説明

圧力容器及びその製造方法

【課題】重量の増加を抑えつつ、耐衝撃性が向上された圧力容器。
【解決手段】筒状の胴部(10)を有する高圧タンク(1)であって、胴部(10)は、繊維強化樹脂層(4)と、繊維強化樹脂層(4)の外周面上に形成された格子状補強層(5)と、を備える。格子状補強層(5)は、胴部(10)の周方向に所定ピッチで巻かれた帯状部(51a)からなる第1補強層(51)と、軸方向に所定ピッチで巻かれた帯状部(52a)からなる巻かれた第2補強層(52)と、を交差させてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば燃料電池システムの高圧水素タンクに適用可能な圧力容器、並びにその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料電池システムに用いられる高圧水素用の圧力容器として、ガスバリア性を有する樹脂製の内殻を、耐圧性のFRP製の外殻で覆ったものが使用されている。このような樹脂製の圧力容器は軽量化が図られており、燃料電池自動車への搭載に用いると好適である。一方、FRPは金属よりも脆性である。このため、圧力容器は、内圧が負荷された状態で局所的な衝撃を受けると、衝撃によるき裂が容器全体に進展して、最終的にバースト(破裂)する可能性がある。
【0003】
従来の圧力容器として、例えば特許文献1に記載のものが知られている。この圧力容器は、円筒状ライナーの外周面を1次繊維強化樹脂層で覆った複数の容器構成体が並列に配置された圧力容器本体と、複数の容器構成体の全てにかかるように形成されてなる帯状の2次繊維強化樹脂層と、を有する。2次繊維強化樹脂層は、複数の容器構成体に跨がるフープ巻層のほか、インプレーン巻層及びヘリカル巻層を有する。
【特許文献1】特開2006−38156号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の圧力容器では、局所的な衝撃により1次繊維強化樹脂層にき裂が発生した場合、2次繊維強化樹脂層によってき裂の進展を抑制できなくもない。しかし、フープ巻層の一部が容器構成体の表面から浮いたように形成され、しかも、2次繊維強化樹脂層の容器構成体表面における配置が偏っている。このような構造であるため、1次繊維強化樹脂層に発生したき裂の進展を効果的に止めることができないおそれがある。
【0005】
本発明は、重量の増加を抑えつつ、耐衝撃性を向上できる圧力容器及びその製造方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するべく、本発明の圧力容器は、筒状の胴部を有するものにおいて、胴部が、繊維強化樹脂層と、繊維強化樹脂層の外周面上に格子状に形成されてなる格子状補強層と、を備えるものである。
【0007】
かかる構成によれば、圧力容器の胴部において、局所的衝撃によって繊維強化樹脂層にき裂が発生しても、そのき裂が格子状補強層の格子領域内を越えて進展しにくくなる。よって、圧力容器の耐衝撃性を向上できる。また、格子状補強層が格子状に増厚する補強層であるために、全面を増厚する場合に比べて重量の増加を抑えることができる。
【0008】
好ましくは、格子状補強層は、胴部の周方向に延在する帯状部を胴部の軸方向に所定のピッチで複数形成してなる第1補強層と、胴部の軸方向に延在する帯状部を胴部の周方向に所定のピッチで複数形成してなる第2補強層と、を備えるとよい。
【0009】
かかる構成によれば、圧力容器の胴部に一定のピッチで格子領域が並んで形成されるようになる。これにより、き裂の進展度合いがき裂方向や発生位置によって大きく異なるといったことがない。よって、効率よく耐衝撃性を向上できる。
【0010】
より好ましくは、第2補強層は、繊維強化樹脂層の外周面上に形成されてなり、第1補強層は、第2補強層の外面側に積層されるように形成されてなるとよい。
【0011】
好ましくは、第1補強層及び第2補強層の厚みは、繊維強化樹脂層の厚みよりも小さいとよい。より好ましくは、第1補強層の厚みは、繊維強化樹脂層の厚みの0.2倍〜0.3倍であり、第2補強層の厚みは、繊維強化樹脂層の厚みの0.1倍〜0.2倍であるとよい。
【0012】
かかる構成によれば、耐衝撃性の向上を図りつつも、胴部全体の厚みを大きくしないで済む。これにより、圧力容器の体積及び重量の増加を抑えることができる。
【0013】
好ましくは、第1補強層の各帯状部及び第2補強層の各帯状部は、幅方向の中央部に、幅方向の両端部よりも厚い増厚部が形成されてなるとよい。より好ましくは、各帯状部の幅は、増厚部の幅の2倍以上であるとよい。
【0014】
好ましくは、格子状補強層は、樹脂を含浸した繊維の当該樹脂を硬化することで形成されるとよい。
【0015】
上記目的を達成するべく、圧力容器の筒状の胴部がライナー部を有する本発明の圧力容器の製造方法は、先ず、樹脂を含浸した繊維をフィラメントワインディング法によりライナー部の外周面にフープ巻き及びヘリカル巻きして、プレ繊維強化樹脂層を形成する。次いで、プレ繊維強化樹脂層の外周面上に、樹脂を含浸した繊維からなるプレ格子状補強層を形成する。その後、プレ繊維強化樹脂層及びプレ格子状補強層の各樹脂を加熱により硬化して、ライナー部の外周面に繊維強化樹脂層及び格子状補強層を形成する。
【0016】
かかる方法によれば、ライナー部の外周面に、繊維強化樹脂層のみならず、格子状補強層を形成するので、上記同様に、胴部への局所的衝撃によって発生し得る繊維強化樹脂層のき裂を、格子状補強層の格子領域外へと進展することを好適に抑制できる。したがって、耐衝撃性に優れた圧力容器を製造できる。また、プレ繊維強化樹脂層及びプレ格子状補強層の各樹脂を一括して加熱により硬化できる。これにより、例えばそれぞれの樹脂を別々に硬化する場合に比べて、繊維強化樹脂層と格子状補強層との間の層間はく離も好適に抑制できる。
【0017】
好ましくは、プレ格子状補強層は、プレ第1補強層及びプレ第2補強層を備える。プレ第1補強層は、プレ繊維強化樹脂層の外周側に、樹脂を含浸した繊維をフィラメントワインディング法によりフープ巻きすることで、複数の帯状部が胴部の軸方向に所定のピッチで形成されるとよい。また、プレ第2補強層は、プレ第1補強層とプレ繊維強化樹脂層との層間に位置するとよく、ハンドレイアップ法により、樹脂を含浸した繊維を設けることで、複数の帯状部が胴部の周方向に所定のピッチで形成されるとよい。
【0018】
かかる方法によれば、プレ格子状補強層を簡易な方法で形成できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の圧力容器によれば、局所的衝撃により発生し得るき裂の進展を抑制でき、耐衝撃性を高めることができる。また、格子状補強層による重量の増加を好適に抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態に係る圧力容器及びその製造方法について説明する。ここでは、燃料電池システムの高圧タンクに適用した圧力容器を例にとって説明する。
【0021】
図1は、本実施形態に係る圧力容器を搭載した燃料電池自動車を示す図である。
燃料電池自動車100は、燃料電池104を有する燃料電池システム200を搭載している。燃料電池システム200は、例えば3つの高圧タンク1を車体のリア部に搭載している。各高圧タンク1内の流体は、水素ガスや圧縮天然ガスなどの可燃性の燃料ガスであり、ガス供給ライン102を通じて燃料電池104に供給される。以下では、高圧タンク1が貯留する燃料ガスとして水素ガスを例に説明する。
【0022】
なお、高圧タンク1は、燃料電池自動車のみならず、電気自動車、ハイブリッド自動車などの車両のほか、各種移動体(例えば、船舶や飛行機、ロボットなどといった乗物)や定置型にも適用できる。
【0023】
図2は高圧タンク1の斜視図であり、図3は高圧タンク1の断面図(図2のIII?III断面図)である。
高圧タンク1は、密閉形状のタンク本体2を備えている。タンク本体2は、内部に貯留空間Rが形成された中空のライナー3と、ライナー3の外面を覆う繊維強化樹脂層4と、繊維強化樹脂層4の外面を覆う格子状補強層5と、を有する。
【0024】
貯留空間Rは、常圧の流体を貯留することもできるし、燃料ガスを常圧よりも高い圧力(すなわち高圧)で貯留することもできる。貯留空間Rには、例えば35MPaあるいは70MPaの水素ガスが貯留される。高圧タンク1の温度は、水素ガスの充填及び放出に伴い変動するが、その変動幅は、水素ガスの充填圧によっても異なる。水素ガス放出時の高圧タンク1の温度は、充填圧が高くなるほどより低温となる。
【0025】
タンク本体2は、その長手方向の両端部の中央に、水素ガスが供給/排出される開口部6,7を有している。開口部6,7には、図示省略したバルブアッセンブリや栓体がねじ込み接続等により直接的に接続される。あるいは、開口部6,7には、図示省略した口金がインサート成形等により設けられ、この口金を介してバルブアッセンブリ等がねじ込み接続される。そして、バルブアッセンブリと外部のガス供給ライン102とが接続され、貯留空間Rとの間で水素ガスの給排がなされる。なお、開口部6,7の一方は省略することも可能である。
【0026】
タンク本体2は、略円筒状の胴部10と、胴部10の長手方向の両端部をそれぞれ閉塞する半球状のドーム部11,12と、有する。胴部10は、その軸線方向がタンク本体2の長手方向となるように所定の長さで形成されており、ほぼ一定の径を有している。ドーム部11,12の頂点には、それぞれ、上記開口部6,7が設けられている。
【0027】
ライナー3は、タンク本体2の内殻であり、その内部空間が貯留空間Rとされる。すなわち、ライナー3は、胴部10及びドーム部11,12の内壁層である。ライナー3はガスバリア性を有しており、水素ガスの外部への透過を抑制している。
【0028】
ライナー3の材質は、特に限定されるものではないが、例えば、金属のほか、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂その他の硬質樹脂を用いて形成される。また、これらの樹脂を2層以上に組み合わせて、複数層からなる積層体としてライナー3を構成しても良い。ライナー3の厚さは、その材質、高圧タンク1の寸法形状、要求される耐圧等に依存するものの、特に限定されず、好ましくは0.5mm〜数十mm程度、より好ましくは1mm〜10mm程度である。
【0029】
繊維強化樹脂層4及び格子状補強層5は、タンク本体2の外殻であり、タンク本体2に耐圧性、耐衝撃性をもたせるための補強層である。繊維強化樹脂層4は、ライナー3の外周面の全領域を所定の厚みで被覆している。すなわち、繊維強化樹脂層4は、胴部10及びドーム部11,12に設けられている。一方、格子状補強層5は、繊維強化樹脂層4の外周面のうち、胴部10の領域のみを被覆するように形成されている。
【0030】
繊維強化樹脂層4及び格子状補強層5は、例えば、マトリックス樹脂(プラスチック)が繊維で補強されたFRP層である。マトリックス樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂、等が挙げられ、これらのなかでは、エポキシ樹脂又は不飽和ポリエステル樹脂がより好ましい。マトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。
【0031】
強化繊維としては、金属繊維、ガラス繊維、カーボン繊維、アルミナ繊維、といった無機繊維、或いは、アラミド繊維等の合成有機繊維、或いは綿等の天然有機繊維を用いることができる。これらの繊維は、単独で又は混合して(混繊として)使用することができ、これらの中では、カーボン繊維、アラミド繊維が特に好ましい。本実施形態の繊維強化樹脂層4及び格子状補強層5では、同じカーボン繊維及び樹脂を用いている。
【0032】
繊維強化樹脂層4及び格子状補強層5におけるマトリックス樹脂と繊維との含有割合としては、樹脂及び繊維の種類、繊維強化方向、厚さ等に依存するが、通常、好ましくはマトリックス樹脂:繊維=10〜80体積%:90〜20体積%、より好ましくはその比が25〜50体積%:75〜50体積%とされる。なお、繊維強化樹脂層4及び格子状補強層5は、これらの構成材料の他に適宜の添加剤を含んでいてもよい。
【0033】
繊維強化樹脂層4は、フープ層21及びヘリカル層31の二層を含む複数層から構成される。本実施形態の繊維強化樹脂層4は、ライナー3の表面にフープ層21とヘリカル層31を2回交互に積層して形成された四層からなる。繊維強化樹脂層4を構成する層の数は、高圧タンク1の寸法形状、要求される耐圧等に応じた数とされ、例えば16層であってもよい。フープ層21とヘリカル層31の積層順は任意であるが、フープ層21とヘリカル層31を交互に積層するのが好ましい。
【0034】
繊維強化樹脂層4の厚さは、その材質、高圧タンク1の寸法形状、要求される耐圧等に依存して設定されるが、特に限定されるものではなく、おおむね数mm〜50mm程度とされる。例えば、胴部10の外径が300mm程度であるときには、20mm程度とされる場合が多い。
【0035】
フープ層21は、胴部10のみほぼ全体を覆うように形成されている。一方、ヘリカル層31は、胴部10及びドーム部11,12のほぼ全体を覆うように形成されている
すなわち、フープ層21は、ライナー3の胴部外表面、又は、ヘリカル層31の外表面にカーボン繊維をフープ巻きし、カーボン繊維に含浸された樹脂を硬化させて形成される。このように構成されたフープ層21は、胴部10の周方向の強度を確保する。一方、ヘリカル層31は、ライナー3のドーム部の外表面及びフープ層21の外表面にカーボン繊維をヘリカル巻きし、カーボン繊維に含浸された樹脂を硬化させて形成される。このように構成されたヘリカル層31は、主としてドーム部11,12の強度を確保し、タンク1の長手方向の強度を確保する。
【0036】
図4は繊維の巻き方を示すライナー3の側面図である。
フープ層21におけるフープ巻きとは、樹脂を含むカーボン繊維を胴部10の周方向に巻回することをいう。このフープ巻きは、例えば、図4(A)に示すように、供給ユニット50をライナー3の長手方向に往復移動させながらライナー3を回転させ、この供給ユニット50から樹脂を含むカーボン繊維を供給することで行うことができる。
また、ヘリカル層31におけるヘリカル巻きとは、樹脂を含むカーボン繊維をらせん状に巻回することをいう。このヘリカル巻きは、例えば、図4(B)に示すように、ライナー3の長手方向及びこれに直交する方向に供給ユニット50を往復移動させながらライナー3を回転させ、この供給ユニット50から樹脂を含むカーボン繊維を供給することで行うことができる。
【0037】
供給ユニット50から供給されるカーボン繊維は、ボビン等に巻回されているときから樹脂を含浸された状態(すなわち、プリプレグ状態)とする方法を用いるほか、ボビン等から繰り出された後に樹脂槽によって樹脂を含浸させる方法を用いてもよい。
【0038】
フープ巻き及びヘリカル巻きのいずれも、例えば、フィラメントワインディング法、ハンドレイアップ法、テープワインディング法等を用いて行うことができる。本実施形態では、供給ユニット50を用いてカーボン繊維束を所定の方向に巻き付けるフィラメントワインディング法により、繊維強化樹脂層4を形成している。
【0039】
格子状補強層5は、繊維強化樹脂層4の外周面上に格子状に形成されてなる。格子状補強層5は、樹脂を含むカーボン繊維を所定幅の帯状に巻いた帯状部が縦横に交差されてなり、格子状に形成されている。格子状補強層5は、複数の帯状部51aからなる第1補強層51と、複数の帯状部52aからなる第2補強層52と、を有する。
【0040】
複数の帯状部51aは、それぞれが胴部10の周方向に延在し、且つ胴部10の軸方向に所定ピッチで均等に配置されている。また、複数の帯状部52aは、それぞれが胴部10の軸方向に延在し、且つ胴部10の周方向に所定ピッチで均等に配置されている。隣り合う帯状部51a,51a,52a,52aで囲まれる領域には、略方形の隙間53が画成されている。つまり、格子状補強層5には、縦横に並ぶ複数の隙間53が形成されている。
【0041】
このような格子状補強層5が繊維強化樹脂層4の外周面に接して積層されていることにより、高圧タンク1は、その胴部10において、格子状補強層5がある格子部分については、繊維強化樹脂層4の上に補強繊維層を追加で積層した構成となっている。一方、隙間53の位置には追加の補強繊維層が積層されていないため、繊維強化樹脂層4が高圧タンク1の最表層に露出している。
【0042】
第1補強層51は、フープ層21と同様に、樹脂を含浸したカーボン繊維をフープ巻きし、その樹脂を加熱により硬化することで形成される。フープ巻きは、上記したフィラメントワインディング法により行われる。一方、第2補強層52は、ハンドレイアップ法により、樹脂を含浸したカーボン繊維を設け、この樹脂を加熱により硬化することで形成される。格子状補強層5は胴部10のみに形成されるため、第2補強層52を構成する各帯状部52aの長さは、胴部10の軸方向長さとほぼ同一の長さである。
【0043】
ハンドレイアップ法は、手作業により、例えばカーボン繊維をライナー3の外周面上に配置し、その上にローラ等で樹脂を塗布することで行われ、ライナー3の外周面上に樹脂を含浸したカーボン繊維が設けられる。本実施形態では、この方法により第2補強層52を第1補強層51の層間に配設する。すなわち、第2補強層52を構成する各帯状部52aの少なくとも両端については、第1補強層51を構成する帯状部51aによって外周から押さえられている。これにより、第2補強層52が繊維強化樹脂層4の外周面から外れないようにしている。
【0044】
図5は、高圧タンク1の表層部(繊維強化樹脂層4及び格子状補強層5)を拡大して示す断面図(図2の領域Vの部分の拡大断面図)である。帯状部51aと帯状部52aとは、繊維強化樹脂層4の表面に接して形成されている。また、帯状部51aと帯状部52aとは、略直角に交差して形成されている。
【0045】
帯状部51a,52aは、いずれも、その幅方向中央部分の厚み(図5に示す寸法La)が、幅方向両端部分の厚み(図5に示す寸法Lb)よりも大きい。つまり、帯状部51a及び52aは、その幅方向中央部に形成された増厚部54を有している。帯状部51a及び52aは、増厚部54の幅(図5に示す寸法Wa)に対して、帯状部全体の幅(図5に示す寸法Wb)が2倍以上となるように形成されている。
【0046】
このような増厚部54を形成するには、まず、各帯状部の最下層に増厚部54の幅に対応する幅のカーボン繊維(樹脂を含む)を設け、次に、この上に幅方向に超えて次のカーボン繊維(樹脂を含む)を設けるようにすればよい。なお、帯状部の幅方向とは、帯状部が長く延在する方向及び厚み方向に直交する方向である。
【0047】
また、第1補強層51及び第2補強層52の厚みは、繊維強化樹脂層4の厚みよりも小さい。好ましくは、第1補強層51及び第2補強層52は、繊維強化樹脂層4の厚み(図5に示す寸法Lc)を1としたときに、第1補強層51の厚みがその0.2〜0.3倍とされ、第2補強層52の厚みが0.1〜0.2倍となるように形成されているとよい。
【0048】
このような高圧タンク1の製造方法の一例を簡単に説明する。
先ず、射出成形等によりライナー3を形成する。次いで、樹脂を含浸したカーボン繊維(以下、単に「樹脂含浸繊維」という。)を、フィラメントワインディング法によりライナー3の外周面にフープ巻き及びヘリカル巻きし、プレ繊維強化樹脂層を形成する。このプレ繊維強化樹脂層は、最終工程を経て繊維強化樹脂層4となるものである。
【0049】
続いて、ハンドレイアップ法により、樹脂を含浸した繊維をプレ繊維強化樹脂層の外周面に設け、プレ第2補強層を形成する。このプレ第2補強層は、最終工程を経て第2補強層52となるものである。次いで、プレ繊維強化樹脂層及びプレ第2補強層の外面に対し、樹脂含浸繊維をフィラメントワインディング法によりフープ巻きし、プレ第1補強層を形成する。このプレ第1補強層もまた、最終工程を経て第1補強層51となるものである。
【0050】
このようにして、プレ第1補強層及びプレ第2補強層からなるプレ格子状補強層を、プレ繊維強化樹脂層の外周面に形成する。その後、最終工程として、プレ繊維強化樹脂層及びプレ格子状補強層を加熱し、それぞれの層に含まれている樹脂を硬化する。これにより、繊維強化樹脂層4及び格子状補強層5が形成され、高圧タンク1が製造される。
【0051】
本実施形態の高圧タンク1は、その胴部10に上記のような格子状補強層5が設けられたことにより、以下のような効果を奏する。
【0052】
例えば、高圧タンク1に何らかの局所的衝撃が加えられた場合には、帯状部51a,52aによる追加補強がなされていない隙間53の領域は耐衝撃強度が相対的に低いため、隙間53の領域でき裂が生じやすい。しかしながら、隙間53の領域でき裂が生じたとしても、そのき裂の進展は、き裂の先端が第1補強層51及び第2補強層52に到達した位置で一旦止まるかあるいは方向転換されるようになる。つまり、格子状補強層5の格子領域内で繊維強化樹脂層4のき裂の進展を抑制し、第1補強層51及び第2補強層52を横断する方向にき裂が進展しにくい構成となっている。よって、高圧タンク1の耐衝撃性を向上でき、高圧タンク1のバーストを有効に抑制できる。
【0053】
また、追加補強層である格子状補強層5を繊維強化樹脂層4の外周全面でなく部分的に設けているため、全面に追加補強層を設けた場合に比べて、重量増加、及び、体格アップを抑えることができる。これに対し、全面に追加補強層を設けた場合には、重量が増加して大型化するだけでなく、格子状補強5層のようなき裂の進展抑制効果が得られにくい。
【0054】
さらに、格子状補強層5は第1補強層51及び第2補強層52を有しているので、水平落下等の衝撃を緩和できる。また、格子状補強層5を繊維強化樹脂層4に積層する際、フィラメントワインディング法及びハンドレイアップ法という簡易な方法を用いることができる。さらに、製造過程において樹脂を熱硬化させる場合に、繊維強化樹脂層4及び格子状補強層5の両方の樹脂を同時に熱硬化できるので、層間はく離も好適に抑制できる。
【0055】
なお、格子状補強層5は、繊維を樹脂で強化した層以外も適用可能であるが、上記した製造過程を踏まえると、繊維強化樹脂層4と同様の層であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】実施形態に係る圧力容器を搭載した燃料電池自動車を示す図である。
【図2】実施形態に係る圧力容器の斜視図である。
【図3】実施形態に係る圧力容器の断面図である。
【図4】実施形態に係る繊維の巻き方を示すライナーの側面図であり、(A)はフープ巻きを示す図であり、(B)はヘリカル巻きを示す図である。
【図5】実施形態に係る圧力容器の表層部の断面図(図2の領域Vの部分の拡大図)である。
【符号の説明】
【0057】
1:高圧タンク(圧力容器)、3:ライナー、4:繊維強化樹脂層、5:格子状補強層、10:胴部、11,12:ドーム部、51:第1補強層、51a:帯状部、52:第2補強層、52a:帯状部、53:隙間、54:増厚部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の胴部を有する圧力容器であって、
前記胴部は、繊維強化樹脂層と、前記繊維強化樹脂層の外周面上に格子状に形成されてなる格子状補強層と、を備えた、圧力容器。
【請求項2】
前記格子状補強層は、
前記胴部の周方向に延在する帯状部を、当該胴部の軸方向に所定のピッチで複数形成してなる第1補強層と、
前記胴部の軸方向に延在する帯状部を、当該胴部の周方向に所定のピッチで複数形成してなる第2補強層と、を備えた、請求項1に記載の圧力容器。
【請求項3】
前記第2補強層は、前記繊維強化樹脂層の外周面上に形成されてなり、
前記第1補強層は、前記第2補強層の外面側に積層されるように形成されてなる、請求項2に記載の圧力容器。
【請求項4】
前記第1補強層及び前記第2補強層の厚みは、前記繊維強化樹脂層の厚みよりも小さい、請求項2又は3に記載の圧力容器。
【請求項5】
前記第1補強層の厚みは、前記繊維強化樹脂層の厚みの0.2倍〜0.3倍であり、
前記第2補強層の厚みは、前記繊維強化樹脂層の厚みの0.1倍〜0.2倍である、請求項4に記載の圧力容器。
【請求項6】
前記第1補強層の各帯状部及び前記第2補強層の各帯状部は、幅方向の中央部に、幅方向の両端部よりも厚い増厚部が形成されてなる、請求項2ないし5のいずれか一項に記載の圧力容器。
【請求項7】
前記格子状補強層は、樹脂を含浸した繊維の当該樹脂を硬化することで形成されたものである、請求項1ないし6のいずれか一項に記載の圧力容器。
【請求項8】
圧力容器の製造方法であって、当該圧力容器の筒状の胴部がライナー部を有する圧力容器の製造方法において、
樹脂を含浸した繊維をフィラメントワインディング法により前記ライナー部の外周面にフープ巻き及びヘリカル巻きして、プレ繊維強化樹脂層を形成する第1の工程と、
前記プレ繊維強化樹脂層の外周面上に、樹脂を含浸した繊維からなるプレ格子状補強層を形成する第2の工程と、
前記プレ繊維強化樹脂層及びプレ格子状補強層の各樹脂を加熱により硬化して、前記ライナー部の外周面に繊維強化樹脂層及び格子状補強層を形成する第3の工程と、を備えた圧力容器の製造方法。
【請求項9】
前記プレ格子状補強層は、
前記プレ繊維強化樹脂層の外周側に、樹脂を含浸した繊維をフィラメントワインディング法によりフープ巻きすることで、複数の帯状部が当該胴部の軸方向に所定のピッチで形成されてなるプレ第1補強層と、
前記プレ第1補強層と前記プレ繊維強化樹脂層との間に位置するプレ第2補強層であって、ハンドレイアップ法により、樹脂を含浸した繊維を設けることで、複数の帯状部が前記胴部の周方向に所定のピッチで形成されてなるプレ第2補強層と、を備える、請求項8に記載の圧力容器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−169893(P2008−169893A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−2598(P2007−2598)
【出願日】平成19年1月10日(2007.1.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】