惰行制御装置
【課題】惰行制御中のアクセル開度の変化幅が大きい運転者に対してもアクセル開度の変化幅が小さい運転者と同等に惰行制御が実施できる惰行制御装置を提供する。
【解決手段】アクセル開度の変化幅を学習し、惰行制御可能領域CAの領域幅よりアクセル開度の変化幅が大きいときには惰行制御可能領域CAを拡大させ、惰行制御可能領域CAの領域幅よりアクセル開度の変化幅が小さいときには惰行制御可能領域CAを縮小させる惰行制御可能領域調節部4を備える。
【解決手段】アクセル開度の変化幅を学習し、惰行制御可能領域CAの領域幅よりアクセル開度の変化幅が大きいときには惰行制御可能領域CAを拡大させ、惰行制御可能領域CAの領域幅よりアクセル開度の変化幅が小さいときには惰行制御可能領域CAを縮小させる惰行制御可能領域調節部4を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行中にクラッチを断にしエンジンをアイドル状態に戻して燃料消費を抑える惰行制御装置に係り、惰行制御中のアクセル開度の変化幅が大きい運転者に対してもアクセル開度の変化幅が小さい運転者と同等に惰行制御が実施できる惰行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両において、クラッチが断のとき、アクセルペダルが踏み込まれると、アクセルが開かれてエンジンがいわゆる空ぶかしとなり、エンジン回転数は、アクセル開度に対応したエンジン回転数に落ち着く。このとき、エンジンが発生させた駆動力とエンジン内部抵抗(フリクション)とが均衡し、エンジン出力トルクは0である。すなわち、エンジンは、外部に対して全く仕事をせず、燃料が無駄に消費される。例えば、エンジン回転数が2000rpmで空ぶかしをしたとすると、運転者には大きなエンジン音が聞こえるので、相当な量の燃料が無駄に消費されていることが実感できる。
【0003】
エンジンが外部に対して仕事をしない状態は、前述したクラッチ断のときの空ぶかしに限らず、車両の走行中にも発生している。すなわち、エンジンは、空ぶかしのときと同じようにアクセル開度に対応したエンジン回転数で回転するだけで、車両の加速・減速に寄与しない。このとき、エンジンを回転させるためだけに燃料が消費されており、非常に無駄である。
【0004】
本出願人は、エンジンが回転はしているが外部に対して仕事をしないときに、クラッチを断にし、エンジンをアイドル状態に戻して燃料消費を抑える惰行制御(燃費走行制御とも言う)を行う惰行制御装置を提案した(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−342832号公報
【特許文献2】特開平8−67175号公報
【特許文献3】特開2001−304305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の提案に加え、本出願人は、クラッチ回転数とアクセル開度とを指標とする惰行制御判定マップを用い、クラッチ回転数とアクセル開度のプロット点が惰行制御可能領域内にあって、アクセルペダル操作速度が所定範囲内にて、かつクラッチ回転数とアクセル開度のプロット点が惰行制御しきい線をアクセル開度減少方向に通過したとき、クラッチを断すると共にエンジン回転数を低下させて惰行制御を開始し、アクセルペダル操作速度が所定範囲外となったか又はプロット点が惰行制御可能領域外に出たとき惰行制御を終了する惰行制御装置を提案中である。
【0007】
ここで、惰行制御可能領域は、エンジン出力トルクが負となる領域とエンジン出力トルクが正となる領域との境界となるエンジン出力トルクゼロ線を含むように有限幅に形成された領域である。惰行制御しきい線は、エンジン出力トルクゼロ線の近傍に、エンジン出力トルクゼロ線にほぼ沿うように設定され、惰行制御可能領域内に含まれる。したがって、クラッチ回転数とアクセル開度のプロット点は、まず惰行制御可能領域内に入り、惰行制御しきい線を通過する。
【0008】
一般に、運転者には、同じ加減速意図に対するアクセル開度の変化幅が大きい運転者もいれば、小さい運転者もいる。ここで、アクセル開度の変化幅とは、アクセルペダルの踏み込み操作又は踏み離し操作においてアクセル開度が増減する量を表す。このように、アクセル操作におけるアクセル開度の変化幅は、運転者によってさまざまである。
【0009】
ところで、惰行制御は、意図的なアクセル操作をしない状態のとき実行されるが、意図的なアクセル操作はしないといってもアクセルペダルに足が載っているため、アクセル開度が変化する。このような惰行制御中のアクセル開度の変化についても、アクセル開度の変化幅が大きい運転者と小さい運転者がいる。
【0010】
アクセル開度が変化すると、惰行制御判定マップにおいては、クラッチ回転数とアクセル開度のプロット点がアクセル開度方向に移動する。アクセル開度の変化幅が小さいときのプロット点の移動幅と、アクセル開度の変化幅が大きいときのプロット点のアクセル開度方向の移動幅とを比べると、アクセル開度の変化幅が小さいときのプロット点のアクセル開度方向の移動幅は小さく、アクセル開度の変化幅が大きいときのプロット点のアクセル開度方向の移動幅は大きい。
【0011】
いま、プロット点が惰行制御可能領域内にあって、かつ、惰行制御が行われているとしたとき、アクセル開度の変化幅が小さいときのプロット点は惰行制御可能領域から外に出にくいが、アクセル開度の変化幅が大きいときのプロット点は惰行制御可能領域から外に出やすい。このため、惰行制御中におけるアクセル開度の変化幅が大きい運転者が運転を行っていると、惰行制御可能領域内から惰行制御可能領域外に出やすく、惰行制御を行っている時間が少なくなり、燃料消費を抑える効果が不十分となる。また、このような運転者では、惰行制御可能領域外から惰行制御可能領域内に入ることも頻繁になるので、惰行制御の開始と終了を繰り返すハンチングが起きやすくなり、運転者に不快感を与えるおそれがある。
【0012】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、惰行制御中のアクセル開度の変化幅が大きい運転者に対してもアクセル開度の変化幅が小さい運転者と同等に惰行制御が実施できる惰行制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明は、クラッチ回転数とアクセル開度で参照される惰行制御判定マップと、前記惰行制御判定マップへのクラッチ回転数とアクセル開度のプロット点が、エンジン出力トルクが負となる領域とエンジン出力トルクが正となる領域との境界となるエンジン出力トルクゼロ線を含むように形成された惰行制御可能領域内にあって、アクセルペダル操作速度が所定範囲内にて、かつクラッチ回転数とアクセル開度のプロット点がエンジン出力トルクゼロ線の近傍に設定された惰行制御しきい線をアクセル開度減少方向に通過したとき、クラッチを断すると共にエンジン回転数を低下させて惰行制御を開始し、アクセルペダル操作速度が所定範囲外となったか又はプロット点が惰行制御可能領域外に出たとき惰行制御を終了する惰行制御実行部と、アクセル開度の変化幅を学習し、惰行制御可能領域の領域幅よりアクセル開度の変化幅が大きいときには惰行制御可能領域を拡大させ、惰行制御可能領域の領域幅よりアクセル開度の変化幅が小さいときには惰行制御可能領域を縮小させる惰行制御可能領域調節部とを備えたものである。
【0014】
前記惰行制御可能領域調節部は、惰行制御中に学習を開始し、アクセル開度の変化方向が反転されたときのクラッチ回転数とアクセル開度のプロット点を反転時プロット点として抽出する反転時プロット点抽出部と、前記惰行制御判定マップ上で、エンジン出力トルクゼロ線から反転時プロット点までのアクセル開度差を片側変化幅として算出する片側変化幅算出部と、前記惰行制御判定マップ上で、エンジン出力トルクゼロ線から惰行制御可能領域境界までのアクセル開度差である片側領域幅と前記片側変化幅との差分の定数倍を片側増減量として算出する片側増減量算出部と、この片側増減量をクラッチ回転数の全域について片側領域幅に加算することで、惰行制御可能領域を拡大縮小する領域拡縮部とを備えてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0016】
(1)惰行制御中のアクセル開度の変化幅が大きい運転者に対してもアクセル開度の変化幅が小さい運転者と同等に惰行制御が実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の惰行制御装置のブロック構成図である。
【図2】本発明の惰行制御装置が適用される車両のクラッチシステムのブロック構成図である。
【図3】図2のクラッチシステムを実現するアクチュエータの構成図である。
【図4】本発明の惰行制御装置が適用される車両の入出力構成図である。
【図5】惰行制御の概要を説明するための作動概念図である。
【図6】惰行制御判定マップのグラフイメージ図である。
【図7】惰行制御による燃費削減効果を説明するためのグラフである。
【図8】惰行制御判定マップを作成するために実測したアクセル開度とクラッチ回転数のグラフである。
【図9】本発明の惰行制御装置におけるプロット点の抽出から領域拡縮までの手順を示すフローチャートである。
【図10】本発明を適用しない惰行制御装置における惰行制御判定マップへのプロット点の軌跡を示したグラフである。
【図11】本発明を適用した惰行制御装置における惰行制御判定マップへのプロット点の軌跡を示したグラフである。
【図12】惰行制御中のアクセル開度の時間的変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0019】
図1に示されるように、本発明に係る惰行制御装置1は、クラッチ回転数とアクセル開度で参照される惰行制御判定マップ2と、惰行制御判定マップ2へのクラッチ回転数とアクセル開度のプロット点が、エンジン出力トルクが負となる領域とエンジン出力トルクが正となる領域との境界となるエンジン出力トルクゼロ線を含むように形成された惰行制御可能領域内にあって、アクセルペダル操作速度が所定範囲内にて、かつクラッチ回転数とアクセル開度のプロット点がエンジン出力トルクゼロ線の近傍に設定された惰行制御しきい線をアクセル開度減少方向に通過したとき、クラッチを断すると共にエンジン回転数を低下させて惰行制御を開始し、アクセルペダル操作速度が所定範囲外となったか又はプロット点が惰行制御可能領域外に出たとき惰行制御を終了する惰行制御実行部3と、アクセル開度の変化幅を学習し、惰行制御可能領域の領域幅よりアクセル開度の変化幅が大きいときには惰行制御可能領域を拡大させ、惰行制御可能領域の領域幅よりアクセル開度の変化幅が小さいときには惰行制御可能領域を縮小させる惰行制御可能領域調節部4とを備えたものである。
【0020】
惰行制御可能領域調節部4は、惰行制御中に学習を開始し、アクセル開度の変化方向が反転されたときのクラッチ回転数とアクセル開度のプロット点を反転時プロット点として抽出する反転時プロット点抽出部5と、惰行制御判定マップ2上で、エンジン出力トルクゼロ線から反転時プロット点までのアクセル開度差(図6の惰行制御判定マップ2では横軸上の距離)を片側変化幅として算出する片側変化幅算出部6と、惰行制御判定マップ2上で、エンジン出力トルクゼロ線から惰行制御可能領域境界までのアクセル開度差(図6の惰行制御判定マップ2では横軸上の距離)である片側領域幅と片側変化幅との差分の定数倍を片側増減量として算出する片側増減量算出部7と、この片側増減量をクラッチ回転数の全域について片側領域幅に加算することで、惰行制御可能領域を拡大縮小する領域拡縮部8とを備える。
【0021】
惰行制御装置1を構成する惰行制御判定マップ2、惰行制御実行部3、惰行制御可能領域調節部4、反転時プロット点抽出部5、片側変化幅算出部6、片側増減量算出部7、領域拡縮部8は、例えば、電子制御装置(Electronical Control Unit;ECU;図示せず)に搭載されるのが好ましい。
【0022】
本発明の惰行制御装置1を搭載する車両について各部を説明する。
【0023】
図2に示されるように、本発明の惰行制御装置1を搭載する車両のクラッチシステム101は、マニュアル式とECU制御による自動式との両立方式である。クラッチペダル102に機械的に連結されたクラッチマスターシリンダ103は、運転者によるクラッチペダル102の踏み込み・戻し操作に応じて中間シリンダ(クラッチフリーオペレーティングシリンダ、切替シリンダとも言う)104に動作油を供給するようになっている。一方、ECU(図示せず)で制御されるクラッチフリーアクチュエータユニット105は、クラッチ断・接の指令により中間シリンダ104に動作油を供給するようになっている。中間シリンダ104は、クラッチスレーブシリンダ106に動作油を供給するようになっている。クラッチスレーブシリンダ106のピストン107がクラッチ108の可動部に機械的に連結されている。
【0024】
図3に示されるように、アクチュエータ110は、クラッチフリーアクチュエータ111を備える。クラッチフリーアクチュエータ111は、中間シリンダ104とクラッチフリーアクチュエータユニット105とを備える。クラッチフリーアクチュエータユニット105は、ソレノイドバルブ112、リリーフバルブ113、油圧ポンプ114を備える。中間シリンダ104は、プライマリピストン116とセカンダリピストン117とが直列配置されてなり、クラッチマスターシリンダ103からの動作油によりプライマリピストン116がストロークすると、セカンダリピストン117が随伴してストロークするようになっている。また、中間シリンダ104は、クラッチフリーアクチュエータユニット105からの動作油によりセカンダリピストン117がストロークするようになっている。セカンダリピストン117のストロークに応じてクラッチスレーブシリンダ106に動作油が供給される。この構成により、マニュアル操作が行われたときには、優先的にマニュアル操作どおりのクラッチ断・接が実行され、マニュアル操作が行われていないときにはECU制御どおりのクラッチ断・接が実行される。
【0025】
なお、本発明の惰行制御装置1は、マニュアル式のない自動式のみのクラッチシステムにも適用できる。
【0026】
図4に示されるように、車両には、主として変速機・クラッチを制御するECU121と、主としてエンジンを制御するECM122とが設けられる。ECU121には、シフトノブスイッチ、変速機のシフトセンサ、セレクトセンサ、ニュートラルスイッチ、T/M回転センサ、車速センサ、アイドルスイッチ、マニュアル切替スイッチ、パーキングブレーキスイッチ、ドアスイッチ、ブレーキスイッチ、半クラッチ調整スイッチ、アクセル操作量センサ、クラッチセンサ、油圧スイッチの各入力信号線が接続されている。また、ECU121には、クラッチシステム101の油圧ポンプ114のモータ、ソレノイドバルブ112、坂道発進補助用バルブ、ウォーニング&メータの各出力信号線が接続されている。ECM122には、図示しないがエンジン制御に利用される各種の入力信号線と出力信号線が接続されている。ECM122は、エンジン回転数、アクセル開度、エンジン回転変更要求の各信号をCAN(Controller Area Network;車載ネットワーク)の伝送路を介してECU121に送信することができる。
【0027】
なお、本発明で使用するクラッチ回転数は、クラッチのドリブン側の回転数であり、トランスミッションのインプットシャフトの回転数と同一である。図示しないインプットシャフト回転数センサが検出したインプットシャフト回転数からクラッチ回転数を求めることができる。あるいは車速センサが検出した車速から現在ギア段のギア比を用いてクラッチ回転数を求めることができる。クラッチ回転数は、車速相当のエンジン回転数を表している。
【0028】
以下、本発明の惰行制御装置1の動作を説明する。
【0029】
図5により、惰行制御の作動概念を説明する。横軸は時間と制御の流れを示し、縦軸はエンジン回転数を示す。アイドル回転の状態からアクセルペダル141が大きく踏み込まれてアクセル開度が70%の状態が継続する間、エンジン回転数142が上昇し、車両が加速される。エンジン回転数142が安定し、アクセルペダル141の踏み込みが小さくなりアクセル開度が35%になったとき後述する惰行制御開始条件が成立したとする。惰行制御開始により、クラッチが断に制御され、エンジン回転数142がアイドル回転数に制御される。車両は惰行制御走行することになる。その後、アクセルペダルの踏み込みがなくなってアクセル開度が0%になるか又はその他の惰行制御終了条件が成立したとする。惰行制御終了により、エンジンが回転合わせ制御され、クラッチが接に制御される。この例では、アクセル開度が0%であるので、エンジンブレーキの状態となり、車両は減速される。
【0030】
惰行制御が行われなかったとすると、惰行制御の実行期間の間、破線のようにエンジン回転数が高いまま維持されることになるので、燃料が無駄に消費されるが、惰行制御が行われることで、惰行制御中はエンジン回転数142がアイドル回転数となり燃料が節約される。
【0031】
図6に惰行制御判定マップ2をグラフイメージで示す。
【0032】
惰行制御判定マップ2は、横軸をアクセル開度とし、縦軸をクラッチ回転数とするマップである。惰行制御判定マップ2は、エンジン出力トルクが負となるマイナス領域MAと、エンジン出力トルクが正となるプラス領域PAとに分けることができる。マイナス領域MAは、エンジン要求トルクよりもエンジンのフリクションが大きく、エンジン出力トルクが負となる領域である。プラス領域PAは、エンジン要求トルクがエンジンのフリクションよりも大きいため、エンジン出力トルクが正となる領域である。マイナス領域MAとプラス領域PAの境界となるエンジン出力トルクゼロ線ZLは、背景技術で述べたようにエンジンが外部に対して仕事をせず、燃料が無駄に消費されている状態を示している。
【0033】
本実施形態では、惰行制御判定マップ2のエンジン出力トルクゼロ線ZLよりやや左(アクセル開度が小さい側)に惰行制御しきい線TLが設定される。惰行制御判定マップ2には、マイナス領域MAとプラス領域PAとの間に惰行制御しきい線TLを含む有限幅の惰行制御可能領域CAが設定される。惰行制御判定マップ2には、クラッチ回転数の下限しきい線ULが設定されている。下限しきい線ULは、アクセル開度とは無関係にクラッチ回転数の下限しきい値を規定したものである。下限しきい線ULは、アイドル状態におけるクラッチ回転数よりも図示のようにやや上に設定される。
【0034】
惰行制御装置1は、次の4つの惰行開始条件が全て成立したとき、惰行制御を開始するようになっている。
(1)アクセルペダルの操作速度がしきい値範囲内
(2)惰行制御判定マップ2においてクラッチ回転数とアクセル開度のプロット点が惰行制御しきい線TLをアクセル戻し方向で通過
(3)惰行制御判定マップ2へのプロット点が惰行制御可能領域CA内
(4)惰行制御判定マップ2においてクラッチ回転数が下限しきい線UL以上
【0035】
惰行制御装置1は、次の2つの惰行終了条件がひとつでも成立したとき、惰行制御を終了するようになっている。
(1)アクセルペダルの操作速度がしきい値範囲外
(2)惰行制御判定マップ2へのプロット点が惰行制御可能領域CA外
【0036】
惰行制御判定マップ2と惰行開始条件、惰行終了条件に従う惰行制御装置1の動作を説明する。
【0037】
惰行制御実行部3は、アクセル開度に基づくアクセル開度と、インプットシャフト回転数又は車速から求めたクラッチ回転数とを常に監視し、図6の惰行制御判定マップ2上に、アクセル開度とクラッチ回転数の座標点をプロットする。時間の経過に伴い座標点が移動する。このとき、座標点が惰行制御可能領域CA内に存在する場合、惰行制御実行部3は、惰行制御を開始するか否かの判定を行うようになる。座標点が惰行制御可能領域CA内に存在しない場合、惰行制御実行部3は、惰行制御を開始するか否かの判定を行わない。
【0038】
次に、座標点が惰行制御しきい線TLをアクセル開度が減少する方向に通過すると、惰行制御実行部3は、惰行制御を開始する。すなわち、惰行制御装置1は、クラッチを断に制御すると共に、ECM122がエンジンに指示する制御アクセル開度をアイドル相当に制御する。これにより、クラッチは断となり、エンジンはアイドル状態になる。
【0039】
図6に座標点の移動方向を矢印で示したように、アクセル開度が減少する方向とは、図示左方向である。もし、座標点が惰行制御しきい線TLを通過しても、座標点の移動方向が図示右方向の成分を有する場合、アクセル開度は増加するので、惰行制御実行部3は、惰行制御を開始しない。
【0040】
惰行制御実行部3は、惰行制御を開始した後も、アクセル開度とクラッチ回転数とを常に監視し、惰行制御判定マップ2に、アクセル開度とクラッチ回転数の座標点をプロットする。座標点が惰行制御可能領域CAから外に出たとき、惰行制御実行部3は、惰行制御を終了する。
【0041】
以上の動作により、アクセルペダルが踏み込み側に操作されているときは、アクセル開度とクラッチ回転数の座標点が惰行制御しきい線TLを通過しても惰行制御が開始されず、アクセルペダルが戻し側に操作されているときのみ、座標点が惰行制御しきい線TLを通過することで惰行制御が開始されるので、運転者は、違和感がなくなる。
【0042】
惰行制御実行部3は、座標点が下限しきい線ULよりも下に存在する(クラッチ回転数が下限しきい値より低い)ときは、惰行制御を開始しない。これは、エンジンがアイドル状態のときにクラッチを断にしても燃料消費を抑える効果が多くは期待できないからである。よって、惰行制御実行部3は、座標点が下限しきい線ULよりも上に存在するときのみ、惰行制御を開始することになる。
【0043】
図7により、惰行制御による燃費削減効果を説明する。
【0044】
まず、惰行制御を行わないものとする。エンジン回転数は、約30sから約200sまでの間、1600〜1700rpmの範囲で遷移しており、約200sから約260sまでの間に、約1700rpmから約700rpm(アイドル回転数)へ低下している。
【0045】
エンジントルクは、約30sから約100sまでの間に増加しているが、その後、減少に転じ、約150sまで減少を続けている。エンジントルクは、約150sから約160sまでほぼ0Nmであり、約160sから約200sまでの間に増加するが、約200sにてほぼ0Nmになる。結果的に、エンジントルクがほぼ0Nmとなる期間は、約150sから約160sまで(楕円B1)、約200sから約210sまで(楕円B2)、約220sから約260sまで(楕円B3)の3箇所である。
【0046】
燃料消費量(縦軸目盛りなし;便宜上、エンジントルクと重なるように配置してある)は、約50sから約200sまではエンジントルクの遷移にほぼ随伴して変化している。エンジントルクがほぼ0Nmであっても、燃料消費量は0ではない。
【0047】
ここで、惰行制御を行うものとすると、エンジントルクがほぼ0Nmとなる期間において、エンジン回転数がアイドル回転数に制御されることになる。グラフには、惰行制御を行わないエンジン回転数の線(実線)から別れるように惰行制御時のエンジン回転数の線(太い実線)が示される。惰行制御は、楕円B1,B2,B3の3回にわたり実行された。この惰行制御が行われた期間における燃料消費量は、惰行制御を行わない場合の燃料消費量を下回っており、燃料消費が節約されたことが分かる。
【0048】
次に、惰行制御判定マップ2の具体的な設定例を説明する。
【0049】
図8に示されるように、惰行制御判定マップ2を作成するために、アクセル開度とクラッチ回転数の特性を実測し、横軸をアクセル開度とし縦軸をクラッチ回転数(=エンジン回転数;クラッチ接のとき)としたグラフを作成する。これにより、実測したエンジン出力トルクゼロ線ZLを描くことができる。エンジン出力トルクゼロ線ZLよりも左側全体がマイナス領域MAであり、右側全体がプラス領域PAである。
【0050】
エンジン出力トルクゼロ線ZLのやや左側に惰行制御しきい線TLを定義して描く。惰行制御しきい線TLのやや左側に減速ゼロしきい線TLgを推測して描く。エンジン出力トルクゼロ線ZLのやや右側に加速ゼロしきい線TLkを推測して描く。減速ゼロしきい線TLgと加速ゼロしきい線TLkに挟まれた領域を惰行制御可能領域CAと定義する。下限しきい線ULは、この例では、880rpmに設定する。
【0051】
なお、減速ゼロしきい線TLg、加速ゼロしきい線TLkは、運転者が運転しづらくない程度に設定するが、人間の感覚の問題であるため設計では数値化できないので、実車でチューニングする。惰行制御しきい線TLは、減速ゼロしきい線TLgと加速ゼロしきい線TLkの中央に設定する。
【0052】
以上のように作成した図8のグラフを適宜に数値化(離散化)して記憶素子に書き込むことにより、惰行制御実行部3がその演算処理に利用可能な惰行制御判定マップ2が得られる。
【0053】
次に、本発明の惰行制御装置1におけるプロット点の抽出から領域拡縮までの動作を説明する。
【0054】
惰行制御可能領域調節部4は、図9の手順を一定時間ごとに繰り返す。
【0055】
ステップS901にて、反転時プロット点抽出部5は、現在が惰行制御実行部3による惰行制御中であるかどうか判定する。惰行制御中であるということは、前述した4つの惰行開始条件が全て成立した後、2つの惰行終了条件がひとつも成立していないということである。YESの場合は惰行制御中であり、ステップS902へ進み、NOの場合は惰行制御中でないからステップS921へ進む。
【0056】
ステップS902にて、反転時プロット点抽出部5は、学習フラグが立っているかどうか判定する。学習フラグは、アクセル開度の変化幅を学習しているときセットされており、学習していないときクリアされているフラグである。YESの場合は学習中であるからステップS904へ進み、NOの場合は学習中でない(学習が終了した状態である)からステップS903へ進む。
【0057】
ステップS903にて、反転時プロット点抽出部5は、惰行制御中であるのに学習中でないことから、次回より学習を開始するべく、学習フラグをセットし、終了する。このようにして、惰行制御が開始されたときは学習を開始し、惰行制御中は学習が終了すると次の学習を開始する。
【0058】
ステップS904に進んだ場合は、惰行制御中の学習中であるから、反転時プロット点抽出部5は、アクセル開度が前回と同じ方向に変化しているかどうか判定する。この判定は、アクセル開度が増え続けているか又は減り続けていればYESとなり、アクセル開度が増から減又は減から増に転じていればNOとなる。ただし、車両振動などによる振動の影響を排除するために、アクセル開度の信号はローパスフィルタ、移動平均等の円滑化処理をしておくとよい。YESの場合はアクセル開度の変化方向が前回と同じ方向であるから、何もせず終了する。NOの場合はアクセル開度の変化方向が反転されたので、ステップS905へ進む。
【0059】
ステップS905にて、反転時プロット点抽出部5は、現在のクラッチ回転数とアクセル開度のプロット点を反転時プロット点として抽出する。
【0060】
次いで、ステップS906にて、片側変化幅算出部6は、惰行制御判定マップ2上で、エンジン出力トルクゼロ線ZLから反転時プロット点までのアクセル開度差(横軸上の距離)を片側変化幅として算出する。なお、片側とは、エンジン出力トルクゼロ線ZLに対してアクセル開度が大きい側及び小さい側を示し、アクセル開度の変化方向が反転される度に交番する。
【0061】
次いで、ステップS907にて、片側増減量算出部7は、惰行制御判定マップ2上で、エンジン出力トルクゼロ線ZLから惰行制御可能領域CAの片側境界までのアクセル開度差(横軸上の距離)である片側領域幅と片側変化幅との差分の定数倍を片側増減量として算出する。定数は、あらかじめ実験に基づき設定しておくとよい。
【0062】
次いで、ステップS908にて、領域拡縮部8は、この片側増減量をクラッチ回転数の全域、つまり縦軸上の全ての箇所について片側領域幅に加算することで、惰行制御可能領域CAを片側で縮小する。このように、惰行制御可能領域CAの内側でアクセル開度の変化方向が反転された場合、反転時プロット点から算出したアクセル開度の片側変化幅は惰行制御可能領域CAの片側領域幅より小さいので、惰行制御可能領域CAの縮小に寄与する。
【0063】
次いで、ステップS909にて、反転時プロット点抽出部5は、学習が終了したことを示すために学習フラグをクリアし、終了する。
【0064】
ステップS901の判定がNOの場合、惰行制御実行部3は惰行制御中でないという判定である。これは、前述した2つの惰行終了条件がひとつでも成立した後、4つの惰行開始条件が全て成立してはいないということである。この場合、ステップS921が実行される。
【0065】
ステップS921にて、反転時プロット点抽出部5は、学習フラグが立っているかどうか判定する。YESの場合は学習中であり、ステップS922へ進み、NOの場合は学習中でないから何もせず終了する。
【0066】
ステップS922に進んだ場合は、惰行制御中に開始された学習が惰行制御終了後も継続されており、惰行制御可能領域CAの外側でプロット点が反転するのを探索することになる。このように、本発明では、惰行制御終了後も学習を継続する。なお、惰行終了条件(1)によって惰行制御が終了した場合は、運転者に加速又は減速の意図、つまり惰行制御中断の意図があるので、学習を終了してもよい。惰行終了条件(2)によって惰行制御が終了した場合は、運転者に加速又は減速の意図がないまま、アクセル開度が増加又は減少しているので、学習を継続することになる。
【0067】
ステップS922にて、反転時プロット点抽出部5は、アクセル開度が前回と同じ方向に変化しているかどうか判定する。YESの場合はアクセル開度の変化方向が前回と同じ方向であるから、何もせず終了する。NOの場合はアクセル開度の変化方向が反転されたので、ステップS923へ進む。
【0068】
ステップS923にて、反転時プロット点抽出部5は、現在のクラッチ回転数とアクセル開度のプロット点を反転時プロット点として抽出する。
【0069】
次いで、ステップS924にて、片側変化幅算出部6は、惰行制御判定マップ2上で、エンジン出力トルクゼロ線ZLから反転時プロット点までのアクセル開度差を片側変化幅として算出する。
【0070】
ステップS925にて、片側変化幅算出部6は、惰行制御可能領域CAが無制限に大きくならないよう、片側変化幅があらかじめ設定してある限度値以下かどうか判定する。NOの場合は惰行制御可能領域CAの拡大を回避するべく、ステップS928へ進む。YESの場合は惰行制御可能領域CAの拡大をするべく、ステップS926へ進む。
【0071】
ステップS926にて、片側増減量算出部7は、惰行制御判定マップ2上で、エンジン出力トルクゼロ線ZLから惰行制御可能領域CAの片側境界までのアクセル開度差である片側領域幅と片側変化幅との差分の定数倍を片側増減量として算出する。
【0072】
次いで、ステップS927にて、領域拡縮部8は、この片側増減量をクラッチ回転数の全域、つまり縦軸上の全ての箇所について領域幅に加算することで、惰行制御可能領域CAを片側に拡大する。このように、惰行制御可能領域CAの外側でアクセル開度の変化方向が反転された場合、反転時プロット点から算出したアクセル開度の片側変化幅は惰行制御可能領域CAの片側領域幅より大きいので、惰行制御可能領域CAの拡大に寄与する。
【0073】
次いで、ステップS928にて、反転時プロット点抽出部5は、学習が終了したことを示すために学習フラグをクリアし、終了する。
【0074】
本発明の効果を図10〜図12により説明する。
【0075】
本発明を適用しない惰行制御装置における惰行制御判定マップへのプロット点の軌跡を図10に示す。これは、惰行制御中におけるアクセル開度の変化幅が一般より大きい運転者によるプロット点の軌跡である。
【0076】
軌跡の開始となるプロット点PSは惰行制御中であったとする。なお、説明を簡単にするため、惰行開始条件(1)は常に成立しており、惰行終了条件(1)は常に成立していないものとする。
【0077】
プロット点PSからアクセル開度が徐々に大きくなって、プロット点が惰行制御可能領域CAのプラス領域PA側に出るため、惰行終了条件(2)によって惰行制御は終了する。その後、プロット点P1でアクセル開度の変化が反転されて小さくなり、プロット点が惰行制御可能領域CAの内に入る。その後、プロット点が惰行制御しきい線TLをアクセル戻し方向で通過することで、4つの惰行開始条件が全て成立し、再び惰行制御が開始される。しかし、すぐにプロット点は惰行制御可能領域CAのマイナス領域MA側に出るため、惰行終了条件(2)によって惰行制御は終了する。プロット点P2でアクセル開度の変化が反転されて大きくなり、プロット点P3でアクセル開度の変化が反転されて小さくなり、プロット点が惰行制御可能領域CAの内で惰行制御しきい線TLをアクセル戻し方向で通過することで、三度、惰行制御が開始される。
【0078】
このように、惰行制御中におけるアクセル開度の変化幅が大きい運転者が運転を行っていると、プロット点が惰行制御可能領域CA内から惰行制御可能領域CA外に出やすいため、惰行制御を行っている時間が少なくなり、燃料消費を抑える効果が不十分となると共に、プロット点が惰行制御可能領域CA外から惰行制御可能領域CA内に戻って惰行開始条件が成立することも頻繁になるので、惰行制御の開始と終了を繰り返すハンチングが起きやすくなり、運転者に不快感を与えるおそれがある。
【0079】
これに対し、本発明を適用した惰行制御装置における惰行制御判定マップへのプロット点の軌跡を図11に示す。軌跡は図10のものと同じである。図10のプロット点P1〜P7は本発明では反転時プロット点P1〜P7として抽出される。惰行制御可能領域CAは、既に惰行制御可能領域調節部4の領域拡縮部8によって図10の惰行制御可能領域CAよりも拡大されているものとする。また、説明を簡単にするため、惰行制御可能領域CAは図11の状態のまま変わらないものとする。
【0080】
軌跡の開始となるプロット点PSは惰行制御中である。アクセル開度が徐々に大きくなり、反転時プロット点P1でアクセル開度の変化が反転されてアクセル開度が小さくなる。この間、プロット点は惰行制御可能領域CAの外に出ることはないので、惰行制御は続行される。その後も、反転時プロット点P2、P3、…、P7が抽出されるが、これらは全て惰行制御可能領域CA内にあるため、惰行制御は一度も終了することなく続行される。
【0081】
なお、実際には、惰行制御可能領域CAは、アクセル開度の変化幅が新たに学習されるたびに、拡大したり縮小したりする。しかし、惰行制御中におけるアクセル開度の変化幅が一般より大きい運転者が運転を行っている間は、図11のように惰行制御可能領域CAが大きい傾向が維持されることが期待できる。一方、惰行制御中におけるアクセル開度の変化幅が一般的な大きさの運転者あるいは一般より小さい運転者が運転を行うようになると、アクセル開度の変化幅の学習により惰行制御可能領域CAが縮小される。ただし、惰行制御可能領域CAが極端に縮小されないよう、縮小の限界を設定するとよい。あるいは、工場出荷時の惰行制御可能領域CAよりも縮小されることを禁止しておいてもよい。
【0082】
次に、アクセル開度の変化幅を学習する実際の様子を説明する。
【0083】
図12に示されるように、アクセルペダルが開放状態から踏み込まれてアクセル開度が大きくなり、それによってクラッチ回転数が大きくなり、車両が加速される。その後、アクセルペダルが戻し方向に操作され、時点t1にて惰行制御が開始される。なお、この時点t1のアクセル開度は、この時点t1での惰行制御可能領域CA内にあったので惰行制御が開始されている。図中の「惰行制御可能領域の領域幅」は、時点t1よりも後、クラッチ回転数が下がったときのものである。
【0084】
その後、時点t2とt4にてそれぞれ惰行制御可能領域CA外の反転時プロット点が抽出されたことにより、「惰行制御可能領域の領域幅」よりも広い「アクセル開度の変化幅」が得られている。しかし、時点t3で抽出された反転時プロット点については、アクセル開度の変化幅が限度を超えるため、採用されていない。なお、領域幅や変化幅は、手順のところで説明したように、エンジン出力トルクゼロ線ZLを基準にアクセル開度の大きい側と小さい側について片側ずつ別々に求めている。
【0085】
以上説明したように、本発明の惰行制御装置1によれば、アクセル開度の変化幅を学習し、惰行制御可能領域CAの領域幅よりアクセル開度の変化幅が大きいときには惰行制御可能領域CAを拡大させ、惰行制御可能領域CAの領域幅よりアクセル開度の変化幅が小さいときには惰行制御可能領域CAを縮小させる惰行制御可能領域調節部4を備えたので、惰行制御中におけるアクセル開度の変化幅が大きい運転者の運転によく対応して惰行制御可能領域CAを拡大させることができ、惰行制御を行っている時間が長く延びると共に、惰行制御の開始と終了を繰り返すハンチングが回避される。
【0086】
なお、本実施形態では惰行制御可能領域CAをプラス領域PA側とマイナス領域MA側(出力トルクゼロ線ZLよりアクセル開度が大きい側と小さい側)にそれぞれ拡大縮小するものとしたが、プラス領域PA側のみあるいはマイナス領域MA側のみに拡大縮小するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0087】
1 惰行制御装置
2 惰行制御判定マップ
3 惰行制御実行部
4 惰行制御可能領域調節部
5 反転時プロット点抽出部
6 片側変化幅算出部
7 片側増減量算出部
8 領域拡縮部
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行中にクラッチを断にしエンジンをアイドル状態に戻して燃料消費を抑える惰行制御装置に係り、惰行制御中のアクセル開度の変化幅が大きい運転者に対してもアクセル開度の変化幅が小さい運転者と同等に惰行制御が実施できる惰行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両において、クラッチが断のとき、アクセルペダルが踏み込まれると、アクセルが開かれてエンジンがいわゆる空ぶかしとなり、エンジン回転数は、アクセル開度に対応したエンジン回転数に落ち着く。このとき、エンジンが発生させた駆動力とエンジン内部抵抗(フリクション)とが均衡し、エンジン出力トルクは0である。すなわち、エンジンは、外部に対して全く仕事をせず、燃料が無駄に消費される。例えば、エンジン回転数が2000rpmで空ぶかしをしたとすると、運転者には大きなエンジン音が聞こえるので、相当な量の燃料が無駄に消費されていることが実感できる。
【0003】
エンジンが外部に対して仕事をしない状態は、前述したクラッチ断のときの空ぶかしに限らず、車両の走行中にも発生している。すなわち、エンジンは、空ぶかしのときと同じようにアクセル開度に対応したエンジン回転数で回転するだけで、車両の加速・減速に寄与しない。このとき、エンジンを回転させるためだけに燃料が消費されており、非常に無駄である。
【0004】
本出願人は、エンジンが回転はしているが外部に対して仕事をしないときに、クラッチを断にし、エンジンをアイドル状態に戻して燃料消費を抑える惰行制御(燃費走行制御とも言う)を行う惰行制御装置を提案した(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−342832号公報
【特許文献2】特開平8−67175号公報
【特許文献3】特開2001−304305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の提案に加え、本出願人は、クラッチ回転数とアクセル開度とを指標とする惰行制御判定マップを用い、クラッチ回転数とアクセル開度のプロット点が惰行制御可能領域内にあって、アクセルペダル操作速度が所定範囲内にて、かつクラッチ回転数とアクセル開度のプロット点が惰行制御しきい線をアクセル開度減少方向に通過したとき、クラッチを断すると共にエンジン回転数を低下させて惰行制御を開始し、アクセルペダル操作速度が所定範囲外となったか又はプロット点が惰行制御可能領域外に出たとき惰行制御を終了する惰行制御装置を提案中である。
【0007】
ここで、惰行制御可能領域は、エンジン出力トルクが負となる領域とエンジン出力トルクが正となる領域との境界となるエンジン出力トルクゼロ線を含むように有限幅に形成された領域である。惰行制御しきい線は、エンジン出力トルクゼロ線の近傍に、エンジン出力トルクゼロ線にほぼ沿うように設定され、惰行制御可能領域内に含まれる。したがって、クラッチ回転数とアクセル開度のプロット点は、まず惰行制御可能領域内に入り、惰行制御しきい線を通過する。
【0008】
一般に、運転者には、同じ加減速意図に対するアクセル開度の変化幅が大きい運転者もいれば、小さい運転者もいる。ここで、アクセル開度の変化幅とは、アクセルペダルの踏み込み操作又は踏み離し操作においてアクセル開度が増減する量を表す。このように、アクセル操作におけるアクセル開度の変化幅は、運転者によってさまざまである。
【0009】
ところで、惰行制御は、意図的なアクセル操作をしない状態のとき実行されるが、意図的なアクセル操作はしないといってもアクセルペダルに足が載っているため、アクセル開度が変化する。このような惰行制御中のアクセル開度の変化についても、アクセル開度の変化幅が大きい運転者と小さい運転者がいる。
【0010】
アクセル開度が変化すると、惰行制御判定マップにおいては、クラッチ回転数とアクセル開度のプロット点がアクセル開度方向に移動する。アクセル開度の変化幅が小さいときのプロット点の移動幅と、アクセル開度の変化幅が大きいときのプロット点のアクセル開度方向の移動幅とを比べると、アクセル開度の変化幅が小さいときのプロット点のアクセル開度方向の移動幅は小さく、アクセル開度の変化幅が大きいときのプロット点のアクセル開度方向の移動幅は大きい。
【0011】
いま、プロット点が惰行制御可能領域内にあって、かつ、惰行制御が行われているとしたとき、アクセル開度の変化幅が小さいときのプロット点は惰行制御可能領域から外に出にくいが、アクセル開度の変化幅が大きいときのプロット点は惰行制御可能領域から外に出やすい。このため、惰行制御中におけるアクセル開度の変化幅が大きい運転者が運転を行っていると、惰行制御可能領域内から惰行制御可能領域外に出やすく、惰行制御を行っている時間が少なくなり、燃料消費を抑える効果が不十分となる。また、このような運転者では、惰行制御可能領域外から惰行制御可能領域内に入ることも頻繁になるので、惰行制御の開始と終了を繰り返すハンチングが起きやすくなり、運転者に不快感を与えるおそれがある。
【0012】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、惰行制御中のアクセル開度の変化幅が大きい運転者に対してもアクセル開度の変化幅が小さい運転者と同等に惰行制御が実施できる惰行制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明は、クラッチ回転数とアクセル開度で参照される惰行制御判定マップと、前記惰行制御判定マップへのクラッチ回転数とアクセル開度のプロット点が、エンジン出力トルクが負となる領域とエンジン出力トルクが正となる領域との境界となるエンジン出力トルクゼロ線を含むように形成された惰行制御可能領域内にあって、アクセルペダル操作速度が所定範囲内にて、かつクラッチ回転数とアクセル開度のプロット点がエンジン出力トルクゼロ線の近傍に設定された惰行制御しきい線をアクセル開度減少方向に通過したとき、クラッチを断すると共にエンジン回転数を低下させて惰行制御を開始し、アクセルペダル操作速度が所定範囲外となったか又はプロット点が惰行制御可能領域外に出たとき惰行制御を終了する惰行制御実行部と、アクセル開度の変化幅を学習し、惰行制御可能領域の領域幅よりアクセル開度の変化幅が大きいときには惰行制御可能領域を拡大させ、惰行制御可能領域の領域幅よりアクセル開度の変化幅が小さいときには惰行制御可能領域を縮小させる惰行制御可能領域調節部とを備えたものである。
【0014】
前記惰行制御可能領域調節部は、惰行制御中に学習を開始し、アクセル開度の変化方向が反転されたときのクラッチ回転数とアクセル開度のプロット点を反転時プロット点として抽出する反転時プロット点抽出部と、前記惰行制御判定マップ上で、エンジン出力トルクゼロ線から反転時プロット点までのアクセル開度差を片側変化幅として算出する片側変化幅算出部と、前記惰行制御判定マップ上で、エンジン出力トルクゼロ線から惰行制御可能領域境界までのアクセル開度差である片側領域幅と前記片側変化幅との差分の定数倍を片側増減量として算出する片側増減量算出部と、この片側増減量をクラッチ回転数の全域について片側領域幅に加算することで、惰行制御可能領域を拡大縮小する領域拡縮部とを備えてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0016】
(1)惰行制御中のアクセル開度の変化幅が大きい運転者に対してもアクセル開度の変化幅が小さい運転者と同等に惰行制御が実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の惰行制御装置のブロック構成図である。
【図2】本発明の惰行制御装置が適用される車両のクラッチシステムのブロック構成図である。
【図3】図2のクラッチシステムを実現するアクチュエータの構成図である。
【図4】本発明の惰行制御装置が適用される車両の入出力構成図である。
【図5】惰行制御の概要を説明するための作動概念図である。
【図6】惰行制御判定マップのグラフイメージ図である。
【図7】惰行制御による燃費削減効果を説明するためのグラフである。
【図8】惰行制御判定マップを作成するために実測したアクセル開度とクラッチ回転数のグラフである。
【図9】本発明の惰行制御装置におけるプロット点の抽出から領域拡縮までの手順を示すフローチャートである。
【図10】本発明を適用しない惰行制御装置における惰行制御判定マップへのプロット点の軌跡を示したグラフである。
【図11】本発明を適用した惰行制御装置における惰行制御判定マップへのプロット点の軌跡を示したグラフである。
【図12】惰行制御中のアクセル開度の時間的変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0019】
図1に示されるように、本発明に係る惰行制御装置1は、クラッチ回転数とアクセル開度で参照される惰行制御判定マップ2と、惰行制御判定マップ2へのクラッチ回転数とアクセル開度のプロット点が、エンジン出力トルクが負となる領域とエンジン出力トルクが正となる領域との境界となるエンジン出力トルクゼロ線を含むように形成された惰行制御可能領域内にあって、アクセルペダル操作速度が所定範囲内にて、かつクラッチ回転数とアクセル開度のプロット点がエンジン出力トルクゼロ線の近傍に設定された惰行制御しきい線をアクセル開度減少方向に通過したとき、クラッチを断すると共にエンジン回転数を低下させて惰行制御を開始し、アクセルペダル操作速度が所定範囲外となったか又はプロット点が惰行制御可能領域外に出たとき惰行制御を終了する惰行制御実行部3と、アクセル開度の変化幅を学習し、惰行制御可能領域の領域幅よりアクセル開度の変化幅が大きいときには惰行制御可能領域を拡大させ、惰行制御可能領域の領域幅よりアクセル開度の変化幅が小さいときには惰行制御可能領域を縮小させる惰行制御可能領域調節部4とを備えたものである。
【0020】
惰行制御可能領域調節部4は、惰行制御中に学習を開始し、アクセル開度の変化方向が反転されたときのクラッチ回転数とアクセル開度のプロット点を反転時プロット点として抽出する反転時プロット点抽出部5と、惰行制御判定マップ2上で、エンジン出力トルクゼロ線から反転時プロット点までのアクセル開度差(図6の惰行制御判定マップ2では横軸上の距離)を片側変化幅として算出する片側変化幅算出部6と、惰行制御判定マップ2上で、エンジン出力トルクゼロ線から惰行制御可能領域境界までのアクセル開度差(図6の惰行制御判定マップ2では横軸上の距離)である片側領域幅と片側変化幅との差分の定数倍を片側増減量として算出する片側増減量算出部7と、この片側増減量をクラッチ回転数の全域について片側領域幅に加算することで、惰行制御可能領域を拡大縮小する領域拡縮部8とを備える。
【0021】
惰行制御装置1を構成する惰行制御判定マップ2、惰行制御実行部3、惰行制御可能領域調節部4、反転時プロット点抽出部5、片側変化幅算出部6、片側増減量算出部7、領域拡縮部8は、例えば、電子制御装置(Electronical Control Unit;ECU;図示せず)に搭載されるのが好ましい。
【0022】
本発明の惰行制御装置1を搭載する車両について各部を説明する。
【0023】
図2に示されるように、本発明の惰行制御装置1を搭載する車両のクラッチシステム101は、マニュアル式とECU制御による自動式との両立方式である。クラッチペダル102に機械的に連結されたクラッチマスターシリンダ103は、運転者によるクラッチペダル102の踏み込み・戻し操作に応じて中間シリンダ(クラッチフリーオペレーティングシリンダ、切替シリンダとも言う)104に動作油を供給するようになっている。一方、ECU(図示せず)で制御されるクラッチフリーアクチュエータユニット105は、クラッチ断・接の指令により中間シリンダ104に動作油を供給するようになっている。中間シリンダ104は、クラッチスレーブシリンダ106に動作油を供給するようになっている。クラッチスレーブシリンダ106のピストン107がクラッチ108の可動部に機械的に連結されている。
【0024】
図3に示されるように、アクチュエータ110は、クラッチフリーアクチュエータ111を備える。クラッチフリーアクチュエータ111は、中間シリンダ104とクラッチフリーアクチュエータユニット105とを備える。クラッチフリーアクチュエータユニット105は、ソレノイドバルブ112、リリーフバルブ113、油圧ポンプ114を備える。中間シリンダ104は、プライマリピストン116とセカンダリピストン117とが直列配置されてなり、クラッチマスターシリンダ103からの動作油によりプライマリピストン116がストロークすると、セカンダリピストン117が随伴してストロークするようになっている。また、中間シリンダ104は、クラッチフリーアクチュエータユニット105からの動作油によりセカンダリピストン117がストロークするようになっている。セカンダリピストン117のストロークに応じてクラッチスレーブシリンダ106に動作油が供給される。この構成により、マニュアル操作が行われたときには、優先的にマニュアル操作どおりのクラッチ断・接が実行され、マニュアル操作が行われていないときにはECU制御どおりのクラッチ断・接が実行される。
【0025】
なお、本発明の惰行制御装置1は、マニュアル式のない自動式のみのクラッチシステムにも適用できる。
【0026】
図4に示されるように、車両には、主として変速機・クラッチを制御するECU121と、主としてエンジンを制御するECM122とが設けられる。ECU121には、シフトノブスイッチ、変速機のシフトセンサ、セレクトセンサ、ニュートラルスイッチ、T/M回転センサ、車速センサ、アイドルスイッチ、マニュアル切替スイッチ、パーキングブレーキスイッチ、ドアスイッチ、ブレーキスイッチ、半クラッチ調整スイッチ、アクセル操作量センサ、クラッチセンサ、油圧スイッチの各入力信号線が接続されている。また、ECU121には、クラッチシステム101の油圧ポンプ114のモータ、ソレノイドバルブ112、坂道発進補助用バルブ、ウォーニング&メータの各出力信号線が接続されている。ECM122には、図示しないがエンジン制御に利用される各種の入力信号線と出力信号線が接続されている。ECM122は、エンジン回転数、アクセル開度、エンジン回転変更要求の各信号をCAN(Controller Area Network;車載ネットワーク)の伝送路を介してECU121に送信することができる。
【0027】
なお、本発明で使用するクラッチ回転数は、クラッチのドリブン側の回転数であり、トランスミッションのインプットシャフトの回転数と同一である。図示しないインプットシャフト回転数センサが検出したインプットシャフト回転数からクラッチ回転数を求めることができる。あるいは車速センサが検出した車速から現在ギア段のギア比を用いてクラッチ回転数を求めることができる。クラッチ回転数は、車速相当のエンジン回転数を表している。
【0028】
以下、本発明の惰行制御装置1の動作を説明する。
【0029】
図5により、惰行制御の作動概念を説明する。横軸は時間と制御の流れを示し、縦軸はエンジン回転数を示す。アイドル回転の状態からアクセルペダル141が大きく踏み込まれてアクセル開度が70%の状態が継続する間、エンジン回転数142が上昇し、車両が加速される。エンジン回転数142が安定し、アクセルペダル141の踏み込みが小さくなりアクセル開度が35%になったとき後述する惰行制御開始条件が成立したとする。惰行制御開始により、クラッチが断に制御され、エンジン回転数142がアイドル回転数に制御される。車両は惰行制御走行することになる。その後、アクセルペダルの踏み込みがなくなってアクセル開度が0%になるか又はその他の惰行制御終了条件が成立したとする。惰行制御終了により、エンジンが回転合わせ制御され、クラッチが接に制御される。この例では、アクセル開度が0%であるので、エンジンブレーキの状態となり、車両は減速される。
【0030】
惰行制御が行われなかったとすると、惰行制御の実行期間の間、破線のようにエンジン回転数が高いまま維持されることになるので、燃料が無駄に消費されるが、惰行制御が行われることで、惰行制御中はエンジン回転数142がアイドル回転数となり燃料が節約される。
【0031】
図6に惰行制御判定マップ2をグラフイメージで示す。
【0032】
惰行制御判定マップ2は、横軸をアクセル開度とし、縦軸をクラッチ回転数とするマップである。惰行制御判定マップ2は、エンジン出力トルクが負となるマイナス領域MAと、エンジン出力トルクが正となるプラス領域PAとに分けることができる。マイナス領域MAは、エンジン要求トルクよりもエンジンのフリクションが大きく、エンジン出力トルクが負となる領域である。プラス領域PAは、エンジン要求トルクがエンジンのフリクションよりも大きいため、エンジン出力トルクが正となる領域である。マイナス領域MAとプラス領域PAの境界となるエンジン出力トルクゼロ線ZLは、背景技術で述べたようにエンジンが外部に対して仕事をせず、燃料が無駄に消費されている状態を示している。
【0033】
本実施形態では、惰行制御判定マップ2のエンジン出力トルクゼロ線ZLよりやや左(アクセル開度が小さい側)に惰行制御しきい線TLが設定される。惰行制御判定マップ2には、マイナス領域MAとプラス領域PAとの間に惰行制御しきい線TLを含む有限幅の惰行制御可能領域CAが設定される。惰行制御判定マップ2には、クラッチ回転数の下限しきい線ULが設定されている。下限しきい線ULは、アクセル開度とは無関係にクラッチ回転数の下限しきい値を規定したものである。下限しきい線ULは、アイドル状態におけるクラッチ回転数よりも図示のようにやや上に設定される。
【0034】
惰行制御装置1は、次の4つの惰行開始条件が全て成立したとき、惰行制御を開始するようになっている。
(1)アクセルペダルの操作速度がしきい値範囲内
(2)惰行制御判定マップ2においてクラッチ回転数とアクセル開度のプロット点が惰行制御しきい線TLをアクセル戻し方向で通過
(3)惰行制御判定マップ2へのプロット点が惰行制御可能領域CA内
(4)惰行制御判定マップ2においてクラッチ回転数が下限しきい線UL以上
【0035】
惰行制御装置1は、次の2つの惰行終了条件がひとつでも成立したとき、惰行制御を終了するようになっている。
(1)アクセルペダルの操作速度がしきい値範囲外
(2)惰行制御判定マップ2へのプロット点が惰行制御可能領域CA外
【0036】
惰行制御判定マップ2と惰行開始条件、惰行終了条件に従う惰行制御装置1の動作を説明する。
【0037】
惰行制御実行部3は、アクセル開度に基づくアクセル開度と、インプットシャフト回転数又は車速から求めたクラッチ回転数とを常に監視し、図6の惰行制御判定マップ2上に、アクセル開度とクラッチ回転数の座標点をプロットする。時間の経過に伴い座標点が移動する。このとき、座標点が惰行制御可能領域CA内に存在する場合、惰行制御実行部3は、惰行制御を開始するか否かの判定を行うようになる。座標点が惰行制御可能領域CA内に存在しない場合、惰行制御実行部3は、惰行制御を開始するか否かの判定を行わない。
【0038】
次に、座標点が惰行制御しきい線TLをアクセル開度が減少する方向に通過すると、惰行制御実行部3は、惰行制御を開始する。すなわち、惰行制御装置1は、クラッチを断に制御すると共に、ECM122がエンジンに指示する制御アクセル開度をアイドル相当に制御する。これにより、クラッチは断となり、エンジンはアイドル状態になる。
【0039】
図6に座標点の移動方向を矢印で示したように、アクセル開度が減少する方向とは、図示左方向である。もし、座標点が惰行制御しきい線TLを通過しても、座標点の移動方向が図示右方向の成分を有する場合、アクセル開度は増加するので、惰行制御実行部3は、惰行制御を開始しない。
【0040】
惰行制御実行部3は、惰行制御を開始した後も、アクセル開度とクラッチ回転数とを常に監視し、惰行制御判定マップ2に、アクセル開度とクラッチ回転数の座標点をプロットする。座標点が惰行制御可能領域CAから外に出たとき、惰行制御実行部3は、惰行制御を終了する。
【0041】
以上の動作により、アクセルペダルが踏み込み側に操作されているときは、アクセル開度とクラッチ回転数の座標点が惰行制御しきい線TLを通過しても惰行制御が開始されず、アクセルペダルが戻し側に操作されているときのみ、座標点が惰行制御しきい線TLを通過することで惰行制御が開始されるので、運転者は、違和感がなくなる。
【0042】
惰行制御実行部3は、座標点が下限しきい線ULよりも下に存在する(クラッチ回転数が下限しきい値より低い)ときは、惰行制御を開始しない。これは、エンジンがアイドル状態のときにクラッチを断にしても燃料消費を抑える効果が多くは期待できないからである。よって、惰行制御実行部3は、座標点が下限しきい線ULよりも上に存在するときのみ、惰行制御を開始することになる。
【0043】
図7により、惰行制御による燃費削減効果を説明する。
【0044】
まず、惰行制御を行わないものとする。エンジン回転数は、約30sから約200sまでの間、1600〜1700rpmの範囲で遷移しており、約200sから約260sまでの間に、約1700rpmから約700rpm(アイドル回転数)へ低下している。
【0045】
エンジントルクは、約30sから約100sまでの間に増加しているが、その後、減少に転じ、約150sまで減少を続けている。エンジントルクは、約150sから約160sまでほぼ0Nmであり、約160sから約200sまでの間に増加するが、約200sにてほぼ0Nmになる。結果的に、エンジントルクがほぼ0Nmとなる期間は、約150sから約160sまで(楕円B1)、約200sから約210sまで(楕円B2)、約220sから約260sまで(楕円B3)の3箇所である。
【0046】
燃料消費量(縦軸目盛りなし;便宜上、エンジントルクと重なるように配置してある)は、約50sから約200sまではエンジントルクの遷移にほぼ随伴して変化している。エンジントルクがほぼ0Nmであっても、燃料消費量は0ではない。
【0047】
ここで、惰行制御を行うものとすると、エンジントルクがほぼ0Nmとなる期間において、エンジン回転数がアイドル回転数に制御されることになる。グラフには、惰行制御を行わないエンジン回転数の線(実線)から別れるように惰行制御時のエンジン回転数の線(太い実線)が示される。惰行制御は、楕円B1,B2,B3の3回にわたり実行された。この惰行制御が行われた期間における燃料消費量は、惰行制御を行わない場合の燃料消費量を下回っており、燃料消費が節約されたことが分かる。
【0048】
次に、惰行制御判定マップ2の具体的な設定例を説明する。
【0049】
図8に示されるように、惰行制御判定マップ2を作成するために、アクセル開度とクラッチ回転数の特性を実測し、横軸をアクセル開度とし縦軸をクラッチ回転数(=エンジン回転数;クラッチ接のとき)としたグラフを作成する。これにより、実測したエンジン出力トルクゼロ線ZLを描くことができる。エンジン出力トルクゼロ線ZLよりも左側全体がマイナス領域MAであり、右側全体がプラス領域PAである。
【0050】
エンジン出力トルクゼロ線ZLのやや左側に惰行制御しきい線TLを定義して描く。惰行制御しきい線TLのやや左側に減速ゼロしきい線TLgを推測して描く。エンジン出力トルクゼロ線ZLのやや右側に加速ゼロしきい線TLkを推測して描く。減速ゼロしきい線TLgと加速ゼロしきい線TLkに挟まれた領域を惰行制御可能領域CAと定義する。下限しきい線ULは、この例では、880rpmに設定する。
【0051】
なお、減速ゼロしきい線TLg、加速ゼロしきい線TLkは、運転者が運転しづらくない程度に設定するが、人間の感覚の問題であるため設計では数値化できないので、実車でチューニングする。惰行制御しきい線TLは、減速ゼロしきい線TLgと加速ゼロしきい線TLkの中央に設定する。
【0052】
以上のように作成した図8のグラフを適宜に数値化(離散化)して記憶素子に書き込むことにより、惰行制御実行部3がその演算処理に利用可能な惰行制御判定マップ2が得られる。
【0053】
次に、本発明の惰行制御装置1におけるプロット点の抽出から領域拡縮までの動作を説明する。
【0054】
惰行制御可能領域調節部4は、図9の手順を一定時間ごとに繰り返す。
【0055】
ステップS901にて、反転時プロット点抽出部5は、現在が惰行制御実行部3による惰行制御中であるかどうか判定する。惰行制御中であるということは、前述した4つの惰行開始条件が全て成立した後、2つの惰行終了条件がひとつも成立していないということである。YESの場合は惰行制御中であり、ステップS902へ進み、NOの場合は惰行制御中でないからステップS921へ進む。
【0056】
ステップS902にて、反転時プロット点抽出部5は、学習フラグが立っているかどうか判定する。学習フラグは、アクセル開度の変化幅を学習しているときセットされており、学習していないときクリアされているフラグである。YESの場合は学習中であるからステップS904へ進み、NOの場合は学習中でない(学習が終了した状態である)からステップS903へ進む。
【0057】
ステップS903にて、反転時プロット点抽出部5は、惰行制御中であるのに学習中でないことから、次回より学習を開始するべく、学習フラグをセットし、終了する。このようにして、惰行制御が開始されたときは学習を開始し、惰行制御中は学習が終了すると次の学習を開始する。
【0058】
ステップS904に進んだ場合は、惰行制御中の学習中であるから、反転時プロット点抽出部5は、アクセル開度が前回と同じ方向に変化しているかどうか判定する。この判定は、アクセル開度が増え続けているか又は減り続けていればYESとなり、アクセル開度が増から減又は減から増に転じていればNOとなる。ただし、車両振動などによる振動の影響を排除するために、アクセル開度の信号はローパスフィルタ、移動平均等の円滑化処理をしておくとよい。YESの場合はアクセル開度の変化方向が前回と同じ方向であるから、何もせず終了する。NOの場合はアクセル開度の変化方向が反転されたので、ステップS905へ進む。
【0059】
ステップS905にて、反転時プロット点抽出部5は、現在のクラッチ回転数とアクセル開度のプロット点を反転時プロット点として抽出する。
【0060】
次いで、ステップS906にて、片側変化幅算出部6は、惰行制御判定マップ2上で、エンジン出力トルクゼロ線ZLから反転時プロット点までのアクセル開度差(横軸上の距離)を片側変化幅として算出する。なお、片側とは、エンジン出力トルクゼロ線ZLに対してアクセル開度が大きい側及び小さい側を示し、アクセル開度の変化方向が反転される度に交番する。
【0061】
次いで、ステップS907にて、片側増減量算出部7は、惰行制御判定マップ2上で、エンジン出力トルクゼロ線ZLから惰行制御可能領域CAの片側境界までのアクセル開度差(横軸上の距離)である片側領域幅と片側変化幅との差分の定数倍を片側増減量として算出する。定数は、あらかじめ実験に基づき設定しておくとよい。
【0062】
次いで、ステップS908にて、領域拡縮部8は、この片側増減量をクラッチ回転数の全域、つまり縦軸上の全ての箇所について片側領域幅に加算することで、惰行制御可能領域CAを片側で縮小する。このように、惰行制御可能領域CAの内側でアクセル開度の変化方向が反転された場合、反転時プロット点から算出したアクセル開度の片側変化幅は惰行制御可能領域CAの片側領域幅より小さいので、惰行制御可能領域CAの縮小に寄与する。
【0063】
次いで、ステップS909にて、反転時プロット点抽出部5は、学習が終了したことを示すために学習フラグをクリアし、終了する。
【0064】
ステップS901の判定がNOの場合、惰行制御実行部3は惰行制御中でないという判定である。これは、前述した2つの惰行終了条件がひとつでも成立した後、4つの惰行開始条件が全て成立してはいないということである。この場合、ステップS921が実行される。
【0065】
ステップS921にて、反転時プロット点抽出部5は、学習フラグが立っているかどうか判定する。YESの場合は学習中であり、ステップS922へ進み、NOの場合は学習中でないから何もせず終了する。
【0066】
ステップS922に進んだ場合は、惰行制御中に開始された学習が惰行制御終了後も継続されており、惰行制御可能領域CAの外側でプロット点が反転するのを探索することになる。このように、本発明では、惰行制御終了後も学習を継続する。なお、惰行終了条件(1)によって惰行制御が終了した場合は、運転者に加速又は減速の意図、つまり惰行制御中断の意図があるので、学習を終了してもよい。惰行終了条件(2)によって惰行制御が終了した場合は、運転者に加速又は減速の意図がないまま、アクセル開度が増加又は減少しているので、学習を継続することになる。
【0067】
ステップS922にて、反転時プロット点抽出部5は、アクセル開度が前回と同じ方向に変化しているかどうか判定する。YESの場合はアクセル開度の変化方向が前回と同じ方向であるから、何もせず終了する。NOの場合はアクセル開度の変化方向が反転されたので、ステップS923へ進む。
【0068】
ステップS923にて、反転時プロット点抽出部5は、現在のクラッチ回転数とアクセル開度のプロット点を反転時プロット点として抽出する。
【0069】
次いで、ステップS924にて、片側変化幅算出部6は、惰行制御判定マップ2上で、エンジン出力トルクゼロ線ZLから反転時プロット点までのアクセル開度差を片側変化幅として算出する。
【0070】
ステップS925にて、片側変化幅算出部6は、惰行制御可能領域CAが無制限に大きくならないよう、片側変化幅があらかじめ設定してある限度値以下かどうか判定する。NOの場合は惰行制御可能領域CAの拡大を回避するべく、ステップS928へ進む。YESの場合は惰行制御可能領域CAの拡大をするべく、ステップS926へ進む。
【0071】
ステップS926にて、片側増減量算出部7は、惰行制御判定マップ2上で、エンジン出力トルクゼロ線ZLから惰行制御可能領域CAの片側境界までのアクセル開度差である片側領域幅と片側変化幅との差分の定数倍を片側増減量として算出する。
【0072】
次いで、ステップS927にて、領域拡縮部8は、この片側増減量をクラッチ回転数の全域、つまり縦軸上の全ての箇所について領域幅に加算することで、惰行制御可能領域CAを片側に拡大する。このように、惰行制御可能領域CAの外側でアクセル開度の変化方向が反転された場合、反転時プロット点から算出したアクセル開度の片側変化幅は惰行制御可能領域CAの片側領域幅より大きいので、惰行制御可能領域CAの拡大に寄与する。
【0073】
次いで、ステップS928にて、反転時プロット点抽出部5は、学習が終了したことを示すために学習フラグをクリアし、終了する。
【0074】
本発明の効果を図10〜図12により説明する。
【0075】
本発明を適用しない惰行制御装置における惰行制御判定マップへのプロット点の軌跡を図10に示す。これは、惰行制御中におけるアクセル開度の変化幅が一般より大きい運転者によるプロット点の軌跡である。
【0076】
軌跡の開始となるプロット点PSは惰行制御中であったとする。なお、説明を簡単にするため、惰行開始条件(1)は常に成立しており、惰行終了条件(1)は常に成立していないものとする。
【0077】
プロット点PSからアクセル開度が徐々に大きくなって、プロット点が惰行制御可能領域CAのプラス領域PA側に出るため、惰行終了条件(2)によって惰行制御は終了する。その後、プロット点P1でアクセル開度の変化が反転されて小さくなり、プロット点が惰行制御可能領域CAの内に入る。その後、プロット点が惰行制御しきい線TLをアクセル戻し方向で通過することで、4つの惰行開始条件が全て成立し、再び惰行制御が開始される。しかし、すぐにプロット点は惰行制御可能領域CAのマイナス領域MA側に出るため、惰行終了条件(2)によって惰行制御は終了する。プロット点P2でアクセル開度の変化が反転されて大きくなり、プロット点P3でアクセル開度の変化が反転されて小さくなり、プロット点が惰行制御可能領域CAの内で惰行制御しきい線TLをアクセル戻し方向で通過することで、三度、惰行制御が開始される。
【0078】
このように、惰行制御中におけるアクセル開度の変化幅が大きい運転者が運転を行っていると、プロット点が惰行制御可能領域CA内から惰行制御可能領域CA外に出やすいため、惰行制御を行っている時間が少なくなり、燃料消費を抑える効果が不十分となると共に、プロット点が惰行制御可能領域CA外から惰行制御可能領域CA内に戻って惰行開始条件が成立することも頻繁になるので、惰行制御の開始と終了を繰り返すハンチングが起きやすくなり、運転者に不快感を与えるおそれがある。
【0079】
これに対し、本発明を適用した惰行制御装置における惰行制御判定マップへのプロット点の軌跡を図11に示す。軌跡は図10のものと同じである。図10のプロット点P1〜P7は本発明では反転時プロット点P1〜P7として抽出される。惰行制御可能領域CAは、既に惰行制御可能領域調節部4の領域拡縮部8によって図10の惰行制御可能領域CAよりも拡大されているものとする。また、説明を簡単にするため、惰行制御可能領域CAは図11の状態のまま変わらないものとする。
【0080】
軌跡の開始となるプロット点PSは惰行制御中である。アクセル開度が徐々に大きくなり、反転時プロット点P1でアクセル開度の変化が反転されてアクセル開度が小さくなる。この間、プロット点は惰行制御可能領域CAの外に出ることはないので、惰行制御は続行される。その後も、反転時プロット点P2、P3、…、P7が抽出されるが、これらは全て惰行制御可能領域CA内にあるため、惰行制御は一度も終了することなく続行される。
【0081】
なお、実際には、惰行制御可能領域CAは、アクセル開度の変化幅が新たに学習されるたびに、拡大したり縮小したりする。しかし、惰行制御中におけるアクセル開度の変化幅が一般より大きい運転者が運転を行っている間は、図11のように惰行制御可能領域CAが大きい傾向が維持されることが期待できる。一方、惰行制御中におけるアクセル開度の変化幅が一般的な大きさの運転者あるいは一般より小さい運転者が運転を行うようになると、アクセル開度の変化幅の学習により惰行制御可能領域CAが縮小される。ただし、惰行制御可能領域CAが極端に縮小されないよう、縮小の限界を設定するとよい。あるいは、工場出荷時の惰行制御可能領域CAよりも縮小されることを禁止しておいてもよい。
【0082】
次に、アクセル開度の変化幅を学習する実際の様子を説明する。
【0083】
図12に示されるように、アクセルペダルが開放状態から踏み込まれてアクセル開度が大きくなり、それによってクラッチ回転数が大きくなり、車両が加速される。その後、アクセルペダルが戻し方向に操作され、時点t1にて惰行制御が開始される。なお、この時点t1のアクセル開度は、この時点t1での惰行制御可能領域CA内にあったので惰行制御が開始されている。図中の「惰行制御可能領域の領域幅」は、時点t1よりも後、クラッチ回転数が下がったときのものである。
【0084】
その後、時点t2とt4にてそれぞれ惰行制御可能領域CA外の反転時プロット点が抽出されたことにより、「惰行制御可能領域の領域幅」よりも広い「アクセル開度の変化幅」が得られている。しかし、時点t3で抽出された反転時プロット点については、アクセル開度の変化幅が限度を超えるため、採用されていない。なお、領域幅や変化幅は、手順のところで説明したように、エンジン出力トルクゼロ線ZLを基準にアクセル開度の大きい側と小さい側について片側ずつ別々に求めている。
【0085】
以上説明したように、本発明の惰行制御装置1によれば、アクセル開度の変化幅を学習し、惰行制御可能領域CAの領域幅よりアクセル開度の変化幅が大きいときには惰行制御可能領域CAを拡大させ、惰行制御可能領域CAの領域幅よりアクセル開度の変化幅が小さいときには惰行制御可能領域CAを縮小させる惰行制御可能領域調節部4を備えたので、惰行制御中におけるアクセル開度の変化幅が大きい運転者の運転によく対応して惰行制御可能領域CAを拡大させることができ、惰行制御を行っている時間が長く延びると共に、惰行制御の開始と終了を繰り返すハンチングが回避される。
【0086】
なお、本実施形態では惰行制御可能領域CAをプラス領域PA側とマイナス領域MA側(出力トルクゼロ線ZLよりアクセル開度が大きい側と小さい側)にそれぞれ拡大縮小するものとしたが、プラス領域PA側のみあるいはマイナス領域MA側のみに拡大縮小するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0087】
1 惰行制御装置
2 惰行制御判定マップ
3 惰行制御実行部
4 惰行制御可能領域調節部
5 反転時プロット点抽出部
6 片側変化幅算出部
7 片側増減量算出部
8 領域拡縮部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラッチ回転数とアクセル開度で参照される惰行制御判定マップと、
前記惰行制御判定マップへのクラッチ回転数とアクセル開度のプロット点が、エンジン出力トルクが負となる領域とエンジン出力トルクが正となる領域との境界となるエンジン出力トルクゼロ線を含むように形成された惰行制御可能領域内にあって、アクセルペダル操作速度が所定範囲内にて、かつクラッチ回転数とアクセル開度のプロット点がエンジン出力トルクゼロ線の近傍に設定された惰行制御しきい線をアクセル開度減少方向に通過したとき、クラッチを断すると共にエンジン回転数を低下させて惰行制御を開始し、アクセルペダル操作速度が所定範囲外となったか又はプロット点が惰行制御可能領域外に出たとき惰行制御を終了する惰行制御実行部と、
アクセル開度の変化幅を学習し、惰行制御可能領域の領域幅よりアクセル開度の変化幅が大きいときには惰行制御可能領域を拡大させ、惰行制御可能領域の領域幅よりアクセル開度の変化幅が小さいときには惰行制御可能領域を縮小させる惰行制御可能領域調節部とを備えたことを特徴とする惰行制御装置。
【請求項2】
前記惰行制御可能領域調節部は、
惰行制御中に学習を開始し、アクセル開度の変化方向が反転されたときのクラッチ回転数とアクセル開度のプロット点を反転時プロット点として抽出する反転時プロット点抽出部と、
前記惰行制御判定マップ上で、エンジン出力トルクゼロ線から反転時プロット点までのアクセル開度差を片側変化幅として算出する片側変化幅算出部と、
前記惰行制御判定マップ上で、エンジン出力トルクゼロ線から惰行制御可能領域境界までのアクセル開度差である片側領域幅と前記片側変化幅との差分の定数倍を片側増減量として算出する片側増減量算出部と、
この片側増減量をクラッチ回転数の全域について片側領域幅に加算することで、惰行制御可能領域を拡大縮小する領域拡縮部とを備えたことを特徴とする請求項1記載の惰行制御装置。
【請求項1】
クラッチ回転数とアクセル開度で参照される惰行制御判定マップと、
前記惰行制御判定マップへのクラッチ回転数とアクセル開度のプロット点が、エンジン出力トルクが負となる領域とエンジン出力トルクが正となる領域との境界となるエンジン出力トルクゼロ線を含むように形成された惰行制御可能領域内にあって、アクセルペダル操作速度が所定範囲内にて、かつクラッチ回転数とアクセル開度のプロット点がエンジン出力トルクゼロ線の近傍に設定された惰行制御しきい線をアクセル開度減少方向に通過したとき、クラッチを断すると共にエンジン回転数を低下させて惰行制御を開始し、アクセルペダル操作速度が所定範囲外となったか又はプロット点が惰行制御可能領域外に出たとき惰行制御を終了する惰行制御実行部と、
アクセル開度の変化幅を学習し、惰行制御可能領域の領域幅よりアクセル開度の変化幅が大きいときには惰行制御可能領域を拡大させ、惰行制御可能領域の領域幅よりアクセル開度の変化幅が小さいときには惰行制御可能領域を縮小させる惰行制御可能領域調節部とを備えたことを特徴とする惰行制御装置。
【請求項2】
前記惰行制御可能領域調節部は、
惰行制御中に学習を開始し、アクセル開度の変化方向が反転されたときのクラッチ回転数とアクセル開度のプロット点を反転時プロット点として抽出する反転時プロット点抽出部と、
前記惰行制御判定マップ上で、エンジン出力トルクゼロ線から反転時プロット点までのアクセル開度差を片側変化幅として算出する片側変化幅算出部と、
前記惰行制御判定マップ上で、エンジン出力トルクゼロ線から惰行制御可能領域境界までのアクセル開度差である片側領域幅と前記片側変化幅との差分の定数倍を片側増減量として算出する片側増減量算出部と、
この片側増減量をクラッチ回転数の全域について片側領域幅に加算することで、惰行制御可能領域を拡大縮小する領域拡縮部とを備えたことを特徴とする請求項1記載の惰行制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−20699(P2012−20699A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161517(P2010−161517)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【出願人】(391008559)株式会社トランストロン (30)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【出願人】(391008559)株式会社トランストロン (30)
【Fターム(参考)】
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