説明

回転電機

【課題】回転電機内部に潤滑油を潤滑させる構成において、濾過体やオイルパンを設けることなく、潤滑油に含まれるコンタミナントを除去する。
【解決手段】コイル3および永久磁石5を具えた回転電機に、入口通路13から潤滑油を入れて出口17から潤滑油を出すことで、回転電機の内部に潤滑油を循環させる。永久磁石5の近傍には潤滑油に含まれる鉄粉を捕捉するためのコンタミナント区画18,19を配設し、コンタミナント区画18,19に潤滑油を流す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油を用いてロータおよびステータ間を潤滑する回転電機において、潤滑油に含まれる鉄粉等のコンタミナントを除去する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回転要素で構成された可動機構内を潤滑する潤滑油から、当該潤滑油内に含まれる鉄粉等のコンタミナントを除去する技術としては従来、例えば特許文献1および特許文献2に記載のごときものが知られている。
特許文献1に記載のオイルフィルタは、潤滑油が流れる通路に高精度の濾過体を配置し、潤滑油内に含まれるコンタミナントを除去するものである。
特許文献2に記載のマグネットキャップは、潤滑油が貯留するオイルパンのドレーンボルトに永久磁石を設けることにより、オイルパンに貯留した潤滑油内に含まれる鉄粉を捕捉するものである。
【特許文献1】特開2002−129925号公報
【特許文献2】特開2003−314239号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
回転要素で構成された可動機構とは、上述した内燃機関であるエンジンの他、電気自動車の動力源であるモータ/ジェネレータ等の回転電機等がある。電気自動車動力源用の回転電機にあっては、ロータが高速回転するため、摩擦抵抗による出力低下や、温度上昇といった問題を防止するべくロータとステータとの間を潤滑することが望ましい。
また、電気自動車の動力源として車輪のロードホイール内に回転電機を収容する、いわゆるインホイールドライブユニットが提案されている。この場合、ロードホイール内空領域は限られているため、回転電機の小型化が要求される。
【0004】
しかし、特許文献1および2に記載の従来構成を上述の回転電機に採用すると、以下に説明するような問題を生ずる。
つまり回転電機に濾過体を配置したりオイルパンを設けたりすると、回転電機の全体形状が大きくなってしまい、上記した回転電機の小型化の要求を達成することができないという問題が生じる。
【0005】
本発明は、上述の実情に鑑み、別途の濾過体やオイルパンを設けることなく、潤滑油から鉄粉を除去することができる回転電機を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的のため本発明による回転電機の潤滑構造は、請求項1に記載のごとく、
コイルおよび永久磁石を具えた回転電機の内部に、潤滑油を循環させる回転電機の潤滑構造において、前記永久磁石の近傍には潤滑油に含まれる鉄粉を捕捉するためのコンタミナント区画を配設し、該コンタミナント区画に潤滑油を流すよう構成したことを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0007】
かかる本発明の構成によれば、潤滑油がコンタミナント区画を流れる際に、潤滑油内に含まれる鉄粉が永久磁石の磁力に捕捉され、捕捉された鉄粉がコンタミナント区画に貯留するため、別途のオイルフィルタやマグネットキャップを設けることなく、潤滑油に含まれる鉄粉を除去することが可能となる。
したがって、回転電機の形状が大きくなることを回避することができ、コスト上も有利な回転電機を提案することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
図1は本発明の一実施例になる回転電機を回転軸方向から見た状態を示す横断面図である。図2は図1のA−A線で断面にした状態を示す縦断面図である。なお図2に示すB−B線で断面にし矢の方向から見た状態は図1になる。
この実施例の回転電機は、回転中心にロータ1を配置し、ロータ1の外周には周方向に複数のティース2、2、2・・・・を配置し、これらティース2全体をステータとして円環形状の回転電機ケース6の内壁に立設したものである。ロータ1は円筒形状であり、この円筒表面にはティース2を対向配置する。つまり、ロータ1とステータとの位置関係を同軸かつ回転軸Oの径方向内方および外方に配置するラジアル型(の回転電機)とする。
【0009】
ティース2にはコイル3を巻回する。所定のコイル3に適宜通電するとティース2・2間で磁力線4が発生し、磁力線4が図1に概略表示するようにロータ1を貫通する。ロータ1はその内部に永久磁石5を具える。永久磁石5はロータ1の軸O方向中程に位置する。本実施例では永久磁石5を周方向均等に4個配置する。そして、ティース2と永久磁石5とが相互に電磁力を及ぼして、ロータ1にはマグネットトルクを与える。また、磁力線4はロータ1にリラクタンストルクを与える。これらトルクによってロータ1は回転する。
【0010】
これらトルクを発揮させ、隣り合う永久磁石5,5同士で磁路が短絡することを防止するため、隣り合う永久磁石5,5間のスペースにはフラックスバリアと呼ばれる空隙21を配設する。空隙21は各永久磁石5の周方向両端それぞれに隣接し、回転軸O方向に延在する。本実施例では永久磁石5を4個配置したことから、空隙21を各永久磁石5につき2箇所、合計で8箇所配置する。
【0011】
ロータ1の一端には、支持軸8を立設し、他端には出力軸10を一体結合し、これらの軸8、10を回転軸Oに沿って延在させる。支持軸8を円盤形状の回転電機ケース7中心部に貫通させる。回転電機ケース7の中心部には軸受9を設け、軸受9は支持軸8を回転自在に支持する。また出力軸10を円盤形状の回転電機ケース11中心部に貫通させる。回転電機ケース11の中心部には軸受12を設け、軸受12は出力軸10を回転自在に支持する。
【0012】
ロータ1内であって各永久磁石5の径方向内側には、永久磁石5に隣接して通路15を配置する。各通路15をロータ1の一端から他端まで回転軸O方向に延在させる。支持軸8には入口通路13を設ける。入口通路13と各通路15の一端とをロータ径方向に延在する通路14で接続する。各通路15の他端はロータ出口16となっている。
【0013】
回転電機の内部には潤滑油を循環させる。
図2に示すように潤滑油はまず、入口通路13から回転電機の内部に流入し、通路14で分配されて、通路15を流れ、ロータ出口16でロータ1から流出する。潤滑油は次に、ロータ1表面と、ケース6,7,11内壁と、軸受9,12を潤滑し、ケース11の外縁部に設けた出口17から回転電機の外へ流出する。
潤滑油は次に、出力軸10先端と駆動結合した図示しない減速歯車機構に流入する。この減速歯車機構は、出力軸10の回転数を減速して駆動輪に伝達する役目を果たし、複数の歯車から構成される。潤滑油はこれら複数の歯車を潤滑する。
そして潤滑油は再び入口通路13へ戻り、回転電機内を循環する。管路13,14,15には潤滑油の流れる方向を矢で示す。
【0014】
潤滑油を循環させる動力としては、通路14にある潤滑油に作用する矢14y方向の遠心力を利用する。あるいは図示はしなかったが、ケース7外壁にオイルポンプを設け、支持軸13から動力を得た当該オイルポンプが入口通路13に潤滑油を圧送する構成であってもよい。また、外部に電動ポンプ等を設けてもよい。
【0015】
通路14と通路15との接続部には、凹部形状であるコンタミナント区画18をそれぞれ形成する。またロータ出口16側にもコンタミナント区画19をそれぞれ形成する。これにより、通路14,15を経てロータ出口16に達する潤滑油を、コンタミナント区画18,19に流す。
これらコンタミナント区画18,19は、通路15よりもロータ径方向外側に、かつ永久磁石5の近傍に配設する。
【0016】
潤滑油が通路14,15を流れると、潤滑油に含まれる鉄粉などのコンタミナントが永久磁石5の磁力によって捕捉され、コンタミナント区画18,19内にはコンタミナント20が貯留する。また、ロータ1の回転によって通路14,15を流れる潤滑油には遠心力が作用し、潤滑油に含まれるコンタミナントが通路14,15よりも外側にあるコンタミナント区画18,19内に収集される。
したがって、濾過体やオイルパンを追加することなく潤滑油から鉄粉を除去することが可能となり、回転電機の全体形状が大きくなることを回避しつつコンタミナント除去機能を回転電機に付加することができる。
また、コンタミナント区画18,19を凹部形状としたため、捕捉したコンタミナントを効果的に貯留することができる。
【0017】
また本実施例では、潤滑油がまず回転電機を潤滑し、次に図示しない減速歯車機構を潤滑し、再び回転電機を潤滑するよう、循環する。そして、潤滑油が回転電機に流入した直後に、ロータ1内のコンタミナント区画18を流れることから、
通路15がコンタミナントで閉塞することを未然に防止することができる。また、潤滑油がロータ1表面と、ケース6,7,11内壁と、軸受9,12を潤滑する前で、当該潤滑油に含まれる減速歯車機構の摩耗粉(コンタミナント)を除去できる。また潤滑油が流れることによってロータ1および減速歯車機構を冷却するという効果も得られる。
【0018】
次に、本発明の他の実施例になる回転電機を図3,4に沿って説明する。
図3は本発明の他の実施例になる回転電機を回転軸方向から見た状態を示す横断面図である。図4は図3のC−C線で断面にした状態を示す縦断面図である。なお図4に示すD−D線で断面にし矢の方向から見た状態は図3になる。
この実施例の回転電機は、回転中心にステータ31を配置し、ステータ31の外周には中空円筒形状のアウタロータ32を対向配置する。円筒形状となるステータ31の対向面には、周方向等間隔に複数のティース33、33、33・・・・を配設する。中空円筒形状の内周面となるアウタロータ32の対向面には、永久磁石35を配設する。つまり、ステータ31と対向するアウタロータ32内周面(対向面)を円筒状とし、いわゆるラジアル型の回転電機とする。
【0019】
ティース33にはコイル34を巻回する。本実施例ではティース33と永久磁石35とを周方向均等にそれぞれ8個ずつ配置する。永久磁石35はアウタロータ32の軸O方向中程に位置する。所定のコイル34に順次通電すると、コイル34と永久磁石35とが相互に吸引し、アウタロータ32にはマグネットトルクを与える。そして当該マグネットトルクによってアウタロータ32は回転する。
【0020】
アウタロータ32の一端には、出力軸36を結合し、出力軸36を回転軸Oに沿って延在させる。アウタロータ32の他端側には、ステータ31を支持するステータ支持材37を配置し、ステータ支持材37は回転電機の取り付け部分38にステータ31を固定する。
アウタロータ32他端とステータ支持材37との間には軸受39を設ける。軸受39はアウタロータ32の他端を回転自在に支持する。
【0021】
アウタロータ32内には、各永久磁石35に隣接して通路42を配置する。各通路42をアウタロータ32の一端から他端まで回転軸O方向に延在させる。出力軸36を中空に形成し、その内部を入口通路40とする。入口通路40と各通路42の一端とをロータ径方向に延在する通路41で接続する。各通路42の他端はロータ出口43となっている。
【0022】
回転電機の中には潤滑油を循環させる。
図4に示すように潤滑油はまず、入口通路40から回転電機の内に流入し、通路41で分配されて、通路42を流れ、ロータ出口43でアウタロータ32から流出する。潤滑油は次に、アウタロータ32表面と、ステータ31表面と、軸受39を潤滑する。
潤滑油は次に、出力軸36と駆動結合した図示しない減速歯車機構に流入する。この減速歯車機構は、出力軸36の回転数を減速して駆動輪に伝達する役目を果たし、複数の歯車から構成される。潤滑油はこれら複数の歯車を潤滑する。
そして潤滑油は再び入口通路40へ戻り、回転電機内を循環する。通路40,41およびロータ出口43には潤滑油の流れる方向を矢で示す。
【0023】
潤滑油を循環させる動力としては、通路41にある潤滑油に作用する矢41y方向の遠心力を利用する。あるいは、図示しないオイルポンプを設け、当該オイルポンプが入口通路40に潤滑油を圧送する構成であってもよい。また、外部に電動ポンプ等を設けてもよい。
【0024】
通路41と通路42との接続部には、凹部空間であるコンタミナント区画44,45をそれぞれ形成する。またロータ出口43側にもコンタミナント区画46,47をそれぞれ形成する。つまり図4に示す実施例では、アウタロータ32のロータ軸O方向中程に永久磁石35を配置し、通路42をロータ軸O方向に延在させる。
コンタミナント区画44,46は通路41および通路42からみてロータ径方向外側に位置する。またコンタミナント区画44,46は永久磁石35の近傍に位置する。コンタミナント区画45,47は永久磁石35の近傍に位置する。つまり図4に示す実施例では、これらコンタミナント区画44〜47はアウタロータ32の軸O方向両端部に位置する。
これにより、通路41,42を経てロータ出口43に達する潤滑油を、コンタミナント区画44〜47に流す。
【0025】
潤滑油が通路41,42を流れると、潤滑油に含まれる鉄粉などのコンタミナントが永久磁石35の磁力によって捕捉され、コンタミナント区画45,47内にはコンタミナント48が貯留する。また、アウタロータ32の回転によって通路41,42を流れる潤滑油には遠心力が作用し、潤滑油に含まれるコンタミナント49が通路41,42よりも外側にあるコンタミナント区画44,46内に収集される。
したがって、濾過体やオイルパンを設けることなく潤滑油からコンタミナントを除去することが可能となり、全体形状が大きくなることを回避しつつコンタミナント除去機能を回転電機に付加することができる。
【0026】
また本実施例では、潤滑油がまず回転電機を潤滑し、次に図示しない減速歯車機構を潤滑し、再び回転電機を潤滑するよう、循環する。そして、潤滑油が回転電機に流入した直後に、アウタロータ32内のコンタミナント区画44,45を流れることから、
通路41,42がコンタミナントで閉塞することを未然に防止することができ、潤滑油がアウタロータ32表面と、ステータ31表面と、軸受39を潤滑する前で、当該潤滑油に含まれる減速歯車機構の摩耗粉(コンタミナント)を除去できる。また潤滑油が流れることによってアウタロータ32および減速歯車機構を冷却するという効果も得られる。
【0027】
次に、本発明の他の実施例になる回転電機を図5,6に沿って説明する。
図5は本発明の他の実施例になる回転電機を回転軸方向から見た状態を示す横断面図である。図6は図5のG−G線で断面にし、矢の方向からみた状態を示す縦断面図である。なお図6に示すH−H線で断面にし矢の方向から見た状態は図5になる。
【0028】
この実施例の回転電機は、基本的には図1および図2に示す実施例と同様の構成であるが、ロータ1内に設けた空隙(フラックスバリア)21を潤滑油の通路と兼用したことを特徴とする。そこで、前述した図1,2の実施例と共通する部分については同様の符号を付して説明を省略し、異なる部分について適宜説明する。
【0029】
ロータ1内であって各永久磁石5の径方向内側には、永久磁石5に隣接して通路を兼用する空隙21を配置する。空隙21をロータ1の一端から他端まで回転軸O方向に延在させる。支持軸8には入口通路13を設ける。入口通路13と各空隙21の一端とをロータ径方向に延在する通路14で接続する。各空隙21の他端はロータ出口16となっている。
【0030】
回転電機の内部には潤滑油を循環させる。
図6に示すように潤滑油はまず、入口通路13から回転電機の内部に流入し、通路14で分配されて、空隙21を流れ、ロータ出口16でロータ1から流出する。次に、ロータ1表面と、ケース6,7,11内壁と、軸受9,12を潤滑し、ケース11の外縁部に設けた出口17から回転電機の外へ流出する。
潤滑油は次に、出力軸36の先端と駆動結合した図示しない減速歯車機構に流入する。この減速歯車機構は、出力軸57の回転数を減速して駆動輪に伝達する役目を果たし、複数の歯車から構成される。潤滑油はこれら複数の歯車を潤滑する。
そして潤滑油は再び入口通路13へ戻り、回転電機内を循環する。管路13,14,空隙21,ロータ出口16,出口17には潤滑油の流れる方向を矢で示す。
【0031】
通路14と空隙21との接続部には、凹部空間であるコンタミナント区画18,22をそれぞれ形成する。またロータ出口16側にもコンタミナント区画19,23をそれぞれ形成する。
これらコンタミナント区画18,19は、通路14および空隙21よりもロータ径方向外側に、かつ永久磁石5の近傍に配設する。またコンタミナント区画22,23は永久磁石5の近傍に位置する。これらコンタミナント区画18,19,22,23はロータ1の軸O方向両端部に位置する。これにより、通路14,空隙21を経てロータ出口16に達する潤滑油を、コンタミナント区画18,19,22,23に流す。
【0032】
潤滑油が通路14および空隙21を流れると、潤滑油に含まれる鉄粉などのコンタミナントが永久磁石5の磁力によって捕捉され、コンタミナント区画22,23内にはコンタミナント24が貯留する。また、ロータ1の回転によって通路14および空隙21を流れる潤滑油には遠心力が作用し、潤滑油に含まれるコンタミナント20が通路14および空隙21よりも外側にあるコンタミナント区画18,19内に収集される。
【0033】
したがって図5,6に示す実施例では、濾過体やオイルパンを追加することなく潤滑油から鉄粉を除去することが可能となり、回転電機の全体形状が大きくなることを回避しつつコンタミナント除去機能を回転電機に付加することができる。
【0034】
次に、本発明の他の実施例になる回転電機を図7,8に沿って説明する。
図7は本発明の他の実施例になる回転電機を回転軸方向から見た状態を示す横断面図である。図8は図7のE−E線で断面にした状態を示す縦断面図である。なお図8に示すF−F線で断面にし矢の方向から見た状態は図7になる。
【0035】
この実施例の回転電機は、ロータとステータとの位置関係を軸O方向に対向配置し、ロータおよびステータ間の対向面が回転軸Oに対し直角とするアキシャル型回転電機である。図7中、左側にはロータ51を示し、右側にはステータのティース52を示す。ティース52にはコイル53を巻回する。外側(ステータ側)のステータ支持部材54にはティース52を立設して、これらティース52を軸Oの周方向等間隔に複数個配置するとともに、ティース52の先端をロータ51表面に対向させる。
【0036】
ティース52先端と対向する円盤状のロータ51表面(アキシャルギャップ面)には、永久磁石55を配設する。永久磁石55は、軸Oよりも外径方向に、軸Oの周方向等間隔に8個配設される。所定のコイル53に順次通電すると、コイル53と永久磁石55とが相互に電磁力を及ぼしトルクを発生する。そして当該トルクによってロータ51は回転する。
【0037】
ロータ51の背面には、支持軸56を立設し、アキシャルギャップ面には出力軸57を一体結合し、これらの軸56、57を回転軸Oに沿って延在させる。
回転電機の外側の部材58と支持軸56との間には、軸受59を介在させて、支持軸56を回転自在に支持する。ステータ支持部材54と出力軸57との間には、軸受60を介在させて、出力軸57を回転自在に支持する。
【0038】
ロータ51内には、潤滑油を循環させるための通路を設ける。中空の支持軸56内は入口通路61となる。入口通路61は分岐して通路62となる。通路62は永久磁石55と同数有って、各通路62は各永久磁石55に隣接する。各通路62はロータ51の中心部からロータ51の外縁部までロータ径方向に延在する。各通路62の外縁端はロータ出口63となっている。
【0039】
回転電機の中には潤滑油を循環させる。
図8に示すように潤滑油はまず、入口通路61から回転電機の内に流入し、ロータ51内の各通路62へ分流して、ロータ出口63でロータ51外へ流出する。潤滑油は次に、ロータ51表面と、ティース52表面と、軸受59,60を潤滑する。
潤滑油は次に、出力軸36の先端と駆動結合した図示しない減速歯車機構に流入する。この減速歯車機構は、出力軸57の回転数を減速して駆動輪に伝達する役目を果たし、複数の歯車から構成される。潤滑油はこれら複数の歯車を潤滑する。
そして潤滑油は再び入口通路61へ戻り、回転電機内を循環する。管路61,62およびロータ出口63には潤滑油の流れる方向を矢で示す。
【0040】
潤滑油を循環させる動力としては、通路62にある潤滑油に作用する矢62y方向の遠心力を利用する。あるいは図示はしなかったが、支持軸56と外側部材58との間にオイルポンプを介挿し、支持軸56から動力を得た当該オイルポンプが入口通路61に潤滑油を圧送する構成であってもよい。また、外部に電動ポンプ等を設けてもよい。
【0041】
入口通路61と通路62との接続部分には、永久磁石55に隣接してコンタミナント区画64を形成する。つまりコンタミナント区画64は永久磁石55の径方向内側面55nに隣接する。これにより、ロータ51内の回転軸Oの位置には、図7に示すような八角形の大きなコンタミナント区画64を形成する。そして通路61から通路62へ流れる潤滑油を、コンタミナント区画64に流す。
【0042】
潤滑油が通路61から通路62へ流れる際には、潤滑油に含まれる鉄粉などのコンタミナントが永久磁石55の磁力によって捕捉され、コンタミナント区画64内にはコンタミナント65が貯留する。
したがって、濾過体やオイルパンを設けることなく潤滑油からコンタミナントを除去することが可能となり、全体形状が大きくなることを回避しつつコンタミナント除去機能を回転電機に付加することができる。
また図7に示すように、永久磁石55の径方向内側面55n全面に亘り、広く隣接してコンタミナント区画64を設けたことから、コンタミナントの捕捉効果を高めることができる。
【0043】
また本実施例では、潤滑油がまず回転電機を潤滑し、次に図示しない減速歯車機構を潤滑し、再び回転電機を潤滑するよう、循環する。そして、潤滑油が回転電機に流入した直後に、ロータ51内のコンタミナント区画64を流れることから、
通路62がコンタミナントで閉塞することを未然に防止することができる。また、潤滑油がロータ51表面と、ティース52表面と、軸受59,60とを潤滑する前で、当該潤滑油に含まれる減速歯車機構の摩耗粉(コンタミナント)を除去できる。また潤滑油が流れることによってロータ51および減速歯車機構を冷却するという効果も得られる。
【0044】
次に、本発明の他の実施例になる回転電機を図9,10に沿って説明する。
図9は本発明の他の実施例になる回転電機を回転軸方向から見た状態を示す横断面図である。図10は図9のI−I線で断面にした状態を示す縦断面図である。なお図10に示すJ−J線で断面にし矢の方向から見た状態は図9になる。
本実施例の回転電機は、基本的には前述した図7,8に示す実施例と共通するものの、コンタミナント区画の形状において異なる。そこで、共通する部分については同じ符号を用いて説明を省略し、異なる部分については新たに符号を付して説明する。
【0045】
本実施例では、ロータ51の回転軸Oが水平になるよう、回転電機の姿勢が維持されている。図9,10に示すように各通路62には、8箇所のコンタミナント区画66を接続する。コンタミナント区画66は、ロータの回転軸O方向にくぼませて奥行きを持たせた凹部区画である。本実施例では、ロータ51が軸O方向に薄い円盤形状であることから、奥行き寸法がロータ径方向の寸法やロータ周方向の寸法、つまり奥行きに直角な断面の寸法よりもやや短い。なお可能であれば、当該凹部区画の奥行き寸法は、奥行きに直角な断面の寸法と略同等か、あるいはそれ以上となるよう深みもたせることが好ましい。
そしてコンタミナント区画66を形成する内周面66nおよび径方向内側面55nの縦断面における断面線を、図10に示すように水平に形成する。
【0046】
これにより、ロータ51の停止中は、コンタミナント区画66に貯留したコンタミナント65が、コンタミナント区画66から通路62側にこぼれたり、こぼれたコンタミナントが通路62に沿って下方に落下し、ロータ出口63から出てしまうという弊害を防止することができる。
【0047】
ところで上述した各実施例では、永久磁石5,35,55の近傍には潤滑油に含まれる鉄粉を捕捉するためのコンタミナント区画18,19,22,23,44,45,46,47,64,66を配設し、これらコンタミナント区画に潤滑油を流すよう構成したことから、
濾過体やオイルパンを追加することなく潤滑油から鉄粉を除去することが可能となり、回転電機の全体形状が大きくなることを回避しつつコンタミナント除去機能を回転電機に付加することができる。
また、コンタミナントを除去することで潤滑油が滑らかに流れるようになり、潤滑油の循環によって回転電機を冷却する効果も維持することができる。
【0048】
また上述した各実施例では、ロータ1,32には永久磁石5,35を設け、ステータにはコイル3,34を設ける。これらロータ内には潤滑油を流すための通路14,15,41,42を設ける。ロータ内であってこれら通路14,15,41,42から見てロータ径方向外側にはコンタミナント区画18,19,44,45を配設する。
これにより、ロータ1,32の回転中は遠心力を用いて通路14,15,41,42内の潤滑油に含まれるコンタミナントを効果的に分離して貯留することが可能になる。
【0049】
また、図7〜10に示すアキシャルギャップ型の回転電機においては、ロータ51内に鉄粉からなるコンタミナント65を貯留することから、
このコンタミナント65をマグネットトルクやリラクタンストルクを発生させるための磁路(磁気回路)が通るよう設計すれば、コンタミナントが溜まることにより設計通りの磁路となり,コンタミナントが溜まる以前と比べてトルクの増大が期待できる。また、潤滑油が流れることによってロータを冷却することが可能となるため,モータ効率を向上させることができる。
【0050】
また上述した各実施例では、ロータとステータとの位置関係をラジアル型とし、永久磁石5,35をロータの軸O方向中程に配置し、通路15,42をロータ軸O方向に延在させる。ロータ1,32のうちロータ軸O方向の一端にはコンタミナント区画18、44,45を設け、ロータ軸O方向の他端にはコンタミナント区画19,46,47を設ける。つまりコンタミナント区画をロータの軸O方向両端部にそれぞれ設ける。
これにより、潤滑油が回転電機に流入する際には、入口通路13,40を経て永久磁石5,35に達した最初の段階でコンタミナントを除去することが可能となり、コンタミナント区画を経て回転電機内を潤滑する潤滑油を清浄に維持することができる。
これらの実施例では特に、コンタミナント区画をロータの軸O方向両端部にそれぞれ設けたことから、通路上流側のコンタミナント区画18、44,45で捕捉できなかったコンタミナントを、通路下流側のコンタミナント区画19,46,47で捕捉することが可能になる。したがってコンタミナント区画を経て回転電機内を潤滑する潤滑油を、確実に清浄にすることができる。
【0051】
さらに図5,6に示す実施例では、隣り合う永久磁石5,5間のスペースに磁路の短絡を防止するための空隙21を配置し、これら空隙21を潤滑油が流れる通路として兼用したことから、レイアウト構成上有利となる。
また、空隙21の隙間幅はロータ周方向に狭く形成されるため、コンタミナントによって空隙21が閉塞する懸念がある。しかし図5,6に示す実施例では、通路14との接続部にコンタミナント区画18およびコンタミナント区画22を設けたことから、空隙21に流入するコンタミナントの量を大いに低減することが可能となる。したがって、空隙21が閉塞することを防止することができる。
【0052】
また図7〜10に示す実施例では、ロータ51とステータ(52〜54)との位置関係を、軸O方向に対向配置するアキシャル型とする。ロータ51内には潤滑油を流すための通路61,62を設ける。ロータ51の回転軸Oよりも外径方向には永久磁石55,55・・・を配設する。永久磁石55の径方向内側面55nおよび通路62に隣接するようコンタミナント区画64を配設したことから、
径方向内側面55n全面に亘って広く、ロータ51中央部全体に亘って大きく、コンタミナント区画64を形成することが可能になり、
永久磁石55の径方向内側面55nが広く潤滑油に接触して、鉄粉のコンタミナントを効率的に捕捉することができる。
【0053】
特に、回転軸Oが水平である図9、10に示す実施例では、通路62には、ロータ51の回転軸O方向に奥行きを持ち、該奥行き寸法が、奥行きに直角な断面の寸法(径方向寸法および軸方向寸法)よりもやや短いコンタミナント区画66を設けたことから、
ロータ51の停止中は、コンタミナント区画66から通路62側にこぼれたり、こぼれたコンタミナントが通路62に沿って下方に落下し、ロータ出口63から出てしまうという弊害を防止することができる。
【0054】
また上述した各実施例では、潤滑油がまず回転電機を潤滑し、次に図示しない減速歯車機構を潤滑し、再び回転電機を潤滑するよう、循環する。そして、潤滑油が回転電機に流入した直後に、ロータ内のコンタミナント区画を流れることから、
ロータ内の通路がコンタミナントで閉塞することを未然に防止することができる。また、潤滑油がロータ表面と、ティース表面と、ロータの軸受とを潤滑する前で、当該潤滑油に含まれる減速歯車機構の摩耗粉(コンタミナント)を除去できる。また潤滑油が流れることによってロータおよび減速歯車機構を冷却するという効果も得られる。
【0055】
なお、上述したのはあくまでも本発明の一実施例であり、本発明はその主旨に逸脱しない範囲において種々変更が加えられうるものである。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の一実施例になる回転電機を回転軸方向から見た状態を示す横断面図である。
【図2】同実施例の縦断面図である。
【図3】本発明の他の実施例になる回転電機を回転軸方向から見た状態を示す横断面図である。
【図4】同実施例の縦断面図である。
【図5】本発明の他の実施例になる回転電機を回転軸方向から見た状態を示す横断面図である。
【図6】同実施例の縦断面図である。
【図7】本発明の他の実施例になる回転電機を回転軸方向から見た状態を示す横断面図である。
【図8】同実施例の縦断面図である。
【図9】本発明の他の実施例になる回転電機を回転軸方向から見た状態を示す横断面図である。
【図10】同実施例の縦断面図である。
【符号の説明】
【0057】
1 ロータ
2 ティース
3 コイル
5 永久磁石
10 出力軸
13 入口通路
14,15 通路
16 ロータ出口
18,19 コンタミナント区画
20 コンタミナント
21 空隙(フラックスバリア)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルおよび永久磁石を具えた回転電機の内部に、潤滑油を循環させる回転電機の潤滑構造において、前記永久磁石の近傍には潤滑油に含まれる鉄粉を捕捉するためのコンタミナント区画を配設し、該コンタミナント区画に潤滑油を流すよう構成したことを特徴とする回転電機の潤滑構造。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機の潤滑構造において、ロータには永久磁石を設け、
ロータ内には潤滑油を流すための通路を設け、該通路に隣接して前記コンタミナント区画を、ロータ内であって該通路から見てロータ径方向外側に形成したことを特徴とする回転電機の潤滑構造。
【請求項3】
請求項2に記載の回転電機の潤滑構造において、ロータとステータとの位置関係を、同軸かつ回転軸の径方向内方および外方に配置するラジアル型とし、
前記永久磁石をロータ軸方向中程に配置し、前記通路をロータ軸方向に延在させ、前記コンタミナント区画をロータの軸方向両端部にそれぞれ設けたことを特徴とする回転電機の潤滑構造。
【請求項4】
請求項2または3に記載の回転電機の潤滑構造において、
前記ロータには、ロータ周方向に複数配置した前記永久磁石間に磁路の短絡を防止するための空隙を配置し、
該空隙を前記通路として兼用するよう構成したことを特徴とする回転電機の潤滑構造。
【請求項5】
請求項1に記載の回転電機の潤滑構造において、
ロータとステータとの位置関係を、軸方向に対向配置するアキシャル型とし、
ロータ内には潤滑油を流すための通路を設け、
ロータの回転軸よりも外径方向には永久磁石を配設し、永久磁石の径方向内側面および通路に隣接するよう前記コンタミナント区画を配設したことを特徴とする回転電機の潤滑構造。
【請求項6】
ロータの回転軸が水平である請求項5に記載の回転電機の潤滑構造において、
前記通路には、回転軸方向に奥行きを持ち、該奥行き寸法が、奥行きに直角な断面の寸法よりもやや短い、または略同等以上となる凹部区画を設けて、前記コンタミナント区画としたことを特徴とする回転電機の潤滑構造。
【請求項7】
回転電機の出力軸に減速歯車機構を駆動結合した請求項2〜4のいずれか1項に記載の回転電機の潤滑構造において、
潤滑油がまず回転電機を潤滑し、次に該減速歯車機構を潤滑するよう、循環する構成とし、
潤滑油が回転電機に流入した直後に、前記コンタミナント区画に流すよう構成したことを特徴とする回転電機の潤滑構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−174755(P2007−174755A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−366405(P2005−366405)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】