説明

封止用樹脂組成物および半導体封止装置

【課題】優れた難燃性および耐湿信頼性を有し、しかも、成形性、実装信頼性等が良好で、環境上の問題もない封止用樹脂組成物、およびこのような封止用樹脂組成物で封止された高信頼性の半導体封止装置を提供する。
【解決手段】(A)エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂系硬化剤、(C)特定の有機リン化合物、(D)下記一般式[II]で示される環状化合物および(E)無機充填剤を含有し、かつ、実質的にハロゲン系難燃剤を含有しない封止用樹脂組成物、およびその硬化物によって半導体素子を封止してなる半導体装置である。


(式中、αは−S−基、−O−基または−CH−基、βおよびγは水素原子、アルキル基またはアリール基であり、mは4〜7の整数を表す)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子等の封止材料として使用される封止用樹脂組成物、およびこれを用いた半導体封止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
集積回路、ダイオード、トランジスタ等の半導体装置の封止樹脂材料として、エポキシ樹脂をベースとし、これに硬化剤や硬化促進剤、さらにはシリカ粉末のような無機充填剤や顔料等を配合した組成物が広く用いられている。
【0003】
このような封止樹脂材料においては、安全性の点からUL規格により難燃性を付与することが求められている。また、半導体装置の長期使用に伴う配線の腐食や半導体の性能低下を防止するため、長期に亘って良好な耐湿信頼性を維持することが要求されている。
【0004】
従来、エポキシ樹脂をベースとした組成物は、塩素、臭素等のハロゲン元素を含む化合物や金属化合物により難燃性を付与しており、特に、臭素化エポキシ樹脂とその難燃効果を補助する金属酸化物(通常、三酸化アンチモン)の併用による難燃化が一般的である。
【0005】
しかしながら、ハロゲン化合物は、例えば高温に放置した場合に塩素イオンや臭素イオン等が遊離し、半導体装置の信頼性を低下させるという問題がある。また、一部のハロゲン系難燃剤は、燃焼時に毒性の強いダイオキシン化合物を発生し、また、アンチモン化合物は、それ自体毒性が強い、という環境上の問題もある。
【0006】
そこで、このようなハロゲン系難燃剤の使用に代わる難燃化技術が検討され、例えば、リン酸エステル系難燃剤や金属水和物等を使用した封止樹脂材料が開発されている。しかしながら、リン酸エステル系難燃剤は加水分解によりリン酸を発生し、上記塩素イオン等と同様、半導体装置の耐湿信頼性を低下させるおそれがあった。また、金属水和物は十分な難燃性を発現させるためには大量に配合する必要があり、成形性が低下するうえ、吸湿特性の劣化により実装時の半導体装置の信頼性を低下させるという問題があった。
【0007】
一方、半導体装置の長期使用に伴う配線の腐食や半導体の性能低下は、エポキシ樹脂などの原料に不純物として含まれている微量のナトリウムや塩素等のイオンや、封止樹脂中に浸入してくる水分等が原因で惹き起こされる。このため、従来より、原料の精製や製造工程のクリーン化等により不純物の混入を防止したり、シラン系表面処理剤を配合して樹脂と充填剤の界面に水分が浸入する空隙部の形成を抑制する等の対策が講じられている。
【0008】
しかしながら、最近の半導体装置の高信頼性化に対する要求はますます厳しくなってきており、従来の対策だけではこのような要求に十分に応えることが困難になってきている。そこで、耐湿信頼性をさらに向上させるべく、イオン性不純物を捕捉固定するアンチモン化合物、ビスマス化合物、ハイドロタルサイト類等のイオン交換体を配合する方法が提案されている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0009】
しかしながら、従来のイオン交換体では十分なイオン性不純物の捕捉固定効果を得るために大量に配合する必要があり、成形性が低下するという問題があった。そのうえ、アンチモン化合物は上述したように毒性を有し、ビスマス化合物もアンチモン化合物と同様に有害で、さらに、ハイドロタルサイト類も、組成物の吸水性を高めるため、特に表面実装型の半導体装置に適用した場合に、実装時の急激な温度上昇により封止樹脂部分にクラック等が発生するおそれがあった。
【特許文献1】特開平11−152391号公報
【特許文献2】特開2001−81287号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、封止用樹脂組成物においては、難燃性を付与することが求められているが、従来のハロゲン化合物や金属化合物を配合した組成物は、耐湿信頼性や環境に及ぼす影響の点で問題があり、また、リン酸エステル系難燃剤や金属水和物を使用した組成物も、耐湿信頼性、成形性、実装信頼性が低いという問題があった。
【0011】
また、封止用樹脂組成物においては、長期に亘って良好な耐湿信頼性を維持することが要求されているが、従来の原料の精製や製造工程のクリーン化やシラン系表面処理剤の配合だけでは不十分であり、また、イオン交換体を添加する方法では、耐湿信頼性が向上する反面、成形性や実装信頼性が低下したり、イオン交換体自体が毒性が高いという問題があった。
【0012】
本発明はこのような従来技術の課題を解決するためになされたもので、優れた難燃性および耐湿信頼性を有し、しかも、成形性、実装信頼性等が良好で、環境上の問題もない封止用樹脂組成物、およびこのような封止用樹脂組成物で封止された高信頼性の半導体封止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、有害な元素を含まない特定構造の有機リン化合物と特定構造の環状化合物を組み合わせて使用することにより、従来のハロゲン系難燃剤や有害なイオン交換体を使用することなく、また、成形性や実装信頼性、耐湿信頼性等を低下させることなく、優れた難燃性を付与することができ、さらに、イオン性不純物を捕捉固定して耐湿信頼性を一段と向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本願の請求項1に記載の発明の封止用樹脂組成物は、
(A)エポキシ樹脂、
(B)フェノール樹脂系硬化剤、
(C)次の一般式[I]:
【化1】

(式中、Rは水素原子またはアルキル基であり、lは2〜10の整数を表す)
で示される有機リン化合物、
(D)次の一般式[II]:
【化2】

(式中、αは−S−基、−O−基または−CH−基、βおよびγは水素原子、アルキル基またはアリール基であり、mは4〜7の整数を表す)
で示される環状化合物および
(E)無機充填剤
を含有し、かつ、実質的にハロゲン系難燃剤を含有しないことを特徴とする。
【0015】
請求項2に記載の発明は、請求項1記載の封止用樹脂組成物において、前記(C)成分の含有量が組成物全体の0.5〜50重量%であり、前記(D)成分の含有量が組成物全体の0.05〜10重量%であり、前記(E)成分の含有量が組成物全体の40〜95重量%であることを特徴とする。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2記載の封止用樹脂組成物において、塩素イオン濃度が30ppm以下、臭素イオン濃度が10ppm以下、ナトリウムイオン濃度が6ppm以下で、かつ、リン酸イオン濃度が10ppm以下であることを特徴とする。
【0017】
また、本願の請求項6に記載の発明の半導体封止装置は、請求項1乃至3のいずれか1項記載の封止用樹脂組成物の硬化物によって、半導体素子が封止されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、成形性、実装信頼性が良好で、環境上の問題がなく、しかも、優れた難燃性を有するとともに、長期に亘る耐湿信頼性が保証された封止用樹脂組成物、およびこのような封止用樹脂組成物で封止された高信頼性の半導体封止装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0020】
本発明の封止用樹脂組成物は、(A)エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂系硬化剤、
(C)前記一般式[I]で示される有機リン化合物、(D)前記一般式[II]で示される環状化合物および(E)無機充填剤を必須成分として含有し、かつ、ハロゲン系難燃剤を実質的に含まないものである。
【0021】
(A)成分のエポキシ樹脂としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものであれば、分子構造、分子量等に制限されることなく一般に使用されているものを広く用いることができる(但し、臭素化エポキシ樹脂等のハロゲン元素を含有するエポキシ樹脂を除く)。具体的には、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、複素環型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂等の縮合環芳香族炭化水素変性エポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。本発明においては、(A)成分として、なかでもクレゾールノボラック型エポキシ樹脂の使用が好ましく、特に下記一般式[III]で示されるo‐クレゾールノボラック型エポキシ樹脂の使用が好ましい。
【化3】

(式中、nは0以上の整数を表す)
【0022】
(B)成分のフェノール樹脂系硬化剤としては、(A)成分のエポキシ樹脂のエポキシ基と反応し得るフェノール性水酸基を分子中に2個以上有するものであれば、特に制限されることなく使用される。具体的には、フェノール、アルキルフェノール等のフェノール類とホルムアルデヒドまたはパラホルムアルデヒドを反応させて得られるノボラック型フェノール樹脂、例えばフェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂等、これらの変性樹脂、例えばエポキシ化もしくはブチル化したノボラック型フェノール樹脂等、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂、パラキシレン変性フェノール樹脂、フェノール類とベンズアルデヒド、ナフチルアルデヒド等との縮合物、トリフェノールメタン化合物、多官能型フェノール樹脂等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0023】
本発明においては、なかでも下記一般式[IV]で示されるフェノールノボラック樹脂、下記一般式[V]で示されるフェノールアラルキル樹脂が好ましい。
【化4】

(式中、nは0以上の整数を表す)
【化5】

(式中、nは0以上の整数を表す)
【0024】
この(B)成分のフェノール樹脂系硬化剤の配合量は、(A)成分のエポキシ樹脂が有するエポキシ基数(a)と(B)成分のフェノール樹脂硬化剤が有するフェノール性水酸基数(b)との比[(a)/(b)]が0.1〜10となる範囲が好ましく、0.5〜3となる範囲であるとより好ましい。[(a)/(b)]が0.1未満もしくは10を超えると、耐熱性、成形作業性、硬化物の電気特性等が低下する。
【0025】
(C)成分の前記一般式[I]で示される有機リン化合物は、本発明の組成物に優れた難燃性を付与するために配合される成分である。一般式[I]において、Rで示されるアルキル基としては、CH−基、CHCH−基、CHCHCH−基、(CHCH−基、CHCHCHCH−基、(CHCHCH−基、(CHC−基等が挙げられる。前記一般式[I]で示される有機リン化合物は1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。(C)成分の有機リン化合物としては、一般式[I]中、R=−H、l=2のものが好ましい。
【0026】
この(C)成分の有機リン化合物は、全組成物中に0.5〜50重量%配合することが好ましく、0.6〜3.0重量%の範囲であるとより好ましい。配合量が組成物全体の0.5重量%に満たないと、難燃性が不十分となり、逆に、50重量%を超えると、組成物の硬化特性等に悪影響を及ぼすようになる。
【0027】
(D)成分の前記一般式[II]で示される環状化合物は、イオン性不純物を捕捉固定して、本発明の組成物に優れた耐湿信頼性を付与するために配合される成分である。一般式[II]において、βおよびγで示されるアルキル基としては、CH−基、CHCH−基、CHCHCH−基、(CHCH−基、CHCHCHCH−基、(CHCHCH−基、(CHC−基等が挙げられる。また、アリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。前記一般式[II]で示される環状化合物は1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。(D)成分の環状化合物としては、一般式[II]中、α=−S−、β=−H、γ=−C(CH、m=4のものが好ましい。
【0028】
この(D)成分の環状化合物は、全組成物中に0.05〜10重量%配合することが好ましく、0.1〜5重量%の範囲であるとより好ましい。配合量が組成物全体の0.05重量%に満たないと、イオン性不純物の捕捉効果が不十分となり、逆に、10重量%を超えると、組成物の硬化特性等に悪影響を及ぼすようになる。
【0029】
(E)成分の無機充填剤としては、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、ジルコニア、タルク、クレー、マイカ、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、チタンホワイト、ベンガラ、炭化珪素、窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミ等の粉末、これらを球形化したビーズ、単結晶繊維、ガラス繊維等が挙げられる。これらは単独または2種以上混合して使用することができる。本発明においては、これらのなかでも、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナの各粉末が好ましい。
【0030】
この(E)成分の無機充填剤の配合量は、組成物全体の40〜95重量%の範囲が好ましく、65〜90重量%の範囲であるとより好ましい。配合量が組成物全体の40重量%に満たないと、耐熱性、耐湿性、機械的特性、成形性等が低下し、逆に95重量%を超えると、カサバリが大きくなり、成形性が不良となって実用が困難になる。
【0031】
本発明の封止用樹脂組成物には、以上の各成分の他、本発明の効果を阻害しない範囲で、この種の組成物に一般に配合される、硬化促進剤、カップリング剤、リン酸エステルに代表されるリン系難燃剤、金属水酸化物、ホウ酸亜鉛等の各種難燃剤、合成ワックス、天然ワックス、直鎖脂肪族の金属塩、酸アミド類、エステル類等の離型剤、カーボンブラック、コバルトブルー等の着色剤、シリコーンオイル、シリコーンゴム等の低応力付与剤等を必要に応じて配合することができる。
【0032】
硬化促進剤としては、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリ(p‐メチルフェニル)ホスフィン、トリ(ノニルフェニル)ホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、ジブチルフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、ビス(ジフェニルホスフィノ)メタン、1,2‐ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィンテトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィントリフェニルボラン等の有機ホスフィン化合物;1,8‐ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン‐7(DBU)、1,5‐ジアザビシクロ(4,3,0)ノネン‐5等のジアザビシクロアルケン化合物;トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、α−メチルベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の3級アミン化合物;2‐ヘプタデシルイミダゾール、2‐メチルイミダゾール、2‐エチルイミダゾール、2‐フェニルイミダゾール、2‐フェニル‐4‐メチルイミダゾール、4‐メチルイミダゾール、4‐エチルイミダゾール、2‐フェニル‐4‐ヒドロキシメチルイミダゾール、2‐エニル‐4‐メチルイミダゾール、1‐シアノエチル‐2‐メチルイミダゾール、2‐フェニル‐4‐メチル‐5‐ヒドロキシメチルイミダゾール、2‐フェニル‐4、5‐ジヒドロキシメチルイミダゾール等のイミダゾール化合物等が挙げられる。また、2‐エチル‐4‐メチルイミダゾールテトラフェニルボレート等も使用可能である。これらは単独または2種以上混合して使用することができる。この硬化促進剤の配合量は、組成物全体の0.01〜5重量%の範囲が好ましい。
【0033】
カップリング剤としては、γ‐グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(3,4‐エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ‐(メタクリロプロピル)トリメトキシシラン、γ‐アミノプロピルトリメトキシシラン、N‐β‐(アミノエチル)‐γ‐アミノプロピルトリメトキシシラン、N‐β‐(アミノエチル)‐γ‐アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N‐β‐(アミノエチル)‐γ‐アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N‐フェニル‐γ‐アミノプロピルトリメトキシシラン、γ‐ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ‐メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ‐メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(3‐トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、イミダゾールシラン等のシランカップリング剤が挙げられるが、その他、チタンカップリング剤やアルミニウムアルコレート類等も使用可能である。これらは単独または2種以上混合して使用することができる。このカップリング剤の配合量は、組成物全体の0.01〜5重量%の範囲が好ましい。
【0034】
本発明の封止用樹脂組成物を成形材料として調製するにあたっては、上記したような(A)エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂系硬化剤、(C)有機リン化合物、(D)環状化合物、(E)無機充填剤、および、前述した必要に応じて配合される各種成分とを、ミキサー等によって十分に混合した後、熱ロールやニーダ等により溶融混練し、冷却後適当な大きさに粉砕するようにすればよい。こうして得られた成形材料は、半導体装置をはじめとする各種電子・電気部品の封止、皮膜、絶縁等に適用すれば、優れた特性と信頼性を付与することができる。
【0035】
本発明においては、組成物中の塩素イオン濃度が30ppm以下、臭素イオン濃度が10ppm以下、ナトリウムイオン濃度が6ppm以下で、かつ、リン酸イオン濃度が10ppm以下であることが好ましい。
【0036】
本発明の半導体封止装置は、上記のようにして調製した封止用樹脂組成物を用いて半導体素子を封止することにより容易に製造することができる。封止を行う半導体素子としては、例えば集積回路、大規模集積回路、トランジスタ、サイリスタ、ダイオード等が例示されるが、特にこれらに限定されるものではない。また、封止方法としては、低圧トランスファー法が一般的であるが、射出成形、圧縮成形等による封止も可能である。封止用樹脂組成物で封止後は、加熱して硬化させ、最終的にその硬化物によって封止された半導体装置が得られる。後硬化させる際の加熱温度は、150℃以上とすることが好ましい。
【実施例】
【0037】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の記載において「部」は「重量部」を示すものとする。
【0038】
実施例1
o‐クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(DIC社製 商品名 N‐674XPS;エポキシ当量200、軟化点74℃)15部、フェノールノボラック樹脂(昭和高分子社製 商品名 BRG557;水酸基当量105、軟化点87℃)11部、溶融シリカ粉末(平均粒径20μm)72部、式[I](l=2、R=−H)で示される有機リン化合物2部、式[II](α=−S−、β=−H、γ=t‐ブチル)で示される環状化合物0.5部、カルナバワックス0.2部、カーボンブラック0.3部、1,8‐ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン0.6部およびシランカップリング剤(エポキシラン)0.4部を常温で混合し、次いで、80〜95℃で加熱混練した。冷却後、粉砕して封止用樹脂組成物を得た。
【0039】
実施例2
o‐クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(DIC社製 商品名 N‐670XPS;エポキシ当量200、軟化点70℃)12.5部、フェノールアラルキル樹脂(明和化成社製 商品名 MEH7800SS;水酸基当量175、軟化点71℃)11部、溶融シリカ粉末(平均粒径20μm)73部、式[I](l=2、R=−H)で示される有機リン化合物1.5部、式[II](α=−S−、β=−H、γ=t‐ブチル)で示される環状化合物0.4部、カルナバワックス0.2部、カーボンブラック0.3部、1,8‐ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン0.5部およびシランカップリング剤(エポキシラン)0.6部を常温で混合し、次いで、80〜95℃で加熱混練した。冷却後、粉砕して封止用樹脂組成物を得た。
【0040】
実施例3
o‐クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(DIC社製 商品名 N‐665XPS;エポキシ当量200、軟化点65℃)11部、フェノールノボラック樹脂(明和化成社製 商品名 H‐4;水酸基当量105、軟化点70℃)5.5部、溶融シリカ粉末(平均粒径20μm)80部、式[I](l=2、R=−H)で示される有機リン化合物1.5部、式[II](α=−S−、β=−H、γ=t‐ブチル)で示される環状化合物0.5部、カルナバワックス0.2部、カーボンブラック0.3部、1,8‐ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン0.5部およびシランカップリング剤(エポキシラン)0.5部を常温で混合し、次いで、80〜95℃で加熱混練した。冷却後、粉砕して封止用樹脂組成物を得た。
【0041】
比較例1
o‐クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(DIC社製 商品名 N‐670XPS;エポキシ当量200、軟化点70℃)14部、臭素化エポキシ樹脂(DIC社製 商品名 エピクロン153;エポキシ当量400、軟化点70℃)2部、フェノールノボラック樹脂(明和化成社製 商品名 MEH‐85;水酸基当量105、軟化点80℃)9.5部、溶融シリカ粉末(平均粒径20μm)71部、アンチモン系イオン交換体(東亜合成社製 商品名 IXE‐300)0.3部、三酸化アンチモン2部、カルナバワックス0.2部、カーボンブラック0.3部、1,8‐ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン0.3部およびシランカップリング剤(エポキシシラン)0.4部を常温で混合し、次いで、80〜95℃で加熱混練した。冷却後、粉砕して封止用樹脂組成物を得た。
【0042】
比較例2
o‐クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(DIC社製 商品名 N‐674XPS;エポキシ当量200、軟化点74℃)14部、臭素化エポキシ樹脂(DIC社製 商品名 エピクロン153;エポキシ当量400、軟化点70℃)2部、フェノールノボラック樹脂(明和化成社製 商品名 H‐4;水酸基当量105、軟化点70℃)9.5部、溶融シリカ粉末(平均粒径20μm)71部、三酸化アンチモン2部、カルナバワックス0.3部、カーボンブラック0.3部、1,8‐ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン0.4部およびシランカップリング剤(エポキシシラン)0.5部を常温で混合し、次いで、80〜95℃で加熱混練した。冷却後、粉砕して封止用樹脂組成物を得た。
【0043】
比較例3
o‐クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(DIC社製 商品名 N‐665XPS;エポキシ当量200、軟化点65℃)14部、フェノールノボラック樹脂(明和化成社製 商品名 H‐4;水酸基当量105、軟化点70℃)9部、溶融シリカ粉末(平均粒径20μm)73部、非ハロゲン縮合リン酸エステル(大八化学工業社製 商品名PX−200)2.8部、カルナバワックス0.2部、カーボンブラック0.3部、1,8‐ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン0.3部およびシランカップリング剤(エポキシシラン)0.4部を常温で混合し、次いで、80〜95℃で加熱混練した。冷却後、粉砕して封止用樹脂組成物を得た。
【0044】
比較例4
o‐クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(DIC社製 商品名 N‐665XPS;エポキシ当量200、軟化点65℃)15部、フェノールノボラック樹脂(明和化成社製 商品名 H‐4;水酸基当量105、軟化点70℃)10.5部、溶融シリカ粉末(平均粒径20μm)73部、カルナバワックス0.3部、カーボンブラック0.3部、1,8‐ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン0.3部およびシランカップリング剤(エポキシシラン)0.6部を常温で混合し、次いで、80〜95℃で加熱混練した。冷却後、粉砕して封止用樹脂組成物を得た。
【0045】
上記各実施例および各比較例で得られた封止用樹脂組成物について、下記に示す方法で各種特性を評価した。
【0046】
[難燃性]
封止用樹脂組成物を、温度175℃、2分間の条件でトランスファー成形し、次いで、温度175℃、8時間の後硬化を行って、120mm×12mm×0.8mmおよび120mm×12mm×3.2mmの試験片を作製し、UL−94規格に基づく垂直燃焼試験を実施し評価した。
【0047】
[イオン性不純物濃度]
封止用樹脂組成物を175℃、2分間の条件でトランスファー成形し、次いで、175℃、8時間の後硬化を行った後、得られた硬化物を粉砕し熱水抽出して、イオンクロマトアナライザおよび原子吸光光度計によりイオン性不純物(Na、Cl、Br、PO3−)の濃度を測定した。
【0048】
[耐湿信頼性]
2本のAl配線を有するシリコン製チップ(試験用素子)を銅フレームに接着し、封止用樹脂組成物を用いて175℃、1分間のトランスファー成形により封止し、175℃で4時間後硬化させて、SOP−16pパッケージを作製した。このパッケージを260℃の半田槽に10秒間浸漬させた後、125℃、2.5気圧の飽和水蒸気中で耐湿試験(Pressure Cooker Test:PCT)を行い、Al配線の断線による通電不良の発生状況を調べた(試料数20)。
【0049】
[高温放置特性]
2本のAl配線を有するシリコン製チップ(試験用素子)を銅フレームに接着し、封止用樹脂組成物を用いて175℃、1分間のトランスファー成形により封止し、175℃で4時間後硬化させて、SOP−16pパッケージを作製した。このパッケージを200℃の恒温槽に保管し、回路のオープン不良の発生状況を調べた(試料数20)。
【0050】
実施例および比較例の封止用樹脂組成物の組成を表1に、また、上記特性評価の結果を表2に示す。
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
表2から明らかなように、実施例の封止用樹脂組成物はいずれも、難燃性に優れ、かつ、耐湿信頼性および高温放置特性も良好であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、
(B)フェノール樹脂系硬化剤、
(C)次の一般式[I]:
【化1】

(式中、Rは水素原子またはアルキル基であり、lは2〜10の整数を表す)
で示される有機リン化合物、
(D)次の一般式[II]:
【化2】

(式中、αは−S−基、−O−基または−CH−基、βおよびγは水素原子、アルキル基またはアリール基であり、mは4〜7の整数を表す)
で示される環状化合物および
(E)無機充填剤
を含有し、かつ、実質的にハロゲン系難燃剤を含有しないことを特徴とする封止用樹脂組成物。
【請求項2】
前記(C)成分の含有量が組成物全体の0.5〜50重量%であり、前記(D)成分の含有量が組成物全体の0.05〜10重量%であり、前記(E)成分の含有量が組成物全体の40〜95重量%であることを特徴とする請求項1記載の封止用樹脂組成物。
【請求項3】
塩素イオン濃度が30ppm以下、臭素イオン濃度が10ppm以下、ナトリウムイオン濃度が6ppm以下で、かつ、リン酸イオン濃度が10ppm以下であることを特徴とする請求項1または2記載の封止用樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項記載の封止用樹脂組成物の硬化物によって、半導体素子が封止されてなることを特徴とする半導体封止装置。

【公開番号】特開2007−99996(P2007−99996A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−293872(P2005−293872)
【出願日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(390022415)京セラケミカル株式会社 (424)
【Fターム(参考)】