説明

半導体素子の製造方法

【課題】絶縁膜の比誘電率が小さくて高速応答性に優れ、かつ、絶縁膜の機械的強度にも優れ、更には配線の信頼性が高い半導体素子を提供することである
【解決手段】膜2に凹部3を形成する工程を有する半導体素子の製造方法において、前記凹部3を形成した後、該凹部が形成された膜2に電磁エネルギを照射する照射工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体素子の製造方法に関する。特に、半導体素子における配線溝加工の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスにおける演算処理速度の高速化を実現する為には、デバイスにおける信号遅延を低減することが重要である。この信号遅延は、半導体デバイスにおける信号遅延と配線遅延の和で表される。ところで、近年、配線ピッチの微細化が急速に進んでいる。この為、配線遅延の影響が信号遅延を上回るようになった。この配線遅延は、配線抵抗Rと配線間の容量Cとの積RCに比例する。従って、配線遅延を低減する為には、配線抵抗や配線間容量を低減する必要がある。このようなことから、配線材料として低抵抗のCuが選ばれるようになった。又、配線間を埋める絶縁材として、低誘電率絶縁材(low−k材)の検討が行われている。
【0003】
さて、誘電率を小さくする為、材料の低密度化、特に材料にポア(空孔)を導入することが考えられている。このポアの導入により、比誘電率が3以下のものが実現されている。しかしながら、こうしたポア構造の膜は脆弱であり、一般的に、その機械強度が低く、かつ、密着力が小さな場合が多い。
【0004】
ところで、上記ポア構造(多孔質構造)の材料としては、無機系のものより、有機系のものが多い。そして、このようなポア構造を持つ有機系絶縁膜材料は、機械的強度が一層劣っている。又、膜中に微細なポア(孔)を有する膜は、洗浄液などが膜中に侵入し、膜の誘電率が上昇する問題が考えられる。更には、配線やビアにおけるバリアメタルの腐食や密着性不良の恐れも発生し、配線やビアの信頼性低下の原因の一つになっている。
【0005】
そこで、このような問題点を解決する為、絶縁膜に対して紫外線照射を行うことが提案されている。すなわち、紫外線照射によって、絶縁膜の機械的強度の向上が提案されている。
【0006】
例えば、特開2004−356508号公報では、(a)Si−O−Si或いはその他のシリカ骨格構造にSi−CH(n=1,2,3)結合を含む絶縁膜を基板上に形成する工程と、(b)減圧雰囲気中、又は不活性ガス及び窒素を主に含む減圧雰囲気中で前記絶縁膜に紫外線を照射して、前記絶縁膜中のSi−CH結合からCH基を切り離す工程と、(c)前記切り離されたCH基を前記絶縁膜中から排出する工程とを有することを特徴とする低誘電率絶縁膜の形成方法が開示されている。そして、この技術によれば、最初からSi−O−Siという骨格構造のしっかりした絶縁膜、或いはSi−O−Si以外のシリカ骨格構造を有し、減圧雰囲気中での紫外線照射により骨格構造のしっかりした絶縁膜に変換される絶縁膜を成膜しておき、その絶縁膜に対して酸化によらずに減圧雰囲気中で紫外線照射することにより、その骨格構造に影響を与えずに有機基であるCH基を脱離させ、絶縁膜中から排出している為、絶縁膜の強度を向上させると共に絶縁膜の低誘電率化を図ることが可能となると謳われている。
【0007】
又、特開2002−164338号公報では、有機シランと、水と、アルコールとを含む有機シラン液を用いて、界面活性剤の存在下、加熱処理し、多孔質SiO2膜を得、次いで酸素プラズマ処理、電子線照射処理または紫外線照射処理の何れかにより、得られた多孔質膜に残留する未反応OH基を除去することを特徴とする多孔質SOG膜の疎水化処理方法が開示されている。そして、この技術によれば、低比誘電率の層間絶縁膜であって、この層間絶縁膜形成後のCVDプロセス等により、その上に更に膜を積層させても、比誘電率が変化しない多孔質Spin-On-Glass(SOG)膜の疎水化が出来ると謳われている。
【特許文献1】特開2004−356508号公報
【特許文献2】特開2002−164338号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、配線やビアを形成する為に絶縁膜にドライエッチ加工する場合、加工されたトレンチ(溝)やビア(孔)の内面にはドライエッチやアッシングにより、膜強度の低いダメージ層が形成され、最終的に形成される配線・ビア構造の機械的強度が低下することが判って来た。
【0009】
又、絶縁膜表面を予め疎水性化処理していても、ドライエッチ加工されたトレンチやビアのダメージを受けた内面が非疎水性である場合、その部分から水分が侵入してしまう。そして結果的に、絶縁膜の誘電率が上昇し、バリアメタルの腐食や密着性不良によって配線信頼性が低下してしまうことも判って来た。
【0010】
すなわち、特許文献1,2の如きの技術が用いられても、上記問題点の解決には至らない。
【0011】
従って、本発明が解決しようとする課題は上記問題点を解決することである。特に、絶縁膜の比誘電率が小さくて高速応答性に優れ、かつ、絶縁膜の機械的強度にも優れ、更には配線の信頼性が高い半導体素子を提供することである。中でも、絶縁膜の加工、即ち、配線用溝やビアの形成に際して、ドライエッチング、アッシング、或いは水洗などの作業が行なわれても、これに起因する絶縁膜の性能劣化(ダメージ)が改善され、即ち、比誘電率の改善・機械的強度の改善が図れ、高性能な配線構造の半導体素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の課題は、膜に凹部を形成する工程を有する半導体素子の製造方法において、
前記凹部を形成した後、該凹部が形成された膜に電磁エネルギを照射する照射工程
を具備することを特徴とする半導体素子の製造方法によって解決される。
【0013】
又、膜に凹部を形成する工程を有する半導体素子の製造方法において、
前記凹部を形成する前に、該凹部が形成される膜に電磁エネルギを照射する照射工程と、
前記凹部を形成した後、該凹部が形成された膜に電磁エネルギを照射する照射工程
を具備することを特徴とする半導体素子の製造方法によって解決される。
【0014】
又、上記の半導体素子の製造方法であって、電磁エネルギが光であることを特徴とする半導体素子の製造方法によって解決される。又、上記の半導体素子の製造方法であって、電磁エネルギが100nm〜500nm(特に、120nm以上。400nm以下。)の波長を持つ光であることを特徴とする半導体素子の製造方法によって解決される。
【0015】
又、上記の半導体素子の製造方法であって、凹部は絶縁膜における配線用溝あるいは孔であることを特徴とする半導体素子の製造方法によって解決される。又、上記の半導体素子の製造方法であって、膜が無機系膜、Siを有する有機系膜、有機樹脂膜の群の中から選ばれる絶縁膜であることを特徴とする半導体素子の製造方法によって解決される。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、特に、絶縁膜に対して配線用の溝・孔加工をした後、この溝・孔が形成された絶縁膜に対して、特に、溝の内面や孔の内面にも光などの電磁波(電磁エネルギ)を照射するようにした。この照射によって、絶縁膜における露出面(照射面)が改質作用を受ける。従って、ドライエッチング・アッシング等が絶縁膜に対して施されても、これに起因する損傷が回復される。例えば、エッチングやアッシングによって膜強度が低下しても、膜強度が回復する。又、エッチングやアッシングによって膜表面の疎水性が低下しても、これが改善され、内部に水が侵入し難くなる。すなわち、水洗が行なわれても、水洗に際して、膜内部に水が侵入し難くなる。特に、ポア構造の多孔質膜であっても、水の侵入度が小さくなる。従って、比誘電率が大きくなるのを防止できる。又、表面にファンデルワールス力などで付着している水分なども除去でき、誘電率の増大を防止できる。すなわち、信頼性が高い配線構造の半導体素子が得られる。かつ、比誘電率が小さいが故に高速応答性に優れた半導体素子が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は半導体素子の製造方法である。特に、半導体素子における配線溝加工に関する技術である。そして、膜(特に、絶縁膜。中でも、無機系膜、Siを有する有機系膜、有機樹脂膜の群の中から選ばれる絶縁膜)に凹部(例えば、配線溝(トレンチ)および/または孔(ビア))を形成する工程を有する。この凹部を形成した後、該凹部が形成された膜に電磁エネルギを照射する照射工程を有する。又、好ましくは、前記凹部を形成する前に、該凹部が形成される膜に電磁エネルギを照射する照射工程を有する。すなわち、凹部形成工程の前・後において、膜に電磁エネルギを照射する照射工程を有する。電磁エネルギは光である。特に、波長が100nm〜500nm(特に、120nm以上。400nm以下。)の光である。勿論、前記領域外の波長の光はカットしたものでも良いが、主たる光が前記の波長領域に在れば良い。
【0018】
以下、本発明について更に具体的に説明する。
図1〜図3は本発明になる半導体製造方法の実施形態(配線用溝加工工程)を示す図である。すなわち、下地層1の上に絶縁膜2を設け、この絶縁膜2に対してドライエッチング或いはアッシング技術を用いてトレンチ(或いはビア)を形成し、その後で光照射を行う工程を簡略化して示したものである。そして、光照射によって、加工・形成されたトレンチ(ビア)の内面(底壁・内壁の表面層)や膜表面が改質され、絶縁膜2の機械的強度の向上(回復)や水分の吸着・浸透の低減(回復)効果が得られる。
【0019】
本発明における膜2は、基本的に、絶縁膜である。例えば、SiO等の酸化珪素、SiN,SiCN等の窒化珪素、SiC,SiOC等の炭化珪素と言った無機材料を用いて構成することが出来る。このような無機系絶縁膜は、基本的には、CVDやPVD等の乾式メッキ手段で構成される。又、例えばSiOC,SiOF,FSG,MSQ,HSQ,MHSQ等のSi含有有機系絶縁材料を用いて構成することも出来る。その他にも、ポリイミド系材料、フッ素系樹脂材料、ポリアリルエーテル系材料、ポリベンゾオキサゾール系材料などの有機樹脂材料を用いて構成することも出来る。特に、樹脂を用いた場合には、塗布手段で簡単に構成できる。尚、本発明(光照射)が奏する効果の点から勘案すると、絶縁膜2は、Si含有の有機系絶縁材料または有機樹脂(ポリマー)系材料が望ましい。絶縁膜2の厚さは、格別な制限は無いが、基本的には、50〜500nmの厚さである。
【0020】
下地層1は、本発明では、如何なるものでも良い。例えば、Si基板であっても良く、Si基板上に設けられた各種の膜であっても良い。膜としては、絶縁膜である場合の他、導電膜(金属膜)である場合も有る。或いは、多層配線構造の場合には、下層配線層であったりもする。
【0021】
照射される電磁エネルギは、簡便さの観点から、特に、光である。中でも、100nm〜500nmの領域に波長を持つ光、特に、120nm〜400nmの領域に波長を持つ紫外光が照射される。例えば、120nmより長波長側に波長を持つ紫外光は、10eV以下のエネルギを持っており、Si含有有機系絶縁材料の場合には、Si−O−Si等のシロキサン骨格構造に悪影響を与えること無く、Si−C結合を切断でき、Siに結合されている炭化水素基を解離できるからである。尚、500nmを越えて更に長波長領域の光は前記の機能を奏する度合いが弱い。
【0022】
更に本発明を具体的に説明すると、図1〜図3において、下地層1上に所定の手段で所定厚の絶縁膜2が設けられる(図1参照)。この後、図2に示される通り、所定の手段(例えば、エッチング・アッシング)により、配線溝3の形成加工が施される。この時、配線溝3の内面にはダメージ層4が出来てしまう。そして、このまま、Cuの埋め込み作業が行なわれると、埋込Cuにはダメージ層4が接していることから、配線の信頼性が低下する。又、水分などがダメージ層4に侵入し易くなっており、誘電率の増大による配線間容量が大きくなり、信号の処理速度が低下する。
【0023】
そこで、本発明では、図3に示される如く、配線溝3が出来た絶縁膜2に対して光を照射する。特に、配線溝3の内面に光が照射されるように光照射を行なう。これによって、ダメージ層4が改質され、絶縁膜2の機械的強度が回復し、かつ、付着していた水分も飛散し、更には水分が内部に侵入し難い特性のものに改質された。
【0024】
そして、この光照射工程の後、従来と同様な工程を経て半導体素子が得られる。
【0025】
以下において、具体的な実施例を挙げて本発明を説明する。
[実施例1]
SiOからなる下地層1の上に、有機系絶縁膜材料(ポーラスMSQ系Low−k材料)を用いて300nm厚さの絶縁膜2を設けた。
【0026】
この後、ドライエッチングによってビアを形成した。次いで、アッシングを行った。
【0027】
このアッシング後に、200〜400nmの波長を含む紫外線を300秒照射した。
【0028】
この紫外線照射後に、通常の手段により、ビアにCuを埋め込んだ。この後、表面に30nm厚のSiCN膜、500nm厚のSiO膜を設けた。
【0029】
そして、この試料を断面TEMにて観察した処、多層配線形成時の応力集中によるビア周辺のクラック数を低減できていることが判った。これは、ビア内面のダメージ層が光照射により改質され、ビア構造自体の機械的強度が高まったからであると考えている。
【0030】
[実施例2]
SiCNからなる下地層1の上に、有機系絶縁膜材料(デンスMSQ系Low−k材料)を用いて300nm厚さの絶縁膜2を設けた。
【0031】
この後、ドライエッチングによってトレンチを形成した。次いで、アッシングを行った。
【0032】
このアッシング後に、200〜400nmの波長を含む紫外線を300秒照射した。
【0033】
この紫外線照射後に、水洗を行い、次いで125℃のホットプレートでベークした。そして、TDS(昇温脱離分析)にて膜中に吸着・浸透した水分の量を調べた処、加工後に紫外線照射を行った場合は、行わない場合に比べて、明らかに脱離した水分が少なく、紫外線照射によるトレンチ内面の疎水化処理が検証できた。
【0034】
[実施例3]
SiOからなる下地層1の上に、有機系絶縁膜材料(ポーラスMSQ系Low−k材料)を用いて300nm厚さの絶縁膜2を設けた。
【0035】
そして、この絶縁膜2の表面に200〜400nmの波長を含む紫外線を300秒照射した。この紫外線照射になる絶縁膜の弾性率をナノインデンテーション法で測定すると、紫外線照射により、弾性率が6.2GPaから7.9GPaに増大していることが判った。
【0036】
この後、ドライエッチングによってビアを形成した。次いで、アッシングを行った。
【0037】
アッシング後に、200〜400nmの波長を含む紫外線を300秒照射した。
【0038】
この紫外線照射後に、水洗を行い、次いで125℃のホットプレートでベークした。
【0039】
そして、TDS(昇温脱離分析)にて膜中に吸着・浸透した水分の量を調べた処、加工後に紫外線照射を行った場合は、行わない場合に比べて、明らかに脱離した水分が少なく、紫外線照射によるビア内面の疎水化処理が検証できた。
【0040】
又、光照射による改質によって、ビア構造自体の機械的強度が高まり、多層配線形成時の応力集中によるビア周辺のクラックの発生が少ないことが確かめられた。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】絶縁膜形成後の断面図
【図2】配線溝・孔形成後の断面図
【図3】紫外線照射後の断面図
【符号の説明】
【0042】
1 下地層
2 絶縁膜
3 配線溝(凹部)
4 ダメージ層

特許出願人 次世代半導体材料技術研究組合
代 理 人 宇 高 克 己

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜に凹部を形成する工程を有する半導体素子の製造方法において、
前記凹部を形成した後、該凹部が形成された膜に電磁エネルギを照射する照射工程
を具備することを特徴とする半導体素子の製造方法。
【請求項2】
膜に凹部を形成する工程を有する半導体素子の製造方法において、
前記凹部を形成する前に、該凹部が形成される膜に電磁エネルギを照射する照射工程と、
前記凹部を形成した後、該凹部が形成された膜に電磁エネルギを照射する照射工程
を具備することを特徴とする半導体素子の製造方法。
【請求項3】
電磁エネルギが光である
ことを特徴とする請求項1又は請求項2の半導体素子の製造方法。
【請求項4】
電磁エネルギが100nm〜500nmの波長を持つ光である
ことを特徴とする請求項1又は請求項2の半導体素子の製造方法。
【請求項5】
凹部は絶縁膜における配線用溝あるいは孔である
ことを特徴とする請求項1又は請求項2の半導体素子の製造方法。
【請求項6】
膜が無機系膜、Siを有する有機系膜、有機樹脂膜の群の中から選ばれる絶縁膜である
ことを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項5の半導体素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−251858(P2008−251858A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−91733(P2007−91733)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(504371594)次世代半導体材料技術研究組合 (82)
【Fターム(参考)】