説明

半導体ウエハ保護膜形成用シート

【課題】ウエハ上の回路表面を汚す事無く、光学的にオリエンテーションが可能な半導体ウエハ保護膜形成用シートを提供することを目的とする。
【解決手段】半導体ウエハに保護膜を形成するための半導体ウエハ保護膜形成用シートであって、基材フィルム、剥離フィルム、及び、前記基材フィルムと前記剥離フィルムとの間に配置される保護膜形成層を備え、該保護膜形成層は前記基材フィルムの面上に一定間隔で複数形成されており、夫々の保護膜形成層は前記保護膜を形成する対象となる半導体ウエハの直径よりも100μmから5mm小さい直径で、かつ、硬化後の前記保護膜形成層の弾性率が1GPaから20GPaであることを特徴とする半導体ウエハ保護膜形成用シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハをダイシングする際に半導体ウエハ裏面を保護する膜(フィルム)を形成するための、半導体ウエハ保護膜形成用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体チップの実装面積を小さくするために、フリップチップ接続法が用いられている。該接続法では、通常、(1)半導体ウエハの表面に回路及び接続用バンプを形成し、(2)半導体ウエハの裏面を所定の厚さまで研磨し、(3)半導体ウエハをダイシングして半導体チップを得、(4)該チップの回路形成面を基板側に向けて基板に接続した後、(5)半導体チップを保護するために樹脂封止等を行なう、という手順がとられる。
【0003】
ところが、(2)の研磨工程で半導体ウエハ裏面に微小な筋状の傷が形成され、それがダイシング工程やパッケージングの後にクラック発生の原因になることがある。そこで、この様な筋状の傷が研磨工程で生じてもその後の工程に悪影響を及ぼさないように、(2)の研磨工程の後で裏面に保護膜(チップ用保護膜)を形成することが提案され、さらに、このような保護膜を形成するためにシートとして、剥離シートとその剥離面上に形成された保護膜形成層とからなるものが提案されている(特許文献1、特許文献2)。
【0004】
一方、上記ダイシング工程においては、回転刃の振動等によりウエハが損傷する(以下「チッピング」という)ことがあることが知られている。
上記チップ用保護膜には、このようなダイシング工程におけるチッピングの防止も期待されるところである。
【0005】
一般的なチップ用保護膜の形成方法は、1)接着シートよりの剥離フィルムの剥離、2)ウエハ回路裏面へのチップ用保護膜と基材フィルムの貼付、3)ウエハの外周に沿ってのチップ用保護膜と基材フィルムの切断、4)チップ用保護膜からの基材フィルムの剥離、5)チップ用保護膜の硬化、となっている。
【0006】
しかし、3)の工程において、ウエハの外周部へのフィルム切断刃の接触を防ぐために、ウエハ外周よりも大きくフィルム(チップ用保護膜及び基材フィルム)を切断しており、基材フィルム剥離後のチップ用保護膜(硬化済み)のウエハを工程内でハンドリングする際に、ウエハからはみ出した保護膜が脱離して、ウエハの回路面を汚染するという問題があった。またフィルムを切断する場合に単純に円形にしか切断が出来ないために、オリフラやノッチの部分を保護膜形成層が覆ってしまい、ウエハの位置合わせが困難となる問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−280329号公報
【特許文献2】特開2004−260190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、ウエハ上の回路表面を汚す事無く、光学的にオリエンテーションが可能な半導体ウエハ保護膜形成用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、半導体ウエハに保護膜を形成するための半導体ウエハ保護膜形成用シートであって、基材フィルム、剥離フィルム、及び、前記基材フィルムと前記剥離フィルムとの間に配置される保護膜形成層を備え、該保護膜形成層は前記基材フィルムの面上に一定間隔で複数形成されており、夫々の保護膜形成層は前記保護膜を形成する対象となる半導体ウエハの直径よりも100μmから5mm小さい直径で、かつ、硬化後の前記保護膜形成層の弾性率が1GPaから20GPaであることを特徴とする半導体ウエハ保護膜形成用シートを提供する。
【0010】
このような本発明の半導体ウエハ保護膜形成用シートは、その保護膜形成層が半導体ウエハ外径よりも小さい外径、具体的には半導体ウエハの直径よりも100μmから5mm小さい直径で供給されることや、弾性率が1GPaから20GPaであることにより、保護膜形成層硬化後のフィルム片の脱離が無く、フィルム片によるウエハ上の回路面の汚染が発生せず、かつ、チッピングを防止することもできる。また、保護膜形成層が基材フィルムの面上に一定間隔で形成されているので、一定量のフィルムを送ることにより、保護膜形成層の先頭を容易に検知することが可能となる。また、基材フィルム上に複数の保護膜形成層が存在することにより、段取替の手間を省くことができる。
【0011】
また、前記保護膜形成層は、前記対象となる半導体ウエハの平面形状に相似する平面形状を有しており、前記対象となる半導体ウエハの形状に従ってオリフラ又はノッチが形成されていることが好ましい。
【0012】
このように、保護膜形成層が半導体ウエハの平面形状に相似する平面形状を有しており、半導体ウエハの形状に従ってオリフラ又はノッチが形成されていれば、光学認識が容易となる。
【0013】
また、前記保護膜形成層となる保護膜形成用組成物が、少なくとも、
(A)フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂、及び(メタ)アクリル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を100質量部、
(B)エポキシ樹脂を5〜200質量部、
(C)充填剤を100〜600質量部、
(D)エポキシ樹脂硬化触媒を有効量、
含む組成物とすることができる。
【0014】
このような保護膜形成用組成物であれば、安価で容易に、接着性等の保護膜特性に優れる半導体ウエハ保護膜形成用シートを形成することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明の半導体ウエハ保護膜形成用シートは、半導体ウエハ外周よりも小さい外径で供給されるために、保護膜形成層硬化後のフィルム片の脱離が無く、フィルム片によるウエハ上の回路面の汚染が発生しない。また、ある程度の大きさは保たれており、硬化後の弾性率も適度であるため、チッピングを防止することができる。また、保護膜形成層が基材フィルムの面上に一定間隔で複数形成されているので、保護膜形成層の先頭を容易に検知することや、段取替の手間を省くことが可能となる。更に、保護膜形成層を半導体ウエハの平面形状に相似する平面形状とし、特にオリフラやノッチを形成することによって、光学認識が容易で、ウエハの位置合わせも高精度で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の半導体ウエハ保護膜形成用シートの作製方法の一例を示すフロー図である。
【図2】本発明の半導体ウエハ保護膜形成用シートの一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
前述のように、従来の保護膜形成用シートは、保護膜形成層が硬化済のウエハを工程内でハンドリングする際にウエハからはみ出した保護膜が脱離してウエハの回路面を汚染するという問題があった。
【0018】
本発明者らは、鋭意研究検討した結果、保護膜形成層の大きさ及び硬化後の弾性率が上記問題に関係していること、更に、保護膜形成層の大きさ及び硬化後の弾性率を定めることにより、チッピングを防止しつつ、上記問題点も解決できることを知見し、本発明を完成させるに至った。
【0019】
すなわち、本発明の半導体ウエハ保護膜形成用シートは、半導体ウエハに保護膜を形成するための半導体ウエハ保護膜形成用シートであって、基材フィルム、剥離フィルム、及び、前記基材フィルムと前記剥離フィルムとの間に配置される保護膜形成層を備え、該保護膜形成層は前記基材フィルムの面上に一定間隔で複数形成されており、夫々の保護膜形成層は前記保護膜を形成する対象となる半導体ウエハの直径よりも100μmから5mm小さい直径で、かつ、硬化後の前記保護膜形成層の弾性率が1GPaから20GPaであることを特徴とする。
【0020】
このように、本発明の半導体ウエハ保護膜形成用シートにおける保護膜形成層は、対象となるウエハ直径よりも100μmから5mm小さい直径となっており、特に1mmから4mm小さいことが好ましい。
【0021】
ウエハ直径よりも5mmを超えて小さい直径の保護膜形成層は、硬化後の保護膜の脱離に対して効果的ではあるが、保護膜層に覆われないチップの発生や、保護膜層とウエハの段差によりチッピングが発生し易くなり歩留まりが低下する。逆にウエハ直径よりも100μm未満小さい直径の保護膜形成層は、保護膜形成層の貼付精度が確保できないために、ウエハ外周からはみ出す可能性があり、硬化後保護膜の脱離防止に対して効果が期待できない。
【0022】
また、本発明の半導体ウエハ保護膜形成用シートは、硬化後の保護膜形成層の弾性率が1GPaから20GPaであり、好ましくは2GPaから10GPaである。
【0023】
1GPa未満では、柔らかいために硬化後保護膜形成層の脱離が発生しにくくなるが、その保護膜形成層の柔らかさの為にチッピングが発生しやすくなる。20GPaより大きい場合は、チッピングに対しては効果的であるが、端部がもろいために欠けやすく、硬化後保護膜形成層の脱離が発生し易くなる。
【0024】
本発明の半導体ウエハ保護膜形成用シートは、上述の保護膜形成層が、基材フィルムの面上に一定間隔で複数形成されている。
このため、一定量のフィルムを送ることにより、保護膜形成層の先頭を容易に検知することが可能となるとともに、段取替の手間を省くことができ、生産性を向上させることができる。
【0025】
本発明の半導体ウエハ保護膜形成用シートにおける保護膜形成層は、上述のように、直径と硬化後の弾性率を定めるだけでも効果的であるが、保護膜を形成する対象となる半導体ウエハの平面形状に相似する平面形状を有することが好ましく、半導体ウエハにオリフラ又はノッチが形成されている場合には、その形状に従って保護膜形成層にもオリフラ又はノッチが形成されていることが好ましい。
【0026】
このように、保護膜となる保護膜形成層が半導体ウエハの形状に相似したもの、特に半導体ウエハに形成されたオリフラやノッチの形状に従ってオリフラ又はノッチが形成されているものであれば、保護膜の形成が簡単であるとともに光学認識が容易となり、シリコン・チップの生産性を向上させることができ、ひいては半導体装置の製造に有用である。
【0027】
以下、本発明の実施形態について、より具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
〔保護膜形成用組成物〕
初めに、本発明における保護膜形成層となる保護膜形成用組成物について説明する。半導体ウエハ用保護膜の形成に用いられる組成物は、熱硬化性樹脂組成物であれば特に制限されないが、フェノキシ樹脂組成物、ポリイミド樹脂組成物、(メタ)アクリル樹脂組成物、エポキシ樹脂組成物、マレイミド樹脂組成物等が例示される。これらは、通常樹脂100質量部にシリカ、アルミナ等の無機充填剤の充填剤を5〜1500質量部程度含有し、これに更に有効量の硬化触媒及び/又は硬化剤を含むものである。樹脂や充填剤、硬化触媒等は1種単独でも2種以上を併用してもよい。
【0028】
本発明で用いられる特に好ましい熱硬化性樹脂組成物は、少なくとも、
(A)フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂、及び(メタ)アクリル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を100質量部、
(B)エポキシ樹脂を5〜200質量部、
(C)充填剤を100〜600質量部、
(D)エポキシ樹脂硬化触媒を有効量、
含む組成物である。
【0029】
−(A)フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂及び(メタ)アクリル樹脂からなる群より選ばれる樹脂−
・フェノキシ樹脂
フェノキシ樹脂は、エピクロルヒドリンと、ビスフェノールAもしくはビスフェノール樹脂F等のビスフェノール類とから誘導される樹脂である。好ましくは、ポリスチレン換算の重量平均分子量が10,000〜200,000、より好ましくは20,000〜100,000、最も好ましくは30,000〜80,000である。重量平均分子量が前記下限値以上のものは、膜を形成することが容易であり、一方、前記上限値以下のものでは、微細な回路パターンを有する基板表面の凹凸に追従して隙間を埋めるのに十分な柔らかさを得ることが容易となる。
【0030】
フェノキシ樹脂の例としては、商品名PKHC、PKHH、PKHJで市販されているもの(いずれも巴化学社製)、ビスフェノールA及びビスフェノールF混合タイプの商品名エピコート4250、エピコート4275、エピコート1255HX30で市販されているもの(いずれも日本化薬社製)、臭素化エポキシを用いたエピコート5580BPX40(いずれも日本化薬社製)、ビスフェノールAタイプの商品名YP−50、YP−50S、YP−55、YP−70で市販されているもの(いずれも東都化成社製)、商品名JER E1256、E4250、E4275、YX6954BH30、YL7290BH30で市販されているもの(いずれもジャパンエポキシレジン社製)等が挙げられる。これらの中でも、上述した好ましい重量平均分子量を有する点で、JER E1256が好ましく使用される。
フェノキシ樹脂は末端にエポキシ基を有し、これが後述する(B)成分と反応する。
【0031】
これらのフェノキシ樹脂は1種単独でも2種以上の組み合わせでも使用できる。
【0032】
・ポリイミド樹脂
ポリイミド樹脂としては、下記式(1)で表される繰り返し単位を含むものを使用することができる。
【化1】

(式中、Xは芳香族環又は脂肪族環を含む四価の有機基、Yは二価の有機基、qは1〜300の整数である。)
【0033】
前記ポリイミド樹脂は、好ましくは、重量平均分子量が10,000〜200,000、より好ましくは20,000〜100,000、最も好ましくは30,000〜80,000である。重量平均分子量が前記下限値以上であれば、膜を形成することが容易であり、一方、前記上限値以下であれば、微細な回路パターンを有する基板表面の凹凸に追従して隙間を埋めるのに十分な柔らかさを得ることができる。
【0034】
上記ポリイミド樹脂は、下記式(2)で表される繰り返し単位を有するポリアミック酸樹脂を、常法により脱水、閉環することで得ることができる。
【化2】

(式中、X、Y、qは上記の通りである。)
【0035】
上記式(2)で表されるポリアミック酸樹脂は、下記式(3):
【化3】

(式中、Xは上記の通りである。)
で表されるテトラカルボン酸二無水物と、下記式(4):
N−Y−NH (4)
(式中、Yは上記の通りである。)
で表されるジアミンを、常法に従って、ほぼ等モルで、有機溶剤中で反応させることによって得ることができる。
【0036】
ここで、上記式(3)で表されるテトラカルボン酸二無水物の例としては、下記のものが挙げられ、これらは1種単独でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【化4】

【0037】
上記式(4)で表されるジアミンのうち、好ましくは1〜80モル%、更に好ましくは1〜60モル%が、下記式(5)で表されるジアミノシロキサン化合物であることが、有機溶剤への溶解性、基材フィルムに対する接着性、低弾性、柔軟性の点から望ましい。
【化5】

(式中、Rは互いに独立に炭素原子数3〜9の二価の有機基であり、R及びRは、夫々独立に、非置換もしくは置換の炭素原子数1〜8の一価炭化水素基であり、mは1〜200の整数である。)
【0038】
上記Rの炭素原子数3〜9の二価の有機基としては、例えば、−(CH−,−(CH−,−CHCH(CH)−,−(CH−,−(CH−等のアルキレン基、下記式
【化6】

のいずれかで表されるアリーレン基、アルキレン・アリーレン基、−(CH−O−,−(CH−O−等のオキシアルキレン基、下記式
【化7】

のいずれかで表されるオキシアリーレン基、下記式
【化8】

で表されるオキシアルキレン・アリーレン基等の、エーテル結合を含んでもよい二価炭化水素基が挙げられる。
【0039】
及びRで表される非置換もしくは置換の炭素原子数1〜8の一価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基等のアルキル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基、これらの炭化水素基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部がフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子等で置換された基、例えば、クロロメチル基、ブロモエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基等が挙げられ、中でもメチル基及びフェニル基が好ましい。
【0040】
上記式(5)のジアミノシロキサン化合物は、1種単独でも2種以上の組み合わせとしても使用することができる。
【0041】
上記式(5)で表されるジアミノシロキサン化合物以外の上記式(4)で表されるジアミンとしては、例えば、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2’−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(p−アミノフェニルスルホニル)ベンゼン、1,4−ビス(m−アミノフェニルスルホニル)ベンゼン、1,4−ビス(p−アミノフェニルチオエーテル)ベンゼン、1,4−ビス(m−アミノフェニルチオエーテル)ベンゼン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3−メチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3−クロロ−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[3−メチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[3−クロロ−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[3,5−ジメチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[3−メチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[3−クロロ−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[3,5−ジメチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]パーフルオロプロパン等の芳香族環含有ジアミン等が挙げられ、好ましくはp−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3−メチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン等である。
【0042】
好ましくは、ポリイミド樹脂は、保護膜の接着性の点から、フェノール性の水酸基を有する。該フェノール性の水酸基は、ジアミン化合物として、フェノール性水酸基を有するものを用いることにより備えさせることができ、このようなジアミンとしては、例えば、下記式(6)で表される構造のものが挙げられる。
【化9】

[式中、Rは、互いに独立に、水素原子;フッ素、臭素、よう素等のハロゲン原子;又は非置換もしくは置換の炭素原子数1〜8の一価炭化水素基であり、各芳香環に付いている置換基は異なっていてもよく、nは1〜5の整数である。Aは下記のいずれかの基
【化10】

(式中、Rは上記の通りであり、R及びRは夫々独立に水素原子、ハロゲン原子、又は非置換もしくは置換の一価炭化水素基である。)
であり、Bは下記のいずれかの基
【化11】

(式中、Rは上記の通りである。)
である。或いは、A及びBは夫々1種単独でも2種以上の組み合わせでもよい。]
【0043】
上記Rの非置換もしくは置換の炭素原子数1〜8の一価炭化水素基としては、例えば、上記R及びRについて例示したもの、並びにエチニル基、プロピニル基、ブチニル基、ヘキシニル基等のアルキニル基等を挙げることができる。
【0044】
上記のBの代表的な基は、下記の式で表される基である。
【化12】

(式中、Rは上記の通りである。)
【0045】
また、他のフェノール性水酸基を有するジアミンとして、例えば下記式(7)で表されるものが挙げられる。
【化13】

(式中、Rは水素原子、フッ素、臭素、よう素等のハロゲン原子、又は炭素原子数1〜8の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、トリフルオロメチル基、フェニル基等の非置換もしくはハロゲン置換の一価炭化水素基であり、各芳香族環に付いている置換基は異なっていてもよく、Zは単結合、メチレン基、又はプロピレン基である。)
【0046】
上記フェノール性水酸基を有するジアミン化合物の中でも、特に、上記式(6)で表されるもののうち、下記式(8)で表されるジアミン化合物が好ましい。
【化14】

(式中、Rは上記の通りである。)
【0047】
上記フェノール性の水酸基を有するジアミン化合物の配合量としては、ジアミン化合物全体の5〜60質量%、特に10〜40質量%であることが好ましい。配合量がこの範囲内のポリイミドシリコーン樹脂を用いると、接着力が高く、且つ、柔軟な保護膜形成層を形成する半導体ウエハ保護膜形成用シートが得られる。
【0048】
尚、フェノール性水酸基の導入のためにフェノール性水酸基を有するモノアミンを用いることもでき、その例としては下記の構造を有するモノアミンが挙げられる。
【化15】

(式中、Dは、
【化16】

を示し、Rは上記の通りであり、各芳香環に付いているRは同一でも異なっていても構わない。Dは1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。また、pは1〜3の整数である。)
【0049】
フェノール性水酸基を有するモノアミンを用いる場合、この配合量としては、ジアミン化合物全体に対して1〜10モル%である。
【0050】
ポリアミック酸樹脂は、上述の各出発原料を、不活性な雰囲気下で溶媒に溶かし、通常、80℃以下、好ましくは0〜40℃で反応させて合成することができる。得られたポリアミック酸樹脂を、通常、100〜200℃、好ましくは150〜200℃に昇温させることにより、ポリアミック酸樹脂の酸アミド部分を脱水閉環させ、目的とするポリイミド樹脂を合成することができる。
【0051】
上記溶媒としては、得られるポリアミック酸に不活性なものであれば、前記出発原料を完全に溶解できるものでなくともよい。例えば、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、γ−ブチロラクトン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシドが挙げられ、好ましくは非プロトン性極性溶媒、特に好ましくはN−メチルピロリドン、シクロヘキサノン及びγ−ブチロラクトンである。これらの溶媒は、1種単独でも2種以上を組み合わせても用いることができる。
【0052】
上記の脱水閉環を容易にするためには、トルエン、キシレン等の共沸脱水剤を用いるのが望ましい。また、無水酢酸/ピリジン混合溶液を用いて低温で脱水閉環を行うこともできる。
【0053】
尚、ポリアミック酸及びポリイミド樹脂の分子量を調整するために、無水マレイン酸、無水フタル酸等のジカルボン酸無水物及び/又はアニリン、n−ブチルアミン、上記に挙げたフェノール性の水酸基を有するモノアミンをポリアミック酸の合成において添加することもできる。但し、ジカルボン酸無水物の添加量は、テトラカルボン酸二無水物100質量部当り、通常、0〜2質量部であり、モノアミンの添加量は、ジアミン100質量部当り、通常、0〜2質量部である。
【0054】
・(メタ)アクリル樹脂
(メタ)アクリル樹脂としては、たとえば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルモノマー及び(メタ)アクリル酸のその他の誘導体から選ばれる2種以上のモノマーから導かれる(メタ)アクリル酸エステル共重合体が挙げられる。ここで(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、好ましくはアルキル基の炭素原子数が1〜18である(メタ)アクリル酸アルキルエステル、たとえば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル等が用いられる。また、(メタ)アクリル酸のその他の誘導体としては、たとえば(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル等を挙げることができる。
【0055】
メタクリル酸グリシジル等をコモノマーとして共重合することにより(メタ)アクリル樹脂にグリシジル基を導入すると、後述する熱硬化型接着成分としてのエポキシ樹脂との相溶性が向上し、また硬化後の保護膜のガラス転移温度(Tg)が高くなり耐熱性も向上する。また、ヒドロキシエチルアクリレート等でアクリル系ポリマーに水酸基を導入することにより、保護膜の半導体チップへの密着性や粘着物性のコントロールが容易になる。
【0056】
(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量は、100,000以上であることが好ましく、より好ましくは150,000〜1,000,000である。また(メタ)アクリル樹脂のTgは、20℃以下であることが好ましく、より好ましくは−70〜0℃程度であって常温(23℃)においては粘着性を有する。
【0057】
−(B)エポキシ樹脂−
本発明で(B)成分として用いられるエポキシ樹脂は、1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物である。特に、エポキシ当量が50〜5000g/eqであることが好ましく、より好ましくは100〜500g/eqである。
【0058】
前記エポキシ樹脂は、重量平均分子量が通常10,000未満、好ましくは400〜9,000、より好ましくは500〜8,000である。
【0059】
このようなエポキシ樹脂としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、又はこれらのハロゲン化物のジグリシジルエーテル;並びに、これらの化合物の縮重合物(いわゆるビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂等);ブタジエンジエポキシド;ビニルシクロヘキセンジオキシド;レゾルシンのジグリシジルエーテル;1,4−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ベンゼン;4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ジフェニルエーテル;1,4−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)シクロヘキセン;ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート;1,2−ジヒドロキシベンゼン、レゾルシノール等の多価フェノール又は多価アルコールとエピクロルヒドリンとを縮合させて得られるエポキシグリシジルエーテル或いはポリグリシジルエステル;フェノールノボラック、クレゾールノボラック等のノボラック型フェノール樹脂(或いはハロゲン化ノボラック型フェノール樹脂)とエピクロルヒドリンとを縮合させて得られるエポキシノボラック(即ち、ノボラック型エポキシ樹脂);過酸化法によりエポキシ化した、エポキシ化ポリオレフィン、エポキシ化ポリブタジエン;ナフタレン環含有エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;フェノールアラルキル型エポキシ樹脂;ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂;シクロペンタジエン型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0060】
これらの中でも(B)成分として好ましいものは、室温で液状であるビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂である。
【0061】
これらのエポキシ樹脂は1種単独でも2種以上の組み合わせとしても使用することができる。
【0062】
(B)成分のエポキシ樹脂の配合量は、(A)成分の樹脂100質量部に対して5〜200質量部、特に10〜100質量部であることが好ましい。エポキシ樹脂の配合量が5質量部以上であれば保護膜形成層組成物の接着力が劣こともなく、200質量部以下であれば保護膜形成層の柔軟性が不足することもない。
【0063】
−(C)充填剤−
(C)成分の充填剤としては、無機充填剤、例えばシリカ、アルミナ、酸化チタン、カーボンブラック、銀粒子等の導電性粒子を用いることができる。
【0064】
前記(C)成分の充填剤の配合量は、(A)成分100質量部に対して、100〜600質量部、好ましくは100〜400質量部、より好ましくは150〜350質量部である。該配合量が100質量部以上であれば、充填剤の配合目的である低吸水性、低線膨張性等を達成することが困難となることもなく、保護膜形成層の柔らかさの為にチッピングも発生し難くなる。一方、600質量部以下であれば、保護膜形成用組成物の粘度を高め、フィルム基材に塗布する際の流動性が悪くなることもなく、端部がもろいために欠けやすくなるといった問題や、硬化後保護膜形成層が脱離するといった問題が発生し難くなる。
【0065】
尚、シリカは、樹脂成分により濡れ易くなるため、常法に従い表面処理されたシリカを用いてもよい。表面処理剤としては、その汎用性とコストメリット等からシラン系(シランカップリング剤)が好ましい。シランカップリング剤としては、アルコキシシランが好ましく、該アルコキシシランとしては、グリシドキシメチルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、α−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、α−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、α−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、α−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、β−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、β−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、δ−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、δ−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、(3、4−エポキシシクロヘキシル)メチルトリメトキシシラン、(3、4−エポキシシクロヘキシル)メチルトリエトキシシラン、β−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、β−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリプロポキシシラン、β−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリブトキシシラン、β−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリフェノキシシラン、γ−(3、4−エポキシシクロヘキシル)プロピルトリメトキシシラン、γ−(3、4−エポキシシクロヘキシル)プロピルトリエトキシシラン、δ−(3、4−エポキシシクロヘキシル)ブチルトリメトキシシラン、δ−(3、4−エポキシシクロヘキシル)ブチルトリエメトキシシラン等のトリアルコキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、トリメトキシシリルプロピルナジック酸無水物等、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシランが好ましく用いられる。
【0066】
−(D)エポキシ樹脂硬化触媒−
(D)成分であるエポキシ樹脂硬化触媒としては、リン系硬化触媒、アミン系硬化触媒等が例示される。
【0067】
リン系硬化触媒としては、トリフェニルホスフィン、トリフェニルホスホニウムトリフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、及び下記式で示される化合物が挙げられる。
【化17】

(式中、R〜R15は、夫々独立に、水素原子、フッ素、臭素、よう素等のハロゲン原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭素原子数1〜8のアルキル基、ビニル基、アリル基等の炭素原子数2〜8のアルケニル基、プロピニル基、ブチニル基等の炭素原子数2〜8のアルキニル基、フェニル基、トルイル基等の炭素原子数6〜8のアリール基等の一価の非置換の炭化水素基、これらの炭化水素基の水素原子の少なくとも1部がフッ素、臭素、よう素等のハロゲン原子で置換された例えばトリフルオロメチル基等の置換炭化水素基が挙げられ、また、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の炭素原子数1〜8のアルコキシ基で置換された炭化水素基が挙げられる。置換一価炭化水素基においては総ての置換基が同一でも夫々異なっていても構わない。)
【0068】
リン系硬化触媒で特に好ましい具体例は、トリフェニルホスフィン、トリフェニルホスホニウムトリフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート等である。
【0069】
アミン系硬化触媒としては、例えば、ジシアンジアミド、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール等のイミダゾール誘導体等が挙げられる。これらの中で好ましいものは、ジシアンジアミド、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾールである。
【0070】
(D)成分の硬化触媒としては、上述した硬化触媒を1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。特に好ましくはジシアンジアミドが使用される。
【0071】
(D)成分のエポキシ樹脂硬化触媒の配合量は、有効量であり、具体的には、(A)成分の樹脂100質量部当り5〜50質量部である。
【0072】
−その他の任意成分−
本発明で使用する保護膜形成用組成物は、上述した成分に加えて、必要に応じて、その他の成分及び各種の添加剤を含むことができる。その一例を以下に示すが、これらに限定はされない。
【0073】
・モノエポキシ化合物
前記(B)成分のエポキシ樹脂(1分子中に少なくともエポキシ基を2以上有する)の他に、本発明の目的を損なわない量で、モノエポキシ化合物を配合することは差し支えない。例えば、このモノエポキシ化合物としては、スチレンオキシド、シクロヘキセンオキシド、プロピレンオキシド、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、オクチレンオキシド、ドデセンオキシド等が挙げられる。
【0074】
・エポキシ樹脂の硬化剤
硬化剤は必須ではないが、これを添加することにより樹脂マトリックスの制御が可能となり、低線膨張率化、高Tg化、低弾性率化等の効果を期待することができる。
【0075】
この硬化剤としては、従来から知られているエポキシ樹脂用の種々の硬化剤を使用することができる。例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジエチルアミノプロピルアミン、N−アミノエチルピペラジン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、メタキシリレンジアミン、メンタンジアミン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン等のアミン系化合物;エポキシ樹脂−ジエチレントリアミンアダクト、アミン−エチレンオキサイドアダクト、シアノエチル化ポリアミン等の変性脂肪族ポリアミン;ビスフェノールA、トリメチロールアリルオキシフェノール、低重合度のフェノールノボラック樹脂、エポキシ化もしくはブチル化フェノール樹脂、“Super Beckcite”1001[日本ライヒホールド化学工業(株)製]、“Hitanol”4010[(株)日立製作所製]、Scado form L.9(オランダScado Zwoll社製)、Methylon 75108(米国ゼネラルエレクトリック社製)等の商品名で知られている、1分子中に少なくとも2個のフェノール性水酸基を含有するフェノール樹脂;“Beckamine”P.138[日本ライヒホールド化学工業(株)製]、“メラン”[(株)日立製作所製]、“U−Van”10R[東洋高圧工業(株)製]等の商品名で知られている炭素樹脂;メラミン樹脂、アニリン樹脂等のアミノ樹脂;式HS(COCHOCSS)OCHOCSH(上述の記載に関わらず、n=1〜10の整数である)で示されるような、1分子中にメルカプト基を少なくとも2個有するポリスルフィド樹脂;無水フタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水ピロメリット酸、メチルナジック酸、ドデシル無水コハク酸、無水クロレンディック酸等の有機酸もしくはその無水物(酸無水物)等が挙げられる。
【0076】
上記した硬化剤のうちでもフェノール系樹脂(特に、フェノールノボラック樹脂)が、本発明で用いられる保護膜形成用組成物に良好な成形作業性を与えるとともに、優れた耐湿性を与え、また毒性がなく、比較的安価であるので望ましい。
【0077】
上記した硬化剤は、1種単独で用いてもよいが、各硬化剤の硬化性能等に応じて2種以上を併用してもよい。
【0078】
この硬化剤の量は、(A)成分のフェノキシ樹脂等と(B)成分のエポキシ樹脂との反応を妨げない範囲で、その種類に応じて適宜調整される。一般には前記エポキシ樹脂100質量部に対して1〜100質量部、好ましくは5〜50質量部の範囲で使用される。100質量部以下であれば、経済的であるほか、エポキシ樹脂が希釈されて硬化に長時間を要することも、硬化物の物性が低下するという不利が生じることもない。
【0079】
・溶剤
本発明に用いられる保護膜形成用組成物には、必要に応じ、溶剤、例えばシクロヘキサノン、MIBK、MEK等を用いることができ、他の成分を溶解又は分散させて塗布性を高めることができる。
【0080】
・その他の添加剤
本発明に用いられる保護膜形成用組成物には、本発明の効果を損なわない範囲内で、無機系又は有機系の顔料、染料等の着色剤、シランカップリング剤、酸化防止剤、難燃剤、帯電防止剤、熱安定剤等を添加することができる。例えば、顔料、染料等を配合して保護膜を着色しておくと、レーザーマーク等の刻印した場合、視認性や光学機器認識性能が向上する。
【0081】
保護膜形成層は、後述する基材フィルム上に、上記成分を混合して得られる保護膜形成用組成物を、乾燥後の厚みが5〜100μm、好ましくは10〜60μmになるように、グラビアコーター、リバースコーター、ロールコーター、ブレードコーター等公知の方法で施与して得ることができる。
【0082】
〔基材フィルム〕
基材フィルムとしては、耐熱性フィルムが好ましく、耐熱性に優れるものとしては、例えばポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム等が挙げられる。基材フィルムは、剥離性と耐熱性を両立するために、単層だけではなく複層であっても構わない。
【0083】
前記基材フィルムは片面に剥離性を有する必要がある。フッ素樹脂フィルムのように離型処理を施さなくてもそれ自体剥離性を有するものもあるが、一般には、基材フィルムの表面に離型処理を施して剥離性を付与することが好ましい。具体的には剥離剤をコートし剥離剤層を設けることで付与することができる。
【0084】
剥離剤としては、シリコーン樹脂系剥離剤及びアルキド樹脂系剥離剤が好ましく、シリコーン樹脂系剥離剤もアルキド樹脂系剥離剤も従来公知のものを使用することができる。
【0085】
シリコーン樹脂系剥離剤としては、基本骨格としてジメチルポリシロキサンを有する付加反応硬化型が好ましい。また、無官能型の長鎖シリコーンオイルやシリコーン系ゴムを含まないことがより好ましい。
【0086】
アルキド樹脂系剥離剤は、多塩基酸と多価アルコールの縮重合物(アルキド樹脂)を主成分とするものであり、変性剤で変性した熱硬化性アルキド樹脂も含まれる。多塩基酸としては、無水フタル酸、テレフタル酸等の芳香族多塩基酸、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸等の脂肪族多塩基酸等が挙げられる。多価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等の二価アルコール、グリセリン、トリメチロールプロパン等の三価アルコール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール等の多価アルコール等が挙げられる。変性剤としては、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸等が挙げられる。
【0087】
本発明において好ましく用いられる基材フィルムは、剥離剤をコートし剥離剤層を設けたポリエチレンテレフタレートフィルムである。
【0088】
基材フィルムの膜厚は、通常は5〜200μm、好ましくは10〜150μm、特に好ましくは20〜100μm程度である。
【0089】
剥離剤層の乾燥状態での平均厚さは、特に限定されないが、0.01〜10μmであるのが好ましく、0.03〜1μmであるのがより好ましい。特に剥離剤層の平均厚さが前記上限値以下であれば、基材フィルムをロール状に巻き取ったときに、剥離剤層を設けた基材フィルムの表面と、基材フィルムの背面とが接することもなく、両者がブロッキングし難いため、剥離剤層の剥離性能がこのブロッキングにより、低下する恐れもない。
【0090】
〔剥離フィルム〕
剥離フィルムとしては、保護膜形成層に対して密着性と同時に剥離性を有するものが好ましい。密着性と同時に剥離性を有するものとしては、例えば表面に剥離剤層を有さないポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム、ポリオレフィンフィルム、ポリエチレンフィルム等が挙げられる。
尚、剥離フィルムは、剥離性と密着性を両立するために、単層だけではなく複層であっても構わない。
【0091】
種々の保護膜形成層に対して、密着性と剥離性を同時に有するものとして、中でもポリオレフィンフィルムが好ましく用いられる。
【0092】
〔半導体ウエハ保護膜形成用シートの作製方法〕
このような、保護膜形成用組成物、基材フィルム、剥離フィルムを用いて本発明の半導体ウエハ保護膜形成用シートの作製方法の一例を、図1を用いて説明する。
(A)〜(D)成分及びその他所望の成分により調製した保護膜形成用組成物を、基材フィルム1上全面に塗工し、乾燥させて保護膜形成層2を形成する。そして、保護膜形成層2上を剥離フィルム3でカバーする(図1(a))。
【0093】
次に、半導体ウエハの形状に相似した形状になるよう、常法に従い(例えば抜き型裁断機を用いる等)剥離フィルムと保護膜形成層を、剥離フィルムを上面にしてハーフカットを行う(図1(b))。ハーフカットは、例えば10mm間隔で行われ、半導体ウエハにオリフラ又はノッチが形成されている場合には、そのオリフラ又はノッチの形状に従いハーフカットを行えばよい(図2参照)。
【0094】
その後、全ての剥離フィルム3と保護膜形成層2の余剰部分の除去を行う(図1(c))。そして、新たな剥離フィルム3’で保護層形成層2のカバーを行い、半導体保護膜用形成シートが完成する(図1(d))。
【0095】
このように作製した本発明の半導体ウエハ保護膜形成用シートは、より具体的には、例えば以下のようにして使用して半導体チップを製造することができる。
(1)表(おもて)面に回路が形成された半導体ウエハの裏面に、オリフラやノッチの位置合わせを行った後に、基材フィルムと保護膜形成層と剥離フィルムからなる保護膜形成用シートの剥離フィルムを剥して保護膜形成層側を貼付する工程、
(2)基材フィルムを剥した後に、加熱して保護膜を硬化する工程、
(3)半導体ウエハ及び保護膜をダイシングする工程。
【0096】
工程(3)のダイシングは、ダイシングシートを用いて、常法に従い行うことができる。ダイシングにより、裏面に保護膜を有する半導体チップが得られる。該チップを、コレット等の汎用手段によりピックアップして、基板上に配置する。本発明の保護フィルムを用いることによって、チップ切断面に微小な損傷が発生し難くなり、半導体装置を高い歩留まりで製造することができる。
【実施例】
【0097】
以下、実施例及び比較例を示して本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<保護膜形成用組成物の調製>
各実施例及び各比較例において、約50質量部のシクロヘキサンノンに、表1及び表2に示す量の(A)成分を溶解した。得られた溶液と、表1及び表2に示す量の他の成分を混合して、固形分約70質量%の組成物を得た。
【0098】
表1及び表2に示す各成分は以下のとおりである。
・(A)成分
(A−1)フェノキシ樹脂:Mw約60,000、JER E1256(ジャパンエポキシレジン社製)
(A−2)ポリイミド樹脂:後述する合成法で得られたもの。
(A−3)アクリル樹脂:アクリル酸ブチル55質量部、メタクリル酸メチル15質量部、メタクリル酸グリシジル20質量部、及びアクリル酸2−ヒドロキシエチル15質量部の共重合体(重量平均分子量(Mw):90万、ガラス転移温度(Tg):−28℃)
【0099】
・(B)成分
エポキシ樹脂:RE310S(日本化薬社製)、25℃の粘度15Pa.s(ビスフェノールAタイプエポキシ樹脂)
・(C)成分
シリカ:SC2050、平均粒径0.5μm、最大粒径5μm、KBM−403処理品、(株)アドマテックス社製(爆燃法で製造された球状シリカ)
・(D)成分
ジシアンジアミド(DICY−7):ジャパンエポキシレジン社製
【0100】
・・ポリイミド樹脂(A−2)の合成:
還流冷却器を連結したコック付きの25ml水分定量受器、温度計、攪拌器を備えた1リットルのセパラブルフラスコに、ジアミノシロキサン(KF−8010、信越化学社製)49.01質量部、反応溶媒として2−メチルピロリドン100質量部を仕込み、80℃で攪拌し、ジアミンを分散させた。これに酸無水物として6FDA(2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン)42.68質量部と2−メチルピロリドン100質量部との溶液を滴下して室温で2時間攪拌反応を行うことにより、酸無水物リッチのアミック酸オリゴマーを合成した。
【0101】
次に、下記式:
【化18】

で示されるフェノール性水酸基を有するジアミン(HAB、和歌山精化製)8.31質量部と100質量部の2−メチルピロリドンを、還流冷却器が連結されたコック付きの25ml水分定量受器、温度計、攪拌器を備えた1リットルのセパラブルフラスコに仕込み、分散させ、前出の酸無水物リッチのアミック酸オリゴマーを滴下した後、室温で16時間攪拌し、ポリアミック酸溶液を合成した。その後、キシレン25mlを投入してから温度を上げ、約180℃で2時間還流させた。水分定量受器に所定量の水がたまっていること、水の流出が見られなくなっていることを確認し、水分定量受器にたまっている流出液を除去しながら、180℃でキシレンを除去した。反応終了後、大過剰のメタノール中に得られた反応液を滴下し、ポリマーを析出させ、減圧乾燥して、骨格中にフェノール性の水酸基を有するポリイミド樹脂を得た。
【0102】
得られたポリイミド樹脂の赤外吸光スペクトルを測定したところ、未反応の官能基があることを示すポリアミック酸に基づく吸収は現れず、1780cm−1及び1720cm−1にイミド基に基づく吸収を確認し、3500cm−1にフェノール性水酸基に基づく吸収を確認した。得られた樹脂のポリスチレン換算の重量平均分子量は55,000であり、官能基当量は760g/eqであった。
【0103】
<保護膜形成用シートの作製>
表1及び表2のように調製した保護膜形成用組成物を、基材フィルムである剥離処理をしたPETフィルムの剥離剤層側片面にブレードコーターにて2m/分で塗工後、110℃で10分間加熱乾燥して、厚み25μmの保護膜形成層を形成し、基材フィルム上全面に塗工した。そして、保護膜形成層上を剥離フィルムとしてのポリオレフィンフィルムでカバーした。
【0104】
オリフラ又はノッチの形状を有する保護膜形成層は常法に従い、抜き型裁断機にて10mm間隔で剥離フィルムを上面にして、種々の直径で、半導体ウエハと相似形状にハーフカットを行った。その後、全ての剥離フィルムと保護膜の余剰部分の除去を行った。次に新たな剥離フィルムで保護膜形成層のカバーを行い、半導体保護膜用形成シートを完成させた。
尚、比較のために、ウエハ形状にプリカットしていない保護膜形成用シートも作製した(比較例1)。
【0105】
<評価試験>
上記の保護膜形成シートを使用して、次のように評価を行った。実施例の結果を表1に、比較例の結果を表2に示す。
【0106】
・弾性率測定
上で得られた保護膜形成用シートを用い、保護膜形成層を190℃で2時間熱処理し、硬化させた。PETフィルムを剥離して、20mm×5mm×50μmの硬化物に関して動的粘弾性率を測定した。測定には動的粘弾性測定装置を用い、引っ張りモード、チャック間距離10mm、測定温度25℃、測定周波数1Hzの条件でヤング率を測定した。
【0107】
・チッピング試験
上で得られた保護膜形成用シートを用い、保護膜貼り付け装置(テクノビジョン社製 FM−114)を用いて、70℃で、厚み220μmのシリコンウエハ(直径200mmの未研磨ウエハを、ディスコ(株)社製、DAG−810を用いて#2000研磨して、220μm厚としたウエハ)に貼り付けた。その後、貼り付けた保護膜から基材シートを剥離し、190℃/2時間硬化させた後に、前記シリコンウエハを下記条件で10mm×10mm角のチップにダイシングし、得られたチップ8個の顕微鏡断面写真を撮り、断面方向で長さ25μm以上のチッピングの有無を調べた。
【0108】
尚、チッピング試験におけるダイシングは、以下の条件で行った。
ダイシング条件:
使用装置:DISCO ダイサー DAD−341
カット方法:シングル
刃回転数:30000rpm
刃速度:50mm/sec
ダイシングフィルムの厚み:120μm
ダイシングフィルムへの切り込み:30μm
【0109】
・保護膜脱離試験
上で得られた保護膜形成用シートを用い、保護膜貼り付け装置(テクノビジョン社製 FM−114)を用いて、70℃で上述の220μm厚としたウエハに貼り付けた。その後、貼り付けた保護膜から基材シートを剥離し、190℃/2時間硬化させた後に、該シリコンウエハを(株)DISCO社製のダイシング用カセットDTC 2−8Hに挿入した。ウエハを挿入したダイシング用カセットを10分間振とう機にて横方向に振とうさせた後に、外周部の保護膜形成層の形状を確認して、脱離が発生したかを確認した。
【0110】
【表1】

【0111】
【表2】

【0112】
表1に示されるように、実施例1〜10の半導体ウエハ保護膜形成シートは、保護膜の脱離もチッピングの発生もなかった。
一方、表2に示されるように、保護膜形成層の直径が、小さ過ぎる場合(比較例2)又は半導体ウエハ以上の大きさである場合(比較例1、3、6、7、8)や、保護膜形成層の硬化後の弾性率が1GPaから20GPaの範囲内にない場合(比較例4、5)には、保護膜の脱離やチッピングが発生してしまった。
【0113】
また、実施例1〜10では、保護膜形成用シートをウエハに貼付ける際に、光学認識が容易で、精度良くウエハの位置合わせをすることができたが、プリカットを行わなかった比較例1では、オリフラやノッチの部分を保護膜形成層が覆ってしまい、ウエハの位置合わせが困難であった。
【0114】
以上のように、本発明の半導体ウエハ保護膜形成用シートは、保護膜形成層硬化後のフィルム片の脱離が無く、フィルム片によるウエハ上の回路面の汚染が発生せず、かつ、チッピングを防止することもできることがわかった。
【0115】
また特に、実施例2と比較例2、実施例8と比較例8、実施例9と比較例4、実施例10と比較例5の結果の違いから、本発明の「保護膜を形成する対象となる半導体ウエハの直径よりも100μmから5mm小さい直径」であり「硬化後の保護膜形成層の弾性率が1GPaから20GPa」との数値限定に意義があることが実証された。
【0116】
尚、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0117】
1…基材フィルム、 2…保護膜形成層、 3、3’…剥離フィルム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ウエハに保護膜を形成するための半導体ウエハ保護膜形成用シートであって、基材フィルム、剥離フィルム、及び、前記基材フィルムと前記剥離フィルムとの間に配置される保護膜形成層を備え、該保護膜形成層は前記基材フィルムの面上に一定間隔で複数形成されており、夫々の保護膜形成層は前記保護膜を形成する対象となる半導体ウエハの直径よりも100μmから5mm小さい直径で、かつ、硬化後の前記保護膜形成層の弾性率が1GPaから20GPaであることを特徴とする半導体ウエハ保護膜形成用シート。
【請求項2】
前記保護膜形成層は、前記対象となる半導体ウエハの平面形状に相似する平面形状を有しており、前記対象となる半導体ウエハの形状に従ってオリフラ又はノッチが形成されていることを特徴とする請求項1に記載の半導体ウエハ保護膜形成用シート。
【請求項3】
前記保護膜形成層となる保護膜形成用組成物が、少なくとも、
(A)フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂、及び(メタ)アクリル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を100質量部、
(B)エポキシ樹脂を5〜200質量部、
(C)充填剤を100〜600質量部、
(D)エポキシ樹脂硬化触媒を有効量、
含む組成物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体ウエハ保護膜形成用シート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−49388(P2012−49388A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−191115(P2010−191115)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】