回転機の制御装置
【課題】モータジェネレータ10を流れる電流の検出値をフィードバック制御するための操作量としての指令電圧の1電気角周期に渡る積分値をゼロにフィードバック制御する場合、電気角の検出値に誤差が生じることで、電流の検出値に重畳されたオフセット誤差を適切に補正できないこと。
【解決手段】モデル予測制御部30では、モデル予測制御によってインバータINVの今回の操作状態を表現する電圧ベクトルViを選択する。積分値算出部40では、電圧ベクトルViを入力とし、各相の印加電圧の積分値Δvu,Δvv,Δvwを算出する。補正部44u,44v,44wでは、これらをゼロにフィードバック制御すべく実電流iu,iv,iwを補正する。
【解決手段】モデル予測制御部30では、モデル予測制御によってインバータINVの今回の操作状態を表現する電圧ベクトルViを選択する。積分値算出部40では、電圧ベクトルViを入力とし、各相の印加電圧の積分値Δvu,Δvv,Δvwを算出する。補正部44u,44v,44wでは、これらをゼロにフィードバック制御すべく実電流iu,iv,iwを補正する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに相違する複数の電圧値を有する電圧印加手段と回転機の端子との間を開閉するスイッチング素子を備えて構成される電力変換回路について、該電力変換回路を構成するスイッチング素子を操作対象とし、前記回転機を流れる電流を検出する検出手段による電流の検出結果に基づき、前記スイッチング素子をオン・オフ操作することで前記回転機の制御量を制御する回転機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電流センサによって検出される電流と実際の値との間に定常的な誤差(オフセット誤差)が生じる現象が周知である。このため、電流センサの検出値に基づき回転機の制御量を制御する場合、電流のオフセット誤差に起因して制御性が低下するおそれがある。
【0003】
そこで従来、下記特許文献1に見られるように、dq軸の電流のフィードバック操作量としてのdq軸の電圧を3相変換することで各相の指令電圧を生成する構成において、これら指令電圧を1電気角周期に渡って積分し、この積分値に基づきオフセット誤差を検出することで、電流センサの検出値を補正するものも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−121860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ただし、上記手法を用いた場合、たとえば回転機の電気角の検出誤差等が生じる場合等にあっては、オフセット誤差が正しく検出されず、ひいては電流センサの検出値を誤った補正量で補正するおそれがあることが発明者らによって見出されている。
【0006】
本発明は、上記課題を解決する過程でなされたものであり、その目的は、互いに相違する複数の電圧値を有する電圧印加手段と回転機の端子との間を開閉するスイッチング素子を備えて構成される電力変換回路について、該電力変換回路を構成するスイッチング素子を操作対象とし、前記回転機を流れる電流を検出する検出手段による電流の検出結果に基づき、前記スイッチング素子をオン・オフ操作することで、前記回転機の制御量を制御する新たな回転機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記課題を解決するための手段、およびその作用効果について記載する。
【0008】
請求項1記載の発明は、互いに相違する複数の電圧値を有する電圧印加手段と回転機の端子との間を開閉するスイッチング素子を備えて構成される電力変換回路について、該電力変換回路を構成するスイッチング素子を操作対象とし、前記回転機を流れる電流を検出する検出手段による電流の検出結果に基づき、前記スイッチング素子をオン・オフ操作することで前記回転機の制御量を制御する回転機の制御装置において、前記オン・オフ操作によって定まって且つ固定座標系の電圧ベクトルにて表現される前記電力変換回路の都度の操作状態を入力とし、前記回転機の各端子または各相に印加される電圧を算出する印加電圧算出手段と、前記印加電圧算出手段によって算出される各端子または各相のそれぞれの電圧についての1電気角周期以上の期間にわたる積分値を算出する積分手段と、前記積分値をゼロにフィードバック制御するフィードバック制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
回転機の制御量を制御するに際し、上記検出手段にオフセット誤差がある場合、これに起因して回転機の端子の電圧や相電圧の振幅中心がゼロからずれる。このため、電圧の一周期にわたる積分値をゼロにフィードバック制御することで、検出手段のオフセット誤差を補償することができる。ただし、積分の対象とされる電圧を電気角情報を用いて算出する場合には、検出手段のオフセット誤差の補償処理に際して、電気角情報に含まれる誤差の影響を受けることとなる。この点、上記発明では、印加電圧算出手段が、電力変換回路の操作状態を入力として印加される電圧を算出するため、電圧の算出に際して電気角情報等を用いない。このため、こうして算出された電圧は、電気角の検出誤差等の影響を受けない精度の高いものとなる。そして、この電圧の積分値をゼロにフィードバック制御することで、検出手段のオフセット誤差を好適に補償することができる。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記フィードバック制御手段は、前記積分値を入力とする積分要素を備えて構成されることを特徴とする。
【0011】
たとえば上記積分値をゼロとするように積分値を電流値に変換することで検出手段の検出値が補正される場合、積分手段によって次回算出される積分値はゼロとなる。このため、次回においては、検出値が補正されず、オフセット誤差が再度生じることとなる。また、積分値をゼロとするように検出値を一回で補正する場合には、積分値に含まれるノイズ等の影響を直接的に受けることともなる。この点、上記発明では、フィードバック制御手段に積分要素を備えることで、定常的な誤差を解消することができ、また、ゲインの設定によってノイズの影響を抑制することも容易となる。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、前記回転機の過渡運転時であるか否かを判断する判断手段と、前記過渡運転時であると判断される場合、前記積分手段の積分処理が前記フィードバック制御手段に反映されることを禁止する禁止手段とをさらに備えることを特徴とする。
【0013】
過渡運転時においては、検出手段の検出値にオフセット誤差がない場合であっても、電気角の1周期当たりの上記積分値がゼロとならない。上記発明では、この点に鑑み、禁止手段を備えることで、積分値とオフセット誤差との関連が低いときにおける積分値がフィードバック制御に反映されることを回避する。
【0014】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発明において、前記積分手段は、前記各端子または各相に印加される電圧を電気角の関数として積分するものであることを特徴とする。
【0015】
上記発明では、電圧を電気角で積分することで、時間で積分する場合と比較して、電気角速度の変動に起因して積分値によるオフセット誤差の定量化精度が低下することを好適に抑制することができる。
【0016】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の発明において、前記積分手段は、前記回転機の電気角周期の2倍以上の期間にわたる前記積分値を前記フィードバック制御手段に出力することを特徴とする。
【0017】
上記発明では、積分期間を長く取ることで、1電気角周期に渡る積分値と比較して、積分値が微視的なタイムスケールにおける電気角速度の変動を受けることを好適に抑制することができる。また、積分処理を行なう周期の整数倍が1電気角周期と一致しない場合には、電圧が様々な位相をとるときの値を積分処理に用いることができるため、積分値によるオフセット誤差の定量化精度が向上する。
【0018】
請求項6記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の発明において、前記電力変換回路は、前記回転機の端子を直流電圧源の正極および負極のそれぞれに選択的に接続するスイッチング素子および該スイッチング素子に逆並列接続されたダイオードを備える直流交流変換回路であり、前記正極に接続するスイッチング素子と前記負極に接続するスイッチング素子とのいずれか一方および他方がそれぞれオンおよびオフとなる状態からいずれか一方および他方がそれぞれオフおよびオンとなる状態に切り替えるに際し、双方がオフ状態となるデッドタイム期間が設けられ、前記操作状態が変更される場合、前記回転機を流れる電流に基づき、前記デッドタイム期間において各端子または各相に印加される電圧を前記積分値に反映させるデッドタイム補正手段をさらに備えることを特徴とする。
【0019】
デッドタイム期間において各端子や各相に印加される電圧は回転機を流れる電流に依存するため、デッドタイムを含む期間における端子電圧や相電圧は、操作状態によっては一義的に定まらない。このため、操作状態の切り替えに際しては、印加電圧算出手段による算出精度が低下するおそれがある。上記発明では、この点に鑑み、デッドタイム補正手段を備えた。
【0020】
請求項7記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載の発明において、前記電力変換回路の操作状態を仮設定した場合についての前記回転機を流れる電流、前記回転機のトルク、および前記回転機の磁束の少なくとも1つを有した制御量を予測する予測手段と、該予測手段によって予測される制御量に基づき、該予測される制御量に対応する操作状態を評価し、評価の高い操作状態を前記電力変換回路の操作状態として決定する決定手段と、該決定された操作状態となるように前記電力変換回路を操作する操作手段とをさらに備えることを特徴とする。
【0021】
モデル予測制御を行なう場合、操作状態を表現する電圧ベクトルが決定手段によって都度決定される。このため、印加電圧算出手段の入力情報としての操作状態に関する情報を簡易に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1の実施形態にかかるシステム構成図。
【図2】インバータの操作状態を表現する電圧ベクトルを示す図。
【図3】上記実施形態にかかるモデル予測処理の手順を示す流れ図。
【図4】同実施形態にかかる電圧オフセット部の処理の手順を示す流れ図。
【図5】同実施形態にかかる印加電圧の算出に用いるマップを示す図。
【図6】同実施形態の効果を示すタイムチャート。
【図7】第2の実施形態にかかる電圧オフセット部の処理の手順を示す流れ図。
【図8】同実施形態の効果を示すタイムチャート。
【図9】第3の実施形態にかかる電圧オフセット部の処理の手順を示す流れ図。
【図10】同実施形態の効果を示すタイムチャート。
【図11】第4の実施形態にかかる積分処理の停止処理の手順を示す流れ図。
【図12】第5の実施形態にかかる印加電圧の算出処理の手順を示す流れ図。
【図13】第6の実施形態にかかるシステム構成図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<第1の実施形態>
以下、本発明にかかる回転機の制御装置を車載主機としての回転機の制御装置に適用した第1の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0024】
図1に、本実施形態にかかるモータジェネレータの制御システムの全体構成を示す。車載主機としてのモータジェネレータ10は、3相の永久磁石同期モータである。また、モータジェネレータ10は、突極性を有する回転機(突極機)である。詳しくは、モータジェネレータ10は、埋め込み磁石同期モータ(IPMSM)である。
【0025】
モータジェネレータ10は、インバータINVを介して高電圧バッテリ12およびコンデンサ13に接続されている。高電圧バッテリ12は、端子電圧がたとえば百V以上となる直流電圧源である。インバータINVは、スイッチング素子S*p,S*n(*=u,v,w)の直列接続体を3組備えており、これら各直列接続体の接続点がモータジェネレータ10のU,V,W相にそれぞれ接続されている。これらスイッチング素子S*#(*=u,v,w;#=p,n)として、本実施形態では、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)が用いられている。そして、これらにはそれぞれ、ダイオードD*#が逆並列に接続されている。
【0026】
本実施形態では、モータジェネレータ10やインバータINVの状態を検出する検出手段として、以下のものを備えている。まずモータジェネレータ10の回転角度(電気角θ)を検出する回転角度センサ14を備えている。また、モータジェネレータ10のU相、V相およびW相のそれぞれを流れる相電流(実電流iu,iv,iw)を検出する電流センサ16u,16v,16wを備えている。さらに、インバータINVの入力電圧(電源電圧VDC)を検出する電圧センサ18を備えている。
【0027】
上記各種センサの検出値は、図示しないインターフェースを介して低電圧システムを構成する制御装置20に取り込まれる。制御装置20では、これら各種センサの検出値に基づき、インバータINVを操作する操作信号を生成して出力する。ここで、インバータINVのスイッチング素子S*#を操作する信号が、操作信号g*#である。
【0028】
上記制御装置20は、モータジェネレータ10のトルクを要求トルクTrに制御すべく、インバータINVを操作する。詳しくは、要求トルクTrを実現するための指令電流とモータジェネレータ10を流れる電流とが一致するように、インバータINVを操作する。すなわち、本実施形態では、モータジェネレータ10のトルクが最終的な制御量となるものであるが、トルクを制御すべく、モータジェネレータ10を流れる電流を直接の制御量として、これを指令電流に制御する。特に、本実施形態では、モータジェネレータ10を流れる電流を指令電流に制御すべく、インバータINVの操作状態を複数通りのそれぞれに仮設定した場合についてのモータジェネレータ10の電流を予測し、予測される電流に基づき仮設定した操作状態を評価する。そして評価の高いものをインバータINVの実際の操作状態として採用するモデル予測制御を行う。
【0029】
詳しくは、上記実電流iu,iv,iwは、dq変換部22において、回転座標系の実電流id,iqに変換される。また、回転角度センサ14によって検出される電気角θは、速度算出部23の入力となり、これにより、回転速度(電気角速度ω)が算出される。一方、指令電流設定部24は、要求トルクTrを入力とし、dq座標系での指令電流idr,iqrを出力する。これら指令電流idr,iqr、実電流id,iq、及び電気角θは、モデル予測制御部30の入力となる。モデル予測制御部30では、これら入力パラメータに基づき、インバータINVの操作状態を規定する電圧ベクトルViを決定し、操作部26に入力する。操作部26では、入力された電圧ベクトルViに基づき、上記操作信号g*#を生成してインバータINVに出力する。
【0030】
ここで、インバータINVの操作状態を表現する電圧ベクトルは、図2に示す8つの電圧ベクトルとなる。例えば、低電位側のスイッチング素子Sun,Svn,Swnがオン状態となる操作状態(図中、「下」と表記)を表現する電圧ベクトルが電圧ベクトルV0であり、高電位側のスイッチング素子Sup,Svp,Swpがオン状態となる操作状態(図中、「上」と表記)を表現する電圧ベクトルが電圧ベクトルV7である。これら電圧ベクトルV0,V7は、モータジェネレータ10の全相を短絡させるものであり、インバータINVからモータジェネレータ10に印加される電圧がゼロとなるものであるため、ゼロ電圧ベクトルと呼ばれている。これに対し、残りの6つの電圧ベクトルV1〜V6は、上側アームおよび下側アームの双方にオン状態となるスイッチング素子が存在する操作パターンによって規定されるものであり、有効電圧ベクトルと呼ばれている。なお、図2(b)に示すように、電圧ベクトルV1、V3,V5のそれぞれがU相、V相、W相の正側にそれぞれ対応している。
【0031】
次に、モデル予測制御部30の処理の詳細について説明する。先の図1に示す操作状態設定部31では、インバータINVの操作状態を仮設定する。ここでは、先の図2に示した電圧ベクトルV0〜V7をインバータINVの操作状態として仮設定する。dq変換部32では、操作状態設定部31によって設定された電圧ベクトルをdq変換することで、dq座標系の電圧ベクトルVdq=(vd,vq)を算出する。こうした変換を行うべく、操作状態設定部31における電圧ベクトルV0〜V7を、例えば、先の図2において、「上」を「VDC/2」として且つ「下」を「−VDC/2」とすることで表現すればよい。この場合、例えば、電圧ベクトルV0は、(−VDC/2、−VDC/2、−VDC/2)となり、電圧ベクトルV1は、(VDC/2、−VDC/2、−VDC/2)となる。
【0032】
予測部33では、電圧ベクトル(vd、vq)と、実電流id,iqと、電気角速度ωとに基づき、インバータINVの操作状態を操作状態設定部31によって仮設定される状態とした場合の電流id,iqを予測する。ここでは、基本的には、下記(c1)、(c2)にて表現される電圧方程式を、電流の微分項について解いた下記の状態方程式(式(c3)、(c4))を離散化し、1ステップ先の電流を予測する。
vd=(R+pLd)id −ωLqiq …(c1)
vq=ωLdid +(R+pLq)iq +ωφ …(c2)
pid
=−(R/Ld)id +ω(Lq/Ld)iq +vd/Ld …(c3)
piq
=−ω(Ld/Lq)id−(Rd/Lq)iq+vq/Lq−ωφ/Lq…(c4)
ちなみに、上記の式(c1)、(c2)において、抵抗R、微分演算子p、d軸インダクタンスLd,q軸インダクタンスLqおよび電機子鎖交磁束定数φを用いた。
【0033】
上記電流の予測は、操作状態設定部31によって仮設定される複数通りの操作状態のそれぞれについて行われる。
【0034】
一方、操作状態設定部34では、予測部33によって予測された予測電流ide,iqeと、指令電流idr,iqrとを入力として、インバータINVの操作状態を決定する。こうして決定された操作状態に基づき、操作部26では、操作信号g*#を生成して出力する。
【0035】
図3に、本実施形態にかかるモデル予測制御の処理手順を示す。この処理は、所定周期(制御周期Tc)で繰り返し実行される。
【0036】
この一連の処理では、まずステップS10において、電気角θ(n)と、実電流id(n),iq(n)とを検出するとともに、前回の制御周期で決定された電圧ベクトルV(n)を出力する。続くステップS12においては、1制御周期先における電流(ide(n+1),iqe(n+1))を予測する。これは、上記ステップS10によって出力された電圧ベクトルV(n)によって、1制御周期先の電流がどうなるかを予測する処理である。ここでは、基本的には、上記の式(c3)、(c4)にて表現されたモデルを前進差分法にて制御周期Tcで離散化したものを用いて、電流ide(n+1)、iqe(n+1)を算出する。この際、電流の初期値として、上記ステップS10において検出された実電流id(n),iq(n)を用いるとともに、dq軸上の電圧ベクトルとして、電圧ベクトルV(n)を、上記ステップS10において検出された電気角θ(n)によってdq変換したものを用いる。
【0037】
続くステップS14〜S22では、次回の制御周期における電圧ベクトルを複数通りに仮設定した場合のそれぞれについて、2制御周期先の電流を予測する処理を行う。すなわち、まずステップS14において、電圧ベクトルを定める数jを「0」に設定する。続くステップS16においては、電圧ベクトルVjを、次回の制御周期における電圧ベクトルV(n+1)として設定する。続くステップS18においては、上記ステップS12と同様にして予測電流ide(n+2)、iqe(n+2)を算出する。ただし、ここでは、電流の初期値として、上記ステップS12において算出された予測電流ide(n+1),iqe(n+1)を用いるとともに、dq軸上の電圧ベクトルとして、電圧ベクトルV(n+1)を、上記ステップS10において検出された電気角θ(n)にωTcを加算した角度によってdq変換したものを用いる。
【0038】
続くステップS20においては、数jが「7」であるか否かを判断する。この処理は、インバータINVの操作状態を決定する電圧ベクトルV0〜V7の全てについて、電流の予測処理が完了したか否かを判断するためのものである。そして、ステップS20において否定判断される場合には、ステップS22において、数jをインクリメントし、ステップS16に戻る。これに対し、ステップS20において肯定判断される場合には、ステップS24に移行する。
【0039】
ステップS24においては、次回の制御周期における電圧ベクトルV(n+1)を決定する処理を行う。ここでは、評価関数Jを最小化する電圧ベクトルを最終的な電圧ベクトルV(n+1)とする。本実施形態では、評価関数Jとして、評価が低いほど値が大きくなるものを採用する。具体的には、評価関数Jを、指令電流ベクトルIdqr=(idr,iqr)と、予測電流ベクトルIdqe=(ide,iqe)との差の内積値に基づき算出する。これは、指令電流ベクトルIdqrと予測電流ベクトルIdqeとの各成分の偏差が正、負の双方の値となりえることに鑑み、値が大きいほど評価が低いことを表現するための一手法である。これにより、指令電流ベクトルIdqrと予測電流ベクトルIdqeとの各成分の差が大きいほど、評価が低くなる評価関数Jを構築することができる。
【0040】
ここで、ステップS20において肯定判断される時点で、電圧ベクトルV0〜V7のそれぞれについての予測電流ide(n+2),iqe(n+2)が算出されている。このため、これら8通りの予測電流ide(n+2),iqe(n+2)を用いて、評価関数Jの値を8つ算出することができる。続くステップS26においては、電圧ベクトルV(n),V(n+1)を、それぞれ電圧ベクトルV(n−1),V(n)とし、電気角θ(n)を電気角θ(n−1)とし、実電流id(n),iq(n)を、それぞれ実電流id(n−1)、iq(n−1)とする。
【0041】
なお、ステップS26の処理が完了する場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0042】
ところで、上記電流センサ16u,16v,16wによって検出される実電流iu,iv,iwには、実際の電流値に対して規定値(オフセット値)だけずれたオフセット誤差が生じることがある。そしてこの場合には、モデル予測制御を行なう場合であっても、モータジェネレータ10のトルクが電気角周期で変動することが発明者らによって見出された。
【0043】
そこで本実施形態では、都度選択される電圧ベクトルViから各相の電圧を算出し、それらの1電気角周期に渡る積分値によって上記オフセット誤差を定量化するとともに、これをゼロにフィードバック制御する。すなわち、オフセット誤差が生じる場合、基本波に応じて変動するはずの相電流の振幅中心がゼロからずれる。そして、操作状態設定部34では、これを解消しようとして電圧ベクトルViを選択するために、各相に印加する電圧もオフセットを有するようになる。したがって、各相に印加する電圧をオフセット誤差の定量値とすることができ、また、これをゼロにフィードバック制御することで、オフセット誤差を補償することができる。
【0044】
こうした処理を実現すべく、本実施形態では、先の図1に示すように、積分値算出部40において、操作状態設定部34によって都度設定された電圧ベクトルViと電源電圧VDCとを入力として、各相の都度の印加電圧vu,vv,vwの積分値Δvu,Δvv,Δvwを算出する。図4に、積分値算出部40の行なう処理の手順を示す。この処理は、たとえば先の図3に示した処理に同期してくり返し実行される。
【0045】
この一連の処理では、まずステップS30において、今回の電圧ベクトルV(n)を取得する。この処理は、たとえば先の図3のステップS10の処理の後に行えばよい。続くステップS32においては、電圧ベクトルV(n)から、各相の印加電圧vu(n),vv(n),vw(n)をマップ演算する。図5に、このマップを示す。図示されるように、マップは、各電圧ベクトルVi(i=0〜7)と、印加電圧vu,vv,vwとの関係を定めるものである。ここで、たとえば電圧ベクトルV1について、マップの値となることは、以下のようにして示される。
【0046】
まず、U相およびV相間の線間電圧Vuv,V相およびW相間の線間電圧Vvw、W相およびU相間の線間電圧Vwuは、以下の式にて表現される。
【0047】
Vuv=vu−vv=VDC−0=VDC
Vvw=vv−vw=0−0=0
Vwu=vw−vu=0−VDC=−VDC
ここで、「vu+vv+vw=0」とすることで、図5に示すマップの値が得られる。
【0048】
先の図4に示すステップS34においては、各相の印加電圧v*(*=u,v,w)の積分値Δv*を算出する。これは、制御周期Tcと今回の印加電圧v*(n)との積を前回の積分値Δv*に加算することで行われる。続くステップS36においては、積分値Δv*の積分区間が1電気角周期となったか否かを判断する。そして、1電気角周期となったと判断される場合、ステップS38において、積分値Δv*を出力し、これを初期化する。
【0049】
上記出力された積分値Δvu,Δvv,Δvwのそれぞれは、先の図1に示す積分要素42u,42v,42wのそれぞれに出力される。そして、積分要素42u,42v,42wの出力のそれぞれは、補正部44u,44v,44wのそれぞれにおいて、実電流iu,iv,iwに加算される。これにより、積分要素42*の出力が実電流i*の補正量となる。
【0050】
上記積分要素42*のゲインKiは、積分値Δv*を電流量に変換する係数「1/R(R:モータジェネレータ10のモデルにおける抵抗値)よりも小さく設定される。これは、一度の積分値Δv*によって実電流i*のオフセット誤差を全て解消する処理とする場合には、積分値Δv*に混入するノイズの影響を受けやすいことに鑑みた設定である。
【0051】
図6に、本実施形態の効果を示す。
【0052】
図示されるように、本実施形態によれば、電流のオフセット誤差が解消し、トルクの変動も解消できている。
【0053】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0054】
(1)電圧ベクトルV(n)を入力とし、印加電圧vu(n),vv(n),vw(n)をマップ演算した。これにより、回転角度センサ14によって検出される電気角θに誤差があったとしても、その影響を受けることなく、各相に実際に印加された電圧を算出することができ、ひいては積分値Δv*を電流センサ16*のオフセット誤差を高精度に定量化した値とすることができる。
【0055】
(2)積分値Δv*を入力とする積分要素42*の出力を、実電流i*の補正量とした。これにより、定常的な誤差であるオフセット誤差を解消することができる。
【0056】
(3)モデル予測制御を行った。これにより、印加電圧vu(n),vv(n),vw(n)を算出する上で必要なインバータINVの操作状態に関する情報(電圧ベクトルV(n))を簡易に取得することができる。
<第2の実施形態>
以下、第2の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0057】
図7に、本実施形態にかかる積分値算出部40の行なう処理の手順を示す。この処理は、たとえば先の図3に示した処理に同期してくり返し実行される。なお、図7に示す処理のうち、先の図4に示した処理に対応するものについては、便宜上同一のステップ番号を付している。
【0058】
本実施形態では、ステップS34aにおいて、印加電圧v*が電気角の関数であるとして、積分値Δv*を電気角で積分する。すなわち、1制御周期Tcにおける電気角の変化量は、「ω×Tc」であるため、印加電圧v*(n)に「ω×Tc」を乗算した値を前回の積分値Δv*に加算することで、今回の積分値Δv*を算出する。
【0059】
このように、電気角で積分することで、電気角速度ωが変化しても、積分値Δv*によるオフセット誤差の定量化精度が低下することを抑制することができる。すなわち、図8(a)に示すように、電気角速度ωが一定である場合、印加電圧v*にオフセットがない状況下において制御周期Tcを用いて積分すると、1電気角周期に渡る積分値Δv*はゼロとなる。一方、図8(b)に示すように、電気角速度ωが変化する場合、印加電圧v*にオフセットがない状況下において制御周期Tcを用いて積分すると、1電気角周期に渡る積分値Δv*がゼロからずれる。これに対し、図8(c)に示すように、電気角速度ωが変化する場合であっても、印加電圧v*にオフセットがない状況下において電気角を用いて積分すると、1電気角周期に渡る積分値Δv*がゼロとなる。
【0060】
ここで、図8(b)に示す積分値Δv*に誤差が生じるのは、印加電圧v*の各サンプリングタイミング間の位相差が電気角速度ωに応じて変化することに起因している。すなわち、電気角速度ωの変化前と変化後とで、サンプリングタイミング間の位相差が変化することに起因している。印加電圧v*の位相は、電気角であるため、印加電圧v*が基本波となるためには、その独立変数を電気角とする必要がある。このため、時間での積分では、電気角速度ωが不変となり時間と電気角とが比例関係となる場合を除いて、積分値Δv*に誤差を生じさせることとなる。
【0061】
以上詳述した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記各効果に加えて、さらに以下の効果が得られるようになる。
【0062】
(4)印加電圧v*を電気角の関数として積分した。これにより、電気角速度ωの変動に起因して積分値Δv*によるオフセット誤差の定量化精度が低下することを好適に抑制することができる。
<第3の実施形態>
以下、第3の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0063】
図9に、本実施形態にかかる積分値算出部40の行なう処理の手順を示す。この処理は、所定周期Tでくり返し実行される。なお、図9に示す処理のうち、先の図4に示した処理に対応するものについては、便宜上同一のステップ番号を付している。
【0064】
本実施形態では、積分演算の周期Tを制御周期Tcよりも長い周期とする(ステップS34b)。これに応じるべく、本実施形態では、積分値Δv*を、N(>1)電気角周期に渡る印加電圧v*の積分値とする(ステップS36a)。これは、積分値Δv*によって、モータジェネレータ10の各相(端子)に印加される電圧の平均値をより高精度に定量化するための設定である。すなわち、積分値Δv*の精度を向上させる上では、積分値Δv*の算出に用いられる印加電圧v*として様々な位相における値を用いることが望ましい。しかし、図10(a)に示すように、積分値Δv*の算出に用いる印加電圧v*のサンプリング数が不足すると、算出に用いる印加電圧v*の位相としても十分なものとならない。このため、積分値Δv*に誤差が生じやすい。これに対し、図10(b)に示すように、積分値Δv*の算出期間をN電気角周期(ここでは、N=4を例示)とすることで、積分値Δv*の算出に用いる印加電圧v*のサンプリング数を増大させ、サンプリングする印加電圧v*の位相もサンプリング周期の整数倍が電気角周期とならないかぎり、様々な値となる。このため積分値Δv*の誤差を低減することができる。
【0065】
以上詳述した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記各効果に加えて、さらに以下の効果が得られるようになる。
【0066】
(5)積分値Δv*の積分期間を1電気角周期よりも長くすることで、印加電圧v*のサンプリング数を増加させたり、様々な位相での印加電圧v*をサンプリングしたりすることができ、ひいては積分値Δv*によるオフセット誤差の定量化精度が向上する。
<第4の実施形態>
以下、第4の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0067】
本実施形態では、モータジェネレータ10の運転状態が過渡的な運転状態となる場合に、積分値Δv*の算出を停止し、積分値Δv*を初期化する。これは、過渡的な運転状態の場合、モータジェネレータ10の各相に印加される電圧の振幅が変化するために、実電流i*にオフセット誤差が生じない場合であっても、1電気角周期に渡る印加電圧v*の積分値がゼロにならないためである。
【0068】
図11に、上記積分値Δv*の算出停止処理の手順を示す。この処理は、所定周期でくり返し実行される。
【0069】
この一連の処理では、まずステップS40において、要求トルクTrの変化量ΔTrの絶対値が規定量ΔTthより大きいことと、電気角速度ωの変化量Δωの絶対値が規定量Δωthよりも大きいこととの論理和が真であるか否かを判断する。この処理は、モータジェネレータ10の過渡運転時であるか否かを判断するためのものである。そしてステップS40において肯定判断される場合、ステップS42において、積分値Δv*の算出処理を停止し、積分値Δv*を初期化する。これにより、過渡運転時において積分要素42*の出力は、過渡運転時に移行する直前の出力値に維持されることとなる。
【0070】
なお、ステップS42の処理が完了する場合や、上記ステップS40において否定判断される場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0071】
以上詳述した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記各効果に加えて、さらに以下の効果が得られるようになる。
【0072】
(6)過渡運転時であると判断される場合、積分値Δv*の算出処理を停止した。これにより、積分値Δv*によるオフセット誤差の定量化精度が低下する状況下、積分値Δv*がフィードバック制御に反映されることを回避することができる。
<第5の実施形態>
以下、第5の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0073】
上記実施形態では、印加電圧v*を電圧ベクトルViから一義的に定まる値として算出した。ところで、電圧ベクトルV(n)が電圧ベクトルV(n−1)と相違することで、インバータINVのスイッチング状態の切り替えがなされる場合、上側アームのスイッチング素子S*pと下側アームのスイッチング素子S*nとの双方がオフとなるデッドタイム期間DTが設けられる。そしてデッドタイム期間DTにおいては、対応する相電流の極性に応じてダイオードD*#に電流が流れることから、モータジェネレータ10に印加される電圧は、相電流に依存することとなる。このため、本実施形態では、先の図5に示したマップによって算出される印加電圧v*を、デッドタイム期間の電圧を考慮して補正する。
【0074】
図12に、上記補正処理の手順を示す。この処理は、先の図4に示した処理に同期して行われる。
【0075】
この一連の処理では、まずステップS50において、前回の電圧ベクトルV(n−1)と今回の電圧ベクトルV(n)とが互いに相違するか否かを判断する。この処理は、インバータINVのスイッチング状態が変更されるか否かを判断するためのものである。そして、ステップS50において肯定判断される場合、ステップS52において、今回の電圧ベクトルV(n)と前回採用された電圧ベクトルV(n−1)との差ベクトル(U,V,W)を算出する。ここでは、電圧ベクトルV(n),V(n−1)を、3相座標系の成分として表現する。ここで、各成分の値は、上側アームがオンの場合と下側アームがオンの場合とで相違すれば任意でよい。ただしここでは、簡単のため、上側アームがオンの場合を「1」、下側アームがオンの場合を「0」とする。また、デッドタイム期間DTにおける印加電圧(nu,nv,nw)を、今回の電圧ベクトルV(n)に仮設定する。ここで、印加電圧(nu,nv,nw)の各成分の表現方法も任意であるが、ここでは、簡単のため、上側アームがオンの場合を「1」、下側アームがオンの場合を「0」とする。
【0076】
続くステップS54においては、差ベクトルのU相成分Uがゼロであるか否かを判断する。この処理は、電圧ベクトルV(n)の設定によって、U相のスイッチング状態の切り替えがなされないか否かを判断するためのものである。そして、ステップS54において否定判断される場合、切り替えがなされたとして、ステップS56において、U相の電流iuが負であるか否かを判断する。この処理は、上側アームのダイオードDupに電流が流れるか否かを判断するためのものである。なお、ここでの電流iuは、電圧ベクトルV(n)の出力タイミングにおける予測電流(前回の制御周期における予測電流ide(n+1),iqe(n+1))とすればよい。そして、負である場合には、デッドタイム期間の印加電圧のU相成分nuを「1」とし(ステップS58)、そうでない場合には、U相成分nuを「0」とする(ステップS60)。これは、相電流が負である場合、デッドタイム期間DTにおいて、ダイオードDupを介して電流が流れ、相電流が正である場合、デッドタイム期間DTにおいて、ダイオードDunを介して電流が流れることに鑑みたものである。
【0077】
上記ステップS58,S60の処理が完了する場合や、ステップS54において肯定判断される場合には、上記ステップS54〜S60の処理に対応するステップS62〜S68の処理によって、V相のスイッチング状態が変更されたか否かの判断処理、および変更された場合におけるデッドタイム期間の印加電圧のV相成分nvを設定する処理を行う。
【0078】
そして、上記ステップS66,S68の処理が完了する場合や、ステップS62において肯定判断される場合には、上記ステップS54〜S60の処理に対応するステップS70〜S76の処理によって、W相のスイッチング状態が変更されたか否かの判断処理、および変更された場合におけるデッドタイム期間の印加電圧のW相成分nwを設定する処理を行う。
【0079】
こうしてステップS74,S76の処理が完了した場合や、ステップS70において否定判断される場合には、ステップS78に移行する。この時点では、印加電圧(nu,nv,nw)は、デッドタイム期間DTにおける印加電圧として正しい値を示している(ただし、上側アームがオンの場合を「1」、下側アームがオンの場合を「0」と表現しているのみであるため、絶対値は正しくない)。このため、これに基づき、デッドタイム期間DTにおける電圧の補正量を算出する。これはたとえば、上記のように「1」および「0」で表記された電圧ベクトルV(n)と印加電圧(nu,nv,nw)との差ベクトルが、先の図2に示した電圧ベクトルのいずれであるかを特定し、この電圧ベクトルを先の図5のマップで各相の印加電圧に変換し、この印加電圧に「DT/Tc」を乗算したものを補正量とすればよい。
【0080】
続くステップS80においては、先の図4のステップS32においてマップ演算される印加電圧v*を、ステップS78において算出された補正量によって補正する。これにより、印加電圧v*は、制御周期Tcにおける各相の電圧を高精度に表現したものとなる。このため、先の図4のステップS34において、デッドタイム期間DTにおける印加電圧をも正確に反映した積分値Δv*を算出することができる。
【0081】
以上詳述した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記各効果に加えて、さらに以下の効果が得られるようになる。
【0082】
(7)モータジェネレータ10を流れる電流に基づき、印加電圧v*をデッドタイム期間DTにおいて印加される電圧を反映して算出した。これにより、積分値Δv*を、電流のオフセット誤差をより高精度に表現したものとすることができる。
<第6の実施形態>
以下、第6の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0083】
図13に本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図13において、先の図1に示した部材や処理に対応するものについては、便宜上同一の符号を付している。
【0084】
図示されるように、本実施形態では、積分値Δv*をゼロにフィードバック制御するための操作対象を、予測電流ide,iqeとする。すなわち、積分要素42*の出力は、dq変換部60においてd軸の補正量Δidと、q軸の補正量Δiqとに変換される。そして、これらは予測部33において、予測電流ide,iqeが算出される際に用いられる。すなわち、先の図3のステップS12において算出される予測電流ide,iqeに加算される。
<その他の実施形態>
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0085】
「デッドタイム補正手段について」
上記第5の実施形態(図12)に例示した処理を行なうものに限らない。たとえば、電圧ベクトルが変更される場合、電圧ベクトルV(n)に基づきマップ演算される印加電圧v*(n)の積分処理を、「v*(n)×(Tc−DT)」としたり、「v*(n)×ω×(Tc−DT)」としたりしてもよい。これによっても、積分値Δv*のデッドタイムDTに起因した誤差を低減することができることもある。
【0086】
「積分手段について」
電気角の整数倍の期間にわたって相電圧を積分するものに限らない。たとえば、相電圧が正である期間における相電圧と負である期間における相電圧の絶対値とを別途積分し、それらの差を算出するものであってもよい。この場合、積分期間が電気角周期の整数倍からずれる場合であっても、積分期間を長くすることで、電気角の整数倍からのずれによって積分値によるオフセット誤差の定量化精度が低下することを好適に抑制することができる。
【0087】
「フィードバック制御手段について」
積分要素の出力を補正量とするものに限らない。たとえば、比例要素および積分要素の出力同士の和を補正量とするものであってもよい。
【0088】
また、積分要素を備えるものにも限らない。たとえば、積分値Δv*を、電流量に変換し、これを補正量としてもよい。この変換係数は、モータジェネレータ10をモデル化した際の抵抗値Rを用いて「1/R」とすればよい。なお、この場合、禁止手段による禁止処理によって新たな補正量が算出されない場合、前回の補正量を継続して使用することが望ましい。
【0089】
「判断手段について」
要求トルクTrの変化量ΔTrに代えて、指令電流idr,iqrの変化量が大きいことに基づき過渡運転時であると判断してもよい。
【0090】
「禁止手段について」
積分ゲインKiを十分に小さくするなら、禁止手段を備えなくても、過渡運転時における補正部44,48,52の出力値の精度の低下等を抑制することができる。
【0091】
「仮設定される操作状態について」
スイッチング状態の切り替え端子数が「1」以下となるものに限らず、「2」以下となるものであってもよい。また、電圧ベクトルV0〜V7の全てであってもよい。
【0092】
「予測手段について」
次回の電圧ベクトルV(n+1)によって生じる制御量のみを予測するものに限らない。たとえば、数制御周期先の更新タイミングにおけるインバータINVの操作による制御量まで順次予測するものであってもよい。
【0093】
「決定手段について」
たとえば、上記第1の実施形態において、予測電流ide(n+2)と指令電流idr(n+2)との差の絶対値と、予測電流iqe(n+2)と指令電流iqr(n+2)との差の絶対値との加重平均処理値を、予測電流と指令電流との乖離度合いの評価対象とするパラメータとしてもよい。要は、乖離度合いが大きいほど評価が低くなることを定量化すべく、乖離度合いと評価パラメータとの間に正または負の相関関係があるパラメータによって定量化すればよい。
【0094】
「制御量について」
指令値と予測値とに基づきインバータINVの操作を決定するために用いる制御量としては、トルクおよび磁束と、電流とのいずれかに限らない。例えば、トルクのみまたは磁束のみであってもよい。また例えば、トルクおよびd軸電流またはトルクおよびq軸電流等、トルクおよび電流であってもよい。ここで、制御量を電流以外とする場合等において、センサによる直接の検出対象を電流以外としてもよい。
【0095】
上記各実施形態では、回転機の究極の制御量(予測対象であるか否かにかかわらず、最終的に所望の量とされることが要求される制御量)を、トルクとしたが、これに限らず、例えば回転速度等としてもよい。
【0096】
「回転機について」
回転機としては、3相回転機に限らず、5相回転機等、4相以上の回転機であってもよい。
【0097】
上記実施形態では、固定子巻線がスター結線されたものを想定したがこれに限らず、デルタ結線されたものであってもよい。この場合、回転機の端子と相とは一致しない。したがって、印加電圧算出手段を、回転機の2つの端子に印加される電圧の差を算出する手段とすればよい。もっとも、これに限らず、各端子の電圧を算出し、それらの積分値同士に基づき、各相のオフセット誤差を特定するなどしてもよい。
【0098】
回転機としては、埋め込み磁石同期機に限らず、表面磁石同期機や、界磁巻線型同期機等、任意の同期機であってよい。更に、同期機にも限らず、誘導モータ等、誘導回転機であってもよい。
【0099】
回転機としては車両の主機として用いられるものに限らない。
【0100】
「制御量の制御手法について」
モデル予測制御に限らず、通常の電流フィードバック制御や、瞬時電流値制御であってもよい。この場合であっても、印加電圧算出手段を備えることで、電気角θの誤差等の影響を受けることなく相電圧の偏り度合いを定量化することができるため、実電流iu,iv,iwのオフセット誤差を精度よく検出することができる。
【0101】
「そのほか」
直流電圧源としては、高電圧バッテリ12に限らず、例えば高電圧バッテリ12の電圧を昇圧するコンバータの出力端子であってもよい。
【0102】
互いに相違する複数の電圧値を有する電圧印加手段と回転機の端子との間を開閉するスイッチング素子を備えて構成される電力変換回路としては、回転機の端子を直流電圧源の正極および負極のそれぞれに選択的に接続するスイッチング素子を備える直流交流変換回路(インバータINV)に限らない。例えば、多相回転機の各相に3つ以上の互いに相違する値の電圧を印加する電圧印加手段と回転機の端子との間を選択的に開閉するスイッチング素子を備えるものであってもよい。なお、回転機の端子に3つ以上の互いに相違する値の電圧を印加するための電力変換回路としては、例えば特開2006−174697号公報に例示されているものがある。
【符号の説明】
【0103】
10…モータジェネレータ、20…制御装置、40…積分値算出部、42u,42v,42w…積分要素、44u,44v,44w…補正部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに相違する複数の電圧値を有する電圧印加手段と回転機の端子との間を開閉するスイッチング素子を備えて構成される電力変換回路について、該電力変換回路を構成するスイッチング素子を操作対象とし、前記回転機を流れる電流を検出する検出手段による電流の検出結果に基づき、前記スイッチング素子をオン・オフ操作することで前記回転機の制御量を制御する回転機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電流センサによって検出される電流と実際の値との間に定常的な誤差(オフセット誤差)が生じる現象が周知である。このため、電流センサの検出値に基づき回転機の制御量を制御する場合、電流のオフセット誤差に起因して制御性が低下するおそれがある。
【0003】
そこで従来、下記特許文献1に見られるように、dq軸の電流のフィードバック操作量としてのdq軸の電圧を3相変換することで各相の指令電圧を生成する構成において、これら指令電圧を1電気角周期に渡って積分し、この積分値に基づきオフセット誤差を検出することで、電流センサの検出値を補正するものも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−121860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ただし、上記手法を用いた場合、たとえば回転機の電気角の検出誤差等が生じる場合等にあっては、オフセット誤差が正しく検出されず、ひいては電流センサの検出値を誤った補正量で補正するおそれがあることが発明者らによって見出されている。
【0006】
本発明は、上記課題を解決する過程でなされたものであり、その目的は、互いに相違する複数の電圧値を有する電圧印加手段と回転機の端子との間を開閉するスイッチング素子を備えて構成される電力変換回路について、該電力変換回路を構成するスイッチング素子を操作対象とし、前記回転機を流れる電流を検出する検出手段による電流の検出結果に基づき、前記スイッチング素子をオン・オフ操作することで、前記回転機の制御量を制御する新たな回転機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記課題を解決するための手段、およびその作用効果について記載する。
【0008】
請求項1記載の発明は、互いに相違する複数の電圧値を有する電圧印加手段と回転機の端子との間を開閉するスイッチング素子を備えて構成される電力変換回路について、該電力変換回路を構成するスイッチング素子を操作対象とし、前記回転機を流れる電流を検出する検出手段による電流の検出結果に基づき、前記スイッチング素子をオン・オフ操作することで前記回転機の制御量を制御する回転機の制御装置において、前記オン・オフ操作によって定まって且つ固定座標系の電圧ベクトルにて表現される前記電力変換回路の都度の操作状態を入力とし、前記回転機の各端子または各相に印加される電圧を算出する印加電圧算出手段と、前記印加電圧算出手段によって算出される各端子または各相のそれぞれの電圧についての1電気角周期以上の期間にわたる積分値を算出する積分手段と、前記積分値をゼロにフィードバック制御するフィードバック制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
回転機の制御量を制御するに際し、上記検出手段にオフセット誤差がある場合、これに起因して回転機の端子の電圧や相電圧の振幅中心がゼロからずれる。このため、電圧の一周期にわたる積分値をゼロにフィードバック制御することで、検出手段のオフセット誤差を補償することができる。ただし、積分の対象とされる電圧を電気角情報を用いて算出する場合には、検出手段のオフセット誤差の補償処理に際して、電気角情報に含まれる誤差の影響を受けることとなる。この点、上記発明では、印加電圧算出手段が、電力変換回路の操作状態を入力として印加される電圧を算出するため、電圧の算出に際して電気角情報等を用いない。このため、こうして算出された電圧は、電気角の検出誤差等の影響を受けない精度の高いものとなる。そして、この電圧の積分値をゼロにフィードバック制御することで、検出手段のオフセット誤差を好適に補償することができる。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記フィードバック制御手段は、前記積分値を入力とする積分要素を備えて構成されることを特徴とする。
【0011】
たとえば上記積分値をゼロとするように積分値を電流値に変換することで検出手段の検出値が補正される場合、積分手段によって次回算出される積分値はゼロとなる。このため、次回においては、検出値が補正されず、オフセット誤差が再度生じることとなる。また、積分値をゼロとするように検出値を一回で補正する場合には、積分値に含まれるノイズ等の影響を直接的に受けることともなる。この点、上記発明では、フィードバック制御手段に積分要素を備えることで、定常的な誤差を解消することができ、また、ゲインの設定によってノイズの影響を抑制することも容易となる。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、前記回転機の過渡運転時であるか否かを判断する判断手段と、前記過渡運転時であると判断される場合、前記積分手段の積分処理が前記フィードバック制御手段に反映されることを禁止する禁止手段とをさらに備えることを特徴とする。
【0013】
過渡運転時においては、検出手段の検出値にオフセット誤差がない場合であっても、電気角の1周期当たりの上記積分値がゼロとならない。上記発明では、この点に鑑み、禁止手段を備えることで、積分値とオフセット誤差との関連が低いときにおける積分値がフィードバック制御に反映されることを回避する。
【0014】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発明において、前記積分手段は、前記各端子または各相に印加される電圧を電気角の関数として積分するものであることを特徴とする。
【0015】
上記発明では、電圧を電気角で積分することで、時間で積分する場合と比較して、電気角速度の変動に起因して積分値によるオフセット誤差の定量化精度が低下することを好適に抑制することができる。
【0016】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の発明において、前記積分手段は、前記回転機の電気角周期の2倍以上の期間にわたる前記積分値を前記フィードバック制御手段に出力することを特徴とする。
【0017】
上記発明では、積分期間を長く取ることで、1電気角周期に渡る積分値と比較して、積分値が微視的なタイムスケールにおける電気角速度の変動を受けることを好適に抑制することができる。また、積分処理を行なう周期の整数倍が1電気角周期と一致しない場合には、電圧が様々な位相をとるときの値を積分処理に用いることができるため、積分値によるオフセット誤差の定量化精度が向上する。
【0018】
請求項6記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の発明において、前記電力変換回路は、前記回転機の端子を直流電圧源の正極および負極のそれぞれに選択的に接続するスイッチング素子および該スイッチング素子に逆並列接続されたダイオードを備える直流交流変換回路であり、前記正極に接続するスイッチング素子と前記負極に接続するスイッチング素子とのいずれか一方および他方がそれぞれオンおよびオフとなる状態からいずれか一方および他方がそれぞれオフおよびオンとなる状態に切り替えるに際し、双方がオフ状態となるデッドタイム期間が設けられ、前記操作状態が変更される場合、前記回転機を流れる電流に基づき、前記デッドタイム期間において各端子または各相に印加される電圧を前記積分値に反映させるデッドタイム補正手段をさらに備えることを特徴とする。
【0019】
デッドタイム期間において各端子や各相に印加される電圧は回転機を流れる電流に依存するため、デッドタイムを含む期間における端子電圧や相電圧は、操作状態によっては一義的に定まらない。このため、操作状態の切り替えに際しては、印加電圧算出手段による算出精度が低下するおそれがある。上記発明では、この点に鑑み、デッドタイム補正手段を備えた。
【0020】
請求項7記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載の発明において、前記電力変換回路の操作状態を仮設定した場合についての前記回転機を流れる電流、前記回転機のトルク、および前記回転機の磁束の少なくとも1つを有した制御量を予測する予測手段と、該予測手段によって予測される制御量に基づき、該予測される制御量に対応する操作状態を評価し、評価の高い操作状態を前記電力変換回路の操作状態として決定する決定手段と、該決定された操作状態となるように前記電力変換回路を操作する操作手段とをさらに備えることを特徴とする。
【0021】
モデル予測制御を行なう場合、操作状態を表現する電圧ベクトルが決定手段によって都度決定される。このため、印加電圧算出手段の入力情報としての操作状態に関する情報を簡易に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1の実施形態にかかるシステム構成図。
【図2】インバータの操作状態を表現する電圧ベクトルを示す図。
【図3】上記実施形態にかかるモデル予測処理の手順を示す流れ図。
【図4】同実施形態にかかる電圧オフセット部の処理の手順を示す流れ図。
【図5】同実施形態にかかる印加電圧の算出に用いるマップを示す図。
【図6】同実施形態の効果を示すタイムチャート。
【図7】第2の実施形態にかかる電圧オフセット部の処理の手順を示す流れ図。
【図8】同実施形態の効果を示すタイムチャート。
【図9】第3の実施形態にかかる電圧オフセット部の処理の手順を示す流れ図。
【図10】同実施形態の効果を示すタイムチャート。
【図11】第4の実施形態にかかる積分処理の停止処理の手順を示す流れ図。
【図12】第5の実施形態にかかる印加電圧の算出処理の手順を示す流れ図。
【図13】第6の実施形態にかかるシステム構成図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<第1の実施形態>
以下、本発明にかかる回転機の制御装置を車載主機としての回転機の制御装置に適用した第1の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0024】
図1に、本実施形態にかかるモータジェネレータの制御システムの全体構成を示す。車載主機としてのモータジェネレータ10は、3相の永久磁石同期モータである。また、モータジェネレータ10は、突極性を有する回転機(突極機)である。詳しくは、モータジェネレータ10は、埋め込み磁石同期モータ(IPMSM)である。
【0025】
モータジェネレータ10は、インバータINVを介して高電圧バッテリ12およびコンデンサ13に接続されている。高電圧バッテリ12は、端子電圧がたとえば百V以上となる直流電圧源である。インバータINVは、スイッチング素子S*p,S*n(*=u,v,w)の直列接続体を3組備えており、これら各直列接続体の接続点がモータジェネレータ10のU,V,W相にそれぞれ接続されている。これらスイッチング素子S*#(*=u,v,w;#=p,n)として、本実施形態では、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)が用いられている。そして、これらにはそれぞれ、ダイオードD*#が逆並列に接続されている。
【0026】
本実施形態では、モータジェネレータ10やインバータINVの状態を検出する検出手段として、以下のものを備えている。まずモータジェネレータ10の回転角度(電気角θ)を検出する回転角度センサ14を備えている。また、モータジェネレータ10のU相、V相およびW相のそれぞれを流れる相電流(実電流iu,iv,iw)を検出する電流センサ16u,16v,16wを備えている。さらに、インバータINVの入力電圧(電源電圧VDC)を検出する電圧センサ18を備えている。
【0027】
上記各種センサの検出値は、図示しないインターフェースを介して低電圧システムを構成する制御装置20に取り込まれる。制御装置20では、これら各種センサの検出値に基づき、インバータINVを操作する操作信号を生成して出力する。ここで、インバータINVのスイッチング素子S*#を操作する信号が、操作信号g*#である。
【0028】
上記制御装置20は、モータジェネレータ10のトルクを要求トルクTrに制御すべく、インバータINVを操作する。詳しくは、要求トルクTrを実現するための指令電流とモータジェネレータ10を流れる電流とが一致するように、インバータINVを操作する。すなわち、本実施形態では、モータジェネレータ10のトルクが最終的な制御量となるものであるが、トルクを制御すべく、モータジェネレータ10を流れる電流を直接の制御量として、これを指令電流に制御する。特に、本実施形態では、モータジェネレータ10を流れる電流を指令電流に制御すべく、インバータINVの操作状態を複数通りのそれぞれに仮設定した場合についてのモータジェネレータ10の電流を予測し、予測される電流に基づき仮設定した操作状態を評価する。そして評価の高いものをインバータINVの実際の操作状態として採用するモデル予測制御を行う。
【0029】
詳しくは、上記実電流iu,iv,iwは、dq変換部22において、回転座標系の実電流id,iqに変換される。また、回転角度センサ14によって検出される電気角θは、速度算出部23の入力となり、これにより、回転速度(電気角速度ω)が算出される。一方、指令電流設定部24は、要求トルクTrを入力とし、dq座標系での指令電流idr,iqrを出力する。これら指令電流idr,iqr、実電流id,iq、及び電気角θは、モデル予測制御部30の入力となる。モデル予測制御部30では、これら入力パラメータに基づき、インバータINVの操作状態を規定する電圧ベクトルViを決定し、操作部26に入力する。操作部26では、入力された電圧ベクトルViに基づき、上記操作信号g*#を生成してインバータINVに出力する。
【0030】
ここで、インバータINVの操作状態を表現する電圧ベクトルは、図2に示す8つの電圧ベクトルとなる。例えば、低電位側のスイッチング素子Sun,Svn,Swnがオン状態となる操作状態(図中、「下」と表記)を表現する電圧ベクトルが電圧ベクトルV0であり、高電位側のスイッチング素子Sup,Svp,Swpがオン状態となる操作状態(図中、「上」と表記)を表現する電圧ベクトルが電圧ベクトルV7である。これら電圧ベクトルV0,V7は、モータジェネレータ10の全相を短絡させるものであり、インバータINVからモータジェネレータ10に印加される電圧がゼロとなるものであるため、ゼロ電圧ベクトルと呼ばれている。これに対し、残りの6つの電圧ベクトルV1〜V6は、上側アームおよび下側アームの双方にオン状態となるスイッチング素子が存在する操作パターンによって規定されるものであり、有効電圧ベクトルと呼ばれている。なお、図2(b)に示すように、電圧ベクトルV1、V3,V5のそれぞれがU相、V相、W相の正側にそれぞれ対応している。
【0031】
次に、モデル予測制御部30の処理の詳細について説明する。先の図1に示す操作状態設定部31では、インバータINVの操作状態を仮設定する。ここでは、先の図2に示した電圧ベクトルV0〜V7をインバータINVの操作状態として仮設定する。dq変換部32では、操作状態設定部31によって設定された電圧ベクトルをdq変換することで、dq座標系の電圧ベクトルVdq=(vd,vq)を算出する。こうした変換を行うべく、操作状態設定部31における電圧ベクトルV0〜V7を、例えば、先の図2において、「上」を「VDC/2」として且つ「下」を「−VDC/2」とすることで表現すればよい。この場合、例えば、電圧ベクトルV0は、(−VDC/2、−VDC/2、−VDC/2)となり、電圧ベクトルV1は、(VDC/2、−VDC/2、−VDC/2)となる。
【0032】
予測部33では、電圧ベクトル(vd、vq)と、実電流id,iqと、電気角速度ωとに基づき、インバータINVの操作状態を操作状態設定部31によって仮設定される状態とした場合の電流id,iqを予測する。ここでは、基本的には、下記(c1)、(c2)にて表現される電圧方程式を、電流の微分項について解いた下記の状態方程式(式(c3)、(c4))を離散化し、1ステップ先の電流を予測する。
vd=(R+pLd)id −ωLqiq …(c1)
vq=ωLdid +(R+pLq)iq +ωφ …(c2)
pid
=−(R/Ld)id +ω(Lq/Ld)iq +vd/Ld …(c3)
piq
=−ω(Ld/Lq)id−(Rd/Lq)iq+vq/Lq−ωφ/Lq…(c4)
ちなみに、上記の式(c1)、(c2)において、抵抗R、微分演算子p、d軸インダクタンスLd,q軸インダクタンスLqおよび電機子鎖交磁束定数φを用いた。
【0033】
上記電流の予測は、操作状態設定部31によって仮設定される複数通りの操作状態のそれぞれについて行われる。
【0034】
一方、操作状態設定部34では、予測部33によって予測された予測電流ide,iqeと、指令電流idr,iqrとを入力として、インバータINVの操作状態を決定する。こうして決定された操作状態に基づき、操作部26では、操作信号g*#を生成して出力する。
【0035】
図3に、本実施形態にかかるモデル予測制御の処理手順を示す。この処理は、所定周期(制御周期Tc)で繰り返し実行される。
【0036】
この一連の処理では、まずステップS10において、電気角θ(n)と、実電流id(n),iq(n)とを検出するとともに、前回の制御周期で決定された電圧ベクトルV(n)を出力する。続くステップS12においては、1制御周期先における電流(ide(n+1),iqe(n+1))を予測する。これは、上記ステップS10によって出力された電圧ベクトルV(n)によって、1制御周期先の電流がどうなるかを予測する処理である。ここでは、基本的には、上記の式(c3)、(c4)にて表現されたモデルを前進差分法にて制御周期Tcで離散化したものを用いて、電流ide(n+1)、iqe(n+1)を算出する。この際、電流の初期値として、上記ステップS10において検出された実電流id(n),iq(n)を用いるとともに、dq軸上の電圧ベクトルとして、電圧ベクトルV(n)を、上記ステップS10において検出された電気角θ(n)によってdq変換したものを用いる。
【0037】
続くステップS14〜S22では、次回の制御周期における電圧ベクトルを複数通りに仮設定した場合のそれぞれについて、2制御周期先の電流を予測する処理を行う。すなわち、まずステップS14において、電圧ベクトルを定める数jを「0」に設定する。続くステップS16においては、電圧ベクトルVjを、次回の制御周期における電圧ベクトルV(n+1)として設定する。続くステップS18においては、上記ステップS12と同様にして予測電流ide(n+2)、iqe(n+2)を算出する。ただし、ここでは、電流の初期値として、上記ステップS12において算出された予測電流ide(n+1),iqe(n+1)を用いるとともに、dq軸上の電圧ベクトルとして、電圧ベクトルV(n+1)を、上記ステップS10において検出された電気角θ(n)にωTcを加算した角度によってdq変換したものを用いる。
【0038】
続くステップS20においては、数jが「7」であるか否かを判断する。この処理は、インバータINVの操作状態を決定する電圧ベクトルV0〜V7の全てについて、電流の予測処理が完了したか否かを判断するためのものである。そして、ステップS20において否定判断される場合には、ステップS22において、数jをインクリメントし、ステップS16に戻る。これに対し、ステップS20において肯定判断される場合には、ステップS24に移行する。
【0039】
ステップS24においては、次回の制御周期における電圧ベクトルV(n+1)を決定する処理を行う。ここでは、評価関数Jを最小化する電圧ベクトルを最終的な電圧ベクトルV(n+1)とする。本実施形態では、評価関数Jとして、評価が低いほど値が大きくなるものを採用する。具体的には、評価関数Jを、指令電流ベクトルIdqr=(idr,iqr)と、予測電流ベクトルIdqe=(ide,iqe)との差の内積値に基づき算出する。これは、指令電流ベクトルIdqrと予測電流ベクトルIdqeとの各成分の偏差が正、負の双方の値となりえることに鑑み、値が大きいほど評価が低いことを表現するための一手法である。これにより、指令電流ベクトルIdqrと予測電流ベクトルIdqeとの各成分の差が大きいほど、評価が低くなる評価関数Jを構築することができる。
【0040】
ここで、ステップS20において肯定判断される時点で、電圧ベクトルV0〜V7のそれぞれについての予測電流ide(n+2),iqe(n+2)が算出されている。このため、これら8通りの予測電流ide(n+2),iqe(n+2)を用いて、評価関数Jの値を8つ算出することができる。続くステップS26においては、電圧ベクトルV(n),V(n+1)を、それぞれ電圧ベクトルV(n−1),V(n)とし、電気角θ(n)を電気角θ(n−1)とし、実電流id(n),iq(n)を、それぞれ実電流id(n−1)、iq(n−1)とする。
【0041】
なお、ステップS26の処理が完了する場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0042】
ところで、上記電流センサ16u,16v,16wによって検出される実電流iu,iv,iwには、実際の電流値に対して規定値(オフセット値)だけずれたオフセット誤差が生じることがある。そしてこの場合には、モデル予測制御を行なう場合であっても、モータジェネレータ10のトルクが電気角周期で変動することが発明者らによって見出された。
【0043】
そこで本実施形態では、都度選択される電圧ベクトルViから各相の電圧を算出し、それらの1電気角周期に渡る積分値によって上記オフセット誤差を定量化するとともに、これをゼロにフィードバック制御する。すなわち、オフセット誤差が生じる場合、基本波に応じて変動するはずの相電流の振幅中心がゼロからずれる。そして、操作状態設定部34では、これを解消しようとして電圧ベクトルViを選択するために、各相に印加する電圧もオフセットを有するようになる。したがって、各相に印加する電圧をオフセット誤差の定量値とすることができ、また、これをゼロにフィードバック制御することで、オフセット誤差を補償することができる。
【0044】
こうした処理を実現すべく、本実施形態では、先の図1に示すように、積分値算出部40において、操作状態設定部34によって都度設定された電圧ベクトルViと電源電圧VDCとを入力として、各相の都度の印加電圧vu,vv,vwの積分値Δvu,Δvv,Δvwを算出する。図4に、積分値算出部40の行なう処理の手順を示す。この処理は、たとえば先の図3に示した処理に同期してくり返し実行される。
【0045】
この一連の処理では、まずステップS30において、今回の電圧ベクトルV(n)を取得する。この処理は、たとえば先の図3のステップS10の処理の後に行えばよい。続くステップS32においては、電圧ベクトルV(n)から、各相の印加電圧vu(n),vv(n),vw(n)をマップ演算する。図5に、このマップを示す。図示されるように、マップは、各電圧ベクトルVi(i=0〜7)と、印加電圧vu,vv,vwとの関係を定めるものである。ここで、たとえば電圧ベクトルV1について、マップの値となることは、以下のようにして示される。
【0046】
まず、U相およびV相間の線間電圧Vuv,V相およびW相間の線間電圧Vvw、W相およびU相間の線間電圧Vwuは、以下の式にて表現される。
【0047】
Vuv=vu−vv=VDC−0=VDC
Vvw=vv−vw=0−0=0
Vwu=vw−vu=0−VDC=−VDC
ここで、「vu+vv+vw=0」とすることで、図5に示すマップの値が得られる。
【0048】
先の図4に示すステップS34においては、各相の印加電圧v*(*=u,v,w)の積分値Δv*を算出する。これは、制御周期Tcと今回の印加電圧v*(n)との積を前回の積分値Δv*に加算することで行われる。続くステップS36においては、積分値Δv*の積分区間が1電気角周期となったか否かを判断する。そして、1電気角周期となったと判断される場合、ステップS38において、積分値Δv*を出力し、これを初期化する。
【0049】
上記出力された積分値Δvu,Δvv,Δvwのそれぞれは、先の図1に示す積分要素42u,42v,42wのそれぞれに出力される。そして、積分要素42u,42v,42wの出力のそれぞれは、補正部44u,44v,44wのそれぞれにおいて、実電流iu,iv,iwに加算される。これにより、積分要素42*の出力が実電流i*の補正量となる。
【0050】
上記積分要素42*のゲインKiは、積分値Δv*を電流量に変換する係数「1/R(R:モータジェネレータ10のモデルにおける抵抗値)よりも小さく設定される。これは、一度の積分値Δv*によって実電流i*のオフセット誤差を全て解消する処理とする場合には、積分値Δv*に混入するノイズの影響を受けやすいことに鑑みた設定である。
【0051】
図6に、本実施形態の効果を示す。
【0052】
図示されるように、本実施形態によれば、電流のオフセット誤差が解消し、トルクの変動も解消できている。
【0053】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0054】
(1)電圧ベクトルV(n)を入力とし、印加電圧vu(n),vv(n),vw(n)をマップ演算した。これにより、回転角度センサ14によって検出される電気角θに誤差があったとしても、その影響を受けることなく、各相に実際に印加された電圧を算出することができ、ひいては積分値Δv*を電流センサ16*のオフセット誤差を高精度に定量化した値とすることができる。
【0055】
(2)積分値Δv*を入力とする積分要素42*の出力を、実電流i*の補正量とした。これにより、定常的な誤差であるオフセット誤差を解消することができる。
【0056】
(3)モデル予測制御を行った。これにより、印加電圧vu(n),vv(n),vw(n)を算出する上で必要なインバータINVの操作状態に関する情報(電圧ベクトルV(n))を簡易に取得することができる。
<第2の実施形態>
以下、第2の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0057】
図7に、本実施形態にかかる積分値算出部40の行なう処理の手順を示す。この処理は、たとえば先の図3に示した処理に同期してくり返し実行される。なお、図7に示す処理のうち、先の図4に示した処理に対応するものについては、便宜上同一のステップ番号を付している。
【0058】
本実施形態では、ステップS34aにおいて、印加電圧v*が電気角の関数であるとして、積分値Δv*を電気角で積分する。すなわち、1制御周期Tcにおける電気角の変化量は、「ω×Tc」であるため、印加電圧v*(n)に「ω×Tc」を乗算した値を前回の積分値Δv*に加算することで、今回の積分値Δv*を算出する。
【0059】
このように、電気角で積分することで、電気角速度ωが変化しても、積分値Δv*によるオフセット誤差の定量化精度が低下することを抑制することができる。すなわち、図8(a)に示すように、電気角速度ωが一定である場合、印加電圧v*にオフセットがない状況下において制御周期Tcを用いて積分すると、1電気角周期に渡る積分値Δv*はゼロとなる。一方、図8(b)に示すように、電気角速度ωが変化する場合、印加電圧v*にオフセットがない状況下において制御周期Tcを用いて積分すると、1電気角周期に渡る積分値Δv*がゼロからずれる。これに対し、図8(c)に示すように、電気角速度ωが変化する場合であっても、印加電圧v*にオフセットがない状況下において電気角を用いて積分すると、1電気角周期に渡る積分値Δv*がゼロとなる。
【0060】
ここで、図8(b)に示す積分値Δv*に誤差が生じるのは、印加電圧v*の各サンプリングタイミング間の位相差が電気角速度ωに応じて変化することに起因している。すなわち、電気角速度ωの変化前と変化後とで、サンプリングタイミング間の位相差が変化することに起因している。印加電圧v*の位相は、電気角であるため、印加電圧v*が基本波となるためには、その独立変数を電気角とする必要がある。このため、時間での積分では、電気角速度ωが不変となり時間と電気角とが比例関係となる場合を除いて、積分値Δv*に誤差を生じさせることとなる。
【0061】
以上詳述した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記各効果に加えて、さらに以下の効果が得られるようになる。
【0062】
(4)印加電圧v*を電気角の関数として積分した。これにより、電気角速度ωの変動に起因して積分値Δv*によるオフセット誤差の定量化精度が低下することを好適に抑制することができる。
<第3の実施形態>
以下、第3の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0063】
図9に、本実施形態にかかる積分値算出部40の行なう処理の手順を示す。この処理は、所定周期Tでくり返し実行される。なお、図9に示す処理のうち、先の図4に示した処理に対応するものについては、便宜上同一のステップ番号を付している。
【0064】
本実施形態では、積分演算の周期Tを制御周期Tcよりも長い周期とする(ステップS34b)。これに応じるべく、本実施形態では、積分値Δv*を、N(>1)電気角周期に渡る印加電圧v*の積分値とする(ステップS36a)。これは、積分値Δv*によって、モータジェネレータ10の各相(端子)に印加される電圧の平均値をより高精度に定量化するための設定である。すなわち、積分値Δv*の精度を向上させる上では、積分値Δv*の算出に用いられる印加電圧v*として様々な位相における値を用いることが望ましい。しかし、図10(a)に示すように、積分値Δv*の算出に用いる印加電圧v*のサンプリング数が不足すると、算出に用いる印加電圧v*の位相としても十分なものとならない。このため、積分値Δv*に誤差が生じやすい。これに対し、図10(b)に示すように、積分値Δv*の算出期間をN電気角周期(ここでは、N=4を例示)とすることで、積分値Δv*の算出に用いる印加電圧v*のサンプリング数を増大させ、サンプリングする印加電圧v*の位相もサンプリング周期の整数倍が電気角周期とならないかぎり、様々な値となる。このため積分値Δv*の誤差を低減することができる。
【0065】
以上詳述した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記各効果に加えて、さらに以下の効果が得られるようになる。
【0066】
(5)積分値Δv*の積分期間を1電気角周期よりも長くすることで、印加電圧v*のサンプリング数を増加させたり、様々な位相での印加電圧v*をサンプリングしたりすることができ、ひいては積分値Δv*によるオフセット誤差の定量化精度が向上する。
<第4の実施形態>
以下、第4の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0067】
本実施形態では、モータジェネレータ10の運転状態が過渡的な運転状態となる場合に、積分値Δv*の算出を停止し、積分値Δv*を初期化する。これは、過渡的な運転状態の場合、モータジェネレータ10の各相に印加される電圧の振幅が変化するために、実電流i*にオフセット誤差が生じない場合であっても、1電気角周期に渡る印加電圧v*の積分値がゼロにならないためである。
【0068】
図11に、上記積分値Δv*の算出停止処理の手順を示す。この処理は、所定周期でくり返し実行される。
【0069】
この一連の処理では、まずステップS40において、要求トルクTrの変化量ΔTrの絶対値が規定量ΔTthより大きいことと、電気角速度ωの変化量Δωの絶対値が規定量Δωthよりも大きいこととの論理和が真であるか否かを判断する。この処理は、モータジェネレータ10の過渡運転時であるか否かを判断するためのものである。そしてステップS40において肯定判断される場合、ステップS42において、積分値Δv*の算出処理を停止し、積分値Δv*を初期化する。これにより、過渡運転時において積分要素42*の出力は、過渡運転時に移行する直前の出力値に維持されることとなる。
【0070】
なお、ステップS42の処理が完了する場合や、上記ステップS40において否定判断される場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0071】
以上詳述した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記各効果に加えて、さらに以下の効果が得られるようになる。
【0072】
(6)過渡運転時であると判断される場合、積分値Δv*の算出処理を停止した。これにより、積分値Δv*によるオフセット誤差の定量化精度が低下する状況下、積分値Δv*がフィードバック制御に反映されることを回避することができる。
<第5の実施形態>
以下、第5の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0073】
上記実施形態では、印加電圧v*を電圧ベクトルViから一義的に定まる値として算出した。ところで、電圧ベクトルV(n)が電圧ベクトルV(n−1)と相違することで、インバータINVのスイッチング状態の切り替えがなされる場合、上側アームのスイッチング素子S*pと下側アームのスイッチング素子S*nとの双方がオフとなるデッドタイム期間DTが設けられる。そしてデッドタイム期間DTにおいては、対応する相電流の極性に応じてダイオードD*#に電流が流れることから、モータジェネレータ10に印加される電圧は、相電流に依存することとなる。このため、本実施形態では、先の図5に示したマップによって算出される印加電圧v*を、デッドタイム期間の電圧を考慮して補正する。
【0074】
図12に、上記補正処理の手順を示す。この処理は、先の図4に示した処理に同期して行われる。
【0075】
この一連の処理では、まずステップS50において、前回の電圧ベクトルV(n−1)と今回の電圧ベクトルV(n)とが互いに相違するか否かを判断する。この処理は、インバータINVのスイッチング状態が変更されるか否かを判断するためのものである。そして、ステップS50において肯定判断される場合、ステップS52において、今回の電圧ベクトルV(n)と前回採用された電圧ベクトルV(n−1)との差ベクトル(U,V,W)を算出する。ここでは、電圧ベクトルV(n),V(n−1)を、3相座標系の成分として表現する。ここで、各成分の値は、上側アームがオンの場合と下側アームがオンの場合とで相違すれば任意でよい。ただしここでは、簡単のため、上側アームがオンの場合を「1」、下側アームがオンの場合を「0」とする。また、デッドタイム期間DTにおける印加電圧(nu,nv,nw)を、今回の電圧ベクトルV(n)に仮設定する。ここで、印加電圧(nu,nv,nw)の各成分の表現方法も任意であるが、ここでは、簡単のため、上側アームがオンの場合を「1」、下側アームがオンの場合を「0」とする。
【0076】
続くステップS54においては、差ベクトルのU相成分Uがゼロであるか否かを判断する。この処理は、電圧ベクトルV(n)の設定によって、U相のスイッチング状態の切り替えがなされないか否かを判断するためのものである。そして、ステップS54において否定判断される場合、切り替えがなされたとして、ステップS56において、U相の電流iuが負であるか否かを判断する。この処理は、上側アームのダイオードDupに電流が流れるか否かを判断するためのものである。なお、ここでの電流iuは、電圧ベクトルV(n)の出力タイミングにおける予測電流(前回の制御周期における予測電流ide(n+1),iqe(n+1))とすればよい。そして、負である場合には、デッドタイム期間の印加電圧のU相成分nuを「1」とし(ステップS58)、そうでない場合には、U相成分nuを「0」とする(ステップS60)。これは、相電流が負である場合、デッドタイム期間DTにおいて、ダイオードDupを介して電流が流れ、相電流が正である場合、デッドタイム期間DTにおいて、ダイオードDunを介して電流が流れることに鑑みたものである。
【0077】
上記ステップS58,S60の処理が完了する場合や、ステップS54において肯定判断される場合には、上記ステップS54〜S60の処理に対応するステップS62〜S68の処理によって、V相のスイッチング状態が変更されたか否かの判断処理、および変更された場合におけるデッドタイム期間の印加電圧のV相成分nvを設定する処理を行う。
【0078】
そして、上記ステップS66,S68の処理が完了する場合や、ステップS62において肯定判断される場合には、上記ステップS54〜S60の処理に対応するステップS70〜S76の処理によって、W相のスイッチング状態が変更されたか否かの判断処理、および変更された場合におけるデッドタイム期間の印加電圧のW相成分nwを設定する処理を行う。
【0079】
こうしてステップS74,S76の処理が完了した場合や、ステップS70において否定判断される場合には、ステップS78に移行する。この時点では、印加電圧(nu,nv,nw)は、デッドタイム期間DTにおける印加電圧として正しい値を示している(ただし、上側アームがオンの場合を「1」、下側アームがオンの場合を「0」と表現しているのみであるため、絶対値は正しくない)。このため、これに基づき、デッドタイム期間DTにおける電圧の補正量を算出する。これはたとえば、上記のように「1」および「0」で表記された電圧ベクトルV(n)と印加電圧(nu,nv,nw)との差ベクトルが、先の図2に示した電圧ベクトルのいずれであるかを特定し、この電圧ベクトルを先の図5のマップで各相の印加電圧に変換し、この印加電圧に「DT/Tc」を乗算したものを補正量とすればよい。
【0080】
続くステップS80においては、先の図4のステップS32においてマップ演算される印加電圧v*を、ステップS78において算出された補正量によって補正する。これにより、印加電圧v*は、制御周期Tcにおける各相の電圧を高精度に表現したものとなる。このため、先の図4のステップS34において、デッドタイム期間DTにおける印加電圧をも正確に反映した積分値Δv*を算出することができる。
【0081】
以上詳述した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記各効果に加えて、さらに以下の効果が得られるようになる。
【0082】
(7)モータジェネレータ10を流れる電流に基づき、印加電圧v*をデッドタイム期間DTにおいて印加される電圧を反映して算出した。これにより、積分値Δv*を、電流のオフセット誤差をより高精度に表現したものとすることができる。
<第6の実施形態>
以下、第6の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0083】
図13に本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図13において、先の図1に示した部材や処理に対応するものについては、便宜上同一の符号を付している。
【0084】
図示されるように、本実施形態では、積分値Δv*をゼロにフィードバック制御するための操作対象を、予測電流ide,iqeとする。すなわち、積分要素42*の出力は、dq変換部60においてd軸の補正量Δidと、q軸の補正量Δiqとに変換される。そして、これらは予測部33において、予測電流ide,iqeが算出される際に用いられる。すなわち、先の図3のステップS12において算出される予測電流ide,iqeに加算される。
<その他の実施形態>
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0085】
「デッドタイム補正手段について」
上記第5の実施形態(図12)に例示した処理を行なうものに限らない。たとえば、電圧ベクトルが変更される場合、電圧ベクトルV(n)に基づきマップ演算される印加電圧v*(n)の積分処理を、「v*(n)×(Tc−DT)」としたり、「v*(n)×ω×(Tc−DT)」としたりしてもよい。これによっても、積分値Δv*のデッドタイムDTに起因した誤差を低減することができることもある。
【0086】
「積分手段について」
電気角の整数倍の期間にわたって相電圧を積分するものに限らない。たとえば、相電圧が正である期間における相電圧と負である期間における相電圧の絶対値とを別途積分し、それらの差を算出するものであってもよい。この場合、積分期間が電気角周期の整数倍からずれる場合であっても、積分期間を長くすることで、電気角の整数倍からのずれによって積分値によるオフセット誤差の定量化精度が低下することを好適に抑制することができる。
【0087】
「フィードバック制御手段について」
積分要素の出力を補正量とするものに限らない。たとえば、比例要素および積分要素の出力同士の和を補正量とするものであってもよい。
【0088】
また、積分要素を備えるものにも限らない。たとえば、積分値Δv*を、電流量に変換し、これを補正量としてもよい。この変換係数は、モータジェネレータ10をモデル化した際の抵抗値Rを用いて「1/R」とすればよい。なお、この場合、禁止手段による禁止処理によって新たな補正量が算出されない場合、前回の補正量を継続して使用することが望ましい。
【0089】
「判断手段について」
要求トルクTrの変化量ΔTrに代えて、指令電流idr,iqrの変化量が大きいことに基づき過渡運転時であると判断してもよい。
【0090】
「禁止手段について」
積分ゲインKiを十分に小さくするなら、禁止手段を備えなくても、過渡運転時における補正部44,48,52の出力値の精度の低下等を抑制することができる。
【0091】
「仮設定される操作状態について」
スイッチング状態の切り替え端子数が「1」以下となるものに限らず、「2」以下となるものであってもよい。また、電圧ベクトルV0〜V7の全てであってもよい。
【0092】
「予測手段について」
次回の電圧ベクトルV(n+1)によって生じる制御量のみを予測するものに限らない。たとえば、数制御周期先の更新タイミングにおけるインバータINVの操作による制御量まで順次予測するものであってもよい。
【0093】
「決定手段について」
たとえば、上記第1の実施形態において、予測電流ide(n+2)と指令電流idr(n+2)との差の絶対値と、予測電流iqe(n+2)と指令電流iqr(n+2)との差の絶対値との加重平均処理値を、予測電流と指令電流との乖離度合いの評価対象とするパラメータとしてもよい。要は、乖離度合いが大きいほど評価が低くなることを定量化すべく、乖離度合いと評価パラメータとの間に正または負の相関関係があるパラメータによって定量化すればよい。
【0094】
「制御量について」
指令値と予測値とに基づきインバータINVの操作を決定するために用いる制御量としては、トルクおよび磁束と、電流とのいずれかに限らない。例えば、トルクのみまたは磁束のみであってもよい。また例えば、トルクおよびd軸電流またはトルクおよびq軸電流等、トルクおよび電流であってもよい。ここで、制御量を電流以外とする場合等において、センサによる直接の検出対象を電流以外としてもよい。
【0095】
上記各実施形態では、回転機の究極の制御量(予測対象であるか否かにかかわらず、最終的に所望の量とされることが要求される制御量)を、トルクとしたが、これに限らず、例えば回転速度等としてもよい。
【0096】
「回転機について」
回転機としては、3相回転機に限らず、5相回転機等、4相以上の回転機であってもよい。
【0097】
上記実施形態では、固定子巻線がスター結線されたものを想定したがこれに限らず、デルタ結線されたものであってもよい。この場合、回転機の端子と相とは一致しない。したがって、印加電圧算出手段を、回転機の2つの端子に印加される電圧の差を算出する手段とすればよい。もっとも、これに限らず、各端子の電圧を算出し、それらの積分値同士に基づき、各相のオフセット誤差を特定するなどしてもよい。
【0098】
回転機としては、埋め込み磁石同期機に限らず、表面磁石同期機や、界磁巻線型同期機等、任意の同期機であってよい。更に、同期機にも限らず、誘導モータ等、誘導回転機であってもよい。
【0099】
回転機としては車両の主機として用いられるものに限らない。
【0100】
「制御量の制御手法について」
モデル予測制御に限らず、通常の電流フィードバック制御や、瞬時電流値制御であってもよい。この場合であっても、印加電圧算出手段を備えることで、電気角θの誤差等の影響を受けることなく相電圧の偏り度合いを定量化することができるため、実電流iu,iv,iwのオフセット誤差を精度よく検出することができる。
【0101】
「そのほか」
直流電圧源としては、高電圧バッテリ12に限らず、例えば高電圧バッテリ12の電圧を昇圧するコンバータの出力端子であってもよい。
【0102】
互いに相違する複数の電圧値を有する電圧印加手段と回転機の端子との間を開閉するスイッチング素子を備えて構成される電力変換回路としては、回転機の端子を直流電圧源の正極および負極のそれぞれに選択的に接続するスイッチング素子を備える直流交流変換回路(インバータINV)に限らない。例えば、多相回転機の各相に3つ以上の互いに相違する値の電圧を印加する電圧印加手段と回転機の端子との間を選択的に開閉するスイッチング素子を備えるものであってもよい。なお、回転機の端子に3つ以上の互いに相違する値の電圧を印加するための電力変換回路としては、例えば特開2006−174697号公報に例示されているものがある。
【符号の説明】
【0103】
10…モータジェネレータ、20…制御装置、40…積分値算出部、42u,42v,42w…積分要素、44u,44v,44w…補正部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに相違する複数の電圧値を有する電圧印加手段と回転機の端子との間を開閉するスイッチング素子を備えて構成される電力変換回路について、該電力変換回路を構成するスイッチング素子を操作対象とし、前記回転機を流れる電流を検出する検出手段による電流の検出結果に基づき、前記スイッチング素子をオン・オフ操作することで前記回転機の制御量を制御する回転機の制御装置において、
前記オン・オフ操作によって定まって且つ固定座標系の電圧ベクトルにて表現される前記電力変換回路の都度の操作状態を入力とし、前記回転機の各端子または各相に印加される電圧を算出する印加電圧算出手段と、
前記印加電圧算出手段によって算出される各端子または各相のそれぞれの電圧についての1電気角周期以上の期間にわたる積分値を算出する積分手段と、
前記積分値をゼロにフィードバック制御するフィードバック制御手段と、
を備えることを特徴とする回転機の制御装置。
【請求項2】
前記フィードバック制御手段は、前記積分値を入力とする積分要素を備えて構成されることを特徴とする請求項1記載の回転機の制御装置。
【請求項3】
前記回転機の過渡運転時であるか否かを判断する判断手段と、
前記過渡運転時であると判断される場合、前記積分手段の積分処理が前記フィードバック制御手段に反映されることを禁止する禁止手段とをさらに備えることを特徴とする請求項1または2記載の回転機の制御装置。
【請求項4】
前記積分手段は、前記各端子または各相に印加される電圧を電気角の関数として積分するものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の回転機の制御装置。
【請求項5】
前記積分手段は、前記回転機の電気角周期の2倍以上の期間にわたる前記積分値を前記フィードバック制御手段に出力することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の回転機の制御装置。
【請求項6】
前記電力変換回路は、前記回転機の端子を直流電圧源の正極および負極のそれぞれに選択的に接続するスイッチング素子および該スイッチング素子に逆並列接続されたダイオードを備える直流交流変換回路であり、
前記正極に接続するスイッチング素子と前記負極に接続するスイッチング素子とのいずれか一方および他方がそれぞれオンおよびオフとなる状態からいずれか一方および他方がそれぞれオフおよびオンとなる状態に切り替えるに際し、双方がオフ状態となるデッドタイム期間が設けられ、
前記操作状態が変更される場合、前記回転機を流れる電流に基づき、前記デッドタイム期間において各端子または各相に印加される電圧を前記積分値に反映させるデッドタイム補正手段をさらに備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の回転機の制御装置。
【請求項7】
前記電力変換回路の操作状態を仮設定した場合についての前記回転機を流れる電流、前記回転機のトルク、および前記回転機の磁束の少なくとも1つを有した制御量を予測する予測手段と、
該予測手段によって予測される制御量に基づき、該予測される制御量に対応する操作状態を評価し、評価の高い操作状態を前記電力変換回路の操作状態として決定する決定手段と、
該決定された操作状態となるように前記電力変換回路を操作する操作手段とをさらに備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の回転機の制御装置。
【請求項1】
互いに相違する複数の電圧値を有する電圧印加手段と回転機の端子との間を開閉するスイッチング素子を備えて構成される電力変換回路について、該電力変換回路を構成するスイッチング素子を操作対象とし、前記回転機を流れる電流を検出する検出手段による電流の検出結果に基づき、前記スイッチング素子をオン・オフ操作することで前記回転機の制御量を制御する回転機の制御装置において、
前記オン・オフ操作によって定まって且つ固定座標系の電圧ベクトルにて表現される前記電力変換回路の都度の操作状態を入力とし、前記回転機の各端子または各相に印加される電圧を算出する印加電圧算出手段と、
前記印加電圧算出手段によって算出される各端子または各相のそれぞれの電圧についての1電気角周期以上の期間にわたる積分値を算出する積分手段と、
前記積分値をゼロにフィードバック制御するフィードバック制御手段と、
を備えることを特徴とする回転機の制御装置。
【請求項2】
前記フィードバック制御手段は、前記積分値を入力とする積分要素を備えて構成されることを特徴とする請求項1記載の回転機の制御装置。
【請求項3】
前記回転機の過渡運転時であるか否かを判断する判断手段と、
前記過渡運転時であると判断される場合、前記積分手段の積分処理が前記フィードバック制御手段に反映されることを禁止する禁止手段とをさらに備えることを特徴とする請求項1または2記載の回転機の制御装置。
【請求項4】
前記積分手段は、前記各端子または各相に印加される電圧を電気角の関数として積分するものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の回転機の制御装置。
【請求項5】
前記積分手段は、前記回転機の電気角周期の2倍以上の期間にわたる前記積分値を前記フィードバック制御手段に出力することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の回転機の制御装置。
【請求項6】
前記電力変換回路は、前記回転機の端子を直流電圧源の正極および負極のそれぞれに選択的に接続するスイッチング素子および該スイッチング素子に逆並列接続されたダイオードを備える直流交流変換回路であり、
前記正極に接続するスイッチング素子と前記負極に接続するスイッチング素子とのいずれか一方および他方がそれぞれオンおよびオフとなる状態からいずれか一方および他方がそれぞれオフおよびオンとなる状態に切り替えるに際し、双方がオフ状態となるデッドタイム期間が設けられ、
前記操作状態が変更される場合、前記回転機を流れる電流に基づき、前記デッドタイム期間において各端子または各相に印加される電圧を前記積分値に反映させるデッドタイム補正手段をさらに備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の回転機の制御装置。
【請求項7】
前記電力変換回路の操作状態を仮設定した場合についての前記回転機を流れる電流、前記回転機のトルク、および前記回転機の磁束の少なくとも1つを有した制御量を予測する予測手段と、
該予測手段によって予測される制御量に基づき、該予測される制御量に対応する操作状態を評価し、評価の高い操作状態を前記電力変換回路の操作状態として決定する決定手段と、
該決定された操作状態となるように前記電力変換回路を操作する操作手段とをさらに備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の回転機の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−38842(P2013−38842A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170669(P2011−170669)
【出願日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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