説明

医療用処置具、医療用処置具の製造方法、および医療用内視鏡と医療内視鏡用処置具との組立体

【課題】 医療用処置具の操作用ロープと連結部材とを接合部材を用いて接合する際、操作用ロープへの熱影響による機械的強度特性を低下させることなく、これを向上させる技術課題である接合法を用いた医療用処置具を開示するものである。
【解決手段】 操作用ロープにオーステナイトステンレス鋼線の強加工の伸線加工を行った金属素線を用いて撚合構成し、強加工のオーステナイト系ステンレス鋼線の温度と引張破断強度特性に着目して、引張破断力が向上する温度と合致した溶融温度をもつ接合部材を用いて接合することにより、接合部の操作用ロープの引張破断力をより向上させて接合した医療用処置具であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、接合部材を用いて操作用ロープと、操作用ロープの先端部、又は手元操作部の連結部材との接合部材を用いた接合における操作用ロープの接合部の機械的強度特性を向上させた医療用処置具等に関する。
【背景技術】
【0002】
体内へ挿入する医療用処置具の先端部、又は手元操作部は操作用ロープを介して手元操作を先端部へ伝達させる為、連結部材と操作用ロープとの接合部の機械的強度特性を考慮して、病変部治療に際して人体への安全確保を満たさなければならず、この為種々の提案がなされている。
【0003】
特許文献1には、内視鏡として操作ワイヤの先端を、最先端の節輪の内周部にレーザー溶接する接合技術が開示され、局部的な加熱の為の焼きなましによる劣化を極力防止し、接続作業を容易にして、かつ短時間に行うことを目的としている。
しかし、短時間であってもレーザー光による細線の操作ワイヤと節輪との「溶接」であって細線のワイヤは溶け、溶接前の操作ワイヤの機械的強度を維持することはできない。
【0004】
特許文献2には、内視鏡として湾曲操作ワイヤと挿入先端部とを真空環境下、又は不活性ガス環境下における「ろう付け固着」する接合技術が開示され、錆発生による湾曲操作ワイヤの断線防止を目的としている。
しかし、一般的に、例えばステンレス鋼のろう付けには融点が895℃から1030℃の金ろう(JISZ3266)等が用いられ、かかる場合に湾曲操作ワイヤを撚合構成する金属素線は溶けて溶接され、又かかる特許文献にはろう材の開示はなく、そして、ろう材の溶融温度と湾曲操作ワイヤとの機械的強度特性との相関性については何ら開示はなく、さらに上記いずれの特許文献も「ろう付けを単なる固着手段」として用いる考え方である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−293419号公報
【特許文献2】特開2001−149307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の医療用内視鏡において、その操作用ロープにステンレス鋼線を用いて操作用ロープと、節輪又は湾曲駒のロープ受けの連結部材とを接合する際、接合部材であるろう材等は単なる固着手段としてのみの技術思想しか存在せず、ステンレス鋼線の加工度の高い強加工の伸線加工した金属素線を複数本撚合構成した操作用ロープと、この強加工した金属素線を用いた操作用ロープの熱影響による機械的強度特性を考慮した、ろう付けやはんだ付けの際の接合部材である共晶合金を用いた接合に関する技術思想は存在していない。
又、後述する医療内視鏡用スネア、医療内視鏡用鉗子等の医療用処置具においても操作用ロープの先端部と連結部材との接合、又は操作用ロープの手元部と連結部材との接合においても同様である。
この発明の目的は、操作用ロープの金属素線にオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて強加工の伸線加工を行い、この強加工した金属素線への熱影響による引張破断強度特性向上効果を利用して、前記接合部材を単に固着手段として用いるのみではなく、操作用ロープの引張破断力を向上させながら、かつ接合強度を向上させる新たな接合の技術思想を開示することにより、術者が安全に操作できる医療用処置具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、可とう性管体に貫挿した操作用ロープの先端処置部の連結部材、又は手元操作部の連結部材と、前記操作用ロープとを接合部材を用いて接合し、前記手元操作部を押し、引き、又は回転操作して前記操作用ロープの操作力の伝達作用により、前記先端処置部を動作させる医療用処置具において、前記操作用ロープは、固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて、総減面率が80%から99.5%の伸線加工した金属素線を複数本用いて撚合構成して成り、前記接合部材は、180℃から495℃の溶融温度をもつ共晶合金からなり、又は前記操作用ロープの金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、180℃から525℃の溶融温度をもつ共晶合金から成り、前記操作用ロープと前記連結部材とを、前記接合部材を用いて接合して成ることを特徴とする医療用処置具である。
この構成により、接合部材の溶融熱を利用して接合部での操作用ロープの引張破断力を向上させて高度の機械的強度特性を得て、かつ操作用ロープと連結部材との接合強度を向上させ、術者が安全に操作できる医療用処置具の提供ができる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、前記操作用ロープの金属素線は、固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて、総減面率が90%から99.5%の伸線加工して成り、前記連結部材と接合する前記操作用ロープの少なくとも先端処置具の接合部、又は手元操作部の接合部に電解研磨処理、又は前記接合部材と同一の組成成分を含むめっき処理を施したことを特徴とする請求項1に記載の医療用処置具である。
この構成により、接合部での接合部材との濡れ性を向上させて、操作用ロープの引張破断力を向上させながら、かつ接合部の接合強度をより向上させることができる。
【0009】
請求項3に記載の発明は、前記操作用ロープは、素線直径が0.008mmから0.200mmの金属素線を芯材と側材に用いて、前記芯材の外周に側材を6本から9本を一方向螺旋状に巻回成形する撚合構成のスパイラルロープから成り、前記芯材の素線直径が前記側材の素線直径の1.07倍から2.12倍とし、前記操作用ロープから成ることを特徴とする請求項1〜2のいずれか一つに記載の医療用処置具である。
この構成により、引張破断力を向上させた操作用ロープを用いて接合部の接合強度をさらに向上させることができ、かつ、特に押し、及び回転操作による先端部への操作力伝達性能をより向上させた医療用処置具の提供ができる。
【0010】
請求項4に記載の発明は、前記接合部材である共晶合金が、金、又は銀のいずれかを含む組成から成り、溶融温度が217℃から525℃であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の医療用処置具である。
この構成により、接合部材の溶融熱を利用して操作用ロープの引張破断力を向上させ、かつ接合部の接合強度を向上させることができる。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一つに記載の医療用処置具が、前記手元操作部を押し、引き、又は回転操作して前記操作用ロープの操作力の伝達作用により、前記先端処置部の処置用ループを拡縮させ、又は拡縮させた後、前記操作用ロープ、及び前記先端処置部に高周波電流を通電させて患部を切除することを特徴とする医療内視鏡用処置具である医療内視鏡用スネア、又は医療内視鏡用高周波スネアで、又請求項6に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一つに記載の医療用処置具が、前記手元操作部を押し、引き、又は回転操作して前記操作用ロープの操作力の伝達作用により、前記先端処置部の生検鉗子の鉗子カップを開閉させて生体組織を採取し、又は前記鉗子カップを開閉させた後、前記操作用ロープ、及び前記鉗子カップに高周波電流を通電させて患部を切除することを特徴とする医療内視鏡用処置具である医療内視鏡用鉗子、又は医療内視鏡用ホットバイオプシー鉗子である。
この構成により、操作用ロープの引張破断強度不足に起因する操作不能状態での術者の手技の中断を防ぎ、先端処置部のループの拡縮、又は生検鉗子カップの開閉作用の円滑化を図り、高度の操作性を維持しながら、かつ高周波通電の際、操作用ロープの通電作用と金、又は銀成分を含む接合部材の高通電作用により患部の切除、又は生体組織の採取、及び止血等の迅速な手技対応ができる医療内視鏡用スネア、医療内視鏡用高周波スネア、並びに、医療内視鏡用鉗子、医療内視鏡用ホットバイオプシー鉗子の医療内視鏡用処置具の提供ができる。
【0012】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一つに記載の医療用処置具が、前記手元操作部を押し、引き、又は回転操作して前記操作用ロープの操作力の伝達作用により、前記先端処置部のクリップを離脱させて体内留置することを特徴とする医療内視鏡用処置具である医療内視鏡用クリップ装置である。
この構成により、先端処置部のクリップを複数設けて操作用ロープの引張力が増大しても引張破断強度不足に起因する操作不能を防ぎ、クリップの離脱操作を円滑にさせ、迅速な手技対応ができるクリップ装置の医療内視鏡用処置具の提供ができる。
【0013】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一つに記載の医療用処置具が、前記手元操作部を押し、引き、又は回転操作して前記操作用ロープの操作力の伝達作用により、前記先端処置部のナイフ部を所望の位置へ案内しながら前記操作用ロープ、及び前記ナイフ部へ高周波電流を通電させて患部生体組織を焼灼切開することを特徴とする医療内視鏡用処置具である医療内視鏡用高周波ナイフである。
この構成により、操作用ロープの連結部材との接合部での引張破断強度不足に起因する操作不能状態での術者の手技中断を防ぎ、先端処置部のナイフ部への円滑な操作性を向上させながら、かつ、高周波通電の際、操作用ロープの通電作用と、金、又は銀成分を含む接合部材の高通電作用により、患部の切除、及び止血等の迅速な手技対応ができる高周波ナイフの医療内視鏡用処置具の提供ができる。尚、補足すれば病変部の明瞭な視覚把握の為、生理食塩水の注入に際し、後述する接合部材を任意選択使用することにより、接合部材の黒色化による接合強度不足等を解消することができる。
【0014】
請求項9に記載の発明は、可とう性管体に貫挿した操作用ロープの先端処置部の連結部材、又は手元操作部の連結部材と、前記操作用ロープとを接合部材を用いて接合し、前記手元操作部を押し、引き、又は回転操作して前記操作用ロープの操作力の伝達作用により、前記先端処置部を動作させる医療用処置具の製造方法において、前記操作用ロープは、固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて総減面率が90%から99.5%の伸線加工した金属素線を複数本用いて撚合構成したロープから成る工程と、前記撚合構成したロープを電解研磨した後に所定長切断する工程と、又は前記撚合構成したロープを所定長切断した後に電解研磨する工程と、その後切断した前記操作用ロープの先端部を前記先端処置部の連結部材の穴部へ挿入する工程と、又はその後切断した前記操作用ロープの手元部を前記手元操作部の連結部材の穴部へ挿入する工程と、前記連結部材内へ挿入した前記操作用ロープとの接合部に、180℃から495℃の溶融温度をもつ共晶合金から成る前記接合部材を溶融させ、又は前記操作用ロープの金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、180℃から525℃の溶融温度をもつ共晶合金からなる前記接合部材を溶融させ、前記連結部材と前記操作用ロープとを前記接合部材を用いて接合する工程から成ることを特徴とする医療用処置具の製造方法である。
この構成により、接合部での接合部材との濡れ性を向上させ、強加工の伸線加工の金属素線を撚合構成して引張破断力を向上させた操作用ロープを用いて接合部材による溶融熱を利用して、より高い引張強度特性をもつ操作用ロープから成る医療用処置具の製造ができる。
【0015】
請求項10に記載の発明は、可とう性管体に貫挿した操作用ロープの先端処置部の連結部材、又は手元操作部の連結部材と、前記操作用ロープとを接合部材を用いて接合し、前記手元操作部を押し、引き、又は回転操作して前記操作用ロープの操作力の伝達作用により、前記先端処置部を動作させる医療用処置具の製造方法において、前記操作用ロープは、固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて総減面率が90%から99.5%の伸線加工した金属素線を複数本用いて撚合構成したロープから成る工程と、前記撚合構成したロープを電解研磨した後に所定長切断する工程と、又は前記撚合構成したロープを所定長切断した後に電解研磨する工程と、その後切断した前記操作用ロープの先端部を前記先端処置部のステンレス鋼材から成る連結部材の穴部へ挿入する工程と、又はその後切断した前記操作用ロープの手元部を前記手元操作部のステンレス鋼材から成る連結部材の穴部へ挿入する工程と、前記連結部材内へ挿入した前記操作用ロープとの接合部に、180℃から495℃の溶融温度をもつ共晶合金から成る前記接合部材を溶融させ、又は前記操作用ロープの金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、180℃から525℃の溶融温度をもつ共晶合金からなる前記接合部材を溶融させ、同一、又は同種の材料から成る前記連結部材と前記操作用ロープとを、前記接合部材により接合する工程からなることを特徴とする医療用処置具の製造方法である。
この構成により、接合部での接合部材との濡れ性を接合面で均一にさせ、操作用ロープの引張破断力をより向上させながら、接合部材による接合強度をより一層向上させることができる。
【0016】
請求項11に記載の発明は、前記先端処置部が湾曲駒を複数個連結し、先端側の前記湾曲駒と前記操作用ロープの先端部とを前記接合部材を用いて接合した湾曲部から成り、前記手元操作部を操作して前記操作用ロープの操作力の伝達作用により、前記湾曲部を湾曲変形させ、かつ前記手元操作部に処置具孔を有する請求項1〜4のいずれか一つに記載の医療用処置具である医療用内視鏡と、請求項6〜8のいずれか一つに記載の医療内視鏡用処置具を前記処置具孔より出入りさせて病変部治療を行うことを特徴とする医療用内視鏡と医療内視鏡用処置具との組立体である。
この構成により、操作用ロープの引張破断強度不足に起因する医療用内視鏡、及び医療内視鏡用処置具の操作不能状態での術者の手技の中断を防ぎ、高度の操作性を維持しながら円滑、かつ迅速な手技対応ができる医療用内視鏡と医療内視鏡用処置具との組立体の提供ができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の医療用処置具(医療内視鏡)の全体を示す斜視図。
【図2】本発明の医療用処置具(医療内視鏡)の挿入部先端側を側方からみた断面図。
【図3】本発明の医療用処置具(医療内視鏡)の先端の湾曲駒、及び操作用ロープの組付図。
【図4】他の実施例(管体ロープ受けの連結部材)の医療用処置具(医療用内視鏡)の先端の湾曲駒、及び操作用ロープの組付図。
【図5】本発明の医療用処置具に用いる操作用ロープの構成図。
【図6】総減面率と引張破断強度特性図。
【図7】操作用ロープに用いる金属素線の温度と引張破断強度特性図。
【図8】医療内視鏡用スネア、及び医療内視鏡用高周波スネアの構成図。
【図9】医療内視鏡用鉗子、及び医療内視鏡用ホットバイオプシー鉗子構成図。
【図10】医療内視鏡用クリップ装置の構成図。
【図11】医療内視鏡用高周波ナイフの構成図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明の実施形態を図に示すとともに説明する。
【実施例】
【0019】
図1は本発明の実施例1の医療用処置具である医療用内視鏡1の全体の斜視図を示し、医療用内視鏡1は、手元操作部2と、この手元操作部2の先端に接続されて体内へ挿入される細長の挿入部4と、並びに前記操作部2の手元部に医療用内視鏡1の医療内視鏡用処置具11の出入りを可能にした処置具孔10と、及び光源装置(図示せず)に着脱自在に接続されるコネクタ9を備えたユニバーサルコード8から構成されている。又、前記手元操作部2には、先端部を自在に湾曲させる湾曲操作ノブ3、及びビデオプロセッサー(図示せず)をコントロールするリモートスイッチ12が設けられている。
そして挿入部4は、手元部から可とう管部5と、湾曲部6と、先端構成部7を直列に連結した構造となっている。尚、本発明の医療用処置具とは、医療用内視鏡と医療内視鏡用処置具の双方をいい、医療内視鏡用処置具には後述するスネア、鉗子、クリップ、高周波ナイフ等の処置具のことをさす。
【0020】
図2の先端処置部は、湾曲部6と先端構成部7から成り、湾曲部6は、短円筒状の湾曲駒18を複数個直列に並べてリベット19を介して回動自在に連結し、かつ各湾曲駒18はリベット19の軸方向と概ね直交する部位の短円筒状の軸方向の中間部位で内側へ円弧上に切り曲げて一対のロープ受け22を形成する。
そして操作用ロープ20は、複数の湾曲駒18の内側のロープ受け22内を貫挿し、最先端の先端湾曲駒18aと、先端ロープ受けの連結部材22aにて接合部材21を用いて接合されている。
そして、操作用ロープ20の手元部は、図1に示した手元操作部2の湾曲操作ノブ3まで挿入部4、及び手元操作部2内を貫挿して湾曲操作ノブ3と連動させ、この湾曲操作ノブ3を回動操作することにより操作用ロープ20を押し引き等、牽引操作させて湾曲部6を、図2において上下方向へ湾曲操作が可能な構造となっている。尚、前記図2の上下一対のロープ受け22に対して直交する図2の手前・奥方向へ、もう一対のロープ受けを配設(図示せず)すると、図2の上下方向と手前奥の四方向に湾曲操作が可能な構造となる。かかる構造を用いてもよい。
そして又、湾曲駒18の外周には線材を編組したブレード23と、その外周には合成樹脂から成る外層チューブ24を被覆した構成から成っている。
【0021】
そして先端構成部7は、口金管25内にイメージガイドファイバー26が挿入され、その先端側に対物レンズ27が配設されている。そして接続パイプ29と接続したチャンネルチューブ28は手元操作部2の手元部まで通ずる処置具孔10と連結しており、このチャンネルチューブ28内へ生検鉗子等の鉗子類の他に、高周波スネア、クリップ装置、注射針等の種々の医療内視鏡用処置具11が出入りでき、病変部の治療行為ができる構造となっている。
【0022】
図3は、最先端の先端湾曲駒18aと操作用ロープ20の組付図を示し、先端湾曲駒18aの短円筒状の長軸方向の略中間部位で内側へ円弧状に切り曲げて、突起状の一対の先端ロープ受けの連結部材22a内に操作用ロープ20が貫挿され、先端ロープ受けの連結部材22aで接合部材21を用いて操作用ロープ20の先端部20aが接合されている。
【0023】
そして本発明の医療用処置具に用いる操作用ロープ20は、スパイラルロープ、又は後述するストランドロープを用い、図5(A)、(A’)は本発明実施例1の医療用内視鏡に用いる操作用ロープ20のスパイラルロープの実施例を示す。
本発明の実施例の操作用ロープ20は、素線直径が0.008mmから0.200mmの金属素線を複数本用いて撚合構成し、スパイラルロープの実施例Aの操作用ロープ200では、素線直径(線径)が0.13mmの金属素線1本の芯材200Aと、素線直径(線径)が0.11mmの金属素線6本から成る側材200Bを、芯材200Aの外側に側材200Bを撚合させ、撚合方向が長手方向に対して連続して一方向螺旋状の巻回形成とした撚合構成とし、つまり一般にスパイラルロープの撚り構成1×7(芯材1本の外側に6本の側材)とし、撚合後のロープ外径Dは0.35mmで、ロープピッチ(図示P)はロープ外径Dの2.5倍から15倍とする。ここで、スパイラルロープとは、3本以上の金属素線を撚り合わせてストランド(束)としたロープのことをいい、(1×n)の形の呼び名とし、nは金属素線の本数を示す。
【0024】
そして操作用ロープ200の芯材200Aは、線径が0.46mmの固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を複数のダイスを用いて線径が0.13mmになるまで伸線加工を行い、伸線加工の加工硬化により引張破断強度を約70kgf/mm2 から232kgf/mm2 まで向上させる。
このときの減面率は92.0%となる。又、側材200Bについても概ね前記芯材200Aと同様である。
【0025】
そして又、本発明の実施例Bの操作用ロープ201の芯材201Aは、線径が0.76mmの固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を複数のダイスを用いて線径が0.23mmになるまで一次伸線加工を行い、その後450℃で30分の一次低温熱処理を加えた後に、線径が0.168mmまで二次伸線加工を行い、その後前記同様二次低温熱処理(450℃で30分)を加えた後に、線径が0.13mmまで三次伸線加工を行うと総減面率が97.1%となって、より高い引張破断強度を有する芯材201Aを得ることができる。又、側材201Bについても概ね前記芯材201Aと同様である。
【0026】
そして前記実施例Bと同様の製造方法にて総減面率99.5%とする芯材202A、及び側材202Bから成る操作用ロープ202を実施例Cとし、実施例A〜Cの芯材、及び側材の製造工程を整理すると表1、2となる。尚、実施例A〜Bの芯材、及び側材の金属素線の材質は、オーステナイト系ステンレス鋼線のSUS304材を用い、又実施例Cの芯材、及び側材の金属素線の材質は、再溶解材のSUS316材を用いた。又、ここでいう総減面率とは、固溶化処理した線材の線径と伸線加工により伸線工程での最終仕上がり線径との間の断面積差を減少率で表したものをいい、又引張破断強度とは、線材に引張力を加えて破断したときの最大値を線材の断面積で除した値のことをいう。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
表1、2によれば、芯材、及び側材のいずれも総減面率は80%以上で、99.5%の実施例Cにおいて最も高い引張破断強度を示す。
そして本発明の操作用ロープに用いる金属素線の芯材、及び側材は、固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて総減面率が80%から99.5%の伸線加工を行ったことを特徴とする。尚、総減面率が95%以上の強加工伸線においては後述する再溶解材を用いることが望ましい。又、総減面率が80%以上としたのは、80%を境にして引張破断強度が増大する変曲ポイントとなるからである。(図6、ばね第3版丸善株式会社63頁、図2.82参照)
そして、総減面率90%を境にして、さらに急激に引張破断強度が増大する変曲ポイントを見出した。
【0030】
表3は前記実施例A又はBと同様の製造方法を用いて総減面率のみ異ならせて温度を450℃加えた後の引張破断強度の比較を示したものである。尚、表中の増加比とは、総減面率が70%のときの最大引張破断強度の値を基準としたときの比を示す。例えば総減面率が90%のとき増加比は1.31(256/196)となる。
【0031】
【表3】

【0032】
表3によれば、総減面率80%のときには、総減面率が70%のときの値の1.12倍増加し、さらに総減面率が90%のときには1.31倍となって、明らかに総減面率が80%で引張破断強度が増大する変曲ポイントがみられ、さらに総減面率が90%で急激に引張破断強度が増大する変曲ポイントがみられ、図6に示すような非線形特性を示すと考えられる。
この理由は、総減面率80%以上という強加工による伸線加工により加工度の増大に伴い繊維状組織が現れ、そしてさらに総減面率90%以上においては、この繊維状組織が著しく発達したことによると考えられる。
そして総減面率が99.5%以下としたのは、これを超える伸線加工の強い加工度では、後述する再溶解材を用いても組織内に空隙が生じはじめて脆化し、又伸びの不足により、特に撚合構成時に側材の金属素線の断線が発生し易くなり、これが伸線加工、撚線加工の限界と考えるからである。
従って、後述する接合部材21の共晶合金を用いて溶融熱により操作用ロープに用いて金属素線の引張破断強度を向上させながら接合させる為には、総減面率が80%から99.5%以下が好ましく、より好ましくは、総減面率が90%から99.5%であり、より高い引張破断強度を得て安定して撚合構成する為には、総減面率が90%から99%である。
【0033】
そして「固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線の伸線加工」としたのは、加工性のよいオーステナイト組織を得る為であり、オーステナイト系ステンレス鋼線は変態点を利用した熱処理による結晶粒の微細化ができず、冷間加工によってのみ結晶粒の微細化が可能で、伸線加工により顕著な加工硬化性を示して引張破断強度を向上させることができるからである。又オーステナイト系ステンレス鋼線を用いる理由は、マルテンサイト系ステンレス鋼線では熱処理による焼入硬化性を示して熱影響を受け易く、析出硬化系ステンレス鋼線では靭性が不足して撚線加工時に断線が発生して前記実施例のような細線・極細線の撚合構成はできず、又フェライト系ステンレス鋼線では温度脆性(シグマ脆性)の問題があるからである。
【0034】
次に図3において操作用ロープ20の先端部20aと、先端湾曲駒18aの先端ロープ受けの連結部材22aとは、接合部材21を溶融加熱して接合させる。
そして接合部材21は、溶融温度が180℃から495℃の共晶合金、又は操作用ロープ20の金属素線が後述するMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには180℃から525℃の共晶合金を用いる。ここでいう共晶合金とは、合金の成分比を変更することにより得られる最低融点(溶融温度)を有する特殊な合金のことをいい、具体的には、金又は銀を含む合金材で金錫系合金材として金80重量%、残部が錫で溶融温度が280℃、又銀錫系合金として銀3.5重量%、残部が錫で溶融温度が221℃、そして、金88重量%、残部がゲルマニウムで溶融温度が356℃、又銀と錫とインジウムから成り、溶融温度が450℃から472℃の共晶合金であり、その代表例を表4に示す。
【0035】
【表4】

【0036】
ここで接合部材21として金を用いる理由は、耐食性、展延性向上の為であり、銀を用いる理由は、融点調整等の為であり、錫を用いる理由は、融点を低下させて操作用ロープ20との濡れ性を向上させる為であり、又インジウム、銅を用いる理由も濡れ性向上の為であり、そしてゲルマニウムを用いる理由は、金属間化合物の結晶粒粗大化を抑止して、接合強度の低下防止を図る為である。尚、鉛、アンチモンは人体への不適合性、又加工性の難度等の観点から好ましくない。
【0037】
そして接合部材21の溶融温度が180℃から495℃、又は180℃から525℃としたのは、180℃を下回ると加工硬化させた操作用ロープ20の引張破断力を接合部材21の溶融温度を利用して向上させることはできず、そして495℃を超えると操作用ロープ20に用いる金属素線のオーステナイト系ステンレス鋼線の特質から、又は525℃を超えるとMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線の特質から、前記各オーステナイト系ステンレス鋼線を520℃、又は540℃を超える800℃に加熱すると鋭敏化現象を生じて、後述するように極端に引張破断強度特性等を低下させることとなり、この現象を防ぎ、操作用ロープ20の機械的強度特性を最大限に発揮させる為である。
【0038】
この構造により、以下に述べる特有の作用効果がある。
操作用ロープ20と先端湾曲駒18aの先端ロープ受けの連結部材22aとを前記接合部材21である共晶合金を用いて接合すると、接合時の溶融熱によって操作用ロープ20の芯材、及び側材のような細線を撚合構成したロープであっても引張強度特性等を低下させることなく、むしろこの引張破断強度特性等を向上させて強固接合させることができる。
【0039】
そして図7は、一般に金属素線の母線にオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて総減面率が95%以上の最終伸線加工後の金属素線を熱影響下(各温度30分)での引張破断強度特性を示した図で、SUS304材のときは図示イを、SUS316材のときは図示ロを示す。
これによるとSUS304材は180℃の熱影響により引張破断強度が上昇し始め、概ね450℃近傍で最高の引張破断強度特性を示し、495℃まで引張破断強度特性向上効果が顕著にみられ、そして520℃を超えると常温(20℃)よりも急激に引張破断強度が低下する。又、Moを含むSUS316材は、低温側でSUS304材と同様な傾向を示すが高温側では概ね480℃近傍で最高の引張破断強度特性を示し、525℃まで引張破断強度特性向上効果が顕著にみられ、そして540℃を超えると常温(20℃)よりも急激に引張破断強度が低下する。
この引張破断強度特性が急激に低下する理由は、前述のように、この固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線は、前記520℃、540℃を超える温度から800℃に加熱されると、カーボンの析出、クロムの移動の為のエネルギーを必要とし、鋭敏化現象を生じて、特にカーボンが0.08%以下の通常のSUS304のオーステナイト系ステンレス鋼線では、700℃4分から5分程度で、この鋭敏化現象が現れ、引張破断強度が極端に低下するからである。
【0040】
このような引張破断強度特性を有する為、SUS304材の金属素線の低温熱処理温度範囲は180℃から495℃が望ましく、又Moを含む例えばSUS316材(Moが2重量%〜3重量%)の金属素線の低温熱処理温度範囲は180℃から525℃が望ましい。
従って、接合部材21の溶融温度は、前記望ましい低温熱処理温度範囲と一致させる。 このように本発明は、強加工伸線して総減面率の高いオーステナイト系ステンレス鋼線の温度による引張破断強度特性に着目して、並びに、操作用ロープ20に用いる金属素線は細線・極細線で熱容量小で熱影響を受け易いことに着目して、操作用ロープの金属素線の撚合状態での引張破断強度を、接合部材21の溶融熱を利用して大幅に向上させながら、かつ接合することのできる、新たな技術思想を提供するものである。
【0041】
そして、本実施例に用いる金属素線のオーステナイト系ステンレス鋼線の化学成分は、重量%でC:0.15%以下、Si:1%以下、Mn:2%以下、Ni:6%〜16%、Cr:16%〜20%、P:0.045%以下、S:0.030%以下、Mo:3%以下、残部が鉄及び不可避的不純物から成る。このように高珪素ステンレス鋼(Si:3.0%〜5.0%)、又析出硬化系ステンレス鋼線を用いなくても前記工法を用いることにより、高強度のオーステナイト系ステンレス鋼線の金属素線を得ることができる。尚、Cは引張破断強度向上の為には、0.005%以上が望ましく、粒界腐食抑制の観点から0.15%以下が望ましい。
【0042】
本発明の医療用内視鏡1の操作用ロープ20に用いる芯材、又は側材の金属素線は、素線直径が0.008mmから0.200mmのオーステナイト系ステンレス鋼線で、特に引張破断強度が300kgf/mm2 以上で、総減面率が95%以上の伸線加工を可能とする為には、再溶解材を用いたSUS304材、又はSUS316材が望ましい。
この理由は、ステンレス鋼線の伸線時の断線原因は、表面疵もさることながら酸化物系介在物であることが最も多く、細線・極細線化するほどこの傾向が著しい。
そしてその化学成分は、介在物生成元素であるAl、Ti、Ca、Oの成分は低く、又硫化物の作用で伸線低下を引き起こすSも低く抑える。具体的なオーステナイト系ステンレス鋼線の化学成分は、重量%で、C:0.08%以下、Si:0.10%以下、Mn:2%以下、P:0.045%以下、S:0.010%以下、Ni:8%〜12%、Cr:16%〜20%、Mo:3%以下、Al:0.0020%以下、Ti:0.10%以下、Ca:0.005%以下、O:0.0020%以下、で残部がFeと不可避的不純物から成る。
そして再溶解材の製造方法としては、ステンレス鋼の溶製後のインゴットにフラックスを用いたエレクトロスラグ再溶解の製造方法等である。トリプル溶解材を用いても前記同様の効果が得られる。
【0043】
そして次に、操作用ロープの実施例A〜C操作用ロープ200〜202と湾曲駒とを接合部材21を用いて接合する際に接合部材21の溶融加熱時間、及び組付時間等を考慮して、温度と引張破断力との関係を表5に示す。尚、時間の5秒は、接合部材21を用いて接合固着するときにロープが180℃以上で溶融加熱される平均時間を示し、又60秒は、再度接合固着作業(やり直し作業)によりロープが180℃以上で再加熱されるのを含む時間を示す。又ここでロープの引張破断力とは、ロープに引張力を加えてロープが破断したときの最大荷重のことをいう。
【0044】
【表5】

【0045】
表5によれば、接合部材21の溶融加熱時間を考慮して450℃で5秒間の加熱であっても、操作用ロープ200の引張破断力は16.5kgfから17.1kgfとなって約3.6%増大し、又操作用ロープ201の引張破断力は24.7kgfから25.9kgfとなって約4.9%増大し、さらに操作用ロープ202の引張破断力は25.6kgfから27.0kgfとなって約5.5%増大し、総減面率の増加とともに引張破断力の増加率は増大する傾向となる。
そして前述のように、接合部材21の共晶合金を用いて溶融熱により操作用ロープの引張破断力を向上させながら接合させる為には、操作用ロープに用いる金属素線の総減面率は80%から99.5%が望ましく、好ましくは90%から99.5%以下で、高い引張破断力を有する湾曲操作ロープを安定して得る為には、90%以上99%以下が望ましい。
この理由は、99.5%を超える総減面率を有する金属素線は伸びが不足して撚合時に、側線に用いる金属素線の断線が発生し易いからである。
【0046】
そして本発明の操作用ロープ20の他のスパイラルロープの実施例を図5(B)〜(E)に示す。図5(B)〜(E)はそれぞれ実施例D〜Gを示し、スパイラルロープの撚り構成は、それぞれ1×8、1×9、1×10、1×19である。又、他の実施例として図示しないが、1×3、1×12等である。
そして、芯材と側材の金属素線の素線直径は、いずれも0.008mmから0.200mmとし、芯材と側材とは同一素線直径の金属素線を撚合構成して用いてもよい。尚、前記実施例D〜F、及び撚り構成1×7の他の実施例の芯材と側材の素線直径(線径)、及び線径比(芯材/側材)を整理すると、表6となる。
【0047】
【表6】

【0048】
表6によれば、例えば実施例F(図示(D))は、撚り構成1×10で、芯材は線径が0.18mmの金属素線1本と、側材は線径が0.085mmの金属素線9本からなり、線径比は2.12である。同様に、撚り構成1×7の他の実施例において、芯材は線径が0.122mm、側材の線径は0.114mmで線径比は1.07である。
そして、前記各実施例で示すように、芯材の線径は側材の線径よりも1.07倍から2.12倍の太径線を用いている。芯材も側材も同一線径を用いてもよいが、芯材に太径線を用いる理由は、操作用ロープ20に引張力を加えたとき、芯材1本に加わる引張力の負荷は、数本から成る側材よりもその構造差(側材はスパイラル状で伸び易い構造に対して、芯材はストレート状で直接引張力の負荷が加わり易い構造)から増大する。この為、芯材に太径線を用いて横断面積を増大させて芯材へ加わる引張応力を軽減させて、その結果芯材の早期破断を防いで、ロープとしての引張破断力を向上させる為である。
そして芯材と側材とが同一線径の線径比1.0を下回れば、芯材へ加わる引張力の負荷は増大して芯材の早期破断によるロープの引張破断力を低下させる。又、前記上限値(線径比2.12)を上回れば、芯材の剛性が増大して、耐繰り返し曲げ疲労特性が劣ってくる。尚補足すれば、前記実施例A〜Cの線径比は、1.18である。
従って、線径比(芯材/側材)は、1.0倍から2.12倍が好ましく、より好ましくは1.07倍から2.12倍で、さらに好ましくは、1.18倍から2.12倍である。
【0049】
そして次に、操作用ロープ20の他の実施例としてストランドロープについて説明する。
ここでいうストランドロープとは、3本以上のストランドを撚り合わせたロープのことをいい、(m×n)の呼び名とし、mはストランドの総数、nはストランド内の金属素線の本数を示す。例えば、他のストランドロープの実施例として、前記実施例Aのスパイラルロープの撚り構成1×7を用いて、ストランドの総数が7束のときは、7×7(図示(F))、同様にスパイラルロープの実施例Dの撚り構成1×8を用いて、ストランドの総数が7束のときは7×8(図示せず)となる。
本発明の操作用ロープ20の実施例については、前記スパイラルロープ、及びストランドロープの双方を含み、使用する金属素線は前記各実施例A〜Cと同様である。
そしてスパイラルロープは、医療用処置具の体内挿入時、屈曲蛇行が比較的少なく、高い引張力を要する場合に用いられ、特に押し操作力、及び回転操作力が要求される場合に好適である。これに対してストランドロープは、屈曲蛇行が多くて軽い操作力で、かつ耐曲げ応力を要する場合に用いられ、特に耐繰り返し曲げ疲労特性が要求される場合に好適である。いずれを選択するかは、屈曲蛇行の程度と要求される操作性との関係で決定される。
【0050】
そして補足すれば、操作用ロープ20は、芯材、及び側材を一定の撚りピッチで撚合構成した後に短時間低温熱処理(380℃から550℃で2秒から10秒)を加えた後、又は撚合構成した後に公知の曲げと捩りの歪を与えるスピナー矯正機、又はローラーレベラー式矯正機等により矯正加工した後に短時間低温熱処理(380℃から550℃で2秒から10秒)を加えた後に、前記接合部材21を用いて接合せても一定の効果を得ることができる。
そして前記工法を用いることにより、操作用ロープの直線性を向上させることができ、医療用処置具の操作性をより向上させることがでる。この理由は、撚合加工後、又は矯正加工後の前記短時間低温熱処理により、操作用ロープに局部的に発生した集中応力を平均化させることによる、と考えることができる。
【0051】
そして、この固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて強加工の伸線加工をして引張破断強度特性を向上させた芯材と側材を撚合構成した操作用ロープ20との接合部材21は、操作用ロープ20の引張破断強度向上効果が顕著にみられる温度範囲と同じ温度範囲の、180℃から495℃の溶融温度をもつ共晶合金、又は操作用ロープの金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには180℃から525℃の溶融温度をもつ共晶合金を用いる。
これにより共晶合金の溶融熱を利用して引張破断強度を向上させながら接合することが可能となる。尚、接合部材21の溶融温度が180℃から495℃、又は180℃から525℃としたのは、この範囲であれば溶融熱を利用して操作用ロープの引張破断強度を向上させて、湾曲駒18と操作用ロープ20との強固接合が可能となるからである。
【0052】
そして、接合部材21の溶融熱により先端ロープ受けの連結部材22aとの接合部の操作用ロープ20の先端部20aの引張破断強度は増大し、この引張破断強度増大に伴い引張応力は増大し、その結果接合部での操作用ロープの耐繰り返し曲げ疲労特性は向上する。
このことにより、術者の手技中での操作用ロープ20の先端部20aの接合部へ加わる繰り返し曲げ疲労により、操作用ロープ20と先端ロープ受けの連結部材22aとが離脱する危険は生じない。尚、補足すれば、溶融温度が605℃から800℃の銀ろう、溶融温度が895℃から1030℃金ろうを用いた場合には、前述したように芯材、又は側材の鋭敏化現象による脆化、又は、なまし状態となって大幅に引張破断強度が低下し、そして引張破断強度及び曲げ応力の低下に伴い、操作用ロープ20の先端部20aが先端ロープ受けの連結部材22aからの脱落の危険が増大し、湾曲操作ノブ3の操作不能を生じ、医療用内視鏡が操作不能に陥る恐れがある。
そして、溶融温度が約880℃の金74.5重量%から75.5重量%、銀12重量%から13重量%、その他亜鉛、鉄、鉛等0.15重量%以下の金ろうを用いた場合、又溶融温度が780℃の銀72重量%、銅28重量%の銀ろうを用いた場合にも、前記同様の問題が発生し易い。
【0053】
そして次に、操作用ロープ20の先端部20aの部分には、先端ロープ受けの連結部材22aの長手方向の長さに添って所定長、例えば先端ロープ受けの連結部材22aの長手方向の長さが2mmであれば、2mmから100mm程度電解研磨を施すことが望ましい。又は、紙やすり等により研磨してもよい。
そして、操作用ロープ20の先端部20aを、接合部材21の共晶合金を溶融する前に研磨する理由は、特に強加工における伸線加工(総減面率90%以上)した金属素線を用いて撚合構成した操作用ロープは、その接合部材21との濡れ性が極端に悪くなり、これを防ぐ為に電解研磨等を用いて酸化皮膜を除去して濡れ性を向上させ、接合部材21による接合性を向上させる為である。又、予め全長にわたって電解研磨等を施した操作用ロープ20を用いてもよい。尚、補足すれば、前記操作用ロープの接合部材21との濡れ性が極端に悪くなる理由は、強加工の伸線加工の加工度増大に伴って現われる金属素線表層部の繊維状組織の発達、及び酸化被膜の形成によるものと考えることができる。
【0054】
そして又、操作用ロープ20の先端部20aの部分には、先端ロープ受けの連結部材22aの長手方向の長さに添って所定長、例えば先端ロープ受けの連結部材22aの長手方向の長さが2mmであれば、1mmから10mm程度めっき処理、又は接合部材211を芯材と側材との線間間隙に含浸、及び側材の外周に固着させて、その後接合部材21を溶融固着させてもよい。かかる場合、めっき処理に用いる材料は、前記接合部材21の共晶合金と同一の組成成分を含む材料を用いることが望ましく、例えば接合部材21に金、又は銀を含む成分が含まれていれば、めっき処理する材料は、金めっき、又は銀めっきが望ましい。
そして操作用ロープ20の先端部20aの部分に予め含浸・固着させてもよく、かかる場合に用いる接合部材211は、接合部材21と同一又は同種の共晶合金が望ましい。尚、ここでいう同種の共晶合金である接合部材とは、一つ、又は二つの同一の組成成分を合計した重量%が全体の50重量%以上のものをいい、例えば表1で符号A1とA2は同種で、又はA1とB1とは異種である。
【0055】
この構造により、以下に述べる特有の作用効果がある。つまり、操作用ロープ20の先端部20aと先端のロープ受けの連結部材22aとの接合を強固にさせ、又接合部材211と接合部材21との接合部での溶融一体化固着により、接合強度を大幅に向上させることができる。
そして、操作用ロープ20の先端部20aをめっき処理、又は接合部材211を予め含浸・固着する理由は、前記強加工の伸線加工により濡れ性が極端に悪化した操作用ロープ20の接合部材21との濡れ性を向上させて強固結合を可能とする為である。尚、予め接合部材211を溶融固着した場合には、先端ロープ受けの連結部材22aに貫挿後、溶融固着した接合部材211にレーザー光を照射させて接合部材211を再溶融させて先端ロープ受けの連結部材22aと接合させてもよい。かかる場合、接合部材211は、操作用ロープ20の先端部20aの表面に撚合構成の撚り線の谷間が目視できない程度に厚く形成する必要があり、又本発明の操作用ロープ20の各実施例で用いる接合部材21と同一、又は同種の共晶合金を用いることが望ましい。これにより、接合工程での先端ロープ受けの連結部材22aと操作用ロープ20の先端部20aとの接合の組付作業を簡略化することができる。
【0056】
そして次に、操作用ロープ20の先端ロープ受けの連結部材22aの構造は、先端湾曲駒18aの内周側先端部へ短小管体の管体ロープ受けの連結部材221を用いて固着させ、操作用ロープ20の先端部20aを貫挿させた後、接合部材21を用いて接合させてもよい。かかる場合、先端湾曲駒18aの先端ロープ受けの連結部材22a、又は管体ロープ受けの連結部材221は、操作用ロープ20と同一、又は同種の材料から形成されることが接合強度向上の観点からより望ましい。ここで同種材料とは、JIS表示でいう鋼種記号のいずれかを問わず(オーステナイト系SUS304かマルテンサイト系SUS403のいずれかを問わず)、前置記号が同一鋼材であれば同種材料のことをいう。従って、ステンレス鋼材とアルミニウム鋼材とは異種材料である。最も好ましいのは、同一材料である。
【0057】
そして次に、本発明の医療用処置具の他の実施例2〜7について以下説明する。
【0058】
図8は、本発明の医療内視鏡用処置具である実施例2の医療内視鏡用高周波スネア13Aを示し、図示(A)は先端処置部17を示し、手元操作部2と連結している操作用ロープ20の先端部には、管体ロープ受けの連結部材221が処置用ループ17Aと操作用ロープ20の先端部を管体内、又は管体端部で接合部材21を用いて接合されている。
図示(B)は手元操作部2を示し、手元操作部2はガイド溝2Dと指かけリング2Cを備えた操作部本体2Aと高周波発生装置(図示せず)に接続する端子30を有する平板状の連結部材222を備えたスライダー2Bから構成され、連結部材222は操作用ロープ20の手元端を挿入する穴部32を有して、前記穴部32に操作用ロープ20の手元部を挿入し、穴部32に接合部材21を用いて操作用ロープ20と接合している。尚、操作用ロープ20の手元部の外側には、座屈防止の為補強パイプ2Eが設けられ、スライダー2Bと連結している。尚、図示(C)(D)は、先端処置部17の操作用ロープ20と連結部材221との一部拡大図を示し、又図示(E)(F)は、手元操作部2の操作用ロープ20と連結部材222との一部拡大図を示す。
【0059】
そしてスライダー2Bをガイド溝2Dに沿って前後方向(図示左右方向)へ移動させることにより、スライダー2Bに連結されている操作用ロープ20に操作力が加わり、処置用ループ17Aをフッ素樹脂等の絶縁材料から成るシース241内へ収納(スライダー2Bを図示右側へ移動)、又はシース241の外へ出して拡張させ(スライダー2Bを図示左側へ移動)、処置用ループ17Aで患部を補足し、端子30に高周波装置と接続して端子30から連結部材222、操作用ロープ20、連結部材221、処置用ループ17Aへ通電させて患部を切除、及び止血等の処置を図っている。
【0060】
そして、操作用ロープ20と連結部材221、222とは、接合部材21を用いて連結部材221、222の内部、又は端部とで接合している。
かかる構成において、本発明の操作用ロープ20は、固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて強加工の伸線加工した金属素線を撚合構成して成り、強加工した金属素線、及び撚合構成したロープの引張破断強度を向上させる一定温度範囲と合致した溶融温度もつ接合部材21を用いることにより、接合部材21を単に固着手段として用いるのではなく、接合部の操作用ロープ20の引張破断力を向上させながら、かつ接合部の接合強度を向上させることができる。
【0061】
そして補足すれば、強加工の伸線加工による接合部材21の濡れ性の低下を、操作用ロープの少なくとも接合部に電解研磨等の処理を施すことによる接合性の向上、及び連結部材221、222にステンレス鋼材を用いて操作用ロープとの同一、又は同種材料を用いることにより相互間の熱膨張差を少なくし、かつ、接合部材との濡れ性を均等化して接合部材との強固な接合性の向上を図ることができる。尚、医療内視鏡用スネア13(実施例3)との差は、主に高周波装置に接合する端子30の有無、及び絶縁性の有無(例えばシース241の材料等)等である。
【0062】
図9は、本発明の医療内視鏡用処置具である実施例4の医療内視鏡用鉗子14を示し、図示(A)は先端処置部17を示し、手元操作部2と連結している操作用ロープ20の先端部には、一対の鉗子カップをパンタグラフ機構から成る生検鉗子17Bと連結する先端側が偏平状で連結ピンの穴部221Z(図示(C))を有し、手元側が略円筒状の連結部材221Aが、操作用ロープ20の先端部と略円筒状の円筒内、又は円筒端部で接合部材21を用いて接合されている。図示(B)は、手元操作部2を示し、手元操作部2はガイド溝2Dと指かけリング2Cを備えた操作部本体2Aと、操作用ロープ20の手元部と連結する略円筒状の連結部材222Aを備えたスラーダー2Bから構成され、略円筒状の連結部材222Aは、操作用ロープ20の手元部と略円筒状の円筒内、又は円筒端部で接合部材21を用いて接合されている。尚、操作用ロープ20の手元部の外側には、座屈防止の為補強パイプ2Eが設けられ、スライダー2Bと連結している。尚、図示(C)(D)は、先端処置部17の操作用ロープ20と連結部材221Aとの一部拡大図を示し、又図示(E)(F)は、手元操作部2の操作用ロープ20と連結部材222Aとの一部拡大図を示す。
【0063】
そしてスライダー2Bをガイド溝2Dに沿って前後方向(図示左右方向)へ移動させることにより、スライダー2Bに連結されている操作用ロープ20に操作力が加わり、生検鉗子17Bの鉗子カップを開(スライダー2Bを図示左側へ移動)閉(スライダー2Bを図示右側へ移動)させ、患部を補足し、切除等の処置を図っている。尚、医療内視鏡用鉗子14(実施例4)と、高周波通電による医療用処置具である医療内視鏡用ホットバイオプシー鉗子14A(実施例5)との差は、前記実施例2と3と同様に、主に高周波装置に接合する端子30の有無、及び絶縁性の有無(例えばシース241、242の材料等)等で、実施例5の場合に前記実施例2と同様な端子30をスライダー2B内の連結部材222Aに端子を接続する構造等である。(図8(E)(F)参照)
【0064】
この構成により、実施例4〜5は、前記実施例1〜3と同様に強加工の伸線加工による高強度の引張破断強度特性を有する金属素線を撚合構成した操作用ロープ20を得て、そして接合部材21の溶融熱を利用して接合部の操作用ロープ20の引張破断力を向上させて接合することができ、さらに金、又は銀成分を含む接合部材の高電導特性と併せて、高度の操作性を有する医療内視鏡用処置具の提供ができる。
【0065】
次に図10は、本発明の医療内視鏡用処置具である実施例6の医療内視鏡用クリップ装置15を示し、先端処置部17のクリップ17Cを導入管33内へ収納させた状態で体内へ挿入し、その後手元操作部2のスライダー部2Bをガイド溝2Dに沿って図示右方向へ移動させることにより、スライダー2B内の連結部材222Bと接合部材21により接合されている操作用ロープ20に操作力が加わり、操作用ロープの先端部と接合部材21により接合されているフック状の連結部材221Bへ力が伝わり、フック状の連結部材221Bからクリップ17Cが外れて離脱し、患部を補足して血管を閉じて止血処置を図っている。尚、図(C)は、クリップ17Cによる血管34のクリップ状態を示す縦断面図である。
【0066】
そして次に図11は、本発明の医療内視鏡用処置具である実施例7の医療内視鏡用高周波ナイフ16を示し、先端処置部17のナイフ部17Dを体内へ挿入して患部へ近づけた後、手元操作部2のスライダー部2Bをガイド溝2Dに沿って図示左方向へ移動させることにより、スライダー2B内の高周波装置と接続できる端子30を有する連結部材222Cと接合部材21により接合されている操作用ロープ20に操作力が加わる。
そして操作用ロープ20の先端部と接合部材21により接合している略円筒状連結部材221Cへ力が加わり、連結部材221Cの先端側と連結している棒状電極部172Dと平板状電極部171Dとから成るナイフ部17Dの平板状電極部171Dを患部へ接触させて生体組織を焼灼切開の処置を図っている。尚、前記実施例7の医療用処置具は、シリンジ31より生理食塩水をシース243の内部空間243Aへ通過させて先端処置部17より噴出させ、出血部分を明確にさせる機能を備えている。
そして、実施例6、7において、接合部材21を用いて操作用ロープ20と連結部材221B、222B、221C、222Cとの接合法は前記実施例1〜5と同様である。
【0067】
この構成により、実施例6、7は、前記実施例1〜5と同様に強加工の伸線加工による高強度の引張破断強度特性を有する金属素線を撚合構成した操作用ロープ20を得て、そして接合部材21の溶融熱を利用して接合部の操作用ロープ20の引張破断力を向上させて接合することができ、さらに金、又は銀成分を含む接合部材の高電導特性と併せて、高度の操作性を有する医療内視鏡用処置具の提供ができる。
【0068】
そして生理食塩水を用いた医療用処置具においては、銀成分を含む接合部材を用いたとき、生理食塩水との接触により硫化銀等が形成されて黒色化が始まり、時間の経過とともに黒色化がさらに進んで腐食が進行して接合強度が低下する。この為、腐食進行による接合強度低下防止、及び黒色化防止の観点から金系共晶合金の接合部材21を用いることが、より望ましい接合形態である。このことは、医療用内視鏡のチャンネルチューブ等の内孔から生理食塩水を通過させて先端部の対物レンズの洗浄、又病変部の把握明確化等の為に病変部へ生理食塩水を噴射させる場合にも同様の問題が発生し、医療用内視鏡、及び医療内視鏡用処置具に共通する技術課題である。前記方法により、この技術課題を解消することができる。
【0069】
そしてさらに補足すれば、特に実施例6、7において、手元操作部の押し操作、及び回転操作により先端処置部17のクリップ17C、又はナイフ部17Dを所望の患部位置へコントロールし易い操作用ロープ20は、ストランドロープよりもスパイラルロープが望ましく、さらに望ましいのはスパイラルロープのうち前記したように側材よりも芯材のほうが一定の範囲の太径線を用いた態様である。
この理由は、手元操作部の押し操作、及び回転操作は操作用ロープの、特にストレート状の芯材の特性に大きく影響され、例えば押し操作の場合には、耐座屈荷重は断面二次モーメントに比例し、芯材の素線直径の太いものほどこの値は大きくなって耐座屈荷重は向上し、押し操作力は向上する。又、回転操作の場合には、捩り抵抗モーメントは断面二次極モーメントに比例し、素線直径の太いものほどこの値は大きくなり、その結果先端部への回転伝達性能を向上させることができるからである。
【0070】
そして次に、本発明の医療用処置具の製造方法について以下に説明する。
可とう性管体に貫挿した操作用ロープの先端処置部の連結部材、又は手元操作部の連結部材と、前記操作用ロープとを接合部材を用いて接合し、前記手元操作部を押し、引き、又は回転操作して前記操作用ロープの操作力の伝達作用により、前記先端処置部を動作させる医療用処置具の製造方法において、前記操作用ロープは、固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて総減面率が90%から99.5%の伸線加工した金属素線を複数本用いて撚合構成したロープから成る工程と、前記撚合構成したロープを電解研磨した後に所定長切断する工程と、又は前記撚合構成したロープを所定長切断した後に電解研磨する工程と、その後切断した前記操作用ロープの先端部を前記先端処置部の連結部材の穴部へ挿入する工程と、又はその後切断した前記操作用ロープの手元部を前記手元操作部の連結部材の穴部へ挿入する工程と、前記連結部材内へ挿入した前記操作用ロープとの接合部に、180℃から1 495℃の溶融温度をもつ共晶合金から成る前記接合部材を溶融させ、又は前記操作用ロープの金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、180℃から525℃の溶融温度をもつ共晶合金からなる前記接合部材を溶融させ、前記連結部材と前記操作用ロープとを前記接合部材を用いて接合する工程から成ることを特徴とする医療用処置具の製造方法である。
この構成により、強加工の伸線加工した金属素線を複数本用いて撚合構成して操作用ロープを形成し、又強加工伸線による接合部材との濡れ性を向上させ、かつ連結部材との接合において、オーステナイト系ステンレス鋼線の強加工と低温熱処理の引張破断強度との相関性に着目して、強加工伸線による高度の引張破断強度を有する操作用ロープの引張破断強度を接合時の接合部材の溶融熱を利用して、より引張破断強度を向上させて接合できる、新たな技術思想から成る医療用処置具の製造ができる。
【0071】
そして又、可とう性管体に貫挿した操作用ロープの先端処置部の連結部材、又は手元操作部の連結部材と、前記操作用ロープとを接合部材を用いて接合し、前記手元操作部を押し、引き、又は回転操作して前記操作用ロープの操作力の伝達作用により、前記先端処置部を動作させる医療用処置具の製造方法において、前記操作用ロープは、固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて総減面率が90%から99.5%の伸線加工した金属素線を複数本用いて撚合構成したロープから成る工程と、前記撚合構成したロープを電解研磨した後に所定長切断する工程と、又は前記撚合構成したロープを所定長切断した後に電解研磨する工程と、その後切断した前記操作用ロープの先端部を前記先端処置部のステンレス鋼材から成る連結部材の穴部へ挿入する工程と、又はその後切断した前記操作用ロープの手元部を前記手元操作部のステンレス鋼材から成る連結部材の穴部へ挿入する工程と、前記連結部材内へ挿入した前記操作用ロープとの接合部に180℃から495℃の溶融温度をもつ共晶合金から成る前記接合部材を溶融させ、又は前記操作用ロープの金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、180℃から525℃の溶融温度をもつ共晶合金からなる前記接合部材を溶融させ、同一、又は同種の材料から成る前記連結部材と前記操作用ロープとを、前記接合部材により接合する工程からなることを特徴とする医療用処置具の製造方法である。
この構成により、操作用ロープと連結部材との接合において、オーステナイト系ステンレス鋼線の強加工伸線と低温熱処理の引張破断強度との相関性に着目して、強加工伸線による高度の引張破断強度を有する操作用ロープの引張破断強度を、接合時の接合部材の溶融熱を利用して、より引張破断強度を向上させ、さらに操作用ロープと連結部材とが同一、又は同種材料を用いることにより、相互間の熱膨張差を少なくし、かつ操作用ロープと接合部材との濡れ性、及び連結部材と接合部材との濡れ性を接合面で概ね均一にさせることにより、又接合部の部材間の接合力を均一にさせることにより、より高い接合部の接合強度を得ることができる。
【0072】
そして又、前記医療用処置具の製造方法の連結部材と操作用ロープとを接合する工程が、真空環境下、又は不活性ガス環境下における接合工程から成ることがより望ましい。
この理由は、医療用処置具のオートクレープ滅菌後であっても、フラックス残留に起因する高強度を有する操作用ロープの引張破断強度の低下を防いで接合させることができるからである。
【0073】
次に図1、2を用いて医療用処置具である処置具孔10を有する医療用内視鏡1と、前記実施例2〜7の医療内視鏡用処置具との組立体について説明する。
前記組立体は、先端処置部17が湾曲駒18を複数個連結し、先端側の前記湾曲駒18aと前記操作用ロープ20の先端部とを前記接合部材21、211を用いて接合した湾曲部6から成り、手元操作部2を操作して前記操作用ロープ20の操作力の伝達作用により、前記湾曲部6を湾曲変形させ、かつ前記手元操作部2に処置具孔10を有する請求項1〜4のいずれか一つに記載の医療用処置具である医療用内視鏡1と、前記実施例2〜7の医療内視鏡用処置具1を前記処置具孔10より出入りさせて病変部治療を行うことを特徴とする医療用内視鏡1と、医療内視鏡用処置具との組立体である。
この構成により、操作用ロープの引張破断強度不足、及び接合部での引張破断強度不足に起因する医療用内視鏡、及び医療内視鏡用処置具の操作不能状態での手技の中断を防ぎ、高度の操作性を有しながら、円滑、かつ迅速な病変部の多様な手技対応ができる組立体の提供ができる。そして補足すれば、操作用ロープに、芯材が側材よりも一定範囲の径大の金属素線を用いることによる医療内視鏡用処置具の押し操作性、及び回転操作の操作性のより向上、又高周波通電させて患部を処置する高通電特性を有する接合部材の使用による通電特性の向上、さらに補足すれば、対物レンズの洗浄、又は病変部の正確認識等の為、医療用内視鏡のチャンネルチューブ等、又は医療内視鏡用処置具のシース内の内孔から生理食塩水を通過させることによる接合部での黒色化防止の為の金成分を含む接合部材の選択使用等により高度の操作性を有する組立体の提供ができる。
【0074】
[発明の効果]
以上説明のとおり、本発明の医療用処置具は、強加工の伸線加工した引張破断強度の高い金属素線を複数本用いて撚合構成し、引張破断力の高い操作用ロープを備え、そして強加工伸線により引張破断強度が向上する温度範囲と一致させた溶融温度範囲をもつ接合部材である共晶合金の溶融熱を利用して、前記操作用ロープの引張破断力をより向上させながら、連結部材との強固な接合を可能とするものである。
【0075】
そして又、処置具孔を備えた本発明の医療用内視鏡を用いて、処置具孔より各医療内視鏡用処置具を出入りさせ、病変部の状況に対応した治療を行う為の術者へ高度の操作性を有する医療用処置具の組立体の提供ができ、迅速治療に大きく寄与することができる。以上の諸効果がある。
【符号の説明】
【0076】
1 医療用内視鏡
2 操作部
3 湾曲操作ノブ
4 挿入部
5 可とう管部
6 湾曲部
7 先端構成部
10 処置具孔
13 医療内視鏡用スネア
13A 医療内視鏡用高周波スネア
14 医療内視鏡用鉗子
14A 医療内視鏡用ホットバイオプシー鉗子
15 医療内視鏡用クリップ装置
16 医療内視鏡用高周波ナイフ
18 湾曲駒
20 操作用ロープ
20a 操作用ロープの先端部
21 接合部材
22 ロープ受け
22a 先端ロープ受けの連結部材
221 管体ロープ受けの連結部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可とう性管体に貫挿した操作用ロープの先端処置部の連結部材、又は手元操作部の連結部材と、前記操作用ロープとを接合部材を用いて接合し、前記手元操作部を押し、引き、又は回転操作して前記操作用ロープの操作力の伝達作用により、前記先端処置部を動作させる医療用処置具において、
前記操作用ロープは、固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて、総減面率が80%から99.5%の伸線加工した金属素線を複数本用いて撚合構成して成り、 前記接合部材は、180℃から495℃の溶融温度をもつ共晶合金から成り、又は前記操作用ロープの金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、180℃から525℃の溶融温度をもつ共晶合金から成り、
前記操作用ロープと前記連結部材とを、前記接合部材を用いて接合して成ることを特徴とする医療用処置具。
【請求項2】
前記操作用ロープの金属素線は、固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて、総減面率が90%から99.5%の伸線加工して成り、
前記連結部材と接合する前記操作用ロープの少なくとも先端処置具の接合部、又は手元操作部の接合部に電解研磨処理、又は前記接合部材と同一の組成成分を含むめっき処理を施したことを特徴とする請求項1に記載の医療用処置具。
【請求項3】
前記操作用ロープは、素線直径が0.008mmから0.200mmの金属素線を芯材と側材に用いて、前記芯材の外周に側材を6本から9本を一方向螺旋状に巻回成形する撚合構成のスパイラルロープから成り、
前記芯材の素線直径が前記側材の素線直径の1.07倍から2.12倍とし、
前記操作用ロープから成ることを特徴とする請求項1〜2のいずれか一つに記載の医療用処置具。
【請求項4】
前記接合部材である共晶合金が、金、又は銀のいずれかを含む組成から成り、溶融温度が217℃から525℃であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の医療用処置具。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一つに記載の医療用処置具が、
前記手元操作部を押し、引き、又は回転操作して前記操作用ロープの操作力の伝達作用により、前記先端処置部の処置用ループを拡縮させ、又は拡縮させた後、前記操作用ロープ、及び前記先端処置部に高周波電流を通電させて患部を切除する医療内視鏡用処置具の医療内視鏡用スネア、又は医療内視鏡用高周波スネアであることを特徴とする医療用処置具。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一つに記載の医療用処置具が、
前記手元操作部を押し、引き、又は回転操作して前記操作用ロープの操作力の伝達作用により、前記先端処置部の生検鉗子の鉗子カップを開閉させて生体組織を採取し、
又は前記鉗子カップを開閉させた後、前記操作用ロープ、及び前記鉗子カップに高周波電流を通電させて患部を切除する医療内視鏡用処置具の医療内視鏡用鉗子、又は医療内視鏡用ホットバイオプシー鉗子であることを特徴とする医療用処置具。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか一つに記載の医療用処置具が、
前記手元操作部を押し、引き、又は回転操作して前記操作用ロープの操作力の伝達作用により、前記先端処置部のクリップを離脱させて体内留置する医療内視鏡用処置具の医療内視鏡用クリップ装置であることを特徴とする医療用処置具。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか一つに記載の医療用処置具が、
前記手元操作部を押し、引き、又は回転操作して前記操作用ロープの操作力の伝達作用により、前記先端処置部のナイフ部を所望の位置へ案内しながら前記操作用ロープ、及び前記ナイフ部へ高周波電流を通電させて患部生体組織を焼灼切開する医療内視鏡用処置具の医療内視鏡用高周波ナイフであることを特徴とする医療用処置具。
【請求項9】
可とう性管体に貫挿した操作用ロープの先端処置部の連結部材、又は手元操作部の連結部材と、前記操作用ロープとを接合部材を用いて接合し、前記手元操作部を押し、引き、又は回転操作して前記操作用ロープの操作力の伝達作用により、前記先端処置部を動作させる医療用処置具の製造方法において、
前記操作用ロープは、固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて総減面率が90%から99.5%の伸線加工した金属素線を複数本用いて撚合構成したロープから成る工程と、
前記撚合構成したロープを電解研磨した後に所定長切断する工程と、
又は前記撚合構成したロープを所定長切断した後に電解研磨する工程と、
その後切断した前記操作用ロープの先端部を前記先端処置部の連結部材の穴部へ挿入する工程と、又はその後切断した前記操作用ロープの手元部を前記手元操作部の連結部材の穴部へ挿入する工程と、
前記連結部材内へ挿入した前記操作用ロープとの接合部に、180℃から495℃の溶融温度をもつ共晶合金から成る前記接合部材を溶融させ、又は前記操作用ロープの金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、180℃から525℃の溶融温度をもつ共晶合金からなる前記接合部材を溶融させ、
前記連結部材と前記操作用ロープとを前記接合部材を用いて接合する工程から成ることを特徴とする医療用処置具の製造方法。
【請求項10】
可とう性管体に貫挿した操作用ロープの先端処置部の連結部材、又は手元操作部の連結部材と、前記操作用ロープとを接合部材を用いて接合し、前記手元操作部を押し、引き、又は回転操作して前記操作用ロープの操作力の伝達作用により、前記先端処置部を動作させる医療用処置具の製造方法において、
前記操作用ロープは、固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて、総減面率が90%から99.5%の伸線加工した金属素線を複数本用いて撚合構成したロープから成る工程と、
前記撚合構成したロープを電解研磨した後に所定長切断する工程と、
又は前記撚合構成したロープを所定長切断した後に電解研磨する工程と、
その後切断した前記操作用ロープの先端部を前記先端処置部のステンレス鋼材から成る連結部材の穴部へ挿入する工程と、
又はその後切断した前記操作用ロープの手元部を前記手元操作部のステンレス鋼材から成る連結部材の穴部へ挿入する工程と、
前記連結部材内へ挿入した前記操作用ロープとの接合部に、180℃から495℃の溶融温度をもつ共晶合金から成る前記接合部材を溶融させ、又は前記操作用ロープの金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、180℃から525℃の溶融温度をもつ共晶合金からなる前記接合部材を溶融させ、
同一、又は同種の材料から成る前記連結部材と前記操作用ロープとを、前記接合部材により接合する工程からなることを特徴とする医療用処置具の製造方法。
【請求項11】
前記先端処置部が、湾曲駒を複数個連結し、先端側の前記湾曲駒と前記操作用ロープの先端部とを前記接合部材を用いて接合した湾曲部から成り、前記手元操作部を操作して前記操作用ロープの操作力の伝達作用により、前記湾曲部を湾曲変形させ、かつ前記手元操作部に処置具孔を有する請求項1〜4のいずれか一つに記載の医療用処置具である医療用内視鏡と、請求項6〜8のいずれか一つに記載の医療内視鏡用処置具を前記処置具孔より出入りさせて病変部治療を行うことを特徴とする医療用内視鏡と医療内視鏡用処置具との組立体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−92284(P2011−92284A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246911(P2009−246911)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(309023704)株式会社パテントストラ (16)
【Fターム(参考)】