説明

吸音材

【課題】
植物由来原料を用いることにより環境への負荷を低減するとともに、建築材料及び自動車内装材などの、今まで吸音材として使用不可能であった曲げ強度が必要とされる最表層材や内面材などの幅広い用途で使用可能な吸音性及び強度に優れた吸音材を提供する。
【解決手段】
本発明の吸音材は、平均繊維長が5〜100mmの範囲内の天然繊維にバインダとしてポリ乳酸系樹脂が混在し、かつ、見かけ密度が0.2〜0.6g/cm以内の範囲内にある繊維系ボードの表面に、通気度が0.01〜5mL/cm2・secの範囲内のシート状物を貼り付けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物由来原料を用いることにより大気中のCO濃度増加の抑制、石油可採年数の延長や、マテリアルリサイクル、サマーリサイクル、バイオリサイクルなどのリサイクルが可能な環境に優しい、しかも吸音性と曲げ強度とに優れた吸音材に関するものである。本発明の吸音材は、従来、吸音材として使用不可能であった、曲げ強度が必要とされる例えば建築材料や自動車内装材分野における最表層材や内面材などの幅広い分野で用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、建築材料などに使用される吸音材としては、例えば鉱物由来のアスベスト、ガラス繊維からなるグラスウール等の無機繊維が多く用いられてきた。また、自動車内装材には、石油由来の不織布や発泡体などが吸音材として使用されてきた。
【0003】
しかしながら、前述の無機繊維は、鉱物やガラスの極細繊維が用いられていることから、現在、作業環境の汚染、作業者、使用者への健康障害、さらには廃棄処理の困難性が問題となっている。また、前述の不織布や発泡体は石油由来原料であるため、環境への負荷が少なくないなどの問題があった。さらには、例えば建築材料や自動車内装材用途の吸音材に要求される強度としては、施工性や搬送性、また使用時の耐久性を考慮すると、その曲げ強度はおおよそ80〜8000N/cm程度のものがほしいところであるが、これらの不織布や発泡体は曲げ強度が低く、吸音材の用途が限定されていた。
【0004】
このような従来技術の問題点に対して、近年では天然繊維にバインダとして植物由来のポリ乳酸が混在した繊維系ボードが提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、このボードは天然繊維とポリ乳酸を使用しているため、環境負荷が少ないという効果を有するものの、この文献で規定されている見かけ密度が0.2g/cm以上という範囲では優れた吸音性は得られない。このように、繊維系ボードのみでは優れた吸音性は得られない。
【0005】
また、植物繊維を熱可塑性樹脂で結着した成形体が提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、この成形体の結着材は熱可塑性樹脂であるものの、この文献で規定されている熱可塑性樹脂はポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミドなどの石油系であることから、環境への負荷が少なくないという問題があった。また、このような成形体のみでは優れた吸音性は得られない。
【0006】
また、特許文献3には、天然繊維と生分解性繊維とからなる生分解性樹脂成形体が示されている。これは、成形体中の繊維間空間に開口性の膜を膜形成剤により形成し、この膜に通気抵抗を付与して吸音効果を高めたものである。この文献によると、低・中周波数域である2kHz以下の吸音効果が改善されてはいるが、2kHzで吸音効果が約0.75では低・中周波数域の優れた吸音材とは言えない。
【0007】
一方、有機繊維の不織布の表面に、通気量が0.01〜30mL/cm2・secの紙が積層された吸音材(特許文献4参照)や、有機繊維からなる不織布の表面に通気量が0.01〜10mL/cm2・secの紙が積層された吸音材(特許文献5参照)が開示されている。しかしながら、これら不織布は、いずれも有機繊維であるポリエステルやアラミド繊維などの石油系繊維を使用していることから、環境への負荷が少なくないという問題があった。さらに、これら不織布は曲げ強度が低いことから、それ自体が強度を有する補強材に貼り付けるという使用方法のみであり、吸音材としての用途が限定されていた。
【特許文献1】特開2004−130796号公報(請求項1)
【特許文献2】特開平01−174661号公報(請求項1、第2頁右上欄第8〜10行)
【特許文献3】特開2002−337144号公報(請求項1、図2)
【特許文献4】特開2005−208599号公報(請求項1〜5)
【特許文献5】特開2005−195637号公報(請求項1〜4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、かかる従来技術の欠点に鑑み、植物由来原料を用いることにより環境への負荷を低減できるとともに、例えば建築材料や自動車内装材などの、今まで吸音材としては強度が低いがために使用不可能であった、強度が必要とされる最表層材や内面材などの幅広い用途で用いられる吸音材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、かかる課題を解決するために、次の手段を採用する。
(1)平均繊維長が5〜100mmの範囲内の天然繊維にバインダとしてポリ乳酸系樹脂が混在し、かつ、見かけ密度が0.2〜0.6g/cmの範囲内である繊維系ボードの表面に、通気度が0.01〜5mL/cm2・secの範囲内のシート状物を貼り付けたことを特徴とする吸音材。
(2)JIS A 5905(2003)に基づいて測定された曲げ強さが80〜8000N/cmの範囲内である前記(1)に記載の吸音材。
(3)前記繊維系ボードと、シート状物との接着面積比率が35%以下である前記(1)又は(2)に記載の吸音材。
(4)前記シート状物が紙である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の吸音材。
(5)前記紙が木質パルプ紙である前記(1)〜(4)のいずれかに記載の吸音材。
(6)天然由来原料を全重量に対して95重量%以上含む前記(1)〜(5)のいずれかに記載の吸音材。
(7)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の吸音材を用いた建築材料又は自動車内装材。
【発明の効果】
【0010】
本発明の吸音材によれば、平均繊維長が5〜100mmの範囲内の天然繊維にバインダとしてポリ乳酸系樹脂が混在し、かつ、見かけ密度が0.2〜0.6g/cmの範囲内である繊維系ボードの表面に、通気度が0.01〜5mL/cm2・secの範囲内のシート状物を貼り付けたので、環境への負荷が低減できるとともに、曲げ強度と吸音性が向上し、今まで吸音材として使用不可能であった曲げ強度が必要とされる例えば建築材料や自動車内装材分野の最表層材や内面材などの幅広い用途で用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0012】
本発明の吸音材は、前述したとおり、平均繊維長が5〜100mmの範囲内の天然繊維にバインダとしてポリ乳酸系樹脂が混在し、かつ、見かけ密度が0.2〜0.6g/cmの範囲内にある繊維系ボードの表面に、通気度が0.01〜5cc/cm/secの範囲内のシート状物を貼り付けたことに特徴を有する。前述したように、生分解性繊維で構成される繊維ボードの見かけ密度や通気度を限定し、これに通気性のあるシート状物を積層した吸音材は、従来技術に散見されるが、本発明者らは、これらの条件を全て同時に満足させるとともに、特に強度を高める工夫をしたことにより、環境への負荷を低減できることは勿論、曲げ強度と吸音性に優れた建築材料及び自動車内装材用途の吸音材が得られることを見出した。
【0013】
本発明の吸音材を構成する繊維系ボードは、石油由来原料の使用比率を低減させ環境負荷を低減する観点から、天然繊維を用いることが必要である。よって、従来の石油を原料としたポリエステル短繊維やナイロン短繊維は、前記の観点より好ましくない。
【0014】
天然繊維としては、その中でもセルロース系繊維であることが好ましい。例えば、木質系や草本系のセルロース系繊維である。そして、強度の高い保温材を得るには、できるだけ繊維長の長いセルロース系繊維を用いることが好ましい。そのような繊維としては、具体的には、木材パルプ、バガス、ムギワラ、アシ、パピルス、タケ類等のイネ科植物、パルプ、木綿、ケナフ、ローゼル、アサ、アマ、ラミー、ジュート、ヘンプ、まお等の靭皮繊維、サイザルアサおよびマニラアサ等の葉脈繊維等であり、これらを単独で用いても良いがこれらの中から選ばれる1種以上の繊維が含まれていることが好ましい。これらのうちでも、比較的繊維長が長く、一年草であって熱帯地方及び温帯地方での成長が極めて早く容易に栽培できる草本類に属するケナフあるいはジュートから採取される繊維を採用すると、曲げ強度に優れた吸音材を得ることができる。特に、ケナフの靭皮にはセルロースが60%以上と高い含有率で存在しており、かつ高い強度を有していることから、ケナフ靭皮から採取されるケナフ繊維を用いることが好ましい。
【0015】
本発明では上記天然繊維は、その平均繊維長が5〜100mmの範囲内であることが必要である。これら一定の繊維長の、すなわち短繊維の天然繊維で繊維系ボードを構成することにより、優れた強度の繊維系ボードを得ることが可能となる。本発明者らは、短繊維の繊維長を5mm以上とすることにより、曲げ強度は勿論、吸音材施工時の施工性や搬送性、また使用時の耐久性をも満足するに必要な強度を有する繊維系ボードが得られることを見出した。短繊維長が5mmを下回ると上記用途において必要とされる強度を得ることができない。一方、短繊維長が100mmを超えると、繊維系ボードの製造において、短繊維とポリ乳酸樹脂とを均一に分散させることが困難となり、生産性が低下すると共に強度が不均一となり、部分的に強度が低下する恐れがある。強度を発現させるためのより好ましい天然繊維の平均繊維長は、20〜100mm、最も好ましい範囲は50〜100mmである。
【0016】
ここで、施工時の搬送性、使用時の耐久性を満足するに必要な曲げ強度とは、JIS A 5905:2003に準拠して測定される曲げ強さにおいて、80〜8000N/mの範囲内のものを指す。より好ましい曲げ強度は、100〜8000N/m、最も好ましい範囲は500〜8000N/mである。
【0017】
また、本発明では上記の短繊維を結合されるためのバインダ(結合剤)として、ポリ乳酸樹脂を用いる必要がある。ポリ乳酸樹脂を用いると強度に優れた繊維系ボードを得ることができると同時に、石油系原料の使用比率を低下させ、環境負荷を低減できるからである。ポリ乳酸樹脂は、非石油系原料、すなわちトウモロコシなどの植物を原料とするものであり、製造工程においても石油系の溶剤をほとんど使用しないために、繊維系ボードの製造、使用および廃棄の階段を全体で考えたとき、環境への負荷を少なくすることができるものである。また、ポリ乳酸樹脂は、生分解性プラスチックの中でも強度が高く、融点が170℃程度と適度な耐熱性を有すると共に、成形性に優れ、他の天然繊維や木質系材料との接着性も優れている。
【0018】
ポリ乳酸樹脂としては、ポリ乳酸ホモポリマーの他、乳酸コポリマーおよびブレンドポリマー等の乳酸系ポリマーが含まれている。乳酸系ポリマーの重量平均分子量は、一般に5〜50万である。また、ポリ乳酸樹脂におけるL−乳酸単位とD−乳酸単位の構成モル比L/Dは、100/0〜0/100のいずれであっても良いが、高い融点を得るにはL乳酸あるいはD乳酸のいずれかの単位を90モル%以上含むことが好ましい。
【0019】
また、ポリ乳酸樹脂には、カルボジイミド化合物を添加することが好ましい。乳酸系ポリマーまたはこれに含まれるオリゴマーの反応活性末端を不活性化し、ポリ乳酸系樹脂の加水分解を抑制するものである。従って、高温や高湿環境下で使用された場合に劣化しにくい繊維系ボードを得るために好適なポリ乳酸樹脂を得ることが可能となる。ここで言うカルボジイミド化合物としては、例えば、ジイソシアネート化合物を重合したものが好適に用いられるが、中でも4,4−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミドの重合体やテトラメチルキシリレンカルボジイミドの重合体やその末端をポリエチレングリコールなどで封鎖したカルボジイミド化合物が好ましく用いられる。
【0020】
また、ポリ乳酸樹脂の全重量に対して0.1〜20重量%の結晶核剤を含有させることにより、結合剤であるポリ乳酸の結晶核の形成を促進させ、繊維系ボードの曲げ強度を向上することができる。結晶核剤としては、一般にポリマーの結晶核剤として用いられるものを用いることができ、本発明で使用する結晶核剤としては、ポリ乳酸樹脂中に均一に分散し効率良く結晶核を形成できる点で特にタルクが好ましい。タルクの平均粒径としては好ましくは分散性の点から0.5〜7μmであり、例えば燃焼時の損失分を除いた成分中のSiOとMgOの割合が93重量%以上であるタルクを挙げることができる。本発明で使用する結晶核剤は、1種のみでもよくまた2種以上の併用を行ってもよい。
【0021】
前述のとおり、繊維系ボードは、植物由来のポリ乳酸樹脂や、好ましくはセルロース系繊維などの天然繊維を含むものであるが、環境負荷低減の観点から、前記の天然由来原料を繊維系ボード全重量に対して95重量%以上含むことが好ましく、植物由来原料のみからなる繊維系ボードであることがより好ましい。
【0022】
かくして成る繊維系ボードは、その見かけ密度が0.2〜0.6g/cmの範囲内であることが、目標とする吸音性を得るために必要である。見かけ密度を0.6g/cm以下にすることで多孔質性のボードが形成され、音波が孔を通り抜ける際に孔壁付近で空気の乱流が発生する。この乱流が音波を摩擦エネルギーに変化させることで吸音作用が行われ、吸音材として必要な吸音率が得られ、かつ、軽量な繊維系ボードを得ることが可能となる。一方、見かけ密度が0.6g/cmを上回るとボード内部の空隙が少なくなり必要とする吸音率が得られなくなり、また、軽量性が失われるために好ましくない。また、見かけ密度が0.2g/cmを下回ると強度が失われるため好ましくない。
【0023】
繊維系ボードは、少なくとも片面にシート状物が例えば熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の接着剤で一体に貼り合わせられて本発明の吸音材を構成する。
【0024】
シート状物としては、例えば、紙、フィルム、布帛等が好ましく、いずれのものでもよいがその通気度は0.01〜5mL/cm2・secの範囲内であることが必要である。ボード表面にシート状物を貼り付けることにより、シート状物が音波により振動する。この際に通気孔内で音波を振動エネルギーに変化させることで吸音作用が行われ、前述の繊維系ボード自体の吸音作用と相まって、吸音材全体として優れた吸音性が得られる。
【0025】
更に優れた吸音性を得る場合には、繊維ボードとシート状物層間での接着面積比率を35%以下にすることで、音波によるシート状物の振動面積を増加させることができ、これにより吸音性能が向上し、厳しい吸音性が要求される建築材料、自動車内装材用吸音材などに適用することが可能となる。
【0026】
本発明の吸音材の厚さは、厳しい吸音性が要求される建築材料、自動車内装材用吸音材などに適用する場合、10mm以上であることが好ましい。
【0027】
次に、本発明の吸音材を得るための好ましい製造方法を説明する。
【0028】
まず、公知のカット方法で得たポリ乳酸からなる平均繊維長が20〜100mm程度の短繊維と、平均繊維長が5〜100mmの範囲内の天然繊維とを準備する。これら両繊維を混合比率が10:90〜60:40の範囲内になるように取り分け、オープナー、ローラーカード、ニードルパンチングマシン、などの装置により混綿、開繊及び繊維間を絡合させて布状の不織布を得る。この工程でポリ乳酸樹脂を短繊維状として混綿、開繊しているので、ポリ乳酸樹脂と天然繊維とを均一に分散させることができ、均一な吸音孔が形成される。
【0029】
混合して得られた布状物を、表面温度が170〜220℃に加熱された熱板で挟んだ後、圧力が0.5〜10MPa程度になるように圧縮するか、またはこれら加熱と圧縮を同時に行うことで板状のボードに成形する。この際、布状物は適当なスペーサを介して1〜150段程度の複数段にしたうえで纏めて過熱及び圧縮を同時に行い、これら条件を適宜操作することにより前述の見かけ密度、曲げ強度及び厚みを有する繊維系ボードを得る。しかし、圧力が0.5〜10MPa程度の圧縮時の加熱温度が170℃未満では、ポリ乳酸繊維が溶融せずボード全体にバインダが行きわたらない。また、加熱温度が220℃以上ではボードに焦げが発生し、天然繊維の強度が落ちることから、施工性や搬送性、また使用時の耐久性に必要な強度が得られない可能性がある。
【0030】
次にこの繊維系ボードの表面に、シート状物を接着剤で接着する。接着剤としては例えば熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などを用い、以下の接着方法により接着する。
【0031】
例えば、繊維系ボード成形後、ボード表面に樹脂溶液を等間隔に置き、シート状物を接着面積比率35%以下となるように貼り付けるのである。また、接着面積比率を低下させるために樹脂溶液をボードの端部のみに置き、シート状物を貼り付けることもできる。この場合、前記樹脂溶液はポリ乳酸樹脂であることが好ましい。一方、ボードの表面にシート状物を置き、その上から接着面積比率35%以下となるように等間隔に加熱溶融した接着樹脂を塗布し、冷却によって固化させるというホットメルト接着法でもよい。さらには、接着面積比率を抑えるためにボードの端部のみをホットメルト接着法により接着させてもよい。また、生産性を高めたい場合には、前記ポリ乳酸短繊維と天然繊維との布状物、又は前記布状物の積層体の表裏面、あるいは表面か裏面のいずれかにシート状物を積層し、加熱した後圧縮するが、加熱と圧縮を同時に行うことにより、布状物中のポリ乳酸を溶融させ、シート状物を貼り付けても良い。
【0032】
なお、シート状物の通気度は、厚さを操作することにより0.01〜5mL/cm2・secの範囲内に調整できる。以上により、本発明の吸音材が得られる。
【0033】
本発明の吸音材は、曲げ強度が低いがために今まで吸音材として使用不可能であった、例えば建築材料及び自動車内装材分野などの曲げ強度が必要とされる最表層材や内面材などに好適に用いることができる。
【実施例】
【0034】
以上、実施例によって本発明の吸音材について、更に詳細に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0035】
[測定方法]
(1)平均繊維長
JIS A 1015:1999 8.4.1に準じて測定した。
試料を800mg量り取り、ステープルダイヤグラムを作成し、図記したステープルダイヤグラムを50の繊維長群に等分し、各区分の境界及び両端の繊維長を測定し、両端繊維長の平均に49の境界繊維長を加えて50で除し、平均繊維長(mm)を算出し、2回の平均値をとった。
【0036】
(2)見かけ密度
JIS A 5905:2003 6.3に準じて測定した。
繊維系ボードを温度20℃、湿度65%RHの標準状態にて24hr放置後、10cm×10cmの試験片を3枚切り出した。
1枚の試験片について、上記規定中図5に示す測定箇所の幅、長さ及び厚さを測定し、それぞれについての平均値を求め試験片の幅、長さ及び厚さとし、体積(v)を求めた。次に、質量(m)を測定し、次式によって算出した。厚さは0.05mm、幅及び長さは0.1mm、質量は0.1gの精度まで測定し、密度は0.01g/cm単位まで算出した。
1枚の試験片ごとに密度を求めた上で、3枚の試験片の平均値を求めた。
密度(g/cm)=m/v
ここに、m:質量(g)
v:体積(cm)。
【0037】
(3)曲げ強さ
JIS A 5905:2003 6.6に準じて測定した。繊維系ボードから、縦方向および横方向のそれぞれについて、幅50mm、長さ150mmの試験片を3枚ずつ採取した。上記規定に準じた曲げ強さ試験装置(支点及び荷重作用点の曲率半径はそれぞれ5.0mm)に、スパン(L)100mmとして試験片を設置し、スパンの中間位置にて試験片の表面から平均変形速度50mm/分の荷重を加え、その最大荷重(P)を測定し、次式によって曲げ強さを求め、6枚の平均値を算出した。
曲げ強さ(MPa)=3PL/2bt
ここに、P:最大荷重(N)
L:スパン(mm)
b:試験片の幅(mm)
t:試験片の厚さ(mm)。
【0038】
(4)通気量
JIS L 1096−1999 8.27.1 A法(フラジール形法)に準じて測定した。試料の異なる5か所から約20cm×20cmの試験片を採取し、フラジール形試験機を用い、円筒の一端(吸気側)に試験片を取り付けた。試験片の取り付けに際し、円筒の上に試験片を置き、試験片上から吸気部分を塞がないように均等に約98N(10kgf)の荷重を加え試験片の取り付け部におけるエアーの漏れを防止した。試験片を取り付けた後、加減抵抗器によって傾斜形気圧計が125Paの圧力を示すように吸込みファンを調整し、そのときの垂直形気圧計の示す圧力と、使用した空気孔の種類とから、試験機に付属の表によって試験片を通過する空気量を求め、5枚の試験片についての平均値を算出した。
【0039】
(5)吸音材の吸音率
JIS A 1405:1998に拠って垂直入射吸音率を測定した。
試料から直径90mmの円形の試験片を3枚採取した。
試験装置としては、電子測器株式会社製の自動垂直入射吸音率測定器(型式10041A)を用いた。この試験装置におけるインピーダンス管は、外径101.6mm、内径91.6mm、全長2160mmであった。
試験片を、インピーダンス管の一端に金属反射板との間に空気層がないように設置した。そして、100〜2000Hzの周波数域の音波を段階的に試験片に垂直に入射させ、その周波数の平面波について入射音響パワーに対して試験体表面に入る(戻ってこない)音響パワーの比を測定し、3枚の試験片についての平均値を算出した。
【0040】
(6)接着面積比率
前記吸音率測定に用いた紙積層繊維系ボードとシート状物との接着面積比率を次の方法で求めた。
【0041】
シート状物として紙を積層した吸音材から紙を全て剥離した後、前記紙に付着した接着剤より、mm単位の透明な方眼フィルムを用いて接着面積を測定した。まず、透明なフィルムに1mmの距離を置いて直角に交わる縦線と横線を引き、多数の1mm角の正方形が描いた透明な方眼フィルムを作成した。線の太さは0.28mmとした。次に前記方眼フィルムを前記シート状物に当て、接着部分の1mm角正方形の数を測定し、正方形の合計より接着面積を算定した。この場合、1mmに満たない接着剤部分は接着していないものとみなした。なお、シート状物に接着剤が付着しない場合は、シート状物を剥離した後の繊維系ボード表面より前記方眼シートを用いて同様の方法で求める。また、繊維系ボード表面とシート状物とにそれぞれ接着剤が残った場合は、繊維系ボード及びシート状物の両方より前期方眼シートを用いて同様の方法で接着面積を求める。以上より、接着面積比率を下記の式より求めた。
接着面積比率(%)=接着面積(m)/繊維系ボードの全表面積(m)×100。
【0042】
(実施例1)
ポリ乳酸樹脂を公知の方法で繊維化し、捲縮付与後カットして短繊維が繊度6.6デシテックスで、平均繊維長が51mmのポリ乳酸短繊維を得た。一方、平均繊維長が75mmのケナフの靭皮繊維を用意した。このポリ乳酸短繊維とケナフ靭皮繊維とを30:70の重量比でローラーカードを用いて混綿し、開繊して不織布を得た。この不織布を25枚積層し、目付2352g/mの積層体を得た。2枚の鉄板の間に10mmのスペンサーと共に挟み、200℃の温度の加熱下のプレス機で圧力2.4MPa、10分間加熱加圧成形を行った。得られた繊維系ボードの重量は2294g/mであり、厚さは8.8mmであり、見かけ密度は0.24g/cmであった。得られた繊維系ボードに厚みが91μmであり、通気度が0.15mL/cm2・secのパルプ紙を接着面積比率14%になるように幅15mm、長さ15mmの大きさに接着剤として熱可塑性の樹脂溶液をボード表面に60mm間隔で点状に置いて紙と接着し、本発明の吸音材を得た。なお、この際の接着面積比率は14.1%であった。
【0043】
このようにして、得られた紙積層吸音材の特性を表1に示した。この紙積層吸音材は、曲げ強さと吸音性に満足のいくものであった。
【0044】
(実施例2)
実施例1の不織布を用い、この不織布を33枚積層し、目付3316g/mの積層体を得た。この積層体を実施例1と同一の方法にて加圧成形し、重量が3249g/mであり、厚さが9.5mmであり、見かけ密度が0.33g/cmの繊維系ボードを得た。得られた繊維系ボードに厚みが91μmであり、通気度が0.15mL/cm2・secのパルプ紙を接着面積比率14%になるように幅15mm、長さ15mmの大きさに樹脂溶液をボード表面に60mm間隔で置いて紙と接着し、本発明の吸音材を得た。
【0045】
なお、この際の接着面積比率は14.5%であった。このようにして、得られた紙積層吸音材の特性を表1に示した。この紙積層吸音材は、曲げ強さと吸音性に優れたものであった。
【0046】
(実施例3)
実施例1の不織布を用い、この不織布を44枚積層し、目付4443g/mの積層体を得た。この積層体を実施例1と同一の方法にて加圧成形し、重量が4354g/mであり、厚さが9.8mmであり、見かけ密度が0.42g/cmの繊維系ボードを得た。得られた繊維系ボードに厚みが91μmであり、通気度が0.15mL/cm2・secのパルプ紙を接着面積比率14%になるように幅15mm、長さ15mmの大きさに樹脂溶液をボード表面に60mm間隔で置き、紙と接着した。この際の接着面積比率は14.1%であった。このようにして、得られた紙積層吸音材の特性を表1に示した。この紙積層吸音材は、特に曲げ強さが1762N/cmと大きい上、吸音性にも優れたものであった。
【0047】
(実施例4)
実施例1の不織布を用い、この不織布を56枚積層し、目付5811g/mの積層体を得た。この積層体を実施例1と同一の方法にて加圧成形し、重量が5694g/mであり、厚さが10.2mmであり、見かけ密度が0.57g/cmの繊維系ボードを得た。得られた繊維系ボードに厚みが91μmであり、通気度が0.15mL/cm2・secのパルプ紙を接着面積比率14%になるように幅15mm、長さ15mmの大きさに樹脂溶液をボード表面に60mm間隔で置き、紙と接着した。この際の接着面積比率は14.3%であった。このようにして、得られた紙積層吸音材の特性を表1に示した。この紙積層吸音材は、特に曲げ強さが実施例中2811N/cmと大きく、吸音性にも優れたものであった。
【0048】
(比較例1)
実施例1の不織布を用い、この不織布を7枚積層し、目付654g/mの積層体を得た。この積層体を実施例1と同一の方法にて加圧成形し、重量が644g/mであり、厚さが8.7mmであり、見かけ密度が0.07g/cmの繊維系ボードを得た。得られた繊維系ボードに厚みが91μmであり、通気度が0.15mL/cm2・secのパルプ紙を接着面積比率14%になるように幅15mm、長さ15mmの大きさに樹脂溶液をボード表面に60mm間隔で置いて紙と接着し、本発明の吸音材を得た。この際の接着面積比率は13.9%であった。
【0049】
このようにして、得られた紙積層吸音材の特性を表1に示した。この紙積層吸音材は、吸音性に優れていたが、見かけ密度が低く、曲げ強さに劣るものであった。
【0050】
(比較例2)
実施例1の不織布を用い、この不織布を75枚積層し、目付7694g/mの積層体を得た。この積層体を実施例1と同一の方法にて加圧成形し、重量が7486g/mであり、厚さが11.0mmであり、見かけ密度が0.78g/cmの繊維系ボードを得た。得られた繊維系ボードに厚みが91μmであり、通気度が0.15cc/cm/secのパルプ紙を接着面積比率14%になるように幅15mm、長さ15mmの大きさに樹脂溶液をボード表面に60mm間隔で置いて紙と接着し、本発明の吸音材を得た。この際の接着面積比率は14.2%であった。
【0051】
このようにして、得られた紙積層吸音材の特性を表1に示した。この紙積層吸音材は、曲げ強さには優れていたが、繊維系ボードの見かけ密度が高すぎたため吸音性に劣るものであった。
【0052】
(比較例3)
繊維長75mmのケナフ靭皮繊維を5mm径のスクリーンを有する粉砕機に投入し、平均繊維長3mmのケナフ靭皮繊維を得た。ポリ乳酸樹脂を公知の方法で繊維化し、捲縮付与後カットして繊度6.6デシテックス、長さ5mmのポリ乳酸短繊維を得た。得られたケナフ靭皮繊維とポリ乳酸短繊維とをそれぞれ70:30の重量比でハンマーミルに投入し、混合して前記原料の混合物を得た。この混合物をベルトコンベアの上にフォーミングし、2枚の鉄板の間に10mmのスペーサーと共に挟み、200℃加熱下のプレス機で圧力2.4MPa、10分間加熱加圧成型を行った。得られた繊維系ボードの厚さは9.7mm、密度は0.34g/cmであった。得られた繊維系ボードに厚みが91μmであり、通気度が0.15mL/cm2・secのパルプ紙を接着面積比率14%になるように幅15mm、長さ15mmの大きさに樹脂溶液をボード表面に60mm間隔で置いて紙と接着し、本発明の吸音材を得た。この際の接着面積比率は14.2%であった。
【0053】
このようにして、得られた紙積層吸音材の特性を表1に示した。この紙積層吸音材は、吸音性に優れていたが、ケナフ靭皮繊維の平均繊維長が3mmと極端に短いものであったため、曲げ強さに劣るものであった。
【0054】
(比較例4)
実施例1の不織布を用い、この不織布を56枚積層し、目付5811g/mの積層体を得た。この積層体を実施例1と同一の方法にて加圧成形し、重量が5694g/mであり、厚さが10.2mmであり、見かけ密度が0.57g/cmの繊維系ボードを得た。得られた繊維系ボードに厚みが95μmであり、通気度が48.6mL/cm2・secのパルプ紙を接着面積比率14%になるように幅15mm、長さ15mmの大きさに樹脂溶液をボード表面に60mm間隔で置き、紙と接着した。この際の接着面積比率は14.3%であった。
【0055】
このようにして、得られた紙積層吸音材の特性を表1に示した。この紙積層吸音材は、曲げ強さに優れているが、通気度が高すぎるため吸音性にやや劣るものであった。
【0056】
以上の実施例と比較例の値を纏めたのが次の表1である。
【0057】
【表1】

【0058】
なお、この表の総合評価欄において、「◎」印は周波数2000Hzの垂直吸音率が0.80以上で、かつ、曲げ強さが100N/cm以上の場合を、「○」印は周波数2000Hzの垂直吸音率が0.70以上で、かつ、曲げ強さが50N/cm以上の場合を、「×」印は周波数2000Hzの垂直吸音率が0.70未満であるか、又は曲げ強さが50N/cm未満の場合とした。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の吸音材は建築材料及び自動車内装材などの吸音材として好適に用いることができる。また、強度を有することで上記分野に限らず幅広い用途に用いられるが、特に曲げ強度が必要とされる最表層材や内面材に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維長が5〜100mmの範囲内の天然繊維にバインダとしてポリ乳酸系樹脂が混在し、かつ、見かけ密度が0.2〜0.6g/cmの範囲内である繊維系ボードの表面に、通気度が0.01〜5mL/cm2・secの範囲内のシート状物を貼り付けたことを特徴とする吸音材。
【請求項2】
JIS A 5905(2003)に基づいて測定した曲げ強さが80〜8000N/cmの範囲内である請求項1に記載の吸音材。
【請求項3】
前記繊維系ボードと、シート状物との接着面積比率が35%以下である請求項1又は2に記載の吸音材。
【請求項4】
前記シート状物が紙である請求項1〜3のいずれかに記載の吸音材。
【請求項5】
前記紙が木質パルプ紙である請求項1〜4のいずれかに記載の吸音材。
【請求項6】
天然由来原料を全重量に対して95重量%以上含む請求項1〜5のいずれかに記載の吸音材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の吸音材を用いた建築材料又は自動車内装材。

【公開番号】特開2007−223273(P2007−223273A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−49858(P2006−49858)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】