説明

半導体用ケース

【課題】内部への樹脂由来のガスの放散を抑制できる半導体用ケースを提供する。
【解決手段】少なくとも内側面が樹脂で構成され、レチクルまたはウェハを収容するケース本体と、内側面を被覆すると共に、内側面から樹脂に含まれる気化物質が放散することを防止するダイヤモンドライクカーボン膜とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レチクルまたはウェハを収容する半導体用ケースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造過程において用いられるレチクルや半導体のウェハ等の運搬、保管等には、半導体用ケースが使用される。この種の半導体用ケースとしては、例えば、レチクルやウェハを載置する底皿と、この底皿に蓋をする上蓋とを有し、底皿を帯電量の絶対値が100V以下の導電性樹脂で形成すると共に、上蓋を帯電量の絶対値が1500V以上の非導電性樹脂で形成したもの(例えば、特許文献1参照)が提案されている。このような半導体用ケースでは、底皿と上蓋との磨耗等によるパーティクルの発生を抑制でき、発生したパーティクルは上蓋に静電吸着されるため、レチクル等へのパーティクルの付着による汚染を抑制できる。また、レチクル等に電荷が溜まらないため、パターンの静電破壊を防止することができる。
【0003】
また、内側面にイオン化蒸着法によってダイヤモンドライクカーボン膜(以下、「DLC膜」と称する場合がある)を設けた半導体用ケース(例えば、特許文献2参照)が検討されている。この半導体用ケースによれば、内側面を化学的に不活性にし、潤滑性を増して、剥がれた粒子がウェハに付着することを防止できる。
【0004】
一般に、DLC膜は、耐磨耗性、摺動性、ガスバリア性等が優れているため、幅広い用途開発が行われている。その成膜方法としては、高周波プラズマ法とイオン化蒸着法(イオンプレーテイング)とが主に用いられている。
高周波プラズマ法では、メタンガスを原料に使い、容量結合型のプラズマ電極を用いる。この方法により生成するDLC膜の膜質は、膜中水素が多いため、平滑性に優れ、摩擦係数も小さいが、若干硬度が低いことが知られている。イオン化蒸着法では、原料にベンゼンを用い、イオン化した炭化水素を直流で加速することにより、生成したDLC膜の膜中から水素が除去される。このため、膜質が硬くなり、若干面粗度が悪くなるとことが知られている。したがって、通常、高周波プラズマ法によるDLC膜は摺動用途に用いられ、イオン化蒸着法によるDLC膜は金型や刃物等に用いられる。
【0005】
このようなDLC膜は、飲料用等のプラスチック容器の内側面に設けて、耐酸素ガス透過性を向上させることも知られている(例えば、特許文献3参照)。この場合では、容器内にアセチレン等を導入し、マイクロ波を照射して、容器の内側面に最大で400Å(0.04μm)のDLC膜を形成させている。
【0006】
一方、半導体デバイスのデザインルールの微細化に伴い、露光工程におけるレチクルのヘイズが問題となっている。レチクルの表面や雰囲気中に存在する酸と塩基との反応、あるいは有機不純物の光化学反応によって、レチクルにヘイズの種となる物質が形成される。ヘイズの種となる物質は露光のエネルギーによって凝集し、欠陥の原因となるヘイズに成長することが知られている。
【0007】
【特許文献1】特開2001−253491号公報
【特許文献2】特開平6−92389号公報
【特許文献3】特開2001−232714号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載されたような前記従来の樹脂で形成された半導体用ケースでは、樹脂中に含まれる安定剤や紫外線吸収剤等の樹脂由来のガスが樹脂から放散し、内部に収容されたレチクルやウェハに付着して、これらを汚染する虞があった。
【0009】
レチクル等に付着した安定剤や紫外線吸収剤等は、有機不純物として光化学反応によってヘイズを発生させるため、露光によりウェハに転写されるパターンの欠陥の原因になるという問題があった。
【0010】
樹脂中に含まれる安定剤としては、フェノール系(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール[BHT])、スルフィド系(ジラウリルチオジプロピオネート[DLTP])、ホスファイト系(トリデシルホスファイト[TDP])等がある。紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系(2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン)、ベンゾトリアゾール系(2(2’−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール)、アクリレート系(2−エチルヘキシル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート)、サリチレート系(フェニルサリチレート)等がある。
【0011】
特許文献2に記載されたようなイオン化蒸着法で形成されたDLC膜は、高硬度で、樹脂への密着性と追従性とが悪いため、半導体用ケースの内側面を樹脂で形成した場合には、DLC膜の剥離やひび割れ等が生じ、半導体用ケース内部への樹脂由来のガスの放散を抑制することは難しかった。
【0012】
また、特許文献3に記載されたDLC膜では、膜質が弱く、機械的衝撃等によって膜が破壊されて塵埃となる虞があった。このため、塵埃の付着が厳禁であるレチクルやウェハ等の運搬、保管等に使用する半導体用ケースには適用できなかった。
【0013】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、内部への樹脂由来のガスの放散を抑制できる半導体用ケースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するための本発明に係る半導体用ケースの第1特徴構成は、少なくとも内側面が樹脂で構成され、レチクルまたはウェハを収容するケース本体と、前記内側面を被覆すると共に、前記内側面から前記樹脂に含まれる気化物質が放散することを防止するダイヤモンドライクカーボン膜とを備えた点にある。
【0015】
ダイヤモンドライクカーボン膜は、良好な耐ガス透過性を有する。このため、本構成のようにケース本体の内側面をダイヤモンドライクカーボン膜で被覆することにより、ケース本体の内側面を構成する樹脂に含まれる気化物質、すなわち樹脂由来のガスが、ケース本体の内部に放散することを抑制することができる。
したがって、本構成によれば、ケース本体の内部に樹脂由来のガスが放散してレチクルやウェハに付着することを防止でき、レチクルやウェハを安定に保つことができる。
【0016】
本発明に係る半導体用ケースの第2特徴構成は、前記ダイヤモンドライクカーボン膜の硬度を、HK400〜1000の範囲にした点にある。
【0017】
本構成のように、ダイヤモンドライクカーボン膜の硬度をHK400〜1000の範囲となるように構成することにより、樹脂の体積変化に対して追随が可能となり、割れ難くなる。このため、樹脂由来のガスが、ダイヤモンドライクカーボン膜の割れた隙間を通過してケース本体の内部に入り込むことを防止できる。また、ダイヤモンドライクカーボン膜自体が割れ難いため、膜の破片等がレチクルやウェハに付着することも防止できる。
【0018】
本発明に係る半導体用ケースの第3特徴構成は、前記ダイヤモンドライクカーボン膜の密度を、1.6〜3.3g/cmの範囲にした点にある。
【0019】
ダイヤモンドライクカーボン膜は、密度が小さくなると耐ガス透過性が低下し、密度が大きくなると硬くなり割れやすくなる。
そこで、本構成のように、密度を1.6〜3.3g/cmの範囲にすることにより、良好な耐ガス透過性を保ちつつ、割れ難いダイヤモンドライクカーボン膜とすることができる。
【0020】
本発明に係る半導体用ケースの第4特徴構成は、前記ダイヤモンドライクカーボン膜の厚みを、0.05〜1.0μmの範囲にした点にある。
【0021】
本構成のように、厚みを0.05〜1.0μmの範囲にすることにより、優れた耐ガス透過性を有するダイヤモンドライクカーボン膜とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明に係る半導体用ケースは、少なくとも内側面が樹脂で構成され、レチクルまたはウェハを収容するケース本体と、前記内側面を被覆すると共に、前記内側面から前記樹脂に含まれる気化物質が放散することを防止するDLC膜とを備えたものである。DLC膜の硬度は、HK400〜1000の範囲にあることが好ましい。DLC膜の硬度は低くなると耐ガス透過性が低下する一方で、硬度が高くなると割れ易くなる。このため、樹脂で形成されたケース本体の内側面をDLC膜で被覆する場合において、DLC膜の硬度をHK400〜1000の範囲となるように構成することにより、ケース本体の内側面を構成する樹脂の弾性変形や、成膜時等における温度変化による膨張・収縮等の体積変化等に対して追随できる。このようなDLC膜は、優れた耐ガス透過性に加え、樹脂の体積変化等に対して割れ難くなるため、ケース本体の内部に樹脂由来のガスが放散することを抑制でき、レチクルやウェハが汚染されることを防止できる。また、これにより、従来では半導体用ケースに使用できなかった樹脂を使用することもできる。
尚、樹脂由来のガス(樹脂に含まれる気化物質)は、特に限定はされないが、例えば、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、難燃剤等、重合前のモノマーや重合後の樹脂に添加する各種添加剤、未重合の原料モノマーやオリゴマー、溶融工程等で生じる低分子量分解物等を含む。
【0023】
本発明に係る半導体用ケースは、レチクルまたはウェハを収容するケース本体を備えたものであり、従来公知の形状のものが適用可能であり、特に限定はされない。また、ケース本体は、少なくとも内側面が樹脂で構成されたものであれば、特に制限はない。ケース本体として、例えば、ケース本体自体を樹脂で形成したものや、金属製等のケース本体の内側面を樹脂でコーティングしたもの等が適用可能である。
【0024】
ケース本体の内側面を形成する樹脂は、特に限定されないが、DLC膜を割れ難くするという観点からは、線膨張係数は小さい方がケース本体の熱膨張を小さくすることができるため好ましい。樹脂は、例えば、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポシキ樹脂、フラン樹脂、キシレン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、ジアリルフタレート、アラミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリビニルブチラート、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、塩素化ポリエーテル、ポリスチレン、スチレン・アクリロニトリル共重合樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂(ABS)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリメチルメタクリレート、変性アクリル樹脂、制電アクリル樹脂、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10、ナイロン11、ナイロン12、エチルセルロース、酢酸セルロース、プロピルセルロース、酢酸・酪酸セルロース、硝酸セルロース、ポリカーボネート、フェノキシ樹脂、ポリエステル、フッ素樹脂(3フッ化塩化エチレン樹脂(PCTFE)、3フッ化塩化エチレン・エチレン共重合樹脂(ECTEF)、4フッ化エチレン樹脂(PTFE)、4フッ化エチレン・エチレン共重合樹脂(ETFE)、4フッ化エチレン・6フッ化プロピレン共重合樹脂(FEP)、4フッ化エチレン・過フッ化アルキルビニルエーテル共重合樹脂(PFA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)等)、ポリウレタン等が例示される。樹脂の線膨張係数は、13×10−5/℃以下が好ましく、10×10−5/℃以下がより好ましい。
【0025】
ケース本体の内側面を被覆するDLC膜は、ダイヤモンド状の炭素−炭素結合を有する非晶質炭素膜である。DLC膜としては、特に制限はなく、水素や、金属等の他の元素を含有させることができる。DLC膜の硬度HKは、400〜1000の範囲とすることが好ましい。DLC膜は、硬度が1000を超えて高くなると、ケース本体を形成する樹脂の体積変化等に追随できなくなって割れたり、ケース本体から剥離する虞がある。DLC膜の硬度が400よりも低くなると、樹脂の体積変化等に追随できるものの、安定剤や紫外線吸収剤等の樹脂由来のガスに対する耐ガス透過性が低下する。このため、DLC膜の硬度は、HK500〜900がより好ましい。DLC膜の硬度は、DLC成膜時の高周波電力の周波数・電力、真空度、処理時間等を適正に選択することによって調整する。尚、DLC膜の硬度は、例えば、真空度:0.1Torr、DLC膜形成用ガス:メタン/流量500sccm、温度:50℃、高周波電力:周波数13.56MHz/400W/39min.の成膜条件でDLC膜の硬度900(HK)。真空度:0.1Torr、DLC膜形成用ガス:メタン/流量500sccm、温度:50℃、高周波電力:周波数13.56MHz/480W/33min.の成膜条件でDLC膜の硬度900(HK)。真空度:0.1Torr、DLC膜形成用ガス:メタン/流量500sccm、温度:50℃、高周波電力:周波数13.56MHz/300W/135min.の成膜条件でDLC膜の硬度500(HK)が得られる。DLC膜の硬度は水素の導入量が多くなると低下し、水素の導入量が少ないとDLC膜の硬度は高くなる傾向にあるとされている。
【0026】
また、炭素からなる物質としては、例えば、グラファイトやダイヤモンド等がある。グラファイトの炭素はsp2結合を有し、ダイヤモンドはsp3結合を有しており、グラファイトはダイヤモンドよりも柔軟となっている。DLC膜を構成する炭素の結合には、sp2結合とsp3結合とが含まれており、sp2炭素とsp3炭素との組成比によってもDLC膜の硬度は異なる。sp2炭素よりsp3炭素が多くなると硬度は高くなる傾向にあるとされている。
【0027】
DLC膜の密度は、小さくなり過ぎると耐ガス透過性が低下する傾向にあり、大きくなり過ぎると硬くなり割れやすくなる。このため、DLC膜の密度は、1.6〜3.3g/cmであることが好ましい。DLC膜の密度をこの範囲にすることにより、樹脂由来のガスに対して良好な耐ガス透過性を保ちつつ、割れ難いDLC膜とすることができる。DLC膜の密度は、DLC成膜時の高周波電力の周波数・電力、真空度、処理時間等を適正に選択することによって調整する。尚、DLC膜の密度は、例えば、真空度:0.1Torr、DLC膜形成用ガス:メタン/流量500sccm、温度:50℃、高周波電力:周波数13.56MHz/400W/39min.の成膜条件でDLC膜の密度:2.0g/cm。真空度:0.1Torr、DLC膜形成用ガス:メタン/流量500sccm、温度:50℃、高周波電力:周波数13.56MHz/480W/33min.の成膜条件でDLC膜の密度:2.4g/cm。真空度:0.1Torr、DLC膜形成用ガス:メタン/流量500sccm、温度:50℃、高周波電力:周波数13.56MHz/300W/135min.の成膜条件でDLC膜の密度:1.8g/cmが得られる。一般に、DLC膜への水素の導入量が多くなるとDLC膜の密度は小さくなる傾向にある。また、DLC膜は、sp2炭素とsp3炭素との組成比によって結晶化度が低い状態もしくはアモルファス状態になる場合には、硬度に関わらず、密度が小さくなる傾向にあるとされている。
【0028】
このようなDLC膜は、例えば、プラズマCVD法や、スパッタリング法、イオンプレーティング法等のPVD法等により製造することができ、特に制限はない。また、DLC膜を形成させる前に、前処理としてケース本体の内側面をフッ素含有ガス、水素ガス、酸素ガス等の1種または複数種の前処理ガスのプラズマに曝すことができる。このような前処理によりケース本体の内側面を洗浄することができる。また、フッ素含有ガス、水素ガスを含む前処理ガスのプラズマに曝した場合には、ケース本体の内側面がフッ素または水素によって被覆されるため、DLC膜との密着性が向上する。酸素ガスを含む前処理ガスのプラズマに曝した場合には、ケース本体の内側面に付着している有機物等を除去することができる。前処理は、同種または異種の前処理ガスを用いた複数回のプラズマ処理を行うこともできる。フッ素含有ガスとしては、フッ素(F)ガス、3フッ化窒素(NF)ガス、6フッ化硫黄(SF)ガス、4フッ化炭素(CF)ガス、4フッ化ケイ素(SiF)、6フッ化ケイ素(Si)ガス、3フッ化塩素(ClF)ガス、フッ化水素(HF)ガス等が例示される。
【0029】
DLC膜の製造方法としてプラズマCVD法を用いると、前処理とDLC膜の形成が同一の装置で可能になるため、特に好ましい。プラズマCVD法におけるDLC膜形成用ガスとしては、DLC膜形成に通常用いられるガスが適用でき、メタン(CH)、エタン(C)、プロパン(C)、ブタン(C10)、アセチレン(C)、ベンゼン(C)等の炭化水素化合物ガスが例示される。また、必要に応じて、これらの炭化水素化合物ガスにキャリアガスとして、水素ガス、不活性ガス等を混合することもできる。
【0030】
プラズマCVD法は、例えば、図1に示すプラズマCVD装置1を用いることができる。このプラズマCVD装置1は、チャンバ2と、チャンバ2を真空にするための排気ポンプ3と、チャンバ2にプラズマの原料となるガスを供給するガスボンベ4とを備える。チャンバ2と排気ポンプ3との間には圧力調整弁3aが設けてあり、チャンバ3の内部を所定の圧力に調整可能にしてある。ガスボンベ4は、前処理ガスを供給する前処理ガスボンベ41とDLC膜形成用ガスを供給するDLC膜形成用ガスボンベ42とを有し、それぞれのガスボンベ4とチャンバ2との間には、流量調節器(MFC)5と圧力調整弁4aとが設けてあり、チャンバ2へ供給するガスの流量を制御できるようにしてある。チャンバ2の内部には、電力を印加する電力印加電極6と、電力印加電極6に対向する接地電極7とが設けてある。電力印加電極6は、その上にケース本体を配置可能に設けてあり、ケース本体の温度を調節するヒータ61を備える。電力印加電極6には、マッチングボックス8を介して高周波アンプ91と高周波任意波形発生装置92との高周波電力発生装置9が設けてあり、高周波電力が印加できるようにしてある。このようなプラズマCVD装置1により、チャンバ2の内部に導入されたプラズマ原料ガスをプラズマ化できるため、電力印加電極6の上にケース本体を配置しておくことで、ケース本体の所定の面にDLC膜を形成することができる。尚、プラズマCVD装置1のその他の構成としては、電力印加電極6に温度上昇を抑えるための水冷等の冷却手段を設ける等、従来公知のプラズマCVD装置の構成が付加可能である。プラズマCVD装置1の運転方法については、パルス変調運転等、従来公知の方法が採用できる。例えば、特許第3119172号公報に記載された装置及び方法を用いることができる。
【0031】
プラズマCVD装置1を用いた半導体用ケースの製造方法の一例としては、まず、前処理として、常温〜60℃で、ケース本体をチャンバ2の電力印加電極6の上に配置し、真空排気した後、前処理ガスを所定の圧力になるまで導入し、プラズマクリーニングを行う。次いで、常温〜50℃で、前処理ガスを排気し、DLC膜形成用ガスを導入し、DLC膜の形成を行う。
【0032】
このように形成されるDLC膜の厚みは、特に限定されないが、0.05〜1.0μmにすることが好ましい。DLC膜の厚みが薄くなると耐ガス透過性が低下する傾向にあり、厚くなると膜自体が硬くなる傾向にある。DLC膜の厚みは、例えば、プラズマ処理時間によって制御することができる。処理時間が長くなると膜厚は大きくなり、短くなると膜厚は小さくなる。また、DLC膜は、単層の膜として形成したり、同種または異種のプラズマ原料ガスによる複数層の膜として形成することもできる。
【0033】
DLC膜の硬度等は、例えば、印加する高周波電力によって制御することができる。高周波電力を大きくすると、イオン照射の効果が大きくなり膜中の水素量が低下するため、DLC膜の硬度は高くなる。
【0034】
本発明に係る半導体用ケースでは、従来の半導体用ケースに比べて、内部に発生するガスを少なくすることができるため、収容するレチクルやウェハにガスが付着することを防止できる。
【実施例】
【0035】
以下に、本発明を用いた実施例を示し、本発明をより詳細に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
アクリル系制電樹脂である株式会社クレハ製のバイヨンの基材(7cm×21cm×3.5mm)を用い、図1に示すプラズマCVD装置1で、電力印加電極6を水冷しながら、前処理を行い、DLC膜を形成した後、基材から発生するガス量を調べた。
【0037】
基材から発生するガスは、図2に示す装置でサンプリングした。すなわち、基材10の上に試験器11をセットし、ガスボンベ12から供給される標準ガスをゼロガスフィルタ15に通した後、試験器11を通過させ、GC充填剤16で捕集した。13は圧力調整弁、14は流量計、17は排気ポンプである。標準ガスは高純度窒素ガスとし、流量は60sccmとした。ガスの捕集時間は100分間とした。GC充填剤16により捕集したガスは、GC−MS分析装置によりトータル有機物量TOC(トルエン換算)として測定した。
【0038】
前処理は、温度60℃以下で、以下の条件で行った。
前処理ガス:水素(H)ガス、500sccm
高周波電力:周波数13.56MHz、300W
真空度 :0.1Torr
処理時間 :1min
【0039】
前処理を行った後、真空度を0.1Torrとし、DLC膜形成用ガスとしてメタン(CH)ガスを流量500sccmで供給し、温度50℃以下、周波数13.56MHzで、表1に示す条件で高周波電力を印加して、それぞれ膜厚、硬度、密度が異なるDLC膜を形成した(実施例1〜35)。尚、変調周波数は、1kHz、Duty比50%とした。
それぞれのDLC膜を形成した基材について発生するガス量を調べ、表2及び図3に示した。ガス量は、基材をサンプリング装置にセットした時のガス量から基材をセットしていない時のガス量(試験器ブランク)を引いて算出した。また、DLC膜を形成していない基材についても、比較例として発生するガス量を調べ、表2に示した。
【0040】
その結果、表2に示す通り、基材にHK400〜1000のDLC膜を設けることにより、発生するガス量を抑制できることが確認できた。図3に示すように、DLC膜の硬度が低い場合には発生するガス量が多くなることが分かった。また、DLC膜の硬度が高くなると割れが発生し、ガス量が増加することが分かった。このため、DLC膜の硬度は、HK500〜900が好ましく、HK500〜700がより好ましい。
DLC膜の厚みについては、大きい方が発生するガス量が低下する傾向にあることが分かったが、硬度がHK900及び1000のDLC膜では、膜厚が大きくなると割れが発生し、却ってガス量が多くなっていた。このため、DLC膜の厚みは、0.05〜1μmが好ましく、0.2〜1μmがより好ましく、0.5〜1μmがさらに好ましい。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、レチクルケースやウェハ収納ケース等、レチクルやウェハを運搬、保管等を行う半導体用ケースに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】プラズマCVD装置の概略図
【図2】サンプリング装置の概略図
【図3】DLC膜の硬度、厚み毎の発生するガス量を示すグラフ
【符号の説明】
【0045】
1 プラズマCVD装置
2 チャンバ
6 電力印加電極
7 接地電極
9 高周波電力発生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも内側面が樹脂で構成され、レチクルまたはウェハを収容するケース本体と、
前記内側面を被覆すると共に、前記内側面から前記樹脂に含まれる気化物質が放散することを防止するダイヤモンドライクカーボン膜とを備える半導体用ケース。
【請求項2】
前記ダイヤモンドライクカーボン膜の硬度が、HK400〜1000の範囲にある請求項1に記載の半導体用ケース。
【請求項3】
前記ダイヤモンドライクカーボン膜の密度が、1.6〜3.3g/cmの範囲にある請求項1または2に記載の半導体用ケース。
【請求項4】
前記ダイヤモンドライクカーボン膜の厚みが、0.05〜1.0μmの範囲にある請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導体用ケース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−21282(P2010−21282A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−179336(P2008−179336)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【出願人】(500343773)株式会社ダン・タクマ (5)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【出願人】(591029699)日本アイ・ティ・エフ株式会社 (25)
【Fターム(参考)】