説明

射出成形解析方法、そり変形解析方法およびその装置

【課題】射出成形工程における成形品の体積収縮率および、そり変形量を簡便に精度良く予測する方法および装置を提供すること。
【解決手段】成形品の射出成形工程の解析を実行し、解析により算出された成形品の任意の位置における体積収縮率を成形品の任意の位置における冷却速度に応じて、あらかじめ求めた関係式に基づいて算出する。さらに、体積収縮率から成形収縮歪みを算出し、そり解析を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形解析方法、そり変形解析方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
以下、添付図面を参照して、背景技術について説明を行う。
【0003】
図1A〜Eは、樹脂や金属などを材料とする成形品の射出成形を実施するための射出成形工程の典型例を模式的に示す図である。射出成形とは、図1Aに示すような射出成形機によって、成形品材料6を加熱溶融して流動状態にし、金型4のキャビティ5(金型空洞部)に加圧注入し金型4内で固化させることにより、キャビティ5に相当する形を賦形し、金型を開き、金型内部から固化成形品7を取り出す技術である。通常、その射出成形の工程は大きく分けて図1Bから図1Eの4つの工程に分けることができる。以下、樹脂製品の射出成形を例にとって説明する。
【0004】
図1Bは、樹脂製品の射出成形工程のうち、樹脂充填工程の一例を示す図である。図1Bの充填工程では、モータ1でホッパー2内に投入された粒状の成形品材料6をシリンダ3の中で溶融させ、シリンダ3の中にあるスクリューで金型4のキャビティ5内に充填させる。図1Cは、樹脂製品の射出成形工程のうち、樹脂保圧工程の一例を示す図である。図1Cの保圧工程では、溶融した成形品材料6に圧力をかけて、材料の収縮を補い、安定させる。図1Dは、樹脂製品の射出成形工程のうち、樹脂冷却工程の一例を示す図である。図1Dの冷却工程では、金型4によって、成形品材料6を冷却固化させて、キャビティ5の形状を成形品に賦形する。図1Cの保圧工程と図1Dの冷却工程をまとめて、冷却工程もしくは保圧冷却工程と呼ぶ場合もある。図1Eは、樹脂製品の射出成形工程のうち、離型工程(型開き)の一例を示す図である。図1Eの離型工程では、金型4を開き、固化した成形品7を金型4内から取り出す。射出成形は、典型的には、これら4つの工程により、金型4のキャビティ5形状を成形品に賦形し、製品を得る技術である。
【0005】
しかし、充填工程、保圧工程、冷却工程のいずれの工程においても、金型内部の挙動はブラックボックスとなっており、従来、射出成形を行う場合、経験や勘を頼りに試作金型を修正しながら金型を設計し、また、試行錯誤で成形条件を設定する手法がとられていた。その結果、金型試作回数が多くなり、かつ製品開発期間が長くなるため、開発コストが高くなる傾向にあった。
【0006】
一方で、経験や勘を頼りにするのではなく、事前に充填工程における金型内での溶融の流れ、成形品材料や成形品材料および強化繊維の配向、保圧冷却工程における温度や圧力などの物理量の時間履歴をコンピュータにより数値解析し、金型から成形品を取り出した後の収縮や変形の予測を行い、その結果を金型設計、成形条件の設定にフィードバックさせ、開発期間の短縮する手法が提案されている。
【0007】
図2は、従来の射出成形工程解析の構成の一例を示すフロー図である。従来は、図2のフロー図に示すように、射出成形解析用形状データを入力(ステップ200)し、成形品材料の注入点であるゲートを指定し、原料の密度や比熱、熱伝導率、成形品材料と金型との間の熱伝達係数、成形品材料の溶融粘度特性、PVT特性などの樹脂物性データと、成形温度、金型温度、射出率(または射出時間)、保圧時間、保圧圧力などの成形条件を入力(ステップ201、ステップ202)して、射出成形工程の解析(ステップ203)(充填工程解析(ステップ204)、保圧・冷却工程解析(ステップ205)、体積収縮率算出(ステップ206)、成形収縮歪み算出(ステップ207)、配向解析(ステップ208))を実行し、射出成形解析用形状データの各要素あるいは各節点での成形収縮歪みを求め、これを荷重条件とし、成形品材料の弾性率・ポアソン比を考慮して構造解析を実行することで、成形品のそり変形を解析(ステップ209)し、出力している。解析の結果、成形収縮歪みに分布が存在している時、成形収縮歪みの小さい部分は成形収縮歪みの大きい部分と比較し、寸法が長くなるため、成形収縮歪みが小さい側を凸とする弓なりのそり変形となる。
【0008】
この射出成形工程の解析において、上記ステップ206のような体積収縮率の計算は、従来、成形品材料のPVT特性が用いられてきた。PVTとは、圧力(P)、比容積、すなわち単位質量あたりの体積(V)、温度(T)のことで、PVT特性グラフは、成形品材料の圧力・温度と比容積の関係をグラフ化したものである。
【0009】
図3にポリブチレンテレフタレート樹脂のPVT特性グラフの一例を示す。図3のPVT特性グラフの中で、例えば、□印は大気圧条件での温度と比容積の関係を示したもの、*印は40MPa条件での温度と比容積の関係を示したものなどとなっている。図3のように、圧力条件を数条件設定し、射出成形対象である材料を加熱、冷却しながら、比容積を測定することによってグラフ化することができる。
【0010】
このPVT特性グラフは、例えば、式(1)の2−domain Tait Equationなどにより、圧力・温度と比容積との関係に関数化することができ、射出成形解析で幅広く利用されている。
【0011】
【数1】

【0012】
以下、典型的な射出成形工程における成形品の圧力、温度、体積の挙動について、PVT特性グラフを利用して説明する。
【0013】
図4は、射出成形工程での保圧工程、冷却工程における樹脂の温度、圧力、比容積の変化の一例を示す図である。具体的には、ポリブチレンテレフタレート樹脂を各圧力の条件下、0.3℃/秒の速度で冷却していったときの樹脂の温度と比容積の挙動を例示している。
【0014】
図4の充填開始点A→圧力ピーク点Bは、樹脂を金型に充填工程から、保圧工程初期までを示しており、ほぼ一定の温度で、圧力が上昇する挙動となっており、圧力上昇に伴って比容積が低下している。
【0015】
図4の圧力ピーク点B→収縮開始点Cは、保圧工程を示しており、徐々に温度、圧力が低下し、収縮開始点C付近で、溶融・流動状態から固化状態へ変化するとともに、収縮が開始する。圧力ピーク点B→収縮開始点Cでは、温度低下による熱収縮と圧力低下による膨張が組み合わさっているため、熱収縮の影響と圧力低下による膨張の大小によって、比容積は増加する場合も減少する場合もある。なお、一般に収縮開始点Cは圧力が大気圧になった点、もしくは温度が材料の流動停止する温度以下になった場合のいずれかとするのが一般的であり、そのため、樹脂の温度、圧力条件によって、収縮開始点Cは変化する。
【0016】
図4の収縮開始点C→結晶化収縮終了点Dは、樹脂の結晶化に伴う急激な比容積低下、結晶化収縮終了点D→冷却完了点Eは固体状態での熱収縮を示しており、冷却完了点Eでは、室温大気圧の比容積となっている。
【0017】
PVT特性を用いた数値解析において体積収縮率とは、収縮開始点Cの比容積と室温大気圧となる冷却完了点Eでの比容積との差ΔVを、収縮開始点Cでの比容積V0で除することにより算出する。
【0018】
算出された体積収縮率は、式(2)に示すように1/3乗もしくは1/3倍することによって、成形収縮歪みに変換できる。なお、配向計算(ステップ208)の結果、成形品や充填材料の配向によって異方性がある場合は、成形収縮歪みは必ずしも等方性を示さない。その場合は、成形収縮歪みの異方性を考慮して、例えば、式(3)を満たすように各軸方向の成形収縮歪みの分配を行う。
【0019】
【数2】

【0020】
【数3】

【0021】
これまで、このようにPVT特性を用いることにより、射出成形の各工程における成形品材料の温度、圧力、比容積の特性を表現でき、図2の体積収縮率算出(ステップ206)は、通常、上記のような方法で行われている。そして、式(2)、式(3)により体積収縮率から導出した成形収縮歪みを荷重条件として成形後のそり変形を解析することが可能とされてきた。
【0022】
しかしながら、特に成形品材料に結晶性樹脂を用いた場合、結晶化樹脂のPVT特性は、樹脂の冷却速度により大幅に変化するため問題があると指摘されている。すなわち、射出成形時の温度変化速度は10〜1000℃/秒であるのに対して、PVT特性グラフを作成する際、各圧力条件で樹脂を加熱・冷却するときの成形品材料の温度変化速度は、測定装置の能力から、約0.3℃/秒以下であるため、両者でPVT特性が異なるのが普通であり、射出成形におけるPVT特性を再現できない。(研究レベルでは冷却速度6℃/秒での測定方法もあるが、冷却速度6℃/秒であっても射出成形における成形品の冷却速度よりも遅い。)
そこで、特許文献1では、結晶化シミュレーションを用いて、様々な冷却速度に対応したPVT特性の作成方法が提案されている。この方法は、前記のように0.3℃/min程度のゆっくりとした温度変化の下でPVT測定を実施し、第一の温度変化速度条件のPVT曲線を作成する一方、対象とする樹脂の結晶化挙動を求め、この結晶化挙動に基づいて前記材料の結晶核の成長度合いを表す結晶化パラメータを求め、圧力と温度と第一の温度変化よりも速い温度変化に対応したPVT曲線を結晶化シミュレーションに基づき算出する手法である。結晶化シミュレーションは結晶の核成長速度、核生成頻度などを樹脂の冷却速度、圧力、せん断速度などに応じて算出するため、冷却速度を考慮した体積収縮率の算出ができる。しかし、特許文献1は速い温度変化に対応したPVT曲線の作成をすることができるが、射出成形解析を行う場合、本発明のように冷却速度における前記成形品材料の体積収縮率をあらかじめ求めた関係式に基づいて算出を行わず、結晶化シミュレーションを基礎として、比容積、体積収縮率の算出を行うため、根本的に本発明と異なる。また、本発明者らの知見によると、結晶化シミュレーションを行う方法においては、解析で設定する結晶化パラメータが、核成長速度、核生成頻度、結晶密度、非晶部密度など非常に多く、非常に煩雑であり、個々のパラメータの測定方法も確立されていない。
【0023】
また、特許文献2では、肉厚と金型温度をパラメータとしたPVT特性を用いることが提案されている。この方法では、肉厚方向に対して平均化した冷却速度についてのPVT特性を用いることと等価である。これによって、肉厚方向の異なる部位における成形材料の冷却速度の違いを平均的に考慮して結果的にその影響を低減することができる。本発明者らの知見によると、特許文献2の手法では、平板状の成形品の平均的な収縮のみを考慮しているので成形品のコーナー部など肉厚方向に金型温度が非対称になっている場合は、実際の射出成形工程を忠実に解析することはできない。
【特許文献1】特開平9−311114号公報
【特許文献2】特開2000−313035号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
このように、従来の方法では、射出成形において射出成形時の温度変化速度よりも遙かに遅い速度で測定したPVT特性を用い、現実の射出成形と異なるPVT特性を用いて解析するか、煩雑な結晶化シミュレーションを行って解析するか、肉厚と金型温度をパラメータとしたPVT特性を用いて解析せざるを得なかった。
【0025】
本発明は、上記従来技術の問題点を鑑み、解析により算出された成形品の任意の位置における体積収縮率を成形品の各部における冷却速度に応じ、あらかじめ求めた関係式に基づいて算出することにより、精度良く、また効率的に射出成形に関する体積収縮率、そりの解析を実施する方法を提供することを目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記目的を達成するために本発明によれば、プログラムされたコンピュータによって成形品の射出成形工程を解析するための射出成形解析方法であって、射出成形解析用形状データを入力し、成形品材料の物性データを入力し、成形条件データを入力し、前記入力した各データに基づいて前記成形品の各部における射出成形工程の充填工程を解析し、前記成形品が冷却する過程における前記各部の冷却速度を算出し、該冷却速度における前記成形品材料の体積収縮率をあらかじめ求めた関係式に基づいて算出することを特徴とする射出成形解析方法が提供される。
【0027】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記の射出成形解析方法により、成形品各部における体積収縮率を算出し、該体積収縮率に基づいて、前記成形品の各部における成形収縮歪みを算出し、前記成形品の変形および/またはそりを解析することを特徴とする射出成形品のそり変形解析方法が提供される。
【0028】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記関係式として、収縮開始時の各部の比容積および冷却完了後の各部の比容積を冷却速度の関数として表現したものであることを特徴とする射出成形解析方法が提供される。
【0029】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記関係式として、次式を用いる射出成形解析方法が提供される。
【0030】
【数4】

【0031】
また、本発明の別の形態によれば、プログラムされたコンピュータによって成形品の射出成形工程を解析するための射出成形解析方法であって、射出成形解析用形状データを入力し、成形品材料の物性データを入力し、成形条件データを入力し、前記入力した各データに基づいて前記成形品の各部における射出成形工程の充填工程、保圧冷却工程を解析する方法において、各部における比容積を圧力、温度、冷却速度を変数とする関係式により算出し、各部における体積収縮率を算出することを特徴とする射出成形解析方法が提供される。
【0032】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記射出成形解析方法により、成形品各部における体積収縮率を算出し、該体積収縮率に基づいて、前記成形品の各部における成形収縮歪みを算出し、前記成形品の変形および/またはそりを解析することを特徴とする射出成形品のそり変形解析方法が提供される。
【0033】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記関係式として、次式を用いることを特徴とする射出成形解析方法が提供される。
【0034】
【数5】

【0035】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記成形品が樹脂材料の成形品である解析方法が提供される。
【0036】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記成形品が結晶性樹脂材料の成形品である解析方法が提供される。
【0037】
また、本発明の別の形態によれば、プログラムされたコンピュータによって成形品の射出成形工程を解析するための射出成形解析装置であって、射出成形解析用形状データを入力する手段と、成形品材料の物性データを入力する手段と、成形条件データを入力する手段と、前記入力した各データに基づいて前記成形品の各部における射出成形工程の充填工程を解析する手段と、前記成形品が冷却する過程における前記各部の冷却速度を算出する手段と、該冷却速度における前記成形品材料の体積収縮率をあらかじめ求めた関係式に基づいて算出する手段とを有する射出成形解析装置が提供される。
【0038】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記射出成形解析手段により成形収縮歪みを算出する手段を有し、成形収縮歪みを荷重条件として成形品の変形およびそりを解析する手段を有する射出成形品のそり変形解析装置が提供される。
【0039】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記成形品として樹脂材料の成形品を用いる解析装置が提供される。
【0040】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記成形品として結晶性樹脂材料の成形品を用いる解析装置が提供される。
【0041】
また、本発明の別の形態によれば、前記射出成形解析方法を用いて射出成形工程を解析し、該解析の結果に基づいて射出成形形状、成形品材料および成形条件のうち少なくとも一つを決定し、該決定に基づいて成形品を製造することを特徴とする成形品の製造方法が提供される。
【0042】
また、本発明の別の形態によれば、前記のいずれかに記載の解析方法の各ステップをコンピュータに実行させるためのプログラムが提供される。
【0043】
また、本発明の別の形態によれば、前記プログラムを記録したコンピュータ読みとり可能な記録媒体が提供される。
【0044】
以下に用語を定義する。
【0045】
本発明において、「射出成形解析用形状データ」とは、コンピュータを使用して有限要素法、境界要素法、有限体積法、有限差分法、FAN法などの解析に使用される節点(座標データ)、要素(細分化されたメッシュ)、要素プロパティ(要素の名前、グループ、要素タイプ、肉厚など)、材料プロパティ(熱伝導率、比重、比熱など)などで記述されるデータをいう。
【0046】
本発明において、「成形品」とは、射出成形によって成形される製品であり、例えば図1Aに示したような射出成形機により成形品材料を加熱して流動状態にし、閉じた金型の空洞部(キャビティ)に加圧注入し金型内で固化させることにより、金型空洞部に相当する形を賦形された製品をいう。
【0047】
本発明において、「成形品材料」とは、射出成形で成形に用いる高分子材料や金属材料のことをいい、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、塩化ビニル(PVC)、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、シンジオタクチック・ポリスチレン(SPS) 、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE)、ポリサルホン(PSF)、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリアリレート(PAR)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、熱可塑性ポリイミド(PI)、アクリルニトリルブタジエンスチレン(ABS)、アクリルニトリルスチレン(AS)、マグネシウム合金(Mg合金)などを挙げることができる。
【0048】
本発明において、「結晶性樹脂材料」とは、分子鎖が規則正しく配列された結晶領域の量の比率が高い樹脂をいい、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、シンジオタクチック・ポリスチレン(SPS)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルニトリル(PEN)などを挙げることができる。
【0049】
本発明において、「体積収縮率」とは、収縮開始時における比容積と冷却終了時の比容積との差を計算し、その値を収縮開始時における比容積で割った値をいう。
【0050】
本発明において、「冷却速度」とは、射出成形の保圧工程における、金型内部の任意の位置における射出成形品材料の温度変化率のことをいう。なお、冷却速度は、時間ステップ毎の温度変化率であっても、保圧工程開始時から収縮開始時までの平均温度変化率であっても、保圧工程開始時の温度変化率であっても、収縮開始時の温度変化率であっても、任意の時間における温度変化率でもよい。
【0051】
本発明において、「収縮開始時」とは、射出成形の保圧工程において、金型内部の射出成形品材料が、ある一定温度以下、もしくは大気圧以下になった時のことをいう。
【0052】
本発明において、「冷却終了時」とは、成形品を金型から取り出して、室温(例えば約20℃)大気圧(例えば1気圧)雰囲気下で放置し、成形品の温度が一様に室温と同じ温度になった時点のことをいう。
【0053】
本発明において、「成形収縮歪み」とは、射出成形材料寸法の成形収縮後の歪みのことをいう。例えば、等方的な材料の場合、体積収縮率を式(2)に示すように1/3乗もしくは1/3倍することによって変換することで得られる。配向計算の結果、成形品や充填材料の配向によって異方性がある場合は、成形収縮歪みの異方性を考慮して、例えば、式(3)を満たすように各軸方向に分配されたものを用いてもよい。
【0054】
本発明において、「物性データ」とは、成形品材料の粘度、PVT特性データ、弾性率、ポアソン比、線膨張係数、熱伝導率、金型と成形品との間の熱伝達係数、金型の弾性率、ポアソン比、線膨張係数、熱伝導率など射出成形品、金型などの物理的な特性を示すデータをいう。
【0055】
本発明において、「関係式」とは、主として、実験により導出した成形品の挙動を関数化した式であり、成形品の温度、圧力、冷却速度によって、成形品の比容積、体積収縮率を算出する成形品挙動を関数化した式をいう。なお、実験を全く行うことなく、射出成形解析を繰り返し行う、もしくは分子挙動や結晶化の解析を行うなどして、冷却速度を変数とする関数を導出しても構わない。
【0056】
本発明において、「成形条件」とは、射出成形の各工程における設定温度、設定圧力、設定速度、設定時間など、成形の設定条件をいう。
【0057】
本発明において、「成形品のそり」とは、成形収縮歪みの分布により生じるそりをいう。収縮歪みが大きい部分を凹とする弓なりのそり変形などがこれに含まれる。
【0058】
本発明において、データを「入力する」とは、オペレータがキーボードやマウスなどによりデータをコンピュータの所定のメモリーにロードすること、またはファイル等のデータを記憶媒体等から読み出したりしてコンピュータの所定のメモリーにロードすることをいう。
【発明の効果】
【0059】
本発明によれば、簡便な計算手法でありながら、射出成形解析における体積収縮率およびそりの予測精度が向上し、成形品の開発コストの抑制、開発期間の短縮が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0060】
以下、添付図面を参照して、本発明の射出成形解析方法、射出成形解析装置の実施の形態について説明する。
【0061】
図6Aは本発明の第一の実施形態、図6Bは本発明の第二の実施形態の一実施例を示す図である。本実施形態例において、(600)はコンピュータやワークステーションなどの計算機、(601)はキーボード、(602)はマウス、(603)はディスプレイ、(604)は補助記憶装置である。(604)の補助記憶装置には、ハードディスク装置の他、テープ、FD(フロッピーディスク)、MO(光磁気ディスク)、PD(相変化光ディスク)、CD(コンパクトディスク)、DVD(デジタル・バーサタイル・ディスク)などのディスクメモリー、USB(ユニバーサル・シリアル・バス)メモリー、メモリーカードなどのリムーバブルメディアも利用可能である。
【0062】
補助記憶装置604には、射出成形工程を解析するためのプログラム605や射出成形解析用形状データ606もしくは射出成形解析用形状データを作成するためのプログラム605、粘度、PVT特性、弾性率、ポアソン比、線膨張係数などの成形品物性データ607、設定温度、設定圧力、設定速度、設定時間などの成形条件608が保存されている。
【0063】
図7Aは、本発明の第一の実施形態のフロー図の一例である。以下、図2のフロー図と実質的に違いのないステップについては、同図と同一の符号を付して説明を省略することがある。
【0064】
第一の実施形態によれば、コンピュータやワークステーションなどの計算機600は、データ読み出し手段609でプログラム605および形状データ606、成形品物性データ607、成形条件データ608の読み込み(図7Aのステップ200、ステップ201、ステップ202)を行う。射出成形解析用形状データ606、成形品物性データ607、成形条件608が記憶装置604に保存されていない場合は、キーボード601、マウス602などの入力装置やプログラム605を用いて、入力や編集を行う。なお、射出成形解析用形状データ606は、ユージーエス コーポレーション製“I−DEAS(登録商標)”のUNV形式など汎用の射出成形解析プリプロセッサーにより作成できるものであり、1次元ビーム要素、2次元シェル要素、3次元ソリッド要素などで表現する。もちろん、節点、要素、要素プロパティ、材料プロパティなどで記述されるデータであれば、形状データ606の形式は限定しない。
【0065】
入力したデータやプログラムで、射出成形工程解析手段610によって射出成形工程の解析(ステップ203)(充填工程解析(ステップ204)、保圧・冷却工程解析(ステップ205)、体積収縮率算出(ステップ206)、成形収縮歪み算出(ステップ207)、配向解析(ステップ208))を実行する。体積収縮率算出(ステップ206)は従来の手法と同様に、図4に示す収縮開始点Cの比容積と冷却完了点Eでの比容積との差ΔVを、収縮開始点である点Cでの比容積V0で除することにより算出する。
【0066】
以下、冷却速度算出(ステップ700)、体積収縮率補正(ステップ701)について詳細に説明する。
【0067】
図7Aにおける冷却速度算出(ステップ700)では、保圧・冷却解析において、射出成形解析用形状データの各要素あるいは各節点における成形品材料の物性データの融点もしくはガラス転移点よりも高い温度での温度の経時変化から、溶融時の射出成形解析用形状データの各要素あるいは各節点における成形品材料の冷却速度を算出する。冷却速度は、各時間ステップでの冷却速度、冷却開始から収縮が開始するまでの成形品材料の平均冷却速度、保圧工程開始時から収縮開始時までの平均温度変化率、保圧工程開始時の温度変化率、収縮開始時の温度変化率、任意の時間における温度変化率などを用いることができが、冷却開始から収縮が開始するまでの成形品材料の平均冷却速度を用いると最も良い。
【0068】
体積収縮率補正(ステップ701)では、冷却速度算出(ステップ700)で算出した溶融時の射出成形解析用形状データの各要素あるいは各節点の冷却速度を基に体積収縮率の補正を行う。補正方法をポリブチレンテレフタレート樹脂について、本実施形態を適用した場合を例に説明する。
【0069】
図5に、例えば冷却速度80℃/秒で冷却した場合に図4に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂におけるPVT特性グラフの一例を示す。このグラフは、例えば、特許文献1に開示された方法を利用することにより、作成可能である。図4の冷却速度0.3℃/秒のPVT特性グラフと比較すると、大きく分けて2つの違いがある。
【0070】
第一に、溶融・流動状態から固化状態へ変化するとともに収縮が開始する、収縮開始点の点Cの温度に関して、図4の冷却速度0.3℃/秒条件では、約200℃であるのに対して、図5の冷却速度80℃/秒条件では約140℃であり、約60℃の違いがある。収縮開始点Cの比容積は収縮開始点Cの温度と相関関係があるため、冷却速度が異なると収縮開始点Cの比容積が変化する。
【0071】
第二に、冷却完了時の状態を表した冷却完了点Eの比容積に違いがある。これは、冷却速度に応じて結晶化度に違いが生じるためである。一般に冷却速度が速いほど、結晶化度が低く、結晶化度が低いほど、比容積が大きいため、図4の冷却速度0.3℃/秒条件よりも、図5の冷却速度80℃/秒条件は冷却完了点Eの比容積が大きくなる。
【0072】
このように、収縮開始点C、および冷却完了点Eの比容積が冷却速度によって変化するため、図4の冷却速度0.3℃/秒条件では、体積収縮がΔV、図5の冷却速度80℃/秒条件では、体積収縮がΔV’と両者に違いが生じる。
【0073】
そのため、冷却速度0.3℃/秒条件で測定したPVT特性で算出した体積収縮率は式(4)に示すような補正関数により補正することによって、冷却速度が速い条件での体積収縮率に変換するとよい。
【0074】
【数6】

【0075】
なお、式(5)〜式(8)の定数C1、C2、C3は、PVT特性グラフおよびDSC示差走査熱量計(JIS K7121:1987)による熱特性測定結果を対比して導出することもできるし、図8Aに示すような矩形形状等の所定形状のテスト成形品を射出成形で成形し、成形時の冷却速度や成形品の成形収縮歪みを測定し、PVT特性グラフと成形収縮歪みを対比することにより導出することもできる。
【0076】
まず最初に、PVT特性グラフとDSC示差走査熱量計による熱特性測定結果とを対比して、式(5)〜式(8)の定数C1、C2、C3を導出する方法について、図4、図5のPVT特性グラフを用いて説明する。DSC示差走査熱量計(JIS K7121:1987)とは、試料を加熱または冷却させながら、物質の熱容量を測定する装置であり、エンタルピーや比熱容量変化を測定することができる装置である。図9に示すようにDSC示差走査熱量計で試料を冷却させた時、冷却速度に依存した特有の熱流束ピークが検出でき、その温度が冷却速度に対応する図4の収縮開始点Cの温度となる。なお、図4の充填開始点Aから収縮開始点CまでのPVT特性グラフの傾きは、冷却速度に依存せずほぼ一定であるため、高速冷却時の収縮開始点Cの温度が決まれば、収縮開始時の比容積V0’を導き出すことができる。ここで、DSC示差走査熱量計で測定される熱流束ピークにおける温度は、冷却速度にほぼ対数相関すると考えられるため、式(6)に示す関係で表すことができる。また、DSC示差走査熱量計による測定で、高速冷却時の試料の比容積(比重の逆数)を測定する(JIS K7112:1999)ことによって、高速冷却時の冷却完了点EでのVC’を導き出すことができる。PVT特性測定(低速冷却)後の冷却完了時における比容積VCとDSC測定(高速冷却)後の冷却完了時における比容積VC’の差は、冷却速度に対して、対数相関があるため、式(7)が成立する。高速冷却時の体積収縮率ΔV’は、高速冷却時の収縮開始点Cでの比容積V0’と高速冷却完了後の点Eでの比容積VC’の差であるため、式(6)、式(7)、式(8)を変換し、式(5)を導き出すことができる。
【0077】
なお、収縮開始点Cの比容積、および冷却完了時点Eの比容積について、冷却速度の影響に対して、圧力やせん断速度などの影響を無視できない場合、圧力やせん断速度などの影響を考慮できるように式(4)〜(8)を変更しても構わない。
【0078】
次に、図8Aに示す矩形形状のテスト成形品を射出成形で成形し、成形時の冷却速度や成形品の成形収縮歪みを測定し、測定結果をPVT特性グラフと対比することにより式(5)〜式(8)の定数C1、C2、C3を導出する方法について説明する。この方法では、収縮開始点Cの比容積V0’を直接測定することができないため、冷却終了後の比容積VC’、体積収縮率ΔV’/V0’を測定し、収縮開始点Cの比容積V0’は式(9)から算出する。
【0079】
図8Bに示すように、シース熱電対803(露出型が応答速度の面で最も好ましい)の測定点が肉厚方向中心に来るように配置し、射出成形による成形を行い、冷却時の冷却速度(冷却開始から収縮開始温度までの平均冷却速度)を測定する。次にシース熱電対を外し、成形を行う。得られた成形品の寸法(幅方向、流動方向、肉厚方向)を測定し、式(10)に示すように、金型の基準寸法との比によって、体積収縮率ΔV’/V0’を求める。また、冷却完了後の成形品比容積VC’は成形品の比重(比容積の逆数)を測定するにより求め、収縮開始点Cの比容積V0’は式(9)から求める。
【0080】
【数7】

【0081】
図8Aに示す矩形形状の肉厚や金型温度を変えることによって、様々な冷却速度に対応する体積収縮率ΔV’/V0’を得ることができる。
【0082】
一方では、図8Aに示す矩形形状のテスト成形品を射出成形した時と同一の条件で、図2に示すフロー図に従い射出成形解析を行い、体積収縮ΔV、収縮開始点Cの比容積V0、冷却完了時点Eの比容積VCを算出する。これらを、矩形形状の成形品を射出成形で成形して算出した体積収縮ΔV’、収縮開始点Cの比容積VC’、冷却完了時点Eの比容積V0’を式(5)〜式(8)に代入することによって、定数C1、C2、C3を得ることができる。
【0083】
なお、この方法は、肉厚方向中心における平均冷却速度、成形品の平均成形収縮歪みを測定することになる。より正確にデータを測定する場合、冷却速度に関しては、肉厚方向中心の温度だけではなく、肉厚方向にさらに数点測定点を設け、それぞれの冷却速度を測定すると良く、成形収縮歪みに関しては、金型に罫書き線を書き、金型の罫書き線の寸法と成形品に転写された罫書き線の寸法の変化を測定すると良い。また、圧力やせん断速度などの影響を無視できない場合、圧力やせん断速度などの影響を考慮できるように式(4)〜(8)を変更しても構わない。
【0084】
ここで、DSC示差走査熱量計(JIS K7121:1987)を用いる方法とテスト成形品を用いる方法の2つの方法について、得失をまとめると次のようになる。
【0085】
まずDSC示差走査熱量計(JIS K7121:1987)を用いる方法は、射出成形による成形が不要であること、収縮開始点Cの温度を直接測定できる利点があるが、装置スペックの関係から、冷却速度が50℃/min程度以下での測定になるため、冷却速度50℃/min以上の速度領域については外挿計算が必要である欠点がある。
【0086】
次にテスト成形品を用いる方法は、肉厚や金型温度を変えることによって、さまざまな冷却速度に対応する体積収縮率の測定ができる利点があるが、射出成形による成形が必要であり、労力を要すること、収縮開始点Cの温度を直接測定できないという欠点がある。
【0087】
以上をまとめると、次のようになる。
図6Aにおける体積収縮率補正手段611は、図7Aにおける射出成形工程の解析(ステップ203)では、充填工程解析(ステップ204)、保圧・冷却工程解析(ステップ205)を実行すると同時に、冷却速度算出手段614で溶融時の射出成形解析用形状データの各要素あるいは各節点の冷却速度を算出(ステップ700)し、その冷却速度を式(4)に代入し、図6Aにおける射出成形工程解析手段610によって射出成形工程の解析(体積収縮率算出(ステップ206)で求めた体積収縮率(ステップ701)を補正する。体積収縮率は、成形収縮歪み解析手段(ステップ612)によって、式(2)に示すように1/3乗もしくは1/3倍することによって、成形収縮歪みに変換する。なお、配向計算(ステップ208)の結果、成形品や充填材料の配向によって異方性がある場合は、配向計算によって算出した成形収縮歪みの異方性を考慮して、式(3)を満たすように各軸方向の成形収縮歪みの分配を行う。成形・そり変形解析手段613は、成形収縮歪みを荷重条件とし、成形品材料の弾性率・ポアソン比を考慮して構造解析を実行することで、成形品のそり変形を解析(ステップ209)し、出力(ステップ210)する。以上の実施形態では、いったん背景技術の欄で説明した従来の体積収縮率計算手段で仮の値を算出して暫定的に体積収縮率とし、その後、式(4)〜(8)を用いて左記体積収縮率とを補正するという手順をとったが、もちろん、暫定的な値を経由せずに直接冷却速度に応じた体積収縮率を求めてもよい。
【0088】
図7Bは、本発明の第二の実施形態のフロー図の一例である。第二の実施形態によれば、コンピュータやワークステーションなどの計算機600は、データ読み出し手段609でプログラム605および形状データ606、成形品物性データ607、成形条件データ608の読み込み(図7Aのステップ200、ステップ201、ステップ202)を行う。射出成形解析用形状データ606、成形品物性データ607、成形条件608が記憶装置604に保存されていない場合は、キーボード601、マウス602などの入力装置やプログラム605を用いて、入力や編集を行う。なお、射出成形解析用形状データ606は、ユージーエス コーポレーション製“I−DEAS(登録商標)”のUNV形式など汎用の射出成形解析プリプロセッサーにより作成できるものであり、1次元ビーム要素、2次元シェル要素、3次元ソリッド要素などで表現する。もちろん、節点、要素、要素プロパティ、材料プロパティなどで記述されるデータであれば、形状データ606の形式は限定しない。
【0089】
入力したデータやプログラムで、射出成形工程解析手段610によって射出成形工程の解析(ステップ203)(充填工程解析(ステップ204)、保圧・冷却工程解析(ステップ205)、体積収縮率算出(ステップ206)、成形収縮歪み算出(ステップ207)、配向解析(ステップ208))を実行する。充填工程解析(ステップ204)、保圧・冷却工程解析(ステップ205)において、冷却速度算出手段614によって冷却速度も算出する。
【0090】
冷却速度を算出する方法は以下の2通りが挙げられるが、この2通りに限定されるものではない。
【0091】
冷却速度算出の第一の方法は、成形品の任意の位置(任意の解析節点もしくは要素)において、解析ステップごとにステップ前後での温度差をステップの刻み時間で割ることにより、すべての解析ステップごとに任意の位置の冷却速度を算出する方法である。この方法の場合、一般に、冷却時間が進むに従って、冷却速度が遅くなる。その場合、任意の温度(例えば、図4のPVT特性グラフの点Cの温度Tc)以下では、冷却速度を任意の温度(例えば、図4のPVT特性グラフの点Cの温度Tc)での冷却速度で代用することが好ましい。
【0092】
冷却速度算出の第二の方法は、充填解析結果で得られた樹脂の温度条件と金型の温度条件を境界条件として熱伝導解析を実施し、求める方法である。成形品の任意の位置(任意の解析節点もしくは要素)において、初期温度からある一定温度に至るまでの温度差をある一定温度に至るまでの時間で割ることによって、任意の位置の冷却速度を求める方法である。なお、ある一定温度とは、任意の温度として構わないが、図4のPVT特性グラフの点Cの温度Tc以上にすることが好ましいが、初期温度における冷却速度や、点Cにおける冷却速度など、どの値を利用しても構わない。
【0093】
充填工程解析(ステップ204)、保圧・冷却工程解析(ステップ205)において用いるPVT特性は、式(1)に示す2−domain Tait Equationなどの温度と圧力を変数とする関数を用いるのではなく、式(11)に示すような圧力、温度、冷却速度を変数とする関数を用いる。なお、式(11)に示す式に限定するものではなく、圧力、温度、冷却速度を変数とする関数であり、本発明の目的にかなうものであれば、特に限定するものではない。
【0094】
【数8】

【0095】
体積収縮率算出(ステップ206)は従来の手法と同様に、図4に示す収縮開始点Cの比容積と冷却完了点Eでの比容積との差ΔVを、収縮開始点である点Cでの比容積V0で除することにより算出する。
【0096】
その結果、冷却速度の値に応じて、PVT特性が図10A、図10B、図10Cに示すように変化する。それにより、図7Bの充填工程解析204、保圧・冷却工程解析205において、冷却速度に応じて最適化されたPVT特性を用いることができるようになり、実際の射出成形とほぼ同等の挙動で比容積や体積収縮率を解析することができる。
【0097】
以下、式(11)の定数α1〜α10、β1〜β6、γ1〜γ3の決定方法について説明する。
【0098】
冷却速度に影響する項は、α8〜α10、β5、β6、γ2である。通常のPVT測定では、冷却速度は0.3℃/秒以下で測定を行っており、冷却速度は極めて小さいため、冷却速度の対数項はほぼゼロとなる。すなわち、冷却速度に影響する項(α8〜α10、β5、β6、γ2)を除く、α1〜α7、β1〜β4,γ1、γ3は、通常の(低速条件の)PVT測定で測定したデータにフィッティングさせて導出する。
【0099】
冷却速度に影響する項(α8〜α10、β5、β6、γ2)の導出方法を以下に説明する。
【0100】
第一の実施形態で示したDSC示差走査熱量計(JIS K7121:1987)を用いて、冷却速度を数条件変えながら測定し、図4の点Cの温度Tcと冷却速度の関係を算出する。それにより、定数γ2を計算できる。また、冷却速度と図4の冷却完了点Eにおける比容積の関係を算出する。それにより、α10とα9の比(α10/α9)を計算することができる。残りの項は、冷却速度を0.1℃〜1000℃/秒に変更したとき、図4の点Cにおいて、PVT特性グラフの曲線がなめらかにつながるように、最小自乗法などを用いて決定すればよい。
【0101】
以下に、第一の実施形態、第二の実施形態を用いる場合、それぞれの得失を示す。
【0102】
第一の実施形態の場合、DSC示差走査熱量計(JIS K7121:1987)を用いる方法、テスト成形品を用いる方法のいずれを用いても、体積収縮率を補正することができる利点や、体積収縮率を補正するステップ以外は従来の方法をそのまま利用することができる利点や実験で決定すべき定数がC1〜C3の3種類のみであり定数の決定が容易であるという利点などがある。但し、充填解析や保圧冷却解析における比容積を、遅い冷却速度条件で測定したPVT特性のデータをそのまま利用して解いているため、実際の射出成形挙動を完全に再現できていない可能性がある。
【0103】
一方、第二の実施形態の場合、充填解析や保圧冷却解析における比容積を、冷却速度条件に応じたPVT特性を用いて解いているため、実際の射出成形の挙動をより忠実に再現できるという利点がある。ただし、決定すべき変数が相対的に多い。
【実施例】
【0104】
[実施例1]
図11は、箱形射出成形品形状を示した図である。ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂を用い、図11に示すような形状で、高さH×幅W×奥行きDが40×15×40mm、肉厚tが1.5mmの箱形形状の製品101を成形した。成形条件は樹脂温度250℃、金型温度80℃、樹脂充填時間を1秒、保圧圧力を50MPa、保圧時間を20秒、冷却時間を20秒とした。
【0105】
金型から製品1000を取り出し、図11における1001、1002、1003に示す基準点で支持し、1004に示す中央位置でのそり量1005を測定すると内側方向へ0.48mmであった。
【0106】
図12は、箱形射出成形品形状を射出成形解析用形状データにメッシュ分割したものを示した図である。射出成形解析用形状データは図12のように、東レエンジニアリング社製の“3D TIMON(登録商標)”により、解析用に3次元要素でメッシュ化した。
【0107】
本発明の第一の実施形態に示すように、図6Aの装置および図7Aのフロー図に従って、樹脂温度250℃、金型温度80℃、樹脂充填時間を1秒、保圧圧力を50MPa、保圧時間を20秒、冷却時間を20秒の成形条件の下、充填工程解析、保圧冷却工程解析を実施した。
【0108】
また、式(4)〜式(8)における定数C1、C2、C3は冷却速度水準を3通り(冷却速度:1、10、50℃/min)設定し、熱流束ピークにおける温度、各冷却速度水準における比容積を測定し、最小自乗法による直線フィッティングにより、C1=0.051、C2=0.040、C3=0.011を導出した。
保圧・冷却工程における溶融時の冷却速度は第二の方法に基づき算出し、例えば、図12のコーナー部1104においては、内側で30℃/秒、外側で49℃/秒と算出された。式(4)〜式(8)に従い、C1=0.051、C2=0.040、C3=0.011として、体積収縮率の補正を行ったところ、箱形射出成形品のコーナー部1104における体積収縮率は内側で6.8%、外側で5.4%となった。射出成形解析用形状データの各要素について、それぞれ同様の処理を行い、体積収縮率の補正を行った。各要素の補正した体積収縮率を等方性の仮定のもとで、式(2)に従い、成形収縮歪みに変換し、これを各要素の荷重条件として、図12における1101、1102、1103に示す基準点で支持し、成形品材料の弾性率・ポアソン比を考慮して構造解析を実行することで成形品のそり変形を解析し、出力したところ、評価位置1105におけるそり量は内側方向へ0.46mmとなった。
【0109】
[実施例2]
本発明の第二の実施形態に示すように、図6Bの装置および図7Bのフロー図に従って、樹脂温度250℃、金型温度80℃、樹脂充填時間を1秒、保圧圧力を50MPa、保圧時間を20秒、冷却時間を20秒の成形条件の下、充填工程解析、保圧冷却工程解析を実施した。
【0110】
また、式(11)における定数は冷却速度水準を3通り(冷却速度:1、10、50℃/min)設定し、熱流束ピークにおける温度、各冷却速度水準における比容積を測定し、最小自乗法によるフィッティングにより、表1のように導出した。
【0111】
【表1】

【0112】
保圧・冷却工程における溶融時の冷却速度は第二の方法に基づき算出し、例えば、図12のコーナー部1104においては、内側で30℃/秒、外側で49℃/秒と算出された。
その結果、箱形射出成形品のコーナー部1104における体積収縮率は内側で6.8%、外側で5.3%となった。この際、式(11)を用い、圧力、温度、冷却速度を変数とするPVT特性を用いた。各要素の体積収縮率を等方性の仮定のもとで、式(2)に従い、成形収縮歪みに変換し、これを各要素の荷重条件として、図12における1101、1102、1103に示す基準点で支持し、成形品材料の弾性率・ポアソン比を考慮して構造解析を実行することで成形品のそり変形を解析し、出力したところ、評価位置1105におけるそり量は内側方向へ0.47mmとなった。
【0113】
[比較例1]
実施例1で作成した図12に示す射出成形解析用形状データを利用し、図2のフロー図に従い、樹脂温度250℃、金型温度80℃、樹脂充填時間を1秒、保圧圧力を50MPa、保圧時間を20秒、冷却時間を20秒の成形条件の下、射出成形過程解析ソフト(東レエンジニアリング社製の“3D TIMON(登録商標)”)を用いて、充填工程解析、保圧・冷却工程解析、体積収縮率算出を行ったところ、箱形射出成形品のコーナー部1104における体積収縮率は内側で7.0%、外側で6.6%と算出された。冷却速度に応じた体積収縮率の補正がないため、内側と外側とで体積収縮率の差が実施例1よりも小さくなった。引き続き実施例1と同様に構造解析を実行することで成形品のそり変形を解析し、出力したところ、評価位置1105におけるそり量は内側方向へ0.22mmであった。
【0114】
[比較例2]
実施例1で作成した図12に示す射出成形解析用形状データを利用し、特許文献2に示すように肉厚1.5mm、金型温度80℃のPVT特性グラフを作成し、比較例1と同様、図2のフロー図に従い解析を実施したところ、箱形射出成形品のコーナー部1104における体積収縮率は内側で5.5%、5.3%と算出された。比較例1と同様、前述のように、この方法は平板状の形状の平均的な収縮にもとづく解析なので上記のようなコーナー部では、内側と外側とで体積収縮率の差が実施例1よりも小さくなった。引き続き実施例1と同様に構造解析を実行することで、成形品のそり変形を解析し、出力したところ、評価位置1105におけるそり量は内側方向へ0.18mmであった。
【0115】
[まとめ]
従来は、射出成形解析の解析によって、定性的なそりの評価ができれば問題ないとされていたが、近年は製品開発期間が短いため、実測との誤差率が±20%程度に収めることができるような定量的な評価を実施し、金型の製作期間短縮することが望まれており、比較例のように実測との誤差率が40%以上生じるような解析では、解析の予測精度として不十分である。表2に示すように、誤差率について、実施例1では4%、実施例2では2%、比較例1では54%、比較例2では63%となっており、実施例は比較例に対して大幅にそり予測精度が向上している。なお、誤差率とは、実測のそりと解析のそりの差を実測のそりで割った値である。
【0116】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明は、射出成形品の体積収縮率、そりを高精度に予測することができる解析方法、および装置として利用するに限らず、射出成形品の物性評価、射出成形金型内部での射出成形品挙動の評価などに応用することができるが、その応用範囲が、これらに限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1A】樹脂製品の射出成形を実施するための射出成形機の一例を示す図である。
【図1B】樹脂製品の射出成形工程のうち、樹脂充填工程の一例を示す図である。
【図1C】樹脂製品の射出成形工程のうち、樹脂保圧工程の一例を示す図である。
【図1D】樹脂製品の射出成形工程のうち、樹脂冷却工程の一例を示す図である。
【図1E】樹脂製品の射出成形工程のうち、離型工程(型開き)の一例を示す図である。
【図2】従来の射出成形工程解析の構成の一例を示すフロー図である。
【図3】製品に原料となる樹脂の温度、圧力、比容積の関係を示すPVT線図の一例を示す図である。
【図4】射出成形工程での保圧工程、冷却工程における樹脂の温度、圧力、比容積の変化の一例を示す図である。
【図5】射出成形工程での保圧工程、冷却工程における樹脂の温度、圧力、比容積の変化の別の例を示す図である。
【図6A】本発明の第一の実施形態の構成を示すブロック図の一例を示す図である。
【図6B】本発明の第二の実施形態の構成を示すブロック図の一例を示す図である。
【図7A】本発明の第一の実施形態のフロー図の一例を示す図である。
【図7B】本発明の第二の実施形態のフロー図の一例を示す図である。
【図8A】本発明の一実施形態で用いる矩形形状成形品形状の一例を示す図である。
【図8B】本発明の一実施形態で用いる矩形形状成形品形状成形品の温度測定方法の一例を示す図である。
【図9】本発明のDSC示差走査熱量計で測定される温度と熱流束の関係一例を示す図である。
【図10A】本発明の式(11)に示す関数で、冷却速度を高速冷却にしたときのPVT特性グラフの一例を示した図である。
【図10B】本発明の式(11)に示す関数で、冷却速度を中速冷却にしたときのPVT特性グラフの一例を示した図である。
【図10C】本発明の式(11)に示す関数で、冷却速度を低速冷却にしたときのPVT特性グラフの一例を示した図である。
【図11】本発明の実施例で用いる箱形射出成形品形状を示す図である。
【図12】本発明の実施例で用いる箱形射出成形品形状を射出成形解析用形状データにメッシュ分割した図である。
【符号の説明】
【0119】
1:モータ
2:ホッパー
3:シリンダ
4:金型
5:キャビティ
6:成形品材料
7:固化成形品
600:コンピュータ
601:キーボード
602:マウス
603:ディスプレイ
604:補助記憶装置
801:ゲート
802:矩形キャビティ
803:シース熱電対
1000:箱形射出成形品
1001:そり評価基準点
1002:そり評価基準点
1003:そり評価基準点
1004:そり評価位置
1005:そり量
1100:箱形射出成形品の射出成形解析用形状データ
1101:そり評価基準点
1102:そり評価基準点
1103:そり評価基準点
1104:コーナー部
1105:そり評価位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プログラムされたコンピュータによって成形品の射出成形工程を解析するための射出成形解析方法であって、射出成形解析用形状データを入力し、成形品材料の物性データを入力し、成形条件データを入力し、前記入力した各データに基づいて前記成形品の各部における射出成形工程の充填工程を解析し、前記成形品が冷却する過程における前記各部の冷却速度を算出し、該冷却速度における前記成形品材料の体積収縮率をあらかじめ求めた関係式に基づいて算出することを特徴とする射出成形解析方法。
【請求項2】
請求項1に記載の射出成形解析方法により、成形品各部における体積収縮率を算出し、該体積収縮率に基づいて、前記成形品の各部における成形収縮歪みを算出し、前記成形品の変形および/またはそりを解析することを特徴とする射出成形品のそり変形解析方法。
【請求項3】
前記関係式として、収縮開始時の各部の比容積および冷却完了後の各部の比容積を冷却速度の関数として表現したものであることを特徴とする請求項1に記載の射出成形解析方法。
【請求項4】
前記関係式として、次式を用いることを特徴とする請求項1に記載の射出成形解析方法。
【数1】

【請求項5】
プログラムされたコンピュータによって成形品の射出成形工程を解析するための射出成形解析方法であって、射出成形解析用形状データを入力し、成形品材料の物性データを入力し、成形条件データを入力し、前記入力した各データに基づいて前記成形品の各部における射出成形工程の充填工程、保圧冷却工程を解析する方法において、各部における比容積を圧力、温度、冷却速度を変数とする関係式により算出し、各部における体積収縮率を算出することを特徴とする射出成形解析方法。
【請求項6】
請求項5に記載の射出成形解析方法により、成形品各部における体積収縮率を算出し、該体積収縮率に基づいて、前記成形品の各部における成形収縮歪みを算出し、前記成形品の変形および/またはそりを解析することを特徴とする射出成形品のそり変形解析方法。
【請求項7】
前記関係式として、次式を用いることを特徴とする請求項5に記載の射出成形解析方法。
【数2】

【請求項8】
前記成形品が樹脂材料の成形品であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の解析方法。
【請求項9】
前記成形品が結晶性樹脂材料の成形品であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の解析方法。
【請求項10】
プログラムされたコンピュータによって成形品の射出成形工程を解析するための射出成形解析装置であって、射出成形解析用形状データを入力する手段と、成形品材料の物性データを入力する手段と、成形条件データを入力する手段と、前記入力した各データに基づいて前記成形品の各部における射出成形工程の充填工程を解析する手段と、前記成形品が冷却する過程における前記各部の冷却速度を算出する手段と、該冷却速度における前記成形品材料の体積収縮率をあらかじめ求めた関係式に基づいて算出する手段とを有することを特徴とする射出成形解析装置。
【請求項11】
請求項10に記載の射出成形解析手段により成形収縮歪みを算出する手段を有し、成形収縮歪みを荷重条件として成形品の変形およびそりを解析する手段を有する射出成形品のそり変形解析装置。
【請求項12】
前記成形品として樹脂材料の成形品を用いることを特徴とする請求項10または11に記載の解析装置。
【請求項13】
前記成形品として結晶性樹脂材料の成形品を用いることを特徴とする請求項10または11に記載の解析装置。
【請求項14】
請求項1〜9に記載の射出成形解析方法を用いて射出成形工程を解析し、該解析の結果に基づいて射出成形形状、成形品材料および成形条件のうち少なくとも一つを決定し、該決定に基づいて成形品を製造することを特徴とする成形品の製造方法。
【請求項15】
請求項1〜9のいずれかに記載の解析方法の各ステップをコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項16】
請求項15に記載のプログラムを記録したコンピュータ読みとり可能な記録媒体。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図1E】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−23974(P2008−23974A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−225034(P2006−225034)
【出願日】平成18年8月22日(2006.8.22)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】