説明

半導体薄膜の製造方法、半導体デバイスおよび半導体薄膜製造装置

【課題】10μmを超える長さをもつ直線状の結晶粒が整列した、結晶方位がほぼ2軸揃った結晶粒からなる半導体薄膜を形成し、高移動度でかつ特性の均一な半導体デバイスを提供することができる半導体薄膜の製造方法、半導体デバイスおよび半導体薄膜製造装置を提供する。
【解決手段】連続発振レーザー結晶化において、回折型レーザビームホモジナイザを用いることで、レーザースポットを直線状・矩形状にし、長い方向にほぼ均一なレーザー強度分布を形成する。このレーザースポットを、レーザースポットの短い方向に適切な間隔をおいて、2段以上並べる。この多段レーザースポットを、シリコン薄膜上に照射し、レーザースポットの短い方向に走査させて、シリコン薄膜を横方向結晶化(ラテラル結晶化)を行うことで、結晶方位がほぼ2軸揃った結晶粒からなる多結晶シリコン薄膜の形成を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体薄膜の製造方法、半導体デバイスおよび半導体薄膜製造装置に関するものであり、具体的にはレーザーにより低温形成された多結晶シリコン薄膜および半導体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン薄膜トランジスタ(Si TFT)は、液晶パネルディスプレイ(LCD)などのフラットパネルディスプレイにおいて、画素スイッチとして用いられている。シリコン薄膜としては、これまでアモルファスシリコン(a−Si)が広く使われてきたが、これを多結晶化したポリシリコン(Poly−Si)とすることで電流駆動力をとることができ、LCD画素中でのTFTの占有面積を縮小できるため、LCDの高明度化・高精細化が可能となる。
【0003】
LCDにおいては、その基板としてガラス基板を用いているので、ポリシリコン形成は500℃以下で行う必要があり、レーザー照射によりシリコン薄膜の一部分を加熱結晶化するレーザーアニーリングを行う。特に、基板を500℃以下のレーザーアニーリングにより形成したポリシリコン薄膜トランジスタを、低温ポリシリコン薄膜トランジスタ(LPTS TFT)といい、広く用いられている。現在、レーザーアニーリングには主に、エキシマレーザーアニーリング(ELA)が用いられている。
【0004】
エキシマレーザーはパルスレーザーであり、300nm程度のシリコン結晶グレインを形成可能である。パネルでの画素選択を行うドライバ回路等は、パネルとは別に半導体集積回路(IC)チップによりパネル周辺に設置されていたが、パネルの薄型化および低コスト化のために、低温ポリシリコンTFTの高性能化を図り、これによる回路を画素スイッチなどと同じパネルにつくりこむ、システムオンパネル(SOP)が行われるようになってきている。
【0005】
低温ポリシリコンTFTの高性能化を行うためには、シリコン結晶グレインの大粒径化と、結晶面方位の制御とを行う必要がある。シリコン結晶グレインの大粒径化のために、Phase-Modulated ELA(PM−ELA;例えば、非特許文献1または2参照)や、Sequential Lateral Solidification(SLS;例えば、非特許文献3参照)などが提案されている。
【0006】
PM−ELAは、(株)液晶先端技術開発センター(ALTEDEC)により提案された方式であり、ELAにおいて結晶化時のシリコン薄膜表面でのレーザースポット形状を操作することにより、結晶グレインの大粒化を行っており、8μmサイズの結晶グレインを形成している。
【0007】
また、SLSは、コロンビア大学で提案された方式であり、マスクを通してシリコン薄膜表面の方形領域にエキシマレーザー光を照射し、レーザー照射の方形領域をずらしながら、結晶化を行う方法である。現在、SLSは、韓国を中心にアジアで盛んに研究がなされている。しかし、これらの方法では、結晶面方位は制御できていない。
【0008】
μ−Czochralski法(μ−CZ法)は、デルフト大学で提案された方式であるが、シリコン基板の上にシリコン酸化膜を形成し、ここに100nm角程度の穴をあけ、更にa−Si薄膜を成膜し、そこにELAを行う。シリコン酸化膜中の穴部のシリコン薄膜から結晶化が進むため、6μm角ほどの大粒径のシリコン結晶グレインを形成できる(例えば、非特許文献4または5参照)。この方法だけでは、面方位は制御できないが、ニッケルを用いた1段階目の結晶化(金属誘起横方向結晶化)の後、穴部以外のシリコン薄膜を化学的物理的研磨(CMP)により取り去り、その後a−Si薄膜形成を行い、ELAを行うことで、面方位の揃った多結晶シリコン薄膜を行っている(例えば、非特許文献6参照)。ただ、この結晶化方法は、シリコン基板の上で適用可能な方法であり、絶縁膜基板上では実施されていない。
【0009】
Continuous-Wave Laser Lateral Crystallization(CLC)は、富士通研究所で提案された方式であり、連続発振レーザーによるラテラル結晶化により、シリコン結晶グレインの大粒径化をはかる方法である。この方法では、20μm×2μmの細長いシリコン結晶グレインを形成でき、シリコン薄膜トランジスタの高性能化を行うことができる(例えば、非特許文献7参照)。しかし、レーザースポットの強度分布がガウシアン分布をしており、これにより結晶成長方向は傾き、結晶面方位はランダムであり、シリコン薄膜トランジスタの移動度、および閾値電圧はばらつきやすい(例えば、特許文献1または非特許文献8参照)。
【0010】
これを改善するために、(100)面方位が優勢な結晶化領域をELAによって行い、その後、CLCによりラテラル結晶化することで、(100)面方位が優勢なシリコン薄膜を形成することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。日立製作所から提案されているSelectively Enlarging Lateral Crystallization(SELAX)は、ELAと連続発振レーザーの2段階レーザー結晶化において、連続発振レーザーをパルス状に行い、結晶化位置も含めて制御を行うものである(例えば、非特許文献9参照)。日立製作所からは、シリコン薄膜をパターニングすることで、面方位を制御することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−151904号公報
【特許文献2】特開2003−168645号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】M. Jyumonji, Y. Kimura, Y. Taniguchi, M. Hiramatsu, H. Ogawa, and M.Matsumura, “Optimum Light Intensity Distribution for Growing Large Si Grains byPhase-Modulated Exicimer-Laser Annealing”, Jpn. J. Appl. Phys., 2004年, 43, p.739
【非特許文献2】T. Endo, Y. Taniguchi, T. Katou, S. Shimoto, T. Ohno, K. Azuma, andM. Matsumura, “Pseudo-Single-Nucleus Lateral Crystallization of Si Thin Films”,Jpn. J. Appl. Phys., 2008年, 47, p.1862
【非特許文献3】Robert S. Sposili and James S. Im, “Sequential lateralsolidification of thin silicon films on SiO2”, Appl. Phys. Lett.,1996年, 69, p.2864
【非特許文献4】Paul Ch. van der Wilt, B. D. van Dijk, G. J. Bertens, R. Ishihara,and C. I. M. Beenakker, “Formation of location-controlled crystalline islandsusing substrate-embedded seeds in excimer-laser crystallization of siliconfilms”, Appl. Phys. Lett., 2001年, 79, p.1819
【非特許文献5】V. Rana, R. Ishihara, Y. Hiroshima, D. Abe, S. Higashi, S. Inoue, T.Shimoda, J.W. Metselaar and C.I.M. Beenakker, “Single-Grain Si TFTs andCircuits Inside Location-Controlled Grains Fabricated Using a Capping Layer ofSiO2”, IEEE Trans. Electron Devices, 2007年, 54, p.124
【非特許文献6】T. Chen, R. Ishihara, J. Cingel, B. Alessandro, M. R. T. Mofrad, H.Schellevis and K. Beenakker, “Integrated High Performance (100) and (110)Oriented Single-Grain Si TFTs without Seed Substrate”, Technical Digest ofInternational Electron Device Meeting (IEDM), 2009年, p.179
【非特許文献7】A. Hara, M. Takei, F. Takeuchi, K. Suga, K. Yoshino, M. Chida, T.Kakehi, Y. Ebiko, Y. Sano, and N. Sasaki, “High Performance Low TemperaturePolycrystalline Silicon Thin Film Transistors on Non-alkaline Glass ProducedUsing Diode Pumped Solid State Continuous Wave Laser Lateral Crystallization”,Jpn. J. Appl. Phys., 2004年, 43, p.1269
【非特許文献8】S. Fujii, S. Kuroki, X. Zhu, M. Numata, K. Kotani, and T. Ito, “CarrierTransport Mechanism in Poly-Si TFTs with One-Dimensionally Long Grains”, ExtendedAbstracts of the 2008 International Conference on Solid State Devices andMaterials, 2008年, p.766
【非特許文献9】波多野睦子、田井光春、芝健夫、Costas P. GRIGOROPOULOS, “レーザアニールによるSi薄膜溶融、結晶化過程の実時間観測と結晶の高品質化”、表面科学、2003年、Vol.24、No.6、p.375-382
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、10μmを超える長さをもつ直線状の結晶粒が整列した、結晶方位がほぼ2軸揃った結晶粒からなる半導体薄膜を形成し、高移動度でかつ特性の均一な半導体デバイスを提供することができる半導体薄膜の製造方法、半導体デバイスおよび半導体薄膜製造装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明に係る半導体薄膜の製造方法は、基板としてガラス基板もしくはプラスチック基板から成る絶縁素材基板、またはシリコン基板を用い、非晶質シリコン薄膜を前記基板上に直接あるいは他の層を介して堆積して形成し、更にその上にシリコン酸化膜を形成し、その後レーザービームを走査照射して、結晶方位が2軸揃った多結晶シリコン薄膜を形成することを、特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る半導体薄膜の製造方法は、基板としてガラス基板もしくはプラスチック基板から成る絶縁素材基板、またはシリコン基板を用い、非晶質シリコン薄膜を前記基板上に直接あるいは他の層を介して堆積して形成し、その後レーザービームを前記非晶質シリコン薄膜に走査照射して、結晶方位が2軸揃った多結晶シリコン薄膜を形成してもよい。
【0016】
本発明に係る半導体薄膜の製造方法で、前記レーザービームが、連続発振レーザーであることが好ましい。本発明に係る半導体薄膜の製造方法で、前記レーザービームは、一つのビームスポットが矩形型・ライン状であり、これを平行に2つ以上並べたレーザービームであることが好ましい。この場合、均一な強度をもつライン状のビームスポットを形成するために、前記レーザービームの整形光学系に回折型レーザビームホモジナイザを用いることが好ましい。
【0017】
本発明に係る半導体薄膜の製造方法で、前記多結晶シリコン薄膜の結晶グレインが、10μm以上の長さをもち、かつ10μm以下の幅をもつ細長い形状であることが好ましい。本発明に係る半導体薄膜の製造方法で、前記多結晶シリコン薄膜は、走査方向に垂直な面で(110)、平行な面で(111)、表面で(211)の面方位をもつことが好ましい。本発明に係る半導体薄膜の製造方法は、前記基板を500℃以下に保ったまま、前記レーザービームを走査照射して前記多結晶シリコン薄膜を形成することが好ましい。
【0018】
本発明に係る半導体デバイスは、本発明に係る半導体薄膜の製造方法を用いて製造されたことを、特徴とする。
【0019】
本発明に係る半導体薄膜製造装置は、ガラス基板もしくはプラスチック基板から成る絶縁素材基板、またはシリコン基板の上に、直接あるいは他の層を介して堆積して形成された非晶質シリコン薄膜に対し、レーザービームを走査照射可能に設けられたレーザー装置を有し、前記レーザー装置は、結晶方位が2軸揃った多結晶シリコン薄膜を形成可能に、一つのビームスポットが矩形型・ライン状であり、これを平行に2つ以上並べたレーザービームを照射可能に構成されていることを、特徴とする。
【0020】
本発明に係る半導体薄膜製造装置は、前記レーザー装置から照射される前記レーザービームが、均一な強度をもつライン状のビームスポットを形成するよう、前記レーザービームの整形光学系に設けられた回折型レーザビームホモジナイザを有することが好ましい。
【0021】
本発明によれば、レーザー結晶化により、結晶方位がほぼ2軸揃った結晶粒からなる半導体薄膜が提供される。
【0022】
連続発振レーザー結晶化において、回折型レーザビームホモジナイザを用いることで、レーザースポットを直線状・矩形状にし、長い方向にほぼ均一なレーザー強度分布を形成することができる。
【0023】
このレーザースポットを、レーザースポットの短い方向に適切な間隔をおいて、2段以上並べてもよい。
【0024】
この多段レーザースポットを、シリコン薄膜上に照射し、レーザースポットの短い方向に走査させて、シリコン薄膜の横方向結晶化(ラテラル結晶化)を行うことができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、レーザー照射のみで結晶面方位がほぼ2軸揃揃った多結晶シリコン薄膜を形成できる。結晶面方位が揃っているため、多結晶シリコン薄膜トランジスタの素子間ばらつきを抑えることができ、そのため高性能化を行うことができる。従来は結晶粒を大きくすると、素子間ばらつきが大きくなるため、多結晶シリコン薄膜トランジスタを集積回路で用いることは難しかったが、本発明によりそのような集積回路が製造可能となる。また、フラットパネルディスプレイの周辺回路や、画素スイッチとして用いることができる。また、ソーラーセルとしても有用である。
【0026】
このように、本発明によれば、10μmを超える長さをもつ直線状の結晶粒が整列した、結晶方位がほぼ2軸揃った結晶粒からなる半導体薄膜を形成し、高移動度でかつ特性の均一な半導体デバイスを提供することができる半導体薄膜の製造方法、半導体デバイスおよび半導体薄膜製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態のレーザー結晶化装置(半導体薄膜製造装置)を示す側面図である。
【図2】本発明の実施の形態のレーザー結晶化プロセス(半導体薄膜の製造方法)を示す斜視図である。
【図3】本発明の他の実施の形態のレーザー結晶化プロセス(半導体薄膜の製造方法)を示す斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態の半導体薄膜の製造方法の、レーザースポットを示す顕微鏡写真である。
【図5】従来の実施例のレーザースポットを示す顕微鏡写真である。
【図6】本発明の実施の形態の半導体薄膜の製造方法の、ダブルラインビームによるレーザー結晶化ポリシリコン薄膜を示す顕微鏡写真である。
【図7】従来の実施例であるガウシアン分布をしたレーザーによるレーザー結晶化ポリシリコン薄膜を示す顕微鏡写真である。
【図8】本発明の実施の形態の半導体薄膜の製造方法によるレーザー結晶化ポリシリコン薄膜の、面内X線回折測定の結果を示すグラフである。
【図9】本発明の実施の形態の半導体薄膜の製造方法によるレーザー結晶化ポリシリコン薄膜の、(220)面方位に関するインプレーンX線回折ロッキングカーブ測定の結果を示すグラフである。
【図10】本発明の実施の形態の半導体薄膜の製造方法によるレーザー結晶化ポリシリコン薄膜の、(111)面方位に関するインプレーンX線回折ロッキングカーブ測定の結果を示すグラフである。
【図11】本発明の実施の形態の半導体薄膜の製造方法によるレーザー結晶化ポリシリコン薄膜の、電子線後方散乱回折(EBSD:Electron Back-ScatterDiffraction)による結晶グレイン・マッピングである。
【図12】本発明の実施の形態の半導体薄膜の製造方法によるレーザー結晶化ポリシリコン薄膜の、電子線後方散乱回折(EBSD)による逆極点図(Inverse Pole Figure)である。
【図13】従来の実施例によるレーザー結晶化ポリシリコン薄膜の、電子線後方散乱回折(EBSD)による結晶グレイン・マッピングを示す概略図である。
【図14】従来の方法によるレーザー結晶化おける、ポリシリコン薄膜中のある点での温度変化と結晶化とを示す概略グラフである。
【図15】本発明の実施の形態の半導体薄膜の製造方法の、ダブルラインビームによるレーザー結晶化ポリシリコン薄膜中でのある点での温度変化と結晶化とを示す概略グラフである。
【図16】本発明の実施の形態の半導体薄膜の製造方法の、ダブルラインビームによるレーザー結晶化ポリシリコン薄膜での、ラテラル結晶化面での(110)面に関係する面方位((220)、(440))のSi粉末規格化X線強度比(XRD Area Intensity Ratio)のレーザー走査速度(Scan Speed)依存性を示すグラフである。
【図17】本発明の実施の形態の半導体薄膜の製造方法によるレーザー結晶化ポリシリコン薄膜を用いた半導体装置の製造工程を示す側面図および平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1に、本発明の実施の形態のレーザー結晶化装置(半導体薄膜製造装置)を示す。装置は、半導体励起固体レーザー装置8、レーザー光学系、X−Yリニアステージ1からなる。
【0029】
半導体励起固体レーザー装置8は、Nd:YVOを半導体レーザー励起固体として用いたものを用い、レーザー光の波長は532nmである。この半導体励起固体レーザー装置8からは、2.3mm(1/e)の直径をもつ円形のレーザービーム7が射出される。レーザービーム7の強度分布は、レーザースポットの中心で強度が最大となるガウス分布をしている。この光をレーザー光学系に導入する。
【0030】
レーザー光学系は、回折型レーザビームホモジナイザ6、レーザーエキスパンダー5、縮小光学系およびビームスプリット光学系4からなる。まず、半導体励起固体レーザー装置8から射出したガウシアン分布をしたレーザービーム7を、回折型レーザビームホモジナイザ6に導入し、レーザービームを1.0mm×0.5mmの矩形スポットに整形すると同時に、レーザービームの強度分布を均一にする。整形し、強度を均一化した矩形レーザービームをレーザーエキスパンダー5に導入する。レーザーエキスパンダー5にレーザービームを導入することで、レーザービームを平行ビーム化することができる。更に平行ビーム化した矩形レーザービームを、縮小光学系およびビームスプリット光学系4に導入し、ビームの縮小整形およびビーム分解を行った。具体的には、縮小光学系およびビームスプリット光学系4は、3個の凸型シリンドリカルレンズと、2個の凹型シリンドリカルレンズから構成される。縮小光学系およびビームスプリット光学系4を通したレーザービーム3をX−Yリニアステージ1の上に設置した半導体薄膜が成膜された絶縁体基板2に照射した。レーザービーム3は、半導体薄膜が成膜された絶縁体基板2上では、1.1mm×15μmのライン状ビームが平行に2本並んだダブルラインビームとした。単一ラインビームと二重ラインビームとは、縮小光学系およびビームスプリット光学系4のレンズの位置を変更することで切り替えることができる。半導体薄膜が成膜された絶縁体基板2は、X−Yリニアステージ1の上に真空チャッキングにより固定される。
【0031】
レーザービーム3を半導体薄膜が成膜された絶縁体基板2に照射しながら、X−Yリニアステージ1を動かすことで、絶縁体基板2上の半導体薄膜をレーザービーム3が走査し、絶縁体基板2上の半導体薄膜を全面レーザー結晶化することができる。
【0032】
絶縁体基板2上の半導体薄膜の全面レーザー結晶化は、電子計算機のプログラムにより制御される。電子計算機と半導体励起固体レーザー装置8は、RS−232Cインターフェイスで接続すると同時に、電子計算機とX−Yリニアステージ1のコントローラは、GPIB(General Purpose Interface Bus)を用いて接続する。電子計算機のプログラムによるレーザー結晶化の制御は、より具体的には、(1)半導体励起固体レーザー装置8のレーザー射出のためのシャッターを開き、その直後に、より具体的には50ミリ秒後に(2)X−Yリニアステージ1を+X方向に一定の走査速度で動かし、一定の長さを走査した後、静止させ、その直後に、より具体的には50ミリ秒後に(3)半導体励起固体レーザー装置8のレーザー射出のためのシャッターを閉じる。その後、(4)X−Yリニアステージ1を−Y方向に一定の走査速度で動かし、一定の長さを走査した後、静止させる。その後(5)X−Yリニアステージ1を−X方向に一定の走査速度で動かし、一定の長さを走査した後、静止させる。この(1)〜(5)を繰り返すことで、絶縁体基板2上の半導体薄膜の全面レーザー結晶化を行うことができる。
【0033】
図2に、本発明の実施の形態によるレーザー結晶化プロセス(半導体薄膜の製造方法)を示す。絶縁体基板12の上に、1μmのバッファ・シリコン酸化膜11を形成し、その上にシリコン半導体薄膜10を形成する。シリコン半導体薄膜10は、より具体的にはアモルファスシリコン薄膜15である。さらにこのシリコン半導体薄膜10の上に、キャップ・シリコン酸化膜9を形成した。この多層膜上に整形したダブルラインビーム13を照射・走査することで、シリコン半導体薄膜10のみを直接加熱し、かつシリコン半導体薄膜10の側面方向に連続的に結晶化(横方向結晶化、ラテラル結晶化)を行う。
【0034】
図3に、本発明の他の実施の形態によるレーザー結晶化プロセス(半導体薄膜の製造方法)を示す。絶縁体基板12の上に、1μmのバッファ・シリコン酸化膜11を形成し、その上にシリコン半導体薄膜10を形成する。シリコン半導体薄膜10は、より具体的にはアモルファスシリコン薄膜15である。この場合は、シリコン半導体薄膜10の上に、キャップ・シリコン酸化膜9は形成していない。この多層膜上に整形したダブルラインビーム13を照射・走査することで、シリコン半導体薄膜10のみを直接加熱し、かつシリコン半導体薄膜10の側面方向に連続的に結晶化(横方向結晶化、ラテラル結晶化)を行う。
【0035】
図4に、本発明の実施例であるレーザースポットの顕微鏡写真を示す。1.1mm×15μmのライン状ビームが平行に2本並んだダブルラインビームをしている。シリコン薄膜上に、このレーザー光を照射し、レーザースポットの短径方向にシリコン薄膜上を走査することで、シリコン薄膜中に適切な温度勾配を形成することができる。
【0036】
図5は、従来の実施例であるレーザースポットの顕微鏡写真を示しており、スポット形状が楕円形をしており、レーザーの強度分布がガウス分布をしている。
【0037】
図6は、本発明の実施例であるダブルラインビームによるレーザー結晶化ポリシリコン薄膜の顕微鏡写真を示す。1mmを超える範囲で、同時にラテラル結晶化を行った。
【0038】
図7は、従来の実施例であるガウシアン分布をしたレーザーによるレーザー結晶化ポリシリコン薄膜の顕微鏡写真を示す。レーザー結晶化時に左右に温度勾配を持つため、左右から中心に向って多数の筋が確認される。
【0039】
図8に、本発明の実施例であるダブルラインビームによるレーザー結晶化ポリシリコン薄膜のインプレーンX線回折測定の結果を示す。サンプルを面内方向に90°回転させて測定した2種類のグラフを載せている。この測定結果より、図8(a)に示すレーザー走査方向に垂直な面では、(110)と同じ向きをもつ、(220)と(440)とが特に強いピークをもっており、また、図8(b)に示すレーザー走査方向に平行な面では、(111)が強いピークをもっている。レーザー走査方向に垂直な面は、レーザー結晶化時のラテラル結晶成長面であるが、この面においては、(110)に関係する面方位((220)、(440))のSi粉末規格化強度比は、82.6%であり、(110)に優先配向している。
【0040】
図9および図10に、本発明の実施例であるダブルラインビームによるレーザー結晶化ポリシリコン薄膜のインプレーンX線回折ロッキングカーブ測定の結果を示す。測定は、図9に示す面方位(110)と平行な面である(220)と、図10に示す面方位(111)とについて行った。面方位(220)については、2θを28.28°に固定して測定を行い、面方位(111)については2θを47.05°に固定して測定を行った。面方位(220)では−67.05°と113.60°にピークが確認された。これは、シリコン薄膜面内において(220)面はレーザー走査方向に垂直な面に存在することを示している。また、面方位(111)では−166.55°と16.10°にピークが確認された。これは、シリコン薄膜面内において(111)面はレーザー走査方向に平行な面に存在することを示している。これらの結果は、ダブルラインビームによるレーザー結晶化ポリシリコン薄膜の結晶の2軸配向性が極めて高いことを示している。
【0041】
図11に、本発明の実施例であるレーザー結晶化ポリシリコン薄膜の、電子線後方散乱回折(EBSD:Electron Back-Scatter Diffraction)による結晶グレイン・マッピングを示す。連続したグレースケールの領域は一つのグレインを示し、グレイン同士の違いをグレースケールで区別している。グレインの結晶粒として、長径方向に100μm以上、短径方向に2μm程度の巨大結晶粒が形成されている。
【0042】
図12に、本発明によるレーザー結晶化ポリシリコン薄膜の配向性を示す、EBSDによる逆極点図(Inverse Pole Figure)を示す。表面方向に対応する[001]の図で、(211)を中心に面方位が分布している。また、ラテラル結晶成長面に対応する[100]の図では、(101)((110)と同等)の面方位をもち、また、これらに垂直な面である[010]の図では、(111)の面方位をもつことが示されている。シリコン薄膜表面方向は、主に(211)面方位をもち、側面方向の結晶性(110)(レーザー走査垂直方向)、(111)(レーザー走査平行方向)と垂直な面であり、整合がとれている。
【0043】
図13に、従来の方法による実施例であるレーザー結晶化ポリシリコン薄膜の、電子線後方散乱回折(EBSD)による結晶グレイン・マッピングを示す。結晶の形は細長くはなってはいるが、いびつな形状をしており、また面方位が不均一でありランダムである。
【0044】
図14は、従来の方法によるレーザー結晶化おける、ポリシリコン薄膜中のある点での温度変化と結晶化とを示す概略図である。図14中の台形の部分は、この点でのレーザー照射強度を示し、また点線は、ある面方位A,B,Cでの結晶核生成頻度が最大となる温度を示している。レーザーが照射された後にシリコン薄膜の温度が低下するが、低下するにつれて結晶核が発生し、成長することで結晶粒が形成される。従来方法では、連続的に温度が低下するため、様々な面方位をもつ結晶粒が形成される。
【0045】
図15は、本発明の実施例であるダブルラインビームによるレーザー結晶化ポリシリコン薄膜中でのある点での温度変化と結晶化とを示す概略図である。この場合も、図15中の台形の部分は、この点でのレーザー照射強度を示し、また点線は、ある面方位A,B,Cでの結晶核生成頻度が最大となる温度を示している。二重ラインビームでは、結晶化時に初めのラインビーム照射後、次のラインビーム照射までの間に、レーザー照射を行わない時間があり、このためシリコン薄膜上のこの温度が一旦低下する。しかし、2つのラインビームに挟まれ、熱拡散する方向が主に上下の熱伝導率の低いシリコン酸化膜となり、比較的温度は保たれる。これにより特定の面方位をもつ結晶粒の成長を行うことができる。
【0046】
図16に、本発明の実施例であるダブルラインビームによるレーザー結晶化ポリシリコン薄膜での、ラテラル結晶化面での(110)面に関係する面方位((220)、(440))のSi粉末規格化強度比のレーザー走査速度依存性を示す。走査速度0.01cm/sのように速度が遅いと、初めのレーザー照射から2回目のレーザー照射に至るまでの時間の間に温度が低下してしまい、面方位のランダム性が増す。また、走査速度1.00cm/sのように速度が速いと、2つのレーザー照射間に温度が下がらず、2回目のレーザー照射後に結晶化核生成が起こり、面方位のランダム性が増す。走査速度0.10cm/sでは、若干の温度低下のみで比較的温度が保たれるため、(110)に関係する面方位の優先的な結晶成長を行うことができる。
【0047】
図17に、本発明の実施の形態によるレーザー結晶化シリコン薄膜を用いたシリコン薄膜トランジスタの製造方法を示す。まず、図17(a)に示すように、本発明の実施の形態によるレーザー結晶化により形成された多結晶シリコン薄膜16を形成する。次に、図17(b)に示すように、紫外光、電子線、もしくはX線を用いたリソグラフィとエッチングとにより、レーザー結晶化により形成された多結晶シリコン薄膜16を加工し、素子分離アイランド17を形成する。この後、図17(c)に示すように、ゲート絶縁膜18とゲート電極19を、多結晶シリコン薄膜による素子分離アイランド17の上に形成する。この後、図17(d)に示すように、ソース領域20およびドレイン領域22に、不純物イオン23をイオン注入法により導入する。この後、不純物イオン活性化のための加熱を行うことで、レーザー結晶化シリコン薄膜を用いたシリコン薄膜トランジスタを製造することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 X−Yリニアステージ
2 絶縁体基板
3 (断面が直線状・矩形形状をもつ、ほぼ均一な強度分布の)レーザービーム
4 縮小光学系およびビームスプリット光学系
5 レーザーエキスパンダー
6 回折型レーザビームホモジナイザ
7 (断面が円形形状をもち、強度分布がガウス分布をした)レーザービーム
8 半導体励起固体レーザー装置
9 キャップ・シリコン酸化膜
10 シリコン半導体薄膜
11 バッファ・シリコン酸化膜
12 絶縁体基板
13 ダブルラインビーム
14 レーザービーム走査方向
15 アモルファスシリコン薄膜
16 (レーザー結晶化により形成された)多結晶シリコン薄膜
17 素子分離アイランド
18 ゲート絶縁膜
19 ゲート電極
20 ソース領域
21 チャネル領域
22 ドレイン領域
23 不純物イオン


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板としてガラス基板もしくはプラスチック基板から成る絶縁素材基板、またはシリコン基板を用い、非晶質シリコン薄膜を前記基板上に直接あるいは他の層を介して堆積して形成し、更にその上にシリコン酸化膜を形成し、その後レーザービームを走査照射して、結晶方位が2軸揃った多結晶シリコン薄膜を形成することを、特徴とする半導体薄膜の製造方法。
【請求項2】
基板としてガラス基板もしくはプラスチック基板から成る絶縁素材基板、またはシリコン基板を用い、非晶質シリコン薄膜を前記基板上に直接あるいは他の層を介して堆積して形成し、その後レーザービームを前記非晶質シリコン薄膜に走査照射して、結晶方位が2軸揃った多結晶シリコン薄膜を形成することを、特徴とする半導体薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記レーザービームが、連続発振レーザーであることを、特徴とする請求項1または2記載の半導体薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記レーザービームは、一つのビームスポットが矩形型・ライン状であり、これを平行に2つ以上並べたレーザービームであることを、特徴とする請求項1、2または3記載の半導体薄膜の製造方法。
【請求項5】
均一な強度をもつライン状のビームスポットを形成するために、前記レーザービームの整形光学系に回折型レーザビームホモジナイザを用いることを、特徴とする請求項4記載の半導体薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記多結晶シリコン薄膜の結晶グレインが、10μm以上の長さをもち、かつ10μm以下の幅をもつ細長い形状であることを、特徴とする請求項1、2、3、4または5記載の半導体薄膜の製造方法。
【請求項7】
前記多結晶シリコン薄膜は、走査方向に垂直な面で(110)、平行な面で(111)、表面で(211)の面方位をもつことを、特徴とする請求項1、2、3、4、5または6記載の半導体薄膜の製造方法。
【請求項8】
前記基板を500℃以下に保ったまま、前記レーザービームを走査照射して前記多結晶シリコン薄膜を形成することを、特徴とする請求項1、2、3、4、5、6または7記載の半導体薄膜の製造方法。
【請求項9】
請求項1、2、3、4、5、6、7または8記載の半導体薄膜の製造方法を用いて製造されたことを、特徴とする半導体デバイス。
【請求項10】
ガラス基板もしくはプラスチック基板から成る絶縁素材基板、またはシリコン基板の上に、直接あるいは他の層を介して堆積して形成された非晶質シリコン薄膜に対し、レーザービームを走査照射可能に設けられたレーザー装置を有し、
前記レーザー装置は、結晶方位が2軸揃った多結晶シリコン薄膜を形成可能に、一つのビームスポットが矩形型・ライン状であり、これを平行に2つ以上並べたレーザービームを照射可能に構成されていることを、
特徴とする半導体薄膜製造装置。
【請求項11】
前記レーザー装置から照射される前記レーザービームが、均一な強度をもつライン状のビームスポットを形成するよう、前記レーザービームの整形光学系に設けられた回折型レーザビームホモジナイザを有することを、特徴とする請求項10記載の半導体薄膜製造装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図11】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−38843(P2012−38843A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176075(P2010−176075)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】