説明

孔を有する樹脂成形体の製造方法

【課題】低歪で、孔の寸法精度に優れ、かつウエルドラインが消失された状態で射出成形により孔が設けられた樹脂板を製造する方法を提供する。
【解決手段】キャビティ壁部の一部に孔を設け、この孔に挿入されて往復運動する孔ピン5を有する可動側金型1と固定側金型3とを型締めして成形キャビティを形成し、該孔ピン5が完全に孔に挿入されていてキャビティ壁部面が実質的にフラットな状態において、このキャビティ内に溶融した熱可塑性樹脂8を射出充填した後、樹脂のコア層の温度がガラス転移温度+30℃以上の時点で該孔ピン5を孔から突出させてキャビティに押し込み、その後コア層の温度がガラス転移温度以下まで冷却されてから金型内で該孔ピン5を該孔に完全に戻し入れて成形樹脂に該孔ピン5に対応する孔を形成し、しかる後成形体を金型から離脱させることにより孔を有する樹脂成形体とりわけ樹脂板を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、孔を有する樹脂成形体とりわけ樹脂板の製造方法、並びにかかる樹脂成形体なかんずく樹脂板に関する。詳しくは、本発明は、孔を有する樹脂板であって、孔の寸法精度、および生産性に優れた樹脂板の製造方法並びにかかる樹脂板に関する。かかる樹脂板の製造方法およびその樹脂板は、液晶ディスプレイ保護材に代表される偏光画像を透視する用途に好適である。更にかかる樹脂板はその強度の点から芳香族ポリカーボネート樹脂製の板が有用である。
【背景技術】
【0002】
ガラス板を芳香族ポリカーボネート樹脂に代表される熱可塑性樹脂製の板に代替する試みは従来から幅広い分野で実施されている。その目的は、軽量化、安全性の向上、およびガラスでは不可能な態様での利用などを達成することにある。ガラスでは不可能な態様での利用の具体例としては、孔を有する板を後加工でなく直接に製造すること、並びに板に釘打ちやネジ込みなどの後加工を施すことが例示される。釘打ちやネジ込みなどの後加工は、例えば板が、パチンコやピンボールに代表される遊技具における遊技盤に利用される場合に必要とされる。近年、透明な遊技盤を通して液晶パネルを視認するものが提案され、一部実用化されている。透明な遊技盤は遊技球を通過させる盤だけでなく液晶パネルの保護板として機能する。
【0003】
ガラス板が利用されていた分野では、樹脂板にもガラス並に少ない歪が求められる場合が多い。特に、液晶パネルの保護板では、偏光による画像が視認されることから、樹脂板の歪は画像本来の色彩を損ない好ましくない。
【0004】
しかしながら、上記のように樹脂板上に孔が存在する場合、孔周辺に歪が生じやすい。また互いに離れた位置に存在する複数の孔が存在する場合には孔の精度が不十分となりやすい。これらはいずれも投影面積の大きい大型の樹脂板において生じやすいことが認められる。更に孔の存在はいずれの場合も孔の周囲にウエルドラインを生成させる。かかるウエルドラインもまた樹脂板の外観を損ない、樹脂板の用途を制限するものであった。
したがって、孔が設けられた樹脂板を、低歪で、孔の寸法精度に優れ、かつウエルドラインがない状態で射出成形により製造することが求められている。
【0005】
レンズに代表される光学成形品の射出圧縮成形法に関して、一旦大きく拡大された金型キャビティ内に樹脂を充満させた後に、シリンダからの樹脂圧と型内コアによる圧縮の圧力とをバランスさせて所定の成形品を得る方法は公知である(特許文献1参照)。
【0006】
特定の平行度矯正手段を備えた射出圧縮成形装置、および該装置は金型間に高い平行度が出現しているため、金型同士のかじりや破損などの不具合を確実に防止し、高品質な成形品を長期間に亘って製造可能であることは公知である(特許文献2参照)。またかかる成形装置によれば、大型で低歪のポリカーボネート樹脂からなる成形品が得られることも公知である。
【0007】
孔を有する成形体を射出成形する方法としては、孔を形成するためのコアピンを予め金型のキャビティ内部にその両端を固定支持してから、成形材料を射出して孔を有する成形体を成形する方法が記載されている。(特許文献3参照)しかしながら、孔が密集した形状の成形体を作製する場合、キャビティ内部に多数のピンが配置された状態ではピンが樹脂の流動の抵抗となり、更に樹脂の温度を低下させることにより樹脂の流動性が著しく低下し、長いウエルドラインやフローマークといった外観不良を生じる。更に、成形体が厚肉の場合、ピンが樹脂と接する部分が大きくなる為、ピンに掛かる負荷が大きくなりピンが破損する問題が生じる。更に、ピンが破損しない場合でも冷却固化による樹脂の収縮により離型不良が生じ成形体が変形する。
【0008】
【特許文献1】特開2000−006216号公報
【特許文献2】特開2003−048241号公報
【特許文献3】特開平4−261802号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記の従来技術はいずれも孔が設けられた樹脂板を、低歪で、孔の寸法精度に優れ、成形体の変形無く離型でき、かつウエルドラインが無い成形体を射出成形により製造するための有用な知見を十分に開示しているとはいい難いものであった。本発明は、かかる実情に鑑みなされたものであり、かかる樹脂板の射出成形による製造を可能とすることにある。
【0010】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、金型内にて孔をあける為のピンを圧入・引抜く成形法と射出圧縮成形方法の組合せにより低歪で、孔の寸法精度に優れ、成形体の変形無く離型でき、かつウエルドラインが無い成形体を射出成形により上記課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する手段としては、(1)射出成形法を用いて熱可塑性樹脂より樹脂板を製造する方法であって、キャビティ壁部の一部に孔を設け、この孔に挿入されて往復運動する孔ピンを有する一方の金型と他方の金型とを型締めして成形キャビティを形成し、該孔ピンが実質的に完全に孔に挿入されていてキャビティ壁部面が実質的にフラットな状態においてこのキャビティ内に溶融した熱可塑性樹脂を射出し充填した後、樹脂のコア層の温度がガラス転移温度+30℃以上の時点で該孔ピンを孔から突出させてキャビティに圧入し、その後にコア層の温度がガラス転移温度以下まで冷却された後に金型内で該孔ピンを該孔に実質的に完全に引入れて成形樹脂に該ピンに対応する孔を形成し、しかる後成形体を金型から離脱させることを特徴とする、孔を有する樹脂成形体とりわけ樹脂板の製造方法である。
【0012】
本発明の好適な態様の1つは、(2)金型同士が中間型締め状態に型締めされた金型キャビティ内へ溶融した熱可塑性樹脂を射出し、該孔ピン圧入から該孔ピン引き入れまでの間に最終型締めを行う上記構成(1)に記載の樹脂板の製造方法である。
【0013】
本発明の好適な態様の1つは、(3)上記最終型締めを行う際に、樹脂に加える圧力は5〜50MPaの範囲であり、その加圧時間は成形品の肉厚をt(mm)としたとき、0.7t〜3t(秒)の範囲である上記構成(1)〜(2)に記載の樹脂板の製造方法である。
【0014】
本発明の好適な態様の1つは、(4)該中間型締め状態から最終型締め状態までの型移動領域において、固定側金型と可動側金型との間の傾き量および捩れ量をtanθとしたとき、tanθの最大値が0.000005〜0.002の範囲に平行度制御手段を用いて制御される上記構成(2)または(3)に記載の樹脂板の製造方法である。
【0015】
本発明の好適な態様の1つは、(5)上記平行度制御手段は、金型取り付け盤に配設された複数の型締め機構の伸縮を調整することにより平行度を制御する手段である上記構成(4)の樹脂板の製造方法である。
【0016】
本発明の好適な態様の1つは、(6)上記平行度制御手段は、型締め機構による型締め力に対抗して矯正力を金型の取り付け面に対して付与する複数の矯正力付与機構の伸縮を調整することにより平行度を制御する手段である上記構成(5)の樹脂板の製造方法である。
【0017】
本発明の好適な態様の1つは、(7)上記樹脂板は、その厚みが3〜20mmの範囲である上記構成(1)〜(6)の樹脂板の製造方法である。
【0018】
本発明の好適な態様の1つは、(8)上記樹脂板は、孔径が0.5〜10mmの範囲であり、好ましくは深さが2mm〜基板厚みの範囲である孔を有する樹脂板である上記構成(1)〜(7)の樹脂板の製造方法である。
【0019】
本発明の好適な態様の1つは、(9)上記樹脂板は、貫通しない孔を有する樹脂板である上記構成(1)〜(8)の樹脂板の製造方法である。
【0020】
本発明の好適な態様の1つは、(10)上記樹脂板は、ゲートから流動末端までの流動長が150〜1,800mmであり、その最大投影面積が200〜40,000cmである上記構成(1)〜(9)の樹脂板の製造方法である。
【0021】
本発明の好適な態様の1つは、(11)上記熱可塑性樹脂は、芳香族ポリカーボネート樹脂好ましくは粘度平均分子量が1.5×10〜3.0×10である芳香族ポリカーボネート樹脂である上記構成(1)〜(10)の樹脂板の製造方法である。
【0022】
本発明の好適な態様の1つは、(12)上記構成(1)〜(11)に記載の方法で製造された成形板、好ましくは車両、船舶および航空機などの輸送機器の車輌屋根を含む樹脂製窓ガラス用の部材またはパチンコ遊戯板の部材である。
【0023】
以下、本発明の詳細について説明する。
<要件−(i):孔の作成方法>
本発明の孔を有する樹脂板を作製する工程のうち、樹脂板に孔をあける工程に用いる方法は下記のとおりである。すなわち、キャビティ壁部の一部に孔を設け、この孔に挿入されてキャビティ内に突出したり、該孔内に引入れられたりの往復運動をする孔ピンを有する一方の金型と他方の金型とを型締めして成形キャビティを形成し、該孔ピンが実質的に完全に孔に挿入されていてキャビティ壁部面が実質的にフラットな状態においてこのキャビティ内に溶融した熱可塑性樹脂を射出し充填した後、該孔ピンを孔から突出させて該孔ピンを溶融樹脂中に圧入し、その後に金型内で該孔ピンを孔内に移動し、しかして樹脂中にピンに対応した孔を形成する方法である。
【0024】
金型の孔ピンの駆動方法としては、孔ピンを固定したプレートを成形機のイジェクタにより駆動させてもよいが、離型時にも孔ピンが駆動してしまう為、孔ピンを固定したプレートを油圧シリンダにより駆動することが好ましい。
【0025】
該孔ピンは、樹脂のコア層の温度がガラス転移温度+30℃以上の時点、好ましくはガラス転移温度+50℃以上の時点、より好ましくはガラス転移温度+60℃以上の時点でキャビティに圧入し、その後、コア層の温度がガラス転移温度以下、より好ましくはガラス転移温度―10℃以下、より好ましくはガラス転移温度―20℃以下まで冷却された後に金型内で引抜く。樹脂が充填される前に孔ピンを圧入すると、孔ピンが樹脂の流動抵抗になるだけでなく、孔ピンの温度は樹脂の温度に比べてはるかに低い為、樹脂が冷却されて流動性が著しく低下する。特に成形品の肉厚が厚い場合や成形品が大きい場合には孔ピンに掛かる流動抵抗力が非常に大きくなり、孔ピンが屈曲したり破断するなどの問題を生じる。また、樹脂の温度がガラス転移温度+30℃以下の時点で孔ピンを圧入すると樹脂の溶融粘度が高く、孔ピンが圧入できなかったり、孔ピンに過大な負荷がかかり孔ピンが屈曲したり破壊するなどの問題を生じる。さらに、樹脂のコア層の温度がガラス転移温度以上の時点で孔ピンを引抜くと、樹脂が高温で軟らかい為、保持圧力や孔ピンの引抜き力や樹脂の収縮により孔が変形してしまう。また、同様の理由により、射出圧縮成形を用いる場合には、最終型締め後に該孔ピンの引抜くことが好ましい。なお、ここで言う樹脂のコア層とは樹脂をキャビティに充填した際に金型に接して固化している非常に薄い層(スキン層)より内側の溶融層のことである。コア層の温度を知る方法としては市販の流動解析ソフトにてコンピュータシミュレーションする方法や、樹脂温度と金型温度から簡易的に計算する方法などを用いてもよいが、ピン型温度センサをキャビティ内に配置して温度を測定することが好ましく、その方法によりコア層の正確な温度を知ることができる。
【0026】
孔径は、小さな孔径にする場合、孔ピン径が小さくなる為、成形品が大型で厚肉の場合には流動抵抗などにより孔ピンが破損してしまう。逆に、大きな孔径にする場合は孔ピン径が大きくなる為、成形品が大型で厚肉の場合には孔ピンを圧入する為に必要な力が非常に大きくなり、目的とする孔深さまで圧入することが困難となる。これらの内容を鑑みて本発明の孔ピン径および樹脂板の孔径は、0.5mm〜10mmが好ましく、1mm〜8mmがより好ましく、1.5mm〜5mmが最も好ましい。また、孔の深さは2mm〜基板厚みの範囲であるのが好ましく、2mm〜15mmがより好ましく、2mm〜10mmが最も好ましい。
【0027】
本発明の樹脂板の孔の形状は特に限定されない。釘、ピンおよびネジなどの打ち込みまたはねじ込みに対応しやすい形状としては、円柱形、楕円柱形、多角柱形が好ましい。なお、孔の形状は孔ピンの形状を決めることにより決めることができる。孔は、板表面に対して任意の角度で設けることができる。
【0028】
<要件−(ii):射出圧縮成形>
(金型の中間型締め状態)
本発明において溶融樹脂は、予め圧縮ストローク分だけ余分に開いた金型キャビティ内に射出充填される。かかる圧縮ストロークと樹脂板の厚みとの合計量は、目的とする樹脂板の厚みに対して、好ましくは1.01〜3倍の範囲、より好ましくは1.05〜2倍の範囲、更に好ましくは1.1〜1.8倍の範囲である。かかる圧縮ストロークの適正値は、成形品の厚みや使用される樹脂の溶融粘度により異なる。例えば樹脂板の厚みが10mm以上、好ましくは12mm以上の場合には、圧縮ストロークの絶対値は、好ましくは0.2〜3mmの範囲、より好ましくは0.3〜2mmの範囲である。成形品の厚みが少ない場合には、圧縮ストロークを大きくとることが好ましい。
【0029】
(樹脂の充填)
溶融樹脂の充填はいかなる方式であってもよいが、インライン・スクリュー方式が装置の効率上最も好ましい。尚、本発明の射出成形は流動射出成形(Flow−Moulding)と称される充填方法を含む。本発明のゲートシールは機械的シールであることが好ましい。かかる機械的シールは、成形機のノズルであっても、金型内であってもよい。金型内の機械的シールとしては、バルブゲート型のホットランナ、およびゲート付近の金型駒をスライドさせてゲートシールおよびゲートカットするスライド駒などが例示される。またバルブゲートはピン構造が好ましい。成形機ノズルの機械的シールは、バルブピンやロータリーバルブなどの構造が好ましい。例えばDFCノズルと称される成形機ノズルの利用が可能である。
【0030】
更に溶融樹脂の射出充填にあたって、金型キャビティ内に二酸化炭素を注入しておくこともできる。印籠構造の金型においては金型キャビティ内の空気が抜けにくい場合がある。二酸化炭素の注入は、かかる場合にもガスの巻き込みを生ずることなく樹脂ヤケを防止する。更に二酸化炭素の断熱作用は、成形品の低歪み化やウエルドラインの解消の向上に作用する。二酸化炭素の金型キャビティへの注入は公知のいかなる方法であってもよいが、金型のパーティング面からの注入が好ましい。注入圧力は1〜3MPaが好適である。かかる圧力を維持するためパーティング面には漏れ防止のためのOリングが入れられる。
【0031】
(金型の最終型締め状態)
最終型締めは金型同士が中間型締め状態に型締めされた金型キャビティ内へ溶融した熱可塑性樹脂を射出した後、孔ピンを圧入し、引き入れまでの間に行う。この最終型締めは閉鎖されたキャビティ中で行うことも、一部開放されたキャビティ中で行うこともできる。閉鎖されたキャビティとは、樹脂の流動する余地のない閉ざされた状態のキャビティをいう。かかるキャビティは、ホットランナのバルブの閉鎖、および完全なゲートシールにより達成される。更にシリンダー側から付加する樹脂圧力と圧縮圧力との平衡が維持された状態が含まれる。一方、一部開放されたキャビティでは、樹脂の流動する余地がある開放されたキャビティをいう。例えば、オープンノズルで樹脂が大きくフローバックされる場合や、捨てキャビが設けられて樹脂が圧縮によって流入する場合などがある。成形品の品質を安定化させるためより好ましいのは閉鎖されたキャビティにおいて圧縮を行う方法である。
【0032】
最終型締め工程において、可動側金型パーティング面と固定側金型のそれとは接触(以下、“型面タッチ”と称する場合がある)しないことが好ましい。型面タッチがある場合、所定の圧力が樹脂に十分に伝わることがなくなり、寸法精度に優れた低歪みの成形品は得難くなる。可動側金型のパーティング面と固定側金型のそれとの距離は、好ましくは0.05〜3mmの範囲、より好ましくは1〜2mmの範囲である。3mmを超える設定とした場合には成形品形状によっては可動側金型の倒れが生じ製品にバラツキが生じやすくなる。また0.05mm未満の場合には十分な制御が困難となり、連続の成形において型面タッチが生ずる場合がある。
【0033】
更に中間型締め状態から最終型締め状態までの金型の移動速度は、0.5mm/sec以上が好ましく、1mm/sec以上がより好ましく、10mm/sec以上が更に好ましい。L/Dの高い成形品ほど高い金型容量の拡大倍率が必要となり速い移動速度が求められる。成形品の歪みを低減するためには金型内部の溶融樹脂の熱的分布の変化が少ない間に所定の最終型締め状態までの圧縮工程を終了することが重要なためである。かかる移動速度がより速いほど大きい圧縮ストロークに対応できる。したがって移動速度は可能な限り高いことが好ましいが、現時点では事実上40mm/sec程度が装置上の限界となっている。35mm/secのレベルであれば、本発明の所定の平行度を維持しつつその速度制御が可能である。尚、かかる移動速度は平均値であり、圧縮動作時において一定である必要はない。但し、上限はいかなる時点においても35mm/sec程度が好ましい。
【0034】
また樹脂への圧縮は、通常これらの可動側金型と樹脂とが直接に接触することにより行われるが、流体の如き圧力伝達媒体がこれらの間に介在して行われてもよい。
金型キャビティ内の溶融樹脂は、最終型締め状態後も取り出し可能になるまでの間、所定の加圧がなされ、最終の樹脂板に形成される。かかる加圧の適正な保持時間は、成形品の厚みに依存し厚みが厚くなるほど適正な時間は長くなる。かかる保持時間は、基本的に樹脂の厚みの2乗に比例する。10mm厚みの樹脂板で240±60秒の範囲が好ましいことから、かかる関係より適切な加圧時間が採用される。
【0035】
(最終型締め時の圧力)
金型キャビティ内の樹脂に加える最終型締めにおける圧力は好ましくは5〜50MPaの範囲である。かかる圧力とすることにより、変形がなく高外観で、低歪み性の成形品が達成される。上記の圧力が5MPa未満では溶融樹脂の圧縮が不十分となり、樹脂板表面にヒケまたはうねりなどが生じやすくなる。一方、50MPaを超える場合圧力は、成形品中の歪みを大きくしやすい。上記の圧力は10MPa以上が好ましく、15MPa以上が更に好ましい。上記の圧力は40MPa以下が好ましく、30MPa以下がより好ましく、27MPa以下が更に好ましい。該圧力は正確にはキャビティ表面に設置された圧力センサーによって測定することが可能である。一方、おおよその数値については可動側金型を前進させるための圧力設定値から読み取ることが可能である。
【0036】
ここで上記の圧力は樹脂に実質的に掛けられる圧力である。したがって本発明の目的を損なわない範囲において、50MPaを超える圧力を短時間かけることも可能である。例えばキャビティ表面に対する転写性をより向上させることが必要な場合などに有効である。即ち一旦高い圧力で圧縮した後、上記の特定圧力に戻して歪み分を適正に緩和させることも可能である。また上記圧力は樹脂に加える圧力であることから、可動側金型の型面タッチがないことが前提である。型面タッチがある場合には所定の圧力を樹脂に伝えることができない。
【0037】
<要件−(iii):平行度制御手段>
本発明の射出圧縮成形は、いわゆる射出プレス成形法と称される比較大きな圧縮ストロークを予め設けた成形法を含む。溶融樹脂は、予め圧縮ストローク分だけ開いた金型キャビティ内に射出充填され、充填中または充填完了後に可動側金型を移動させて、最終型締めを行う。かかる成形法ではバリの発生を防止するため、金型キャビティとコアとを印篭構造にした押し切りタイプの金型が用いられる。貫通孔周囲に生じるバリはその後処理に多くの工数を要するため、本発明の如き樹脂板の成形では、その発生が極力抑制されることが望まれる。したがって、貫通孔部分のキャビティとコアとのクリアランスが、成形作業中においても厳密に維持されることが必要とされる。
【0038】
更に距離の離れた複数の孔が樹脂板表面上に存在する場合には、かかる孔に対応する金型キャビティ内の突起が、樹脂板から引き抜きされる必要がある。引き抜き方向が場所によって相違すると、成形品の一部に大きな残留応力が生じると共に各孔での寸法精度にバラツキが生じる。後者の問題は、すべての孔が本来同じ寸法である設計がなされる場合により重要となる。例えば、かかる孔に配設される釘やネジなどの固定強度にバラツキの原因となる。
【0039】
本発明では、上記の如くクリアランスを正確に維持し、各孔の寸法精度のバラツキを抑制するための製造要件として、該射出成形は、少なくとも該中間型締め状態から最終型締め状態までの型移動領域において、固定側金型と可動側金型との間の傾き量および捩れ量をtanθとしたとき、tanθの最大値が0.000005〜0.002の範囲、好ましくは0.00001〜0.0008、より好ましくは0.000015〜0.0003であることを必要とする。
【0040】
(平行度の基準)
平行度の基準は、その成形で採用された平行度制御の基準に基づく。平行度の基準は従来公知の各種の方法を取ることができるが、好ましくは次の2点のいずれかが採用され得る。
【0041】
第1は、射出成形機が有する平行位置を平行度の基準に使用する場合である。かかる平行位置は、精密に作製された基準金型が固定側金型取り付け盤(以下“固定盤”と略称することがある)と可動側金型取り付け盤(以下“可動盤”と略称することがある)に取着されて平行状態とすることにより求められる。かかる平行状態において平行度を検出する各センサーの値を補正し、平行位置が決定され、以後の平行度算出の基準とされる。例えば、位置センサーの使用では、かかる平行状態での位置を全てのセンサーにおいて原点(0点)として入力する方法が代表的に例示される。
【0042】
第2は、固定盤と可動盤に取着された、成形に使用する金型に倣った平行位置を平行度の基準とする場合である。かかる平行位置は、成形に使用する金型が固定盤と可動盤に取着されたときの状態を平行状態と定めることにより求められる。後述するとおり本発明では、平行度制御手段が金型取り付け盤の複数箇所に型締め機構が設置され、かかる複数の機構の伸縮を調整することにより平行度を制御する手段である態様が好ましい。かかる態様での好適な平行位置の決定方法は次のとおりである。固定盤と可動盤に金型を取着して、平行位置を決定する操作を行う。かかる操作時に各型締め機構における圧力が射出圧縮成形時のプレス圧力に対して、所定の割合に到達するまで型を押し付ける。いずれの型締め機構もかかる所定の割合に到達したときを平行位置と決定する。かかる所定の割合は90%が好ましい。得られた平行位置が以後の平行度算出の基準とされる。
【0043】
(傾き量および捩れ量)
上記の如く決定された平行位置が、傾き量および捩れ量であるtanθが0の状態とされる。かかる状態からの平行度のズレがtanθで表される。本発明の好適な態様において、平行度制御手段やその平行度を算出するためのセンサーは、金型取り付け盤の外周部近傍の4箇所に配設される。かかる手段やセンサーの位置関係は、基準平行面に投影されたとき互いに上下軸および左右軸のいずれにおいても軸対象とされる。ここで基準平行面とは上記の平行位置関係にある固定盤の面および可動盤の面の何れにも平行な面である。通常、平行からのズレは可動盤の位置ズレにより生ずることから、基準平行面とは固定盤の面と考えてよい。
【0044】
かかる場合においては、傾き量とは上下左右の位置関係にあるセンサー間での平行からのズレを表し、捩れ量とは対角の位置関係にあるセンサー間での平行からのズレを表す。即ち、2つのセンサー間の関係において、それぞれのセンサーにおける基準原点からの距離の差をΔLとし、かかるセンサー間の基準平行面内での距離をHとすると、傾き量および捩れ量を表すtanθは、tanθ=ΔL/Hとなる。したがって本発明においては、金型取り付け盤の外周部近傍に配設された4個のセンサー間の位置関係において、ΔL/H=tanθで表される傾き量および捩れ量の最大値が、いずれも0.000005〜0.002の範囲であることが求められる。
【0045】
本発明では、かかるtanθの最大値が0.000005〜0.002の範囲に平行度制御手段を用いて制御され、好ましくは0.00001〜0.0008の範囲、より好ましくは0.000015〜0.0003の範囲である。傾き量および捩れ量が上記範囲の下限を下回る場合は、機械的な制御が困難となる。一方、傾き量および捩れ量が上記範囲の上限を上回る場合は、次の不具合が生じて良好な樹脂板は得られにくい。金型キャビティのクリアランスが小さい場合には、成形時の金型のかじりが発生して、安定した製造が困難となる。かかるかじりを避けるために金型キャビティにおけるクリアランスを大きくすれば、樹脂板にバリが発生し易くなる。また距離の離れた複数の孔が存在する場合には、各孔の寸法精度がバラツキやすくなる。
【0046】
成形時、かかる平行度が特定範囲内となるように可動盤の平行度が制御される。即ち、好適な態様においては、各センサー間の原点からの距離の差異が特定範囲内となるように制御される。かかる距離の最大差異は、好ましくは20〜500μmの範囲、より好ましくは20〜200μmの範囲、更に好ましくは30〜70μmの範囲に制御される。10μm未満の制御は、型締め速度の制限が大きくなりやすく、汎用的でなく500μmを超えると平行度のズレに伴う不具合が生じやすくなる。
【0047】
上記の如く、平行度を監視するためのセンサーは各時点での位置および原点からの距離が精密に測定できるものが好ましい。この点でかかるセンサーとしてはリニアスケールが最適である。リニアスケールは、磁気検出方式および光学検出方式のいずれであってもよいが、その分解能は好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下、更に好ましくは1μm以下である。分解能の適切な下限は0.1μm程度である。一方でその精度は、好ましくは±50μm以下、より好ましくは±20μm以下、更に好ましくは±10μm程度である。精度の適切な下限は±3μm程度である。かかるリニアスケールの位置および距離の情報によって、本発明に必要な平行度制御が達成される。
【0048】
(平行度制御手段の制御方法)
以下、更に平行度の制御方法に関する代表的な方法について説明する。かかる説明では平行度の基準となる量を“型締めシリンダの距離”とし、かかる距離が複数の型締めシリンダにおいて同一である場合に固定側金型と可動側金型との平行が達成されるものとして説明する。これは、各センサーにおけるそれぞれの原点からの距離、並びに各型締め機構または矯正力付与機構におけるそれぞれの原点からの距離は、通常平行状態において等しくなるように設定され、“型締めシリンダの距離”とする方が理解しやすいためである。“型締めシリンダの距離”は、固定盤と可動盤との距離が近づくほど短くなるものとする(例えば、上記平行位置決定の操作における型を押し付けた最終位置を距離0とするなど)。下記の平行度の制御方法は、上述の構成(5)および(6)のいずれの態様においても利用可能であるが、構成(5)において適用されることが好ましく、また構成(5)はかかる平行度の制御を可能とする平行度制御手段である。
【0049】
平行度の調整は、各型締めシリンダの現在位置と、次の移動位置への指示値との差をマイクロコンピューターにより演算して、各型締めシリンダを作動させて平行度を制御する。次に移動する位置への指示値は、複数のセンサーのうち、型締めシリンダの距離が最短である位置とするのが適切である。またかかる位置よりも型締めシリンダの距離が更に短くなる位置を指示値としてもよい。更に型締めシリンダの距離が最長の位置と最短の位置との中間としてもよいが、このときにはかかる中間値より距離が近い部分の型締めシリンダは距離が短くならないように制御される必要がある。平行が達成された場合には、同じ移動距離の指令を出し、平行度を制御しながら型締めを行う。
【0050】
また別の方法として、所定のしきい値を設けて各型締めシリンダの距離の最大差異がその範囲内であるときは、同じ移動距離の指令を出し、かかる範囲を外れた場合には、各型締めシリンダをそれぞれに作動させて平行度を制御する方法もある。
【0051】
上記平行度の制御方法は、より具体的には、特開平5−269749号公報、特開平5−269750号公報、および特開平5−269751号公報などに開示された方法が利用できる。かかる方法では、基本的に目標位置に偏差なしでそろって到達するため、速度の積分をフィードバック、即ち速度の積分としての位置が比例制御される。一方で、平行に制御して型締めを行うためには、型締めシリンダの伸縮に伴う傾きや捩れを矯正するように各型締めシリンダへの指令値を修正する必要がある。かかる修正においては、各型締めシリンダの距離から全型締めシリンダの算術平均距離を算出し、各型締めシリンダにおけるかかる平均距離との差の積分をフィードバックして、平均距離からの差がゼロとなるように制御して、平行が達成される。かかる制御においては上下左右の傾きおよび対角線の捩れが同じ重みでフィードバックされることになる。
【0052】
更に型締めが追い込まれ樹脂反力が一部大きくなると、圧縮の速度が維持できなくなる。この場合、各型締めシリンダの遅れ量の大きさが、所定のしきい値との大小の比較により判定される。遅れ量が上限しきい値を超える場合には、減速の指令を出して遅れ量の増大を緩和し、一方で平行が保たれ、遅れ量が下限のしきい値を下回る状態では、速度の指令値を増加させるとの制御を繰り返す。かかる制御によって平行度を保ちながら、所定の金型移動速度による型締めが達成される。
【0053】
また、金型移動の立ち上がり時においては、次のような制御が好ましい。即ち、最短距離の型締めシリンダには、ゼロもしくは所定量短くなる指令値を、他の型締めシリンダには、少なくとも最短距離の型締めシリンダと等しいか該シリンダの短縮量よりも大きい指令値をだすことによる平行制御が好ましい。例えば、最短距離の型締めシリンダを基準として同じ縮小量を型締めシリンダに指令し、所定の位置に到達したら全型締めシリンダをそれぞれ単独に制御して距離を縮小する。このとき上述の定常的な平行制御、即ち全型締めシリンダの平均値と各型締めシリンダとの差を把握して傾きおよび捩れを補正する制御を行う。尚、かかる同じ縮小量は、各型締めシリンダの距離の平均値と最短距離との差以上とするのが好ましい。
【0054】
また、金型移動の立ち上がり時における別の制御としては、型締めシリンダの最長距離と最短距離との差から、最長の型締めシリンダの移動量をかかる差に一定のオフセット量を加えた値とする。最長の型締めシリンダの移動量が、所定のしきい値より大きくなったときは、段階的に平行を補正し、所定のしきい値より小さいときは1回で平行を補正する。目標距離、即ち最短距離から上記オフセット量分短くなった距離に到達したら、上述の定常的な平行制御を行うようにする。
【0055】
尚、上記は、型締め時の作動に基づいて平行制御について説明したが、型開時の場合には、上記の原点に基づいて、原点を可動盤の反対側とする演算処理により同様の制御による平行制御が可能となる。
【0056】
(平行度制御手段の構成)
本発明の平行度制御手段は、従来公知のものが使用可能であるが、本発明の好適な態様は上述の構成(5)または構成(6)の態様である。
構成(5)の平行度制御手段はより精密な平行度が維持可能であり、大型の成形品においても十分に対応可能であることから、本発明においてより好適である。上記構成(6)の平行度制御手段は既存の射出成形機に簡便に付属することでその機能を発揮させることが可能であり、その結果設備投資コストが抑制される点において有利である。
【0057】
上記構成(5)および(6)における型締め機構および矯正力付与機構は、油圧シリンダ、圧空シリンダ、リニアモータ、ボールネジ・スクリューとサーボモータとの組合せ、および圧電素子などの直線運動が可能な駆動機構が利用できる。中でも好ましいのは簡便な機構で高精度かつ高出力が達成される点で油圧シリンダである。
【0058】
平行度制御手段は、最低3箇所の点において固定盤および可動盤の距離を制御できれば、平行の達成は可能である。しかしながら、上述のとおり、平行度制御手段やその平行度を算出するためのセンサーは、金型取り付け盤の外周部近傍の4箇所に配設されることが好ましい。更にかかる手段やセンサーの位置関係は、基準平行面に投影されたとき互いに上下軸および左右軸のいずれにおいても軸対象とされることが好ましい。かかる配設は、金型取り付け盤への金型の取りつけを阻害せず、高精度に金型の平行を制御できる。平行度制御手段は4箇所を超えてもよいが、平行制御の効果に対して機構が複雑になり装置のコスト増を招きやすい点で劣る。また上記構成(5)および(6)における型締め装置は、直圧式であってもトグル式であってもよく、また後述する係止機構を備えるものであってもよい。
【0059】
上記構成(5)の“複数の型締め機構の伸縮を調整することによる平行度制御手段”を有する型締め装置は、型締め機構が油圧シリンダの場合には、(5-a)固定側金型を保持するための固定盤、(5-b)可動側金型を保持するための可動盤、(5-c)可動盤を固定盤に対して移動させて型締めを行う複数の型締めシリンダ、(5-d)各型締めシリンダの長さを計測する計測装置、(5-e)長さの計測から金型の平行度のずれを検出し、かかるずれが所定値以内となるよう各型締めシリンダに伸縮の指令を出す制御装置、並びに(5-f)制御装置の指令により開閉する各型締めシリンダに接続されたサーボ弁からなる。型締めシリンダは該シリンダに圧油を供給するアキュームレータに接続されるのが一般的である。
【0060】
計測装置は型締めシリンダに付設あるいは近傍に配設されることが好ましい。尚、電気による駆動装置を有する型締め機構は、サーボ弁の如き油圧機構に代えて、電流、電圧、周波数、またはパルス数を制御する機構を有する。
【0061】
本発明の樹脂板は厚肉で大型であるほど好ましく、これは本発明の効果がより効果的に発揮されるからである。かかる点から上記構成(5)においては型締め装置は直圧式であって、キーロックタイプまたはタイバーロックタイプと称される係止機構を有することが好ましい。したがって、構成(5)のより好適な態様は、固定盤に対して、所定位置まで可動盤をブーストシリンダの如き高速型締め装置により速やかに進退動作させ、所定位置で係止装置により可動盤をタイバーに係止するか、またはタイバーを固定盤に係止するかした後、かかる所定位置から金型取り付け盤に配設された複数の型締め機構の伸縮を調整することにより平行度を制御する手段である。
【0062】
可動盤をタイバーに係止する態様では、型締め装置は、可動盤をタイバーに係止する係止装置およびタイバー各軸に設けられ固定盤に配設された型締めシリンダとを有する。かかる態様では、ブーストシリンダにより可動盤のみが進退動作し、係止後は固定盤に配設された型締めシリンダにより、タイバーの移動を介して可動盤が固定盤の方に移動される。
【0063】
一方、タイバーを固定盤に係止する態様では、型締め装置は、タイバーを固定盤に係止する係止装置およびタイバー各軸に設けられ可動盤に配設された型締めシリンダとを有する。かかる態様では、ブーストシリンダによりタイバーと可動盤のいずれもが進退動作し、係止後は可動盤に配設された型締めシリンダにより可動盤が固定盤の方に移動される。
上記の型締め装置の構成および動作は、上記と同様油圧以外の他の機構に替えることができる。
【0064】
上記における係止装置は、可動盤と固定盤に対する型締め力の伝達経路上に解除可能なロック機構を介在せしめて、かかるロック機構により型締め力を伝達および遮断する装置である。これにより可動盤と固定盤との間に型締め力が及ぼされていない状態下での高速型開閉作動と、樹脂圧縮時の平行制御下での高圧型締め作動とを実現可能とする。ロック機構は、一般に第1の部材に対して相対変位化可能な第2の部材に、その相対変位方向に所定ピッチで多数の係止部が設けられ、一方でそれら多数の係止部に対して選択的に係止される係止部材を第1の部材に支持せしめた構成からなる。かかる構成により第1および第2の部材は任意の位置で相互に連結可能とされる。例えばタイバーの外周面に形成された周方向の溝、並びにかかるタイバーの溝形成面に対して接近または離隔が可能とされ、かかる溝に噛合するハーフナットの如き多分割ナットからなる構成が、ロック機構として好適に例示される。その他従来型締め装置のロック機構として提案されたいずれの方法も利用できる。ハーフナットの如き第1の部材を第2の部材に接近または離隔可能とする駆動源は、上記型締め機構と同様に油圧、空圧、および電気を駆動源する各種の装置が例示される。
【0065】
上記構成(6)の“型締め機構による型締め力に対抗して矯正力を金型の取り付け面に対して付与する複数の矯正力付与機構の伸縮を調整することにより平行度を制御する手段”を有する型締め装置は、型締め機構および矯正力付与機構が油圧シリンダの場合には、(6-a)固定側金型を保持するための固定盤、(6-b)可動側金型を保持するための可動盤、(6-c)可動盤を固定盤に対して移動させて型締めを行う型締めシリンダ、(6-d)型締め力と反対方向の力を可動盤に付与する複数の矯正シリンダ、(6-f)各矯正シリンダの長さを計測する計測装置、(6-g)長さの計測から金型の平行度のずれを検出し、かかるずれが所定値以内となるよう各矯正シリンダの圧力の指令を出す制御装置、並びに(6-h)制御装置の指令により開閉する各矯正シリンダに接続されたサーボ弁からなる。型締めシリンダは該シリンダに圧油を供給するアキュームレータに接続されるのが一般的である。矯正シリンダも必要にアキュームレータを備えてもよい。電気による駆動の場合も上記構成(5)の場合と同様、サーボ弁の如き油圧機構に代えて、電流、電圧、周波数、またはパルス数を制御する機構を有する。
【0066】
構成(6)における型締め機構は、通常射出成形機に利用されるいかなるものであってもよく、直圧式であってもトグル式であってもよい。構成(7)では、矯正シリンダのごとき矯正力付与機構が予め備えられた型締め機構であってもよいが、好ましくは通常の射出成形機の型締め機構に矯正力付与機構が取り外し可能に備えられた型締め機構である。かかる型締め機構とすると、本発明の製造方法をより簡便に行うことができる。構成(6)でより好適な平行度制御手段は、金型の脱着を可能とした一対の共通プレート間に矯正力付与機構を配設したものである。かかる好適な態様によれば、金型を取着した一対の共通プレートを成形機の金型取り付け盤に装着するとの簡単な作業により、既存の射出成形機で本発明の製造方法を実施することができる。
【0067】
構成(6)の平行度制御の場合、基本的には次のようにして矯正力が付与される。複数の位置または距離センサーによって矯正シリンダの位置が検知される。矯正シリンダの位置は、可動盤や可動盤に係止されたタイバーの位置ともいえる。このとき平行が保持されていないと他の部分よりも距離が短い矯正シリンダと、距離の長い矯正シリンダが存在する。短いシリンダでは油圧回路のサーボ弁を絞って型締め力に対する矯正力を強めて距離の短縮を抑制し、長いシリンダでは油圧回路のサーボ弁を開放して型締め力に対する矯正力を弱めて距離の短縮を容易とする。かかる制御を繰り返して型締め時の平行度を所定の範囲内に保持する。一方、型開時は、短いシリンダで型開方向の圧力を高め、長いシリンダでは圧力を低めて平行度を保持する。
【0068】
上記構成(5)の平行度制御手段を備えた射出成形機としては、(株)名機製作所製のMDIPシリーズが例示される。上記構成(6)の平行度制御手段の構成は、例えば特開2001−47484号公報および特開2003−48241号公報に開示されている。また上記構成(5)および(6)の平行度制御手段をいずれも備えたものであってもよい。平行度制御手段を併用する場合には、型締め時および型開時のいずれにおいても、いずれの手段も使用する方法、型締め時および型開時のいずれかでのみいずれの手段も使用する方法、並びに型締め時および型開時のそれぞれで手段を使い分ける方法のいずれの方法も利用できる。
【0069】
<樹脂板について>
(樹脂板の形状)
本発明の樹脂板は、その1つの側面のみにゲートを有していることが好ましい。単一かつ側面に配置されたゲートは、樹脂板中の樹脂流動が複雑化することを抑制でき、樹脂板を低歪みとするのに好適である。また通常かかるゲートを有する成形品は大きな樹脂流動長のために成形品の歪みが大きくなり易いが、本発明は射出圧縮成形によってかかる歪みを低減することができる。
【0070】
本発明の樹脂板は、ゲートから流動末端までの流動長が150〜1,800mmであり、その最大投影面積が200〜40,000cmであることが好ましい。本発明の製造方法はかかる大型の樹脂板の製造に適している。流動長は、より好ましくは200〜1,500mm、更に好ましくは300〜1,400mmである。最大投影面積の下限はより好ましくは500cmであり、その上限はより好ましくは30,000cmである。
【0071】
本発明の樹脂板の厚みは特に限定されないものの、好ましくは3〜20mmの範囲である。薄肉の樹脂板は押出成形の方が適切な場合が多く、本発明の製造方法が求められる領域は比較的厚肉の樹脂板であるためである。かかる下限はより好ましくは5mm、さらに好ましくは8mmである。一方、かかる上限はより好ましくは18mm、さらに好ましくは15mmである。
【0072】
本発明の樹脂板の厚みは、均一であることが好ましいが、不均一であってもよい。また樹脂板は、平板の他、湾曲面を有する板であってもよい。湾曲面である場合、その曲率半径は300mm以上であることが好ましい。
【0073】
(樹脂板の熱可塑性樹脂)
本発明の樹脂板を構成する熱可塑性樹脂は、各種の重合体または共重合体、およびこれらに各種の添加剤を配合した樹脂組成物を含む。本発明における熱可塑性樹脂としては、非晶性の熱可塑性樹脂組成物が好ましい。また結晶性熱可塑性樹脂であっても、上記構成(1)の射出成形で十分な透明性を確保できるものであれば、本発明の熱可塑性樹脂として使用できる。かかる結晶性熱可塑性樹脂は、好適には半結晶化時間をy、過冷却度をxとした場合、次の式y>(3.35×10)x−4.08を満足する結晶性の熱可塑性樹脂組成物である。ここで、x≧15であることが好ましい。ここで、半結晶化時間とは、結晶化速度測定装置において完全に結晶生成が終了した時間の半分の時間(sec)である。過冷却度とは、結晶化を行った温度(一定温度)を樹脂の融点から差し引いた値(℃)である。
【0074】
非晶性熱可塑性樹脂としては、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AS樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、変性PPE樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアリレート樹脂、およびポリエーテルイミド樹脂などが例示される。結晶化速度が比較的遅く、特に上記の式を満足する結晶性熱可塑性樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂、および結晶性を低下させた共重合ポリエステル樹脂などが例示される。これらの中でもポリカーボネート樹脂が最も好ましい。
【0075】
かかるポリカーボネート樹脂は、通常使用されるビスフェノールA型ポリカーボネート以外にも、他の二価フェノールを用いて重合された、高耐熱性または低吸水率の各種のポリカーボネート樹脂であってもよい。ポリカーボネート樹脂はいかなる製造方法によって製造されたものでもよく、界面重縮合の場合は通常一価フェノール類の末端停止剤が使用される。ポリカーボネート樹脂はまた3官能フェノール類を重合させた分岐ポリカーボネート樹脂であってもよく、更に脂肪族ジカルボン酸や芳香族ジカルボン酸、または二価の脂肪族または脂環族アルコールを共重合させた共重合ポリカーボネートであってもよい。ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、好ましくは1.3×10〜4.0×10、より好ましくは1.5×10〜3.0×10、更に好ましくは2.0×10〜2.8×10である。芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(M)は塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂0.7gを溶解した溶液から20℃で求めた比粘度(ηsp)を次式に挿入して求めたものである。かかるポリカーボネート樹脂の詳細については、特開2002−129003号公報に記載されている。
ηsp/c=[η]+0.45×[η]c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10−40.83
c=0.7
【0076】
他の二価フェノールを用いて重合された、高耐熱性または低吸水率の各種のポリカーボネート樹脂の具体例としては、下記のものが好適に例示される。
(1)該ポリカーボネートを構成する二価フェノール成分100モル%中、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール(以下“BPM”と略称)成分が20〜80モル%(より好適には40〜75モル%、さらに好適には45〜65モル%)であり、かつ9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(以下“BCF”と略称)成分が20〜80モル%(より好適には25〜60モル%、さらに好適には35〜55モル%)である共重合ポリカーボネート。
(2)該ポリカーボネートを構成する二価フェノール成分100モル%中、ビスフェノールA成分が10〜95モル%(より好適には50〜90モル%、さらに好適には60〜85モル%)であり、かつBCF成分が5〜90モル%(より好適には10〜50モル%、さらに好適には15〜40モル%)である共重合ポリカーボネート。
(3)該ポリカーボネートを構成する二価フェノール成分100モル%中、BPM成分が20〜80モル%(より好適には40〜75モル%、さらに好適には45〜65モル%)であり、かつ1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン成分が20〜80モル%(より好適には25〜60モル%、さらに好適には35〜55モル%)である共重合ポリカーボネート。
【0077】
これらの特殊なポリカーボネートは、単独で用いてもよく、2種以上を適宜混合して使用してもよい。また、これらを汎用されているビスフェノールA型のポリカーボネートと混合して使用することもできる。
これらの特殊なポリカーボネートの製法及び特性については、例えば、特開平6−172508号公報、特開平8−27370号公報、特開2001−55435号公報及び特開2002−117580号公報等に詳しく記載されている。
【0078】
上記の熱可塑性樹脂は、上記の透明性を損なわない範囲において、従来公知の各種の添加剤を含有することができる。かかる添加剤としては、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、着色剤、離型剤、摺動剤、赤外線吸収剤、光拡散剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、可塑剤、強化充填材、衝撃改質剤、光触媒系防汚剤、およびフォトクロミック剤等が例示される。尚、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、着色剤、および離型剤などは、従来上記の熱可塑性樹脂における公知の適正量を配合できる。かかる量が樹脂の透明性を阻害することが稀であるからである。
【0079】
また樹脂材料は、通常必要な添加剤を原料樹脂と溶融混練したペレットの形状で、射出成形機に供給される。かかる供給時は水分含有量を十分に低減されることが必要である。ポリカーボネート樹脂の如き水分吸収性の高い熱可塑性樹脂は、十分に乾燥され射出成形機に供給されることが必要である。溶融混練は、従来公知の溶融混練機が利用でき、特にベント式二軸押出機が好適である。また押出中に生じた異物を除去するためのスクリーンを押出機ダイス部前のゾーンに設置することが好ましい。ペレット化に際して外部の埃などの影響を低減する必要がある場合には、押出機周囲の雰囲気を清浄化することが好ましい。更にペレットの製造場所から、射出成形機への製造場所への運搬には、従来光情報記録媒体の基板製造用ペレットに利用される、各種の防塵コンテナが利用できる。
【0080】
(樹脂板への積層)
本発明の樹脂板は、その表面に各種の機能層を設けることができる。かかる機能層としては、図柄層、導電層(発熱層、電磁波吸収層、帯電防止層)、撥水・撥油層、親水層、紫外線吸収層、赤外線吸収層、割れ防止層、並びに金属層(メタライジング層)などが例示される。これらの機能層は、ハードコート層の表面、ハードコート層とは反対側の成形品表面、成形品層が複数層ある場合の成形品層と成形品層との間、プライマー層と成形品表面との間の一部分、並びにプライマー層とハードコートのトップ層との間の一部分などにおいて設けることが可能である。
【0081】
更に本発明のハードコート層の上に別途他の方法で形成されるハードコート層を積層することも可能である。かかる方法としては、液剤のコーティング以外の方法であり、例えば蒸着法および溶射法が挙げられる。蒸着法としては物理蒸着法および化学蒸着法のいずれも使用できる。物理蒸着法としては真空蒸着法、スパッタリング、およびイオンプレーティングが例示される。化学蒸着(CVD)法としては、熱CVD法、プラズマCVD法、および光CVD法などが例示される。溶射法としては大気圧プラズマ溶射法、および減圧プラズマ溶射法などが例示される。上記方法によりダイヤモンドライクカーボンなどの硬質被膜を形成することが可能である。
【0082】
上記において図柄層は通常印刷により形成される。印刷方法としては、グラビア印刷、平板印刷、フレキソ印刷、ドライオフセット印刷、パット印刷、スクリーン印刷などの従来公知の印刷方法を製品形状や印刷用途に応じて使用することができる。
【0083】
印刷で使用する印刷インキの構成としては、主成分として樹脂系と油系などを使用することが可能であり、樹脂系としては、ロジン、ギルソナイト、セラック、コパールなどの天然樹脂やフェノール系およびその誘導体、アミノ系樹脂、ブチル化尿素、メラミン樹脂、ポリエステル系アルキッド樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、飽和ポリエステル樹脂、非晶性ポリアリレート樹脂、非晶性ポリオレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合物、ブチラール樹脂、メチルセルロース樹脂、エチルセルロース樹、ウレタン樹脂などの合成樹脂が使用することができる。耐熱性の高いインキ成分が必要とされる場合は、ポリカーボネート樹脂および非晶性ポリアリレート樹脂などをバインダーとした印刷インキが好ましく挙げられる。また印刷インキに顔料や染料などにより所望の色に調整することができる。
【発明の効果】
【0084】
本発明の樹脂板の製造方法は、孔を有する樹脂板を、歪や色ぶれがなく、良好な二次加工耐性および孔の寸法精度の下で、効率的に製造する方法である。かかる方法により製造された樹脂板は、板の機器本体への固定および釘打ちやネジ込みなどの後加工が極めて容易となる。したがって、上述のとおり、これらの特性が求められる車両、船舶および航空機などの輸送機器の樹脂製窓ガラス(車輌屋根を含む)、並びに液晶ディスプレイ保護材に代表される偏光画像を透視する用途、特にパチンコやピンボールに代表される遊技具における遊技盤に代表される幅広い工業分野において有用である。よってその奏する工業的効果は格別のものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0085】
本発明者らが現在最良と考える本発明の形態は、前記の各要件の好ましい範囲を集約したものとなるが、例えば、その代表例を下記の実施例中に記載する。もちろん本発明はこれらの形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0086】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
[実施例1]
以下の工程に従い、釘を打込む為の非貫通孔を有する樹脂板を作製した。
(I)使用原料
帝人化成(株)製:パンライトL−1225Y(商品名)
【0087】
(II)樹脂板成形品の製造
上記(I)のペレットを120℃にて5時間熱風乾燥機で乾燥した後、成形機としてシリンダ径110mmφ、型締め力12700kNの日本製鋼所製J1300E−C5射出成形機(型圧縮可能なように油圧回路および制御システムを変更した仕様)及び図1の金型を使用して射出圧縮成形を行った。該成形機は、上述の特許文献2(特開2003−048241号公報)の実施例に記載されたと同じ成形機であり、かつ同じ平行度矯正機構を有するものである。金型取り付け板の四隅に設置された平行度矯正機構の各機構の保持圧力を調整することにより、金型の平行度をtanθが0.00005となるよう調整した。
【0088】
平行度の指標となるtanθは、各4つの機構に近接して設置されたリニアセンサを用いて計測された各機構の基準位置からのずれ(ΔL)と、それぞれのリニアセンサ間の距離(H)とからtanθ=ΔL/Hの関係から算出した。かかるtanθが所定の値となるよう必要な平行度矯正機構の保持圧力を設定し、それを時間制御することにより行った。
【0089】
成形はシリンダ温度290℃、ホットランナ設定温度290℃、金型温度は固定側110℃、可動側110℃、中間型締め位置から最終型締め位置までのストロークであるプレスストローク2mm、および圧縮加圧時間180秒で行った。
【0090】
最終型締め時の圧力は20MPaとし、該圧力で冷却時間中加圧した。また可動側金型パーティング面は最終の前進位置において固定側金型パーティング面に接触しないものとした。
孔の作成において、固定側金型よりキャビティ内に配置したピン形温度センサの温度が250℃の時点でピンをキャビティに圧入し、130℃となった時点で該ピンを引抜いた。
【0091】
ランナはモールドマスターズ社製のバルブゲート型のホットランナ(直径8mmφ)を用いた。充填完了直前に型圧縮を開始し、充填完了後直ちにバルブゲートを閉じて溶融樹脂がゲートからシリンダへ逆流しない条件とした。尚、圧縮時の圧力は型締め圧力の設定値から算出された値である。
成形品は図2に示すとおり、釘を打込むための非貫通孔を有する、長さ300mm、幅300mm、および厚み10mmの板状成形品である。
【0092】
[実施例2]
上記実施例1において、成形品の肉厚を20mm、圧縮時の圧力を30MPa、加圧時間を600秒、ピンの引抜きタイミングを固定側金型よりキャビティ内に配置したピン形温度センサの温度が120℃の時とした以外は、実施例1と同様にして樹脂板を成形した。
【0093】
[実施例3]
上記実施例1において、圧縮時の圧力を40MPa、固定側金型よりキャビティ内に配置したピン形温度センサの温度が200℃の時点でピンをキャビティ内に圧入し、120℃となった時点で該ピンを引抜く以外は、実施例1と同様にして樹脂板を成形した。
【0094】
[実施例4]
上記実施例1において、使用樹脂をABS樹脂とし、固定側金型よりキャビティ内に配置したピン形温度センサの温度が200℃の時点でピンをキャビティ内に圧入し、80℃となった時点で該ピンを引抜くとした以外は、実施例1と同様にして樹脂板を成形した。
【0095】
[実施例5]
上記実施例1において、射出圧縮成形を行わず、完全に型締めされた金型キャビティ内に樹脂を充填する通常の射出成形法を用いた以外は、実施例1と同様にして樹脂板を成形した。
【0096】
[実施例6]
上記実施例1において、金型の平行度をtanθが0.0022となるよう平行度矯正機構を調整した以外は、実施例1と同様にして樹脂板を成形した。
【0097】
[実施例7]
上記実施例1において、使用した成形機をプラテンの4軸平行制御機構を備えた射出プレス成形可能な大型成形機((株)名機製作所製:MDIP2100、最大型締め力33540kN)を用い、成形条件をシリンダ温度300℃、ホットランナ設定温度280℃、固定側金型温度110℃、可動側金型温度100℃、射出速度16mm/秒、充填時間31秒、中間型締め位置から最終型締め位置までのストロークであるプレスストローク3mm、冷却時間230秒、および成形サイクル310秒とした以外は実施例1と同様にして、図3に示す自動車用屋根成形品を成形した。
【0098】
[比較例1]
上記実施例1において、型内でのピンの圧入、引抜を行わず、キャビティに固定ピンを配置した状態で樹脂を充填することとした以外は、実施例1と同様にして樹脂板を成形した。
【0099】
[比較例2]
上記実施例1において、ピンの圧入、引抜きタイミングを固定側金型よりキャビティ内に配置したピン形温度センサの温度が150℃の時点でピンをキャビティ内に圧入した以外は、実施例1と同様にして樹脂板を成形した。
【0100】
[比較例3]
上記実施例1において、ピンの引抜きタイミングを固定側金型よりキャビティ内に配置したピン形温度センサの温度が170℃の時点でピンを引抜いた以外は、実施例1と同様にして樹脂板を成形した。
【0101】
(III)評価項目
(III−1)孔の変形
成形品の孔の形状を観察し、下記の通り評価を実施した。
○:孔の潰れ、変形は認められなかった。
×:孔が潰れた。
【0102】
(III−2)成形品の変形
成形品の離型変形を観察し、下記の通り評価を実施した。
○:変形は認められなかった。
×:離型不良により成形品が反った形状に変形した。
【0103】
(III−3)成形品の外観(ヒケ、歪)
成形品の外観を観察し、下記の通り評価を実施した。
○:ヒケ、歪は認められなかった。
△:ヒケ、歪みが目視でやや認められた。
×:ヒケ、歪が大きく目視ではっきりと外観不良が認められた。
【0104】
(III−4)成形品のウエルドライン
成形品のウエルドラインの有無を観察し、下記の通り評価を実施した。
○:ウエルドラインの発生は認められなかった。
×:ウエルドラインの発生が認められた。
【0105】
(III−5)ピンの圧入可否
ピンの圧入可否を観察し、下記の通り評価を実施した。
○:ピンは完全に圧入された。
×:ピンは完全には圧入されなかった。
【0106】
(III−6)成形品の肉厚ムラ
成形品の肉厚ムラを下記の通り評価した。
○:肉厚ムラは小さく良好であった。
△:肉厚ムラがやや大きかった。
×:肉厚ムラが大きく不良であった。
【0107】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】実施例で使用した金型の概略図である。
【図2】実施例で成形した孔を有する樹脂板の正面概要図[2−A]と、側面概要図[2−B]である。
【図3】実施例において成形した自動車屋根成形品の概略図を示す。図示されるとおり該自動車屋根成形品はなだらかな曲面から構成される3次元形状を有する。[3−A]は正面図(成形時のプラテン面に投影した図)を示し、[3−B]は長手方向の側面図、[3−C]は流動末端側からの側面図を示す。
【符号の説明】
【0109】
1 可動側金型(固定側金型と額縁構造となる)
2 額縁ブロック
3 固定側金型
4 イジェクタプレート
5 孔作製用のピン
6 ピン圧入、引抜き動作用ピン固定プレート
7 油圧シリンダ
8 金型キャビティ内の溶融樹脂
9 成形品本体
10 孔部(孔表面径:2.0mmΦ、孔底面径:1.9mmΦ
深さ:9.5mm、孔間の最大距離:280mm)
11 自動車屋根成形品本体(本体部は厚み5mm、最大投影面積は約11,000cmである)
12 ホットランナーノズル先端に対応する部分
13 成形品のゲート(該ゲートは厚み5mmの平板状である)
14 成形品ゲート側長さ(成形品の最大幅に相当し、1000mmである)
15 成形品流動末端側の長さ(900mm)
16 成形品本体の長さ(1240mm)
17 ゲート部を含む成形品全体の長さ(1350mm)
18 成形品の高さ(90mm)
19 取り付け用爪部
20 孔部(孔表面径:5.0mmΦ、孔底面径:4.9mmΦ、深さ:5mm)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティ壁部の一部に孔を設け、この孔に挿入されて往復運動する孔ピンを有する一方の金型と他方の金型とを型締めして成形キャビティを形成し、該孔ピンが実質的に完全に孔に挿入されていてキャビティ壁部面が実質的にフラットな状態においてこのキャビティ内に溶融した熱可塑性樹脂を射出し充填した後、樹脂のコア層の温度がガラス転移温度+30℃以上の時点で該孔ピンを孔から突出させてキャビティに圧入し、その後にコア層の温度がガラス転移温度以下まで冷却された後に金型内で該孔ピンを該孔に実質的に完全に引入れて成形樹脂に該ピンに対応する孔を形成し、しかる後成形体を金型から離脱させることを特徴とする、孔を有する樹脂成形体の製造方法。
【請求項2】
該成形体が樹脂板である請求項1に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項3】
該孔ピン径が0.5〜10mmの範囲である請求項1又は2に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項4】
該型締めが中間型締めであり、かつ該孔ピンの圧入から引入れまでの間に最終型締めをさらに行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項5】
上記最終型締めを行う際に、樹脂に加える圧力は5〜50MPaの範囲であり、その加圧時間は成形品の肉厚をt(mm)としたとき、0.7t〜3t(秒)の範囲である請求項4に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項6】
該中間型締め状態から最終型締め状態までの型移動領域において、固定側金型と可動側金型との間の傾き量および捩れ量をtanθとしたとき、tanθの最大値が0.000005〜0.002の範囲に平行度制御手段を用いて制御されることを特徴とする請求項4または5に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項7】
上記平行度制御手段は、金型取り付け盤に配設された複数の型締め機構の伸縮を調整することにより平行度を制御する手段である請求項6に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項8】
上記平行度制御手段は、型締め機構による型締め力に対抗して矯正力を金型の取り付け面に対して付与する複数の矯正力付与機構の伸縮を調整することにより平行度を制御する手段である請求項6に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項9】
上記樹脂成形体は、その厚みが3〜20mmの範囲の樹脂板である請求項2〜8のいずれか1項に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項10】
上記樹脂成形体は、孔径が0.5〜10mmの範囲である孔を有する樹脂板である請求項2〜9のいずれか1項に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項11】
孔の深さが2mm〜板厚みの範囲である請求項2〜10のいずれか1項に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項12】
上記樹脂板は、貫通しない孔を有する樹脂板である請求項2〜11のいずれか1項に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項13】
上記樹脂板は、ゲートから流動末端までの流動長が150〜1,800mmであり、その最大投影面積が200〜40,000cmである請求項2〜12のいずれか1項に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項14】
該熱可塑性樹脂は、芳香族ポリカーボネート樹脂である請求項1〜13のいずれか1項に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項15】
該芳香族ポリカーボネート樹脂がビスフェノールA型のポリカーボネート樹脂である請求項1〜14のいずれか1項に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項16】
該製造方法は、成形体にハードコート層を設ける工程を含んでなる製造方法である請求項1〜15のいずれか1項に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法で製造された成形板。
【請求項18】
成形板が車両、船舶および航空機などの輸送機器の車輌屋根を含む樹脂製窓ガラス用の部材である請求項17記載の成形板。
【請求項19】
成形板がパチンコ遊戯台の部材である請求項17記載の成形板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−331119(P2007−331119A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−162228(P2006−162228)
【出願日】平成18年6月12日(2006.6.12)
【出願人】(000215888)帝人化成株式会社 (504)
【Fターム(参考)】