説明

屈折率測定方法および屈折率測定装置

【課題】ガラス製の部材やプラスチック製の部材の品質安定化のためには、屈折率の分布を高精度に測定する必要があるが、従来の測定方法では、破壊検査であったり、有毒物を使用したり、平面でしか測れないといった課題がある。
【解決手段】光センサで得られた干渉信号に基づいて、被検物なしの基準反射面と、被検物の表面と、被検物の裏面と、被検物を透過後の基準反射面および被検物の手前で集光し平行光で反射する基準反射面の少なくとも一方との、それぞれの距離を測定し、これらの測定距離に基づいて被検物の屈折率を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス製の部材やプラスチック製の部材の、形状、厚み、屈折率および屈折率分布を測定する屈折率測定方法および屈折率測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガラス製の部材やプラスチック製の部材は、ディスプレイパネル等に使用される前面板や光ピックアップやデジタルコピー機、デジタルカメラ等に使用される成型レンズなど、非常に幅広く使用されている。また、このような用途に用いられるガラス製の部材やプラスチック製の部材に求められる精度は非常に高くなっている。
【0003】
ガラス製の部材やプラスチック製の部材は熱プロセスによって加工・成型されるが、その成型条件によって、内部の屈折率分布に不均一性を生じる場合がある。
特に成型レンズは、ガラス研磨レンズに比べて非球面レンズの製作性に優れ、低コストであるが、一方で成型条件の如何によって、レンズ内部の屈折率分布に不均一性を生じやすいという不安定な性質を有する。レンズ内部の屈折率の不均一性は、レンズの光学特性に大きな影響を及ぼし、結像性能を劣化させる原因となる恐れがある。このようなことから、ガラス製の部材やプラスチック製の部材の品質を安定化するためには、屈折率の分布を高精度に測定する必要がある。
【0004】
屈折率を測定する従来技術としては、最小偏角法などにより、偏角を測定して求める方法があり、この方法によれば、高精度で測定できることが知られている。
また、ダイヤモンドや鉱石などの被検物に対する屈折率の測定方法として、被検物を屈折率が既知の溶液に浸し、その境界線に現れるベッケ線を観察し、ベッケ線が見えなくなるまで溶液を交換して、線が見えなくなった際の溶液の屈折率から間接的に被検物の屈折率を測定する方法が知られている。
【0005】
一方で、干渉計を利用した屈折率の測定方法も知られている。干渉計を利用した屈折率の測定方法としては、マッハツェンダー型の干渉計(特許文献1参照)やマイケルソン型の干渉計(特許文献2参照)がある。
【0006】
図8は、従来のマッハツェンダー型干渉計を利用した屈折率測定装置を示す図である。
図8に示すように、レーザ光源51から出射した光は、集光レンズ52によって平行光にされた後、ハーフミラー53によって、参照光54と検査光55とに分岐される。検査光55は、ミラー56で反射された後、被検物57と屈折率がほぼ等しいマッチング液で満たされた液浸槽58およびそれに浸された被検物57を透過して、被検物57の屈折率分布に対応した光路差を生じ、ハーフミラー59に達した後に結像レンズ60を介して撮像素子61に入る。
【0007】
一方、参照光54は、補償板62を透過し、ミラー63で反射し、ハーフミラー59に達した後に結像レンズ60を介して撮像素子61に入る。補償板62は、検査光55から撮像素子61までの光路長と参照光54から撮像素子61までの光路長とをほぼ等しくするためのものである。
【0008】
撮像素子61において、検査光55と参照光54とは合波され、その光路差に応じて干渉縞64を生じる。この干渉縞観察において、干渉縞64が生じている箇所の縞の本数により、その部分の被検物57の光学的厚さが計算でき、そこから、マッチング液の屈折率の差分を計算することで被検物57の屈折率を求めることができる。
【0009】
なお、このマッチング液を使う干渉計を利用した方法において、マッチング液の温度均一性を上げる浴槽や位相シフト法を導入して3次元分布を計測可能にしたものがある。
また、図9は従来のマイケルソン型干渉計を利用した屈折率測定装置を示す図である。
【0010】
低コヒーレントの光源70を用い、集光レンズ71により集光して透明な板状の被検物73の空気との境界部分に照射し、参照光ミラー74と被検物73の前面および後面における干渉光の強度を光検出器72で観察する。
【0011】
この干渉の強度がそれぞれで最大になるように、被検物73または集光レンズ71および参照光ミラー74を移動させ、前面および後面における干渉光最大強度の位置での被検物73または集光レンズ71および参照光ミラー74の移動距離を求める。これによって、屈折率および厚みを同時測定して屈折率を求めるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2001−21448号公報
【特許文献2】特開平11−344313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、従来の偏角を測定する方法では、被検物を所定の形状に加工する必要があり、測定対象の光学素子を破壊し、研磨しなければならないという課題がある。
また、図8に示したような被検物57を屈折率がほぼ被検物と等しいマッチング液に浸す方法は、非破壊で測定できるが、マッチング液の屈折率の不均一性が大きな誤差原因となり、その制御方法が難しいという課題がある。さらに、被検物57がマッチング液の屈折率の存在領域に狭められると共に、マッチング液そのものが環境および人体に害をなすものが多くあり、測定の利便性が損なわれる課題もある。
【0014】
また、図9に示したようなマイケルソン型の干渉計では被検物73が平面の場合は計測することが可能であるが、被検物73の面が曲面の場合は計測することが困難であり、また、被検物73または集光レンズ71と参照光ミラー74との2箇所を移動させる必要があり、両方の移動量の誤差の影響が発生する。
【0015】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、被検物を非破壊でその屈折率分布を簡易に測定することができる屈折率測定方法および屈折率測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明の屈折率測定方法は、光源からの光を検査光と参照光とに分割する光分割工程と、前記検査光を被検物および基準反射面に集光する検査光集光工程と、前記検査光の集光位置を前記被検物の表面および裏面と前記基準反射面の表面とに切り換える集光位置切換工程と、前記参照光を参照反射面で反射させる参照光反射工程と、前記被検物および前記基準反射面から反射された前記検査光と、前記参照反射面で反射された前記参照光と、を干渉させて干渉信号を得る干渉信号取得工程と、前記被検物が存在しない状態での前記基準反射面と、前記被検物の表面と、前記被検物の裏面と、前記被検物が存在する状態での前記基準反射面と、のそれぞれの光学距離を、前記干渉信号に基づいて計測する距離計測工程と、前記距離計測工程で計測した光学距離に基づいて前記被検物の屈折率を算出する屈折率算出工程と、を有することを特徴とする。
【0017】
また、本発明の屈折率測定装置は、光源と、前記光源からの光を検査光と参照光とに分割する光分割手段と、前記検査光を被検物および基準反射面とに集光させる集光光学系と、前記集光光学系を前記検査光の光軸に沿って移動させる集光光学系駆動手段と、前記被検物を前記検査光の光軸とは異なる方向に移動させる被検物駆動手段と、前記参照光を反射する参照反射面と、前記被検物および前記基準反射面から反射された前記検査光と前記参照反射面で反射された前記参照光とが干渉した干渉信号を得る受光素子と、前記受光素子で得られた干渉信号に基づいて、前記被検物が存在しない状態での基準反射面と、被検物の表面と、被検物の裏面と、のそれぞれの光学距離を測定し、これらの光学距離に基づいて前記被検物の屈折率を算出する算出手段と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明を用いることによって、非破壊で被検物の屈折率分布を簡易に測定することができる。また、被検物を所定の形状に加工する必要がないとともに、マッチング液などを用いないので、環境および人体に害をなすようなこともない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態に係る屈折率測定装置の概念構成を示す図
【図2】同屈折率測定装置を用いた屈折率測定方法による測定状態を示す図で、(a)集光位置が、被検物が存在しない状態での基準反射面である場合の図、(b)集光位置が、被検物の透過後の基準反射面である場合の図、(c)集光位置が、被検物の前面である場合の図、(d)集光位置が、被検物の裏面である場合の図、(e)集光位置が、被検物の手前である場合の図
【図3】同屈折率測定方法において被検物が軸外にある場合での測定状態を示し、(a)被検物上の斜面に検査光が入射する状態の図、(b)被検物上の斜面から反射する状態の図
【図4】同屈折率測定方法において検査光が軸外にある被検物を透過して基準反射面で反射した状態の図で、(a)被検物上の斜面に入射する状態の図、(b)被検物上の斜面から反射する状態の図
【図5】同屈折率測定方法において軸外の測定における波面収差の概念図で、(a)被検物を光軸上からY方向にのみずらした状態の図、(b)図5(a)の状態での波面収差の図、(c)図5(a)の状態での反射光の干渉縞の図、(d)図5(a)の状態での収差による、干渉信号のピーク位置のずれと干渉信号のピークのなまりとの発生の概念を示す図
【図6】同屈折率測定方法における屈折率測定の第1のフローチャート
【図7】同屈折率測定方法における屈折率測定の第2のフローチャート
【図8】従来のマッハツェンダー型干渉計を利用した屈折率測定装置の構成を示す図
【図9】従来のマイケルソン型干渉計を利用した屈折率測定装置の構成を示す図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。ここで、図1は、本発明の実施の形態に係る屈折率測定装置の概念構成を示す図、図2(a)〜(e)は同実施の形態における屈折率測定状態を示す図である。
【0021】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る屈折率測定装置は、光源1と、光源1からの光を検査光18と参照光19とに分割するビームスプリッタ(光分割手段)2と、検査光18を集光して被検物4および基準反射面6に照射する集光レンズ(集光光学系)3と、前記集光レンズ3をその光軸方向(検査光18の出射方向)に沿って移動させる集光光学系駆動機構7と、被検物(被検レンズ)4を集光光学系である集光レンズ3の光軸と直交する方向に移動させる被検物駆動機構8と、参照光19を反射させる平面状の参照反射面12と、基準反射面6で反射した検査光18と参照反射面12で反射した参照光19との干渉信号を得る光センサ(受光素子)17および干渉像を得るカメラ14と、光センサ17で得られた干渉信号に基づいて被検物4の屈折率を算出する算出部としての機能も有する制御装置20などを備えている。なお、集光光学系駆動機構7は、集光レンズ3の集光位置を被検物4の表裏面および基準反射面6の表面に移動させる。
【0022】
また、制御装置20は、光源1、集光光学系駆動機構7、被検物駆動機構8、カメラ14、光センサ17などを制御すると共に、被検物4が存在しない状態での基準反射面6と、被検物4の表面と、被検物4の裏面と、被検物4を透過後の基準反射面と、被検物4の手前で集光し平行光で反射する基準反射面とのそれぞれに対して、収差による誤差影響を除去して正確な光学距離を算出する算出手段としての機能をも備えている。
【0023】
ここで、被検物4は、ガラス製の部材やプラスチック製の部材からなるレンズなど(但し、レンズに限るものではなく、透過および反射する性質を有する部材ならば被検物4として測定対象となり得る)からなり、検査光18が集光レンズ3により基準反射面6へ向けて照射される光路内に、ホルダ21で保持された状態で配設されている。なお、図1における5は、集光光学系としての集光レンズ3を保持するホルダ21に設けられてホルダ21の位置を検出するためのホルダ基準面であり、13は、ビームスプリッタ15で反射された検査光18とビームスプリッタ15を透過した参照光19とをカメラ14に結像させる結像レンズであり、15は、ビームスプリッタ2を透過した検査光18とビームスプリッタ2により反射された参照光19とを反射するビームスプリッタであり、16は、ビームスプリッタ15で反射された検査光18および参照光19を光センサ17に集光する集光レンズである。
【0024】
また、この実施の形態では、光源1からの光を検査光18と参照光19とに分割するビームスプリッタ2と、参照光19を反射させる参照反射平面12との間に、NDフィルタ10と空間フィルタ11とが配設されている。さらに、ビームスプリッタ2と、集光レンズ3との間に、空間フィルタ9が配設されている。また、集光光学系駆動機構7は、集光レンズ3によって基準反射面6などに点で集光するよう、集光レンズ3を移動調整させる。
【0025】
上記構成において、図1に示すように、光源1から出射された光束は、ビームスプリッタ15を透過し、ビームスプリッタ2で検査光18と参照光19とに分割される(光分割工程)。
【0026】
検査光18は、空間フィルタ9を透過した後、集光レンズ3によって集光される(検査光集光工程)。集光点は集光光学系駆動機構7によって集光レンズ3が移動されることによって調節される(集光位置切換工程)。
【0027】
図1は、集光レンズ3によって検査光18を基準反射面6の表面に集光している状態を示している。この状態では、集光レンズ3を透過した検査光18は、被検物4およびホルダ基準面5を透過して、基準反射面6の表面に到達する。この場合には、集光光学系駆動機構7により基準反射面6で点に集光するように調整されているため、基準反射面6で反射された検査光18は再びホルダ基準面5、被検物4を透過し、集光レンズ3により平行光として戻される。ただし、集光レンズ3以降の光学系の構成によって光学的な収差が発生し、平行光とはやや波面がずれた略平行光となっている。
【0028】
一方、ビームスプリッタ2で分割された参照光19はNDフィルタ10を透過し、空間フィルタ11を透過して、参照反射面12に平行光のままで到達し、参照反射面12で反射される(参照光反射工程)。参照反射面12で反射された参照光19はビームスプリッタ2によって、反射してきた検査光18と一緒となる。
【0029】
ここで、ビームスプリッタ2により反射された検査光18と、ビームスプリッタ2を透過した参照光19とは、結像レンズ13によりカメラ14に結像する。検査光18と参照光19とは干渉を起こすため、その干渉像をカメラ14により観察できる。
【0030】
また、ビームスプリッタ2を透過する検査光18と、ビームスプリッタ2により反射する参照光19とは、ビームスプリッタ15により共に反射して、集光レンズ16により、光センサ17に集光し、光センサ17で干渉信号を得ることができる(干渉信号取得工程)。この干渉信号から反射する対象物からの反射光学距離を計測できる(距離計測工程)。
【0031】
なお、光源1としては、白色光源やヘリウムネオンなどの単色レーザ、光コムなどの多波長光源を用いることができる。ただし、光源1が白色光源や単色レーザの場合は、その可干渉性と可干渉光学距離とにより参照反射平面12と対象物の反射位置とを一致させるために、参照反射面12に光軸方向への移動機構を設ける必要がある。したがって、ここでは光コム光源(周波数が櫛(コム)のように一定間隔で連続して分布する光を発生させる光源)のような多波長の安定した光源が望ましい。
【0032】
ビームスプリッタ2、15は平板状のビームスプリッタでもキューブ状のものでもよい。また、空間フィルタ9、11は非透過性の同心円状、もしくはスリット状で必要な光だけを透過させるフィルタである。空間フィルタ9、11を支持する機構に回転機構や移動機構を設けて回転可能あるいは移動可能にすることで、必要な光だけを透過させることが可能となり、より厳密にフィルタリングすることができる。また、空間フィルタ9、11を用いる代わりに、液晶などの可変フィルタを用いても同様な効果を得ることができる。
【0033】
集光レンズ3は、対物レンズなどの収差が補正されて、ゼロに近いもの、もしくはゼロでなくてもその収差量が既知であるものが望ましい。また、被検物4の反射角度により反射光を十分に得られない場合は、集光光学系として、レンズ系ではなく、回折格子などを用いた回折光学系を使うことも可能である。
【0034】
また、集光光学系駆動機構7や被検物駆動機構8はサブミクロンオーダの精度があればよいが、真直度やピッチング、ヨーイング、ローリングの精度が測定精度に影響を与えるため、それぞれ0.1μm、1分以下の精度があることが望ましい。
【0035】
基準反射面6は光源1の波長に対して100%に近い反射率を持つミラー状のものでも構わないが、被検物4の反射率に近い場合は反射光量が一定になり、被検物4によっては信号処理の誤差が小さくなる場合がある。また、基準反射面6の面精度は1/10λ以下か、もしくは収差量が既知のものが望ましい。
【0036】
NDフィルタ10は、被検物4の反射率が参照反射面12の反射率よりも一般的に小さいため、被検物4側の反射光と光量をそろえて干渉縞、干渉信号を最大化するものである。このNDフィルタ10は、存在しなくても測定は可能であるが、干渉信号を最大化することで外乱に対して強くなるため、存在することが望ましく、また固定の濃度よりもND濃度可変のものが望ましい。NDフィルタ10の透過収差は1/10λ以下か、もしくは収差量が既知のものが望ましい。また、参照反射面12は基準となる面(平面)のため、面精度は1/20λ以下か収差量が既知のものが望ましい。
【0037】
結像レンズ13はカメラ14に光を結像させるためのものであり、収差が小さいことが望ましいが、カメラレンズでなくてもダブレットのような単レンズでも使用は可能である。カメラ14は、CCDやCMOSのようなエリアセンサカメラで、VGA(640×480ピクセル)以上の分解能があることが望ましい。
【0038】
集光レンズ16は光センサ17上に光を一点で集光させるためのものであるため、収差ができるだけ小さいほうが望ましいが、対物レンズでなくてもダブレットのような単レンズでも使用は可能である。また、光センサ17はフォトダイオードのような一点の光量検出器であり、光量の分解能が10BIT以上あることが望ましく、また時間応答性も高速なものが望ましい。
【0039】
次に図2を用いて本発明の実施の形態に係る屈折率測定方法について述べる。
ここではまず被検物4の中心が検査光18の光軸上にある場合での測定方法を示す。
図2(a)〜(e)は、集光光学系駆動機構7によって集光レンズ3を移動させて、その検査光18の集光位置を変更した状態をそれぞれ示している。ここで、図2(a)は、集光レンズ3の集光位置が、被検物4が無い時の基準反射面6である場合を示し、図2(b)は、集光位置が、被検物4の透過後の基準反射面6である場合を示し、図2(c)は、集光位置が被検物4の前面(集光レンズ3側の面)である場合を示し、図2(d)は、集光位置が被検物4の裏面(集光レンズ3とは反対側の面)である場合を示し、図2(e)は、集光位置が被検物4の手前である場合を示している。
【0040】
この時の各光学距離は上述したように、制御装置20により、収差による誤差影響を除去した正確な距離を算出されており、それぞれの光学距離をLa、Lb、Lc、Ld、Leと定義する(すなわち、Laは、集光位置が被検物4が存在しない状態の基準反射面6である場合の光学距離、Lbは、集光位置が被検物4の透過後の基準反射面6である場合の光学距離、Lcは、集光位置が被検物4の前面である場合の光学距離、Ldは、集光位置が被検物4の裏面である場合の光学距離、Leは、集光位置が被検物4の手前である場合の光学距離である)。ただし、この光学距離は実際の距離ではなく光学的な距離であり、光路中のレンズなどの屈折率の影響を受けている。
【0041】
ここで被検物4のレンズ厚みTは、下記(式1)で求めることができる。
T=(La−Lb)−(Ld−Lc)・・・(式1)
一方、屈折率Nは、下記(式2)もしくは下記(式3)とあらわすことができ、これを計算することでレンズ厚みTと屈折率Nとを求めることができる。
【0042】
N=(Lc−La)/T ・・・(式2)
N=(Lc−La)/T+1 ・・・(式3)
ただし、ここで求められる屈折率は群屈折率となっており、位相屈折率を求めたい場合は、硝材(レンズの材料)の分散の定義式を用いて変換することで求めることができる。
【0043】
以上、光学距離LaからLdによりレンズ厚みTと屈折率Nとを求めることができる。これに加えて、図2(e)の状態で光学距離Leを計測することにより、データ数を増やすことができる。図2(e)の計測を行うことで、より高精度化させることも可能である。
【0044】
ここで図2(e)に示す状態は、反射状態は異なるが測定光学距離としては図2(b)と同じ位置を計測しているため、(式1)を変換して、下記(式4)とあらわすことも可能である。
T=(La−Le)−(Ld−Lc) ・・・(式4)
これにより屈折率Nを求める(屈折率算出工程)ことで、(式1)だけでなく(式4)でも同じ値を計測することが可能となり、これにより検出データ点数を増やすことができる。そして、この結果より、平均処理もしくは2点の値を用いたオフセット計算処理をすることで、計測精度をより向上させることが可能となる。
【0045】
図3(a)、(b)では被検物4の中心が検査光18の光軸上にある場合ではなく、軸外の位置にある場合での被検物4の厚みおよび屈折率を求める場合を図示している。被検物4の中心が検査光18の光軸から外れている状態では、図3(a)に示すように、検査光18が被検物4の斜面部分に入射するため、図3(b)に示すように、被検物4での反射角が傾いた状態になる。したがって、集光レンズ3で開口規制され、図3(a)、図3(b)で示す太線の周囲からしか反射光を得られないことになる。
【0046】
図4(a)、(b)に示すように、被検物4の中心が検査光18の光軸から外れている場合でも同様であり、この場合は被検物4を透過した後の基準反射面6での反射位置を検出しているが、被検物4の屈折作用で入射光軸が傾き、図3(a)、図3(b)に示す場合と同じ現象を生じる。この場合、光のケラレが発生するだけでなく、波面収差が発生するため、この波面収差の除去が必要となってくる。
【0047】
したがって、この場合には、まずは屈折角による波面収差の影響を除去する必要がある。ここで被検物4の形状は、光学距離Laから光学距離Ldで既知であるため、この実測値を直接用いて補正することが可能である。具体的には、まず位相屈折率を理論値から一旦仮定して作成し、その値に基づく屈折角を計算し、屈折して斜めに光束が透過していく距離から実際の被検物14の厚みや光学距離に換算する。この場合に、位相屈折率の仮定による誤差の影響が当然発生するが、理論値と実測値との差が小さければ理論値をそのまま用いても波面収差の影響を除去することが可能である。理論値と実測値との差が大きく、実測値を厳密に求めることが必要であれば、光学距離La〜Leを用いて2つの計算式から求めた方法から、再度、位相屈折率の誤差補正をして、再度、群屈折率の計算を行う回帰計算により求めることができる。
【0048】
また、波面収差の補正方法については、図5(a)〜(d)を参照しながら、その詳細を説明する。
図5(a)は被検物4を光軸上からY方向にのみ、ずらしている場合を示す。この場合の波面収差を図5(b)に示す。ここでは横軸はY方向、X方向の入射光の光束の位置を示し、縦軸が収差量となっている。図5(b)の左側の図から分かるように、Y方向では傾斜によりケラレが発生して光の返ってこない部分が発生するだけでなく、とくに入射光の端部で収差が大きく発生している。図5(b)の右側の図から分かるように、X方向では傾斜は発生していないが、被検物4の球面収差の影響が出ている。
【0049】
これらの反射光の干渉縞は図5(c)に示すようなものとなる。干渉信号は光束の全体の集合として得られるため、このような収差が発生していると、図5(d)に示すように干渉信号のピーク位置のずれa、および干渉信号のピークのなまりbが発生し、検出精度に影響する。
【0050】
そこで、図1に示すように、空間フィルタ9、11を配設することによって収差のない部分のみの光を透過させることによって、きれいな干渉信号を得ることができ、高い検出精度が実現できる。なお、どのような空間フィルタを用いるかは、シミュレーションから求めた干渉像からフィルタリング形状を求める方法と、カメラ14で直接干渉像を検出してフィルタリング形状を求める方法がある。
【0051】
以上で、被検物4上のそれぞれの位置の厚みおよび屈折率を求める方法を述べたが、図6により具体的な屈折率測定のフローチャートを示す。
まず、図2(a)に示すように、被検物4が存在しない状態で基準反射面6の位置を計測する(ステップS1)。次に、図2(b)に示すように、被検物4を初期測定位置まで移動させて、光路中に配置する(ステップS2)。次に、図2(c)に示すように、被検物4の表面を計測し(ステップS3)、次に、図2(d)に示すように、被検物4の裏面を計測する(ステップS4)。
【0052】
次に、被検物4を保持するホルダ21に取り付けられているホルダ基準面5を計測する(ステップS5)。このホルダ基準面5を計測することにより、被検物4の被検物駆動機構8の真直度に誤差があった場合でも、各測定位置ごとに測定することが可能となる。
【0053】
次に、被検物4を透過して基準反射面6から反射する状態(図2(b)参照)を計測し(ステップS6)、また、被検物4を透過して基準反射面6から反射する状態(図2(e)参照)を計測する(ステップS7)。ここで各測定ステップS6、S7では上記した収差除去の方式を用いて収差を除去する。
【0054】
次に、測定位置を移動して(ステップS8)、ステップS9において、全ての測定位置が測定完了しているか判定を行う。この場合に、測定位置がまだ残っている場合(ステップS9のNo)はステップS3に戻り、新しい測定位置での計測を順次行う。全ての測定位置の計測が終われば(ステップS9のYes)、再度、図6(a)に示すような被検物4がない状態で基準反射面6を計測する(ステップS10)。なお、この工程は無くても良いが、この工程を行うことによって経時的な位置の変化などが起きていないか確認し、必要ならば最初と最後の結果とから補正を掛けることが可能である。
【0055】
以上の各測定位置のステップS3〜S7で測定した各測定光学距離と、ステップS1、S10で測定した基準反射面の計測光学距離の結果を用いて、屈折率の計算を行う(ステップS11)。以上により各測定位置での被検物4に対応するレンズ厚み、屈折率を計算する。このように各測定位置での屈折率を算出することで、被測定物4の屈折率分布を求めることが可能となる。
【0056】
図7は本発明の他の実施の形態に係る屈折率測定方法のフローチャートを示す。
まず、図2(a)に示すように、被検物4が存在しない状態で基準反射面6の位置を計測する(ステップS21)。次に、図2(b)に示すように、被検物4を初期測定位置まで移動させて、光路中に配置する(ステップS22)。次に、図2(c)に示すように、被検物4の表面を計測し(ステップS23)、次に、測定位置を移動して(ステップS24)、全ての測定位置が測定完了しているか判定を行う(ステップS25)。
【0057】
測定位置がまだある場合はステップS23に戻り、新しい測定位置での計測を順次行う。全ての測定位置の計測が終われば、再度、図2(a)に示すような被検物4が存在しない状態で基準反射面6を計測する(ステップS26)。この工程を追加することで、被検物4に経時的な変化が起きていないかを確認して、必要なら最初と最後の結果から補正を掛けることて、より精度を向上させることが可能となる。
【0058】
以下上記と同じ一連の流れを、測定方法を変えて行う。
被検物4の裏面の測定については、ステップS27からステップS31で測定範囲内の計測を行う。被検物4を保持するホルダ21に取り付けられているホルダ基準面5の測定については、ステップS32からステップS36で測定範囲内の計測を行う。また、被検物4の透過後に基準反射面6で反射する状態(図2(b)参照)の計測はステップS37からステップS41で測定範囲内の計測を行う。被検物4を透過して基準反射面6から反射する状態(図2(e)参照)の計測はステップS42からステップS46で測定範囲内の計測を行う。
【0059】
以上の各測定位置でのステップS23、S28、S33、S38、S43の各測定光学距離と、ステップS21、S26、S31、S36、S41、S46の基準反射面6の計測光学距離との結果を用いて、屈折率の計算を行う(ステップS27)。
【0060】
以上により各測定位置での被検物4に対応するレンズ厚み、屈折率を計算する。このように各測定位置での屈折率を算出することで、被検物4の屈折率分布を求めることが可能となる。すなわち、被検物4の表面の位置を含む複数箇所の位置の絶対距離を干渉から求め、その屈折による光路変化と波面収差を考慮することにより、非破壊で被検物4の屈折率分布を簡易に測定することが可能となる。また、本実施の形態のように、被検物4を集光光学系である集光レンズ3の光軸と直交する方向に移動させる被検物駆動機構8を設けたことにより、被検物4が平面状でなくても、被検物4の屈折率を良好に得ることができる。
【0061】
なお、図6に示す計測フローと、図7に示す計測フローとの何れの計測フローでも測定は可能である。ただし、図7に対して図6に示す屈折率測定方法は、各測定位置の被検物駆動機構8による誤差を逐次除去できるという利点があるが、集光光学系駆動機構7の移動ストロークが長く、測定時間が掛かるという欠点がある。したがって、機械的な誤差よりも経時的な変化が大きいと見込まれる場合は図7に示す計測フローに基づいて屈折率測定を行うことが望ましい。逆に、経時的な変化よりも機械的な誤差が大きいと見込まれる場合は図6に示す計測フローに基づいて屈折率測定を行うことが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によれば、被検物を非破壊でその屈折率分布を簡易に測定することができる。これにより、たとえば、ガラス製やプラスチック製のディスプレイパネル等に使用される前面板や光ピックアップやデジタルコピー機、デジタルカメラ等に使用される成型レンズの屈折率分布測定器に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0063】
1 光源
2 ビームスプリッタ
3 集光レンズ
4 被検物
5 ホルダ基準面
6 基準反射面
7 集光光学系駆動機構
8 被検物駆動機構
9、11 空間フィルタ
10 NDフィルタ
12 参照反射面
13 結像レンズ
14 カメラ
15 ビームスプリッタ
16 集光レンズ
17 光センサ
18 検査光
19 参照光
20 制御装置
21 ホルダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源からの光を検査光と参照光とに分割する光分割工程と、
前記検査光を被検物および基準反射面に集光する検査光集光工程と、
前記検査光の集光位置を前記被検物の表面および裏面と前記基準反射面の表面とに切り換える集光位置切換工程と、
前記参照光を参照反射面で反射させる参照光反射工程と、
前記被検物および前記基準反射面から反射された前記検査光と、前記参照反射面で反射された前記参照光と、を干渉させて干渉信号を得る干渉信号取得工程と、
前記被検物が存在しない状態での前記基準反射面と、前記被検物の表面と、前記被検物の裏面と、前記被検物が存在する状態での前記基準反射面と、のそれぞれの光学距離を、前記干渉信号に基づいて計測する距離計測工程と、
前記距離計測工程で計測した光学距離に基づいて前記被検物の屈折率を算出する屈折率算出工程と、を有すること
を特徴とする屈折率測定方法。
【請求項2】
前記距離計測工程で前記被検物の手前で集光し前記基準反射面において平行光となる場合の基準反射面との光学距離を計測し、この光学距離を追加して前記被検物の屈折率を算出すること
を特徴とする請求項1に記載の屈折率測定方法。
【請求項3】
前記集光位置切替工程は、前記検査光を前記被検物の表面および裏面と前記基準反射面の表面のとに集光させる集光光学系を、前記検査光の光軸に沿って移動させて行うこと
を特徴とする請求項1または2に記載の屈折率測定方法。
【請求項4】
前記集光位置切換工程において、前記集光光学系を前記検査光の光軸に沿って移動させることに加えて、前記被検物を前記検査光の光軸とは異なる方向に移動させて集光位置を切り換えること
を特徴とする請求項3に記載の屈折率測定方法。
【請求項5】
前記屈折率算出工程において、前記距離計測工程において得た距離から収差による誤差影響を除去した後に、再度算出した距離を用いて屈折率を算出すること
を特徴とする請求項4に記載の屈折率測定方法。
【請求項6】
光源と、
前記光源からの光を検査光と参照光とに分割する光分割手段と、
前記検査光を被検物および基準反射面とに集光させる集光光学系と、
前記集光光学系を前記検査光の光軸に沿って移動させる集光光学系駆動手段と、
前記被検物を前記検査光の光軸とは異なる方向に移動させる被検物駆動手段と、
前記参照光を反射する参照反射面と、
前記被検物および前記基準反射面から反射された前記検査光と前記参照反射面で反射された前記参照光とが干渉した干渉信号を得る受光素子と、
前記受光素子で得られた干渉信号に基づいて、前記被検物が存在しない状態での基準反射面と、被検物の表面と、被検物の裏面と、のそれぞれの光学距離を測定し、これらの光学距離に基づいて前記被検物の屈折率を算出する算出手段と、を備えたこと
を特徴とする屈折率測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−220903(P2011−220903A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−91851(P2010−91851)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】