説明

感光性化合物、感光性組成物、およびパターン形成方法

【課題】高い解像度と改善されたエッジラフネスとを備えるとともに、アルカリ現像可能な感光性組成物用の化合物、並びにそれを用いた感光性組成物、パターン形成方法を提供する。
【解決手段】1、2−ナフトキノン−2−ジアジド−4−スルホニル基又は1、2−ナフトキノン−2−ジアジド−5−スルホニル基を有する1、3、5−トリス(パラ−(パラ−ヒドロキシフェニル)フェニル)ベンゼン誘導体化合物、該感光性化合物と溶媒を含有する感光性組成物、並びに該感光性組成物を含む感光性層を形成する工程等を含むパターン形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子などの製造工程における微細加工に用いられる感光性組成物、およびそれを用いたパターン形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LSIなどの高集積化に伴ない、フォトリソグラフィーを利用した微細加工技術は近年100nm以下のレベルにまで及んでいる。アルカリ可溶性の低分子化合物を用いたレジストとして、例えば、10個のベンゼン環から構成されるフェノール誘導体を用いたポジ型レジストが提案されている(例えば、特許文献1参照)。かかるレジストは、酸拡散機構を含む化学増幅型レジストであるので、スループットが高い点では有利であるものの、超微細パターンを形成する際には問題が生じる。例えば、露光部から未露光部への酸の拡散に起因して解像性に限界があり、ラフネスも顕著化するおそれがある。
【0003】
光酸発生剤が含有されない非化学増幅型レジストであれば、酸拡散の問題は回避できる。低分子化合物を用いた非化学増幅型レジストとしては、カリックスアレーンを用いたものが提案されている(例えば非特許文献1参照)が、カリックスアレーンは非常に低感度である。
【0004】
i線(365nm)を用いた光リソグラフィーにおいて、0.35μm以下の微細な寸法のレジストパターンを形成可能な光レジスト材料として、アルカリ可溶性ノボラック樹脂と非ベンゾフェノン系のナフトキノンジアジド基含有化合物(感光性成分)とを含有してなるポジ型光レジスト組成物が種々提案されている。いずれにおいても、ナフトキノンジアジド基含有化合物に加えてアルカリ可溶性のノボラック樹脂が含有されなければ、成膜して光レジストとして機能させることができない。
【0005】
分子集合体の大きなノボラック樹脂に起因して、微細領域における解像性やラフネスは低下してしまう。ナフトキノンジアジドを直接、アモルファス性の低分子化合物であるカリックスレゾシナレンに結合させたものは、高解像性が実証されている(例えば非特許文献2参照)。しかしながら、感度が低いことが問題であった。
【特許文献1】特開2003−183227号公報
【非特許文献1】Jpn.J.Appl.Phys.,42,3913(2003)
【非特許文献2】Chem.Mater.,19,3780(2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高い解像度および優れたエッジラフネスを備えた感光性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様にかかる化合物は、下記一般式(I)で表わされることを特徴とする。
【化3】

【0008】
(上記一般式(I)中、Rの少なくとも一部は、以下に示す(NQ1)および(NQ2)から選択され、残りは水素原子である。)
【化4】

【0009】
本発明の一態様にかかる感光性組成物は、前述の感光性化合物と溶媒とを含有することを特徴とする。
【0010】
本発明の一態様にかかるパターン形成方法は、基板上に前述の感光性組成物を含む感光性層を形成する工程と、
前記感光性層の所定の領域に紫外線を照射してパターン露光する工程と、
前記パターン露光後の感光性層をアルカリ水溶液で現像処理して、前記感光性層の露光部を選択的に除去する工程とを具備することを特徴とする。
【0011】
本発明の他の態様にかかるパターン形成方法は、基板上に前述の感光性組成物を含む感光性層を形成する工程と、
前記感光性層の所定の領域に電離放射線を照射してパターン露光する工程と、
前記パターン露光後の感光性層を有機溶媒で現像処理して、前記感光性層の未露光部を選択的に除去する工程とを具備することを特徴とする。
【0012】
本発明の他の態様にかかるパターン形成方法は、基板上に前述の感光性組成物を含む感光性層を形成する工程と、
前記感光性層の所定の領域に電離放射線を照射してパターン露光する工程と、
前記パターン露光後の感光性層の全領域に紫外線を照射して全面露光する工程と、
前記全面露光後の感光性層をアルカリ水溶液で現像処理して、前記感光性層の未露光部を選択的に除去する工程とを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高い解像度および優れたエッジラフネスを備えた感光性組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0015】
本発明の一実施形態にかかる感光性化合物は、前記一般式(I)で表わされる。かかる化合物は、7個のベンゼンで構成され、中心のベンゼン環から3方向に連続して連なった構造の低分子化合物である。3方向の固定化された位置にフェニレンを有していることから、構造自体の剛性が高く、エントロピー変化が抑制される。エントロピー変化が抑制されると、ガラス転移温度が上昇する。これによって、現像時に発生するパターンラフネスが抑制される。しかも、7個のベンゼン環で構成されていることによって1分子の大きさが小さく、分子の大きさが原因となるエッジラフネスが低減される。
【0016】
本発明の実施形態にかかる一般式(I)で表わされる化合物は、反応する箇所が分子内で最大でも3箇所しかなく、高い感度が得られる。さらに、中心のベンゼン環から3方向に飛び出したベンゼン環のパラ位に別のベンゼン環を有するため、ベンゼン環同士が共鳴効果を起こしやすい。加えて、末端のベンゼン環は、いずれもパラ位に(−OR)を有することから、共鳴効果はよりいっそう高められる。共鳴効果が高いと末端のナフトキノンジアジドが反応しやすくなると考えられる。
【0017】
前記一般式(I)で表わされる化合物は、例えば以下のような手法により合成することができる。まず、出発物質として、1、3,5−トリス(パラ−ブロモフェニル)ベンゼンと4−(メトキシフェニル)ボロン酸とを用いて、1、3、5−トリス(パラ−(パラ−メトキシフェニル)フェニル)ベンゼンを得る。
【0018】
次いで、全てのメトキシ基をヒドロキシ基で置き換えて、1、3、5−トリス(パラ−(パラ−ヒドロキシフェニル)フェニル)ベンゼンを合成する。ここで得られるのは、前記一般式(I)において、全てのRに水素原子が導入された化合物である。
【0019】
1、3、5−トリス(パラ−(パラ−ヒドロキシフェニル)フェニル)ベンゼンと1、2−ナフトキノン−2−ジアジド−4−スルホニルクロリドとを反応させることによって、Rとしての水素原子を(NQ1)で置き換えることができる。1、2−ナフトキノン−2−ジアジド−5−スルホニルクロリドを用いた場合には、Rとしての水素原子を(NQ2)で置き換えることができる。
【0020】
(NQ1)および(NQ2)は反応点となることから、Rの少なくとも33%は、こうした置換基が導入されていることが望まれる。置換率は66%以上がより好ましく、100%が最も好ましい。種々の溶剤へ多量に溶解させたい場合、溶剤に対する溶解度の向上などが求められる場合には、Rの33%以上が水素原子でもよい。置換率は、例えば、次のような手法により制御することができる。まず、1、3、5−トリス(パラ−(パラ−ヒドロキシフェニル)フェニル)ベンゼンと1、2−ナフトキノン−2−ジアジド−4−スルホニルクロリドとの仕込み比率を変えて、テトラヒドロフラン(THF)に溶解させる。次いで、触媒としてのNa2CO3およびフェニルトリエチルアミンを加えて反応させることにより、目的の化合物を得ることができる。
【0021】
前記一般式(I)で表わされる化合物においては,(NQ1)および(NQ2)が同時に存在していてもよい。例えば、次のような手法を採用することができる。まず、1、3、5−トリス(パラ−(パラ−ヒドロキシフェニル)フェニル)ベンゼンと、1、2−ナフトキノン−2−ジアジド−4−スルホニルクロリドと1、2−ナフトキノン−2−ジアジド−5−スルホニルクロリドとを全て同時にTHFに溶解、混合する。次いで、触媒としてのNa2CO3およびフェニルトリエチルアミンを加えて反応させることによって、(NQ1)および(NQ2)が同時に含有された化合物を合成することができる。
【0022】
本発明の実施形態にかかる感光性組成物は、上述した各成分を溶剤に溶解し、メンブレンフィルターなどで濾過することによって調製することができる。溶剤としては、ケトン類、セロソルブ類、およびエステル類といった有機溶媒が挙げられる。具体的には、ケトンとしては、例えばシクロヘキサノン、アセトン、エチルメチルケトン、およびメチルイソブチルケトンなどが挙げられる。セロソルブル類としては、例えばメチルセロソルブ、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、およびブチルセロソルブアセテートなどが挙げられる。また、エステル類としては、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソアミル、γ−ブチロラクトン、および3−メトキシプロピオン酸メチルなどが挙げられる。上述したような溶剤は、必要に応じて2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
感光性組成物の種類によっては、溶解性を向上させるためにジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジノン、アニソール、モノクロロベンゼン、あるいはオルトジクロロベンゼンなどを、溶剤の一部として用いることもできる。さらには、低毒性溶媒として乳酸エチルなどの乳酸エステル、プロピレングリコールモノエチルアセテートなどを用いてもよい。
【0024】
基本的には、前記一般式(I)で表わされる化合物と溶媒とによって、本発明の実施形態にかかる感光性組成物が調製される。
【0025】
必要に応じて、さらに添加剤を配合することができる。例えば、本発明の実施形態にかかる感光性組成物を含有する感光性層をパターニングしてパターンを形成する際に、感光性層の製膜性、パターンの密着性、現像速度のバラツキの低減等が要求される場合には、感光性組成物に界面活性剤を配合すればよい。
【0026】
具体的には、次の化合物が挙げられる。例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類;ポリオキシエチレンオクチルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェノールエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類;ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類;ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、ソルビタントリステアレート等のソルビタン脂肪酸エステル類;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテ− ト、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等のノニオン系界面活性剤、ヘキサフルオロプロペンオリゴマー等のフッ素系界面活性剤、ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体等のシリコン系界面活性剤等である。
【0027】
上述したような添加剤は、組成物全体の50〜400ppm程度の量で含有されていれば、添加剤の効果を得ることができる。
【0028】
本発明の実施形態にかかる感光性組成物を用いてパターンを形成するにあたっては、まず、感光性組成物を基板上に塗布して感光性層を形成する。基板としては、任意のものを用いることができる。基板としては具体的には、シリコンウェハー、ドーピングされたシリコンウェハー、表面に各種の絶縁膜、電極、または配線が形成されたシリコンウェハー、マスクブランクス、GaAsまたはAlGaAsなどのIII−V族化合物半導体ウェハーなどを挙げることができる。さらに、クロムまたは酸化クロム蒸着基板、アルミニウム蒸着基板、IBSPGコート基板、SOGコート基板、またはSiNコート基板を用いることもできる。
【0029】
こうした基板上に感光性組成物を塗布するには任意の方法を採用することができ、例えば、スピンコーティング、ディップコーティング、ドクターブレード法、およびカーテンコーティングなどが挙げられる。
【0030】
塗布された感光性組成物を加熱乾燥して、感光性層が形成される。感光性化合物は未露光のときであっても、高温加熱で分解・重合反応を起こし、反応してしまうおそれがあることから、加熱乾燥の温度は170℃以下が好ましく、70〜120℃が好ましい。
【0031】
次に、感光性層の所定の領域に化学放射線を照射してパターン露光を行なう。露光は、所定のマスクパターンを介して、感光性層に化学放射線を照射することにより行なうことができる。あるいは、マスクパターンを用いずに、感光性層に電離放射線を直接走査させて露光を行なってもよい。
【0032】
本発明の一実施形態にかかるパターン形成方法においては、感光性層の所定の領域に紫外線を照射してパターン露光が行なわれる。
【0033】
露光に用いる紫外線は、前記の感光性組成物が感度を有する波長を持つ光であれば任意のものを用いることができる。具体的には、紫外線、水銀ランプのi線、h線、またはg線、キセノンランプ光、深紫外UV光(例えばKrFまたはArFなどのエキシマーレーザー光)、およびその他の光を用いることができる。
【0034】
前記一般式(I)で表わされる化合物は、紫外線を照射することにより、(NQ1)または(NQ2)で表わされるナフトキノンジアジド類がインデンカルボン酸に化学変化して、アルカリ可溶性を呈する。その結果、アルカリ水溶液で現像処理を施すことにより、感光性層の露光部を選択的に溶解除去することができる。
【0035】
現像処理のためのアルカリ現像液としては、有機アルカリ水溶液および無機アルカリ水溶液のいずれを用いてもよい。有機アルカリ水溶液としては、例えばテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド水溶液、およびコリン水溶液などが挙げられ、無機アルカリ水溶液としては、例えば水酸化カリウム水溶液、および水酸化ナトリウム水溶液などが挙げられる。アルカリ現像液のpHが11以下の場合には、廃液処理が環境に対して低負荷である点で有利である。
【0036】
アルカリ現像液の濃度は限定されないが、感光性層の露光部と未露光部との溶解速度差を大きくして、十分な溶解コントラストを確保するために、15モル%以下の濃度であることが好ましい。この濃度は、マトリックス化合物に導入された保護基の量に応じて調整することが必要である。
【0037】
また、これらの現像液には、必要に応じて任意の添加剤を添加することもできる。例えば、界面活性剤を添加して現像液の表面張力を下げたり、中性塩を加えて現像を活性にすることもできる。
【0038】
界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸モノエステル、ショ糖脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルアミド、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルアミド、ポリオキシエチレンアルキルアミノエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルアミノエーテル、ポリオキシエチレンアセチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアセチレングリコール、およびアルキルリン酸エステル塩等のノニオン性界面活性剤;モノアルキルアミンおよびその塩、アルキルトリメチルアミンおよびの塩、ジアルキルジメチルアミンおよびその塩、イミダゾリニウムおよびその塩、アルキルベンジルジメチル四級アンモニウムおよびその塩、ベンジルピリジニウムおよびその塩、アルキルピリジニウムおよびその塩、ポリオキシエチレンアルキルベンジルアンモニウム等のカチオン性界面活性剤等を用いることができる。
【0039】
中性塩としては、例えばテトラメチルアンモニウム、トリメチルエチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、トリメチルヒドロキシエチルアンモニウム、メチルトリヒドロキシエチルアンモニウム、ジメチルジヒドロキシエチルアンモニウム等のテトラアルキルアンモニウムや、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン等のアルキルアミンや、エタノールアミン、ジエタノールアミン、およびトリエタノールアミン等のアルカノールアミン等の炭酸塩や炭酸水素塩等が挙げられる。現像液の温度も任意であり、0〜100℃の範囲内で適宜決定すればよい。
【0040】
こうして、紫外線を用いたパターン露光とアルカリ水溶液による現像処理とによって、ポジ型のパターンが形成される。
【0041】
本発明の他の実施形態にかかるパターン形成方法においては、感光性層の所定の領域に電離放射線を照射してパターン露光が行なわれる。
【0042】
露光に用いる電離放射線は、前記一般式(I)で表わされる化合物が自己重合反応を起こす電離放射線であれば任意のものを用いることができる。具体的には、X線、シンクロトロンオービタルラジエーション(SR)、電子線、γ線、イオンビーム、およびその他の光を用いることができる。
【0043】
前記一般式(I)で表わされる化合物は、電離放射線を照射することにより、(NQ1)または(NQ2)で表わされるナフトキノンジアジド類が自己重合を起こし、高分子量化する。露光部は、有機溶媒に不溶となるので有機溶媒で現像処理を施すことにより、感光性層の未露光部を選択的に溶解除去することができる。
【0044】
有機溶媒としては、ケトン類、セロソルブ類、およびエステル類などが挙げられる。具体的には、ケトンとしては、例えばシクロヘキサノン、アセトン、エチルメチルケトン、およびメチルイソブチルケトンなどが挙げられる。セロソルブル類としては、例えばメチルセロソルブ、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、およびブチルセロソルブアセテートなどが挙げられる。また、エステル類としては、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソアミル、γ−ブチロラクトン、および3−メトキシプロピオン酸メチルなどが挙げられる。上述したような溶剤は、必要に応じて2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
また、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジノン、アニソール、モノクロロベンゼン、あるいはオルトジクロロベンゼンなどを、溶剤の一部として用いることもできる。さらには、低毒性溶媒として乳酸エチルなどの乳酸エステル、プロピレングリコールモノエチルアセテートなどを用いてもよい。
【0046】
こうして、電離放射線を用いたパターン露光と有機溶媒を用いた現像処理とによって、ネガ型のパターンが形成される。
【0047】
本発明の他の実施形態にかかるパターン形成方法においては、感光性層の所定の領域に電離放射線を照射してパターン露光が行なわれる。上述したように、前記一般式(I)で表わされる化合物が自己重合反応を起こす任意の電離放射線を用いることができる。電離放射線を感光性層の所定の領域に照射することによって、露光部では自己重合反応が生じる。
【0048】
電離放射線によるパターン露光に引き続いて、感光性層の全面に紫外線が照射される。電離放射線が照射されなかった感光性層の未露光部においては、(NQ1)または(NQ2)で表わされるナフトキノンジアジド類がインデンカルボン酸に化学変化して、アルカリ可溶性を呈する。その結果、アルカリ水溶液で現像処理を施すことにより、感光性層の露光部を選択的に溶解除去することができる。
【0049】
パターン露光のための電離放射線、全面露光のための紫外線、および現像処理のためのアルカリ水溶液としては、すでに説明したものを用いることができる。
【0050】
こうして、電離放射線を用いたパターン露光、紫外線による全面露光、およびアルカリ水溶液を用いた現像処理によって、ネガ型のパターンが形成される。
【0051】
上述したいずれの方法においても、必要に応じて、さらに工程を加えることができる。例えば、基板上に感光性層を形成する前に平坦化層形成させる工程、露光光の反射を低減させるための反射防止層を形成させる工程、現像処理後の基板を水などで洗浄して、現像液などを除去するリンス工程、および、ドライエッチング耐性を制御するために、パターニング後のレジスト層に紫外線を再度照射する工程などを、前述の工程に組み合わせることができる。
【0052】
すでに説明したように、ポジ型のパターンを形成する場合には、現像処理によって感光性層の露光部が選択的に溶解除去される。一方、ネガ型のパターンを形成する場合には、感光性層の未露光部が選択的に溶解除去される。本発明の実施形態にかかる感光性組成物が用いられるので、本発明の実施形態にかかる方法によって、エッジラフネスが低減されたパターンを、高い解像度および感度で形成することが可能である。
【0053】
以下、本発明の具体例を示す。
【0054】
(合成例1)
市販の1、3,5−トリス(パラ−ブロモフェニル)ベンゼン(5.43g)と4−(メトキシフェニル)ボロン酸(6.08g)と炭酸カリウム(5.53g)とを三口フラスコに収容し、アルゴン置換した。ここに、脱水トルエン100mlを加えて、よく撹拌して、さらにテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0.2g)を加えた。得られた混合物を、90℃で8時間撹拌した。
【0055】
室温に冷却したところ、灰白色の沈殿物が生じた。この沈殿物をろ過し、得られた赤色のろ液は分取して放置した。一方、灰白色の沈殿物は大量のトルエンに溶解し、100℃で撹拌、溶解した後、熱ろ過してろ液を得た。エバポレーターにより、ろ液から溶媒を除去してやや灰色がかった白色の残留物が得られた。
【0056】
残留物をトルエンから再結晶して吸引ろ過して、真空中60℃で乾燥後、純粋な白色生成物が生じた(収量3.15g、収率50.4%)。1H−NMR測定の結果は、以下のとおりである。
【0057】
1H−NMR(δ,270MHz,CDCl3):3.87(s,9H,CH3),7.00−7.04(m,6H,Ph−H),7.60−7.80(m,18H,Ph−H),7.87(s,3H,Ph−H).
白色生成物は、下記化学式で表わされる(1、3、5−トリス(パラ−(パラ−メトキシフェニル)フェニル)ベンゼン(以下TMTPPBと称する))と同定された。
【化5】

【0058】
(合成例2)
前述の合成例1で得られたTMTPPB(2g)を三口フラスコに収容し、アルゴン置換した。その中へ脱水ジクロロメタン(120ml)を加えて撹拌し、基質を溶解した。次に、1Mトリブロモホウ素/ジクロロメタン溶液(22.4ml)を除々に滴下し、40℃で8時間撹拌した。その後、室温まで冷却し、75mlの純水を徐々に加えて1〜2時間撹拌した。
【0059】
酢酸エチルで3回抽出して有機層を得、この有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。乾燥後の有機層をろ過して無水硫酸ナトリウムを除去し、エバポレーターで乾固させて固体を得た。得られた固体を少量の冷メタノールで洗って吸引ろ過し、60℃で乾燥させて純粋な生成物が得られた(収量1.11g、収率59.4%)。1H−NMR測定の結果は、以下のとおりである。
【0060】
1H−NMR(δ,270MHz,THF−d):6.82−6.85(m,6H,Ph−H),7.51−7.54(m,6H,Ph−H),7.67−7.70(m,6H,Ph−H),7.82−7.85(m,6H,Ph−H),7.93(s,3H,Ph−H),8.35(s,3H,OH)
白色生成物は、下記化学式で表わされる(1、3、5−トリス(パラ−(パラ−ヒドロキシフェニル)フェニル)ベンゼン(以下THTPPBと称する))と同定された。
【化6】

【0061】
TG/DTA測定解析から、ガラス転移温度(Tg)は145℃、融点(Tm)は240℃であった。
【0062】
なお、下記化学式で表わされる1,3,5−トリス[3,5−ジ(4−ターシャリーブトキシカルボニルオキシルフェニル)フェニル]ベンゼンのガラス転移温度は、140℃であった。
【化7】

【0063】
(合成例3)
前述の合成例2で得られたTHTPPB(0.20g)を三口フラスコに収容し、アルゴン置換した。THF(10ml)を加えて溶解し、撹拌しつつNa2CO3(0.082g)、フェニルトリエチルアミン(0.03g)、および1、2−ナフトキノン−2−ジアジド−4−スルホニルクロリドを順次添加した。これを、40℃で1.5時間撹拌した。
【0064】
HCl(0.018ml)を含有した冷メタノール(36ml)を準備し、この中に前述の反応溶液を滴下して5〜10℃で終夜放置した。精製された生成物をろ過し、真空乾燥させて、黄色粉末の生成物が得られた(収量0.27g、収率62.6%)。1H−NMR測定の結果は、以下のとおりである。
【0065】
1H−NMR(δ,270MHz,THF−d):7.05−7.08(m,6H,Ph−H),7.53−7.56(m,3H,Ph−H),7.61−7.64(m,6H,Ph−H),7.68−7.71(m,3H,Ph−H),7.75−7.78(m,3H,Ph−H),7.83−7.87(m,6H,Ph−H),7.87−7.88(m,6H,Ph−H),7.93(s,3H,Ph−H),8.46−8.49(m,3H,Ph−H),8.49−8.52(m,3H,Ph−H).
生成物は、下記化学式で表わされる(1、3、5−トリス(パラ−(パラ−1、2−ナフトキノン−2−ジアジド−4−スルホニルフェニル)フェニル)ベンゼン(以下NQD4TPPBと称する))と同定された。
【化8】

【0066】
(合成例4)
前述の合成例2で得られたTHTPPB(0.20g)を三口フラスコに収容し、アルゴン置換した。THF(10ml)を加えて溶解し、撹拌しつつNa2CO3(0.082g)、フェニルトリエチルアミン(0.03g)、および1、2−ナフトキノン−2−ジアジド−5−スルホニルクロリドを順次添加した。これを、40℃で1.5時間撹拌した。
【0067】
HCl(0.018ml)を含有した冷メタノール(36ml)を準備し、この中に前述の反応溶液を滴下して5〜10℃で終夜放置した。精製された生成物をろ過し、真空乾燥させて、黄色粉末の生成物が得られた(収量0.28g、収率64.3%)。1H−NMR測定の結果は、以下のとおりである。
【0068】
1H−NMR(δ,270MHz,THF−d):7.01−7.05(m,6H,Ph−H),7.24−7.26(m,3H,Ph−H),7.24−7.26(m,3H,Ph−H),7.24−7.28(m,6H,Ph−H),7.47−7.50(m,6H,Ph−H),7.50−7.53(m,6H,Ph−H),7.59−7.63(m,3H,Ph−H),7.83(m,3H,Ph−H),8.19−8.22(m,3H,Ph−H),8.67−8.70(m,3H,Ph−H).
生成物は、下記化学式で表わされる(1、3、5−トリス(パラ−(パラ−1、2−ナフトキノン−2−ジアジド−5−スルホニルフェニル)フェニル)ベンゼン(以下NQD5TPPBと称する))と同定された。
【化9】

【0069】
以上のように、7個のベンゼン環で構成される化合物を合成した。各化合物を溶剤としてのアニソールに溶解してレジスト液を調製した。レジスト液の処方を、下記表1に示す。表中の濃度は、溶剤に対するマトリックス化合物の重量%である。
【表1】

【0070】
※1:レジストNo.2においてはNAQ5TPPBの溶け残りがあり、濾過して飽和溶液の状態で用いた。
【0071】
上述のように調製されたレジスト液を用いてレジスト膜を形成し、パターニングを行なった。
【0072】
(実施例1,2)
レジスト液をスピンコーティングによりシリコンウェハー上に塗布して、膜厚200nm前後のレジスト膜を形成した。得られたレジスト膜を110℃で90秒間ベーキングした後、フォトマスクを被せ、両端をクリップで挟んで10分間紫外線でパターン露光を行なった。
【0073】
露光後、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)水溶液により現像を行ない、ポジ型のパターンを得た。処理の条件および結果を下記表2にまとめる。なお、全ての条件において、パターンの剥がれは観察されず、解像性は、この方式の露光方法を用いた場合としては限界解像度の1μmを観察した。
【表2】

【0074】
参考までに表2の結果から明らかなように、本発明の実施形態にかかるレジストを用いてパターン形成を行なった場合、いずれもアルカリ現像によるパターン形成が可能である。感光機構を考えると、i線にも感光することは容易に推測できる。すなわちi線露光にも本発明の実施形態にかかるレジストは応用することが充分可能である。
【0075】
(実施例3,4)
レジスト液をスピンコーティングによりシリコンウェハー上に塗布して、膜厚100nm前後のレジスト膜を形成した。得られたレジスト膜を110℃で90秒間ベーキングした後、電子線描画装置(電子線の加速電圧は30keV)、20μC/cm2から330μC/cm2までの電子線照射量の範囲で、ハーフピッチ100nmラインアンドスペース(1:1)パターンの描画を行なった。
【0076】
露光後、アセトンにより現像を行なって、ネガ型のパターンを得た。処理の条件および得られた結果を下記表3にまとめる。
【表3】

【0077】
ラフネスの評価は、次に示すラインワイズラフネス(LWR)評価の方法で行なった。レジスト膜を電子線描画してベーキング処理、TMAH水溶液による現像処理を行なって、線幅100nmで一定のラインアンドスペースパターンを得た。得られたパターンを350nm×50nm(ROI)の範囲でLWRの値(3σ値)を算出した。
【0078】
上記表3中の比較例1で用いたレジスト5は、マトリックス化合物としてのノボラック樹脂(レチトックPSF2807)と、感光性成分とを、以下の処方で溶剤に溶解して調製した。感光性成分としては、ナフトキノン誘導体2,3,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンの4−ナフトキノンジアジドスルホン酸を平均3個導入したナフトキノンジアジド化合物(東洋合成社製4NT(4)300)を用い、溶剤としては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを用いた。
【表4】

【0079】
マトリックス化合物の含有量は、溶剤に対する重量%であり、感光性成分の量はマトリックス化合物に対する重量%である。
【0080】
形成したパターンを走査型電子顕微鏡で観察した結果、表5の結果から明らかなように、本発明の実施形態にかかるレジストを用いた場合、ハーフピッチ100nmラインアンドスペース(1:1)パターンを形成できたが、比較例1のレジスト5を用いた場合、ハーフピッチ100nmラインアンドスペース(1:1)パターンを形成できなかった。実施例のレジストを用いた場合、LWRが小さいことがわかった。LWRが小さいと、高い解像性が達成できることは容易に推測できる。
【0081】
(実施例5,6)
レジスト液をシリコンウェハー上にスピンコーティングにより塗布して、膜厚100nm前後のレジスト膜を形成した。得られたレジスト膜を110℃で90秒間ベーキングした後、電子線描画装置(電子線の加速電圧は30keV)でハーフピッチ100nmラインアンドスペース(1:1)パターンの描画を行なった。
【0082】
露光後、紫外線で全面露光し、その後、2.38%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)水溶液により現像を行なってネガ型のパターンを得た。処理の条件および得られた結果を、下記表5にまとめる。
【表5】

【0083】
表5の結果から明らかなように、実施例のレジストを用いて、電子線で描画後、全面を紫外線で露光することによって、TMAH水溶液などのアルカリ水溶液での現像が可能になることがわかった。また、LWRが小さいことから、高い解像性が達成できることは容易に推測できる。
【0084】
参考までに感光機構を考えると、本発明の実施形態にかかるレジストを用いてパターン形成を行なった場合、軟X線(13nm)のEUV光にも感光することは容易に推測できる。すなわち将来のEUVリソグラフィーにも、本発明の実施形態にかかるレジストは応用することが充分可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表わされることを特徴とする感光性化合物。
【化1】

(上記一般式(I)中、Rの少なくとも一部は、以下に示す(NQ1)および(NQ2)から選択され、残りは水素原子である。)
【化2】

【請求項2】
請求項1に記載の感光性化合物と溶媒とを含有することを特徴とする感光性組成物。
【請求項3】
基板上に請求項2に記載の感光性組成物を含む感光性層を形成する工程と、
前記感光性層の所定の領域に紫外線を照射してパターン露光する工程と、
前記パターン露光後の感光性層をアルカリ水溶液で現像処理して、前記感光性層の露光部を選択的に除去する工程と
を具備することを特徴とするパターン形成方法。
【請求項4】
基板上に請求項2に記載の感光性組成物を含む感光性層を形成する工程と、
前記感光性層の所定の領域に電離放射線を照射してパターン露光する工程と、
前記パターン露光後の感光性層を有機溶媒で現像処理して、前記感光性層の未露光部を選択的に除去する工程と
を具備することを特徴とするパターン形成方法。
【請求項5】
基板上に請求項2に記載の感光性組成物を含む感光性層を形成する工程と、
前記感光性層の所定の領域に電離放射線を照射してパターン露光する工程と、
前記パターン露光後の感光性層の全領域に紫外線を照射して全面露光する工程と、
前記全面露光後の感光性層をアルカリ水溶液で現像処理して、前記感光性層の未露光部を選択的に除去する工程と
を具備することを特徴とするパターン形成方法。

【公開番号】特開2010−77038(P2010−77038A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−244810(P2008−244810)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】