説明

懸架装置

【課題】車両の走行状態に応じたばね定数の変更を容易にすること。
【解決手段】この懸架装置100は、第1及び第2緩衝装置101、102を備える。第1及び第2緩衝装置101、102は、気体が内部に閉じ込められる第1気室11、12及び第2気室21、22とを備え、第1気室11、12と第2気室21、22とは対向配置される。また、第1及び第2緩衝装置101、102は、第1気室11、12と第2気室21、22とに支持され、かつ第1気室11、12と接触する部分の荷重支持面積A1は、第2気室21、22と接触する部分の荷重支持面積A2よりも大きい第1及び第2荷重伝達部材31、32を備える。そして、第1緩衝装置101の第1気室11と第2緩衝装置102の第2気室22とは第1連通通路51で接続されるとともに、第1緩衝装置101の第2気室21と第2緩衝装置102の第1気室12とは第2連通通路52で接続される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の懸架装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
乗用車やバス、トラック等の車両は、懸架装置を用いて路面からの衝撃を吸収させて、乗り心地を確保する。また、懸架装置は、車両の走行中において、いわゆるホイールアライメントの変化をできるだけ小さくして、車両の操縦安定性や走行安定性を確保する。車両の懸架装置は、衝撃を吸収するためのスプリング、スプリングが伸縮する速度を減衰させるダンパー、及び車輪の上下方向への対する動きをガイドするアーム類を含んで構成される。
【0003】
一般にスプリングとしては、コイルスプリングや板ばね、あるいはトーションバー等が用いられることが多いが、気体(一般には空気)の圧縮による反発力を利用した空気ばねも用いられる(例えば特許文献1)。空気ばねは、気体の量(モル数や質量)を調整することで、車両の乗車人数や積載物の量が変化しても、車両の車高を一定に保つことができる能力を有する。また、空気圧や空気容積等を変化させることにより、ばね定数を変化させることができる。
【0004】
【特許文献1】USP4200270
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示されている技術では、例えば、直線走行や旋回走行といった車両の走行状態に適した操縦安定性を得るために、車両の走行状態に応じて緩衝装置のばね定数を変更することが困難であった。そこで、この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、車両の走行状態に応じて、懸架装置が備える緩衝装置のばね定数を容易に変更できる懸架装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決して、目的を達成するために、本発明に係る懸架装置は、気体が内部に閉じ込められる第1気室と、気体が内部に閉じ込められるとともに、前記第1気室に対向配置される第2気室と、前記第1気室と前記第2気室とによって支持され、かつ前記第1気室と接触する部分の荷重支持面積は、前記第2気室と接触する部分の荷重支持面積よりも大きい荷重伝達部材と、を含んで構成されるとともに、車両の異なる位置に取り付けられて、車輪からの入力を緩和する複数の緩衝装置と、前記緩衝装置の第1気室と前記第2気室とを連通させる連通通路と、を含んで構成されることを特徴とする。
【0007】
この懸架装置は、第1気室と第2気室とによって荷重伝達部材を支持するとともに、第1気室と前記第2気室とを連通させる連通通路を備える。これによって、例えば、連通通路を断続することによって、車両の走行状態に応じて緩衝装置のばね定数を容易に変更できる。
【0008】
次の本発明に係る懸架装置は、前記懸架装置において、前記連通通路は、一対の前記緩衝装置において、第1の前記緩衝装置の第1気室と、第2の前記緩衝装置の第2気室とを連通させる第1連通通路と、第1の前記緩衝装置の第2気室と、第2の前記緩衝装置の第2気室とを連通させる第2連通通路とを含んで構成されることを特徴とする。
【0009】
次の本発明に係る懸架装置は、前記懸架装置において、前記第1連通通路と前記第2連通通路との間に通路開閉手段、又は絞り弁手段のうち少なくとも一方を設けることを特徴とする。
【0010】
次の本発明に係る懸架装置は、前記懸架装置において、前記連通通路には、振動減衰手段が設けられることを特徴とする。
【0011】
次の本発明に係る懸架装置は、前記懸架装置において、前記第2気室は前記第1気室よりも鉛直方向下側に配置されており、また、前記荷重伝達部材は前記第1気室と前記第2気室に挟持され、さらに前記荷重伝達部材には、車輪からの入力を前記荷重伝達部材に伝える載荷部材が取り付けられることを特徴とする。
【0012】
次の本発明に係る懸架装置は、前記懸架装置において、前記第1気室及び前記第2気室は、筺体内に格納されるとともに、前記筺体に設けられる貫通孔に載荷部材が貫通することを特徴とする。
【0013】
次の本発明に係る懸架装置は、前記懸架装置において、前記緩衝装置の前記第1の気室内であって、前記緩衝装置の前記車両に対する取付側又は前記荷重伝達部材側の少なくとも一方にストッパ部材を設けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
この発明に係る懸架装置は、車両の走行状態に応じて、懸架装置が備える緩衝装置のばね定数を容易に変更できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この発明を実施するための最良の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。本発明は、乗用車やトラック、バス等の路面上を走行する車両や、鉄道車両のように軌道上を走行する車両の懸架装置に適用できるが、特に、乗用車やトラック、バス等の路面上を走行する車両に好適である。
【実施例】
【0016】
この実施例に係る懸架装置は、対向配置される第1気室と第2気室とによって荷重伝達部材が支持されるとともに、荷重伝達部材と第1気室との荷重支持面積は、荷重伝達部材と第2気室との荷重支持面積よりも大きい緩衝装置と、この緩衝装置の第1気室と第2気室とを連通させる連通通路と、を備える点に特徴がある。
【0017】
図1−1は、この実施例に係る懸架装置が備える緩衝装置の構造を示す説明図である。この実施例に係る懸架装置100は、いわゆるエアサスペンションであり、路面からの衝撃を吸収、緩和するための緩衝装置に空気ばねを利用する。この実施例に係る緩衝装置10は、図1−1に示すように、内部に気体が閉じ込められる第1気室1と第2気室2とが対向配置されてケース(筺体)11内に収められる。この実施例において、第1気室1は、緩衝装置10の取付対象である車両20側に配置される。このため、第2気室2は、第1気室1の鉛直方向の下方位置に配置されることになる。ここで、鉛直方向とは重力の作用方向をいい(図1−1中矢印G方向)、下方位置とは、対地高さの低い側をいう。また、この実施例において、第1気室1及び第2気室2内に閉じ込められる気体は空気であるが、前記気体は空気に限定されるものではない。
【0018】
対向配置される第1気室1と第2気室2とは、荷重伝達部材3を挟持する。荷重伝達部材3には、ケース11に設けられる貫通孔12を貫通した載荷部材4が取り付けられている。載荷部材4は、懸架装置100を構成するアームや、タイヤ・ホイール組立体を揺動可能に支持するハブが取り付けられる。そして、路面から車両20に伝達される力を、第1気室1及び第2気室2に伝達する。この力は、第1気室1及び第2気室2内の気体に伝達されて、前記気体が圧縮されることにより吸収、緩和される。これによって、車両20に伝達される前記力が緩和される。
【0019】
後述するように、この実施例において、同一の緩衝装置10において第1気室1と第2気室2とを連通させたり、あるいは一対の異なる緩衝装置10間において、それぞれの第1気室1と第2気室2とを連通させたりする。これによって、第1気室1内における気体の圧力P1と、第2気室2内における気体の圧力P2とは等しくなる。また、図1−1に示すように、第1気室1と荷重伝達部材3の第1支持部CP1とが接触する部分の荷重支持面積A1は、第2気室2と荷重伝達部材3の第2支持部CP2とが接触する部分の荷重支持面積A2よりも大きい(A1>A2)。すなわち、第1気室1が荷重伝達部材3から圧力を受ける受圧面積は、第2気室2が荷重伝達部材3から圧力を受ける受圧面積よりも大きい。これによって、第1気室1が荷重伝達部材3を押す力F1は、第2気室2が荷重伝達部材3を押す力F2よりも大きくなるので、緩衝装置10によって前記載荷部材4から荷重伝達部材3へ伝わる荷重を支持することができる。なお、A1:A2は、2:1〜10:1程度が適切である(以下同様)。
【0020】
この緩衝装置10は、対向配置される第1及び第2気室1、2に荷重伝達部材3が狭持される。そして、貫通孔12に貫通した載荷部材4が荷重伝達部材3に取り付けられて、貫通孔12内を載荷部材4が移動することで、緩衝装置10が衝撃を吸収し、緩和する。従来の緩衝装置では、荷重の作用点がケースの外側にあったが、この実施例に係る緩衝装置10では、載荷部材4からの荷重の作用点を緩衝装置10のケース11内に設定できる。その結果、緩衝装置10の全長を従来よりも短く設計できる。これにより、懸架装置100をコンパクトにすることができる。
【0021】
また、図1−1に示すように、この緩衝装置10は、緩衝装置10の内部であって、車両取付側において荷重伝達部材3の第1支持部CP1と対向する位置に、ストッパ部材19が取り付けられている。ストッパ部材は、第1気室1の内側かつ緩衝装置10の車両20への取付側(すなわち、第1気室1の内側であって、重力の作用方向(図1−1中矢印G方向)とは反対方向側)に設けられる。
【0022】
なお、ストッパ部材19は、荷重伝達部材3の第1支持部CP1側に設けてもよいし、第1支持部CP1側及び第1気室1の内側かつ緩衝装置10の車両20への取付側の両方に設けてもよい。すなわち、ストッパ部材19は、緩衝装置10のケース11内であって、荷重伝達部材3の第1支持部CP1と、車両20との間に設けることができる。ストッパ部材19は弾性材料で構成されており、荷重伝達部材3の動作方向(すなわち緩衝装置10の動作方向)に向かって圧縮されたときに反発力を発生する。ストッパ部材19は、例えば、ゴムや樹脂等の弾性材料を用いたり、つるまきばね、皿ばね等を用いることができる。
【0023】
この緩衝装置10は、万一第1気室1内の空気が抜けて、緩衝装置10内の空気圧支持によるばね上質量の支持が不可能になっても、ストッパ部材19により前記ばね上質量を支持することができる。これにより、気室から万一空気漏れが発生しても、ストッパ部材19が荷重伝達部材3の第1支持部CP1に直接接触して、車両20の質量を支持できるので、少なくとも車両20は低速で走行できる。その結果、気室から万一空気漏れが発生しても、低速走行により修理工場等へたどり着くことができる。なお、以下に説明する緩衝装置においても、ストッパ部材を備えているが、必ずしもストッパ部材を備える必要はない。
【0024】
図1−2は、この実施例に係る懸架装置に適用可能な他の緩衝装置の構造を示す説明図である。この緩衝装置10aは、上記緩衝装置10と同様の構成であるが、対向配置される第1気室1aと第2気室2aとを荷重伝達部材3aが貫通する。そして、荷重伝達部材3aの第1支持部CP1が、対向面OPの反対側における第1気室1aに接触する。また、荷重伝達部材3aの第2支持部CP2が、対向面OPの反対側における第2気室2aに接触する。そして、第1支持部CP1と第1気室1aとの接触部分における荷重支持面積A1は、第2支持部CP2と第2気室2aとの接触部分における荷重支持面積A2よりも大きい。このような構成の緩衝装置10aであっても、この実施例に係る懸架装置100に適用できる。次に、前記第1気室と前記第2気室とを接続する配管例について説明する。
【0025】
図2は、この実施例に係る緩衝装置が備える第1気室と第2気室とを接続する配管例を示す説明図である。図2に示す懸架装置100は、一対の第1緩衝装置101と、第2緩衝装置102とを備えている。そして、第1緩衝装置101が車両20の進行方向に向かって右側に、第2緩衝装置102が車両20の進行方向に向かって左側に取り付けられる。このように、一対の第1緩衝装置101と第2緩衝装置102とは、車両20の異なる位置に取り付けられて、車輪21からの入力を吸収し、緩和する。なお、この懸架装置100では、車輪21の動きを上下方向にガイドするために車両20の右と左に取り付けられるアームが、載荷部材41、42としてそれぞれ第1及び第2荷重伝達部材31、32に固定され、接続される。
【0026】
第1緩衝装置101の第1気室11と、第2緩衝装置102の第2気室22とは、第1連通通路51で連通させられて、閉じた気体として一体化されている(第1系統S1)。また、第1緩衝装置101の第2気室21と、第2緩衝装置102の第1気室12とは、第2連通通路52で連通させられて、閉じた気体として一体化されている(第2系統S2)。このように、異なる緩衝装置が有するそれぞれの第1気室とそれぞれの第2気室とを連通させる。
【0027】
これによって、第1緩衝装置101と第2緩衝装置102とが逆位相で動作する場合は、第1緩衝装置101と第2緩衝装置102とが同位相で動作する場合よりもばね定数が高くなる(この例では約2倍)。ここで、逆位相で動作する場合とは、例えば、第1緩衝装置101の第1荷重伝達部材31が上昇側(車両20への取付側、矢印U側)へ移動し、第2緩衝装置102の第2荷重伝達部材32が下降側(車両20への取付側とは反対側、矢印D側)へ移動する場合である。また、同位相で動作する場合とは、例えば、第1緩衝装置101の第1荷重伝達部材31、及び第2緩衝装置102の第2荷重伝達部材32が、ともに上昇側又は下降側へ移動する場合である。
【0028】
例えば、第1緩衝装置101の第1荷重伝達部材31が、第1緩衝装置101が備える第1気室11の上昇側へ移動すると、第1緩衝装置101の第1気室11は体積が減少し、第2気室21は体積が増加する。第1緩衝装置101の第1気室11は、第2緩衝装置102の第2気室22と連通しているので、第1緩衝装置101の第1気室11の体積減少によりここから押し出された気体は、第2緩衝装置102の第2気室22へ移動しようとする。また、第1緩衝装置101の第2気室21は、第2緩衝装置102の第1気室12と連通しているので、第1緩衝装置101の第2気室21の体積増加により、第2緩衝装置102の第1気室12から気体が流入しようとする。
【0029】
第1緩衝装置101と第2緩衝装置102とが逆位相で動作する場合、第1緩衝装置101の第1荷重伝達部材31が、第1緩衝装置101が備える第1気室11の上昇側へ移動すると、第2緩衝装置102の第1荷重伝達部材32は、第2緩衝装置102が備える第1気室12の下降側へ移動する。これによって、第2緩衝装置102の第2気室22の体積は減少するので、第1緩衝装置101の第1気室11へ気体を押し出すことになる。また、第2緩衝装置102の第1気室12の体積は増加するので、第1緩衝装置101の第2気室21から気体を流出させることになる。
【0030】
このように、第1緩衝装置101と第2緩衝装置102とが逆位相で動作すると、第1緩衝装置101の第1気室11と第2緩衝装置102の第2気室22との気体の移動、及び第1緩衝装置101の第2気室21と第2緩衝装置102の第1気室12との気体の移動が阻害される。その結果、この実施例に係る懸架装置100では、第1緩衝装置101と第2緩衝装置102とが逆位相で動作すると、第1緩衝装置101及び第2緩衝装置102のばね定数が上昇する。
【0031】
一方、第1緩衝装置101と第2緩衝装置102とが同位相で動作すると、第1緩衝装置101の第1気室11と第2緩衝装置102の第2気室22との間における気体の移動、及び第1緩衝装置101の第2気室21と第2緩衝装置102の第1気室12との間における気体の移動が促進される。その結果、この実施例に係る懸架装置100では、第1緩衝装置101と第2緩衝装置102とが同位相で動作すると、第1緩衝装置101及び第2緩衝装置102のばね定数が低下し、乗り心地が改善される。
【0032】
ここで、第1緩衝装置101と第2緩衝装置102とが同位相で動作する場合は、車両20が直進する場合に相当する。一方、第1緩衝装置101と第2緩衝装置102とが逆位相で動作する場合は、車両20が旋回する場合に相当する。この実施例に係る懸架装置100では、第1緩衝装置101と第2緩衝装置102とが逆位相で動作する場合にばね定数が高くなる。これによって、車両20の直進時においては低いばね定数で乗り心地を確保しつつ、車両20の旋回時においては高いばね定数によってロール剛性が向上するので、車両20の旋回時における操縦安定性や走行性能を向上させることができる。このように、この懸架装置100は、乗り心地と旋回時における操縦安定性等とを両立させることができる。
【0033】
この実施例に係る懸架装置100は、異なる緩衝装置が有するそれぞれの第1気室とそれぞれの第2気室とを連通させ、車両20の旋回時においては、車体のロールに対する機械式のスタビライザーと同様に機能する。これによって、車体のロールに対する機械式のスタビライザーを備えなくとも、同様の効果を得ることができる。その結果、車体のロールに対する機械式のスタビライザーが不要になるので、軽量化に寄与する。また、気室間における空気の釣り合いによって、ロール剛性を上昇させるので、電気的な制御が不要になる。これによって信頼性が向上する。また、機械式のスタビライザーの場合、ロール剛性を向上させるためにねじり剛性の高いものを使用すると、片方の車輪が段差を通過する際に乗り心地が悪化したり、操縦安定性に影響が発生したりする。しかし、この実施例に係る懸架装置100は、第1緩衝装置101と第2緩衝装置102とが同位相で動作する場合はばね定数が低くなるので、乗り心地の悪化を抑制でき、また、操縦安定性への影響を低減できる。
【0034】
なお、上記説明では、第1緩衝装置101と第2緩衝装置102とを、車両20の左右に取り付けた例を説明したが、第1緩衝装置101と第2緩衝装置102とを車両20の前後に取り付けて、第1緩衝装置101及び第2緩衝装置102が備える各気室を上記のように配管してもよい。この場合には、車両20の乗り心地悪化を抑制しつつ、車両20のピッチングを抑制することができる。また、第1緩衝装置101と第2緩衝装置102とは、車両20の対角位置に配置して、第1緩衝装置101と第2緩衝装置102との各気室を上記のように配管してもよい。
【0035】
また、図2に示す懸架装置100では、気体供給源6A、6Bから第1、第2緩衝装置101、102へ気体を供給することにより、車両20の車高を調整することができる。上記第1系統S1又は上記第2系統S2に対して別個に気体を供給すれば、左右、あるいは前後の車高を異ならせることもできる。気体供給源6Aと第1緩衝装置101との間には、第1切替弁301が、気体供給源30Bと第2緩衝装置102との間には、第2切替弁302が設けられる。そして、第1、第2切替弁301、302が備える遮断部311、312、連通部321、322及び排気部331、332を切り替えることにより、第1、第2緩衝装置101、102へ気体を供給したり、第1、第2緩衝装置101、102から気体を放出したりする。
【0036】
さらに、図2に示すように、第1連通通路51及び第2連通通路52に、振動減衰手段として、オリフィス回路7A、7Bを設けてもよい。なお、振動減衰手段としては、絞り弁等も使用できる。オリフィス回路7A、7Bは、オリフィス7Ao、7Boと、逆止弁7Ar、7Brとを含んで構成される。これによって、第1気室11、12や第2気室21、22からの気体がオリフィス回路7A、7Bを通過する際には抵抗を受けるので、第1気室11、12等の気体の振動を減衰させる効果(ダンピング効果)が得られる。その結果、懸架装置100には、ダンピング効果を発揮する装置を別個に設ける必要はないので、構造の簡略化、軽量化、低コスト化に有利である。なお、振動減衰手段に加え、上記第1系統S1や上記第2系統S2に気体を供給したり、上記第1系統や上記第2系統から気体を排出したりする制御を併用してもよい。これによって、さらに高いダンピング効果を得ることができる。
【0037】
(変形例1)
図3は、この実施例の第1変形例に係る緩衝装置が備える第1気室と第2気室とをすべて接続する配管例を示す説明図である。この懸架装置100aは、前記懸架装置100と略同様の構成であるが、第1連通通路51と第2連通通路52との間に、通路開閉手段である開閉弁8を備える点が異なる。
【0038】
この懸架装置100aにおいて、開閉弁8を閉じると、第1連通通路51と第2連通通路52との連通が遮断される。この場合、第1緩衝装置101の第1気室11と、第2緩衝装置102の第2気室22とは閉じた気体として一体化され、また、第1緩衝装置101の第2気室21と、第2緩衝装置102の第1気室12とは、閉じた気体として一体化されている。これによって、上記実施例に係る懸架装置100と同様の作用、効果が得られる。
【0039】
この懸架装置100aにおいて、開閉弁8を開くと、第1連通通路51と第2連通通路52とが連通される。これによって、第1緩衝装置101の第1気室11及び第2気室21、第2緩衝装置102の第1気室12及び第2気室22は、すべて連通することになる。すなわち、第1緩衝装置101及び第2緩衝装置102が備えるすべての気室が、閉じた気体として一体化される。
【0040】
この場合には、第1緩衝装置101と第2緩衝装置102とが同位相で動作するときにおける両者のばね定数は、開閉弁8を閉じたときと比較して低下する。これによって、第1緩衝装置101と第2緩衝装置102とが同位相で動作するとき、すなわち、車両20が直進しているときには、ばね定数を2段階に切り替えることができる。これによって、状況に応じて乗り心地を優先したり、走行性能を優先したりすることができる。また、車両20が旋回しているときには、開閉弁8を閉じることにより、直進時と比較してロール剛性を向上させることができるので、車両20の操縦安定性や走行性能を向上させることができる。
【0041】
(変形例2)
図4は、この実施例の第2変形例に係る緩衝装置が備える第1気室と第2気室とを接続する配管例を示す説明図である。この懸架装置100dは、同一の第1及び第2緩衝装置101、102において、各々の第1気室11、12と第2気室21、22とを連通通路5d1、5d2により連通させるとともに、この連通通路に通路開閉手段である開閉弁91、92を設ける点に特徴がある。開閉弁91、92の動作は、制御装置23によって制御される。
【0042】
上記構成により、開閉弁91、92を閉じて第1緩衝装置101の第1気室11と第2気室21との連通、及び第2緩衝装置102の第1気室12と第2気室22との連通を遮断すると、第1気室11、12と第2気室21、22とが連通している場合と比較して、ばね定数が2倍程度に上昇する。したがって、車両20が直線走行しているときには、開閉弁91、92を開いておき、乗り心地を改善する。一方車両20が旋回しているときには、少なくともカーブ外側に位置する緩衝装置に対応する開閉弁を閉じる。これにより、カーブ外側の緩衝装置はばね定数が上昇するので、懸架装置100dのロール剛性が向上する。これによって、車両20の操縦安定性や走行性能が向上する。次に、この実施例に係る懸架装置が備える緩衝装置の取り付け構造について説明する。
【0043】
図5〜図7は、この実施例に係る懸架装置が備える緩衝装置の取り付け構造を示す説明図である。図5は、いわゆるスイングアクスル形式の懸架装置に対してこの実施例に係る緩衝装置を適用した場合の取り付け構造を示している。この形式の懸架装置においては、緩衝装置10のケース11に設けられる貫通孔12に、スイングアクスルのハーフシャフト13が貫通する。ハーフシャフト13は、緩衝装置10の荷重伝達部材3へ揺動可能に固定されており、ハーフシャフト13から入力される力は、荷重伝達部材3によって第1気室1及び第2気室2へ伝達する。このように、スイングアクスル形式の懸架装置においては、ハーフシャフト13が載荷部材となる。
【0044】
スイングアクスル形式の懸架装置は、激しい旋回において、カーブ外側の車輪のキャンバ角度が大きくなって急激に車体を持ち上げる、いわゆるジャッキングと呼ばれる現象が発生する。この実施例に係る緩衝装置10では、緩衝装置10のケースに設けられる貫通孔12にハーフシャフト13が貫通するので、コーナー外側の車輪のキャンバ角度は、ある大きさ以上には増加しない。すなわち、キャンバ角度が増加すると、貫通孔の下端(車両20への取付側とは反対側の端部)にハーフシャフト13が当接してそれ以上は移動しないので、この位置でキャンバ角度の増加が停止する。これにより、この実施例に係る緩衝装置10をスイングアクスル形式の懸架装置に適用した場合には、ジャッキングを防止して、走行安定性を確保できる。
【0045】
図6は、いわゆるダブルウィッシュボーン形式の懸架装置に対してこの実施例に係る緩衝装置を適用した場合の取り付け構造を示している。この形式の懸架装置においては、緩衝装置10のケース11に設けられる貫通孔12に、ダブルウィッシュボーンのアッパーアーム14が貫通する。アッパーアーム14は、緩衝装置10の荷重伝達部材3に固定されており、アッパーアーム14から入力される力は、荷重伝達部材3によって第1気室1及び第2気室2へ伝達する。このように、ダブルウィッシュボーン形式の懸架装置においては、アッパーアーム14が載荷部材となる。この緩衝装置10は、全長が短くできるので、懸架装置全体をコンパクトに設計できる。
【0046】
図7は、いわゆるストラット形式の懸架装置に対してこの実施例に係る緩衝装置を適用した場合の取り付け構造を示している。この形式の懸架装置においては、緩衝装置10のケース11に設けられる貫通孔12に、ハブ15に剛結合された載荷部材4が貫通する。載荷部材4は、緩衝装置10の荷重伝達部材3に固定されており、載荷部材4から入力される力は、荷重伝達部材3によって第1気室1及び第2気室2へ伝達する。なお、この例において、緩衝装置10は、車両20に対して剛結合されている。この緩衝装置10は、全長がコンパクトなので、懸架装置全体をコンパクトにできる。
【0047】
以上、この実施例及びその変形例に係る懸架装置は、第1気室と第2気室とによって荷重伝達部材を支持するとともに、第1気室と前記第2気室とを連通させる連通通路を備える。これによって、例えば、連通通路を断続することにより、車両の走行状態に応じて緩衝装置のばね定数を容易に変更できる。また、異なる緩衝装置が有するそれぞれの第1気室とそれぞれの第2気室とを連通させることにより、車両の直線走行時よりも旋回走行時の方が、緩衝装置のばね定数は自動的に大きくなるので、車両の走行状態に応じて緩衝装置のばね定数を容易に変更できる。その結果、直線走行や旋回走行といった車両の走行状態に適した操縦安定性、走行性能を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上のように、本発明に係る懸架装置は、車両の懸架装置に有用であり、特に、車両の走行状態に応じてばね定数を変更することに適している。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1−1】この実施例に係る懸架装置が備える緩衝装置の構造を示す説明図である。
【図1−2】この実施例に係る懸架装置に適用可能な他の緩衝装置の構造を示す説明図である。
【図2】この実施例に係る緩衝装置が備える第1気室と第2気室とを接続する配管例を示す説明図である。
【図3】この実施例の第1変形例に係る緩衝装置が備える第1気室と第2気室とを接続する配管例を示す説明図である。
【図4】この実施例の第2変形例に係る緩衝装置が備える第1気室と第2気室とを接続する配管例を示す説明図である。
【図5】この実施例に係る懸架装置が備える緩衝装置の取り付け構造を示す説明図である。
【図6】この実施例に係る懸架装置が備える緩衝装置の取り付け構造を示す説明図である。
【図7】この実施例に係る懸架装置が備える緩衝装置の取り付け構造を示す説明図である。
【符号の説明】
【0050】
1、1a、11、12 第1気室
2、2a、21、22 第2気室
3、3a 荷重伝達部材
1 第1荷重伝達部材
2 第2荷重伝達部材
4 載荷部材
1 第1連通通路
2 第2連通通路
5d1 連通通路
7A オリフィス回路
7Ao オリフィス
7Ar 逆止弁
8 開閉弁
10、10a 緩衝装置
101 第1緩衝装置
102 第2緩衝装置
11 ケース
12 貫通孔
13 ハーフシャフト
19 ストッパ部材
20 車両
21 車輪
100、100a、100d 懸架装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体が内部に閉じ込められる第1気室と、
気体が内部に閉じ込められるとともに、前記第1気室に対向配置される第2気室と、
前記第1気室と前記第2気室とによって支持され、かつ前記第1気室と接触する部分の荷重支持面積は、前記第2気室と接触する部分の荷重支持面積よりも大きい荷重伝達部材と、
を含んで構成されるとともに、車両の異なる位置に取り付けられて、車輪からの入力を緩和する複数の緩衝装置と、
前記緩衝装置の第1気室と前記第2気室とを連通させる連通通路と、
を含んで構成されることを特徴とする懸架装置。
【請求項2】
前記連通通路は、一対の前記緩衝装置において、第1の前記緩衝装置の第1気室と、第2の前記緩衝装置の第2気室とを連通させる第1連通通路と、
第1の前記緩衝装置の第2気室と、第2の前記緩衝装置の第2気室とを連通させる第2連通通路とを含んで構成されることを特徴とする請求項1に記載の懸架装置。
【請求項3】
前記第1連通通路と前記第2連通通路との間に通路開閉手段、又は絞り弁手段のうち少なくとも一方を設けることを特徴とする請求項2に記載の懸架装置。
【請求項4】
前記連通通路には、振動減衰手段が設けられることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の懸架装置。
【請求項5】
前記第2気室は前記第1気室よりも鉛直方向下側に配置されており、また、前記荷重伝達部材は前記第1気室と前記第2気室に挟持され、さらに前記荷重伝達部材には、車輪からの入力を前記荷重伝達部材に伝える載荷部材が取り付けられることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の懸架装置。
【請求項6】
前記第1気室及び前記第2気室は、筺体内に格納されるとともに、
前記筺体に設けられる貫通孔に載荷部材が貫通することを特徴とする請求項5に記載の懸架装置。
【請求項7】
前記緩衝装置の前記第1の気室内であって、前記緩衝装置の前記車両に対する取付側又は前記荷重伝達部材側の少なくとも一方にストッパ部材を設けることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の懸架装置。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−281982(P2006−281982A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−104775(P2005−104775)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】