説明

半導体装置の製造方法

【課題】シリコンチップの一部をモールド樹脂で封止し、他部をモールド樹脂より露出させてなる半導体装置の製造方法において、シリコンチップの露出部分と封止部分との境界を封止するための封止部材を、シリコンチップに取り付けるときの応力を低減し、シリコンチップへの損傷を極力抑制する。
【解決手段】封止部材として熱印加により収縮する材料よりなる環状の収縮シール部材60を用意し、この収縮シール部材60にシリコンチップ10を挿入して上記境界13に設けた後、収縮シール部材60に熱を印加して収縮を完了させ、その後、モールド工程では、収縮シール部材60を介して金型100にてシリコンチップ10を押さえ付けた状態で、モールド樹脂20を注入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型成形によって、シリコンチップの一部をモールド樹脂で封止し、他部をモールド樹脂より露出させてなる半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、この種の半導体装置の製造方法としては、たとえば、特許文献1に記載の方法が提案されている。
【0003】
この方法では、一端側に第1の部位、第1の部位よりも他端側に位置して隣り合う第2の部位を有する板状のシリコン半導体よりなるシリコンチップを用意し(チップ用意工程)、シリコンチップを金型に設置し、金型内にモールド樹脂を注入することにより、第1の部位をモールド樹脂で封止するとともに、第2の部位をモールド樹脂より露出させる(モールド工程)ようにしている。
【0004】
ここで、モールド工程において、封止部分である第1の部位を封止するモールド樹脂が、露出部分である第2の部位に付着しないようにする必要がある。そのため、上記特許文献1では、シリコンチップにおける第1の部位と第2の部位との間に、これら両部位の境界を封止する封止部材としての環状の緩衝部材を、チップに設けて、この緩衝部材を介して金型で型締めを行い、モールド工程を行うようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−33411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1では、緩衝部材はチップサイズよりも小さい挿通孔を有するリング状のものであり、この挿通孔に対してシリコンチップを圧入することで、シリコンチップに緩衝部材を固定するものであるため、その圧入時に加わる応力によってシリコンチップが損傷する恐れがある。特に、板状のシリコンチップは脆いため、そのような損傷の可能性が大きい。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、シリコンチップの一部をモールド樹脂で封止し、他部をモールド樹脂より露出させてなる半導体装置の製造方法において、シリコンチップの露出部分と封止部分との境界を封止するための封止部材を、シリコンチップに取り付けるときの応力を低減し、シリコンチップへの損傷を極力抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、一端(10a)側に第1の部位(11)、第1の部位(11)よりも他端(10b)側に位置して隣り合う第2の部位(12)を有する板状のシリコン半導体よりなるシリコンチップ(10)を用意するチップ用意工程と、
シリコンチップ(10)を金型(100)に設置し、金型(100)内にモールド樹脂(20)を注入することにより、第1の部位(11)をモールド樹脂(20)で封止するとともに、第2の部位(12)をモールド樹脂(20)より露出させるモールド工程と、を備える半導体装置の製造方法において、以下のような点を特徴とするものである。
【0009】
すなわち、請求項1の製造方法では、モールド工程の前に、エネルギーの印加により収縮する材料よりなる環状の収縮シール部材(60)を用意する収縮シール部材用意工程と、
収縮シール部材(60)にシリコンチップ(10)を挿入することによって、シリコンチップ(10)のうち第1の部位(11)と第2の部位(12)との境界(13)および当該境界(13)から第2の部位(12)に渡る領域の少なくとも一部においてシリコンチップ(10)の全周周りに、収縮シール部材(60)を設ける収縮シール部材挿入工程と、
続いて、収縮シール部材(60)にエネルギーを印加して収縮を完了させることにより、収縮シール部材(60)をシリコンチップ(10)に保持させる収縮工程と、を備え、
その後、モールド工程では、収縮シール部材(60)を介して金型(100)にてシリコンチップ(10)を押さえ付けた状態で、第1の部位(11)側にモールド樹脂(20)を注入することを特徴とする。
【0010】
それによれば、シリコンチップ(10)のうち第1の部位(11)側に注入されたモールド樹脂(20)は、第1の部位(11)を封止するが、第2の部位(12)との境界(13)から第2の部位(12)に渡る領域の少なくとも一部における全周は、封止部材としての収縮シール部材(60)により封止され、この収縮シール部材(60)は金型(100)で押さえ付けられているため、第2の部位(12)側へモールド樹脂(20)は侵入せず、さらに第2の部位(12)にモールド樹脂(20)が付着することはない。
【0011】
また、封止部材としての収縮シール部材(60)のシリコンチップ(10)への取り付けについては、挿入した後、収縮させて保持を行うものであるから、シリコンチップ(10)に加わる応力は、実質的に収縮シール部材(60)を構成する材料自体の収縮による応力であり、これは従来の圧入固定に比べて大幅に小さいものになる、
よって、本発明によれば、シリコンチップ(10)の露出部分と封止部分との境界を封止するための封止部材としての収縮シール部材(60)を、シリコンチップ(10)に取り付けるときの応力を低減し、シリコンチップ(10)への損傷を極力抑制することが可能となる。
【0012】
また、請求項2に記載の発明のように、請求項1に記載の半導体装置の製造方法において、収縮シール部材用意工程では、収縮シール部材(60)として、エネルギーとしての熱の印加により収縮する樹脂よりなるものを用意し、収縮工程では、収縮シール部材(60)に熱を印加することを特徴とするものにできる。
【0013】
さらに、請求項3に記載の発明のように、請求項2に記載の半導体装置の製造方法において、収縮シール部材用意工程にて用意される収縮シール部材(60)を構成する樹脂は、モールド工程におけるモールド樹脂(20)の成型温度以上の温度にて収縮するものであり、収縮工程では、当該成形温度以上の温度にて収縮シール部材(60)に熱を印加すれば、モールド工程の成型温度によって収縮シール部材(60)がさらに収縮変形するのを抑制できる。
【0014】
ここで、請求項4に記載の発明のように、請求項3に記載の半導体装置の製造方法においては、収縮シール部材(60)を構成する樹脂は、テトラフルオロエチレンまたはその変性物を含む樹脂であるものにできる。
【0015】
本発明のような樹脂は、耐薬品性などが高く化学的に安定した樹脂であり、たとえば、モールド工程後に、収縮シール部材(60)をシリコンチップ(10)に残す場合には、信頼性に優れた収縮シール部材(60)を実現できる。また、このような樹脂は、撥水性に優れた樹脂でもあり、たとえばモールド工程後にシリコンチップ(10)から収縮シール部材(60)を取り外す場合には、その取り外しが行いやすい。
【0016】
また、請求項5に記載の発明のように、請求項1ないし4のいずれか1つに記載の半導体装置の製造方法において、収縮シール部材挿入工程では、シリコンチップ(10)のうち第1の部位(11)と第2の部位(12)との境界(13)から第2の部位(12)の一部に渡る領域において、シリコンチップ(10)の全周周りに収縮シール部材(60)を設けるようにしてもよい。
【0017】
また、請求項6に記載の発明のように、請求項1ないし4のいずれか1つに記載の半導体装置の製造方法において、収縮シール部材挿入工程では、シリコンチップ(10)のうち第1の部位(11)と第2の部位(12)との境界(13)から第2の部位(12)の全体に渡る領域において、シリコンチップ(10)の全周周りに収縮シール部材(60)を設けるものであり、モールド工程では、モールド樹脂(20)による封止後に、シリコンチップ(10)から収縮シール部材(60)を取り外してもよい。
【0018】
なお、特許請求の範囲およびこの欄で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態に係る半導体装置の概略構成を示す図であり、(a)は概略断面図、(b)は(a)中のA矢視概略平面図である。
【図2】第1実施形態に係る半導体装置の製造方法を示す工程図である。
【図3】図2に続く製造方法を示す工程図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る半導体装置の概略断面図である。
【図5】第2実施形態に係る半導体装置の製造方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、説明の簡略化を図るべく、図中、同一符号を付してある。
【0021】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る半導体装置の概略構成を示す図であり、図1において(a)は概略断面図、(b)は(a)中の矢印A方向から視た概略平面図である。
【0022】
本実施形態の半導体装置は、大きくは、板状のシリコン半導体よりなるシリコンチップ10と、このシリコンチップ10の一部を封止し他部を露出させるモールド樹脂20とを備えて構成されている。
【0023】
シリコンチップ10は、板状のシリコン半導体よりなるもので、一端10a側に第1の部位11、第1の部位11よりも他端10b側に位置して隣り合う第2の部位12を有する。ここでは、シリコンチップ10は、典型的なものと同様、両端10a、10b方向を長手方向とする長方形板状をなしている。
【0024】
具体的には、第1の部位11は、モールド樹脂20で被覆されて封止されている部位であり、第2の部位12は、モールド樹脂20で被覆されずに樹脂より突出している部位である。つまり、シリコンチップ10は、一端10a側がモールド樹脂20で封止された被封止部11とされ、被封止部11よりも他端10b側がモールド樹脂20より突出する露出部12とされたものとして構成されている。
【0025】
このようなシリコンチップ10は、圧力や加速度、角速度等の物理量の変化を、電気信号の変化に変換する機能を持つ構造体ものや、印加される電気信号の変化を上記した物理量の変化に変換する機能を持つ構造体、あるいは、電気信号の処理により発熱を伴い、外部へのエネルギーの放出を必要とする構造体などである。
【0026】
具体的には、シリコンチップ10は、上記物理量変化と電気信号変化との変換機能を有する圧力検出素子、加速度検出素子、角速度検出素子等としてのセンサチップなどよりなる。
【0027】
本実施形態のシリコンチップ10においては、モールド樹脂20で封止される第1の部位11は、外部と電気接続されるパッド等を有する電気接続部とされ、モールド樹脂20より突出している第2の部位12は、上記検出素子におけるセンシング部や発熱部を含む部位とされている。
【0028】
このようなセンシング部としては、たとえば、圧力検出を行うダイアフラムや、加速度等を検出する梁構造体等よりなる可動部を有するものが挙げられる。このようなシリコンチップ10は、シリコン半導体などを用いて一般的な半導体プロセスにより形成されるものである。
【0029】
そして、上記のセンシング部や発熱部を含む第2の部位12は、モールド樹脂20より露出することで外部環境にさらされて適切な検出が可能となり、あるいは、適切な放熱が可能となっている。
【0030】
また、第1の部位11はワイヤボンディング等の各接続部を有しており、これらが当該ワイヤボンディング等とともにモールド樹脂20で封止されることで、機械的な補強および外部からの保護等がなされている。
【0031】
ここでは、シリコンチップ10は、第1の部位11にて、基板30に対してエポキシ樹脂等よりなる接着剤40を介して接着固定され、この接着剤40を介して基板30に支持されている。
【0032】
この基板30は、リードフレームや配線基板などよりなるものである。ここで、リードフレームは、一般的なものと同様、Cuや42アロイなどの導電性に優れた金属を用いてエッチングやプレスなどにより形成されたものであり、配線基板としては、一般的なプリント基板やセラミック基板などが挙げられる。
【0033】
また、シリコンチップ10の第1の部位11と基板30とは、ワイヤボンディングなどにより形成されたアルミや金などのボンディングワイヤ50により結線され、このボンディングワイヤ50を介して電気的に接続されている。
【0034】
なお、シリコンチップ10と基板30との電気的接続は、このワイヤボンディングに限定されるものではなく、たとえばテープ状の配線部材やリード、バンプなどにより行われるものであってもよい。
【0035】
そして、このシリコンチップ10の第1の部位11は、基板30およびボンディングワイヤ50とともにモールド樹脂20により封止されている。また、基板30の一部は、端子部31として構成され、この基板30の端子部31は、モールド樹脂20より露出しており、外部と電気的に接続されるようになっている。これにより、本半導体装置と外部との電気的なやり取りが端子部31を介して行われるようになっている。
【0036】
ここで、モールド樹脂20は、エポキシ樹脂などに代表される一般的なモールド樹脂であり、一般のものと同様、金型を用いたトランスファーモールド法などにより成形されたものである。ここでは、モールド樹脂20は、この種の半導体装置に典型的な矩形ブロック状をなしている。
【0037】
なお、モールド樹脂20内部にて基板30には、シリコンチップ10以外の他の電子素子や回路チップなどが搭載されていてもよい。そのような場合には、シリコンチップ10の第1の部位11とこれら他の電子素子や回路チップとが、さらにモールド樹脂20の内部にてワイヤボンディング等により接続されていてもよい。
【0038】
ここで、本実施形態の半導体装置においては、環状の収縮シール部材60が設けられている。この収縮シール部材60は、穴としての中空部61を有する環状をなすもので、シリコンチップ10のうち第1の部位11と第2の部位12との境界13を含んで当該境界13から第2の部位12に渡る領域の一部において、シリコンチップ10の全周周りに、設けられている。
【0039】
そして、シリコンチップ10の第2の部位12のうち外部に露出するべき部位、具体的には、上記センシング部や発熱部等が位置する部位は、収縮シール部材60から外れ、外部に露出している。
【0040】
この収縮シール部材60は、エネルギーとしての熱の印加により収縮する樹脂、いわゆる熱収縮チューブよりなるが、半導体装置の完成時点では、熱が印加されて収縮が完了した状態とされている。
【0041】
具体的に、本実施形態の収縮シール部材60は、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)を主成分とする樹脂、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)を主成分とする樹脂、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)を主成分とする樹脂等、テトラフルオロエチレンまたはその変性物を含む樹脂よりなる。
【0042】
次に、本実施形態に係る半導体装置の製造方法について述べる。図2は本製造方法を示す工程図、図3は図2に続く製造方法を示す工程図であり、ともに、各工程におけるワークを断面的に示している。
【0043】
まず、一般的な半導体プロセスにより、シリコンチップ10を形成し、シリコンチップ10を用意する(チップ用意工程)。また、一方で基板30を用意する。そして、図2(a)に示されるように、シリコンチップ10の第1の部位11を基板20に接着剤40を介して固定するとともに、ワイヤボンディングを行い、第1の部位11と基板20とをボンディングワイヤ50で接続する。
【0044】
また、収縮シール部材用意工程を行い、熱の印加により収縮する材料よりなる環状の収縮シール部材60を用意する。ここで、収縮シール部材60の中空部61の開口サイズは、当該収縮シール部材60が設けられるシリコンチップ10部分の全周周りよりも一回り大きい。
【0045】
この収縮シール部材60は、上記したテトラフルオロエチレンまたはその変性物を含む熱収縮チューブを用いて一般的な方法により形成される。すなわち、用意される収縮シール部材60は、チューブを形成する押し出し成型法により環状の成型体を形成した後、高温で当該成型体の穴径を拡張し、さらにこれを急冷または、電子線照射することにより残留応力を与えて収縮機能を付与させたものとして形成される。
【0046】
次に、図2(b)に示される収縮シール部材挿入工程を行う。この工程では、収縮シール部材60にシリコンチップ10を挿入することによって、シリコンチップ10のうち第1の部位11と第2の部位12との境界13および当該境界13から第2の部位12に渡る領域の一部においてシリコンチップ10の全周周りに、収縮シール部材60を位置させる。
【0047】
続いて、図2(c)に示される収縮工程を行う。この工程では、収縮シール部材60にエネルギーとしての熱を印加して、収縮シール部材60の収縮を完了させることにより、収縮シール部材60をシリコンチップ10に保持させる。
【0048】
この工程では、ワークをオーブンなどに入れて加熱するが、これによって、収縮シール部材60の全体が収縮して、中空部61の穴径も小さくなり、その締め付け力により、収縮シール部材60がシリコンチップ10に保持される。
【0049】
この収縮工程における加熱温度すなわち収縮温度は、特に限定するものではないが、本実施形態では、収縮シール部材60として、モールド樹脂20の成型温度と同一もしくはそれよりも高い温度にて収縮する樹脂よりなるものを用い、当該成形温度以上の収縮温度にて収縮シール部材60に熱を印加することで収縮させるようにしている。
【0050】
この収縮工程の後、図2(d)、図3(a)に示されるモールド工程を行う。この工程では、まず、図2(d)に示されるように、シリコンチップ10を含むワークを金型100に設置し、収縮シール部材60を介して金型100にてシリコンチップ10を押さえ付けた状態とする。
【0051】
この金型100は、この種の一般的な金型と同様のものであり、たとえば上型101と下型102とを合致させてなるものである。ここでは、金型100は、モールド樹脂20の外形に対応したキャビティ103を有する。そして、このキャビティ103の外側では、基板30における上記端子部31が金型100に押さえ付けられて金型100に密着している。
【0052】
それとともに、キャビティ103の外側では、シリコンチップ10の第2の部位12は収縮シール部材60を介して金型100に押さえ付けられて金型に密着している。ここで、収縮シール部材60の全周が金型100に接した状態にて、収縮シール部材60は金型100により押さえ付けられている。このようにして、ワークは金型100に支持されている。
【0053】
上述したが、収縮シール部材60は、上記収縮工程の終了時には、上記収縮による締め付け力によってシリコンチップ10に保持されている。この時点で、収縮シール部材60とシリコンチップ10とは密着するが、仮に、この密着が不十分であったとしても、モールド工程における金型100の押さえによって、収縮シール部材60とシリコンチップ10とは、十分に隙間なく密着する。
【0054】
そして、図3(a)に示されるように、この状態で、金型100内の第1の部位11側、すなわちキャビティ103内にモールド樹脂20を注入する。
【0055】
このとき、シリコンチップ10のうち第2の部位12との境界13から第2の部位12に渡る領域の一部における全周は、収縮シール部材60により封止され、このシール部材60は金型で押さえ付けられているため、第2の部位12側へモールド樹脂20は侵入せず、さらに第2の部位12にモールド樹脂20が付着することはない。
【0056】
こうして、モールド工程によりシリコンチップ10のうちの第1の部位11をモールド樹脂20で封止するとともに、第2の部位12をモールド樹脂20より露出させることで、図3(b)に示される本実施形態の半導体装置ができあがる。
【0057】
このように、本実施形態によれば、収縮シール部材60は、シリコンチップ10における封止部分である第1の部位11と露出部分である第2の部位12との間に、これら両部位11、12の境界13を封止する封止部材として機能するため、適切な樹脂封止を行うことができる。
【0058】
また、本実施形態によれば、収縮シール部材60のシリコンチップ10への取り付けについては、シリコンチップ10への挿入後、収縮シール部材60を熱で収縮させて保持を行うものであるから、当該取付時におけるシリコンチップ10に加わる応力は、実質的に収縮シール部材60を構成する材料自体の収縮による応力であり、これは従来の圧入固定に比べて大幅に小さいものになる、
よって、本実施形態によれば、封止部材としての収縮シール部材60を、シリコンチップ10に取り付けるときの応力を低減し、シリコンチップ10への損傷を極力抑制することが可能となる。
【0059】
また、上述したが、本実施形態における上記製造方法においては、収縮シール部材用意工程にて用意される収縮シール部材60を構成する樹脂は、モールド工程におけるモールド樹脂20の成型温度以上の温度にて収縮するものとし、収縮工程では、当該成形温度以上の収縮温度にて収縮シール部材60に熱を印加している。
【0060】
一例をあげると、一般的なモールド工程におけるモールド樹脂20の成型温度は150℃であるが、収縮シール部材60を構成する上記樹脂において、PFAの収縮温度は約180℃、FEPの収縮温度は約180℃、PVDFの収縮温度は150℃であり、収縮工程では、当該成形温度以上の温度にて収縮シール部材60に熱を印加する。
【0061】
それによれば、モールド工程の成型温度によって収縮シール部材60がさらに収縮変形するのを抑制でき、当該収縮変形による収縮シール部材60の位置ずれを防止することができる。
【0062】
ここで、位置ずれとは、収縮シール部材60のシリコンチップ10や金型100に対する位置ずれである。このような収縮シール部材60の位置ずれが生じると、たとえば、モールド樹脂20の寸法や形状の誤差等が発生してしまうが、収縮シール部材60の樹脂を、モールド樹脂20の成型温度以上の温度にて収縮するものにすれば、そのような問題を回避することができる。
【0063】
また、本実施形態では、収縮シール部材60を構成する樹脂は、テトラフルオロエチレンまたはその変性物を含む樹脂であるが、このような樹脂は、耐薬品性などが高く化学的に安定した樹脂であり、信頼性に優れた収縮シール部材60を実現できる。
【0064】
また、このような樹脂は、接触角の大きい撥水性に優れた樹脂でもあり、たとえば後述するように、モールド工程後にシリコンチップ10から収縮シール部材60を取り外す場合には、その取り外しが行いやすいという利点がある。
【0065】
(第2実施形態)
図4は、本発明の第2実施形態に係る半導体装置の概略断面構成を示す図である。本実施形態では、上記第1実施形態との相違点を中心に述べることとする。
【0066】
上記第1実施形態では、シリコンチップ10のうち第1の部位11と第2の部位12との境界13から第2の部位12の一部に渡る領域において、収縮シール部材60を設けていたが、本実施形態の半導体装置では、当該境界13から第2の部位12に渡る領域には、収縮シール部材60が設けられていない。
【0067】
これは、本実施形態では、製造工程中では収縮シール部材60を用いるが、最終的にはシリコンチップ10から取り外すようにしているためである。この本実施形態に係る半導体装置の製造方法について述べる。図5は、本製造方法を示す工程図であり、各工程におけるワークを断面的に示している。
【0068】
まず、本製造方法においても、シリコンチップ10を用意し(チップ用意工程)、一方で基板30を用意し、シリコンチップ10と基板20とを接着剤40を介して固定するとともに、ワイヤボンディング接続を行う。
【0069】
また、上記同様、収縮シール部材用意工程を行い、熱の印加により収縮する材料よりなる環状の収縮シール部材60を用意する。ここで、本実施形態の収縮シール部材60は、第1実施形態とは長さが異なるものであり、図5に示されるように、シリコンチップ10のうち第1の部位11と第2の部位12との境界13から第2の部位12の全体に渡る長さを持つ筒状のものである。
【0070】
そして、本実施形態においても、この用意された環状の収縮シール部材60を用いて、上記同様に収縮シール部材挿入工程、収縮工程を行い、収縮シール部材60をシリコンチップ10に保持させる。
【0071】
そして、図5(a)に示されるように、この収縮シール部材60が取り付けられたシリコンチップ10を金型100に設置し、収縮シール部材60を介して金型100にてシリコンチップ10を押さえ付けた状態とし、続いて、図5(b)に示されるように、この状態で、金型100内の第1の部位11側にモールド樹脂20を注入する。
【0072】
こうして、シリコンチップ10のうちの第1の部位11をモールド樹脂20で封止する。その後、本実施形態では、ワークを金型100から取り出して、さらに、シリコンチップ10から収縮シール部材60を抜くように取り外すことにより、第2の部位12をモールド樹脂20より露出させる。ここまでが、本実施形態のモールド工程である。
【0073】
ここで、この収縮シール部材60の取り外しは、治具や人手等により、そのまま抜けばよい。このとき、収縮シール部材60に切り込みを入れて抜けやすくしてもよいし、あるいは、収縮シール部材60の中空部61内にエアーなどを吹き込み、その圧力により中空部61を広げることで抜けやすくしてもよい。
【0074】
なお、本実施形態では、収縮シール部材60を付けたままであると、シリコンチップ10のうちの第2の部位12の実質全体が外部に露出しない状態となり、第2の部位12を露出部とする初期の目的が達成されないため、最終的に収縮シール部材60を取り外したが、可能ならば、上記第1実施形態においても、同様に、収縮シール部材60の取り外しを行ってもかまわない。
【0075】
こうして、図4に示される本実施形態の半導体装置ができあがる。そして、本実施形態によっても、上記第1実施形態と同様、封止部材としての収縮シール部材60を、シリコンチップ10に取り付けるときの応力を低減し、シリコンチップ10への損傷を極力抑制することが可能となる。
【0076】
(他の実施形態)
なお、収縮シール部材60として、エネルギーとしての熱の印加により収縮する樹脂よりなるものを用いる場合、モールド工程時の成型温度による熱変形の影響が小さいものであれば、収縮温度は当該成型温度未満であってもよい。また、収縮シール部材60の樹脂としては、上記具体的に示したものに限定されるものではない。
【0077】
また、収縮シール部材60は、熱で収縮するもの以外にも、たとえばエネルギーとして紫外線などの光の照射等により収縮する樹脂であってもよい。
【符号の説明】
【0078】
10 シリコンチップ
10a シリコンチップの一端
10b シリコンチップの他端
11 第1の部位
12 第2の部位
13 第1の部位と第2の部位との境界
20 モールド樹脂
30 基板
50 ボンディングワイヤ
60 収縮シール部材
61 収縮シール部材の中空部
100 金型
103 金型のキャビティ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端(10a)側に第1の部位(11)、前記第1の部位(11)よりも他端(10b)側に位置して隣り合う第2の部位(12)を有する板状のシリコン半導体よりなるシリコンチップ(10)を用意するチップ用意工程と、
前記シリコンチップ(10)を金型(100)に設置し、前記金型(100)内にモールド樹脂(20)を注入することにより、前記第1の部位(11)を前記モールド樹脂(20)で封止するとともに、前記第2の部位(12)を前記モールド樹脂(20)より露出させるモールド工程と、を備える半導体装置の製造方法において、
前記モールド工程の前に、エネルギーの印加により収縮する材料よりなる環状の収縮シール部材(60)を用意する収縮シール部材用意工程と、
前記収縮シール部材(60)に前記シリコンチップ(10)を挿入することによって、前記シリコンチップ(10)のうち前記第1の部位(11)と前記第2の部位(12)との境界(13)および当該境界(13)から前記第2の部位(12)に渡る領域の少なくとも一部において前記シリコンチップ(10)の全周周りに、前記収縮シール部材(60)を設ける収縮シール部材挿入工程と、
続いて、前記収縮シール部材(60)にエネルギーを印加して収縮を完了させることにより、前記収縮シール部材(60)を前記シリコンチップ(10)に保持させる収縮工程と、を備え、
その後、前記モールド工程では、前記収縮シール部材(60)を介して前記金型(100)にて前記シリコンチップ(10)を押さえ付けた状態で、前記第1の部位(11)側に前記モールド樹脂(20)を注入するようにしたことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記収縮シール部材用意工程では、前記収縮シール部材(60)として、前記エネルギーとしての熱の印加により収縮する樹脂よりなるものを用意し、
前記収縮工程では、前記収縮シール部材(60)に熱を印加することを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記収縮シール部材用意工程にて用意される前記収縮シール部材(60)を構成する前記樹脂は、前記モールド工程における前記モールド樹脂(20)の成型温度以上の温度にて収縮するものであり、
前記収縮工程では、当該成形温度以上の温度にて前記収縮シール部材(60)に熱を印加することを特徴とする請求項2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記収縮シール部材(60)を構成する前記樹脂は、テトラフルオロエチレンまたはその変性物を含む樹脂よりなるものであることを特徴とする請求項3に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記収縮シール部材挿入工程では、前記シリコンチップ(10)のうち前記第1の部位(11)と前記第2の部位(12)との境界(13)から前記第2の部位(12)の一部に渡る領域において、前記シリコンチップ(10)の全周周りに前記収縮シール部材(60)を設けることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記収縮シール部材挿入工程では、前記シリコンチップ(10)のうち前記第1の部位(11)と前記第2の部位(12)との境界(13)から前記第2の部位(12)の全体に渡る領域において、前記シリコンチップ(10)の全周周りに前記収縮シール部材(60)を設けるものであり、
前記モールド工程では、前記モールド樹脂(20)による封止後に、前記シリコンチップ(10)から前記収縮シール部材(60)を取り外すことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−96970(P2013−96970A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243229(P2011−243229)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】