説明

周波数シンセサイザおよび時間デジタル変換器

【課題】周波数シンセサイザにおいて、ループ帯域内位相ノイズの低減を小面積かつ低電流の構成で実現する。
【解決手段】周波数シンセサイザは、発振器1と、発振器1出力の分周信号CKVと参照信号Frefとの正規化された位相差を検出するTDC回路7とを備え、TDC回路7によって検出された正規化された位相差に基づいて発振器1の周波数を制御する。TDC回路7は、第2の発振器711と、第2の発振器711の出力信号OSC2の周期数をカウントするカウンタ712とを備え、カウンタ712の出力から、分周信号CKVの周期に相当するカウンタ値と、分周信号CKVと参照信号Frefとの位相差に相当するカウンタ値とを得て、これらのカウンタ値に基づいて、正規化された位相差を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時間デジタル変換器(TDC:Time-to-Digital Converter)を含むPLL回路を用いた周波数シンセサイザに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の微細化、高速化に伴い、位相比較をアナログ的な時間差ではなく、デジタル値によって制御するPLL回路を用いた周波数シンセサイザが検討されている(例えば、特許文献1〜3を参照。)。
【0003】
例えば、特許文献1,2に開示された周波数シンセサイザは、位相差検出の分解能を向上させるために、基準周波数信号と発振周波数信号との微小な位相差をデジタル値に変換する時間デジタル変換器を備えている。
【0004】
図27は特許文献1,2に開示された時間デジタル変換器の構成を示す。図27に示す時間デジタル変換器は、基準周波数信号Frefと発振周波数信号CKVとの位相差を正規化された位相差εとして出力する。正規化された位相差εとは、信号FREFと信号CKVとの位相差が信号CKVの周期に対して占める割合を表したものである。201は遅延素子、202はラッチレジスタ、203はエッジ検出器である。エッジ検出器203は位相差に関するデジタル値204,205を出力する。
【0005】
図28は正規化された位相差εの算出方法を説明するための図である。図28に示すように、基準周波数信号Frefと発振周波数信号CKVとに位相差がある状態は、信号Frefの立ち上がりエッジが信号CKVのHigh期間にある場合(a:Positive Phase Error)と、信号Frefの立ち上がりエッジが信号CKVのLow期間にある場合(b:Negative Phase Error)との2通りに分けられる。位相差の算出には、信号FREFの立ち上がりエッジから信号CKVの立ち上がりエッジまでの時間である立ち上がりエッジ遅れ時間Δtrと、信号FREFの立ち上がりエッジから信号CKVの立ち下がりエッジまでの時間である立ち下がりエッジ遅れ時間Δtfとが用いられる。時間Δtr,Δtfは、図27の時間デジタル変換器によって求められ、遅延素子201の1段あたりの遅延時間Δtで量子化される。
【0006】
図28(a)に示すPositive Phase Errorの場合は、
ε=Δtr/2(Δtf−Δtr)
と表される。一方、図28(b)に示すNegative Phase Errorの場合は、
ε=Δtr/2(Δtr−Δtf)
と表される。このようにして、正規化された位相差ε、すなわち、信号FREFと信号CKVとの位相差が信号CKVの周期に対して占める割合を算出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6429693号公報
【特許文献2】特開2002−76886号公報
【特許文献3】米国特許第6326851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、正規化された位相差εは、量子化された時間Δtr,Δtfを基にして算出される。この場合、位相差εの値の精度、すなわち時間デジタル変換器の解像度ΔtTDCは、遅延素子1段あたりの遅延に依存し、遅延素子1段あたりの遅延が小さいほど、時間デジタル変換器の解像度ΔtTDCは小さくなり、位相差εの算出精度が向上する。
【0009】
また、解像度ΔtTDCは、下式にように、時間デジタル変換器における量子化ノイズLを決定する。そしてこの量子化ノイズLが、周波数シンセサイザにおいて、ループゲイン調整手段により決定される周波数帯域内の低周波の位相ノイズ、すなわち、ループ帯域内位相ノイズを決定している。
【数1】

【0010】
近年、無線通信機器などの高性能化により、周波数シンセサイザの低雑音化が課題となってきている。上述したような時間デジタル変換器を用いた周波数シンセサイザにおいて、ループ帯域内位相ノイズを削減するためには、解像度ΔtTDCを小さくする必要がある。そのためには、遅延素子1段当たりの遅延はなるべく小さい方が好ましい。
【0011】
一方で、信号FREFと信号CKVとがどのような位相関係にあっても位相差εを算出できるようにするためには、例えば、
(CKVの周期)×1.5≦(遅延素子1段当たりの遅延)×(遅延素子の段数)
という条件を満たさなければならない。したがって、遅延素子1段当たりの遅延が小さくなればなるほど、遅延素子の段数がより多く必要になる。遅延素子の段数の増大は、回路の消費電流や面積の増大を招くことになり、好ましくない。
【0012】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、ループ帯域内位相ノイズの低減を小面積かつ低電流の構成で実現可能な周波数シンセサイザを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1態様では、周波数シンセサイザは、第1の発振器と、前記第1の発振器の出力信号またはその分周信号である対象信号と、参照信号との、正規化された位相差を検出するTDC回路とを備え、前記TDC回路によって検出された正規化された位相差に基づいて、前記第1の発振器の発振周波数を制御するものであり、前記TDC回路は、第2の発振器と、前記第2の発振器の出力信号の周期数をカウントするカウンタとを備え、前記カウンタの出力から、前記対象信号の周期に相当するカウンタ値と、前記対象信号と前記参照信号との位相差に相当するカウンタ値とを得て、これらのカウンタ値に基づいて、前記正規化された位相差を算出する。
【0014】
この態様によると、位相差検出を行うTDC回路が、第2の発振器と、この第2の発振器の出力信号の周期数をカウントするカウンタとを備えている。そして、このカウンタの出力から、対象信号の周期に相当するカウンタ値と、対象信号と参照信号との位相差に相当するカウンタ値とが得られ、これらのカウンタ値に基づいて、正規化された位相差が算出される。すなわち、位相差検出の手法が従来構成と異なっており、位相差解像度を小さくする場合において、従来構成のように、遅延素子の段数を増大させる必要がない。したがって、小面積かつ低電流であり、ループ帯域内位相ノイズの低減を実現可能な周波数シンセサイザを実現することができる。
【0015】
本発明の第2態様では、周波数シンセサイザは、発振器と、前記発振器の出力信号を分周する分周器と、前記分周器の出力である対象信号と、参照信号との、正規化された位相差を検出するTDC回路とを備え、前記TDC回路によって検出された正規化された位相差に基づいて、前記発振器の発振周波数を制御するものであり、前記TDC回路は、前記発振器の出力信号の周期数をカウントするカウンタを備え、前記カウンタの出力から、前記対象信号の周期に相当するカウンタ値と、前記対象信号と前記参照信号との位相差に相当するカウンタ値とを得て、これらのカウンタ値に基づいて、前記正規化された位相差を算出する。
【0016】
この態様によると、位相差検出を行うTDC回路が、発振器の出力信号の周期数をカウントするカウンタを備えている。そして、このカウンタの出力から、対象信号の周期に相当するカウンタ値と、対象信号と参照信号との位相差に相当するカウンタ値とが得られ、これらのカウンタ値に基づいて、正規化された位相差が算出される。すなわち、位相差検出の手法が従来構成と異なっており、位相差解像度を小さくする場合において、従来構成のように、遅延素子の段数を増大させる必要がない。したがって、小面積かつ低電流であり、ループ帯域内位相ノイズの低減を実現可能な周波数シンセサイザを実現することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、周波数シンセサイザとして、ループ帯域内ノイズ特性の改善を小面積かつ低電流で実現できる構成を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1の実施形態に係る周波数シンセサイザの回路構成を示す図である。
【図2】図1におけるTDC回路が有する発振器の構成例である。
【図3】図1におけるTDC回路が有するイネーブル生成部の構成例である。
【図4】図1におけるTDC回路が有するカウンタの構成例である。
【図5】図1におけるTDC回路が有するコースTDC部の動作を示す動作波形図である。
【図6】図1におけるTDC回路が有するファインTDC部の主要部の詳細な回路構成例である。
【図7】図6のファインTDC部の動作を示す動作波形図である。
【図8】第1の実施形態の他の構成例に係る周波数シンセサイザの回路構成を示す図である。
【図9】図8におけるTDC回路が有するファインTDC部の主要部の詳細な回路構成例である。
【図10】図9のファインTDC部の動作を示す動作波形図である。
【図11】第1の実施形態の他の構成例に係る周波数シンセサイザの回路構成を示す図である。
【図12】図11におけるTDC回路が有するファインTDC部の主要部の詳細な回路構成例である。
【図13】図12のファインTDC部の動作を示す動作波形図である。
【図14】第1の実施形態の変形例に係る周波数シンセサイザの回路構成を示す図である。
【図15】第2の実施形態に係る周波数シンセサイザの回路構成を示す図である。
【図16】図15におけるTDC回路が有するファインTDC部の主要部の詳細な回路構成例である。
【図17】図16のファインTDC部の動作を示す動作波形図である。
【図18】第2の実施形態の他の構成例に係る周波数シンセサイザの回路構成を示す図である。
【図19】図18におけるTDC回路が有するファインTDC部の主要部の詳細な回路構成例である。
【図20】図18のファインTDC部の動作を示す動作波形図である。
【図21】第2の実施形態に係る周波数シンセサイザの回路構成の変形例である。
【図22】差動出力を持つ発振器を用いた構成の動作を示す動作波形図である。
【図23】第3の実施形態に係る周波数シンセサイザの回路構成を示す図である。
【図24】図23におけるTDC回路が有するファインTDC部の主要部の詳細な回路構成例である。
【図25】図24のファインTDC部の動作を示す動作波形図である。
【図26】第3の実施形態の他の構成例に係る周波数シンセサイザの回路構成を示す図である。
【図27】従来の時間デジタル変換器の構成例である。
【図28】従来の時間デジタル変換器の動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態に係る周波数シンセサイザの回路構成を示す図である。図1に示すように、本実施形態に係る周波数シンセサイザは、発振器1と、発振器1の出力信号OSC1を分周する分周器2と、参照信号Fref一周期あたりの分周器2の出力CKVをカウントする積算器3と、分周器2の出力CKVと参照信号Frefとの位相差を検出するTDC回路(時間デジタル変換器:Time-to-Digital Converter)7と、比較基準信号を生成する基準信号生成部4と、比較基準信号と積算器3およびTDC回路7の出力からなる比較信号とを比較する位相・周波数比較部5と、位相・周波数比較部5の出力に従って発振器1の発振周波数を制御するループゲイン調整部6とを備えている。すなわち、時間デジタル変換器を含むPLL回路を用いた周波数シンセサイザが実現されている。
【0020】
発振器1はインダクタおよびキャパシタを有している。発振器1の出力信号OSC1は分周器2によって分周され、この分周信号CKVがTDC回路7による位相差検出の対象信号となる。なお、発振器1の出力信号OSC1を位相差検出の対象信号としてもかまわない。積算器3は分周信号CKVを入力とし、参照信号Fref一周期あたりの分周信号CKVの周期数をカウントする。またTDC回路7は分周信号CKVを入力とし、分周信号CKVと参照信号Frefとの、正規化された位相差を検出する。ここで、正規化された位相差とは、信号FREFと信号CKVとの位相差が信号CKVの周期に対して占める割合を指す。積算器3の出力が比較信号の整数部となり、TDC回路7の出力が比較信号の分数部となる。
【0021】
一方、基準信号生成部4は、周波数選局データまたは変調データを入力とし、この入力データを分周または積分することによって、参照信号Frefと同期した比較基準信号を出力する。位相・周波数比較部5は、基準信号生成部4の出力と、積算器3の出力を整数部、TDC回路7の出力を分数部として合成された比較信号とを比較し、その比較結果をループゲイン調整部6に出力する。ループゲイン調整部6は、入力した比較結果を適切なループゲインの信号に変換し、発振器1の周波数を制御する。このような一連の動作によって、周波数シンセサイザを所望の周波数にロックさせることができる。
【0022】
次に、本実施形態におけるTDC回路7の構成について説明する。TDC回路7は、粗い位相差検出を行うコースTDC部71と、より細かな位相差検出を行うファインTDC部72とを備えている。ここではまず、コースTDC部71を中心に説明を行う。ファインTDC部72については後述する。なお、適用製品等によっては、コースTDC部71およびファインTDC部72のいずれか一方のみを設けるようにしてもかまわない。
【0023】
<コースTDC部>
TDC回路7において、コースTDC部71は、第1の発振器としての発振器1とは別の第2の発振器としての発振器711と、発振器711の出力信号OSC2の周期数をカウントするカウンタ712と、発振器711およびカウンタ712のイネーブル信号ENを生成するイネーブル生成部713と、カウンタ712の出力をデータ入力として受けるとともに分周信号CKVをクロック入力として受けるラッチ回路714と、分周信号CKVの入力の有無を切り替えるためのスイッチ回路715とを有している。ラッチ回路714は、カウンタ712の出力を分周信号CKVのタイミングでラッチする。スイッチ回路715もイネーブル信号ENによって制御される。
【0024】
図2は発振器711の回路構成例である。図2(a)はインバータを奇数段(図では3段)リング状に接続したいわゆるリング発振器形式の回路である。図2(a)の回路では、各インバータに供給される電圧または電流をイネーブル信号ENによってオンオフさせることにより、発振動作のオンオフを制御している。また図2(b)に示すように、第1段をNAND回路にしてイネーブル信号ENを接続することにより、発振動作のオンオフを制御する構成としてもよい。なお、発振器711の回路構成はここに示したものに限られるものではない。
【0025】
図3はイネーブル生成部713の回路構成例である。図3の回路構成では、イネーブル信号ENは、参照信号Frefの立ち上がりで“H”になり、分周信号CKVの立ち上がりを2回カウントしてから遅延αの後に“L”になる。すなわち、動作期間が、(参照信号Frefと分周信号CKVとの位相差+分周信号CKVの1周期+α)に相当する期間に設定される。なお、イネーブル生成部713の回路構成はここに示したものに限られるものではない。
【0026】
図4はカウンタ712の回路構成例である。図4(a)の構成では、発振器711の出力信号OSC2がクロック入力になっており、信号OSC2の立ち上がり毎に出力Q0〜Q5がカウントアップされる。すなわち、[Q5:Q0]がバイナリーのカウント値になる。例えば11番目の立ち上がりでは[Q5:Q0]=[001011]となり、63番目の立ち上がりでは最大値[Q5:Q0]=[111111]となる。このように、n段のFFを設けることによって、(2−1)までのカウントが可能であり、FFの段数を1つ増やすことによってカウント可能な最大値が倍増する。よって、少ない段数のFFによって発振器711の出力信号OSC2のカウントを行うことができる。また、図4(b)の構成では、コースTDC部71とファインTDC部72との動作タイミングを合わせるために、クロック入力に遅延素子101(遅延Δt0)が挿入されている。
【0027】
図5(a)はコースTDC部71の動作の一例を示す動作波形図である。イネーブル信号ENがアクティブ(ここでは“H”)の間、発振器711は発振動作を行い、カウンタ712が発振器711の出力信号OSC2の周期数をカウントする。また、スイッチ回路715はイネーブル信号ENがアクティブの間、分周信号CKVをラッチ回路714に伝達する。ラッチ回路714は、分周信号CKVをクロック入力としてカウンタ712のカウンタ値をラッチする。
【0028】
図5(a)に示すように、参照信号Frefの立ち上がりとともにイネーブル信号ENがアクティブになり、発振器711およびカウンタ712は動作を開始する。ラッチ回路714は、分周信号CKVの最初の立ち上がり時TCKAにおけるカウンタ値QCKAと、次の立ち上がり時TCKBにおけるカウンタ値QCKBとをラッチし、これらを算出回路75に出力する。
【0029】
算出回路75は、カウント値QCKA,QCKBから、分周信号CKVの周期に相当するカウンタ値と、分周信号CKVと参照信号Frefとの位相差に相当するカウンタ値とを求める。すなわち、分周信号CKVの周期は、
ΔQCKV=QCKB−QCKA
で量子化され、分周信号CKVと参照信号Frefとの位相差は、
ΔQdif=QCKA−1
で量子化される。これにより、正規化された位相差すなわち分数位相差出力εは、
ε=ΔQdif/ΔQCKV=(QCKA−1)/(QCKB−QCKA
の演算により算出できる。図5(a)の例では、
CKA=5,QCKB=15
であり、
ΔQCKV=QCKB−QCKA=15−5=10
ΔQdif=QCKA−1=5−1=4
∴ε=ΔQdif/ΔQCKV=4/10=0.4
となる。
【0030】
ここで、イネーブル信号ENによって、発振器711の動作期間を位相差の算出に必要な期間だけに設定できるので、消費電流を小さく抑えることが可能になる。
【0031】
また、図5(b)に示すように、分周信号CKVの周期を、半周期の測定値を2倍にすることによって求めてもよい。この場合、ラッチ回路714は、分周信号CKVの最初の立ち上がり時TCKAにおけるカウンタ値QCKAと、最初の立ち下がり時TCKBにおけるカウンタ値QCKBとをラッチし、これらを算出回路75に出力する。分周信号CKVの周期は、
ΔQCKV=(QCKB−QCKA)*2
で量子化され、正規化された位相差すなわち分数位相差出力εは、
ε=ΔQdif/ΔQCKV=(QCKA−1)/((QCKB−QCKA)*2)
の演算により算出できる。図5(b)の例では、
CKA=5,QCKB=10
であり、
ΔQCKV=(QCKB−QCKA)*2=(10−5)*2=10
ΔQdif=QCKA−1=5−1=4
∴ε=ΔQdif/ΔQCKV=4/10=0.4
となる。
【0032】
この場合、発振器711の動作期間を、(参照信号Frefと分周信号CKVとの位相差+分周信号CKVの半周期+α)に相当する期間に設定すればよい。すなわち、図5(a)の例よりも、発振器711の動作期間をさらに短縮することができるので、消費電流をさらに小さく抑えることが可能になる。
【0033】
<ファインTDC部>
上述したコースTDC部71に加えて、ファインTDC部72を備えることによって、位相差検出の解像度をさらに向上させることができる。ここでのファインTDC部72は、発振器711の出力信号OSC2と、分周信号CKVとを入力とし、分周信号CKVのエッジ位置を示すビット列を生成出力する。
【0034】
図1において、ファインTDC部72は、第1の入力に対して並列に設けられた複数の遅延回路A110〜113と、各遅延回路A110〜113の後段にそれぞれ設けられた遅延回路B120〜123と、遅延回路A110〜113および遅延回路B120〜123の遅延量を制御する遅延制御回路723と、各遅延回路B120〜123の出力をデータ入力として受けるとともに、第2の入力をクロック入力として受けるラッチ回路724とを備えている。第1の入力には発振器711の出力信号OSC2が与えられ、第2の入力にはスイッチ回路715経由で分周信号CKVが与えられる。
【0035】
遅延回路A110〜113はそれぞれ互いに異なる遅延時間Δt0〜Δt3を持っており、遅延時間Δt0〜Δt3は所定の差Δtbをもって異なっている。すなわち、
Δt1−Δt0=Δt2−Δt1=Δt3−Δt2=Δtb
である。また、遅延回路B120〜123は、所定の遅延時間Δtaを有する遅延素子が複数個(N個)直列に接続されたものである。
【0036】
図6はファインTDC部72の主要部の詳細な回路構成例である。図6の構成では、遅延回路B120〜123はそれぞれ、遅延時間Δtaの遅延素子12aが5個直列に接続されている。ラッチ回路724は、各遅延回路B120〜123から、各遅延素子12aの入力信号をデータ入力として受ける。すなわち、データ入力として、遅延回路B120から時間差Δtaを持つ信号X00〜X40を受け、同様に、遅延回路B121から時間差Δtaを持つ信号X01〜X41を受け、遅延回路B122から時間差Δtaを持つ信号X02〜X42を受け、遅延回路B123から時間差Δtaを持つ信号X03〜X43を受ける。
【0037】
ここで、遅延Δtaが小さいほど位相差検出の解像度を高めることができるが、遅延Δtaの短縮にはデバイス特性上の限界がある。そこで、遅延回路B120〜123の前段に遅延時間が差Δtbを持って異なっている遅延回路A110〜113を配置することによって、各遅延回路B120〜123から出力される信号X00〜X40,X01〜X41,X02〜X42,X03〜X43に時間差Δtbを持たせている。これにより、遅延素子12aの遅延Δtaより小さい解像度Δtbを得ることができる。
【0038】
また、ファインTDC部72と分周信号CKVとのタイミングを合わせるために、ラッチ回路724のクロック入力に、遅延Δt0の遅延素子102を挿入している。このとき、コースTDC部71のラッチ回路714のクロック入力にも、同様に遅延Δt0の遅延素子が挿入されている。また、コースTDC部71とファインTDC部72とのタイミングを合わせるために、図4(b)に示すように、カウンタ712のクロック入力に遅延Δt0の遅延素子101が挿入されている。
【0039】
図7はファインTDC部72の動作例を示す動作波形図である。なお、図7では、動作を分かりやすくするために、発振器711の出力信号OSC2の周期を大きく記載している。また、ラッチ回路724のデータ入力には、遅延回路B120,121,122,123からそれぞれ、4個ずつの信号X00〜X30,X01〜X31,X02〜X32,X03〜X33が与えられるものとする。
【0040】
図7に示すように、参照信号Frefの立ち上がりとともに発振器711およびカウンタ712は動作を開始する。ラッチ回路724は、分周信号CKV(ただしΔt0遅延したもの)の最初の立ち上がり時TCKAおよび次の立ち上がり時TCKBにおいて、信号X00〜X30,X01〜X31,X02〜X32,X03〜X33をラッチする。例えばTCKAでは、信号X00〜X30は“1000”、信号X01〜X31は“1001”、信号X02〜X32は“0001”、信号X03〜X33は“0001”である。これらを信号の時間順に並べて組み合わせると“1110 0000 0000 0011”(デコード値QA**)となり、このビット列の0と1の切り替わり位置からTCKAのタイミングをサンプリングできる。すなわち、分周信号CKVの立ち上がりエッジ位置TCKAを示すビット列が得られる。
【0041】
図7の例では、カウンタ712のCK入力と遅延回路B120の出力の遅延をそれぞれΔt0に合わせているので、TCKAにおいて分周信号CKVと信号OSC2との位相差の剰余値が全くない場合、サンプリング値は“...0001”となる。したがって、上述した“...0011”の場合、下位ビットから数えて最初に0に切り替わるまでのビット数が2なので、余剰値ΔQ2Aは、
ΔQ2A=2−1=1
となる。
【0042】
同様に、TCKBではビット列“0000 0011 1111 1111”(デコード値QB**)が得られる。したがって、余剰値ΔQ2Bは、下位ビットから数えて最初に0に切り替わるまでのビット数が10なので、
ΔQ2B=10−1=9
となる。
【0043】
このようにして算出回路75は、デコード値QA**から、TCKAにおける分周信号CKVと信号OSC2との位相差の剰余値ΔQ2Aを算出し、デコード値QB**から、TCKBにおける分周信号CKVと信号OSC2との位相差の剰余値ΔQ2Bを算出する。そして、分周信号CKVの周期は、
ΔQCKV=(QCKB−QCKA)+(ΔQ2B−ΔQ2A)/ΔQCK2
で得られ、分周信号CKVと参照信号Frefとの位相差は、
ΔQdif=QCKA−1+ΔQ2A/ΔQCK2
で得られる。ただし、ΔQCK2=TCK2/Δtbである(TCK2は発振器711の周期)。これにより、正規化された位相差すなわち分数位相差出力εは、
ε=ΔQdif/ΔQCKV
=(QCKA−1+ΔQ2A/ΔQCK2)/((QCKB−QCKA)+(ΔQ2B−ΔQ2A)/ΔQCK2
の演算により算出できる。図7の例では、
CK2=22*Δtb,Δta=4*Δtb,∴ΔQCK2=TCK2/Δtb=22
CKA=2,QCKB=5,ΔQ2A=1,ΔQ2B=9
であり、
ΔQCKV=QCKB−QCKA+(ΔQ2B−ΔQ2A)/ΔQCK2
=(5−2)+(9−1)/22=3.364
ΔQdif=QCKA−1+ΔQ2A/ΔQCK2
=(2−1)+1/22=1.045
∴ε=ΔQdif/ΔQCKV=1.045/3.364=0.311
となる。
【0044】
なお、TCK2/Δtb、Δta/Δtbの値に関しては、デコード値の周期性から判別が可能である。例えば図7の例では、Δta=4*Δtb、すなわち遅延回路B120〜123でΔtbが丁度一周するタイミングとしていたが、もしここに遅延回路B124が追加されたとしても、そのデコード値は、
Q04=Q10、Q14=Q20、Q24=Q30
となり重複する。このことから、遅延回路B123までのデコード値Q*0〜Q*3が有効となり、Δta=4*Δtbであることが分かる。また、有効なデコード値、例えば上述の“1110 0000 0000 0011”において0が11ビット続いていることから、信号OSC2のLo期間がΔtb*11であることが分かる。同様にして、Hi期間も1の連続数から予め算出しておけばよい。
【0045】
本実施形態では、ファインTDC部72をコースTDC部71と組み合わせて用いているので、ファインTDC部72の各遅延回路Bの遅延素子の段数を少なく抑えることができる。したがって、回路の小面積化と、位相検出の解像度の向上すなわち位相ノイズの低減との両立が可能になる。
【0046】
なお、図6の構成では、ファインTDC部72と分周信号CKVとのタイミングを合わせるために、ラッチ回路724のクロック入力に遅延Δt0の遅延素子102を挿入しているが、この遅延Δt0は、動作開始時に調整を行うなどして最適化すればよい。また、この遅延素子102は、上述した位相差算出の正確を期すために挿入されたものであり、省いてもかまわない。すなわち、この遅延素子102がない場合は、上述した位相デコード値が同じ値だけずれることになり、よってデコード値の差分は変化しない。このため、実質的な影響はない。ただし、この遅延素子102を挿入しない場合には、コースTDC部71とファインTDC部72とのラッチタイミングがずれないように、コースTDC部71のラッチ回路714のクロック入力にも遅延素子を入れないようにする。ただし、図4(b)のカウンタ712に挿入された遅延素子101は、ファインTDC部72とのタイミングを合わせるために必要である。
【0047】
なお、コースTDC部71によって計算される整数部と、ファインTDC部72によって計算される分数部との整合をとる方法は、ここで説明した方法に限定されるものではない。
【0048】
なお、図6では記載を省略しているが、図1に示すような遅延制御回路723を用いて、遅延回路A110〜113の各遅延素子12aが持つ遅延Δtaを最小解像度Δtbの整数倍に予め制御しておけば、算出回路75での計算が正確かつ容易になる。また、遅延回路B120〜123は、その遅延値Δt0〜Δt3が微小差Δtbを持つように、例えば、負荷容量が少しずつ異なっている構成でも良いし、遅延素子のサイズが少しずつ異なっている構成でもよい。
【0049】
(他の構成例その1)
図8は本実施形態の他の構成例に係る周波数シンセサイザの回路構成を示す図である。図8において、図1と共通の構成要素については同一の符号を付しており、ここではその詳細な説明を省略する。
【0050】
上述の構成では、ファインTDC部72は、第1の入力として発振器711の出力信号OSC2を受け、これを遅延させて得た複数の信号を分周信号CKVのタイミングでラッチし、分周信号CKVのエッジ位置を示すビット列を生成していた。これに対して、本構成例では、ファインTDC部72Aは、第1の入力として分周信号CKVを受けるものとし、これを遅延させて得た複数の信号のタイミングで、発振器711の出力信号OSC2をラッチし、分周信号CKVのエッジ位置を示すビット列を生成する。
【0051】
すなわち、図8の構成において、図1の構成と異なるのは、ファインTDC部72Aが、第1の入力にスイッチ回路715を介して分周信号CKVを受けており、第2の入力に発振器711の出力信号OSC2を受けている点である。分周信号CKVは各遅延回路A110〜113に与えられており、出力信号OSC2はラッチ回路724Aに与えられている。また、ラッチ回路724Aは、遅延回路B120〜123の出力をクロック入力として受けるとともに、発振器711の出力信号OSC2をデータ入力として受ける。
【0052】
図9はファインTDC部72Aの主要部の詳細な回路構成例である。図9において、ラッチ回路724A以外の構成は図6と同様である。ラッチ回路724Aは、各遅延回路B120〜123から、各遅延素子12aの入力信号をクロック入力として受ける。すなわち、クロック入力として、遅延回路B120から時間差Δtaを持つ信号X00〜X40を受け、同様に、遅延回路B121から時間差Δtaを持つ信号X01〜X41を受け、遅延回路B122から時間差Δtaを持つ信号X02〜X42を受け、遅延回路B123から時間差Δtaを持つ信号X03〜X43を受ける。またデータ入力として、遅延素子102によって遅延された信号OSC2を受ける。
【0053】
図10はファインTDC部72Aの動作例を示す動作波形図である。図10では、ラッチ回路724Aのクロック入力には、遅延回路B120,121,122,123からそれぞれ、4個ずつの信号X00〜X30,X01〜X31,X02〜X32,X03〜X33が与えられるものとしている。
【0054】
図10に示すように、参照信号Frefの立ち上がりとともに発振器711およびカウンタ712は動作を開始する。ラッチ回路724Aは、分周信号CKVの最初の立ち上がり時TCKAの後、分周信号CKVを遅延させて得た信号X00〜X30,X01〜X31,X02〜X32,X03〜X33のタイミングで、発振器711の出力信号OSC2(ただしΔt0遅延したもの)をラッチする。例えば、信号X00〜X30のタイミングでは“0001”が得られ、信号X01〜X31のタイミングでは“1001”が得られ、信号X02〜X32のタイミングでは“1000”が得られ、信号X03〜X33のタイミングでは“1000”が得られる。これらを信号の時間順に並べて組み合わせると“1110 0000 0000 0011”(デコード値QA**)となり、このビット列の0と1の切り替わり位置からTCKAのタイミングをサンプリングできる。すなわち、分周信号CKVの立ち上がりエッジ位置TCKAを示すビット列が得られる。同様に、次の立ち上がり時TCKBについても、ビット列“1111 1111 1110 0000”(デコード値QB**)が得られる。
【0055】
ここで、図8および図9の回路構成では、分周信号CKVを遅延させてラッチ回路724Aのクロック入力として用いている。TCKAにおいて分周信号CKVと信号OSC2との位相差の剰余値が全くない場合、サンプリング値は“...1111...0000...1111”となる。0から1への次のデータ切り替わりは、発振器711の出力信号OSC2のほぼ1周期後になる。以降、分数部が増えていくに従い0から1への次のデータ切り替わりまでの時間(桁数)が短くなり、最も1に近いときで“...1111...0001”となる。よって、分数部への換算のためには、ファインTDC部72Aで得られた値に対し、0から1が立ち上がるまでの桁数をデコード値とし、得られた分数値を1から引けばよい。なお、TCK2/Δtb,Δta/Δtbの値に関しては、上述の実施形態の例と同様にして、デコード値の周期性から判別が可能である。
【0056】
すなわち算出回路75において、分周信号CKVの周期は、
ΔQCKV=(QCKB−QCKA)+((1−ΔQ2B/ΔQCK2)−(1−ΔQ2A/ΔQCK2))
=(QCKB−QCKA)+(ΔQ2A−ΔQ2B)/ΔQCK2
で得られ、分周信号CKVと参照信号Frefとの位相差は、
ΔQdif=QCKA−1+(1−ΔQ2A/ΔQCK2
により得られる。これにより、正規化された位相差すなわち分数位相差出力εは、
ε=ΔQdif/ΔQCKV
=(QCKA−1+(1−ΔQ2A/ΔQCK2))/((QCKB−QCKA)+(ΔQ2A−ΔQ2B)/ΔQCK2
の演算により算出できる。図10の例では、
CKA=2,QCKB=5,ΔQ2A=13,ΔQ2B=5
であり、
ΔQCKV=QCKB−QCKA+(ΔQ2A−ΔQ2B)/ΔQCK2
=(5−2)+(13−5)/22=3.364
ΔQdif=QCKA−1+(1−ΔQ2A/ΔQCK2
=(2−1)+(1−13/22)=1.409
∴ε=ΔQdif/ΔQCKV=1.409/3.364=0.419
となる。
【0057】
本構成例では、より周波数の低い分周信号CKVを遅延対象の信号として用いており、各遅延回路A110〜113および各遅延回路B120〜123は、分周信号CKVの立ち上がり時TCKA,TCKBの付近のみ動作させればよい。よって、回路の消費電流をさらに削減することが可能になる。
【0058】
(他の構成例その2)
図11は本実施形態の他の構成例に係る周波数シンセサイザの回路構成を示す図である。図11において、図1と共通の構成要素については同一の符号を付しており、ここではその詳細な説明を省略する。
【0059】
図11において、ファインTDC部72Bは、第1の入力に対して並列に設けられた複数の遅延回路A110〜113と、第2の入力に対して設けられた遅延回路B130と、遅延回路A110〜113,遅延回路B130の遅延量を制御する遅延制御回路723と、各遅延回路A110〜113の出力をクロック入力として受けるとともに、遅延回路B130の出力をデータ入力として受けるラッチ回路724Bとを備えている。第1の入力にはスイッチ回路715経由で分周信号CKVが与えられ、第2の入力には発振器711の出力信号OSC2が与えられる。
【0060】
遅延回路A110〜113はそれぞれ互いに異なる遅延時間Δt0〜Δt3を持っており、遅延時間Δt0〜Δt3は所定の差Δtbをもって異なっている。すなわち、
Δt1−Δt0=Δt2−Δt1=Δt3−Δt2=Δtb
である。また、遅延回路B130は、所定の遅延時間Δtaを有する遅延素子が複数個(N個)直列に接続されたものである。
【0061】
図12はファインTDC部72Bの主要部の詳細な回路構成例である。図12の構成では、遅延回路B130は、遅延Δtaの遅延素子13aが5個直列に接続されている。ラッチ回路724Bは、クロック入力として、各遅延回路A110〜113から信号X00〜X03を受けるとともに、データ入力として、遅延回路B130から時間差Δtaを持つ信号Y1〜Y4を受ける。
【0062】
本構成例でも、ファインTDC部72Bは、分周信号CKVのエッジ位置を示すビット列を生成することができる。しかも、ラッチ回路724Bのクロック入力とデータ入力の両方に遅延回路を配置したマトリックス構成にすることによって、上述した構成と比べて遅延回路の個数が大幅に削減されており、したがって、回路の消費電力と面積のさらなる削減を実現することができる。
【0063】
図13はファインTDC部72Bの動作例を示す動作波形図である。図13(a)に示すように、参照信号Frefの立ち上がりとともに発振器711およびカウンタ712は動作を開始する。ラッチ回路724Bは、分周信号CKVの最初の立ち上がり時TCKAの後、分周信号CKVを遅延させて得た信号X00,X01,X02,X03のタイミング(TCKA0,TCKA1,TCKA2,TCKA3:時間差Δtb)で、発振器711の出力信号OSC2を遅延して得た信号Y1〜Y4(時間差Δta)をラッチする。例えば、信号X00のタイミングでは“0001”が得られ、信号X01のタイミングでは“1001”が得られ、信号X02のタイミングでは“1000”が得られ、信号X03のタイミングでは“1000”が得られる。これらを時間順に並べて組み合わせると“1100 0000 0000 0111”(デコード値QA**)となり、このビット列の0と1の切り替わり位置からTCKAのタイミングをサンプリングできる。すなわち、分周信号CKVの立ち上がりエッジ位置TCKAを示すビット列が得られる。同様に、次の立ち上がり時TCKBについても、ビット列“0001 1111 1111 1100”(デコード値QB**)が得られる。
【0064】
ここで、図11および図12の回路構成では、TCKAにおいて分周信号CKVと信号OSC2との位相差の剰余値が全くない場合、サンプリング値は“...1111...0000”となる。以降、分数部が増えて行くに従い、“...1111...00001”、“...1111...000011”と1から0へ変化するまでの1の桁数が増えていく。よって、分数部への換算のためには、ファインTDC部72Bで得られた値に対し、1から0が立ち下がるまでの桁数をデコード値とすればよい。
【0065】
図13(b)は8段構成(遅延回路A110〜117)の場合のラッチ回路724Bの各出力のラッチタイミングを示す図である。図13(b)では、分周信号CKVおよび発振器711の出力信号OSC2を基準として、ラッチ回路724Bの出力QB10〜QB17,QB20〜QB27,QB30〜QB37,QB40〜QB47がどのタイミングに相当するものであるかを図示している。図13(b)から分かるように、遅延回路B130によってデータ入力が遅延することによってラッチタイミングが早まっていくのに対し、遅延回路A110〜113によってクロック入力が遅延することによってラッチタイミングが遅れていく。
【0066】
なお、TCK2/Δtb,Δta/Δtbの値に関しては、上述の実施形態の例と同様にして、デコード値の周期性から判別が可能である。図11,12,13(a)の例では、Δta=4*Δtb、すなわち遅延回路A110〜113でΔtbが丁度一周するタイミングとしていたが、図13(b)のように遅延回路A114〜117が追加されたとしても、以降のデコード値は重複しており、省けばよいことが図示されている。
【0067】
算出回路75において、分周信号CKVの周期は、
ΔQCKV=(QCKB−QCKA)+(ΔQ2B/ΔQCK2−ΔQ2A/ΔQCK2
=(QCKB−QCKA)+(ΔQ2B−ΔQ2A)/ΔQCK2
で得られ、分周信号CKVと参照信号Frefとの位相差は、
ΔQdif=QCKA−1+ΔQ2A/ΔQCK2
により得られる。これにより、正規化された位相差すなわち分数位相差出力εは、
ε=ΔQdif/ΔQCKV
=(QCKA−1+ΔQ2A/ΔQCK2)/((QCKB−QCKA)+(ΔQ2B−ΔQ2A)/ΔQCK2
の演算により算出できる。図13(a)の例では、
CKA=2,QCKB=5,ΔQ2A=3,ΔQ2B=13
であり、
ΔQCKV=QCKB−QCKA+(ΔQ2B−ΔQ2A)/ΔQCK2
=(5−2)+(13−3)/22=3.455
ΔQdif=QCKA−1+ΔQ2A/ΔQCK2
=(2−1)+3/22=1.136
∴ε=ΔQdif/ΔQCKV=1.136/3.455=0.329
となる。
【0068】
図1および図6や図8および図9の構成では、遅延Δtaの遅延素子が、直列段数×遅延回路Bの並列数分だけ必要であった。これに対して、本構成例では、遅延回路の配置をマトリックス構成にしているため、遅延Δtaの遅延素子は直列段数分だけで済む。このため、遅延回路の面積および電流を大幅に削減することができる。
【0069】
また、図8および図9の構成では、図1および図6の構成に対して、遅延素子を通る信号(分周信号CKV)の周波数が低くなり電流削減可能であるというメリットがある反面、周波数の高い発振器出力信号OSC2に対するラッチ回路の入力負荷が大きくなるといったデメリットがある。これに対して本構成例では、発振器出力信号OSC2が、遅延回路B130を構成する各遅延素子の出力から分配されてラッチ回路に与えられるため、信号あたりの入力数が減り、各信号に対するラッチ回路の入力負荷が軽減される、というメリットも得られる。
【0070】
図14は本実施形態の変形例に係る周波数シンセサイザの回路構成を示す図である。図14では、図1と共通の構成要素には図1と同一の符号を付しており、ここではその詳細な説明を省略する。
【0071】
参照信号Frefに対して発振器711の立ち上がりに遅延があったとしても、その遅延量が安定しているのであれば、位相差の算出値は変わらないので特に問題ない。ただし、参照信号Frefに対して発振器711の立ち上がりが無視できないほど不安定であるときは、図14に示すように遅延回路76を設けて、参照信号Frefに微小な遅延Δtcを与えた信号をラッチ回路714,724に与えるのが好ましい。ラッチ回路714,724は、参照信号Frefに微小な遅延Δtcを与えた信号に従ってラッチした値を位相差算出の初期値として用いて、カウンタ値やデコード値からその初期値を減じた後、位相差を算出すればよい。
【0072】
(第2の実施形態)
図15は第2の実施形態に係る周波数シンセサイザの回路構成を示す図である。図15において、図1と共通の構成要素には図1と同一の符号を付しており、ここではその詳細な説明を省略する。
【0073】
本実施形態において、TDC回路7は、粗い位相差検出を行うコースTDC部73と、より細かな位相差検出を行うファインTDC部74とを備えている。コースTDC部73は、第1の実施形態におけるコースTDC部71とほぼ同様の構成からなるが、発振器711を有しておらず、発振器711の出力信号OSC2の代わりに、発振ループを構成する発振器1の出力信号OSC1を入力とする点が異なっている。すなわち、発振器1の出力信号OSC1の周期数をカウンタ712によってカウントし、このカウンタ712の出力をラッチ回路714が分周信号CKVのタイミングでラッチする。
【0074】
また、ファインTDC部74は、第1の実施形態におけるファインTDC部72とほぼ同様の構成からなるが、発振器711の出力信号OSC2の代わりに発振器1の出力信号OSC1を第1の入力とする点と、ラッチ回路744が分周信号CKVに加えて参照信号Frefをクロック入力として受ける点とが異なっている。
【0075】
図16はファインTDC部74の主要部の詳細な回路構成例である。図16の構成では、発振器1の出力信号OSC1が遅延回路A110〜113に入力されており、また、参照信号Frefが、遅延値Δt0の遅延素子103を介してラッチ回路744にクロック入力として与えられている。それ以外の構成は図6と同様である。
【0076】
図17はファインTDC部74の動作例を示す動作波形図である。ここでは、分周器2は4分周の機能を有するものとしている。また、ラッチ回路744のデータ入力には、遅延回路B120,121,122,123からそれぞれ、4個ずつの信号X00〜X30,X01〜X31,X02〜X32,X03〜X33が与えられるものとする。
【0077】
図17に示すように、この場合、発振器1の出力信号OSC1の立ち上がりは、参照信号Frefの立ち上がりと必ずしも位相が合っていない。このため、参照信号Frefの立ち上がり時TCKRにおいてラッチ回路744はラッチを行い、得られたビット列を位相差算出の初期値として用いる。すなわち、ラッチ回路744は、参照信号Fref(ただしΔt0遅延したもの)の立ち上がり時TCKRおよび分周信号CKV(ただしΔt0遅延したもの)の最初の立ち上がり時TCKAにおいて、信号X00〜X30,X01〜X31,X02〜X32,X03〜X33をラッチする。例えばTCKAでは、信号X00〜X30は“1100”、信号X01〜X31は“1100”、信号X02〜X32は“1000”、信号X00〜X33は“1000”である。これらを信号の時間順に並べて組み合わせると“0000 0000 0011 1111”(デコード値QA**)となり、このビット列の0と1の切り替わり位置からTCKAのタイミングをサンプリングできる。すなわち、分周信号CKVの立ち上がりエッジ位置TCKAを示すビット列が得られる。同様に、TCKRではビット列“0000 0001 1111 1111”(デコード値QR**)が得られる。ただし、分周信号CKVの周期は出力信号OSC1の整数倍になっており、例えば図17では分周器2が4分周機能を有するため、分周信号CKVの次の立ち上がり時TCKBはTCKAの4周期後になる。すなわち、図17に示すように、TCKAとTCKBのデコード値は同じになるため、TCKBのタイミングでラッチを行う必要は必ずしもない。なお、図16では、ラッチ回路744において、デコード値QB**を出力する構成については省略している。
【0078】
算出回路75は、デコード値QR**から、TCKRにおける参照信号Frefと信号OSC1との位相差の剰余値ΔQ2Rを算出し、デコード値QA**から、図7の例と同様にして、TCKAにおける分周信号CKVと信号OSC1との位相差の剰余値ΔQ2Aを算出する。そして、分周信号CKVと参照信号Frefとの位相差は、
ΔQdif=QCKA+(ΔQ2A−ΔQ2R)/ΔQCK1
で得られる。ただし、ΔQCK1=TCK1/Δtbである(TCK1は発振器1の周期)。
【0079】
一方、図17の例では、分周信号CKVの周期は、発振器1の出力でカウントすると、
ΔQCKV=(QCKB−QCKA)=4
で安定している。これにより、正規化された位相差すなわち分数位相差出力εは、
ε=ΔQdif/ΔQCKV
=(QCKA+(ΔQ2A−ΔQ2R)/ΔQCK1)/(QCKB−QCKA
の演算により算出できる。
【0080】
図17の例では、
CK1=22*Δtb、Δta=4*Δtb、∴ΔQCK1=TCK1/Δtb=22
CKA=1,QCKB=5,ΔQ2A=ΔQ2B=6−1=5
ΔQ2R=9−1=8
であり、
ΔQCKV=QCKB−QCKA+(ΔQ2B−ΔQ2A)/ΔQCK1
=(5−1)+(5−5)/22=4
である。ΔQ2B=ΔQ2Aであり、上述のΔQCKV=QCKB−QCKAが成立していることが確認できる。
【0081】
ΔQdif=QCKA+(ΔQ2A−ΔQ2R)/ΔQCK1
=1+(5−8)/22=0.864
∴ε=ΔQdif/ΔQCKV=0.864/4=0.216
となる。なお、図16の構成は図6と類似しており、ΔQ2A,ΔQ2Rの算出方法は図7と同様になる。
【0082】
図17の例では、分周信号CKVの周期がΔQCKV=4と安定しているので、位相差の算出が容易になる。また、図17に示すように、本実施形態では、ファインTDC部74を参照信号Frefの立ち上がりより少なくとも少し前から立ち上げておく必要がある。これは電力増加要因となるが、例えば、ファインTDC部74を参照信号Frefの立ち上がりから立ち上げるようにし、ファインTDC部74において遅延させた参照信号Frefを他の回路で用いる構成にすることによって、消費電力の削減が可能である。
【0083】
図15の構成では、周波数シンセサイザのメイン発振器1がTDC回路7における位相差検出のために用いられている。このため、第1の実施形態のように、位相差検出のために必要な期間だけ発振器711を動作させるということができず、発振器1は全期間で発振させる必要がある。したがって、例えばコ−スTDC部73の分解能を上げるために、発振器1の周波数を高くすると、消費電力が大きくなってしまう。一方、回路面積は第1の実施形態よりも小さくなるので、消費電力の仕様がさほど厳しくないアプリケーションに対しては好ましいといえる。
【0084】
(他の構成例その1)
また、図15の構成では、ファインTDC部74は、第1の入力として発振器1の出力信号OSC1を受けるものとしたが、これに代えて、第1の実施形態の(他の構成例その1)で示したものと同様に、ファインTDC部74が、第1の入力として分周信号CKVを受けるものとし、これを遅延させて得た複数の信号のタイミングで、発振器1の出力信号OSC1をラッチする構成としてもよい。
【0085】
(他の構成例その2)
図18は本実施形態の他の構成例に係る周波数シンセサイザの回路構成を示す図である。図18において、図11および図15と共通の構成要素については同一の符号を付しており、ここではその詳細な説明を省略する。
【0086】
図18において、ファインTDC部74Bは、第1の入力に対して並列に設けられた複数の遅延回路A110〜113と、第2の入力に対して設けられた遅延回路B130と、第3の入力に対して並列に設けられた複数の遅延回路A115〜118と、遅延回路A110〜113,115〜118,遅延回路B130の遅延量を制御する遅延制御回路723と、各遅延回路A110〜113,115〜118の出力をクロック入力として受けるとともに、遅延回路B130の出力をデータ入力として受けるラッチ回路744Bとを備えている。第1の入力にはスイッチ回路715経由で分周信号CKVが与えられ、第2の入力には発振器1の出力信号OSC1が与えられ、第3の入力には参照信号Frefが与えられる。
【0087】
遅延回路A110〜113はそれぞれ互いに異なる遅延時間Δt0〜Δt3を持っており、遅延時間Δt0〜Δt3は所定の差Δtbをもって異なっている。すなわち、
Δt1−Δt0=Δt2−Δt1=Δt3−Δt2=Δtb
である。同様に、遅延回路A115〜118はそれぞれ互いに異なる遅延時間Δt0〜Δt3を持っている。また、遅延回路B130は、所定の遅延時間Δtaを有する遅延素子が複数個(N個)直列に接続されたものである。
【0088】
図19はファインTDC部74Bの主要部の詳細な回路構成例である。図19の構成では、遅延回路B130は、遅延値Δtaの遅延素子13aが5個直列に接続されている。ラッチ回路744Bは、クロック入力として、各遅延回路A110〜113から信号X00〜X03を受けるとともに、各遅延回路A115〜118から信号Z00〜Z03を受け、データ入力として、遅延回路B130から時間差Δtaを持つ信号Y1〜Y4を受ける。
【0089】
本構成例でも、ファインTDC74Bは、分周信号CKVおよび参照信号Frefのエッジ位置を示すビット列を生成することができる。しかも、ラッチ回路744Bのクロック入力とデータ入力の両方に遅延回路を配置したマトリックス構成にすることによって、上述した構成と比べて遅延回路の個数が大幅に削減されており、したがって、回路の消費電力と面積のさらなる削減を実現することができる。
【0090】
図20はファインTDC部74Bの動作例を示す動作波形図である。図20に示すように、ラッチ回路744Bは、参照信号Frefの立ち上がり時TCKRの後、参照信号Frefを遅延させて得た信号Z00,Z01,Z02,Z03のタイミング(時間差Δtb)で、発振器1の出力信号OSC1を遅延して得た信号Y1〜Y4(時間差Δta)をラッチする。例えば、信号Z00のタイミングでは“0011”が得られ、信号Z01のタイミングでは“0011”が得られ、信号Z02のタイミングでは“0011”が得られ、信号Z03のタイミングでは“0111”が得られる。これらを時間順に並べて組み合わせると“...0000 0001 1111 1111”(デコード値QR**)となり、このビット列の0と1の切り替わり位置からTCKRのタイミングをサンプリングできる。同様に、分周信号CKVの最初の立ち上がり時TCKAについても、ビット列“...0000 0000 0011 1111”(デコード値QA**)が得られる。
【0091】
ここで、図18および図19の回路構成では、図11および図12と同様にして、分数部への換算のためには、ファインTDC部74Bで得られた値に対し、1から0が立ち下がるまでの桁数をデコード値とすればよい。
【0092】
算出回路75は、デコード値QR**から、TCKRにおける参照信号Frefと信号OSC1との位相差の剰余値ΔQ2Rを算出し、デコード値QA**から、TCKAにおける分周信号CKVと信号OSC1との位相差の剰余値ΔQ2Aを算出する。正規化された位相差すなわち分数位相差出力εの算出方法は、図17の動作と同様である。
【0093】
すなわち、図20の例では、算出回路75において、分周信号CKVの周期ΔQCKVは、
ΔQCKV=QCKB−QCKA
で得られ、分周信号CKVと参照信号Frefとの位相差ΔQdifは、
ΔQdif=QCKA+(ΔQ2A−ΔQ2R)/ΔQCK1
により得られる。これにより、正規化された位相差すなわち分数位相差出力εは、
ε=ΔQdif/ΔQCKV
=(QCKA+(ΔQ2A−ΔQ2R)/ΔQCK1)/(QCKB−QCKA
の演算により算出できる。
【0094】
図20の例では、
CK1=22*Δtb,Δta=4*Δtb
∴ ΔQCK1=TCK1/Δtb=22
CKA=1,QCKB=5,ΔQ2A=ΔQ2B=6
ΔQ2R=9
であり、
ΔQCKV=QCKB−QCKA
=5−1=4
ΔQdif=QCKA+(ΔQ2A−ΔQ2R)/ΔQCK1
=1+(6−9)/22=0.864
∴ε=ΔQdif/ΔQCKV=0.864/4=0.216
となる。なお、図19の構成は図12と類似しており、ΔQ2A,ΔQ2Rの算出方法は図13と同様になる。
【0095】
図15および図16の構成では、遅延Δtaの遅延素子が、直列段数×遅延回路Bの並列数分だけ必要であった。これに対して、本構成例では、遅延回路の配置をマトリックス構成にしているため、遅延Δtaの遅延素子は直列段数分だけで済む。このため、遅延回路の面積および電流を大幅に削減することができる。
【0096】
なお、発振器1の出力信号OSC1をTDC回路7の入力とする代わりに、出力信号OSC1を逓倍器によって周波数を上げた信号をTDC回路7の入力としてもよい。図21は本実施形態に係る周波数シンセサイザの回路構成の変形例であり、図18の構成において、逓倍器11を設けて、発振器1の出力信号OSC1を逓倍器11によって逓倍した信号をTDC回路7の入力としたものである。なお、図15の構成に同様の変形を行ってもかまわない。
【0097】
また本実施形態において、発振器1として差動出力を持つ発振器を用い、図22に示すように、発振器1の正相出力と逆相出力の両方をカウントするようにしてもよい。この場合、図22に示すように、ファインTDC部の測定期間をさらに発振器1の出力信号OSC1の半周期分短くすることが可能となり、ファインTDC部の面積・電流のさらなる削減が可能になる。
【0098】
(第3の実施形態)
図23は第3の実施形態に係る周波数シンセサイザの回路構成を示す図である。図23の構成は、第1の実施形態の図11に示す構成例を基にして、発振器711を用いず、コースTDC部71も省いて簡略化したものである。図11と共通の構成要素には図11と同一の符号を付しており、ここではその詳細な説明を省略する。
【0099】
図23において、ファインTDC部75は、第1の入力に対して並列に設けられた複数の遅延回路A110〜113と、第2の入力に対して設けられた遅延回路B130と、遅延回路A110〜113,遅延回路B130の遅延量を制御する遅延制御回路723と、各遅延回路A110〜113の出力をクロック入力として受けるとともに、遅延回路B130の出力をデータ入力として受けるラッチ回路754とを備えている。第1の入力には参照信号Frefが与えられ、第2の入力にはスイッチ回路715経由で分周信号CKVが与えられる。
【0100】
遅延回路A110〜113はそれぞれ互いに異なる遅延時間Δt0〜Δt3を持っており、遅延時間Δt0〜Δt3は所定の差Δtbをもって異なっている。すなわち、
Δt1−Δt0=Δt2−Δt1=Δt3−Δt2=Δtb
である。また、遅延回路B130は、所定の遅延時間Δtaを有する遅延素子が複数個(N個)直列に接続されたものである。
【0101】
図24はファインTDC部75の主要部の詳細な回路構成例である。図24の構成では、遅延回路B130は、遅延値Δtaの遅延素子が5個直列に接続されている。ラッチ回路754は、クロック入力として、各遅延回路A110〜113から信号X00〜X03を受けるとともに、データ入力として、遅延回路B130から時間差Δtaを持つ信号Y1〜Y4を受ける。
【0102】
本構成例でも、ファインTDC75は、分周信号CKVのエッジ位置を示すビット列を生成することができる。しかも、ラッチ回路754のクロック入力とデータ入力の両方に遅延回路を配置したマトリックス構成にすることによって、遅延回路の個数が大幅に削減されており、したがって、回路の消費電力と面積のさらなる削減を実現することができる。
【0103】
図25はファインTDC部75の動作例を示す動作波形図である。図25に示すように、ラッチ回路754は、参照信号Frefの立ち上がり時TCKRの後、参照信号Frefを遅延させて得た信号X00,X01,X02,X03のタイミング(時間差Δtb)で、分周信号CVKを遅延して得た信号Y1〜Y4(時間差Δta)をラッチする。例えば、信号X00のタイミングでは“1110”が得られ、信号X01のタイミングでは“1110”が得られ、信号X02のタイミングでは“1100”が得られ、信号X03のタイミングでは“1100”が得られる。これらを時間順に並べて組み合わせると“1111 1111 1100 0000”となり、このビット列の0と1の切り替わり位置から分周信号CKVのエッジ位置をサンプリングできる。
【0104】
このように本実施形態によると、TDC回路7に新たな発振器を用いず、かつ、簡易な構成のファインTDC部75のみを設けているため、回路の面積および電流を大幅に削減することができる。なお、例えば要求される時間解像度や、カバーすべき測定時間の範囲等によっては、第1および第2の実施形態に示したように、コースTDC部と組み合わせて構成してもかまわない。
【0105】
なお、要求される時間解像度が比較的緩く、かつ、カバーすべき測定時間の範囲が大きい場合には、例えば図26に示すように、第1の入力を受ける遅延回路A110〜113の遅延時間の差をΔtbよりも大きな値例えばΔt0とし、第2の入力を受ける遅延回路B130における各遅延素子の遅延値Δtaを、
Δta=N*Δt0
としてもよい。遅延時間は、トランジスタサイズや負荷容量等の調整によって最適化すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明では、ループ帯域内位相ノイズが抑制された周波数シンセサイザを小面積かつ低電流で実現可能であるので、例えば、半導体集積回路の低コスト化および低消費電力化に有用である。
【符号の説明】
【0107】
1 発振器(第1の発振器)
7 TDC回路
11 逓倍器
12a,13a 遅延素子
72,72A,72B ファインTDC部
74,74B ファインTDC部
110〜113 遅延回路A
115〜118 第2の遅延回路A
120〜123 遅延回路B
130 遅延回路B
711 発振器(第2の発振器)
712 カウンタ
724,724A,724B ラッチ回路
744,744B ラッチ回路
754 ラッチ回路
CKV 分周信号(対象信号)
Fref 参照信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の発振器と、
前記第1の発振器の出力信号またはその分周信号である対象信号と、参照信号との、正規化された位相差を検出するTDC回路とを備え、
前記TDC回路によって検出された正規化された位相差に基づいて、前記第1の発振器の発振周波数を制御するものであり、
前記TDC回路は、
第2の発振器と、
前記第2の発振器の出力信号の周期の数をカウントするカウンタとを備え、
前記カウンタの出力から、前記対象信号の周期に相当するカウンタ値と、前記対象信号と前記参照信号との位相差に相当するカウンタ値とを得て、これらのカウンタ値に基づいて、前記正規化された位相差を算出するものである
ことを特徴とする周波数シンセサイザ。
【請求項2】
請求項1記載の周波数シンセサイザにおいて、
前記TDC回路は、
前記カウンタの出力をデータ入力として受けるとともに、前記対象信号をクロック入力として受けるラッチ回路を備え、
前記第2の発振器および前記カウンタは、前記参照信号に応じたイネーブル信号に従って、動作を開始する
ことを特徴とする周波数シンセサイザ。
【請求項3】
請求項1記載の周波数シンセサイザにおいて、
前記TDC回路は、
前記第2の発振器の出力信号と、前記対象信号とを入力とし、前記対象信号のエッジ位置を示すビット列を生成出力するファインTDC部をさらに備え、
前記ファインTDC部から出力されたビット列を用いて、前記正規化された位相差を算出するものである
ことを特徴とする周波数シンセサイザ。
【請求項4】
請求項3記載の周波数シンセサイザにおいて、
前記ファインTDC部は
第1の入力に対して並列に設けられており、遅延時間が所定の差をもって異なっている、複数の遅延回路Aと、
前記各遅延回路Aの後段にそれぞれ設けられており、所定の遅延時間を有する遅延素子が複数個、直列に接続されてなる、複数の遅延回路Bと、
前記各遅延回路Bから、少なくとも1つの前記遅延素子の入力信号をデータ入力として受けるとともに、第2の入力をクロック入力として受けるラッチ回路とを備え、
前記第1の入力に、前記第2の発振器の出力信号を受けるとともに、前記第2の入力に、前記対象信号を受けるものである
ことを特徴とする周波数シンセサイザ。
【請求項5】
請求項3記載の周波数シンセサイザにおいて、
前記ファインTDC部は
第1の入力に対して並列に配置されており、遅延時間が所定の差をもって異なっている、複数の遅延回路Aと、
前記各遅延回路Aの後段にそれぞれ設けられており、所定の遅延時間を有する遅延素子が複数個、直列に接続されてなる、複数の遅延回路Bと、
前記各遅延回路Bから、少なくとも1つの前記遅延素子の入力信号をクロック入力として受けるとともに、第2の入力をデータ入力として受けるラッチ回路とを備え、
前記第1の入力に、前記対象信号を受けるとともに、前記第2の入力に、前記第2の発振器の出力信号を受けるものである
ことを特徴とする周波数シンセサイザ。
【請求項6】
請求項3記載の周波数シンセサイザにおいて、
前記ファインTDC部は
第1の入力に対して並列に設けられており、遅延時間が所定の差をもって異なっている、複数の遅延回路Aと、
第2の入力に対して設けられており、所定の遅延時間を有する遅延素子が複数個、直列に接続されてなる、遅延回路Bと、
前記各遅延回路Aの出力をクロック入力として受けるとともに、前記遅延回路Bから、少なくとも1つの前記遅延素子の入力信号をデータ入力として受けるラッチ回路とを備え、
前記第1の入力に、前記対象信号を受けるとともに、前記第2の入力に、前記第2の発振器の出力信号を受けるものである
ことを特徴とする周波数シンセサイザ。
【請求項7】
発振器と、
前記発振器の出力信号を分周する分周器と、
前記分周器の出力である対象信号と、参照信号との、正規化された位相差を検出するTDC回路とを備え、
前記TDC回路によって検出された正規化された位相差に基づいて、前記発振器の発振周波数を制御するものであり、
前記TDC回路は、
前記発振器の出力信号の周期数をカウントするカウンタを備え、
前記カウンタの出力から、前記対象信号の周期に相当するカウンタ値と、前記対象信号と前記参照信号との位相差に相当するカウンタ値とを得て、これらのカウンタ値に基づいて、前記正規化された位相差を算出するものである
ことを特徴とする周波数シンセサイザ。
【請求項8】
請求項7記載の周波数シンセサイザにおいて、
前記TDC回路は、
前記カウンタの出力をデータ入力として受けるとともに、前記対象信号をクロック入力として受けるラッチ回路を備え、
前記カウンタは、前記参照信号に応じたイネーブル信号に従って、動作を開始する
ことを特徴とする周波数シンセサイザ。
【請求項9】
請求項7記載の周波数シンセサイザにおいて、
前記TDC回路は、
前記発振器の出力信号と、前記対象信号および参照信号とを入力とし、前記対象信号のエッジ位置を示すビット列を生成出力するファインTDC部をさらに備え、
前記ファインTDC部から出力されたビット列を用いて、前記正規化された位相差を算出するものである
ことを特徴とする周波数シンセサイザ。
【請求項10】
請求項9記載の周波数シンセサイザにおいて、
前記ファインTDC部は
第1の入力に対して並列に配置されており、遅延時間が所定の差をもって異なっている、複数の遅延回路Aと、
前記各遅延回路Aの後段にそれぞれ設けられており、所定の遅延時間を有する遅延素子が複数個、直列に接続されてなる、複数の遅延回路Bと、
前記各遅延回路Bから、少なくとも1つの前記遅延素子の入力信号をデータ入力として受けるとともに、第2および第3の入力をクロック入力として受けるラッチ回路とを備え、
前記第1の入力に、前記発振器の出力信号を受け、前記第2の入力に、前記対象信号を受け、前記第3の入力に、前記参照信号を受けるものである
ことを特徴とする周波数シンセサイザ。
【請求項11】
請求項9記載の周波数シンセサイザにおいて、
前記ファインTDC部は
第1の入力に対して並列に配置されており、遅延時間が所定の差をもって異なっている、複数の遅延回路Aと、
第2の入力に対して配置されており、所定の遅延時間を有する遅延素子が複数個、直列に接続されてなる、遅延回路Bと、
第3の入力に対して並列に配置されており、遅延時間が所定の差をもって異なっている、複数の第2の遅延回路Aと、
前記各遅延回路Aおよび前記各第2の遅延回路Aの出力をクロック入力として受けるとともに、前記遅延回路Bから、少なくとも1つの前記遅延素子の入力信号をデータ入力として受けるラッチ回路とを備え、
前記第1の入力に、前記対象信号を受け、前記第2の入力に、前記発振器の出力信号を受け、前記第3の入力に、前記参照信号を受けるものである
ことを特徴とする周波数シンセサイザ。
【請求項12】
請求項7記載の周波数シンセサイザにおいて、
前記発振器は、差動出力を有するものであり、
前記TDC回路における前記カウンタは、前記発振器の正相出力と逆相出力の両方について、カウントを行う
ことを特徴とする周波数シンセサイザ。
【請求項13】
請求項7記載の周波数シンセサイザにおいて、
前記発振器の出力信号を逓倍する逓倍器をさらに備え、
前記TDC回路における前記カウンタは、前記発振器の出力信号に代えて、前記逓倍器の出力信号を受け、カウントを行う
ことを特徴とする周波数シンセサイザ。
【請求項14】
請求項9記載の周波数シンセサイザにおいて、
前記発振器の出力信号を逓倍する逓倍器をさらに備え、
前記ファインTDC部は、前記発振器の出力信号に代えて、前記逓倍器の出力信号を受ける
ことを特徴とする周波数シンセサイザ。
【請求項15】
第1の信号と第2の信号との時間差を量子化する時間デジタル変換回路であって、
前記第1の信号を受ける第1の入力に対して並列に設けられており、遅延時間が所定の差をもって異なっている、複数の遅延回路Aと、
前記第2の信号を受ける第2の入力に対して設けられており、所定の遅延時間を有する遅延素子が複数個、直列に接続されてなる、遅延回路Bと、
前記各遅延回路Aの出力をクロック入力として受けるとともに、前記遅延回路Bから、少なくとも1つの前記遅延素子の入力信号をデータ入力として受け、前記第1の信号に対する前記第2の信号のエッジ位置を示すビット列を生成出力するラッチ回路とを備えた
ことを特徴とする時間デジタル変換回路。
【請求項16】
発振器と、
前記発振器の出力信号またはその分周信号である対象信号と、参照信号との、正規化された位相差を検出するTDC回路とを備え、
前記TDC回路によって検出された正規化された位相差に基づいて、前記発振器の発振周波数を制御するものであり、
前記TDC回路は、
前記参照信号を受ける第1の入力に対して並列に設けられており、遅延時間が所定の差をもって異なっている、複数の遅延回路Aと、
前記対象信号を受ける第2の入力に対して設けられており、所定の遅延時間を有する遅延素子が複数個、直列に接続されてなる、遅延回路Bと、
前記各遅延回路Aの出力をクロック入力として受けるとともに、前記遅延回路Bから、少なくとも1つの前記遅延素子の入力信号をデータ入力として受け、前記参照信号に対する前記対象信号のエッジ位置を示すビット列を生成出力するラッチ回路とを備えたものである
ことを特徴とする周波数シンセサイザ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate


【公開番号】特開2012−109845(P2012−109845A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257730(P2010−257730)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】