説明

圧電アクチュエーターの製造方法

【課題】引出電極間の短絡による圧電アクチュエーターの駆動不良の減少した圧電アクチュエーターの製造方法を提供する。
【解決手段】圧電素子73の形成工程後、エッチング工程において、後に形成される引出電極90間の振動板53の少なくとも一部を、エッチング残り上電極膜83が除去され、振動板53が除去されない条件でエッチングする。圧電素子形成工程の際に、エッチング残り上電極膜83が引出電極90間に生じても、エッチング残り上電極膜83がエッチングによって分断され、エッチング残り上電極膜83に形成される引出電極90間の絶縁を保つことができる。したがって、引出電極90間の短絡によって生じる圧電アクチュエーターの駆動不良が減少した圧電アクチュエーターの製造方法を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個別電極および圧電材料からなる圧電体を有する圧電素子と個別電極にそれぞれ接続された引出電極とを備えた圧電アクチュエーターの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電アクチュエーターとして、下電極、圧電体および上電極を有する圧電素子と圧電素子の電極にそれぞれ接続される引出電極とを備えたものが知られている。圧電素子としては、電気機械変換機能を備えた圧電材料、例えば、結晶化した圧電性セラミックス等からなる圧電体を、下電極と上電極との2つの電極で挟んで構成されたものがある。
【0003】
圧電アクチュエーターの製造方法としては、積層された下電極膜、圧電体層および上電極膜を反応性イオンエッチングやイオンミリング等のドライエッチングでパターンニングして下電極、圧電体および上電極を有する圧電素子を形成し、その後、個別電極である上電極にそれぞれ引出電極を形成する製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−255526号公報(9頁、図6)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ドライエッチング前またはドライエッチング中に、上電極膜にパーティクルが付着すると、パーティクルが付着した部分の下電極膜、圧電体層および上電極膜がエッチングされないで残る。
圧電素子の形成部分以外に残った下電極膜、圧電体層および上電極膜のうち、後に形成される引出電極間にまたがったエッチング残りは、引出電極を形成した際に、上電極膜を介して引出電極間の短絡を生じさせる。したがって、引出電極間の絶縁性が保たれず、短絡によって圧電アクチュエーターの駆動不良が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
下電極または上電極のうちどちら一方を個別電極として備えた圧電素子と前記個別電極からそれぞれ引き出される引出電極とを備えた圧電アクチュエーターの製造方法であって、基板上に下電極膜を形成する下電極膜形成工程と、前記下電極膜上に圧電体層を形成する圧電体層形成工程と、前記圧電体層上に上電極膜を形成する上電極膜形成工程と、前記圧電体層と前記下電極膜または前記上電極膜とを選択的にエッチングして、圧電体と前記下電極または前記上電極のうちどちらか一方を前記個別電極として備えた前記圧電素子を形成する圧電素子形成工程と、前記圧電素子形成工程後、前記引出電極間の前記基板の少なくとも一部を、前記上電極膜が除去され、前記基板が除去されない条件でエッチングするエッチング工程と、前記エッチング工程後、前記個別電極からそれぞれ引き出される前記引出電極を形成する引出電極形成工程とを含むことを特徴とする圧電アクチュエーターの製造方法。
【0008】
この適用例によれば、エッチング工程において、引出電極形成工程で形成される引出電極間の基板の少なくとも一部を、上電極膜が除去され、基板が除去されない条件でエッチングする。圧電素子形成工程の際に、上電極膜を含むエッチング残りが引出電極間に生じても、上電極膜がエッチングによって分断され、上電極膜に形成される引出電極間の絶縁が保たれる。したがって、引出電極間の短絡によって生じる圧電アクチュエーターの駆動不良が減少した圧電アクチュエーターの製造方法が得られる。
【0009】
[適用例2]
上記圧電アクチュエーターの製造方法であって、前記エッチング工程では、前記引出電極間を、前記引出電極に沿ってエッチングし前記基板にスリットを形成することを特徴とする圧電アクチュエーターの製造方法。
この適用例では、引出電極間に引出電極に沿ってスリットが形成されるので、上電極膜を含むエッチング残りが引出電極間のどの場所に生じても、上電極膜が分断され引出電極間の絶縁が保たれる。したがって、引出電極間の短絡によって生じる圧電アクチュエーターの駆動不良がより減少した圧電アクチュエーターの製造方法が得られる。
【0010】
[適用例3]
上記圧電アクチュエーターの製造方法であって、前記圧電素子形成工程は、共通電極としての前記下電極を前記基板に形成し、前記圧電体層と前記上電極膜とを選択的にエッチングして、前記圧電体と前記個別電極として前記上電極とを備えた前記圧電素子を形成することを特徴とする圧電アクチュエーターの製造方法。
この適用例では、振動板に形成された下電極を共通電極とし、圧電体に形成された上電極を個別電極とする圧電アクチュエーターにおいて、前述の効果を有する圧電アクチュエーターの製造方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】インクジェット式記録装置の一例を示す概略図。
【図2】インクジェット式記録ヘッドを示す分解部分斜視図。
【図3】(a)はインクジェット式記録ヘッドの部分平面図、(b)は(a)におけるA−A断面図。
【図4】インクジェット式記録ヘッドの製造方法を表すフローチャート図。
【図5】(a)〜(d)は、インクジェット式記録ヘッドの製造方法を表す圧力発生室の長手方向の断面図。
【図6】(e)〜(h)は、インクジェット式記録ヘッドの製造方法を表す圧力発生室の長手方向の断面図。
【図7】(i)〜(k−1)は、インクジェット式記録ヘッドの製造方法を表す圧力発生室の長手方向の断面図。
【図8】(k−2)〜(m)は、インクジェット式記録ヘッドの製造方法を表す圧力発生室の長手方向の断面図。
【図9】(n)および(o)は、インクジェット式記録ヘッドの製造方法を表す圧力発生室の長手方向の断面図。
【図10】(p)〜(r)は、インクジェット式記録ヘッドの製造方法を表す圧力発生室の長手方向の断面図。
【図11】パーティクルが付着した場合の図6(h)の状態における部分平面図。
【図12】パーティクルが付着した場合の図6(h)の状態における部分断面図、(a)は、図11におけるB−B部分断面図、(b)は、図11におけるC−C部分断面図。
【図13】パーティクルが付着した場合の図7(i)の状態における部分断面図、(a)は、図11におけるB−B部分断面図、(b)は、図11におけるC−C部分断面図。
【図14】パーティクルが付着した場合の図7(k−1)および図8(k−2)の状態における部分断面図、(a)は、図11におけるB−B部分断面図、(b)は、図11におけるC−C部分断面図。
【図15】パーティクルが付着した場合の図8(l)の状態における部分断面図、(a)は、図11におけるB−B部分断面図、(b)は、図11におけるC−C部分断面図。
【図16】パーティクルが付着した場合の図8(m)の状態における部分断面図、(a)は、図11におけるB−B部分断面図、(b)は、図11におけるC−C部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1は、圧電アクチュエーターを備えた液体噴射ヘッドとしてのインクジェット式記録ヘッド1を備えた液体噴射装置としてのインクジェット式記録装置1000の一例を示す概略図である。
図1に示すように、インクジェット式記録装置1000は、記録ヘッドユニット1Aおよび1Bを備えている。
記録ヘッドユニット1Aおよび1Bには、インク供給手段を構成するカートリッジ2Aおよび2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1Aおよび1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。
【0013】
記録ヘッドユニット1Aおよび1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物およびカラーインク組成物を噴射する。そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1Aおよび1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4には、キャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラー等により給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8上を搬送される。
【0014】
記録ヘッドユニット1Aおよび1Bは、インクジェット式記録ヘッド1を記録シートSに対向する位置に備えている。
【0015】
図2に、インクジェット式記録ヘッド1を示す分解部分斜視図を示した。インクジェット式記録ヘッド1の形状は略直方体であり、図2は、インクジェット式記録ヘッド1の長手方向(図中の白抜き矢印方向)に直交する面で切断した分解部分斜視図である。
図3(a)には、インクジェット式記録ヘッド1の部分平面図を、(b)には、そのA−A断面図を示した。
【0016】
図2および図3において、インクジェット式記録ヘッド1は、流路形成基板10とノズルプレート20と接合基板30とコンプライアンス基板40と駆動IC400とを備えている。
流路形成基板10とノズルプレート20と接合基板30とは、流路形成基板10をノズルプレート20と接合基板30とで挟むように積み重ねられ、接合基板30上には、コンプライアンス基板40が形成されている。また、接合基板30上には、駆動IC400が載せられている。
【0017】
流路形成基板10は、面方位(110)のシリコン単結晶板からなる。流路形成基板10には、複数の圧力発生室12が列をなすように形成されている。圧力発生室12のインクジェット式記録ヘッド1の長手方向に直交する断面形状は台形状で、圧力発生室12は、インクジェット式記録ヘッド1の幅方向に長く形成されている。
【0018】
また、流路形成基板10の圧力発生室12の幅方向の一方端にはインク供給路13が形成され、インク供給路13と各圧力発生室12とが、圧力発生室12毎に設けられた連通部14を介して連通されている。連通部14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部14から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。
【0019】
ノズルプレート20には、各圧力発生室12のインク供給路13とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されている。
なお、ノズルプレート20は、厚さが例えば、0.01〜1mmで、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板または不錆鋼等からなる。
流路形成基板10とノズルプレート20とは、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。
【0020】
流路形成基板10のノズルプレート20が固着された面と対向する面には、弾性膜50が形成されている。弾性膜50は、酸化シリコンを含む膜からなる。
流路形成基板10の弾性膜50上には、酸化膜からなる絶縁体膜51が形成されている。さらに、この絶縁体膜51上には、下電極60と、ペロブスカイト構造の圧電体70と、上電極80とが形成され、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、下電極60、圧電体70および上電極80を含む部分をいう。
【0021】
一般的には、圧電素子300のいずれか一方の電極を共通電極とし、他方の電極を個別電極として、圧電体70とともに圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされたいずれか一方の電極および圧電体70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部という。
なお、本実施形態では、下電極60を圧電素子300の共通電極とし、上電極80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。いずれの場合においても、圧力発生室12毎に圧電体能動部が形成されていることになる。
【0022】
図2および図3において、このような各圧電素子300を構成する上電極80には、それぞれ引出電極90が形成されている。
ここで、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる弾性膜50、絶縁体膜51(2膜合わせて振動板53という)および引出電極90とを合わせて圧電アクチュエーター100と称する。下電極60は、基板としての振動板53上に形成されている。
【0023】
引出電極90間には、スリット91が形成されている。スリット91は、絶縁体膜51に、あるいは弾性膜50まで形成され、引出電極90間ごとに複数形成されている。
また、スリット91は、引出電極90に沿って、隣り合う引出電極90間の振動板53の少なくとも一部に形成されている。本実施形態では、引出電極90が上電極80に形成されている部分から、絶縁体膜51の外周にいたるまで形成されている。ここで、スリット91は、振動板53の厚さよりも浅く形成されている。
【0024】
接合基板30が接着される振動板53には、圧電素子300と同じ層構造を有する段差調整部310および320が形成されている。
段差調整部310は、インク供給路13と圧電素子300との間の位置に、段差調整部320は、インク供給路13を挟んで段差調整部310と対向する位置に形成されている。
段差調整部310は、下電極膜61、圧電体層71および上電極膜81から構成され、段差調整部320は、下電極膜62、圧電体層72および上電極膜82から構成されている。
ここで、段差調整部310の上電極膜81には、応力を緩和するためのスリット311が、インクジェット式記録ヘッド1の長手方向に形成されている。
【0025】
圧電素子300が形成された流路形成基板10上には、接合基板30が接着剤35によって接合されている。
接合基板30は、圧電素子300に対向する領域に、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を確保した状態で、その空間を密封可能な圧電素子保持部32を有する。圧電素子保持部32は、圧力発生室12の列に対応して設けられている。
【0026】
なお、本実施形態では、圧電素子保持部32は、圧力発生室12の列に対応する領域に一体的に設けられているが、圧電素子300毎に独立して設けられていてもよい。
接合基板30の材料としては、例えば、ガラス、セラミックス材料、金属、樹脂等が挙げられるが、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料で形成されていることがより好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成する。
【0027】
また、接合基板30には、流路形成基板10のインク供給路13に対応する領域にリザーバ部31が設けられている。このリザーバ部31は、接合基板30を厚さ方向に圧力発生室12の列に沿って設けられており、流路形成基板10のインク供給路13と貫通孔52によって連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるマニホールド200を構成している。
【0028】
また、接合基板30上には、図示しない外部配線が接続されて駆動信号が供給される配線パターンが設けられている。そして、配線パターン上に、各圧電素子300を駆動するための半導体集積回路(IC)である駆動IC400がそれぞれ実装されている。
【0029】
駆動信号は、例えば、駆動電源信号等の駆動IC400を駆動させるための駆動系信号のほか、シリアル信号(SI)等の各種制御系信号を含み、配線パターンは、それぞれの信号が供給される複数の配線で構成される。
【0030】
下電極60は、圧力発生室12の長手方向では圧力発生室12に対向する領域内に形成され、複数の圧力発生室12に対応する領域に連続的に設けられている。また、下電極60は、圧力発生室12の列の外側まで延設されている。
【0031】
上電極80の一端部近傍には引出電極90が接続されている。そして、駆動IC400と各圧電素子300から延設された引出電極90とは、例えば、ボンディングワイヤー等の導電性ワイヤーからなる接続配線220によってそれぞれ電気的に接続されている。また、同様に、駆動IC400と下電極60とは、図示しない接続配線によって電気的に接続されている。
【0032】
さらに、接合基板30上には、封止膜41および固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料(例えば、厚さが6μmのポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム)からなり、この封止膜41によってリザーバ部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料(例えば、厚さが30μmのステンレス鋼(SUS)等)で形成される。この固定板42のマニホールド200に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、マニホールド200の一方面は可撓性を有する封止膜41のみである。
【0033】
インクジェット式記録ヘッド1では、インク供給手段からインクを取り込み、マニホールド200からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動IC400からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極60と上電極80との間に電圧が印加される。電圧の印加によって、弾性膜50および圧電体70がたわみ変形し、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0034】
以下、本実施形態における圧電アクチュエーター100の製造方法を中心に、インクジェット式記録ヘッド1の製造方法について、図4〜図10を参照して説明する。
図4は、インクジェット式記録ヘッド1の製造方法を表すフローチャート図であり、図5〜図10は、圧力発生室12の長手方向の断面図である。
インクジェット式記録ヘッド1は、ウェハー状態で複数のインクジェット式記録ヘッド1を形成した後に各インクジェット式記録ヘッド1を切り離すことによって得られる。図5〜図10は、インクジェット式記録ヘッド1の形成過程における断面図の一部を示したものである。
【0035】
図4において、インクジェット式記録ヘッド1の製造方法は、振動板形成工程としてのステップ1(S1)と、下電極形成工程としてのステップ2(S2)と、圧電体層形成工程としてのステップ3(S3)と、上電極膜形成工程としてのステップ4(S4)と、圧電素子形成工程としてのステップ5(S5)と、エッチング工程としてのステップ6(S6)と、引出電極形成工程としてのステップ7(S7)と、接合基板接合工程としてのステップ8(S8)と、流路形成基板エッチング工程としてのステップ9(S9)とを含む。
ここで、圧電アクチュエーター100の製造方法は、振動板形成工程(S1)と、下電極形成工程(S2)と、圧電体層形成工程(S3)と、上電極膜形成工程(S4)と、圧電素子形成工程(S5)と、エッチング工程(S6)と、引出電極形成工程(S7)とを含む。
【0036】
図5(a)および図5(b)に、振動板形成工程(S1)を示した。
図5(a)において、シリコンウェハーである流路形成基板用ウェハー110を約1100℃の拡散炉で熱酸化し、その表面に二酸化シリコンを含む弾性膜50を形成する。例えば、流路形成基板用ウェハー110として、厚さが約625μmと比較的厚く剛性の高いシリコンウェハーを用いることができる。
【0037】
図5(b)において、流路形成基板用ウェハー110の片面側の弾性膜50上に、酸化ジルコニウム(ZrO2)からなる絶縁体膜51を形成する。具体的には、弾性膜50上に、例えば、スパッタリング法等によりジルコニウム(Zr)層を形成後、このジルコニウム層を、例えば、500〜1200℃の拡散炉で熱酸化することにより酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜51を形成する。弾性膜50と絶縁体膜51とで振動板53が形成される。
振動板は、単層構造であってもよいし、二酸化シリコンや酸化ジルコニウム以外の材料から構成されていてもよい。
【0038】
図5(c)および図5(d)に、下電極形成工程(S2)を示した。
図5(c)において、白金(Pt)、イリジウム(Ir)等からなる下電極膜600を絶縁体膜51の全面に形成する。下電極膜600は、積層構造であってもよい。例えば、白金とリジウムとを積層した積層構造を用いることができる。
その後、図5(d)において、所定形状にパターニングして下電極60が得られる。このとき、図2および図3に示した段差調整部310,320の下電極膜61,62も形成する。
【0039】
図6(e)において、圧電体層形成工程(S3)では、下電極60、下電極膜61,62および絶縁体膜51上に、圧電材料からなる圧電体層700を形成する。圧電材料としては、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いることができる。
圧電体層700の製造方法としては、金属有機物を触媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層700を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いることができる。
なお、ゾル−ゲル法に限定されず、例えば、MOD(Metal Organic Decomposition)法等を用いてもよい。
【0040】
ゾル−ゲル法を詳しく説明すると、まず金属有機化合物を含むゾル(溶液)を塗布する。次いで、塗布により得られる圧電体前駆体膜を、所定温度に加熱して一定時間乾燥させ、ゾルの溶媒を蒸発させることで圧電体前駆体膜を乾燥させる。さらに、大気雰囲気下において一定の温度で一定時間、圧電体前駆体膜を脱脂する。
なお、ここで言う脱脂とは、ゾル膜の有機成分を、例えば、NO2、CO2、H2O等として離脱させることである。
【0041】
このような塗布・乾燥・脱脂の工程を、所定回数、例えば、2回繰り返すことで、圧電体前駆体膜を所定厚に形成し、この圧電体前駆体膜を拡散炉等で加熱処理することによって結晶化させて圧電体膜を形成する。すなわち、圧電体前駆体膜を焼成することで結晶が成長して圧電体膜が形成される。
焼成温度は、650〜850℃程度であることが好ましく、例えば、約700℃で30分間、圧電体前駆体膜を焼成して圧電体膜を形成する。このような条件で形成した圧電体膜の結晶は(100)面に優先配向する。
上述した塗布・乾燥・脱脂・焼成の工程を、複数回繰り返すことにより、多層の圧電体膜からなる所定厚さの圧電体層700を形成する。
【0042】
圧電体層700の材料として、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛等の強誘電性圧電性材料に、ニオブ、ニッケル、マグネシウム、ビスマス又はイットリウム等の金属を添加したリラクサ強誘電体等を用いてもよい。
【0043】
図6(f)において、上電極膜形成工程(S4)では、圧電体層700を形成した後に、例えば、イリジウム、金(Au)等からなる上電極膜800を圧電体層700の全面に形成する。上電極膜800は、スパッタリング法、例えば、DCまたはRFスパッタリング法によって形成することができる。
【0044】
図6(g)、図6(h)、図7(i)、図7(j)に圧電素子形成工程(S5)を示した。
【0045】
圧電素子形成工程(S5)は、フォトリソグラフィ工程によって行うことができる。
図6(g)において、上電極膜800上にレジストを塗布してレジスト膜500を形成する。
図6(h)において、図2および図3で示した圧電素子300、段差調整部310,320が形成される領域に、レジスト膜510,520,530を現像によって残す。
【0046】
図7(i)において、反応性イオンエッチングやイオンミリング等のドライエッチングによって、上電極膜800および圧電体層700をエッチングして、圧電素子300、段差調整部310,320を形成する。
図7(j)において、レジスト膜510,520,530を剥離する。
【0047】
図7(k−1)および図8(k−2)に、エッチング工程(S6)を示した。図7(k−1)は、図3(a)におけるA−A断面に相当する図である。図8(k−2)は、図3(a)におけるB−B断面に相当する図である。
図7(k−1)および図8(k−2)において、エッチング工程(S6)では、図2および図3に示したスリット91を形成する。スリット91は、後に形成される引出電極90間の振動板53を、引出電極90に沿ってエッチングして形成する。
エッチング工程(S6)は、圧電素子形成工程(S5)と同様に、フォトリソグラフィ工程を用いて行なうことができる。
実施形態では、エッチング工程(S6)は、段差調整部310の上電極膜81の応力を緩和するためのスリット311(図2および図3に示した)を形成する工程と同じ工程で同時に行うことができる。エッチングは、上電極膜81が除去され、振動板53が除去されない条件で行なう。
なお、エッチング工程(S6)は、スリット311を形成する工程と同時に行なわなくてもよい。例えば、エッチング工程(S6)を引出電極形成工程(S7)後に行なってスリット91を形成してもよい。この場合、新たな工程が必要となる。
【0048】
図8(l)および図8(m)に、引出電極形成工程(S7)を示した。
図8(l)において、流路形成基板用ウェハー110上の全面にわたって、金属層900を形成する。引出電極90を構成する主材料としては、比較的導電性の高い材料であれば特に限定されず、例えば、金、アルミニウム、銅が挙げられる。また、下地層としてNiCrを用いる2層構造、あるいは多層構造であってもよい。
図8(m)において、例えば、レジスト等からなる図示しないマスクパターンを介して金属層900を圧電素子300の個別電極である上電極80毎にパターニングすることによって引出電極90を形成する。
【0049】
図9(n)において、接合基板接合工程(S8)では、流路形成基板用ウェハー110の圧電素子300側に、シリコンウェハーであり複数の接合基板30となる接合基板用ウェハー130を、接着剤35を用いて接合する。接着剤35としては、例えば、エポキシ系の接着剤を用いることができる。接合基板用ウェハー130には、リザーバ部31、圧電素子保持部32等が予め形成されている。
なお、この接合基板用ウェハー130は、例えば、400μm程度の厚さを有するため、接合基板用ウェハー130を接合することによって流路形成基板用ウェハー110の剛性は著しく向上することになる。
また、段差調整部310,320を設けることにより、接着剤35を厚くしなくて済み、接着剤35のはみ出しによるごみを抑え、接着剤35が厚くなることによる応力の発生を抑えることができる。
【0050】
図9(o)〜図10(r)に、流路形成基板エッチング工程(S9)を示した。
図9(o)において、流路形成基板用ウェハー110をある程度の厚さとなるまで研磨した後、さらにフッ硝酸によってウェットエッチングすることにより流路形成基板用ウェハー110を所定の厚みにする。例えば、約70μm厚になるように流路形成基板用ウェハー110をエッチング加工することができる。
【0051】
図10(p)および図10(q)において、流路形成基板用ウェハー110上に、例えば、窒化シリコン(SiN)からなるマスク膜54を新たに形成し、所定形状にパターニングする。そして、このマスク膜54を介して流路形成基板用ウェハー110を異方性エッチングすることにより、流路形成基板用ウェハー110に圧力発生室12、連通部14およびインク供給路13等を形成する。
具体的には、流路形成基板用ウェハー110を、例えば、水酸化カリウム(KOH)水溶液等のエッチング液によって弾性膜50が露出するまでエッチングすることより、圧力発生室12、連通部14およびインク供給路13を同時に形成する。
【0052】
図10(r)において、弾性膜50と絶縁体膜51とからなる振動板53をインク供給路13側からウェットエッチングすることによって除去して貫通孔52を形成する。リザーバ部31とインク供給路13とは、貫通孔52によって連通されてマニホールド200を構成する。
次に、流路形成基板用ウェハー110表面のマスク膜54を除去する。
【0053】
マニホールド200を形成した後は、駆動IC400を実装すると共に、駆動IC400と引出電極90とを接続配線220によって接続する(図3参照)。
その後、流路形成基板用ウェハー110および接合基板用ウェハー130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハー110の接合基板用ウェハー130とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、接合基板用ウェハー130に、可撓性を有する弾性膜としての封止膜41と、SUS等の金属材料からなる押さえ基板としての固定板42とが積層されたコンプライアンス基板40を接合する。
これら流路形成基板用ウェハー110等を、図2および図3に示すような1つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって、上述した構造のインクジェット式記録ヘッド1が製造される。
【0054】
以下に、圧電素子形成工程(S5)において、ドライエッチング装置からパーティクルが脱落して、後に形成される引出電極90間に付着した場合を図11〜図15に基づいて説明する。
上電極膜800の形成後からドライエッチング前およびドライエッチング中に付着したパーティクルが特に問題となる。以下には、レジスト膜510,520,530を現像によって残した後にパーティクルが付着した場合を示す。
【0055】
図11は、図6(h)の状態における部分平面図である。後に形成される引出電極90、スリット91およびスリット311を、二点鎖線で示した。
図12に、図6(h)の状態における部分断面図を示した。図12(a)は、図11におけるB−B部分断面図であり、図12(b)は、図11におけるC−C部分断面図である。
以下、図13、図14、図15および図16の各(a)は、図12と同様に図11におけるB−B部分断面図であり、図13、図14、図15および図16の各(b)は、図12と同様に図11におけるC−C部分断面図である。また、図12(b)、図13(b)、図14(b)には、引出電極90が形成される位置を二点鎖線で示した。
図11および図12(b)において、パーティクルPは、後に形成される引出電極90にまたがって付着している。
【0056】
図13は、図7(i)の状態における部分断面図である。
図13において、ドライエッチングを行なうと、パーティクルPの付着した部分の図12に示した圧電体層700および上電極膜800がエッチング残りを起こし、エッチング残り圧電体層73およびエッチング残り上電極膜83となる。
【0057】
図14は、図7(k−1)および図8(k−2)の状態における部分断面図である。
図14において、段差調整部310の上電極膜81の応力を緩和するためにスリット311を形成する工程と同じ工程で同時にスリット91を形成すると、エッチング残り上電極膜83にもスリット92が形成される。エッチングは、エッチング残り上電極膜83が除去される条件で行なわれるため、スリット92によってエッチング残り上電極膜83が2つに分断される。
【0058】
図15は、図8(l)の状態における部分断面図である。
図15において、流路形成基板用ウェハー110の全面にわたって、金属層900を形成すると、スリット91,92の中にも金属層900が形成される。
【0059】
図16は、図8(m)の状態における部分断面図である。
図16において、金属層900を圧電素子300の個別電極である上電極80毎にパターニングすると、引出電極90が、エッチング残り圧電体層73およびエッチング残り上電極膜83にかかるように形成される。
【0060】
このような実施形態によれば、以下の効果がある。
(1)圧電素子形成工程(S5)後、エッチング工程(S6)において、後の引出電極形成工程(S7)で形成される引出電極90間の振動板53の少なくとも一部を、エッチング残り上電極膜83が除去され、振動板53が除去されない条件でエッチングする。圧電素子形成工程(S5)の際に、エッチング残り上電極膜83が引出電極90間に生じても、エッチング残り上電極膜83がエッチングによって分断され、エッチング残り上電極膜83に形成される引出電極90間の絶縁を保つことができる。したがって、引出電極90間の短絡によって生じる圧電アクチュエーター100の駆動不良が減少した圧電アクチュエーター100の製造方法を得ることができる。
【0061】
(2)圧電素子形成工程(S5)後、引出電極90間に引出電極90に沿ってスリット91,92が形成されるので、エッチング残り上電極膜83が引出電極90間のどの場所に生じても、エッチング残り上電極膜83が分断され、引出電極90間の絶縁を保つことができる。したがって、引出電極90間の短絡によって生じる圧電アクチュエーター100の駆動不良がより減少した圧電アクチュエーター100の製造方法を得ることができる。
【0062】
(3)振動板53に形成された下電極60を共通電極とし、圧電体70に形成された上電極80を個別電極とする圧電アクチュエーター100において、前述の効果を有する圧電アクチュエーター100の製造方法を得ることができる。
【0063】
実施形態以外にも、種々の変更を行うことが可能である。
例えば、圧電素子形成工程(S5)後に、露出した圧電体を水分等から保護するために保護層を形成してもよい。保護層としては、例えばAl23を用いることができる。エッチング工程(S6)は、保護層形成前に行なってもよいし、保護層形成後に行なってもよい。保護層にピンホール等が生じても実施形態における効果を得ることができる。
上電極を共通電極とする場合は、上電極が保護層として働くため、新たに保護層を形成する必要が少ない。
【0064】
また、上述した実施形態では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。
その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
さらに、液体噴射ヘッドに圧力発生手段として搭載される圧電アクチュエーターだけでなく、あらゆる装置に搭載される圧電アクチュエーターに適用することができる。例えば、圧電アクチュエーターは、上述したヘッドの他に、センサー等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0065】
12…圧力発生室、13…インク供給路、14…連通部、31…リザーバ部、32…圧電素子保持部、35…接着剤、50…弾性膜、51…絶縁体膜、53…振動板、54…マスク膜、60…下電極、61…下電極膜、62…下電極膜、70…圧電体、71…圧電体層、72…圧電体層、73…圧電体層、80…上電極、81…上電極膜、82…上電極膜、83…上電極膜、90…引出電極、91,92…スリット、100…圧電アクチュエーター、110…流路形成基板用ウェハー、130…接合基板用ウェハー、300…圧電素子、310…段差調整部、311…スリット、320…段差調整部、510…レジスト膜、520…レジスト膜、530…レジスト膜、600…下電極膜、700…圧電体層、800…上電極膜、900…金属層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下電極または上電極のうちどちら一方を個別電極として備えた圧電素子と前記個別電極からそれぞれ引き出される引出電極とを備えた圧電アクチュエーターの製造方法であって、
基板上に下電極膜を形成する下電極膜形成工程と、
前記下電極膜上に圧電体層を形成する圧電体層形成工程と、
前記圧電体層上に上電極膜を形成する上電極膜形成工程と、
前記圧電体層と前記下電極膜または前記上電極膜とを選択的にエッチングして、圧電体と前記下電極または前記上電極のうちどちらか一方を前記個別電極として備えた前記圧電素子を形成する圧電素子形成工程と、
前記圧電素子形成工程後、前記引出電極間の前記基板の少なくとも一部を、前記上電極膜が除去され、前記基板が除去されない条件でエッチングするエッチング工程と、
前記エッチング工程後、前記個別電極からそれぞれ引き出される前記引出電極を形成する引出電極形成工程とを含む
ことを特徴とする圧電アクチュエーターの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の圧電アクチュエーターの製造方法において、
前記エッチング工程では、前記引出電極間を、前記引出電極に沿ってエッチングし前記基板にスリットを形成する
ことを特徴とする圧電アクチュエーターの製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の圧電アクチュエーターの製造方法において、
前記圧電素子形成工程は、共通電極としての前記下電極を前記基板に形成し、
前記圧電体層と前記上電極膜とを選択的にエッチングして、前記圧電体と前記個別電極として前記上電極とを備えた前記圧電素子を形成する
ことを特徴とする圧電アクチュエーターの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−222614(P2011−222614A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87596(P2010−87596)
【出願日】平成22年4月6日(2010.4.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】