説明

導電性ローラとそれを用いた電子写真装置

【課題】柔軟性に優れるととともに前記柔軟性が周方向の全周に亘ってほぼ一定で、例えば転写ローラとして使用した際に紙の表面に形成される画像に、特に低温条件下でムラ等を生じるおそれがない導電性ローラと、前記導電性ローラを転写ローラとして組み込んだ電子写真装置とを提供する。
【解決手段】導電性ローラ1は、ローラ本体2の外周面6に、高低差hが100μm以上、ピッチwが800μm以下である複数の凸条7と凹溝8とを交互に設けるとともに、内部に、面積占有率が10%以上、80%以下である複数の中空部9、10を設けた。電子写真装置は、前記導電性ローラを、転写ローラとして組み込んだ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザープリンタ等の電子写真装置に組み込んで、前記電子写真装置の感光体または像担持体の表面に形成されたトナー像を紙(プラスチックフィルム等を含む、以下同様)の表面に転写する転写ローラ等として用いる導電性ローラと、前記導電性ローラを転写ローラとして組み込んだ電子写真装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザープリンタ、静電式複写機、普通紙ファクシミリ装置、あるいはこれらの複合機等の電子写真装置においては、感光体の表面を一様に帯電させた状態で露光して、前記表面に形成画像に対応する静電潜像を形成し(帯電工程→露光工程)、前記静電潜像を、あらかじめ帯電させたトナーを選択的に付着させることでトナー像に現像したのち(現像工程)、前記トナー像を紙の表面に転写し(転写工程)、さらに定着させることにより(定着工程)、前記紙の表面に画像が形成される。
【0003】
また前記転写工程では、感光体の表面に形成したトナー像を紙の表面に直接に転写させる場合だけでなく、一旦像担持体の表面に転写させたのち紙の表面に再転写させる場合もある。
前記各工程のうち帯電工程、現像工程のうちトナーの帯電過程、および静電潜像への付着過程、転写工程、さらにはトナー像を紙の表面に転写後、感光体や像担持体の表面に残留したトナーを除去するクリーニング工程等において、導電性ないし半導電性を有するローラ(以下「導電性ローラ」と総称する場合がある)が広く用いられている。
【0004】
例えば前記感光体または像担持体と、転写ローラとしての導電性ローラとの間に所定の電圧を印加した状態で両者間に紙を通紙させることにより、前記感光体または像担持体の表面に形成されたトナー像を、転写ローラとの間の静電気力によって紙の表面に転写させて、前記紙の表面に画像を形成することができる。
前記転写ローラとして、従来は、架橋(加硫)されたゴムの多孔質体からなり、前記ゴム中に導電性カーボン等の電子導電性を有する充填剤を配合したり、ゴムそれ自体としてイオン導電性を有するゴムを用いたりして導電性を付与したもの等が用いられてきた。また近年では、前記加硫ゴムに代えてリサイクル等が容易な熱可塑性エラストマ組成物を用いて導電性ローラを形成することも検討されている。
【0005】
前記転写ローラには、感光体や像担持体の表面に接触させた際に、その接触圧によって径方向に良好に圧縮変形されて、前記感光体または像担持体の表面に対して紙を挟んで所定のニップ幅でもって接触できる柔軟性が求められる。これにより、感光体や像担持体の表面に紙を隙間なく接触させることができ、トナー像を、前記感光体または像担持体の表面から紙の表面に良好に転写させることができる。
【0006】
しかし、特に熱可塑性エラストマ組成物からなる非多孔質の導電性ローラは、加硫ゴムの多孔質体からなるもの等に比べて柔軟性が不足しがちである。
特許文献1〜3には、前記加硫ゴムや熱可塑性エラストマ組成物等の弾性材料からなるローラの内部に、前記ローラの中心に挿通されるシャフトを囲むように、前記シャフトおよびローラの軸方向に沿う複数の中空部を設けることが記載されている。
【0007】
かかる構成によれば、熱可塑性エラストマ組成物からなる非多孔質の導電性ローラであっても、その柔軟性を向上できるものと考えられる。すなわち、感光体や像担持体との接触によって圧力が加えられた際には、前記中空部が押し潰されるように変形されて、導電性ローラの外周面が、感光体や像担持体の表面に沿うように径方向内方へ圧縮変形されるのを補助する働きをするため、導電性ローラの柔軟性が向上する。
【0008】
しかし導電性ローラの構造上、前記中空部を、シャフトの周囲の全周に渡って連続して形成することはできない。導電性ローラとシャフトとをそれぞれの中心軸を一致させた状態で一体的に形成するためには、前記導電性ローラの周方向の複数箇所に、前記シャフトの外周面から導電性ローラの外周面に達する中実状の部分を設けなければならない。
そのため導電性ローラの、前記中実状の部分に対応する領域と、それ以外の中空部を含む領域とでは柔軟性に差が生じる。その結果、前記導電性ローラを転写ローラとして使用した際には、前記両領域間で感光体や像担持体との接触状態(接触圧、ニップ幅等)に変動を生じて、紙の表面に形成された画像に、前記変動に伴うムラが発生するおそれがある。特に熱可塑性エラストマ組成物の柔軟性が低下する低温条件下において、前記ムラが発生しやすい。
【0009】
特許文献4には、ローラの外周面に、複数の凸条と凹溝とを周方向に交互に設けることが記載されている。かかる構成では、凸条の圧縮変形により、導電性ローラにある程度の柔軟性を付与できると考えられるが、前記凸条の圧縮変形は、導電性ローラの外周面近傍のごくわずかな範囲(凸条と凹溝の高低差の範囲)内でのみ生じるため、前記圧縮変形による柔軟性は、転写ローラに求められるレベルを十分に満足するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】実開平6−218868号公報
【特許文献2】特開平10−299762号公報
【特許文献3】特開2008−298855号公報
【特許文献4】特開2008−275669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、柔軟性に優れるととともに前記柔軟性が周方向の全周に亘ってほぼ一定で、例えば転写ローラとして使用した際に紙の表面に形成される画像に、特に低温条件下でムラ等を生じるおそれがない導電性ローラと、前記導電性ローラを転写ローラとして組み込んだ電子写真装置とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、導電性ローラであって、筒状に形成され、
外周面に、複数の凸条と凹溝とが周方向に交互に設けられているとともに内部に複数の中空部が設けられており、
前記凸条の最高点と凹溝の最低点との間の径方向の高低差が100μm以上、隣り合う凸条の最高点間の周方向のピッチが800μm以下で、かつ
前記導電性ローラの、軸方向と直交方向の断面における、前記中空部の断面積と、前記中空部以外の中実部の断面積とから、式(1):
【0013】
【数1】

【0014】
によって求められる中空部の面積占有率が10%以上、80%以下であることを特徴とする。
本発明によれば、導電性ローラの内部に設けた、前記面積占有率を有する中空部の機能によって、導電性ローラの全体としての柔軟性を高めることができる。また、導電性ローラの外周面に設けた、前記高低差とピッチとを有する凸条を圧縮変形させることで、前記中空部による柔軟性を補助して、導電性ローラの全体での柔軟性を周方向の全周に亘ってほぼ一定にすることもできる。
【0015】
すなわち感光体や像担持体と接触させた際に、導電性ローラ内の、中空部を含む領域では主に前記中空部が変形することで柔軟性が確保され、中空部を含まない中実状の領域では前記凸条が圧縮変形することで柔軟性の不足が補われる。そのため、導電性ローラの全体での柔軟性を周方向の全周に亘ってほぼ一定化して、例えば前記導電性ローラを転写ローラとして使用した際に紙の表面に形成される画像に、特に低温条件下でムラ等が生じるのを抑制することができる。
【0016】
本発明において、凸条の最高点と凹溝の最低点との間の径方向の高低差が100μm以上に限定されるのは、次の理由による。
すなわち高低差が前記範囲未満では、導電性ローラを感光体や像担持体と接触させた際の、特に中実状の領域での凸条の圧縮変形量を十分に確保できないため、前記凸条の圧縮変形による、前記中実状の領域での柔軟性の不足を補う効果が得られず、前記導電性ローラを転写ローラとして使用した際に紙の表面に形成される画像に、特に低温条件下でムラ等が生じるのを抑制することができない。
【0017】
また凸条間の凹溝は、紙から離脱して形成画像に影響を及ぼす紙粉を取り込む働きをするが、高低差が前記範囲未満では、前記凹溝内に取り込むことができる紙粉の量、および紙粉の大きさが限られるため、一旦紙から離脱した紙粉がトナー像とともに紙に最付着して形成画像に画像不良が生じるのを防止することもできない。
隣り合う凸条の最高点間の周方向のピッチが800μm以下に限定されるのは、次の理由による。
【0018】
例えば導電性ローラを転写ローラとして使用する際、感光体または像担持体との間に電圧を印加して生じる静電気力には、前記凹凸形状に基づく強弱の差が生じる。すなわち感光体または像担持体と紙を挟んで接する凸条の部分では静電気力が強くなり、前記感光体または像担持体と離れた凹溝の部分では静電気力が弱くなる。
前記ピッチが800μm以下であれば、隣り合う凸条における強い静電気力の重なりによって凹溝での静電気力を補って、前記静電気力の強弱の差を小さくできるため、形成画像には殆ど影響を生じない。
【0019】
しかしピッチが前記範囲を超える場合には、凹凸形状に基づく静電気力の強弱の差が大きくなって、感光体または像担持体から紙の表面に転写されるトナー像に、目で見て判る濃度ムラを生じてしまう場合がある。
前記式(1)で求められる中空部の面積占有率が10%以上、80%以下に限定されるのは、次の理由による。
【0020】
すなわち中空部の面積占有率が前記範囲未満では、前記中空部による、導電性ローラの全体に良好な柔軟性を付与する効果が得られず、例えば転写ローラとして使用した際には、前記転写ローラを所定のニップ幅でもって感光体や像担持体に接触させることができないため、紙の表面に良好な画像を形成することができない。
一方、中空部の面積占有率が前記範囲を超える導電性ローラを、例えば後述する押出成形法等によって製造するのは困難である。
【0021】
前記本発明の導電性ローラは、スチレン系熱可塑性エラストマとポリプロピレンとを含む樹脂マトリクス中に、
ジエン系ゴムおよびエチレンプロピレンゴムからなる群より選ばれた少なくとも1種のゴム分の架橋物と、
イオン導電性エラストマとイオン導電性塩とを含むイオン導電性樹脂型帯電防止剤とが分散された熱可塑性エラストマ組成物によって形成するのが好ましい。
【0022】
これにより、前記の複雑な形状を有する導電性ローラを、押出成形等によって容易に、生産性良く製造することができる。また形成した導電性ローラのリサイクル性を向上することもできる。
前記熱可塑性エラストマ組成物は、樹脂マトリクスと未架橋のゴム分とを含む混合物を加熱しながら混練して前記ゴム分を架橋させる動的架橋の工程を経て調製するのが好ましい。
【0023】
これによりゴム分の架橋物を樹脂マトリクス中により微細かつ均一に分散できるため、均一な特性を有する熱可塑性エラストマ組成物、ひいては導電性ローラを得ることができる。
本発明の導電性ローラは、前記熱可塑性エラストマ組成物を、口金を備え、前記口金の内周面に、前記凸条および凹溝のもとになる複数の凹部と凸部とを周方向に交互に設けるとともに、前記口金の内方に、前記中空部のもとになる複数のピンを設けたダイを備えた押出成形機を用いて筒状に押出成形して製造することができ、これにより、前記のように導電性ローラの生産性を向上することができる。
【0024】
本発明の導電性ローラは、前記凸条および凹溝を形成した外周面を電子写真装置の感光体または像担持体の表面に当接させた状態で前記電子写真装置に組み込んで、前記感光体または像担持体の表面に形成されたトナー像を紙の表面に転写させる転写ローラとして用いることができる。
本発明は、前記本発明の導電性ローラを、転写ローラとして含むことを特徴とする電子写真装置であり、前記導電性ローラの機能によって、紙の表面に、特に低温条件下でムラ等のない良好な画像を形成することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、柔軟性に優れるととともに前記柔軟性が周方向の全周に亘ってほぼ一定で、例えば転写ローラとして使用した際に紙の表面に形成される画像に、特に低温条件下でムラ等を生じるおそれがない導電性ローラと、前記導電性ローラを転写ローラとして組み込んだ電子写真装置とを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の導電性ローラの、実施の形態の一例の全体を示すとともにその一部を拡大して示す斜視図である。
【図2】図1の例の導電性ローラの一部をさらに拡大した端面図である。
【図3】図1の例の導電性ローラのうちローラ本体の断面図である。
【図4】図1の例の導電性ローラを押出成形によって形成するために用いるダイの口金とその一部を拡大して示す斜視図である。
【図5】図4の口金を有するダイを用いて図1の例の導電性ローラを押出成形によって形成する一工程を説明する、一部を拡大して示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
〈熱可塑性エラストマ組成物〉
本発明の導電性ローラは、先に説明したように、
スチレン系熱可塑性エラストマとポリプロピレンとを含む樹脂マトリクス中に、
ジエン系ゴムおよびエチレンプロピレンゴムからなる群より選ばれた少なくとも1種のゴム分の架橋物と、
イオン導電性エラストマとイオン導電性塩とを含むイオン導電性樹脂型帯電防止剤とが分散された分散構造を有する熱可塑性エラストマ組成物によって形成するのが好ましい。
【0028】
前記熱可塑性エラストマ組成物は、例えば樹脂マトリクスと、未架橋のゴム分とを含む混合物を加熱しながら混練してゴム分を架橋させる動的架橋によって、前記樹脂マトリクス中にゴム分の架橋物を分散させたのち、イオン導電性樹脂型帯電防止剤を配合する等して調製できる。
前記のうちスチレン系熱可塑性エラストマとしては、水素添加スチレン系熱可塑性エラストマが好ましい。前記水素添加スチレン系熱可塑性エラストマは、水素添加によって二重結合が飽和されているため低硬度で柔軟性に優れる上、耐久性にも優れている。そのためヘタリ等が生じるのを有効に抑制でき、導電性ローラの耐久性を向上できる。
【0029】
また、前記水素添加スチレン系熱可塑性エラストマは二重結合を含まないため、ゴム分を動的架橋させる際に前記架橋を阻害するおそれがない上、自身は架橋されないため、動的架橋後の熱可塑性エラストマ組成物に所望の可塑性と柔軟性とを付与できる。
前記水素添加スチレン系熱可塑性エラストマとしては、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SIS)、スチレン−エチレン/プロピレン共重合体(SEP)、スチレン−エチレン/プロピレン−スチレン共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)、およびスチレン−エチレン−エチレン/プロピレン−スチレン共重合体(SEEPS)からなる群より選ばれた少なくとも1種のスチレン系熱可塑性エラストマの水素添加物が好ましい。特にSEEPSの水素添加物が好ましい。
【0030】
ポリプロピレンは、熱可塑性エラストマ組成物の、押出成形時の加工性を向上する働きをする。前記ポリプロピレンとしては、プロピレンのみを重合させたホモポリマタイプの他、前記ホモポリマタイプのポリプロピレンの低温脆性等を改善するためにエチレン等の他のオレフィンを若干量、共重合させたランダムもしくはブロックコポリマタイプの種々のポリプロピレンの1種または2種以上が挙げられる。
【0031】
ジエン系ゴムとしては、例えば天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合ゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR)等が挙げられる。またエチレンプロピレンゴムとしては、例えばエチレン−プロピレン共重合ゴム(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(EPDM)等が挙げられる。ゴム分としては、前記ゴムのいずれか1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用しても構わない。
【0032】
特にEPDMが好ましい。EPDMは、主鎖が飽和炭化水素からなり二重結合を含まないため、高濃度オゾン雰囲気、紫外線を含む光照射等の環境下に長時間曝されても主鎖の切断が起こりにくい。そのため導電性ローラの耐オゾン性、耐紫外線性、耐熱性等を向上できる。EPDMは単独で用いるのが好ましいが、EPDMと他のゴム分とを併用してもよく、その場合にはゴム分の全体に占めるEPDMの割合が50質量%以上、特に80質量%以上であるのが好ましい。
【0033】
前記のようにゴム分を動的架橋させる場合、前記ゴム分とマトリクス樹脂との混合物には、ゴム分を架橋させるための架橋剤を配合する。架橋剤としては、樹脂架橋剤が好ましい。
樹脂架橋剤は、加熱等によってゴム分に架橋反応を起こさせることができる合成樹脂であり、通常の硫黄架橋系(硫黄と加硫促進剤等との併用系)のようにブルームを生じない上、架橋後のゴム分の圧縮永久ひずみや機械的特性の低下を小さくでき、耐久性を向上できるといった利点を有している。
【0034】
また樹脂架橋剤によれば、硫黄架橋系に比べて架橋時間を短くできる。そのため、例えばゴム分を含む各成分の混合物を押出機内で加熱しながら混練して動的架橋させる際に、前記押出機内に滞留している短い時間内で動的架橋を十分に進行させることができる。
樹脂架橋剤としては、フェノール樹脂、メラミン・ホルムアルデヒド樹脂、トリアジン・ホルムアルデヒド縮合物、およびヘキサメトキシメチル・メラミン樹脂からなる群より選ばれた少なくとも1種が好ましく、特にフェノール樹脂が好ましい。
【0035】
またフェノール樹脂としては、フェノール、アルキルフェノール、クレゾール、キシレノールもしくはレゾルシン等のフェノール類と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドもしくはフルフラール等のアルデヒド類との反応により合成される各種フェノール樹脂が好ましい。フェノール樹脂のアルデヒドユニットに少なくとも一個のハロゲン原子が結合したハロゲン化フェノール樹脂を用いることもできる。
【0036】
特にベンゼンのオルト位またはパラ位にアルキル基が結合したアルキルフェノールとホルムアルデヒドとの反応によって得られるアルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂が、ゴム分との相溶性に優れるとともに反応性に富み、架橋反応の開始時間を比較的早くできるため好ましい。
アルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂のアルキル基としては炭素数が1〜10のアルキル基、例えばメチル基、エチル基、プロピル基またはブチル基が好ましい。またアルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂のハロゲン化物も好適に用いられる。
【0037】
さらに硫化−p−tert−ブチルフェノールとアルデヒド類とを付加縮合させた変性アルキルフェノール樹脂や、アルキルフェノール・スルフィド樹脂も樹脂架橋剤として使用可能である。
また動的架橋を適切に行なうため、前記樹脂マトリクスとゴム分との混合物には架橋助剤(架橋活性剤)を配合してもよい。架橋助剤としては金属酸化物、例えば酸化亜鉛、炭酸亜鉛等が挙げられ、特に酸化亜鉛(亜鉛華)が好ましい。
【0038】
また前記混合物には軟化剤を配合してもよい。軟化剤は、ゴム分を動的架橋させる際に混合物を混練しやすくして、前記ゴム分の架橋物を樹脂マトリクス中により微細かつ均一に分散させる働きをするとともに、導電性ローラの柔軟性を高める働きをする。
前記軟化剤としてはオイルや可塑剤が好ましい。このうちオイルとしては、パラフィン系、ナフテン系、芳香族系等の鉱物油、炭化水素系オリゴマーからなる合成油、およびプロセスオイルからなる群より選ばれた少なくとも1種が好ましい。また合成油としては、例えばα−オレフィンとのオリゴマー、ブテンのオリゴマー、およびエチレンとα−オレフィンとの非晶質オリゴマーからなる群より選ばれた少なくとも1種が好ましい。
【0039】
また可塑剤としては、例えばジオクチルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルセパケート、およびジオクチルアジペートからなる群より選ばれた少なくとも1種が好ましい。
特にパラフィン系オイルが好ましく、前記パラフィン系オイルとしては、鉱物油(原油)から精製され、基油がパラフィン系である種々のパラフィン系オイルがいずれも使用可能である。
【0040】
イオン導電性樹脂型帯電防止剤を構成するイオン導電性エラストマとしては、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体(以下「EO−PO共重合体」と略記する場合がある)、およびエチレンオキサイド−プロピレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル共重合体(以下「EO−PO−AGE共重合体」と略記する場合がある)からなる群より選ばれた少なくとも1種が用いられる。
【0041】
前記2種の共重合体は、それぞれその分子中に含まれるエチレンオキサイド(EO)単位やプロピレンオキサイド(PO)単位、特にEO単位の機能によってイオン導電性塩由来のイオンを安定化させて導電性ローラの電気抵抗値を低減させる働きをする。
前記EO−PO共重合体は、EO単位の含有率が55モル%以上、95モル%以下、特に65モル%以上、92モル%以下であるのが好ましい。
【0042】
EO単位の含有率が前記範囲未満では、先に説明した、EO単位の機能によってイオン導電性塩由来のイオンを安定化させる効果が十分に得られないおそれがある。また含有率が前記範囲を超える場合にはEO単位が結晶化して、やはりイオン導電性塩由来のイオンを安定化させる効果が十分に得られないおそれがある。
またEO−PO−AGE共重合体は、EO単位の含有率が55モル%以上、95モル%以下、特に65モル%以上、92モル%以下であるのが好ましい。
【0043】
EO単位の含有率が前記範囲未満では、先に説明した、EO単位の機能によってイオン導電性塩由来のイオンを安定化させる効果が十分に得られないおそれがある。また含有率が前記範囲を超える場合にはEO単位が結晶化して、やはりイオン導電性塩由来のイオンを安定化させる効果が十分に得られないおそれがある。
また前記EO−PO−AGE共重合体は、後述する過酸化物架橋剤によって架橋反応させる際に架橋性官能基として機能するアリル基を含むアリルグリシジルエーテル(AGE)単位の含有率が1モル%以上、10モル%以下、特に2モル%以上、8モル%以下であるのが好ましい。
【0044】
AGE単位の含有率が前記範囲未満ではEO−PO−AGE共重合体を良好に架橋させることができず、未架橋の、あるいは架橋が十分でない前記共重合体が導電性ゴム層の表面にブリードまたはブルームしたり、前記ブリードやブルームに伴ってイオン導電性塩が導電性ゴム層の表面にブルームしたりブリードしたりしやすくなり、感光体やトナー等を汚染するおそれがある。
【0045】
また、含有率が前記範囲を超える場合には架橋密度が高くなりすぎるため、EO−PO−AGE共重合体の引張強さや疲労特性、耐屈曲疲労性等が低下するおそれがある。
EO−PO共重合体、EO−PO−AGE共重合体の数平均分子量Mnは、いずれも10000以上、特に50000以上であるのが好ましい。数平均分子量Mnが前記範囲未満では、前記共重合体が導電性ゴム層の表面にブリードしたりブルームしたり、前記ブリードやブルームに伴ってイオン導電性塩が導電性ゴム層の表面にブルームしたりブリードしたりしやすくなり、感光体やトナー等を汚染するおそれがある。
【0046】
イオン導電性塩としては、フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオンと、陽イオンとの塩が好ましい。前記塩は、イオン導電性ゴムによるイオン導電性をさらに向上して、導電性ゴム層の電気抵抗値を低減する効果に優れている。
イオン導電性塩を構成する、フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオンとしては、例えばフルオロアルキルスルホン酸イオン、ビス(フルオロアルキルスルホニル)イミドイオン、トリス(フルオロアルキルスルホニル)メチドイオン等が挙げられる。
【0047】
また前記陰イオンとともにイオン導電性塩を構成する陽イオンとしてはナトリウム、リチウム、カリウム等のアルカリ金属のイオンや、あるいはベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等の第2族元素のイオン、遷移元素のイオン、両性元素の陽イオン、第4級アンモニウムイオン、イミダゾリウム陽イオン等が挙げられる。特にリチウムイオンと組み合わせたリチウム塩が好ましい。
【0048】
リチウム塩としては、CFSOLi、CSOLi、(CFSONLi、(CSONLi、(CSO)(CFSO)NLi、(FSO)(CFSO)NLi、(C17SO)(CFSO)NLi、(CFCHOSONLi、(CFCFCHOSONLi、(HCFCFCHOSONLi、〔(CFCHOSONLi、(CFSOCLi、および(CFCHOSOCLiからなる群より選ばれた少なくとも1種が好ましい。
【0049】
中でも前記効果の点で、CFSOLi(トリフルオロメタンスルホン酸リチウム)、(CFSONLi〔ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム〕が好ましく、特にトリフルオロメタンスルホン酸リチウムが好ましい。
イオン導電性塩は、あらかじめイオン導電性エラストマ中に分散させたイオン導電性樹脂型帯電防止剤の状態で、ゴム分の架橋物を分散させた樹脂マトリクス中に配合される。これにより前記イオン導電性塩を、イオン導電性エラストマ中に良好に偏在させた状態で、樹脂マトリクス中に微細に分散させることができる。
【0050】
そのため導電性ローラのイオン導電性をさらに向上できる上、例えば導電性ローラに電界をかけつづける等してもイオン導電性塩が表面に移動するのを抑制して、前記イオン導電性塩のブルームにより感光体やトナーが汚染されるのを防止できる。
前記樹脂マトリクスとイオン導電性樹脂型帯電防止剤との配合物には、さらに相溶化剤を配合してもよい。
【0051】
相溶化剤は、イオン導電性エラストマを樹脂マトリクス中に微細に分散させるとともに、イオン導電性塩を、前記イオン導電性エラストマとの良好な親和性に基づいて前記イオン導電性エラストマ中に偏在させた状態で樹脂マトリクス中にさらに微細に分散させる働きをする。
前記相溶化剤としては、エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、およびエチレン−アクリル酸エステル−グリシジルメタクリレート共重合体からなる群より選ばれた少なくとも1種が挙げられる。
【0052】
前記エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、および/またはエチレン−アクリル酸エステル−グリシジルメタクリレート共重合体は、アクリル酸エステル単位の含有率が0.1質量%以上、30質量%以下、中でも1質量%以上、20質量%以下、特に3質量%以上、15質量%以下であるのが好ましい。無水マレイン酸単位の含有率は0.05質量%以上、20質量%以下、中でも0.1質量%以上、15質量%以下、特に1質量%以上、10質量%以下であるのが好ましい。またグリシジルメタクリレート単位の含有率は0.05質量%以上、20質量%以下、中でも0.1質量%以上、15質量%以下、特に1質量%以上、10質量%以下であるのが好ましい。
【0053】
アクリル酸エステルとしては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等の1種または2種以上が挙げられる。
前記配合物には、さらに過酸化物架橋剤を配合してもよい。
【0054】
過酸化物架橋剤は、樹脂マトリクス中でイオン導電性エラストマを動的架橋させるために機能する。
前記過酸化物架橋剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、ジ(tert−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、1,4−ビス[(tert−ブチル)パーオキシイソプロピル]ベンゼン、ジ(tert−ブチルパーオキシ)ベンゾエート、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキシド、tert−ブチルクミルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジtert−ブチルパーオキシドおよび2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)−3−ヘキセンからなる群より選ばれた少なくとも1種が好ましい。特に、ジ(tert−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼンが好ましい。
【0055】
前記過酸化物架橋剤と共に架橋助剤を併用してもよい。前記架橋助剤は、自身が架橋するとともにイオン導電性エラストマとも架橋して全体を高分子化する働きをする。前記架橋助剤を用いて共架橋することにより架橋密度を向上させることができる。
架橋助剤としては、メタクリル酸あるいはアクリル酸の金属塩、メタクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物、複素環ビニル化合物、アリル化合物、1,2−ポリブタジエンの官能基を利用した多官能ポリマー類、およびジオキシム類からなる群より選ばれた少なくとも1種が好ましい。
【0056】
詳しくはトリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアリルシアヌレート(TAC)、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)、エチレングリコールジメタクリレート(EDMA)、p−キノンジオキシム、p,p’−ジベンゾイルキノンジオキシム、およびN,N’−m−フェニレンビスマレイミドからなる群より選ばれた少なくとも1種が好ましい。特に、N,N’−m−フェニレンビスマレイミドが好ましい。
【0057】
前記各成分を含む熱可塑性エラストマ組成物には、さらに充填剤を配合してもよい。充填剤は、導電性ローラの機械的強度を高めるために機能する。
前記充填剤としては、シリカ、カーボンブラック、クレー、タルク、炭酸カルシウム、二塩基性亜リン酸塩(DLP)、塩基性炭酸マグネシウム、およびアルミナからなる群より選ばれた少なくとも1種、炭酸カルシウムおよび/またはカーボンブラックが好ましい。
【0058】
また熱可塑性エラストマ組成物には、発泡剤、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、顔料、帯電防止剤、難燃剤、中和剤、造核剤、および気泡防止剤からなる群より選ばれた少なくとも1種の添加剤を配合してもよい。
前記各成分の配合割合は任意に設定できる。
例えばスチレン系熱可塑性エラストマとポリプロピレンとを含む樹脂マトリクスの配合割合は、ゴム分100質量部あたり10質量部以上、特に20質量部以上であるのが好ましく、100質量部以下、特に75質量部以下であるのが好ましい。
【0059】
樹脂マトリクスの配合割合が前記範囲未満では、熱可塑性成分としての前記樹脂マトリクスの量が少なすぎるため、熱可塑性エラストマ組成物に良好な熱可塑性を付与できないおそれがある。またゴム分の架橋物やイオン導電性樹脂型帯電防止剤を樹脂マトリクス中に良好に分散できないおそれもある。
一方、樹脂マトリクスの配合割合が前記範囲を超える場合には、相対的にゴム分の架橋物の量が少なくなるため、導電性ローラに良好なゴム弾性を付与できないおそれがある。また相対的にイオン導電性樹脂型帯電防止剤の量が少なくなるため、導電性ローラに良好なイオン導電性を付与できないおそれもある。
【0060】
樹脂マトリクスの配合割合は、前記樹脂マトリクスとしてスチレン系熱可塑性エラストマとポリプロピレンとを併用する場合は、この2種の合計の配合割合である。
また前記2種の併用系においてスチレン系熱可塑性エラストマ100質量部あたりのポリプロピレンの配合割合は10質量部以上、特に30質量部以上であるのが好ましく、100質量部以下、特に50質量部以下であるのが好ましい。
【0061】
ポリプロピレンの配合割合が前記範囲未満では、前記ポリプロピレンを配合したことによる、先に説明した熱可塑性エラストマ組成物の、押出成形時の加工性を向上する効果が十分に得られないおそれがある。またポリプロピレンの配合割合が前記範囲を超える場合には、相対的にスチレン系熱可塑性エラストマの量が少なくなるため、導電性ローラの柔軟性が低下するおそれがある。
【0062】
樹脂架橋剤の配合割合は、ゴム分100質量部あたり2質量部以上、特に5質量部以上であるのが好ましく、20質量部以下、特に15質量部以下であるのが好ましい。
樹脂架橋剤の配合割合が前記範囲未満ではゴム分の架橋が不十分となるため、導電性ローラに良好な機械的特性、耐久性を付与できないおそれがある。一方、樹脂架橋剤の配合割合が前記範囲を超える場合にはゴム分が硬くなりすぎるため、導電性ローラの柔軟性が低下するおそれがある。
【0063】
架橋助剤(架橋活性剤)の配合割合は、ゴム分100質量部あたり0.01質量部以上、特に0.1質量部以上であるのが好ましく、10質量部以下、特に5質量部以下であるのが好ましい。
軟化剤の配合割合は、ゴム分100質量部あたり50質量部以上、特に80質量部以上であるのが好ましく、250質量部以下、特に200質量部以下であるのが好ましい。
【0064】
軟化剤の配合割合が前記範囲未満では、前記軟化剤を配合したことによる先に説明した効果が十分に得られないおそれがある。また配合割合が前記範囲を超えてもそれ以上の効果が得られないだけでなく、過剰の軟化剤が導電性ローラの表面にブリードして、感光体やトナーを汚染したり、紙を汚したりするおそれがある。
イオン導電性樹脂型帯電防止剤を構成するイオン導電性エラストマの配合割合は、ゴム分100質量部あたり50質量部以上、特に70質量部以上であるのが好ましく、150質量部以下、特に120質量部以下であるのが好ましい。
【0065】
イオン導電性エラストマの配合割合が前記範囲未満では、前記イオン導電性エラストマによる、先に説明したイオン導電性塩由来のイオンを安定化させる効果が十分に得られず、熱可塑性エラストマ組成物に良好なイオン導電性を付与できないおそれがある。また前記範囲を超えてもそれ以上の添加効果が得られないおそれがある。
イオン導電性塩の配合割合は、ゴム分100質量部あたり0.1質量部以上、特に1質量部以上であるのが好ましく、10質量部以下、特に5質量部以下であるのが好ましい。
【0066】
イオン導電性塩の配合割合が前記範囲未満では、熱可塑性エラストマ組成物に良好なイオン導電性を付与できないおそれがある。また前記範囲を超えてもそれ以上の添加効果が得られないだけでなく、過剰のイオン導電性塩が導電性ローラの表面にブルームまたはブリードして、感光体や像担持体の表面を汚染するおそれがある。
相溶化剤の配合割合は、ゴム分100質量部あたり1質量部以上、特に5質量部以上であるのが好ましく、20質量部以下、特に10質量部以下であるのが好ましい。
【0067】
配合割合が前記範囲未満では相溶化剤としての機能が不足して、イオン導電性エラストマを樹脂マトリクス中に微細に分散させることができず、押出成形時に、導電性ローラの表層部において押出方向に沿って筋状に分離したりするおそれがある。
一方、配合割合が前記範囲を超えてもそれ以上の添加効果が得られないだけでなく、逆に導電性ローラの強度が低下したり硬度が上昇したりするおそれがある。
【0068】
イオン導電性エラストマを動的架橋させる場合、過酸化物架橋剤の配合割合は、前記イオン導電性エラストマ100質量部あたり0.1質量部以上、特に0.1質量部以上であるのが好ましく、10質量部以下、特に5質量部以下であるのが好ましい。
過酸化物架橋剤の配合割合が前記範囲未満では架橋が不十分となって、先に説明した架橋させる効果が十分に得られない。一方、配合割合が前記範囲を超えると、分子切断による機械的特性の低下が起こったり、分散不良などが生じて加工が困難になったりする。
【0069】
架橋助剤の配合割合は、イオン導電性エラストマ100質量部あたり0.1質量部以上であるのが好ましく、10質量部以下、特に5質量部以下であるのが好ましい。
充填剤の配合割合は、ゴム分100質量部あたり10質量部以上、特に20質量部以上であるのが好ましく、100質量部以下、特に50質量部以下であるのが好ましい。
充填剤の配合割合が前記範囲未満では、前記充填剤を配合したことによる先に説明した効果が十分に得られないおそれがある。また配合割合が前記範囲を超える場合には、導電性ローラの柔軟性が低下するおそれがある。
【0070】
前記配合割合は、充填剤として2種以上の充填剤を併用する場合は、その合計の配合割合である。
前記熱可塑性エラストマ組成物を調製するには、まず樹脂マトリクス中にゴム分の架橋物を分散させた混練物を調製する。
例えば動的架橋を利用する場合は、先に説明したように、前記樹脂マトリクスと未架橋のゴム分に、さらに樹脂架橋剤、架橋助剤(架橋活性剤)、軟化剤等を配合した混合物を加熱しながら混練して、前記ゴム分を樹脂マトリクス中に微細に分散させながら動的架橋させることで混練物を得る。
【0071】
混練には押出機、バンバリミキサ、ニーダ等を用いることができ、特に押出機が好ましい。押出機を用いる場合、前記押出機のスクリュー部内で、混合物を連続的に加熱しながら混練してゴム分を動的架橋させて混練物を調製でき、前記混練物をノズル先端から順次押し出して連続的に次工程(例えばペレット化の工程等)に送ることができるため、前記混練物の生産性を向上できる。
【0072】
ゴム分はハロゲンの存在下で動的架橋させるのが好ましい。そのためには、ハロゲン化された樹脂架橋剤を用いればよい。また塩化第二スズ、塩化第二鉄、塩化第二銅等のハロゲン供与性物質を添加してもよい。
次に、あらかじめイオン導電性エラストマ中にイオン導電性塩を練り込んで調製しておいたイオン導電性樹脂型帯電防止剤と、先の混練物と、さらに必要に応じて相溶化剤、充填剤等とを配合した混合物を加熱しながら混練して、前記イオン導電性樹脂型帯電防止剤を基材樹脂中に微細に分散させることで熱可塑性エラストマ組成物を調製する。
【0073】
またこの際、前記混合物に過酸化物架橋剤、架橋助剤を配合して、イオン導電性樹脂型帯電防止剤を構成するイオン導電性エラストマを基材樹脂中に微細に分散させながら動的架橋させてもよい。
この混練にも押出機、バンバリミキサ、ニーダ等を用いることができ、特に押出機が好ましい。押出機を用いる場合、前記押出機のスクリュー部内で、混合物を連続的に加熱しながら混練して熱可塑性エラストマ組成物を調製でき、前記熱可塑性エラストマ組成物をノズル先端から順次押し出して連続的に次工程(例えばペレット化の工程等)に送ることができるため、前記熱可塑性エラストマ組成物の生産性を向上できる。
【0074】
このあと、調製された熱可塑性エラストマ組成物を、本発明の導電性ローラのもとになる筒状体を押出成形するための押出成形機に供給し、前記押出成形機のスクリュー部の先端に接続されたダイの口金を通して筒状に押出成形することで本発明の導電性ローラが製造される。
押出成形の条件は従来同様でよい。例えば押出温度(スクリュー部先端での設定温度)は160℃以上、特に180℃以上であるのが好ましく、250℃以下、特に230℃以下であるのが好ましい。また押出速度は0.5m/分以上、特に0.8m/分以上であるのが好ましく、7m/分以下、特に5m/分以下であるのが好ましい。
【0075】
なお前記イオン導電性樹脂型帯電防止剤、混練物、相溶化剤、充填剤等の混合物を押出成形機に直接に供給して、前記押出成形機のスクリュー部内で混練しながら押出成形してもよい。押出成形の条件は前記と同等程度でよい。
〈導電性ローラおよび電子写真装置〉
図1は、本発明の導電性ローラの、実施の形態の一例の全体を示すとともにその一部を拡大して示す斜視図である。図2は、図1の例の導電性ローラの一部をさらに拡大した端面図である。図3は、図1の例の導電性ローラのうちローラ本体の断面図である。図4は、図1の例の導電性ローラを押出成形によって形成するために用いるダイの口金とその一部を拡大して示す斜視図である。さらに図5は、図4の口金を有するダイを用いて図1の例の導電性ローラを押出成形によって形成する一工程を説明する、一部を拡大して示す斜視図である。
【0076】
図1を参照して、この例の導電性ローラ1は、前記熱可塑性エラストマ組成物等からなる円筒状のローラ本体2と、前記ローラ本体2の中心の通孔3に挿通されたシャフト4とを含んでいる。このうちローラ本体2は、例えば熱可塑性エラストマ組成物を押出成形して形成された筒状体5(図5参照)を所定の長さにカットして形成されている。
図1、図2を参照して、ローラ本体2の外周面6には、複数の凸条7と凹溝8とが周方向に交互に設けられている。
【0077】
前記凸条7と凹溝8とは、図の例の場合、前記外周面6を略サイン波状とすることで形成されている。すなわち略サイン波を構成する、ローラ本体2の径方向外方へ突出した山の部分が凸条7、隣り合う山の間の、径方向内方へ凹入した谷が凹溝8とされている。
図1、図3を参照して、ローラ本体2の内部には複数の中空部9、10が設けられている。
【0078】
このうち中空部9は、ローラ本体2の周方向の6箇所に、前記ローラ本体2の中心の通孔3を囲んで等間隔に配設されている。個々の中空部9の、ローラ本体2の軸方向と直交方向の断面形状は、前記ローラ本体2の径方向内方の縁部が通孔3の内周面に沿う円弧状、径方向外方の縁部が外周面6に沿う円弧状とされ、かつ径方向内方より外方の開口幅が広い略扇形とされている。
【0079】
また中空部10は、前記各中空部9間の6箇所に、やはり通孔3を囲んでローラ本体2の周方向に等間隔に配設されている。個々の中空部10の、前記直交方向の断面形状は、幅が一定の略矩形状とされている。
隣り合う中空部9、10間は、通孔3に挿通されるシャフト4の外周面からローラ本体2の外周面6に達する中実状の連結部11によって隔てられている。個々の連結部11は幅が一定の略板状に形成され、1つの中空部10を挟む2つずつが互いに平行で、かつ全体として、ローラ本体2の中心軸Lを中心とする略放射状に配設されている。
【0080】
中空部9、10と通孔3との間は、通孔3の内周面を構成するとともに前記通孔3と中空部9、10とを区画する中実状の内側円筒部12とされ、中空部9、10と外周面6との間は前記外周面6、つまりローラ本体2の外形を構成する中実状の外側円筒部13とされている。複数の連結部11は、前記内側円筒部12と外側円筒部13とを、それぞれの中心軸Lを一致させた状態で同芯状に連結している。
【0081】
図4、図5を参照して、前記各部を備えたローラ本体2は、前記熱可塑性エラストマ組成物を、口金14の内周面15に複数の凹部16と凸部17とを周方向に交互に設けるとともに、前記口金14の内方に、前記中空部9、10のもとになる複数のピン(マンドレル)18、19と、通孔3のもとになるマンドレル20とを設けたダイを備えた押出成形機を用いて押出成形することによって形成された前記筒状体5を、所定の長さにカットして形成される。
【0082】
押出成形された筒状体5の外周面6には、前記凹部16に対応して凸条7が形成されるとともに、凸部17に対応して凹溝8が形成される。前記凹部16と凸部17とは、口金14の内周面15に周方向に交互に設けられているため、押出成形された筒状体5の外周面6には、それに対応して凸条7と凹溝8とが周方向に交互に形成される。
また熱可塑性エラストマ組成物は、前記口金14の内周面15内の、ピン18、19、およびマンドレル20間の開口部を通して押出成形されるため、押出成形された筒状体5の内部には、前記ピン18、19に対応する中空部9、10、およびマンドレル20に対応する通孔3が形成される。
【0083】
すなわちピン18、19間の開口部を通して押出成形された熱可塑性エラストマ組成物によって連結部11が形成され、前記ピン18、19とマンドレル20との間の開口部を通して押出成形された熱可塑性エラストマ組成物によって内側円筒部12が形成され、前記ピン18、19と口金14の内周面15との間の開口部を通して押出成形された熱可塑性エラストマ組成物によって外側円筒部13が形成されるとともに、前記各部間に中空部9、10、および通孔3が設けられる。
【0084】
図2を参照して、本発明では、前記凸条7の最高点と凹溝8の最低点との間の径方向の高低差hが100μm以上で、かつ隣り合う凸条7の最高点間の周方向のピッチwが800μm以下である必要がある。
すなわち高低差hが100μm未満では、導電性ローラ1を感光体や像担持体と接触させた際の、特に中実状の領域(内側円筒部12と外側円筒部13とが連結部11で繋がれた領域)での凸条7の圧縮変形量を十分に確保できないため、前記凸条7の圧縮変形による、前記中実状の領域での柔軟性の不足を補う効果が得られず、前記導電性ローラ1を転写ローラとして使用した際に紙の表面に形成される画像に、特に低温条件下でムラ等が生じるのを抑制することができない。
【0085】
また凸条7間の凹溝8は、紙から離脱して形成画像に影響を及ぼす紙粉を取り込む働きをするが、高低差が前記範囲未満では、前記凹溝8内に取り込むことができる紙粉の量、および紙粉の大きさが限られるため、一旦紙から離脱した紙粉がトナー像とともに紙に最付着して形成画像に画像不良が生じるのを防止することもできない。
またピッチwが800μm以下に限定されるのは次の理由による。
【0086】
例えば本発明の導電性ローラ1を転写ローラとして使用する際、感光体または像担持体との間に電圧を印加して生じる静電気力には、前記凹凸形状に基づく強弱の差が生じる。すなわち感光体または像担持体と紙を挟んで接する凸条7の部分では静電気力が強くなり、前記感光体または像担持体と離れた凹溝8の部分では静電気力が弱くなる。
前記ピッチwが800μm以下であれば、隣り合う凸条7における強い静電気力の重なりによって凹溝8での静電気力を補って、前記静電気力の強弱の差を小さくできるため、形成画像には殆ど影響を生じない。
【0087】
しかしピッチwが前記範囲を超える場合には、凹凸形状に基づく静電気力の強弱の差が大きくなって、感光体または像担持体から紙の表面に転写されるトナー像に、目で見て判る濃度ムラを生じてしまう場合がある。
なお高低差hは、前記範囲内でも200μm以上、特に300μm以上であるのが好ましく、1mm以下、特に800μm以下であるのが好ましい。
【0088】
高低差hが前記範囲を超える場合、口金14の凹部16に十分に熱可塑性エラストマ組成物を行き渡らせて所定の高低差hを有する凸条7を形成するためには、押出速度を低下させたり、押出温度を高めて熱可塑性エラストマ組成物の流動性を向上させたりする必要を生じる。
そして前者の場合、凸条7の剥離等を防止するためには押出速度を大幅に低下させなければならず、その場合には導電性ローラ1の生産性が著しく低下するという問題を生じるおそれがある。
【0089】
また後者の場合、凸条7の剥離等を防止するためには押出温度を大幅に上昇させなければならず、その場合には熱可塑性エラストマ組成物を構成する各成分が劣化して、導電性ローラ1の柔軟性や耐摩耗性、耐久性等が大幅に低下するという問題を生じるおそれがある。
また、高低差hが前記範囲を超える高い凸条7は変形したり欠けたりしやすく、導電性ローラ1の耐久性が低下するおそれもある。さらに、耐久性を向上するために凸条7の幅を広くする場合、ピッチwを、前記範囲を超えて大きくしなければならず、濃度ムラを生じるおそれもある。
【0090】
またピッチwは、前記範囲内でも200mm以上、特に300mm以上であるのが好ましい。
ピッチwが前記範囲未満である場合、凹溝8内に取り込むことができる紙粉の量、および紙粉の大きさが限られるため、前記凹凸形状を設けることによる先に説明した効果が得られないおそれがある。またピッチwが前記範囲未満で、しかも高低差hが前記範囲内である細い凸条は変形したり欠けたりしやすく、導電性ローラ1の耐久性が低下するおそれもある。
【0091】
図3を参照して、本発明では、ローラ本体2の、軸方向と直交方向の断面(図3の断面)における、前記中空部9、10の断面積(図中の、外周面6を示す円内で、かつ通孔3を示す円外の斜線を付した領域内に白抜きで示した部分の断面積の合計)と、前記中空部9、10以外の中実部の断面積(前記斜線を付した領域の断面積)とから、前記式(1)によって求められる中空部9、10の面積占有率が10%以上、80%以下である必要がある。
【0092】
すなわち面積占有率が10%未満では、前記中空部9、10を設けることによる、導電性ローラ1の全体に良好な柔軟性を付与する効果が得られず、例えば転写ローラとして使用した際には、前記転写ローラを所定のニップ幅でもって感光体や像担持体に接触させることができないため、紙の表面に良好な画像を形成することができない。
一方、中空部9、10の面積占有率が前記範囲を超える導電性ローラ1のローラ本体2を、前記押出成形法等によって製造するのは困難である。
【0093】
なお中空部9、10の面積占有率は、良好な押出成形性を確保しながら、導電性ローラ1の全体の柔軟性をさらに向上することを考慮すると、前記範囲内でも30%以上であるのが好ましく、75%以下であるのが好ましい。
シャフト4は、導電性ローラ1を構成するために導電性とされる。前記導電性のシャフト4としては、例えばアルミニウムやその合金、ステンレス鋼等の金属によって一体に形成されたもの等が挙げられる。またセラミックや硬質樹脂等によって形成し、その外周面に、ローラ本体2と電気的に接続される導電膜等を設けた複合構造のシャフト4を用いることもできる。
【0094】
ローラ本体2の外周面6はコーティング層で被覆してもよい。前記コーティング層は、例えばウレタン樹脂、アクリル樹脂等のエマルションや溶液、あるいはゴムラテックス等にフッ素樹脂の粉末等を分散させたコーティング剤を塗布し、乾燥させて形成できる。前記コーティング層で被覆することにより、外周面6の表面エネルギーをコントロールして、前記外周面6に紙粉が付着したりトナーが固着したりするのを抑制したり、摩擦係数を調整したりすることができる。
【0095】
前記本発明の導電性ローラ1は、電子写真装置のうち帯電工程で感光体の表面を帯電させる帯電ローラ、現像工程のうちトナーの帯電過程でトナーをかく拌しながら帯電させる帯電ローラ、静電潜像への付着過程で帯電させたトナーを感光体表面の静電潜像に選択的に付着させてトナー像に現像する現像ローラ、転写工程で前記トナー像を紙または像担持体の表面に転写させる転写ローラ、あるいはクリーニング工程で残留したトナーを除去するクリーニングローラ等に使用できる。
【0096】
特に紙と直接に接触するため紙粉の付着に伴う種々の問題を生じやすい転写ローラとして、本発明の導電性ローラ1を使用するのが好ましい。
前記導電性ローラ1を転写ローラとして使用する場合、ローラ本体2の抵抗値は、印加電圧1000Vで10Ω以上、10Ω以下、特に10Ω以上、10Ω以下程度であるのが好ましい。
【0097】
抵抗値を前記範囲内に調整するためには、例えば前記イオン導電性エラストマやイオン導電性塩の種類や配合割合等を、先に説明した範囲内で適宜調整すればよい。
また転写ローラとして使用する導電性ローラ1のローラ本体2の、外周面6から中心軸L方向の硬さは、日本工業規格JIS K7312−1996「熱硬化性ポリウレタンエラストマー成形物の物理試験方法」の付属書2で規定されたスプリング硬さ試験タイプC試験方法に準拠して、温度23±1℃、相対湿度55±1%の条件下で測定したスプリング式タイプC硬さが55以下、特に40以下であるのが好ましい。
【0098】
硬さがこの範囲内であれば、ローラ本体2に良好な柔軟性を付与して、導電性ローラ1を転写ローラとして使用した際に、特に低温条件下でムラ等が生じるのを確実に防止できる。また紙に対する摩擦係数を上昇させて、紙送りの不良等を生じにくくできる。
本発明の電子写真装置は、前記本発明の導電性ローラを転写ローラとして組み込んだものゆえ、前記導電性ローラの機能によって、紙の表面に、特に低温条件下でムラのない良好な画像を形成することができる。前記電子写真装置としては、レーザープリンタ、静電式複写機、普通紙ファクシミリ装置、あるいはこれらの複合機等が挙げられる。
【0099】
なお本発明は、以上で説明した例のものには限定されない。
例えば外周面6を図2に示す略サイン波状以外の他の任意の凹凸形状(例えば略三角波状、略矩形波状等)に形成することで、前記凹凸形状の山および谷の部分に対応する断面形状を有する凸条7と凹溝8を形成してもよい。
また中空部の断面形状は図3に示す略扇型および略矩形状には限定されず、例えば特許文献1〜3に開示された円形状等の、任意の断面形状に形成できる。
【0100】
その他、本発明の用紙を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を施すことができる。
【実施例】
【0101】
以下の実施例、比較例における導電性ローラの製造、および試験を、特記した以外は温度23±1℃、相対湿度55±1%の環境下で実施した。
〈実施例1〉
(熱可塑性エラストマ組成物の調製)
樹脂マトリクスとしての水素添加スチレン系熱可塑性エラストマ〔SEEPS、(株)クラレ製のセプトン(登録商標)4077〕とポリプロピレン〔日本ポリプロ(株)製のノバテック(登録商標)PP〕に、ゴム分としてのEPDM〔住友化学(株)製のエスプレン(登録商標)EPDM505A〕、パラフィン系オイル〔出光興産(株)製のダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW−380〕、樹脂架橋剤〔臭素化アルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂、田岡化学工業(株)製のタッキロール(登録商標)250−III〕、および架橋助剤(架橋活性剤)としての酸化亜鉛〔三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号〕を配合した。
【0102】
前記各成分を2軸押出機のスクリュー部内で200℃に加熱しつつ混練してゴム分を動的架橋しながらノズル先端から押し出し、次いで連続的に所定の長さにカットしてペレット化して、前記樹脂マトリクス中にEPDMの架橋物が分散された混練物を調製した。
またリチウム塩としてのビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムと、EO−PO−AGE共重合体〔日本ゼオン(株)製のゼオスパン(登録商標)8010〕とを混練してイオン導電性樹脂型帯電防止剤を調製した。
【0103】
次いで、前記イオン導電性樹脂型帯電防止剤と先の混練物とをタンブラーを用いてドライブレンドした後、2軸押出機のスクリュー部内で200℃に加熱しつつ混練しながらノズル先端から押し出し、次いで連続的に所定の長さにカットしてペレット化して、熱可塑性エラストマ組成物を調製した。
熱可塑性エラストマ組成物を構成する各成分の配合割合は、表1に示すとおりとした。
【0104】
【表1】

【0105】
(導電性ローラの製造)
前記熱可塑性エラストマ組成物のペレットを押出成形機のスクリュー部内で加熱しながら混練して、前記スクリュー部の先端に接続したダイの口金を通して筒状に押出成形して、ローラ本体2のもとになる筒状体5を作製した。
押出成形の条件は、押出温度(スクリュー部先端での設定温度)200℃、押出速度約1m/分の低速条件と、同じ押出温度で、押出速度約3m/分の高速条件の2つの条件を設定した。
【0106】
筒状体5の外径は12.5mm、内径は4.6mmとした。また、図4、図5に示すように口金14の内周面15に略サイン波状の凹凸形状を設けることで、押出成形された筒状体5の外周面6を、前記凹凸形状の凹部16に対応する凸条7と、凸部17に対応する凹溝8とが交互に配列されたサイン波状の凹凸形状とした。
前記凹部16および凸部17は、押出成形された筒状体5の凸条7の最高点と凹溝8の最低点との間の径方向の高低差hが700μm、隣り合う凸条7の最高点間の周方向のピッチwが400μmとなるように設定した。
【0107】
また口金14の内方に複数のピン18、19とマンドレル20とを設けることで、押出成形された筒状体5の内部に、図3に示す断面形状を有する複数の中空部9、10と、通孔3とを形成した。
図3の断面における、中空部9、10の断面積と、前記中空部9、10以外の中実部の断面積とから、前記式(1)によって求められる中空部9、10の面積占有率は30%とした。
【0108】
押出成形した筒状体5は、その中心軸Lを中心として周方向に回転させないように維持しながら冷却したのち通孔3内にシャフトを挿通するとともに、長さ216mmにカットしてローラ本体2を形成して導電性ローラ1を製造した。
〈実施例2〜4〉
口金14の内方に設けるピン18、19の断面積を変更して、中空部9、10の面積占有率を10%(実施例2)、50%(実施例3)、および75%(実施例4)としたこと以外は実施例1と同様にして導電性ローラ1を製造した。
【0109】
〈比較例1〉
口金14の内周面15に凹部16と凸部17とを設けず、したがってローラ本体2の外周面6に凸条7と凹溝8とを形成しなかったこと以外は実施例1と同様にして導電性ローラ1を製造した。
〈比較例2〉
前記凹部16および凸部17を、押出成形された筒状体5の凸条7の最高点と凹溝8の最低点との間の径方向の高低差hが70μm、隣り合う凸条7の最高点間の周方向のピッチwが400μmとなるように設定したこと以外は実施例1と同様にして導電性ローラ1を製造した。
【0110】
〈実施例5〉
前記凹部16および凸部17を、押出成形された筒状体5の凸条7の最高点と凹溝8の最低点との間の径方向の高低差hが100μm、隣り合う凸条7の最高点間の周方向のピッチwが400μmとなるように設定したこと以外は実施例1と同様にして導電性ローラ1を製造した。
【0111】
〈比較例3〉
前記凹部16および凸部17を、押出成形された筒状体5の凸条7の最高点と凹溝8の最低点との間の径方向の高低差hが700μm、隣り合う凸条7の最高点間の周方向のピッチwが850μmとなるように設定したこと以外は実施例1と同様にして導電性ローラ1を製造した。
【0112】
〈比較例4〉
口金14の内方にピン18、19を設けず、したがってローラ本体2の内部に中空部9、10を形成しなかったこと以外は実施例1と同様にして導電性ローラ1を製造した。
〈比較例5〉
口金14の内方で、かつマンドレル20の周囲に6本の断面円形のピンを周方向に等間隔に配置すると共にその断面積を調整して、中空部9、10の面積占有率を8%としたこと以外は実施例1と同様にして導電性ローラ1を製造した。
【0113】
〈比較例6〉
口金14の内方に設けるピン18、19の断面積を、中空部9、10の面積占有率が85%になるように変更したところ、筒状体5を押出成形することができなかった。
〈硬さ測定〉
実施例、比較例で製造した導電性ローラ1のローラ本体2の、外周面6から中心軸L方向の硬さを、前記外周面6上の複数箇所において、前出のJIS K7312−1996の付属書2で規定されたスプリング硬さ試験タイプC試験方法に準拠して測定して、その平均値をローラ本体2の硬さとした。
【0114】
〈画像評価試験〉
実施例、比較例で製造した導電性ローラを、レーザープリンタ〔ヒューレットパッカード社製のLaserJet(登録商標)P1006〕に転写ローラ賭して組み込んで、温度10℃、相対湿度20±1%の環境下でA4サイズの紙〔富士ゼロックスオフィスサプライ(株)製のPPC用紙〕にハーフトーン画像を20枚連続して印刷した。
【0115】
次いで20枚の印刷を目視にて観察して、下記の基準で低温条件下でのムラの有無を評価した。
◎:20枚の印刷にムラや、強度のムラであるスジ等の画像不良は全く見られなかった。
○:20枚中の1〜2枚程度に若干のムラやスジ等の画像不良が見られたが、これらの画像不良は画像を注意深く見ないとわからない程度のものであり、問題のないレベルであった。
【0116】
×:20枚中の2枚以上で明らかなムラやスジ等の画像不良が見られた。
以上の結果を表2、表3に示す。
【0117】
【表2】

【0118】
【表3】

【0119】
両表より、ローラ本体2の外周面6に、高低差hが100μm以上、ピッチwが800μm以下である複数の凸条7と凹溝8とを設けると共に、内部に、面積占有率が10%以上、80%以下である中空部9、10を設けることにより、特に低温環境下で、ムラやスジ等の画像不良のない良好な画像を形成できることが判った。
また前記面積占有率は、前記範囲内でも特に30%以上、75%以下であるのが好ましいことも判った。
【符号の説明】
【0120】
1 導電性ローラ
2 ローラ本体
3 通孔
4 シャフト
5 筒状体
6 外周面
7 凸条
8 凹溝
9 中空部
10 中空部
11 連結部
12 内側円筒部
13 外側円筒部
14 口金
15 内周面
16 凹部
17 凸部
18、19 ピン
20 マンドレル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性ローラであって、筒状に形成され、
外周面に、複数の凸条と凹溝とが周方向に交互に設けられているとともに内部に複数の中空部が設けられており、
前記凸条の最高点と凹溝の最低点との間の径方向の高低差が100μm以上、隣り合う凸条の最高点間の周方向のピッチが800μm以下で、かつ
前記導電性ローラの、軸方向と直交方向の断面における、前記中空部の断面積と、前記中空部以外の中実部の断面積とから、式(1):
【数1】

によって求められる中空部の面積占有率が10%以上、80%以下であることを特徴とする導電性ローラ。
【請求項2】
スチレン系熱可塑性エラストマとポリプロピレンとを含む樹脂マトリクス中に、
ジエン系ゴムおよびエチレンプロピレンゴムからなる群より選ばれた少なくとも1種のゴム分の架橋物と、
イオン導電性エラストマとイオン導電性塩とを含むイオン導電性樹脂型帯電防止剤とが分散された熱可塑性エラストマ組成物によって形成されている請求項1に記載の導電性ローラ。
【請求項3】
前記熱可塑性エラストマ組成物は、樹脂マトリクスと未架橋のゴム分とを含む混合物を加熱しながら混練して前記ゴム分を架橋させる動的架橋の工程を経て調製されている請求項2に記載の導電性ローラ。
【請求項4】
前記熱可塑性エラストマ組成物を、口金を備え、前記口金の内周面に、前記凸条および凹溝のもとになる複数の凹部と凸部とを周方向に交互に設けるとともに、前記口金の内方に、前記中空部のもとになる複数のピンを設けたダイを備えた押出成形機を用いて筒状に押出成形して製造されている請求項2または3に記載の導電性ローラ。
【請求項5】
前記外周面を電子写真装置の感光体または像担持体の表面に当接させた状態で前記電子写真装置に組み込んで、前記感光体または像担持体の表面に形成されたトナー像を紙の表面に転写させる転写ローラとして用いる請求項1ないし4のいずれか1項に記載の導電性ローラ。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の導電性ローラを、転写ローラとして含むことを特徴とする電子写真装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−48188(P2011−48188A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197143(P2009−197143)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】