説明

半導体光集積素子及び該半導体光集積素子を備えた光断層撮像装置

【課題】半導体層を積層して形成された同一層構成の積層面に、発光素子と受光素子とが配設された半導体光集積素子を構成するに当たり、発光素子の動作時には動作電流の増大による発熱や余計な発光を抑えることができ、受光素子の動作時には光の吸収効率を高くする半導体光集積素子を提供する。
【解決手段】基板上に第1の導電型の第1のクラッド層、活性層、及び、第2の導電型の第2のクラッド層を少なくとも含んで積層されてなる発光素子、及び、受光素子が、同一基板上の面内に配置されて成る半導体光集積素子において、
活性層は、導電型の第2の活性領域と、アンドープの第1の活性領域とが積層された構造を備え、
第2の活性領域が、第2の活性領域に対し最も近い位置に積層されている第1もしくは第2のクラッド層と同じ導電型とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
半導体光集積素子及び該半導体光集積素子を備えている光断層撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、OCT(Optical Coherence Tomography:光干渉断層計あるいは光干渉断層法)と呼ばれる、低コヒーレンス光の干渉を利用することによる断層像を撮影する装置が実用化されてきている。
このOCTは、眼科領域では網膜剥離などの診断のための眼底部の断層像や緑内障の予診に前眼部の虹彩の断層像を取得するなどに用いられる。
また、眼科以外においても、OCTは皮膚の断層像の観察や、内視鏡やカテーテルに組み込むことで消化器や循環器の壁面断層撮影等が試みられている。
【0003】
このようなOCTには、低コヒーレンス光を発生させる光源としてSLD(Super Luminescent Diode:スーパールミネッセントダイオード)が良く用いられる。
このSLDは、電流注入により発生した自然放出光を種光として、電流注入により反転分布を有した活性層中を種光が導波することで、誘導放出により光を増幅する構成となっている。
この増幅した光がデバイスの出射口において反射しない構成とすることで、共振器構造を形成せずレーザー発振を抑制した構成となっている。
このように、光が活性層を1回通過することで自然放出光を増幅する動作を一般的にスーパールミネッセントモード(SLモード)と呼ばれている。
以上のようなSLDでは、光の増幅効果を利用するためLEDと比較し出力が大きく、指向性の強い光を得られることが特徴となっている。
【0004】
従来において、以上のようなSLDから出力される光を安定にするために、SLDの端面の一方からの光をPD(Photo Diode:フォトダイオード)でモニターしながら、動作電流をフィードバックすることは良く知られている。
また、特許文献1では、このようなPDをSLDと同一層構成を有する基板上に形成し、1chipのデバイスとして形成した半導体光集積素子が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−178200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
SLDは、SLモードでの動作を効率良く発生させるために、活性層に用いる量子井戸の数は1〜5個程度を用いることが一般的である。
これは、通常の半導体レーザーと同じく、活性層に電流を注入し反転分布を形成するために、必要なキャリア数が活性層体積に応じ電流の増加が必要となることに起因する。すなわち、必要な注入電流の増大に伴いデバイスの発熱は顕著になり、SLDの動作特性の低下を招くことなることから、活性層体積は大きくしすぎないようにすることが一般的である。
一方、PDでは、受光する光を効率良く電流に変換するためには、光の吸収効率が高いことが望まれる。
このように光の吸収効率を高めるためには、光を吸収する活性層の体積を大きくすることが一般的である。
例えば、量子井戸の活性層を有するPDの場合、この量子井戸の数を多く並べることによって実現することができる。そして、吸収効率は量子井戸数に応じて向上することから、10ペア以上と数多くの量子井戸を積層して形成することも一般的である。
【0007】
上記一般的なSLDの構造を用い、特許文献1のように半導体層が積層されて形成された同一層構成の積層面に、SLDとPDとを配設すると、SLDの上記した動作特性の制約から活性層体積を大きくするこができない。
そのため、PDとして動作させるための光の吸収効率が低いものしか得ることができない。
これらに対処するために、光の吸収効率を大きくするために活性層体積を増やすことや、PD動作をするためのアンドープの活性層を更にSLDに付加することが考えられる。
しかしながら、このような対処方法では電流が注入される活性層の体積が増大するため、SLモードで動作するために必要な電流が増大することによる発熱や、余計な発光が生じSLDの特性低下を招く。
このように、特許文献1のような同一の活性層構造を用いたSLD/PD集積素子では、SLDとPDの特性を同時に最適化することは困難であった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑み、複数の半導体層を積層して形成された同一層構成の積層面に、発光素子と受光素子とが配設された半導体光集積素子を構成するに当たり、
発光素子の動作時には動作電流の増大による発熱や余計な発光を抑えることができ、受光素子の動作時には光の吸収効率を高くすることが可能となる半導体光集積素子及び該半導体光集積素子を備えた光断層撮像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の半導体光集積素子は、基板上に第1の導電型の第1のクラッド層、活性層、及び、第2の導電型の第2のクラッド層を少なくとも含んで積層されてなる発光素子、及び、受光素子が、同一基板上の面内に配置されて成る半導体光集積素子において、
前記活性層は、導電型の第2の活性領域と、アンドープの第1の活性領域とが積層された構造を備え、
前記第2の活性領域が、該第2の活性領域に対し最も近い位置に積層されている前記第1もしくは第2のクラッド層と同じ導電型であることを特徴とする。
また、本発明の光断層撮像装置は、上記の半導体光集積素子を光源として備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、複数の半導体層を積層して形成された同一層構成の積層面に、発光素子と受光素子とが配設された半導体光集積素子を構成するに当たり、
発光素子の動作時には動作電流の増大による発熱や余計な発光を抑えることができ、受光素子の動作時には光の吸収効率を高くすることが可能となる半導体光集積素子及び該半導体光集積素子を備えた光断層撮像装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態における半導体光集積素子の層構成を説明する図。
【図2】本発明の実施形態における半導体光集積素子の層構成のバンドダイアグラムのイメージ図。
【図3】本発明の実施形態における半導体光集積素子の概略図。
【図4】本発明の実施例1における半導体光集積素子の層構成を説明する図。
【図5】本発明の実施例1における半導体光集積素子の概略図。
【図6】本発明の実施例2における半導体光集積素子の層構成を説明する図。
【図7】本発明の実施例2における半導体光集積素子の概略図。
【図8】本発明の実施例4における半導体光集積素子を備えた光断層撮像装置の概略図。
【図9】本発明の実施形態における複数の半導体光集積素子が光導波路によって結合されている構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の基板上に第1の導電型の第1のクラッド層、活性層、及び、第2の導電型の第2のクラッド層を少なくとも含んで積層されてなる発光素子、及び、受光素子が、同一基板上の面内に配置した構成によれば、つぎのように動作させることが可能である。
すなわち、順方向バイアス時にはSLD(発光素子)として動作し、逆方向バイアス時には光吸収効率の良いPD(受光素子)として動作させることが可能である。
その具体的な層構成の実施形態について、以下に図を用いて説明する。
図1は、本実施形態における半導体光集積素子の層構成を説明する図である。
図1に示されるように、本実施形態の半導体光集積素子は、つぎの順で各層が積層され積層構造が形成されている。
まず、第1の導電型の基板101上に、第1の導電型の第1のクラッド層102、アンドープの第1の活性領域103が積層されている。
そして、その上に光を吸収する第2の導電型の第2の活性領域104、第2の導電型の第2のクラッド層105、第2の導電型コンタクト層106が積層されている。このように、第2の活性領域104は第2のクラッド層105と同じ第2の導電型を備えている。
ここで、第1及び第2のクラッド層は、第1及び第2の活性領域よりも屈折率が低く、第1及び第2の活性領域へ光を閉じ込める役割を有している層である。
アンドープの第1の活性領域103は、例えば量子井戸により構成される場合、量子井戸とそれを囲むバリアから構成されるものとする。
つまり、ここでの第1の活性領域103はアンドープの領域全てを含んだ領域として定義する。
また、第2の導電型の第2活性領域104は、第1の活性領域103と第2のクラッド層105で挟まれ且つ第2の導電型にドーピングされている領域全てを指すものとする。
例えば、第2の活性領域104が、バリア層で挟まれた量子井戸であっても、第2の導電型にドーピングされている領域全てを第2の活性領域104とする。ここで記載した形態以外にも、第2活性領域を第1の活性領域と第1のクラッド層の間に設けても良い。この場合には第2の活性領域は、第1の導電型となり、第1のクラッド層と第1の活性領域に挟まれたドーピングされている領域全てを指すものとなる。つまり、第2の活性領域は第1の活性領域と第1もしくは第2のクラッド層に挟まれ、且つ、接しているクラッド層と同一の導電型を有していることとなる。
すなわち、このように活性層は、導電型の第2の活性領域と、アンドープの第1の活性領域とが積層された構造を備え、この第2の活性領域は、該第2の活性領域に対し最も近い位置に積層されている第1もしくは第2のクラッド層と同じ導電型とされる。
ここでは、これら第1の活性領域と第2の活性領域を合わせて、活性層として記述している。
【0013】
図2は、上記積層構造のバンドラインナップとドーピング分布のイメージ図であり、第1の活性領域及び第2の活性領域は共に量子井戸を用いた例である。
量子井戸を囲んだバリア層も含めて、第1の活性領域及び第2の活性領域としている。
図3は、図1、図2に示した層構成においてSLDおよびPDを同一基板上に配置して動作するように構造を作製したデバイスの模式図である。
図3(a)はデバイスの斜視図、(b)はデバイスの平面図、(c)はA−A断面図を示している。
SLDとPDは、SLD部301から出射される光を受光することが可能な位置に、PD部302が配置されている。
このような相対位置関係に両者を配置することにより、PD部302にて受光した光に応じた信号を得ることができ、この信号を一定とするようにSLDの駆動電流をフィードバックすることにより、光出力が安定したSLDとして使用できるようにされている。
【0014】
図3では、SLDとPDの間を分離せず、各層がつながった形で形成されている。
ここで、SLD部301では基板101に接して形成されたSLD/PD共通電極303とコンタクト層106に接して形成されたSLD電極304の間に順方向バイアス電圧を印加し電流を注入することによってSLDとして動作する。
順方向バイアス時には、第2の活性領域は多数キャリアは注入されるが、ドーピングが施されているためこの領域には反対のキャリアは入れない。
そのため、第2の活性領域では殆んど再結合が起こらずキャリアは消費されない。
第2の活性領域104において一定レベルまでキャリアが注入された後、キャリアは第2の活性領域104を通過してアンドープの第1の活性領域103まで到達する。
第2の活性領域が存在しない側の第1の導電型の第1のクラッド層から注入されたキャリアと第2の活性領域104を通過したキャリアは、第1の活性領域103において再結合して発光する。
【0015】
SLD部301は、例えば図3に示された様にリッジ型導波路が形成されてSLD部301を構成されている。
具体的には、ストライプ型に層構成上側から、第1のクラッド層102までエッチングを行いリッジ構造を形成し、その後第1及び第2のクラッド層と屈折率の近い材料によってリッジ構造を埋め込むこと(埋め込み部305)によってリッジ型導波路が形成される。
このとき、設計に応じてリッジのストライプ幅や長さを適宜、決定することができる。
リッジ型導波路が形成されたSLDは屈折率導波構造となっており、屈折率の高い活性層部(本発明では第1及び第2の活性領域の両者を含んだ領域)が屈折率の低いクラッド層(第1及び第2のクラッド層、リッジ構造を埋め込んだ材料を含む)で囲まれている。これによって、屈折率差を有した導波路構造が形成されている。
この順方向バイアス電圧が印加されている導波路内を光が進むことによって、誘導放出が起こりSLモード動作するSLD部が形成される。
屈折率導波によるSLD構造の他にも、リッジ構造を有さないゲイン導波によってSLモードで動作させることも可能である。
このゲイン導波と呼ばれる構造は、リッジ構造を形成せずにキャリアの注入される領域をストライプ状に限定することによって、それに沿った方向の光のみが増幅されSLモードで動作するものである。
なお、本発明は、SLD及びPDを形成するための、層構成に特徴を有するものであり、このリッジ型、ゲイン導波型のどちらかに限定されるものではない。
【0016】
SLD部301は、図3(b)のようにストライプに直交した線からデバイス端面が5〜9度の傾斜角度θを有して端面が形成される。
これにより端面の反射を軽減しファブリペロー共振器を形成させずレーザー発振を抑制している。また、この端面に反射防止膜を形成し端面の反射をより軽減させてもよい。
PD部302は、略SLDと同様の構造に形成されている。例えば図3のようにSLDと結合した形でリッジ型導波路を有していても良い。
また、導波路を形成せずに電極をストライプ状に形成し、PDとして動作する領域を限定しても良い。
さらには、電極の形状も制限することなく、PD部に対して一様に電圧を印加することが可能なように、デバイス部全面に電極を形成しても良い。
PD部302は、基板101に接して形成されたSLD/PD共通電極303とコンタクト層106に接して形成されたPD電極306に逆方向バイアス電圧を印加して動作する。
この逆方向バイアス電圧を印加することによって、第2の導電型の第2の活性領域104が空乏化するように、ドーピング濃度や第2のクラッド層105からの距離が制御されている。
この逆バイアス電圧印加により、第2の活性領域104が空乏化することが本発明の層構成により実現される特徴である。
【0017】
逆バイアス電圧印加時に第2の活性領域104が空乏化されるためには、図2に示された第2のクラッド層105のドーピング領域201の濃度より第2の活性領域104のドーピング領域202の濃度が低いことが望ましい。
例えば、第2のクラッド層105のドーピング濃度が1E+18(cm-3)である場合、第2の活性領域104のドーピング濃度は1E+17(cm-3)程度であることが望ましい。
このようなドーピング濃度差を有している場合、第2のクラッド層105と第2の活性領域104との間に約−2〜5V程度の逆バイアス電圧が印加されると、第2のクラッド層105と第2の活性領域104の界面から約15〜25nm程度の空乏領域が第2の活性領域104側に形成される。
ここで挙げたドーピング濃度は、あくまでも一例であり、逆バイアス印加時に第2の活性領域104が空乏化することが本発明の本質である。
【0018】
逆バイアス電圧印加時にPD部302に光が入射されると、第1の活性領域103が光を吸収し発生したキャリアが電流として取り出される。
この時、第2の活性領域104が空乏化していることにより、第2の活性領域104においても光を吸収し発生したキャリアが電流として取り出せる。
そのため、通常のSLDをPDとして使用した場合よりも、光を吸収し、電流として信号を取り出すことができる層が多くなる。つまり、光の吸収が大きなPDとして動作することが可能となる。
逆バイアス印加時に第2の活性領域104が空乏化せずに第2の導電型のままである場合は、光を吸収しキャリアを発生させても、第2の導電型における少数キャリアは移動することができずに電流として取り出すことができない。
そのために、第2の活性領域104が逆バイアス印加時に空乏化することが、本発明にとって重要な事項となる。
SLDとPDの間に溝が形成されるなど端面が存在する場合、PD部302はSLD部301と同様に端面が5〜9度の傾斜を有していても良く、更には、端面に反射防止膜を形成していても良い。
これにより、入射する光がPD界面において反射せずに効率良くPD内部に侵入することができ、より一層PDから多くの電流として信号を取り出すことが可能となる。
【0019】
図2では、本発明の第1の活性領域と第2の活性領域について、両者のバンドギャップが同一の場合について説明したが、第1の活性領域のバンドギャップが第2の活性領域のバンドギャップより大きくても良い。
このようなバンドギャップの関係であれば、第2の活性領域の吸収端はSLD動作時に第1の活性領域から発光する波長よりも長波長側になる。
そのため、発光する大部分の波長を第2の活性領域において吸収することが可能となり、より効率のよいPDとして動作することが可能となる。
また、第1の活性領域のバンドギャップが第2の活性領域のバンドギャップよりも小さくても良い。
この場合、第2の活性領域の吸収端は、第1の活性領域からの発光のピークよりも短波長側になる。
そのため、SLD動作時において第2の活性領域の光吸収量を小さくすることが可能となり、効率のよいSLD動作が可能となる。
【0020】
以上で説明した構造は、活性領域が第1と第2の二つある場合のものであるが、本発明の主旨はこれに限定されるものではない。
具体的には、第3の活性領域が存在する構成を採り、該第3の活性領域に対し最も近い位置に積層されている第1もしくは第2のクラッド層と同じ導電型とする。その際、該第3の活性領域に対し最も近い位置に積層されている第1もしくは第2のクラッド層のドーピング濃度よりも低いドーピング濃度とすることが望ましい。
例えば、第1の導電型の第1のクラッド層と第1の活性領域の間に、第1のクラッド層と同じ導電型の第3の活性領域が配置された構成を採ることができる。
この第3の活性領域は第2の活性領域と導電型の極性が反対であることを除いて、同一の役割を果たす。
そして、このような第3の活性領域を配置した場合には、第2の活性領域及び/または第3の活性領域のバンドギャップが、第1の活性領域のバンドギャップよりも小さいバンドギャップとされた構成を採ることができる。
あるいは、第2の活性領域及び/または第3の活性領域のバンドギャップが、第1の活性領域のバンドギャップよりも大きいバンドギャップとされた構成を採ることができる。
また、第3の活性領域のドーピング濃度においても、該第3の活性領域のドーピング濃度が前記第1のクラッド層のドーピング濃度よりも低いドーピング濃度とするのが望ましい。
以上のように第3の活性領域が配置されることにより、逆バイアスでのPD動作時に第3の活性領域も空乏化し、光を吸収して発生したキャリアを電流として取り出す層が増えることになり、より効率のよいPDとして動作することになる。
【0021】
また、図3に記載されているSLDとPDの組みを複数備えた構成とし、該複数の半導体光集積素子を基板上にアレイ状に配列してアレイ光源として用いることもできる。
その際、該複数の半導体光集積素子の一部を光導波路によって結合し、例えば、SLDの光を導波路によって結合して一つの出射口を形成しても良い。これにより、デバイス外への光の結合が容易になり使いやすい形態とすることができる。また、複数の半導体光集積素子の各々を光導波路によって結合し、例えば図9のように複数のSLDとPDが光導波路に繋った構成としても良い。
例えば、複数のSLDがPDと導波路によってつながった構成をとっている場合、注入電流が異なる複数のSLDから出射される光の強度を一つのPDで測定することが可能となる。
そして、複数の半導体層を積層して形成された同一層構成の積層面に、発光素子と受光素子とが配設された本実施形態の半導体光集積素子の構成によれば、PD動作時において光利用効率を向上させることができる。
また、これにより光出力の安定したSLDを提供することができる。
さらに、この光源を光断層撮像装置に適用することにより、安定した断層像を取得することが可能になる。
【0022】
[実施例1]
実施例1として、本発明を適用した半導体光集積素子の一例について、図4、図5を用いて説明する。
本実施例における半導体光集積素子の層構成は、以下の図4に示すような層構成を備えている。
まず、図1の基板101に相当するn型GaAs基板上に、
図1の第1のクラッド層102に相当するn型Al0.5GaAs(厚さ1.2um、ドーピング濃度1E+18(cm-3))の第1のクラッド層が形成されている。
次に、第1のクラッド層上に、第1の活性領域103として、
アンドープAl0.2GaAs(厚さ0.096um)のバリア層401、
アンドープGaAs(厚さ0.008um)の発光量子井戸402、
アンドープAl0.2GaAs(厚さ0.076um)のバリア層403、が形成されている。
次に、第1の活性領域103上に、第2の活性領域104として、
p型Al0.2GaAs(厚さ0.004um、ドーピング濃度1E+17(cm-3))のバリア層404、
p型GaAs(厚さ0.008um、ドーピング濃度1E+17(cm-3))の光吸収量子井戸405、
p型Al0.2GaAs(厚さ0.008um、ドーピング濃度1E+17(cm-3))のバリア層406、が形成されている。
そして、その上に図1の第2のクラッド層105に相当するp型0.5GaAs(厚さ1.2um、ドーピング濃度1E+18(cm-3))の第2のクラッド層、図1のコンタクト層106に相当するp型GaAs(厚さ0.05um ドーピング濃度1E+19(cm-3))のコンタクト層、の順に形成されている。
【0023】
図5に本実施例に用いたデバイスの概略図を示す。
図5(a)はデバイスの層構成を示す断面図、図5(b)は本実施例のデバイスの斜視図を示している。
上記のように層構成を形成した基板にリッジ型導波路をフォトリソグラフィとドライエッチングによって形成する。
このリッジ型導波路は、例えば3〜10umのストライプ幅で形成される。
最終的なSLDの出射端面は基板のへき開によって形成するため、出射端面での光の反射を抑えるためにへき開面に対して5〜10度ほどの傾斜角度を有した方向に導波路は形成する。
リッジを形成した後に、アンドープのAl0.2GaAsを結晶成長し、リッジ側面を埋め込み埋め込み部を形成する。
その後、絶縁膜501としてSiO2を形成し、電極形成部のSiO2を除去しコンタクト層を露出させた後に、SLD電極502、PD電極503として、Ti、Auの2層構造の金属をSLD部とPD部と分離して成膜する。
次に、基板の裏面にSLD/PD共通電極504としてAuGe/Ni/Auの積層の金属を成膜する。
その後、ストライプ長さが0.5mm〜5mm程度となるように基板をへき開する。
さらに、SLD出射面の反射率を更に低減するために、CVDにて反射防止膜を形成する。
以上の工程にてSLD部505、PD部506が同一基板につながった形で形成できる。
【0024】
SLD部505には順方向バイアスを、PD部506には逆方向バイアスを印加することで、それぞれSLD/PDとして動作する。
この時、PD部506には、おおよそ−15〜30V程度逆バイアスを印加することで、第2の活性領域は空乏化し光電流を発生させることができる。
これにより、第1の活性領域と第2の活性領域の両者が光を吸収し光電流を発生させることが可能となるため、効率の良いPDとして動作することができる。
SLDとPDを同時に駆動することにより、SLDから発光した光強度を、PDにてモニターすることができる。
PDの信号が安定するように、SLD駆動電流をフィードバックして調整することによって発光強度が安定したSLDとして使用することが可能となる。
【0025】
[実施例2]
実施例2として、本発明を適用した半導体光集積素子の一例について、図6、図7を用いて説明する。
本実施例における半導体光集積素子の層構成は、以下の図6に示すような層構成を備えている。
まず、図1の基板101に相当するn型GaAs基板上に、
図1の第1のクラッド層102に相当するn型Al0.5GaAs(厚さ1.2um、ドーピング濃度1E+18(cm-3))の第1のクラッド層が形成されている。
次に、第1のクラッド層上に第3の活性領域616として、
n型Al0.2GaAs(厚さ0.005um、ドーピング濃度1E+17(cm-3))のバリア層601、
n型GaAs(厚さ0.008um、ドーピング濃度1E+17(cm-3))の第2の光吸収量子井戸602、
n型Al0.2GaAs(厚さ0.005umドーピング濃度1E+17(cm-3))のバリア層603、が形成されている。
次に、活性領域616上に、第1の活性領域617として、
アンドープAl0.2GaAs(厚さ0.07um)のバリア層604、
アンドープAl0.015GaAs(厚さ0.004um)の発光量子井戸605、
アンドープAl0.2GaAs(厚さ0.05um)のバリア層606、
アンドープAl0.015GaAs(厚さ0.006um)の発光量子井戸607、
アンドープAl0.2GaAs(厚さ0.05um)のバリア層608、
アンドープAl0.015GaAs(厚さ0.08um)の発光量子井戸609、
アンドープAl0.2GaAs(厚さ0.07um)のバリア層610、が形成されている。
次に、第1の活性領域617上に、第2の活性領域618として、
p型Al0.2GaAs(厚さ0.005um、ドーピング濃度1E+17(cm-3))のバリア層611、
p型GaAs(厚さ0.008um、ドーピング濃度1E+17(cm-3))の光吸収量子井戸612、
p型Al0.2GaAs(厚さ0.005um、ドーピング濃度1E+17(cm-3))のバリア層613、が形成されている。
そして、その上に図1の第2のクラッド層105に相当するp型0.5GaAs(厚さ1.2um、ドーピング濃度1E+18(cm-3))の第2のクラッド層、図1のコンタクト層106に相当するp型GaAs(厚さ0.05um ドーピング濃度1E+19(cm-3))のコンタクト層、の順に形成されている。
【0026】
図7に、上記層構成で形成したゲイン導波型のSLDおよびPDのデバイスの斜視図を示す。
この基板にSLD部614とPD部615とを分離する溝701をフォトリソグラフィとドライエッチングによって形成する。
その後、絶縁膜としてSiO2を形成し、SLD部614、PD部615の各々の表面の一部にストライプ状となるようフォトリソグラフィとウェットエッチングによりSiO2を除去する。
その後、この部分にSLD部614及びPD部615を分離するようにp型電極材料としてTiとAuを蒸着によりSLD電極702及びPD電極703を形成する。
その後、GaAs基板を研磨し100um厚さとしたのち、基板裏面にAuGeとNiとAuを蒸着することによりSLD/PD共通電極704を形成する。
その後、SLDおよびPDのストライプ長さが、0.5〜5mm程度となるように基板をへき開する。
実施例1と同様に、へき開面とストライプの導波方向は5〜9度程度の傾斜角度θを有している。
また、このへき開面に実施例1と同様に反射防止膜を形成している。
このような作製方法により、ゲイン導波型のSLDとPDが形成される。SLD部とPD部との間に溝を形成することにより、SLD部とPD部の電流経路を明確に分けることができ、不必要な電流の拡散を防止することができる。
【0027】
実施例1ではドーピングされている活性領域は第2の活性領域だけであったが、本実施例ではドーピングされている第3の活性領域が存在している。
これらの二つのドーピングされた活性領域は、実施例1と同様に逆バイアス印加時において空乏化する。
つまり、逆バイアス時に通常のSLD構造と比較して光を吸収し電流へ変化する活性領域が2つ追加されることになる。
これにより、実施例1よりもさらに吸収効率の高いPDとして動作することになる。
また、本実施例では第1の活性領域にAl0.015GaAs(厚さ0.008、0.006、0.004um)の量子井戸を用いており、各々の発光波長のピークは、おおよそ830nm、815nm、790nmとなる。
これに対して、第2及び第3の活性領域としてGaAs(厚さ0.008um)の量子井戸を用いており、第2及び第3の活性領域の方が、第1の活性領域と比較してバンドギャップが小さくなっている。
この量子井戸の吸収端はおおよそ840nmである。このため、SLD動作時に第1の活性量子井戸から発光する発光波長の大部分が、第2及び第3の活性量子井戸の吸収スペクトル内に入っている。
これにより、実施例1と比較し多くの波長の光がPD部で光を吸収するため、効率の高いPD部となる。
【0028】
[実施例3]
実施例3として、実施例1の第2の活性領域のドーピング部を変更した構成例について説明する。
本実施例で用いる第2の活性領域は、
p型Al0.2GaAs(厚さ0.004um、ドーピング濃度1E+17(cm-3))のバリア層、
アンドープGaAs(厚さ0.008um、)の量子井戸、
p型Al0.2GaAs(厚さ0.008um、ドーピング濃度1E+17(cm-3))のバリア層、
の各層により形成された層構成を備えている。
このようにドーピングされている第2の活性領域の内量子井戸部にのみドーピングを施さないことにより、第2の活性領域の結晶品質を向上させることが可能となる。
結晶品質が向上することにより、光を吸収し発生したキャリアの非発光再結合が抑制されより効率良く電流として取り出すことが可能となる。
【0029】
[実施例4]
実施例4として、本発明の半導体光集積素子を備えた光断層撮像装置(OCTシステム)の構成例について、図8を用いて説明する。
図8に示されるように、本実施例の光断層撮像装置は、光源部として本発明のSLD及びPD801、参照部を構成する参照光光路用ファイバ802、干渉部を構成するファイバカップラ803、反射ミラー804を備える。
さらに、検体測定部を構成する検査光光路用ファイバ805、照射集光光学系806、照射位置走査用ミラー807が接続されている。
これに加え光検出部を構成する受光用ファイバ808、分光器809、ラインセンサ810が配置されている。
照射用ファイバ811、画像処理部を構成する信号処理装置812、画像出力モニター813を接続し、そして光源部を構成する光源制御装置814を接続した構成により、光断層撮像装置を構成できる。815は検査対象物である。
【0030】
光源であるSLD/PD801は、光源制御装置814によりPDでの受光信号に伴って光出力が安定するようSLDへの注入電流を制御されている。
SLD/PDから出射された光は、ファイバカップラにおいて参照光光路用ファイバ及び検査光光路用ファイバに分割されて導入される。
さらに、参照光光路用ファイバの先端には、反射ミラーが配置されており、反射ミラーで反射された光は受光用ファイバに導入され、分光器によって分光された光が、ラインセンサに到達する。
これと同時にファイバカップラにて検査光光路用ファイバに導入された光は、検査物体に照射され、後方散乱光が検査物体の内部及び表面から発生する。
これらの光は照射集光光学系を通してファイバカップラから受光用ファイバに導入され、分光器によって分光された光がラインセンサに到達する。
反射ミラーから反射された光と、検査物体からの光は干渉してラインセンサに到達しており、各波長の光強度に干渉信号が重なって取得されている。
【0031】
この取得した信号を信号処理装置によりフーリエ変換を施すことにより、取得したスペクトル信号を検査物体の奥行き方向の情報へと変換し検査物体の断層像として取得することができる。
この取得された奥行き情報は画像出力モニターに表示することができる。
同時に、信号処理装置からは照射位置走査用ミラーの駆動信号を発振し、これに同期して干渉信号を取得することで1次元および2次元での断層像取得が可能となる。
本実施例のSLD/PDを光断層撮像装置に用いることで、安定した光強度で信号を取得することが可能となり断層像の信号強度を安定し、良好な断層画像の取得が可能となる。
また、本実施例の光断層撮像装置は、例えば眼科診療に用いられる眼底OCTとして利用することも可能である。
更に、他の医療用OCTや工業用のOCTとしても利用可能であり、特にその用途について限定を受けるものではない。
【符号の説明】
【0032】
101:基板
102:第1のクラッド層
103、617:第1の活性領域
104,618:第2の活性領域
105:第2のクラッド層
106:コンタクト層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に第1の導電型の第1のクラッド層、活性層、及び、第2の導電型の第2のクラッド層を少なくとも含んで積層されてなる発光素子、及び、受光素子が、同一基板上の面内に配置されて成る半導体光集積素子において、
前記活性層は、導電型の第2の活性領域と、アンドープの第1の活性領域とが積層された構造を備え、
前記第2の活性領域が、該第2の活性領域に対し最も近い位置に積層されている前記第1もしくは第2のクラッド層と同じ導電型であることを特徴とする半導体光集積素子。
【請求項2】
前記第2の活性領域は、該第2の活性領域に対し最も近い位置に積層されている前記第1もしくは第2のクラッド層のドーピング濃度よりも低いドーピング濃度とされていることを特徴とする請求項1に記載の半導体光集積素子。
【請求項3】
前記第1もしくは第2のクラッド層と、前記第2の活性領域及び前記第1の活性領域とで挟まれた導電型の第3の活性領域を有し、
前記第3の活性領域は、該第3の活性領域に対し最も近い位置に積層されている前記第1もしくは第2のクラッド層と同じ導電型であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の半導体光集積素子。
【請求項4】
前記第3の活性領域は、該第3の活性領域に対し最も近い位置に積層されている前記第1もしくは第2のクラッド層のドーピング濃度よりも低いドーピング濃度とされていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の半導体光集積素子。
【請求項5】
前記第2の活性領域及び/または前記第3の活性領域のバンドギャップが、
前記第1の活性領域のバンドギャップよりも小さいことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の半導体光集積素子。
【請求項6】
前記第2の活性領域及び/または前記第3の活性領域のバンドギャップが、
前記第1の活性領域のバンドギャップよりも大きいことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の半導体光集積素子。
【請求項7】
前記第2の活性領域及び/または前記第3の活性領域が量子井戸を有していることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の半導体光集積素子。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の半導体光集積素子を複数備え、該複数の半導体光集積素子を基板上にアレイ状に配列して構成されていることを特徴とする半導体光集積素子。
【請求項9】
前記基板上にアレイ状に配列された半導体光集積素子の各々が光導波路によって結合され、またはその一部が光導波路によって結合されていることを特徴とする請求項8に記載の半導体光集積素子。
【請求項10】
前記発光素子に順方向バイアス電圧を印加し、前記受光素子に逆方向バイアス電圧を印加することによって、
前記発光素子から発生した光を該受光素子で受光することが可能に構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の半導体光集積素子。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の半導体光集積素子を光源として備えていることを特徴とする光断層撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−4903(P2013−4903A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137422(P2011−137422)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】