説明

性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド又はそれを含有する抽出物、エイコサペンタエン酸を結合してなるトリペプチド、それからなる食品製剤、化粧品製剤、子宮内膜症治療剤

【課題】 副作用が弱く、性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド、エイコサペンタエン酸を結合してなるトリペプチドを提供する。さらに、性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドを含有して副作用が弱く、優れた食品製剤、化粧品製剤及び子宮内膜症治療剤を提供する。
【解決手段】 トリペプチド又はそれを含有する抽出物、エイコサペンタエン酸を結合してなるトリペプチドは、性ホルモン修飾作用を有する。トリペプチドは、合成のもの、天然物由来のいずれでも、用いられる。エイコサペンタエン酸は、魚類又は藻類より採取されるいずれのものも、用いられる。さらに、マダラ科、タラ科、ニシン科の魚由来卵膜をプロテアーゼ処理して得られるトリペプチド又はその抽出物である。プロテアーゼとしては、食品加工用のものが用いられる。さらに、食品製剤、化粧品製剤及び子宮内膜症治療剤は、性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドを有効成分とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド、それを含有する抽出物、エイコサペンタエン酸を結合してなる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド、それからなる食品製剤、化粧品製剤及び子宮内膜症治療剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、子宮内膜症は成人女性の間で増加しており、不妊、激しい腹痛、不正性器出血を伴う。子宮内膜症に対して婦人科領域では、その解決に向けて様々な治療方法が考案されているものの、未だ決め手となる治療法の確立には至っていない。
【0003】
化学合成された性ホルモン抑制作用を呈する物質を用いた薬剤療法では、プロゲステロン誘導体や性腺刺激ホルモン誘導体が使用されているものの、血液凝固系に対する副作用が多いため、長期間の使用は控えられている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
近年、性ホルモンの作用を活性化及び抑制を行い、性ホルモンのバランスを正常化する働きが見出され、ホルモン修飾作用と言われている。この性ホルモン修飾作用を呈する物質は、子宮内膜症を改善する期待がもたれている。さらに、この性ホルモン修飾作用を呈する物質は、低エストロジェン状態による更年期障害、骨粗鬆症、痴呆症や肌荒れなどを改善する働きにも注目されている。
【0005】
天然成分のうち、植物由来の性ホルモン修飾作用を示す物質としてイソフラボン類がすでに同定されている。しかし、イソフラボンの性ホルモン修飾作用は軽度である場合が多く、明らかな効果が期待できない場合がある。その反面、安全性が高いことから、長期間の使用が可能で、予防的に利用されるケースが認められる。
【0006】
動物由来の性ホルモン修飾作用を示す物質として、プセランタエキスが知られているものの、牛、馬などを由来とする場合は、BSEなどの疾患を起こすウイルスの問題がある。また、ヒト由来の胎盤を利用する場合には、感染症の問題の他に、倫理的な課題もある(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平09−132524
【特許文献2】特開2004−323401
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記したように人工的に合成された性ホルモン修飾作用を有する化学物質は、血液凝固系に副作用が認められるという問題がある。また、イソフラボンのような植物由来性ホルモン修飾作用は、その効果が軽度であるという問題点がある。また、動物やヒト由来性ホルモン修飾作用物質は、感染症などの副作用の問題点がある。さらに、動物やヒト由来性ホルモン修飾作用物質の製造は、原料の調達が難しく、感染症対策のために製造が効率的ではないという問題点がある。
【0008】
この発明は上記のような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、副作用が弱く、優れた性ホルモン修飾作用を示すトリペプチド又はそれを含有する抽出物を提供することにある。また、マダラ科、タラ科、ニシン科のいずれかの魚由来卵膜をプロテアーゼ処理することにより得られ、優れた性ホルモン修飾作用を示すトリペプチド又はそれを含有する抽出物を提供することにある。さらに、副作用が弱く、優れた性ホルモン修飾作用を示すエイコサペンタエン酸を結合してなる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドを提供することにある。加えて、副作用が弱く、優れた性ホルモン修飾作用を示す食品製剤、化粧品製剤、子宮内膜症治療剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、Arg−X−Glyの構造を持ち、Xは、Tyr、Phe、Arg、Lysの中から選択されるいずれかのアミノ酸からなる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド又はそれを含有する抽出物に関するものである。
【0010】
請求項2に記載の発明は、マダラ科、タラ科、ニシン科のいずれかの魚より得られた卵膜にプロテアーゼを添加する請求項1に記載の性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド又はそれを含有する抽出物に関するものである。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド1重量に対し、エイコサペンタエン酸0.2〜8重量、リパーゼ0.005〜0.15重量を添加し、加温することにより得られるエイコサペンタエン酸を結合してなる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドに関するものである。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド又はそれを含有する抽出物又はエイコサペンタエン酸を結合してなる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドからなる食品製剤に関するものである。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド又はそれを含有する抽出物又はエイコサペンタエン酸を結合してなる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドからなる化粧品製剤に関するものである。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド又はそれを含有する抽出物又はエイコサペンタエン酸を結合してなる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドからなる子宮内膜治療剤に関するものである。
【発明の効果】
【0015】
この発明は、以上のように構成されているため、次のような効果を奏する。
請求項1に記載の性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド又はそれを含有する抽出物によれば、副作用が弱く、優れた性ホルモン修飾作用が発揮される。
【0016】
請求項2に記載のマダラ科、タラ科、ニシン科のいずれかの魚より得られた卵膜にプロテアーゼを添加して得られる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド又はそれを含有する抽出物によれば、副作用が弱く、優れた性ホルモン修飾作用が発揮される。
【0017】
請求項3に記載の性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド1重量に対し、エイコサペンタエン酸0.2〜8重量、リパーゼ0.005〜0.15重量を添加し、加温することにより得られるエイコサペンタエン酸を結合してなる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドによれば、副作用が弱く、優れた性ホルモン修飾作用が発揮される。
【0018】
請求項4に記載の食品製剤によれば、副作用が弱く、性ホルモン修飾作用が発揮される食品製剤を得ることができる。
【0019】
請求項5に記載の化粧品製剤によれば、副作用が弱く、性ホルモン修飾作用が発揮される化粧品製剤を得ることができる。
【0020】
請求項6に記載の子宮内膜症治療剤によれば、副作用が弱く、優れた性ホルモン修飾作用が発揮される医薬品製剤を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、この発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
まず、本実施形態の性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドは、Arg−X−Glyの構造を持ち、Xは、Tyr、Phe、Arg、Lysの中から選択されるいずれかのアミノ酸からなるものである。
【0022】
性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドを含有する抽出物は、Arg−X−Glyの構造を持ち、Xは、Tyr、Phe、Arg、Lysの中から選択されるいずれかのアミノ酸からなるトリペプチドを含有する抽出物である。
【0023】
前記のトリペプチドの構造のうち、ArgはL−アルファ−アルギニンを示し、GlyはL−アルファ−グリシンを示す。
【0024】
さらに、Tyrは、L−アルファ−チロシンであり、PheはL−アルファ−フェニルアラニン、LysはL−アルファ−リジンである。
【0025】
Arg−X−Glyの構造を有するトリペプチドは、ペプチド結合により結合され、N末端はArgであり、C末端はGlyである。
【0026】
XがTyrの場合、該当するトリペプチドは、Arg−Tyr−Glyである。このArg−Tyr−Glyは、Tyrのフェノール基が水溶性を増すために、水に対する溶解性が高まることから、好ましい。
【0027】
XがPheの場合、該当するトリペプチドは、Arg−Phe−Glyである。Arg−Phe−Glyは、Pheにベンゼン環が存在するため、他のベンゼン環と反応しやすいため、好ましい。
【0028】
XがArgの場合、該当するトリペプチドは、Arg−Arg−Glyである。Arg−Arg−Glyは、Argが2個結合しているため、塩基性が増し、酸性物質との親和性が高まることから、好ましい。
【0029】
XがLysの場合、該当するトリペプチドは、Arg−Lys−Glyである。Arg−Lys−Glyは、Lysに塩基性アミノ酸が存在するため、酸性物質との親和性が高まることから、好ましい。
【0030】
Arg−X−Glyは、XがTyr、Phe、Arg、Lysの中から選択されるいずれかのアミノ酸であっても、視床、視床下部、下垂体、子宮内膜、乳腺、副腎に働き、性ホルモン修飾作用を呈する。
【0031】
ここでいう性ホルモン修飾作用とは、性腺刺激及び性腺抑制の両者を意味する作用である。内分泌系は活性化と抑制という2相性の制御を受けていることから、一つの物質により受容体の活性化と制御が行われており、ホルモン修飾作用が発現している。
【0032】
Arg−X−Glyは、性腺刺激ホルモンであるGn−RHの働きを修飾する。Gn−RH誘導体は、子宮内膜症の治療剤としても利用されることから、Arg−X−Glyは、Gn−RH誘導体と同様に、性腺及び子宮の活性を抑制する機序により、子宮内膜症に効果が期待される。
【0033】
Arg−X−Glyは、エストロジェンの働きを修飾する。エストロジェンは卵胞より分泌され、子宮内膜の増殖や乳腺細胞や皮膚細胞の活性化、皮膚幹細胞の再生、皮下線維芽細胞のコラーゲン産生促進、破骨細胞の抑制及び骨芽細胞の活性化を行う。
【0034】
Arg−X−Glyは、エストロジェンが少ない状態には、エストロジェン様作用を発揮し、エストロジェン受容体を活性化し、子宮内膜の増殖、乳腺細胞や皮膚細胞の活性化、皮膚幹細胞の再生、皮下線維芽細胞のコラーゲン産生促進、破骨細胞の抑制及び骨芽細胞の活性化を行う。
【0035】
Arg−X−Glyは、エストロジェンが少ない状態には、エストロジェンのように働き、痴呆症や認知症のような神経系と脳循環系の低下状態に作用し、神経細胞を活性化し、加えて、脳循環の血管内皮細胞に作用して血流を増加させる。この結果、Arg−X−Glyは痴呆症や認知症を改善する。
【0036】
Arg−X−Glyは、エストロジェンが少ない状態には、エストロジェンのように働き、更年期障害を軽減する。すなわち、Arg−X−Glyは、エストロジェン欠乏により生じる骨粗鬆症、痴呆、高血圧、ほてり、肥満のような更年期障害の症状に対して改善を示す。
【0037】
Arg−X−Glyは、エストロジェンが少ない状態には、エストロジェンのように皮膚の皮膚幹細胞に働き、自己増殖を起こすとともに、分化されて皮膚細胞の代謝回転を活性化する。さらに、Arg−X−Glyは、エストロジェンが少ない状態に生じるコラーゲナーゼ活性化による真皮のコラーゲン分解を抑制する。Arg−X−Glyは、皮膚細胞の活性化とコラーゲン分解の抑制により、肌の状態を改善する。
【0038】
Arg−X−Glyは、エストロジェンが過剰な場合、子宮内膜症、子宮癌、子宮筋腫や乳癌にみられるエストロジェンによる子宮内膜、子宮筋や乳腺細胞の異常な増殖状態を抑制する。上記の増殖抑制作用は、エストロジェン受容体を修飾し、エストロジェンの働きを抑制し、また、エストロジェン受容体が核内で転写因子と結合する部位にも作用し、その働きを抑制する。Arg−X−Glyは子宮内膜症、子宮筋腫、子宮癌、乳癌の症状をする。
【0039】
Arg−X−Glyは、エストロジェンが過剰な場合にみられるニキビ、吹き出物、肌荒れを抑制する。すなわち、エストロジェンが過剰な場合には、皮脂腺が活性化され、皮脂が異常に分泌されてニキビ菌が繁殖し、ニキビとなる。また、過剰に分泌された皮脂は吹き出物や肌荒れの原因となる。Arg−X−Glyは、過剰なエストロジェンの作用を抑制することにより、皮脂の分泌を抑制し、ニキビ、吹き出物や肌荒れを改善する。
【0040】
さらに、性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドは、Arg−X−Glyの構造を持ち、Xは、Tyr、Phe、Arg、Lysの中から選択されるいずれかのアミノ酸からなるものであり、これは化学的又は生化学的に合成されたものでも良い。ペプチド合成装置を用いることが効率的であることから、好ましい。
【0041】
次に、マダラ科、タラ科、ニシン科のいずれかの魚より得られた卵膜にプロテアーゼを添加する性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド又はそれを含有する抽出物について説明する。
【0042】
得られるトリペプチドは、Arg−X−Glyの構造を持ち、Xは、Tyr、Phe、Arg、Lysの中から選択されるいずれかのアミノ酸からなる性ホルモン修飾作用を有するものである。
【0043】
原料は、マダラ科、タラ科、ニシン科のいずれかの魚より得られた卵膜である。原料の産地は、いずれの国でも、良い。新鮮であることから、日本近郊で採取されることが好ましい。
【0044】
マダラ科の魚として、マダラGodus macrocephalusは、漁獲量が豊富であり、卵としてマダラコを採取し、食用として摂取しており、マダラコの卵膜の安全性も確認されていることから、好ましい。
【0045】
タラ科の魚として、スケトウダラ、コマイ、タラが用いられる。このうち、スケトウダラTheragra chalcogrammaは、漁獲量が豊富であり、卵としてタラコを採取し、食用として摂取しており、タラコの卵膜の安全性も確認されていることから、好ましい。
【0046】
ニシン科の魚には、ニシンClupea pallasiiが用いられ、漁獲量が豊富であり、卵としてカズノコを採取し、食用として摂取しており、カズノコの卵膜の安全性も確認されていることから、好ましい。
【0047】
捕獲された魚として凍結保存又は低温保存された後に、解凍されて解体された卵膜も用いることができる。
【0048】
卵膜は、血液や付着物を除去され、清浄な水又は海水で洗浄される。洗浄が不足の場合、次のプロテアーゼによる分解工程の効率が低下するおそれがある。卵膜は、採取されてから、凍結又は低温で保存されるのが好ましい。大量に収穫される場合、凍結保存が好ましい。
【0049】
卵膜は粉砕機などで粉砕されることが製造工程の効率が良いことから、好ましく、粉砕物の大きさは、10〜10000μmが好ましい。
【0050】
プロテアーゼは、中性、酸性、塩基性プロテアーゼのいずれでも用いられ、酸性、塩基性プロテアーゼに比して中和工程の手間を省くため、中性プロテアーゼが好ましい。
【0051】
前記の中性プロテアーゼとしては、熱に対する安定性の点から、プロテアーゼA、プロテアーゼN、プロテアーゼM、スミチームFP、スミチームLP、デナチームAPが好ましく、特に、処理能力が高い点から、天野エンザイム製プロテアーゼN、スミチームLPがより好ましい。これらのプロテアーゼは、組み合わせて用いることもできる。
【0052】
前記のプロテアーゼの添加量は、卵膜1重量に対して、0.03〜0.5倍量が好ましく、0.05〜0.4倍量がより好ましく、0.08〜0.3倍量がさらに好ましい。
【0053】
前記のプロテアーゼの添加量が0.03倍量を下回る場合、プロテアーゼ処理が十分に行われない場合があり、0.5倍量を上回る場合、プロテアーゼが高価であるため、経済的に価格が高くなるおそれがある。
【0054】
前記のプロテアーゼによる処理温度は、20〜40℃である。この処理温度が20℃を下回る場合、プロテアーゼによる処理が進行しないおそれがある。また、この処理温度が40℃を上回る場合、卵膜由来のペプチドやタンパク質が変質し、ペプチドとしての働きが低下するおそれがある。
【0055】
このプロテアーゼ処理温度は、25〜38℃がより好ましく、30℃〜37℃はさらに好ましい。
【0056】
前記のプロテアーゼ処理は、処理の効率的な実施のため、攪拌状態で行われる。攪拌速度は、10〜100回/分が好ましく、30〜80回/分がより好ましく、430〜70回/分がさらに好ましい。
【0057】
前記のプロテアーゼで処理された後、ろ過される。ろ過は、ろ紙によるろ過が用いられ、時間が短縮できる点から吸引ろ過が好ましい。ろ過された液は、80〜95℃で、5〜20分間煮沸された後、冷却されることが好ましい。この煮沸の温度が80℃を下回る場合、プロテアーゼの不活性化が実施されないおそれがある。また、95℃を上回る場合、得られるトリペプチドの活性が低下するおそれがある。
【0058】
前記の煮沸時間が5分間を下回る場合、プロテアーゼの不活性化が実施されないおそれがある。また、20分間を上回る場合、得られるトリペプチドの活性が低下するおそれがある。
【0059】
前記の加熱された液は、1〜10℃に保存される。この工程は、プロテアーゼを不活性化し、消毒し、かつ、不安定な生成物を除外する目的がある。つまり、分解されない物質や不安定な物質が低温に放置された場合、析出する場合がある。これらの不溶物を除外する。
【0060】
前記の温度での放置時間は、1〜12時間が好ましく、2〜10時間がより好ましく、3〜8時間がさらに好ましい。この放置時間が1時間を下回る場合、析出が十分でない場合がある。この放置時間が12時間を上回る場合、工程時間がながくなり、経済的に不利益である。
【0061】
前記のように、放置された後、ろ過される。ろ過は、ろ紙によるろ過が用いられ、時間が短縮できる点から吸引ろ過が好ましい。
【0062】
前記のろ過により得られたろ過液は、液体のまま、濃縮液、凍結乾燥された状態でトリペプチドを得る。得られたトリペプチドは、種々のペプチドの混合物である。その容量を少なし、安定性を持続する点から、凍結乾燥が好ましい。さらに、凍結又は低温で保管されることは、安定性を維持する点から好ましい。このようにしてトリペプチドを含有する抽出物が得られる。
【0063】
さらに、トリペプチドを含有する抽出物より分離し、精製することにより、高い純度のトリペプチドを得る。上記のトリペプチドを含有する抽出物を抽出用溶媒に混合し、抽出用溶媒に抽出された抽出物を分離用担体又は樹脂に供し、分離用溶媒により溶出させる。
【0064】
次に、前記の性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド1重量に対し、エイコサペンタエン酸0.2〜8重量、リパーゼ0.005〜0.15重量を添加し、加温することにより得られるエイコサペンタエン酸を結合してなる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドについて説明する。
【0065】
原料となるトリペプチドは、Arg−X−Glyの構造を持ち、Xは、Tyr、Phe、Arg、Lysの中から選択されるいずれかのアミノ酸からなる性ホルモン修飾作用を有するものである。トリペプチドは、粉末状態、液体状態のいずれでも用いられる。高い純度のトリペプチドでも、トリペプチドを含有した抽出物のいずれでも良い。また、化学的又は生化学的に合成されたものでも良い。
【0066】
原料となるエイコサペンタエン酸は、魚類又は藻類などの天然物又は合成されたもののいずれでも良い。副作用の少ない不純物を含むことから、天然物由来のエイコサペンタエン酸が好ましい。エイコサペンタエン酸は、細胞膜や細胞内小器官の膜を活性化し、また、ペプチド受容体やアミノ酸受容体の働きを助ける。
【0067】
原料となるリパーゼは、植物、動物、微生物、魚類由来のいずれでも、用いられる。リパーゼは、中性、酸性、アルカリ性いずれのpH領域で活性を示すもののうち、いずれでも良い。さらに、これらを混合しても良い。天野エンザイム社製リパーゼAY「アマノ」30G、ニューラーゼF3G、リパーゼF−AP−15、リパーゼG「アマノ」50が好ましい。
【0068】
添加の比率は、前記の性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド1重量に対し、エイコサペンタエン酸0.2〜8重量、リパーゼ0.005〜0.15重量である。また、前記の性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド1重量に対し、エイコサペンタエン酸0.4〜5重量が好ましく、エイコサペンタエン酸0.6〜4重量がより好ましく、エイコサペンタエン酸0.8〜3重量がさらに好ましい。
【0069】
さらに、前記の性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド1重量に対し、リパーゼ0.008〜0.13重量が好ましく、リパーゼ0.01〜0.1重量がより好ましく、リパーゼ0.02〜0.08重量がさらに好ましい。
【0070】
エイコサペンタエン酸がトリペプチド1重量に対し、0.2重量を下回る場合、十分なエステルが生成しないおそれがある。一方、エイコサペンタエン酸がトリペプチド1重量に対し、8重量を上回る場合、脂溶性が高くなり、水溶性ではなくなり、エイコサペンタエン酸を結合してなる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド生成が生じないおそれがある。
【0071】
性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド1重量に対し、リパーゼの重量が0.005を下回る場合、リパーゼが十分に働かず、エイコサペンタエン酸を結合してなる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド生成がおこなわれないおそれがある。
【0072】
性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド1重量に対し、リパーゼの重量が0.15を上回る場合、リパーゼが高価であることから、経済的にエイコサペンタエン酸を結合してなる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドが高いものになるおそれがある。
【0073】
さらに、これらの混合物は、加温される。この加温により、リパーゼが作用し、トリペプチドのArgとエイコサペンタエン酸が結合する。加温条件として、加温温度は20〜50℃が好ましく、30〜450℃がより好ましく、35〜43℃がさらに好ましい。加温温度が20℃を下回る場合、十分な結合物が得られないおそれがある。一方、加温温度が50℃を上回る場合、結合物が熱により分解されるおそれがある。
【0074】
加温時間は1〜24時間が好ましく、2〜18時間がより好ましく、3〜12時間がさらに好ましい。加温時間が1時間を下回る場合、十分な結合物が得られないおそれがある。一方、加温時間が24時間を上回る場合、生成された結合物が分解されるおそれがある。
【0075】
さらに、前記の加温は光による分解を防ぐ目的で、密閉され、遮光された容器内で実施されることが好ましい。また、反応を促進するために、攪拌されながら、行うことが好ましい。
【0076】
次に、性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド又はそれを含有する抽出物又はエイコサペンタエン酸を結合してなる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドからなる食品製剤について説明する。この食品製剤は、前記の性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド又はそれを含有する抽出物を有効成分としている。
【0077】
性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド又はそれを含有する抽出物又はエイコサペンタエン酸を結合してなる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドからなる食品製剤は、更年期障害を発症している女性に対して性ホルモン様の作用を呈し、更年期症状を軽減することから好ましい。また、前記の食品製剤は加齢に伴う骨粗鬆症に対して性ホルモン様作用を呈することから好ましい。さらに、前記の食品製剤は乳房の成長が未熟な女性に乳房の発育を促進することから好ましい。
【0078】
前記の食品製剤中の性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド又はそれを含有する抽出物又はエイコサペンタエン酸を結合してなる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドの割合は0.1〜30重量%であり、0.3〜20重量%が好ましく、0.5〜15重量%がより好ましい。この食品製剤に用いられる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドは、トリペプチドを含有する抽出物でも、精製されたトリペプチド又はエイコサペンタエン酸を結合してなる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドのいずれもよい。
【0079】
前記の性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド又はそれを含有する抽出物又はエイコサペンタエン酸を結合してなる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドの割合が0.1重量%を下回る場合、十分な性ホルモン修飾作用が発現されない可能性がある。また、この割合が30重量%を上回る場合、食品製剤として形態を維持できない可能性がある。
【0080】
前記の場合、種々の食品素材又は飲料品素材に添加することによって、例えば、粉末状、錠剤状、液状(ドリンク剤等)、カプセル状等の形状の食品製剤とすることができる。また、基材、賦形剤、添加剤、副素材、増量剤等を適宜添加してもよい。
【0081】
前記の食品製剤は、1日数回に分けて経口摂取される。1日の摂取量は0.1〜10gが好ましく、0.3〜5gがより好ましく、0.5〜3gがさらに好ましい。1日の摂取量が、0.1gを下回る場合、十分な効果が発揮されないおそれがある。1日の摂取量が、10gを越える場合、コストが高くなるおそれがある。上記の他に、飴、せんべい、クッキー、飲料等の形態で使用することができる。
【0082】
次に、性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド又はそれを含有する抽出物又はエイコサペンタエン酸を結合してなる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドからなる化粧品製剤について説明する。
【0083】
前記の性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド、それを含有する抽出物、エイコサペンタエン酸を結合してなる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドは、性ホルモン様作用を呈することから、性ホルモンが過剰に分泌した結果、生じるニキビの治療または発症予防に適している。さらに、性ホルモンが欠乏することにより生じるシワに対しては前記の化粧品製剤は性ホルモン様作用を呈し、エストロジェンのように皮膚細胞を活性化することにより、シワを予防し、改善する。
【0084】
この化粧品製剤中の性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド又はそれを含有する抽出物又はエイコサペンタエン酸を結合してなる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドの含有量は、0.1〜30重量%が好ましく、0.3〜15重量%がより好ましく、0.5〜10重量%がさらに好ましい。この含有量が0.1重量%を下回る場合、ニキビやしわに対する防止効果が発揮されないおそれがある。また、この含有量が30重量%を上回る場合、コストが高くなるおそれがある。
【0085】
この化粧品製剤に用いられる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド又はそれを含有する抽出物又はエイコサペンタエン酸を結合してなる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドは、トリペプチドを含有する抽出物でも、精製されたトリペプチドのいずれもよい。
【0086】
この場合、常法に従って油分、界面活性化剤、ビタミン剤、紫外線吸収剤、増粘剤、保湿剤、副素材等とともに用いることができる。化粧水、クリーム、軟膏、ローション、乳液、パック、オイル、石鹸、洗顔料、香料、オーディコロン、浴用剤、シャンプー、リンス等の形態とすることができる。化粧品製剤の形態は任意であり、溶液状、クリーム状、ペースト状、ゲル状、ジェル状、固形状又は粉末状として用いることができる。
【0087】
化粧品製剤として皮膚に1日数回に分けて塗布される。1日の塗布量は0.01〜10gが好ましく、0.05〜3gがより好ましく、0.1〜1gがさらに好ましい。1日の塗布量が、0.01gを下回る場合、ニキビやしわの治療または防止効果が発揮されないおそれがある。1日の塗布量が、10gを越える場合、コストが高くなるおそれがある。
【0088】
次に、性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド又はそれを含有する抽出物又はエイコサペンタエン酸を結合してなる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドからなる子宮内膜症治療剤について説明する。この医薬品製剤は、子宮内膜症に対して優れた抑制又は防御作用を発揮する。
【0089】
医薬品として経口剤又は非経口剤として利用され、医薬部外品としては、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤、石鹸、歯磨き粉等に配合されて利用される。
【0090】
経口剤としては、錠剤、カプセル剤、散剤、シロップ剤、ドリンク剤等が挙げられる。前記の錠剤及びカプセル剤に混和される場合には、結合剤、賦形剤、膨化剤、滑沢剤、甘味剤、香味剤等とともに用いることができる。前記の錠剤は、シェラック又は砂糖で被覆することもできる。また、前記のカプセル剤の場合には、上記の材料にさらに油脂等の液体担体を含有させることができる。前記のシロップ剤及びドリンク剤の場合には、甘味剤、防腐剤、色素香味剤等を含有させることができる。
【0091】
非経口剤としては、膣剤、軟膏剤、クリーム剤、水剤等の外用剤の他に、注射剤が挙げられる。このうち、子宮に直接作用し、効果が期待できることから、膣剤は好ましい。
前記の子宮内膜症治療剤の膣剤又は外用剤の基材としては、ワセリン、パラフィン、油脂類、ラノリン、マクロゴールド等が用いられ、通常の方法によって軟膏剤やクリーム剤等とすることができる。注射剤には、液剤があり、その他、凍結乾燥剤がある。これは使用時、注射用蒸留水や生理食塩液等に無菌的に溶解して用いられる。
【0092】
これらの子宮内膜症治療剤中における前記の性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド又はそれを含有する抽出物又はエイコサペンタエン酸を結合してなる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドの含有量としては、0.1〜20重量%が好ましく、1〜15重量%がより好ましく、5〜10重量%がさらに好ましい。前記の性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド又はそれを含有する抽出物の含有量が0.1重量%未満の場合には、含有量が少なすぎることから作用を十分に発揮することができない。また、20重量%を越える場合には、製剤の安定性に寄与している成分の含有量が相対的に低下する。
【0093】
この医薬品製剤に用いられる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド又はそれを含有する抽出物又はエイコサペンタエン酸を結合してなる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドは、トリペプチドを含有する抽出物でも、精製されたトリペプチドのいずれもよい。
【0094】
上記実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
・ 本実施形態の性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド又はそれを含有する抽出物又はエイコサペンタエン酸を結合してなる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドによれば、副作用が弱く、優れた性ホルモン修飾作用を発揮することができる。
【0095】
・ マダラ科、タラ科、ニシン科のいずれかの魚より得られた卵膜にプロテアーゼを添加して得られる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド又はそれを含有する抽出物によれば、副作用が弱く、優れた性ホルモン修飾作用を発揮することができる。
【0096】
・ 本実施形態の性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド又はそれを含有する抽出物又はエイコサペンタエン酸を結合してなる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドを有効成分とする食品製剤によれば、副作用が弱く、優れた性ホルモン修飾作用を発揮することができる。
【0097】
・ 本実施形態の性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド又はそれを含有する抽出物又はエイコサペンタエン酸を結合してなる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドを有効成分とする化粧品製剤によれば、副作用が弱く、優れた性ホルモン修飾作用を発揮することができる。
【0098】
・ 本実施形態の性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド又はそれを含有する抽出物又はエイコサペンタエン酸を結合してなる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドを有効成分とする子宮内膜症治療剤によれば、副作用が弱く、優れた子宮内膜症治療作用を発揮することができる。
【0099】
以下、前記実施形態を実施例及び試験例を用いて具体的に説明する。
【実施例1】
【0100】
日本海で収穫されたマダラGodus macrocephalusを収穫後、解体し、卵膜がついたまま、マダラコを採取した。このマダラコより卵膜を摘出し、この卵膜を水道水にて洗浄した。この水洗された卵膜をミキサー(高速粉砕機、日本リーイング製)にて粉砕した。この粉砕物1kgに水道水5kgを添加し、さらに、プロテアーゼN(天野エンザイム製)60gを添加した。この混合物を33℃で6時間、加温した。得られた溶液をろ紙(東洋濾紙社製、No2)でろ過し、ろ液を得た。このろ過液を90℃で、5分間煮沸し冷却した。この冷却された液を再度、前記のろ紙で濾過し、ろ液を凍結乾燥機(東洋理工製)にて凍結乾燥し、粉末60gを得た。得られた粉末を性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドを含有する抽出物とした。
【0101】
前記の抽出物より、性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドを分離し、精製した。すなわち、前記の抽出物をDEAEセルロース(WakoGel、和光純薬)をガラスカラム(3.5cm径、50cm長)に充填した装置に供し、水で洗浄後、1M塩化ナトリウム水溶液を流して分離した。この画分をセファロース(WakoGel、和光純薬)に供し、水を流して目的とするトリペプチドを得た。
【0102】
得られたトリペプチド画分を水に溶解し、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)に供して目的とするトリペプチドを分画した。なお、性ホルモン修飾作用を有する分画の検出には、以下に記載したヒト由来乳腺細胞(クラボウ)の増殖性を指標とした。
【実施例2】
【0103】
実施例1で得られたトリペプチドのうち、Arg−Tyr−Gly、エイコサペンタエン酸及びリパーゼを用いてエイコサペンタエン酸を結合してなる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドを調製した。
【0104】
すなわち、Arg−Tyr−Glyの1gを水100gに溶解し、エイコサペンタエン酸2gを攪拌装置付き反応槽(東洋理工製)に添加した。これに、天野エンザイム社製リパーゼAY「アマノ」30Gの0.05gを添加し、密閉し、遮光下で、35℃で、6時間、加温した。反応物をイオン交換カラムクロマト(トヨパール製)で生成し、エイコサペンタエン酸を結合してなる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド抽出物 0.5gを採取した。
【0105】
以下に、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)及び核磁気共鳴装置(NMR)による性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドの分析について説明する。
(試験例1)
【0106】
本試験では、性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドに含有されるトリペプチドを解析した。すなわち、前記の実施例1で得られた性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドを含有する抽出物及びトリペプチドをフォトダイオードアレイ(島津製作所製)を装着したHPLCに供し、まず、GPCによる解析を行った。
【0107】
その結果、分子量200〜500の分画に、性ホルモン修飾作用のあるペプチドが存在することが判明した。
【0108】
また、実施例1で得られた性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドを含有する抽出物及びトリペプチドをCAPCELLPACKC18カラムによるHPLCを実施した。さらに、NMR(バリアン製)による解析の結果、Arg−Tyr−Gly、Arg−Phe−Gly、Arg−Arg−Gly及びArg−Lys−Glyの4ペプチドを性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドとして同定した。
【0109】
実施例1で得られた性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドを含有する抽出物中に、Arg−Tyr−Gly、Arg−Phe−Gly、Arg−Arg−Gly及びArg−Lys−Glyは、それぞれ0.3、0.4、0.6及び0.3%含有されていた。
以下に、ヒト由来乳腺細胞を用いた性ホルモン修飾作用の検出について説明する。
(試験例2)
【0110】
本試験は、ヒト由来乳腺細胞がエストロジェンに依存して増殖するという性質を利用したものである。すなわち、1000個のヒト由来乳腺細胞を35mm径のシャーレに播種し、37℃、5%炭酸ガス下で、専用の培養液を用いて培養した。2日間培養後、エストロジェンを含有しない条件下で、前記の実施例1で得られた性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドを含有する抽出物、前記の実施例2で得られたエイコサペンタエン酸を結合してなる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドを含有する抽出物、Arg−Tyr−Gly、Arg−Phe−Gly、Arg−Arg−Gly及びArg−Lys−Glyの水溶液を添加し、添加後、48時間後の細胞数を計数した。
【0111】
その結果、前記の実施例1で得られた性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドを含有する抽出物、前記の実施例2で得られたエイコサペンタエン酸を結合してなる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドを含有する抽出物、Arg−Tyr−Gly、Arg−Phe−Gly、Arg−Arg−Gly及びArg−Lys−Glyの増殖率は、溶媒を添加した対照群に比してそれぞれ180%、278%、356%、414%、489%及び402%となり、いずれも、エストロジェンのような増殖性を示した。
【0112】
一方、予め過剰量である10μg/mlのエストロジェンを添加した培養液で、1000個のヒト由来乳腺細胞を35mm径のシャーレに播種し、37℃、5%炭酸ガス下で、培養した。1日間培養後、前記の実施例1で得られた性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドを含有する抽出物、前記の実施例2で得られたエイコサペンタエン酸を結合してなる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドを含有する抽出物、Arg−Tyr−Gly、Arg−Phe−Gly、Arg−Arg−Gly及びArg−Lys−Glyの水溶液を添加し、添加後、48時間後の細胞数を計数した。
【0113】
その結果、エストロジェン添加の増殖を対照とした場合の増殖率は、それぞれ、89%、77%、56%、67%、85%及び55%となり、いずれも抗エストロジェン作用を呈した。
【0114】
これらの結果から、前記の実施例1で得られた性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドを含有する抽出物、前記の実施例2で得られたエイコサペンタエン酸を結合してなる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドを含有する抽出物、Arg−Tyr−Gly、Arg−Phe−Gly、Arg−Arg−Gly及びArg−Lys−Glyは、性ホルモンの一つであるエストロジェン作用を修飾する性ホルモン修飾作用を有することを確認した。
【0115】
以下に、性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドからなる食品製剤について説明する。
【実施例3】
【0116】
実施例1で得られた性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドを含有する抽出物及びArg−Tyr−Glyのそれぞれ0.1g、異性化糖3g、食用セルロース6.8g、アスコルビン酸0.01g及び食用香料0.09gの比率で混合した。これを常法により粉末化し、カプセルに充填して1gの食品製剤2製品を得た。
(試験例3)
【0117】
実施例3で得られた食品製剤2製品を使用して、20〜45才の健常女性6例を対象に、乳房発育試験を行った。すなわち、生理が終了した直後から、実施例2で得られた食品製剤2種類を摂取し、摂取前と後で、乳房の大きさについて調べた。
【0118】
すなわち、まず、事前に乳房の大きさを計測した。さらに、食品製剤2粒を一日1回、14日間摂取した。最終摂取後、同様に、乳房の大きさを計測した。
【0119】
その結果、実施例1で得られた性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドを含有する抽出物及びArg−Tyr−Glyのそれぞれからなる食品製剤摂取後の乳房の容積は、摂取前に比して相対比で、それぞれ120%及び124%となった。
【0120】
この結果、実施例1で得られた性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドを含有する抽出物及びArg−Tyr−Glyのそれぞれからなる食品製剤には、エストロジェンの低下した時期に、乳房の容積を増加させる性ホルモン様作用が確認された。なお、前記の食品製剤摂取により、体調に異常は認められなかった。
【0121】
以下に、性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドからなる化粧品製剤について説明する。
【実施例4】
【0122】
モノステアリン酸ポリエチレングリコール1g、親油型モノステアリン酸グリセリン1g、馬油エステル2g及びオレイン酸3gを加熱し、溶解した。得られた溶液に、実施例1で得られた性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドを含有する抽出物及びArg−Tyr−Glyのそれぞれ0.1g、プロピレングリコール2g、α−トコフェロール0.1g及び精製水70gを添加した。これらを溶解した後、冷却して乳液を得た。
(試験例4)
【0123】
実施例4で得られた乳液を使用して、健常人を対象に、ニキビに対する改善試験を行なった。すなわち、年齢12〜17才の女性6例を対象に、前記の乳液を1日当たり1gずつ、7日間、顔面部に塗布させた。
【0124】
その結果、実施例1で得られた性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドを含有する抽出物及びArg−Tyr−Glyからなる乳液を使用した3例ずつともに、塗布前に比してニキビが減少した。また、使用感においても特に苦情は聞かれなかった。
【0125】
以下に、性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドからなる子宮内膜症治療剤について説明する。
【実施例5】
【0126】
実施例1で得られたArg−Tyr−Gly及びArg−Phe−Glyのそれぞれ0.8g、乳糖5.0g及びステアリン酸マグネシウム4.2gを混合した。これを常法によりハードカプセルに充填し、1粒500mgのハードカプセル剤を得た。
(試験例5)
【0127】
実施例5で得られた子宮内膜症治療剤を用いて子宮内膜症改善試験を行なった。すなわち、子宮内膜症を発症した30〜40才の女性6例に、実施例4で得られたハードカプセルを毎日、3食後に1錠ずつ、4週間、経口投与した。投薬前及び投薬4週後に、子宮内膜を採取し、その病態を組織学的に検索した。
【0128】
その結果、Arg−Tyr−Gly及びArg−Phe−Glyのそれぞれの製剤を摂取した3例ずつともに、子宮内膜は、明らかに増殖が抑制されていた。また、不正出血の頻度は、Arg−Tyr−Gly及びArg−Phe−Glyそれぞれの製剤の摂取により、平均35%及び27%まで、抑制された。
【0129】
なお、自覚症状、臨床症状、尿検査値、血液検査値、血液生化学検査値、体温、呼吸、心拍及び血圧のいずれにも、製剤摂取による異常は認められなかった。さらに、血液凝固系の亢進及び性器出血等の副作用も認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明は、性ホルモン修飾作用を示すトリペプチド又はそれを含有する抽出物、また、マダラ科、タラ科、ニシン科のいずれかの魚由来卵膜をプロテアーゼ処理することにより得られ、優れた性ホルモン修飾作用を示すトリペプチド又はそれを含有する抽出物、それらからなる食品製剤、化粧品又は子宮内膜症治療剤が子宮内膜症や性ホルモン関連の異常に対し改善又は予防に寄与できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Arg−X−Glyの構造を持ち、Xは、Tyr、Phe、Arg、Lysの中から選択されるいずれかのアミノ酸からなる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド又はそれを含有する抽出物。
【請求項2】
マダラ科、タラ科、ニシン科のいずれかの魚より得られた卵膜にプロテアーゼを添加して得られる請求項1に記載の性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド又はそれを含有する抽出物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド1重量に対し、エイコサペンタエン酸0.2〜8重量、リパーゼ0.005〜0.15重量を添加し、加温することにより得られるエイコサペンタエン酸を結合してなる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド。
【請求項4】
請求項1、請求項2又は請求項3に記載の性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド又はそれを含有する抽出物又はエイコサペンタエン酸を結合してなる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドからなる食品製剤。
【請求項5】
請求項1、請求項2又は請求項3に記載の性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド又はそれを含有する抽出物又はエイコサペンタエン酸を結合してなる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドからなる化粧品製剤。
【請求項6】
請求項1、請求項2又は請求項3に記載の性ホルモン修飾作用を有するトリペプチド又はそれを含有する抽出物又はエイコサペンタエン酸を結合してなる性ホルモン修飾作用を有するトリペプチドからなる子宮内膜症治療剤。

【公開番号】特開2006−225270(P2006−225270A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−37322(P2005−37322)
【出願日】平成17年2月15日(2005.2.15)
【出願人】(504447198)
【Fターム(参考)】