説明

半導体発光素子

【課題】AuSn半田による実装に適した半導体発光素子を提供する。
【解決手段】半導体層上に形成された電極と、該電極の上面の一部を残して該電極表面を被覆するパッシベーション膜とを備えた半導体発光素子において、
チタン層とニッケル層を一組とする繰り返し構造の多層膜を少なくとも一組、前記電極上に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体発光素子に関する。詳しくは半導体発光素子の電極部分の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体発光素子の電極をサブマウントなどへ接合する際に金バンプ(Auバンプ)が使用されることが多い。しかしAuバンプによる接合には放熱性の問題など克服すべき問題が多くあるため、Auバンプに代えて金錫半田(AuSn半田)を使用することが検討されている。
ところで、良好な接合性を得るために半導体発光素子の電極の上部は金で形成されるとともに、接合領域である上面の一部を除いて電極表面はパッシベーション膜(保護膜)で被覆される。このような構成の半導体発光素子をAuSn半田でサブマウントなどに接合すれば、接合時の熱によってAuSn半田と電極側の金が相互拡散して電極の大きな変形を招き、パッシベーション膜の剥離や破壊などを引き起こす。また、AuSn半田に由来するSnが電極中に侵入・拡散し、素子機能に影響を及ぼす。
ここで、電極を半導体層側から順にチタン(Ti)層、ニッケル(Ni)層、及び金(Au)又は銀(Ag)層の三層構造とすることでAuSn半田に由来するSnが電極内で拡散することを阻止し、もって電極の剥離を防止する方法が提案されている(特許文献1)。しかし、この方法はあくまでも電極内へSnが侵入した後の対策にすぎず、電極内へのSnの侵入を阻止するものではないことから、接合時にSnが電極上部に侵入し電極を変形させることに対しては何ら有効でない。従って、電極表面にパッシベーション膜が形成されている場合、このような方法を採用したとしても電極の変形に伴うパッシベーション膜の剥離や破壊が発生することになる。また上記方法ではSnが電極内へ侵入することは避けられず、素子機能への影響も無視できない。
【0003】
【特許文献1】特開2003−347487号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
AuSn半田に由来するSnが電極内に侵入・拡散することによるパッシベーション膜や素子機能への影響を防止するためには、(1)パッシベーション膜と電極上面との界面にSnを拡散させないこと、及び(2)Snを電極下層部まで拡散させないことが要求される。このような要求に応える対策として電極上にバリア層を形成することが有効といえる。バリア層には(1)バリア効果が高いこと、(2)製造コストが低いこと、(3)量産性に優れること(剥離し難いこと)が必要となる。高いバリア効果を得るためにはバリア層を厚くすることが有効とも考えられるが、厚いバリア層では応力によるクラックや剥離が発生し易く、量産性が損なわれる。また、バリア効果の高い白金(Pt)を材料としたバリア層を使用して高いバリア効果を得ることもできるが、Ptは高価であるため製造コストの大幅な上昇を引き起こす。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは以上の問題を克服したバリア層を見出すべく検討を重ねた。まず、バリア層を構成する材料を選定するにあたって、各材料のSnに対する浸食特性を調べることにした。具体的には候補材料の代表としてNiとTiを選択しそのSnに対する浸食特性を以下の実験手順で詳細に調べた。
まず、Ni層の上にAu層を形成した試料を用意し、半導体発光素子の電極接合時と同様の熱条件下でAu層の上にAuSn半田を載せた。その後、試料の切断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、Ni層の厚さに減少が認められた。この結果は、AuSnとNiが反応しやすいためにNi全面でSnによる浸食が生じることを反映したものであると考えられた(図1aを参照)。
一方、Ti層の上にAu層を形成して同様の実験を実施したところ、Ti層の厚さに変化は認められず、その代わりにTi層の一部において上面から下面に亘るクラック状の欠陥が観察された。この結果は、AuSnとTiは反応せず、Ti層の粒界又はピンホール等の欠陥に沿ってSnによる浸食が生じることを反映したものであると考えられた(図1bを参照)。
以上の実験結果より、NiとTiはそのSnに対する浸食特性が全く異なることが明らかとなった。この結果を踏まえて本発明者らは、図1cに示すようにTi層とNi層を交互に連続して積層した多層構造のバリア層によれば、Snの侵入・拡散に対する高いバリア効果が得られると考えた。図1cに示すバリア層ではまず、最上層のNi層がその中でSnを拡散することによってSnの下層への侵入・拡散を防止する。このようにNi層が一次障壁として機能し、下層へのSnの侵入量を低減させる。次のTi層では部分的な欠陥に沿ったSnの侵入が生ずるが、上記の通りNi層によってTi層へ到達するSnの量が低減されているため、Ti層を通過するSnの量は少ない。そしてTi層の下のNi層には、Ti層の欠陥を通って侵入したSnのみが到達することになるから、図で模式的に示したように、少量のSnによる部分的な拡散のみが生ずることになる。このように、図1cに示す構成のバリア層では、機構の異なるバリア作用が交互に繰り返し発揮されることによってSnの侵入・拡散の連続性が絶たれ、深部へのSnの侵入を効果的に阻止することができる。このように、Ni層とTi層を交互に繰り返し積層した多層構造のバリア層によれば強力なバリア効果が得られる。
尚、Ti層とNi層を組み合わせた多層構造のバリア層に限らず、Snに対する浸食特性の異なる2種類の層、即ちNiのように拡散効果によってSnの侵入を阻止する層と、TiのようにSnと実質的に反応しないことによってSnの侵入を阻止する層とを交互に繰り返し積層した多層構造のバリア層であれば同様の高いバリア効果が発揮されると考えられる。
【0006】
本発明は以上の知見に基づき、以下の構成の発光素子を提供する。
半導体層上に形成された電極と、該電極の上面の一部を残して該電極表面を被覆するパッシベーション膜とを備えた半導体発光素子において、
チタン層とニッケル層を一組とする繰り返し構造の多層膜を少なくとも一組、前記電極上に形成する、ことを特徴とする半導体発光素子である。
【発明の効果】
【0007】
上記の構成によれば、Snに対する拡散防止機構の異なるチタン層とニッケル層を交互に積層した多層膜がバリア層として機能し、高いバリア効果が得られる。これによって電極側へのSnの侵入・拡散を阻止することができ、電極上面とパッシベーション膜の界面へSnが拡散することによるパッシベーション膜の損傷、電極内へSnが侵入・拡散することによる電極の変形及びそれに伴うパッシベーション膜の損傷や素子機能への影響を防ぐことができる。また、バリア層を多層構造としたことによって、バリア層を構成する各層を薄くしたとしても高いバリア効果を発揮させることが可能となる。バリア層を構成する各層が薄くなればバリア層内に生ずる応力が低減し、クラックの発生や剥離に対して強いバリア層となる。このようなバリア層を備えた本発明の半導体発光素子は量産に適したものである。一方、多層膜の材料として比較的安価なチタン及びニッケルを使用することで製造コストの上昇が抑えられる。このように上記構成は製造コスト面においても有利なものといえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の半導体発光素子は好ましくは、同一平面側にp側電極及びn側電極を備えたIII族窒化物系化合物半導体素子である。このような半導体発光素子はサブマウントなどにフェースダウン実装(フリップチップ実装)されて使用される。
III族窒化物系化合物半導体素子とは、III族窒化物系化合物半導体からなる発光層を有する発光素子をいう。ここで、III族窒化物系化合物半導体とは、一般式としてAlGaIn1−X−YN(0≦X≦1、0≦Y≦1、0≦X+Y≦1)の四元系で表され、AlN、GaN及びInNのいわゆる2元系、AlGa1−xN、AlIn1−xN及びGaIn1−xN(以上において0<x<1)のいわゆる3元系を包含する。III族元素の少なくとも一部をボロン(B)、タリウム(Tl)等で置換しても良く、また、窒素(N)の少なくとも一部もリン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)等で置換できる。III族窒化物系化合物半導体層は任意のドーパントを含むものであっても良い。n型不純物として、Si、Ge、Se、Te、C等を用いることができる。p型不純物として、Mg、Zn、Be、Ca、Sr、Ba等を用いることができる。
III族窒化物系化合物半導体層は、周知の有機金属気相成長法(MOCVD法)、分子線結晶成長法(MBE法)、ハライド系気相成長法(HVPE法)、スパッタ法、イオンプレーティング法、電子シャワー法等によって形成することができる。
なお、p型不純物をドープした後にIII族窒化物系化合物半導体を電子線照射、プラズマ照射若しくは炉による加熱にさらすことも可能であるが必須ではない。
【0009】
(電極)
本発明の半導体発光素子の第1の形態では、電極は上面側がAu又はAlで形成されており、好ましくはAuで形成されている。電極は単層構造又は多層構造である。多層構造の場合には、少なくとも最上層は金で形成される。p側電極はAu、Rh、Pt、Ag、Cu、Al、Ni、Co、Mg、Pd、V、Mn、Bi、Sn、Reなどの金属またはこれらの合金やITO、TiO、SnO、ZnO等の透明導電材から選ばれる単層又は多層構造により形成されている。中でもRh、PtはIII族窒化物系化合物半導体発光素子の発光波長に対して高い反射効率を有し、III族窒化物系化合物半導体素子のp側電極の材料として好適に用いられる。一方、n側電極はAu、Al、V、Sn、Ti、Ni、Cr、Nb、Ta、Mo、W、Hfなどの金属またはこれらの合金やTiN、TaN、WN等の窒化物又はTiC、TaC、WC等の炭化物から選ばれる単層又は多層構造により形成されている。
電極の表面は、上面の一部を残して、後述のパッシベーション膜(絶縁性保護膜)で被覆される。パッシベーション膜で被覆されない領域(パッシベーション膜の開口部)上には後述のバリア層が形成される。パッシベーション膜は金属酸化物や金属窒化物、或いはガラス等によって形成される。パッシベーション膜の代表的な形成材料として、酸化硅素(SiO、SiO2 、Six y など)、窒化硅素(SiN、Si2 3 、Six y など)、酸化チタン(TiO、TiO2 、Tix y など)、窒化チタン(TiN、TiN2 、Tix y など)を例示することができる。これらの材料を複合させた組成物を用いてもよい。また、パッシベーション膜を複層構造にしてもよい。
パッシベーション膜の形成方法は特に限定されず、例えばスパッタや真空蒸着など、好ましくはプラズマCVD法である。
【0010】
本発明の半導体発光素子の第2の形態ではp側電極として透明導電膜が形成され、且つパッシベーション膜上に金属反射膜が備えられる。当該構成では透明導電膜の上方に金属反射膜が備えられることになり、半導体層で発光した光は透明導電膜を透過した後、金属反射膜で反射される。これによって基板側に向かう光が生成する。一方、当該構成では透明導電膜と金属反射膜との間にパッシベーション膜が介在していることから、透明導電膜と金属反射膜の界面反応が防止される。これによって透明導電膜の透過率及び金属反射膜の反射率の低下を防止することができ、光の取り出し効率が向上する。通電した場合には、後述のバリア層と透明導電膜との接触部からのみ電流が透明導電膜に流れ込むことになるから、金属反射膜のエレクトロマイグレーション発生の可能性を大幅に低減することができる。金属反射膜のエレクトロマイグレーション発生を一層防止するため、金属反射膜とバリア層との間にもパッシベーション膜を形成することが好ましい。特に、パッシベーション膜の中に金属反射膜が埋設されるように構成すれば、電流による金属反射膜の金属原子のエレクトロマイグレーションを完全に防止することができ、素子の信頼性が向上する。
【0011】
透明導電膜の形成材料としては金属酸化物を例示できるが、代表的には、インジウム錫酸化物(ITO)や酸化亜鉛(ZnO)を用いるのが良い。透明導電膜の形成方法は特に限定されず例えばスパッタ、真空蒸着など、好ましくは電子線による真空蒸着である。
金属反射膜の形成材料は、半導体層において発光した光に対する反射率が高い金属であれば任意である。好ましい材料は、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、銀合金、アルミニウム合金、銀とアルミニウムを主成分に含む合金などである。中でもアルミニウムはパッシベーション膜との接着性が良好であり、好ましい材料といえる。金属反射膜の形成方法は特に限定されないが、好ましくはスパッタ又は真空蒸着である。
【0012】
(バリア層)
電極上にはバリア層が形成される。本発明のバリア層はTi層とNi層を一組とする繰り返し構造の多層膜からなる。好ましくはTi層がNi層よりも電極側に配置されるように(電極側から順にTi層、Ni層が交互に並ぶように)バリア層を構築する。このようにすれば、Auとの接着性に優れたTi層がバリア層の最下層を構成することになり、電極の上面側をAuで形成した場合に電極とバリア層との間の接着性が良好となる。一方、透明導電膜を用いたp側電極を採用する場合(即ち上記の第2の形態の場合)には、p側電極との接着性をより良好にするため、p側電極の上に形成されるバリア層については最下層がNi層となるように構成するとよい。
【0013】
バリア層の上にAu層を形成することが好ましい。この場合、当該Au層の上面が接合面となる。通常は、接合時の熱によって当該Au層は接合材料(AuSn半田)と融合し、その結果、見かけ上バリア層の上にはAuSn層が存在することになる。Au層の上に更にAuSn層を形成することにしてもよい。このようにすれば、素子実装時のAuSn半田の塗布等を省略することができ、実装作業性が向上する。
【0014】
多層膜を構成するTi層とNi層の繰り返し数は、高いバリア効果が発揮される限り特に限定されない。好ましくは繰り返し数を2〜5とする。繰り返し数が少なすぎると、期待されるバリア効果が得られない。一方で繰り返し数が多すぎれば製造コストの上昇や順方向電圧(Vf)の増加を引き起こすことから好ましくない。
バリア層を構成する各層の膜厚は特に限定されない。本発明ではバリア層を多層構造にしたことによって各層の膜厚を比較的薄く設定することができる。これによってバリア層内で生ずる応力を低減することができ、クラックや剥離等が発生し難いバリア層となる。尚、Ti層の膜厚は例えば0.05μm〜1μmの範囲内で設定することができ、同様にニッケル層の膜厚は0.05μm〜1μmの範囲内で設定することができる。
多層膜に含まれる全てのTi層が同一の膜厚でなくてもよい。Ni層についても同様である。例えば、電極側の層ほど膜厚が厚くなるように多層膜を構築することができる。
多層膜全体の膜厚は例えば0.2μm〜2.0μmとする。好ましくは、高いバリア効果を発揮しつつ、製造コストの上昇や順方向電圧(Vf)の増加を抑えることができるように多層膜の膜厚を0.3μm〜1.0μmとする。
【0015】
Snに対する浸食特性の異なるTi層とNi層を交互に積層した多層構造を備えることによって本発明のバリア層は高いバリア効果を発揮する。ここで、Niのように拡散効果によってSnの侵入を阻止する層(以下、「第1の層」ともいう)と、TiのようにSnと実質的に反応しないことによってSnの侵入を阻止する層(以下、「第2の層」ともいう)とを交互に繰り返し積層した多層膜によれば、Ti層とNi層を組み合わせた多層構造のバリア層と同様の高いバリア効果の発揮を期待できる。そこで例えば、スカンジウム(Sc)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ルビジウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)の中からSnに対するバリア効果がNiと同等又は類似の材料を第1の層の材料として選択するとともに、Snに対するバリア効果がTiと同等又は類似の材料を第2の層の材料として選択し、選択された材料を用いて多層構造のバリア層を構築することができる。
本発明のバリア層ではSnに対するバリア効果が異なる層が交互に積層してバリア層が構成されていることが必要であるが、バリア層を構成する第1の層の全てが同一の材料で形成されていなくてもよい。同様に第2の層の全てが同一の材料で形成されていなくてもよい。組成の異なる第1の層が混在する場合、及び/又は組成の異なる第2の層が混在する場合、バリア層を構成する層の一部としてTi層及び/又はNi層を用いてもよい。
【0016】
接合時、バリア層の上に形成されたAu層はAuSn半田と融合して実質的にAuSn層となる。従って、Au層がその上に形成されることになるバリア層の最上層は、接合時に剥離などが生じないようにAuSn層に対して良好な接着性を有することが好ましい。ところでTi層が電極側に配置されるようにTi層とNi層の組み繰り返し積層した構成のバリア層では最上層はNi層となる。Ni層はAuSnに対する接着性が良好であるから、このような構成は接合時の剥離防止に有効であるといえる。尚、電極側からNi層、Ti層の順で積層されるようにバリア層を形成した場合においては、最上層にNi層を追加で形成することによって、接合時のバリア層の剥離を防止することが可能である。
【実施例1】
【0017】
以下、本発明の実施例を用いて、本発明の構成をより詳細に説明する。図2は実施例の発光素子1の構成を模式的に示した図である。発光素子1の各層のスペックは次の通りである。
層 :組成
p型層15 :p−GaN:Mg
発光する層を含む層14 :InGaN層を含む
n型層13 :n−GaN:Si
バッファ層12 :AlN
基板11 :サファイア
【0018】
基板11の上にはバッファ層12を介してn型不純物としてSiをドープしたGaNからなるn型層13が形成される。基板11にはサファイアを用いたが、これに限定されることはなく、サファイア、スピネル、シリコン、炭化シリコン、酸化亜鉛、リン化ガリウム、ヒ化ガリウム、酸化マグネシウム、酸化マンガン、III族窒化物系化合物半導体単結晶等を基板材料として用いることができる。バッファ層12はAlNを用いてMOCVD法で形成したが、これに限定されることはなく、材料としてはGaN、InN、AlGaN、InGaN及びAlInGaN等を用いることができ、製法としては分子線結晶成長法(MBE法)、ハライド系気相成長法(HVPE法)、スパッタ法、イオンプレーティング法、電子シャワー法等を用いることができる。III族窒化物系化合物半導体を基板として用いた場合は、当該バッファ層12を省略することもできる。また、半導体素子形成後、基板とバッファ層12を必要に応じて除去することにしてもよい。
【0019】
この例ではn型層をGaNで形成したが、GaNに代えてAlGaN、InGaN若しくはAlInGaNを用いることもできる。また、n型層にはn型不純物としてSiをドープすることにしたが、n型不純物としてGe、Se、Te、C等を用いることもできる。
n型層13を、発光する層を含む層14側の低電子濃度n-層とバッファ層12側の高電子濃度n+層とからなる2層構造にしてもよい。
発光する層を含む層14は量子井戸構造の発光層を含んでいてもよく、また発光素子の構造としてはシングルへテロ型、ダブルへテロ型及びホモ接合型のものなどでもよい。
【0020】
発光する層を含む層14が、p型層15の側にマグネシウム等のアクセプタをドープしたバンドギャップの広いIII族窒化物系化合物半導体層を含んでいてもよい。発光する層を含む層14中に注入された電子がp型層15に拡散するのを効果的に防止するためである。
発光する層を含む層14の上には、p型不純物としてMgをドープしたGaNからなるp型層15が形成される。このp型層15をAlGaN、InGaN又はAlInGaNで形成することもできる。p型不純物としてはZn、Be、Ca、Sr、Baを用いることもできる。また、p型層15を、発光する層を含む層14側の低ホール濃度p−層と電極側の高ホール濃度p+層とからなる2層構造にしてもよい。
上記構成の発光素子において、各III族窒化物系化合物半導体層は一般的な条件でMOCVDを実行して形成することができる。また、分子線結晶成長法(MBE法)、ハライド系気相成長法(HVPE法)、スパッタ法、イオンプレーティング法、電子シャワー法等の方法で各III族窒化物系化合物半導体層を形成することもできる。
【0021】
p型層15を形成した後、p型層15、発光する層を含む層14、n型層13のそれぞれ一部をエッチングにより除去し、n型層13の一部を表出させる。続いて、p型層15上にRh及びAuからなるp側電極16を蒸着で形成する。n側電極17はn型層13側から順にV層、Al層、Ti層、Ti層、Ni層、Au層が積層した構成を有し、蒸着によりn型層13上に形成される。その後、周知の手段によりアロイ化する。
【0022】
次に、SiOからなるパッシベーション膜(保護膜)18を形成する。パッシベーション膜18は電極形成面側の半導体層表面、p側電極16の側面及び上面の周縁部、及びn側電極17の側面及び上面の周縁部を被覆するように形成される。
続いて各電極上にバリア層19を形成する。まず、電極形成面側において、バリア層19を形成する領域以外をレジストでマスクする。各電極上面の開口部と、当該開口部を形成するパッシベーション膜18の周縁部がバリア層19の形成領域となる。バリア層19はTi層とNi層が交互に積層された構造を有し、次の手順で形成される。まず、レジストから露出した領域に所定膜厚のTi層を蒸着(EB蒸着など)、スパッタリングなどで形成する。次にTi層の上に所定膜厚のNi層を同様に形成する。このTi層の形成及びNi層の形成を必要な回数だけ繰り返す(例えば1回〜5回)。この実施例では各層の形成工程をそれぞれ2回行うことにした。これによって、図3に示すように、Ti層とNi層の繰り返し数が2である多層構造のバリア層19が構築される。尚、各層の膜厚は電極側から順に0.15μm(Ti層)、0.1μm(Ni層)、0.15μm(Ti層)、0.1μm(Ni層)とした。
以上のようにしてバリア層19を形成した後、バリア層19上に膜厚0.5μmのAu層20を蒸着で形成する。以上の工程の後、スクライバ等を用いてチップの分離工程を行う。
【0023】
次に、発光素子1を用いて発光装置を構成した例を説明する。図4に示すのは、発光素子1を内蔵するLEDランプ2である。LEDランプ2は大別して発光素子1、リードフレーム30及び31、サブマウント用基板50、並びに封止樹脂35から構成される。以下、リードフレーム30のカップ状部33部分を拡大した図(図5)を参照しながら、発光素子1の実装工程を説明する。発光素子1は、サブマウント用基板50を介してリードフレーム30のカップ状部33にマウントされる。基板50はp型領域51及びn型領域52を有し、その表面には接合領域を除いてSiOからなる絶縁膜60が形成されている。この基板50に対して発光素子1をAuSn半田で実装(接合)する。これによってAuSn層21及びバリア層19を介してp側電極16が基板50のp型領域51に接合され、同様にn側電極17もAuSn層21及びバリア層19を介して基板50のn側領域52に接合される。接合時にはバリア層19上に形成されたAu層20がAuSn半田と融合するとともにバリア層19へとSnが拡散することになるが、Snに対する拡散防止機構の異なるTi層とNi層を交互に積層したバリア層19が高いバリア機能を発揮し、電極側へのSnの侵入・拡散を阻害する。これによって、各電極の上面(Au層)とパッシベーション膜18の界面へSnが拡散することによるパッシベーション膜18の損傷、各電極内へSnが侵入・拡散することによる各電極の変形及びそれに伴うパッシベーション膜18の損傷や素子機能への影響を防ぐことができる。
上記の通り、バリア層19上に形成されたAu層20は接合時にAuSn半田と融合する。その結果、接合後はバリア層19と基板50の間にAuSn層21が介在することになる(図5)。ここで、図3に示すようにバリア層19の最上層はAuSnとの接着性が良好なNi層である。これによって接合後の剥がれを防止できる。
基板50は、発光素子1がマウントされる面と反対の面を接着面として、銀ペースト61によりリードフレーム30のカップ状部33に接着、固定される。その後、ワイヤボンディング工程、封止工程などを経て図4に示す構成のLEDランプ2を得る。
【実施例2】
【0024】
発光素子1を用いて構成される他のタイプの発光装置(LEDランプ3)を図6に示す。LEDランプ3はSMD(Surface Mount device)タイプのLEDランプである。尚、上記のLEDランプ2と同一の部材には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
LEDランプ3は発光素子1、基板70、及び反射部材80を備える。発光素子1は、上記LEDランプ2の場合と同様に、電極側を下にして基板70にAuSn半田で実装される。基板70の表面には配線パターン71が形成されており、かかる配線パターンと発光素子1のp側電極16及びn側電極17がバリア層19、AuSn層21を介して接合され、各電極の電気的接続が確立される。基板70上には発光素子1を取り囲むように反射部材80が配置される。反射部材80は白色系の樹脂からなり、その表面で発光素子1から放射された光を高効率で反射することができる。
【実施例3】
【0025】
本発明の他の実施例に係る発光素子90の電極部分の構成を図7に示す。発光素子90の半導体層の構成は、上記実施例の発光素子1と同一である。発光素子90は、発光素子1と同様に、フェースダウン実装されるフリップチップ型の発光素子である(図5及び6を参照)。以下、図7を参照しながら発光素子90に特徴的な構造を説明する。尚、図7では上記実施例(発光素子1)と同一の部材(要素)には同一の符号を付している。
この発光素子では透明導電膜であるITOがp側電極に用いられる。即ち、p型層15の上に、ITOからなる透明導電膜91がMOCVD法で形成されている。一方、n側電極92はn型層13側から順にV層、Al層、Ti層、Ni層、Ti層、Ni層、Ti層、Au層及びAl層が積層した構造であり、蒸着により形成される。
【0026】
透明導電膜91及びn側電極92の一部が露出するように、電極形成面側の半導体層表面、透明導電膜91の側面及び上面の周縁部、及びn側電極92の側面及び上面の周縁部を被覆するパッシベーション膜(SiO)18が形成される。パッシベーション膜18の上には、Alからなる金属反射膜93が形成される。これによって、透明導電膜91の上方に金属反射膜93が備えられることになる。尚、透明導電膜91と金属反射膜93との間にパッシベーション膜18が介在することで透明導電膜91と金属反射膜93の界面反応が防止されるとともに、金属反射膜93の金属原子(Al)のエレクトロマイグレーション発生が抑制される。
【0027】
金属反射膜93を形成した後、各電極上にバリア層19を形成する。バリア層19の形成方法は上記実施例(発光素子1)の場合と同様である。尚、この実施例のバリア層19は下から順にTi層、Ni層、Ti層、Ni層が積層された構造を有するが、図8に示すように、透明導電膜91上に形成されるバリア層についてその最下層をNi層としてもよい。図8のバリア層19aは下から順にNi層、Ti層、Ni層、Ti層、Ni層が積層された構造であり、透明導電膜91に対する一層良好な接着性を有する。
【0028】
バリア層19上にAu層20及びAuSn層94を蒸着で形成した後、スクライバ等を用いてチップの分離工程を行う。尚、AuSn層94は、素子実装時のAuSn半田の塗布等を省略する目的で形成されるものである。
【0029】
以上の構成の発光素子90では、透明導電膜91を透過して上方に進行した光を金属反射膜93が反射し、基板11側に向かう光が生成する。発光素子90の発光出力を上記実施例の発光素子1の発光出力と比較したところ、約40%の光度の上昇が確認された。
【実施例4】
【0030】
本発明の他の実施例に係る発光素子100の電極部分の構成を図9に示す。尚、図9では上記実施例(発光素子90)と同一の部材(要素)には同一の符号を付している。
発光素子100は発光素子90と同様に透明導電膜91と金属反射膜93を備えるが、金属反射膜93がパッシベーション膜18aにより完全に覆われている(換言すれば、金属反射膜93がパッシベーション膜18aに埋設される)という特徴を有する。発光素子100の製造工程では、金属反射膜93を形成した後、再度パッシベーション膜(第2のパッシベーション膜)を形成する。
発光素子100では反射金属層93に電流が流れることがなく、反射金属膜93の金属原子(Al)のエレクトロマイグレーションを完全に阻止することができる。これによって、電気特性の安定化が図られ、素子の信頼性が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は半導体発光素子だけでなく、パッシベーション膜を有するその他の光半導体素子、高出力半導体素子、高周波半導体素子等の半導体素子において、AuSn半田で実装する場合の電極構造にも適用することができる。
【0032】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】(a)はAuSnとNiの反応性を説明する模式図である。(b)はAuSnとTiの反応性を説明する模式図である。(c)はTi層とNi層の繰り返し多層構造のバリア層によるバリア効果を説明する模式図である。
【図2】本発明の実施例(発光素子1)の層構成を示す模式図である。
【図3】発光素子1に備えられるバリア層の構成を示す模式図である。
【図4】発光素子1を内蔵するLEDランプ2の断面図である。
【図5】LEDランプ2の部分拡大断面図である。
【図6】発光素子1を内蔵するSMDタイプのLEDランプ3の断面図である。
【図7】本発明の他の実施例(発光素子90)の電極部分を示す模式図である。
【図8】透明導電膜上に形成されるバリア層の一例を示す模式図である。
【図9】本発明の更に他の実施例(発光素子100)の電極部分を示す模式図である。
【符号の説明】
【0034】
1、90、100 III族窒化物系化合物半導体素子
2、3 LEDランプ
11 サファイア基板
12 バッファ層
13、92 n型層
14 発光する層を含む層
15 p型層
16 p側電極
17 n側電極
18、18a パッシベーション膜
19、19a バリア層
20 Au層
21 AuSn層
30、31 リードフレーム
50 サブマウント用基板
60 基板
70 反射部材
91 透明導電膜(ITO)
93 金属反射膜(Al)
94 AuSn層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体層上に形成された電極と、該電極の上面の一部を残して該電極表面を被覆するパッシベーション膜とを備えた半導体発光素子において、
チタン層とニッケル層を一組とする繰り返し構造の多層膜を少なくとも一組、前記電極上に形成する、ことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項2】
前記チタン層が前記ニッケル層よりも前記電極側に配置される、ことを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子。
【請求項3】
前記電極の上面側が、金で形成された膜を有する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体発光素子。
【請求項4】
p側電極が透明導電膜からなり、
前記パッシベーション膜上に金属反射膜が備えられる、ことを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子。
【請求項5】
前記p側電極の上に形成される前記多層膜の最下層がニッケル層である、請求項4に記載の半導体発光素子。
【請求項6】
前記金属反射膜と前記多層膜との間に第2のパッシベーション膜が備えられる、ことを特徴とする請求項4又は5に記載の半導体発光素子。
【請求項7】
前記透明導電膜はインジウム錫酸化物(ITO)からなる、ことを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の半導体発光素子。
【請求項8】
前記金属反射膜はアルミニウム、銀、アルミニウム合金、又は銀合金のうち少なくとも1つからなる、ことを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載の半導体発光素子。
【請求項9】
前記多層膜上に、金で形成された膜を更に有する、ことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の半導体発光素子。
【請求項10】
前記多層膜を構成するチタン層とニッケル層の繰り返し数が2〜5である、ことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の半導体発光素子。
【請求項11】
前記チタン層の膜厚が0.05μm〜1μmであり、前記ニッケル層の膜厚が0.05μm〜1μmである、ことを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の半導体発光素子。
【請求項12】
前記多層膜の膜厚が0.2μm〜2.0μmである、ことを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の半導体発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−300063(P2007−300063A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−12703(P2007−12703)
【出願日】平成19年1月23日(2007.1.23)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】