説明

回路接続用フィルム接着剤の製造方法

【課題】高い接続信頼性を有し、不均一領域が少なく、かつ、低温短時間硬化性と貯蔵安定性とを両立できる回路接続用フィルム接着剤の提供。
【解決手段】第1の熱硬化性樹脂を溶剤中に溶解させ、次いで最高温度が50℃以上となる条件で該溶剤中にフィルム形成性高分子を溶解させることによって、第1の熱硬化性樹脂及びフィルム形成性高分子が溶剤中に溶解してなるバインダー液を調製するバインダー液調製ステップ、該バインダー液と、予め第2の熱硬化性樹脂中にマイクロカプセル型硬化剤を分散させてなる分散液とを40℃以下で混合することによって、バインダー液中にマイクロカプセル型硬化剤が分散してなる塗工液を調製する塗工液調製ステップ、並びに該塗工液を剥離性基材上に塗布した後溶剤を揮散させる成膜ステップを含む回路接続用フィルム接着剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板同士や半導体チップ等の電子部品と回路基板との接続に用いられる回路接続用フィルム接着剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイと半導体チップやTCP(Tape Carrier Package)との接続、FPC(Flexible Printed Circuit)とTCPとの接続、又は、FPCとプリント配線板との接続を簡便に行うための接続部材として、絶縁性の接着剤中に導電粒子を分散させた構造の異方導電性フィルムが使用されている。例えば、ノート型パソコンや携帯電話の液晶ディスプレイと制御ICとの接続用として、あるいは最近では、半導体チップを直接プリント基板やフレキシブル配線板に搭載するフリップチップ実装にも、上記異方導電性フィルムが用いられている(特許文献1、2及び3参照)。
【0003】
この分野では、回路接続部の信頼性を考慮して、接着剤として、エポキシ樹脂系などの熱硬化性接着剤が使用されている。回路接続用の熱硬化性接着剤は、使用時までは熱硬化性樹脂と硬化剤とが未反応の状態で安定に存在し、かつ使用時には良好な生産性を得るとともに回路部材へのダメージを極小化するために低温かつ短時間で硬化することが要求される。このような貯蔵安定性と硬化性との両立を図るために、熱硬化性接着剤に用いられる硬化剤としては、高反応性の硬化剤をカプセル膜で被覆したマイクロカプセル型硬化剤等の潜在性硬化剤が一般的に用いられている。一方、熱硬化性接着剤をフィルム状にするには、フィルム形成性高分子を熱硬化性接着剤中に均一に混合してフィルム状に成形する必要があり、フィルム形成性高分子を溶解し得る溶剤に、フィルム形成性高分子及び熱硬化性樹脂を溶解させ、導電粒子及びマイクロカプセル型硬化剤を均一分散させた塗工液を製造し、その塗工液を剥離性基材上に塗布し、加熱により溶剤を除去して成膜する方法が一般的に用いられる。ここで、マイクロカプセル型硬化剤も、溶剤を含む塗工液中に分散され、更に溶剤を除去するための加熱を受けることになるが、溶剤や塗工液中に含まれる水分との接触や加熱はマイクロカプセル型硬化剤のカプセル膜を膨潤又は破壊し、貯蔵安定性を低下する要因となるため、各種検討がなされている(特許文献4及び5参照)。
更に、この分野では近年、接続される配線パターンや電極パターンの寸法が益々微細化され、微細化された配線や電極の幅及び間隔は10数μmレベルまで微細化される場合も多くなってきている(特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平03−107888号公報
【特許文献2】特開平04−366630号公報
【特許文献3】特開昭61−195179号公報
【特許文献4】特開2000−80146号公報
【特許文献5】特開2001−64613号公報
【特許文献6】特開2007−217503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電極間隔が狭くなるにつれて、以前は問題にならなかった大きさの不均一領域の存在によって絶縁破壊の発生頻度が上昇するという課題が顕在化している。加えて、益々強く求められる低温短時間硬化性を発現しつつ、高い貯蔵安定性を達成することが強く求められている。
【0006】
本発明は、熱硬化性樹脂による高い接続信頼性を有するとともに、フィルム形成性高分子の溶け残りやマイクロカプセル型硬化剤の凝集物等の、絶縁信頼性に悪影響を及ぼす大きさの不均一領域が少なく、かつ、低温短時間硬化性と貯蔵安定性とを両立できる回路接続用フィルム接着剤の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、不均一領域の少ないフィルム接着剤を形成するためには、塗工液の混合段階が重要であり、溶剤にフィルム形成性高分子を溶解させる際に、該溶剤に予め熱硬化性樹脂を溶解させておき、特定温度以上に加熱してフィルム形成性高分子を溶剤に溶解させ、その後、予め熱硬化性樹脂に分散させたマイクロカプセル型硬化剤を特定温度以下で混合することで、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
特定の順序及び特定の温度ステップで、塗工液成分を混合することで、フィルム形成性高分子の溶け残りやマイクロカプセル型硬化剤の凝集物等の発生が抑えられ、電極間隔が狭い場合であっても絶縁破壊の発生を抑制することができ、更に、高活性な硬化剤を用いた場合にも高い貯蔵安定性が得られる。即ち、本発明は、下記の通りである。
【0009】
[1]熱硬化性樹脂と、マイクロカプセル型硬化剤と、フィルム形成性高分子とを含有する回路接続用フィルム接着剤の製造方法であって、
第1の熱硬化性樹脂を溶剤中に溶解させ、次いで最高温度が50℃以上となる条件で該溶剤中にフィルム形成性高分子を溶解させることによって、第1の熱硬化性樹脂及びフィルム形成性高分子が溶剤中に溶解してなるバインダー液を調製するバインダー液調製ステップ、
該バインダー液と、予め第2の熱硬化性樹脂中にマイクロカプセル型硬化剤を分散させてなる分散液とを40℃以下で混合することによって、バインダー液中にマイクロカプセル型硬化剤が分散してなる塗工液を調製する塗工液調製ステップ、並びに
該塗工液を剥離性基材上に塗布した後溶剤を揮散させる成膜ステップ
を含む、回路接続用フィルム接着剤の製造方法。
【0010】
[2]回路接続用フィルム接着剤が導電粒子を更に含有する、上記[1]に記載の回路接続用フィルム接着剤の製造方法。
【0011】
[3]上記フィルム形成性高分子のガラス転移温度が120℃以下である、上記[1]又は[2]に記載の回路接続用フィルム接着剤の製造方法。
【0012】
[4]上記第1の熱硬化性樹脂及び上記第2の熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂であり、上記マイクロカプセル型硬化剤が、エポキシ樹脂用の硬化剤成分の周囲を高分子化合物で被覆した構造を有する、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の回路接続用フィルム接着剤の製造方法。
【0013】
[5]上記マイクロカプセル型硬化剤の活性化温度が、60℃以上100℃以下である、前記[1]〜[4]のいずれかに記載の回路接続用フィルム接着剤の製造方法。
【0014】
[6]上記塗工液中の水分量が、上記塗工液中の上記マイクロカプセル型硬化剤の質量に対して、0.5質量%以上10質量%以下である、上記[1]〜[5]のいずれかに記載の回路接続用フィルム接着剤の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の方法で製造された回路接続用フィルム接着剤は、熱硬化性樹脂による高い接続信頼性を有するとともに、フィルム形成性高分子の溶け残りやマイクロカプセル型硬化剤の凝集物等の、絶縁信頼性に悪影響を及ぼす大きさの不均一領域が少なく、かつ、低温短時間硬化性と貯蔵安定性とを両立できるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について具体的に説明する。本発明は、熱硬化性樹脂と、マイクロカプセル型硬化剤と、フィルム形成性高分子とを含有する回路接続用フィルム接着剤の製造方法であって、第1の熱硬化性樹脂を溶剤中に溶解させ、次いで最高温度が50℃以上となる条件で該溶剤中にフィルム形成性高分子を溶解させることによって、第1の熱硬化性樹脂及びフィルム形成性高分子が溶剤中に溶解してなるバインダー液を調製するバインダー液調製ステップ、該バインダー液と、予め第2の熱硬化性樹脂中にマイクロカプセル型硬化剤を分散させてなる分散液とを40℃以下で混合することによって、バインダー液中にマイクロカプセル型硬化剤が分散してなる塗工液を調製する塗工液調製ステップ、並びに該塗工液を剥離性基材上に塗布した後溶剤を揮散させる成膜ステップを含む、回路接続用フィルム接着剤の製造方法を提供する。
【0017】
<熱硬化性樹脂>
第1の熱硬化性樹脂及び第2の熱硬化性樹脂として使用できる熱硬化性樹脂(これを以下で単に熱硬化性樹脂ということもある)としては、加熱によりマイクロカプセル型硬化剤と反応して架橋する樹脂が用いられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリレート、ウレタン樹脂等が用いられる。典型的には、熱硬化性樹脂とマイクロカプセル型硬化剤とを互いに適した組合せで用いる。例えば、分子末端に反応性二重結合を有するアクリレートを熱硬化性樹脂として用いる場合、マイクロカプセル型硬化剤としては、過酸化物等、加熱によってラジカルを発生する硬化剤成分の周囲をカプセル膜で被覆したマイクロカプセル型硬化剤等が用いられる。
【0018】
本発明においては、接続信頼性の高さから、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0019】
使用できるエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、脂肪族エーテル型エポキシ樹脂等のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエーテルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ヒダントイン型エポキシ樹脂、脂環族エポキサイド等が挙げられ、これらエポキシ樹脂はウレタン変性、ゴム変性、シリコーン変性等の変性がされたエポキシ樹脂でもよい。中でも、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂が好ましく、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂が、より好ましい。
【0020】
<マイクロカプセル型硬化剤>
本発明に用いられるマイクロカプセル型硬化剤とは、硬化剤成分がカプセル膜で被覆されてなるものである。硬化剤成分としては、ホウ素化合物、ヒドラジド類、アミン類、イミダゾール類、ジシアンジアミド、カルボン酸無水物、チオール類、イソシアネート化合物、ホウ素錯塩、尿素化合物、メラミン化合物及びそれらの誘導体等が挙げられる。本発明において用いる熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂の場合、マイクロカプセル型硬化剤は、エポキシ樹脂用の硬化剤(即ちエポキシ樹脂硬化用として一般的に用いられる硬化剤)成分の周囲を高分子化合物で被覆した構造を有することが好ましい。硬化剤成分は、アミンアダクト、イミダゾールアダクト等のアダクト型硬化剤を含むことが、安定性と硬化性とのバランスの観点から好ましい。アダクト型硬化剤は、アミン類やイミダゾール類と、エポキシ樹脂、イソシアネート化合物、尿素化合物等との反応により得られる。マイクロカプセル型硬化剤は、上記したような硬化剤成分の表面をカプセル膜で被覆して安定化したものであり、硬化剤成分は、接続作業時の温度や圧力でカプセル膜が破壊され、マイクロカプセル外に拡散することによって熱硬化性樹脂と反応する。
【0021】
カプセル膜は、室温での安定性と低温加熱による活性発現とのバランス、即ち、潜在性の高さという観点から、高分子化合物を用いて形成されていることが好ましい。カプセル膜の形成に用いられる高分子化合物としては、例えば、ポリウレタン化合物、ポリウレタンウレア化合物、ポリウレア化合物、ポリビニル化合物、メラミン化合物、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等が例示される。
【0022】
マイクロカプセル型硬化剤は、微粉末状の硬化剤成分の表面をカプセル膜で被覆した構造を有することが好ましい。マイクロカプセル型硬化剤の平均粒子径は0.2μm以上8μm以下であることが好ましい。硬化剤としての効率の観点から、上記平均粒子径は0.2μm以上であることが好ましい。一方、硬化物の均一性の観点から、上記平均粒子径は8μm以下であることが好ましい。マイクロカプセル型硬化剤の平均粒子径が0.5μm以上6μm以下である場合、塗工液中に分散させる際に2次凝集や沈降が起こりにくいという利点が更に得られより好ましく、1μm以上4μm以下である場合、回路接続用フィルム接着剤の表面異物の発生が少ないという利点が更に得られ更に好ましい。
【0023】
マイクロカプセル型硬化剤の平均粒子径の測定方法としては、コールターカウンターを用いる方法が挙げられる。
【0024】
マイクロカプセル型硬化剤の活性化温度、すなわちマイクロカプセル型硬化剤中の硬化剤成分が熱硬化性樹脂を有効に硬化させる下限温度は、回路接続用フィルム接着剤の硬化性に大きく影響する因子であり、低温かつ短時間で性能発現させるためには、該活性化温度は低い方が好ましい。一方、回路接続用フィルム接着剤の製造時に熱硬化性樹脂とマイクロカプセル型硬化剤とが反応することを防止するために、回路接続用フィルム接着剤の成膜時の加熱温度はマイクロカプセル型硬化剤の活性化温度未満であることが好ましい。そのため、マイクロカプセル型硬化剤の活性化温度は、貯蔵安定性を確保するために、成膜時に溶剤が充分揮散できる温度以上であることが好ましい。
【0025】
マイクロカプセル型硬化剤の活性化温度は、好ましくは60℃以上100℃以下であり、より好ましくは70℃以上90℃以下である。なお本明細書中、「マイクロカプセル型硬化剤の活性化温度」とは、マイクロカプセル型硬化剤と熱硬化性樹脂とを質量比1対2で混合した組成物のゲルタイムが5分となると定義する。従って、例えば70℃のゲルタイムが5分を超えていて、80℃のゲルタイムが5分未満の場合、活性化温度は70℃より高く80℃未満である。尚、上記ゲルタイムを特定するために用いる熱硬化性樹脂は、回路接続用フィルム接着剤に用いられる熱硬化性樹脂であるが、特に、本発明において2種以上の熱硬化性樹脂を組合せて用いるような場合には、回路接続用フィルム接着剤中の熱硬化性樹脂を硬化性の観点で代表する特定の熱硬化性樹脂を選択して上記ゲルタイムを特定することで代用してもよい。
【0026】
回路接続用フィルム接着剤中、マイクロカプセル型硬化剤の含有量は、熱硬化性樹脂の高い硬化率を得るために、熱硬化性樹脂100質量部に対して、好ましくは5〜60質量部であり、より好ましくは10〜50質量部であり、更に好ましくは20〜40質量部である。上記含有量を満たすことにより、回路接続用フィルム接着剤の硬化物の吸水率を低く抑えることができる。
【0027】
<フィルム形成性高分子>
フィルム形成性高分子としては、フェノキシ樹脂、ポリビニルブチラール、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリ酢酸ビニル樹脂、ナイロン、スチレン−イソプレン共重合体、ポリメチルメタクリレート樹脂が例示される。
【0028】
回路接続用フィルム接着剤が常態として(すなわち室温及び大気圧にて)フィルム状であるために、フィルム形成性高分子のガラス転移温度は室温以上であることが好ましい。該ガラス転移温度は、より好ましくは50℃以上であり、更に好ましくは60℃以上であり、特に好ましくは70℃以上である。該ガラス転移温度が高いほど、回路接続用フィルム接着剤のブロッキング性が大きく抑制できる。一方、フィルム形成性高分子のガラス転移温度は120℃以下が好ましく、110℃以下がより好ましく、100℃以下が更に好ましく、90℃以下が特に好ましい。該ガラス転移温度が高いほど、フィルム形成性高分子を溶剤に溶解させる際に難溶解性領域が存在しても、溶け残りを少なく抑えることができる。
【0029】
フィルム形成性高分子の重量平均分子量は、回路接続用フィルム接着剤の硬化物としたときに強い機械的強度が発現する点で、好ましくは5,000以上であり、回路接続用フィルム接着剤中でフィルム形成性高分子が均一に存在しやすい点で、好ましくは800,000以下である。該重量平均分子量は、より好ましくは10,000以上800,000以下であり、更に好ましくは20,000以上500,000以下である。
【0030】
例えば熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合、フィルム形成性高分子としては、エポキシ樹脂との相溶性が高いフェノキシ樹脂が好ましい。ここで用いられるフェノキシ樹脂としては、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂、ビスフェノールAビスフェノールF混合型フェノキシ樹脂、ビスフェノールAビスフェノールS混合型フェノキシ樹脂、フルオレン環含有フェノキシ樹脂、カプロラクトン変性ビスフェノールA型フェノキシ樹脂等が例示される。回路接続用フィルム接着剤中、フィルム形成性高分子の含有量は、熱硬化性樹脂100質量部に対して、10〜200質量部であることが好ましく、30〜180質量部であることがより好ましく、50〜160質量部であることが更に好ましい。
【0031】
本発明の製造方法によって製造される回路接続用フィルム接着剤は、更に導電粒子を含有することが好ましい。この場合接続信頼性を高めることができる。
【0032】
本発明で使用できる導電粒子としては、金属粒子、炭素粒子、高分子核材に金属薄膜を被覆した粒子等を用いることができる。
【0033】
金属粒子としては、例えば、金、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、亜鉛、錫、鉛、半田、インジウム、パラジウム等の単体からなる粒子や、2種以上のこれらの金属が層状又は傾斜状に組み合わされている粒子が例示される。
【0034】
高分子核材に金属薄膜を被覆した粒子としては、エポキシ樹脂、スチレン樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ジビニルベンゼン架橋体、NBR、SBR等のポリマーを1種又は2種以上の組み合わせで用いて形成した高分子核材に、金、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、亜鉛、錫、鉛、半田、インジウム、パラジウム等のうち1種又は2種以上をメッキ等により金属被覆した粒子が例示される。金属薄膜の厚さとしては、0.005μm以上1μm以下が、接続安定性と粒子の凝集性の観点から好ましい。金属薄膜が高分子核材を均一に被覆していることが接続安定性上好ましい。これら導電粒子の表面を更に絶縁被覆した粒子も使用することができる。
【0035】
導電粒子の平均粒径としては、0.5μm以上10μm以下が、対向する電極間の導電性と隣接する電極間の絶縁性との両立及び粒子の凝集性の観点から好ましい。すなわち該平均粒径が上記範囲内である場合、ICチップや回路基板の電極高さのバラツキや、接続時の平行度のバラツキを吸収し、尚且つ、隣接電極間の粒子滞留による絶縁破壊を抑制できる。該平均粒径は、より好ましくは1μm以上7μm以下、更に好ましくは1.5μm以上6μm以下、特に好ましくは2μm以上5.5μm以下、より特に好ましくは2.5μm以上5μm以下である。
【0036】
導電粒子の粒子径の標準偏差は小さいほど好ましく、該標準偏差は、平均粒径の50%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることが更に好ましく、5%以下であることが特に好ましい。導電粒子の粒径は、コールターカウンターを用いて測定することができる。
【0037】
導電粒子の含有量は、本発明で製造される回路接続用フィルム接着剤の総質量の0.1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.13質量%以上25質量%以下、更に好ましくは0.15質量%以上20質量%以下、特に好ましくは0.2質量%以上15質量%以下、より特に好ましくは0.25質量%以上10質量%以下である。導電粒子の上記含有量が0.1質量%以上30質量%以下である場合、対向する電極間の導電性と隣接する電極間の絶縁性とが両立し易い。
【0038】
本発明で製造される回路接続用フィルム接着剤には、絶縁性フィラーを含有させてもよい。これにより、硬化時や使用環境下における熱ストレス、即ち、回路接続用フィルム接着剤と被接着体との線膨張係数差による応力による接着性及び接続信頼性の低下を抑制できる。絶縁性フィラーとしては、例えば、溶融シリカ、結晶質シリカ、ケイ酸カルシウム、アルミナ、炭酸カルシウム、酸化チタン等の粉体が挙げられる。絶縁性フィラーの平均粒径は、コールターカウンターを用いて測定することができる。絶縁性フィラーの平均粒径は、熱ストレスによる接続信頼性の低下抑制効果を良好に発揮できる点及び塗工液中での絶縁性フィラーの凝集を抑制できる点で、0.01μm以上であることが好ましい。また該平均粒径は、接続端子間の電気抵抗を低く抑えることができる点及び塗工液中での絶縁性フィラーの沈降を抑制できる点で、5μm以下であることが好ましく、この場合導電粒子よりも粒径が小さいことがより好ましい。上記平均粒径は、より好ましくは0.05μm以上3μm以下であり、更に好ましくは0.1μm以上2μm以下である。
【0039】
回路接続用フィルム接着剤中、絶縁性フィラーの添加量は、熱ストレスによる接続信頼性の低下抑制効果を良好に発揮することができるとともに回路接続用フィルム接着剤の硬化物としての機械的強度を高く保つことができる点で、熱硬化性樹脂100質量部に対して5質量部以上200質量部以下であることが好ましく、より好ましくは20質量部以上150質量部以下であり、更に好ましくは30質量部以上120質量部以下である。
【0040】
本発明で製造される回路接続用フィルム接着剤には、接着性や硬化時の応力緩和性を付与する目的で、ポリエステル樹脂、アクリルゴム、SBR、NBR、シリコーン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアセタール樹脂、尿素樹脂、キシレン樹脂、カルボキシル基、ヒドロシキシル基、ビニル基、アミノ基等の官能基を含有するゴム、エラストマー類等の弾性高分子成分を含有させてもよい。これら弾性高分子成分の分子量は、10,000〜3,000,000であることが好ましい。弾性高分子成分の含有量は、熱硬化性樹脂100質量部に対して2〜80質量部であることが好ましい。
【0041】
本発明で製造される回路接続用フィルム接着剤は、軟化剤、促進剤、老化防止剤、着色剤、難燃化剤、チキソトロピック剤等を更に含有することができる。接着性の観点からカップリング剤を含有することが好ましい。カップリング剤としてはケチミン基、ビニル基、アクリル基、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基等のうち1種以上を含有するシランカップリング剤が、接着性の向上の観点から好ましい。
【0042】
本発明においては、回路接続用フィルム接着剤中に各成分が均一に分布し、かつ膜厚バラツキの少ないフィルムを形成するために、回路接続用フィルム接着剤中の各成分を溶剤に溶解又は分散させて、塗工液を調製する。回路接続用フィルム接着剤中の各成分を溶剤中に均一に溶解又は分散させるために、本発明に用いられる溶剤としては、回路接続用フィルム接着剤中の各成分の溶解性又は分散性が高いことが好ましい。但し、回路接続用フィルム接着剤の安定性を確保するために、溶剤はマイクロカプセル型硬化剤のカプセル膜を溶解しないことが必要である。上記の理由から、好ましい溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート等が挙げられる。溶剤は複数種を併用することもできる。
【0043】
溶剤の使用量は、塗工液が塗工に適した粘度となるように決定される。塗工液の25℃での粘度は、100mPa・s以上20000mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは、300mPa・s以上15000mPa・s以下であり、更に好ましくは、400mPa・s以上10000mPa・s以下である。
【0044】
塗工液中の水分量は、生産性の観点から、塗工液中のマイクロカプセル型硬化剤の質量に対して、0.5質量%以上であることが好ましい。またマイクロカプセル型硬化剤の安定性を向上させるため、該水分量は10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0045】
本発明では、剥離性基材上に塗工液が塗布される。剥離性基材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、PET、PEN等のポリエステル、ナイロン、塩化ビニル、ポリビニルアルコール等のフィルムが例示される。厚みの安定性、耐溶剤性、経済性の観点から、剥離性基材としては、ポリプロピレン及びPETが好ましい。該剥離性基材としては、フッ素処理、シリコーン処理、アルキド処理等の表面処理がなされている基材が好ましい。剥離性基材の厚みが30μm以上100μm以下であることは、塗工作業時のハンドリング性と厚みの安定性とが優れる点で好ましい。
【0046】
次に、本発明の回路接続用フィルム接着剤の製造方法の工程について説明する。
【0047】
<バインダー液調製ステップ>
バインダー液調製ステップにおいては、まず溶剤に第1の熱硬化性樹脂を溶解させる。溶解時の温度は、溶解効率と安全性から10℃以上100℃以下が好ましい。溶剤を攪拌しながら第1の熱硬化性樹脂を溶解させるのが好ましい。
【0048】
次に、第1の熱硬化性樹脂が溶解した溶剤にフィルム形成性高分子を溶解させる。前もって第1の熱硬化性樹脂を溶解させることによって、フィルム形成性高分子の溶解速度が上がり溶解効率が向上するとともに、フィルム形成性高分子中に存在する難溶解領域(以下、半ゲル状物とも称する)の溶け残りを抑えることができる。熱硬化性樹脂が完全に溶解する前に、フィルム形成性高分子の溶解を開始しても構わない。
【0049】
フィルム形成性高分子の溶解は最高温度が50℃以上となる条件で行う。溶剤の温度を50℃以上とすることで、フィルム形成性高分子の半ゲル状物の溶け残りを少なく抑えることができる。フィルム形成性高分子の半ゲル状物の溶け残りを抑制できる理由は、詳細には判っていなが、フィルム形成性高分子の分子鎖の絡み合いが多い部分で溶剤への溶解性が低下しており、50℃以上に加熱することで、フィルム形成性高分子(より典型的には、ガラス転移温度が室温以上、特に50℃以上であるフィルム形成性高分子)の分子運動を活発にし、更に、第1の熱硬化性樹脂を前もって溶解しておくことで、絡み合い部分に第1の熱硬化性樹脂が侵入して滑材的な働きをするために、半ゲル状物の溶け残りが劇的に減少するものと考えられる。
【0050】
フィルム形成性高分子の溶解時の最高温度は、溶解速度、溶け残り物の低減効果と安全性の観点から、50℃以上100℃以下が好ましく、更に好ましくは、55℃以上80℃以下である。溶剤をリフラックスさせながらフィルム形成性高分子を溶解させても構わない。加熱下攪拌しながら溶解を行うのが好ましい。加熱は50℃以上の一定温度で行っても構わないし、溶解の進行と共に昇温する等、最高温度が50℃以上となることを条件に温度を変えながら溶解を行っても構わない。溶解時間は1時間以上50時間以下が好ましく、2時間以上20時間以下が更に好ましい。特に、温度50℃以上に維持される時間が上記範囲内であることが好ましい。
以上のようにして、熱硬化性樹脂及びフィルム形成性高分子が溶剤中に溶解してなるバインダー液を調製できる。
【0051】
<塗工液調製ステップ>
塗工液調製ステップにおいては、上記で調製したバインダー液と、予め第2の熱硬化性樹脂中にマイクロカプセル型硬化剤を分散させてなる分散液とを混合する。これにより、マイクロカプセル型硬化剤が溶剤中に略均一に分散した塗工液を調製することができる。マイクロカプセル型硬化剤を第2の熱硬化性樹脂中に事前に分散させることにより、硬化剤の分散効率が向上すると共に、マイクロカプセル型硬化剤が凝集することを抑えられる。本発明において塗工液を調製するための上記混合は40℃以下で行われる。塗工液を40℃以下で調製することでマイクロカプセル型硬化剤が凝集することを抑えられ、また回路接続用フィルム接着剤の貯蔵安定性を向上させることができる。混合温度は、好ましくは5℃以上30℃以下であり、より好ましくは7℃以上25℃以下であり、更に好ましくは10℃以上20℃以下である。混合温度が5℃以上である場合、結露による塗工液中の水分量上昇を抑えることができる。
【0052】
塗工液の混合は、攪拌しながら行うことが好ましい。空気の巻き込みがおきないような条件で撹拌を行う場合、回路接続用フィルム接着剤の表面性が優れ特に好ましい。混合時間は、5分以上12時間以下が好ましい。
【0053】
本発明において、熱硬化性樹脂は、マイクロカプセル型硬化剤を事前に分散させるとき(第2の熱硬化性樹脂)と、バインダー液調製ステップの最初に溶剤に溶解させるとき(第1の熱硬化性樹脂)とで用いられるが、第1及び第2の熱硬化性樹脂は互いに同種のものでもよいし、異なっていてもよい。またそれぞれ数種類の熱硬化性樹脂を混合して用いてもよい。回路接続用フィルム接着剤中の所望の熱硬化性樹脂量が得られるように、熱硬化性樹脂の使用量を上記2回に適宜分配すればよい。熱硬化性樹脂の分配割合については、マイクロカプセル型硬化剤を事前に分散するための第2の熱硬化性樹脂量が、マイクロカプセル型硬化剤の質量の1.0倍以上5倍以下であって、バインダー液調製ステップに添加する第1の熱硬化性樹脂の添加量が全体の熱硬化性樹脂の添加量の10質量%以上となるように分配するのが好ましい。この場合、マイクロカプセル型硬化剤と第2の熱硬化性樹脂の混合物のハンドリング性に優れ、マイクロカプセル型硬化剤の第2の熱硬化性樹脂への分散性、安定性が高く、かつ、フィルム形成性高分子の半ゲル状物の溶け残りを抑制できるという利点が得られる。
【0054】
なお、導電粒子や絶縁性フィラー等の分散性成分は、混合後の分離を防ぐために、塗工液調製工程でマイクロカプセル型硬化剤と同時に添加することが好ましい。
以上のようにして、バインダー液中にマイクロカプセル型硬化剤が分散してなる塗工液を調製できる。
【0055】
<成膜ステップ>
成膜ステップにおいては、まず塗工液を剥離性基材上に塗布(塗工)する。塗布には、バーコーター、ブレードコーター、ロールコータ−、ダイコーター、グラビアコーター等が用いられる。マイクロカプセル型硬化剤が凝集することを抑えられる点及び回路接続用フィルム接着剤の貯蔵安定性を向上することができる点で、40℃以下で塗布を行うことが好ましい。塗布温度は、更に好ましくは5℃以上30℃以下であり、更に好ましくは10℃以上25℃以下である。塗布温度が5℃以上である場合、結露による塗工液中の水分量上昇を抑えることができる。
【0056】
次に、塗工液が塗布された剥離性基材を加熱して溶剤を揮散させて成膜する。加熱の方法としては、ドライヤー内に熱風を供給する方法や、赤外線等の熱線を照射する方法、加熱ロールによって剥離性基材側から熱を供給する方法等が挙げられる。揮発した溶剤が系外に抜けやすく、溶剤の揮散効率が高い点で熱風を用いる方法が好ましい。溶剤の揮散効率を上げて、短時間に成膜させるためには、加熱温度が高い方が好ましく、熱硬化性樹脂とマイクロカプセル型硬化剤とを反応させないためには、加熱温度がマイクロカプセル型硬化剤の活性化温度以下であることが好ましい。成膜ステップの加熱温度としては、50℃以上90℃以下が好ましい。溶剤の揮散効率の観点から、50℃以上が好ましく、成膜時の安定性の観点から90℃以下が好ましい。加熱温度は、より好ましくは60℃以上80℃以下である。
【0057】
加熱時間は3分以上20分以下であることが好ましい。残存する溶剤を除去し、フィルム接着剤の貯蔵安定性を向上させる点から、3分以上が好ましく、成膜ステップで熱硬化性樹脂とマイクロカプセル型硬化剤との反応を防ぎ、回路接続用フィルム接着剤の貯蔵安定性を向上させる点から20分以下が好ましい。加熱時間は、より好ましくは5分以上15分以下である。
【0058】
本発明の製造方法により得られる回路接続用フィルム接着剤の膜厚は、5μm以上50μm以下であることが好ましい。膜厚は、表面の異常抑制の観点から5μm以上が好ましく、フィルム接着剤の貯蔵安定性の点から50μm以下が好ましい。膜厚は、より好ましくは10μm以上30μm以下である。
【0059】
本発明の製造方法により得られる回路接続用フィルム接着剤に残存する溶剤は少ない方が好ましい。残存溶剤が少ないほど貯蔵安定性を高く維持できる。回路接続用フィルム接着剤中の残存溶剤の量は、好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは0.7質量%以下であり、更に好ましくは0.5質量%以下である。
【0060】
本発明の製造方法により得られる回路接続用フィルム接着剤は、そのまま使用してもよいし、回路接続用フィルム接着剤上に更に別の接着剤組成物を塗工又はラミネートして複層タイプの回路接続用フィルム接着剤としてもよい。
【0061】
本発明の製造方法により得られる回路接続用フィルム接着剤は、所望の幅にスリットされ、リール状に巻き取られていてもよい。
【実施例】
【0062】
本発明を実施例により更に詳細に説明する。
【0063】
<ガラス転移温度測定>
セイコーインスツルメント社製DSC220Cを使用し、10℃/分で150℃まで昇温後、40℃まで冷却し、再度10℃/分で昇温したときの低温側のベースラインと変曲点の接線との交点をガラス転移温度とした。
<水分の測定>
ダイアインスツルメンツ社製カールフィッシャー水分計CA−100型を使用して測定した。
<ゲルタイムの測定>
(株)テイ・エスエンジニアリング社製のキュラストメーターV型を使用し、JIS K6300に準拠して求めた。
<膜厚測定>
(株)ニコン製デジマイクロMH−15Mを用いて測定し、測定数25箇所の平均値を膜厚とした。
【0064】
<顕微IR測定>
Varian社製FTS−6000/UMA600を用いて、ゲルマニウム結晶を用いた顕微ATR法で、4000〜900cm-1の測定範囲、8cm-1の分解能で測定した。
<接続抵抗測定>
日置電機(株)製3541RESISTANCE HiTESTERを用いて、接続端子間の接続抵抗を四端子法で測定した。
<絶縁抵抗測定>
10Vの電圧を掛けて東亜電波工業製SM−8210を用い、絶縁抵抗を測定した。
<貯蔵安定性測定>
貯蔵前後の回路接続用フィルム接着剤のFT−IR測定を(株)島津製作所製、IRAffinity−1を用いて行い、貯蔵前後のエポキシ基の残存率を算出し、それを貯蔵安定性とした。
【0065】
[実施例1]
撹拌機、温度計、還流冷却管を取り付けた4ツ口フラスコに、ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(旭化成ケミカルズ株式会社製、商品名:AER2603、以下同じ)100質量部と酢酸エチル400質量部を入れ、室温で1時間攪拌し、均一溶液を得た。これに、フィルム形成性高分子としてフェノキシ樹脂(InChem社製、商品名:PKHC)100質量部を攪拌しながら混合した。更に、攪拌しながら昇温を行い、酢酸エチルをリフラックスさせながら均一な溶液となるまで6時間攪拌を続け、バインダー液を得た。その間の溶液の最高温度は79℃であった。次に、35℃まで冷却を行い、シランカップリング剤(信越化学工業製、商品名:KBM−403、以下同じ)1.0質量部と平均粒径3μmの導電粒子(積水化学社製、商品名:ミクロパールAU203、)30質量部と、絶縁性フィラーとして平均粒径1μmの球状シリカ粒子(比重1.82)20質量部を添加し、更に、マイクロカプセル型硬化剤をビスフェノール型液状エポキシ樹脂に、質量比がマイクロカプセル型硬化剤/ビスフェノール型液状エポキシ樹脂=1/2となる割合で事前に分散させた混合物(旭化成ケミカルズ株式会社製、商品名:ノバキュアHX−3932HP、活性化温度90℃、以下同じ)100質量部を添加し、35℃で10分間攪拌を続け、略均一分散状態の塗工液Aを得た。
【0066】
尚、ここで用いた酢酸エチル以外の原材料は、50℃で24時間、真空乾燥を行ったものを使用した。酢酸エチルは1週間モレキュラーシーブス3Aを浸漬し、脱水処理したものを用いた。塗工液A中の水分量は、マイクロカプセル型硬化剤に対して8.1質量%であった。
【0067】
この塗工液を、シリコーン系離型処理を施した50μmのPETフィルム上にブレードコーターを用いて塗布し、70℃に加熱したオーブン中で15分間加熱した後、溶剤を乾燥除去して、膜厚25μmの回路接続用フィルム接着剤Aを得た。更に、回路接続用フィルム接着剤A中にフィルム形成性高分子の溶け残りやマイクロカプセル型硬化剤の凝集物等の不均一領域(以下、異物と称する)の有無を確認するために、膜厚を10μmとした以外は上記と同様に回路接続用フィルム接着剤を作製し、200cm2の領域について表面性状を観察した結果、異物が30個観察され、直径10μmを超える異物の頻度は0.15個/cm2であった。その異物の内、3箇所を顕微IRで観察した結果、特性吸収パターンより、いずれも、マイクロカプセル型硬化剤の凝集物であることが判った。
【0068】
次に、25μm×100μmの金バンプがピッチ38μm(バンプ間ギャップ13μm)で並んだ1.5mm×16.1mmのICチップと、これに対応した接続ピッチを有するITO(Indium Tin Oxide)配線(0.14μm)上にクロム配線(0.3μm)を形成した厚み0.7mmのガラス基板を3組準備し、ガラス基板のICチップ接続位置を覆うように、2mm×20mmの回路接続用フィルム接着剤Aを貼り付けた。次に、70℃、0.5MPa、2秒間の条件で熱圧着し、剥離処理したPETフィルムを剥離した。回路接続用フィルム接着剤Aを貼り付けたガラス基板と、ICチップをフリップチップボンダー(東レエンジニアリング株式会社製FC2000)を用いて位置合わせをし、2秒後に180℃に到達し、その後一定となる条件で、4MPa、10秒間加熱加圧し、ICチップをガラス基板に接続した。ICチップとガラス基板からは、四端子接続抵抗が5箇所測定でき、5箇所×3組(計15箇所)の接続抵抗の平均値は11.5Ωであり、安定に接続されていた。また、ICチップとガラス基板によって形成された20対×3組(計60対)の櫛型電極で絶縁抵抗測定を行った。絶縁抵抗は109Ω以上であり、60対の電極間でショートの発生はなかった。
【0069】
更に、85℃、相対湿度85%の環境下で1000時間放置後、同様に接続抵抗測定、絶縁抵抗測定を行った結果、接続抵抗の平均値は12.3Ω、絶縁抵抗は109Ω以上であり、優れた接続信頼性と絶縁信頼性を有していた。
次に、回路接続用フィルム接着剤Aを5℃で3ヶ月貯蔵し、貯蔵安定性評価及び上記と同様に接続抵抗測定を実施した。貯蔵安定性は78%、接続抵抗は18.6Ωで、3ヶ月貯蔵後も使用可能であり、優れた貯蔵安定性を示した。
【0070】
[実施例2〜7]
以下の表1に示す配合量と製造条件で、実施例1と同様にして、回路接続用フィルム接着剤を作製し、実施例1と同様に、以下の表1に示す評価を行った。得られた結果を以下の表1に示す。
【0071】
[比較例1]
以下の表1に示す配合量と製造条件で、実施例1と同様にして、回路接続用フィルム接着剤を作製し、実施例1と同様に、以下の表1に示す評価を行った。得られた結果を以下の表1に示す。比較例1で使用した回路接続用フィルム接着剤では、バインダー液調製ステップでエポキシ樹脂を含有していないために、目視では均一溶液が得られたものの、製造された回路接続用フィルム接着剤中には、直径10μmを超えるフェノキシ樹脂の半ゲル状物からなる異物が多数存在し、絶縁信頼性試験でショートが発生し、回路接続材料としての性能を満たさなかった。
【0072】
[比較例2]
以下の表1に示す配合量と製造条件で、実施例1と同様にして、回路接続用フィルム接着剤を作製し、実施例1と同様に、以下の表1に示す評価を行った。得られた結果を以下の表1に示す。比較例2で使用した回路接続用フィルム接着剤では、バインダー液製造ステップを50℃未満で行った結果、目視では均一溶液が得られたものの、製造した回路接続用フィルム接着剤中には、直径10μmを超えるフェノキシ樹脂の半ゲル状物からなる異物が多数存在し、絶縁信頼性試験でショートが発生し、回路接続材料としての性能を満たさなかった。
【0073】
[比較例3]
以下の表1に示す配合量と製造条件で、実施例1と同様にして、回路接続用フィルム接着剤を作製し、実施例1と同様に、以下の表1に示す評価を行った。得られた結果を以下の表1に示す。比較例3で使用した回路接続用フィルム接着剤では、塗工液製造ステップの混合温度が40℃を超えていた結果、製造中にマイクロカプセル型硬化剤が凝集し、製造した回路接続用フィルム接着剤中には、直径10μmを超えるマイクロカプセル型硬化剤の凝集物からなる異物が多数存在し、絶縁信頼性試験でショートが発生するとともに、貯蔵安定性も大幅に低下し、ガラス基板への貼付けができず、回路接続材料としての性能を満たさなかった。
【0074】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の製造方法で製造される回路接続用フィルム接着剤は、熱硬化性樹脂による高い接続信頼性を有し、フィルム形成性高分子の溶け残りやマイクロカプセル型硬化剤の凝集物等の絶縁信頼性に悪影響を及ぼす大きさの不均一領域が少なく、かつ、低温短時間硬化性と貯蔵安定性とを両立でき、回路接続用途において好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂と、マイクロカプセル型硬化剤と、フィルム形成性高分子とを含有する回路接続用フィルム接着剤の製造方法であって、
第1の熱硬化性樹脂を溶剤中に溶解させ、次いで最高温度が50℃以上となる条件で該溶剤中にフィルム形成性高分子を溶解させることによって、第1の熱硬化性樹脂及びフィルム形成性高分子が溶剤中に溶解してなるバインダー液を調製するバインダー液調製ステップ、
該バインダー液と、予め第2の熱硬化性樹脂中にマイクロカプセル型硬化剤を分散させてなる分散液とを40℃以下で混合することによって、バインダー液中にマイクロカプセル型硬化剤が分散してなる塗工液を調製する塗工液調製ステップ、並びに
該塗工液を剥離性基材上に塗布した後溶剤を揮散させる成膜ステップ
を含む、回路接続用フィルム接着剤の製造方法。
【請求項2】
回路接続用フィルム接着剤が導電粒子を更に含有する、請求項1に記載の回路接続用フィルム接着剤の製造方法。
【請求項3】
前記フィルム形成性高分子のガラス転移温度が120℃以下である、請求項1又は2に記載の回路接続用フィルム接着剤の製造方法。
【請求項4】
前記第1の熱硬化性樹脂及び前記第2の熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂であり、前記マイクロカプセル型硬化剤が、エポキシ樹脂用の硬化剤成分の周囲を高分子化合物で被覆した構造を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の回路接続用フィルム接着剤の製造方法。
【請求項5】
前記マイクロカプセル型硬化剤の活性化温度が、60℃以上100℃以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の回路接続用フィルム接着剤の製造方法。
【請求項6】
前記塗工液中の水分量が、前記塗工液中の前記マイクロカプセル型硬化剤の質量に対して、0.5質量%以上10質量%以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の回路接続用フィルム接着剤の製造方法。

【公開番号】特開2010−261003(P2010−261003A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−115025(P2009−115025)
【出願日】平成21年5月11日(2009.5.11)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】