説明

半導体レーザ素子の製造方法及び半導体レーザ素子

【課題】駆動させた際の素子の発熱量を抑制し、ワイヤボンディング等を行う際に画像認識が可能であり必要なボンディング強度が得られる半導体レーザ素子の製造方法及び半導体レーザ素子を提供する。
【解決手段】半導体レーザ素子20の製造方法において、第1導電型の半導体基板1上に、第2導電型のクラッド層6と、元素周期表における第1の5族元素を含む化合物半導体からなる第2導電型のキャップ層7と、第1の5族元素よりも離脱エネルギーが大きい第2の5族元素を含む化合物半導体層8とを順次積層する積層工程を有する手順とする。
また、積層工程を経た上記半導体基板を水素雰囲気中で冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ素子の製造方法及び半導体レーザ素子に係り、特にAlGaInP(アルミニウムガリウムインジウムリン)系の半導体レーザ素子の製造方法及び半導体レーザ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザ素子は、高密度光ディスク装置,レーザプリンタ,バーコードリーダ,及び光計測機器の光源として広く用いられており、その中で、DVD(Digital Versatile Disk)の記録再生装置の光源として、650nm帯のレーザ光が得られるAlGaInP系の半導体レーザ素子が使用されている。
【0003】
ここで、従来例として、AlGaInP系の半導体レーザ素子の代表的な構造とその製造方法について、図3を用いて説明する。
図3は、AlGaInP系の半導体レーザ素子の製造方法及び半導体レーザ素子の従来例を説明するための模式的断面図であり、図3中の(a),(b)は、この半導体レーザ素子を製造するそれぞれの過程を示す模式的断面図である。
【0004】
まず、図3(a)に示すように、第1の結晶成長として、n型GaAs(ガリウム砒素)基板30上に、n型AlGaInPクラッド層31,活性層32,第1のp型AlGaInPクラッド層33,第2のp型AlGaInPクラッド層34,及びp型GaInPキャップ層35を、順次、積層成膜する。
ここで、便宜上、p型GaInPキャップ層35の表面をA35と符号を付す。
【0005】
次に、図3(b)に示すように、p型GaInPキャップ層35及び第2のp型AlGaInPクラッド層34を部分的にエッチングしてp型リッジ40とする。
その後、第2の結晶成長として、第1のp型AlGaInPクラッド層33上に、p型リッジ40の段差を埋めるようにしてn型AlGaInP電流ブロック層41を成膜する。
さらに、第3の結晶成長として、p型リッジ40及びn型AlGaInP電流ブロック層41上に、p型コンタクト層42を成膜する。
そして、p型コンタクト層42上にp側電極43を形成し、n型GaAs基板30の積層方向とは反対側の面にn側電極44を形成することにより、AlGaInP系の半導体レーザ素子50を得る。
上述したようなAlGaInP系の半導体レーザ素子が特許文献1に記載されている。
【0006】
ところで、上述したようなAlGaInP系の半導体レーザ素子は、素子の電気抵抗値が大きいため、この素子を駆動させた際に素子からの発熱量が大きく、駆動時の素子温度が上昇して素子の特性劣化を引き起こす場合がある。
これは、第1のp型AlGaInPクラッド層33や第2のp型AlGaInPクラッド層34のキャリア濃度が5E17cm−3未満と低いため、この第1のp型AlGaInPクラッド層33や第2のp型AlGaInPクラッド層34の電気抵抗値が大きいことが原因の1つとなっている。
【0007】
そこで、第1のp型AlGaInPクラッド層33や第2のp型AlGaInPクラッド層34のキャリア濃度を高くして、これらの層33,34の電気抵抗値を下げる手段の一例が特許文献2に記載されている。
特許文献2の記載によれば、上記第1の結晶成長後の冷却過程において、成膜ガスとして用いられるAsH(アルシン)やPH(ホスフィン)等の水素化合物に代えて、水素,窒素あるいはヘリウム,アルゴン等の希ガスを含む雰囲気にすることによって、p型AlGaInPクラッド層のキャリア濃度を高くすることができるとしている。
【特許文献1】特開平7−162093号公報
【特許文献2】特開平4−304690号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、発明者が鋭意実験した結果、上記冷却過程において、第1の結晶成長後の表層であるp型GaInPキャップ層35の表面A35から元素周期表における5族元素であるP(リン)が離脱して表面A35を含む表面近傍部の結晶欠陥の数が増加する。
そのため、この結晶欠陥の数が増加した表面A35上にp型コンタクト層42及びp側電極43を積層すると、このp型コンタクト層42及びp側電極43の各表面はそれぞれ粗面となる。この粗面となったp側電極43を目視すると白濁したように見える。
【0009】
そして、このp側電極43に外部との導通をとるためのワイヤボンディングを行う際、p側電極43の画像認識ができなかったり、必要なワイヤボンディング強度が得られないといった不具合が生じる場合がある。
【0010】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、駆動させた際の素子の発熱量を抑制し、ワイヤボンディング等を行う際に画像認識が可能であり必要なボンディング強度が得られる半導体レーザ素子の製造方法及び半導体レーザ素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本願各発明は次の手段を有する。
1)半導体レーザ素子の製造方法において、第1導電型の半導体基板(1)上に、第2導電型のクラッド層(6)と、元素周期表における第1の5族元素を含む化合物半導体からなる第2導電型のキャップ層(7)と、前記第1の5族元素よりも離脱エネルギーが大きい第2の5族元素を含む化合物半導体層(8)とを順次積層する積層工程を有することを特徴とする半導体レーザ素子(20)の製造方法である。
2)前記積層工程後に、前記半導体基板を水素雰囲気中で冷却することを特徴とする1)項記載の半導体レーザ素子の製造方法である。
3)前記第1の5族元素をリン(P)とし、前記第2の5族元素を砒素(As)とすることを特徴とする1)項または2)項記載の半導体レーザ素子の製造方法である。
4)リッジ(10)を有する半導体レーザ素子において、前記リッジは、クラッド層(6)上に、第1の5族元素を含む化合物半導体からなるキャップ層(7)と、前記第1の5族元素よりも離脱エネルギーが大きい第2の5族元素を含む化合物半導体層(8)とが順次積層されてなることを特徴とする半導体レーザ素子(20)である。
5)前記第1の5族元素はリン(P)であり、前記第2の5族元素は砒素(As)であることを特徴とする4)項記載の半導体レーザ素子である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、駆動させた際の素子の発熱量を抑制し、ワイヤボンディング等を行う際に画像認識が可能であり必要なボンディング強度が得られるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施の形態を、好ましい実施例により図1〜図2を用いて説明する。
ここでは、AlGaInP(アルミニウムガリウムインジウムリン)系の半導体レーザ素子の製造方法及び半導体レーザ素子の実施例を第1工程〜第2工程して説明する。
図1及び図2は、本発明の半導体レーザ素子の製造方法及び半導体レーザ素子の実施例における第1工程及び第2工程をそれぞれ説明するための模式的断面図である。
【0014】
<実施例>
(第1工程)[図1参照]
まず、第1の結晶成長として、GaAs(ガリウム砒素)からなるn型基板1上に、キャリア濃度(ドーパント濃度ともいう)が2E18cm−3のGaAsからなるn型バッファ層2,キャリア濃度が1E18cm−3の(Al0.7Ga0.30.51In0.49P(アルミニウムガリウムインジウムリン)からなるn型クラッド層3,活性層4,キャリア濃度が5E17cm−3の(Al0.7Ga0.30.51In0.49Pからなる第1のp型クラッド層5,キャリア濃度が1E18cm−3の(Al0.7Ga0.30.51In0.49Pからなる第2のp型クラッド層6,キャリア濃度が2E18cm−3のGa0.51In0.49P(ガリウムインジウムリン)からなるp型キャップ層7,及びキャリア濃度が2E18cm−3のGaAsからなるp型離脱防止層8を、例えばMOCVD(Metalorganic Chemical Vapor Deposition)法により、順次積層する。
【0015】
実施例では、第1の結晶成長における原料ガスとして、構成元素Al(アルミニウム)にはTMAl(トリメチルアルミニウム),Ga(ガリウム)にはTMGa(トリメチルガリウム),In(インジウム)にはTMIn(トリメチルインジウム),P(リン)にはPH(ホスフィン),As(砒素)にはAsH(アルシン)をそれぞれ用い、p型ドーパント材料にはSiH(シラン),n型ドーパント材料にはDMZn(ディメチル亜鉛)をそれぞれ用いた。
また、第1の結晶成長における基板加熱温度を670℃とした。
実施例では、第1導電型をn型,第2導電型をp型とした。
【0016】
第1の結晶成長後は、各原料ガスの導入を止め、その後、水素ガスを導入して水素ガス雰囲気中で上記第1の結晶成長が完了したn型基板1を400℃以下まで冷却する。
【0017】
この冷却の際に、GaInPからなるp型キャップ層7は、表層のGaAsからなるp型離脱防止層8で覆われており、また、元素周期表における5族元素であるAs(砒素)は同じく5族元素であるP(リン)よりも離脱エネルギーが大きいため、p型キャップ層7からのPの離脱を抑制できると共に、表層のp型離脱防止層8からのAsの離脱量を、前述した従来例におけるp型GaInPキャップ層35からのPの離脱量よりも低減することができる。
従って、p型キャップ層7及びp型離脱防止層8のそれぞれの表面を含む表面近傍部の結晶欠陥を従来よりも低減することができる。
【0018】
(第2工程)[図2参照]
p型離脱防止層8,p型キャップ層7,及び第2のp型クラッド層6を部分的にエッチングしてp型リッジ10とする。
次に、第2の結晶成長として、第1のp型クラッド層5上に、p型リッジ10の段差を埋めるようにしてキャリア濃度が3E18cm−3のGaAsからなるn型電流ブロック層11を、例えばMOCVD法により成膜する。
その後、第3の結晶成長として、p型リッジ10及びn型電流ブロック層11上に、キャリア濃度が1E19cm−3のGaAsからなるp型コンタクト層12を成膜する。
そして、p型コンタクト層12上にp側電極13を形成し、n型基板1の積層方向とは反対側の面にn側電極14を形成することにより、AlGaInP系の半導体レーザ素子20を得る。
【0019】
この半導体レーザ素子20のp側電極13の表面を目視検査した結果、p側電極13の表面が白濁していない、即ち粗面となっていないことを確認した。
また、この半導体レーザ素子20のp側電極13にワイヤボンディングを行ったところ、精度よく画像認識をすることができ、必要なボンディング強度が得られることを確認した。
【0020】
本発明の実施例は、上述した構成及び手順に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において変形例としてもよいのは言うまでもない。
【0021】
例えば、実施例では、AlGaInP系の半導体レーザ素子及びその製造方法を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではなく、結晶成長した際の表層がGaInP等のP(リン)を含む化合物半導体層となる半導体レーザ素子及びその製造方法においても、この化合物半導体層を覆うように離脱防止層を表層として成膜することにより、実施例と同様の効果を得ることができる。
【0022】
また、実施例では、離脱防止層の構成材料としてGaAsを用いたが、これに限定されるものではなく、Pよりも離脱エネルギーの大きい5族元素を含む半導体材料を用いることにより、実施例と同様の効果を得ることができる。
【0023】
また、実施例では、離脱防止層をp型としたが、これに限定されるものではなく、n型やノンドープ型としてもよい。この場合は、半導体レーザ素子を駆動させる際にp型リッジに電流が流れにくくなって素子の電気抵抗が大きくなるため、実施例における第2工程前にn型またはノンドープ型の離脱防止層を除去しておくことが必要である。
GaAsからなる離脱防止層は、周知の方法、例えばリン酸系のエッチング液で除去することができる。
【0024】
また、実施例では、第1のp型AlGaInPクラッド層33と第2のp型AlGaInPクラッド層34とを連続して成膜したが、第1のp型AlGaInPクラッド層33と第2のp型AlGaInPクラッド層34と間にエッチングストップ層を設ける構成としてもよい。
エッチングストップ層を設けることにより、リッジを形成する際に、形成されたリッジの高さや幅の寸法精度を向上させることができる。
【0025】
また、実施例では、n型電流ブロック層の材料をGaAsとしたが、これに限定されるものではなく、例えば、AlGaInPやAlGaAsを用いることができ、また、これらの材料から層を複数積層した積層構造としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の半導体レーザ素子の製造方法及び半導体レーザ素子の実施例における第1工程を説明するための模式的断面図である。
【図2】本発明の半導体レーザ素子の製造方法及び半導体レーザ素子の実施例における第2工程を説明するための模式的断面図である。
【図3】AlGaInP系の半導体レーザ素子の製造方法及び半導体レーザ素子の従来例を説明するための模式的断面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 n型基板、 2 n型バッファ層、 3 n型クラッド層、 4 活性層、 5 第1のp型クラッド層、 6 第1のp型クラッド層、 7 p型キャップ層、 8 p型離脱防止層、 10 p型リッジ、 11 n型電流ブロック層、 12 p型コンタクト層、 13 p側電極、 14 n側電極、 20 半導体レーザ素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体レーザ素子の製造方法において、
第1導電型の半導体基板上に、第2導電型のクラッド層と、元素周期表における第1の5族元素を含む化合物半導体からなる第2導電型のキャップ層と、前記第1の5族元素よりも離脱エネルギーが大きい第2の5族元素を含む化合物半導体層とを順次積層する積層工程を有することを特徴とする半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項2】
前記積層工程後に、前記半導体基板を水素雰囲気中で冷却することを特徴とする請求項1記載の半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項3】
前記第1の5族元素をリン(P)とし、前記第2の5族元素を砒素(As)とすることを特徴とする請求項1または請求項2記載の半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項4】
リッジを有する半導体レーザ素子において、
前記リッジは、クラッド層上に、第1の5族元素を含む化合物半導体からなるキャップ層と、前記第1の5族元素よりも離脱エネルギーが大きい第2の5族元素を含む化合物半導体層とが順次積層されてなることを特徴とする半導体レーザ素子。
【請求項5】
前記第1の5族元素はリン(P)であり、前記第2の5族元素は砒素(As)であることを特徴とする請求項4記載の半導体レーザ素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−159982(P2008−159982A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−349146(P2006−349146)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000004329)日本ビクター株式会社 (3,896)
【Fターム(参考)】