説明

半導体基板とその製造方法

【課題】立方晶炭化珪素(3C−SiC)に対してより格子ミスマッチの少ないバッファ層を形成することで、高品位(高品質)な炭化珪素単結晶膜を形成した半導体基板と、その製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも一面に単結晶シリコンを有するシリコン基板1と、単結晶シリコン上に設けられた、コバルトシリサイドを主に含んでなるコバルトシリサイド層(2a、2b、2c)を一層以上有したバッファ層2と、バッファ層2上に設けられた、炭化珪素単結晶膜3と、を含む半導体基板10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイドバンドギャップ半導体として期待される炭化珪素単結晶膜を備えた、半導体基板とその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンの単結晶は大口径で高品質かつ安価であるため、多くの材料の単結晶成長基板として用いられている。特に、立方晶炭化珪素(3C−SiC)は次世代低損失のパワーデバイス用半導体材料として期待されており、安価なシリコン基板上に単結晶成長(ヘテロエピタキシー)できることは非常に有用である。
【0003】
しかし、立方晶炭化珪素結晶とシリコン結晶との間には格子定数の差が20%程度もあるため、シリコン結晶(シリコン基板)上に形成した立方晶炭化珪素単結晶には多くのボイドやミスフィット転位が発生してしまい、高品位な結晶を成長させることが困難であった。
【0004】
そこで、シリコン基板と立方晶炭化珪素層との間の格子定数差(格子ミスマッチ)を緩和させるバッファ層として、これらシリコン基板と立方晶炭化珪素層との間に立方晶リン化ホウ素(c−BP)膜を挿入し、立方晶炭化珪素層に格子整合させる方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−103671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、c−BPの融点は1100℃程度と低く、さらにリンを含む材料は融点より低い温度でも非常に揮発し易いため、シリコン基板上にc−BPからなるバッファ層を安定に成長させるのは非常に困難である。また、c−BPの格子定数は0.4538nmであり、3C−SiCの格子定数である0.4358nmに対して格子ミスマッチを4.1%と比較的小さくできるものの、シリコン基板(格子定数;0.5430nm)とc−BPとの間には17.9%もの巨大な格子ミスマッチが存在してしまう。そのため、c−BP膜自体に多くの欠陥が導入されるのを避けることができず、結果として高品質な3C−SiC単結晶膜を形成することができなかった。
【0007】
このような背景のもとに、炭化珪素のエピタキシャル成長時に十分高品質な単結晶膜を成長させることが可能になるよう、3C−SiCに対してより格子ミスマッチの少ないバッファ層を形成することが望まれている。
本発明の一態様は、3C−SiCに対してより格子ミスマッチの少ないバッファ層を形成することで、高品位(高品質)な炭化珪素単結晶膜を形成した半導体基板と、その製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の半導体基板は、少なくとも一面に単結晶シリコンを有する基板と、
前記単結晶シリコン上に設けられた、コバルトシリサイドを主に含んでなるコバルトシリサイド層を一層以上有したバッファ層と、
前記バッファ層上に設けられた、炭化珪素単結晶膜と、
を含むことを特徴としている。
【0009】
この半導体基板によれば、格子定数が例えば0.4447nm(CoSi)から0.5367nm(CoSi)の範囲をもつコバルトシリサイドを主に含んでなるコバルトシリサイド層によって、バッファ層を形成しているので、このバッファ層が、単結晶シリコン及び炭化珪素単結晶膜のいずれに対しても、格子定数差(格子ミスマッチ)の少ないものとなる。したがって、このバッファ層上に設けられた炭化珪素単結晶膜も格子ミスマッチが少ないものとなり、この炭化珪素単結晶膜が高品位(高品質)なものとなる。
【0010】
また、前記半導体基板においては、前記バッファ層を構成するコバルトシリサイド層の組成をCoSiとすると、xが1以上、2以下であるのが好ましい。
前記したようにxが1のコバルトモノシリサイド(CoSi)の格子定数は0.4447nmであり、xが2のコバルトジシリサイド(CoSi)の格子定数は0.5367nmである。したがって、xが1〜2の範囲(1<x<2)のCoSiでは、格子定数が0.4447nm〜0.5367nmになると考えられる。そのため、xが適宜な値となるように調整することにより、バッファ層が、単結晶シリコン及び炭化珪素単結晶膜のいずれに対しても、より格子定数差(格子ミスマッチ)の少ないものとなる。
【0011】
また、前記半導体基板においては、前記バッファ層が前記コバルトシリサイド層を二層以上有し、前記単結晶シリコンと接する側に組成がCoSiのコバルトシリサイド層を配置し、前記炭化珪素単結晶膜と接する側に組成がCoSiのコバルトシリサイド層を配置しているのが好ましい。
このようにすれば、格子定数が0.5430nmの単結晶シリコンに、格子定数が0.5367nmのCoSiが接し、格子定数が0.4358nmの炭化珪素単結晶膜に、格子定数が0.4447nmのCoSiが接するので、単結晶シリコンとバッファ層との間、及びバッファ層と炭化珪素単結晶膜との間のいずれにおいても、より格子定数差(格子ミスマッチ)の少ないものとなる。
【0012】
また、前記半導体基板においては、前記バッファ層を構成するコバルトシリサイド層の組成をCoSiとすると、該バッファ層は、前記単結晶シリコンと接する側から前記炭化珪素単結晶膜と接する側にかけて前記CoSi中のxが1から2に、連続的にあるいは段階的に変化しているのが好ましい。
このようにすれば、前記したように単結晶シリコンとバッファ層との間、及びバッファ層と炭化珪素単結晶膜との間のいずれにおいても、より格子定数差(格子ミスマッチ)の少ないものとなる。さらに、バッファ層を構成するコバルトシリサイド層内においても、xが連続的にあるいは段階的に変化しているので、バッファ層は内部に欠陥が少ない良好なものとなり、これの上に設けられた炭化珪素単結晶膜も高品位なものとなる。
【0013】
また、前記半導体基板においては、前記炭化珪素単結晶膜が、立方晶炭化珪素の単結晶膜であるのが好ましい。
このようにすれば、コバルトシリサイド及びシリコンの結晶系が立方晶であるのに加え、炭化珪素単結晶膜も立方晶となるため、この炭化珪素単結晶膜の結晶成長が比較的容易になり、したがって炭化珪素単結晶膜は高品位なものとなる。
【0014】
本発明の半導体基板の製造方法は、少なくとも一面に単結晶シリコンを有する基板の前記単結晶シリコン上に、コバルトシリサイドを主に含んでなるコバルトシリサイド層を一層以上設けてバッファ層を形成する工程と、
前記バッファ層上に、炭化珪素単結晶膜を形成する工程と、
を含むことを特徴としている。
【0015】
この半導体基板の製造方法によれば、格子定数が例えば0.4447nm(CoSi)から0.5367nm(CoSi)の範囲をもつコバルトシリサイドを主に含んでなるコバルトシリサイド層によって、バッファ層を形成するので、このバッファ層が、単結晶シリコン及び炭化珪素単結晶膜のいずれに対しても、格子定数差(格子ミスマッチ)の少ないものとなる。したがって、欠陥の少ないバッファ層を形成することができ、さらにこのバッファ層上に、格子ミスマッチが少ない炭化珪素単結晶膜を形成することができる。よって、この炭化珪素単結晶膜を高品位(高品質)に形成することができる。
また、シリコンとコバルトシリサイドの結晶系が共に立方晶であるので、単結晶シリコン上にバッファ層を結晶成長させるのが比較的容易になり、したがってバッファ層を欠陥が少ない高品位なものに形成することができる。
【0016】
また、前記半導体基板の製造方法においては、前記バッファ層を形成する工程では、該バッファ層を構成するコバルトシリサイド層の組成をCoSiとすると、xが1以上、2以下となるように前記バッファ層を形成するのが好ましい。
前記したようにxが1〜2の範囲(1<x<2)のCoSiでは、格子定数が0.4447nm〜0.5367nmの範囲の混晶になると考えられる。そこで、xが1〜2の範囲の適宜な値となるようにバッファ層を形成することにより、バッファ層を、単結晶シリコン及び炭化珪素単結晶膜のいずれに対しても、より格子定数差(格子ミスマッチ)の少ないものにすることができる。
【0017】
また、前記半導体基板の製造方法においては、前記バッファ層を形成する工程では、前記単結晶シリコンと接する側に組成がCoSiのコバルトシリサイド層を形成し、前記炭化珪素単結晶膜と接する側に組成がCoSiのコバルトシリサイド層を形成するのが好ましい。
このようにすれば、前記したように単結晶シリコンとバッファ層との間、及びバッファ層と炭化珪素単結晶膜との間のいずれにおいても、より格子定数差(格子ミスマッチ)の少ないバッファ層を形成することができる。
【0018】
また、前記半導体基板の製造方法においては、前記バッファ層を形成する工程では、該バッファ層を構成するコバルトシリサイド層の組成をCoSiとすると、前記単結晶シリコンと接する側から前記炭化珪素単結晶膜と接する側にかけて前記CoSi中のxが1から2に、連続的にあるいは段階的に変化するように、前記バッファ層を形成するのが好ましい。
このようにすれば、前記したように単結晶シリコンとバッファ層との間、及びバッファ層と炭化珪素単結晶膜との間のいずれにおいても、より格子定数差(格子ミスマッチ)の少ないバッファ層を形成することができる。さらに、バッファ層を構成するコバルトシリサイド層内においても、xを連続的にあるいは段階的に変化させているので、バッファ層を内部に欠陥が少ない良好なものに形成することができ、したがってこれの上に高品位な炭化珪素単結晶膜を形成することができる。
【0019】
また、前記半導体基板の製造方法においては、前記炭化珪素単結晶膜を形成する工程では、立方晶炭化珪素の単結晶膜を形成するのが好ましい。
このようにすれば、コバルトシリサイド及びシリコンの結晶系が立方晶であるのに加え、炭化珪素単結晶膜も立方晶になるため、この炭化珪素単結晶膜の結晶成長が比較的容易になり、したがって炭化珪素単結晶膜を高品位にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の半導体基板の一実施形態を示す側断面図である。
【図2】図1に示した半導体基板の製造方法の、工程を説明するため断面図である。
【図3】図2に続く工程を説明するため断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る半導体基板とその製造方法について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0022】
まず、本発明の半導体基板の一実施形態について説明する。
図1は、本発明の半導体基板の一実施形態を示す断面図であり、図1中符号1は半導体基板10である。この半導体基板10は、単結晶シリコン基板(以下、シリコン基板と記す)1と、このシリコン基板1の一面1a上に形成されたバッファ層2と、このバッファ層2上に形成された炭化珪素単結晶膜3と、を有して構成されたものである。
【0023】
シリコン基板1は、本発明の基板となるもので、その一面1aに単結晶シリコンを有したものである。なお、このシリコン基板1の一面1aに露出する単結晶シリコンの結晶面は、例えば、ミラー指数(100)で表される結晶面(以下、単に(100)面と略記する。)をなすものとされるが、(100)面以外にも、(100)面に対して54.73°傾斜した(111)面であってもよい。このような単結晶シリコンは、以下の表に示すように結晶系が立方晶であり、その格子定数は0.5430nmである。
【0024】
【表1】

【0025】
バッファ層2は、コバルトシリサイドを主に含んでなるコバルトシリサイド層を一層以上有したもので、厚さが、例えば2nm以上30nm以下程度に形成されたものである。ここで、「コバルトシリサイドを主に含んでなる」とは、コバルトシリサイドを主成分としたものであれば、コバルトシリサイド以外の成分を不純物として含んでいてもよいことを意味している。
【0026】
本実施形態では、図1に示したように、シリコン基板1側に順に、第1コバルトシリサイド層2a、第2コバルトシリサイド層2b、第3コバルトシリサイド層2cが積層されてなる3層構造となっている。ただし、これらの層間には明確な境界はなく、コバルトシリサイドの組成をCoSiとした場合に、xの値が以下の条件で異なる境界を、それぞれの層の境界としている。
【0027】
すなわち、シリコン基板1に接する第1のコバルトシリサイド層2aは、前記xが2の層、つまりCoSi(コバルトジシリサイド)からなる層である。
第2のコバルトシリサイド層2bは、前記xが1を超え、かつ2未満の範囲となる層、つまりCoSi(ただし、1<x<2)からなる層である。
炭化珪素単結晶膜3に接する第3のコバルトシリサイド層2cは、前記xが1の層、つまりCoSi(コバルトモノシリサイド)からなる層である。
ここで、前記表に示したように、CoSi(コバルトジシリサイド)及びCoSi(コバルトモノシリサイド)はその結晶系が共に立方晶であり、その格子定数は、CoSiは0.5367nm、CoSiは0.4447nmである。
【0028】
また、第2のコバルトシリサイド層2bは、第1のコバルトシリサイド層2a側から第3のコバルトシリサイド層2c側にかけて、その組成を、前記xが2から1に連続的に、あるいは段階的に変化するように形成されている。したがって、特にこの第2のコバルトシリサイド層2bを、前記xが2から1に連続的に変化するように形成した場合には、各コバルトシリサイド層2a、2b、2c間には明確な境界がなくなる。また、この第2のコバルトシリサイド層2bを、前記xが2から1に段階的に変化するように形成した場合には、このコバルトシリサイド層2bは、さらに複数のコバルトシリサイド層に細分化されることになる。
【0029】
しかし、本実施形態では、前記したような条件のxの値の変化により、バッファ層2を構成するコバルトシリサイド層を、三つのコバルトシリサイド層2a〜2cに規定している。なお、前記xが1と2の間の値となる状態では、CoSiは、CoSi(コバルトジシリサイド)とCoSi(コバルトモノシリサイド)とが混在した混晶状態となる。したがって、これらの比率に応じて、つまりxの値に応じて、CoSiはその格子定数も変化するものと推測される。また、その結晶系は立方晶になる。
【0030】
炭化珪素単結晶膜3は、前記バッファ層2上にエピタキシャル結晶成長された、炭化珪素の単結晶層である。この炭化珪素単結晶膜3は、本実施形態では立方晶の炭化珪素(3C−SiC)から形成されている。立方晶の炭化珪素は、バンドギャップ値が2.2eV以上と高く、光透過性や、絶縁破壊電界が高いため、パワーデバイス用のワイドバンドギャップ半導体として好適である。このような3C−SiCからなる炭化珪素単結晶膜3は、前記表に示したように、格子定数が0.4358nmである。
【0031】
このような構成の半導体基板10にあっては、格子定数が0.4447nm(CoSi)から0.5367nm(CoSi)の範囲をもつコバルトシリサイド層2a〜2cによって、バッファ層2を形成しているので、このバッファ層2が、シリコン基板(単結晶シリコン膜)1及び炭化珪素単結晶膜3のいずれに対しても、格子定数差(格子ミスマッチ)の少ないものとなる。
【0032】
すなわち、シリコン基板1と第1のコバルトシリサイド(CoSi)2aとの間の格子ミスマッチは1.2%と従来のc−BPを用いた場合に比べて小さくなり、また、第1のコバルトシリサイド(CoSi)2cと炭化珪素単結晶膜3との間の格子ミスマッチも2.0%と十分に小さくなる。
したがって、このバッファ層2上に形成された炭化珪素単結晶膜3も、格子ミスマッチが少ない、高品位(高品質)なものとなる。
【0033】
また、シリコン基板1に接して第1のコバルトシリサイド層2aを配置し、炭化珪素単結晶膜3に接して第3のコバルトシリサイド層2cを配置しているので、格子定数が0.5430nmのシリコン基板1に格子定数が0.5367nmのCoSiが接し、格子定数が0.4358nmの炭化珪素単結晶膜(3C−SiC)3に格子定数が0.4447nmのCoSiが接することになる。したがって、シリコン基板1とバッファ層2との間、及びバッファ層2と炭化珪素単結晶膜3との間のいずれにおいても、より格子定数差(格子ミスマッチ)の少ないものとなり、炭化珪素単結晶膜3は高品位(高品質)なものとなる。
【0034】
さらに、バッファ層2を第1〜第3のコバルトシリサイド層2a〜2cによって構成し、シリコン基板1側から炭化珪素単結晶膜3側にかけてCoSi中のxを1から2に、連続的にあるいは段階的に変化させているので、バッファ層2内においても格子ミスマッチが少なくなる。したがって、バッファ層2が内部に欠陥の少ない良好なものとなるため、炭化珪素単結晶膜3はより高品位(高品質)なものとなる。
【0035】
次に、このような半導体基板1の製造方法に基づき、本発明の半導体基板の製造方法の一実施形態を説明する。
まず、図2に示すようにシリコン基板1を用意する。続いて、このシリコン基板1の一面1aに形成された自然酸化膜を除去(洗浄)する。自然酸化膜の除去(洗浄)については、例えば、シリコン基板1を真空チャンバー内に配置し、減圧雰囲気下でアニール処理を行うことにより、一面1aに付着した自然酸化膜(SiO)を除去する。
【0036】
アニール処理については、シリコン基板1を例えば750℃で5分程度加熱することで行うことができる。また、その際、真空チャンバー内に水素ガスを導入し、水素ガスと自然酸化膜とを反応させて、シリコン基板1の一面1aから自然酸化膜を除去してもよい。
さらに、アニール処理に代えて、フッ化水素酸(HF)等のエッチング液でシリコン基板1の一面1aを事前にエッチングし、自然酸化膜を除去しておいてもよい。
【0037】
次に、前記シリコン基板1をCVDチャンバー内に入れ、このCVDチャンバー内を真空引きした後、シリコン基板1を加熱してその温度を900℃にまで上昇させる。そして、その状態でCVDチャンバー内に、原料ガスとしてビス(シクロペンタジエニル)コバルトガスを1.0sccmの流量で、また、ジシランガスを2.0sccmの流量でそれぞれ供給する。この状態を10分間維持ことにより、図3に示すように第1のコバルトシリサイド層2a(CoSi)を形成する。CoSiは高温における安定層であるため、基板温度を高温域に保つことにより、良好に形成される。
【0038】
続いて、シリコン基板1の温度を少しずつ連続的に低下させつつ、ジシランガスの供給流量を少しずつ連続的に減らしていく。すると、前記表に示したようにCoSiに比べてCoSiは形成温度が低いため、CoSiで示される組成において、xが2から1に向かって徐々に低くなる。すなわち、図1に示した第1のコバルトシリサイド層2a側から第3のコバルトシリサイド層2c側にかけて、CoSiで示される組成が、CoSiからCoSiに連続的に変化する。
【0039】
そして、最終的にはシリコン基板1の温度を500℃にまで低下し、ビス(シクロペンタジエニル)コバルトガスを1.0sccmの流量のままで、ジシランガスを1.0sccmの流量にまで低下させ、その状態で例えば10分間維持する。
このように基板温度と原料ガスの流量を調整すると、これら基板温度及び流量を少しずつ連続的に低下させることで、図3に示すように第2のコバルトシリサイド層2b(CoSi;1<x<2)が形成され、その後にシリコン基板1の温度を500℃に低下させたことで、第3のコバルトシリサイド層2c(CoSi)が形成される。すなわち、CoSiの形成条件に対して基板温度を低下させ、シリコンソースガス(ジシランガス)とコバルトソースガス(ビス(シクロペンタジエニル)コバルトガス)との比を最適値に調整することで、低温域で安定なCoSiを形成することができる。
【0040】
なお、第2のコバルトシリサイド層2bの形成に際しては、基板温度及び流量を少しずつ連続的に低下させるのに代えて、これら基板温度及び流量を少しずつ段階的に低下させてもよい。このようにすれば、第2のコバルトシリサイド層2bは例えばCoSi1.8からなるコバルトシリサイド層、CoSi1.6からなるコバルトシリサイド層、CoSi1.4からなるコバルトシリサイド層……というように、xが段階的に変化する複数のコバルトシリサイド層の積層構造となる。
【0041】
このようにして第1のコバルトシリサイド層2a、第2のコバルトシリサイド層2b、第3のコバルトシリサイド層2cからなるバッファ層2を形成したら、このバッファ層2を形成したシリコン基板1を一旦室温まで冷却し、その後、基板温度を500℃になるまで上昇させ、チャンバー内に原料ガスとしてモノメチルシランを3.0sccmの流量で供給する。さらに、基板温度を徐々に1050℃まで上昇させ、その後一定時間その状態を維持する。
【0042】
これにより、図1に示したように前記バッファ層2上に、立方晶炭化珪素(3C−SiC)を所望の厚さにエピタキシャル成長させ、単結晶膜4を形成する。そして、シリコン基板1上に、バッファ層2を介して立方晶炭化珪素(3C−SiC)の単結晶膜3を形成した、半導体基板10を得る。
【0043】
シリコン基板1の温度については、原料ガスであるモノメチルシランが熱分解可能な温度にまで上昇すればよく、例えば500℃以上1200℃以下とすればよい。
また、単結晶膜4の原料ガスとして用いるモノメチルシラン(SiHCH)は、分子中にシリコン原子と炭素原子とを含むため、それ自体で炭化珪素膜を形成することが可能になる。
【0044】
また、シリコン原子と炭素原子の組成比が1:1であるため、例えばジメチルシランやトリメチルシラン等の他のガス種を用いる場合に比べて、炭化珪素単結晶膜の組成比を良好に制御することができる。さらに、比較的低温で熱分解するため、単結晶膜3を形成した後、シリコン基板1を室温に戻すときに、単結晶膜3とシリコン基板1との間の熱膨張係数の違いによって、新たな結晶欠陥を引き起こすおそれも少ない。
【0045】
以上の方法により、シリコン基板1上に立方晶炭化珪素(3C−SiC)の単結晶膜4を形成した半導体基板10が完成したら、半導体基板10をそのままパワーデバイス用半導体基板として出荷することが可能になる。また、半導体基板10上に、単結晶膜3と格子整合し易い立方晶窒化ガリウム層をさらに成長させ、窒化ガリウム半導体装置を作製してもよい。
【0046】
以上に説明した半導体基板10の製造方法にあっては、格子定数が0.4447nm(CoSi)から0.5367nm(CoSi)の範囲をもつコバルトシリサイド層によってバッファ層2を形成するので、このバッファ層2が、シリコン基板1及び炭化珪素単結晶膜3のいずれに対しても、格子定数差(格子ミスマッチ)の少ないものとなる。したがって、欠陥の少ないバッファ層2を形成することができ、さらにこのバッファ層2上に、格子ミスマッチが少ない炭化珪素単結晶膜3を形成することができる。よって、この炭化珪素単結晶膜3を高品位(高品質)に形成することができる。
また、シリコンとコバルトシリサイドの結晶系が共に立方晶であるので、シリコン基板1上にバッファ層2を結晶成長させるのが比較的容易になり、したがってバッファ層2を欠陥が少ない高品位なものに形成することができる。
【0047】
また、シリコン基板1に接する側に第1のコバルトシリサイド層2aを形成し、炭化珪素単結晶膜3に接する側に第3のコバルトシリサイド層2cを形成するので、格子定数が0.5430nmのシリコン基板1に格子定数が0.5367nmのCoSiが接し、格子定数が0.4358nmの炭化珪素単結晶膜(3C−SiC)3に格子定数が0.4447nmのCoSiが接するようになる。したがって、シリコン基板1とバッファ層2との間、及びバッファ層2と炭化珪素単結晶膜3との間のいずれにおいても、より格子定数差(格子ミスマッチ)を少なくすることができ、これによって炭化珪素単結晶膜3を高品位(高品質)に形成することができる。
【0048】
さらに、バッファ層2を第1〜第3のコバルトシリサイド層2a〜2cによって構成し、シリコン基板1側から炭化珪素単結晶膜3側にかけてCoSi中のxを1から2に、連続的にあるいは段階的に変化させているので、バッファ層2内においても格子ミスマッチを少なくすることができる。よって、バッファ層2を内部に欠陥の少ない良好なものに形成することができ、したがってこれの上に高品位な炭化珪素単結晶膜3を形成することができる。
【0049】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、本発明の基板として単結晶シリコン基板を用いたが、例えば石英やガラス、プラスチック、ステンレス等からなる基板上に、単結晶シリコン膜を形成したものであってもよい。
【0050】
また、前記実施形態では、バッファ層2を三層のコバルトシリサイド層2a〜2cによって形成したが、本発明はこれに限定されることなく、一層又は二層、あるいは四層以上のコバルトシリサイド層によって形成してもよい。
【符号の説明】
【0051】
1…シリコン単結晶基板(シリコン基板)、1a…一面、2…バッファ層、2a…第1のコバルトシリサイド層、2b…第2のコバルトシリサイド層、2c…第3のコバルトシリサイド層、3…炭化珪素単結晶膜、10…半導体基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一面に単結晶シリコンを有する基板と、
前記単結晶シリコン上に設けられた、コバルトシリサイドを主に含んでなるコバルトシリサイド層を一層以上有したバッファ層と、
前記バッファ層上に設けられた、炭化珪素単結晶膜と、
を含むことを特徴とする半導体基板。
【請求項2】
前記バッファ層を構成するコバルトシリサイド層の組成をCoSiとすると、xが1以上、2以下であることを特徴とする請求項1記載の半導体基板。
【請求項3】
前記バッファ層は前記コバルトシリサイド層を二層以上有し、前記単結晶シリコンと接する側に組成がCoSiのコバルトシリサイド層を配置し、前記炭化珪素単結晶膜と接する側に組成がCoSiのコバルトシリサイド層を配置したことを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体基板。
【請求項4】
前記バッファ層を構成するコバルトシリサイド層の組成をCoSiとすると、該バッファ層は、前記単結晶シリコンと接する側から前記炭化珪素単結晶膜と接する側にかけて、前記CoSi中のxが1から2に、連続的にあるいは段階的に変化していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の半導体基板。
【請求項5】
前記炭化珪素単結晶膜が、立方晶炭化珪素の単結晶膜であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の半導体基板。
【請求項6】
少なくとも一面に単結晶シリコンを有する基板の前記単結晶シリコン上に、コバルトシリサイドを主に含んでなるコバルトシリサイド層を一層以上設けてバッファ層を形成する工程と、
前記バッファ層上に、炭化珪素単結晶膜を形成する工程と、
を含むことを特徴とする半導体基板の製造方法。
【請求項7】
前記バッファ層を形成する工程では、該バッファ層を構成するコバルトシリサイド層の組成をCoSiとすると、xが1以上、2以下となるように前記バッファ層を形成することを特徴とする請求項6記載の半導体基板の製造方法。
【請求項8】
前記バッファ層を形成する工程では、前記単結晶シリコンと接する側に組成がCoSiのコバルトシリサイド層を形成し、前記炭化珪素単結晶膜と接する側に組成がCoSiのコバルトシリサイド層を形成することを特徴とする請求項6又は7に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項9】
前記バッファ層を形成する工程では、該バッファ層を構成するコバルトシリサイド層の組成をCoSiとすると、前記単結晶シリコンと接する側から前記炭化珪素単結晶膜と接する側にかけて前記CoSi中のxが1から2に、連続的にあるいは段階的に変化するように、前記バッファ層を形成することを特徴とする請求項6〜8のいずれか一項に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項10】
前記炭化珪素単結晶膜を形成する工程では、立方晶炭化珪素の単結晶膜を形成することを特徴とする請求項6〜9のいずれか一項に記載の半導体基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−77478(P2011−77478A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−230371(P2009−230371)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】