説明

半導体装置

【課題】絶縁層上の半導体層に形成された部分空乏型のトランジスタにおいて、高いON/OFF比と、安定動作を同時に実現できるようにした半導体装置を提供する。
【解決手段】BOX層1上のSOI層2に形成された部分空乏型の第1トランジスタ10と、第2トランジスタ20とを備え、第1トランジスタ10は、SOI層2上に絶縁膜13を介して形成されたゲート電極14と、ゲート電極14の両側下のSOI層2に形成されたN型のソース15a又はドレイン15bとを有し、第2トランジスタ20は、SOI層2上に絶縁膜23を介して形成されたゲート電極24と、ゲート電極24の両側下のSOI層2に形成されたP型のソース25a又はドレイン25bとを有し、第1トランジスタ10のボディ領域にソース25aが電気的に接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁層上の半導体層に部分空乏型のトランジスタを備えた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスを、絶縁膜上に形成した薄い半導体膜に形成する技術(SOI:Silicon On Insulator)は、次世代に向けた低パワー半導体デバイスとして開発・実用化が進められている。SOIはドレイン電流の高ON/OFF比あるいは急峻なサブスレッショルド特性、低雑音、低寄生容量といった特長を持ち、ウォッチや携帯機器等に用いられる集積回路への応用が進んでいる。現在、SOI構造を有するMISFET(Metal Insulator Semiconductor)は、様々な半導体集積回路に用いられている。特に、従来からあるバルク構造のMISFETの製造方法と同等に容易に製造できる部分空乏型(PD:Partially Depleted)のSOI構造からなるMISFET(以下、PD−SOI MISFET)は、半導体製品に広く応用されている。PD−SOI MISFETの構造については、例えば特許文献1に開示されている。
【0003】
PD−SOI MISFETでは、素子分離膜と絶縁層(BOX層ともいう。)とによって、ボディ領域が他の領域から電気的に分離されており、その電位(即ち、ボディ電位)は浮遊している。このため、基板浮遊効果と呼ばれる現象のデバイス特性への影響(例えば、ヒストリー効果)を考慮しなくてはならない。ここで、ヒストリー効果とは、ゲート、ドレイン、ソースに印加されていた電圧の履歴によって、ボディ電位及びドレイン電流が変動し、デバイス特性が不安定になってしまう現象のことである。
また、ヒストリー効果は、例えば図10に示すような既知のボディ電位固定方法により抑制することができる。
【0004】
図8(a)及び(b)は、従来例に係るPD−SOI MISFET90の構成例を示す断面図である。図8(a)及び(b)に示すように、このPD−SOI MISFET90は、BOX層91上のSOI層92の表面に形成されたゲート絶縁膜93と、ゲート絶縁膜93を介してSOI層92上に形成されたゲート電極94と、ゲート電極94の両側下のSOI層92に形成されたN型のソース95a又はドレイン95bと、ゲート電極94直下の領域のSOI層(即ち、ボディ領域)92に接続するP+層96と、を有する。
【0005】
このPD−SOI MISFET90では、その動作時には図8(b)に示すように、空乏層92aがBOX層91まで達せずに中性領域92bが残る。また、コンタクト97及びP+層96を介してボディ領域92の電位(即ち、ボディ電位)が所望の電位(例えば、接地電位)に固定されるため、基板浮遊効果が抑えられ、ヒストリー効果が抑制される。このような構造は、ボディコンタクトと呼ばれ、又はボディタイとも呼ばれており、例えば特許文献2に開示されている。
なお、図8(a)では、作図の都合から図8(b)に示した層間絶縁膜98の図示を省略している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−128254号公報
【特許文献2】特開2004―119884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、PD−SOI MISFET90において、そのボディ電位を固定した場合(即ち、ボディコンタクトの場合)は、デバイス特性は安定するが、その一方で、ボディ領域に寄生容量が生じるため、ON(オン)電流が低下し、ドレイン電流のON/OFF(オフ)比が低下したり、サブスレッショルドスイング値(S値)が増加したりしてしまうという課題があった。つまり、PD−SOI MOSFET90の駆動電流が低下し、その電流駆動能力はバルクシリコンと同程度となってしまうという課題があった。このため、図8(a)及び(b)に示した構造では、SOIの長所を十分に活かすことができない可能性があった。
そこで、本発明のいくつかの態様は、このような事情に鑑みてなされたものであって、絶縁層上の半導体層に形成された部分空乏型のトランジスタにおいて、高いON/OFF比と、安定動作を同時に実現できるようにした半導体装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る半導体装置は、絶縁層と、前記絶縁層上に形成された半導体層と、前記半導体層に形成された部分空乏型の第1トランジスタと、前記半導体層に形成された第2トランジスタと、を備え、前記第1トランジスタは、前記半導体層上に絶縁膜を介して形成された第1ゲート電極と、前記第1ゲート電極の両側下の前記半導体層に形成された第1導電型の第1ソース又は第1ドレインと、を有し、前記第2トランジスタは、前記半導体層上に絶縁膜を介して形成された第2ゲート電極と、前記第2ゲート電極の両側下の前記半導体層に形成された第2導電型の第2ソース又は第2ドレインと、を有し、前記第2ソース又は前記第2ドレインの一方が、前記第1ゲート電極直下の領域の前記半導体層に電気的に接続されていることを特徴とするものである。
【0009】
ここで、「絶縁層」は例えばBOX層、「半導体層」は例えばSOI層とも呼ばれる。また、「部分空乏型のトランジスタ」とは、トランジスタの動作時に、ゲート電極直下の領域の半導体層(即ち、ボディ領域)が完全に空乏化するのではなく、部分的に空乏化する(つまり、空乏層が絶縁層まで達せずに中性領域が残る)トランジスタのことである。なお、ゲート電極と半導体層との間にある絶縁膜は、半導体層の熱酸化により形成されるゲート酸化膜であっても良いし、その他の絶縁膜(例えば、high−k膜)であっても良い。
【0010】
このような構成であれば、第1トランジスタがONのときは第2トランジスタがOFFとなり、第1トランジスタがOFFのときは第2トランジスタがONとなるようにすることができ、第1トランジスタのON、OFFに合わせて、ボディフロート構造とボディコンタクト構造とを切り替えることができる。つまり、第1トランジスタがONのときは、第1トランジスタをボディフロート構造にする(即ち、ボディ電位を浮遊させる)ことができる。また、第1トランジスタがOFFのときは、第1トランジスタをボディコンタクト構造にする(即ち、ボディ電位を固定する)ことができる。
この場合、第1トランジスタのON電流はボディフロートの効果により高くなり、OFF電流はボディコンタクトの効果により低くなる。また、第1トランジスタのOFF時は、ボディコンタクトの効果により第1トランジスタのボディ電位はリセットされるため、第1トランジスタにおけるヒストリー効果は抑制される。従って、第1トランジスタにおいて、高いON/OFF比と、安定動作を同時に実現することができる。
【0011】
また、上記の半導体装置において、前記第1ゲート電極と前記第2ゲート電極とが電気的に接続されていることを特徴としても良い。このような構成であれば、第1ゲート電極と第2ゲート電極とを常に同じ電位とすることができ、第1トランジスタのON/OFFの切り替えと、第2トランジスタのOFF/ONの切り替えとを同期させることができる。第1ゲート電極と第2ゲート電極とが電気的に分離されている場合と比べて、第1ゲート電極及び第2ゲート電極に接続する信号線を共通化できるので、信号線の本数や端子の数を削減することができる。
また、上記の半導体装置において、前記第1ゲート電極と前記第2ゲート電極とが電気的に分離されていることを特徴としても良い。このような構成であれば、第1トランジスタのON/OFFの切り替え、及び、第2トランジスタのOFF/ONの切り替えについて、同期又は非同期を選択することができる。第1ゲート電極と第2ゲート電極とが電気的に接続されている場合と比べて、設計の自由度を高いものとすることができる。
【0012】
また、上記の半導体装置において、前記半導体層に形成された部分空乏型の第3トランジスタと、前記半導体層に形成された第4トランジスタと、をさらに備え、前記第3トランジスタは、前記半導体層上に絶縁膜を介して形成された第3ゲート電極と、前記第3ゲート電極の両側下の前記半導体層に形成された第2導電型の第3ソース又は第3ドレインと、を有し、前記第4トランジスタは、前記半導体層上に絶縁膜を介して形成された第4ゲート電極と、前記第4ゲート電極の両側下の前記半導体層に形成された第1導電型の第4ソース又は第4ドレインと、を有し、前記第4ソース又は第4ドレインの一方が、前記第2ゲート電極直下の領域の前記半導体層に電気的に接続され、前記第1トランジスタと前記第3トランジスタとによってインバーター回路が構成されていることを特徴としても良い。
【0013】
このような構成であれば、第3トランジスタがONのときは、そのボディ領域をボディフロート構造にすることができ、第3トランジスタがOFFのときは、そのボディ領域をボディコンタクト構造にすることができる。従って、第1トランジスタと同様、第3トランジスタにおいても、ON電流は高くなりOFF電流は低くなり、ヒストリー効果も抑制される。従って、高いON/OFF比と、安定動作を同時に実現したインバーター回路を提供することができる。
【0014】
また、上記の半導体装置において、前記第3ゲート電極と前記第4ゲート電極とが電気的に接続されていることを特徴としても良い。このような構成であれば、第3ゲート電極と第4ゲート電極とを同じ電位に固定することができ、第3トランジスタのON/OFFの切り替えと、第4トランジスタのOFF/ONの切り替えとを同期させることができる。第3ゲート電極と第4ゲート電極とが電気的に分離されている場合と比べて、信号線の本数や端子の数を削減することができる。
また、上記の半導体装置において、前記第3ゲート電極と前記第4ゲート電極とが電気的に分離されていることを特徴としても良い。このような構成であれば、第3トランジスタのON/OFFの切り替え、及び、第4トランジスタのOFF/ONの切り替えについて、同期又は非同期を選択することができる。第3ゲート電極と第4ゲート電極とが電気的に接続されている場合と比べて、設計の自由度を高いものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態に係る半導体装置の構成例を示す図。
【図2】トランジスタ10、20の伝達特性を示す図。
【図3】本発明の第2実施形態に係る半導体装置の構成例を示す図。
【図4】トランジスタ30、40の伝達特性を示す図。
【図5】本発明の第3実施形態に係る半導体装置の構成例を示す図。
【図6】本発明の第4実施形態に係る半導体装置の構成例を示す図。
【図7】本発明の第5実施形態に係る半導体装置の構成例を示す図。
【図8】従来例を示す図。
【図9】インパクトイオン化現象によるVthの変化を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する各図において、同一の構成を有する部分には同一の符号を付し、その重複する説明は省略する。
(1)第1実施形態
図1(a)及び(b)は、本発明の第1実施形態に係る半導体装置の構成例を示す平面図と断面図である。図1(a)及び(b)に示すように、この半導体装置は、BOX層1上のSOI層2に形成されたNチャネル型の第1トランジスタ10と、Pチャネル型の第2トランジスタ20とを含んで構成されている。BOX層1は例えばシリコン酸化膜(SiO2)であり、SOI層2は例えば単結晶のシリコン層(Si)である。
【0017】
第1トランジスタ10は、例えば、絶縁膜13を介してSOI層2上に形成されたゲート電極14と、このゲート電極14の両側下のSOI層2に形成されたN型のソース15a又はドレイン15bと、を有する。この第1トランジスタ10は、部分空乏型のMISFET(即ち、PD−SOI MISFET)であり、その動作時には図1(b)に示すように、ゲート電極14直下の領域のSOI層(即ち、ボディ領域)2において、空乏層2aがBOX層1まで達せずに中性領域2bが残る。また、第2トランジスタ20も、例えばPD−SOI MISFETであり、絶縁膜23を介してSOI層2上に形成されたゲート電極24と、このゲート電極24の両側下のSOI層2に形成されたP型のソース25a又はドレイン25bと、を有する。絶縁膜13、23は、例えば、SOI層2の熱酸化により形成されるゲート酸化膜(SiO2若しくはSiON)、又はhigh−k膜である。また、ゲート電極14、24は、例えばリン、ボロン等の不純物を含むポリシリコンからなる。
【0018】
図1(b)に示すように、この半導体装置では、ソース25a又はドレイン25bの一方が、第1トランジスタ10のボディ領域2と直に接するように配置されている。これにより、ソース25a又はドレイン25bの一方を第1トランジスタ10のボディ領域2に電気的に接続することができる。また、ソース25a又はドレイン25bの他方を、コンタクト27を介して固定電位に接続することが可能となっている。ここで、固定電位とは、例えば接地電位、電源VSS又はVDDなどである。また、この半導体装置では、図1(a)に示すように、ゲート電極14、24が互いに電気的に接続されている。なお、図1(a)では、図面の複雑化を回避するために層間絶縁膜5の図示を省略している。
【0019】
図2は、第1トランジスタ10及び第2トランジスタ20の伝達特性(即ち、Vg−Id特性)を模式的に示す図である。図2において、横軸はゲート電圧Vgを示し、縦軸はドレイン電流Idを示す。図2に示すように、Nチャネル型の第1トランジスタ10では、ドレイン電圧Vdが一定の条件下で、ゲート電圧VgをVSSからVDDの方向へ増加させると、ドレイン電流Idもこれに応じて増加する。一方、Pチャネル型の第2トランジスタ20では、ドレイン電圧Vdが一定の条件下で、ゲート電圧VgをVSSからVDDの方向へ増加させると、ドレイン電流Idはこれに応じて減少する。
ここで、本発明の第1実施形態では、第1トランジスタ10がONのとき(即ち、所望の大きさ以上のドレイン電流Idが流れるとき)は第2トランジスタ20がOFFとなり、第1トランジスタ10がOFFのときは第2トランジスタ20がONとなるように、第1トランジスタ10の閾値電圧Vthと、第2トランジスタ20のVthとがそれぞれ調整されている。
【0020】
例えば、第1トランジスタ10はエンハンスメント型に設定され、第2トランジスタ20はデプリーション型に設定されている。そして、ゲート電極14、24の電位がVSS(例えば、OV)以下のときは第1トランジスタ10はOFFになり、第2トランジスタ20はONになり、且つ、ゲート電極14、24の電位がVx(VSS<Vx<VDD)のときは第1トランジスタ10はONになり、第2トランジスタ20はOFFになるように、第1トランジスタ10と第2トランジスタ20の各Vthが調整されている(なお、第1トランジスタ10は必ずしもエンハンスメント型に限定されず、また、第2トランジスタ20は必ずしもデプリーション型に限定されない。デバイスのその他の特性如何によっては、第1トランジスタ10がデプリーション型で、第2トランジスタ20がエンハンスメント型であっても良い。或いは、第1トランジスタ10と第2トランジスタ20の両方がエンハンスメント型であっても良いし、これら両方がデプリーション型であっても良い。)。
【0021】
このように、本発明の第1実施形態によれば、第1トランジスタ10がONのときは第2トランジスタ20がOFFとなり、第1トランジスタ10がOFFのときは第2トランジスタ20がONとなり、第1トランジスタ10のON、OFFに合わせて、ボディフロート構造とボディコンタクト構造とを切り替えることができる。つまり、第1トランジスタ10がONのときは、第1トランジスタ10をボディフロート構造にする(即ち、ボディ電位を浮遊させる)ことができる。また、第1トランジスタ10がOFFのときは、第1トランジスタをボディコンタクト構造にする(即ち、ボディ電位を固定する)ことができる。
【0022】
この場合、第1トランジスタ10のON電流はボディフロートの効果により高くなり、OFF電流はボディコンタクトの効果により低くなる。また、第1トランジスタ10のOFFときは、ボディコンタクトの効果により第1トランジスタ10のボディ電位はリセットされるため、第1トランジスタ10におけるヒストリー効果は抑制される。従って、第1トランジスタ10において、高いON/OFF比と、安定動作を同時に実現することができる。
【0023】
この第1実施形態では、BOX層1が本発明の「絶縁層」に対応し、SOI層2が本発明の「半導体層」に対応している。また、第1トランジスタ10が本発明の「第1トランジスタ」に対応し、ゲート電極14が本発明の「第1ゲート電極」に対応し、ソース15aが本発明の「第1ソース」に対応し、ドレイン15bが本発明の「第1ドレイン」に対応している。さらに、第2トランジスタ20が本発明の「第2トランジスタ」に対応し、ゲート電極24が本発明の「第2ゲート電極」に対応し、ソース25aが本発明の「第2ソース」に対応し、ドレイン25bが本発明の「第2ドレイン」に対応している。
【0024】
なお、本発明において、OFF電流が低くなる理由を以下に説明する。
MISFETにおいて、ドレイン電圧Vd>1.1V程度の条件下では、インパクトイオン化現象が発生する(この現象はSOI固有の現象ではない。)。ここで、インパクトイオン化現象とは、荷電粒子とSi原子との衝突により、多数の電子‐ホール対が発生する現象のことである。即ち、チャネルがONのときにチャネルを流れる荷電粒子(nは電子、pはホール)がドレイン近傍の電界によって加速されて、ある程度以上(約1.5eV以上)のエネルギーを得てSi原子に衝突すると、そのエネルギーによってSiはイオン化し、電子を放出する。また、電子放出に伴い、ホールも生成される。つまり、インパクトイオン化現象により多数の電子−ホール対ができる。
【0025】
MISFETがNチャネル型の場合、生成された電子は電位の高いドレインに流れ、ホールは電位の低いボディ領域に流れ込む(Pチャネル型の場合は電子とホールの流れが逆となる。)。Nチャネル型の場合はホールの供給によってボディ電位は上がる。Pチャネル型の場合は電子の供給によってボディ電位が下がる。いずれにしてもMISFETの閾値電圧Vthはインパクトイオンによって低下する。さらに、キャリア自体も増えるため、ON電流の増加につながる。ここで、SOIの場合はボディが浮遊しているため、その影響はバルクの場合と比べて、明らかに大きい。
【0026】
図9はPD−SOI MISFETがNチャネル型の場合のインパクトイオン化現象によるVthの変化を模式的に示す図である。チャネル電流(即ち、ON電流)が流れるとインパクトイオン化現象によりVthが下がる。従って、PD−SOI MISFETがONからOFFへと変化したときに、Vthは既に下がっているため、OFF電流が増加してしまう。これに対し、本発明では、PD−SOI MISFET(即ち、第1トランジスタ10)がOFFのときに、ボディ領域にたまったホールを排出するパス(即ち、第2トランジスタ20)があるため、OFF電流を低くすることができる。
【0027】
(2)第2実施形態
上記の第1実施形態では、本発明の「第1導電型」がN型で、「第2導電型」がP型である場合について説明した。しかしながら、本発明はこれに限られることはない。「第1導電型」がP型で、「第2導電型」がN型であっても良い。
図3(a)及び(b)は、本発明の第2実施形態に係る半導体装置の構成例を示す平面図と断面図である。図3(a)及び(b)に示すように、この半導体装置は、BOX層1上のSOI層2に形成されたPチャネル型の第1トランジスタ30と、Nチャネル型の第2トランジスタ40とを含んで構成されている。
【0028】
第1トランジスタ30は、例えば、絶縁膜33を介してSOI層2上に形成されたゲート電極34と、このゲート電極34の両側下のSOI層2に形成されたP型のソース35a又はドレイン35bと、を有する。第1トランジスタ30は、PD−SOI MISFETであり、その動作時には図3(b)に示すように、空乏層2aがBOX層1まで達せずに中性領域2bが残る。また、第2トランジスタ40も、例えば、PD−SOI MISFETであり、絶縁膜43を介してSOI層2上に形成されたゲート電極44と、このゲート電極44の両側下のSOI層2に形成されたN型のソース45a又はドレイン45bと、を有する。絶縁膜33、43は、例えば、SOI層2の熱酸化により形成されるゲート酸化膜(SiO2若しくはSiON)、又はhigh−k膜である。また、ゲート電極34、44は、例えばリン、ボロン等の不純物を含むポリシリコンからなる。
【0029】
図3(b)に示すように、この半導体装置では、ソース45a又はドレイン45bの一方は第1トランジスタ30のボディ領域2と直に接するように配置されている。これにより、ソース45a又はドレイン45bの一方を第1トランジスタ30のボディ領域2に電気的に接続することができる。また、ソース45a又はドレイン45bの他方を、コンタクト37を介して固定電位に接続することが可能となっている。また、図3(a)に示すように、ゲート電極34、44は電気的に接続されている。なお、図3(a)では、図面の複雑化を回避するために層間絶縁膜5の図示を省略している。
【0030】
図4は第1トランジスタ30及び第2トランジスタ40の伝達特性(即ち、Vg−Id特性)を模式的に示す図である。図4において、横軸はゲート電圧Vgを示し、縦軸はドレイン電流Idを示す。図4に示すように、Pチャネル型の第1トランジスタ30では、ドレイン電圧Vdが一定の条件下で、ゲート電圧VgをVSSからVDDの方向へ増加させると、ドレイン電流Idはこれに応じて減少する。一方、Nチャネル型の第2トランジスタ40では、ドレイン電圧Vdが一定の条件下で、ゲート電圧VgをVSSからVDDの方向へ増加させると、ドレイン電流Idもこれに応じて増加する。
【0031】
ここで、本発明の第2実施形態では、第1トランジスタ30がONのときは第2トランジスタ40がOFFとなり、第1トランジスタ30がOFFのときは第2トランジスタ40がONとなるように、第1トランジスタ30のVthと、第2トランジスタ40のVthとがそれぞれ調整されている。例えば、第1トランジスタ30はエンハンスメント型に設定され、第2トランジスタ40はデプリーション型に設定されている。そして、ゲート電極34、44の電位がVSS(例えば、OV)以上のときは第1トランジスタ30はOFFになり、第2トランジスタ40はONになり、且つ、ゲート電極34、44の電位がVx(VSS>Vx>VDD)のときは第1トランジスタ30はONになり、第2トランジスタ40はOFFになるように、第1トランジスタ30と第2トランジスタの各Vthは調整されている。
【0032】
このように、本発明の第2実施形態によれば、第1実施形態と同様、第1トランジスタ30がONのときは、第1トランジスタ30をボディフロート構造にすることができる。また、第1トランジスタ30がOFFのときは、第1トランジスタ30をボディコンタクト構造にすることができる。従って、第1トランジスタ30において、高いON/OFF比と、安定動作を同時に実現することができる。
この第2実施形態では、第1トランジスタ30が本発明の「第1トランジスタ」に対応し、ゲート電極34が本発明の「第1ゲート電極」に対応し、ソース35aが本発明の「第1ソース」に対応し、ドレイン35bが本発明の「第1ドレイン」に対応している。さらに、第2トランジスタ40が本発明の「第2トランジスタ」に対応し、ゲート電極44が本発明の「第2ゲート電極」に対応し、ソース45aが本発明の「第2ソース」に対応し、ドレイン45bが本発明の「第2ドレイン」に対応している。その他の対応関係は第1実施形態と同じである。
【0033】
(3)第3実施形態
上記の第1、第2実施形態では、第1トランジスタのゲート電極と第2トランジスタのゲート電極とが電気的に接続されている場合について説明した。これにより、ゲート電極同士を常に同電位とすることができ、第1トランジスタのON/OFFの切り替えと、第2トランジスタのOFF/ONの切り替えとを同期させることができる。しかしながら、本発明はこれに限られることはない。
図5(a)及び(b)は、本発明の第3実施形態に係る半導体装置の構成例を示す平面図である。本発明では、図5(a)に示すように、第1トランジスタ10のゲート電極14と第2トランジスタ20のゲート電極24とが電気的に分離していても良い。また、図5(b)に示すように、第1トランジスタ30のゲート電極34と、第2トランジスタ40のゲート電極44とが電気的に分離していても良い。
【0034】
このような構成であれば、第1、第2実施形態と比べて、ゲート電極に接続する信号線が別々となるので、信号線の本数や端子の数が増えてしまう。しかしながら、第1トランジスタのON/OFFの切り替え、及び、第2トランジスタのOFF/ONの切り替えについて、同期又は非同期を選択することができるようになる。
例えば、図5(a)において、ゲート電極14とゲート電極24とに同じタイミングで電圧を印加して、第1トランジスタ10のON/OFFの切り替えと、第2トランジスタ20のOFF/ONの切り替えを同時に行うことができる。また、ゲート電極14とゲート電極24とに異なるタイミングで電圧を印加して、第1トランジスタ10のON/OFFの切り替えと、第2トランジスタ20のOFF/ONの切り替えをそれぞれ独立して行うこともできる。このため、第1、第2実施形態と比べて、半導体装置の設計の自由度を高めることができる。この第3実施形態における本発明との対応関係は、第1、第2実施形態と同じである。
【0035】
(4)第4実施形態
図6は、本発明の第4実施形態に係る半導体装置の構成例を示す平面図である。図6に示すように、この半導体装置は、例えば、第1実施形態で説明した第1トランジスタ10及び第2トランジスタ20と、第2実施形態で説明した第1トランジスタ(以下、説明の便宜上から第3トランジスタという。)30及び第2トランジスタ(以下、同理由から第4トランジスタという。)40と、を有し、これら各トランジスタの組み合わせにより、CMOSインバーター回路50を構成している。
【0036】
即ち、このCMOSインバーター回路50は、第1トランジスタ10と、第2トランジスタ20と、第3トランジスタ30及び第4トランジスタ40、を含む。第1トランジスタ10のソース15aと電源線VSSとが電気的に接続され、第1トランジスタ10のドレイン15bと第3トランジスタ30のドレイン35bとが電気的に接続され、第3トランジスタ30のソース35aが電源線VDDに接続されている。また、第2トランジスタ20のドレイン25bがVSSに電気的に接続され、第2トランジスタ20のソース25aが第1トランジスタ10のボディ領域に接続されている。さらに、第4トランジスタ40のソース45aがVDDに接続され、第4トランジスタ40のドレイン45bが第3トランジスタ30のボディ領域に接続されている。
【0037】
また、第1トランジスタ10のゲート電極14と、第3トランジスタ30のゲート電極34とが共に入力信号線Aに電気的に接続されている。さらに、第1トランジスタ10のドレイン15bと、第3トランジスタ30のドレイン35bとが共に出力信号線Bに電気的に接続されている。
例えば、入力信号線Aの電位がVDD(>VSS)のときは、第1トランジスタ10がONになり、第3トランジスタ30がOFFになる。このため、出力信号線Bの電位はVSSとほぼ等しくなる。ここで、第2トランジスタ20はOFFとなるため、第1トランジスタ10はボディフロート構造となる。従って、第1トランジスタ10のON電流を(ボディコンタクト構造と比べて)高くすることができる。一方、第4トランジスタ40はONとなるため、第3トランジスタ30はボディコンタクト構造となる。従って、第3トランジスタ30のOFF電流を(ボディフロート構造と比べて)低くすることができる。さらに、ボディコンタクト構造により、第3トランジスタ30のボディ電位はリセットされるため、第3トランジスタ30のボディ電位はリセットされ、第3トランジスタ30におけるヒストリー効果は抑制される。
【0038】
また、入力信号線Aの電位が−VDD(<VSS)のときは、第1トランジスタ10がOFFになり、第3トランジスタ30がONになる。このため、出力信号線Bの電位はVDDとほぼ等しくなる。ここで、第2トランジスタ20はONとなるため、第1トランジスタ10はボディコンタクト構造となる。従って、第1トランジスタ10のOFF電流を(ボディフロート構造と比べて)低くすることができる。さらに、ボディコンタクト構造により、第1トランジスタ10のボディ電位はリセットされるため、第1トランジスタ10におけるヒストリー効果は抑制される。一方、第4トランジスタ40はOFFとなるため、第3トランジスタ30はボディフロート構造となる。従って、第3トランジスタ30のON電流を(ボディコンタクト構造と比べて)高くすることができる。
【0039】
このように、本発明の第3実施形態によれば、第1、第2実施形態で説明した各トランジスタ10、20、30、40が応用されるため、高いON/OFF比と、安定動作を同時に実現したCMOSインバーター回路50を提供することができる。
この第4実施形態では、第3トランジスタ30が本発明の「第3トランジスタ」に対応し、ゲート電極34が本発明の「第3ゲート電極」に対応し、ソース35aが本発明の「第3ソース」に対応し、ドレイン35bが本発明の「第3ドレイン」に対応している。さらに、第4トランジスタ40が本発明の「第4トランジスタ」に対応し、ゲート電極44が本発明の「第4ゲート電極」に対応し、ソース45aが本発明の「第4ソース」に対応し、ドレイン45bが本発明の「第4ドレイン」に対応している。また、CMOSインバーター回路50が本発明の「インバーター回路」に対応している。その他の対応関係は第1実施形態と同じである。
【0040】
(5)第5実施形態
上記の第4実施形態では、図6に示したように、各ゲート電極14、24、34、44の全てが入力信号線Aに電気的に接続されている場合について説明した。しかしながら、本発明に係るCMOSインバーター回路はこれに限られることはない。
図7は、本発明の第5実施形態に係る半導体装置の構成例を示す平面図である。図7に示すように、本発明に係るCMOSインバーター回路では、ゲート電極14、24が電気的に分離していても良く、また、ゲート電極34、44が電気的に分離していても良い。その場合は、例えば、ゲート電極24に信号線Cが電気的に接続され、ゲート電極44に信号線Dが接続されている。
【0041】
このような構成であれば、第4実施形態と比べて、信号線の本数や端子数は増えてしまう。しかしながら、第3実施形態でも説明したように、第1トランジスタ10のON/OFFの切り替え、及び、第2トランジスタ20のOFF/ONの切り替えについて、同期又は非同期を選択することができるようになる。また、第3トランジスタ30のON/OFFと、第4トランジスタ40のOFF/ONの切り替えについても、同期又は非同期を選択することができる。このため、第4実施形態と比べて、設計の自由度を高めたCMOSインバーター回路50´を提供することができる。この第5実施形態では、CMOSインバーター回路50´が本発明の「インバーター回路」に対応している。その他の対応関係は第4実施形態と同じである。
【符号の説明】
【0042】
1 BOX層、2 SOI層(ボディ領域)、2a 空乏層、2b 中性領域、5 層間絶縁膜、10、20、30、40 トランジスタ(PD−SOI MOSFET)、13、23、33、43 絶縁膜、14、24、34、44 ゲート電極、15a、25a、35a、45a ソース、15b、25b、35b、45b ドレイン、27、37 コンタクト、50、50´ CMOSインバーター回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁層と、
前記絶縁層上に形成された半導体層と、
前記半導体層に形成された部分空乏型の第1トランジスタと、
前記半導体層に形成された第2トランジスタと、を備え、
前記第1トランジスタは、
前記半導体層上に絶縁膜を介して形成された第1ゲート電極と、
前記第1ゲート電極の両側下の前記半導体層に形成された第1導電型の第1ソース又は第1ドレインと、を有し、
前記第2トランジスタは、
前記半導体層上に絶縁膜を介して形成された第2ゲート電極と、
前記第2ゲート電極の両側下の前記半導体層に形成された第2導電型の第2ソース又は第2ドレインと、を有し、
前記第2ソース又は前記第2ドレインの一方が、前記第1ゲート電極直下の領域の前記半導体層に電気的に接続されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記第1ゲート電極と前記第2ゲート電極とが電気的に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記第1ゲート電極と前記第2ゲート電極とが電気的に分離されていることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記半導体層に形成された部分空乏型の第3トランジスタと、
前記半導体層に形成された第4トランジスタと、をさらに備え、
前記第3トランジスタは、
前記半導体層上に絶縁膜を介して形成された第3ゲート電極と、
前記第3ゲート電極の両側下の前記半導体層に形成された第2導電型の第3ソース又は第3ドレインと、を有し、
前記第4トランジスタは、
前記半導体層上に絶縁膜を介して形成された第4ゲート電極と、
前記第4ゲート電極の両側下の前記半導体層に形成された第1導電型の第4ソース又は第4ドレインと、を有し、
前記第4ソース又は第4ドレインの一方が、前記第2ゲート電極直下の領域の前記半導体層に電気的に接続され、
前記第1トランジスタと前記第3トランジスタとによってインバーター回路が構成されていることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記第3ゲート電極と前記第4ゲート電極とが電気的に接続されていることを特徴とする請求項4に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記第3ゲート電極と前記第4ゲート電極とが電気的に分離されていることを特徴とする請求項4に記載の半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−245081(P2010−245081A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−88658(P2009−88658)
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】