説明

同期電動機、換気扇、冷媒圧縮機、送風機、液体用ポンプ、空気調和機、及び冷蔵庫

【課題】銅量が少なく自動生産に適した同期電動機、並びにそれを備えた換気扇、冷媒圧縮機、送風機、液体用ポンプ、空気調和機、及び冷蔵庫を得る。
【解決手段】第1巻線と第2巻線とから成る2相の固定子巻線を有する固定子と、永久磁石により複数の磁極を有する回転子とを備え、固定子巻線は、固定子と前記回転子とが組み合わされてから、巻回がなされるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2相の固定子巻線と、永久磁石から成る複数の磁極を有する回転子とを備えた同期電動機、並びにそれを備えた換気扇、冷媒圧縮機、送風機、液体用ポンプ、空気調和機、及び冷蔵庫に関する。
【背景技術】
【0002】
換気扇等の送風機用モータには、堅牢かつ駆動制御装置が不要で安価な単相誘導電動機が用いられている。送風機の分野では、単相誘導電動機の使用量は圧倒的多数のため、誘導電動機に特化した設備投資がなされ、通常、自動化生産が行われている。従来の自動化生産対応の誘導電動機は、例えば、省資源や銅損失の低減を目的として、「外輪部を形成する外輪ヨーク部5に複数の磁極片7からなる内輪磁極部10を嵌め込み固定子鉄心6を形成し、内輪磁極部10の一方の端面に突設され、絶縁用ウェッジ31の挿入用溝を側壁に設けたコイルガード16を含む絶縁樹脂を成形固着する。そして、回転子17を内輪磁極部10内に挿入し、回転子17にピン本体25を有して外側ポール24と内側ポール23とよりなる巻枠柱20からなる絶縁ガバー19を被せ、内側ポール23と内輪磁極部10中心との間にコイル26を巻回する。」ものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、近年、省エネや快適性への関心の高まりから、低風量運転や、低風量長時間連続(24時間対応)運転機能を備える製品が好まれている。その場合、送風量を可変とする必要がある。従来、送風量を連続的に可変する誘導電動機の電動機駆動装置は、例えば、「単相2巻線式誘導電動機150の主巻線152および始動巻線154は2相電源の第1の相電圧VP1および第2の相電圧VP2の両端に接続される。巻線152と154の間は共通巻線156によって接続される。2相電源は好ましい位相角で電動機150を駆動する。」ものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
また、例えば、「2相の固定子巻線(主巻線4aと補助巻線4b)を有するモータ4を、6石のインバータ回路3により、主巻線4aの電圧波形Vmを基準に、補助巻線4bの電圧波形Vaの電圧位相と、2相巻線の共通端子5cの電圧波形Vcの電圧位相と電圧波高値を各々自由に調整する。」ものが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−6959号公報(要約)
【特許文献2】特開平6−54585号公報(要約)
【特許文献3】特開2005−184885号公報(要約)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
誘導電動機は、回転子に銅損が発生し、その損失を無くすことは原理上不可能である。一方、永久磁石により複数の磁極を有する回転子(以下、「マグネットロータ」ともいう)を用いた同期電動機では、回転子での銅損が原理上発生しないため、同期電動機(以下、「モータ」ともいう)単体での損失を低減することができる。
このため、誘導電動機の回転子を、マグネットロータとし、同期電動機として動作させることで、回転子の銅損を無くすことができる。但し、同期電動機は、原理上、固定子(以下、「ステータ」ともいう)が発生する回転磁界と回転子の磁極とが同期しないと連続的にトルクを発生しないため、回転子の状態にあわせ、回転磁界を制御する必要がある。
通常、送風機等に用いられる同期電動機では、回転子の磁極位置を検知する磁極位置検知センサ(以下、「センサ」ともいう)をモータ内に内蔵し、その信号をもとに回転磁界を制御する方法が用いられる。
【0007】
しかしながら、例えば特許文献1に示されるような、銅量が少なく自動生産に適した電動機構造では、回転子と固定子とを組み合わせた状態で巻線を行うため、回転子が巻線及びその絶縁カバーに覆われてしまい、その近傍にセンサを取り付けることができない。センサを取り付けるためには、電動機の構造を変更するか又は手加工により生産する必要がある。電動機の構造を変更する場合は、新たな自動化生産設備が必要となり、また、手加工により生産する場合は、生産性が低く、加工費が著しく増加する。
【0008】
また、一般的な誘導電動機では、固定子のコイルエンドが大きいため、その近傍では漏れ磁束の発生量が大きく、固定子の端部に、センサを配置した場合、誤動作による信頼性低下の回避が課題となる。一般的には固定子の磁石の磁力を上げ、センサに入力される磁束密度を大きくする設計を行うが、その場合磁石の価格が著しく増加する。
また、コイルエンドを低減するように固定子の巻線に集中巻き方式を用いる方法もあるが、静音性を求められる送風機等に用いる誘導電動機では、この巻線方式をとることはできず、誘導電動機と同期電動機とを同一の生産ラインで製造することはできない。この場合、誘導電動機と同期電動機の双方の生産設備が必要となり、双方の生産量がアンバランスな場合、生産量の少ない方の電動機の生産設備費用の回収が難しくなる。
【0009】
また、近年、住宅解体時産業廃棄物の処理に建築業者は苦労しており、リサイクル性能の高い換気扇用モータが好まれる。仮に前記センサを内蔵可能な構造が得られたとしても、前記センサは通常電子回路基板上にガリウム砒素やインジュームアンチモン等の化合物半導体を用いたセンサ素子を実装することで実現されるため、モータ内部にセンサが内蔵された場合、リサイクル時の分解・分類要素が増加し、リサイクル性を悪化させ、ひいては建築業者に好まれない。
【0010】
また、例えば特許文献2,3に示されるような、従来の2相誘導電動機の駆動装置では、上述した、回転子の状態にあわせ回転磁界を制御する機能が無いため、誘導電動機の回転子を、マグネットロータとし、同期電動機として駆動することは不可能である。また、一般的な同期電動機は、制御性が良い3相モータが用いられており、2相の同期電動機に対し低騒音かつ高効率で磁極位置検知センサレス運転をするための制御技術は開発されていなかった。このため3相モータを用いるためには、現状の2相モータと別の生産設備を必要とし、モータに生産設備費用を加えたトータルのコストが、大幅に大きくなる。特に現状大量に2相誘導電動機を生産し搭載している換気扇やポンプに対しては顕著である。
【0011】
このように、2相誘導電動機の回転子を、永久磁石により複数の磁極を有する回転子とし、同期電動機として動作させる場合、回転子の磁極位置を検知するセンサ等を設けることなく、2相の同期電動機を動作させることができない、という問題点があった。
【0012】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、銅量が少なく自動生産に適した同期電動機、並びにそれを備えた換気扇、冷媒圧縮機、送風機、液体用ポンプ、空気調和機、及び冷蔵庫を得ることを目的とする。
また、誘導電動機の自動化生産設備において生産することができる同期電動機、並びにそれを備えた換気扇、冷媒圧縮機、送風機、液体用ポンプ、空気調和機、及び冷蔵庫を得ることを目的とする。
また、回転子の磁極位置を検知する検出手段によらず、同期電動機を同期運転させることができる、換気扇、冷媒圧縮機、送風機、液体用ポンプ、空気調和機、及び冷蔵庫を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明に係るモータは、第1巻線と第2巻線とから成る2相の固定子巻線を有する固定子と、永久磁石により複数の磁極を有する回転子とを備え、前記固定子巻線は、前記固定子と前記回転子とが組み合わされてから、巻回がなされるものである。
【発明の効果】
【0014】
この発明は、銅量が少なく自動生産に適した同期電動機を得ることができる。
また、回転子の近傍に磁極位置を検知する検出手段を設けないため、誘導電動機の自動化生産設備において同期電動機を生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施の形態1に係るモータとモータ駆動制御装置の回路図である。
【図2】実施の形態1に係るセンサレス制御手段の構成を示すブロック図である。
【図3】実施の形態1に係るモータのステータ及びロータの構造図である。
【図4】実施の形態1に係る換気扇の断面を模式的に示した図である。
【図5】実施の形態2に係るモータとモータ駆動制御装置の回路図である。
【図6】実施の形態3に係るステータの構造を模式的に示した図である。
【図7】実施の形態5に係る空気調和機の構成を示す図である。
【図8】実施の形態6に係る冷蔵庫の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施の形態1.
図1は実施の形態1に係るモータとモータ駆動制御装置の回路図である。図1において、モータ駆動制御装置は、整流回路2と、インバータ回路5と、センサレス制御手段10と、電流検出手段11とにより構成され、商用電源1から供給される電力により駆動される2相同期電動機(以下、「モータ」という)7の運転を制御するものである。
【0017】
商用電源1は、日本の一般家庭の場合、100V50Hz又は60Hzの単相交流が一般的に使用されている。また、業務用や海外では200V以上の単相交流が使われることがある。
【0018】
整流回路2は、全波整流回路となっており、商用電源1の交流電圧を直流電圧に変換する。例えば、商用電源1がAC100VではDC140Vへ変換する。この整流回路2は、4個の整流ダイオード3a〜3dをブリッジ接続して構成される。更に、電解コンデンサ4により平滑している。
【0019】
インバータ回路5は、整流回路2で整流された直流電圧出力が入力され、後述するセンサレス制御手段10の動作によりPWM制御を行い、入力された直流電圧を任意電圧、任意周波数の3相交流に変換する。このインバータ回路5は、例えばFET等のスイッチング素子6a〜6fを各々ブリッジ接続して構成される。また、各々のスイッチング素子6a〜6fには並列に逆電流方向に高速ダイオードが内蔵されている。この内蔵されている高速ダイオードはスイッチング素子6a〜6fがオフしたとき還流電流を流す働きをする。さらに、インバータ回路5には、スイッチング素子6の各アームの電流を電圧に変換するシャント抵抗12が設けられている。
【0020】
モータ7は、16スロット4極の2相同期電動機(ブラシレスDCモータ:BLDCM)であり、換気扇100(後述)を駆動する。このモータ7は、第1巻線である主巻線8aと、第2巻線である補助巻線8bとを有し、主巻線8a及び補助巻線8b(以下、区別しないときは単に「巻線8」という)の、一方の端子が共通端子となる2相巻線を有する固定子(図示せず)と、永久磁石から成る複数の磁極を有する回転子であるマグネットロータ9とからなる。また、主巻線8aと補助巻線8bは位相90度異なる機械的位置に配置されている。また、モータ7は主巻線端子Mと補助巻線端子Sと各々の巻線8の共通端子Cを有している。モータ7の各端子は、それぞれインバータ回路5の出力端子に接続されている。
【0021】
電流検出手段11は、インバータ回路5のシャント抵抗12a,12b,12cにより電圧に変換したインバータ回路5の各アームの電流を、増幅・レベルシフトを行いセンサレス制御手段10に各アーム電流を出力するものである。
【0022】
センサレス制御手段10は、電流検出手段11から得られる各アーム電流から、インバータ回路5のスイッチング素子6のスイッチング時間を決定することでPWM(パルス幅変調:Pulse Width Modulation)を行い、モータ7の各巻線8に電圧を印加し、巻線8の巻線電流を制御することで、マグネットロータ9に同期した回転磁界を発生し、モータ7を駆動制御する。
【0023】
図2は実施の形態1に係るセンサレス制御手段の構成を示すブロック図である。図2において、センサレス制御手段10は、電流座標変換部20と、電流制御部21と、電圧座標変換部22と、すべり補償部25と、速度制御器26と、θe演算部27と、PWM信号発生手段33とにより構成されている。
【0024】
電流座標変換部20は、電流検出手段11から入力された各アーム電流を二相静止座標上のαβ軸電流へ変換するαβ軸電流変換部23と、このαβ軸電流をdq軸電流idqに変換するdq軸電流変換部24とにより構成されており、電流検出手段11から入力された電流を励磁電流成分であるd軸電流(id)とトルク電流成分であるq軸電流(iq)とに変換する。
【0025】
すべり補償部25は、電流座標変換部20から入力されたdq軸電流idqのトルク電流成分(iq)に基づき、速度指令値(後述)の角速度を補償する補償量ωdを演算して速度制御器26へ入力する。
【0026】
速度制御器26は、すべり補償部25から入力された補償量ωdを用いて、外部から与えられる目標の角速度値である速度指令値ωrefを補償し、補償された後の速度指令値である一次角速度ω1を演算する。
【0027】
θe演算部27は、一次角速度ω1を積分して位相角θeを求める。この位相角θeは、dq軸電流変換部24及びαβ軸電圧指令変換部31の座標変換に用いられる。
【0028】
電流制御部21は、電流誤差演算部28と、ローパスフィルタ29と、電流制御器30とで構成されいる。電流誤差演算部28は、外部から与えられるd軸電流指令値id*と、電流検出手段11から入力されたdq軸電流idqの励磁電流成分(id)との誤差を演算して電流誤差ierrを電流制御器30へ入力する。ローパスフィルタ29は、電流検出手段11から入力されたdq軸電流idqの高周波成分を除去して、フィルタ通過後のdq軸電流idqであるフィルタ通過値idq_filを電流制御器30へ入力する。電流制御器30は、外部から与えられるd軸電流指令値id*と、すべり補償部25から得られた補償量ωdと、電流誤差演算部28から得られた電流誤差ierrと、ローパスフィルタ29から得られたフィルタ通過値idq_filとから、モータ7を駆動するための出力電圧指令値であるdq軸電圧指令Vdqを演算する。
【0029】
電圧座標変換部22は、θe演算部27から得られた位相角θeを用いて、dq軸電圧指令Vdqを2相電圧指令値であるαβ軸電圧指令Vαβに変換するαβ軸電圧指令変換部31と、αβ軸電圧指令VαβをMCS軸電圧指令に変換するMCS軸電圧指令変換部32とで構成される。
【0030】
PWM信号発生手段33は、電圧座標変換部22のMCS軸電圧指令から、インバータ回路5の各スイッチング素子6a〜6fのスイッチング信号Mp,Cp,Sp、Mn,Cn,Snを発生する。
【0031】
このような構成による本実施の形態1におけるモータ駆動制御装置の動作を図1及び図2を用いて次に説明する。図1において、電流検出手段11は、インバータ回路5のシャント抵抗12a,12b,12cにより検出された各アームのシャント電流を増幅・レベルシフトを行い、シャント電流iMs,iCs,iSsとしてセンサレス制御手段10へ入力する。このシャント電流iMs,iCs,iSsを用いて、センサレス制御手段10は、モータ7を駆動するためにインバータ回路5が出力する電圧を演算により求め、インバータ回路5内のスイッチング素子をオン・オフ制御するためのPWM信号を出力する。
【0032】
センサレス制御手段10は、以下に説明する動作にてPWM信号を出力する。図2において、電流座標変換部20は、電流検出手段11により検出されたシャント電流を、αβ軸電流変換部23により、巻線電流iM,iSに変換した後、二相静止座標上のαβ軸電流へ変換する。次に、このαβ軸電流を、dq軸電流変換部24により、θe演算部27から得られる位相角θeを用いてdq軸電流idqに変換し、すべり補償部25、電流誤差演算部28及びローパスフィルタ29へ入力する。
【0033】
すべり補償部25は、入力されたdq軸電流idqのトルク電流成分(iq)に基づき、速度指令値の角速度を補償する補償量ωdを演算して速度制御器26へ入力する。速度制御器26では、速度指令値ωrefと補償量ωdとの差分を取り、一次周波数ω1を求め、θe演算部27と、電流制御器30へ入力する。
一方、電流誤差演算部28は、外部から与えられるd軸電流指令値id*と、電流検出手段11から入力されたdq軸電流idqの励磁電流成分(id)との誤差を演算して電流誤差ierrを電流制御器30へ入力する。ローパスフィルタ29は、電流検出手段11から入力されたdq軸電流idqの高周波成分を除去して、フィルタ通過後のdq軸電流idqであるフィルタ通過値idq_filを電流制御器30へ入力する。
【0034】
電流制御器30は、外部から与えられるd軸電流指令値id*と、すべり補償部25から得られた補償量ωdと、電流誤差演算部28から得られた電流誤差ierrと、ローパスフィルタ29から得られたフィルタ通過値idq_filとから、モータ7を駆動するためのdq軸電圧指令Vdqを演算する。
次に、電圧座標変換部22は、αβ軸電圧指令変換部31により、dq軸電圧指令Vdqをθe演算部27から得られた位相角θeを用いて、αβ軸電圧指令Vαβに変換するする。次に、このαβ軸電圧指令Vαβを、MCS軸電圧指令変換部32により、MCS軸電圧指令に変換してPWM信号発生手段33へ入力する。
【0035】
PWM信号発生手段33は、電圧座標変換部22のMCS軸電圧指令から、PWM信号として、インバータ回路5の各スイッチング素子6a〜6fのスイッチング信号Mp,Cp,Sp、Mn,Cn,Snを発生する。このPWM信号を基にインバータ回路5内のスイッチング素子6a〜6fがオン・オフ動作し、整流回路2の直流電圧が3相交流に変換されモータ7に印加される。尚、PWM信号における添え字の「p」は上アームスイッチング素子用であることを示し、添え字の「n」は下アームスイッチング素子用であることを示す。また、M,S,Cは、モータ7が接続される端子に対応するスイッチング素子であることを示している。即ち、スイッチング信号「Mp」はスイッチング素子6aの駆動信号である。
【0036】
以上のような動作により、インバータ回路5のシャント電流を用いて、モータ2相電流iM,iSを求め、さらにそれから、トルク電流成分iq、励磁電流成分idを求め、インバータ回路5のスイッチング素子6a〜6fをPWM制御することにより、ロータ磁極位置センサ信号を用いず、モータ7の制御を可能ならしめることができる。
次に、上記のようなモータ駆動制御装置により駆動され、回転子と固定子とを組み合わせた状態で巻線を行う自動生産に適したモータ7の構造について、図3を用いて説明する。
【0037】
図3は実施の形態1に係るモータのステータ及びロータの構造図である。図3(a)はコイル巻線前のステータ及びロータの各部品を示し、図3(b)はコイル巻線後のステータ及びロータの各部品を示している。
図3(a)において、絶縁カバー40は、16スロットのティース43と、巻線8(図示せず)との間の絶縁を行うカバーである。マグネットロータ9は、4極の極異方配向プラスチックマグネットを用いたバックヨークなしロータである。このマグネットロータ9は、ロータシャフト91を一体成型で形成し、その後着磁を行ったものであり、マグネットロータ9とロータシャフト91とにより、ロータシャフトASSY45を構成する。
【0038】
図3(b)において、コイル巻線後のステータティース44は、ティース43にロータシャフトASSY45を挿入し、その後、絶縁カバー40を挿入し、その後、巻線8(マグネットワイヤー)を巻回したものである。このコイル巻線後のステータティース44に、ステータコアバック46を組み合わせることで、磁路が形成され、ステータ及びロータが完成する。このステータ50及びロータシャフトASSY45にベアリング48(図4参照)とモータフレーム47(図4参照)とを組み合わせることで、モータ7を構成する。
【0039】
このように、回転子と固定子とを組み合わせた状態で巻線の巻回を行うため、銅量が少なく自動生産に適したモータの構造が得られ、上述したモータ駆動制御装置により駆動することにより、回転子の磁極位置を検知するセンサ等を設けない構成とすることが可能となる。次に、このモータ7により駆動される換気扇の構成について図4により説明する。
【0040】
図4は実施の形態1に係る換気扇の断面を模式的に示した図である。図4において、換気扇100は、モータ7と、金属筐体101、シロッコファン102、換気扇グリル103と、金属製の電気品BOX104とにより構成される。この換気扇100は、天井壁200に取り付けられる。また、シロッコファン102には、モータ7のロータシャフト91が接続され、モータ7により回転駆動される。尚、電気品BOX104は、ウレタン等の樹脂で防湿加工され、モータ駆動制御装置の電子回路が内蔵される。これにより、換気扇100が浴室等の湿度の高い環境に設置することが可能である。
【0041】
このように、上述したモータ駆動制御装置により駆動するモータ7によりシロッコファン102を回転駆動する構成とすることにより、従来の製造設備において製造された2相誘導電動機と同一のステータ構造に対し、ロータの入れ替えにより同期電動機を実現可能なため、モータフレーム47についても共通化し標準化可能である。そのためモータフレーム47の製造設備については新たな投資の必要が無く、モータ7の製造コストを低減することが可能である。さらには、このモータ7を用いた換気扇200の取り付け構造も、従来の誘導電動機を用いたものと全く同一のものを用いることができ、取り付け構造部品の追加等が不要で、安価に省エネ性の高い同期電動機を用いた製品を製造することが可能となる。
【0042】
以上のように本実施の形態1においては、モータ7の巻線8に流れる電流に基づき、インバータ回路5をPWM制御して、モータ7を同期運転させることにより、回転子の磁極位置を検知するセンサ等を設けることなく、2相の同期電動機であるモータ7を動作させることができる。
【0043】
また、回転子の磁極位置を検知するセンサ等を設けることなく、2相の同期電動機であるモータ7を動作させることができるので、設備投資回収の終わった2相の誘導電動機の自動化生産設備において、誘導電動機の回転子を、マグネットロータとすることで、同期電動機を生産することができ、誘導電動機と同時に生産を行うことができる極めて生産性の高い同期電動機を得ることができる。
【0044】
また、回転子の磁極位置を検知するセンサ等を設ける必要がないので、リサイクル時の分解・分類要素が減少し、リサイクル性を向上させることができる。
【0045】
また、回転子の磁極位置を検知するセンサ等を設ける必要がないので、換気扇100を浴室等の湿度の高い環境に設置する場合であっても、センサ回路等の防湿加工を別途行う必要がない。さらに、マグネットロータ9以外は従来の誘導電動機と同じ製造設備にて製造可能となり、高湿度環境の換気扇にも適用可能なモータ及びその駆動制御装置が得られる。
【0046】
また、回転子の磁極位置を検知するセンサ等は、通常、電子回路基板上にガリウム砒素やインジュームアンチモン等の化合物半導体を用いたセンサ素子を実装することで実現される。本実施の形態のように、回転子の磁極位置を検知するセンサ等を設けない構成とすることにより、リサイクル時の分解・分類要素が低減し、換気扇及びモータとしてのリサイクル性が向上する。
【0047】
実施の形態2.
本実施の形態2におけるモータ駆動制御装置は、整流回路2の構成を倍電圧整流回路としたものである。尚、モータ7の構成は上記実施の形態と同様である。
【0048】
図5は実施の形態2に係るモータとモータ駆動制御装置の回路図である。図5において、モータ駆動制御装置は、整流回路2と、インバータ回路5と、電流検出手段11と、電圧検出手段13と、センサレス制御・中点電圧制御手段14とにより構成され、商用電源1から供給される電力により駆動されるモータ7の運転を制御するものである。
【0049】
本実施の形態における整流回路2は、倍電圧整流回路となっており、商用電源1の交流電圧を直流電圧に変換する。例えば、AC100VではDC280Vへ変換する。この整流回路2は、2個の整流ダイオード3a,3bを接続して構成される。更に、電解コンデンサ4a,4bにより平滑している。
【0050】
インバータ回路5は、整流回路2で整流された直流電圧出力が入力され、後述するセンサレス制御手段の動作によりPWM制御を行い、入力された直流電圧を任意電圧、任意周波数の3相交流に変換する。このインバータ回路5は、例えばFET等のスイッチング素子6a〜6dを各々ブリッジ接続して構成される。また、各々のスイッチング素子6a〜6dには並列に逆電流方向に高速ダイオードが内蔵されている。この内蔵されている高速ダイオードはスイッチング素子6a〜6dがオフしたとき還流電流を流す働きをする。さらに、インバータ回路5には、スイッチング素子6の各アームの電流を電圧に変換するシャント抵抗12が設けられている。
【0051】
電流検出手段11は、インバータ回路5のシャント抵抗12a,12bが電圧に変換したインバータ回路5の各アームの電流を、増幅・レベルシフトを行いセンサレス制御・中点電圧制御手段14に各アーム電流を出力するものである。
【0052】
電圧検出手段13は、電解コンデンサ4a,4bの中点の電圧のレベルシフトを行いセンサレス制御・中点電圧制御手段14へ出力するものである。
【0053】
センサレス制御・中点電圧制御手段14は、電流検出手段11から得られるモータアーム電流から、インバータ回路5のスイッチング素子6のスイッチング時間を決定することでPWM(パルス幅変調:Pulse Width Modulation)を行い、モータ7の各巻線8に電圧を印加し、巻線8の巻線電流を制御することで、マグネットロータ9に同期した回転磁界を発生し、モータ7を駆動制御する。
また、センサレス制御・中点電圧制御手段14は、電圧検出手段13から得られる電解コンデンサ4a,4b間の中点の電圧が、バランスして全体の1/2となるよう制御を行う。具体的には中点電位がバランスするよう、M相及びS相の電流バランスをスイッチング素子6a〜6dのPWM制御することで制御する。
【0054】
尚、本実施の形態2における、その他の構成及び動作は上記実施の形態1と同様である(図2〜図4参照)。
【0055】
以上のように本実施の形態2においては、上記実施の形態1の効果に加え、整流回路2に倍電圧整流回路を用いたので、上記実施の形態1の構成に比べてモータ7の巻線8間に与えられる電圧を高めることができ、同一軸出力で比較した場合、モータの誘起電圧定数を上記実施の形態1の構成に対し高めることができる。
これにより同一負荷点における、モータ7に流れる巻線電流を低減することができ、巻線8における銅損及びインバータ回路5のスイッチング素子6の導通損失を低減することが可能となり、高効率なモータ及びモータ駆動制御装置が得られる。
【0056】
また、インバータ回路5のスイッチング素子6の個数を実施の形態1の6個から4個に低減したので、実施の形態1に比べさらに低コストかつスイッチング素子6の導通損失を低減可能な、モータ及びその駆動制御装置が得られる。
【0057】
実施の形態3.
図6は実施の形態3に係るステータの構造を模式的に示した図である。図6において、本実施の形態3におけるステータは、ステータティース及びコアバックを一体としたステータコア60と、このステータコア60の内周に形成されたスロット間に巻回される巻線8と、この巻線8端末と接続され、巻線8とインバータ回路5とを結合するリード線81とにより構成される。尚、このステータ以外の構成は上記実施の形態1又は2と同様である。
【0058】
図6で示される本実施の形態3におけるステータは、一体のステータコア60に対し、巻線8を束ねたものをスロットにインサートしてステータを構成するので、上記実施の形態1又は2と比べ、ステータ完成後、マグネットロータ9を挿入することが可能である。
【0059】
ここで、従来の磁極位置検知センサ(以下、「センサ」ともいう)を必要とする同期電動機の制御の課題について説明する。図6に示したように、巻線8を束ねたものをスロットにインサートしてステータを構成した場合、巻線8のコイルエンドが、ステータコア60の両側から大きくはみ出す。通常、トルクを出すために必要なマグネットロータ9の幅は、ステータコア60とほぼ同幅で良い。
しかしながら、コイルエンドが大きいため、磁極位置検知センサを配置する場合、コイルエンドの幅分、ステータコア60から、遠い位置に配置せざるをえず、その場合、ロータマグネットから出る磁束は原理上距離の1乗〜2乗に比例し弱まるため、マグネット長をセンサ側に伸ばすか別途センサ用のマグネットが必要となる。そのためコイルエンドの高さ分トルクに寄与しないマグネットを増量するか別部品が必要があり、モータのコストが高くなる。また、センサ側をコイルエンド内部に配置することも考えられるが、コイルエンドには漏れ磁束が発生するため、その場合、巻線電流に比例してセンサ出力が変動し、磁極位置の検知性能の信頼性が損なわれる。
このため、マグネットロータ9を後から挿入する製造方式を用いた2相同期電動機において、センサをモータに内蔵することは課題が多い。
【0060】
本実施の形態3においては、上記実施の形態1又は2で説明したモータ駆動制御装置を用いてモータの駆動を制御するため、モータ内の磁極位置センサを必要とせず、図6に示すようなコイルエンドがコアの両側から大きくはみ出すステータを用いることができる。このため、低コストで信頼性の高い、モータとモータ駆動制御装置及びそれを用いた換気扇が得られる。
【0061】
実施の形態4.
上記実施の形態1〜3では、センサレス制御手段10は、インバータ回路5のシャント抵抗12a,12b,12cにより検出された各アームのシャント電流を用いてPWM制御を行い、モータ7の各巻線8の巻線電流を制御することで、マグネットロータ9に同期した回転磁界を発生し、モータ7を駆動制御したが、モータ7の各巻線8に誘起される誘起電圧に応じた電圧位相制御を行い、モータ7を同期運転させても同様の効果が得られることはいうまでもない。
【0062】
実施の形態5.
図7は実施の形態5に係る空気調和機の構成を示す図である。図7において、本実施の形態における空気調和機は、室外機310、室内機320を備え、室外機310には、図示しない冷媒回路に接続され冷凍サイクルを構成する冷媒圧縮機311、図示しない熱交換機を送風する室外機用の送風機312を備えている。そして、この冷媒圧縮機311、室外機用の送風機312は、上述した実施の形態1〜4のモータ駆動制御装置により制御されるモータ7により駆動される。このような構成によりモータ7を運転させても、上記実施の形態1〜4と同様の効果が得られることはいうまでもない。
【0063】
実施の形態6.
図8は実施の形態6に係る冷蔵庫の構成を示す図である。図8に示すように、冷蔵庫400は、図示しない冷媒回路に接続され冷凍サイクルを構成する冷媒圧縮機401、冷却室402内に設けられた冷却器403で生成された冷気を、冷蔵室、冷凍室等に送るための冷気循環用の送風機404を備えている。そして、この冷媒圧縮機401、冷気循環用の送風機404は、上述した実施の形態1〜4のモータ駆動制御装置により制御されるモータ7により駆動される。このような構成によりモータ7を運転させても、上記実施の形態1〜4と同様の効果が得られることはいうまでもない。
【0064】
尚、モータ7により駆動される対象負荷として、液体循環用ポンプや井戸ポンプについて適用し、上述した実施の形態1〜4のモータ駆動制御装置により運転させても、上記実施の形態1〜4と同様の効果が得られることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0065】
1 商用電源、2 整流回路、3a 整流ダイオード、3b 整流ダイオード、3c 整流ダイオード、3d 整流ダイオード、4 電解コンデンサ、4a 電解コンデンサ、4b 電解コンデンサ、5 インバータ回路、6 スイッチング素子、6a スイッチング素子、6b スイッチング素子、6c スイッチング素子、6d スイッチング素子、6e スイッチング素子、6f スイッチング素子、7 モータ、8 巻線、8a 主巻線、8b 補助巻線、9 マグネットロータ、10 センサレス制御手段、11 電流検出手段、12 シャント抵抗、12a シャント抵抗、12b シャント抵抗、12c シャント抵抗、13 電圧検出手段、14 センサレス制御・中点電圧制御手段、20 電流座標変換部、21 電流制御部、22 電圧座標変換部、23 αβ軸電流変換部、24 dq軸電流変換部、25 すべり補償部、26 速度制御器、27 θe演算部、28 電流誤差演算部、29 ローパスフィルタ、30 電流制御器、31 αβ軸電圧指令変換部、32 MCS軸電圧指令変換部、33 PWM信号発生手段、40 絶縁カバー、43 ティース、44 ステータティース、45 ロータシャフトASSY、46 ステータコアバック、47 モータフレーム、48 ベアリング、50 ステータ、60 ステータコア、81 リード線、91 ロータシャフト、100 換気扇、101 金属筐体、102 シロッコファン、103 換気扇グリル、104 電気品BOX、200 天井壁、310 室外機、311 冷媒圧縮機、312 送風機、320 室内機、400 冷蔵庫、401 冷媒圧縮機、402 冷却室、403 冷却器、404 送風機、M 主巻線端子、S 補助巻線端子、C 共通端子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1巻線と第2巻線とから成る2相の固定子巻線を有する固定子と、
永久磁石により複数の磁極を有する回転子と
を備え、
前記固定子巻線は、
前記固定子と前記回転子とが組み合わされてから、巻回がなされることを特徴とする同期電動機。
【請求項2】
前記固定子のティースと前記固定子巻線との間の絶縁を行う絶縁カバーを備え、
前記固定子のティースに前記回転子を挿入し、その後、前記絶縁カバーを挿入し、その後、前記固定子巻線の巻回がなされることを特徴とする請求項1項に記載の同期電動機。
【請求項3】
前記回転子の磁極位置を検知する検出手段によらず、同期運転するよう制御される
ことを特徴とする請求項1または2項に記載の同期電動機。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の同期電動機と、
前記回転子の磁極位置を検知する検出手段によらず、前記同期電動機を同期運転させるよう制御するモータ駆動制御装置と
を備えたことを特徴とする換気扇。
【請求項5】
請求項1〜3の何れか1項に記載の同期電動機と、
前記回転子の磁極位置を検知する検出手段によらず、前記同期電動機を同期運転させるよう制御するモータ駆動制御装置と
を備えたことを特徴とする冷媒圧縮機。
【請求項6】
請求項1〜3の何れか1項に記載の同期電動機と、
前記回転子の磁極位置を検知する検出手段によらず、前記同期電動機を同期運転させるよう制御するモータ駆動制御装置と
を備えたことを特徴とする送風機。
【請求項7】
請求項1〜3の何れか1項に記載の同期電動機と、
前記回転子の磁極位置を検知する検出手段によらず、前記同期電動機を同期運転させるよう制御するモータ駆動制御装置と
を備えたことを特徴とする液体用ポンプ。
【請求項8】
請求項5記載の冷媒圧縮機を備えたことを特徴とする空気調和機。
【請求項9】
請求項6記載の送風機を備えたことを特徴とする空気調和機。
【請求項10】
請求項5記載の冷媒圧縮機を備えたことを特徴とする冷蔵庫。
【請求項11】
請求項6記載の送風機を備えたことを特徴とする冷蔵庫。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−30423(P2011−30423A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251493(P2010−251493)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【分割の表示】特願2007−28819(P2007−28819)の分割
【原出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】