説明

取着体装置及び取着体

【課題】固定体が造営材に固定されている状態でも簡単にナットを造営材の貫通孔に挿入してボルトを締付けることにより取着体を取着できる取着体装置及び取着体を提供する。
【解決手段】形鋼に固定される固定体11と、固定体11に取着される取着体21とで構成し、固定体11には、正八角形からなる貫通孔18を設け、取着体21は、ボルト23を備えた取着本体22と、貫通孔18の裏側に配設されるナット24とを備えた。そして、ナット24は、貫通孔18に傾斜した状態で挿入して貫通孔18の裏側の周縁に架け渡されるよう配置できるものとし、ナット24の長辺部の螺着部からの他側の延出長を、ナット24が貫通孔18の裏側に配置された状態でボルト23を螺回動した際に、長辺部の他側が当接部である固定体11のフランジ15の内壁面に当接してボルト23との共回りを規制し得る長さに形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形鋼等の造営材に固定体を固定し、その固定体に配線・配管材保持具や吊ボルト等の取着体を取付ける取着体装置及び取着体に関するものであり、特に、ボルト及びナットの組み合わせによって固定体に取着体を取着する取着体装置及び取着体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、建築構造物のH形鋼、L形鋼等の造営材に、ケーブル等の配線や電線管、給水管等の配管を支持する支持具等の取着体を取付けることが行なわれており、その取着体装置として、特開2008−291955公報に掲載のものなどが開示されている。前記公報に掲載の取着体装置は、造営材に固定される固定体と、2分割体からなり、配線・配管材を両側から挟んで支持する支持具とで構成され、支持具の各分割体の一端部に設けられてなる一対の係止爪を固定体の係止孔に挿入した後、互いに反対方向に拡開させて固定体の係止孔に係止させることにより、支持具を固定体に固定している。
【0003】
ところで、この種の支持具等の取着体においては、係止爪を固定体の貫通孔に係止させて固定する手段以外にも、図13に示す取着体装置61のように、ボルト62とナット63とを使用して固定体64の貫通孔65の周縁を挟持させることにより固定体64に固定することもできる。図13における取着体装置61は、固定ボルト19を介して造営材である形鋼51に固定される固定体64と、固定体64に取着される取着体66とで構成されており、固定体64には貫通孔65が設けられている。取着体66の本体は細長の帯板を円形に曲げ加工して略円環帯板状に形成されており、帯板の両端部間に形成されている挿入開口66aを弾性的に拡開しながらケーブルや波付電線管52等の配線・配管材を内部に挿入した後、帯板の端部に設けられた長孔28及び螺子孔29に螺子30を取付け締付けることにより波付電線管52等の配線・配管材を内部に保持させることができる。また、固定体64の貫通孔65の裏側即ち固定体64の内部側にナット63を配置し、頭部が取着体66の本体の中間位置の凹部に収容されたボルト62の軸部を固定体64の貫通孔65に挿通してナット63に螺着し、取着体66の本体の挿入開口66aからドライバ等の工具を挿入してボルト62を締付けることにより、ボルト62とナット63とで貫通孔65の周縁を挟持させて、取着体66を固定体64に固定することができる。
【0004】
これにより、固定体64及び取着体66を介して、波付電線管52を形鋼51に沿って支持させることができる。この種のボルトとナットとで固定体64を挟持してこれに取着体を固定する取着体装置は、各種の形態、種類の取着体を固定体64に取付けることができる。例えば、他の取着体としての吊ボルトを直接固定体64に取着することもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−291955公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、形鋼51に配線・配管材を支持させるための前記取着体66は、ボルト62及びナット63を使用して固定体64に取着するときに、先に固定体64を形鋼51に固定すると、形鋼51と固定体64との隙間が狭いために、その後に取着体66を固定体64に取着するためのナット63を形鋼51と固定体64との隙間から挿入して固定体64の貫通孔65の裏側に配置するのは困難である。このため、固定体64を形鋼51に固定する前にナット63を所定位置に配置するのを忘れた場合は、一旦固定した固定体64を形鋼51から取り外して再度固定し直す必要があり、余分な手間を生じていた。これは、吊ボルトを直接固定体64に固定するものにおいても同様である。
【0007】
また、既に取着体装置61を使用して配線・配管材を形鋼51に支持させている場合において、新たに固定体64におけるもう一方の空いている貫通孔65、即ち側面部67に設けられている貫通孔65を利用して追加の配線・配管材を支持する別の支持具や配線ボックス等の取着体66をこの固定体64に取着したい場合には、既に固定体64の内部に形鋼51が設けられているため、この形鋼51が妨げとなって挿入スペースがないことから、新たに増設する別の取着体66のナット63を固定体64のもう一方の貫通孔65に挿入し、その裏側に配置することはできなかった。その結果、同様に、一旦既に取着されている取着体66を固定体64から取り外すとともに固定体64を形鋼51から取り外し、再度取着体66を取着し直す必要があり、多大な手間を生じていた。
【0008】
そこで、本発明は、ボルト及びナットを用いて取着体を固定体に取着するものにおいて、固定体が造営材に固定されている状態でも簡単にナットを挿入して取着体を取着することのできる取着体装置及び取着体の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の取着体装置は、造営材に固定される固定体と、該固定体に取着される取着体とからなるものであって、前記固定体には、正円形または正多角形からなる貫通孔が設けられ、前記取着体は、前記貫通孔を表側から貫通するボルトを備えた取着本体と、前記ボルトが螺着され、前記取着本体とで前記固定体の貫通孔の周縁を挟持することにより該貫通孔の裏側に配設されるナットとを備えている。そして、前記ナットは、前記貫通孔に架け渡される長さを有する長辺部を備え、該長辺部の中心から一側に離間した位置に前記ボルトが螺着される螺着部が設けられ、該ボルトの端部に螺着され表側から前記貫通孔に対して傾斜した状態で前記長辺部の他側から該貫通孔に挿入され前記長辺部の一側が該貫通孔を通過して前記貫通孔の裏側の周縁に架け渡されるように配置可能となっている。更に、前記ナットにおける長辺部の螺着部からの他側の延出長は、前記ナットが前記貫通孔の裏側に配置された状態で前記ボルトが螺回動された際に、前記長辺部の他側が前記貫通孔の裏側の近傍に突出形成された当接部に当接して前記ボルトとの共回りが規制される長さに形成されている。
【0010】
即ち、取着体装置を固定体とで構成している取着体は、ボルトを備えた取着本体とナットとを備えてなる。そのナットは、ボルトの端部に螺着され、取着本体と一体となった状態で表側から傾斜した状態で固定体の貫通孔に挿入され、貫通孔の裏側に配置される。次いで、ナットは、ボルトを螺回動させて取着本体とで固定体の貫通孔の周縁を挟持することにより、貫通孔の裏側に配設される。なお、表側とは固定体の外部側を意味し、裏側とは固定体の内部側即ち造営材が挿入される側を意味する。また、ナットにおいて長辺部の一側とは、螺着部からの延出長が短い側であり、他側とは螺着部からの延出長が長い側である。
【0011】
ここで、ナットは、一般には細長矩形状に形成され、長辺部は貫通孔に架け渡される長さを有し、貫通孔の径より長いため、螺着部を中心として貫通孔に対し傾斜させた状態にすれば、貫通孔内に挿入することが可能である。
【0012】
また、ナットは、単にボルトを螺回動させるだけでは、ボルトと共回りし空回りするだけであるから、取着本体とによる固定体の貫通孔の挟持はできないのであるが、貫通孔の近傍に当接部が形成されているから、ボルトの螺回動時に長辺部がこの当接部と当接し、ボルトと共回りするのが防止され、貫通孔の挟持が可能となる。
【0013】
以上の構成により、ナットを表側から固定体の貫通孔に挿入し貫通させて、表側からボルトを螺回動することにより締付けて貫通孔の裏側にナットを配設することができ、ナットと取着本体とで固定体の貫通孔の周縁を挟持して取着体を固定体に取着することができる。
【0014】
請求項2の取着体装置は、基本的には請求項1の取着体装置と同様の構成となっている。請求項1の取着体装置と異なる点は、請求項1では、固定体に取着される取着体は、ボルトを備えた取着本体とナットとを備えてなり、そのボルトは取着本体を造営材に取着するための締付具であるのに対し、請求項2では、取着体は、ボルトとナットとを備えてなり、そのボルトはハンガーボルトや吊ボルトなど、締付機能を有する他、自身が造営材に取着される対象物でもある。また、請求項1では、ナットは、ボルトをナットに螺着し締付けて取着本体とで固定体の貫通孔の周縁を挟持することにより貫通孔の裏側に固定されるのに対し、請求項2では、ナットは、ボルトをナットに螺着し締付けてボルトの先端を造営材に圧接することによる反対方向への突張り作用により貫通孔の周縁に圧接されて貫通孔の裏側に固定される。
【0015】
これにより、請求項2の取着体装置は、請求項1の取着体装置と同様に、ナットを表側から固定体の貫通孔に挿入し、表側からボルトを締付けて貫通孔の裏側にナットを配設して、ボルト自体を固定体に取着することができる。
【0016】
請求項3の取着体装置は、特に、ナットに、ボルトの螺回動時に固定体の貫通孔の内周面または周縁角部に当接して該ボルトが螺着される螺着部を該貫通孔の中央へと案内する案内部が設けられている。案内部は、貫通孔内に嵌入する膨出部を形成するなどして設けることができる。
【0017】
請求項4の取着体装置は、案内部が、ナットの長辺部が当接部に当接するまでのボルトの螺回動時に固定体の貫通孔の内周面と係合してナットの回動が妨げられることのないよう貫通孔の内接円の範囲を超えない大きさに形成されている。この場合の貫通孔は正多角形に形成されたものが対象となる。貫通孔が正円形である場合は、ボルトの螺回動時に案内部が貫通孔と係合することはなく、ナットの回動が妨げられることはないからである。
【0018】
請求項5の取着体装置は、取着本体に備えられたボルトは、該取着本体とは別体に設けられ、該取着本体とは独立して螺回動可能に設けられている。
【0019】
請求項6の取着体装置は、取着本体に、ボルトが貫通するボルト孔が設けられ、ボルト孔の周縁部に、前記ボルトの頭部に側方から圧接する圧接部が設けられている。そして、前記圧接部は、前記取着本体を回動操作することにより前記ボルトを共回りさせて前記固定体の貫通孔の裏側に配置されたナットに螺回動可能な圧接力を有するとともに、工具による強制的な前記ボルトの螺回動操作においては前記取着本体とは独立して該ボルトが螺回動するのを許容する圧接力を有する。即ち、取着本体のボルト孔の周縁部に設けられた圧接部は、取着本体を手で把持して回動することによりボルトも共回りさせてナットに螺着し締付けることができるようになっている。加えて、その一方で、手操作による取着本体の回動が終了した後、ドライバ等の工具を使用し、取着本体から独立してボルトのみを圧接部の摩擦力、摺接抵抗に抗して強制的に螺回動させて増し締めできるようになっている。
【0020】
請求項7の取着体は、請求項6の発明を構成している取着体である。
【発明の効果】
【0021】
請求項1の発明は、取着体のボルトに螺着したナットを表側から固定体の貫通孔に挿入し貫通させて貫通孔の裏側に配置し、ボルトを表側から螺回動させてナットを貫通孔の裏側に固定できるから、ボルト及びナットを用いて取着体を固定体に取着するものにおいて、固定体が造営材に固定されていても取着体をそのまま表側から固定体に取着することができる。このため、固定体を造営材に固定する前にナットを貫通孔の裏側に配置するのを忘れた場合や、既に固定体を造営材に固定し、取着体を取着した後において、新たに固定体の別の貫通孔を利用して別の取着体を取着させたい場合においても、一旦固定した固定体を造営材から取り外したりすることなく、そのまま固定体の貫通孔の表側から簡単に取着することができ、作業性が向上する。
【0022】
また、固定体の貫通孔が、ナットの全長より大きくてナットを貫通孔の開口面と平行する状態でそのまま正面から挿入可能な大径のものでなくても、請求項1のナットは、傾斜させることにより表側から貫通孔に挿入して裏側に配置し固定できる。したがって、貫通孔は比較的小径のもので足り、大径の貫通孔を設けることによる固定体の強度、剛性の低下を防止することができる。
【0023】
更に、取着体のボルトに螺着したナットを表側から固定体の貫通孔に挿入し裏側に配置するだけで、ナットの長辺部を貫通孔に架け渡して取着体を仮保持でき、取付作業中、取着体を手などで保持し続ける必要はない。
【0024】
請求項2の発明は、請求項1と同様に、ナットを表側から固定体の貫通孔に挿入し、ボルトを締付けて貫通孔の裏側にナットを配設できるから、ボルト及びナットを用いて取着体を固定体に取着するものにおいて、固定体が造営材に固定されている状態でも簡単にボルト自体を固定体に取着することができ、請求項1と同様の効果を奏する。
【0025】
請求項3の発明は、ナットに、ボルトの螺回動時に螺着部を固定体の貫通孔の中央へと案内する案内部が設けられているから、螺着部の位置合わせ、位置決めを簡単に行なうことができる。そして、それにより、ナットの長辺部の一側及び他側それぞれにおいて貫通孔の周縁への引掛かり代を十分に確保することができ、ナットを確実に貫通孔に架け渡すことができる。
【0026】
請求項4の発明は、案内部が、貫通孔の内接円の範囲を超えない大きさに形成されているから、ボルトの螺回動開始当初に、ナットの長辺部が貫通孔の裏側の近傍に突出形成された当接部に当接するまでの間、ナットは、案内部が貫通孔の内周面と係合して回動するのが妨げられることがなく、それにより、ボルトと共回りさせることができる。これについて付説すれば、ナットをボルトの端部に取付けた後ボルトを螺回動させてナットを貫通孔の裏側に固定するには、ナットの長辺部を貫通孔の裏側の当接部に当接させてナットがボルトと共回りするのを防止する必要がある。そのため、ボルトの螺回動開始当初において、ナットの長辺部が貫通孔の裏側の当接部に当接するまでの間は、逆に、ナットとボルトとを共回りさせて、ナットの長辺部が貫通孔の裏側の当接部に確実に当接させるようにしたのであり、当接以降はナットが回動しないようにしている。
【0027】
請求項5の発明は、取着本体に備えられたボルトが、該取着本体とは別体に設けられ、該取着本体とは独立して螺回動可能となっているから、取着本体を固定体に取着した後、取着本体の向きを調整したときに、取着本体の締付強度を確保できる。即ち、取着本体を固定体に取着した後に、手で取着本体の締付けを僅かに緩めて取着本体の向きの角度調整を行なったときには、締付けを緩めて戻した分取着強度は低下するが、角度を調整した後、ボルトを取着本体と独立して螺回動することにより増し締めして取着本体の締付強度を確保することができる。
【0028】
請求項6の発明は、取着本体のボルト孔の周縁部に設けられた圧接部が、取着本体の回動操作によってボルトを共回りさせてナットに螺回動可能な圧接力を有するから、工具を使用することなく手で取着本体を把持して取着本体を回動させることによりボルトを共回りさせてナットに螺着することができ、取着体を作業性良く楽に固定体に固定することができる。その一方、圧接部は、工具による強制的な螺回動操作により取着本体とは独立してボルトを螺回動するのを許容する圧接力を有するから、請求項5と同様に、取着本体を固定体に取着した後、取着本体を手で緩めて取着体の向きの角度調整を行なったときには、工具を使用してボルトのみを強制的に螺回動させて増し締めし、取着本体の締付強度を確保することができる。
【0029】
請求項7の発明は、請求項6に記載された取着体であり、請求項6と同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1実施形態の取着体装置を示す斜視図である。
【図2】図1の取着体装置の正面図である。
【図3】図1の固定体を示し、(a)は正面図、(b)は右側面図、(c)は底面図、(d)は左側面図である。
【図4】図1の取着体を示し、(a)は平面図、(b)は斜視図、(c)は正面図、(d)は右側面図である。
【図5】図4の取着体のナットを示し、(a)は平面図、(b)は斜視図、(c)は正面図、(d)は右側面図、(e)は底面図である。
【図6】図5のナットの案内部と固定体の貫通孔の内周面との係合状態を説明する説明図である。
【図7】取着体を形鋼に取着する方法を説明する図である。
【図8】形鋼への取着体の取着完了状態を示す縦断面図である。
【図9】波付電線管を形鋼に沿って布設した布設状態の一例を示す平面図である。
【図10】第2実施形態の取着体装置の縦断面図である。
【図11】第3実施形態の取着体装置を示し、(a)は縦断面図、(b)は要部拡大断面図である。
【図12】吊ボルトの他の取着形態を示す縦断面図である。
【図13】従来の取着体装置を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
〈第1実施形態〉
まず、本発明の第1実施形態の取着体装置を図1乃至図9に基づいて説明する。
図1及び図2において、取着体装置1は、造営材であるH形鋼、L形鋼等の形鋼51に沿って波付電線管52を布設すべく、形鋼51に取着されるものであり、形鋼51に固定される固定体11と、固定体11に取着される取着体21とからなる。固定体11には、正多角形、本実施形態においては正八角形からなる貫通孔18が2箇所に設けられている。取着体21は、貫通孔18を表側から貫通するボルト23を備えた取着本体22と、ボルト23が螺着され、取着本体22とで固定体11の貫通孔18の周縁18aを挟持することにより貫通孔18の裏側に配設されるナット24とを備えている。取着本体22は、内部に波付電線管52を収容して支持する支持具として機能する。
【0032】
より詳細には、まず、固定体11は、図3に示すように、鋼板等の金属板材を折曲げ加工して全体が略コ字板状に形成されており、平板をコ字板状に折曲形成してなる板状部の幅方向の両端部にこれと直交して固定体11の内部側に曲げられて突出するフランジ15が全長に至って一体に設けられている。また、板状部とフランジ15との境界部分にはリブ16が全長に至って設けられ、全体の剛性を大きくしている。固定体11において上下方向で対向する一方の上面部12のほぼ中央には固定ボルト19が螺着される螺子孔17が開穿されている。そして、対向する他方の下面部14、及び対向する上面部12と下面部14とを連結する側面部13の各中央には正八角形状に形成された貫通孔18が開穿されている。更に、下面部14の両端部に立設されたフランジ15の先端部は鋸歯状に形成されている。固定体11は、対向する一方の上面部12の螺子孔17に螺着された固定ボルト19と、下面部14のフランジ15の先端部に形成された鋸歯状の端面とで形鋼51のフランジ51aを把持することによって形鋼51に固定される。
【0033】
次に、取着体21は、前述のように、ボルト23を備えた取着本体22と、ボルト23が螺着されたナット24とを備えてなり、取着本体22とナット24との間には平座金25が介挿されている。ボルト23は、取着本体22とは別体に設けられ、取着本体22とは独立して螺回動可能に設けられている。取着本体22は、図4に示すように、金属製で、下方中央に挿入開口26を有する円弧状の帯板部材で形成され、挿入開口26の両端部に折曲形成されたフランジ27の長孔28及び螺子孔29に螺子30を挿通し螺着して締付けることにより波付電線管52を両側から挟持して支持するようになっている。
【0034】
一方、取着本体22の挿入開口26の反対側である上方中央には、上方に向けて略コ字状に折曲形成されて突出し、内部にボルト23の頭部23aが収容される収容凹部31が形成され、その中央にボルト23が貫通するボルト孔31aが形成されている。この収容凹部31はボルト23の頭部23a全体を収容する深さに形成され、挿入開口26から内部の挿入空間22a内に挿入された波付電線管52とボルト23の頭部23aとが干渉するのを防止している。また、ボルト孔31aはボルト23の外径よりある程度大きめの孔径に形成されていて、ボルト23を取着本体22の収容凹部31に対してある程度左右に傾斜させることができるようになっている。但し、ボルト孔31aの径はボルト23の外径とほぼ同一の大きさに形成してもよい。
【0035】
取着体21のナット24は、図5に示すように、金属製で細長の矩形板状に形成され、長辺部32は固定体11の貫通孔18の孔径より長く形成され、貫通孔18に架け渡すに足る長さを有している。また、長辺部32の中心Oから一側34に離間した位置即ち偏心位置には螺子孔で形成されてボルト23が螺着される螺着部33が設けられている。したがって、長辺部32の螺着部33の一側34の延出長L1は短寸に形成され、その反対側である螺着部33の他側35の延出長L2は長寸に形成されている。このように、長辺部32の螺着部33の他側35の延出長L2を長寸にしたのは、後述するようにしてナット24が貫通孔18の裏側に配置された状態でボルト23を螺回動させた際、ナット24の長辺部32における他側35を固定体11の下面部14のフランジ15または側面部13のフランジ15の内壁面15aに当接させて、ナット24がボルト23と共回りするのを規制するためである。したがって、他側35の延出長L2は、具体的には、そのように、長辺部32の他側35を固定体11のフランジ15に当接させ得る長さに形成されている。ここで、下面部14のフランジ15及び側面部13のフランジ15の内壁面15aは、ナット24の長辺部32の他側35が当接する当接部としても機能するものであり、請求項の、貫通孔の裏側の近傍に突出形成された当接部に相当する。
【0036】
更に、ナット24は、螺着部33及びその周辺部に、下方に膨出して固定体11の貫通孔18内に嵌入する膨出部37が形成されている。膨出部37は、例えばナット24における螺着部33周辺をプレス加工で凹部形成することにより一体に設けることができる。この膨出部37は、ボルト23の締付時に螺着部33を貫通孔18の中央へと案内する案内部36となっている。案内部36は、その周縁の段部37aがボルト23の螺回動時に固定体11の貫通孔18の内周面18bまたは周縁角部18cに当接して固定体11の貫通孔18内に自ずと入り込むようになっている。なお、案内部36は、固定体11の貫通孔18内に入り込む膨出部37で形成されているから、プレス加工による凹部形成等によって安価かつ簡単に形成することができる。また、膨出部37が貫通孔18内に嵌入されるだけで簡単に貫通孔18内における螺着部33の位置合わせを行なうことができる。
【0037】
更に、ナット24の案内部36はその内部に螺着部33を有し、周縁は螺着部33の螺子孔と同心円上に形成されている。そして、図6(a)に示すように、案内部36における螺着部33の中心から外縁までの最大寸法R1は貫通孔18の内接円Cの半径R2とほぼ同一で、かつ、貫通孔18の内接円Cの範囲を超えない大きさ即ち半径R2以下に形成されている。これは、ナット24を固定体11の貫通孔18に挿入して貫通孔18の裏側に配置する際に、案内部36が貫通孔18内に丁度入り込んでがたつかず、かつ、後述するように、ナット24の長辺部32が当接部であるフランジ15の内壁面15aに当接するまでの間は、案内部36の周縁がボルト23の螺回動時に固定体11の貫通孔18の内周面18bと係合してナット24の回動が妨げられることがないようにするためである。
【0038】
ここで、ナット24の回動について付説すれば、仮に、案内部36が図6(b)に示すように形成されていて、案内部36の螺着部33の中心から外縁までの最大寸法R3が貫通孔18の内接円Cの範囲を超えていると、図6(b)の斜線で示す範囲が貫通孔18の辺部と干渉してナット24の回動が妨げられてしまう。しかし、案内部36の最大寸法R1が貫通孔18の内接円Cの範囲を超えない場合は、そのような不具合を生じない。なお、案内部36を貫通孔18の内接円Cの範囲を超えない大きさに形成するのは、貫通孔18が本実施形態のように正多角形に形成された場合である。貫通孔18が正円形である場合は、ボルト23の螺回動時に案内部36が貫通孔18の内周面と係合することはなく、ボルト23の螺回動が妨げられることはないからである。
【0039】
(取着方法)
次に、上記のように構成された取着体装置1により取着体21を形鋼51に取着する方法を図7に基づいて説明する。
まず、固定体11を形鋼51のフランジ51aにあてがい、固定ボルト19を締付けてその先端部と固定体11の下面部14のフランジ15の鋸歯状に形成された端面とで形鋼51のフランジ51aを挟持することにより、図7(a)の縦断面図に示すように、固定体11を形鋼51のフランジ51aに固定する。一方、取着体21は、取着本体22の収容凹部31にボルト23の頭部23aが収容された状態で収容凹部31の中央のボルト孔31aにボルト23の軸部23bを挿通し、ボルト23の軸部23bに平座金25及びナット24を取付ける。このとき、ナット24は、貫通孔18にナット24のみを挿入させるため、平座金25との間に隙間が得られるようボルト23の先端部寄りに螺着しておく。
【0040】
次に、図7(b)に示すように、取着体21全体を斜めにしてナット24が貫通孔18の開口面に対して傾斜した状態で、取着体21を固定体11の下方から接近させて固定体11の貫通孔18の表側即ち外部側から、長辺部32の他側35即ち長寸側を先頭にして貫通孔18に挿入する。このとき、ナット24は、細長の矩形板状に形成され、長辺部32は貫通孔18に架け渡される長さを有し、貫通孔18の径より長いが、傾斜させることにより貫通孔18内に挿入することができる。また、収容凹部31のボルト孔31aをボルト23の外径よりある程度大きく形成してボルト23を更にある程度左右に傾斜させることができるようにしているから、より楽にナット24の長辺部32の他側35を貫通孔18内に挿入することができる。次いで、長辺部32の他側35を奥まで挿入したら、長辺部32の反対側である一側34即ち短寸側を通過させる。これにより、ナット24全体が貫通孔18の裏側に挿入される。
【0041】
この後、ナット24を貫通孔18の周縁18aに架け渡すときやボルト23の螺回動操作を行なうときに、ナット24の案内部36である膨出部37は、その段部37aが貫通孔18の内周面18b或いは周縁角部18cに当接して、図7(c)の要部縦断面図に示すように、貫通孔18内に落とし込まれる。ここで、ナット24の膨出部37は、ボルト23の螺着部33を貫通孔18の中央へと案内する案内部36として機能するから、膨出部37が貫通孔18内に落とし込まれることにより、ナット24の螺着部33は自ずと貫通孔18の中央に配置される。この状態において、ナット24は貫通孔18の裏側の周縁18aに架け渡される。
【0042】
次に、取着本体22を手で把持するなどして所定の向きに保持した状態で、取着本体22の下方の挿入開口26からドライバ等の工具を挿入してボルト23を螺回動させる。これにより、ボルト23の端部に螺着されているナット24も共回りして回動し、図7(d)の横断面図に示すように、長辺部32の他側35の先端角部が当接部である、固定体11の下面部14の一方のフランジ15における内壁面15aと当接する。その後は、ナット24の回動が規制され、ボルト23のみが螺回動される。なお、ナット24が当接部に当接するまでのボルト23の螺回動については、取着本体22を手で把持してこれを押下げながら回動すれば、その押下げによって取着本体22とボルト23の頭部23aとの間に摩擦力が発生するので、その摺接抵抗により工具を使用することなくボルト23を螺回動させることも可能である。
【0043】
ここで、ボルト23の螺回動によりナット24の端部が当接部である固定体11のフランジ15の内壁面15aに当接するまでの間は、ボルト23の螺回動によりナット24を確実に共回りさせることが必要であるが、これについては、前述のように、案内部36は貫通孔18の内接円Cの範囲を超えない大きさに形成されている。したがって、ナット24はボルト23と共回りさせて螺着部33を中心に回動させることができる。
【0044】
そして、ナット24の長辺部32の先端角部が固定体11の当接部と当接した後は、ナット24は、一定位置に保持され、ボルト23と共回りし空回りするのが防止されるので、取着本体22を手で把持するなどして所定の向きに保持した状態で、工具を使用してボルト23を螺回動することにより締付けを行ない、ナット24と取着本体22及びボルト23とで固定体11の貫通孔18の周縁18aを強固に挟持させる。これにより、取着体21は固定体11に安定して取着される。そして、ナット24については貫通孔18の裏側に強固に固定される。
【0045】
ここで、前述したように、取着本体22を手で把持してこれを下方に押下げながら回動することにより、押下げによって取着本体22とボルト23の頭部23aとの間に摩擦力が発生するので、ナット24を一定位置に保持した後のボルト23の螺回動時においても、螺回動完了直前までは、摩擦による摺接抵抗により、工具を使用することなくボルト23を螺回動させることも可能である。但し、最終的には、取着本体22を所定向きに保持した状態で取着本体22を押下げることなくまたは押下げつつ工具を使用してボルト23を本締めすることが必要であり、これにより、取着体21は固定体11に強固に固定される。なお、ボルト23の本締めにおいて、取着体22を押下げつつ工具を使用してボルト23を締付けるときには、ボルト23とナット24との螺子部間にも摩擦力が発生してそれによりナット24が共回りすることもあり得るが、共回りしたナット24はいずれにしても当接部に当接して共回りが規制されるので、この場合においても、取着体21を固定体11に強固に固定することができる。
【0046】
なお、ボルト23の螺回動による締付けについて付説すれば、案内部36の外周の段部37aが貫通孔18の内周面18bと係合すると、ナット24は一定位置に保持され、ボルト23と共回りし空回りするのが防止されるので、ボルト23を螺回動することによって締付けることが可能となり、ナット24とボルト23とで固定体11の貫通孔18の周縁18aを挟持させることが可能となる。したがって、逆に、案内部36の外周の段部37aを貫通孔18の内周面18bと係合させるものとすることも考えられる。
【0047】
しかし、ナット24の案内部36の外周の段部37aを貫通孔18の内周面18bと係合させるものとすると、貫通孔18の内周面18bの肉厚は比較的小さいので、係合面積が小さく、また、貫通孔18の正八角形の辺部がナット24の案内部36の段部37aとの係合により磨り減ったりして、係合部分で滑ることもある。したがって、ナット24の案内部36の段部37aを貫通孔18の内周面18bと係合させる手段では、確実に安定してボルト23の締付けを行なうことはできない。そこで、本実施形態では、貫通孔18の裏側の近傍に当接部を形成し、ナット24の端部が当接部に当接するまでの間は、ボルト23の螺回動に伴ってナット24を確実に共回りさせ、当接後はナット24の共回りを防止して、ボルト23による確実な締付け及びナット24とボルト23との確実な挟持を確保するようにしたのである。
【0048】
その後は、取着体21の挿入開口26から波付電線管52を挿入し、下方のフランジ27の長孔28に螺子30を挿入し、螺子孔29に螺着して両フランジ27を締付けることにより、波付電線管52を取着本体22の挿入空間22a内に収容し支持させる。以上により、取着体21の固定体11への取着が完了する。取着完了後の状態を図8に示す。なお、上記は、取着体21を固定体11の下面部14に設けられた貫通孔18に取着する場合を説明したが、固定体11の側面部13に設けられた貫通孔18に取着する場合も同様の要領で行なうことができる。
【0049】
(作用)
次に、本実施形態の取着体装置1の作用を説明する。
取着体21は、ボルト23の端部に螺着したナット24を表側から固定体11の貫通孔18に挿入し貫通させて貫通孔18の裏側に配置し、ボルト23を表側から螺回動させてナット24を貫通孔18の裏側に固定できるから、ボルト23及びナット24を用いて取着体21を固定体11に取着する取着体装置1において、固定体11が形鋼51に固定されていても取着体21をそのまま表側から固定体11に取着することができる。このため、固定体11を形鋼51に固定する前にナット24を貫通孔18の裏側に配置するのを忘れた場合や、既に固定体11を形鋼51に固定し、取着体21を取着した後において、新たに固定体11の別の貫通孔18即ち固定体11の側面部13に設けられた貫通孔18を利用して別の取着体を取着させたい場合においても、一旦固定した固定体11を形鋼51から取り外したりすることなく、そのまま表側から簡単に取着することができる。
【0050】
また、固定体11の貫通孔18は大径でなくてもナット24を傾斜させることにより表側から挿入して裏側に配置できるので、大径の貫通孔18を設けることによる固定体11の強度、剛性の低下を防止できる。
【0051】
加えて、ナット24は、ボルト23が螺着される螺着部33が長辺部32の中心Oから片側に離間する片寄った位置に設けられている、つまり、ナット24の一側34は短寸に形成されている。このため、ナット24の長寸の他側35を貫通孔18に挿入した後、反対側の一側34を通過させる際、ナット24の一側34と貫通孔18の内周面18bとの間に、挿入するに足る十分な隙間があるので、ナット24の一側34を周縁18aにつかえることなく確実かつ楽に通過させることができる。
【0052】
また、ボルト23の螺着部33はナット24の長辺部32の一側34にずれた位置に設けられているため、ボルト23の螺着部33をナット24の長辺部32の中心Oに設けた場合と比べて、挟持したときの貫通孔18の周縁18aに対するナット24の当接面積を大きくすることができ、強固な固定とすることができる。
【0053】
即ち、仮に、ボルト23の螺着部33をナット24の長辺部32の中心Oに設けた場合、つまり、ナット24の一側34の延出長と他側35の延出長とが同一である場合は、ナット24の一側34の延出長は本願発明の場合より長いため、ナット24を傾斜させて貫通孔18に挿入した後に、ナット24の一側34を通過させることはできない。長辺部32の中心Oに螺着部33を設けた場合に、ナット24の一側34を通過させるには、ボルト23の軸部23bを細くするか、ナット24の長辺部32の全長を小さくしてナット24の一側34、他側35双方の延出長を小さくする必要がある。今、前者のように、ボルト23の軸部23bを細くすれば、貫通孔18内での軸部23bの水平移動距離が大きくなって、通過時におけるナット24の一側34と貫通孔18の内周面18bとの隙間を大きくすることができるから、ナット24の一側34を通過させることが可能となる。しかし、その場合は、ボルト23の軸部23bを細くした分軸部23bの強度は低下してしまう。そこで、後者のように、ナット24の一側34、他側35双方の延出長を小さくしてみると、貫通孔18の周縁18aとの当接面積が小さくなり、固定力は低下してしまう。これに対し、本実施形態のように、螺着部33を長辺部32の一側34にずれた位置に設けた場合は、そのようなことがなく、上述のように、螺着部33を長辺部32の中心Oに設けた場合と比較して、当接面積を大きくすることができ、強固な固定とすることができる。
【0054】
更に、ナット24の他側35の螺着部33から延びる延出長を長く形成しているので、当接部を貫通孔18から離れた、ナット24の挿入を邪魔しない位置に設けることが可能である。
【0055】
加えて、ナット24を表側から固定体11の貫通孔18に挿入し裏側に配置するだけで、ナット24の長辺部32を貫通孔18に架け渡し、取着体21を仮保持できるので、取付作業中、取着体21を手で保持し続ける必要がない。
【0056】
そして、ナット24に案内部36が設けられているから、螺着部33の位置合わせ、位置決めを行なうことができる。その結果、ナット24の長辺部32の一側34及び他側35それぞれにおいて貫通孔18の周縁18aへの引掛かり代を十分に確保することができ、ナット24を確実に貫通孔18に架け渡すことができる。
【0057】
加えて、案内部36は、固定体11の貫通孔18内に入り込む膨出部37で形成されているから、安価かつ簡単に案内部36を形成することができる。また、膨出部37を貫通孔18内に嵌入するだけで簡単に貫通孔18内における螺着部33の位置合わせを行なうことができる。
【0058】
また、ボルト23は、取着本体22とは別体に設けられ、取着本体22とは独立して螺回動させることができるから、最初に手で把持するなどして取着本体22を所定向きに保持した状態でボルト23のみを締付けることができる。これについて、仮に、ボルト23が取着本体22と一体化されている場合には、取着本体22を回動させて固定体11への取着を完了した時点で、取着本体22の向きが所定方向を向いていないことが多く、そのままの状態で波付電線管52を支持させれば、図9に示すように、波付電線管52は蛇行して布設されてしまう。この場合に、取着本体22を緩めて角度を修正すれば、締付けを緩めた分取着強度は低下してしまう。しかし、本実施形態の場合は、ボルト23は取着本体22とは別体に設けられていて、取着本体22を所定向きに保持した状態でボルト23のみを締付けることができるため、取着後に取着本体22の角度調整を行なう必要がなく、角度調整の手間を省くことができる。
【0059】
〈第2実施形態〉
次に、第2実施形態の取着体装置を図10に基づいて説明する。
第2実施形態の取着体装置1Aは、第1実施形態の取着体装置1と比較して、固定体11は同一であり、取着体21は、取着本体22のボルト23の頭部23aが収容される収容凹部31に、ボルト23の頭部23aに側方から圧接する圧接部38が設けられている点のみが、この圧接部38が設けられていない第1実施形態と相違する。
【0060】
具体的には、図10において、ボルト23の頭部23aが収容される収容凹部31は、略コ字状に折曲形成され、中央にボルト孔31aが形成されているとともに、ボルト孔31aの周縁部である、収容凹部31を形成している両側壁31bの少なくとも一方に、ボルト23の頭部23aに側方から圧接する圧接部38が設けられている。圧接部38は側壁31bの略中央を収容凹部31の内部側に僅かに突出させて形成されており、突出先端部がボルト23の頭部23aの側面に圧接される。この圧接によりボルト23の頭部23aの側面と圧接部38との間には圧接力が発生し、ボルト23の頭部23aの側面との摺接抵抗、摩擦力により、ボルト23の自由な螺回動を規制している。
【0061】
圧接部38の圧接力は、取着本体22を回動操作したときに摺接抵抗、摩擦力によりボルト23を共回りさせて固定体11の貫通孔18の裏側に配置されたナット24に螺回動させ得る大きさを有し、かつ、ドライバ等の工具によって強制的にボルト23の螺回動操作を行なうときには、摺接抵抗、摩擦力に打ち勝って取着本体22とは独立してボルト23のみが螺回動するのを許容する大きさを有している。
【0062】
この構成により、取着本体22を手で把持して回動することによりボルト23も共回りさせてナット24に螺着し締付けて、取着体21を固定体11に取着し固定することができる。したがって、ボルト23の螺回動操作を取着本体22を介して手で回動して行なうことができるから、作業し易く、また、工具を把持しなくてよいから、作業性が向上する。
【0063】
加えて、その一方で、手操作による取着本体22の回動を終了した後、ドライバ等の工具を使用し、取着本体22から独立してボルト23のみを圧接部38の摩擦力、摺接抵抗に抗して強制的に螺回動させて増し締めすることができる。このため、取着本体22を回動させることでボルト23を螺着し、固定体11の貫通孔18の周縁18aをナット24と取着本体22及びボルト23とで仮挟持し、その後は、工具を使用して強制的にボルト23のみを螺回動させて増し締めして本挟持することができる。また、取着本体22の固定体11への取着を完了した時点で、取着本体22が所定方向を向いていないときには、取着本体22を手で緩めて取着体21の向きの角度調整を行なうが、その際、締付けを緩めた戻した分取着強度は低下する。そこで、工具を使用してボルト23のみを強制的に螺回動させて増し締めすることにより、締付強度を確保することができる。
【0064】
ところで、上記取着本体22では、圧接部38は、収容凹部31の側壁31bの略中央を収容凹部31の内部側に僅かに突出させて形成しているが、これに限られるものではなく、例えば、取着本体22の両側の円弧部分を両側方から押圧して変形させることにより、収容凹部31の側壁31bをボルト23の頭部23aに側方から圧接させることで形成することもできる。
【0065】
〈第3実施形態〉
次に、第3実施形態の取着体装置を図11に基づいて説明する。
第3実施形態の取着体装置1Bは、第1実施形態の取着体装置1と比較して、固定体11は同一であり、取着体は、第1実施形態では、ボルト23を備えた取着本体22とナット24とを備えてなるのに対し、第3実施形態では、ボルトとナット24とを備えてなるものであり、取着本体22は備えておらず、ボルトは吊ボルトやハンガーボルトなどが用いられる。
【0066】
図11(a)において、取着体装置1Bは、形鋼51に固定される第1及び第2実施形態と同一の固定体11と、固定体11に取着される取着体41とからなり、固定体11には、正八角形からなる貫通孔18が設けられている。一方、取着体41は、貫通孔18を表側から貫通し、ケーブル53を支持するハンガーボルト42と、第1及び第2実施形態と同一のナット24とを備えている。ハンガーボルト42は、直状に形成された、固定体11に取着される取着部43と、フック状に形成された、ケーブル53を支持する支持部44とで一体に構成されている。そして、ハンガーボルト42は、少なくとも取着部43には雄ねじが形成されている。また、支持部44には、必要に応じて、支持部44全体を覆ってケーブル53の傷付きを防止する樹脂パイプ45が被覆されている。なお、樹脂パイプ45を取付けた場合には、樹脂パイプ45の端部を支持部44の先端部から所定長はみ出させておき、支持部44にケーブル53を載置した後、樹脂パイプ45のはみ出し端部をハンガーボルト42の取着部43近辺に結束することにより、支持部44からのケーブル53の脱落を防止することもできる。
【0067】
このように構成された取着体41を固定体11に取着するには、前記各実施形態の取着体21と同様にして、ハンガーボルト42の取着部43の先端部にナット24を螺着し、ハンガーボルト42を傾斜させつつナット24を固定体11の貫通孔18に挿入して裏側に配置した後、ハンガーボルト42を螺回動してナット24を共回りさせ、ナット24の先端角部が固定体11の当接部に当接した後は、ナット24の共回りを規制した状態で、ハンガーボルト42を取着部43の先端が形鋼51の下面に当接するまで螺回動させる。その後は、先端が形鋼51の下面に当接した状態で、更に、ハンガーボルト42を締付けて形鋼51の下面に圧接すれば、ナット24は、図11(b)の矢印で示すように、前記圧接に伴う反対方向即ち下方への突張り作用を受けて貫通孔18の周縁18aに圧接され、貫通孔18の裏側に固定される。
【0068】
これにより、第1及び第2実施形態の取着体装置1と同様に、ナット24を表側から固定体11の貫通孔18に挿入し、表側からハンガーボルト42を締付けて貫通孔18の裏側にナット24を配設して、ハンガーボルト42を固定体11に取着することができる。
【0069】
ここで、第1及び第2実施形態では、ナット24は、ボルト23をナット24に螺着し締付けて取着本体22とで固定体11の貫通孔18の周縁18aを挟持することにより貫通孔18の裏側に固定されるのに対し、第3実施形態では、ナット24は、形鋼51へのハンガーボルト42の圧接に伴う反対方向への突張り作用を受けて貫通孔18の周縁18aに圧接されることにより、貫通孔18の裏側に固定される点で両者は相違する。また、第1及び第2実施形態のボルト23は、取着本体22を形鋼51に取着するために使用される締付具であるのに対し、第3実施形態のハンガーボルト42は、締付機能を有する他、自身が固定体11に取着される対象物でもある。
【0070】
そして、第3実施形態の取着体41も、第1及び第2実施形態と同様に、ハンガーボルト42の螺回動による締付けによりナット24を固定体11の貫通孔18の裏側に固定する点では、第1及び第2実施形態と共通する。
【0071】
なお、第3実施形態の取着体41としては、他に、図示しないが、全長に至って雄ねじが形成された棒状をなし、配線・配管材用受具等を取付けて支持させることができる吊ボルトなども使用することができる。
【0072】
〈その他〉
ところで、上記各実施形態の固定体11は、金属板材を折曲げ加工して略コ字板状に形成し、幅方向の両端部にフランジ15を立設したものを示しているが、本発明を実施する場合は、この形態のもの限られるものではなく、ナット24が取着される正円形、正多角形の貫通孔18を備え、取着体21を取着し得る各種のものを用いることができる。
【0073】
また、上記実施形態では、固定体11の貫通孔18は、正八角形に形成されているが、正円形、正六角形、正七角形などに形成してもよい。
【0074】
更に、ボルト23の螺回動開始時に共回りするナット24の先端角部と当接してそれ以降のナット24の共回りを規制する当接部は、固定体11のフランジ15の内壁面15aで形成しているが、例えば、固定体11の貫通孔18の近傍においてナット24の先端角部が当接し得る位置に、別途にピン体などの突起物などを立設し、これにより当接部を形成してもよい。
【0075】
そして、取着体21のナット24の案内部36である膨出部37は、ナット24における螺着部33周辺をプレス加工で凹部形成することにより一体に設けることができるが、これに限られるものではなく、ナット24の平板状の下面に膨出部37を一体に突設させて形成することもできる。この場合は、ナット24の案内部36の肉厚を大きくすることができ、ボルト23との螺着長を大きくすることもできる。或いは、案内部36は、ナット24を平板状に形成してその下面に、貫通孔18の内周面18bまたは周縁角部18cと当接するピン体や縦壁を立設するなどして形成することもできる。
【0076】
また、ナット24は、細長の矩形板状に形成しているが、これに限られるものではなく、例えば、固定体11の当接部に当接する長辺部32の他側35の長寸部分を一定幅でなく先細りのもの或いは細幅のものに形成してもよい。この場合は、固定体11の貫通孔18に対するナット24の他側35の先端部からの挿入がより容易となる。
【0077】
加えて、上記第1及び第2実施形態では、取着体21は、波付電線管52を内部に収容して支持する支持具として機能するものであるが、本発明においては、他に、他の配線・配管材保持具や配線ボックス、感知器等の機器、器具、吊ボルト吊金具など、形鋼51に取着される各種のものを適用することができる。
【0078】
なお、吊ボルトを取着する場合に、第3実施形態においては、吊ボルトの先端を形鋼51の下面に圧接し、更なる吊ボルトの締付けによる突張り作用によってナット24を固定体11の貫通孔18に固定し、取着体41を固定体11に取着し固定しているが、他に、図12に示すようにして取着し固定することもできる。即ち、吊ボルト46の端部にナット24を螺着し、ナット24を貫通孔18の裏側に配置して、吊ボルト46の先端が形鋼51に圧接されずに離間した状態で、吊ボルト46に螺着した、ナット24とは別の六角ナット47を固定体11の下面部14の下方から締付けて、ナット24と六角ナット47とで固定体11の貫通孔18の周縁18aを挟持させることもでき、この挟持により、ナット24を貫通孔18の裏側に固定し、吊ボルト46を固定体11に取着し固定することもできる。
【0079】
また、上記第1及び第2実施形態における取着本体22は、下方に波付電線管52を挿入するための挿入開口26を形成しているが、特許文献1に記載のような、側方に波付電線管52を挿入するための挿入開口が形成されている場合は、ボルト23として頭部23aに六角孔が形成された六角孔付ボルトを使用し、これを螺回動させるときは、工具としてL形レンチを使用して行なうことができる。
【0080】
なお、本発明は、造営材として形鋼51を適用しているが、他の建築構造物の造営材にも適用できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0081】
1、1A、1B 取着体本体 31b 側壁
11 固定体 32 長辺部
15 フランジ(当接部) 33 螺着部
18 貫通孔 34 一側
18a 周縁 35 他側
18b 内周面 36 案内部
18c 周縁角部 37 膨出部
21、41 取着体 38 圧接部
22 取着本体 42 ハンガーボルト
23 ボルト 46 吊ボルト
24 ナット 51 形鋼
31a ボルト孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
造営材に固定される固定体と、該固定体に取着される取着体と、からなる取着体装置であって、
前記固定体は、正円形または正多角形からなる貫通孔が設けられ、
前記取着体は、前記貫通孔を表側から貫通するボルトを備えた取着本体と、前記ボルトが螺着され、前記取着本体とで前記固定体の貫通孔の周縁を挟持することにより該貫通孔の裏側に配設されるナットとを備え、
前記ナットは、前記貫通孔に架け渡される長さを有する長辺部を備え、該長辺部の中心から一側に離間した位置に前記ボルトが螺着される螺着部が設けられ、該ボルトの端部に螺着され表側から前記貫通孔に対して傾斜した状態で前記長辺部の他側から該貫通孔に挿入され前記長辺部の一側が該貫通孔を通過して前記貫通孔の裏側の周縁に架け渡されるように配置可能であり、
前記長辺部の螺着部からの他側の延出長は、前記ナットが前記貫通孔の裏側に配置された状態で前記ボルトが螺回動された際に、前記長辺部の他側が前記貫通孔の裏側の近傍に突出形成された当接部に当接して前記ボルトとの共回りが規制される長さに形成されたことを特徴とする取着体装置。
【請求項2】
造営材に固定される固定体と、該固定体に取着される取着体と、からなる取着体装置であって、
前記固定体は、正円形または正多角形からなる貫通孔が設けられ、
前記取着体は、前記貫通孔を表側から貫通するボルトと、前記ボルトが螺着され、該ボルトの先端が前記造営材に圧接されることによる突張り作用により前記固定体の貫通孔の周縁に圧接されて該貫通孔の裏側に配設されるナットとを備え、
前記ナットは、前記貫通孔に架け渡される長さを有する長辺部を備え、該長辺部の中心から一側に離間した位置に前記ボルトが螺着される螺着部が設けられ、該ボルトの端部に螺着され表側から前記貫通孔に対して傾斜した状態で前記長辺部の他側から該貫通孔に挿入され前記長辺部の一側が該貫通孔を通過して前記貫通孔の裏側の周縁に架け渡されるように配置可能であり、
前記長辺部の螺着部からの他側の延出長は、前記ナットが前記貫通孔の裏側に配置された状態で前記ボルトが螺回動された際に、前記長辺部の他側が前記貫通孔の裏側の近傍に突出形成された当接部に当接して前記ボルトとの共回りが規制される長さに形成されたことを特徴とする取着体装置。
【請求項3】
前記ナットは、前記ボルトの螺回動時に該貫通孔の内周面または周縁角部と当接して前記螺着部を該貫通孔の中央へと案内する案内部が設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の取着体装置。
【請求項4】
前記案内部は、前記ナットの長辺部が前記当接部に当接するまでの前記ボルトの螺回動時に、前記固定体の貫通孔の内周面と係合して該ナットの回動が妨げられることのないよう該貫通孔の内接円の範囲を超えない大きさに形成されていることを特徴とする請求項3に記載の取着体装置。
【請求項5】
前記取着本体に備えられたボルトは、該取着本体とは別体に設けられ、該取着本体とは独立して螺回動可能に設けられていることを特徴とする請求項1、請求項3及び請求項4のいずれかに記載の取着体装置。
【請求項6】
前記取着本体は、前記ボルトが貫通するボルト孔が設けられ、
前記ボルト孔の周縁部に、前記ボルトの頭部に側方から圧接する圧接部が設けられ、
前記圧接部は、前記取着本体を回動操作することにより前記ボルトを共回りさせて前記固定体の貫通孔の裏側に配置されたナットに螺回動可能であるとともに、工具による強制的な前記ボルトの螺回動操作においては該ボルトが前記取着本体とは独立して螺回動するのを許容する圧接力を有することを特徴とする請求項5に記載の取着体装置。
【請求項7】
請求項1に記載の固定体に取着される取着体であって、
前記固定体の貫通孔を表側から貫通するボルトを備え、該ボルトが貫通するボルト孔が設けられた取着本体と、
前記ボルトが螺着され、前記取着本体とで前記固定体の貫通孔の周縁を挟持することにより該貫通孔の裏側に配設される請求項1に記載のナットと
を備え、
前記ボルト孔の周縁部に、前記ボルトの頭部に側方から圧接する圧接部が設けられ、
前記圧接部は、前記取着本体を回動操作することにより前記ボルトを共回りさせて前記固定体の貫通孔の裏側に配置されたナットに螺回動可能であるとともに、工具による強制的な前記ボルトの螺回動操作においては該ボルトが前記取着本体とは独立して螺回動するのを許容する圧接力を有することを特徴とする取着体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−47463(P2011−47463A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195972(P2009−195972)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(000243803)未来工業株式会社 (550)
【Fターム(参考)】