懸架体用成形型及び懸架体の製造方法
【課題】複数存在する弾性層への弾性材料の注入条件を極力均一化させ、いずれの弾性層も互いに等しい成形条件で成形されて互いに等しい性能が発揮されるようにして、より品質や性能に優れる懸架体が作成可能となる懸架体用成形型を提供する。
【解決手段】懸架体用成形型において、第1支持部材と第2支持部材との間に、複数の弾性層と硬質隔壁とを交互に積層する積層ゴム構造の弾性部が介装されて成る懸架体を成形するための懸架体用成形型Kにおいて、第1,第2支持部材、及び複数の硬質隔壁をこれらの積層方向で隣合うものどうしの間に弾性層形成空間s用の間隔を空けて保持するための複数の配置溝mf,mkと、複数の弾性層形成空間sに弾性材料を注入すべく積層方向で弾性層形成空間sの全てに跨る連続した長尺空間に形成されるスリット状注入部10と、外部からスリット状注入部10に弾性材料を供給するための供給路11と、を有して構成する。
【解決手段】懸架体用成形型において、第1支持部材と第2支持部材との間に、複数の弾性層と硬質隔壁とを交互に積層する積層ゴム構造の弾性部が介装されて成る懸架体を成形するための懸架体用成形型Kにおいて、第1,第2支持部材、及び複数の硬質隔壁をこれらの積層方向で隣合うものどうしの間に弾性層形成空間s用の間隔を空けて保持するための複数の配置溝mf,mkと、複数の弾性層形成空間sに弾性材料を注入すべく積層方向で弾性層形成空間sの全てに跨る連続した長尺空間に形成されるスリット状注入部10と、外部からスリット状注入部10に弾性材料を供給するための供給路11と、を有して構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震支承、軸ばね、防振ゴム等の積層ゴム構造の弾性部を有している懸架体を型成形するに好適な成形体である懸架体用成形型、及びその成形型を用いて懸架体を作成する懸架体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の懸架体は、一対の支持部材の間に、ゴム等による複数の弾性層と鋼板等による複数の硬質隔壁とを交互に積層する積層ゴム構造の弾性部を介装させる構成を有しており、一般的には弾性層を形成するゴムを流し込んで一体的に成形するための懸架体用成形型を用いて作製される。つまり、弾性層を形成すべく成形型内に注入されるゴムを、第1,第2支持部材、複数の硬質隔壁を一体化する手段として用いる合理的なものである。
【0003】
懸架体用成形型や懸架体の製造方法の例としては、特許文献1の第3,4図等において開示されるもののように、第1,第2支持部材2,3、及び複数の硬質隔壁4をこれらの積層方向で隣合うものどうしの間に弾性層形成空間用の間隔を空けて保持するための複数の配置溝22,29が成形型11,12に形成されている。そして、隣合う硬質隔壁間等に形成される弾性層形成空間にゴムを注入するための注入路25は、各弾性層形成空間毎に設けられている。
【0004】
各弾性層形成空間に専用のゴム注入路を設ける上記手段では、それら複数のゴム注入路に連通する1本の主注入路が設けられており、主注入路から供給されてくるゴム材料は複数のゴム注入路に分岐され、それから各弾性層形成空間に注入されるようになる。ところがこのような弾性材料の注入手段では、主注入路の入口に近いゴム注入路と遠いゴム注入路とでは条件が明確に異なってしまい、弾性材料(ゴム)の注入バランスをいずれのゴム注入路でも均一に保つこと、即ち全ての弾性層形成空間に同条件で弾性材料を注入させることが難しいものであった。特に、積層数の多い懸架体ではその傾向が顕著になる。
【0005】
従って、ゴム注入工程のしかる後に行われる加硫工程による加硫処理を行っても、ゴム層の加硫度が弾性層の場所や積層方向の位置によって変化し、性能にばらつきが生じ易い不都合があった。また、仕上げ等の工数も余計に必要となるものでって生産性が芳しくないという傾向もあり、懸架用成形型、及びそれを用いた懸架体の製造方法には改善の余地が残されているものであった。
【特許文献1】特開平2−153713号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、成形型における弾性層形成空間への弾性材料の注入経路の形状、寸法等を見直して再検討することにより、複数又は多数存在する弾性層への弾性材料の注入条件を極力均一化させ、いずれの弾性層も互いに等しい成形条件で成形されて互いに等しい性能が発揮されるようにして、より品質や性能に優れる懸架体が作成可能となる懸架体用成形型、並びにそれを用いた懸架体の製造方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、懸架体用成形型において、第1支持部材1と第2支持部材2との間に、複数の弾性層4と硬質隔壁5とを交互に積層する積層ゴム構造の弾性部3が介装されて成る懸架体を成形するための懸架体用成形型であって、
前記第1,第2支持部材1,2、及び前記複数の硬質隔壁5をこれらの積層方向で隣合うものどうしの間に弾性層形成空間s用の間隔を空けて保持するための複数の配置溝mf,mkと、複数の前記弾性層形成空間sに弾性材料gを注入すべく前記積層方向で前記弾性層形成空間sの全てに跨る連続した長尺空間に形成されるスリット状注入部10と、外部から前記スリット状注入部10に弾性材料gを供給するための供給路11と、を有して構成されていることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の懸架体用成形型において、前記スリット状注入部10と前記供給路11との間に、前記スリット状注入部10と一体的に形成される状態の蓄圧室12が装備されていることを特徴とするものである。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の懸架体用成形型において、前記供給路11から供給される弾性材料gがダイレクトにスリット状注入部10の材料出口10aに向かわないように規制する迂回手段Uが設けられていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項4に係る発明は、懸架体の製造方法において、第1支持部材1と第2支持部材2との間に、複数の弾性層4と硬質隔壁5とを交互に積層する積層ゴム構造の弾性部3が介装されて成る懸架体Aを、請求項1〜3の何れか一項に記載の懸架体用成形型を用いて作製するにあたり、
前記第1,第2支持部材1,2、及び前記複数の硬質隔壁5を対応する前記配置溝mf,mkに挿入して保持させる部品セット工程の後に、前記供給路11から供給されてくる溶融状態の弾性材料gを前記スリット状注入部10を介して前記弾性層形成空間sに注入させる注入工程を行うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、詳しくは実施例において説明するが、各弾性層形成空間に臨む連続した長尺空間のスリット状注入部を設けたことにより、弾性層形成空間ごとに分離された専用の注入部を弾性層の数分設ける従来手段に比べて、供給路から送られてくる弾性材料の拡散流動用空間部を明確に増やすことができて圧力差が是正される作用が生じ、注入バランスが改善されるようになる。つまり、各弾性層形成空間に注入される弾性材料の注入圧力が均一化される作用が生じるようになる。その結果、成形型における弾性層形成空間への弾性材料の注入経路の形状、寸法等を見直して再検討することにより、複数又は多数存在する弾性層への弾性材料の注入条件を極力均一化させ、いずれの弾性層も互いに等しい成形条件で成形されて互いに等しい性能が発揮されるようにして、より品質や性能に優れる懸架体が作成可能となる懸架体用成形型を提供することができる。
【0012】
請求項2の発明によれば、供給路から送られてくる弾性材料が一旦蓄圧室に充填されることで圧力の平均化作用が生じ、スリット状注入部に送る時点での弾性材料の圧力バランスが、型軸心方向の位置如何に拘らずにあまり差が生じないように改善される効果が得られる。従って、請求項1の発明による前記効果が強化される利点がある。
【0013】
請求項3の発明によれば、供給路から送られてくる弾性材料が型軸心方向の中央部といったスリット状注入部の特定の場所には勢い良く移送し、型軸心方向の両端部といったそれ以外の場所には明確に勢い弱く移送されるといった極端な圧力の不均一状態となることが改善され、型軸心方向での弾性材料の注入圧を極力均一化することが可能になる。従って、請求項1又は2の発明による前記いずれかの効果がさらに強化される利点がある
【0014】
請求項4の発明によれば、請求項1〜3のいずれかの成形型を用いて懸架体を作成させる製造方法を規定したものであり、請求項1〜3の発明による前記いずれかの効果を同様に有する懸架体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明による懸架体用成形型、及び懸架体の製造方法の実施の形態を、戸建用の免震支承に適用した場合について図面を参照しながら説明する。図1〜図3は免震支承の構造や形状を示すそれぞれ側面図、横断面図、斜視図であり、図4,5は成形型を示す縦断面図と横断面図、図6は上金型の注入経路の形状を示す斜視図、図7,8は実施例2による注入経路を示す横断面図と縦断面図、図9,10は実施例3による注入経路を示す横断面図と縦断面図、図11〜図13は、それぞれ注入経路のその他の実施例を示す横断面図、横断面図、縦断面図である。
【0016】
先ず、懸架体の一例である免震支承について説明する。戸建用の免震支承Aは、図1〜図3に示すように、上フランジ(第1支持部材の一例)1と下フランジ(第2支持部材の一例)2と、の間に、複数の弾性層4と硬質隔壁5とを交互に積層されて上フランジ1と下フランジ2との上下間に介装される積層ゴム構造の弾性部3とを有して構成されている。上下のフランジ1,2は厚肉鋼板で形成され、弾性層4はゴムで、そして硬質隔壁5は鋼板製であって、いずれも平面視で円環状に形成されている。つまり、免震支承Aは、中央に円筒空間6を有して軸心Pを持つ円筒状のものに構成されている。
【0017】
複数の弾性層4は、上下一対の金型8,9による成形型Kを用いてのゴムの射出成形によって形成されており、ゴムの仕上げ工程である加硫により、上下のフランジ1,2及び複数の硬質隔壁5を加硫接着によって一体化する一体化手段を兼ねている。尚、後述する本発明の成形型Kを用いた製造方法により、各弾性層4にはゴムの射出成形痕である側面視(図1参照)で縦スジ状の外観を呈するように、径外側に突出した幅狭な注入痕7が形成されている。
【0018】
〔実施例1〕
前記免震支承Aを成形するための懸架体用成形型(以下、単に「成形型」と略称する)Kは、図4〜図6に示すように、免震支承Aを横倒しに寝かした横臥姿勢で型成形するものであって、上金型8と下金型9との二型から成っている。上下の金型8,9の夫々には、上フランジ1、下フランジ2、及び複数の硬質隔壁5をこれらの積層方向で隣合うものどうしの間に弾性層形成空間s用の間隔dを空けて保持するための複数の配置溝であるフランジ用配置溝mf、及び硬質隔壁用配置溝mkが形成されている。
【0019】
そして、上金型8には、複数の弾性層形成空間sにゴム材料(弾性材料の一例)gを注入すべく積層方向(軸心P方向であって矢印イ方向)で弾性層形成空間sの全てに跨る連続した長尺空間に形成されるスリット状注入部10と、外部からスリット状注入部10にゴム材料gを供給するための供給路11と、蓄圧室12とを有して構成されている。スリット状注入部10は、横方向で一端の弾性層形成空間s(上フランジ1側端の最端弾性層4に相当)から、横方向で他端の弾性層形成空間s(下フランジ2側端の最端弾性層4に相当)に亘る幅狭な注入出口10aを有しており、注入出口10a左右の型壁には硬質隔壁用配置溝mkを横切ることにより現れる凹入部13が形成されている。
【0020】
供給路11は、積層方向(矢印イ方向)で中央に1箇所形成される円管状の経路であり、その軸心Xは、スリット状注入部10の積層方向視での中心線Yと同方向で、かつ、積層方向に直交する方向(矢印ロ方向)に所定間隔離れた互いに並行なものに設定されている。そして、供給路11の外周面とスリット状注入部10の注入出口10aの上下面における供給路側端縁とを結ぶことによって形成される略二等辺三角柱状の空間部によって蓄圧室12が形成されている。つまり、スリット状注入部10と供給路11との間に、スリット状注入部10と一体的に形成される状態の蓄圧室12が装備されているのである。尚、16は、円筒状の免震支承Aを作るための円柱状心型である。
【0021】
蓄圧室12を形成するために、図4等に示すように、上金型8の上側に一体装備される補助金型14が、蓄圧室12部分に形成される型割り面cを有する状態で設けられている。この上金型8と補助型14との合体構造により、スリット状注入部10、供給路11、及び蓄圧室12で成る弾性材料(ゴム材料)の注入経路W(図6を参照)が形成されている。この注入経路Wでは、スリット状注入部10の型軸心Z方向視での中心線Yと供給路11の軸心Xとを横方向に大きく位置ズレさせてあり、それによって供給路11から供給されるゴム材料gがダイレクトにスリット状注入部10の注入出口(「材料出口」の一例)に向かわないように規制する迂回手段Uが構成されている。
【0022】
さて、上記の成形型Kを用いた免震支承Aの製造方法は、上フランジ1、下フランジ2、及び複数の硬質隔壁5を対応する各配置溝mh,mkに挿入して保持させる部品セット工程の後に、供給路11から供給されてくる溶融状態のゴム材料を蓄圧室12及びスリット状注入部10を介して注入出口10aから各弾性層形成空間sに注入させる注入工程を行うようになる。図6は、上フランジ1、下フランジ2、及び複数の硬質隔壁5が上金型8にセットされた状態における注入経路Wのみを抽出して描いたものである。
【0023】
供給炉11から供給されてくるゴム材料gは、まず蓄圧室12の対面側壁12aに衝突する等してその流れ方向が軸心Xに対してほぼ垂直方向に強制変更されるとともに、極端な先拡がり状を呈する蓄圧室12内を満たして恰も一旦貯留されるように型軸心Z方向に移動速度を遅めながら広く分散する。そしてその広く分散されて移動速度が均一化されながらスリット状注入部10を経て注入出口10aから各弾性層形成空間sに溶融状態のゴム材料gが注入されるようになる。
【0024】
つまり、(1)各弾性層形成空間sに臨む連続長尺開口状の注入出口10aを有するスリット状注入部10を設けたことにより、弾性層形成空間ごとに分離された専用の注入部を弾性層の数分設ける従来手段に比べて、供給路11から送られてくるゴム材料の拡散流動用空間部が増えて圧力差が是正される作用が生じ、注入バランスが改善されるようになる。(2)スリット状注入部10に連続する状態で供給路11との間に蓄圧室12を設けたことにより、供給路11から送られてくるゴム材料が一旦蓄圧室に充填されることで圧力の平均化作用が生じ、スリット状注入部10に送る時点でのゴム材料gの圧力バランスが、型軸心Z方向の位置如何に拘らずにあまり差が生じないように改善される効果が得られる。また、実施例1のように、蓄圧室12の側壁にテーパを設けて、弾性材料送り方向下手側の幅woを弾性材料送り方向上手側の幅wiよりも狭くすれば、より注入バランスの均一化に寄与できる好ましいものとなる。
【0025】
そして、(3)スリット状注入部10の中心線Yと、供給路11の軸心Xとを位置ズレさせ成る迂回手段Uを設けてあるので、供給路11から送られてくるゴム材料gが型軸心Z方向の中央部といったスリット状注入部10の特定の場所には勢い良く移送し、型軸心Z方向の両端部といったそれ以外の場所には明確に勢い弱く移送されるといった極端な圧力の不均一状態が改善され、型軸心Z方向でのゴム材料gの注入圧を極力均一化することが可能になる。このように、上記(1)、(2)、(3)の各効果の相乗により、各弾性層形成空間sには圧力が均一化されてゴム材料が注入されるという注入バランスに優れる状態で注入工程が行われるようになる。その結果、製品加硫度が揃う等、複数の弾性層4は極めて高いレベルの互いに同じ条件で製造され、性能が安定した高品質な免震支承Aを製造することが可能になる。
【0026】
〔実施例2〕
実施例2による成形型Kは、上金型8における注入経路Wがやや異なる以外は実施例1による上金型8と同じである。実施例2による別構造その1の注入経路Wは、図7,図8に示すように、注入出口10aの形状が、長手方向で中央部の経路幅が最も狭く、長手方向で両端部に行くほど経路幅が広くなるように幅寸法を変化させてある(実施例1による注入出口10aの経路幅は一定値である)ことを特徴としたものである。
【0027】
即ち、注入出口10aは、免震支承Aの軸心Pに合致する金型軸心Z方向(積層方向)で中央部の幅である中央幅h1と、金型軸心Z方向で両端部の幅である一対の端部幅h4と、金型軸心Z方向で中間部で中心寄りに位置する一対の内中間幅h2、金型軸心Z方向で中間部で端部寄りに位置する一対の外中間幅h3とには、h1<h2<h3<h4なる関係が設定されている。その寸法比の一例としては、h1:h2:h3を10:13:17:20に設定するものがあるが、これには限られない。
【0028】
尚、外中間幅h3は、注入出口10aの供給路11側壁面を一段狭めることで設定され、内中間幅h2は、それに加えて反供給路11側壁面を一段狭めることで設定され、そして中央幅h1は、供給路11側壁面を二段段狭め、かつ、反供給路11側壁面を一段狭めることで設定されている。この幅寸法の多段化設定は、注入出口10a部分にだけ設定する手段でも、その幅関係がスリット状注入部10における軸心Y方向の全域に亘っても形成する手段でも良い。
【0029】
このように、注入出口の幅を、型軸心Z方向で供給路11から遠い位置の部分ほど幅広とするように場所によって差を付ける工夫により、注入バランスの改善をさらに高次元化でき、実施例1の成形型K(又は製造方法)を用いて作製されたものよりも、弾性層4がより高品質な免震支承Aが実現可能である。
【0030】
〔実施例3〕
実施例2による成形型Kは、上金型8における注入経路Wが異なる以外は実施例1による上金型8と同じである。実施例3による別構造その2の注入経路Wは、図9,図10に示すように、注入出口10bの幅寸法を実施例2のもののように多段化設定するとともに、長手方向(軸心の中央部をより幅広な形状として容積拡大が図られた蓄圧室22を有するように構成されている。蓄圧室22は、図6等に示す実施例1の略二等辺三角柱状の蓄圧室12と相当の第1蓄圧室22aと、その第1蓄圧室22aを中心線Yに対して供給路11と反対の側に形成した第2蓄圧室22bとによる略菱形柱状のものとして、その容積を凡そ2倍に拡大(実施例1による蓄圧室12に比べた場合)してある。
【0031】
注入出口10bは、実施例2による注入出口10aの左右をひっくり返したものに設定されている。即ち、外中間幅h3は、注入出口10bの反供給路11側壁面を一段狭めることで設定され、内中間幅h2は、それに加えて供給路11側壁面を一段狭めることで設定され、そして中央幅h1は、反供給路11側壁面を二段段狭め、かつ、供給路11側壁面を一段狭めることで設定されている。この幅寸法の多段化設定は、注入出口10b部分にだけ設定する手段でも、その幅関係がスリット状注入部10における軸心Y方向の全域に亘っても形成する手段でも良い。
【0032】
この実施例3のように、蓄圧室12を型軸心Zに関して供給路11と反対側にも形成させてその容積を拡大させることにより、蓄圧室12におけるゴム材料gの圧力の均一化がより促進され、実施例2の成形型Kによる場合よりもさらに品質の改善された免震支承Aを得ることが可能になる。
【0033】
〔別実施例〕
下記1.〜3.のような注入経路Wを有する上金型8(成形型K)としても良い。
1.図11に示すように、型軸心Z方向に長く扁平な形状のスリット状注入部10と、それを横切る方向の軸心Xを有してスリット状注入部10に連通する供給路11とで成る別構造その3の注入経路W。
2.図12に示すように、供給路11の軸心Xと、スリット状注入部10の中心線Yとが一致し、それらの間に左右に等しく張り出る蓄圧室12を設けて成る別構造その4の注入経路W。
3.図13に示すように、供給路11の軸心Xと、側面視で略三角形で扁平なスリット状注入部10の中心線Yとが一致し、供給路11の出口付近におけるスリット状注入部10に、供給路11から送られてくる弾性材料gを反射拡散させる邪魔壁15が配備されて成る別構造その5の注入経路W。邪魔壁15は迂回手段Uを構成している。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】免震支承の側面図
【図2】図1の免震支承の横断面図
【図3】図1における注入痕を示す要部の斜視図
【図4】免震支承用の成形型の構造を示す縦断面図
【図5】図4の成形型の横断面図
【図6】成形型における注入経路の形状を示す斜視図(実施例1)
【図7】注入経路の別形状その1を示す成形型の横断面図(実施例2)
【図8】図7の注入経路の縦断面図
【図9】注入経路の別形状その2を示す成形型の横断面図(実施例3)
【図10】図9の注入経路の縦断面図
【図11】注入経路の別形状その3を示す成形型要部の横断面図
【図12】注入経路の別形状その4を示す成形型要部の横断面図
【図13】注入経路の別形状その5を示す成形型要部の縦断面図
【符号の説明】
【0035】
1 第1支持部材
2 第2支持部材
3 弾性部
4 弾性層
5 硬質隔壁
10 スリット状注入部
11 供給路
12 蓄圧室
A 懸架体
U 迂回手段
g 弾性材料
s 弾性層形成空間
mf,mk 配置溝
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震支承、軸ばね、防振ゴム等の積層ゴム構造の弾性部を有している懸架体を型成形するに好適な成形体である懸架体用成形型、及びその成形型を用いて懸架体を作成する懸架体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の懸架体は、一対の支持部材の間に、ゴム等による複数の弾性層と鋼板等による複数の硬質隔壁とを交互に積層する積層ゴム構造の弾性部を介装させる構成を有しており、一般的には弾性層を形成するゴムを流し込んで一体的に成形するための懸架体用成形型を用いて作製される。つまり、弾性層を形成すべく成形型内に注入されるゴムを、第1,第2支持部材、複数の硬質隔壁を一体化する手段として用いる合理的なものである。
【0003】
懸架体用成形型や懸架体の製造方法の例としては、特許文献1の第3,4図等において開示されるもののように、第1,第2支持部材2,3、及び複数の硬質隔壁4をこれらの積層方向で隣合うものどうしの間に弾性層形成空間用の間隔を空けて保持するための複数の配置溝22,29が成形型11,12に形成されている。そして、隣合う硬質隔壁間等に形成される弾性層形成空間にゴムを注入するための注入路25は、各弾性層形成空間毎に設けられている。
【0004】
各弾性層形成空間に専用のゴム注入路を設ける上記手段では、それら複数のゴム注入路に連通する1本の主注入路が設けられており、主注入路から供給されてくるゴム材料は複数のゴム注入路に分岐され、それから各弾性層形成空間に注入されるようになる。ところがこのような弾性材料の注入手段では、主注入路の入口に近いゴム注入路と遠いゴム注入路とでは条件が明確に異なってしまい、弾性材料(ゴム)の注入バランスをいずれのゴム注入路でも均一に保つこと、即ち全ての弾性層形成空間に同条件で弾性材料を注入させることが難しいものであった。特に、積層数の多い懸架体ではその傾向が顕著になる。
【0005】
従って、ゴム注入工程のしかる後に行われる加硫工程による加硫処理を行っても、ゴム層の加硫度が弾性層の場所や積層方向の位置によって変化し、性能にばらつきが生じ易い不都合があった。また、仕上げ等の工数も余計に必要となるものでって生産性が芳しくないという傾向もあり、懸架用成形型、及びそれを用いた懸架体の製造方法には改善の余地が残されているものであった。
【特許文献1】特開平2−153713号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、成形型における弾性層形成空間への弾性材料の注入経路の形状、寸法等を見直して再検討することにより、複数又は多数存在する弾性層への弾性材料の注入条件を極力均一化させ、いずれの弾性層も互いに等しい成形条件で成形されて互いに等しい性能が発揮されるようにして、より品質や性能に優れる懸架体が作成可能となる懸架体用成形型、並びにそれを用いた懸架体の製造方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、懸架体用成形型において、第1支持部材1と第2支持部材2との間に、複数の弾性層4と硬質隔壁5とを交互に積層する積層ゴム構造の弾性部3が介装されて成る懸架体を成形するための懸架体用成形型であって、
前記第1,第2支持部材1,2、及び前記複数の硬質隔壁5をこれらの積層方向で隣合うものどうしの間に弾性層形成空間s用の間隔を空けて保持するための複数の配置溝mf,mkと、複数の前記弾性層形成空間sに弾性材料gを注入すべく前記積層方向で前記弾性層形成空間sの全てに跨る連続した長尺空間に形成されるスリット状注入部10と、外部から前記スリット状注入部10に弾性材料gを供給するための供給路11と、を有して構成されていることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の懸架体用成形型において、前記スリット状注入部10と前記供給路11との間に、前記スリット状注入部10と一体的に形成される状態の蓄圧室12が装備されていることを特徴とするものである。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の懸架体用成形型において、前記供給路11から供給される弾性材料gがダイレクトにスリット状注入部10の材料出口10aに向かわないように規制する迂回手段Uが設けられていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項4に係る発明は、懸架体の製造方法において、第1支持部材1と第2支持部材2との間に、複数の弾性層4と硬質隔壁5とを交互に積層する積層ゴム構造の弾性部3が介装されて成る懸架体Aを、請求項1〜3の何れか一項に記載の懸架体用成形型を用いて作製するにあたり、
前記第1,第2支持部材1,2、及び前記複数の硬質隔壁5を対応する前記配置溝mf,mkに挿入して保持させる部品セット工程の後に、前記供給路11から供給されてくる溶融状態の弾性材料gを前記スリット状注入部10を介して前記弾性層形成空間sに注入させる注入工程を行うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、詳しくは実施例において説明するが、各弾性層形成空間に臨む連続した長尺空間のスリット状注入部を設けたことにより、弾性層形成空間ごとに分離された専用の注入部を弾性層の数分設ける従来手段に比べて、供給路から送られてくる弾性材料の拡散流動用空間部を明確に増やすことができて圧力差が是正される作用が生じ、注入バランスが改善されるようになる。つまり、各弾性層形成空間に注入される弾性材料の注入圧力が均一化される作用が生じるようになる。その結果、成形型における弾性層形成空間への弾性材料の注入経路の形状、寸法等を見直して再検討することにより、複数又は多数存在する弾性層への弾性材料の注入条件を極力均一化させ、いずれの弾性層も互いに等しい成形条件で成形されて互いに等しい性能が発揮されるようにして、より品質や性能に優れる懸架体が作成可能となる懸架体用成形型を提供することができる。
【0012】
請求項2の発明によれば、供給路から送られてくる弾性材料が一旦蓄圧室に充填されることで圧力の平均化作用が生じ、スリット状注入部に送る時点での弾性材料の圧力バランスが、型軸心方向の位置如何に拘らずにあまり差が生じないように改善される効果が得られる。従って、請求項1の発明による前記効果が強化される利点がある。
【0013】
請求項3の発明によれば、供給路から送られてくる弾性材料が型軸心方向の中央部といったスリット状注入部の特定の場所には勢い良く移送し、型軸心方向の両端部といったそれ以外の場所には明確に勢い弱く移送されるといった極端な圧力の不均一状態となることが改善され、型軸心方向での弾性材料の注入圧を極力均一化することが可能になる。従って、請求項1又は2の発明による前記いずれかの効果がさらに強化される利点がある
【0014】
請求項4の発明によれば、請求項1〜3のいずれかの成形型を用いて懸架体を作成させる製造方法を規定したものであり、請求項1〜3の発明による前記いずれかの効果を同様に有する懸架体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明による懸架体用成形型、及び懸架体の製造方法の実施の形態を、戸建用の免震支承に適用した場合について図面を参照しながら説明する。図1〜図3は免震支承の構造や形状を示すそれぞれ側面図、横断面図、斜視図であり、図4,5は成形型を示す縦断面図と横断面図、図6は上金型の注入経路の形状を示す斜視図、図7,8は実施例2による注入経路を示す横断面図と縦断面図、図9,10は実施例3による注入経路を示す横断面図と縦断面図、図11〜図13は、それぞれ注入経路のその他の実施例を示す横断面図、横断面図、縦断面図である。
【0016】
先ず、懸架体の一例である免震支承について説明する。戸建用の免震支承Aは、図1〜図3に示すように、上フランジ(第1支持部材の一例)1と下フランジ(第2支持部材の一例)2と、の間に、複数の弾性層4と硬質隔壁5とを交互に積層されて上フランジ1と下フランジ2との上下間に介装される積層ゴム構造の弾性部3とを有して構成されている。上下のフランジ1,2は厚肉鋼板で形成され、弾性層4はゴムで、そして硬質隔壁5は鋼板製であって、いずれも平面視で円環状に形成されている。つまり、免震支承Aは、中央に円筒空間6を有して軸心Pを持つ円筒状のものに構成されている。
【0017】
複数の弾性層4は、上下一対の金型8,9による成形型Kを用いてのゴムの射出成形によって形成されており、ゴムの仕上げ工程である加硫により、上下のフランジ1,2及び複数の硬質隔壁5を加硫接着によって一体化する一体化手段を兼ねている。尚、後述する本発明の成形型Kを用いた製造方法により、各弾性層4にはゴムの射出成形痕である側面視(図1参照)で縦スジ状の外観を呈するように、径外側に突出した幅狭な注入痕7が形成されている。
【0018】
〔実施例1〕
前記免震支承Aを成形するための懸架体用成形型(以下、単に「成形型」と略称する)Kは、図4〜図6に示すように、免震支承Aを横倒しに寝かした横臥姿勢で型成形するものであって、上金型8と下金型9との二型から成っている。上下の金型8,9の夫々には、上フランジ1、下フランジ2、及び複数の硬質隔壁5をこれらの積層方向で隣合うものどうしの間に弾性層形成空間s用の間隔dを空けて保持するための複数の配置溝であるフランジ用配置溝mf、及び硬質隔壁用配置溝mkが形成されている。
【0019】
そして、上金型8には、複数の弾性層形成空間sにゴム材料(弾性材料の一例)gを注入すべく積層方向(軸心P方向であって矢印イ方向)で弾性層形成空間sの全てに跨る連続した長尺空間に形成されるスリット状注入部10と、外部からスリット状注入部10にゴム材料gを供給するための供給路11と、蓄圧室12とを有して構成されている。スリット状注入部10は、横方向で一端の弾性層形成空間s(上フランジ1側端の最端弾性層4に相当)から、横方向で他端の弾性層形成空間s(下フランジ2側端の最端弾性層4に相当)に亘る幅狭な注入出口10aを有しており、注入出口10a左右の型壁には硬質隔壁用配置溝mkを横切ることにより現れる凹入部13が形成されている。
【0020】
供給路11は、積層方向(矢印イ方向)で中央に1箇所形成される円管状の経路であり、その軸心Xは、スリット状注入部10の積層方向視での中心線Yと同方向で、かつ、積層方向に直交する方向(矢印ロ方向)に所定間隔離れた互いに並行なものに設定されている。そして、供給路11の外周面とスリット状注入部10の注入出口10aの上下面における供給路側端縁とを結ぶことによって形成される略二等辺三角柱状の空間部によって蓄圧室12が形成されている。つまり、スリット状注入部10と供給路11との間に、スリット状注入部10と一体的に形成される状態の蓄圧室12が装備されているのである。尚、16は、円筒状の免震支承Aを作るための円柱状心型である。
【0021】
蓄圧室12を形成するために、図4等に示すように、上金型8の上側に一体装備される補助金型14が、蓄圧室12部分に形成される型割り面cを有する状態で設けられている。この上金型8と補助型14との合体構造により、スリット状注入部10、供給路11、及び蓄圧室12で成る弾性材料(ゴム材料)の注入経路W(図6を参照)が形成されている。この注入経路Wでは、スリット状注入部10の型軸心Z方向視での中心線Yと供給路11の軸心Xとを横方向に大きく位置ズレさせてあり、それによって供給路11から供給されるゴム材料gがダイレクトにスリット状注入部10の注入出口(「材料出口」の一例)に向かわないように規制する迂回手段Uが構成されている。
【0022】
さて、上記の成形型Kを用いた免震支承Aの製造方法は、上フランジ1、下フランジ2、及び複数の硬質隔壁5を対応する各配置溝mh,mkに挿入して保持させる部品セット工程の後に、供給路11から供給されてくる溶融状態のゴム材料を蓄圧室12及びスリット状注入部10を介して注入出口10aから各弾性層形成空間sに注入させる注入工程を行うようになる。図6は、上フランジ1、下フランジ2、及び複数の硬質隔壁5が上金型8にセットされた状態における注入経路Wのみを抽出して描いたものである。
【0023】
供給炉11から供給されてくるゴム材料gは、まず蓄圧室12の対面側壁12aに衝突する等してその流れ方向が軸心Xに対してほぼ垂直方向に強制変更されるとともに、極端な先拡がり状を呈する蓄圧室12内を満たして恰も一旦貯留されるように型軸心Z方向に移動速度を遅めながら広く分散する。そしてその広く分散されて移動速度が均一化されながらスリット状注入部10を経て注入出口10aから各弾性層形成空間sに溶融状態のゴム材料gが注入されるようになる。
【0024】
つまり、(1)各弾性層形成空間sに臨む連続長尺開口状の注入出口10aを有するスリット状注入部10を設けたことにより、弾性層形成空間ごとに分離された専用の注入部を弾性層の数分設ける従来手段に比べて、供給路11から送られてくるゴム材料の拡散流動用空間部が増えて圧力差が是正される作用が生じ、注入バランスが改善されるようになる。(2)スリット状注入部10に連続する状態で供給路11との間に蓄圧室12を設けたことにより、供給路11から送られてくるゴム材料が一旦蓄圧室に充填されることで圧力の平均化作用が生じ、スリット状注入部10に送る時点でのゴム材料gの圧力バランスが、型軸心Z方向の位置如何に拘らずにあまり差が生じないように改善される効果が得られる。また、実施例1のように、蓄圧室12の側壁にテーパを設けて、弾性材料送り方向下手側の幅woを弾性材料送り方向上手側の幅wiよりも狭くすれば、より注入バランスの均一化に寄与できる好ましいものとなる。
【0025】
そして、(3)スリット状注入部10の中心線Yと、供給路11の軸心Xとを位置ズレさせ成る迂回手段Uを設けてあるので、供給路11から送られてくるゴム材料gが型軸心Z方向の中央部といったスリット状注入部10の特定の場所には勢い良く移送し、型軸心Z方向の両端部といったそれ以外の場所には明確に勢い弱く移送されるといった極端な圧力の不均一状態が改善され、型軸心Z方向でのゴム材料gの注入圧を極力均一化することが可能になる。このように、上記(1)、(2)、(3)の各効果の相乗により、各弾性層形成空間sには圧力が均一化されてゴム材料が注入されるという注入バランスに優れる状態で注入工程が行われるようになる。その結果、製品加硫度が揃う等、複数の弾性層4は極めて高いレベルの互いに同じ条件で製造され、性能が安定した高品質な免震支承Aを製造することが可能になる。
【0026】
〔実施例2〕
実施例2による成形型Kは、上金型8における注入経路Wがやや異なる以外は実施例1による上金型8と同じである。実施例2による別構造その1の注入経路Wは、図7,図8に示すように、注入出口10aの形状が、長手方向で中央部の経路幅が最も狭く、長手方向で両端部に行くほど経路幅が広くなるように幅寸法を変化させてある(実施例1による注入出口10aの経路幅は一定値である)ことを特徴としたものである。
【0027】
即ち、注入出口10aは、免震支承Aの軸心Pに合致する金型軸心Z方向(積層方向)で中央部の幅である中央幅h1と、金型軸心Z方向で両端部の幅である一対の端部幅h4と、金型軸心Z方向で中間部で中心寄りに位置する一対の内中間幅h2、金型軸心Z方向で中間部で端部寄りに位置する一対の外中間幅h3とには、h1<h2<h3<h4なる関係が設定されている。その寸法比の一例としては、h1:h2:h3を10:13:17:20に設定するものがあるが、これには限られない。
【0028】
尚、外中間幅h3は、注入出口10aの供給路11側壁面を一段狭めることで設定され、内中間幅h2は、それに加えて反供給路11側壁面を一段狭めることで設定され、そして中央幅h1は、供給路11側壁面を二段段狭め、かつ、反供給路11側壁面を一段狭めることで設定されている。この幅寸法の多段化設定は、注入出口10a部分にだけ設定する手段でも、その幅関係がスリット状注入部10における軸心Y方向の全域に亘っても形成する手段でも良い。
【0029】
このように、注入出口の幅を、型軸心Z方向で供給路11から遠い位置の部分ほど幅広とするように場所によって差を付ける工夫により、注入バランスの改善をさらに高次元化でき、実施例1の成形型K(又は製造方法)を用いて作製されたものよりも、弾性層4がより高品質な免震支承Aが実現可能である。
【0030】
〔実施例3〕
実施例2による成形型Kは、上金型8における注入経路Wが異なる以外は実施例1による上金型8と同じである。実施例3による別構造その2の注入経路Wは、図9,図10に示すように、注入出口10bの幅寸法を実施例2のもののように多段化設定するとともに、長手方向(軸心の中央部をより幅広な形状として容積拡大が図られた蓄圧室22を有するように構成されている。蓄圧室22は、図6等に示す実施例1の略二等辺三角柱状の蓄圧室12と相当の第1蓄圧室22aと、その第1蓄圧室22aを中心線Yに対して供給路11と反対の側に形成した第2蓄圧室22bとによる略菱形柱状のものとして、その容積を凡そ2倍に拡大(実施例1による蓄圧室12に比べた場合)してある。
【0031】
注入出口10bは、実施例2による注入出口10aの左右をひっくり返したものに設定されている。即ち、外中間幅h3は、注入出口10bの反供給路11側壁面を一段狭めることで設定され、内中間幅h2は、それに加えて供給路11側壁面を一段狭めることで設定され、そして中央幅h1は、反供給路11側壁面を二段段狭め、かつ、供給路11側壁面を一段狭めることで設定されている。この幅寸法の多段化設定は、注入出口10b部分にだけ設定する手段でも、その幅関係がスリット状注入部10における軸心Y方向の全域に亘っても形成する手段でも良い。
【0032】
この実施例3のように、蓄圧室12を型軸心Zに関して供給路11と反対側にも形成させてその容積を拡大させることにより、蓄圧室12におけるゴム材料gの圧力の均一化がより促進され、実施例2の成形型Kによる場合よりもさらに品質の改善された免震支承Aを得ることが可能になる。
【0033】
〔別実施例〕
下記1.〜3.のような注入経路Wを有する上金型8(成形型K)としても良い。
1.図11に示すように、型軸心Z方向に長く扁平な形状のスリット状注入部10と、それを横切る方向の軸心Xを有してスリット状注入部10に連通する供給路11とで成る別構造その3の注入経路W。
2.図12に示すように、供給路11の軸心Xと、スリット状注入部10の中心線Yとが一致し、それらの間に左右に等しく張り出る蓄圧室12を設けて成る別構造その4の注入経路W。
3.図13に示すように、供給路11の軸心Xと、側面視で略三角形で扁平なスリット状注入部10の中心線Yとが一致し、供給路11の出口付近におけるスリット状注入部10に、供給路11から送られてくる弾性材料gを反射拡散させる邪魔壁15が配備されて成る別構造その5の注入経路W。邪魔壁15は迂回手段Uを構成している。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】免震支承の側面図
【図2】図1の免震支承の横断面図
【図3】図1における注入痕を示す要部の斜視図
【図4】免震支承用の成形型の構造を示す縦断面図
【図5】図4の成形型の横断面図
【図6】成形型における注入経路の形状を示す斜視図(実施例1)
【図7】注入経路の別形状その1を示す成形型の横断面図(実施例2)
【図8】図7の注入経路の縦断面図
【図9】注入経路の別形状その2を示す成形型の横断面図(実施例3)
【図10】図9の注入経路の縦断面図
【図11】注入経路の別形状その3を示す成形型要部の横断面図
【図12】注入経路の別形状その4を示す成形型要部の横断面図
【図13】注入経路の別形状その5を示す成形型要部の縦断面図
【符号の説明】
【0035】
1 第1支持部材
2 第2支持部材
3 弾性部
4 弾性層
5 硬質隔壁
10 スリット状注入部
11 供給路
12 蓄圧室
A 懸架体
U 迂回手段
g 弾性材料
s 弾性層形成空間
mf,mk 配置溝
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1支持部材と第2支持部材との間に、複数の弾性層と硬質隔壁とを交互に積層する積層ゴム構造の弾性部が介装されて成る懸架体を成形するための懸架体用成形型であって、
前記第1,第2支持部材、及び前記複数の硬質隔壁をこれらの積層方向で隣合うものどうしの間に弾性層形成空間用の間隔を空けて保持するための複数の配置溝と、複数の前記弾性層形成空間に弾性材料を注入すべく前記積層方向で前記弾性層形成空間の全てに跨る連続した長尺空間に形成されるスリット状注入部と、外部から前記スリット状注入部に弾性材料を供給するための供給路と、を有して構成されている懸架体用成形型。
【請求項2】
前記スリット状注入部と前記供給路との間に、前記スリット状注入部と一体的に形成される状態の蓄圧室が装備されている請求項1に記載の懸架体用成形型。
【請求項3】
前記供給路から供給される弾性材料がダイレクトにスリット状注入部の材料出口に向かわないように規制する迂回手段が設けられている請求項1又は2に記載の懸架体用成形型。
【請求項4】
第1支持部材と第2支持部材との間に、複数の弾性層と硬質隔壁とを交互に積層する積層ゴム構造の弾性部が介装されて成る懸架体を、請求項1〜3の何れか一項に記載の懸架体用成形型を用いて作製するにあたり、
前記第1,第2支持部材、及び前記複数の硬質隔壁を対応する前記配置溝に挿入して保持させる部品セット工程の後に、前記供給路から供給されてくる溶融状態の弾性材料を前記スリット状注入部を介して前記弾性層形成空間に注入させる注入工程を行う懸架体の製造方法。
【請求項1】
第1支持部材と第2支持部材との間に、複数の弾性層と硬質隔壁とを交互に積層する積層ゴム構造の弾性部が介装されて成る懸架体を成形するための懸架体用成形型であって、
前記第1,第2支持部材、及び前記複数の硬質隔壁をこれらの積層方向で隣合うものどうしの間に弾性層形成空間用の間隔を空けて保持するための複数の配置溝と、複数の前記弾性層形成空間に弾性材料を注入すべく前記積層方向で前記弾性層形成空間の全てに跨る連続した長尺空間に形成されるスリット状注入部と、外部から前記スリット状注入部に弾性材料を供給するための供給路と、を有して構成されている懸架体用成形型。
【請求項2】
前記スリット状注入部と前記供給路との間に、前記スリット状注入部と一体的に形成される状態の蓄圧室が装備されている請求項1に記載の懸架体用成形型。
【請求項3】
前記供給路から供給される弾性材料がダイレクトにスリット状注入部の材料出口に向かわないように規制する迂回手段が設けられている請求項1又は2に記載の懸架体用成形型。
【請求項4】
第1支持部材と第2支持部材との間に、複数の弾性層と硬質隔壁とを交互に積層する積層ゴム構造の弾性部が介装されて成る懸架体を、請求項1〜3の何れか一項に記載の懸架体用成形型を用いて作製するにあたり、
前記第1,第2支持部材、及び前記複数の硬質隔壁を対応する前記配置溝に挿入して保持させる部品セット工程の後に、前記供給路から供給されてくる溶融状態の弾性材料を前記スリット状注入部を介して前記弾性層形成空間に注入させる注入工程を行う懸架体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−226826(P2009−226826A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−77222(P2008−77222)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【出願人】(592254526)学校法人五島育英会 (28)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【出願人】(592254526)学校法人五島育英会 (28)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]