説明

半導体装置

【課題】 ゲート−ドレイン間の容量が小さく、尚且つ、オン抵抗の低いパワー半導体装置を提供する。
【解決手段】
半導体装置100は、N型の半導体層20と、半導体層20の表面に形成されたP型のソース30およびP型のドレイン40と、ソース30とドレイン40との間のチャネル領域上にゲート絶縁膜60を介して設けられたゲート電極70であって、チャネル領域のチャネル長方向の長さがLgであるゲート電極70と、チャネル領域にイオン注入して形成されたボディ領域80であって、深さがXj、ゲート絶縁膜60を介してゲート電極70と対向するイオン注入された部分のチャネル長方向の長さがLaであるボディ領域80とを備え、La≦Lg−Xjを満たすことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータ等のCPUに使用される電源は低電圧化されている。これに伴い、同期整流方式による電源回路が多用されている。同期整流方式の電源回路には、スイッチング速度の速いパワーMOSFETが適している。
【0003】
同期整流方式の電源回路に用いられる典型的なパワーMOSFETは、ゲート電極とドレイン層間のキャパシタンスが大きいため、高周波のスイッチングに適していなかった(非特許文献1参照)。
【0004】
これに対処するために、ゲート電極とドレイン層との重複面積を小さくすると、閾値電圧がばらつき、さらに、オン抵抗が高くなってしまうという問題が生じた。この問題は、特に、PチャネルパワーMOSFETに顕著であった。
【非特許文献1】Roh等による“Highly Reliable p-LDMOSFET with an Uneven Racetrack Source for PDP Driver IC Applications (PDP駆動ICに適用され、凹凸のある長円型ソースを有する高信頼性P型LDMOSFET)”ISPSD 2003 (The 15th International Symposium on Power Semiconductor Devices & ICs, April 14th − 17th 2003, Cambridge, UK) Proceedings p.236~p.239
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、ゲート−ドレイン間の容量が小さく、尚且つ、閾値電圧が安定しており、オン抵抗の低いパワー半導体装置が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る実施形態に従った半導体装置は、N型の半導体層と、前記半導体層の表面に形成されたP型のソース層およびP型のドレイン層と、前記ソース層と前記ドレイン層との間のチャネル領域上にゲート絶縁膜を介して設けられたゲート電極であって、前記チャネル領域のチャネル長方向の長さがLgであるゲート電極と、前記チャネル領域にイオン注入して形成されたボディ領域であって、深さがXj、前記ゲート絶縁膜を介して前記ゲート電極と対向するイオン注入された部分の前記チャネル長方向の長さがLaであるボディ領域とを備え、La≦Lg−Xjを満たす。
【0007】
本発明に係る他の実施形態に従った半導体装置は、N型の半導体層と、前記半導体層の表面に形成されたP型のソース層およびP型のドレイン層と、前記ソース層と前記ドレイン層との間のチャネル領域上にゲート絶縁膜を介して設けられたゲート電極と、前記チャネル領域の一部分に注入されたN型不純物、および、前記ゲート電極に電圧が印加されていないときに導通しない程度に前記チャネル領域の全体に注入されたP型不純物を含むボディ領域とを備えている。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、ゲート−ドレイン間の容量が小さく、尚且つ、閾値電圧が安定しており、オン抵抗の低いパワー半導体装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明に係る実施形態を説明する。これらの実施形態は本発明を限定するものではない。
【0010】
(第1の実施形態)
図1は、本発明に係る第1の実施形態に従ったパワーMOSFET100の断面図である。MOSFET100は、N型の半導体層10と、半導体層10の表面上に形成された半導体層としてN型のエピタキシャル層20とを備えている。
【0011】
エピタキシャル層20の表面には、P型のソース層30およびP型のドレイン層40が設けられている。
【0012】
ソース層30はN型のウェル拡散層50の領域内に形成されている。ゲート電極70がソース層30とドレイン層40との間のチャネル領域上にゲート絶縁膜60を介して設けられている。ゲート電極70のチャネル長方向の長さはLgである。長さLgは、例えば、0.8μmである。
【0013】
ソース層30が形成される領域とチャネル領域の一部分にN型およびP型の不純物が注入され、いわゆる埋め込みチャネルを持ったボディ領域80が形成されている。ボディ領域80は、図1に示す断面においてソース層30を取り囲むように形成されている。ボディ領域80の深さはXjである。ボディ領域80を形成するためにイオン注入された部分がゲート絶縁膜60を介してゲート電極70と対向するチャネル長方向の長さをLaとする。深さXjは、例えば、0.5μmである。
【0014】
ボディ領域80は、ソース層30の下部においてはN型であるが、チャネル領域の表面では薄いP型である。しかし、ボディ領域80内のチャネル領域は、ゲート電極70への印加電圧がゼロであるときには空乏化しており、非導通状態である。即ち、MOSFET100はノーマリオフの素子である。図1には、ボディ領域80表面のチャネル領域に空乏層81が形成されている様子を示している。尚、ソース層30の下部のN型ボディ領域80は、ソース−ドレイン間のパンチスルーや寄生PNPバイポーラ・トランジスタの動作を防止するために設けられている。
【0015】
ボディ領域80は、例えば、2回ないし3回のイオン注入で形成される。具体的には、燐、あるいは燐とヒ素を300keV程度のエネルギーで深めにイオン注入し、さらに、ボロンを20keV程度のエネルギーで浅く注入する。ボロン注入のエネルギーとドーズ量を適正な値に設定することによりチャネル領域の表面は薄いP型になる。
【0016】
さらに、エピタキシャル層20の表面には、ソースコンタクト層91およびドレインコンタクト層93が形成されている。ソース電極95はソースコンタクト層91に接続されており、ドレイン電極97はドレインコンタクト層93に接続されている。
【0017】
図2は、長さLaとMOSFET100の閾値電圧Vthとの関係を示すグラフである。ここで、La1およびLa2は、それぞれ式1および式2で表される。
【0018】
La1=Lg−Xj (式1)
La2=Lg (式2)
また、MOSFET100は、PチャネルMOSFETであるので、閾値電圧V1およびV2は負電圧である。例えば、V1は−1.2Vであり、V2は−0.9Vである。
【0019】
図2のグラフに示すように、チャネル方向に延びるボディ領域80の長さLaがLa1よりも小さいときには、MOSFET100の閾値電圧はV1で安定している。また、長さLaがLa2よりも大きいときには、MOSFET100の閾値電圧はV1よりも絶対値的に小さいV2で安定していることがわかった。一方で、長さLaがLa1よりも大きくかつLa2よりも小さいときには、MOSFET100の閾値電圧はV1とV2との間で不安定になる。
【0020】
このグラフから、MOSFET100の閾値電圧を安定させるためには、Laが式3または式4を満たす必要がある。
【0021】
La≦La1 (式3)
La≧La2 (式4)
図3は、長さLaとMOSFET100のオン抵抗Ronとの関係を示すグラフである。図3のグラフで示すように、LaがLg−Xj/2を超えるとMOSFET100のオン抵抗Ronが上昇する。これは、Laを大きくすると、N型不純物として注入された燐がドレイン層40にまで拡散し、それによって、ドレイン層40の抵抗が上昇するからである。よって、Laは、オン抵抗Ronの観点においてLa2よりも小さいことが好ましい。即ち、式4は、オン抵抗Ronの観点において不適切である。
【0022】
従って、閾値電圧の安定性および低オン抵抗を実現するためには、式3を満たすLaがMOSFET100にとって好ましいことがわかった。
【0023】
さらに、本実施形態において、ゲート電極70とドレイン層40とがゲート絶縁膜60を介して重複する面積は非特許文献1に記載されたMOSFETに比べ小さい。よって、本実施形態は、ゲート−ドレイン間の容量が比較的小さい。このように、本実施形態によるMOSFET100は、ゲート−ドレイン間の容量が小さく、尚且つ、オン抵抗が低い。ゲート−ドレイン間の容量が小さいことによって、高周波動作におけるスイッチング損失が小さくなる。
【0024】
さらに、本実施形態では、ボディ領域80を形成するためのチャネルイオンは、同一マスクを用いて注入され得る。従って、ボディ領域80の形成工程が比較的簡単である。
【0025】
(第2の実施形態)
図4は、本発明に係る第2の実施形態に従ったパワーMOSFET200の平面図である。図4はゲート電極70とボディ領域80との位置関係を示している。本実施形態のボディ領域80は、半導体基板10の表面において櫛型に形成されている。
【0026】
ボディ領域80の凸部Bでは、Laは式4を満たしている。これにより、MOSFET200の閾値電圧が凸部Bの領域で決定されるので、閾値電圧を安定させることができる。隣り合う凸部B間の凹部Cでは、Laが充分小さく、例えば、Laは式3を満たしている。これにより、MOSFET200のオン抵抗Ronは小さくなる。
【0027】
MOSFET200は、まず、閾値電圧の低い凸部Bの領域でオン状態になり、その後、凹部Cの領域がオン状態になる。よって、MOSFET200では、櫛型に形成されていることによって、閾値電圧を安定化させつつ、素子全体のオン抵抗を低下させることができる。
【0028】
(第3の実施形態)
図5は、本発明に係る第3の実施形態に従ったパワーMOSFET300の断面図である。第1の実施形態では、ゲート電極70への印加電圧がゼロであるときに空乏層81はチャネル領域のうちボディ領域80の表面にのみ形成されたが、第3の実施形態ではチャネル領域全体に空乏層82が形成される。第3の実施形態の他の構成要素は、第1の実施形態と同様である。
【0029】
チャネル領域全体を空乏化させるために、不純物のイオン注入は、N型不純物、例えば燐およびヒ素を注入した後、マスクを一旦除去し、フォトリソグラフィ技術を用いてチャネル領域全体を開口させたマスクを形成して、P型不純物、例えばボロンを注入する。これにより、追加のフォトリソグラフ工程が必要とされるが、チャネル領域全体を薄いP型にすることができる。
【0030】
第3の実施形態でも、チャネル領域は、ゲート電極70への印加電圧がゼロであるときには空乏化しており、非導通状態である。即ち、MOSFET300もノーマリオフの素子である。さらに、MOSFET300では、チャネル領域全体が空乏化しているので、閾値電圧が第1の実施形態よりも絶対値的に小さく、オン抵抗Ronも小さくなる。
【0031】
一般に、このようなパワーMOSFETはパワーICの中で用いられ、同一チップ内にCMOS(図示せず)が形成されている。チャネル領域を形成するための不純物は、このCMOSのPチャネルMOSFETのチャネル領域全体にイオン注入される。よって、P型不純物がMOSFET300のチャネル領域全体に注入されることによって、MOSFET300の閾値電圧がCMOSのPチャネルMOSFETの閾値電圧に接近する。
【0032】
例えば、チャネル領域へのイオン注入において、まず、チャネル領域の一部分に燐やヒ素を300keV程度のエネルギーで注入し、さらに、チャネル領域全体にボロンを約20keVのエネルギーで5*1012cm−2程度注入する。これにより、CMOSのPチャネルMOSFETの閾値電圧が−0.85ボルトになり、MOSFET300の閾値電圧が−0.85〜−0.90ボルトになる。
【0033】
このように、MOSFET300の閾値電圧がCMOSのPチャネルMOSFETの閾値電圧に接近することによって、パワーMOSFET300およびCMOSは共通の電源電圧で動作可能となる。これは、回路設計を容易にするという効果につながる。さらに、第3の実施形態は、第1の実施形態と同様の効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る第1の実施形態に従ったパワーMOSFET100の断面図。
【図2】長さLaと閾値電圧Vthとの関係を示すグラフ。
【図3】長さLaとオン抵抗Ronとの関係を示すグラフ。
【図4】本発明に係る第2の実施形態に従ったパワーMOSFET200の平面図。
【図5】本発明に係る第3の実施形態に従ったパワーMOSFET300の断面図。
【符号の説明】
【0035】
100 パワーMOSFET
10 N+半導体層
20 エピタキシャル層
30 ソース層
40 ドレイン層
70 ゲート電極
60 ゲート絶縁膜
80 ボディ領域
Xj ボディ領域80の深さ
La ボディ領域80のイオン注入部分とゲート電極70との対向する長さ
Lg ゲート電極70のチャネル長方向の長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N型の半導体層と、
前記半導体層の表面に形成されたP型のソース層およびP型のドレイン層と、
前記ソース層と前記ドレイン層との間のチャネル領域上にゲート絶縁膜を介して設けられたゲート電極であって、前記チャネル領域のチャネル長方向の長さがLgであるゲート電極と、
前記チャネル領域にイオン注入して形成されたボディ領域であって、深さがXj、前記ゲート絶縁膜を介して前記ゲート電極と対向するイオン注入された部分の前記チャネル長方向の長さがLaであるボディ領域とを備え、
La≦Lg−Xj
を満たすことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記チャネル長方向の断面において、前記ボディ領域は、前記ソース層の下部ではN型であり、前記チャネル領域の表面では前記ゲート電極に電圧が印加されていないときに導通しない程度のP型であることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記半導体基板の表面において前記ボディ領域は、櫛形に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項4】
櫛形の前記チャネル注入層の凸部領域においては、
La≧Lg
を満たすことを特徴とする請求項3に記載の半導体装置。
【請求項5】
N型の半導体層と、
前記半導体層の表面に形成されたP型のソース層およびP型のドレイン層と、
前記ソース層と前記ドレイン層との間のチャネル領域上にゲート絶縁膜を介して設けられたゲート電極と、
前記チャネル領域の一部分に注入されたN型不純物、および、前記ゲート電極に電圧が印加されていないときに導通しない程度に前記チャネル領域の全体に注入されたP型不純物を含むボディ領域とを備えた半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−13344(P2006−13344A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−191606(P2004−191606)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】