説明

圧電発振回路

【課題】 圧電発振回路において、発振周波数の位相雑音特性が、電源電圧の低電圧化にともなって劣化することを防止するに好適な圧電発振回路を提供すること。
【解決手段】 圧電発振回路において、トランジスタのベースに流れるベース電流を決定づけるバイアス抵抗(ブリーダ抵抗)に対して、直列にコイルLを挿入するよう構成する。電源電圧の低電圧化にともなってバイアス抵抗を小さな値に設計した場合においても、発振周波数領域においてバイアス抵抗部がコイルLによってハイインピーダンスになる。このような作用によれば、回路損失が小さくですみ、発振回路の実効Q値が低下しないから、信号純度の良好な発振器を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は圧電発振回路に関し、特に低い電源電圧において信号純度の優れた圧電発振回路に関する。
【0002】
【従来の技術】圧電発振器は、移動体通信機器などの各種通信機器、電子機器及びOA機器などの基準周波数源として幅広く利用されている。その中でも特に、圧電デバイスとして水晶振動子を用いたコルピッツ発振回路が幅広く利用されている。図4は、水晶振動子を用いたコルピッツ発振回路の一例を示す回路図である。図中Q1はトランジスタであって、該トランジスタQ1のベース・エミッタ間とエミッタ・アース間にコンデンサC1、C2を夫々接続し、又ベース・アース間に圧電振動子X1と可変容量ダイオードD1との直列回路を接続する。更に電源VccとトランジスタQ1のベースとの間に抵抗R1、トランジスタQ1のベースとアースとの間にR2、電源VccとトランジスタQ1のコレクタとの間に抵抗3、トランジスタQ1のエミッタとアースとの間に抵抗R4を夫々接続するよう構成している。
【0003】近年、移動体通信システムの普及にともない、その移動体通信端末の小形・軽量化が急速に進められており,特にバッテリーの小型化が求められている。このような技術背景のなか、これらの携帯端末に使用されている圧電発振器においては、その動作電圧が年々低くなっており、更なる電源電圧の低電圧化が要求されている。
【0004】上記のコルピッツ発振回路において、抵抗R1及びR2の値はトランジスタQ1のベース電流を決定するためのものであって、ブリーダ抵抗と称されている。一般に発振回路が安定した発振動作を行うためには、トランジスタの電流増幅率hFEが所望の値以上であることを必要としている。そのために、ブリーダ抵抗の抵抗値は、抵抗R2に流れる電流がトランジスタのベースに流れる電流の10倍よりも大きくするよう選択される。このような条件にもとづいて、低い電源電圧において動作させる場合、ブリーダ抵抗R2及びR1の抵抗値を小さくするよう選択すれば良い。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このようにブリーダ抵抗の値を小さくした発振器においては、低い電源電圧においても発振動作を行うものの、その発振周波数の信号純度、即ち位相雑音特性が劣化してしまうという欠点があった。このような欠点があったために、特に高い信号純度が要求される利用分野、例えば移動体端末機器等に用いられる発振器などにおいては、その要求される性能を満足することができず、発振器の電源電圧を低くすることを困難としていた。本発明は、上記の欠点を解決する為になされたものであって、より低い電源電圧においても、発振信号純度が高い、即ち位相雑音特性の良好な発振回路を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、請求項1の発明は、圧電素子とトランジスタとを含む圧電発振回路において、電源と前記トランジスタのベースとの間に抵抗とコイルとの直列回路を接続する、或いは前記トランジスタのベースとアースとの間に抵抗とコイルとの直列回路を接続するよう構成することを特徴とする。
【0007】
【発明の実施の形態】以下、図示した実施形態例に基づいて本発明を詳細に説明する。図1は本発明の一実施形態例を示すコルピッツ発振回路である。図中Q2はトランジスタであって、該トランジスタQ2のベース・エミッタ間及びエミッタ・アース間にコンデンサC3及びC4を夫々接続し、前記トランジスタQ2のベース・アース間に圧電振動子X2と可変容量コンデンサD2との直列回路を接続する。更に、電源VccとトランジスタQ2のベース間に、抵抗R6とコイルL1との直列回路を接続し、ベース・アース間に、抵抗R7とコイルL2との直列回路を接続し、電源Vcc前記トランジスタQ2のコレクタ・アース間に抵抗R8を接続し、前記トランジスタQ2のコレクタとアースとの間に抵抗R9を接続するよう構成する。なお、抵抗R10は、電圧Vcontによって可変容量ダイオードD2の容量値を変化させる為のバイアス抵抗であり、また、発振回路の信号はトランジスタのコレクタから直流阻止コンデンサCpを介して出力する。
【0008】次に上記構成のコルピッツ発振回路の作用を、図2に図示する等価回路を用いて説明する。同図は、発振回路の定常状態における高周波等価回路であって、図中Cπはトランジスタの入力容量、Rπはトランジスタの入力抵抗、また、Ra及びLaは水晶振動子の等価抵抗と誘導性リアクタンス成分を表わしており、C3’C4’D2、R9’は、先に述べたC3、C4、D2、R9の容量あるいは抵抗である。図中、抵抗RbとLbとの直列合成和(Rb+jωLb)は、ブリーダ抵抗部分による等価回路であって、抵抗R6とコイルL1との直列合成和(R1+jωL1)と、抵抗R2と抵抗L2との直列合成和(R7+jωL2)との並列合成和である。
【0009】このブリーダ抵抗部分(Rb+jωLb)に流れる電流は、発振回路全体からみた場合、単なる損失であって、発振回路の実効Q値を低下させる要因の一つとなっている。発振回路の実効Q値QLは、式QL=Ra・Q/(Ra+Rp)によって表わされる。ここで、Rpは水晶振動子(Ra+jωLa)から右側をみた時の損失抵抗、Raは水晶振動子の等価抵抗、Qは水晶振動子のQ値である。本発明においては、前述した実施形態例のように、トランジスタにバイアス電流をあたえるブリーダ抵抗R6及びR7に対してコイルL1及びコイルL2を夫々直列に接続するように構成したことによって、ブリーダ抵抗R6及びR7の値が小さい場合においても、ブリーダ抵抗部分(Rb+jωLb)が発振周波数領域において高インピーダンスとなるから、トランジスタのベースに所望のベース電流を供給しながらも、発振回路の損失は小さくてすみ、従来の回路のように発振回路の実効Q値が小さくなることがない。
【0010】以上、本発明の構成が、発振回路の実効Q値の劣化を抑えるよう作用することを説明した。次にコルピッツ発振回路の位相雑音特性との関係について説明する。図3はコルピッツ発振回路の位相雑音特性をモデル化した図である。同図において、横軸は離調周波数、縦軸は位相雑音である。同図に示したようにコルピッツ発振回路の位相雑音特性は、位相雑音が周波数の3乗に比例して減衰する領域f-3、周波数の2乗におよそ比例して減衰する領域f-2、そしてフロアノイズ部f-0からなる。ここで,図中、位相雑音が周波数の3乗に比例して減衰する領域f-3と周波数の2乗におよそ比例して減衰する領域f-2、が交わる離調周波数をfc、周波数のおよそ2乗に比例して減衰する領域とフロアノイズ部f-0が交わる離調周波数をfαとする。このような発振回路の位相雑音特性にあっては,離調周波数fαと発振回路の実効Q値QLとの関係は、fα=f0/(2QL)によって表わされる。但し、f0は発振周波数である。従来の回路にあっては、低電源電圧化に伴って実効Q値が劣化していたことから、fαが大きくなり、離調周波数fαと離調周波数fcとの間隔が広くなって、位相雑音特性の劣化をもたらしていた。これに対して本発明に係る構成にあっては、上述したように発振回路の実効Q値が劣化しないから、離調周波数fαと離調周波数fcとの間隔は影響を受けることがなく、位相雑音特性が劣化しない。
【0011】上記の実施形態例においては、電源とトランジスタのベースとの間、及びトランジスタのベースとアースとの間の双方に、抵抗とコイルの直列回路をそれぞれ接続するよう構成した。このように,発振回路の実効Q値の劣化を押さえる効果を最大に得るためには,抵抗とコイルとの直列回路を双方に接続することが望ましい。しかし,必要に応じて何れか一方に抵抗とコイルとの直列回路を接続するよう構成しても、発振回路の実効Q値を抑える効果を得ることができる。
【0012】
【発明の効果】本発明においては、ブリーダ抵抗と直列にコイルを挿入するよう構成したことによって、ブリーダ抵抗の値を小さく選定したとしても、従来の回路のように発振回路の実効Q値が低下することがない。このような作用により、ブリーダ抵抗の値を小さくし、低い電源動作において発振動作させたような場合においても、良好な位相雑音特性、即ち信号純度の良好な発振器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のコルピッツ発振回路の実施形態例
【図2】コルピッツ発振回路の等価回路
【図3】位相雑音特性のモデル図
【図4】従来のコルピッツ発振回路
【符号の説明】
X1,X2 水晶振動子、Q1,Q2 トランジスタ、D1,D2 可変容量ダイオード、L1,L2 コイル、R1−R10 抵抗、C1−C4 コンデンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】圧電素子とトランジスタとを含む圧電発振回路において、電源と前記トランジスタのベースとの間に抵抗とコイルとの直列回路を接続する、或いは前記トランジスタのベースとアースとの間に抵抗とコイルとの直列回路を接続するよう構成することを特徴とする圧電発振回路。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【図4】
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【公開番号】特開2001−85946(P2001−85946A)
【公開日】平成13年3月30日(2001.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−258304
【出願日】平成11年9月13日(1999.9.13)
【出願人】(000003104)東洋通信機株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】