説明

吸音材および車両用フロアーシート

【課題】厚さが1mm以上の繊維構造体にシート状物を貼り合せた吸音材であって、吸音特性が極めて良好で、シート状物が剥離しにくく、しかも優れた剛性を有する吸音材および該吸音材を用いてなる車両用フロアーシートを提供する。
【解決手段】シート状物を含む吸音材であって、繊維構造体は、非弾性捲縮短繊維と、該非弾性捲縮短繊維を構成するポリマーよりも40℃以上低い融点を有するポリマーが、熱融着成分としてその表面に配された熱接着性複合短繊維とが重量比率で混綿され、該熱接着性複合短繊維同士が交差した状態で熱融着された固着点および/または該熱接着性複合短繊維と前記非弾性捲縮短繊維とが交差した状態で熱融着された固着点が散在し、かつ前記熱接着性複合短繊維と前記非弾性捲縮短繊維が繊維構造体の厚さ方向に配列してなる繊維構造体である吸音材、および該吸音材を用いてなる車両用フロアーシート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚さが1mm以上の繊維構造体にシート状物を貼り合せた吸音材であって、吸音特性が極めて良好で、シート状物が剥離しにくく、しかも優れた剛性を有する吸音材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両、住宅、高速道路などの吸音材としては、種々のものが提案されている。例えば、木質ボードや再生繊維にフェノール樹脂などの熱硬化性バインダーを含浸したフェルトや、ガラス繊維などの無機繊維に熱可塑性樹脂を含浸しホットプレスやコールドプレスした吸音材(例えば特許文献1参照)や、高融点熱可塑性繊維と低融点熱可塑性繊維とから構成され、低融点熱可塑性繊維の一部を熱融着させた吸音材(例えば特許文献2参照)、非弾性捲縮短繊維と熱接着性複合短繊維とで構成され、熱接着性複合短繊維の熱融着により固着点が形成され、かつ繊維が厚さ方向に配列した吸音用繊維構造体(例えば特許文献3参照)、繊維構造体にシート状物を貼り合せた吸音材(例えば特許文献4、特許文献5参照)などが提案されている。
【0003】
他方、かかる吸音材は、車両用フロアーシートなどとして使用する場合、吸音、特性だけでなく、繊維構造体に貼り合せたシート状物が剥離しにくく、しかも吸音材を所定形状に保持するため優れた剛性を有することが求められている。
【0004】
なお、本出願人は、特願2005−204302号において、非弾性捲縮短繊維と熱接着性複合短繊維とで構成され、これらの繊維が厚み方向に配列した繊維構造体にフィルムを貼り合せた吸音材を提案した。該吸音材は、吸音特性に優れ、シート状物の耐剥離性に優れるものである。
【0005】
【特許文献1】特開昭59−227442号公報
【特許文献2】特開平7−3599号公報
【特許文献3】特開2001−207366号公報
【特許文献4】特開2003−334881号公報
【特許文献5】特開2004−209975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、厚さが1mm以上の繊維構造体にシート状物を貼り合せた吸音材であって、吸音特性が極めて良好で、シート状物が剥離しにくく、しかも優れた剛性を有する吸音材および該吸音材を用いてなる車両用フロアーシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を達成するため鋭意検討した結果、非弾性捲縮短繊維と熱接着性複合短繊維とを用いて、繊維が厚さ方向に配列しかつ熱固着点を有する繊維構造体を構成し、該繊維構造体にシート状物を貼り合せて吸音材を得る際、前記非弾性捲縮短繊維の単繊維径を所定の範囲内とすることにより、吸音特性に極めて良好で、シート状物が剥離しにくく、しかも優れた剛性を有する吸音材が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0008】
かくして、本発明によれば「厚さが1mm以上の繊維構造体と、該繊維構造体に貼り合わされたシート状物を含む吸音材であって、前記繊維構造体は、非弾性捲縮短繊維と、該非弾性捲縮短繊維を構成するポリマーよりも40℃以上低い融点を有するポリマーが熱融着成分としてその表面に配された熱接着性複合短繊維とが重量比率で90/10〜30/70となるように混綿され、前記熱接着性複合短繊維同士が交差した状態で熱融着された固着点および前記熱接着性複合短繊維と前記非弾性捲縮短繊維とが交差した状態で熱融着された固着点が散在し、かつ前記熱接着性複合短繊維と前記非弾性捲縮短繊維が繊維構造体の厚さ方向に配列してなる繊維構造体であり、前記非弾性捲縮短繊維の単繊維径が10〜200μmの範囲内であることを特徴とする吸音材。」が提供される。
その際、前記非弾性捲縮短繊維がポリエステル系繊維からなることが好ましい。また、前記熱接着性複合短繊維の熱融着成分が共重合ポリエステルからなることが好ましい。
【0009】
本発明の吸音材において、繊維構造体の平均密度が5〜50kg/mの範囲にあることが好ましい。前記の繊維構造体の厚さとしては2〜200mmの範囲内であることが好ましい。また、前記のシート状物が、厚さ0.01〜5mmのポリエステル系繊維不織布であることが好ましい。該シート状物が厚さ0.01〜5mmのポリエステル系樹脂フィルムであってもよい。前記繊維構造体とシート状物との剥離強度が5N/25mm以上であることが好ましい。また、本発明の吸音材は、シート状物が音源側に配されていると、優れた吸音・特性が得られ好ましい。
また、本発明によれば、前記の吸音材を用いてなる車両用フロアーシートが提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、厚さが1mm以上の繊維構造体にシート状物を貼り合せた吸音材であって、吸音特性が極めて良好で、シート状物が剥離しにくく、しかも優れた剛性を有する吸音材および該吸音材を用いてなる車両用フロアーシートが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。本発明で使用する非弾性捲縮短繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリ−1,4−ジメチルシクロヘキサンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリピバロラクトン、ポリ乳酸(PLA)またはこれらの共重合体からなる短繊維ないしそれら短繊維の混綿体、または上記ポリマー成分のうちの2種類以上からなる複合短繊維等を挙げることができる。これらの短繊維のうち繊維形成性等の観点から、ポリエチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレートからなる短繊維が特に好ましい。
【0012】
この場合の、捲縮付与方法としては、熱収縮率の異なるポリマーをサイドバイサイド型に張り合わせた複合繊維を用いてスパイラル状捲縮を付与、異方冷却によりスパイラル状捲縮を付与、捲縮数が3〜40個/2.54cm(好ましくは7〜15個/2.54cm)となるように通常の押し込みクリンパー方式による機械捲縮を付与など、種々の方法を用いればよいが、嵩高性、製造コスト等の面から機械捲縮を付与するのが最適である。
【0013】
ここで、前記非弾性捲縮短繊維において、単繊維径が10〜200μmの範囲内であることが肝要である。該単繊維径が10μmよりも小さいと充分な剛性が得られず好ましくない。逆に該単繊維径200μmよりも大きいと充分な吸音・特性が得られず好ましくない。
【0014】
前記非弾性捲縮短繊維の単繊維横断面形状は、通常の丸断面でもよいし、三角、四角、扁平などの異型断面であってもよい。なお、単繊維横断面形状が異型の場合、前記単繊維径は丸断面に換算した値を使用するものとする。さらに、丸中空断面の場合は外径寸法を測定するものとする。
【0015】
また、前記非弾性捲縮短繊維の繊維長としては30〜100mmの範囲内であることが好ましい。該繊維長が30mmよりも小さいと充分な剛性が得られないおそれがある。逆に該繊維長が100mmよりも大きいと工程安定性が損われるおそれがある。
【0016】
次に、熱接着性複合短繊維の熱融着成分は、上記の非弾性捲縮短繊維を構成するポリマー成分より、40℃以上低い融点を有することが必要である。この温度が40℃未満では接着が不十分となる上、腰のない取り扱いにくい繊維構造体となり、本発明の目的が達せられない。
【0017】
ここで、熱融着成分として配されるポリマーとしては、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、非弾性ポリエステル系ポリマー及びその共重合物、ポリオレフィン系ポリマー及びその共重合物、ポリビニルアルコ−ル系ポリマー等を挙げることができ、ポリウレタン系エラストマーとしては、分子量が500〜6000程度の低融点ポリオール、例えばジヒドロキシポリエーテル、ジヒドロキシポリエステル、ジヒドロキシポリカーボネート、ジヒドロキシポリエステルアミド等と、分子量500以下の有機ジイソシアネート、例えばp,p’−ジフェニールメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート水素化ジフェニールメタンイソシアネート、キシリレンイソシアネート、2,6−ジイソシアネートメチルカプロエート、ヘキサメチレンジイソシアネート等と、分子量500以下の鎖伸長剤、例えばグリコールアミノアルコールあるいはトリオールとの反応により得られるポリマーである。
【0018】
これらのポリマーのうちで、特に好ましいのはポリオールとしてはポリテトラメチレングリコール、またはポリ−ε−カプロラクタムあるいはポリブチレンアジペートを用いたポリウレタンである。この場合の有機ジイソシアネートとしてはp,p’−ビスヒドロキシエトキシベンゼンおよび1,4−ブタンジオールを挙げることができる。
【0019】
また、ポリエステル系エラストマーとしては熱可塑性ポリエステルをハードセグメントとし、ポリ(アルキレンオキシド)グリコールをソフトセグメントとして共重合してなるポリエーテルエステル共重合体、より具体的にはテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、ジフェニル−4,4’−ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、コハク酸、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジ酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体などから選ばれたジカルボン酸の少なくとも1種と、1,4−ブタンジオール、エチレングリコールトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコールネオペンチルグリコール、デカメチレングリコール等の脂肪族ジオールあるいは1,1−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンメタノール等の脂環式ジオール、またはこれらのエステル形成性誘導体などから選ばれたジオール成分の少なくとも1種、および平均分子量が約400〜5000程度のポリエチレングリコール、ポリ(1,2−および1,3−ポリプロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとの共重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランとの共重合体等のポリ(アルキレンオキサイド)クリコールのうち少なくとも1種から構成される三元共重合体を挙げることができる。
【0020】
特に、接着性や温度特性、強度の面からすればポリブチレン系テレフタレートをハード成分とし、ポリオキシブチレングリコールをソフトセグメントとするブロック共重合ポリエーテルエステルが好ましい。この場合、ハードセグメントを構成するポリエステル部分は、主たる酸成分がテレフタル酸、主たるジオール成分がブチレングリコール成分であるポリブチレンテレフタレートである。むろん、この酸成分の一部(通常30モル%以下)は他のジカルボン酸成分やオキシカルボン酸成分で置換されていても良く、同様にグリコール成分の一部(通常30モル%以下)はブチレングリコール成分以外のジオキシ成分で置換されていても良い。また、ソフトセグメントを構成するポリエーテル部分はブチレングリコール以外のジオキシ成分で置換されたポリエーテルであってよい。
【0021】
共重合ポリエステル系ポリマーとしては、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸類および/またはヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの脂環式ジカルボン酸類と、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、パラキシレングリコールなどの脂肪族や脂環式ジオール類とを所定数含有し、所望に応じてパラヒドロキシ安息香酸などのオキシ酸類を添加した共重合エステル等を挙げることができ、例えばテレフタル酸とエチレングリコールとにおいてイソフタル酸および1,6−ヘキサンジオールを添加共重合させたポリエステル等が使用できる。
また、ポリオレフィンポリマーとしては、例えば低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等を挙げることができる。
【0022】
上記の熱融着成分の中でも、共重合ポリエステル系ポリマーが特に好ましい。なお、上述のポリマー中には、各種安定剤、紫外線吸収剤、増粘分岐剤、艶消し剤、着色剤、その他各種の改良剤等も必要に応じて配合されていても良い。
【0023】
熱接着性複合短繊維において、熱融着成分の相手側成分としては前記のような非弾性のポリエステルが好まして例示される。その際、熱融着成分が、少なくとも1/2の表面積を占めるものが好ましい。重量割合は、熱融着成分と非弾性ポリエステルが、複合比率で30/70〜70/30の範囲にあるのが適当である。熱接着性複合短繊維の形態としては、特に限定されないが、熱融着成分と非弾性ポリエステルとが、サイドバイサイド、芯鞘型であるのが好ましく、より好ましくは芯鞘型である。この芯鞘型の熱接着性複合短繊維では、非弾性ポリエステルが芯部となり、熱可塑性エラストマーが鞘部となるが、この芯部は同心円状、若しくは、偏心状にあってもよい。
【0024】
かかる熱接着性複合短繊維において、単繊維径としては20〜50μmの範囲内であることが好ましい。かかる熱接着性複合短繊維Aは、繊維長が3〜100mm(より好ましくは30〜100mm)に裁断されていることが好ましい。
【0025】
本発明においては、単繊維径が10〜200μmの上記非弾性捲縮短繊維と、単繊維径が20〜50μmの上記の熱接着性複合短繊維を混綿させ、加熱処理することにより、該熱接着性複合短繊維同士が交差した状態で熱融着された固着点及び該熱接着性複合短繊維と該非弾性捲縮短繊維とが交差した状態で熱融着された固着点とが散在してなる繊維構造体が形成される。
【0026】
この際、非弾性捲縮短繊維と熱接着複合短繊維との重量比率は90/10〜30/70である必要がある。熱接着複合短繊維の比率がこの範囲より少ない場合は、固着点が極端に少なくなり、繊維構造体の腰がなく、成型性が不良となる。一方、熱接着複合短繊維の比率がこの範囲より多い場合は、接着点が多くなり過ぎ、熱処理工程での取扱い性、成型性などが低下する。
【0027】
さらに、本発明においては、上記繊維構造体の厚さが1mm以上であり、かつ前記熱接着性複合短繊維と前記非弾性捲縮短繊維が繊維構造体の厚さ方向に配列していることが肝要である。ここで、「厚さ方向に配列している」とは、繊維構造体の厚さ方向に対して平行に配列されている繊維の総本数を(B)とし、繊維構造体の厚さ方向に対して垂直に配列されている繊維の総本数を(A)とするとき、B/Aが1.5以上であることである。
【0028】
すなわち、従来の吸音材を構成する繊維が、繊維構造体の厚さ方向に対して垂直、すなわち面方向に配列されていたのに対し、本発明においては、構成繊維が繊維構造体の厚さ方向に対して平行に配列されているため、吸音特性に優れなお且つシート状物が剥離しにくい吸音材が得られる。構成繊維が繊維構造体の面方向に配列している場合は、繊維構造体内において面方向に剥離してしまうため好ましくない。また、繊維構造体に含まれる非弾性捲縮短繊維の単繊維径が前記の範囲内にあるので、吸音特性を損なうことなく優れた剛性が得られる。
【0029】
このような繊維構造体を製造する方法には特に限定はなく、従来公知の方法を任意に採用すれば良いが、例えば非弾性捲縮短繊維と熱接着性複合短繊維とを混綿し、ローラーカードにより均一なウェッブとして紡出した後、図1に示すような熱処理機を用いて、ウェッブをアコーディオン状に折りたたみながら加熱処理し、熱融着による固着点を形成させる方法などが好ましく例示される。例えば特表2002−516932号公報に示された装置(市販のものでは、例えばStruto社製Struto設備など)などを使用するとよい。
【0030】
かくして得られる繊維構造体の平均密度は5〜50kg/mの範囲にあることが好ましい。該密度が5kg/m未満では充分な剛性が得られないおそれがある。逆に平均密度が50kg/mを越えると板状となり、その後の成型が困難になる他、音が反射するようになり、吸音材として使用できなくなるおそれがあるとともに、重量増加となり車用途等には好ましくない。
【0031】
また、該繊維構造体の厚さとしては1mm以上であれば特に制限はないが、2〜200mm(より好ましくは5〜70mm)の範囲内であることが好ましい。厚さが該範囲内であると、優れた吸音・特性を呈するだけでなく、優れた剛性をも呈し好ましい。厚さが該範囲内にあるとクッション性にも優れるので自動車、新幹線、電車などの車両用フロアーシートとして好適に使用することができる。
【0032】
本発明の吸音材は、前記の繊維構造体にシート状物を貼り合せたものである。その際、シート状物を貼り合せる繊維構造体の面は、繊維構造体の厚み方向(すなわち繊維構造体の構成繊維の配列方向)と垂直な面である。かかる面にシート状物を貼りあわせることにより、繊維構造体を構成する繊維が繊維構造体の厚さ方向に配列しているので、繊維がアンカー効果を発揮し繊維構造体内で面方向(厚さ方向と垂直方向)に剥離しにくい。なお、繊維長が30mm未満であるとこの効果が低くなる。
【0033】
本発明に使用するシート状物は、スパンボンドもしくはメルトブローンもしくはフラッシュボンド等の直接紡糸法による不織布や、スパンレースもしくはエアレイドもしくはカード法による短繊維構造体による不織布で、強度や経済性、壁材としての使用時の作業性を考慮すると厚さが0.01mm以上5mm以下が好ましい。更に好ましくは、0.1mm以上2mm以下である。使用する素材としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレート(PEN)、ポリ乳酸(PLA)やこれらの共重合体に代表されるポリエステル、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド、その他ポリオレフィン、アクリル、モダクリル等の合成繊維やレーヨン、および絹、綿、麻、羊毛等の天然繊維が挙げられる。
【0034】
また、シート状物がフィルムでも良い。フィルムを全面に積層した場合、壁構造体の通気止めとしてそのまま使用できる。厚さは、前記と同様の理由で0.01mm以上5mm以下が好ましい。更に好ましくは、0.05mm以上1mm以下である。使用する素材としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレート(PEN)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリ乳酸(PLA)やこれらの共重合体に代表されるポリエステル、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド、その他ポリオレフィン、アクリル、モダクリル等の合成繊維が挙げられる。
【0035】
繊維集合体の片面にシート状物を形成させることにより、シート状物側からの入射音に対する吸音性能が飛躍的に向上する。これは通常の繊維集合体部分による吸音効果とは別に、シート(膜)が特定周波数領域で共振するという「膜吸音」という効果が新たに発生するためである。なお、シート状物は、片面以外に裏面や繊維構造体の内層に設置することも可能である。
【0036】
繊維構造体とシート状物を貼り合せる方法としては、単に繊維構造体とシート状物を加熱プレスする方法や、機械的にニードル等により接合する方法、または、接着層を設ける方法等がある。接着層としては、粉体又はシート状、ネット状等で、熱により初めて溶融接着されるホットメルトタイプの樹脂や低融点樹脂繊維からなる不織布が好ましい。なお、低融点樹脂または低融点樹脂繊維の組成としては、ウレタン系、アクリル系等の樹脂でもよいが、リサイクル性の点より繊維構造体と同じ、ポリエステル系の接着剤または接着シートが好ましい。
【0037】
また、前記の繊維構造体を、厚み方向に対してほぼ垂直、または、必要に応じてやや斜めにスライサー設備等によりスライスし、スライスされた切断面にシート状物を貼り合わせてもよい。このように繊維構造体の切断面にフィルムを貼り合せることにより、繊維構造体の切断面が平坦なので、貼り合わせ後のフィルム表面も平坦になる。さらに、繊維が厚み方向に配列しているために、繊維構造体に含まれる繊維と接着層、フィルムとの摩擦も増加し貼り合わせが容易となる。
【0038】
本発明の吸音材において、フィルムが音源側に配されていると優れた吸音、効果が得られ好ましい。その際、必要に応じ、繊維構造体裏面にフィルムを貼り合せると、吸音性が向上し、剛性についても大きく向上し好ましい。
【0039】
また、フィルムの上に、さらに前記の繊維構造体が貼りあわされることにより、前記フィルムの両側に前記の繊維構造体が積層されていてもよい。その際、フィルムに対して音源側繊維構造体の厚さが、吸音材全体の厚さの30%以下であることが好ましい。また、フィルムの上に織編物等を貼り合せる事もできる。
本発明の吸音材において、吸音材全体の厚さとしては、2〜200mmの範囲内であることが好ましい。
【0040】
本発明の吸音材において、優れた吸音・効果が得られる理由は、繊維が繊維構造体の厚み方向に配列しているので、繊維構造体のクッション性が向上し音波を吸収しやすいためであろうと推定している。また、シート状物が音源側に配されている場合は、前記のように通常の繊維集合体部分による吸音効果とは別に、シート(膜)が特定周波数領域で共振するという「膜吸音」という効果があらわれる。また、前記のように繊維構造体に含まれる繊維が厚さ方向に配列しているので、繊維構造体内部で面方向に剥離することがなく、繊維構造体とシート状物との剥離強度が向上する。かかる繊維構造体とシート状物との剥離強度としては5N/25mm以上(より好ましくは6〜20N/25mm)であることが好ましい。なお、該剥離強度は以下の方法により測定される。すなわち、25mm×150mmの長方形の試料片を取り、試料片からシート状物と内側の繊維構造体との界面を長片に平行に約50mm剥がす。剥がしたシート状物と繊維構造体を引張り試験機(例えばテンシロン(製品名))に取り付け、速度200mm/分で引き剥がし、このときの剥離強度を求める。また、繊維構造体に含まれる非弾性捲縮短繊維の単繊維径が前記の範囲内にあるので、吸音特性を損なうことなく優れた剛性が得られる。
【0041】
本発明の吸音材には、通常の染色加工や起毛加工が施されていてもよい。さらには、撥水加工、防炎加工、難燃加工、マイナスイオン発生加工など公知の機能加工が付加されていてもさしつかえない。
次に、本発明の車両用フロアーシートは前記の吸音材を用いているので、優れた吸音特性だけでなく優れた剛性を有しているので、任意の形状を保持することが可能となる。
【実施例】
【0042】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
【0043】
(1)融点
Du Pont社製 熱示差分析計990型を使用し、昇温20℃/分で測定し、融解ピークをもとめた。融解温度が明確に観測されない場合には、微量融点測定装置(柳本製作所製)を用い、ポリマーが軟化して流動を始めた温度(軟化点)を融点とする。なお、n数5でその平均値を求めた。
【0044】
(2)捲縮数
JIS L 1015 7.12に記載の方法により測定した。なお、n数5でその平均値を求めた。
【0045】
(3)B/A
繊維構造体を厚さ方向に切断し、その断面において、厚さ方向に対して平行に配列されている繊維(図2において0°≦θ≦45°)の総本数を(B)とし、繊維構造体の厚さ方向に対して垂直に配列されている繊維(図2において45°<θ≦90°)の総本数を(A)としてB/Aを算出した。なお、本数の測定は、任意の10ヶ所について各々30本の繊維を透過型光学顕微鏡で観察し、その数を数えた。
【0046】
(4)吸音特性(吸音率)
シート状物が音源側に位置するよう試料を配し、吸音率を、JIS−A1405による垂直入射吸音率であって、Bruel&Kjar社製マルチチャンネル分析システム3550型(ソフトウェア:BZ5087型2チャンネル分析ソフトウェア)による2マイクロフォン法で測定した。吸音率は、1000Hz時で比較した。
【0047】
(5)剥離強度
25mm×150mmの長方形の試料片を取り、試料片からシート状物と内側の繊維構造体との界面を長片に平行に約50mm剥した。剥がしたシート状物と繊維構造体を引張り試験機(例えばテンシロン(製品名))に取り付け、速度200mm/分で引き剥がし、このときの剥離強度(N/25mm)を求めた。
【0048】
(6)繊維構造体およびシート状物の厚さ(mm)
JIS K6400により測定した。
【0049】
(7)繊維構造体の密度(kg/m
JIS K6400により測定した。
【0050】
(8)剛性(曲げ強さ)
JIS K7203に準拠して50mm(幅)×150mm(長さ)のサイズの試験片を用い、スパン100mmにて、10mm/分の曲げ速度で最大の曲げ強さを測定し剛性(N/5cm)とした。
【0051】
(9)単繊維径(μm)
電子顕微鏡で350倍に拡大し、n数10で単繊維径を測定し、その平均値を算出した。
【0052】
[実施例1]
非弾性捲縮短繊維として、帝人ファイバー(株)製ポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維(16dtex×64mm、捲縮数9ケ/2.54cm、単繊維断面形状:丸断面) を30重量%、帝人ファイバー(株)製ポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維(2.2dtex×51mm、捲縮数9ケ/2.54cm、単繊維断 面形状:丸断面)を50重量%、熱融着繊維として、融点が150℃の結晶性共重合ポリエステルを鞘成分に配し、通常のポリエチレンテレフタレートを芯 成分に配した、帝人ファイバー(株)芯鞘型熱融着複合繊維(4.4dtex×51mm、単繊維断面形状:丸断面)20重量%を開繊、混綿し、ローラーカード、クロスレイ、ローラーカードの順に通し、次にStruto社製Struto設備を使用し、ウエッブをヒダ折りし大部分の繊維を厚み方向に配列(B/A=4.7)させた後、170℃加熱処理を施し、目付け1000g/m、厚さ30mmの不織布繊維構造体を得た。
【0053】
次に、この繊維構造体、接着性不織布(日東紡社製スパンファブ、目付け30g/m、厚み0.8mm)と目付け30g/m、厚さ0.3mmのスパンボンド不織布(ユニチカ社製)をこの順で積層させながら同時に巻きだしながら、ベルトタイプのラミネート設備を利用して加熱圧着、冷却を実施し吸音材を作製した。評価結果を表1に示す。なお、繊維構造体に含まれる非弾性捲縮短繊維の単繊維径は、40.8μmと18.8μmであった。
また、該吸音材を用いて、自動車車両用フロアーシートを作製した。その際、シート状物は車内側になるよう配した。
【0054】
[実施例2]
実施例1と同様な繊維配合にて400g/m、厚さ20mmの繊維構造体を得た。それ以外は、実施例1と同様にして吸音材を作製した。評価結果を表1に示す。
【0055】
[実施例3]
実施例1と同様の繊維構造体を使用し、次にその繊維構造体の上面に、目付け40g/m、厚さ0.15mmのポリエチレン(PE)フィルム(ジェイフィルム社製、片面にバインダー樹脂を塗布)を積層して加熱圧着して吸音材を作製した。評価結果を表1に示す。
【0056】
[実施例4]
実施例2の繊維構造体の上面に、帝人ファイバー(株)製ポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維(2.2dtex×64mm)を50%、帝人ファイバー(株)製ポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維(2.2dtex×51mm)を50%を開繊、混綿し、ローラーカード、クロスレイ、ローラーカードの順に通し、次にStruto社製Struto設備を使用し、ウエッブをヒダ折りした繊維構造体をベルト式プレス設備による目付200g/m、厚み3mmのシートとした後、接着性不織布(日東紡社製スパンファブ、目付け30g/m、厚み0.8mm)を使用し貼り合せを実施し複合シートを作製した。結果を表1に示す。
【0057】
[比較例1]
実施例1において、クロスレイ後のシートを重ね合わせ、170℃加熱処理を施し、目付け1000g/m、厚さ30mmの不織布繊維構造体を得た。次に、この繊維構造体、接着性不織布(日東紡社製スパンファブ、目付け30g/m、厚み0.8mm)と目付け30g/m、厚さ0.3mmスパンボンド不織布(ユニチカ社製)をこの順に積層させながら同時に巻きだしながら、ベルトタイプのラミネート設備を利用して加熱圧着、冷却を実施し吸音材を作製した。評価結果を表1に示す。
【0058】
[比較例2]
実施例1に記載の繊維構造体単独での評価した。評価結果を表1に示す。
【0059】
[比較例3]
非弾性捲縮短繊維として、0.8dtex×38mm、捲縮12ケ/2.54cm、短繊維断面形状:丸断面)を60重量%、熱融着繊維として、融点が150℃の結晶性共重合ポリエステルを鞘成分に配し、通常のポリエチレンテレフタレートを芯成分に配した、帝人ファイバー(株)芯鞘型熱融着複合繊維(2.2dtex×51mm、単繊維断面形状:丸断面)を40重量%使用し、それ以外は実施例1と同様にして不織布構造体を得た。次に、実施例1と同様のスパンボンド不織布を実施例1と同様に貼り合せて吸音材を作製した。評価結果を表1に示す。なお、繊維構造体に含まれる非弾性捲縮短繊維の単繊維径は、9.1μmと15.0μmであった。
【0060】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、厚さが1mm以上の繊維構造体にシート状物を貼り合せた吸音材であって、吸音特性が極めて良好で、シート状物が剥離しにくく、しかも優れた剛性を有する吸音材および該吸音材を用いてなる車両用フロアーシートが得られ、その工業的価値は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明で使用する熱処理機の一例を示す側面図である。
【図2】B/Aの測定方法を説明するための模式図である。
【図3】シート状物が繊維構造体に接着層を介して貼り合わされている様子を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0063】
1:ウエッブ
2:コンベア
3:ヒーター
4:繊維構造体
5:シート状物
6:接着層
7:繊維構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さが1mm以上の繊維構造体と、該繊維構造体に貼り合わされたシート状物を含む吸音材であって、
前記繊維構造体は、非弾性捲縮短繊維と、該非弾性捲縮短繊維を構成するポリマーよりも40℃以上低い融点を有するポリマーが熱融着成分としてその表面に配された熱接着性複合短繊維とが重量比率で90/10〜30/70となるように混綿され、前記熱接着性複合短繊維同士が交差した状態で熱融着された固着点および/または前記熱接着性複合短繊維と前記非弾性捲縮短繊維とが交差した状態で熱融着された固着点が散在し、かつ前記熱接着性複合短繊維と前記非弾性捲縮短繊維が繊維構造体の厚さ方向に配列してなる繊維構造体であり、
前記非弾性捲縮短繊維の単繊維径が10〜200μmの範囲内であることを特徴とする吸音材。
【請求項2】
前記非弾性捲縮短繊維がポリエステル系繊維からなる、請求項1に記載の吸音材。
【請求項3】
前記熱接着性複合短繊維の熱融着成分が共重合ポリエステルからなる、請求項1または請求項2に記載の吸音材。
【請求項4】
前記の繊維構造体の平均密度が5〜50kg/mの範囲にある、請求項1〜3のいずれかに記載の吸音材。
【請求項5】
前記の繊維構造体の厚さが2〜200mmの範囲内である、請求項1〜3のいずれかに記載の吸音材。
【請求項6】
前記のシート状物が厚さ0.01〜5mmのポリエステル系繊維不織布である、請求項1〜5のいずれかに記載の吸音材。
【請求項7】
前記のシート状物が厚さ0.01〜5mmのポリエステル系樹脂フィルムである、請求項1〜5のいずれかに記載の吸音材。
【請求項8】
前記の繊維構造体とシート状物との剥離強度が5N/25mm以上である、請求項1〜7のいずれかに記載の吸音材。
【請求項9】
前記のシート状物が音源側に配されてなる、請求項1〜8のいずれかに記載の吸音材。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の吸音材を用いてなる車両用フロアーシート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−68799(P2008−68799A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−250816(P2006−250816)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】