説明

半導体レーザ装置組立体

【課題】超短パルスのレーザ光を出力し得る構成、構造を有する電流注入型の半導体レーザ装置組立体を提供する。
【解決手段】半導体レーザ装置組立体は、(A)光密度が、10ギガワット/cm2以上であり、且つ、キャリア密度が1×1019/cm3以上である電流注入型のモード同期半導体レーザ素子10、及び、(B)モード同期半導体レーザ素子10から出射されたレーザ光が入出射される分散補償光学系110を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体レーザ素子及び分散補償光学系を備えた半導体レーザ装置組立体に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、パルス時間幅がアト秒台、フェムト秒台のレーザ光を利用した先端的科学領域の研究に、超短パルス・超高出力レーザが盛んに用いられている。そして、超短パルスレーザは、ピコ秒・フェムト秒といった超高速現象の解明という科学的な関心のみならず、高いピークパワーを活用して、微細加工や2光子イメージングといった実用化への応用研究が盛んに行われている。また、GaN系化合物半導体から成り、発光波長が405nm帯の高出力超短パルス半導体レーザ素子が、ブルーレイ(Blu−ray)光ディスクシステムの次の世代の光ディスクシステムとして期待されている体積型光ディスクシステムの光源として、また、医療分野やバイオイメージング分野等で要求される光源、可視光領域全域をカバーするコヒーレント光源として期待されている。
【0003】
超短パルス・超高出力レーザとして、例えば、チタン/サファイア・レーザが知られているが、係るチタン/サファイア・レーザは、高価で、大型の固体レーザ光源であり、この点が、技術の普及を阻害している主たる要因となっている。また、励起には連続光を発振する別の固体レーザを必要とし、エネルギー効率が必ずしも高くない。しかも、大型の共振器は機械的な安定を図ることが容易ではなく、メンテナンスの上で専門的な知識が必要とされる。もしも超短パルス・超高出力レーザが半導体レーザ素子によって実現できれば、大幅な小型化、低価格化、低消費電力化、高安定性化がもたらされ、これらの分野における広汎な普及を促進させる上でのブレイクスルーになると考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】T. Schlauch et al., Optics Express, Vol. 18, p 24136 (2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
半導体レーザ素子を用いて時間幅が数ピコ秒程度の光パルスを発生する方法として、モード同期法が知られている。モード同期法には、共振器における周回時間と同じ周期で利得又は損失を変調する能動モード同期と、半導体レーザ素子内に非線形光学応答を示す可飽和吸収体等を設けることによって動作させる受動モード同期とがあるが、受動モード同期は、数ピコ秒程度あるいはそれ以下のパルス時間幅の光パルスを発生するのに適している。
【0006】
パルス当たりのエネルギーが同じである場合、光パルスのピークパワーは、パルス時間幅が狭いほど高く、目的とする非線形現象がより顕著に発現される。従って、超短光パルス光源の性能指標の1つとして、狭いパルス時間幅を挙げることができる。受動モード同期のチタン/サファイア・レーザでは、10フェムト秒程度のパルス時間幅を有する光パルスを発生するものが市販されている。これに対して、受動モード同期半導体レーザ素子では、電流注入型の量子井戸レーザのパルス時間幅は1ピコ秒乃至2ピコ秒程度が一般的である。半導体レーザ素子は、利得帯域が十分に広いため、サブピコ秒の光パルスを発生させる能力を潜在的に有しているが、このようなサブピコ秒の光パルスの発生報告例は殆ど知られていない。
【0007】
モード同期法に基づく半導体レーザ素子の駆動において、パルス時間幅がサブピコ秒以下の光パルスの発生を妨げる主な原因として、パルス発生に伴う光パルスの受けるチャープを挙げることができる。半導体レーザ素子にあっては、パルス発生に伴って活性層(ゲイン部)のキャリア密度が時間的に変化し、その結果、活性層の屈折率が変化する。そのため、半導体レーザ素子で発生する光パルスの周波数がパルスの持続時間内で変化する。この周波数変化はチャープと呼ばれ、チャープが強い場合、共振器内を周回する光パルスの各周波数における位相を揃えることが難しく、パルス時間幅を狭くすることが困難となる。
【0008】
このようなチャープに起因してパルス時間幅を狭くすることが困難になるといった問題を解決するために、外部共振器内に分散補償光学系を設ける方法がある。この方法は、モード同期のチタン/サファイア・レーザでは多く用いられているが、モード同期半導体レーザ素子での報告例は多くない。この方法は、利得媒質や可飽和吸収体の種類や励起方法に依存しないため、適用範囲が広く、有利である。非特許文献1「T. Schlauch et al., Optics Express, Vol. 18, p 24136 (2010)」には、回折格子を用いた分散補償光学系によってモード同期半導体レーザから発生する光パルスのパルス時間幅を制御する試みが報告されている。ここで、この非特許文献1においては、発生する光パルスのスペクトルが分散補償量に依存して変化することが報告されているが、パルス時間幅については変化が見られず、パルス時間幅がピコ秒以下の光パルスの発生には至っていない。
【0009】
従って、本開示の目的は、超短パルスのレーザ光を出力し得る構成、構造を有する電流注入型の半導体レーザ装置組立体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するための本開示の第1の態様に係る半導体レーザ装置組立体は、
光密度が、1×1010ワット/cm2以上、好ましくは1.4×1010ワット/cm2以上であり、且つ、キャリア密度が1×1019/cm3以上である電流注入型のモード同期半導体レーザ素子、及び、
モード同期半導体レーザ素子から出射されたレーザ光が入出射される分散補償光学系、
を備えている。
【0011】
上記の目的を達成するための本開示の第2の態様に係る半導体レーザ装置組立体は、
電流注入型のモード同期半導体レーザ素子、及び、
モード同期半導体レーザ素子から出射されたレーザ光が入出射される分散補償光学系、
を備え、
分散補償光学系の群速度分散値を、第1の所定値GVD1から第2の所定値GVD2(但し、|GVD1|<|GVD2|)まで単調に変化させたとき、モード同期半導体レーザ素子から系外に出力されるレーザ光のパルス時間幅は、減少し、極小値PWminを超えて増加する。尚、単調に変化させるとは、GVD1<GVD2の場合、単調に増加させることを意味し、GVD1>GVD2の場合、単調に減少させることを意味する。
【発明の効果】
【0012】
半導体レーザ素子にあっては、半導体レーザ素子における活性層(ゲイン部)の光パワー密度及びキャリア密度が特定の値を超えるとき、キャリアが誘導放出によって消費される結果、活性層における屈折率が動的に変化し、発振スペクトルが広がる。このような現象は自己位相変調と呼ばれる。自己位相変調による発振スペクトル幅の増大はパルス時間幅の狭隘化に寄与し、自己位相変調に対して、分散補償光学系によって適切な群速度分散を与えることで適切なスペクトル幅が得られ、サブピコ秒台の光パルスを発生させることができる。このような特性は、自己位相変調と適切な群速度分散とが共振器内で相互作用するときに見られるソリトン・モード同期の特徴に類似しており、発生する光パルスの時間幅をサブピコ秒(例えば、200フェムト秒)以下まで狭くする方法として極めて有効である。
【0013】
本開示の第1の態様に係る半導体レーザ装置組立体にあっては、モード同期半導体レーザ素子から出射されるレーザ光の光密度が規定され、且つ、モード同期半導体レーザ素子におけるキャリア密度の値が規定されており、高い光パワー密度及び高いキャリア密度において自己位相変調を発生させ、これに対して適切な群速度分散を与えることでサブピコ秒台の光パルスを確実に発生させることができる。また、本開示の第2の態様に係る半導体レーザ装置組立体にあっては、分散補償光学系の群速度分散値とモード同期半導体レーザ素子から系外に出力されるレーザ光のパルス時間幅との関係が規定されているので、確実に、安定したサブピコ秒台の光パルスを発生させることができるし、発生した光パルスにおけるノイズの低減を図ることができる。そして、このようなサブピコ秒台の光パルスといった光パルス時間幅の狭隘化に加えて、本開示の半導体レーザ装置組立体にあっては、モード同期半導体レーザ素子が電流注入型であるが故に、光励起型のモード同期半導体レーザ素子に比較してエネルギー効率が高いといった利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、実施例1の半導体レーザ装置組立体の概念図である。
【図2】図2は、実施例1におけるモード同期半導体レーザ素子の共振器の延びる方向に沿った模式的な端面図である。
【図3】図3は、実施例1におけるモード同期半導体レーザ素子の共振器の延びる方向と直角方向に沿った模式的な断面図である。
【図4】図4の(A)及び(B)は、それぞれ、実施例1の半導体レーザ装置組立体において得られた光パルスの相関波形を示す図、及び、光パルスの光スペクトルを示す図である。
【図5】図5の(A)及び(B)は、それぞれ、図4の(B)に示す光パルスを波長選択手段を通過させ、光パルスの短波長側を切り出したときの相関波形を示す図、及び、光スペクトルを示す図である。
【図6】図6は、種々の分散補償量における光パルスの相関波形を示す図である。
【図7】図7の(A)及び(B)は、それぞれ、実施例1の半導体レーザ装置組立体において、発生するパルスが主パルスのみであり、しかも、パルス時間幅を出来る限り最小とした場合の光パルスの相関波形を示す図、及び、この光スペクトルの光スペクトルを示す図である。
【図8】図8の(A)及び(B)は、それぞれ、実施例1の半導体レーザ装置組立体での或る駆動条件における光パルスの相関波形、及び、光パルスの光スペクトルを示す図である。
【図9】図9の(A)及び(B)は、それぞれ、実施例1の半導体レーザ装置組立体において、距離Lと光パルスの半値全幅の関係を求めた結果、及び、群速度分散値と光パルスの半値全幅の関係を求めた結果を示す図である。
【図10】図10の(A)及び(B)は、それぞれ、実施例1の半導体レーザ装置組立体において、群速度分散値が−0.0257ps2のときのRFスペクトル、及び、群速度分散値が−0.064ps2のときのRFスペクトルを示す図である。
【図11】図11は、実施例1の半導体レーザ装置組立体において、ゲイン電流の増大によって極小となるパルス時間幅が狭くなることを示す図である。
【図12】図12の(A)及び(B)は、実施例2の半導体レーザ装置組立体及びその変形例の概念図である。
【図13】図13は、実施例2の半導体レーザ装置組立体の別の変形例の概念図である。
【図14】図14の(A)及び(B)は、実施例4の半導体レーザ装置組立体における波長選択手段の概念図である。
【図15】図15は、実施例1のモード同期半導体レーザ素子の変形例の共振器の延びる方向に沿った模式的な端面図である。
【図16】図16は、実施例1のモード同期半導体レーザ素子の別の変形例の共振器の延びる方向に沿った模式的な端面図である。
【図17】図17は、実施例1のモード同期半導体レーザ素子の更に別の変形例におけるリッジストライプ構造を上方から眺めた模式図である。
【図18】図18の(A)及び(B)は、実施例1のモード同期半導体レーザ素子の製造方法を説明するための基板等の模式的な一部断面図である。
【図19】図19の(A)及び(B)は、図18の(B)に引き続き、実施例1のモード同期半導体レーザ素子の製造方法を説明するための基板等の模式的な一部断面図である。
【図20】図20は、図19の(B)に引き続き、実施例1のモード同期半導体レーザ素子の製造方法を説明するための基板等の模式的な一部端面図である。
【図21】図21は、回折格子の模式的な一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、実施例に基づき本開示を説明するが、本開示は実施例に限定されるものではなく、実施例における種々の数値や材料は例示である。尚、説明は、以下の順序で行う。
1.本開示の第1の態様及び第2の態様に係る半導体レーザ装置組立体、全般に関する説明
2.実施例1(本開示の第1の態様及び第2の態様に係る半導体レーザ装置組立体)
3.実施例2(実施例1の変形)
4.実施例3(実施例1の変形)
5.実施例4(実施例1〜実施例3の変形)、その他
【0016】
[本開示の第1の態様及び第2の態様に係る半導体レーザ装置組立体、全般に関する説明]
本開示の第2の態様に係る半導体レーザ装置組立体において、系外に出力されるレーザ光のパルス時間幅が極小値PWminとなるときの分散補償光学系の群速度分散極小値をGVDminとし、分散補償光学系の群速度分散値が負の第1の所定値GVD1であるときのレーザ光のパルス時間幅をPW1、分散補償光学系の群速度分散値が負の第2の所定値GVD2であるときのレーザ光のパルス時間幅をPW2としたとき、例えば、
(PW1−PWmin)/|GVDmin−GVD1
≧2×(PW2−PWmin)/|GVD2−GVDmin
但し、
|GVD1/GVDmin|=0.5
|GVD2/GVDmin|=2
を満足することが好ましい。
【0017】
上記の好ましい形態を含む本開示の第2の態様に係る半導体レーザ装置組立体にあっては、系外に出力されるレーザ光のパルス時間幅が最小値PWminとなる群速度分散極小値GVDminあるいはその近傍において動作させられる形態とすることが好ましい。後述するように、群速度分散値が減少(群速度分散値の絶対値が増加)すると共に、時間ゼロの主パルス以外のサブパルスの個数が減少するが、サブパルスが観察されなくなったときの群速度分散値の上限値をGVDSとしたとき、『群速度分散極小値GVDminの近傍』とは、
GVDS±|GVDmin−GVDS
で定義される。
【0018】
更には、以上に説明した好ましい形態を含む本開示の第2の態様に係る半導体レーザ装置組立体において、系外に出力されるレーザ光の主発振周波数に対する雑音成分は−60dB以下、好ましくは−70dB以下である形態とすることができる。
【0019】
本開示の第1の態様に係る半導体レーザ装置組立体、あるいは又、以上に説明した好ましい形態を含む本開示の第2の態様に係る半導体レーザ装置組立体において、モード同期半導体レーザ素子は可飽和吸収領域を有する形態とすることができる。尚、従来の光励起型のモード同期半導体レーザ素子では発振特性を制御するのに半導体可飽和吸収体(SESAME)の温度特性を利用するが、可飽和吸収領域を有する形態にあっては、可飽和吸収領域への逆バイアス電圧、及び、分散補償光学系の群速度分散値に基づき発振特性を制御することができるので、発振特性の制御が容易である。そして、この場合、モード同期半導体レーザ素子は、
GaN系化合物半導体から成り、第1導電型を有する第1化合物半導体層、
GaN系化合物半導体から成る第3化合物半導体層(活性層)、及び、
GaN系化合物半導体から成り、第1導電型とは異なる第2導電型を有する第2化合物半導体層、
が、順次、積層されて成る積層構造体を有する構成とすることができる。そして、更には、この場合、分散補償光学系における群速度分散値は負である構成とすることが好ましい。但し、群速度分散値は、モード同期半導体レーザ素子の構成、構造、半導体レーザ装置組立体の構成、構造、駆動方法(例えば、キャリア注入領域(利得領域)に印加する電流量、可飽和吸収領域(キャリア非注入領域)に印加する逆バイアス電圧、駆動温度)等に基づき全体で決定すればよく、モード同期半導体レーザ素子の構成、構造、半導体レーザ装置組立体の構成、構造、駆動方法等に依存して、正の値も取り得る。
【0020】
更には、以上に説明した好ましい構成を含む本開示の第1の態様に係る半導体レーザ装置組立体にあっては、系外に出力されるレーザ光のパルス時間幅が最小値となる群速度分散値あるいはその近傍において動作させられることが好ましい。尚、『群速度分散値の近傍』とは、上述した群速度分散極小値GVDminの近傍と同意である。
【0021】
更には、以上に説明した好ましい形態、構成を含む本開示の第1の態様あるいは第2の態様に係る半導体レーザ装置組立体にあっては、
波長選択手段(波長選択装置)を備え、
波長選択手段(波長選択装置)は、系外に出力されるレーザ光の短波長成分を抽出する構成とすることができる。
【0022】
ここで、波長選択手段は、バンドパスフィルタから成る構成とすることができるし、ロングパスフィルタやプリズムから成る構成とすることもできるし、あるいは又、回折格子、及び、回折格子から出射された1次以上の回折光を選択するアパーチャから成る構成とすることもできる。アパーチャは、例えば、多数のセグメントを有する透過型液晶表示装置から成る形態とすることができる。バンドパスフィルタは、例えば、低誘電率を有する誘電体薄膜と、高誘電率を有する誘電体薄膜とを積層することで得ることができる。また、パルス状のレーザ光のバンドパスフィルタへの入射角を変えることで、バンドパスフィルタから出射するレーザ光の波長を選択することもできる。
【0023】
更には、以上に説明した好ましい形態、構成を含む本開示の第1の態様あるいは第2の態様に係る半導体レーザ装置組立体にあっては、
モード同期半導体レーザ素子から出射されたレーザ光は、分散補償光学系に入射され、
分散補償光学系に入射したレーザ光の一部は、分散補償光学系から出射され、モード同期半導体レーザ素子に戻され、分散補償光学系に入射したレーザ光の残りは、系外に出力される形態とすることができる。
【0024】
このような形態にあっては、外部共振器構造は分散補償光学系によって構成される。具体的には、分散補償光学系は、回折格子、集光手段(具体的には、レンズ)及び反射鏡(平面反射鏡。具体的には、例えば、誘電多層膜反射鏡)から成る形態とすることができる。回折格子は、モード同期半導体レーザ素子から出射されたパルス状のレーザ光の内、1次以上の回折光を分散補償光学系に入射させ、0次の回折光を系外へ出力する構成とすることができる。ここで、モード同期半導体レーザ素子と回折格子との間に、モード同期半導体レーザ素子からのレーザ光を平行光束とするためのコリメート手段(具体的には、レンズ)を配してもよい。回折格子に入射(衝突)するレーザ光の中に含まれる回折格子における格子状のパターンの本数として、1200本/mm乃至3600本/mm、望ましくは2400本/mm乃至3600本/mmを例示することができる。所謂外部共振器の一端は、反射鏡から構成される。そして、モード同期半導体レーザ素子から出射されたパルス状のレーザ光は、回折格子に衝突し、1次以上の回折光が集光手段に入射し、反射鏡によって反射され、集光手段、回折格子を経由してモード同期半導体レーザ素子に戻される。また、0次の回折光は系外に出力される。集光手段と反射鏡との間の距離を固定した状態で、回折格子と集光手段との間の距離を変えることで、分散補償光学系における群速度分散値を変えることができる。
【0025】
あるいは又、このような形態にあっては、外部共振器構造は、分散補償光学系及び部分反射鏡(部分透過ミラー、半透過ミラー、ハーフミラーとも呼ばれる)によって構成される。そして、具体的には、分散補償光学系は、一対の回折格子から成る形態とすることができる。この場合、モード同期半導体レーザ素子から出射されたパルス状のレーザ光は、第1の回折格子に衝突し、1次以上の回折光が出射され、第2の回折格子に衝突し、1次以上の回折光が出射されて、部分反射鏡に到達する。そして、部分反射鏡に到達したレーザ光の一部は部分反射鏡を通過し、系外に出力される。一方、部分反射鏡に衝突したレーザ光の残りは、第2の回折格子、第1の回折格子を経由してモード同期半導体レーザ素子に戻される。第1の回折格子と第2の回折格子との間の距離を変えることで、分散補償光学系における群速度分散値を変えることができる。あるいは又、分散補償光学系は、一対のプリズムから成る形態とすることができる。この場合、モード同期半導体レーザ素子から出射されたパルス状のレーザ光は、第1のプリズムを通過し、更に、第2のプリズムを通過し、部分反射鏡に到達する。そして、部分反射鏡に到達したレーザ光の一部は部分反射鏡を通過し、系外に出力される。一方、部分反射鏡に到達したレーザ光の残りは、第2のプリズム、第1のプリズムを経由してモード同期半導体レーザ素子に戻される。第1のプリズムと第2のプリズムとの間の距離を変えることで、分散補償光学系における群速度分散値を変えることができる。あるいは又、分散補償光学系は、干渉計から成る形態とすることができる。具体的には、干渉計として、例えば、Gires−Tournois型干渉計を挙げることができる。Gires−Tournois型干渉計は、反射率1の反射鏡と反射率1未満の部分反射鏡から成り、反射光の強度スペクトルを変化させることなく位相を変化させることができる干渉計であり、反射鏡と部分反射鏡との間の距離を制御することで、あるいは又、入射光の入射角を調整することによって、分散補償光学系における群速度分散値を変えることができる。あるいは又、分散補償光学系は、誘電体多層膜ミラーから成る形態とすることができ、この場合、入射光の入射角を調整することによって、分散補償光学系における群速度分散値を変えることができる。
【0026】
モード同期半導体レーザ素子から出射されるレーザ光の光密度は、レーザ光のパワー(単位はワットであり、パルスの場合はピークパワー)をモード同期半導体レーザ素子端面における近視野像の断面積(ピーク強度に対して1/e2となる領域)で除することによって得ることができる。また、キャリア密度は、キャリア寿命を測定し、注入電流量をゲイン部の電極(例えば、後述する第2電極の第1部分)の面積で除した値にキャリア寿命を乗ずることで得ることができる。更には、群速度分散値は、被測定光パルスを、既知の分散量を有する媒質を透過させた後にみられるパルス幅の変化を測定する方法や、周波数分解型光ゲート法(Frequency resolved optical gating,FROG)で得ることができる。また、1ピコ秒程度あるいはそれ以下の時間パルス幅は、SHG強度相関測定装置を用いて測定することができる。
【0027】
以上に説明した好ましい形態、構成を含む本開示の第1の態様あるいは第2の態様に係る半導体レーザ装置組立体(以下、これらを総称して、単に『本開示の半導体レーザ装置組立体等』と呼ぶ場合がある)において、モード同期半導体レーザ素子は、共振器方向に発光領域と可飽和吸収領域とを並置したバイ・セクション(Bi Section)型のモード同期半導体レーザ素子から成り、
バイ・セクション型のモード同期半導体レーザ素子は、
(a)第1導電型を有し、GaN系化合物半導体から成る第1化合物半導体層、GaN系化合物半導体から成る発光領域及び可飽和吸収領域を構成する第3化合物半導体層(活性層)、並びに、第1導電型と異なる第2導電型を有し、GaN系化合物半導体から成る第2化合物半導体層が、順次、積層されて成る積層構造体、
(b)第2化合物半導体層上に形成された帯状の第2電極、並びに、
(c)第1化合物半導体層に電気的に接続された第1電極、
を備え、
第2電極は、発光領域を経由して第1電極に直流電流を流すことで順バイアス状態とするための第1部分と、可飽和吸収領域に電界を加えるための第2部分とに、分離溝によって分離されている形態とすることができる。
【0028】
そして、第2電極の第1部分と第2部分との間の電気抵抗値は、第2電極と第1電極との間の電気抵抗値の1×10倍以上、好ましくは1×102倍以上、より好ましくは1×103倍以上であることが望ましい。尚、このようなモード同期半導体レーザ素子を、便宜上、『第1の構成のモード同期半導体レーザ素子』と呼ぶ。あるいは又、第2電極の第1部分と第2部分との間の電気抵抗値は、1×102Ω以上、好ましくは1×103Ω以上、より好ましくは1×104Ω以上であることが望ましい。尚、このようなモード同期半導体レーザ素子を、便宜上、『第2の構成のモード同期半導体レーザ素子』と呼ぶ。
【0029】
第1の構成あるいは第2の構成のモード同期半導体レーザ素子にあっては、第2電極の第1部分から発光領域を経由して第1電極に直流電流を流して順バイアス状態とし、第1電極と第2電極の第2部分との間に電圧を印加することによって可飽和吸収領域に電界を加えることで、モード同期動作させることができる。
【0030】
このような第1の構成あるいは第2の構成のモード同期半導体レーザ素子にあっては、第2電極の第1部分と第2部分との間の電気抵抗値を、第2電極と第1電極との間の電気抵抗値の10倍以上とし、あるいは又、1×102Ω以上とすることで、第2電極の第1部分から第2部分への漏れ電流の流れを確実に抑制することができる。即ち、可飽和吸収領域(キャリア非注入領域)へ印加する逆バイアス電圧Vsaを高くすることができるため、パルス時間幅のより短い光パルスを有するモード同期動作を実現できる。そして、第2電極の第1部分と第2部分との間のこのような高い電気抵抗値を、第2電極を第1部分と第2部分とに分離溝によって分離するだけで達成することができる。
【0031】
また、第1の構成及び第2の構成のモード同期半導体レーザ素子にあっては、限定するものではないが、
第3化合物半導体層は、井戸層及び障壁層を備えた量子井戸構造を有し、
井戸層の厚さは、1nm以上、10nm以下、好ましくは、1nm以上、8nm以下であり、
障壁層の不純物ドーピング濃度は、2×1018cm-3以上、1×1020cm-3以下、好ましくは、1×1019cm-3以上、1×1020cm-3以下である形態とすることができる。尚、このようなモード同期半導体レーザ素子を、便宜上、『第3の構成のモード同期半導体レーザ素子』と呼ぶ場合がある。尚、活性層に量子井戸構造を採用することで、量子ドット構造を採用するよりも高い注入電流量を実現することができ、容易に高出力を得ることができる。
【0032】
このように、第3化合物半導体層を構成する井戸層の厚さを1nm以上、10nm以下と規定し、更には、第3化合物半導体層を構成する障壁層の不純物ドーピング濃度を2×1018cm-3以上、1×1020cm-3以下と規定することで、即ち、井戸層の厚さを薄くし、しかも、第3化合物半導体層のキャリアの増加を図ることで、ピエゾ分極の影響を低減させることができ、パルス時間幅が短く、サブパルス成分の少ない単峰化された光パルスを発生させ得るレーザ光源を得ることができる。また、低い逆バイアス電圧でモード同期駆動を達成することが可能となるし、外部信号(電気信号及び光信号)と同期が取れた光パルス列を発生させることが可能となる。障壁層にドーピングされた不純物はシリコン(Si)である構成することができるが、これに限定するものではなく、その他、酸素(O)とすることもできる。
【0033】
ここで、モード同期半導体レーザ素子は、リッジストライプ型の分離閉じ込めヘテロ構造(SCH構造、Separate Confinement Heterostructure)を有する半導体レーザ素子である形態とすることができる。あるいは又、斜めリッジストライプ型の分離閉じ込めヘテロ構造を有する半導体レーザ素子である形態とすることができる。即ち、モード同期半導体レーザ素子の軸線とリッジストライプ構造の軸線とは、所定の角度で交わっている構成とすることができる。ここで、所定の角度θとして、0.1度≦θ≦10度を例示することができる。リッジストライプ構造の軸線とは、光出射端面(便宜上、『第2端面』と呼ぶ場合がある)におけるリッジストライプ構造の両端の二等分点と、光出射端面(第2端面)とは反対側の積層構造体の端面(便宜上、『第1端面』と呼ぶ場合がある)におけるリッジストライプ構造の両端の二等分点とを結ぶ直線である。また、モード同期半導体レーザ素子の軸線とは、第1端面及び第2端面に直交する軸線を指す。リッジストライプ構造の平面形状は、直線状であってもよいし、湾曲していてもよい。
【0034】
あるいは又、モード同期半導体レーザ素子において、第2端面におけるリッジストライプ構造の幅をW2、第1端面におけるリッジストライプ構造の幅をW1としたとき、W1=W2であってもよいし、W2>W1としてもよい。尚、W2は5μm以上である形態とすることができ、W2の上限値として、限定するものではないが、例えば、4×102μmを例示することができる。また、W1は1.4μm乃至2.0μmである形態とすることができる。リッジストライプ構造の各端部は、1本の線分から構成されていてもよいし、2本以上の線分から構成されていてもよい。前者の場合、リッジストライプ構造の幅は、例えば、第1端面から第2端面に向かって、単調に、テーパー状に緩やかに広げられる構成することができる。一方、後者の場合、リッジストライプ構造の幅は、例えば、第1端面から第2端面に向かって、先ず同じ幅であり、次いで、単調に、テーパー状に緩やかに広げられ、あるいは又、リッジストライプ構造の幅は、例えば、第1端面から第2端面に向かって、先ず広げられ、最大幅を超えた後、狭められる構成とすることができる。
【0035】
モード同期半導体レーザ素子にあっては、光ビーム(光パルス)が出射される積層構造体の第2端面の光反射率は0.5%以下であることが好ましい。具体的には、第2端面には低反射コート層が形成されている構成とすることができる。ここで、低反射コート層は、例えば、酸化チタン層、酸化タンタル層、酸化ジルコニア層、酸化シリコン層及び酸化アルミニウム層から成る群から選択された少なくとも2種類の層の積層構造から成る。尚、この光反射率の値は、従来の半導体レーザ素子において光ビーム(光パルス)が出射される積層構造体の一端面の光反射率(通常、5%乃至10%)よりも格段に低い値である。また、第1端面は、高い光反射率、例えば、反射率85%以上、好ましくは反射率95%以上の高い反射率を有することが好ましい。
【0036】
外部共振器における外部共振器長さ(X’,単位:mm)の値は、
0<X’<1500
好ましくは、
30≦X’≦500
であることが望ましい。ここで、外部共振器は、モード同期半導体レーザ素子の第1端面と、外部共振器構造を構成する反射鏡あるいは部分反射鏡によって構成され、外部共振器長さとは、モード同期半導体レーザ素子の第1端面と、外部共振器構造を構成する反射鏡あるいは部分反射鏡との間の距離である。
【0037】
モード同期半導体レーザ素子において、積層構造体は、少なくとも第2化合物半導体層の厚さ方向の一部分から構成されたリッジストライプ構造を有するが、このリッジストライプ構造は、第2化合物半導体層のみから構成されていてもよいし、第2化合物半導体層及び第3化合物半導体層(活性層)から構成されていてもよいし、第2化合物半導体層、第3化合物半導体層(活性層)、及び、第1化合物半導体層の厚さ方向の一部分から構成されていてもよい。
【0038】
第1の構成あるいは第2の構成のモード同期半導体レーザ素子において、限定するものではないが、
第2電極の幅は、0.5μm以上、50μm以下、好ましくは1μm以上、5μm以下、
リッジストライプ構造の高さは、0.1μm以上、10μm以下、好ましくは0.2μm以上、1μm以下、
第2電極を第1部分と第2部分とに分離する分離溝の幅は、1μm以上、モード同期半導体レーザ素子における共振器長(以下、単に『共振器長』と呼ぶ)の50%以下、好ましくは10μm以上、共振器長の10%以下であることが望ましい。共振器長として、0.6mmを例示することができるが、これに限定するものではない。リッジストライプ構造の両側面よりも外側に位置する第2化合物半導体層の部分の頂面から第3化合物半導体層(活性層)までの距離(D)は1.0×10-7m(0.1μm)以上であることが好ましい。距離(D)をこのように規定することによって、第3化合物半導体層の両脇(Y方向)に可飽和吸収領域を確実に形成することができる。距離(D)の上限は、閾値電流の上昇、温度特性、長期駆動時の電流上昇率の劣化等に基づき決定すればよい。尚、以下の説明において、共振器長方向をX方向とし、積層構造体の厚さ方向をZ方向とする。
【0039】
更には、上記の好ましい形態を含む第1の構成あるいは第2の構成のモード同期半導体レーザ素子において、第2電極は、パラジウム(Pd)単層、ニッケル(Ni)単層、白金(Pt)単層、パラジウム層が第2化合物半導体層に接するパラジウム層/白金層の積層構造、又は、パラジウム層が第2化合物半導体層に接するパラジウム層/ニッケル層の積層構造から成る形態とすることができる。尚、下層金属層をパラジウムから構成し、上層金属層をニッケルから構成する場合、上層金属層の厚さを、0.1μm以上、好ましくは0.2μm以上とすることが望ましい。あるいは又、第2電極を、パラジウム(Pd)単層から成る構成とすることが好ましく、この場合、厚さを、20nm以上、好ましくは50nm以上とすることが望ましい。あるいは又、第2電極を、パラジウム(Pd)単層、ニッケル(Ni)単層、白金(Pt)単層、又は、下層金属層が第2化合物半導体層に接する下層金属層と上層金属層の積層構造(但し、下層金属層は、パラジウム、ニッケル及び白金から成る群から選択された1種類の金属から構成され、上層金属層は、後述する工程(D)において第2電極に分離溝を形成する際のエッチングレートが、下層金属層のエッチングレートと同じ、あるいは同程度、あるいは、下層金属層のエッチングレートよりも高い金属から構成されている)から成る構成とすることが好ましい。また、後述する工程(D)において第2電極に分離溝を形成する際のエッチング液を、王水、硝酸、硫酸、塩酸、又は、これらの酸の内の少なくとも2種類の混合液(具体的には、硝酸と硫酸の混合液、硫酸と塩酸の混合液)とすることが望ましい。
【0040】
以上に説明した好ましい構成、形態を含む第1の構成あるいは第2の構成のモード同期半導体レーザ素子において、可飽和吸収領域の長さは発光領域の長さよりも短い構成とすることができる。あるいは又、第2電極の長さ(第1部分と第2部分の総計の長さ)は第3化合物半導体層(活性層)の長さよりも短い構成とすることができる。第2電極の第1部分と第2部分の配置状態として、具体的には、
(1)1つの第2電極の第1部分と1つの第2電極の第2部分とが設けられ、第2電極の第1部分と、第2電極の第2部分とが、分離溝を挟んで配置されている状態
(2)1つの第2電極の第1部分と2つの第2電極の第2部分とが設けられ、第1部分の一端が、一方の分離溝を挟んで、一方の第2部分と対向し、第1部分の他端が、他方の分離溝を挟んで、他方の第2部分と対向している状態
(3)2つの第2電極の第1部分と1つの第2電極の第2部分とが設けられ、第2部分の端部が、一方の分離溝を挟んで、一方の第1部分と対向し、第2部分の他端が、他方の分離溝を挟んで、他方の第1部分と対向している状態(即ち、第2電極は、第2部分を第1部分で挟んだ構造)
を挙げることができる。また、広くは、
(4)N個の第2電極の第1部分と(N−1)個の第2電極の第2部分とが設けられ、第2電極の第1部分が第2電極の第2部分を挟んで配置されている状態
(5)N個の第2電極の第2部分と(N−1)個の第2電極の第1部分とが設けられ、第2電極の第2部分が第2電極の第1部分を挟んで配置されている状態
を挙げることができる。尚、(4)及び(5)の状態は、云い換えれば、
(4’)N個の発光領域[キャリア注入領域、利得領域]と(N−1)個の可飽和吸収領域[キャリア非注入領域]とが設けられ、発光領域が可飽和吸収領域を挟んで配置されている状態
(5’)N個の可飽和吸収領域[キャリア非注入領域]と(N−1)個の発光領域[キャリア注入領域、利得領域]とが設けられ、可飽和吸収領域が発光領域を挟んで配置されている状態
である。尚、(3)、(5)、(5’)の構造を採用することで、モード同期半導体レーザ素子の光出射端面における損傷が発生し難くなる。
【0041】
モード同期半導体レーザ素子は、例えば、以下の方法で製造することができる。即ち、
(A)基体上に、第1導電型を有し、GaN系化合物半導体から成る第1化合物半導体層、GaN系化合物半導体から成る発光領域及び可飽和吸収領域を構成する第3化合物半導体層、並びに、第1導電型と異なる第2導電型を有し、GaN系化合物半導体から成る第2化合物半導体層が、順次、積層されて成る積層構造体を形成した後、
(B)第2化合物半導体層上に帯状の第2電極を形成し、次いで、
(C)第2電極をエッチング用マスクとして、少なくとも第2化合物半導体層の一部分をエッチングして、リッジストライプ構造を形成した後、
(D)分離溝を第2電極に形成するためのレジスト層を形成し、次いで、レジスト層をウエットエッチング用マスクとして、第2電極に分離溝をウエットエッチング法にて形成し、以て、第2電極を第1部分と第2部分とに分離溝によって分離する、
各工程を具備した製造方法に基づき製造することができる。
【0042】
そして、このような製造方法を採用することで、即ち、帯状の第2電極をエッチング用マスクとして、少なくとも第2化合物半導体層の一部分をエッチングして、リッジストライプ構造を形成するので、即ち、パターニングされた第2電極をエッチング用マスクとして用いてセルフアライン方式にてリッジストライプ構造を形成するので、第2電極とリッジストライプ構造との間に合わせずれが生じることがない。また、第2電極に分離溝をウエットエッチング法にて形成する。このように、ドライエッチング法と異なり、ウエットエッチング法を採用することで、第2化合物半導体層に光学的、電気的特性の劣化が生じることを抑制することができる。それ故、発光特性に劣化が生じることを、確実に防止することができる。
【0043】
尚、工程(C)にあっては、第2化合物半導体層を厚さ方向に一部分、エッチングしてもよいし、第2化合物半導体層を厚さ方向に全部、エッチングしてもよいし、第2化合物半導体層及び第3化合物半導体層を厚さ方向にエッチングしてもよいし、第2化合物半導体層及び第3化合物半導体層、更には、第1化合物半導体層を厚さ方向に一部分、エッチングしてもよい。
【0044】
更には、前記工程(D)において、第2電極に分離溝を形成する際の、第2電極のエッチングレートをER0、積層構造体のエッチングレートをER1としたとき、ER0/ER1≧1×10、好ましくは、ER0/ER1≧1×102を満足することが望ましい。ER0/ER1がこのような関係を満足することで、積層構造体をエッチングすること無く(あるいは、エッチングされても僅かである)、第2電極を確実にエッチングすることができる。
【0045】
モード同期半導体レーザ素子において、積層構造体は、具体的には、AlGaInN系化合物半導体から成る構成とすることができる。ここで、AlGaInN系化合物半導体として、より具体的には、GaN、AlGaN、GaInN、AlGaInNを挙げることができる。更には、これらの化合物半導体に、所望に応じて、ホウ素(B)原子やタリウム(Tl)原子、ヒ素(As)原子、リン(P)原子、アンチモン(Sb)原子が含まれていてもよい。また、発光領域(利得領域)及び可飽和吸収領域を構成する第3化合物半導体層(活性層)は、量子井戸構造を有することが望ましい。具体的には、単一量子井戸構造[QW構造]を有していてもよいし、多重量子井戸構造[MQW構造]を有していてもよい。量子井戸構造を有する第3化合物半導体層(活性層)は、井戸層及び障壁層が、少なくとも1層、積層された構造を有するが、(井戸層を構成する化合物半導体,障壁層を構成する化合物半導体)の組合せとして、(InyGa(1-y)N,GaN)、(InyGa(1-y)N,InzGa(1-z)N)[但し、y>z]、(InyGa(1-y)N,AlGaN)を例示することができる。
【0046】
更には、モード同期半導体レーザ素子において、第2化合物半導体層は、p型GaN層及びp型AlGaN層が交互に積層された超格子構造を有し;超格子構造の厚さは0.7μm以下である構造とすることができる。このような超格子構造の構造を採用することで、クラッド層として必要な屈折率を維持しながら、モード同期半導体レーザ素子の直列抵抗成分を下げることができ、モード同期半導体レーザ素子の低動作電圧化につながる。尚、超格子構造の厚さの下限値として、限定するものではないが、例えば、0.3μmを挙げることができるし、超格子構造を構成するp型GaN層の厚さとして1nm乃至5nmを例示することができるし、超格子構造を構成するp型AlGaN層の厚さとして1nm乃至5nmを例示することができるし、p型GaN層及びp型AlGaN層の層数合計として、60層乃至300層を例示することができる。また、第3化合物半導体層から第2電極までの距離は1μm以下、好ましくは、0.6μm以下である構成とすることができる。このように第3化合物半導体層から第2電極までの距離を規定することで、抵抗の高いp型の第2化合物半導体層の厚さを薄くし、モード同期半導体レーザ素子の動作電圧の低減化を達成することができる。尚、第3化合物半導体層から第2電極までの距離の下限値として、限定するものではないが、例えば、0.3μmを挙げることができる。また、第2化合物半導体層には、Mgが、1×1019cm-3以上、ドーピングされており;第3化合物半導体層からの波長405nmの光に対する第2化合物半導体層の吸収係数は、少なくとも50cm-1である構成とすることができる。このMgの原子濃度は、2×1019cm-3の値で最大の正孔濃度を示すという材料物性に由来しており、最大の正孔濃度、即ち、この第2化合物半導体層の比抵抗が最小になるように設計された結果である。第2化合物半導体層の吸収係数は、モード同期半導体レーザ素子の抵抗を出来るだけ下げるという観点で規定されているものであり、その結果、第3化合物半導体層の光の吸収係数が、50cm-1となるのが一般的である。しかし、この吸収係数を上げるために、Mgドープ量を故意に2×1019cm-3以上の濃度に設定することも可能である。この場合には、実用的な正孔濃度が得られる上での上限のMgドープ量は、例えば8×1019cm-3である。また、第2化合物半導体層は、第3化合物半導体層側から、ノンドープ化合物半導体層、及び、p型化合物半導体層を有しており;第3化合物半導体層からp型化合物半導体層までの距離は、1.2×10-7m以下である構成とすることができる。このように第3化合物半導体層からp型化合物半導体層までの距離を規定することで、内部量子効率が低下しない範囲で、内部損失を抑制することができ、これにより、レーザ発振が開始される閾値電流密度を低減させることができる。尚、第3化合物半導体層からp型化合物半導体層までの距離の下限値として、限定するものではないが、例えば、5×10-8mを挙げることができる。また、リッジストライプ構造の両側面には、SiO2/Si積層構造から成る積層絶縁膜が形成されており;リッジストライプ構造の有効屈折率と積層絶縁膜の有効屈折率との差は、5×10-3乃至1×10-2である構成とすることができる。このような積層絶縁膜を用いることで、100ミリワットを超える高出力動作であっても、単一基本横モードを維持することができる。また、第2化合物半導体層は、第3化合物半導体層側から、例えば、ノンドープGaInN層(p側光ガイド層)、MgドープAlGaN層(電子障壁層)、GaN層(Mgドープ)/AlGaN層の超格子構造(超格子クラッド層)、及び、MgドープGaN層(p側コンタクト層)が積層されて成る構造とすることができる。第3化合物半導体層における井戸層を構成する化合物半導体のバンドギャップは、2.4eV以上であることが望ましい。また、第3化合物半導体層(活性層)から出射されるレーザ光の波長は、360nm乃至500nm、好ましくは400nm乃至410nmであることが望ましい。ここで、以上に説明した各種の構成を、適宜、組み合わせることができることは云うまでもない。
【0047】
モード同期半導体レーザ素子にあっては、モード同期半導体レーザ素子を構成する各種のGaN系化合物半導体層を基板に順次形成するが、ここで、基板として、サファイア基板の他にも、GaAs基板、GaN基板、SiC基板、アルミナ基板、ZnS基板、ZnO基板、AlN基板、LiMgO基板、LiGaO2基板、MgAl24基板、InP基板、Si基板、これらの基板の表面(主面)に下地層やバッファ層が形成されたものを挙げることができる。主に、GaN系化合物半導体層を基板に形成する場合、GaN基板が欠陥密度の少なさから好まれるが、GaN基板は成長面によって、極性/無極性/半極性と特性が変わることが知られている。また、モード同期半導体レーザ素子を構成する各種の化合物半導体層(例えば、GaN系化合物半導体層)の形成方法として、有機金属化学的気相成長法(MOCVD法,MOVPE法)や分子線エピタキシー法(MBE法)、ハロゲンが輸送あるいは反応に寄与するハイドライド気相成長法等を挙げることができる。
【0048】
ここで、MOCVD法における有機ガリウム源ガスとして、トリメチルガリウム(TMG)ガスやトリエチルガリウム(TEG)ガスを挙げることができるし、窒素源ガスとして、アンモニアガスやヒドラジンガスを挙げることができる。また、n型の導電型を有するGaN系化合物半導体層の形成においては、例えば、n型不純物(n型ドーパント)としてケイ素(Si)を添加すればよいし、p型の導電型を有するGaN系化合物半導体層の形成においては、例えば、p型不純物(p型ドーパント)としてマグネシウム(Mg)を添加すればよい。また、GaN系化合物半導体層の構成原子としてアルミニウム(Al)あるいはインジウム(In)が含まれる場合、Al源としてトリメチルアルミニウム(TMA)ガスを用いればよいし、In源としてトリメチルインジウム(TMI)ガスを用いればよい。更には、Si源としてモノシランガス(SiH4ガス)を用いればよいし、Mg源としてシクロペンタジエニルマグネシウムガスやメチルシクロペンタジエニルマグネシウム、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)を用いればよい。尚、n型不純物(n型ドーパント)として、Si以外に、Ge、Se、Sn、C、Te、S、O、Pd、Poを挙げることができるし、p型不純物(p型ドーパント)として、Mg以外に、Zn、Cd、Be、Ca、Ba、C、Hg、Srを挙げることができる。
【0049】
第1導電型をn型とするとき、n型の導電型を有する第1化合物半導体層に電気的に接続された第1電極は、金(Au)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、Al(アルミニウム)、Ti(チタン)、タングステン(W)、Cu(銅)、Zn(亜鉛)、錫(Sn)及びインジウム(In)から成る群から選択された少なくとも1種類の金属を含む、単層構成又は多層構成を有することが望ましく、例えば、Ti/Au、Ti/Al、Ti/Pt/Auを例示することができる。第1電極は第1化合物半導体層に電気的に接続されているが、第1電極が第1化合物半導体層上に形成された形態、第1電極が導電材料層や導電性の基板を介して第1化合物半導体層に接続された形態が包含される。第1電極や第2電極は、例えば、真空蒸着法やスパッタリング法等のPVD法にて成膜することができる。
【0050】
第1電極や第2電極上に、外部の電極あるいは回路と電気的に接続するために、パッド電極を設けてもよい。パッド電極は、Ti(チタン)、アルミニウム(Al)、Pt(白金)、Au(金)、Ni(ニッケル)から成る群から選択された少なくとも1種類の金属を含む、単層構成又は多層構成を有することが望ましい。あるいは又、パッド電極を、Ti/Pt/Auの多層構成、Ti/Auの多層構成に例示される多層構成とすることもできる。
【0051】
第1の構成あるいは第2の構成のモード同期半導体レーザ素子においては、前述したとおり、第1電極と第2部分との間に逆バイアス電圧を印加する構成(即ち、第1電極を正極、第2部分を負極とする構成)とすることが望ましい。尚、第2電極の第2部分には、第2電極の第1部分に印加するパルス電流あるいはパルス電圧と同期したパルス電流あるいはパルス電圧を印加してもよいし、直流バイアスを印加してもよい。また、第2電極から発光領域を経由して第1電極に電流を流し、且つ、第2電極から発光領域を経由して第1電極に外部電気信号を重畳させる形態とすることができる。そして、これによって、レーザ光パルスと外部電気信号との間の同期を取ることができる。あるいは又、積層構造体の一端面から光信号を入射させる形態とすることができる。そして、これによっても、レーザ光パルスと光信号との間の同期を取ることができる。また、第2化合物半導体層において、第3化合物半導体層と電子障壁層との間には、ノンドープ化合物半導体層(例えば、ノンドープGaInN層、あるいは、ノンドープAlGaN層)を形成してもよい。更には、第3化合物半導体層とノンドープ化合物半導体層との間に、光ガイド層としてのノンドープGaInN層を形成してもよい。第2化合物半導体層の最上層を、MgドープGaN層(p側コンタクト層)が占めている構造とすることもできる。
【0052】
モード同期半導体レーザ素子は、バイ・セクション型(2電極型)の半導体レーザ素子に限定するものではなく、その他、マルチセクション(多電極型)型の半導体レーザ素子、発光領域と可飽和吸収領域とを垂直方向に配置したSAL(Saturable Absorber Layer)型や、リッジストライプ構造に沿って可飽和吸収領域を設けたWI(Weakly Index guide)型の半導体レーザ素子を採用することもできる。
【0053】
本開示の半導体レーザ装置組立体を、例えば、光ディスクシステム、通信分野、光情報分野、光電子集積回路、非線形光学現象を応用した分野、光スイッチ、レーザ計測分野や種々の分析分野、超高速分光分野、多光子励起分光分野、質量分析分野、多光子吸収を利用した顕微分光の分野、化学反応の量子制御、ナノ3次元加工分野、多光子吸収を応用した種々の加工分野、医療分野、バイオイメージング分野といった分野に適用することができる。
【実施例1】
【0054】
実施例1は、本開示の第1の態様及び第2の態様に係る半導体レーザ装置組立体に関する。実施例1の半導体レーザ装置組立体の概念図を図1に示し、モード同期半導体レーザ素子10の共振器の延びる方向に沿った模式的な端面図を図2に示し、モード同期半導体レーザ素子の共振器の延びる方向と直角方向に沿った模式的な断面図を図3に示す。
【0055】
実施例1の半導体レーザ装置組立体は、本開示の第1の態様に係る半導体レーザ装置組立体に沿って説明すれば、
光密度が、1×1010ワット/cm2以上であり、且つ、キャリア密度が1×1019/cm3以上である電流注入型であって受動モード同期のモード同期半導体レーザ素子10、及び、
モード同期半導体レーザ素子10から出射されたレーザ光が入出射される分散補償光学系110、
を備えている。
【0056】
また、本開示の第2の態様に係る半導体レーザ装置組立体に沿って説明すれば、
電流注入型であって受動モード同期のモード同期半導体レーザ素子10、及び、
モード同期半導体レーザ素子10から出射されたレーザ光が入出射される分散補償光学系110、
を備え、
分散補償光学系110の群速度分散値を、第1の所定値GVD1から第2の所定値GVD2(但し、|GVD1|<|GVD2|)まで単調に変化させたとき、モード同期半導体レーザ素子10から系外に出力されるレーザ光のパルス時間幅は、減少し、極小値PWminを超えて増加する。
【0057】
ここで、実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例4において、モード同期半導体レーザ素子10は、
GaN系化合物半導体から成り、第1導電型を有する第1化合物半導体層30、
GaN系化合物半導体から成る第3化合物半導体層(活性層)40、及び、
GaN系化合物半導体から成り、第1導電型とは異なる第2導電型を有する第2化合物半導体層50、
が、順次、積層されて成る積層構造体を有する。
【0058】
そして、分散補償光学系110における群速度分散値は負である。即ち、0>GVD1>GVD2であるが故に、分散補償光学系110の群速度分散値を、第1の所定値GVD1から第2の所定値GVD2まで単調に減少させる。
【0059】
実施例1にあっては、モード同期半導体レーザ素子10から出射されたレーザ光は、分散補償光学系110に入射され、分散補償光学系110に入射したレーザ光の一部は、分散補償光学系110から出射され、モード同期半導体レーザ素子10に戻され、分散補償光学系110に入射したレーザ光の残りは、系外に出力される。外部共振器構造は分散補償光学系110によって構成される。そして、具体的には、分散補償光学系110は、ホログラフィック型の回折格子111、集光手段(具体的には、レンズ)112及び反射鏡(平面反射鏡であり、具体的には、例えば、誘電多層膜反射鏡)113から成る。尚、外部共振器は、反射鏡113とモード同期半導体レーザ素子10の第1端面とから構成される。回折格子111は、モード同期半導体レーザ素子10から出射されたパルス状のレーザ光の内、1次以上の回折光を集光手段112に入射させ、0次の回折光(反射光)を系外へ出力する。モード同期半導体レーザ素子10と回折格子111との間には、モード同期半導体レーザ素子10からのレーザ光を平行光束とするためのコリメート手段11である焦点距離4.0mmの非球面の凸レンズが配されている。回折格子に入射(衝突)するレーザ光の中に含まれる回折格子における格子状のパターンの本数は、実施例1にあっては、2400本/mmである。そして、モード同期半導体レーザ素子10から出射されたパルス状のレーザ光は、回折格子111に衝突し、1次以上の回折光が集光手段(レンズ)112に入射し、反射鏡113によって反射され、集光手段112、回折格子111を経由してモード同期半導体レーザ素子10に戻される。また、0次の回折光(反射光)は系外に出力される。
【0060】
集光手段112と反射鏡113との間の距離を固定し、回折格子111と集光手段112及び反射鏡113との間の距離を、周知の移動手段を用いて変えることで、分散補償光学系110における群速度分散値(分散補償量)を変えることができる。具体的には、集光手段112と反射鏡113とを、一体として、集光手段112の光軸上(1次の回折光の光路上)を移動させることで、分散補償光学系110に入射するレーザ光と出射するレーザ光とにおいて、相互に分散の変化を生じさせる。実施例1にあっては、集光手段112と反射鏡113との間の距離を100mmとし、凸のパワーを有する集光手段(レンズ)112の焦点距離を100mmとした。即ち、集光手段112と反射鏡113との間の距離と、凸のパワーを有する集光手段(レンズ)112の焦点距離とは一致しており、レーザ光の像は、集光手段112によって反射鏡113において結像する。集光手段112に入射する光と出射する光とは、倍率1.0の望遠鏡における入射光と出射光の関係にある。
【0061】
例えば、回折格子111と集光手段112との間の距離が集光手段112の焦点距離と等しい場合、回折格子111から集光手段112に向かうレーザ光と反射鏡113で反射されて集光手段112を経由して回折格子111に入射するレーザ光の角度分散は変化しない。従って、この場合、分散補償光学系が与える分散補償量はゼロである。一方、回折格子111と集光手段112との距離が集光手段112の焦点距離よりも長い場合、回折格子111で回折されたレーザ光の内、長波長成分の光路は短波長成分の光路よりも長くなり、この場合、負の群速度分散を形成する。即ち、群速度分散値は負となる。以下の説明において、回折格子111と集光手段112との距離を『距離L』と呼ぶ。距離L=0mmとは、回折格子111と集光手段112との距離が集光手段112の焦点距離と同じことを意味し、距離Lの値(L>0)は、回折格子111と集光手段112との距離が集光手段112の焦点距離よりもLmm長いことを意味する。分散補償量は、後述する距離Lに比例する量である。距離Lが正の値において分散補償光学系110が与える分散は負の群速度分散である。
【0062】
図21に示すように、波長λの光が反射型の回折格子に角度αで入射し、角度βで回折するものとする。ここで、角度α,βは回折格子の法線からの角度であり、反時計回りを正とする。するとグレーティング方程式は次のとおりとなる。ここで、dGは回折格子の溝の間隔であり、mは回折次数(m=0,±1,±2・・・である。
G×{sin(α)+sin(β)}=m・λ (A)
【0063】
溝の斜面に対して、入射光とm次の回折光が鏡面反射の関係にあるとき、m次の回折光にエネルギーの大部分が集中する。このときの溝の傾きをブレーズ角と呼び、θBで表すと、
θB=(α+β)/2
となる。また、このときの波長をブレーズ波長といい、λBと表すと、
λB={2dG/m}sin(θB)・cos(α−θB
となる。
【0064】
実施例1の半導体レーザ装置組立体にあっては、更に、波長選択手段200を備えている。そして、波長選択手段200は、系外に出力されるレーザ光の短波長成分を抽出する。波長選択手段200は、具体的には、バンドパスフィルタから成る。これによって、インコヒーレントな光パルス成分が除去され、コヒーレントな光パルスを得ることができる。バンドパスフィルタは、例えば、低誘電率を有する誘電体薄膜と、高誘電率を有する誘電体薄膜とを積層することで得ることができる。尚、参照番号201は、平面鏡である。
【0065】
実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例4において、モード同期半導体レーザ素子10は可飽和吸収領域を有する。具体的には、モード同期半導体レーザ素子10は、共振器方向に発光領域と可飽和吸収領域とを並置したバイ・セクション型のモード同期半導体レーザ素子10から成る。具体的には、発光波長405nm帯のバイ・セクション型のモード同期半導体レーザ素子10は、図2及び図3に示すように、
(a)第1導電型(各実施例においては、具体的には、n型導電型)を有し、GaN系化合物半導体から成る第1化合物半導体層30、GaN系化合物半導体から成る発光領域(利得領域)41及び可飽和吸収領域42を構成する第3化合物半導体層(活性層)40、並びに、第1導電型と異なる第2導電型(各実施例においては、具体的には、p型導電型)を有し、GaN系化合物半導体から成る第2化合物半導体層50が、順次、積層されて成る積層構造体、
(b)第2化合物半導体層50上に形成された帯状の第2電極62、並びに、
(c)第1化合物半導体層30に電気的に接続された第1電極61、
を備えている。
【0066】
実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例4におけるモード同期半導体レーザ素子10は、具体的には、リッジストライプ型の分離閉じ込めヘテロ構造(SCH構造)を有する半導体レーザ素子である。より具体的には、このモード同期半導体レーザ素子10は、インデックスガイド型のAlGaInNから成るGaN系半導体レーザ素子であり、リッジストライプ構造を有する。そして、第1化合物半導体層30、第3化合物半導体層40、及び、第2化合物半導体層50は、具体的には、AlGaInN系化合物半導体から成り、より具体的には、以下の表1に示す層構成を有する。ここで、表1において、下方に記載した化合物半導体層ほど、n型GaN基板21に近い層である。第3化合物半導体層40における井戸層を構成する化合物半導体のバンドギャップは3.06eVである。実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例4におけるモード同期半導体レーザ素子10は、n型GaN基板21の(0001)面上に設けられており、第3化合物半導体層40は量子井戸構造を有する。n型GaN基板21の(0001)面は、『C面』とも呼ばれ、極性を有する結晶面である。
【0067】
[表1]
第2化合物半導体層50
p型GaNコンタクト層(Mgドープ)54
p型GaN(Mgドープ)/AlGaN超格子クラッド層53
p型AlGaN電子障壁層(Mgドープ)52
ノンドープGaInN光ガイド層51
第3化合物半導体層40
GaInN量子井戸活性層
(井戸層:Ga0.92In0.08N/障壁層:Ga0.98In0.02N)
第1化合物半導体層30
n型GaNクラッド層32
n型AlGaNクラッド層31
但し、
井戸層(2層) 8nm ノン・ドープ
障壁層(3層) 14nm Siドープ
【0068】
また、p型GaNコンタクト層54及びp型GaN/AlGaN超格子クラッド層53の一部は、RIE法にて除去されており、リッジストライプ構造55が形成されている。リッジストライプ構造55の両側にはSiO2/Siから成る積層絶縁膜56が形成されている。尚、SiO2層が下層であり、Si層が上層である。ここで、リッジストライプ構造55の有効屈折率と積層絶縁膜56の有効屈折率との差は、5×10-3乃至1×10-2、具体的には、7×10-3である。そして、リッジストライプ構造55の頂面に相当するp型GaNコンタクト層54上には、第2電極(p側オーミック電極)62が形成されている。一方、n型GaN基板21の裏面には、Ti/Pt/Auから成る第1電極(n側オーミック電極)61が形成されている。
【0069】
実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例4におけるモード同期半導体レーザ素子10にあっては、第3化合物半導体層40及びその近傍から発生した光密度分布に、Mgドープした化合物半導体層である、p型AlGaN電子障壁層52、p型GaN/AlGaN超格子クラッド層53及びp型GaNコンタクト層54が出来るだけ重ならないようにすることで、内部量子効率が低下しない範囲で、内部損失を抑制している。そして、これにより、レーザ発振が開始される閾値電流密度を低減させている。具体的には、第3化合物半導体層40からp型AlGaN電子障壁層52までの距離dを0.10μm、リッジストライプ構造55の高さを0.30μm、第2電極62と第3化合物半導体層40との間に位置する第2化合物半導体層50の厚さを0.50μm、第2電極62の下方に位置するp型GaN/AlGaN超格子クラッド層53の部分の厚さを0.40μmとした。また、リッジストライプ構造55は、端面反射を軽減させるために、第2端面に向かって湾曲しているが、このような形状に限定するものではない。
【0070】
そして、実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例4におけるモード同期半導体レーザ素子10において、第2電極62は、発光領域(利得領域)41を経由して第1電極61に直流電流を流すことで順バイアス状態とするための第1部分62Aと、可飽和吸収領域42に電界を加えるための第2部分62B(可飽和吸収領域42に逆バイアス電圧Vsaを加えるための第2部分62B)とに、分離溝62Cによって分離されている。ここで、第2電極62の第1部分62Aと第2部分62Bとの間の電気抵抗値(『分離抵抗値』と呼ぶ場合がある)は、第2電極62と第1電極61との間の電気抵抗値の1×10倍以上、具体的には1.5×103倍である。また、第2電極62の第1部分62Aと第2部分62Bとの間の電気抵抗値(分離抵抗値)は、1×102Ω以上、具体的には、1.5×104Ωである。モード同期半導体レーザ素子10の共振器長を600μm、第2電極62の第1部分62A、第2部分62B、分離溝62Cのそれぞれの長さを、560μm、30μm、10μmとした。また、リッジストライプ構造55の幅を1.4μmとした。
【0071】
実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例4におけるモード同期半導体レーザ素子10において、コリメート手段11と対向する光出射端面(第2端面)には、無反射コート層(AR)が形成されている。一方、モード同期半導体レーザ素子10における光出射端面(第2端面)と対向する端面(第1端面)には、高反射コート層(HR)が形成されている。可飽和吸収領域42は、モード同期半導体レーザ素子10における第1端面の側に設けられている。無反射コート層(低反射コート層)として、酸化チタン層、酸化タンタル層、酸化ジルコニア層、酸化シリコン層及び酸化アルミニウム層から成る群から選択された少なくとも2種類の層の積層構造を挙げることができる。
【0072】
実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例4におけるモード同期半導体レーザ素子10のパルス繰返し周波数を1GHzとした。尚、外部共振器長さX’(第1端面と反射鏡113との間の距離)によって光パルス列の繰り返し周波数fが決定され、次式で表される。ここで、cは光速であり、nは共振器の実効的な屈折率である。
f=c/(2n・X’)
【0073】
ところで、レーザ発振に必要な光学利得を得るためには活性層40内に高密度のキャリアを注入(励起)し、反転分布を形成する必要がある。ここで、電子及び正孔の有効質量が大きいGaN系化合物半導体から半導体レーザ素子を構成する場合、光学利得が正の値を取るには活性層40のキャリア密度が1019/cm3を超える必要がある(例えば、高橋清監修、吉川明彦、長谷川文夫編著「ワイドギャップ半導体 光・電子デバイス」、森北出版、p.124-126 参照)。この反転分布キャリア密度は、例えば、前述した非特許文献1に示されるGaAs系化合物半導体から成る半導体レーザ素子と比較して、1桁程度高く、GaN系化合物半導体から成る半導体レーザ素子の発振には非常に高密度のキャリア密度を注入する必要がある。実施例1のモード同期半導体レーザ素子にあっては、キャリア密度(反転分布キャリア密度)は約1.7×1019/cm3と見積もられる。
【0074】
以下、発生したサブピコ秒台の光パルスの状態について説明する。
【0075】
光パルスの強度相関測定の測定原理、相関関数の種類とパルス時間幅と導出方法については、ヤリフ著、「光エレクトロニクスの基礎 第3版」、丸善株式会社、第183〜196頁、あるいは、Vasil’ev,"Ultrafast diode lasers", Artech House, pp39-43 に詳しく述べられている。
【0076】
実施例1の半導体レーザ装置組立体において得られた光パルスの相関波形を図4の(A)に示す。尚、図4の(A)の横軸は時間(単位:ピコ秒)であり、縦軸は光強度(単位:任意)である。ここで、半導体レーザ装置組立体の駆動条件を、第2電極62から発光領域(利得領域)41を経由して第1電極61に流す直流電流(ゲイン電流I)を130ミリアンペア、可飽和吸収領域42に加える逆バイアス電圧Vsaを−7ボルト、L=7.28mmとした。尚、分散補償光学系110における群速度分散値は−0.0390ps2[(ピコ秒)2]である。
【0077】
得られた光パルスの半値全幅(FWHM)の値は0.45ピコ秒であり、ガウス型やsech2型の光パルスの相関波形と異なる特徴的な形を示している。このときの光スペクトルを図4の(B)に示す。尚、図4の(B)の横軸は波長(単位:nm)であり、縦軸は光パワー(単位:ミリワット)である。このようにして得られた光パルスを、バンドパスフィルタ(透過帯域Δλ=1.3nm)から成る波長選択手段200を通過させ、光パルスの短波長側を切り出したときの相関波形を図5の(A)に示す。尚、図5の(A)の横軸は時間(単位:ピコ秒)であり、縦軸は光強度(単位:任意)である。波長選択手段200を通過させることで、相関波形のテール(裾野)が除去され、時間ゼロ付近にsech2型の相関波形(便宜上、『中心部分の相関波形』と呼ぶ)が得られ、更に、中心部分の相関波形の両脇に複数のサイドパルスが得られる。中心部分の相関波形の半値全幅は290フェムト秒であり、sech2型関数の自己相関関数のコンボリューション因子0.65を用いると、発生した光パルスの半値全幅は190フェムト秒と評価される。このときの光スペクトルを図5の(B)に示すが、スペクトル幅は1.06nmであり、時間帯域幅積は0.34と計算され、sech2型関数のフーリエ積の限界0.315に近い。尚、図5の(B)の横軸は波長(単位:nm)であり、縦軸は光パワー(単位:ミリワット)である。また、半導体レーザ装置組立体からの出力パワーは、波長選択手段200の通過前で11.46ミリワット、波長選択手段200の通過後で3.0ミリワットであった。レーザ光の繰返し周波数は1.03GHzであり、求められたパルス時間幅から、ピークパワーは10ワットと計算される。尚、相関波形にみられる複数のパルスの高さから、中心のパルスにパルスエネルギーの66%が集中していると仮定した。
【0078】
このような特徴的なパルス形状は、分散補償量(群速度分散値)に依存して変化する。種々の分散補償量における光パルスの相関波形を図6に示す。尚、図6の横軸は時間(単位:ピコ秒)であり、縦軸は光強度(単位:任意)である。いずれの相関波形も、波長選択手段200を通過した後のパルス波形である。尚、ゲイン電流Iを120ミリアンペア、逆バイアス電圧Vsaを−7ボルトとした。図6において、各光パルスにおける群速度分散値は以下のとおりである。図6から、群速度分散値が減少(群速度分散値の絶対値が増加)すると共に、時間ゼロの主パルス以外のサブパルスの個数が減少していることが判る。また、群速度分散値の減少(群速度分散値の絶対値が増加)と共に、主パルスのパルス時間幅が増加している。尚、光パルス「A」が得られるときの群速度分散値が群速度分散極小値GVDminであり、光パルス「E」が得られるときの群速度分散値が群速度分散値の上限値GVDSであり、『群速度分散値の近傍』は、
GVDS±|GVDmin−GVDS
で定義される。
【0079】
光パルス「A」:−0.0390ps2
光パルス「B」:−0.0406ps2
光パルス「C」:−0.0443ps2
光パルス「D」:−0.0497ps2
光パルス「E」:−0.0630ps2
【0080】
以上の結果から、最短のパルス時間幅を得るには、負の群速度分散値(群速度分散値)を或る範囲内で小さくする必要がある。しかしながら、場合によっては、サブパルスが発生するため、半導体レーザ装置組立体の用途によっては、単純にパルス時間幅を最短とすることは、必ずしも望ましくない。例えば、発生した超短パルスを半導体光増幅器で増幅する場合、増幅されたパルスのエネルギーがサブパルスに分割されてしまう虞がある。
【0081】
それ故、適切な分散補償量(群速度分散値)を設定することで、より具体的には、距離Lを適切に設定することで、発生するパルスが主パルスのみであり、しかも、パルス時間幅を出来る限り短く(狭く)することができる。このような場合の光パルスの相関波形を図7の(A)に示す。尚、図7の(A)の横軸は時間(単位:ピコ秒)であり、縦軸は光強度(単位:任意)である。ここで、ゲイン電流Iを120ミリアンペア、逆バイアス電圧Vsaを−7ボルトとした。群速度分散値は−0.0630ps2であり、得られた光パルスの半値全幅は0.57ピコ秒であり、sech2形状のパルス時間幅は0.37ピコ秒である。また、図7の(B)に、対応する光スペクトルを示す。スペクトル幅は1.56nmであり、時間帯域幅積は1.06と求められ、出射したパルスはチャープしていることが判る。波長選択手段200を通過させた後の平均パワーは3.0ミリワットであり、出射した光パルスのピークパワーは約8ワットと求められる。
【0082】
このような光パルスが発生するときの第2端面における光密度は次のようにして求めることができる。第2端面における光密度は、光パワーを第2端面におけるレーザ光の近視野像の断面積で除した値で定義される。尚、第2端面における光パワーは、共振器から出力されるときの効率で除する必要があり、本構成では約5%である。近視野像の断面積とは、近視野像の光強度がピークパワーに対して1/e2倍の強度であるときの断面積を指す。実施例1におけるモード同期半導体レーザ素子における近視野像の断面積は1.08μm2であり、この値を用いると光密度は約15ギガワット/cm2と計算される。
【0083】
以下、サブピコ秒台の光パルスが発生する駆動条件について説明する。
【0084】
サブピコ秒台の光パルスが発生する駆動条件は、ゲイン電流I、逆バイアス電圧Vsa、分散補償量(群速度分散値)[云い換えれば、距離L]に依存する。レーザ発振を得られる最も低いゲイン電流I(100ミリアンペア)及び逆バイアス電圧Vsa(−5.5ボルト)、並びに、距離L=14.1mmといった駆動条件における光パルスの相関波形を図8の(A)に示し、光スペクトルを図8の(B)に示す。尚、図8の(A)及び(B)において、「A」は、波長選択手段200を通過させる前の状態を示し、「B」は、波長選択手段200を通過させた後の状態を示し、光パワーは、それぞれ、7.04ミリワット及び1.5ミリワットである。波長選択手段200を通過させた後にあっては、光パルスのパルス時間幅が0.42ピコ秒である。また、このときの群速度分散値は−0.0753ps2である。尚、駆動条件は、ゲイン電流I、逆バイアス電圧Vsa、分散補償量(群速度分散値)の他に、外部共振器のフィードバック量にも依存するため、レーザ発振を得られる駆動条件の下限値は上記の値に限定されない。
【0085】
逆バイアス電圧Vsa=−7ボルト、ゲイン電流I=130ミリアンペアの条件において、距離Lと光パルスの半値全幅の関係を求めた結果を図9の(A)に示し、群速度分散値と光パルスの半値全幅の関係を求めた結果を図9の(B)に示す。尚、図9の(A)と図9の(B)とは、同じデータに基づき作成したグラフである。また、「A」は、波長選択手段200を通過させる前の状態を示し、「B」は、波長選択手段200を通過させた後の状態を示す。尚、図9の(A)及び(B)に示した距離Lと群速度分散値との間には、
群速度分散値(ps2)=―5.352×10-3×L(mm)
といった関係が存在する。尚、
群速度分散値=−(λ3/(π・c2・dG2・cos2θr))・2・L
で一般的には与えられる。ここで、
λ :波長
c :光速
G:回折格子の溝の間隔
θr:回折格子の法線に対する回折光の角度
である。
【0086】
図9の(A)から、或る距離Lに向かってパルス半値全幅が急激に減少し、極小値を取ることが判る。このパルス半値全幅の極小値に対応する分散補償量(『分散補償極小量』と呼び、図9の(A)に示した例では、距離L=11.8mm)近傍に対応する分散補償量の僅かな変化で、前述したサイドパルスが現れることが判った。また、分散補償極小量よりも大きな分散補償量では、分散補償極小量よりも小さな分散補償量の範囲におけるパルス半値全幅の変化よりも、分散補償量に対するパルス半値全幅の変化は小さい。そして、分散補償極小量よりも大きな分散補償量の範囲では、分散補償量を変化させることで発生するパルスのチャープを調整することが可能である。パルス半値全幅が極小値の光パルスを波長選択手段200を通過させて、短波長成分のみを抽出することで、裾のないクリーンな光パルスを示す相関波形を得ることができる。更には、パルス時間幅が極小となる群速度分散値から負の側の群速度分散値において、裾のないクリーンな光パルスを示す相関波形を得ることができる。
【0087】
あるいは又、図9の(B)から、波長選択手段200を通過させる前の状態において、系外に出力されるレーザ光のパルス時間幅が極小値PWminとなるときの分散補償光学系110の群速度分散極小値をGVDminとし、分散補償光学系110の群速度分散値が負の第1の所定値GVD1であるときのレーザ光のパルス時間幅をPW1、分散補償光学系110の群速度分散値が負の第2の所定値GVD2であるときのレーザ光のパルス時間幅をPW2としたとき、
(PW1−PWmin)/|GVDmin−GVD1
≧2×(PW2−PWmin)/|GVD2−GVDmin
を満足している。但し、
|GVD1/GVDmin|=0.53
|GVD2/GVDmin|=2.1
である。具体的には、
PW1 =5.3ピコ秒
PW2 =2.9ピコ秒
PWmin =0.4ピコ秒
GVD1 =−0.0255ps2
GVD2 =−0.101ps2
GVDmin=−0.048ps2
である。
【0088】
パルス時間幅が極小となる群速度分散値から負の側の群速度分散値において、裾のないクリーンな光パルスを示す相関波形を得ることができるが、このような群速度分散値の範囲は、モード同期半導体レーザ素子から出力される光パルスのRFスペクトルによって調べることができる。具体的には、帯域幅が繰返し周波数以上ある高速のフォトダイオードで光パルスを受光すると、光パルスの繰返し周期についてのスペクトルを得ることができる。この繰返し周期は外部共振器の長さX’によって決定されるが、モード同期半導体レーザ素子内には種々の分散媒質が存在するため、周回時間には、通常、波長に依存してばらつきが存在する。RFスペクトルには、この繰返し周波数と共に、繰返し周波数のばらつきが反映される。図10の(A)に、群速度分散値が−0.0257ps2のときのRFスペクトルを示し、図10の(B)に、群速度分散値が−0.064ps2のときのRFスペクトルを示す。図10の(A)のスペクトルが得られる群速度分散値は、図9の(B)においてパルス時間幅が極小を示す位置の群速度分散値よりも小さい(群速度分散値の絶対値は大きい)。図10の(B)にみられるように、群速度分散値に依存して、RFスペクトルは、繰返し周波数の主ピークに対して周回時間の揺らぎを示す雑音成分が60dB以上、抑圧されていることが判る。即ち、系外に出力されるレーザ光の主発振周波数に対する雑音成分は−60dB以下であることが判る。また、系外に出力されるレーザ光のパルス時間幅が最小値PWminとなる群速度分散極小値GVDminあるいはその近傍において動作させることが好ましいことも判る。尚、極小値を示すパルス時間幅は、ゲイン電流Iに依存し、逆バイアス電圧Vsaが一定であれば、ゲイン電流Iが大きいほどパルス時間幅は小さくなるし、発生する光パルスは主パルスのみである。最小のパルス時間幅を示す場合のゲイン電流I(単位:ミリアンペア)に対するパルス時間幅(単位:ピコ秒)を以下の表2に示す。尚、表2中、「パルス時間幅A」は、波長選択手段200を通過させる前の値(単位:ピコ秒)であり、「パルス時間幅B」は、波長選択手段200を通過させた後の値である。また、逆バイアス電圧Vsaは、一定値(−7ボルト)とした。尚、ゲイン電流値120ミリアンペアを境に、レーザパルスの繰返し周波数が2倍となるため、発振特性が変化し、パルス時間幅Bの変化がこの電流値を境に不連続になっている。
【0089】
[表2]
ゲイン電流I パルス時間幅A パルス時間幅B
100 2.35 0.80
105 2.00 0.55
110 1.75 0.37
115 1.50 0.29
120 1.23 0.55
125 1.20 0.37
130 1.03 0.29
【0090】
このように、ゲイン電流Iの増大によって極小となるパルス時間幅は狭くなる傾向にある。図11に、ゲイン電流Iに対するパルス時間幅の依存性を示す。
【0091】
ところで、上述したとおり、第2化合物半導体層50上に、1×102Ω以上の分離抵抗値を有する2電極62を形成することが望ましい。GaN系半導体レーザ素子の場合、従来のGaAs系半導体レーザ素子とは異なり、p型導電型を有する化合物半導体における移動度が小さいために、p型導電型を有する第2化合物半導体層50をイオン注入等によって高抵抗化することなく、その上に形成される第2電極62を分離溝62Cで分離することで、第2電極62の第1部分62Aと第2部分62Bとの間の電気抵抗値を第2電極62と第1電極61との間の電気抵抗値の10倍以上とし、あるいは又、第2電極62の第1部分62Aと第2部分62Bとの間の電気抵抗値を1×102Ω以上とすることが可能となる。
【0092】
ここで、第2電極62に要求される特性は、以下のとおりである。即ち、
(1)第2化合物半導体層50をエッチングするときのエッチング用マスクとしての機能を有すること。
(2)第2化合物半導体層50の光学的、電気的特性に劣化を生じさせることなく、第2電極62はウエットエッチング可能であること。
(3)第2化合物半導体層50上に成膜したとき、10-2Ω・cm2以下のコンタクト比抵抗値を示すこと。
(4)積層構造とする場合、下層金属層を構成する材料は、仕事関数が大きく、第2化合物半導体層50に対して低いコンタクト比抵抗値を示し、しかも、ウエットエッチング可能であること。
(5)積層構造とする場合、上層金属層を構成する材料は、リッジストライプ構造を形成する際のエッチングに対して(例えば、RIE法において使用されるCl2ガス)に対して耐性があり、しかも、ウエットエッチング可能であること。
【0093】
実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例4にあっては、第2電極62を厚さ0.1μmのPd単層から構成した。
【0094】
尚、p型GaN層及びp型AlGaN層が交互に積層された超格子構造を有するp型GaN/AlGaN超格子クラッド層53の厚さは0.7μm以下、具体的には、0.4μmであり、超格子構造を構成するp型GaN層の厚さは2.5nmであり、超格子構造を構成するp型AlGaN層の厚さは2.5nmであり、p型GaN層及びp型AlGaN層の層数合計は160層である。また、第3化合物半導体層40から第2電極62までの距離は1μm以下、具体的には0.5μmである。更には、第2化合物半導体層50を構成するp型AlGaN電子障壁層52、p型GaN/AlGaN超格子クラッド層53、p型GaNコンタクト層54には、Mgが、1×1019cm-3以上(具体的には、2×1019cm-3)、ドーピングされており、波長405nmの光に対する第2化合物半導体層50の吸収係数は、少なくとも50cm-1、具体的には、65cm-1である。また、第2化合物半導体層50は、第3化合物半導体層側から、ノンドープ化合物半導体層(ノンドープGaInN光ガイド層51及びp型化合物半導体層を有しているが、第3化合物半導体層40からp型化合物半導体層(具体的には、p型AlGaN電子障壁層52)までの距離(d)は1.2×10-7m以下、具体的には100nmである。
【0095】
以下、図18の(A)、(B)、図19の(A)、(B)、図20を参照して、実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例3におけるモード同期半導体レーザ素子の製造方法を説明する。尚、図18の(A)、(B)、図19の(A)、(B)は、基板等をYZ平面にて切断したときの模式的な一部断面図であり、図20は、基板等をXZ平面にて切断したときの模式的な一部端面図である。
【0096】
[工程−100]
先ず、基体上、具体的には、n型GaN基板21の(0001)面上に、周知のMOCVD法に基づき、第1導電型(n型導電型)を有し、GaN系化合物半導体から成る第1化合物半導体層30、GaN系化合物半導体から成る発光領域(利得領域)41及び可飽和吸収領域42を構成する第3化合物半導体層(活性層40)、並びに、第1導電型と異なる第2導電型(p型導電型)を有し、GaN系化合物半導体から成る第2化合物半導体層50が、順次、積層されて成る積層構造体を形成する(図18の(A)参照)。
【0097】
[工程−110]
その後、第2化合物半導体層50上に帯状の第2電極62を形成する。具体的には、真空蒸着法に基づきPd層63を全面に成膜した後(図18の(B)参照)、Pd層63上に、フォトリソグラフィ技術に基づき帯状のエッチング用レジスト層を形成する。そして、王水を用いて、エッチング用レジスト層に覆われていないPd層63を除去した後、エッチング用レジスト層を除去する。こうして、図19の(A)に示す構造を得ることができる。尚、リフトオフ法に基づき、第2化合物半導体層50上に帯状の第2電極62を形成してもよい。
【0098】
[工程−120]
次いで、第2電極62をエッチング用マスクとして、少なくとも第2化合物半導体層50の一部分をエッチングして(具体的には、第2化合物半導体層50の一部分をエッチングして)、リッジストライプ構造を形成する。具体的には、Cl2ガスを用いたRIE法に基づき、第2電極62をエッチング用マスクとして用いて、第2化合物半導体層50の一部分をエッチングする。こうして、図19の(B)に示す構造を得ることができる。このように、帯状にパターニングされた第2電極62をエッチング用マスクとして用いてセルフアライン方式にてリッジストライプ構造を形成するので、第2電極62とリッジストライプ構造との間に合わせずれが生じることがない。
【0099】
[工程−130]
その後、分離溝を第2電極62に形成するためのレジスト層64を形成する(図20参照)。尚、参照番号65は、分離溝を形成するために、レジスト層64に設けられた開口部である。次いで、レジスト層64をウエットエッチング用マスクとして、第2電極62に分離溝62Cをウエットエッチング法にて形成し、以て、第2電極62を第1部分62Aと第2部分62Bとに分離溝62Cによって分離する。具体的には、王水をエッチング液として用い、王水に約10秒、全体を浸漬することで、第2電極62に分離溝62Cを形成する。そして、その後、レジスト層64を除去する。こうして、図2及び図3に示す構造を得ることができる。このように、ドライエッチング法と異なり、ウエットエッチング法を採用することで、第2化合物半導体層50の光学的、電気的特性に劣化が生じることがない。それ故、モード同期半導体レーザ素子の発光特性に劣化が生じることがない。尚、ドライエッチング法を採用した場合、第2化合物半導体層50の内部損失αiが増加し、閾値電圧が上昇したり、光出力の低下を招く虞がある。ここで、第2電極62のエッチングレートをER0、積層構造体のエッチングレートをER1としたとき、
ER0/ER1≒1×102
である。このように、第2電極62と第2化合物半導体層50との間に高いエッチング選択比が存在するが故に、積層構造体をエッチングすること無く(あるいは、エッチングされても僅かである)、第2電極62を確実にエッチングすることができる。尚、ER0/ER1≧1×10、好ましくは、ER0/ER1≧1×102を満足することが望ましい。
【0100】
第2電極を、厚さ20nmのパラジウム(Pd)から成る下層金属層と、厚さ200nmのニッケル(Ni)から成る上層金属層の積層構造としてもよい。ここで、王水によるウエットエッチングにあっては、ニッケルのエッチングレートは、パラジウムのエッチングレートの約1.25倍である。
【0101】
[工程−140]
その後、n側電極の形成、基板の劈開等を行い、更に、パッケージ化を行うことで、モード同期半導体レーザ素子10を作製することができる。
【0102】
製作したモード同期半導体レーザ素子10の第2電極62の第2部分62Aと第2部分62Bとの間の電気抵抗値を4端子法にて測定した結果、分離溝62Cの幅が20μmのとき、第2電極62の第1部分62Aと第2部分62Bとの間の電気抵抗値は15kΩであった。また、製作したモード同期半導体レーザ素子10において、第2電極62の第1部分62Aから発光領域41を経由して第1電極61に直流電流を流して順バイアス状態とし、第1電極61と第2電極62の第2部分62Bとの間に逆バイアス電圧Vsaを印加することによって可飽和吸収領域42に電界を加えることで、セルフ・パルセーション動作させることができた。即ち、第2電極62の第1部分62Aと第2部分62Bとの間の電気抵抗値は、第2電極62と第1電極61との間の電気抵抗値の10倍以上であり、あるいは又、1×102Ω以上である。従って、第2電極62の第1部分62Aから第2部分62Bへの漏れ電流の流れを確実に抑制することができる結果、発光領域41を順バイアス状態とし、しかも、可飽和吸収領域42を確実に逆バイアス状態とすることができ、確実にシングルモードのセルフ・パルセーション動作を生じさせることができた。
【実施例2】
【0103】
実施例2は実施例1の変形である。実施例2にあっても、
モード同期半導体レーザ素子10から出射されたレーザ光は、分散補償光学系120に入射され、
分散補償光学系120に入射したレーザ光の一部は、分散補償光学系120から出射され、モード同期半導体レーザ素子10に戻され、分散補償光学系120に入射したレーザ光の残りは、系外に出力される。
【0104】
実施例2にあっては、外部共振器構造は、分散補償光学系120及び部分反射鏡123によって構成される。そして、具体的には、分散補償光学系120は、図12の(A)に概念図を示すように、一対の回折格子121,122から成る。モード同期半導体レーザ素子10から出射されたパルス状のレーザ光は、第1の回折格子121に衝突し、1次以上の回折光が出射され、第2の回折格子122に衝突し、1次以上の回折光が出射されて、外部共振器の一端を構成する部分反射鏡123に到達する。尚、第1の回折格子121と第2の回折格子122とは平行に配置されている。そして、部分反射鏡123に到達したレーザ光の一部は部分反射鏡123を通過し、系外に出力される。一方、部分反射鏡123に到達したレーザ光の残りは、第2の回折格子122、第1の回折格子121を経由してモード同期半導体レーザ素子10に戻される。第1の回折格子121と第2の回折格子122との間の距離を変えることで、分散補償光学系120における群速度分散値を変えることができる。
【0105】
尚、使用する回折格子を1枚とすることも可能である。この場合、回折格子からの回折光を部分反射鏡に入射させ、且つ、モード同期半導体レーザ素子から出射されたレーザ光の光をこの部分反射鏡に集光させる。部分反射鏡が反射する光を同じ光路を通じて回折格子に戻すことで、回折格子が対向していることと同じ効果が得られる。分散補償量は、回折格子と部分反射鏡との間の距離を変えることで変化させることができる。尚、この場合、部分反射鏡から出射される光は発散光であるため、共振器外に、光束をコリメートする手段を設けることが好ましい。また、実施例2では反射型の回折格子を想定したが、同様な機能の外部共振器が構成できるのであれば透過型の回折格子を用いることもできる。
【0106】
あるいは又、図12の(B)に概念図を示すように、分散補償光学系130は、一対のプリズム131,132から成る。そして、モード同期半導体レーザ素子10から出射されたパルス状のレーザ光は、第1のプリズム131を通過し、更に、第2のプリズム132を通過し、外部共振器の一端を構成する部分反射鏡133に到達する。尚、第1のプリズム131と第2のプリズム132との配置状態は、点対称である。そして、部分反射鏡133に到達したレーザ光の一部は部分反射鏡133を通過し、系外に出力される。一方、部分反射鏡133に到達したレーザ光の残りは、第2のプリズム132、第1のプリズム131を経由してモード同期半導体レーザ素子10に戻される。第1のプリズム131と第2のプリズム132との間の距離を変えることで、分散補償光学系120における群速度分散値を変えることができる。
【0107】
尚、使用するプリズムを1つとすることも可能である。この場合、プリズムを通過したを部分反射鏡に入射させ、且つ、モード同期半導体レーザ素子から出射されたレーザ光の光をこの部分反射鏡に集光させる。部分反射鏡が反射する光を同じ光路を通じてプリズムに戻すことで、プリズムを2つ設けたと同じ効果が得られる。分散補償量は、プリズムと部分反射鏡との間の距離を変えることで変化させることができる。尚、この場合、部分反射鏡から出射される光は発散光であるため、共振器外に、光束をコリメートする手段を設けることが好ましい。
【0108】
あるいは又、図13に概念図を示すように、分散補償光学系140は、Gires−Tournois型の干渉計141から成る。Gires−Tournois型干渉計141は、反射率1の反射鏡141Aと反射率1未満の部分反射鏡141Bから成る。反射鏡141Aと部分反射鏡141Bとの間の距離を制御することで、あるいは又、入射光の入射角を調整することによって、分散補償光学系140における群速度分散値を変えることができる。モード同期半導体レーザ素子10から出射されたパルス状のレーザ光は、平面鏡142で反射され、部分反射鏡141Bを通過し、反射鏡141Aによって反射され、部分反射鏡142を再び通過し、外部共振器を構成する部分反射鏡143に到達する。そして、部分反射鏡143に到達したレーザ光の一部は部分反射鏡143を通過し、系外に出力される。一方、部分反射鏡143に到達したレーザ光の残りは、部分反射鏡141Bを通過し、反射鏡141Aによって反射され、部分反射鏡141B、平面鏡142を再び通過し、モード同期半導体レーザ素子10に戻される。
【0109】
あるいは又、分散補償光学系は、誘電体多層膜ミラーから成る。この場合、入射光の入射角を調整することによって、分散補償光学系における群速度分散値を変えることができる。
【実施例3】
【0110】
実施例3は実施例1において説明したモード同期半導体レーザ素子の変形であり、第3の構成のモード同期半導体レーザ素子に関する。実施例1においては、モード同期半導体レーザ素子10を、極性を有する結晶面であるn型GaN基板21の(0001)面、C面上に設けた。ところで、このような基板を用いた場合、活性層40にピエゾ分極及び自発分極に起因した内部電界によるQCSE効果(量子閉じ込めシュタルク効果)によって、電気的に可飽和吸収が制御し難くなる場合がある。即ち、場合によっては、セルフ・パルセーション動作及びモード同期動作を得るために第1電極に流す直流電流の値及び可飽和吸収領域に印加する逆バイアス電圧の値を高くする必要が生じたり、メインパルスに付随したサブパルス成分が発生したり、外部信号と光パルスとの間での同期が取り難くなることが判った。
【0111】
そして、このような現象の発生を防止するためには、活性層40を構成する井戸層の厚さの最適化、活性層40を構成する障壁層における不純物ドーピング濃度の最適化を図ることが好ましいことが判明した。
【0112】
具体的には、GaInN量子井戸活性層を構成する井戸層の厚さを、1nm以上、10.0nm以下、好ましくは、1nm以上、8nm以下とすることが望ましい。このように井戸層の厚さを薄くすることによって、ピエゾ分極及び自発分極の影響を低減させることができる。また、障壁層の不純物ドーピング濃度を、2×1018cm-3以上、1×1020cm-3以下、好ましくは、1×1019cm-3以上、1×1020cm-3以下とすることが望ましい。ここで、不純物として、シリコン(Si)あるいは酸素(O)を挙げることができる。そして、障壁層の不純物ドーピング濃度をこのような濃度とすることで、活性層のキャリアの増加を図ることができる結果、ピエゾ分極及び自発分極の影響を低減させることができる。
【0113】
実施例3においては、表3に示した層構成における3層の障壁層(Ga0.98In0.02Nから成る)と2層の井戸層(Ga0.92In0.08N)から成るGaInN量子井戸活性層から構成された活性層40の構成を以下のとおりとした。また、参考例3のモード同期半導体レーザ素子においては、表2に示した層構成における活性層40の構成を以下のとおりとした。具体的には、実施例1と同じ構成とした。
【0114】
[表3]
実施例3 参考例3
井戸層 8nm 10.5nm
障壁層 12nm 14nm
井戸層の不純物ドーピング濃度 ノン・ドープ ノン・ドープ
障壁層の不純物ドーピング濃度 Si:2×1018cm-3 ノン・ドープ
【0115】
実施例3においては井戸層の厚さが8nmであり、また、障壁層にはSiが2×1018cm-3、ドーピングされており、活性層内のQCSE効果が緩和されている。一方、参考例3においては井戸層の厚さが10.5nmであり、また、障壁層には不純物がドーピングされていない。
【0116】
モード同期は、実施例1と同様に、発光領域に印加する直流電流と可飽和吸収領域に印加する逆バイアス電圧Vsaとによって決定される。実施例3及び参考例3の注入電流と光出力の関係(L−I特性)の逆バイアス電圧依存性を測定した。その結果、参考例3にあっては、逆バイアス電圧Vsaを増加していくと、レーザ発振が開始する閾値電流が次第に上昇し、更には、実施例3に比べて、低い逆バイアス電圧Vsaで変化が生じていることが判った。これは、実施例3の活性層の方が、逆バイアス電圧Vsaにより可飽和吸収の効果が電気的に制御されていることを示唆している。但し、参考例3にあっても、可飽和吸収領域に逆バイアスを印加した状態でシングルモード(単一基本横モード)のセルフ・パルセーション動作及びモード同期(モードロック)動作が確認されており、参考例3も本開示に包含されることは云うまでもない。
【実施例4】
【0117】
実施例4は、実施例1〜実施例3の変形である。実施例4にあっては、波長選択手段を、バンドパスフィルタから構成する代わりに、図14の(A)及び(B)に概念図を示すように、回折格子210、及び、回折格子210から出射された1次以上の回折光(実施例4においては、1次の回折光)を選択するアパーチャ211から成る構成とすることもできる。アパーチャ211は、例えば、多数のセグメントを有する透過型液晶表示装置212から成る。尚、回折格子210とアパーチャ211との間には、レンズ213が配されている。
【0118】
モード同期半導体レーザ素子10から出射されるレーザ光の波長は或る波長範囲を有する。従って、回折格子210において回折された1次の回折光は、図14の(A)に示すように、多数の領域でアパーチャ211に衝突し得る。即ち、前述した式(A)において、複数の角度αが存在するが故に、複数の角度βが存在する。尚、図14の(A)及び(B)においては、レンズ213による光路の収束、発散は無視している。また、回折格子210から出射された0次の回折光の図示も省略している。ここで、図14の(B)に示すように、多数のセグメントを有する透過型液晶表示装置212の所望のセグメント(アパーチャ211を構成する)においてレーザ光を透過させることによって、モード同期半導体レーザ素子10から出射された、所望の波長を有するレーザ光のみが、最終的に外部に出力される。このように、アパーチャ211を選択することで、波長選択を行うことができる。
【0119】
以上、本開示を好ましい実施例に基づき説明したが、本開示はこれらの実施例に限定するものではない。実施例において説明した半導体レーザ装置組立体、モード同期半導体レーザ素子の構成、構造の構成は例示であり、適宜、変更することができる。また、実施例においては、種々の値を示したが、これらも例示であり、例えば、使用するモード同期半導体レーザ素子の仕様が変われば、変わることは当然である。
【0120】
発光領域41や可飽和吸収領域42の数は1に限定されない。1つの第2電極の第1部分62Aと2つの第2電極の第2部分62B1,62B2とが設けられたモード同期半導体レーザ素子(マルチセクション(多電極型)型の半導体レーザ素子)の模式的な端面図を図15及び図16に示す。図15に示すモード同期半導体レーザ素子にあっては、第1部分62Aの一端が、一方の分離溝62C1を挟んで、一方の第2部分62B1と対向し、第1部分62Aの他端が、他方の分離溝62C2を挟んで、他方の第2部分62B2と対向している。そして、1つの発光領域41が、2つの可飽和吸収領域421,422によって挟まれている。あるいは又、2つの第2電極の第1部分62A1,62A2と1つの第2電極の第2部分62Bとが設けられたモード同期半導体レーザ素子の模式的な端面図を図16に示す。このモード同期半導体レーザ素子にあっては、第2部分62Bの端部が、一方の分離溝62C1を挟んで、一方の第1部分62A1と対向し、第2部分62Bの他端が、他方の分離溝62C2を挟んで、他方の第1部分62A2と対向している。そして、1つの可飽和吸収領域42が、2つの発光領域411,412によって挟まれている。
【0121】
モード同期半導体レーザ素子を、斜め導波路を有する斜めリッジストライプ型の分離閉じ込めヘテロ構造の半導体レーザ素子とすることもできる。このようなモード同期半導体レーザ素子におけるリッジストライプ構造55’を上方から眺めた模式図を図17に示す。このモード同期半導体レーザ素子にあっては、直線状の2つのリッジストライプ構造が組み合わされた構造を有し、2つのリッジストライプ構造の交差する角度θの値は、例えば、
0<θ≦10(度)
好ましくは、
0<θ≦6(度)
とすることが望ましい。斜めリッジストライプ型を採用することで、無反射コートをされた第2端面の反射率を、より0%の理想値に近づけることができ、その結果、モード同期半導体レーザ素子内で周回してしまうレーザ光の発生を防ぐことができ、メインのレーザ光に付随する副次的なレーザ光の生成を抑制できるといった利点を得ることができる。
【0122】
実施例においては、モード同期半導体レーザ素子10を、n型GaN基板21の極性面であるC面,{0001}面上に設けたが、代替的に、{11−20}面であるA面、{1−100}面であるM面、{1−102}面といった無極性面上、あるいは又、{11−24}面や{11−22}面を含む{11−2n}面、{10−11}面、{10−12}面といった半極性面上に、モード同期半導体レーザ素子10を設けてもよく、これによって、モード同期半導体レーザ素子10の第3化合物半導体層にたとえピエゾ分極及び自発分極が生じた場合であっても、第3化合物半導体層の厚さ方向にピエゾ分極が生じることは無く、第3化合物半導体層の厚さ方向とは略直角の方向にピエゾ分極が生じるので、ピエゾ分極及び自発分極に起因した悪影響を排除することができる。尚、{11−2n}面とは、ほぼC面に対して40度を成す無極性面を意味する。また、無極性面上あるいは半極性面上にモード同期半導体レーザ素子10を設ける場合、実施例3にて説明したような、井戸層の厚さの制限(1nm以上、10nm以下)及び障壁層の不純物ドーピング濃度の制限(2×1018cm-3以上、1×1020cm-3以下)を無くすことが可能である。
【0123】
尚、本開示は、以下のような構成を取ることもできる。
[1]《半導体レーザ装置組立体:第1の態様》
光密度が1×1010ワット/cm2以上であり、且つ、キャリア密度が1×1019/cm3以上である電流注入型のモード同期半導体レーザ素子、及び、
モード同期半導体レーザ素子から出射されたレーザ光が入出射される分散補償光学系、
を備えた半導体レーザ装置組立体。
[2]モード同期半導体レーザ素子は可飽和吸収領域を有する[1]に記載の半導体レーザ装置組立体。
[3]モード同期半導体レーザ素子は、
GaN系化合物半導体から成り、第1導電型を有する第1化合物半導体層、
GaN系化合物半導体から成る第3化合物半導体層、及び、
GaN系化合物半導体から成り、第1導電型とは異なる第2導電型を有する第2化合物半導体層、
が、順次、積層されて成る積層構造体を有する[2]に記載の半導体レーザ装置組立体。
[4]分散補償光学系における群速度分散値は負である[3]に記載の半導体レーザ装置組立体。
[5]系外に出力されるレーザ光のパルス時間幅が最小値となる群速度分散値あるいはその近傍において動作させられる[1]乃至[4]のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置組立体。
[6]波長選択手段を備え、
波長選択手段は、系外に出力されるレーザ光の短波長成分を抽出する[1]乃至[5]のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置組立体。
[7]モード同期半導体レーザ素子から出射されたレーザ光は、分散補償光学系に入射され、
分散補償光学系に入射したレーザ光の一部は、分散補償光学系から出射され、モード同期半導体レーザ素子に戻され、分散補償光学系に入射したレーザ光の残りは、系外に出力される[1]乃至[6]のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置組立体。
[8]《半導体レーザ装置組立体:第2の態様》
電流注入型のモード同期半導体レーザ素子、及び、
モード同期半導体レーザ素子から出射されたレーザ光が入出射される分散補償光学系、
を備え、
分散補償光学系の群速度分散値を、第1の所定値GVD1から第2の所定値GVD2(但し、|GVD1|<|GVD2|)まで単調に変化させたとき、モード同期半導体レーザ素子から系外に出力されるレーザ光のパルス時間幅は、減少し、極小値PWminを超えて増加する半導体レーザ装置組立体。
[9]系外に出力されるレーザ光のパルス時間幅が極小値PWminとなるときの分散補償光学系の群速度分散極小値をGVDminとし、分散補償光学系の群速度分散値が負の第1の所定値GVD1であるときのレーザ光のパルス時間幅をPW1、分散補償光学系の群速度分散値が負の第2の所定値GVD2であるときのレーザ光のパルス時間幅をPW2としたとき、
(PW1−PWmin)/|GVDmin−GVD1
≧2×(PW2−PWmin)/|GVD2−GVDmin
但し、
|GVD1/GVDmin|=0.5
|GVD2/GVDmin|=2
を満足する[8]に記載の半導体レーザ装置組立体。
[10]系外に出力されるレーザ光のパルス時間幅が最小値PWminとなる群速度分散極小値GVDminあるいはその近傍において動作させられる[8]又は[9]に記載の半導体レーザ装置組立体。
[11]系外に出力されるレーザ光の主発振周波数に対する雑音成分は−60dB以下である[8]乃至[10]のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置組立体。
【符号の説明】
【0124】
10・・・モード同期半導体レーザ素子、11・・・コリメート手段、21・・・n型GaN基板、22・・・GaNバッファ層、30・・・第1化合物半導体層、31・・・n型AlGaNクラッド層、32・・・n型GaNクラッド層、40・・・第3化合物半導体層(活性層)、41,411,412・・・発光領域、42,421,422・・・可飽和吸収領域、50・・・第2化合物半導体層、51・・・ノンドープGaInN光ガイド層、52・・・p型AlGaN電子障壁層(Mgドープ)、53・・・p型GaN(Mgドープ)/AlGaN超格子クラッド層、54・・・p型GaNコンタクト層(Mgドープ)、55,55’・・・リッジストライプ構造、56・・・積層絶縁膜、61・・・第1電極、62・・・第2電極、62A,62A1,62A2・・・第2電極の第1部分、62B,62B1,62B2・・・第2電極の第2部分、62C,62C1,62C2・・・分離溝、63・・・Pd単層、64・・・レジスト層、65・・・開口部、110,120,130,140・・・分散補償光学系、111,121,122・・・回折格子、112・・・集光手段(レンズ)、113・・・反射鏡(誘電多層膜反射鏡)、123,133,143・・・部分反射鏡、131,132・・・プリズム、141A・・・反射鏡、141B・・・部分反射鏡、142・・・平面鏡、200・・・波長選択手段(波長選択装置)、201・・・平面鏡、210・・・回折格子、211・・・アパーチャ、212・・・透過型液晶表示装置、213・・・レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光密度が1×1010ワット/cm2以上であり、且つ、キャリア密度が1×1019/cm3以上である電流注入型のモード同期半導体レーザ素子、及び、
モード同期半導体レーザ素子から出射されたレーザ光が入出射される分散補償光学系、
を備えた半導体レーザ装置組立体。
【請求項2】
モード同期半導体レーザ素子は可飽和吸収領域を有する請求項1に記載の半導体レーザ装置組立体。
【請求項3】
モード同期半導体レーザ素子は、
GaN系化合物半導体から成り、第1導電型を有する第1化合物半導体層、
GaN系化合物半導体から成る第3化合物半導体層、及び、
GaN系化合物半導体から成り、第1導電型とは異なる第2導電型を有する第2化合物半導体層、
が、順次、積層されて成る積層構造体を有する請求項2に記載の半導体レーザ装置組立体。
【請求項4】
分散補償光学系における群速度分散値は負である請求項3に記載の半導体レーザ装置組立体。
【請求項5】
系外に出力されるレーザ光のパルス時間幅が最小値となる群速度分散値あるいはその近傍において動作させられる請求項1に記載の半導体レーザ装置組立体。
【請求項6】
波長選択手段を備え、
波長選択手段は、系外に出力されるレーザ光の短波長成分を抽出する請求項1に記載の半導体レーザ装置組立体。
【請求項7】
モード同期半導体レーザ素子から出射されたレーザ光は、分散補償光学系に入射され、
分散補償光学系に入射したレーザ光の一部は、分散補償光学系から出射され、モード同期半導体レーザ素子に戻され、分散補償光学系に入射したレーザ光の残りは、系外に出力される請求項1に記載の半導体レーザ装置組立体。
【請求項8】
電流注入型のモード同期半導体レーザ素子、及び、
モード同期半導体レーザ素子から出射されたレーザ光が入出射される分散補償光学系、
を備え、
分散補償光学系の群速度分散値を、第1の所定値GVD1から第2の所定値GVD2(但し、|GVD1|<|GVD2|)まで単調に変化させたとき、モード同期半導体レーザ素子から系外に出力されるレーザ光のパルス時間幅は、減少し、極小値PWminを超えて増加する半導体レーザ装置組立体。
【請求項9】
系外に出力されるレーザ光のパルス時間幅が極小値PWminとなるときの分散補償光学系の群速度分散極小値をGVDminとし、分散補償光学系の群速度分散値が負の第1の所定値GVD1であるときのレーザ光のパルス時間幅をPW1、分散補償光学系の群速度分散値が負の第2の所定値GVD2であるときのレーザ光のパルス時間幅をPW2としたとき、
(PW1−PWmin)/|GVDmin−GVD1
≧2×(PW2−PWmin)/|GVD2−GVDmin
但し、
|GVD1/GVDmin|=0.5
|GVD2/GVDmin|=2
を満足する請求項8に記載の半導体レーザ装置組立体。
【請求項10】
系外に出力されるレーザ光のパルス時間幅が最小値PWminとなる群速度分散極小値GVDminあるいはその近傍において動作させられる請求項8に記載の半導体レーザ装置組立体。
【請求項11】
系外に出力されるレーザ光の主発振周波数に対する雑音成分は−60dB以下である請求項8に記載の半導体レーザ装置組立体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−105813(P2013−105813A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247276(P2011−247276)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】