説明

圧縮着火式内燃機関の制御装置

【課題】セタン価とアロマ成分の含有量の間に反比例関係がない燃料が使用されるときも、燃焼音やエミッションの悪化を防止するようにした圧縮着火式内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】運転状態に応じて燃焼方式を予混合燃焼と通常燃焼の間で切り替え自在なエンジン(圧縮着火式内燃機関)において、燃料のセタン価を検出するセタン価検出ブロック(セタン価検出手段)60aと、燃料中のアロマ成分の含有量を検出するアロマ成分含有量検出ブロック(アロマ成分含有量検出手段)60bと、それぞれ個別に検出されたセタン価とアロマ成分の含有量に応じて燃焼方式を補正する燃焼方式補正ブロック(燃焼方式補正手段)60cとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は圧縮着火式内燃機関の制御装置に関し、より具体的には燃料(軽油)のセタン価とアロマ成分の含有量をそれぞれ個別に検出し、検出結果に応じて予混合燃焼と拡散燃焼からなる燃焼方式を補正して燃焼音やエミッションの低減を図るようにした装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮着火式内燃機関(ディーゼル機関)にあっては、セタン価や粘度などの燃料性状が変化することで着火性が相違するため、燃料性状を検出すると共に、検出された燃料性状と予混合燃焼に適した許容燃料性状との差異を判定し、差異が大きくなるにつれて予混合燃焼運転領域を縮小する一方、通常燃焼運転領域を拡大し、着火性の点で適さない予混合燃焼を行うことによるエミッションの悪化を抑制する技術が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
また、圧縮着火式内燃機関の燃料中のアロマ成分(芳香族炭化水素)の含有量を検出し、検出された含有量が多いほど予混合燃焼割合を増加させ、スモーク排出量の増加を抑制する技術も提案されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2005−171818号公報
【特許文献2】特許第4147989号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、特許文献1記載の従来技術は、運転状態と燃料性状のうち着火性に関連するパラメータであるセタン価や粘度とに応じて燃焼方式を切り替えるように構成している。また、特許文献2記載の技術は、アロマ成分の含有量とセタン価は反比例するという前提に基づき、アロマ成分の含有量に応じて予混合燃焼割合を変化させるように構成している。
【0005】
しかしながら、圧縮着火式内燃機関の燃料において、セタン価とアロマ成分の含有量は常に明白な反比例関係にあるものではない。図8は市場で販売される軽油におけるセタン価に対するアロマ成分の含有量を示すグラフであるが、図示の如く、両者の間には概略的には反比例関係が見られるものの、同一のセタン価に対するアロマ成分の含有量は製品によって大きくばらつく。
【0006】
従って、特許文献1,2記載の技術にみられるようにセタン価とアロマ成分の含有量のいずれか一方のみに基づいて燃焼を制御すると、セタン価とアロマ成分の含有量の間に明白な反比例関係がない燃料(製品)が使用されるとき、選択される燃焼方式は適正とならず、燃焼音(Vibration Noise)やエミッションの悪化を招く。
【0007】
この発明の目的は上記した課題を解決し、セタン価とアロマ成分の含有量の間に反比例関係がない燃料が使用されるときも、燃焼音やエミッションの悪化を防止するようにした圧縮着火式内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を解決するために、請求項1にあっては、運転状態に応じて燃焼方式を予混合燃焼と通常燃焼の間で切り替え自在な圧縮着火式内燃機関において、燃料のセタン価を検出するセタン価検出手段と、前記燃料中のアロマ成分の含有量を検出するアロマ成分含有量検出手段と、前記それぞれ個別に検出されたセタン価とアロマ成分の含有量に応じて前記燃焼方式を補正する燃焼方式補正手段とを備える如く構成した。
【0009】
請求項2に係る圧縮着火式内燃機関の制御装置にあっては、前記アロマ成分含有量検出手段は、前記セタン価検出手段によってセタン価が検出された後、前記検出されたセタン価に応じて前記アロマ成分の含有量を検出する如く構成した。
【0010】
請求項3に係る圧縮着火式内燃機関の制御装置にあっては、前記燃料を燃焼室に噴射すべき燃料噴射時期を算出する燃料噴射時期算出手段と、前記燃焼室から排出される既燃ガスの一部を排気系と吸気系を接続する既燃ガス還流通路を介して還流させるべき既燃ガス還流量を算出する既燃ガス還流量算出手段とを備えると共に、前記燃焼方式補正手段は、前記それぞれ個別に検出されたセタン価とアロマ成分の含有量に応じて前記算出された燃料噴射時期と既燃ガス還流量の少なくともいずれかを補正することで前記燃焼方式を補正する如く構成した。
【0011】
請求項4にあっては、運転状態に応じて燃焼方式を予混合燃焼と通常燃焼の間で切り替え自在な圧縮着火式内燃機関において、燃料のセタン価を検出するセタン価検出手段と、前記燃料中のアロマ成分の含有量を検出するアロマ成分含有量検出手段と、前記運転状態と前記それぞれ個別に検出されたセタン価とアロマ成分の含有量に応じて前記燃焼方式を選択する燃焼方式選択手段とを備える如く構成した。
【0012】
請求項5に係る圧縮着火式内燃機関の制御装置にあっては、前記それぞれ個別に検出されたセタン価とアロマ成分の含有量に基づき、前記燃料の性状が予定される性状と異なるか否か判定する燃料判定手段を備える如く構成した。
【0013】
請求項6に係る圧縮着火式内燃機関の制御装置にあっては、前記燃料判定手段は、前記燃料の性状が予定される性状と異なると判定されるとき、出力トルクを制限する如く構成した。
【0014】
請求項7に係る圧縮着火式内燃機関の制御装置にあっては、前記燃料判定手段は、前記燃料の性状が予定される性状と異なると判定されるとき、運転者に報知する如く構成した。
【発明の効果】
【0015】
請求項1にあっては、運転状態に応じて燃焼方式を予混合燃焼と通常燃焼の間で切り替え自在な圧縮着火式内燃機関において、燃料のセタン価と燃料中のアロマ成分の含有量をそれぞれ個別に検出すると共に、検出されたセタン価とアロマ成分の含有量に応じて燃焼方式を補正する如く構成したので、セタン価とアロマ成分の含有量の間に明白な反比例関係がない燃料(製品)が使用されるときも、検出されたセタン価とアロマ成分の含有量に応じて燃焼方式を補正することで適正な燃焼方式を実現することができ、燃焼音やエミッションの悪化を防止することができる。
【0016】
請求項2に係る圧縮着火式内燃機関の制御装置にあっては、セタン価が検出された後、検出されたセタン価に応じてアロマ成分の含有量を検出する如く構成したので、上記した効果に加え、アロマ成分の含有量をより高精度に検出することができる。
【0017】
即ち、例えばセタン価を筒内圧を通じて燃料の燃焼自体から直接的に検出すると共に、アロマ成分の含有量をクランク軸の回転変動から間接的に検出するとしたとき、より直接的に検出されるセタン価に応じて検出することで、アロマ成分の含有量の検出精度を向上させることができる。
【0018】
請求項3に係る圧縮着火式内燃機関の制御装置にあっては、燃料噴射時期を算出する燃料噴射時期算出手段と既燃ガス還流量を算出する既燃ガス還流量算出手段とを備えると共に、それぞれ個別に検出されたセタン価とアロマ成分の含有量に応じて算出された燃料噴射時期と既燃ガス還流量の少なくともいずれかを補正することで燃焼方式を補正する如く構成したので、上記した効果に加え、燃焼音やエミッションの悪化を一層良く防止することができる。
【0019】
即ち、セタン価は燃料の着火性に関連するパラメータであり、アロマ成分の含有量は燃料の燃焼速度に関連するパラメータであるが、セタン価による着火時期のずれを燃料噴射時期と既燃ガス還流量で、アロマ成分の含有量による燃焼速度の変化を既燃ガス還流量で調整することが可能となり、それによって一層適正な燃焼方式を実現して燃焼音やエミッションの悪化を一層良く防止することができる。
【0020】
請求項4にあっては、運転状態に応じて燃焼方式を予混合燃焼と通常燃焼の間で切り替え自在な圧縮着火式内燃機関において、運転状態とそれぞれ個別に検出されたセタン価とアロマ成分の含有量に応じて燃焼方式を選択する如く構成したので、運転状態に加え、予め実験などを通じてセタン価とアロマ成分の含有量にとって適正な燃焼方式の運転領域を設定しておくことで、セタン価とアロマ成分の含有量にとって適正な燃焼方式を簡易かつ確実に選択することができる。
【0021】
請求項5に係る圧縮着火式内燃機関の制御装置にあっては、それぞれ個別に検出されたセタン価とアロマ成分の含有量に基づき、燃料の性状が予定される性状と異なるか否か判定する如く構成したので、上記した効果に加え、例えば出力トルクの制限あるいは運転者への報知などの対策を講じることも可能となり、燃焼音やエミッションの悪化を一層良く防止することができる。
【0022】
請求項6に係る圧縮着火式内燃機関の制御装置にあっては、燃料の性状が予定される性状と異なると判定されるとき、出力トルクを制限する如く構成したので、上記した効果に加え、例えば急速な燃焼による排気の高温化に起因して生じるDPF(Diesel Particulate Filter)の劣化を防止できると共に、スモークの大量発生も抑制することができる。
【0023】
請求項7に係る圧縮着火式内燃機関の制御装置にあっては、燃料の性状が予定される性状と異なると判定されるとき、運転者に報知する如く構成したので、上記した効果に加え、運転者に同一製品(燃料)の今後の購入を控えさせるなど適切な処置を促せると共に、ドライバビリティの低下に備えさせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、添付図面に即してこの発明に係る圧縮着火式内燃機関の制御装置を実施するための最良の形態について説明する。
【実施例1】
【0025】
図1は、この発明の第1実施例に係る圧縮着火式内燃機関の制御装置を全体的に示す概略図である。
【0026】
図1において、符号10は圧縮着火式の内燃機関(ディーゼルエンジン。以下「エンジン」という)を、10aはシリンダブロックとシリンダヘッド(共に図示せず)からなるエンジン本体を示す。エンジン10は4気筒を備え、エアクリーナ12から吸入された吸気は吸気管(吸気路)14を流れる。
【0027】
吸気管14の適宜位置にはインテークシャッタ(吸気絞り装置)16が配置される。インテークシャッタ16はバルブ16aと、それに接続される電動モータなどのアクチュエータ16bを備える。インテークシャッタ16において、駆動回路(図示せず)を介してアクチュエータ16bが駆動されるとき、それに応じてバルブ16aが閉鎖方向に駆動されて吸気管14の開度を絞り方向に調整し、そこを通過する吸気量を減少させる。
【0028】
吸気管14を流れる吸気はその下流の吸気マニホルド20を通ってそれぞれの気筒に至り、吸気バルブ(図示せず)が開弁すると共に、ピストン(図示せず)が下降するとき、シリンダブロックとシリンダヘッドで形成された各気筒の燃焼室(図示せず)に吸入される。吸入された空気はピストンが上昇するとき圧縮されて高温となる。
【0029】
燃料タンク(図示せず)に貯留された燃料(軽油)はポンプおよびコモンレール(共に図示せず)を介して各気筒の燃焼室を臨む位置に配置されたインジェクタ22に供給され、インジェクタ22が駆動回路(図示せず)を介して駆動(開弁)されるとき、燃焼室に噴射され、圧縮されて高温となった吸入空気に触れて自然着火して燃焼する。
【0030】
それによってピストンは下方に駆動された後、再び上昇し、排気バルブ(図示せず)が開弁するとき、排気(既燃ガス)を排気マニホルド(排気系)24に排出する。排気はその下流の排気管(排気系)26を流れる。
【0031】
排気管26には吸気管14に接続されるEGR管(既燃ガス還流通路)30が設けられると共に、EGR管30にはEGRバルブ(既燃ガス還流量制御手段)30aが設けられる。EGRバルブ30aは駆動回路(図示せず)を介して作動させられるとき、EGR管30を開放して排気(既燃ガス)の一部を吸気系に還流させる。
【0032】
また、排気管26において、EGR管30の接続位置の下流にはターボチャージャ(図に「T/C」と示す)32のタービン(図示せず)が設けられる。タービンは排気によって回転させられ、それに機械的に接続されたコンプレッサ32aを駆動し、エアクリーナ12から吸入される吸気を過給する。
【0033】
また、排気管26において、ターボチャージャ32の配置位置の下流には、白金などからなる酸化触媒装置(図に「CAT」と示す)34が配置される。酸化触媒装置34は、排気中の未燃HCを酸化して除去する。
【0034】
酸化触媒装置34の下流にはDPF(Diesel Particulate Filter)36が配置され、排気中の微粒子物質(Particulate)を捕集する。DPF36はセラミック製のハニカムフィルタからなり、その内部には上流側端部が閉塞されて下流側端部が開放された排気通路と、上流側端部が開放されて下流側端部が閉塞された排気通路とが交互に配列されると共に、隣接する通路間には小径の多くの孔が穿設された多孔質の壁面が形成され、排気中の微粒子物質をその孔で捕集する。
【0035】
排気管26においてDPF36の下流にはNOx触媒装置38が設けられ、リーンな酸化雰囲気下において排気中のNOxを捕捉し、リッチな還元雰囲気下において還元する。
【0036】
排気はDPF36を通った後、サイレンサ、テールパイプなど(全て図示せず)を流れてエンジン10の外部に放出される。
【0037】
エンジン10のクランク軸(図示せず)の付近には複数組の電磁ピックアップからなるクランク角センサ40が配置され、気筒判別信号を出力すると共に、4気筒のそれぞれのTDCあるいはその付近でTDC信号を出力し、さらに1度などの所定クランク角度ごとにCRK信号を出力する。
【0038】
エンジン10の吸気管14においてエアクリーナ12の付近には温度検出素子を備えたエアフローメータ42が配置され、エアクリーナ12から吸入される空気(吸気)量(エンジン負荷を示す)と温度(吸気温あるいは外気温)TAに応じた信号を出力すると共に、冷却水通路(図示せず)の付近には水温センサ44が配置され、エンジン冷却水温TWに応じた信号を出力する。
【0039】
エンジン10のシリンダヘッドには、各気筒の燃焼室を臨む位置に筒内圧センサ46が4気筒で合計4個配置される。筒内圧センサ46はそれぞれ圧電素子で構成されてグロープラグと一体型の構造を有し、各気筒の筒内圧力に比例した信号を出力する。
【0040】
また、エンジン10が搭載される車両の運転席(図示せず)の床面に配置されたアクセルペダル50の付近にはアクセル開度センサ52が配置され、アクセル開度(エンジン負荷を示す)APに応じた信号を出力する。
【0041】
上記したセンサ群の出力は、ECU(Electronic Control Unit。電子制御ユニット)60に送られる。
【0042】
ECU60はCPU,ROM,RAMおよび入出力回路からなるマイクロコンピュータから構成される。ECU60は、センサ群の出力の中、クランク角センサ40から出力されるCRK信号の間隔を時間計測してエンジン回転数NEを検出(算出)する。
【0043】
また、ECU60は後述する如く、運転状態、より具体的にはエンジン回転数NEと要求トルクTRQ(エンジン回転数NEとアクセル開度APから予め設定された特性(マップ)を検索して算出)に応じて燃焼方式を予混合燃焼と通常燃焼の間で切り替え自在、より正確には選択自在であると共に、燃料のセタン価と燃料中のアロマ成分の含有量をそれぞれ検出し、個別に検出されたセタン価とアロマ成分の含有量に応じて燃焼方式を補正する。
【0044】
通常燃焼(拡散燃焼)は、主として中、高負荷領域において吸気行程中から圧縮行程中の任意の期間に燃料を噴射(パイロット噴射)し、次いで圧縮行程中に再び燃料を噴射(メイン噴射)することで実行される。予混合燃焼は、主として低負荷領域において圧縮行程中に燃料を噴射(メイン噴射)して実行される。予混合燃焼では燃料の噴射後、遅れを伴って燃焼が生じる。
【0045】
通常燃焼と予混合燃焼の燃料噴射量と燃料噴射時期は、同様にエンジン回転数NEと要求トルクTRQに応じて決定される。燃料噴射量はインジェクタ22の開弁時間、燃料噴射時期はインジェクタ22の開弁開始時期で定義される。予混合燃焼では上記したようにメイン噴射のみ実行されると共に、燃料噴射量も通常燃焼のそれより少量とされる。また、噴射時期は通常燃焼よりも進角した時期に実行される。
【0046】
尚、車両の運転席のダッシュボードの付近にはMIL(Malfunction Indicator Lamp。警告灯)62が配置される。MIL62の駆動回路はECU60に接続され、MIL62はECU60の指示に従って点灯する。
【0047】
図2はECU60の上記した動作を機能的に示すブロック図である。
【0048】
図2を参照して説明すると、ECU60は、燃料のセタン価を検出するセタン価検出ブロック(セタン価検出手段)60aと、燃料中のアロマ成分(芳香族炭化水素)の含有量を検出するアロマ成分含有量検出ブロック(アロマ成分含有量検出手段)60bと、それぞれ個別に検出されたセタン価とアロマ成分の含有量に応じ、燃焼方式を補正する燃焼方式補正ブロック(燃焼方式補正手段)60cとを備える。
【0049】
セタン価検出ブロック60aは着火時期検出ブロック60a1とセタン価判定ブロック60a2を備える。着火時期検出ブロック60a1はエンジン10がアイドル運転されるとき、予混合燃焼を実行させ、筒内圧センサ46を介してメイン噴射後の筒内圧の変化量が所定値を超えたクランク角度を検出して着火時期を算出する。
【0050】
セタン価判定ブロック60a2では、算出された着火時期の、所定のセタン価の燃料を予混合燃焼で燃焼させたとき基準着火時期に対する着火遅れ角を求め、それからセタン価を検出する。
【0051】
即ち、図3に示す如く、燃料のセタン価に応じて着火時期が変化するので、セタン価判定ブロック60a2はそれに従ってセタン価を検出する。尚、セタン価判定ブロック60a2の動作の詳細は特開2008−95675号公報に詳細に記載されているので、これ以上の説明は省略する。
【0052】
アロマ成分含有量検出ブロック60bは、エンジン10のクランク角速度やエンジン回転数NEの変動分の標準偏差を算出する標準偏差算出ブロック60b1とアロマ成分含有量判定ブロック60b2を備える。
【0053】
標準偏差算出ブロック60b1は、例えばエンジン10がアイドル運転されているとき、クランク角センサ40を通じてクランク角速度やエンジン回転数NEの回転変動を算出する。
【0054】
図4に示す如く、アロマ成分の含有量が多い高アロマ燃料、換言すれば粗悪燃料のときは、低アロマ燃料に比し、アイドル回転数発生頻度がばらつくことから、アロマ成分含有量判定ブロック60b2ではそれに基づいて燃料中のアロマ成分の含有量を検出する。
【0055】
燃焼方式補正ブロック60cは、上記した如く、運転状態に応じて切り替えられた燃焼方式を、それぞれ個別に検出されたセタン価とアロマ成分の含有量に応じて補正する。
【0056】
燃焼方式補正ブロック60cは、標準的な性状の燃料を前提として予め設定された基本的な特性(ベースマップ)60c1に従ってメイン噴射時期を算出する燃料噴射時期算出ブロック(燃料噴射時期算出手段)60c3と、同様に標準的な性状の燃料を前提として予め設定された基本的な特性(ベースマップ)60c2に従ってEGR量を算出するEGR量算出ブロック(既燃ガス還流量算出手段)60c4と、検出されたセタン価とアロマ成分の含有量に応じてそれらの補正量を算出する補正量算出ブロック60c5とを備える。
【0057】
燃料噴射時期算出ブロック60c3はエンジン回転数NEと要求トルクTRQからメイン噴射ベースマップ60c1を検索し、燃料をエンジン10の燃焼室に噴射すべきメイン噴射時期を算出する。
【0058】
EGR量算出ブロック60c4も同様にエンジン回転数NEと要求トルクTRQからEGRベースマップ60c2を検索し、燃焼室から排出される排気(既燃ガス)の一部を排気系と吸気系を接続するEGR管(既燃ガス還流通路)30を介して還流させるべきEGR量(既燃ガス還流量)を算出する。
【0059】
図5は、補正量算出ブロック60c5の動作を示す説明図である。
【0060】
図5において、「マッピング燃料」は前記した基本的な特性が前提とした標準的な性状の燃料を意味し、セタン価の低い低セタン燃料とセタン価の高い高セタン燃料の間に設定される。
【0061】
補正量算出ブロック60c5は、検出されたセタン価とアロマ成分の含有量から図示の特性を検索し、補間演算して噴射時期補正量とEGR補正量を算出する。補正量は正負、即ち、正値が噴射時期に関しては進角、EGR量に関しては増量を、負値が遅角と減量を示すように算出される。
【0062】
算出された補正量は加減算段60c6,60c7に送られ、燃料噴射時期算出ブロック60c3とEGR量算出ブロック60c4で算出された値の少なくともいずれか、より具体的にはその両方に加算(あるいはそれから減算)され、それらを補正する。尚、ECU60は、図示しない処理において、補正された値に基づいてインジェクタ22とEGRバルブ30aの動作を制御する。
【0063】
さらに、燃焼方式補正ブロック60cは、検出されたセタン価とアロマ成分の含有量に基づき、燃料の性状が予定される性状と異なるか否か判定する燃料判定ブロック(燃料判定手段)60c8を備える。
【0064】
燃料判定ブロック60c8は、市場では存在しないアロマ成分の含有量やセタン価が検出された場合、燃料の性状が予定される性状と異なる、例えば誤給油されたガソリン燃料と判定されるとき、エンジン10の出力トルクを制限すると共に、運転者に報知する。
【0065】
この実施例にあっては、上記の如く、運転状態に応じて燃焼方式を予混合燃焼と通常燃焼の間で切り替え自在なエンジン(圧縮着火式内燃機関)10において、燃料のセタン価を検出するセタン価検出ブロック(セタン価検出手段)60aと、前記燃料中のアロマ成分の含有量を検出するアロマ成分含有量検出ブロック(アロマ成分含有量検出手段)60bと、前記それぞれ個別に検出されたセタン価とアロマ成分の含有量に応じて前記燃焼方式を補正する燃焼方式補正ブロック(燃焼方式補正手段)60cとを備える如く構成したので、セタン価とアロマ成分の含有量の間に明白な反比例関係がない燃料(製品)が使用されるときも、検出されたセタン価とアロマ成分の含有量に応じて燃焼方式を補正することで適正な燃焼方式を実現することができ、燃焼音やエミッションの悪化を防止することができる。
【0066】
より具体的には、前記燃料を燃焼室に噴射すべきメイン噴射時期(燃料噴射時期)を算出する燃料噴射時期算出ブロック(燃料噴射時期算出手段)60c3と、前記燃焼室から排出される既燃ガスの一部を排気系と吸気系を接続するEGR管(既燃ガス還流通路)30を介して還流させるべきEGR量(既燃ガス還流量)を算出するEGR量算出ブロック(既燃ガス還流量算出手段)60c4とを備えると共に、前記燃焼方式補正ブロック(燃焼方式補正手段)60cは、前記それぞれ個別に検出されたセタン価とアロマ成分の含有量に応じて前記算出されたメイン噴射時期とEGR量の少なくともいずれか、より正確には双方を補正することで前記燃焼方式を補正する如く構成したので、上記した効果に加え、燃焼音やエミッションの悪化を一層良く防止することができる。
【0067】
即ち、セタン価は燃料の着火性に関連するパラメータであり、アロマ成分の含有量は燃料の燃焼速度に関連するパラメータであるが、セタン価による着火時期のずれをメイン噴射時期とEGR量で、アロマ成分の含有量による燃焼速度の変化をEGR量で調整することが可能となり、それによって一層適正な燃焼方式を実現して燃焼音やエミッションの悪化を一層良く防止することができる。
【0068】
また、前記それぞれ個別に検出されたセタン価とアロマ成分の含有量に基づき、前記燃料の性状が予定される性状と異なるか否か判定する燃料判定ブロック(燃料判定手段)60c8を備える如く構成したので、上記した効果に加え、例えばエンジン10の出力トルクの制限あるいは運転者への報知などの対策を講じることも可能となり、燃焼音やエミッションの悪化を一層良く防止することができる。
【0069】
より具体的には、前記燃料判定ブロック(燃料判定手段)60c8は、前記燃料の性状が予定される性状と異なると判定されるとき、エンジン10の出力トルクを制限する如く構成したので、上記した効果に加え、例えば急速な燃焼による排気の高温化に起因して生じるDPF36の劣化を防止できると共に、スモークの大量発生も抑制することができる。
【0070】
また、前記燃料判定ブロック(燃料判定手段)60c8は、前記燃料の性状が予定される性状と異なると判定されるとき、運転者に報知する如く構成したので、上記した効果に加え、運転者に同一製品(燃料)の今後の購入を控えさせるなど適切な処置を促せると共に、ドライバビリティの低下に備えさせることができる。
【実施例2】
【0071】
図6は、この発明の第2実施例に係る圧縮着火式内燃機関の制御装置の動作を示す、図2と同様なECU60の動作を機能的に示すブロック図である。
【0072】
第1実施例と相違する点に焦点をおいて説明すると、第2実施例にあっては、アロマ成分含有量検出ブロック60bは、セタン価検出ブロック60aによってセタン価が検出された後、検出されたセタン価に応じてアロマ成分の含有量を検出する如く構成した。
【0073】
即ち、アロマ成分含有量検出ブロック60bは、回転変動に対するアロマ成分の含有量がセタン価ごとに設定された複数(図示例では3種)の特性(マップ)60b3を備え、その特性60b3を回転変動分の標準偏差と検出されたセタン価から検索することでアロマ成分の含有量を検出するようにした。尚、検出されたセタン価が3種の中にないときは補間演算で求める。
【0074】
上記した如く、第2実施例にあっては、セタン価が検出された後、検出されたセタン価に応じてアロマ成分の含有量を検出する如く構成したので、アロマ成分の含有量をより高精度に検出することができる。
【0075】
即ち、例えばセタン価を筒内圧力を通じて燃料の燃焼自体から直接的に検出すると共に、アロマ成分の含有量をクランク軸の回転変動から間接的に検出するとしたとき、より直接的に検出されるセタン価に応じて検出することで、アロマ成分の含有量の検出精度を向上させることができる。残余の構成および効果は第1実施例と同様である。
【実施例3】
【0076】
図7は、この発明の第3実施例に係る圧縮着火式内燃機関の制御装置の動作を示す、図2と同様なECU60の動作を機能的に示すブロック図である。
【0077】
従前の実施例と相違する点に焦点をおいて説明すると、第3実施例にあっては、前記したエンジン回転数NEと要求TRQに加え、燃料のセタン価を検出するセタン価検出ブロック(セタン価検出手段)60aと燃料中のアロマ成分の含有量を検出するアロマ成分含有量検出ブロック(アロマ成分含有量検出手段)60bでそれぞれ個別に検出されたセタン価とアロマ成分の含有量に応じて燃焼方式を選択する燃焼方式選択ブロック(燃焼方式選択手段)60dとを備える如く構成した。
【0078】
燃焼方式選択ブロック60dは、運転状態、即ち、エンジン回転数NEと要求トルクと検出されたセタン価とアロマ成分の含有量から燃焼方式を検索して選択できるように予め設定された特性(マップ)60d1を備える。
【0079】
マップ60d1にあっては、燃焼方式の運転領域がエンジン回転数NEと要求トルクTRQとから基本的に低負荷領域が予混合燃焼運転領域、中高負荷領域が通常燃焼領域と設定されると共に、図示の如く、セタン価とアロマ成分の含有量に応じても予め以下のように設定される。
1:予混合燃焼運転領域、2:拡散燃焼運転領域、3:拡散燃焼運転領域でトルク制限とMIL点灯領域
【0080】
燃焼方式選択ブロック60dは、マップ60d1を検索して予混合燃焼と通常燃焼のいずれかを選択する。
【0081】
即ち、燃焼方式は基本的には運転状態に応じて決定されるとしても、予混合燃焼のように、燃料の性状によってエンジン10の変動率や燃焼音が変化する燃焼の場合、セタン価やアロマ成分の含有量を個別に検出しても噴射できない場合がある。従って、第3実施例においては、燃焼方式を、運転状態に応じて基本的に設定すると共に、基本的な設定をセタン価などに応じて修正するように予め実験などを通じて求めてマップ化しておくようにした。
【0082】
さらに、燃焼方式選択ブロック60dは、検出されたセタン価とアロマ成分の含有量に基づき、燃料の性状が予定される性状と異なるか否か判定する燃料判定ブロック(燃料判定手段)60d2を備えると共に、燃料判定ブロック60d2は、領域3を選択されたとき、従前の実施例と同様、エンジン10のトルク制限を実行すると共に、MIL62を点灯する。
【0083】
上記した如く、第3実施例にあっては、運転状態(エンジン回転数NEと要求トルクTRQ)に応じて燃焼方式を予混合燃焼と通常燃焼の間で切り替え自在なエンジン(圧縮着火式内燃機関)10において、燃料のセタン価を検出するセタン価検出ブロック(セタン価検出手段)60aと、前記燃料中のアロマ成分の含有量を検出するアロマ成分含有量検出ブロック(アロマ成分含有量検出手段)60bと、前記運転状態と前記それぞれ個別に検出されたセタン価とアロマ成分の含有量に応じて前記燃焼方式を選択する燃焼方式選択ブロック(燃焼方式選択手段)60dとを備える如く構成したので、予め実験などを通じてセタン価とアロマ成分の含有量にとって適正な燃焼方式の運転領域を設定しておくことで、セタン価とアロマ成分の含有量にとって適正な燃焼方式を簡易かつ確実に選択することができる。残余の構成および効果は第1実施例と同様である。
【0084】
尚、第1、第2実施例においてベースマップ60c1,60c2を検索して得られるメイン噴射時期などを検出されたセタン価に応じて補正するように構成したが、ベースマップそのものを切り替えるようにしても良い。
【0085】
また、第3実施例において、第2実施例に同様、アロマ成分含有量検出ブロック60bは、セタン価検出ブロック60aによってセタン価が検出された後、検出されたセタン価に応じてアロマ成分の含有量を検出するように構成しても良い。
【0086】
また、第1から第3実施例においてセタン価とアロマ成分の含有量の検出も図示した例に止まるものではなく、他の手法を用いても良い。例えば、アロマ成分の含有量は筒内圧力の変動から検出しても良い。
【0087】
また、第1から第3実施例において燃料の性状が予定される性状と異なると判定されるとき、MIL62を介して視覚によって運転者に報知する如く構成したが、それに代えてあるいはそれに加え、図示しないブザーなどを介して音声によって運転者に報知するようにしても良い。
【0088】
また、上記において、この発明を車両用のエンジンを例にとって説明したが、この発明は、クランク軸を鉛直方向とした船外機などのような船舶用推進機関用エンジンにも適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】この発明の第1実施例に係る圧縮着火式内燃機関の制御装置を全体的に示す概略図である。
【図2】図1に示すECU(電子制御ユニット)の動作を機能的に示すブロック図である。
【図3】図2のセタン価検出ブロックの検出動作を示す説明図である。
【図4】図2のアロマ成分の含有量検出ブロックの検出動作を示す説明図である。
【図5】図2の補正量算出ブロックの動作を示す説明図である。
【図6】この発明の第2実施例に係る圧縮着火式内燃機関の制御装置の動作を示す、図2と同様なECU(電子制御ユニット)の動作を機能的に示すブロック図である。
【図7】この発明の第3実施例に係る圧縮着火式内燃機関の制御装置の動作を示す、図2と同様なECUの動作を機能的に示すブロック図である。
【図8】市場で販売される軽油におけるセタン価に対するアロマ成分の含有量を示すグラフである。
【符号の説明】
【0090】
10 エンジン(圧縮着火式内燃機関。ディーゼルエンジン)、22 インジェクタ、26 排気管(排気系)、30 EGR管,30a EGRバルブ、40 クランク角センサ、42 エアフローメータ、46 筒内圧センサ、52 アクセル開度センサ、60 ECU(電子制御ユニット)、60a セタン価検出ブロック(セタン価検出手段)、60b アロマ成分含有量検出ブロック(アロマ成分含有量検出手段)、60c 燃焼方式補正ブロック(燃焼方式補正手段)、60c8 燃料判定ブロック(燃料判定手段)、60d 燃焼方式選択ブロック(燃焼方式選択手段)、60d2 燃料判定ブロック(燃料判定手段)、62 MIL(警告灯)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転状態に応じて燃焼方式を予混合燃焼と通常燃焼の間で切り替え自在な圧縮着火式内燃機関において、燃料のセタン価を検出するセタン価検出手段と、前記燃料中のアロマ成分の含有量を検出するアロマ成分含有量検出手段と、前記それぞれ個別に検出されたセタン価とアロマ成分の含有量に応じて前記燃焼方式を補正する燃焼方式補正手段とを備えたことを特徴とする圧縮着火式内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記アロマ成分含有量検出手段は、前記セタン価検出手段によってセタン価が検出された後、前記検出されたセタン価に応じて前記アロマ成分の含有量を検出することを特徴とする請求項1記載の圧縮着火式内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記燃料を燃焼室に噴射すべき燃料噴射時期を算出する燃料噴射時期算出手段と、前記燃焼室から排出される既燃ガスの一部を排気系と吸気系を接続する既燃ガス還流通路を介して還流させるべき既燃ガス還流量を算出する既燃ガス還流量算出手段とを備えると共に、前記燃焼方式補正手段は、前記それぞれ個別に検出されたセタン価とアロマ成分の含有量に応じて前記算出された燃料噴射時期と既燃ガス還流量の少なくともいずれかを補正することで前記燃焼方式を補正することを特徴とする請求項1または2記載の圧縮着火式内燃機関の制御装置。
【請求項4】
運転状態に応じて燃焼方式を予混合燃焼と通常燃焼の間で切り替え自在な圧縮着火式内燃機関において、燃料のセタン価を検出するセタン価検出手段と、前記燃料中のアロマ成分の含有量を検出するアロマ成分含有量検出手段と、前記運転状態と前記それぞれ個別に検出されたセタン価とアロマ成分の含有量に応じて前記燃焼方式を選択する燃焼方式選択手段とを備えたことを特徴とする圧縮着火式内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記それぞれ個別に検出されたセタン価とアロマ成分の含有量に基づき、前記燃料の性状が予定される性状と異なるか否か判定する燃料判定手段を備えることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の圧縮着火式内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記燃料判定手段は、前記燃料の性状が予定される性状と異なると判定されるとき、出力トルクを制限することを特徴とする請求項5記載の圧縮着火式内燃機関の制御装置。
【請求項7】
前記燃料判定手段は、前記燃料の性状が予定される性状と異なると判定されるとき、運転者に報知することを特徴とする請求項5記載の圧縮着火式内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−112282(P2010−112282A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−286155(P2008−286155)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】