面に開孔して形成される部位)から内部気孔内に侵入して固化する。そして、内部気孔内で固化した部分が一種のアンカー効果によって、ハウジング7と軸受スリーブ8とを強固に密着させるので、両者間の相対的な位置ずれが生じず、強固で安定した固定状態が得られる。また、結晶性樹脂は耐油性に優れているので、ハウジング7はストレスクラックによる劣化が生じにくく、良好な耐久性を有する。さらに、ハウジング7は導電性充填材としてのカーボンナノチューブを配合しているので、樹脂製でありながら、導電性を有するものとなる。
【0040】
つぎに、軸部材2を軸受スリーブ8に装着し、その後、スラスト部材10をハウジング7の内周面7cの下端部に装着して、所定位置に位置決めした後、超音波溶着によって固定する。ハウジング7を上記の樹脂材料で形成しているので、超音波溶着時の溶着性が良く、スラスト部材10の良好で安定した固定状態を得ることができる。なお、スラスト部材10の外周面にローレット状やねじ状等の凹凸形状を設けておくと、溶着による固定力を高める上で効果的である。
【0041】
上記のようにして組立が完了すると、軸部材2の軸部2aは軸受スリーブ8の内周面8aに挿入され、フランジ部2bは軸受スリーブ8の下端面8bとスラスト部材10の上端面10aとの間の空間部に収容された状態となる。その後、シール部7aで密封されたハウジング7の内部空間は、軸受スリーブ8の内部気孔を含め、潤滑油で充満される。潤滑油の油面は、シール空間S1の範囲内に維持される。
【0042】
上記構成の動圧軸受装置1において、軸部材2の回転時、軸受スリーブ8の内周面8aのラジアル軸受面となる領域(上下2箇所の領域)は、軸部2aの外周面2a1とラジアル軸受隙間を介して対向し、それぞれ多円弧軸受(テーパ軸受とも称される)を構成する。上記多円弧軸受では、軸部材2の回転に伴い、ラジアル軸受隙間内の潤滑油がくさび状隙間8a3の縮小側に押し込まれて、その圧力が上昇する。このような潤滑油の動圧作用によって、軸部2aを非接触支持する第一ラジアル軸受部R1と第二ラジアル軸受部R2がそれぞれ構成される。
【0043】
同時に、フランジ部2bの上端面2b1とこれに対向する軸受スリーブ8の下端面8bとの間のスラスト軸受隙間、およびフランジ部2bの下端面2b2とこれに対向するスラスト部材10の上端面10aとの間のスラスト軸受隙間に、動圧溝の動圧作用により潤滑油の油膜がそれぞれ形成される。そして、これら油膜の圧力によって、フランジ部2bを両スラスト方向に回転自在に非接触支持するスラスト軸受部T1、T2が構成される。
【0044】
なお、上記構成において、軸受スリーブ8およびスラスト部材10のうち一方のみを溶着によってハウジング7に固定し、他方は溶着以外の手段、例えばインサート成形や圧入等の手段でハウジング7に固定するようにしてもよい。また、ハウジング7は、充填材を3〜35vol%配合した非晶性樹脂で形成するようににしてもよい。
【0045】
図4は、第1実施形態に係る動圧軸受装置1の他の構成例を示している。この図示例における動圧軸受装置11が図2に示す動圧軸受装置1と実質的に異なる点は、シール部を別体のシール部材12で構成し、シール部材12をハウジング7の内周面7cの上端部に溶着によって固定した点である。シール部材12は、例えば、金属材料又は樹脂材料で形成され、超音波溶着によってハウジング7の接合面に溶着される。シール部材12の内周面12aは、軸部2aの外周に設けられたテーパ面2a2とシール空間S1を介して対向する。なお、シール部材12は溶着以外の手段、例えばインサート成形(金属材の場合)や圧入によってハウジング7に固定するようにしてもよい。その他の事項は、前述した実施形態に準じるので、重複する説明を省略する。
【0046】
また、シール部を別体のシール部材で構成する場合、ハウジング7を前述した樹脂材料で有底筒状に成形し(図示略)、このハウジングの底部の内底面に第2スラスト軸受部T2を構成するスラスト軸受面を設けることによって、スラスト部材10を省略することもできる。この場合、ハウジングを成形する成形型に上記動圧溝を成形する成形部を形成することで、該スラスト軸受面の動圧溝をハウジングの成形と同時成形することができる。
【0047】
図5は、第1実施形態に係る動圧軸受装置1の他の構成例を示している。この図示例における動圧軸受装置21が図2に示す動圧軸受装置1と実質的に異なる点は、スラスト部材10’をハウジング7の内周面7cの下端部に装着した後、該下端部に封止部材13を溶着によって固定した点にある。
【0048】
この実施形態において、スラスト部材10’は、その上端面10a’の外周縁部から上方に延びた環状の当接部10b’を一体に備えている。当接部10b’の上端面は軸受スリーブ8の下端面8bと当接し、当接部10b’の内周面はフランジ部2bの外周面と隙間を介して対向する。
【0049】
封止部材13は、例えば、樹脂材料で形成され、その上側面はスラスト部材10’の下側面に当接される。
【0050】
軸受スリーブ8及び軸部材2を前述した態様で組入れた後、スラスト部材10’をハウジング7の内周面7cの下端部に挿入し、その当接部10b’の上端面を軸受スリーブ8の下端面8bに当接させる。これにより、軸受スリーブ8に対するスラスト部材10’の軸方向位置が決まる。当接部10b’とフランジ部2bの軸方向寸法を管理することにより、第1スラスト軸受部T1と第2スラスト軸受部T2のスラスト軸受隙間を精度良く設定することができる。その後、封止部材13を内周面7cの下端部に装着し、その上側面をスラスト部材10’の下側面に当接させ、この状態で、封止部材13をハウジング7に超音波溶着によって固定する。その他の事項は、前述した実施形態(図2)に準じるので、重複する説明を省略する。
【0051】
なお、スラスト軸受部としては、上記形態の軸受以外に、いわゆるピボット軸受を採用することができる。
【実施例1】
【0052】
図5に示す形態の動圧軸受装置21について、ハウジング7と封止部材13を結晶性樹脂であるLCPで形成し、両者を超音波溶着によって固定し(実施例1〜4、比較例1)、また、ハウジング7と封止部材13を非晶性樹脂であるPESで形成し、両者を超音波溶着によって固定し(実施例5〜7、比較例2、3)、ハウジング7と封止部材13との溶着部(以下、単に「溶着部」という。)の溶着性を評価した。なお、実施例及び比較例において、ハウジング7と封止部材13を形成する樹脂には、それぞれ、体積固有抵抗が106Ω・cmとなるように、図6(a)、(b)に示す配合割合で充填材を配合した。
【0053】
溶着部の溶着性を下記の評価項目によって○(良好)、△(やや劣る)、×(劣る)の3段階で評価した。その評価結果を図6(a)、(b)に示す。
【0054】
[溶着部強度]
ハウジング7と封止部材13を形成する樹脂の材料物性と溶着部の溶着代から、完全溶着時の溶着部強度を算出すると共に(計算値)、溶着部の強度を実際に測定し(測定値)、(測定値/計算値)で溶着部強度%を求め、この溶着部強度%で溶着部強度を評価した。
【0055】
[シール性]
溶着部のシール性をHeリーク試験機で評価した。
【0056】
[油漏れ]
溶着部からの油漏れは、主に溶着部の残留応力によるストレスクラックによって発生するものである。ハウジング7と封止部材13とを溶着した後、ハウジング7の内部空間にジエステル油を充填し、70°Cの周囲温度下で6時間保持した後、溶着部からの油漏れの有無、程度を目視にて確認した。
【0057】
[熱衝撃]
溶着部の耐熱衝撃性を評価するものである。油漏れ試験と同様に、ハウジング7と封止部材13とを溶着した後、ハウジング7の内部空間にジエステル油を充填し、−40°Cと100°Cの各周囲温度下でそれぞれ1時間づつ保持し、これを20サイクル繰り返して熱衝撃を与えた。その後、溶着部の油漏れを目視にて確認した。
【0058】
上記の評価試験の結果、実施例1〜7は、溶着部強度、シール性、油漏れ、熱衝撃の各評価項目で良好な結果を示した。これに対して、比較例1、3は、溶着部強度、シール性、油漏れの各評価項目で満足する結果が得られなかった。また、比較例2は、シール性では良好な結果が得られたものの、溶着部強度、油漏れの各評価項目で満足する結果が得られなかった。なお、比較例1〜3については、油漏れ試験で満足する結果が得られなかったため、熱衝撃試験は行わなかった。
【0059】
以下、本発明の第2実施形態を図面に基づいて説明する。なお、第1実施形態と共通の事項については、以下説明を省略する。
【0060】
図7は、本発明の第2実施形態に係る動圧軸受装置31を組込んだ情報機器用スピンドルモータの一構成例を概念的に示している。このスピンドルモータも、HDD等のディスク駆動装置に用いられるもので、ディスクハブ33が固定された軸部材32を回転自在に非接触支持する動圧軸受装置31と、例えば半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル34およびロータマグネット35と、動圧軸受装置31のハウジング37外周に固定されるブラケット36を備えている。
【0061】
図8は、動圧軸受装置31を示している。この動圧軸受装置31は、軸部材32と、ハウジング37と、ハウジング37に固定された軸受スリーブ38、およびシール部材39とを主な構成要素として構成されている。以下では、説明の便宜上、ハウジング37の開口部37aの側を上側、開口部37aと反対の側を下側として説明する。なお、ここでいうハウジング37の「開口部」は、例えば図7に示す類のスピンドルモータにおいては、ハウジング37の一端あるいは両端が開口していることに依らず、ディスクハブ33によって保持されるディスクDの側を指す。
【0062】
軸部材32は、例えばステンレス鋼等の金属材料で形成され、軸部32aと、円盤状のフランジ部32bとを備えている。フランジ部32bは軸部32aの下端よりも上方に設けられ、軸部32aと一体または別体をなす。なお、軸部32aの芯部あるいはフランジ部32b、もしくはその双方は、樹脂材料で形成することもできる。
【0063】
ハウジング37は、一端に開口部37aを有すると共に、他端を閉じた有底円筒状に形成され、円筒状の側部37bと、側部37bの他端側に一体に連続した底部37cとを備えている。このハウジング37は、第1実施形態と同様に、結晶性樹脂としての液晶ポリマー(LCP)に、導電性充填材としてのカーボンナノチューブを2〜30vol%配合した樹脂材料を射出成形することで形成される。
【0064】
軸受スリーブ8は、上記第1実施形態と同様に、焼結金属からなる多孔質体、例えば銅を主成分とする焼結金属の多孔質体で円筒状に形成され、ハウジング37内周の所定位置に固定される。
【0065】
軸受スリーブ38の上端面38cの全面または一部の環状領域には、スラスト動圧発生部として、例えば図示は省略するが、スパイラル形状の動圧溝が形成される。この上端面8cの動圧溝形成領域は、フランジ部32bの下端面32b2と対向し、軸部材32の回転時には、両面38c、32b2の間にスラスト軸受部T11のスラスト軸受隙間が形成される(図8を参照)。そのため、第2実施形態における軸受スリーブ38は、その内周面38aに、図3に示すような複数の円弧面を有する一方で、下端面38bは動圧溝のない平滑な面となる。
【0066】
シール部材39は、例えば、上記組成の樹脂材料又は金属材料で環状に形成され、ハウジング37の開口部37a内周に固定される。シール部材39の円筒状の内周面39aは、ハウジング37の開口部37a内周に固定された状態(図8を参照)では、対向する軸部32aの外周面32a1との間に所定のシール空間S2を形成する。
【0067】
シール部材39の下端面39bは、フランジ部32bの上端面32b1と軸方向の隙間を介して対向している。軸部材32が上方へ相対変位すると、フランジ部32bの上端面32b1がシール部材39の下端面39bと軸方向で係合し、軸部材32が係止される。このように、シール部材39は、シール機能と抜け止めの機能を併せ持つ。
【0068】
ハウジング37の内周に、軸受スリーブ38を挿入し、軸受スリーブ38の下端面38bをハウジング37の底部37cに当接させる。こうして、ハウジング37に対する軸受スリーブ38の軸方向位置を定めた上で、超音波溶着により軸受スリーブ38をハウジング37の内周面37dに固定する。次に、シール部材39をハウジング37の開口部37a内周に配し、シール部材39の下端面39bと軸受スリーブ38の上端面38cとの間にフランジ部32bを収容した状態で、同じく超音波溶着によりシール部材39をハウジング37に固定する。これにより、図7に示す動圧軸受装置31が完成する。この際、シール部材39で密封されたハウジング37の内部空間は、軸受スリーブ38の内部気孔を含め、潤滑油で充満されると共に、潤滑油の油面はシール空間S2の範囲内に維持される。
【0069】
上記構成の動圧軸受装置31において、軸部材32の回転時、軸受スリーブ38の内周面38aのラジアル軸受面となる領域(上下2箇所の領域)は、軸部32aの外周面32a1とラジアル軸受隙間を介して対向し、それぞれ多円弧軸受(テーパ軸受とも称される)を構成する。軸部材32の回転に伴い、ラジアル軸受隙間内の潤滑油がくさび状隙間(図3の8a3)の縮小側に押し込まれて、その圧力が上昇する。このような潤滑油の動圧作用によって、軸部32aを非接触支持する第一ラジアル軸受部R11と第二ラジアル軸受部R12がそれぞれ構成される。
【0070】
同時に、フランジ部32bの下端面32b2とこれに対向する軸受スリーブ38の上端面38cとの間のスラスト軸受隙間にも、動圧溝の動圧作用により潤滑油の油膜が形成され、この油膜の圧力によって、フランジ部32bをスラスト方向に回転自在に非接触支持するスラスト軸受部T11が構成される。
【0071】
上述のように、充填材の配合割合を2〜30vol%の範囲内に規制した結晶性樹脂でハウジング37を形成することで、超音波溶着時の溶着性が良く、軸受スリーブ38、およびシール部材39の良好で安定した固定状態を得ることができる。また、耐油性に優れた結晶性樹脂を用いることで、ハウジング7のストレスクラックによる劣化を抑え、良好な耐久性を持たせることができる。さらに、充填材として導電性に優れたカーボンナノチューブを使用することで、樹脂製のハウジング37に導電性を付与することができ、ディスクD等の帯電に起因する不具合を解消することが可能となる。
【0072】
なお、上記図示例では、シール部材39をハウジング37とは別体に形成し、これを後付けでハウジング37に溶着固定した場合を説明したが、例えば図示は省略するが、シール部材39をハウジング37と一体に樹脂材料で形成することもできる。その場合には、ハウジング37の底部37cをハウジング37とは別体に形成し、これを溶着固定するようにしてもよい。
【0073】
また、上記図示例では、シール空間S2を、シール部材39の円筒状の内周面39aと、これに対向する軸部32aの外周面32a1との間に形成した場合を例示したが、本発明は、これ以外の形態に適用することも可能である。例えば図9は、ハウジング37外部側(図9では上側)に向けて径方向隙間幅を漸次拡大させたテーパ状のシール空間S3を形成した場合を例示したものである。
【0074】
また、図10には、ハウジング37の軸方向寸法を縮小して、動圧軸受装置31の小サイズ化を図るため、シール部材39の内周面39aと、フランジ部32bの外周面32b3とを対向させ、この対向面間にテーパ状のシール空間S4を形成したものが例示されている。
【0075】
さらに、軸部材32の抜止めを考慮したものとして、例えば図11に示すような構成を挙げることができる。同図におけるシール空間S5は、フランジ部32bに設けられた軸方向の段差によって区画形成された外周面のうち、上側の外周面32b3と、これに対向するシール部材39の内周面39aとの間に形成される。また、段によって区画形成された上端面32b1のうち外径側の端面32b4は、シール部材39の下端面39bと対向する。
【0076】
このような構成とすることで、シール空間S5には、遠心力および毛細間力によるシール作用が生じ、潤滑油の外部への漏れ出しが防止される。また、軸部材32の上方への相対変位時、フランジ部32bの外径側端面32b4がシール部材39の下端面39bと軸方向で係合することで、軸部材32の抜止めがなされる。
【0077】
また、この図示例では、シール部材39は、その下端面39bの、外径側端面32b4と対向しない箇所を下方に向けて突出させた形態をなす。そのため、シール部材39の下方突出部39cを軸受スリーブ38の上端面38cに当接させることで、シール部材39の軸方向の位置決めが容易になされる。
【0078】
図12は、第一および第二ラジアル軸受部R1、R2(R11、R12)を構成する多円弧軸受の他の実施形態を示すものである。この実施形態では、図3に示す構成において、各偏心円弧面8a1の最小隙間側の所定領域θが、それぞれ回転軸心Oを中心とする同心の円弧で構成されている。従って、各所定領域θにおいて、ラジアル軸受隙間(最小隙間)は一定となる。このような構成の多円弧軸受は、テーパ・フラット軸受と称されることもある。
【0079】
図13では、軸受スリーブ8の内周面8aのラジアル軸受面となる領域が3つの円弧面8a1で形成されると共に、3つの円弧面8a1の中心は、回転軸心Oから等距離オフセットされている。3つの偏心円弧面8a1で区画される各領域において、ラジアル軸受隙間は、円周方向の両方向に対してそれぞれ漸次縮小した形状を有している。
【0080】
以上に説明した第一および第二ラジアル軸受部R1、R2(R11、R12)の多円弧軸受は、何れもいわゆる3円弧軸受であるが、これに限らず、いわゆる4円弧軸受、5円弧軸受、さらには6円弧以上の数の円弧面で構成された多円弧軸受を採用してもよい。また、ラジアル軸受部R1、R2のように、2つのラジアル軸受部を軸方向に離隔して設けた構成とするほか、軸受スリーブ8の内周面の上下領域に亘って1つのラジアル軸受部を設けた構成としてもよい。
【0081】
また、以上の実施形態では、ラジアル軸受部R1、R2(R11、R12)として、多円弧軸受を採用した場合を例示しているが、これ以外の軸受で構成することも可能である。ラジアル軸受部R1、R2を構成可能な軸受としては、例えば図示は省略するが、軸受スリーブ8の内周面8aのラジアル軸受隙間に面する領域(ラジアル軸受面となる領域)に、複数の軸方向溝形状の動圧溝を形成したステップ軸受が挙げられる。あるいは、軸方向溝に代えて、へリングボーン形状やスパイラル形状の傾斜溝を形成し、これら傾斜状の動圧溝により潤滑流体の動圧作用を発生させる構成を採ることもできる。
【0082】
また、以上の実施形態では、動圧軸受装置1の内部に充満し、ラジアル軸受隙間や、スラスト軸受隙間に動圧作用を生じる流体として、潤滑油を例示したが、それ以外にも各軸受隙間に動圧作用を生じ得る流体、例えば空気等の気体や、磁性流体等の流動性を有する潤滑剤、あるいは潤滑グリース等を使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の第1実施形態に係る動圧軸受装置を組み込んだ情報機器用スピンドルモータの断面図である。
【図2】動圧軸受装置の断面図である。
【図3】ラジアル軸受部の断面図である。
【図4】第1実施形態に係る動圧軸受装置の他の構成例を示す断面図である。
【図5】第1実施形態に係る動圧軸受装置の他の構成例を示す断面図である。
【図6】ハウジングと封止部材とを超音波溶着で溶着固定した際の溶着性の評価比較を示す結果である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る動圧軸受装置を組み込んだ情報機器用スピンドルモータの断面図である。
【図8】動圧軸受装置の断面図である。
【図9】シール空間の他の構成例を示す断面図である。
【図10】シール空間の他の構成例を示す断面図である。
【図11】シール空間の他の構成例を示す断面図である。
【図12】ラジアル軸受部の他の構成例を示す断面図である。
【図13】ラジアル軸受部の他の構成例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0084】
1、11、21 動圧軸受装置
2 軸部材
2a 軸部
2b フランジ部
7 ハウジング
7a シール部
7b 側部
8 軸受スリーブ
8a 内周面
8a1 円弧面
8a2 分離溝
8a3 くさび状隙間
10 スラスト部材
10a 上端面
12 シール部材
12a 内周面
13 封止部材
31 動圧軸受装置
32 軸部材
32b フランジ部
32b3 外周面
32b4 外径側端面
37 ハウジング
37a 開口部
38 軸受スリーブ
39 シール部材
R1、R11 第一ラジアル軸受部
R2、R12 第二ラジアル軸受部
S1〜S5 シール空間
T1、T2、T11 スラスト軸受部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、該ハウジングの内部に配置された軸受スリーブと、前記ハウジングおよび前記軸受スリーブに対して相対回転する軸部材と、前記軸受スリーブと前記軸部材との間のラジアル軸受隙間に生じる流体の動圧作用で前記軸部材をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部とを備えた動圧軸受装置において、
前記ラジアル軸受部が、多円弧軸受で構成され、
前記ハウジングが、充填材を3〜35vol%配合した非晶性樹脂、及び、充填材を2〜30vol%配合した結晶性樹脂の中から選択される一の樹脂材料で形成され、かつ、前記軸受スリーブが前記ハウジングに溶着によって固定されていることを特徴とする動圧軸受装置。
【請求項2】
ハウジングと、該ハウジングの内部に配置された軸受スリーブと、前記ハウジングおよび前記軸受スリーブに対して相対回転する軸部材と、前記軸受スリーブと前記軸部材との間のラジアル軸受隙間に生じる流体の動圧作用で前記軸部材をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部と、前記軸部材をスラスト方向に支持するスラスト軸受部とを備えた動圧軸受装置において、
前記ラジアル軸受部が、多円弧軸受で構成され、
前記ハウジングが、充填材を3〜35vol%配合した非晶性樹脂、及び、充填材を2〜30vol%配合した結晶性樹脂の中から選択される一の樹脂材料で形成され、かつ、前記軸受スリーブ、及び、前記スラスト軸受部を構成するスラスト部材のうち少なくとも一方が前記ハウジングに溶着によって固定されていることを特徴とする動圧軸受装置。
【請求項3】
ハウジングと、該ハウジングの内部に配置された軸受スリーブと、前記ハウジング及び前記軸受スリーブに対して相対回転する軸部材と、前記軸受スリーブと前記軸部材との間のラジアル軸受隙間に生じる流体の動圧作用で前記軸部材をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部と、前記ハウジングの内部をシールするシール部とを備えた動圧軸受装置において、
前記ラジアル軸受部が、多円弧軸受で構成され、
前記ハウジングが、充填材を3〜35vol%配合した非晶性樹脂、及び、充填材を2〜30vol%配合した結晶性樹脂の中から選択される一の樹脂材料で形成され、かつ、前記軸受スリーブ、及び、前記シール部を構成するシール部材のうち少なくとも一方が前記ハウジングに溶着によって固定されていることを特徴とする動圧軸受装置。
【請求項4】
前記非晶性樹脂が、ポリサルフォン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニルサルフォン(PPSU)、ポリエーテルイミド(PEI)の中から選択される一の樹脂であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の動圧軸受装置。
【請求項5】
前記結晶性樹脂が、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)の中から選択される一の樹脂であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の動圧軸受装置。
【請求項6】
前記充填材が導電性を有する材料であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の動圧軸受装置。
【請求項7】
前記導電性を有する材料がカーボンナノマテリアルであることを特徴とする請求項6記載の動圧軸受装置。
【請求項8】
前記ハウジングは一端を開口し、前記軸部材は、外径側に突出するフランジ部を有し、該フランジ部の端面と、これに対向する前記軸受スリーブのハウジング開口側の端面との間にスラスト軸受隙間を形成し、
該スラスト軸受隙間に生じる流体の動圧作用で前記軸部材をスラスト方向に非接触支持することを特徴とする請求項1記載の動圧軸受装置。
【請求項9】
前記ハウジングは一端を開口し、前記軸部材は、外径側に突出するフランジ部を有し、該フランジ部の端面と、これに対向する前記軸受スリーブのハウジング開口側の端面との間にスラスト軸受隙間を形成し、該スラスト軸受隙間に生じる流体の動圧作用で前記軸部材をスラスト方向に非接触支持すると共に、
前記シール部材は、前記ハウジングの開口側に設けられ、前記軸部材の外周面又は前記フランジ部との間にシール空間を形成することを特徴とする請求項3記載の動圧軸受装置。
【請求項10】
請求項1〜9の何れかに記載された動圧軸受装置を有するディスク装置のスピンドルモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−200624(P2006−200624A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−12859(P2005−12859)
【出願日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】