説明

感光性樹脂組成物、物品、及びパターン形成方法

【課題】最終的に得られるポリイミドの化学構造を問わず溶解性コントラストを得られ、形状が良好なパターンを得ることができ、簡便に合成できて安価に入手可能な、感光性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】側鎖にヘミアセタール構造を有する下記式(1)で表わされる繰り返し単位を有するポリイミド前駆体、及び、光の作用によりカルボン酸を発生させる化合物を含有する、感光性樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波によるパターニング工程を経て形成される製品又は部材の材料(例えば、電子部品、光学製品、光学部品の成形材料、層形成材料又は接着剤など)として好適に利用することが出来る、ポリイミド前駆体を用いた感光性樹脂組成物、及び、当該樹脂組成物を用いて作製した物品、並びに当該樹脂組成物を用いたパターン形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは、ジアミンと酸二無水物から合成される高分子である。ジアミンと酸二無水物を溶液中で反応させることで、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸(ポリアミック酸)となり、その後、脱水閉環反応を経てポリイミドとなる。一般に、ポリイミドは溶媒への溶解性に乏しく加工が困難なため、前駆体の状態で所望の形状にし、その後、加熱を行うことでポリイミドとする場合が多い。ポリイミド前駆体は熱や水に対し不安定な場合が多く、保存安定性がよくない(非特許文献1)。この点を考慮し、分子構造に溶解性に優れた骨格を導入し、ポリイミドとした後に溶媒に溶解して成形又は塗布できるように改良が施されたポリイミドも開発されたが、これを用いる場合には前駆体方式に比べ耐薬品性や、基板との密着性に劣る傾向にある。そのため、目的に応じて前駆体を用いる方式と溶媒溶解性ポリイミドを用いる方式とが使い分けられている。
【0003】
また、技術の進歩に従いポリイミドを所望の形状にパターニングしたいとの要求も出てきた。その為、紫外線等の電磁波を用い、露光・現像等のプロセスを通してパターン形成できるポリイミドも開発された。ポリイミドをパターニングするためには、いくつかの手法が提案されている。
その一つがポリイミド前駆体の状態で露光と現像によるパターニングを行い、その後、熱処理等によりイミド化を行ってポリイミドのパターンを得る方法である。もう一つは、それ自体は感光性を持たないポリイミド自身の上に有機物や金属等でレジストパターンを形成し、その開口部をヒドラジン、無機アルカリ、有機アルカリ等の溶液や有機極性溶媒、またはそれらの混合物で処理して分解又は溶出させることにより、パターンを得る方法である。
前者は、溶媒溶解性に優れる前駆体を用いることで加工特性に優れ、後者は、高温の熱処理等が必要とされるイミド化のプロセスをパターン形成後に行う必要が無いという利点があり、それぞれの用途に応じて使い分けられている。
【0004】
20世紀後半から目覚しい発展を遂げてきた半導体分野において、現在、主に前駆体を利用するタイプのパターニング可能なポリイミドが用いられている。それは、シリコンウェハ上にポリイミドを形成するため、イミド化に必要な300℃〜400℃という高温の熱処理にも基板が耐えられることが、その理由の一つとして挙げられる。
前駆体を利用するタイプのポリイミドをパターニングする手段としても、種々の手法が提案されている。その代表的な手法は、以下の2つに大別される。
(1) ポリイミド前駆体自身にはパターニング能力がなく、感光性樹脂層をその表面に形成し、その感光性樹脂のパターンによってポリイミド前駆体がパターニングされる手法。
(2) ポリイミド前駆体自身に感光性部位を導入し、その作用によりパターン形成する手法、または、ポリイミド前駆体に感光性成分を混合し樹脂組成物とし、その感光性成分の作用でパターン形成する手法。さらには、感光性部位の導入と感光性成分の混合の両方を組み合わせた手法。
【0005】
上記(1)のグループに属する手法の代表的なものとして、ポリイミド前駆体であるポリアミック酸がアルカリ溶液に可溶であることを利用し、その塗膜上にアルカリ現像可能なレジストを塗布し、所望の形状に電磁波を照射後、レジストの現像と同時に、現像によって現れたレジストの開口部から露出したポリアミック酸も現像液に溶出させパターンを形成した後、ポリアミック酸が不溶なアセトン等の有機溶媒で表面のレジスト層を剥離し、その後にイミド化を行い、ポリイミドパターンを得るものがある。
【0006】
一方、上記(2)のグループに属する手法の代表的なものとして:
(a) ポリイミド前駆体のポリアミック酸に、電磁波の露光前は溶解抑止剤として作用し、露光後は、カルボン酸を生成し溶解促進剤となる、ナフトキノンジアジド誘導体を混合し、露光部と未露光部の現像液に対する溶解速度のコントラストを大きくすることでパターン形成を行い、その後、イミド化を行い、ポリイミドパターンを得る手法;(特許文献1)
(b) ポリイミド前駆体のポリアミック酸に、電磁波の露光により塩基性物質となるジヒドロピリジン誘導体等の化合物を混合し、露光後に、適度な温度で加熱することにより、露光部に発生した塩基性物質の作用で露光部の現像液に対する溶解性が向上し、露光部と未露光部の現像液に対する溶解速度のコントラストを大きくすることでポジ型のパターン形成を行い、その後、完全にイミド化を行い、ポリイミドパターンを得る手法(特許文献2);
【0007】
(c) ポリイミド前駆体としてラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する骨格を結合させたものを用い、そこに光ラジカル発生剤を混合することで露光部に架橋構造を形成して現像液に対する溶解性を低下させ、露光部と未露光部の現像液に対する溶解速度のコントラストを大きくすることでパターン形成を行い、その後、イミド化を行い、ポリイミドパターンを得る手法(特許文献3);
(d) ポリイミド前駆体のポリアミック酸と塩基性部位を有するラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する化合物を混合することで、両者をイオン結合させ、そこに増感剤を混合することで露光部にラジカル対を形成して現像液に対する溶解性を低下させ、露光部と未露光部の現像液に対する溶解速度のコントラストを大きくすることでパターン形成を行い、その後、イミド化を行い、ポリイミドパターンを得る手法(特許文献4);
及び、
(e) ポリイミド前駆体のポリアミック酸に、光酸(または光塩基)発生剤と架橋剤を混合し、露光後、加熱することで露光によって発生した酸(または塩基)の作用によって架橋を進行させ、現像液に対する溶解性を低下させることで、露光部と未露光部の現像液に対する溶解速度のコントラストを大きくしてパターン形成を行い、その後、イミド化を行い、ポリイミドパターンを得る手法;
などが提案されている。
【0008】
上記(1)のグループに属する手法は、プロセスが煩雑になるものの、用いるポリイミド前駆体の組成の自由度が大きく、また、感光性成分等を混合していないため最終的なポリイミドにはポリイミド以外の不純物を含まず、信頼性が高いという特徴がある。
一方、(2)のグループに属する手法では、ポリイミド前駆体(または、ポリイミド前駆体樹脂組成物)自身がパターン形成能を有するため、(1)のグループで用いたようなレジスト層が必要なく、プロセスが大幅に簡便になるという特徴がある。一方で、(c)、(d)の感光性ポリイミドは溶剤現像であり、作業環境が悪化する、また、廃液の処理比等のコストがかかるという課題がある。さらに(c)の感光性ポリイミドは、ポリアミック酸のカルボキシル基と架橋成分である(メタ)アクリロイル基がエステル結合で連結されているため、ポリアミック酸が加水分解されにくく、保存安定性が良好である一方、合成経路が煩雑であり、コストが高いと言う課題もある。
【0009】
上記(a)、(b)、(e)は、アルカリ水溶液によって現像が可能であるので、上記の課題は生じない。その中でも、(b)、(e)の手法は、露光後、現像前に加熱の工程が必要であるが、(a)の手法は、一般的な感光性材料と同様に露光後にそのまま現像工程を行える為、プロセスが1段階少なく、取り扱いが容易であるという特徴がある。
このように(a)の手法は、非常に取り扱いに優れた材料であるが、一般的なポリアミック酸は、カルボキシル基を骨格中に多く含むためアルカリ水溶液に対する溶解性が大きく、露光部と未露光部のアルカリ水溶液に対する溶解速度の差を大きく出来ず、パターン形成が難しいという課題があった。
【0010】
このような課題に対して、ポリアミック酸のアルカリ水溶液に対する溶解性を制御し、パターン形成を出来るようにする試みが行われてきた。
非特許文献2では、疎水性の骨格をポリマー主鎖に導入しアルカリ水溶液に対する溶解性を低下させたポリアミック酸とo−キノンジアジド骨格を有する化合物を組み合わせることにより、良好なパターンを得られるポジ型感光性ポリイミドとしている。
また、特許文献5では、樹脂組成物を基板に塗布後に乾燥する際の加熱によってポリアミック酸の部分イミド化を行い、カルボキシル基を減らすことによりアルカリ水溶液への溶解速度を制御する方法が開示されている。また、特許文献6には、完全エステル化ポリアミド酸プレポリマーとキノンジアジド化合物を含有するポジティブ作用フォトレジストが開示されている。ここでは、ポリアミック酸のカルボキシル基をエステル化によって減らし、アルカリ水溶液に対する溶解性を制御する手法が提案されている。また、特許文献7では、ポリアミック酸をジメチルホルムアミドジメチルアセタールで処理することにより、ポリアミック酸のカルボキシル基を部分的にエステル化し、アルカリ水溶液に対する溶解性を低下させたポリイミド前駆体を用いたポジ型感光性樹脂組成物が提案されている。
【0011】
【特許文献1】特開昭52−13315号公報
【特許文献2】特開平6−43648号公報
【特許文献3】特開昭61−293204公報
【特許文献4】特公昭59−52822公報
【特許文献5】特開昭62−135824号公報
【特許文献6】特開平2−181149号公報
【特許文献7】特開2000−119520号公報
【非特許文献1】Kreuz, J. A., ”J Polym Sci Part A: Polym Chem”, 1990, 28, p.3787.
【非特許文献2】J. Photopolym. Sci. Technol., 1997, 10, p.55
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、非特許文献2の手法の場合、用いることの出来るポリイミド骨格が制限されるという問題があった。特許文献5の手法の場合、イミド化反応は脱水反応である為、効率的に進行させる為には、100℃以上の加熱が必要である一方で、用いる感光剤であるキノンジアジド化合物は耐熱性が低く、100℃以上の加熱により徐々に分解し、感光剤として機能しなくなってしまうという問題、さらには、残留溶媒量などの条件により、同じ条件で加熱してもイミド化の状態が変化しやすく、安定したパターン形成ができないという問題があった。また、特許文献6の場合、エステル化されたポリイミド前駆体を製造する工程が煩雑であり、製造コストが高いという問題があった。また、特許文献7の場合、ジメチルホルムアミドジメチルアセタールは、塩基性の化合物であり、ポリアミック酸と共存させるとポリアミック酸を加水分解し、分子量の低下を引き起こす為、樹脂組成物としての保存安定性が低下するという課題や、その課題を解決する為に再沈澱等で精製を行うと、その分、製造コストが上昇してしまうという問題があった。
【0013】
本発明は、上記実情を鑑みて成し遂げられたものであり、その主目的は、最終的に得られるポリイミドの化学構造を問わず溶解性コントラストを得られ、結果的に、十分なプロセスマージンを保ちつつ、形状が良好なパターンを得ることができ、且つ簡便に合成できて安価に入手可能な、感光性樹脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る感光性樹脂組成物は、下記式(1)で表わされる繰り返し単位を有するポリイミド前駆体、及び、光の作用によりカルボン酸を発生させる化合物を含有する。
【0015】
【化1】

(式(1)中、Rは、4価の有機基、Rは、2価の有機基であり、繰り返されるR同士及びR同士はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。RおよびRはそれぞれ独立に下記式(2)の構造を有する1価の有機基であり、それらは同一であっても異なっていてもよく、繰り返されるR同士及びR同士はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【0016】
【化2】

(式(2)中、R、R、Rはそれぞれ独立に水素、ハロゲン原子、または1価の有機基であり、Aは1価の有機基であり、繰り返されるA同士はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。R、R、R、及びAはそれぞれ互いに結合して環状構造を示していても良い。)
【0017】
本発明の感光性樹脂組成物に用いられる、上記式(1)で表わされる繰り返し単位を有するポリイミド前駆体は、ポリアミック酸のカルボキシル基がビニルエーテル化合物などとの反応により、ヘミアセタールエステル構造になっている。発明者は、上記ポリイミド前駆体のヘミアセタールエステル結合について詳細に検討を行うことにより、ヘミアセタールエステル結合が、比較的低温の加熱によって、ポリアミック酸とビニルエーテル化合物となり解離する、または加水分解され、ポリアミック酸と、ビニルエーテル、又は、アセトアルデヒドとアルコールとなることを見出した。従って、この反応を利用し、上記式(1)で表わされる繰り返し単位を有するポリイミド前駆体を適度な条件で加熱し、上記解離反応または、加水分解反応を起こさせることにより、部分的に、またはその全てをアミック酸構造とすることができる。アミック酸部位はカルボキシル基を有し塩基性溶液に対して高い溶解性を示す為、加熱条件を適宜調整することによりヘミアセタールエステル部位をアミック酸部位へと変化させる割合を変化させることが可能となる。このような塩基性溶液に対する溶解性が制御されたポリイミド前駆体と、光の作用によりカルボキシル基を発生させる化合物を組み合わせると、露光部はカルボキシル基が発生し親水性が増大するため塩基性溶液に溶解し、未露光部は疎水性のままのため塩基性溶液に溶解しない為、未露光部が残存したポジ型パターンを得ることが出来る。
このようにして、本発明の感光性樹脂組成物は、加熱という簡便な手法によりポリイミド前駆体の塩基性溶液に対する溶解性を制御することにより、最終的に得られるポリイミドの化学構造を問わず大きな溶解性コントラストを得られ、結果的に十分なプロセスマージンを保ちつつ、形状が良好なパターンを得ることができる。
【0018】
前記ポリイミド前駆体は、ポリアミック酸とビニルエーテル化合物を混合し室温で撹拌するのみで得られる為、低コストで非常に簡便に入手することが可能である。芳香族カルボン酸とビニルエーテル化合物の反応は、脂肪族カルボン酸との場合と挙動が若干異なる。脂肪族カルボン酸とビニルエーテル化合物との反応は加熱や酸触媒が必要な場合が多いが、発明者は、鋭意検討の結果、芳香族カルボン酸とビニルエーテル化合物は室温で撹拌するのみで得られることを見出した。さらに、その際に窒素原子を含有しない溶媒を用いることでポリアミック酸とビニルエーテル化合物の反応収率を劇的に向上させることに成功し、ポリアミック酸のカルボキシル基をほぼ完全にヘミアセタールエステル結合とすることが可能となった。
【0019】
本発明に係る感光性樹脂組成物においては、前記光の作用によってカルボン酸を発生させる化合物として、o−キノンジアジド(オルトキノンジアジド)基を有する化合物を用いることが、高感度で大きなコントラストを得られる点から好ましい。
【0020】
本発明に係る感光性樹脂組成物においては、前記ポリイミド前駆体において、前記式(2)中のAの少なくとも1種が、活性水素を含有しない炭素数1〜30の1価の有機基であることが保存安定性の点から好ましい。
【0021】
本発明に係る感光性樹脂組成物においては、前記ポリイミド前駆体として、前記式(2)中のAが、2種以上の有機基を含むポリイミド前駆体を用いても良い。更に、前記式(2)中のAにおいて酸素原子と結合している炭素原子が、第1級炭素原子である有機基群をA1、第2級炭素原子である有機基群をA2、第3級炭素原子である有機基群をA3としたときに、Aが、A1とA2、A1とA3、A2とA3、又はA1とA2とA3からそれぞれ1種以上ずつ組み合わせた2種以上の有機基を含むポリイミド前駆体を用いても良い。複数の構造のヘミアセタールエステル結合を有することにより、加熱による、塩基性溶液に対する溶解性の制御が容易になる。
【0022】
本発明に係る感光性樹脂組成物においては、前記ポリイミド前駆体として、前記式(2)中のR、R、Rが水素である構造、すなわち、下記式(1’)で表されるポリイミド前駆体を用いることができる。
【0023】
【化3】

(式(1’)中、Rは、4価の有機基、Rは、2価の有機基であり、繰り返されるR同士及びR同士はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。Aは1価の有機基である。繰り返されるA同士はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【0024】
本発明の感光性樹脂組成物においては、前記ポリイミド前駆体において、前記式(2)中のAの少なくとも1種が、エーテル結合を含有する炭素数1〜30の1価の有機基であることが、基板への密着性や保存安定性、耐はじき性、分解物の揮発性の観点から好ましい。
【0025】
本発明の感光性樹脂組成物においては、酸性物質、及び、アミンを実質的に含まないことが保存安定性の点から好ましい。
【0026】
本発明の感光性樹脂組成物は、前記光の作用によりカルボン酸を発生させる化合物が、436nm、405nm、365nmの波長の電磁波のうち少なくとも1つの波長に吸収を有することが感光性の点から好ましい。
【0027】
本発明の感光性樹脂組成物の一実施形態においては、更に増感色素を添加することにより、照射感度を向上させることができる。アミノ基や水酸基等の活性水素は、上記ポリイミド前駆体のヘミアセタールエステル結合の分解を促進するために、上記感光性樹脂組成物の安定性を損なうことから、上記増感色素はアミノ基などの活性水素を骨格に含まない方が好ましい。
【0028】
本発明の感光性樹脂組成物においては、前記ポリイミド前駆体において、前記式(1)中のR及び/又はRに、芳香環を含むことが、最終的に得られるポリイミド膜の耐熱性良好となり線熱膨張係数が小さくなるために好ましい。さらに、前記式(1)中のRが、芳香族テトラカルボン酸二無水物由来の骨格であることが、ヘミアセタール結合を形成する反応が触媒を用いずとも室温で速やかに進行するため、合成が容易であることから好ましい。
【0029】
本発明の感光性樹脂組成物においては、前記ポリイミド前駆体において、前記式(1)中のRのうち33モル%以上が、下記式(3)で表わされるいずれかの構造であることが好ましい。
【0030】
【化4】

【0031】
上記のような構造を有するポリアミック酸は、高耐熱、低線熱膨張率を示すポリイミドの前駆体であるばかりではなく、芳香族カルボン酸を有している為、室温でビニルエーテル化合物と反応し、ヘミアセタールエステル結合を生成することが可能である。さらには、上記のような芳香族カルボン酸から得られるヘミアセタールエステル結合は、脂肪族カルボン酸から得られるヘミアセタールエステル結合よりも、より低温の加熱により熱分解する為、イミド化時の加熱の際により速やかに分解し、最終的に得られるポリイミド中のビニルエーテル由来の分解物が少ない。その為、上記式(3)で表わされる構造の含有量は前記式(1)中のRのうち100モル%に近ければ近いほど、本発明の目標を達成しやすくなるが、少なくとも前記式(1)中のRのうち33%以上含有すれば目的を達成できる。
【0032】
本発明の感光性樹脂組成物においては、前記ポリイミド前駆体において、前記式(1)中のRのうち33モル%以上が下記式(4)で表わされるいずれかの構造であることが好ましい。
【0033】
【化5】

【0034】
(R14は2価の有機基、酸素原子、硫黄原子、又はスルホン基であり、R15及びR16は1価の有機基、又はハロゲン原子である。)
上記のような構造を有する場合、最終的に得られるポリイミドの耐熱性が向上する。その為、前記式(1)中のRのうち100モル%に近ければ近いほど、本発明の目標を達成しやすくなるが、前記式(1)中のRのうち少なくとも33%以上含有すれば目的を達成できる。
【0035】
本発明の感光性樹脂組成物においては、保存安定性の点から、窒素原子を含有しない溶媒を含むことが好ましい。
【0036】
本発明の感光性樹脂組成物においては、更に1種以上のビニルエーテル化合物を含むことが、保存安定性を向上させる観点から好ましい。前記ポリイミド前駆体が複数の構造のへミアセタール結合を有する場合には、複数のビニルエーテル化合物を有している方が、感光性樹脂組成物の安定性の点から好ましい。
【0037】
本発明の感光性樹脂組成物は、塗料又は印刷インキ、或いは、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、半導体装置、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム、光学部材又は建築材料の形成材料として好適に用いられる。
【0038】
本発明の物品は、上記本発明の感光性樹脂組成物又はその硬化物により少なくとも一部分が形成されている、印刷物、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、半導体装置、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム、光学部材又は建築材料いずれかの物品である。
【0039】
本発明のパターン形成方法は、上記本発明の感光性樹脂組成物からなる膜又は成形体の形成時又は形成後に加熱する加熱工程と、前記加熱工程後に前記膜又は成形体の表面に、所定のパターン状に電磁波を照射する露光工程と、塩基性溶液として用いて現像する現像工程を有する。
【0040】
本発明のパターン形成方法は、前記現像工程において塩基性水溶液を用いて現像し、ポジ型パターン形成方法であっても良い。
【0041】
本発明のパターン形成方法においては、前記現像工程後、前記膜又は成形体を加熱する工程を有し、当該加熱温度の最高温度が251℃以上400℃以下であることが好ましい。このような温度で加熱することにより、ポリイミド前駆体のイミド化が充分に進行して実質的に全てのカルボン酸が消失するので最終的に得られたポリイミド膜は低吸湿性及び高耐熱性を実現する上、感光性付与成分由来の分解物の残存がほとんどなくなり、信頼性の高いポリイミド膜が得られる。
【発明の効果】
【0042】
以上に述べたように、本発明によれば、簡便に合成が可能なポリイミド前駆体と光酸発生剤を混合するだけで、溶解性コントラストが得られ、結果的に、十分なプロセスマージンを保ちつつ、形状が良好なパターンを得ることができ、しかも安価で感光性樹脂組成物を得ることができる。
また、ポリイミド前駆体はヘミアセタールエステル結合を有していれば、広範な構造のポリイミド前駆体を選択できる為、構造選択の幅が広い。さらには、目的に応じて、多くの種類の光の作用によりカルボン酸を発生させる化合物を選択することが可能であり、感光性樹脂組成物としての構造の選択肢が多い。
また、現像液も環境汚染性が低く、安価な塩基性水溶液を利用できるので、産業上利用価値が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明において、電磁波とは、化合物の分子内解裂反応を引き起こすことが可能なものであればよく、可視及び非可視領域の波長の電磁波だけでなく、電子線のような粒子線、及び、電磁波と粒子線を総称する放射線又は電離放射線が含まれる。
本発明に係る感光性樹脂組成物は、下記式(1)で表わされる繰り返し単位を有するポリイミド前駆体、及び、光の作用によってカルボン酸を発生させる化合物を含有する。
【0044】
【化6】

(式(1)中、Rは、4価の有機基、Rは、2価の有機基であり、繰り返されるR同士及びR同士はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。RおよびRはそれぞれ独立に下記式(2)の構造を有する1価の有機基であり、それらは同一であっても異なっていてもよく、繰り返されるR同士及びR同士はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【0045】
【化7】

(式(2)中、R、R、Rはそれぞれ独立に水素、ハロゲン原子、または1価の有機基であり、Aは1価の有機基であり、繰り返されるA同士はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。R、R、R、及びAはそれぞれ互いに結合して環状構造を示していても良い。)
【0046】
本発明者は、イミド化後にポリイミド以外の成分の残留物が少なく、室温における保存安定性が良好な感光性ポリイミドを得ることを目的に、加熱により容易に解裂し、カルボキシル基を生成するヘミアセタールエステル結合に着目し研究を進めた。
その結果、ポリアミック酸のカルボキシル基をヘミアセタールエステル化したポリイミド前駆体は加熱によって、ヘミアセタールエステル結合が分解しポリアミック酸となることが確認された。この分解には、ヘミアセタールエステル結合がポリアミック酸とビニルエーテル化合物に解裂する場合と、ヘミアセタールエステル結合が水と共存していた場合加水分解され、ポリアミック酸とアセトアルデヒドとアルコールとなる場合の2通りの状態が観測された。
さらにヘミアセタールエステル結合の分解を起こす温度は、そのヘミアセタールエステル結合に結合する部位の化学構造に依存し、たとえば、エーテル酸素に結合する炭素原子が第1級炭素原子(以下、単に「1級」という場合がある)の場合比較的熱安定性が高く、第2級炭素原子(以下、単に「2級」という場合がある)、第3級炭素原子(以下、単に「3級」という場合がある)となるにつれて、分解温度が低くなる傾向がみられた。なお、本発明において、ヘミアセタールエステル結合におけるエーテル結合に結合する炭素原子(式(2)のAにおいて酸素原子と結合している炭素原子)、又はヘミアセタールエステル結合を誘導するビニルエーテル化合物のエーテル結合に結合する炭素原子について、第1級炭素原子とは、結合している他の炭素原子が0個又は1個の場合をいい、第2級炭素原子とは、結合している他の炭素原子が2個の場合をいい、第3級炭素原子とは、結合している他の炭素原子が3個の場合をいう。
【0047】
これらの知見から発明者は、ポリアミック酸のカルボキシル基をヘミアセタールエステル化し、そのヘミアセタールエステル結合を加熱により部分的に分解し、カルボン酸とすることで、塩基性溶液に対する溶解性を制御することが可能となると考えた。そして、このポリイミド前駆体とオルトキノンジアジド化合物を組み合わせることにより、コントラストが良好なパターンを形成できる感光性ポリイミドを創出できるのではないかと考え、鋭意検討し本発明にいたった。
【0048】
ヘミアセタールエステル結合は、従来のエステル結合に比べ加熱のみで容易に熱分解し、且つ、比較的低温の加熱によって結合の解裂が起こる。ポリイミド前駆体の多くは、一般に加熱に伴い140℃付近の温度から徐々にイミド化が進行して行くと言われており、イミド化率の上昇に伴い膜のガラス転位温度(Tg)が上昇していく。Tgが上昇すると、分子鎖の振動が抑制されるため、膜内部からの物質の揮発が困難になる。その点、ヘミアセタールエステル結合の場合は、場合により、室温付近から分解する為、イミド化率が低い状態で分解反応が起こる。そのため、ヘミアセタールエステル結合をポリイミド前駆体に組み合わせた場合は、分解成分の揮発性が良好であり、ポリイミド前駆体からポリイミドにする際の加熱の過程で、ほぼ全てのヘミアセタールエステル結合が分解しその分解成分は、揮発する。その結果、実質的にポリアミック酸となる為、イミド化の過程において従来から一般的に用いられているポリイミド前駆体であるポリアミック酸とほとんど同様の挙動を示す。また、ヘミアセタールエステル結合が分解して生成するポリアミック酸以外の成分(以後、保護部位、という)を適宜選択することにより、最終的に得られたポリイミド膜は、ヘミアセタールエステル結合成分由来の分解物の残存がほとんどないものを得ることができる。
このような点を考慮し、保護部位は、分子量が小さく、分解後の構造の揮発性が高いほうが、分解物のポリイミド膜への残存を抑制する点から好ましい。
さらに保護部位には、実質的に架橋性(反応性)部位を含まない方がポリイミド前駆体を合成中のゲル化を抑制でき、さらには、膜中への残存物を抑制できるので好ましい。
【0049】
前記ポリイミド前駆体は、ポリアミック酸とビニルエーテル化合物を混合し室温で撹拌するのみで得られる為、低コストで非常に簡便に入手することが可能である。芳香族カルボン酸とビニルエーテル化合物の反応は、脂肪族カルボン酸との場合と挙動が若干異なる。脂肪族カルボン酸とビニルエーテル化合物との反応は加熱や酸触媒が必要な場合が多いが、発明者は、鋭意検討の結果、芳香族カルボン酸とビニルエーテル化合物は室温で撹拌するのみで得られることを見出した。さらに、その際に窒素原子を含有しない溶媒を用いることで劇的にポリアミック酸とビニルエーテル化合物の反応収率を向上させることに成功し、ポリアミック酸のカルボキシル基をほぼ完全にヘミアセタールエステル結合とすることが可能となった。
【0050】
上記ヘミアセアセタールエステル結合を有するポリイミド前駆体と光の作用によりカルボン酸を発生させる化合物とを含有する感光性樹脂組成物は、下記のような手法でパターンを得ることができる。
上記感光性樹脂組成物の溶液を、基板上に塗布した後、加熱し乾燥させ塗膜を得る。その際に、加熱条件を適宜設定することにより、ポリイミド前駆体のヘミアセタールエステル結合の分解率を調整することが可能である。このときパターン形成に最適な分解率は、ポリイミド前駆体の主鎖骨格の化学構造によって変化するが、上記ポリイミド前駆体単体の塗膜の現像液に対する溶解速度が、0.1nm/s〜100nm/sの範囲、好ましくは0.5nm/s〜50nm/sの範囲、更に好ましくは1nm/s〜20nm/sの範囲になるような分解率に設定すると良好なパターンが得られる。
このように基板上に形成されたヘミアセタールエステル結合の一部(または全て)が分解されカルボキシル基となったポリイミド前駆体の膜に対して、所望の形状のパターンが描かれたマスクを介して露光を行うことにより、露光部のみにカルボン酸を発生させることができる。ここで、光の作用によりカルボン酸を発生させる化合物は、カルボン酸を発生させ、光の照射部の塩基性溶液への可溶性を増大させる機能を有し、光照射部のポリイミド前駆体の塩基性溶液への溶解を促進する働きを示す。
このようにして、露光部、未露光部において塩基性溶液に対する溶解性が変化するため、露光部が溶解し未露光部が溶解しないポジ型のパターンを得ることが出来る。
【0051】
本発明の感光性樹脂組成物中の光の作用によりカルボン酸を発生させる化合物としては、o−キノンジアジド基を有する化合物が好適に用いられる。o−キノンジアジド基を有する化合物は、露光前後の疎水性、親水性の変化が大きく、光の吸収帯が広く高感度である。また、多くの種類が市販されており、入手が容易である。
このようにして、ヘミアセタールエステル結合と光の作用によりカルボン酸を発生させる化合物を組み合わせた本発明の感光性樹脂組成物は、感度が高く、低コストであるというメリットも有することができる。
【0052】
本発明に用いられるカルボキシル基がヘミアセタールエステル化されたポリイミド前駆体は、ポリアミック酸とビニルエーテル化合物を混合するだけで得られることから非常に安価に入手が可能である。さらに、このポリイミド前駆体とo−キノンジアジド基を有する化合物などの光の作用によりカルボン酸を発生させる化合物を混合するという簡便な手法で感光性樹脂組成物を調整することが可能である。
さらには、適用できるポリイミド前駆体の選択範囲が広くその感光性樹脂組成物とそのイミド化物の特性を生かすことの出来る分野に広く応用される。
【0053】
次に、本発明の感光性樹脂組成物に用いられる各成分を説明する。
本発明で用いられるポリイミド前駆体は、下記式(1)で表わされる繰り返し単位を有する。
【0054】
【化8】

(式(1)中、Rは、4価の有機基、Rは、2価の有機基であり、繰り返されるR同士及びR同士はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。RおよびRはそれぞれ独立に下記式(2)の構造を有する1価の有機基であり、それらは同一であっても異なっていてもよく、繰り返されるR同士及びR同士はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【0055】
【化9】

(式(2)中、R、R、Rはそれぞれ独立に水素、ハロゲン原子、または1価の有機基であり、Aは1価の有機基であり、繰り返されるA同士はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。R、R、R、Aはそれぞれ互いに結合して環状構造を示していても良い。)
【0056】
式(1)において、一般に、Rは、テトラカルボン酸二無水物由来の構造であり、Rはジアミン由来の構造である。
本発明のポリイミド前駆体に適用可能な酸二無水物としては、例えば、エチレンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,6,6’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、1,3−ビス〔(3,4−ジカルボキシ)ベンゾイル〕ベンゼン二無水物、1,4−ビス〔(3,4−ジカルボキシ)ベンゾイル〕ベンゼン二無水物、2,2−ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}プロパン二無水物、
【0057】
2,2−ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}プロパン二無水物、ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、4,4’−ビス〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕ビフェニル二無水物、4,4’−ビス〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕ビフェニル二無水物、ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルホン二無水物、ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルホン二無水物、ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルフィド二無水物、ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルフィド二無水物、2,2−ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルプロパン二無水物、2,2−ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}−1,1,1,3,3,3−プロパン二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ぺリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
これらは単独あるいは2種以上混合して用いられる。
【0058】
最終的に得られるポリイミド膜の耐熱性、線熱膨張係数や、前駆体への保護反応の反応性などの観点から好ましく用いられるテトラカルボン酸二無水物は、芳香族テトラカルボン酸二無水物であることが好ましく、特に好ましく用いられるテトラカルボン酸二無水物としてピロメリット酸二無水物、メロファン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,2’,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,6,6’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物が挙げられる。
なかでも、ヘミアセタールエステル結合の安定性の観点から、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,2’,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物が特に好ましい。
【0059】
併用する酸二無水物としてフッ素が導入された酸二無水物や、脂環骨格を有する酸二無水物を用いると、ポリイミド前駆体の透明性が向上する。また、ピロメリット酸二無水物、メロファン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,2’,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物などの剛直な酸二無水物を用いると、最終的に得られるポリイミドの線熱膨張係数が小さくなるので好ましい。なかでも、ヘミアセタールエステル結合の安定性の観点から、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,2’,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、が特に好ましい。
【0060】
酸二無水物として脂環骨格を有する場合、ポリイミド前駆体の透明性が向上するため、高感度の感光性樹脂組成物となる。さらに、ヘミアセタールエステル結合を形成する反応の際に加熱や触媒が必要となる場合があるが、安定性の比較的高いヘミアセタールエステル結合を形成することが可能であるので保存安定性を重視する場合は好ましい。
【0061】
一方、芳香族のテトラカルボン酸二無水物を用いた場合、耐熱性に優れ、低線熱膨張係数を示す感光性樹脂組成物となる。さらにヘミアセタールエステル結合を形成する反応が室温で進行するため、非常に容易に目的のポリイミド前駆体を得ることが出来る。さらに、より低温で分解するため、イミド化後の膜に分解物が残りにくいというメリットがある。従って、本発明の感光性樹脂組成物においては、前記ポリイミド前駆体において、前記式(1)中のRのうち33モル%以上が、下記式(3)で表わされるいずれかの構造であることが好ましい。
【0062】
【化10】

【0063】
上記のような構造を有するポリアミック酸は、高耐熱、低線熱膨張率を示すポリイミドの前駆体であるばかりではなく、芳香族カルボン酸を有している為、室温でビニルエーテル化合物と反応し、ヘミアセタールエステル結合を生成することが可能である。さらには、上記のような芳香族カルボン酸から得られるヘミアセタールエステル結合は、脂肪族カルボン酸から得られるヘミアセタールエステル結合よりも、より低温の加熱により熱分解する為、イミド化時の加熱の際により速やかに分解し、最終的に得られるポリイミド中のビニルエーテル由来の分解物が少ない。その為、上記式(3)で表わされる構造の含有量は前記式(1)中のRのうち100モル%に近ければ近いほど、本発明の目標を達成しやすくなるが、少なくとも前記式(1)中のRのうち33%以上含有すれば目的を達成できる。中でも上記式(3)で表わされる構造の含有量は前記式(1)中のRのうち50モル%以上であることが好ましく、更に、70モル%以上であることが好ましい。
【0064】
一方、本発明のポリイミド前駆体に適用可能なジアミン成分も、1種類のジアミン単独で、または2種類以上のジアミンを併用して用いることができる。用いられるジアミン成分は限定されるわけではないが、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、
3,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ジ(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ジ(4−アミノフェニル)プロパン、2−(3−アミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ジ(3−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ジ(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2−(3−アミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,1−ジ(3−アミノフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ジ(4−アミノフェニル)−1−フェニルエタン、1−(3−アミノフェニル)−1−(4−アミノフェニル)−1−フェニルエタン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、2,6−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゾニトリル、2,6−ビス(3−アミノフェノキシ)ピリジン、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、
【0065】
ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、4,4’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、4,4’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ]ジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、6,6’−ビス(3−アミノフェノキシ)−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダン、6,6’−ビス(4−アミノフェノキシ)−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダン、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、1,3−ビス(4−アミノブチル)テトラメチルジシロキサン、α,ω−ビス(3−アミノプロピル)ポリジメチルシロキサン、α,ω−ビス(3−アミノブチル)ポリジメチルシロキサン、ビス(アミノメチル)エーテル、ビス(2−アミノエチル)エーテル、ビス(3−アミノプロピル)エーテル、ビス(2−アミノメトキシ)エチル]エーテル、ビス[2−(2−アミノエトキシ)エチル]エーテル、ビス[2−(3−アミノプロトキシ)エチル]エーテル、
【0066】
1,2−ビス(アミノメトキシ)エタン、1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン、
1,2−ビス[2−(アミノメトキシ)エトキシ]エタン、1,2−ビス[2−(2−アミノエトキシ)エトキシ]エタン、エチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、ジエチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、トリエチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,2−ジ(2−アミノエチル)シクロヘキサン、1,3−ジ(2−アミノエチル)シクロヘキサン、1,4−ジ(2−アミノエチル)シクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロへキシル)メタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、また、上記ジアミンの芳香環上水素原子の一部若しくは全てをフルオロ基、メチル基、メトキシ基、トリフルオロメチル基、又はトリフルオロメトキシ基から選ばれた置換基で置換したジアミンも使用することができる。
さらに目的に応じ、架橋点となるエチニル基、ベンゾシクロブテン−4’−イル基、ビニル基、アリル基、シアノ基、イソシアネート基、及びイソプロペニル基のいずれか1種又は2種以上を、上記ジアミンの芳香環上水素原子の一部若しくは全てに置換基として導入しても使用することができる。
【0067】
ジアミンは、目的の物性によって選択することができ、p−フェニレンジアミンなどの剛直なジアミンを用いれば、最終的に得られるポリイミドは低膨張率となる。剛直なジアミンとしては、同一の芳香環に2つアミノ基が結合しているジアミンとして、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、1,4−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン、2、6−ジアミノナフタレン、2,7−ジアミノナフタレン、1,4−ジアミノアントラセンなどが挙げられる。
さらに、2つ以上の芳香族環が単結合により結合し、2つ以上のアミノ基がそれぞれ別々の芳香族環上に直接又は置換基の一部として結合しているジアミンが挙げられ、例えば、下記式(5)により表されるものがある。具体例としては、ベンジジン等が挙げられる。
【0068】
【化11】

(aは1以上の自然数、アミノ基はベンゼン環同士の結合に対して、メタ位または、パラ位に結合する。R17及びR18は1価の有機基、又はハロゲン原子である。)
【0069】
さらに、上記式(5)において、他のベンゼン環との結合に関与せず、ベンゼン環上のアミノ基が置換していない位置に置換基を有するジアミンも用いることができる。これら置換基は、1価の有機基であるがそれらは互いに結合していてもよい。
具体例としては、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジトリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル等が挙げられる。
また、最終的に得られるポリイミドを光導波路、光回路部品として用いる場合には、芳香環の置換基としてフッ素を導入すると1μm以上の波長の電磁波に対しての透過率を向上させることができる。
【0070】
一方、ジアミンとして、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサンなどのシロキサン骨格を有するジアミンを用いると、最終的に得られるポリイミドの弾性率が低下し、ガラス転移温度を低下させることができる。
【0071】
ここで、選択されるジアミンは耐熱性の観点より芳香族ジアミンが好ましいが、目的の物性に応じてジアミンの全体の60モル%、好ましくは40モル%を超えない範囲で、脂肪族ジアミンやシロキサン系ジアミン等の芳香族以外のジアミンを用いても良い。
【0072】
また、前記ポリイミド前駆体においては、前記式(1)中のRのうち33モル%以上が下記式(4)で表わされるいずれかの構造であることが好ましい。
【0073】
【化12】

【0074】
(R14は2価の有機基、酸素原子、硫黄原子、又はスルホン基であり、R15及びR16は1価の有機基、又はハロゲン原子である。)
【0075】
上記のような構造を有する場合、最終的に得られるポリイミドの耐熱性が向上する。その為、前記式(1)中のRのうち100モル%に近ければ近いほど、本発明の目標を達成しやすくなるが、前記式(1)中のRのうち少なくとも33%以上含有すれば目的を達成できる。中でも上記式(4)で表わされる構造の含有量は前記式(1)中のRのうち50モル%以上であることが好ましく、更に、70モル%以上であることが好ましい。
【0076】
一方、式(1)中、RおよびRはそれぞれ独立に上記式(2)の構造を有する1価の有機基であり、それらは同一であっても異なっていてもよく、繰り返されるR同士及びR同士はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
上記式(2)で表されるヘミアセタールエステル結合は、例えば以下のようなカルボキシル基とビニルエーテル化合物との反応により得ることができる。
【0077】
【化13】

【0078】
つまり、ヘミアセタールエステル結合をカルボン酸とビニルエーテル化合物の付加反応により形成する場合、上記式(2)のR、R、R、及びAはビニルエーテル化合物の構造によって決まる。上記式(2)で表される構造は、ジヒドロピラン等環状ビニルエーテル化合物(ビニルエーテル自身が環の一部となっている化合物)を用いて形成しても良いがこの場合には反応性が悪く、反応時間が長くなる一方、熱分解温度は比較的高くなる。そのため、非環状ビニルエーテル化合物と環状ビニルエーテル化合物を混合して用いると、熱分解温度が異なるヘミアセタールエステル結合を形成しやすいという利点がある。ここで環状ビニルエーテル化合物とはビニルエーテルのビニル結合自体が環構造の一部となっている3,4−ジヒドロ−2H−ピランのようなものである。たとえば、シクロヘキシルビニルエーテルや2−ビニロキシテトラヒドロピランなどは環構造を有しているがビニル基が環構造の一部となっていない為、非環状ビニルエーテルとなる。
【0079】
、R、Rは、水素、または、置換または無置換のアルキル基、アリル基、アリール基が好ましい。特に原料入手の容易性から、水素であることが好ましい。また、1級、2級、3級のアミノ基や、水酸基などの活性水素を有する置換基は含まないことが好ましい。
この場合の活性水素を有する置換基とは、ヘミアセタールエステル結合と交換反応可能な置換基を示し、具体的には水酸基、1級アミノ基、2級アミノ基、カルボキシル基、メルカプト基などが挙げられる(化学辞典 東京化学同人)。
【0080】
上記式(2)中のAは、炭素数が1以上の1価の有機基である。Aは、炭化水素骨格を有する基が例示される。それらは、ヘテロ原子等の炭化水素以外の結合や置換基を含んでいてもよいし、そのようなヘテロ原子の部分が芳香環に組み込まれて複素環となっていても良い。炭化水素骨格を有する基としては、例えば、直鎖又は分岐鎖或いは脂環式の飽和又は不飽和炭化水素基、直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和ハロゲン化アルキル基、又は、フェニル、ナフチル等の芳香族基、さらには、直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素骨格中にエーテル結合を含有する基(例えば、−(R−O)n−R’、ここでR及びR’は置換又は無置換の飽和又は不飽和炭化水素、nは1以上の整数;−R”−(O−R”’)m、ここでR”及びR”’は置換又は無置換の飽和又は不飽和炭化水素、mは1以上の整数、−(O−R”’)mはR”の末端とは異なる炭素に結合している;などが挙げられる。)、直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素骨格中にチオエーテル結合を含有する基、直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素骨格上にハロゲン原子、シアノ基、シリル基、ニトロ基、アセチル基、アセトキシ基、スルホン基等のヘテロ原子又はヘテロ原子を含有する基が結合してなるさまざまな基が挙げられる。
【0081】
1級、2級、3級のアミノ基や、水酸基などの活性水素を有する置換基を含むと、ヘミアセタールエステル結合が分解しやすくなることから保存安定性が低下するので、上記式(2)のAは、活性水素を含有しないことが好ましい。
更に、上記式(2)のAは、反応性を有するエチレン性不飽和結合などの反応性基が含まれる場合には、保存安定性が悪くなる傾向がある。そのため、反応性を有する不飽和結合を含有する場合であっても少量であることが好ましく、上記式(2)のA中に反応性基を含有する繰り返し単位は、式(1)で表される全繰り返し単位中に35モル%以下であることが好ましい。一方、ヘミアセタールエステル結合が切断された後のAの分解物をポリイミド膜中に残存し難くする点からは、上記式(2)のAには反応性基は含有しないことが好ましい。なお、上記反応性基には、エチレン性不飽和結合のほか、グリシジル基やオキセタニル基、イソシアヌル基が含まれる。
【0082】
上記式(2)のAは、特に基板への密着性や保存安定性、耐はじき性、分解物の揮発性の観点から、炭化水素骨格中にエーテル結合を含有することが好ましい。ポリオキシアルキレン骨格を含んでいても良い。ポリオキシアルキレン骨格を含む場合のオキシアルキレンの繰り返し数は15以下であることが分解物の揮発性の点から好ましい。
【0083】
ヘミアセタールエステル結合は、加熱によりカルボン酸とその他の生成物に分解するが、その分解温度は、一般に上記式(2)中のAにおいて、酸素原子と結合する炭素が、3級炭素<2級炭素<1級炭素の置換基の順で高くなる。
一方、ヘミアセタールエステル結合を得るためのビニルエーテル化合物とカルボン酸の反応は、一般に上記式(2)中のAにおいて、酸素原子と結合する炭素が1級炭素<2級炭素<3級炭素の置換基の順で高い反応率を示す。
【0084】
従って、上記式(2)のAにおいて、酸素原子と結合する炭素が1級炭素の場合、ポリイミド前駆体の安定性が高く、より長期の保存に耐えられる。さらには、成膜時などのプロセス中での加熱温度をより高く設定できるため、プロセス中での安定性が向上する。
上記式(2)のAにおいて、酸素原子と結合する炭素が3級炭素の場合、ポリイミド前駆体が若干不安定になるものの、より低温の加熱によりヘミアセタールエステル結合が分解する。その為、イミド化の為の加熱の過程でよりスムーズにヘミアセタールエステル結合の分解、及び、分解物の揮発が起こり、より短時間の加熱においても最終的に得られるポリイミド膜中の保護基由来の分解物の残存成分の量をより少なく、多くの場合は実質的にゼロにすることが出来る。また、短い反応時間でヘミアセタールエステル結合を有するポリイミド前駆体を得たい場合には、Aは3級の置換基であることが好ましい。
上記式(2)のAにおいて、酸素原子と結合する炭素が2級炭素の場合、上記の1級炭素の場合と3級炭素の場合の間の特性を示し、ポリイミド前駆体の保存安定性、保護基の脱離性、及びヘミアセタールエステル結合への反応性のバランスの取れた感光性樹脂組成物とすることが可能である。
【0085】
前記式(2)中のAは、炭素数が1〜30であることが、分解物の揮発性の点から好ましく、炭素数が2〜15であることが更に好ましい。
【0086】
前記式(2)中のAの構造においては、エーテル結合を含有する炭素数1〜30の1価の有機基であることが好ましく、更に、活性水素を含有せず、エーテル結合を含有する炭素数1〜30の1価の有機基であることが好ましい。
【0087】
前記式(2)中のAとしては特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、エチニル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、プロポキシエチル基、ブトキシエチル基、シクロヘキシロキシエチル基、メトキシプロピル基、エトキシプロピル基、プロポキシプロピル基、ブトキシプロピル基、シクロヘキシロキシプロピル基、2−テトラヒドロピラニル基、等が挙げられる。また、前記式(2)おいてAとRが連結した構造として、RやRに相当する置換基が2-テトラヒドロピラニル基となったものなどが挙げられる。
【0088】
また、前記式(2)中のAとして2種以上の化学構造を有するものを適宜組み合わせて混合体としても良い。このようにすることで、加熱によるヘミアセタールエステル結合の分解率の制御をより安定的に行うことが可能となる。すなわち、保護部位の化学構造によりヘミアセタールエステル結合の分解温度が異なることから、ポリイミド前駆体が複数種類の保護部位を有していた場合、より低温で分解する保護部位の化学構造に対応した温度で加熱する事によって、保護部位の分解率をその保護部位の導入率に対応した形で段階的に制御することが可能となる。
【0089】
先に述べたように、耐熱性の高い保護部位と低い保護部位を組み合わせた場合、耐熱性の高い保護部位の分解温度より低い温度であって、耐熱性の低い保護部位の分解温度以上の温度で加熱することにより、耐熱性の低い保護部位のみを選択的に分解することが可能となる。言い換えれば、同じ条件で加熱したときにおける分解率の差が大きい条件で加熱を行うことで、耐熱性の低い保護部位のみを選択的に分解することができる。従って、2種以上の保護部位を組み合わせる場合、すなわち式(2)中のAが2種以上の有機基を含む場合、例えば、同一加熱条件における少なくとも2種のヘミアセタール結合の分解率の差が、30%以上であるように選択することが好ましく、50%以上であるように選択することがさらに好ましく、70%以上であるように選択することがより好ましい。
上記の加熱条件は、ポリイミド前駆体の1wt%重DMSO溶液をNMRチューブ中で加熱した場合や、厚み800μmの無アルカリガラス上に塗布し、ホットプレートによって加熱した場合などが例示され、分解率の測定方法は、NMRによるヘミアセタールエステル結合由来の水素のピークと芳香環やアミド基の水素のピークの積分比や、IRスペクトルによる、ビニルエーテル由来のピークの積分比などから求められる。
【0090】
このように、耐熱性の高い保護部位と低い保護部位を組み合わせた場合、耐熱性の低い保護部位の導入率によって、加熱後のカルボキシル基の割合を制御することが可能となる。ポリイミド前駆体においてカルボキシル基の割合は、塩基性溶液に対する溶解速度を決める重要な要因のひとつであり、再現性良くカルボキシル基の割合を制御できることで、良好なパターンを安定的に得られる為、実用性が向上する。
【0091】
前記式(2)中のAにおいて酸素原子と結合している炭素原子が、第1級炭素原子である有機基群をA1、第2級炭素原子である有機基群をA2、第3級炭素原子である有機基群をA3としたときに、Aが、A1とA2、A1とA3、A2とA3、又はA1とA2とA3からそれぞれ1種以上ずつ組み合わせた2種以上の有機基を含む混合体としてもよい。このように、Aとして炭素の級数が異なるものを2種以上含む場合には、原料のビニルエーテル化合物の反応性の違いや、ヘミアセタールエステル結合の熱分解温度の違いが比較的大きくなる。その結果、異なる2種以上のヘミアセタールエステル結合の導入比率の制御をより安定的に行いやすい。また、加熱によるヘミアセタールエステル結合の分解率の制御をより安定的に行うことが可能となる。
【0092】
前述のように、一般にAの酸素原子と結合する炭素が1級(A1)の場合は熱安定性が高く、2級(A2)、3級(A3)の順で熱安定性が低くなる。従って、例えば、1級(A1)と2級(A2)及び/又は3級(A3)との組み合わせとなるように保護部位を組み合わせることによって、加熱による選択的な保護部位の分解が可能となり、より安定的なパターン形成が出来るようになる。
【0093】
しかしながら、ヘミアセタール結合の分解温度の差が適宜得られるように構造を選択すれば、前記式(2)中のAは、A1同士、A2同士、又はA3同士から2種以上選択して組み合わせても良い。
Aにおいて酸素原子と結合している炭素原子が第1級炭素原子である有機基群A1は、例えば下記式(6−1)及び式(6−1’)で表される有機基を含み、第2級炭素原子である有機基群A2は、例えば下記式(6−2)で表される有機基を含み、第3級炭素原子である有機基群A3は、例えば下記式(6−3)で表される有機基を含む。
【0094】
【化14】

(式(6−1)〜(6−3)中、R、R、R10、R11、R12、及びR13は1価の有機基であり、Xはそれぞれ独立に水素、ハロゲン原子、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、置換基を有してもよいベンゾイルオキシ基、アルキルチオ基、置換基を有しても良いフェニルチオ基、又はアルコキシ基である。R、及びXはそれぞれ互いに結合して環状構造を示していても良く、R、R10及びXはそれぞれ互いに結合して環状構造を示していても良く、R11、R12、及びR13はそれぞれ互いに結合して環状構造を示していても良い。)
【0095】
上記式(6−1)〜(6−3)において、R、R、R10、R11、R12、及びR13は1価の有機基であり、炭素原子により式(6−1)〜(6−3)中の炭素原子と結合している。R、R、R10、R11、R12、及びR13は、炭化水素骨格を有する基が例示される。それらは、ヘテロ原子等の炭化水素以外の結合や置換基を含んでいてもよいし、そのようなヘテロ原子の部分が芳香環に組み込まれて複素環となっていても良い。炭化水素骨格を有する基としては、上記Aで挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0096】
また、R及びR10がそれぞれ互いに結合して環状構造を示している例としては、シクロヘキシル基などが挙げられ、R11、R12、及びR13もそれぞれ互いに結合して環状構造を示している例としては、アダマンチル基などが挙げられる。
【0097】
一方、上記式(6−1)〜(6−3)において、Xはそれぞれ独立に水素、ハロゲン原子、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、置換基を有してもよいベンゾイルオキシ基、アルキルチオ基、置換基を有しても良いフェニルチオ基、又はアルコキシ基である。アルコキシカルボニル基(−COOR)、アシルオキシ基(−OCOR)、アルコキシ基(−OR)に結合した炭化水素基としては、直鎖又は分岐鎖或いは脂環式の飽和又は不飽和炭化水素基が挙げられる。アルコキシ基としては、例えば、前記式(2)のAが2−テトラヒドロピラニル基となるように、上記Rと互いに結合して環状エーテル構造を示していても良い。
原料入手の容易性からは、上記式(6−1)〜(6−3)のXはそれぞれ水素又はアルコキシ基であることが好ましい。
【0098】
また、2種以上の化学構造を有する保護部位を導入したポリイミド前駆体は、2種以上の化学構造を有するビニルエーテルとポリアミック酸とを段階的に、または一度に反応させることによって合成することが出来る。
【0099】
本発明の感光性樹脂組成物中に含まれるポリイミド前駆体を製造する方法としては、例えば、酸二無水物とジアミンから前駆体であるポリアミド酸を合成し、それにビニルエーテル化合物を反応させる方法などが挙げられるがこれに限定されない。テトラカルボン酸に2等量のビニルエーテル化合物を反応させ、ジカルボキシジヘミアセタールエステル化合物をとした後、ジアミンと脱水縮合反応によってポリマー化しても良い。この他にも従来公知の手法を適用することができる。
【0100】
上記ポリイミド前駆体は、一般に、ポリアミック酸とビニルエーテル化合物から得られるが、発明者の検討結果によれば、その反応は、アミノ基や水酸基などの活性水素を有している溶媒中や、アミノ基や水酸基などの活性水素を有している化合物と共存下ではヘミアセタールエステル結合を得る収率が低い傾向があった。また、骨格中にニトロ基以外の形で窒素原子を含有する溶媒を用いた際も収率が低くなったことから、骨格中にニトロ基以外の形で窒素原子を含有する溶媒を含む場合も好ましくない。
【0101】
一般に低線熱膨張係数を示すポリイミドは、芳香族ポリイミドである場合が多く、その前駆体である芳香族ポリアミック酸は、N−メチルピロリドンやジメチルアセトアミドのような窒素原子を含有するアミド系溶媒には高い溶解度を示すが、非アミド系溶媒のような窒素原子を含有しない溶媒には溶解性が低い場合が多い。特に、低膨張性を実現できる、Rが上記式(3)で表わされるいずれかの構造であり、且つRが上記式(5)で表わされるいずれかの構造であるような芳香族ポリアミック酸は、ラクトン類やスルホキシド類のような非アミド系溶媒には完全に溶解しない。ここで完全に溶解しないとは、反応時や塗膜形成時に必要な濃度、例えば23℃で溶媒中16.5重量%の濃度でポリアミック酸が完全に溶解できない状態をいう。
【0102】
しかし、本発明に用いられるヘミアセタールエステル結合を有するポリイミド前駆体は、カルボキシル基がヘミアセタールエステル化されることによって、溶解性が向上し非アミド系溶媒のような窒素原子を含有しない溶媒に対しても高い溶解性を示す。
その為、上記のポリアミック酸とビニルエーテル化合物との反応は窒素原子を含有しない溶媒で行うと反応効率が良好となるが、その場合は、当初、上述のように線膨張係数が低いポリイミドを達成するポリアミック酸は完全には溶けていない場合が多い。しかし、本発明においては、ポリアミック酸の反応の進行とともにポリイミド前駆体が反応溶媒に溶解し、最終的には完全に溶解した為、定量的に目的物を得られた。
【0103】
ポリアミック酸のカルボキシル基を100%へミアセタールエステル結合とした本発明のポリイミド前駆体を調製することが可能な点から、ポリアミック酸とビニルエーテルとの反応溶媒としては、窒素原子を含有しない溶媒の中でもラクトン類、スルホキシド類を用いることが好ましい。ラクトン類としては、γ−ブチロラクトン、α−アセチル−γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン、γ−ヘキサノラクトン、δ−ヘキサノラクトンなどが挙げられ、スルホキシド類としては、ジメチルスルホキシド、メチルエチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどが挙げられる。ジメチルスルホキシドは、高い溶解性を有する一方で、酸化され難く変異原性も確認されており、溶媒としての安定性や安全性に課題があるため、中でもラクトン類が特に好ましい。
【0104】
また、ポリアミック酸のカルボキシル基を100%へミアセタールエステル結合とした本発明のポリイミド前駆体を調製することが可能な点から、ポリアミック酸とビニルエーテルの反応時の温度としては、5〜35℃が好ましく、更に10〜30℃が好ましい。これよりも反応温度が高い場合には、ヘミアセタールエステル結合の分解等の副反応が進行することから、100%へミアセタールエステル結合としたポリイミド前駆体を得られない傾向がある。
なお、本発明に用いられるポリイミド前駆体は、低沸点の非アミド系溶媒に対して高い溶解性を示すので、塗布などのプロセスにおいて操作性が向上する。
【0105】
ビニルエーテル化合物は、所望のへミアセタールエステル結合の構造に合わせて適宜選択して用いられる。例えば、上記A1を誘導する1級のビニルエーテル化合物としては具体的には、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、n−アミルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル等の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素骨格を有するビニルエーテル化合物;シクロヘキシルメチルビニルエーテル、トリシクロデカニルメチルビニルエーテル、ペンタシクロペンタデカニルメチルビニルエーテル等の脂環式飽和炭化水素骨格を含有するビニルエーテル化合物;エチレングリコールメチルビニルエーテル、エチレングリコールエチルビニルエーテル、エチレングリコールプロピルビニルエーテル、エチレングリコールブチルビニルエーテル、ポリエチレングリコールメチルビニルエーテル、ポリエチレングリコールエチルビニルエーテル、ポリエチレングリコールプロピルビニルエーテル、ポリエチレングリコールブチルビニルエーテル、ポリエチレングリコールオクチルビニルエーテル、プロピレングリコールメチルビニルエーテル、プロピレングリコールエチルビニルエーテル、プロピレングリコールプロピルビニルエーテル、プロピレングリコールブチルビニルエーテル、ポリプロピレングリコールメチルビニルエーテル、ポリプロピレングリコールエチルビニルエーテル、ポリプロピレングリコールプロピルビニルエーテル、ポリプロピレングリコールブチルビニルエーテル、ポリプロピレングリコールオクチルビニルエーテル、ブチレングリコールメチルビニルエーテル、ブチレングリコールエチルビニルエーテル、ブチレングリコールプロピルビニルエーテル、ブチレングリコールブチルビニルエーテル、ポリブチレングリコールメチルビニルエーテル、ポリブチレングリコールエチルビニルエーテル、ポリブチレングリコールプロピルビニルエーテル、ポリブチレングリコールブチルビニルエーテル、ポリブチレングリコールオクチルビニルエーテル、2−ビニロキシテトラヒドロピラン等の直鎖、分岐鎖又は脂環式の飽和又は不飽和の炭化水素骨格中にエーテル結合を含有するビニルエーテル類などが挙げられる。そのほかに、3,4−ジヒドロ−2H−ピラン等の環状ビニルエーテル化合物が挙げられる。
【0106】
上記A2を誘導する2級のビニルエーテル化合物としては、例えば具体的には、イソプロピルビニルエーテル、sec−ブチルビニルエーテル、sec−ペンチルビニルエーテル等の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素骨格を有するビニルエーテル化合物;シクロヘキシルビニルエーテル、トリシクロデカニルビニルエーテル、ペンタシクロペンタデカニルビニルエーテル等の脂環式飽和炭化水素骨格を含有するビニルエーテル化合物;1−メトキシエチルビニルエーテル、1−エトキシエチルビニルエーテル、1−メチル-2−メトキシエチルビニルエーテル、1−メチル-2−エトキシエチルビニルエーテル等の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素骨格中にエーテル結合を含有するビニルエーテル類などが挙げられる。
【0107】
上記A3を誘導する3級のビニルエーテル化合物としては、例えば具体的には、tert−ブチルビニルエーテル、tert−アミルビニルエーテル、等の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素骨格を有するビニルエーテル化合物;1−メチルシクロヘキシルビニルエーテル、1−アダマンチルビニルエーテル等の脂環式飽和炭化水素骨格を含有するビニルエーテル化合物;1,1−ジメチル−2−メトキシエチルビニルエーテル等の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素骨格中にエーテル結合を含有するビニルエーテル類などが挙げられる。
なお、上記1級、2級、及び3級のビニルエーテル化合物のうち、ポリオキシアルキレン残基を含む場合のオキシアルキレン残基の繰り返し数は、15以下となることが分解後の揮発性の点から好ましい。
【0108】
また、本発明の感光性樹脂組成物中に含まれるポリイミド前駆体は、活性水素を含まなければ、ポリイミド前駆体、及び、または、ポリベンゾオキサゾール前駆体などの高分子の繰り返し単位と上記式(1)で示される繰り返し単位が混在していてもよい。しかし、良好なパターンを形成するためには、上記式(1)の繰り返し単位は、ポリイミド前駆体の全繰り返し単位中に少なくとも25モル%以上含むことが好ましく、更に50モル%以上、より更に70モル%以上、特に90モル%以上含むことが好ましい。
活性水素を含まないポリイミド前駆体、ポリベンゾオキサゾール前駆体、その他高分子化合物の例としては、ポリアミド酸エステルの繰り返し単位、ポリアミドフェノールエステルの繰り返し単位、ポリアミドフェノールエーテルの繰り返し単位、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレン、ポリエステルなどが挙げられる。
【0109】
また、本発明のポリイミド前駆体においては、ポリマーの末端が、活性水素を含まない構造または酸無水物基で末端封止されていることが、保存安定性の点から好ましい。
酸無水物基、または活性水素を含まない構造で末端封止する方法としては、例えば、アミン末端のポリイミド前駆体の場合は、無水酢酸でアミド化する方法や、フタル酸無水物や2,3−ナフタル酸無水物などの酸無水物で末端をアミック酸とする方法などが挙げられる。
末端が、芳香族カルボン酸であれば活性水素を持っていても、室温でビニルエーテルと反応しヘミアセタールエステル化されるので、この場合は、保存安定性を低下させない。
【0110】
本発明の感光性樹脂組成物中に含まれるポリイミド前駆体は、感光性樹脂組成物とした際の感度を高め、マスクパターンを正確に再現するパターン形状を得るために、1μmの膜厚のときに、露光波長のいずれかに対して少なくとも5%以上の透過率を示すことが好ましく、15%以上の透過率を示すことが更に好ましい。
露光波長に対してポリイミド前駆体の透過率が高いということは、それだけ、照射光のロスが少ないということであり、高感度の感光性樹脂組成物を得ることができる。
また、一般的な露光光源である高圧水銀灯を用いて露光を行う場合には、少なくとも436nm、405nm、365nmの波長の電磁波のうち1つの波長の電磁波に対する透過率が、厚み1μmのフィルムに成膜した時で好ましくは5%以上、さらに好ましくは15%、さらに好ましくは50%以上である。
【0111】
ポリイミド前駆体の重量平均分子量または、数平均分子量のいずれかは、その用途にもよるが、3,000〜1,000,000の範囲であることが好ましく、5,000〜500,000の範囲であることがさらに好ましく、7,000〜100,000の範囲であることがさらに好ましい。重量平均分子量または、数平均分子量のいずれかが3,000未満であると、塗膜又はフィルムとした場合に十分な強度が得られにくい。また、加熱処理等を施しポリイミドとした際の膜の強度も低くなる。一方、重量平均分子量または、数平均分子量のいずれかが1,000,000を超えると粘度が上昇し、溶解性も落ちてくるため、表面が平滑で膜厚が均一な塗膜又はフィルムが得られにくい。
ここで用いている重量平均分子量とは、公知の手法により得られる分子量であり、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の値が例示され、数平均分子量は1H-NMRスペクトルから求めた末端部の繰り返し単位由来のピークと非末端部の繰り返し単位由来のピークの積分比から求める方法などが例示される。
【0112】
本発明に係る感光性樹脂組成物において、上記ポリイミド前駆体は、別々に合成した2種以上のポリイミド前駆体をブレンドしてもよい。その目的に応じて、1級のビニルエーテル化合物を用いて合成されたポリイミド前駆体、2級のビニルエーテル化合物を用いて合成されたポリイミド前駆体、3級のビニルエーテル化合物を用いて合成されたポリイミド前駆体を適宜混合して用いても良い。
本発明に係る感光性樹脂組成物において、上記ポリイミド前駆体の固形分は、得られるパターンの膜物性、特に膜強度や耐熱性の点から、溶剤を含む感光性樹脂組成物全体中に、0.1重量%〜80重量%であることが好ましく、0.5重量%〜50重量%であることがさらに好ましい。固形分濃度が0.1重量%よりも小さい場合は、得られる塗膜の膜厚が薄く、表面に凹凸のある基板に対しての追従性が低下し、塗布むらが発生しやすい。一方、固形分濃度が80重量%より大きい場合は、粘度が大きくなり塗布途中での溶媒の揮発等による膜厚むらが発生しやすくなる。
また、本発明に係る感光性樹脂組成物において、上記ポリイミド前駆体の固形分は、得られるパターンの膜物性、特に膜強度や耐熱性の点から、感光性樹脂組成物中の溶剤と後述するビニルエーテル化合物を除いた固形分全体に対し、30重量%以上、50重量%以上含有することが好ましい。
【0113】
本発明の感光性樹脂組成物は、必須の成分として光の作用によってカルボン酸を発生する化合物を含む。本発明における光の作用によってカルボン酸を発生する化合物としては、電磁波を吸収することにより分解してカルボン酸を発生するものであれば、公知のものを特に制限なく使用することができる。本発明に用いられる光の作用によってカルボン酸を発生する化合物としては、それ自体が電磁波の照射によって分解、または分子内転移等の反応がおこり、中性から酸性へ変化する化合物が好適に用いられる。光の作用によってカルボン酸を発生する化合物は、単独で使用しても2種以上混合して用いても良い。
【0114】
光の作用によってカルボン酸を発生する化合物としては、o−キノンジアジド基を有する化合物を用いることが好ましい。o−キノンジアジド基を有する化合物は、露光前後における疎水性、親水性の差が大きく、大きな溶解性コントラストを得ることができる。また、高感度であり光の吸収帯が広いことから幅広い光源への適用が可能であると言う特徴がある。更には、種々の骨格が市販されており入手が容易である。前記式(1)で表わされる繰り返し単位を有するポリイミド前駆体とo−キノンジアジド基を有する化合物を組み合わせて用いると、感度が高く、低コストな感光性樹脂組成物を得ることができる。
【0115】
o−キノンジアジド基を有する化合物としては、o−ベンゾキノンジアジドスルホン酸エステル又はスルホン酸アミド、o−ナフトキノンジアジド−4−スルホン酸エステル又はスルホン酸アミド、或いは、o−ナフトキノンジアジド−5−スルホン酸エステル又はスルホン酸アミド等を挙げることができる。o−キノンジアジド基を有する化合物は、例えば、o−キノンジアジドスルホニルクロリド類とヒドロキシ化合物、アミノ化合物などとを脱塩酸剤の存在下で縮合反応させることで得られる。
【0116】
上記o−キノンジアジドスルホニルクロリド類としては、例えば、ベンゾキノン−1,2−ジアジド−4−スルホニルクロリド、ナフトキノン−1,2−ジアジド−5−スルホニルクロリド、ナフトキノン−1,2−ジアジド−4−スルホニルクロリド等が使用できるが、必ずしもここに挙げられたものに限定されない。
【0117】
上記o−キノンジアジドスルホニルクロリド類と反応させる化合物としては、感光特性の点から、ヒドロキシ化合物が好ましく、かかるヒドロキシ化合物としては、例えば、ヒドロキノン、レゾルシノール、ピロガロール、ビスフェノールA、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,3,4,4'−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2',4,4'−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,3,4,2',3'−ペンタヒドロキシベンゾフェノン,2,3,4,3',4',5'−ヘキサヒドロキシベンゾフェノン、ビス(2,3,4−トリヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2,3,4−トリヒドロキシフェニル)プロパン、4b,5,9b,10−テトラヒドロ−1,3,6,8−テトラヒドロキシ−5,10−ジメチルインデノ[2,1−a]インデン、トリス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンなどが使用できる。用いられるヒドロキシ化合物は、必ずしもここに挙げられたものに限定されない。
【0118】
また、上記アミノ化合物としては、例えば、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル、4,4'−ジアミノジフェニルメタン、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、4,4'−ジアミノジフェニルスルフィド、o−アミノフェノール、m−アミノフェノール、p−アミノフェノール、3,3'−ジアミノ−4,4'−ジヒドロキシビフェニル、4,4'−ジアミノ−3,3'−ジヒドロキシビフェニル、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンなどが使用できる。用いられるアミノ化合物は、必ずしもここに挙げられたものに限定されない。
【0119】
光の作用によってカルボン酸を発生する化合物は、溶剤を含む感光性樹脂組成物全体中に、0.005重量%〜20重量%であることが、感度の観点から好ましい。また、本発明に係る感光性樹脂組成物において、光の作用によってカルボン酸を発生する化合物は、感光性樹脂組成物中の溶剤と後述するビニルエーテル化合物を除いた固形分全体に対し、0.01〜45重量%含まれることが感度の観点から好ましく、0.1重量%〜35重量%含まれることが、イミド化後の光の作用によってカルボン酸を発生する化合物由来の分解物を抑制する観点からより好ましい。特にアウトガス発生の観点からは、より光の作用によってカルボン酸を発生する化合物の量はより少ないことが望まれる。
【0120】
本発明に用いられる光の作用によってカルボン酸を発生する化合物としては、436nm、405nm、365nmの波長の電磁波のうち少なくとも1つの波長に吸収を有することが好ましい。上記感光性樹脂組成物に含まれるポリイミド前駆体は、一般に、330nm以下の波長に強い吸収を有する。その為、上記感光性樹脂組成物に含まれる光の作用によってカルボン酸を発生する化合物は、ポリイミド前駆体が透過しやすい波長領域の光の作用によって、カルボン酸を発生することが好ましく、330nm以上の波長領域に吸収を有することが好ましい。さらには、一般に露光に用いられる光源である高圧水銀灯の発光波長のうち、強度が大きい、436nm、405nm、365nmの波長の光のうち、少なくとも1つの波長の光に吸収を有していることが好ましく、その中でも、436nm、405nmの波長に吸収を有することが特に好ましい。
本発明に用いられる光の作用によってカルボン酸を発生する化合物としては、具体的には少なくとも365nm以上のいずれかの波長におけるモル吸光係数が1以上であることが好ましく、10以上であることがさらに好ましく、50以上であることがより好ましい。
【0121】
また、イミド化後の膜中への光の作用によってカルボン酸を発生する化合物由来の分解物の残存を抑制する観点から、窒素雰囲気下、400℃におけるカルボン酸を発生する化合物単体の熱重量減少率が50%以下であることが好ましく、30%以下であることがさらに好ましく、10%以下であることがより好ましい。
特に、ポリイミド中への分解残渣の残存を抑制したい場合には、窒素雰囲気下、300℃におけるカルボン酸を発生する化合物単体の熱重量減少率が50%以下であることが好ましく、30%以下であることがさらに好ましく、10%以下であることがより好ましい。
【0122】
本発明の感光性樹脂組成物には、活性水素を含まないことが好ましく、活性水素を含有する化合物を含まないことが好ましい。特に、水を含まないことが好ましい。これらを含むと、ヘミアセタールエステル結合が徐々に分解し、保存安定性が低下する。
ヘミアセタールエステル結合は、水酸基などの活性水素を有する化合物と共存するとそれらとの交換反応が起こる場合がある。通常ヘミアセタール結合はヘミアセタールエステル結合よりも安定であるため、上記ポリイミド前駆体と水酸基含有化合物が共存すると、ヘミアセタールエステル結合が水酸基により消費されポリアミック酸が生成する。つまり、上記ポリイミド前駆体は水酸基など活性な水素を有する化合物と共存させると安定性が低下する。ヘミアセタールエステル結合の分解反応の速度は、その化学構造により異なり、ヘミアセタールエステル結合を生成する反応の速度が速いほど、分解の速度も速い傾向がある。
【0123】
また保存安定性を良好にする観点から、感光性樹脂組成物中の水分含有量は1重量%以下であることが好ましく、0.1重量%以下であることがさらに好ましい。さらには、実質的に水分を含まないことがもっとも好ましい。なおここで”実質的に水を含まない”とは、水による保存安定性の低下が観察されないほど組成物中の水の含有量が少ないことをいう。具体的には、組成物中の含水率が0.005重量%未満程度、更に0.001重量%未満である状態をいう。
【0124】
さらに、ヘミアセタールエステル結合はスルホン酸や塩基の存在下、加水分解が触媒的に進行する。その為、感光性樹脂組成物中に強酸性物質や塩基を実質的に含まないことで保存安定性を向上させることが出来る。なおここで”強酸性物質や塩基を実質的に含まない”とは、強酸性物質や塩基による保存安定性の低下が観察されないほど組成物中の強酸性物質や塩基の含有量が少ないことをいう。具体的には、組成物中の強酸性物質又は塩基含有率が0.005重量%未満程度、更に0.001重量%未満である状態をいう。
【0125】
感光性樹脂組成物を溶解、分散又は希釈する溶剤としては各種の汎用溶剤を用いることが出来る。これらは単独でも、2種以上を混合して用いてもよい。ただ、感光性樹脂組成物の保存安定性を高めるためには、活性水素を含まない溶媒を用いることが好ましい。さらに、同様の目的から骨格中にアミド結合など窒素原子を含有しない溶媒であることが好ましい。また、窒素原子を含有する溶媒を含まないことが好ましい。
また、ポリイミド前駆体の合成反応により得られた溶液をそのまま用い、そこに光酸発生剤や、必要に応じて他の成分を混合しても良い。
後述するビニルエーテル化合物は、その構造の選択により、当該溶剤の代わりになる場合もある。その場合には、感光性樹脂組成物を溶解、分散又は希釈するための溶剤は含まれなくても良い。
【0126】
使用可能な汎用溶剤としては、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル等のエーテル類;メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸n−プロピル、酢酸i−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸i−ブチル、前記グリコールモノエーテル類の酢酸エステル(例えば、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート)、メトキシプロピルアセテート、エトキシプロピルアセテート、蓚酸ジメチル、乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル類;塩化メチレン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエチレン、1−クロロプロパン、1−クロロブタン、1−クロロペンタン、クロロベンゼン、ブロムベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;γ−ブチロラクトン等のラクトン類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、その他の有機極性溶媒類等が挙げられ、更には、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、及び、その他の有機非極性溶媒類等も挙げられる。これらの溶媒は単独若しくは組み合わせて用いられる。
この中でも、溶解性に優れ高濃度の溶液を調製できる観点から、ラクトン類、スルホキシド類を用いることが好ましい。
【0127】
また、本発明の感光性樹脂組成物は、ビニルエーテル化合物を含有することが、保存安定性が飛躍的に向上する点から好ましい。
上記ポリイミド前駆体を単離すると、保存の過程で時間の経過とともに空気中の水分等の作用により加水分解され、徐々にカルボン酸へ戻る。特に、比較的安定な脂肪族カルボン酸とビニルエーテル化合物からなる脂肪族ヘミアセタールエステル結合と異なり、芳香族カルボン酸とビニルエーテル化合物の反応などから得られる芳香族ヘミアセタールエステル結合は、両者を混合するだけで室温で反応が進行する反面、単体で存在すると空気中の水分などと反応し加水分解される場合が多い。
しかし、ヘミアセタールエステル結合を有するポリイミド前駆体はビニルエーテルと共存させることで、加水分解によって生成したカルボン酸が、再度、ヘミアセタールエステル化される。すなわち、合成直後のヘミアセタールエステル結合を有するポリイミド前駆体と同様、実質的に全てのカルボキシル基がヘミアセタールエステル化されたポリイミド前駆体となる。その為、上記ポリイミド前駆体はビニルエーテルと共存させることにより樹脂組成物としての、保存安定性が良好となる。また、複数のビニルエーテル化合物を共存させても良く、複数の保護部位を有するポリイミド前駆体を含む感光性樹脂組成物の場合は、その保護部位の導入率を安定化させる観点から、複数の保護部位を調製するのに用いられた複数のビニルエーテル化合物を共存させた方がよい。
【0128】
上記感光性樹脂組成物に空気中などから、水などの活性水素を有する化合物が混入した場合、上記ポリイミド前駆体がポリアミック酸へと分解する。しかしこのような場合であっても、ビニルエーテル化合物と共存している場合、ポリアミック酸がビニルエーテル化合物と反応し、ヘミアセタールエステル結合が再生される。さらにこの場合、ポリアミック酸と同時に生成するアセトアルデヒドも酸化され難く、酢酸になり難くなる。さらに、アルコールも、他のヘミアセタールエステル結合と交換反応によってアセタール化合物となる為、結果的に感光性樹脂組成物中に、活性水素を含まない状態となる。
【0129】
従って、活性水素を含む化合物の量に対して、過剰のビニルエーテルが含まれている場合には、活性水素によって形成されたポリアミック酸が、速やかにヘミアセタールエステル結合となるために、実質的に上記感光性樹脂組成物の特性は変化しない。
このサイクルが続くことで、空気中などから感光性樹脂組成物中に混入した水分などが消費され、ヘミアセタールエステル結合が再生されることから、良好な溶液安定性を示す。
【0130】
ビニルエーテル化合物の含有量としては、溶剤を含む感光性樹脂組成物全体中に1重量%〜90重量%であることが好ましく5重量%〜70重量%であることがさらに好ましい。またビニルエーテル化合物は、溶媒を含む場合には、溶媒100重量部に対して、55重量部以上含まれていることがポリイミド前駆体の保存安定性の点から好ましい。ビニルエーテル化合物の選択によっては、ビニルエーテル化合物が溶媒の代わりになり、溶媒を含まない場合もあり得るため、含有量はビニルエーテル化合物の種類によって適宜選択される。
ビニルエーテル化合物の量が多ければ多いほど保存安定性が良好となる一方、特に芳香族骨格を多く含んだポリイミド前駆体を用いた場合には、溶解性が低下する傾向ある。
その為、保存安定性を良好にする観点では、ポリイミド前駆体などの感光性樹脂組成物中の固形分が析出しない範囲でビニルエーテル化合物の量が出来るだけ多い方がよい。
【0131】
本発明に係る感光性樹脂組成物は、ポリイミド前駆体と、光の作用によってカルボン酸を発生させる化合物と、必要に応じて溶媒だけの単純な混合物であってもよいが、さらに適宜、増感剤等のその他の成分を配合して、感光性樹脂組成物を調製してもよい。
【0132】
ポリイミド前駆体を透過する波長の電磁波のエネルギーを光の作用によってカルボン酸を発生させる化合物が充分利用できる様にし、感度を向上させたい場合に、増感剤の添加が効果を発揮する場合がある。
特に、ポリイミド前駆体の吸収が360nm以上の波長にもある場合には、増感剤の添加による効果が大きい。増感剤と呼ばれる化合物の具体例としては、チオキサントン及び、ジエチルチオキサントンなどのその誘導体、クマリン系及び、その誘導体、ケトクマリン及び、その誘導体、ケトビスクマリン、及びその誘導体、シクロペンタノン及び、その誘導体、シクロヘキサノン及び、その誘導体、チオピリリウム塩及び、その誘導体、チオキサンテン系、キサンテン系及び、その誘導体などが挙げられる。しかし、これらには活性水素基を持たないことが感光性樹脂組成物の保存安定性の観点から好ましい。
【0133】
クマリン、ケトクマリン及び、その誘導体の具体例としては、3,3’−カルボニルビスクマリン、3,3’−カルボニルビス(5,7−ジメトキシクマリン)、3,3’−カルボニルビス(7−アセトキシクマリン)等が挙げられる。
チオキサントン及び、その誘導体の具体例としては、ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントンなどが挙げられる。
【0134】
さらに他にはベンゾフェノン、アセトフェノン、フェナントレン、2−ニトロフルオレン、5−ニトロアセナフテン、ベンゾキノン、2−エチルアントラキノン、2−ターシャリーブチルアントラキノン、1,2−ベンズアンスラキノン、1,2−ナフトキノン、などが挙げられる。
これらは、光の作用によってカルボン酸を発生させる化合物との組み合わせによって、特に優れた効果を発揮する為、光の作用によってカルボン酸を発生させる化合物の構造によって最適な増感作用を示す増感剤が適宜選択される。
【0135】
また、本発明に係る感光性樹脂組成物には、本発明の目的と効果を妨げない限り、加工特性や各種機能性を付与するために、その他に様々な有機又は無機の低分子又は高分子化合物を配合してもよい。例えば、染料、界面活性剤、レベリング剤、可塑剤、微粒子等を用いることができる。微粒子には、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン等の有機微粒子、コロイダルシリカ、カーボン、層状珪酸塩等の無機微粒子等が含まれ、それらは多孔質や中空構造であってもよい。また、その機能又は形態としては顔料、フィラー、繊維等がある。
【0136】
その他の任意成分の配合割合は、任意成分の性質により適宜選択され特に限定されないが、感光性樹脂組成物の溶剤と後述するビニルエーテル化合物を除いた固形分全体に対し、0.1重量%〜30重量%の範囲が好ましい。0.1重量%未満だと、添加物を添加した効果が発揮されにくく、30重量%を超えると、最終的に得られる樹脂硬化物の特性が最終生成物に反映されにくい。
【0137】
本発明に係る感光性樹脂組成物は、さまざまなコーティングプロセスや成形プロセスに用いられて、膜(フィルム)や3次元的形状の成形体を作製することができる。
【0138】
本発明の感光性樹脂組成物より得られるポリイミドは、その前駆体の塩基性溶液に対する溶解性制御成分であるヘミアセタールエステル化部位の脱離性が優れている。また、ヘミアセタールエステル化部位の熱分解によって発生する分解物(ビニルエーテル、または、アセトアルデヒド、アルコール)は、200℃以下に沸点を持つ常温で液体の場合が多く、加熱の過程でその大部分が揮発する。さらに、イミド化に要する250℃以上の加熱によって、ほぼ全てが膜中より放散されると推測される。その為、最終的に得られたポリイミド膜は、塩基性溶液に対する溶解性制御成分由来の分解残渣の含有が少ない。従って、ポリイミドの耐熱性、寸法安定性、絶縁性等の本来の特性も損なわれず、良好である。
【0139】
例えば、本発明の感光性樹脂組成物から得られるポリイミドの窒素中で測定した5%重量減少温度は、250℃以上であることが好ましく、300℃以上であることがさらに好ましい。特に、はんだリフローの工程を通るような電子部品等の用途に用いる場合は、5%重量減少温度が300℃以下であると、はんだリフローの工程で発生した分解ガスにより気泡等の不具合が発生する恐れがある。
ここで、5%重量減少温度とは、熱重量分析装置を用いて重量減少を測定した時に、サンプルの重量が初期重量から5%減少した時点(換言すればサンプル重量が初期の95%となった時点)の温度である。同様に10%重量減少温度とはサンプル重量が初期重量から10%減少した時点の温度である。
【0140】
本発明の感光性樹脂組成物から得られるポリイミドのガラス転移温度は、耐熱性の観点から260℃以上であることが好ましい。半田リフローの工程がある電子部材などでは、重要である。光導波路のように熱成形プロセスが考えられる用途においては、120℃〜400℃程度のガラス転移温度を示すことが好ましく、200℃〜370℃程度のガラス転移温度を示すことがさらに好ましい。
ここで本発明におけるガラス転移温度は、感光性樹脂組成物から得られるポリイミドをフィルム形状にすることが出来る場合には、動的粘弾性測定によって、tanδ(tanδ=損失弾性率(E’’)/貯蔵弾性率(E’))のピーク温度から求められる。動的粘弾性測定としては、例えば、粘弾性測定装置Solid Analyzer RSA II(Rheometric Scientific社製)によって、周波数1Hz、昇温速度5℃/minにより行うことができる。感光性樹脂組成物から得られるポリイミドをフィルム形状にできない場合には、示差熱分析装置(DSC)のベースラインの変曲点の温度で判断する。
【0141】
本発明の感光性樹脂組成物から得られるポリイミドは寸法安定性の観点から、線熱膨張係数は60ppm以下が好ましく、0ppm〜40ppmの範囲がさらに好ましい。半導体素子等の製造プロセスにおいてシリコンウェハ上に膜を形成する場合には、密着性、基板のそりの観点から0ppm〜25ppmの範囲がさらに好ましい。ここで、本発明における線熱膨張係数とは、本発明で得られる感光性樹脂組成物から得られるポリイミドのフィルムの熱機械的分析装置(TMA)によって求めることができる。熱機械的分析装置(例えばThermo Plus TMA8310(リガク社製)によって、昇温速度を10℃/min、評価サンプルの断面積当たりの加重が同じになるように引張り加重を1g/25000μm2として得られる。
【0142】
本発明の感光性樹脂組成物から得られるポリイミドは、同様に寸法安定性の観点から、湿度膨張係数は40ppm以下が好ましく、20ppm以下がさらに好ましい。理想的には10ppm〜0ppmが好ましい。
ここで、本発明における湿度膨張係数とは、本発明で得られる感光性樹脂組成物から得られるポリイミドのフィルムの湿度可変機械的分析装置(S−TMA)によって求めることができる。湿度可変機械的分析装置(例えばThermo Plus TMA8310改(リガク社製))によって、温度を25℃で一定とし、湿度を20%RHの環境下でサンプルが安定となった状態で、湿度を50%Rhに変化させ、それが安定となった際のサンプル長の変化を、湿度の変化(この場合50−20の30)で割り、その値を、サンプル長で割った値が湿度膨張係数である。評価サンプルの断面積当たりの加重が同じになるように引張り加重を1g/25000μm2として得られる。
【0143】
次に、本発明の感光性樹脂組成物を用いたパターン形成方法について、説明する。
本発明のパターン形成方法は、前記本発明に係る感光性樹脂組成物からなる膜又は成形体の形成時又は形成後に加熱する加熱工程と、前記加熱工程後に前記膜又は成形体の表面に、所定のパターン状に電磁波を照射する露光工程と、塩基性溶液を現像液として用いて現像する現像工程を有する。
上記ポリイミド前駆体と光の作用によりカルボン酸を発生させる化合物を含有する感光性樹脂組成物は、膜又は成形体の形成時または形成後露光前に加熱する加熱工程により、上記ポリイミド前駆体について部分的にヘミアセタールエステル結合を分解し、塩基性溶液に対する適度な溶解性を付与した後、露光工程において光の作用によって発生したカルボン酸の作用により、露光部の塩基性溶液に対する溶解性を増大させる。この溶解性の変化を利用し、所望のパターンに露光を行うことによって、露光部を塩基性溶液で溶出させることによりパターンを得ることができる。
【0144】
本発明に係る感光性樹脂組成物からなる膜又は成形体は、公知の方法により形成することができる。例えば膜は、本発明の感光性樹脂組成物を基板上に塗布し、乾燥させて得ることができる。このとき、基板とはポリイミド膜を形成したい対象物であり、銅やステンレス等の金属や、シリコンや金属酸化物、金属窒化物などの無機物、ポリイミドや、ポリベンゾオキサゾールなどの有機物などが例示されるが、本発明においては基板によって密着性等が若干変化するものの、パターン形成や得られる膜の特性については、本質的には変化しないので基板は特に限定されない。
塗布方法についても、スピンコート法、ダイコート法、ディップコート法などの手法が挙げられるが、特に限定されず、公知の手法を用いることができる。本発明のパターン形成方法は、どの塗布方法で得られた膜においても用いることが出来る。
乾燥は、ホットプレートやオーブンなど、適宜、公知の加熱手法を用いることが出来る。
【0145】
膜又は成形体の形成時または形成後露光前に加熱する加熱工程において、加熱する温度は、上記ポリイミド前駆体において部分的にヘミアセタールエステル結合を分解して、塩基性溶液に対する適度な溶解性を付与できるように、適宜調整する。加熱条件によっては、当該加熱工程は、膜又は成形体の形成時の乾燥工程と兼ねることができる。加熱温度としては、室温(23℃)から130℃の範囲が好ましい。130℃を超えるとo−キノンジアジド基など光の作用によりカルボン酸を発生させる化合物の分解が始まる恐れがあり、パターン形成が不安定となる。またここでの加熱温度は、上記ポリイミド前駆体の式(1)におけるRや、式(2)におけるAの構造に依存する。一般に、Rの電子吸引性が強い、またはAの電子供与性が強いと、より低温でヘミアセタールエステル結合の分解が進行し、逆の場合、より高温での加熱が必要である場合が多い傾向がある。加熱温度は、上記ポリイミド前駆体の構造により適宜選択されるが、加熱時間は、5秒〜120分、生産性の観点から好ましくは30秒から30分を目安とすることができる。
加熱方法は、公知の手法を、特に限定されることなく適宜用いることができる。
【0146】
膜又は成形体の形成時または形成後露光前に加熱する加熱工程における加熱条件は、例えば、以下のような予備実験を行うことにより決定することができる。
まず、例えば、ポリイミド前駆体の1wt%重DMSO溶液をNMRチューブ中で加熱し、NMRスペクトルのピークの積分比により、加熱条件とヘミアセタールエステル結合の分解率の関係を求める方法や、厚み800μmの無アルカリガラスなどの基板上に塗布し、ホットプレートによって加熱し、温度や加熱時間を変化させたサンプルを作製し、そのサンプルをそのままIRで測定しIRスペクトルによる、ビニルエーテル由来のピークの積分比より、加熱条件とヘミアセタールエステル結合の分解率の関係を求めたり、上記サンプルを重DMSOに溶かし出し、NMRを測定し、そのスペクトルの積分比により、加熱条件とヘミアセタールエステル結合の分解率の関係を求める方法などを行う。
上記のようにして求めた加熱条件とヘミアセタールエステル結合の分解率の関係から、加熱条件の範囲を適宜狭く設定する。当該狭く設定された範囲の加熱条件と同じ条件で作成したサンプルの現像液に対する溶解速度の関係を求め、用いられるポリイミド前駆体単体の塗膜の現像液に対する溶解速度が、0.1nm/s〜100nm/sの範囲、好ましくは0.5nm/s〜50nm/sの範囲、更に好ましくは1nm/s〜20nm/sの範囲になるような分解率となるように、加熱条件(加熱温度と加熱時間など)をみつけることができる。
或いは、ヘミアセタールエステル結合の分解率を求めることなく、用いられるポリイミド前駆体単体の塗膜の加熱温度や加熱時間を変化させた複数のサンプルを作製し、現像液に対する溶解速度が、0.1nm/s〜100nm/sの範囲、好ましくは0.5nm/s〜50nm/sの範囲、更に好ましくは1nm/s〜20nm/sの範囲になるようなサンプルから、加熱条件を見つけても良い。
【0147】
露光工程においては、そのようにして得られた膜又は成形体について、所望のパターンが形成されたフォトマスクを介して、または、直接、パターン状に電磁波を照射する。
露光の光源は、特に限定されず公知のものであれば、どれを使ってもよいが、ポリイミド前駆体、特に高耐熱、低線熱膨張係数を示す芳香族ポリイミドの場合、350nm以下の波長に強い吸収を有する為、高感度の感光性樹脂組成物として用いるには、360nm以上の波長の光で露光を行うのがよい。これらの条件と入手の容易性、メンテナンスコストなどの観点から、高圧水銀灯やそれに類する光源を用いるのが好ましい。
露光工程に用いられる露光方法や露光装置は特に限定されることなく、密着露光でも間接露光でも良くステッパー、スキャナー、アライナー、密着プリンター、レーザー、電子線描画等、公知のあらゆる手段を用いることができる。
【0148】
露光後、現像工程を行う。
本発明の感光性樹脂組成物は、光の作用によりカルボン酸を発生させる化合物の作用により、露光部、未露光部において塩基性溶液に対する溶解性を変化させることが出来る。
【0149】
本発明の感光性樹脂組成物の未露光部は、塩基性溶液に難溶性であり、露光部は、発生したカルボン酸の作用により、塩基性溶液への溶解性が増大し、塩基性溶液に可溶となる。
つまり、露光の後に、塩基性溶液で現像することにより、ポジ型パターンが得られる。
このように本発明の感光性樹脂組成物は、より安価なアルカリ水溶液を用いることができると言う利点がある。
【0150】
現像工程に用いられる現像液としては、特に限定されず、塩基性の溶液が適用可能である。その中でも特に環境適性の観点から塩基性水溶液が好ましい。
塩基性水溶液としては、特に限定されないが、例えば、濃度が、0.01重量%〜30重量%、好ましくは、0.05重量%〜10重量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化マグネシウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液、その他、1級、2級、3級アミンの水溶液、水酸化物イオンとアンモニウムイオンの塩の水溶液等が挙げられる。
溶質は、1種類でも2種類以上でも良く、全体の重量の50%以上、さらに好ましくは70%以上、水が含まれていれば有機溶媒等を含んでいても良い。
【0151】
有機溶剤としては、特に限定されないが、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル等のエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールモノエーテル類(いわゆるセロソルブ類);メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸n−プロピル、酢酸i−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸i−ブチル、前記グリコールモノエーテル類の酢酸エステル(例えば、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート)、メトキシプロピルアセテート、エトキシプロピルアセテート、シュウ酸ジメチル、乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等のアルコール類;塩化メチレン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエチレン、1−クロロプロパン、1−クロロブタン、1−クロロペンタン、クロロベンゼン、ブロムベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;N−メチルピロリドンなどのピロリドン類;γ−ブチロラクトン等のラクトン類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン等の飽和炭化水素類、その他の有機極性溶媒類等が挙げられ、更には、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、及び、その他の有機非極性溶媒類等も挙げられる。これらの溶媒は単独もしくは組み合わせて用いられる。また、パターン形状を良くするためにこれら有機溶媒と水や、塩基性、酸性水溶液を組み合わせて、混合溶媒として用いても良い。
【0152】
現像液自体のコストや廃液処理、さらには、生産設備のコストの観点からは、アルカリ水溶液による現像が好ましい。特に、最終的に得られたポリイミド膜に対して高い信頼性を求められている場合には、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物ではなく、有機系塩基であることが好ましい。特に入手の容易さやコストの観点からテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)であることが好ましい。
【0153】
現像は、スプレー現像やディップ現像、パドル現像など公知の現像方法で行うことが出来る。現像時の温度は、好ましくは1℃〜80℃、より好ましくは、4℃〜60℃である。
現像の後に、必要に応じてリンスを行ってもよい。リンスは、水や水と上記有機溶媒の混合物、塩基性水溶液など適宜選択できる。
【0154】
塗膜中への残渣をより低減させたい、または塗膜の透明性をより向上させたい場合には、工程は増えるが、現像してパターン形成後に、全体を露光し、カルボン酸を発生させてから、後述するイミド化を行う手法を取ることも出来る。特に光の作用によってカルボン酸を発生させる化合物がo−キノンジアジド基を有する化合物の場合、露光しカルボン酸に変化させることで、フォトブリーチし透明性が向上するため効果が大きい。
【0155】
現像工程の後に、イミド化を行う。通常は、オーブンやホットプレートなどにより加熱することでイミド化を行う場合が多い。
一般にポリアミック酸は150℃程度から徐々にイミド化が進行し、200℃以上の温度においてほぼイミド化が完了すると言われている。ただし、より高度な信頼性を求める場合には、より完全にイミド化を進行させることが必要であり、その場合は、最終的に得られるポリイミド膜のTg以上の温度での加熱が理想的である。しかし、一般には300℃〜400℃の温度で加熱すれば十分実用的な信頼性を示すポリイミド膜が得られる。
【0156】
本発明の感光性樹脂組成物の場合、ヘミアセタールエステル結合が、180℃程度でほぼ完全に分解することから、180℃以下の温度での加熱時間を長くすることで、保護基由来の成分のより完全な脱離を促進することが出来る。加熱時間は長ければ長いほどポリイミド中の残存物を減らす観点からは好ましいが、生産性とのバランスをとる上で40℃以上150℃以下の範囲の温度で通算1分〜180分で加熱されることが好ましく、5分〜120分の加熱が行われることが、より好ましい。
【0157】
さらにその後、イミド化を完全に進行させるために、目的に応じて180℃〜450℃、好ましくは200℃〜400℃の範囲で加熱を行う。好ましくは、加熱温度の最高温度が251℃以上400℃以下である。
特に100℃以上の温度を加える際には、ポリイミドや基板の酸化を防止するため窒素やアルゴンなどの不活性雰囲気下で行うことが好ましい。さらに、ポリイミド中への残存物を減らすためには、減圧下で行うことが好ましい。
【0158】
以上に述べたように、本発明に係る感光性樹脂組成物は、簡便に安価な原料で合成することが可能であるヘミアセタールエステル結合を有するポリイミド前駆体を含むことで、より安価に、高い感度を示す。加えて、ヘミアセタールエステル結合を有するポリイミド前駆体は、ヘミアセタールエステル結合が容易に分解し且つヘミアセタールエステル結合の分解によって発生したポリアミック酸以外の分解物の揮発性が高いことにより、最終的に得られるポリイミド膜中への残存物がほとんどない。さらには、ヘミアセタールエステル化は種々の骨格へ適用可能であるので、用いるポリイミド前駆体の骨格の選択の幅が広い。
本発明によれば、光の作用によってカルボン酸を発生させる化合物の添加によりパターン形成可能であるので、より簡便に、高感度の感光性樹脂組成物を得られるという特徴を有する。
【0159】
本発明に係る感光性樹脂組成物は、当該組成物からなる膜又は成形体の表面に電磁波を照射して、照射部位を選択的に易溶化させてパターン形成が可能であるため、当該感光性樹脂組成物からなる膜又は成形体の表面を現像液から保護するためのレジスト膜を用いずに、現像を行うパターン形成が可能である。この方法は、パターン形成のプロセスが簡素であるというメリットを有する。中でも塩基性水溶液を用いる場合には、自然環境に対する負荷や労働衛生上の悪影響が小さい。
更には、ヘミアセタールエステル結合により導入される保護部位を分解温度の異なる2種以上のものとすることで、選択的にヘミアセタールエステル結合の分解率を制御することが可能となり、より安定的なパターン形成が可能となる。
【0160】
本発明に係る感光性樹脂組成物は、印刷インキ、接着剤、充填剤、電子材料、光回路部品、成形材料、レジスト材料、建築材料、3次元造形、光学部材等、樹脂材料が用いられる公知の全ての分野・製品に利用できる。
【0161】
上記本発明に係る感光性樹脂組成物は、広範な構造のポリイミド前駆体を選択できる為、それによって得られる硬化物は、耐熱性、寸法安定性、絶縁性等のポリイミドが特徴的に有する機能を付与することが可能であることから、ポリイミドが適用されている公知の全ての部材用のフィルム、塗膜又は3次元構造物として好適である。
本発明に係る感光性樹脂組成物は、耐熱性、寸法安定性、絶縁性等の特性が有効とされる広範な分野・製品、例えば、塗料又は印刷インキ、或いは、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、半導体装置、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム、光学部材又は建築材料の形成材料として好適に用いられる。
【0162】
特に、ポリイミド前駆体を含有する感光性樹脂組成物は、主にパターン形成材料(レジスト)として用いられ、それによって形成されたパターンは、ポリイミドからなる永久膜として耐熱性や絶縁性を付与する成分として機能し、例えば、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、電子部品、半導体装置、層間絶縁膜、配線被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、その他の光学部材又は電子部材を形成するのに適している。
【0163】
また、本発明においては、本発明に係る感光性樹脂組成物又はその熱硬化物により少なくとも一部分が形成されている、印刷物、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、半導体装置、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム、光学部材又は建築材料いずれかの物品が提供される。
【実施例】
【0164】
(製造例1)
100mLの3つ口フラスコを窒素気流下加熱し、十分乾燥させた後、空気中の水分に対して十分注意しながら、ジメチルアセトアミド溶媒で重合し、アセトンによって再沈殿生成後、乾燥させたBPDA−ODA(3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルからなるポリアミック酸)の白色固体 1.98g、エチレングリコールブチルビニルエーテル(EGBVE) 5g、乾燥させたガンマ−ブチロラクトン5mlを投入した。乾燥させた窒素気流下室温で、70時間マグネティックスターラーによって撹拌した。当初は、BPDA−ODAが溶解しなかったが、反応の進行とともに溶解し、褐色の溶液となった。その後、反応液の一部を乾燥させたジエチルエーテルで再沈殿し、BPDA−ODAのエチレングリコールブチルビニルエーテル保護体(ポリイミド前駆体1)の白色固体を得た。H−NMRによって解析を行い6.2ppm付近のヘミアセタールエステル結合の酸素と酸素の間の炭素に結合する水素のピークの積分値とジフェニルエーテルの芳香環の水素のピークの積分比より保護率(カルボキシル基に対するヘミアセタールエステル結合の反応率)が100%であることを確認した。GPCにより求めたポリスチレン換算の重量平均分子量は18400であった。
なお、重量平均分子量は、サンプルを0.5重量%の濃度のN−メチルピロリドン(NMP)溶液とし、展開溶媒は、含水量500ppm以下の10mmol%LiBr−NMP溶液を用い、東ソー社製GPC装置(HLC−8120 使用カラム TSK gels α−M ;東ソー製 ×2)を用い、溶媒流量0.5mL/分、40℃の条件で測定を行った。重量平均分子量は、サンプルと同濃度のポリスチレン標準サンプルを基準に求めた。
【0165】
(製造例2〜3)
製造例1と同じ手順で、ビニルエーテル化合物としてEGBVEの代わりに、シクロヘキシルビニルエーテル(CVE:製造例2)、又は2−ビニロキシテトラヒドロピラン(THPVE:製造例3)を用いて、ポリイミド前駆体2、及び、ポリイミド前駆体3を得た。
【0166】
(製造例4)
100mLの3つ口フラスコを窒素気流下加熱し、十分乾燥させた後、空気中の水分に対して十分注意しながら、ジメチルアセトアミド溶媒で重合し、アセトンによって再沈殿生成後、乾燥させたBPDA−ODA(3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルからなるポリアミック酸)の白色固体 1.98g、2−ビニロキシテトラヒドロピラン(THPVE) 5g、乾燥させたγ−ブチロラクトン10mlを投入した。乾燥させた窒素気流下室温で、44時間マグネティックスターラーによって撹拌した。当初は、BPDA−ODAが溶解しなかったが、反応の進行とともに溶解し、褐色の溶液となった。その後、反応液の一部を乾燥させたジエチルエーテルで再沈殿し、BPDA−ODAのビニルエーテル部分保護体の白色固体を得た。H−NMRによって解析を行い6.2ppm付近のヘミアセタールエステル結合の酸素と酸素の間の炭素に結合する水素のピークの積分値とジフェニルエーテルの芳香環の水素のピークの積分比より保護率(カルボキシル基に対するヘミアセタールエステル結合の反応率)が55%であることを確認した。そこでさらに、反応液に対してシクロヘキシルビニルエーテルを5g添加し、室温で24時間攪拌した。反応液の一部を乾燥させたジエチルエーテルで再沈殿し、ポリイミド前駆体4の白色固体を得た。製造例1と同様の手順で、保護率と分子量を測定したところ、保護率は100%(CVE/THPVE=35%/65%)、GPCにより求めたポリスチレン換算の重量平均分子量は18600であった。
得られたポリイミド前駆体1〜4についての反応時間、保護率及び重量平均分子量を、表1に示す。
【0167】
【表1】

【0168】
[熱分解性評価1]
ポリイミド前駆体1〜4の1wt%重ジメチルスルホキシド(DMSO)溶液を用い、NMRチューブ中で、各温度において5分加熱し、NMRを測定し、スペクトル中のピークの積分比より保護率を測定した。ポリイミド前駆体1〜4の濃度1重量%溶液中での加熱温度と保護率の関係について、図1に示す。
【0169】
[熱分解性評価2]
ポリイミド前駆体1とポリイミド前駆体4の反応溶液を、クロムめっきされたガラス上にスピンコート法により塗布し、ホットプレート上で加熱乾燥した。加熱条件を種々変更したサンプルを、重DMSOに溶かし出し、NMRを測定することにより、各サンプルの保護率を求めた。その結果、加熱温度が高くなるに従い、また時間が長くなるに従い脱保護が進行し、保護率が低下した。ポリイミド前駆体1の塗膜における加熱温度と保護率の関係について図2に示し、ポリイミド前駆体4の塗膜における加熱温度と保護率の関係について図3に示す。
【0170】
[溶解速度評価]
図2及び図3の結果を受けて、ポリイミド前駆体1については110℃、20分の加熱条件、ポリイミド前駆体4においては、100℃10分の加熱条件のときのサンプルの2.38重量%水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液に対する溶解速度を求めた。その結果を表2に示す。
【0171】
【表2】

【0172】
[感光性評価]
(1)感光性樹脂組成物の調製
(i)製造例1のポリイミド前駆体1の反応溶液に、ポリイミド前駆体1の固形分に対して20重量%のo−キノンジアジド系感光剤(4NT−300(2,3,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンと6−ジアゾ−5,6−ジヒドロ−5−オキソ−1−ナフタレンスルホン酸とのエステル):東洋合成工業社製)を加え、攪拌を行うことで感光性樹脂組成物1を調製した。
【0173】
(ii)製造例4のポリイミド前駆体4の反応溶液に対し、ポリイミド前駆体4の固形分に対して30重量%のo−キノンジアジド系感光剤(DTRP−250(2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノンと6−ジアゾ−5,6−ジヒドロ−5−オキソ−1−ナフタレンスルホン酸とのエステル):ダイトーケミックス社製)を加え、攪拌を行うことで感光性樹脂組成物2を調製した。
【0174】
(2)パターン形成評価
(i)感光性樹脂組成物1を、クロムめっきされたガラス上にスピンコート法により 下記のような条件で、塗膜を形成し、種々の照射量で露光後、現像しリンスを行った。
初期膜厚: 4.0μm
乾燥: 110℃ 20分
現像(ディップ): 2.38wt%TMAH水溶液 3分(23℃)
リンス: HO 5秒(23℃)
【0175】
この条件で感度曲線を作成し感度を求めたところ、露光部が溶解するポジ型の挙動を示し、感度が110mJ/cm2であった。
露光は大日本スクリーン製手動露光装置MA−1100を用いて行い、高圧水銀灯の光をフィルターを用いずに使用した。
次に、フォトマスクを介して露光を行い、パターン形成を検討したところ下記の条件で、良好な形状のパターンを得た。現像後もパターンの膜減りは観測されなかった。さらに、窒素雰囲気下350℃、1時間の加熱を行いイミド化を行ったところ、膜厚は2.6μmとなったもののパターンは崩れることなく、ベーク前の状態を維持していた。
【0176】
初期膜厚: 4.0μm
乾燥: 110℃ 20分
露光量 :500mJ/cm2
現像(ディップ): 2.38wt%TMAH水溶液 5分(23℃)
リンス: H2O 5秒(23℃)
現像後膜厚: 4.0μm
得られたパターンを図4に示す。
【0177】
(ii)感光性樹脂組成物2を用いて、上記の評価と同様にパターン形成評価を行った。
初期膜厚: 4.3μm
乾燥: 100℃ 10分
現像(ディップ): 2.38wt%TMAH水溶液 5分(23℃)
リンス: H2O 20秒(23℃)
【0178】
この条件で感度曲線を作成し感度を求めたところ、露光部が溶解するポジ型の挙動を示し、感度が400mJ/cm2であった。
次に、フォトマスクを介して露光を行い、パターン形成を検討したところ下記の条件で、良好な形状のパターンを得た。現像後もパターンの膜減りは観測されなかった。さらに、窒素雰囲気下350℃、1時間の加熱を行いイミド化を行ったところ、膜厚は2.5μmとなったもののパターンは崩れることなく、ベーク前の状態を維持していた。
【0179】
初期膜厚: 4.3μm
乾燥: 100℃ 10分
露光量 :800mJ/cm2
現像(ディップ): 2.38wt%TMAH水溶液 5分(23℃)
リンス: H2O 20秒(23℃)
現像後膜厚: 4.2μm
得られたパターンを図5に示す。
【0180】
これらの結果より、本発明の感光性樹脂組成物においては、用いられるポリイミド前駆体が加熱条件によってヘミアセタールエステル結合の分解率を制御することが可能であることから、塩基性溶液に対する溶解速度を安定的に制御できる。その為、o−キノンジアジド化合物のような光の作用によりカルボン酸を発生させる化合物と組み合わせることにより、良好なパターンを形成できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0181】
【図1】ポリイミド前駆体1〜4の濃度1重量%溶液中での加熱温度と保護率の関係について示した図である。
【図2】ポリイミド前駆体1の塗膜における加熱温度と保護率の関係について示した図である。
【図3】ポリイミド前駆体4の塗膜における加熱温度と保護率の関係について示した図である。
【図4】感光性樹脂組成物1を用いて得られたパターンを示す写真である。
【図5】感光性樹脂組成物2を用いて得られたパターンを示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表わされる繰り返し単位を有するポリイミド前駆体、及び、光の作用によりカルボン酸を発生させる化合物を含有する、感光性樹脂組成物。
【化1】

(式(1)中、Rは、4価の有機基、Rは、2価の有機基であり、繰り返されるR同士及びR同士はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。RおよびRはそれぞれ独立に下記式(2)の構造を有する1価の有機基であり、それらは同一であっても異なっていてもよく、繰り返されるR同士及びR同士はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【化2】

(式(2)中、R、R、Rはそれぞれ独立に水素、ハロゲン原子、または1価の有機基であり、Aは1価の有機基であり、繰り返されるA同士はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。R、R、R、及びAはそれぞれ互いに結合して環状構造を示していても良い。)
【請求項2】
前記光の作用によりカルボン酸を発生させる化合物が、o−キノンジアジド基を有する化合物である、請求項1に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリイミド前駆体において、前記式(2)中のAの少なくとも1種が、活性水素を含有しない炭素数1〜30の1価の有機基である、請求項1又は2に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリイミド前駆体において、前記式(2)中のAが、2種以上の有機基を含む、請求項1乃至3のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリイミド前駆体において、前記式(2)中のAにおいて酸素原子と結合している炭素原子が、第1級炭素原子である有機基群をA1、第2級炭素原子である有機基群をA2、第3級炭素原子である有機基群をA3としたときに、Aが、A1とA2、A1とA3、A2とA3、又はA1とA2とA3からそれぞれ1種以上ずつ組み合わせた2種以上の有機基を含む、請求項1乃至4のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリイミド前駆体において、前記式(2)中のR、R、Rが水素である、請求項1乃至5のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
【請求項7】
前記ポリイミド前駆体において、前記式(2)中のAの少なくとも1種が、エーテル結合を含有する炭素数1〜30の1価の有機基である、請求項1乃至6のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
【請求項8】
酸性物質、及び、アミンを実質的に含まない、請求項1乃至7のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
【請求項9】
前記光の作用によりカルボキシル酸を発生させる化合物が、436nm、405nm、365nmの波長の電磁波のうち少なくとも1つの波長に吸収を有することを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
【請求項10】
活性水素を含有しない増感色素を含むことを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
【請求項11】
前記ポリイミド前駆体において、前記式(1)中のR及び/又はRに、芳香環を含むことを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
【請求項12】
前記ポリイミド前駆体において、前記式(1)中のRが、芳香族テトラカルボン酸二無水物由来の骨格である、請求項1乃至11のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
【請求項13】
前記ポリイミド前駆体において、前記式(1)中のRのうち33モル%以上が、下記式(3)で表わされるいずれかの構造である、請求項1乃至12のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
【化3】

【請求項14】
前記ポリイミド前駆体において、前記式(1)中のRのうち33モル%以上が、下記式(4)で表わされるいずれかの構造である、請求項1乃至13のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
【化4】

(R14は2価の有機基、酸素原子、硫黄原子、又はスルホン基であり、R15及びR16は1価の有機基、又はハロゲン原子である。)
【請求項15】
窒素原子を含有しない溶媒を含む、請求項1乃至14のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
【請求項16】
1種以上のビニルエーテル化合物を含む、請求項1乃至15のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
【請求項17】
塗料又は印刷インキ、或いは、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、半導体装置、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム、光学部材又は建築材料の形成材料として用いられる、請求項1乃至16のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
【請求項18】
前記請求項1乃至17のいずれかに記載の感光性樹脂組成物又はその硬化物により少なくとも一部分が形成されている、印刷物、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、半導体装置、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム、光学部材又は建築材料いずれかの物品。
【請求項19】
前記請求項1乃至17のいずれかに記載の感光性樹脂組成物からなる膜又は成形体の形成時又は形成後に加熱する加熱工程と、前記加熱工程後に前記膜又は成形体の表面に、所定のパターン状に電磁波を照射する露光工程と塩基性溶液を現像液として用いて現像する現像工程を有する、パターン形成方法。
【請求項20】
前記現像工程において塩基性水溶液を用いて現像し、ポジ型である、請求項19に記載のパターン形成方法。
【請求項21】
前記現像工程後、前記膜又は成形体を加熱する工程を有し、当該加熱温度の最高温度が251℃以上400℃以下である、請求項19又は20に記載のパターン形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−85430(P2010−85430A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−251134(P2008−251134)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】