説明

多目的作業車

【課題】従来の広範囲な作業を可能な多目的作業車の機能を一層充実させることである。
【解決手段】作業車の車速を検出する車速センサと、走行地の車体の前後方向の勾配を検出する傾斜センサ77及び/又は車体の重量を検出する重量センサ84と、傾斜センサ77及び/又は重量センサ84の検出値に応じて静油圧式無段変速装置の出力を所定の範囲内に制限する制御装置100を備えた多目的作業車であり、傾斜センサ77の検出する作業車が走行地を走行中に作業車の前後方向の勾配角度に応じて、変速装置のトラニオン軸作動角度の最大角度を制御して出力を制御することで、燃費の節約と走行安全性を確保することができる。また、重量センサ84の検出する作業車の車体重量に応じて変速装置のトラニオン軸作動角度の最大角度を制御して出力を制御することで、エンストの防止が図れ、燃費が従来より向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芝刈作業や運搬作業等に用いる多目的作業車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、芝刈作業や運搬作業等に用いる多目的作業車両には、庭の芝刈り作業、圃場の耕耘作業などの各種作業を行う作業機を連結して走行する走行制御、路上走行時の走行制御又は車速を一定に保持して走行する走行制御など各種の走行制御ができる多目的作業車が知られている。
【特許文献1】特開2005−343187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記特許文献1に記載の多目的作業車は一般道路での走行と農作業を行うことができる作業車であり、農業用トラクタ等の作業車では、路上走行時などでは車速を一定に制御する走行制御あるいは芝刈り作業時にはエンジン回転数を一定にして馬力を安定させる走行制御などの広範囲な作業を可能にした作業車である。
しかし、上記作業車には走行地の傾斜角度又は搭載する荷物の重量などが変化しても対応できるような構成にするようにとの要請がある。
そこで、本発明の課題は、前記した従来の広範囲な作業を可能な多目的作業車の機能を一層充実させることである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の上記課題は、以下の解決手段で達成される。
請求項1記載の発明は、エンジン(3)と該エンジン(3)の動力を変速して所定の車速を出力する変速装置とを車体上に備えた多目的作業車において、前記作業車の車速を検出する車速センサ(74)と、走行地の車体の前後方向の勾配を検出する傾斜センサ(77)及び/又は車体の重量を検出する重量センサ(84)と、前記傾斜センサ(77)及び/又は重量センサ(84)の検出値に応じて変速装置の出力を所定の範囲内に制限する制御装置(100)を備えた多目的作業車である。
【発明の効果】
【0005】
請求項1記載の発明によれば、傾斜センサ77を備えている場合は、車体が走行地を走行中に車体の前後傾斜が傾斜センサ77によって検出され、検出された車体の前後方向の勾配角度に応じて、変速装置の出力を制御することで、燃費の節約と走行安全性を確保することができる。また、重量センサ84を備えている場合は、重量センサ84の検出する車体重量に応じて変速装置の出力を制御することで、エンストの防止が図れ、燃費が従来より向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下に、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
車両の一例として多目的作業車(以下作業車)の左側面図を図1(a)に示し、図1(b)に運転台部分の要部斜視図を示す。また、図2は本実施例の作業車両のトランスミッション内の動力伝動系統図、図3は図2の動力伝動系統図の部分拡大図を示し、図4には副変速レバーの操作部の斜視図を示し、図5はHST制御ブロック図であり、図6は静油圧式無段変速装置(HST)の油圧閉回路図である。
【0007】
乗用四輪駆動の走行形態を有する作業車両の車体は、ステアリングハンドル1で前輪2を操舵しながら運転するか、前後輪2、6を操舵して運転する。機体の後部にディーゼルエンジン3を搭載し、このディーゼルエンジン3の前側にミッションケース14等を一体的に連結し、このミッションケース14の最後部にリヤアクスルハウジング(図示せず)を設けて、左右両側部に後輪6を軸装する。また、前後進ペダル9の踏み込み量に応じて図2に示す静油圧式無段変速装置(HST)7の出力軸27の回転数が変速される。
【0008】
また、車体の前部には昇降リンク装置10を介して図示しない芝刈り機又は清掃機等の作業機を牽引する。さらに車体前方の操縦室5が設けられ、該操縦室5内の運転席11の近傍には、車速センサ74(図5)、変速操作を行うための主変速レバー(図示せず)、副変速レバー12(図4)、作業機の高さを変更するポジションレバー等の各種レバーと、図5に示す作業モード設定ボタン(負荷一定モード設定用)80、動作モード設定ボタン(静油圧式無段変速装置のトラニオン軸の回転の応答性の遅速選択用)81及びクルーズコントロール入切スイッチ82(図5)、前後進ペダル9の位置を検出する前後進ペダルポジションセンサ83等の各種スイッチ類が設けられている。
【0009】
さらに、図1(b)の運転台部分の要部斜視図に示すようにステアリングハンドル1の下方に設けた前後進ペダル9を踏むことで、エンジン回転数が上昇すると共に、静油圧式無段変速装置(HST)7のトラニオン軸が回動する。具体的には、前後進ペダル9の踏み込みの最初の1/4のストロークまでの間にエンジン回転数が略定格回転数まで上昇し、残りの3/4のストロークでトラニオン軸が回動する。つまり前記3/4のストロークの前後進ペダル9の踏み込みの範囲でゼロ速から最高速まで変速する。また、後述する車速一定にする制御を解除するブレーキペダル8等のペダル類を設ける構成になっている。
【0010】
前記副変速レバー12(図4参照)はレバーガイド64に沿って回動操作することにより、後述の副変速装置がリンク機構を介して「高速」、「中立」、「低速」の何れかに手動で切り換わるように構成されている。
また、前後進ペダル9の踏み込み量に応じて図2に示す静油圧式無段変速装置(HST)7の出力軸27の回転数が変速される。
【0011】
ミッションケース14は、前ケース15、繋ぎケース16、中間ケース17(図2)及び後ケース18(図3)の4つの中空ケースを連結した構成であり、後ケース18に軸支した入力軸19(図3)にエンジン3の動力が入力され、この入力軸19の回転がインプットケース20内の増速ギヤ21、22で第一中継軸23へ伝動し、更に第一中継軸23上のギヤ24から増速ギヤ25で増速され、該ギヤ25に静油圧式無段変速装置(HST)7の可変容量油圧ポンプ7aの油圧入力軸7cをスプライン係合している。
【0012】
上記インプットケース20は、ディーゼルエンジン3の出力回転を増速して高速走行を可能にするために設けてあり、従来の作業車両のミッションケースを利用して、その内部に取り付けている。このように、インプットケース20で増速する構成としているので、高速走行時にエンジン回転数を上昇させて対応する必要がなくなり、これにより従来の伝動装置より騒音低減、燃費向上が図れる。
また、前後進ペダル9に連動している可変容量油圧ポンプ7aの斜板(トラニオン軸)により定容量油圧モータ7bの出力軸27の回転数が変速される。
【0013】
一方、PTO駆動軸26は、HST7の可変容量油圧ポンプ7aの内部で前記油圧入力軸7cと直結しているので、一定回転数、すなわちHST可変容量油圧ポンプ7aの油圧入力軸7cと同じ回転数で回転する。
PTO駆動軸26はギヤ29を備えた駆動軸28と直結しており、該ギヤ29に噛合するギヤ31の動力はPTO後カウンタ軸32上のカウンタギヤ33に伝達され、次いでPTOクラッチ34を介してPTO前カウンタ軸35に伝達され、該PTO前カウンタ軸35は前ケース15を貫通し、PTO前カウンタ軸35と一体化された図示しないPTOカウンタ軸とPTOカウンタギヤに伝動し、該カウンタギヤから図示しないPTO出力軸上のPTO入切ギヤに動力が出力される。
【0014】
また、HST7の走行出力軸27の駆動力は、ギア噛合式の主変速装置を構成する伝動軸40のギヤ40aからギヤ40b及びギヤ40cを順次経由して、主変速軸41上の大ギヤ42と中ギヤ43にそれぞれ伝達可能な構成である。さらに主変速軸41上の中ギヤ43の隣接位置には副変速高速用小ギヤ44aと副変速低速用大ギヤ44bが設けられ、さらに主変速軸41上の副変速低速用ギヤ44bの隣接位置には前輪駆動ギヤ37が設けられている。
【0015】
主変速軸41に並行して設けられたクラッチ軸45上には、前記大ギヤ42と中ギヤ43にそれぞれ常時噛合している変速クラッチギヤ46とギヤ47が設けられ、該ギヤ46とギヤ47の間のクラッチ軸45上に油圧クラッチ51と油圧クラッチ52が設けられており、さらにクラッチ軸45の出力側には差動装置53が連結しており、該差動装置53から前輪出力軸(図示せず)に動力が伝達され、前輪2が駆動する。
【0016】
図5に示す高速用油圧クラッチソレノイド49と低速用油圧クラッチソレノイド50により、それぞれ高速側油圧クラッチ51と低速側油圧クラッチ52を接続させるには図4に示す副変速レバー12の頂部に設けた主変速スイッチ62aと62bをそれぞれ押すことで行われる。
また、主変速スイッチ62a(「+」符号側)と主変速スイッチ62b(「−」符号側)がそれぞれ押されると図5に示す高速用油圧クラッチソレノイド49と低速用油圧クラッチソレノイド50がそれぞれ作動して油圧クラッチ51と油圧クラッチ52がそれぞれ接続される。
なお、図4に示すようにレバーガイド64内の高速側又は低速側に副変速レバー12が操作されると、それぞれ高速側の副変速レバーセンサ65Hと低速側の副変速レバーセンサ65Lとが副変速レバー12のシフト位置を検知することができる。
【0017】
エンジン3が始動するときには、前後進レバー10または副変速レバー12のいずれか一方、または両方を中立位置にする。中立位置以外では始動(スタータが回転)しない。なお、前後進レバー10の前進側と後進側の切り換えは前後進切換スイッチ73で検出する。
【0018】
前進走行時(1速と2速)には、まず前後進レバー10を前進側にする。ついで、1速(作業速低速)と2速(作業速高速)を選択することができる。1速は、特に除雪機を付けての除雪作業に使用する。しかし、その他の作業でも使用することができる。また2速で除雪作業を行うこともある。2速は特に芝刈り機を付けての芝刈り作業に適しているが、その他の作業でも使用でき、また1速で芝刈り作業を行うこともある。また、路上清掃機(回転ブラシ)を装着しての作業も1速又は2速で行うこともある。
副変速レバー12を低速側にすると、副変速ギヤ48bがギヤ44bに噛み合って動力伝達の準備ができる。
【0019】
1速の場合は、スイッチ62bを入りにして、主変速の油圧クラッチ52を接続させ、ギヤ43からギヤ47への動力伝達の準備ができる。2速の場合は、スイッチ62aを入りにして主変速の油圧クラッチ51を接続させ、ギヤ42からギヤ46への駆動力の伝達準備ができる。このスイッチ62b,62aは副変速レバー12が中立であっても機能するので、先にスイッチ62b又は62aを入り状態にしておいて、後で副変速レバー12を低速又は高速に操作することもある。
【0020】
また、前後進ペダル9を踏むことで走行を開始する。前後進ペダル9の踏み込み量(ポジションセンサ83で検出)に対応して油圧式無段変速装置(HST)7の可変油圧ポンプ7aのトラニオン軸をモータ66で回動させる。
トラニオン軸が回動することで、エンジン3の回転動力は油圧式無段変速装置(HST)7の定容量油圧モータ7bの出力軸27から出力され、得られた動力は出力軸27、伝動軸40、ギヤ40a、ギヤ40b、ギヤ40cおよび主変速軸41へと伝達されていく。
【0021】
主変速軸41の動力は、油圧クラッチ52が接続していると1速が出力され、ギヤ43、ギヤ47、油圧クラッチ52、軸45に順次動力が伝達されていく。油圧クラッチ51が接続される2速の場合はギヤ42、ギヤ46、油圧クラッチ51、軸45に順に動力伝達されていく。
軸45の動力は、ギヤ48b、ギヤ44b、ギヤ37、ギヤ56へと順に伝達される。そして、差動装置53を通過して左右の前輪2が回転する。
【0022】
また、HST7の可変油圧ポンプ7aのPTO駆動軸26は、前後進ペダル9の踏み込みの有無にかかわらず、エンジン3が回転することで常時回転する(エンジン回転数に対応する)。PTO駆動軸26の動力はギヤ29、ギヤ31、ギヤ33、軸32と伝達される。軸32までは常時回転している。
【0023】
PTO油圧クラッチ34を接続すると、軸32の動力は軸35に伝達されて作業機を駆動する。一方、四輪駆動を選択する場合は、四輪駆動レバー(図示せず)を操作して、ギヤ60をギヤ58に噛み合わせる。すると、前記ギヤ56の動力がギヤ57、ギヤ58、ギヤ60、軸61と伝達され、さらに差動装置53を通過して後輪6を駆動する。
【0024】
前記副変速レバー12による変速はギヤスライド式であるため、走行しながらの変速はできない。ただし、ギヤスライド式であってもシンクロが構成されていると走行しながらの変速も可能である。
前記主変速装置の出力は油圧クラッチ52,51による接続で行われるため、走行しながらの変速が可能である。そこで、作業走行中において、スイッチ62b,62aを交互に入り切りすると、1速(作業低速)と2速(作業高速)の切換えができる。
【0025】
また、後進走行時には、前後進ペダル9を踏むことで後進走行を開始する。このときの後進速度は前後進ペダル9の踏み込み量により調整される。すなわち、前後進ペダル9の踏み込み量(ポジションセンサ83で検出)に対応して油圧式無段変速装置(HST)7の可変油圧ポンプ7aのトラニオン軸を前進とは逆方向に回動し、エンジン3の回転動力は油圧式無段変速装置(HST)7の定量油圧モータ7bの出力軸27から前進時とは逆回転で出力される。
【0026】
ブレーキペダル8のみを踏むと、前輪2と後輪6のディスクブレーキ(図示せず)が作動し、さらにトラニオン軸が中立になる。ブレーキペダル8と前後進ペダル9の両方を踏むと、ブレーキペダル8の機能が作動し、CPU100は前後進ペダル9からの信号を無視する。
【0027】
前進走行時(3速と4速)が選択されると、次のような走行制御が行われる。
すなわち3速(低速走行)と4速(高速走行)は、いずれも走行時の低速と高速であり、基本的には作業機を用いる作業はしないが、条件によっては3速で作業機を用いる作業を行う場合もある。副変速レバー12を高速側にすると、副変速装置のギヤ48aがギヤ44aに噛み合って動力伝達の準備ができる。
【0028】
3速の場合はスイッチ62bを入りにすると、主変速装置の油圧クラッチ52が接続して、ギヤ43からギヤ47への動力伝達の準備がなされる。4速の場合はスイッチ62aを入りにする。すると、主変速装置の油圧クラッチ51が接続して、ギヤ42からギヤ46への動力伝達の準備がなされる。
【0029】
本実施例は前後進ペダル9の踏み込み量に応じてHST7のトラニオン軸の回動量が変化する構成である。これは図5のHST制御ブロック図に示すように、前後進ペダル9の踏み込み量に対応して前後進ペダルポジションセンサ83の検出値が変化し、該変化量に応じてパルス的に正転切換リレーR1(踏み込み時)又は逆転切換リレーR2(戻し時)が作動し、モータ駆動回路を経由して電動モータ66によりトラニオン軸の回動角を調整する方式である。また、前後進ペダル9を踏み込むと、逆転切換リレーR2が作動し、前後進ペダル9を戻すと、正転切換リレーR1が作動する。
【0030】
このとき、副変速レバー12の操作を検出する副変速レバーセンサ65が低速(L)側位置にあるときには副変速レバー12が高速(H)側位置にある時に比べて、高速側切換スイッチ62aと低速側切換スイッチ62bのいずれが押されても、高速側油圧クラッチ51又は低速側油圧クラッチ52の接続に要する時間を長くする。
【0031】
また、副変速レバー12が低速側選択時又は高速側選択時のいずれであっても、車速センサ74により検出した車速が一定以下であれば、高速側切換スイッチ62aと低速側切換スイッチ62bのいずれが押されても、油圧クラッチ51,52の接続に要する時間を最も短くする構成とする。この場合、前記油圧クラッチ51,52の接続に要する時間は、少なくとも副変速レバー12が高速側にある時と略同じ時間とするか、または副変速レバー12が高速側にある時よりも早くする。
【0032】
こうして、高速側油圧クラッチ51又は低速側油圧クラッチ52の切り換えがショックなくスムーズに行え、また、登り坂でシフトダウンするときに短期間で切り換えができるので、その切換時に機体の後退を最小限に抑えることができる。
【0033】
なお、作業車両の前後進の切換は、図1(b)に示す前後進ペダル9の操作によりHST7のトラニオン軸(図示せず)の回転方向を切り換えて行う。また図示しないPTO出力軸には路上清掃機を付けて路上清掃を行ったり、雪掻き機を付けて除雪を行うなどの作業を行うことができる。
【0034】
また、足元の前後進ペダル9の操作に対応してHSTトラニオン軸をモータ66で駆動するが、図6に示す可変容量型油圧ポンプ7aと定容量型油圧モータ7bからなるHST油圧閉回路7dの内の油圧モータ7bの両側の油路内の圧力を第1HST圧力センサ76aと第2HST圧力センサ76bによりそれぞれ検出し、各検出圧力が一定値以上になるとトラニオン軸を減速側に動かし、エンストを防止する構成とする。
【0035】
これは、HST油圧閉回路7d内に一定油圧以上の過大な負荷が掛かるとエンジン3がエンストすることがあり、特に傾斜地では油圧クラッチ51,52からなる油圧クラッチ構成の場合にエンジンブレーキが効かず傾斜地に沿って車両が降下するおそれがある。そこで本実施例では上記油圧モータ7bの両側の油圧回路7d内の油圧が一定値以上になるとトラニオン軸を減速側に動かしエンストを防止して、傾斜地での車両の降下を回避することができる。
【0036】
本実施例の多目的作業車は進行方向に対してエンジン3が後方、トランスミッションケース14が前方になるように配置され、且つ後輪6に加えて前輪2も操舵できる構成である。
【0037】
また、本実施例の多目的作業車の走行制御装置は以下の3種類のオートクルーズ走行のいずれかの走行状態を選択できる構成である。
(1)変速装置の変速位置を保持して走行する第一走行状態(負荷一定モード:通常のオートクルーズ走行である。また、例えば作業のメインではないが、庭の芝生の芝刈り作業をしようと思えば、そのような走行状態で走行することができる。
【0038】
(2)多目的作業車の車速を一定に保持して走行する第二車速状態(車速一定モード:路上走行時のオートクルーズ走行状態)
(3)エンジン3の回転数を一定に保持して走行する第三走行状態(ノーマルモード:PTO作業時のオートクルーズ走行モード)
前記3種類の走行状態の選択は3種類の走行状態のいずれかを選択する作業モード設定ボタン80での作業モードの選択とオートクルーズ入切スイッチ82の入り操作の両方を操作することで行われる。
【0039】
また、PTOの入り・切りと関連して、PTOレバー位置センサ67でPTOが入り状態にある時にだけ、前記エンジン3の回転数を一定に保持して走行する第三走行状態を選択する制御ソフトが組み込まれている。さらに、PTOが切り状態にある時には前記第一走行状態(通常のオートクルーズ走行)に自動的に変更される構成である。
【0040】
また、PTOが入り状態にある時にだけ、エンジン3の回転数を一定に保持して走行する第三走行状態になる設定にしておくと、オペレータが状況を判断する必要がなく、多目的作業車が自動的に状況判断をすることができ、しかもエンジントラブルが生じるおそれがなくなる。
【0041】
一方、従来はPTOを使用する作業モード中であるか否かにかかわらず、車速一定モードに入ることができるようになっていたが、PTOを使用する作業モードでの負荷は、PTO系の作業負荷によるため、エンジン回転数が落ちた場合、例えば芝刈り用のモーアの負荷等があるとき、走行速度を増速すると、なおさらエンジン回転数が低下して回復しないことがあった。
【0042】
上記構成からなる作業車の制御装置100を含む制御ブロック図を図5に示し、前記作業モードを含めた走行制御のフローを図7〜図10に示す。
図7のフローチャートに示すように、上記オートクルーズ(第二走行状態)で走行中に減速スイッチ(図示せず)を押し、減速中に車速が閾値(2.0km/h)以下を検出したらトラニオン出力を即座に停止する構成にする。これはトラニオン軸の作動角度の調整で、例えば坂道などを走行中に減速し過ぎてオートクルーズ走行中に作業車が走行停止してしまったり、さらに減速しすぎてバックするおそれがあるので、このような不具合を防止するためである。
【0043】
また、図8のフローチャートに示すように、上記オートクルーズ(第二走行状態)で走行中に減速スイッチ(図示せず)を押し、減速中に車速が閾値(2.0km/h)以下を検出したらトラニオン出力のオン時間を短く出力してトラニオンをゆっくり駆動させる構成としても良い。この場合は減速し過ぎることで、オートクルーズ走行中に作業車が走行停止してしまったり、さらに減速しすぎてバックするおそれをなくすことができる。
【0044】
図9のフローチャートに示すように、上記オートクルーズ(第二走行状態)で走行中に増速スイッチ(図示せず)又は減速スイッチを押して増・減速中にトラニオン軸の作動角度が目標位置に近づいたら(例えば、目標値まで10ビット以内)、デューティー比を短くすることでトラニオン出力時間を短くしてトラニオン軸をゆっくり作動させる構成とすることができる。
【0045】
例えば、増速中にトラニオン軸の作動角度が目標位置以上になる設定車速以上にまで車速が上昇してしまうおそれがあるので、増速度合いをきめ細かく制御して前記目標位置に近づくと微速調整することでオートクルーズ中の増速が使い易くなる。
【0046】
図10のフローチャートに示すように、上記オートクルーズ(第二走行状態)で走行中に増速スイッチを押し、増速中にトラニオンが目標位置に達するか若しくは目標車速に達した場合にはトラニオン出力を停止し、トラニオン軸の作動角度を上記オートクルーズの設定速に戻ったら、その設定速を維持することもできる。
これは、例えば、増速しすぎて微増速させるつもりが大きく増速してしまい使い勝手が良くない。
【0047】
上記作業車の走行速度制御を静油圧式無段変速装置(HST)7のトラニオン軸の作動角度によって制御しているが、作業車が走行地を走行中に作業車の前後方向の勾配角度に応じて、以下のようにトラニオン軸作動角度の最大角度を制御する構成とすることで、燃費の節約と走行安全性を確保することができる。
【0048】
図11(a)に示すように走行地を走行中の作業車の前後方向の傾斜角度に対応する傾斜センサ77の電圧の関係から作業車が走行中の走行地の勾配角度が分かるので、図11(b)に示すように作業車が走行地を走行中に作業車の前後方向の傾斜角度に応じて、トラニオン軸の作動角度を調整する。
【0049】
前記傾斜角度が0°の時にはトラニオン軸の作動角度は前後進ペダル9の踏み加減(センサ出力電圧)に応じて18°〜−18°となる。
作業車が前後方向の勾配角度が前上がり傾斜(傾斜角度プラス側)の走行地を走行中には、例えば前記勾配角度が15°だとすると、トラニオン軸の最大作動角度は図11(b)に示すように12.6°〜−18°とする。逆に作業車が前後方向の勾配角度が前下がり傾斜(傾斜角度マイナス側)の走行地を走行中には、例えばトラニオン軸の最大作動角度は、図11(b)に示すように18°〜−12.6°とする。
【0050】
なお、作業車の前後方向の勾配角度の検出は図11(c)に示すように運転席11の下部に配置した標準時に鉛直方向を向いたプレート78の前傾時と後傾時のポテンショメータ79からなる傾斜センサ77により行う。
【0051】
また、図12(a)に示す車体重量と重量センサ84の電圧の関係から作業車が走行地を走行中の作業車重量を基に、図12(b)に示すように作業車の車体重量に応じて、トラニオン軸の最大作動角度を調整する構成にしても良い。車体の走行負荷は機体重量に比例するので、図12に示す構成により、走行する車体の重量に応じてトラニオンの最大角度を制御することにより、エンストの防止や燃費の向上になる。
【0052】
前記作業車の車体重量が3000kgの時にはトラニオン軸の作動角度は12.6°〜−18°とし、作業車の車体重量が2500kgの時にはトラニオン軸の作動角度は18°〜−18°とし、作業車の車体重量が2000kgの時にはトラニオン軸の作動角度は18°〜−12.6°とする。
【0053】
なお、作業車の車体重量は図13(a)の作業車の側面図に示すように、前後輪2,60の間にある補助輪13と図13(b)に示す前記補助輪13の回転軸13aを支持するロッド85と該ロッド85の上端部に設けたステー86内に収納されたスプリング87と補助輪13を上下方向に伸縮自在に支持するロッド85の上下方向の移動量を測定するポテンショメータ90とからなる重量センサ84で測定する。
【0054】
図14(a)に本実施例の作業車の右側面図を示し、図14(b)にその平面図を示すが、エンジン3を機体後部に搭載し、機体中央部の上部に網93を設けた空気吸入口94aを有するフード94を設け、エンジン3とラジエータ95を冷却する空気流路の空気吸入口94aの近傍にオイルクーラ96を縦長に設置して、さらにそのオイルクーラ96の上部吸気面積より下部吸気面積を狭くし、さらにエンジン搭載部の後部に吸引ファン98を設けて、吸引ファン98によって機体前方から後方に風を送る構成を採用する。
【0055】
空気を機体内に吸入する場合、オイルクーラ96の上流側にある空気吸入口94aの空気流路の開口面積に比べ、下流側にある空気流路の開口面積を小さくし、空気流路の最下流部に配置された吸引ファン98により空気を吸引すると、オイルクーラ96に当たる空気の速度が速くなり、冷却効率が向上し、機械寿命も向上する。
【0056】
特に、作業車に作業機の中でも装着率の高い草刈機を装着すると、機体前部に埃が舞い上がるので、従来の空気吸入口94のように機体側方の低い部分から空気を吸うと、この埃を吸うことになり、ラジエータ95の目詰まりを誘引して冷却効率が低下する。そこで、機体中央部の高い場所から空気を吸引する構成にすることで、埃を吸うことが軽減されるので、ラジエータ95の目詰まりが無くなる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、広範囲な作業を可能にした多目的作業車としてトラクタ、芝刈り機などに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施例の作業車両の左側面図(図1(a))と操縦室の一部斜視図(図1(b))である。
【図2】図1の作業車両のトランスミッション内の動力伝動系統図である。
【図3】図2の動力伝動系統図の部分拡大図である。
【図4】図1の作業車両の副変速レバーの操作部の斜視図である。
【図5】図1の作業車両のHST制御ブロック図である。
【図6】図1の作業車両の静油圧式無段変速装置(HST)の油圧閉回路図である。
【図7】図1の多目的作業車の変速制御フローチャートを示す図である。
【図8】図1の多目的作業車の変速制御フローチャートを示す図である。
【図9】図1の多目的作業車の変速制御フローチャートを示す図である。
【図10】図1の多目的作業車の変速制御フローチャートを示す図である。
【図11】図1の多目的作業車の傾斜センサ電圧と前後方向の傾斜角度との関係を示す図(図11(a))と作業車が走行地を走行中に作業車の前後方向の傾斜角度とトラニオン軸作動範囲を示す図(図11(b))であり、運転席の下部に配置した傾斜センサの構成図(図11(c))である。
【図12】図1の多目的作業車の重量と重量センサ電圧の関係を示す図(図12(a))と作業車の重量とトラニオン軸作動範囲を示す図(図12(b))である。
【図13】重量センサを備えた図1の多目的作業車の側面図(図13(a))と重量センサの拡大図(図13(b))である。
【図14】図1の多目的作業車の変形例を示す右側面図(図14(a))と平面図(図14(b))である。
【符号の説明】
【0059】
1 ステアリングハンドル 2 前輪
3 ディーゼルエンジン 5 操縦室
6 後輪 7 静油圧式無段変速装置
7a 可変容量型油圧ポンプ
7b 定容量型油圧モータ 7c 油圧入力軸
7d 油圧閉回路 8 ブレーキペダル
9 前後進ペダル 10 昇降リンク
11 運転席 12 副変速レバー
13 補助輪 13a 回転軸
14 ミッションケース 15 前ケース
16 繋ぎケース 17 中間ケース
18 後ケース 19 入力軸
20 インプットケース
21、22、24、25 ギヤ
23 第一中継軸 26 PTO駆動軸
27 出力軸 28 駆動軸
29、31 ギヤ 32 PTO後カウンタ軸
33 カウンタギヤ 34 PTOクラッチ
35 PTO前カウンタ軸 37 前輪駆動ギヤ
40 伝動軸
40a、40b、40c ギヤ
41 主変速軸(クラッチ軸)
42 大ギヤ 43 中ギヤ
44a 副変速高速用小ギヤ
44b 副変速低速用大ギヤ
45 クラッチ軸
46、47 変速クラッチギヤ
48a 副変速高速用大ギヤ
48b 副変速低速用小ギヤ
49 高速側油圧クラッチソレノイド
50 低速側油圧クラッチソレノイド
51 高速側油圧クラッチ
52 低速側油圧クラッチ
53 差動装置 56 後輪駆動ギヤ
57 カウンタギヤ 58 ギヤ
60 後輪出力ギヤ 61 後輪駆動軸
62a,62b 主変速(高・低切換)スイッチ
64 レバーガイド
65H、65L 副変速レバー位置センサ
66 電動モータ
67 PTOレバー位置センサ
68 低速用ソレノイド 69 高速用ソレノイド
70a、70b トラニオン軸ポジションセンサ
73 前後進切換用スイッチ
74 車速センサ
75 HST出力軸回転センサ
76a 第1圧力センサ 76b 第2圧力センサ
77 傾斜センサ 78 プレート
79 ポテンショメータ 80 作業モード設定ボタン
81 動作モード設定ボタン
82 クルーズコントロール入切スイッチ
83 前後進ペダルポジションセンサ
84 重量センサ 85 ロッド
86 ステー 87 スプリング
90 ポテンショメータ 93 網
94a 空気吸入口 94 フード
95 ラジエータ 96 オイルクーラ
98 吸引ファン 100 制御装置
R1 正転切換リレー R2 逆転切換リレー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(3)と該エンジン(3)の動力を変速して所定の車速を出力する変速装置とを車体上に備えた多目的作業車において、
前記作業車の車速を検出する車速センサ(74)と、
走行地の車体の前後方向の勾配を検出する傾斜センサ(77)及び/又は車体の重量を検出する重量センサ(84)と、
前記傾斜センサ(77)及び/又は重量センサ(84)の検出値に応じて変速装置の出力を所定の範囲内に制限する制御装置(100)を備えたことを特徴とする多目的作業車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−38191(P2010−38191A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−198789(P2008−198789)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】